こいごころ
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#878 [向日葵]
「私はね、先輩たちが卒業するのがさみしくて、これを歌いながら泣いたたんだ。とても素敵な先輩だったから。それを今度は歌ってもらう番なのね」
「先輩も素敵な先輩でしたよ」
紙を丁寧に折りたたんで、茉里に渡す千早先輩は、とても嬉しそうに笑う。
「そう言ってもらって嬉しい。茉里ちゃんには、私の無神経なことが原因で傷つけてばっかりだったから」
「そんな……。あれは私が……」
:11/08/27 00:14
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#879 [向日葵]
「それも思い出として残っていくのね」
「ここに」と呟きながら、千早先輩は胸に手を当てる。
いとおしそうに、目を瞑って。
茉里はなんと言っていいかわからず、そんな千早先輩をただみつめることしか出来なかった。
やがて目を開けた千早先輩は、またにっこりと微笑む。
「次に会うのは式ね。一緒に写真撮ろうね。じゃあ」
「あ、先輩!」
:11/08/27 00:14
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#880 [向日葵]
車に乗りかけた千早先輩を、茉里は止めた。
なにか言わなきゃいけない。
今までのこと、これからのこと。先輩への賛辞、自分のこと。
しかし茉里がきいたのは、そのどれにもあてはまらないものだった。
「素敵な先輩は、どうしたらなれますか」
茉里の問いを馬鹿にすることなく、少し考えてから千早先輩はにっこりと笑って答えた。
:11/08/27 00:15
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#881 [向日葵]
「そうやって考えた時から、もう素敵な先輩にはなってるんじゃないかな」
いっそうにっこり笑って、先輩は車に乗った。
しばらく車をみつめてから、少し足を動かす。
振り向けば、いつもの見慣れた学校があった。
下校している生徒、校舎内でなにか話している生徒、グラウンドからは、運動部の声がきこえてくる。
学校の風景や空気、雰囲気、一気に体に取り込んだ瞬間、胸がいっぱいになった。
:11/08/27 00:15
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#882 [向日葵]
衝動的に、そしてどういう感情で出てくるかわからない涙を、必死に止めた。
それでも、溢れ出すようにして、滴がポタリと落ち、乾いた地面に吸い込まれていった。
こんな大勢の前で泣き顔を見られたくない。
茉里は早足で、道場へと帰って行った。
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―――――――――…………
静かな静かな空気の中、卒業式は行われていた。
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#883 [向日葵]
:11/08/27 00:19
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#884 [向日葵]
在校生、つまり茉里たちはほぼ椅子に座ったままだったが、ところどころ合わせて立つところがあったりと、少し忙しない。
中には立たない人もいる。
寝ている人すらいた。
でも茉里は最後まで卒業式に参加した。
男子の方を見ても、宗助の姿は見えないけれど、きっと宗助も同じように、誰よりも姿勢良く、そして誰よりもまっすぐ前を向いているに違いない。
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#885 [向日葵]
千早先輩から朝に、他の部員も集めて道場前にいるから来てねとメールがあった。
後に会えるはずなのに、茉里は千早先輩がいる場所をじっと見ていた。
「卒業生、退場」
一斉に立ち、茉里たちの学年は、今まで練習した「蛍の光」を歌う。
教室で歌ってた時や予行で歌っていた時とは違う雰囲気が、歌をより一層寂しく響かせる。
なのに卒業生が花道を退場している時、笑顔だった。
:11/09/03 23:15
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#886 [向日葵]
照れくさいのか、やっと卒業出来るという安堵なのか、楽しかったと充実した気持ちからくるものなのか、わからないけれど。
それでも、その清々しい笑顔は、送り出す茉里たちの胸を締めつけた。
思わず歌っている時、声が詰まりそうになって、必死に持ち直した。
全員が退場してしまった後、茉里たち在校生は座るように言われた。
座る時に、宗助が見えた。
宗助もこちらを見ていた。
:11/09/03 23:16
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#887 [向日葵]
見えるはずもないけれど、微笑むと、宗助も微笑んだ。
それだけでドキリとしたので、茉里は落ち着くために素早く座った。
――――――――…………
「せんぱーいっ!」
綾香が道場前に集まった先輩たちのところへ走っていく。
そのまま女子の先輩のところへ突っ込んでいく。
「わっ!綾香ちゃんは元気だねー」
「違いますっ。元気にしとかなきゃ泣きそうなんですっ」
と言った途端、綾香の目が涙で満たされていく。
けれど綾香は耐えていた。
:11/09/03 23:16
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