絶望少女と人間失格
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#1 [そ]
 
「ねぇ――私に絶望を見せてくれない?」


この日、
“絶望少女”雀夜シキとの出会いをきっかけに
僕達の周囲は予定調和のように狂い、
絶望的なまでに壊れだした。


あたかも、かみ合わなくなった運命の歯車が絶望へと誘うかのように……。
 
>>2

⏰:09/04/17 13:42 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#2 [そ]
※ホラーミステリー

ちょい残酷な描写があるかも。
苦手な方は閲覧控えて下さい


長編です

⏰:09/04/17 13:43 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#3 [そ]
人生なんてものは所詮、
現実という名の
地獄に耐えながらも
自分をごまかし、
偽り続けて生きていくということである。

そんな、
暗く、海底の底のような

――希望の光も灯さないような答えに達したのは
まだ、僕が物心つく前の時だった。

⏰:09/04/17 13:49 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#4 [そ]
それは、最後に食べるつもりでいたショートケーキの上の苺を取られたとか、
欲しかった玩具を
買ってもらえなかったとか、

そんな些細で、
幼稚な理由からではない。


――まして、あの“絶望少女”と出会ったせいでも――ない。

彼女と出会ったのは高校生の時だ。
だから今は関係ない。

⏰:09/04/17 13:52 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#5 [そ]
僕は幼稚な頭ながら、既に気がついていたのだ。


周りの人間達を見て。
人間達の道化芝居を見て。
お互い、欺きあって生きている様を見て。

人間達の――人生という名の罰ゲームを――

苦痛に耐えながらも生きている様を見て。

⏰:09/04/17 13:59 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#6 [そ]
自分に嘘をついて、
無理やり他人に愛想を振り撒いて。

いつか、他人に見破られるかもしれない恐怖に耐えながら。

人間に怯えながら。
ごまかして、
自分と他人をごまかして。

⏰:09/04/17 14:00 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#7 [そ]
その方が無難だからと。
その方が都合が良いから、と。


嫌々ながら。
厭々ながら。


みんな、生きているんだ、と――。

⏰:09/04/17 14:01 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#8 [そ]
それでも、だからと言って
みんな自殺なんてマネはしない。

みんなして道化を演じて
自分をごまかして、
他人や自分に絶望しながらも
それでも生にすがろうとするのは生物として当然の本能であり、
否定される言われなどないのだ。

⏰:09/04/17 14:03 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#9 [そ]
たとえそれが、僕のように
周りの人間達と同じように道化を演じ、
なおかつ自分以外の人間を
その辺の石ころのように思いながら生きていたとしても。

“絶望少女”に『人間失格』という汚名をきせられたとしても――


“僕”という存在を否定される言われはない。

⏰:09/04/17 14:06 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#10 [そ]
ただ――。

“絶望少女”と出会ったのがきっかけで
くだらない理由で、
周りの人間達を更なる絶望に落としいれていったあの頃だけは――


否定されても、仕方のないことなのかもしれない。

⏰:09/04/17 14:10 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#11 [そ]
 

それでも僕は続ける。


彼女の笑顔を見るために。
彼女の笑顔を見るためだけに。
 

⏰:09/04/17 14:11 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#12 [そ]
 
それでは――始めようか。


夢も希望も無ければ
願いも祈りも救いもない


無慈悲で
非情で
残酷で
暗黒で

先も見えない
絶望だらけの、物語を――。

⏰:09/04/17 14:13 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#13 [そ]
第一話
天落の糸、死色に望む

◆no.1

⏰:09/04/17 14:37 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#14 [そ]
 
「面白い本、見つけてきたわよ」


放課後、
誰もいない静かな図書室で
いつものように椅子に座って本を読んでいると、
いつの間にか僕のすぐ横にいた雀夜(スズミヤ)シキが、
今僕が読んでいる本を隠すように
目の前に文庫本を差し出して言った。

⏰:09/04/17 14:39 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#15 [そ]
「……本、読めないんだけど」


雀夜を見上げながら、そんな不満を口にもらす僕。


「あら、ごめんなさい。
でも、夏目漱石の『こころ』なんてつまらない物より
ずっと面白い小説よ?」

⏰:09/04/17 14:42 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#16 [そ]
雀夜は今まさに僕が読んでいる『こころ』を視覚に入れながらも、
ずいっと手にしている文庫を
僕の眼前にまで寄せた。


無理やりにでも読ませたいらしい。

⏰:09/04/17 14:45 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#17 [そ]
「ふ〜ん。『少年たちのおだやかな日々』ね……」

僕はしぶしぶ差し出された文庫を手に取り、
タイトルを口に出して言う。


「どんな話なの?」


「友達の母親を絞め殺そうしたり
自分の首をナイフで切ったり
アイロンを使って男の子の足の裏を焼こうとする話」

⏰:09/04/17 14:48 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#18 [そ]
「……………およそ、タイトルからでは想像のつかない内容だね」


というか、
よくそんな本が高校の図書室にあったものだ。


「今、全部読んだところなんだけど
とっても良い小説だったわよ」

雀夜はいつもの無表情でそう語る。

⏰:09/04/17 14:49 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#19 [そ]
「『こころ』なんかよりもずっと後味が悪くて絶望的な小説だったわ。

哀澤(アイザワ)君にもぜひ読んでもらいたいの」


「僕に?」

「ええ。哀澤君、こういう話、嫌いじゃないでしょう?」



「まあ……嫌いではないね」

「じゃあ、読んで」

⏰:09/04/17 14:51 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#20 [そ]
雀夜は僕の向かい側の席に座ってこちらを眺めた。



……今、読めと?


「あのさ、そんな風に見つめられると読みにくいんだけど」


「そう……。じゃあ、その『こころ』貸して。読むから」

⏰:09/04/17 15:28 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#21 [そ]
「これ?」

僕は『こころ』を手に取った。


「でもこれ、もう読んだ本でしょ?
それにさっきも面白くなかったって言ってなかった?」

「単なる暇つぶし。
あなたが読み終えるまでの時間潰しよ」

「………」


それなら、別の本でも借りて読めば良いのに。
図書室の意味がない。

⏰:09/04/17 15:30 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#22 [そ]
そう思いながらも
彼女に『こころ』を手渡し、お互いに黙々と本を読み始めた。


本を開きつつ雀夜の様子をチラ見する。

すると雀夜の方も『こころ』を開きつつ
こちらの様子を窺っていた。


自然と目が合い、気まずさからお互いに目をそらした。

⏰:09/04/17 15:32 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#23 [そ]
察するに
『早く読め。そして感想を聞かせろ』とでもいったところだろう。

少々乱暴な解釈だが。

⏰:09/04/17 15:44 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#24 [そ]
この一風変わった少女は
なぜか後味が悪いものや、
鬱な気分にさせる絶望的な物語をとかく好んで読む。

ただし、その好みは特殊で、
先ほどの『こころ』の感想でも分かるように
単に後味が悪ければ良いというわけではないらしい。

その定義はいまいち把握できていないので、
よく分からないのだが……。

⏰:09/04/17 15:45 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#25 [そ]
そんな特殊な嗜好を持つ彼女は
よく放課後の図書室に来ては
自分の好みの本を読んだり、
または読んだ本の感想などを求めてもいないのに
僕に聞かせたりする。

⏰:09/04/17 15:46 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#26 [そ]
まあ、僕もそういった話は決して嫌いじゃないし
いつも放課後に図書室にいるのも……まあ暇つぶしのようなものだから拒んだりせず
静かに聞き耳を立てている


そして適当に相づちをうったり、
僕の方も雀夜に薦められた本の感想を言ったりするのが、僕のここ最近の日課となっている。

⏰:09/04/17 15:48 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#27 [そ]
そんなわけで
彼女に勧められた例の本を開いているわけなのだが、
雀夜はまだかまだかと言わんばかりにこちらをジロジロ容赦なく見つめてくる。

⏰:09/04/17 15:50 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#28 [そ]
よほどお気に入りなんだな、この本が……と思いながら、
僕は雀夜の粘っこい視線を気にしつつ
再度本を読み始めた。

⏰:09/04/17 16:28 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#29 [そ]
 
雀夜と初めて出会ったのは
高校に入学してから三週間後。

今と同じ、この放課後の図書室でのことだった。


その時から僕は放課後の時間に
暇つぶしとして図書室に通っており、雀夜に話しかけられたのも、
ちょうど太宰治の
『人間失格』を読んでいるところだった。

⏰:09/04/17 16:30 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#30 [そ]
 

「よく分からない……とでも言いたげな顔をして読むのね」



その声にパッと頭をあげる

周りには彼女と僕以外誰もいない。
知らない女の子に話しかけられるような覚えはないのでそら耳かと一瞬思ったが、
彼女は僕の姿を
視界に入れていたので、やはり彼女の方から
話しかけてきたらしいと認識した。

⏰:09/04/17 16:33 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#31 [そ]
腰まで伸びた綺麗な黒髪。
中学生くらいの身長と華奢な体つき。

そして、年齢の判別を困難にしてくれている幼い顔。


けれど、目だけは
それらの可愛いらしいパーツを裏切るように
昼間の猫ような、鋭い目をしていた。

⏰:09/04/17 16:35 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#32 [そ]
「えーっと……何か用スか?
あ、ひょっとして俺に愛の告白とかっスか?
いやー、こんな可愛い子に告白されるなんて照れるな〜」


僕が入学したての一年生である以上、
下級生という事はあるまい。


念のため体育会系みたいな敬語を使いつつ、
いつものように道化芝居を演じて言った。

⏰:09/04/17 16:56 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#33 [そ]
「ただ単に分からないという顔じゃない。

大抵の人はそれを読んで自分の人生と重ねて共感するか、
理解できない……気持ちが悪いと言って
拒絶するかのどちらかだけど……あなたの場合、
そのどちらでもあり
どちらでもない

……分かるけど分からない――そんな顔よ」


彼女は僕の言葉をまったく無視して
無表情のまま話を続ける。

⏰:09/04/17 16:58 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#34 [そ]
「どうして主人公が自分自身を貶すのかが分からない。

なぜ主人公が自分自身の生き方を否定し、
苦しんでいるのかが分からない……。

なんで自らから人間失格と陥れるのかが分からない……。

⏰:09/04/17 17:01 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#35 [そ]
なにゆえ、人間にそこまで恐怖するのかが分からない。
みんなそうなのに……。

この主人公だけじゃなくて
みんな、自身の本心を隠し
他人を騙し
人間の本性に恐怖し
怯えながらも、他人を欺き生きているものなのに……。

自分に引け目など感じる必要なんてどこにもないのに……。

だから
――主人公の気持ちが分からない――


そう思っているんでしょう?」

⏰:09/04/17 17:03 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#36 [そ]
僕は何も言わなかった。

何も言い返せなかった。

何も言い返す事ができない空気が、
彼女を中心に図書室全体を覆うように広がっていた。

⏰:09/04/17 17:59 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#37 [そ]
「自身の本心を隠して道化芝居を演じることなんて当たり前。

けれど、あなたの場合それだけじゃあない。
他人なんて所詮、自分以外の生き物。
もしくは、動く石ころのような物。

そんな風にあなたは思っている」


「…………」

⏰:09/04/17 17:59 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#38 [そ]
「あなたはありとあらゆる絶望を知っていながらも、
それでも無自覚なふりをして
無知なふりをして、
自身の生き方を否定せず他人を否定し、
騙し
見下し
道化を演じながら生きていく。


それは、『人間失格』の主人公なんて比べものにならない」




「正真正銘の……“人間失格”」

彼女は容赦なく、続ける。

⏰:09/04/17 18:01 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#39 [そ]
「あなたは……」

そんな彼女に、僕は何かを言おうとした。


言おうとした、が――




「ねぇ――、私に絶望を見せてくれない?」

⏰:09/04/17 18:04 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#40 [そ]
彼女は僕の言葉を遮り、続ける。
続けていく。


「私は絶望的な物語が好き。
後味の悪い――鬱な気分にしてくれるような物語が……。

何より、絶望に苛まれた人間の姿を見るのが好き。

ねぇ、あなたなら

――絶望を知っているあなたなら、
私に心が踊るような絶望を見させてくれると思うの」

⏰:09/04/17 18:06 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#41 [そ]
「――……」



何を言っているのか分からない。
何を言っているのか分からない……が。


「……あなた、一体誰なんですか?」


どうして、そこまで僕の考えている事が分かるんだ?

君は……一体何なんだ?


「私? 私は――そうね……」
彼女は言った。

⏰:09/04/17 18:08 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#42 [そ]
「あなたが人間失格なら
さしずめ私は、“絶望少女”と言ったところかしら」



“絶望少女”と名乗った彼女は
相変わらず無表情だったけど、
その時、目だけは笑ったような気がした。

⏰:09/04/17 18:12 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#43 [そ]
それから“絶望少女”とまた再会したのは、
一週間後の社会見学の時だった。


社会見学と言っても
それは名ばかりで、実際はまだぎこちないクラスメート達の交流会のようなものだった。

⏰:09/04/17 18:20 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#44 [そ]
事実、訪れた場所はどこかの会社や市役所でもなく
何のへんてつもない遊園地だった。


当時の僕はある程度クラスメート達と話したりはすれど、
友達と呼べる関係の者がいなかった。

それどころか、ある理由から中学時代の知り合いが
一切存在しない高校に入学したので
誰かと共に行動する人なんていなかった。

⏰:09/04/17 18:21 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#45 [そ]
教師が言うには単独行動は禁止らしく、
どうしたもんかと一人途方に暮れていた。





「ねぇ……組む人がいないなら私と一緒に組まない?
私も組む人がいなくて困っていたところなの」

⏰:09/04/17 18:22 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#46 [そ]
そんな僕に話しかけてきたのは
あの時図書室で出会った“絶望少女”だった。

その時、初めて彼女が僕と同級生なんだという事を知った。


あの後
――図書室で話しかけられた後、
僕は彼女から逃げるように帰ってしまったので
後ろめたい気持ちがあったのだが
だからと言って
他に組む人もいないので
仕方なく一緒に行動する事になった。

⏰:09/04/17 23:39 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#47 [そ]
しばらく、彼女と僕は無言で何も乗らずに遊園地を歩き回った。


彼女に対して道化芝居をするだけ無駄だったし、
する気も無かった。

対する彼女の方も
あの時のような一方的に喋りかけるような事はしなかった。
寧ろ、一言も喋らなかった。

⏰:09/04/17 23:40 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#48 [そ]
さすがに一時間以上無言で歩き回るわけにもいかず、
僕達はとりあえず観覧車に乗ることになった。

乗ったは良いものの、揺り動く密閉された空間に僕は気まずくなり
そういえばお互い名前を教えてなかったので
とりあえず自己紹介でもする事となった。

⏰:09/04/17 23:42 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#49 [そ]
「すず? すずめや?」


「すずみやよ。雀の夜と書いて雀夜」

「ふーん、雀夜……ね。
雀夜シキ、か。シキは四つの季節と書いて四季?」

⏰:09/04/17 23:44 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#50 [そ]
「いいえ。そのままカタカナでシキよ。

本当は……母親が亡くなる前は
死ぬ時期と書いて死期だったんだけど、
母さんが死んだ後で父親がそれだと縁起が悪いからって
カタカナのシキにされたのよ」



「ふーん……。――良い名前だったのにね」

⏰:09/04/17 23:52 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#51 [そ]
僕がなんとなしにそう言うと、
彼女は少しだけ驚いたように目を見開き、静かにポツリと呟いた。



「そんな事言ってくれたの……母さんと、
あなたぐらいだわ……」

⏰:09/04/17 23:53 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#52 [そ]
それから僕らはポツポツとたわいない事を話し始めた。

お互い、よく本を読むこと。
実は住んでいる所が割と近くだったということ。
彼女も僕と同じ、
よく放課後の図書室に通っているということ。


この遊園地での出来事を契機に、
僕達の関係は友達とは言わないまでも、暇な時はよく喋りあうような仲になった。

⏰:09/04/17 23:56 📱:W63CA 🆔:7ImFpOKQ


#53 [そ]
それは今でも、
社会見学が終わって一カ月が過ぎた今でも、


僕達の微妙な関係は続いている。

⏰:09/04/18 00:01 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#54 [そ]
 
「……ざわ君。――哀澤君?」


ハッと顔を上げた。
見ると、雀夜がこちらを訝しむように見ていた。

どうやら、考え事にふけっていた間に
雀夜に話しかけられていたらしい。



「ごめん、ちょっと考え事してて。で、何?」

⏰:09/04/18 00:02 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#55 [そ]
「本の感想を聞いているのよ。
一話くらいは読んだんでしょう?」


「ん、まあ……」


見ると、雀夜は『こころ』を机の隅に置いていた。
この短時間であの本を読み終えたとは思えないので、
おそらく読むのを途中でやめたのだろう。


「今、ちょうど友達の母親を車の中で絞め殺そうとして終わったところ」

「どうだった?」

⏰:09/04/18 00:03 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#56 [そ]
 
どう……と訊かれても。

雀夜の言う通り、こういう後味の悪い話は嫌いではないけど
かと言って、ことさら好きというわけでもないので返答に困る。


「んーと、そうだね……」

雀夜の詰め寄るような視線を感じつつ、
どう感想を述べたものかと返答に窮していると




ドスンッ!!!

⏰:09/04/18 00:04 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#57 [そ]
――という鈍い音と共に、



「キャアアアアァァァァ!!!!!」

という悲鳴が学校中に響いた。


「何……? 今の叫び声……」

雀夜が後ろを振り返って叫び声がした方向に顔を向けながら、そう言葉をもらす。

⏰:09/04/18 00:12 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#58 [そ]
ちょうど僕らのいる三階の図書室の真下……校庭の方から聞こえてきたようだ。


放課後だから人もまばらのはずなのに、
やたらと校庭が騒々しい。
何やら大変な事が校庭で起きているらしい。

⏰:09/04/18 00:12 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#59 [そ]
「見に行ってみましょうか」


雀夜に言われて、僕は雀夜と一緒に窓に近づいて
真下の校庭を窓越しに覗き見た。


そこには。



血だらけの女子生徒が、
コンクリートを赤く染めて倒れていた。

⏰:09/04/18 00:13 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#60 [そ]
プロローグ
>>2-12

第一話
天落、死色に望む
no.1
>>13-59

⏰:09/04/18 10:00 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#61 [そ]
彼女は明らかに死んでいた。

眼球が両目とも飛び出して
首がありえない方向に曲がって
両手足とも骨が折れ曲がっていて
そこら中に内臓を撒き散らして
自身の体とアスファルトを赤黒く染めて、



彼女は死んでいた。

⏰:09/04/18 10:01 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#62 [そ]
僕と雀夜は図書室の窓越しから彼女の死体を目撃した後
六月上旬の暑い気候の中、
駆けるように階段を下りて
やじ馬(もとい生徒達)達が群がる場へと向かった。


周りの生徒達は騒然としていた。

中には吐き気を催している女子生徒もいたが、
僕と雀夜は特にどうという事もなく死体を眺めていた。

⏰:09/04/18 10:03 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#63 [そ]
へぇー、


これが飛び降り死体かー。
なんて思っていると、


「誰かが突き落としのよっっ!!」


なんていう大声が群集の中から聞こえてきた。

⏰:09/04/18 10:04 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#64 [そ]
声がした方向に振り向くと、
少し離れたところで取り乱しながら叫んでいるポニーテイルの女子生徒が視界に入ってきた。


「私見たの!
屋上からその子を突き落とす長い茶髪をした女の子の姿を!」

⏰:09/04/18 10:06 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#65 [そ]
屋上を指差しながらギャアギャア周りに喚く女子生徒。

それと同調するように他の生徒達も
「私も見たわ!」
「俺も落とす瞬間をハッキリ見たぞ!」

と騒ぎ出した。

⏰:09/04/18 10:07 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#66 [そ]
そうこうしている内に男性教師がやって来て、

「お前ら! そこから離れろ!」

と叫んで生徒達を死体から遠ざけた。

他の教師達もやって来て
救急車だの警察だの叫びつつも生徒達を無理やり散らせて、僕達も死体から遠ざけられ、
あえなく解散と相成った。

⏰:09/04/18 10:24 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#67 [そ]
「どうやら、殺人事件みたいだね」


僕と雀夜は死体を後にして図書室に戻る道中、
これといって何の感慨もなく雀夜に話しかけた。

ところが、雀夜は事件現場の方ばかり気にかけてか、返事を返してこない。


「雀夜?」

もう一度声をかけると雀夜は、
ハッ、と僕の方を振り返った。

⏰:09/04/18 10:25 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#68 [そ]
「……チラチラ事件現場の方を見ていたけど気になるの?」

「……ええ。少しだけ……」

と言いつつ無表情で僕のもとへと駆け寄るが、
目だけはとても興味津々といった感じに
真夜中に浮かぶ満月のように
不気味に輝いていた。

⏰:09/04/18 10:26 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#69 [そ]
翌日、やはり予想通り
あの事件は朝刊にでかでかと一面を飾ることとなった。


『M県S市の高校で殺人事件発生。
犯人は被害者と同じ女子生徒か?』

⏰:09/04/18 10:28 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#70 [そ]
『事件発生時、屋上の鍵が開いており
何者かが職員室にいた教師から鍵を借りて屋上の鍵を開き、
被害者を連れこんで、その後に突き落としたものと見られている』


 『複数の生徒達が犯人の姿を目撃しており、
S市警察は彼女の交友関係や突き落とされる前の行動などを
慎重に調べ捜査する方針だ』

⏰:09/04/18 10:28 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#71 [そ]
「やっぱり載ったね」


いつものように僕は放課後の図書室に訪れ、
先に来ていた雀夜に話しかけた。

雀夜は昨日の事件が写真付きで載っている新聞を
一人周りに誰もいない席に座って黙々と読んでいた。

⏰:09/04/18 22:01 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#72 [そ]
「ええ。昨日の夕方や今日の朝のニュースでもやっていたわよ」


「ふーん、そうなんだ。
僕、テレビあんまり見ないから知らなかったよ」


と言うか、今日の朝刊を見て詳しい経緯を知ったくらいだ。

⏰:09/04/18 22:02 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#73 [そ]
「犯人、この学校の生徒みたいね」

雀夜は新聞をたたみ、机に置いてからそう言った。


「そうみたいだね。
昨日も女の子達が何かギャアギャア騒いでたし」


あの後あの人達、
色々と警察に質問されたんだろうな。

⏰:09/04/18 22:03 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#74 [そ]
なんたって、犯人の姿を目撃しちゃったわけだし。


「ねぇ……どう思う?」

「どうって?」

僕は雀夜の向かいの席に座って訊き返した。


「この事件のことよ。
興味惹かれない?」

⏰:09/04/18 22:04 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#75 [そ]
「いや、別に」

他人事だし。


「そう……。
私はすごく興味があるわ。
何を考え、
何を思って犯人は彼女を突き落としたのか。

その時の犯人の歪んだ感情、
衝動、
殺意。


――興味深い

……とても興味深いわ。」

⏰:09/04/18 22:06 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#76 [そ]
熱心に語る雀夜をよそに、
僕は「ふーん……」
と全然興味無いと言わんばかりに相づちをうった。

まあ、こんな一生に一度あるかないかの身近に起きた殺人事件、
血なまぐさい話が好きな雀夜にしてみれば
絶好のイベントなのだろう。

⏰:09/04/18 22:13 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#77 [そ]
 
「私、この事件を調べてみようと思うの」

雀夜が僕の顔を見て言う。

「哀澤君も良かったら手伝ってくれないかしら?」



「え……? 僕が……?」

「そう、哀澤君に。
私だけだと情報収集が大変だから」

⏰:09/04/18 22:14 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#78 [そ]
大変って……?

と訊こうと思ったが、考えて見れば
確かに雀夜には情報収集には向いてないなと思い至る。


ネットなんか調べる事も出来る訳だけど限りがある。

そもそも、彼女はパソコンはおろか
今時ケータイも所持していない絶滅危惧種の女子高生なので
ネットでの調査は不可能。

⏰:09/04/18 22:16 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#79 [そ]
じゃあ聞き込みでもすれば良いじゃないか。

という事になってしまうが、それも無理。

なぜなら彼女は
友達が出来ない程のコミュニケーション能力が無い上に(それ以前に、作ろうとも思っていない)この仏頂面なので、
とてもじゃないが聞き込みに向いているとは思えない。

⏰:09/04/18 22:19 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#80 [そ]
だから友達のいない彼女は
唯一よく話をする僕に協力を求めてきたのだろう。


「……駄目……かしら?」


「うーん……」

⏰:09/04/18 22:20 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#81 [そ]
雀夜に見つめられながら考え込む。
個人的にはあまり面倒事には関わりたくはないのだが……まあどうせ暇だしねぇ。




「良いよ。少しだけなら」

⏰:09/04/18 22:20 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#82 [そ]
 
「そう、ありがとう」

言って急に席を立ち上がる雀夜。


「……? どこ行くの?」

「さっそく情報収集に向かうのよ」

「え? ……今から?」

「そうよ」

彼女は手さげ鞄を手に取って言った。




「まずは、職員室へ――」

⏰:09/04/18 22:21 📱:W63CA 🆔:cP9Or2xc


#83 [そ]
 
というわけで、
職員室に向かうことになった僕達。


夕日が照らす廊下を歩きながら

「職員室に何しに行くの?」

と僕は前を進む雀夜に尋ねた。

⏰:09/04/19 01:06 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#84 [そ]
 
「事件当時、職員室に屋上の鍵を借りに来た生徒がいたって
新聞にも書いてあったでしょう?

その鍵を渡した教師に話を聞くのよ」


「ふーん」

適当に相づちをうちながら
雀夜の後ろをついていく。

⏰:09/04/19 01:07 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#85 [そ]
 
すると雀夜が
こちらに振り返って、

「期待してるわよ、哀澤君」

と言った。

⏰:09/04/19 01:09 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#86 [そ]
 
はてな、と首を傾げつつも
僕達は目的地である職員室に着いた。


雀夜は無言に職員室を開け
それに続いて僕も

「失礼しま〜す」

と愛想を振り撒いて入室した。

⏰:09/04/19 01:10 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#87 [そ]
 
こざっぱりと並んでいる机に
所狭しと置かれたプリントの山。


ほんのりと香る
消臭剤の匂いが鼻につく。

すぐ横の壁には、各教室の鍵があちこちにフックにかけられている。

部屋には冷房が
ついているのだろう、

冷たい風が火照った体を優しく包んで気持ち良い。

⏰:09/04/19 01:15 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#88 [そ]
 
周囲を見ると、
まだ部活をしている生徒達が
たくさんいるせいか
先生方の姿があまり見えない。

⏰:09/04/19 01:16 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#89 [そ]
 
その中にひときわ派手なメイクをした、
比較的僕達のそばにいた教師が

「何か用?」

と椅子にもたれながら
僕達に声をかけてきた。

⏰:09/04/19 01:22 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#90 [そ]
 
雀夜は肘で僕を小突いて
事件の話を聞き出せ、
と言わんばかりにメッセージを送ってきた。

⏰:09/04/19 01:22 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#91 [そ]
 
やれやれと思いつつも僕は

「あの……事件当時、
生徒に屋上の鍵を渡した先生って誰っスか?」

と訊いた。

⏰:09/04/19 01:25 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#92 [そ]
 
「ああ――それ、アタシだわ」



と、さっき僕達に声をかけた派手な
しかし二十代前半くらいに見える女性教師が
手を上げて言った。

⏰:09/04/19 01:25 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#93 [そ]
 
僕らは先生に近づいて

「すんません、
屋上の鍵を生徒に渡した時の話を詳しく聞きたいんスけど」

と話を切り出す。



「ええ? 君達もなの?
アタシ、今日もウンザリするくらい生徒達に質問責めされて
かなりクタクタなんだけど」

⏰:09/04/19 01:30 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#94 [そ]
 
女性教師はさも面倒くさそうに
黒髪のショートヘアーをいじりながら言った。


そうですか。

こりぁまた失礼しました。





と思って退散しようと思ったが、
雀夜に腕を捕まれて止められた。

⏰:09/04/19 01:31 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#95 [そ]
 


「す、雀夜さん?」

「哀澤君、あれの出番よ」



あれって?

と訊くまでもなく
何のことだか一瞬で理解した。

⏰:09/04/19 01:32 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#96 [そ]
 
ひょっとして……
最初からそれが狙いで
僕を連れて来たのか?


やれやれ、
仕方ない――協力すると言ってしまったわけだし……ね。



それでは、




道化モードといきますか。

⏰:09/04/19 01:34 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#97 [そ]
 

「そんな冷たい事おっしゃらずに聞かせて下さいよ。

小野妹子さん」


手をもみもみしながら
先生のご機嫌をとる僕。

なんだか、お客様に商品を売ろうとしている
どこかの店員みたいだ。

⏰:09/04/19 01:48 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#98 [そ]
 
「小野妹子て……
また微妙な誉め言葉できたわね」


「世界三大美女っスよ?」


「それ、日本国内だけよ?
それに昔の美人って
今にしてみれば全然美人じゃないし」

⏰:09/04/19 01:49 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#99 [そ]
 
「そうなんスかっ!?
いや〜、そうとはつゆ知らず」


パンッと芸人みたいに額を叩く僕。

いや、ホントは知ってるんだけどね?




「ふふ……君、なかなか面白い子ね」

先生は微笑しながら
こちらに興味を持ってくれたのか、
椅子ごと体をこちらに向けた。

⏰:09/04/19 01:50 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#100 [そ]
 

「なあに?
カップルで探偵ごっこ?」


「ええ。
妻がどうしても事件の話を聞きたいと言うんで」


雀夜が誰が妻だ、
と目で訴えてきたがあえて無視する。

⏰:09/04/19 02:03 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#101 [そ]
 
「ふーん。
奥さんに従順な夫なのね」

「ええ、そりゃもう。
妻のためなら、たとえ火の中水の外です」

「水は避けるのかよ!」


ツッコミを入れてから、
可笑しそうにお腹を抱えて爆笑する先生。

⏰:09/04/19 02:04 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#102 [そ]
 
アハハハ。


今の冗談のどこが面白いんだ下らない。



「君、ホントに面白い子ねぇ」

⏰:09/04/19 02:06 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#103 [そ]
 
ひとしきり笑った後、
こちらに向き直って言った。

「よし、気に入った」

先生は膝をバシッと叩いた。


「いいわ。何でも訊きなさい」

⏰:09/04/19 02:08 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#104 [そ]
 
よし。
上手くいったようだ。

「それでは――「事件前、屋上の鍵を貸りた時の生徒の外見と
その時の様子を教えて下さい」


途中で雀夜に話を遮られ
お役目御免と言わんばかりに
あっさり僕の道化芝居は終了した。



……いや、別に良いんだけどさ。

⏰:09/04/19 02:09 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#105 [そ]
 
「そうね〜」

先生は思い出すように上を見上げて、
言葉を発する。


「長い茶髪をした女の子だったわよ。
学年までは分からないけど……二年生くらいじゃないかしら?

顔は……ちょっとよく思い出せないのよね。
どこにでもいる今時の子って感じだったから
あんまり印象に残らなかったのよねー」

⏰:09/04/19 02:10 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#106 [そ]
 
長い茶髪……
確か、事件を目撃した女生徒も
そんな事を言っていたか。


「その時の生徒の様子は?」


「特に……ごく普通だったわよ?
『部活で屋上の景色を写生したいので鍵を貸してください』

とか言って、これといって動揺した素振りもなく」

⏰:09/04/19 02:14 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#107 [そ]
 
「じゃあ、美術部員だったんスか?」


僕の質問に先生は、

「それがそうじゃなかったのよね〜」

と渋い顔をして返事をした。

⏰:09/04/19 02:15 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#108 [そ]
 
「あの後、アタシ美術部員の子達を
ひとしきり全員見たんだけど、
いなかったのよね〜、あの子」



という事は





…………幽霊?

⏰:09/04/19 02:19 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#109 [そ]
 



……いやいや

んな訳ないか(笑)



という事は

犯人は勝手に美術部員の名を借りて、
屋上の鍵をめでたくゲットしたってわけか。

⏰:09/04/19 02:21 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#110 [そ]
 
「鍵を貸した時、
先生の他に人は?」


「アタシだけよ。
ちょうどその時他の先生方はどこかに出かけていてね、

おかげで私だけ警察に
あれこれ質問責めされる事になっちゃったわけだけど」

⏰:09/04/19 02:29 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#111 [そ]
 
「鍵は返ってきたんですか?」


「結局紛失したまま。
ま、合い鍵があるから
それほど困るようなことでもないんだけど」


「合い鍵?
合い鍵があるんですか?」


雀夜の質問に

「そうよ」

と肯定する先生。

⏰:09/04/19 02:30 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#112 [そ]
 
「教頭先生が持っているんだけど、
二十四時間ずっと教頭室で管理しているわよ」



二十四時間て……

ずっと教頭室に居座っているのか?

それとも防犯カメラでも付いているのか?

⏰:09/04/19 02:34 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#113 [そ]
 
「それにしても……
どうして鏡(カガミ)さん、
殺されちゃったのかしらねー」


と、先生は吐息混じりに呟いた。


「誰かに恨まれるような子じゃなかったと思うんだけど……」

⏰:09/04/19 02:35 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#114 [そ]
 
「え?

鏡……て誰っスか?」


僕の質問に二人とも呆れたような顔をしつつ、

「被害者の名前よ。
新聞にも載っていたでしょう?」

と雀夜に説明をうけた。

⏰:09/04/19 02:36 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#115 [そ]
 
あ、そうなんだ。

うーん、さして興味無かったからなぁ。


「それにしても先生。
まるでその子の事をよく知っているような口振りですね」


もう一度先生に振り返って質問する雀夜。

⏰:09/04/19 10:07 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#116 [そ]
 
「ああ――いえね、

アタシ調理部の顧問をやっているんだけど、
鏡さんも調理部員に入っていてね
お互い仲も良かった生徒だったのよ」

⏰:09/04/19 10:07 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#117 [そ]
 
へぇー、なるほどねぇ……

なんて感想を抱いていると、
不意に雀夜が無言で職員室から出て行こうとするところを見て

「ちょ、雀夜?」

と呼び止めた。

⏰:09/04/19 10:08 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#118 [そ]
 
「次の所に行くのよ。
ここにはもう用はないわ」


しれっと無表情で言い捨てる雀夜。

⏰:09/04/19 10:09 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#119 [そ]
 
「は?」
なんて思う暇もなく、
さっさと出て行ってしまった雀夜に

「あ、ちょ、待てって!」

と声をかけつつ、
急な出来事に
ポカンとしている先生に頭を下げて
僕は職員室を後にした。

⏰:09/04/19 10:10 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#120 [そ]
プロローグ
>>2-12
第一話
天落の糸、死色に望む

◆no.1
>>13-59

◆no.2
>>61-119

⏰:09/04/19 10:36 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#121 [そ]
 
「調理室に行くわよ」


雀夜にやっと追いついて
(かなり先まで進んでいた。
フットワークの軽い奴め)
後ろを振り返りもせずにいきなり言われた言葉に、
僕は

「調理室?」

と額の汗を手で拭いつつ思わず訊き返した。

⏰:09/04/19 22:04 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#122 [そ]
 
「ええ。鏡さんのことを
同じ調理部員だった人に話を訊きに行くの。

何か犯人の手がかりが掴めるかもしれないし」


「ふーん」


僕は窓の外を眺めながら気の無い返事をした。

⏰:09/04/19 22:08 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#123 [そ]
 
「ところで……哀澤君、
ちゃんと今朝の新聞読んだ?

被害者の名前すら知らなかったなんて……」


「ん?」

ともう一度雀夜の方に振り返って質問の意図を吟味する。

⏰:09/04/19 22:11 📱:W63CA 🆔:34T9ZM3Y


#124 [我輩は匿名である]
そういえば、被害者の名前を知らなかったせいで
なんだか知らないけど雀夜に呆れたような顔をされたんだっけ。

「あー、いや、ざっとしか読んでなくてさ」


「じゃあ、被害者が三年生だということすら
知らなかったりするのかしら?」


うん、と頷いたら雀夜に心底呆れ果てたような目で見られた。

⏰:09/08/10 13:40 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#125 [我輩は匿名である]
 
仕方ないじゃないか。


死んだ人間なんかに興味など持てないんだから。

いや……。


それは、生きている人間にも言えることか。

⏰:09/08/10 13:42 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#126 [我輩は匿名である]
 
「まあ、さっきの道化芝居は評価してあげてもいいけれど」


雀夜はハンカチで頬に垂れる汗を拭いつつ、こちらに首だけ動かして言った。


「そう?僕はいつも通りやっただけだけど」

⏰:09/08/10 13:43 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#127 [我輩は匿名である]
 
「哀澤君の道化芝居はいつでもどこでも評価しているわよ。
そうね……しいて言うなら――」

雀夜は歩みを止めて、僕に体ごと振り返って言った。



「私がいる前でも――そのヘラヘラ笑いをやめないところとか……かしら?」



「…………」

僕は何も言わず、雀夜の話に耳を傾ける。

⏰:09/08/10 13:45 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#128 [我輩は匿名である]
 
「演技だと既にバレているのに
それでもまだ
そのまがい物の笑顔を私に向け続けるなんて
大した根性だと思うわ。
感嘆ものよ」


「お褒めに預かり光栄です、お嬢様」

⏰:09/08/10 13:47 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#129 [我輩は匿名である]
 
僕はとびっきりの笑顔を向けて
そんな冗談めかした事を言ってみた。


そんな僕を見て、雀夜が何か言いたげに口を開きかけたが
結局何も言わずに無言でまた調理室へと歩みを進めた。

⏰:09/08/10 13:48 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#130 [我輩は匿名である]
 
僕は無言で歩く彼女の後ろ姿に
同じく無言でまがい物の笑顔を浮かべながら、先を急ぐ雀夜の後について行った。

⏰:09/08/10 13:49 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#131 [我輩は匿名である]
 
調理室に着いた途端、廊下にまで届く甘い匂いが僕の鼻についた。

何作っているんだろうと思いながら調理室を開けてみると
そこには十人ほどの女子部員がみんなしてケーキを作っていた。


ていうか女子部員しかいないのだが、その十人全員がそろってケーキを作っているせいか
甘い匂いが調理室全体に充満していた。

⏰:09/08/10 14:08 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#132 [我輩は匿名である]
 
調理室のドアを開けた瞬間、
女子部員の皆さん全員がめったに来る事がない男性生徒たる僕に一斉に視線が集まる事になり、
なんとなく対応に困って立ちすくんでしまった。


様子を窺うに女子達の怪訝そうな目からして、
男子なんぞが一体何しにこの女子の神聖なる領域に足を踏み込んだのだ?

とでも言ったところか。

⏰:09/08/10 14:10 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#133 [我輩は匿名である]
 
いやいや、最近じゃ男も料理をする時代ですよ?

僕はやらないけれど。


皆さんの敵意むき出しオーラに耐えかねて
同じ女子である雀夜に助けを求めようと彼女に視線を送ったが、どこ吹く風と言わんばかりにそっぽを向かれた。

⏰:09/08/10 14:11 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#134 [我輩は匿名である]
 
いやまあ、彼女の仏頂面で話しかけたりなんかしたら逆に悪循環だったのかもしれないな。

やれやれ、仕方ないなぁ。

⏰:09/08/10 14:12 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#135 [我輩は匿名である]
 
「うわ〜、すげーうまそうな匂い。何作ってんスか?」

「……見て分からないの?」


手前にいた先輩らしき女子に軽く話しかけてみたが、案の定警戒された冷たい目線を送られてしまった。

ま、出だしはこんなもんか。

⏰:09/08/10 14:16 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#136 [我輩は匿名である]
 
「はは、スンマセン――ケーキに決まってますよね。
いや〜、それにしても見事な出来栄え!見ているだけでお腹がすいてくるっスよ」

「……ケーキ好きなの?」

先輩(らしき人物)は僕のおどけた雰囲気を見て少しだけ警戒を緩めたのか、恐る恐るながらも言葉を発した。

⏰:09/08/10 14:19 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#137 [我輩は匿名である]
 
「そりゃもう。好景気を好ケーキと聞き間違えるぐらい好きっス」

「ぷ、なにそれ?」


狙って言った僕のギャグに先輩は口元を手で隠しながらフフフと笑った。

⏰:09/08/10 14:20 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#138 [我輩は匿名である]
 
どこかトゲトゲしく僕を見ていた目線が柔らかいものに変化する。

よし。なんとか警戒を解いてもらったようだ。
周りもつられて穏やかな雰囲気になってくれたし、これなら鏡先輩の話を聞けそうだ。


「あのー、ちょっとお尋ねしたい事があるんスけど、
この中で鏡先輩と仲が良かった人っていないっスかね?」


「鏡先輩と? それなら……」

⏰:09/08/10 14:21 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#139 [我輩は匿名である]
 
と、送られた目線に気がついたのか、奥で皿を並べていたポニーテイルの女子生徒がこちらに顔を向けた。


「あ……」

このポニーテイルの人――あの時事件現場でギャアギャア喚いていた人だ。

⏰:09/08/10 15:06 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#140 [我輩は匿名である]
 
「光(ヒカリ)、あんたに用があるみたいよ」

「わたし?」

人差し指で自分の顔を指して、やがて手に持っていた皿を机に置いて光さんはこちらに寄って来た。


「あんた達、何年生?」

光さんは僕達をジロジロと見て、質問した。

⏰:09/08/10 15:07 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#141 [我輩は匿名である]
 
「あー、一年生っス」

「じゃあ、わたしより二年下ね。一年生がわたしに何の用なの?」


「えーと……鏡先輩の事で訊きたいことがあるんスけど」



「……鏡?」

何故か光先輩は急に嫌そうな顔をして、

「ちょっと、廊下に出てくれない?」

と僕の手を引っ張って雀夜共々、一緒に調理室から廊下へと無理やり出されてしまった。

⏰:09/08/10 15:09 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#142 [我輩は匿名である]
 
「……で? 鏡の何を聞きたいの?」


廊下に追いやられた後、光先輩は腕を組んで尚いっそう嫌そうな顔をして僕らに言った。



……何だろう、この人。

鏡先輩の名前を出しただけでこんな不機嫌な顔になって。


鏡先輩と何かあったのか?

「では、まず最初に……」

⏰:09/08/10 15:11 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#143 [我輩は匿名である]
 
ずっと黙っていた雀夜がここぞとばかりに前に出て話を切り出した。


「昨日の殺人事件の時、
先輩は『その子を突き落とす女の子を見た』とかなんとか、鏡先輩に対して知らない他人のような言い草でしたけど……
同じ部員なら知っていたハズですよね?

どうしてそんな言い方をしたんですか?」


あ。
そういえばそんなことも言っていたな。気がつかなかった。

⏰:09/08/10 15:14 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#144 [我輩は匿名である]
 
「それは……知り合いと思われるのが嫌だったし、それに言ったら何かと面倒な事になりそうだったから……」


「でも、あの時屋上を指差して犯人を見たとか騒いでいましたよね?
どっちにしても警察にいろいろ訊かれて面倒な事になっていたんじゃないですか?」

⏰:09/08/10 15:17 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#145 [我輩は匿名である]
 
「だって……


落とされた瞬間を見たのは本当だし見過ごすわけにはいかないじゃない。
それに殺人犯が学校の中にいるのよ?
怖いし早く捕まえてほしいし……だからよ」


光先輩は言いにくそうに目を逸らしながらも、言葉を紡いだ。

⏰:09/08/10 15:18 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#146 [我輩は匿名である]
ちょっと休憩(T_T)

久々に書いたけど読んでくれてる人はいるのだろか
(´・ω・`)はあ

⏰:09/08/10 15:21 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#147 [いちこま]
読んでます(><)
面白いです(´∀`)

⏰:09/08/10 16:46 📱:SO906i 🆔:☆☆☆


#148 [我輩は匿名である]
ありがとうございます!

じゃ書き溜めしてたんで一気に載せます( ^ω^)

⏰:09/08/10 18:07 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#149 [我輩は匿名である]
 
「そうですか……」

雀夜は少し納得いかなげな顔をしていたが、それだけ言って結局引き下がった。


……って、もう引き下がるのかよ。

「あー、ちょっといいっスか?」


このままではいけないと思い、今度は僕が訊き手側にまわった。

⏰:09/08/10 18:11 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#150 [我輩は匿名である]
 
「話を聞いていると、大分鏡先輩の事を毛嫌いしているみたいっスけど、どうしてっスか?」


「…………」


光先輩はしばらく口を閉ざしていたが、

「むかつくからよ……」

と、心底悪意のこもった声でぼそっと呟いた。

⏰:09/08/10 18:12 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#151 [我輩は匿名である]
 

「むかつく?」

「ええ……。
あいつ……昔から部の雰囲気をやたらと崩す困った奴だったのよ」


よっぽど鏡先輩の事を嫌っていたのか眉間にシワをよせて、
汚いものでも吐き出すように言う光先輩。

⏰:09/08/10 18:13 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#152 [我輩は匿名である]
 
「例えば、どんな?」

「何か気に入らないことあれば部活の途中なのに急に帰ったり
後輩にやたらといびり倒したり、
部長の私でさえ偉そうな態度をとってあれこれ嫌がらせとしか思えない指図をしてくる、


ホントに嫌な奴だったのよ」

⏰:09/08/10 18:17 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#153 [我輩は匿名である]
 
「あれ? でもさっき他の部員に仲が良いとかなんとか聞いたんスけど?」


「部長の私が剣呑な雰囲気を出して鏡と接していたら、他の部員達が居心地悪くなって部活どころじゃなくなるじゃない。

だからなるべく鏡の機嫌を取って後輩達にヤツ当たりしないように気を配っていたのよ。

それに鏡は花沢(ハナザワ)先生とも仲が良かったからあまり迷惑かけたくなかったし」

⏰:09/08/10 18:19 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#154 [我輩は匿名である]
 
「? 花沢先生って……あの派手な?」


「そうよ。見た目は派手だけど料理の腕は凄いのよ?

けっこう茶目っ気があって面白い人だし。この間なんかどこから持ってきたのか、ナース服を着て来て、

『この服で一切汚さず料理してみせるわ。みんな、応援してね』

とか言っちゃってみんなして笑ったものよ」


一変して顔をほころばせ思い出したように光先輩はフフ、と笑った。

⏰:09/08/10 18:21 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#155 [我輩は匿名である]
 
「その花沢先生と鏡さんが仲が良いことに何か問題でもあったんスか?」


「問題というより……先生が鏡のことをとても気に入っていたから、私と鏡が争っているところを先生に見せたくなかったのよ……。

尊敬している先生を悲しめるようなことしたくなかったから……」

⏰:09/08/10 18:27 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#156 [我輩は匿名である]
 
今度はしゅん、とうなだれる光先輩。


忙しい人だ。


「じゃあ、他の子に注意してもらえば良かったんじゃないっスか?」

⏰:09/08/10 18:28 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#157 [我輩は匿名である]
 
「そんなこと無理よ。

みんなも私と同じ気持ちだったし、それにそんなことを言ったら余計にこじれるだけよ。

そんな雰囲気で部活なんかしてても嫌な思いをさせるだけだし……」



ふーん。

部長さんともなると
何かと大変なんだなぁ。


別にどうでもいいけど。

⏰:09/08/10 18:29 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#158 [我輩は匿名である]
 
「あの、すみません」

さっきからずっと黙っていた雀夜が何かを思い出したように口を出してきた。


「なに?」

「鏡さんが突き落とされた時ですけど、その時の鏡さんの様子を教えてくれませんか?」

⏰:09/08/10 18:37 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#159 [我輩は匿名である]
 
おっと。そういえばその事を訊くのを忘れていた。

大事な目撃者なのに、先輩のどうでもいい身の上話ばかり聞いてしまった。


「あの時……ね……」

んーっと、光先輩は顎に手をやって深く考えだした。

⏰:09/08/10 18:39 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#160 [我輩は匿名である]
 
「あ。そういえばあの時…わたし、つい“突き落とされた”とかなんとか言っちゃったけど、
よく思い出して見れば

“突き落とした”

と言うより、無理やり担いで落とした……って感じだったのよねー」


「担いで落とした……?」

「ええ。鏡ね、落とされる前から既にグッタリしていたような気がするのよ」

⏰:09/08/10 18:40 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#161 [我輩は匿名である]
 
グッタリ……?

それって、気絶させられていたんじゃないのか?

そんな疑問を抱いていると雀夜もそう思ったのか、

「それ……気絶させられていたんじゃないですか?」

と光先輩に訊いた。

⏰:09/08/10 18:41 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#162 [我輩は匿名である]
 
「多分そうだと思うんだけど……それだと不思議なのよ」

「不思議って?」

僕は思わず光先輩に尋ねた。


「鏡ね、空手を習っているのよ。

それも有段者――そんな彼女が簡単に気絶させられるなんて思えないのよ」

⏰:09/08/10 18:44 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#163 [我輩は匿名である]
 
なるほど。

仮に襲いかかってきたとしても、簡単に相手をなぎ倒す事が出来ていたハズってわけか。

確かにそれだと疑問が残る。



ふむ……。

⏰:09/08/10 18:49 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#164 [我輩は匿名である]
 
「光先輩〜! まだですか〜!
先にケーキ食べちゃいますよ!」

「ああっ、まだ食べないでっ。今行くから〜!」


調理室のドア越しに後輩からの声を聞いて、光先輩は明るい声を出して返事をした。

⏰:09/08/10 18:53 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#165 [我輩は匿名である]
 
「ごめん。後輩が呼んでいるから今日はこれくらいで」

光先輩は手を合わせて可愛くゴメンねポーズをとった。


無言で何も言わず、立ちすくすだけの雀夜に代わって

「あ、いえ。
こちらこそ部活中に長々とお時間を取らせてしまってすんませんした」

と僕が光先輩に頭を下げた。

⏰:09/08/10 18:53 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#166 [我輩は匿名である]
 


……前から思っていたけど、雀夜ってホントに愛想悪いよな。

ま、別にどうでもいいけど。


光先輩は、それじゃあね、
とだけ言ってドアを開けて後輩達が待つ調理室の中へと戻っていってしまった。

⏰:09/08/10 18:55 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#167 [我輩は匿名である]
 
「……これからどうするの?」


先輩がドアを閉めていなくなった後、僕は雀夜の方を見て何気なくそう訊くと、

「……もう暗いし、今日はもう帰りましょう」

と、雀夜は外を眺めながら言った。

⏰:09/08/10 18:56 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#168 [我輩は匿名である]
 
確かに雀夜の言う通り、夕日はとっくに沈んで窓の外は暗くなっていた。

街灯と月の光だけが微かながらに街を照らしている。


「そうだね。帰ろうか」

僕達は調理室から聞こえてくる賑やかな声を背にして
下箱へと静かに、ただ淡々と歩みを進めた。

⏰:09/08/10 18:57 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#169 [我輩は匿名である]
 
――――――
―――

僕達は学校の門を出た後、しばらくお互い何も喋らず暗くなった道をただ黙々と並んで歩いていた。


周りを見ると、僕達と同じくらい学生達が談笑しながら歩いている。

おそらく部活帰りなのだろう。
中には、ジャージを着たまま帰路にも着かずコンビニでたむろしている輩もいた。

他にあるものは
いつも通りの街並みと、過ぎ行く自動車だけ……。

⏰:09/08/10 19:00 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#170 [我輩は匿名である]
 

「犯人に直接繋がるような手がかりは見つからなかったね」

街灯と月の光にぼんやりと照らし出された雀夜を見て、僕は沈黙を破るように静かに呟いた。

「そうね……」

雀夜も静かに呟く。

前方だけを見て、相変わらず、無表情で。

⏰:09/08/10 19:01 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#171 [我輩は匿名である]
 
こうして並んで真夜中の道を歩いている僕達だが、
何も「女の子一人、真夜中の道を歩かせるような危ない目をさせるわけにはいかないぜ!」


というような男気のある理由で付き添っているわけではなく、
ただ単に帰り道が一緒なので
こうして蒸し暑い中歩いているだけなのである。

⏰:09/08/10 19:03 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#172 [我輩は匿名である]
 
「ただ分かったことは、犯人は鏡先輩とかなり仲が良かった生徒――ぐらいかしら」


「え……?」

不意に聞こえた消えいるような小さな声を
うまく聞きとることができず、
「今、何て言ったの?」

と、雀夜に訊き返した。

⏰:09/08/10 19:21 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#173 [我輩は匿名である]
 
「犯人は、おそらく鏡先輩と仲が良かった女子生徒って言ったの。
それも、抱き合うくらいの……ね」


「……? 抱き合うくらい仲が良いことと犯人に何の関係があるの?」

⏰:09/08/10 22:33 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#174 [我輩は匿名である]
 
「鏡先輩は空手を習っていたって聞いたでしょう?
それも有段者……。

そんな彼女を気絶させることなんてちょっとやそっとじゃできないことでしょう?」


「え? ――ああ……うん」


急に“気絶”という単語が出てきて、つい生返事をしてしまう。

⏰:09/08/10 23:00 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#175 [我輩は匿名である]
 
そうか。
雀夜は鏡先輩は気絶させられていた、という前提の元ででこれから話すつもりでいるのか。


「素人なら彼女に返り討ちにさせられてしまうのがオチね――仮に善戦できたとしても、その間に大声で助けを呼ばれでもしたらそれでおしまい……。

そんな彼女を気絶させる方法……もっとも簡単で単純なのは、
抱きついてからスタンガンなどを使って気絶させる――なんていうのが、一番妥当なところなんじゃないかしら」

⏰:09/08/10 23:02 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#176 [我輩は匿名である]
 
「ああ、それで抱き合うほどの仲が良い女子生徒が犯人だ、とかなんとか言ったのか……」

なるほど。
確かに空手を習っている鏡先輩といえど仲の良い人に、
それも抱きつかれた状態でスタンガンなど使われたりしたらひとたまりもないだろう。

犯人にしてみればこれほど容易く、楽に鏡先輩を屋上から突き落とす方法は他に無い。

⏰:09/08/10 23:06 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#177 [我輩は匿名である]
 

ふむ……。それにしても……。


「ふーん……。仲が良い“女子生徒”が犯人……ねー」

「……何? 何か含みのある言い方ね」


「いや、別に。それにしても……」

僕は星空を特に何の感慨も無く眺めながら言う。

「こうして犯人像が少しだけ掴めたわけだけど、明日はどんなことを調べるの?

屋上にでも行ってみる?」

⏰:09/08/10 23:12 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#178 [我輩は匿名である]
 
「今行っても無駄よ。
事件後、鍵を閉められて特別な理由が無い限り生徒は立ち入り禁止になっているんだから。

部活で使いたいって教頭に申し出ても合い鍵を貸してくれないそうよ。


――にしても、そうね……ホント、これからどうしようかしら……」

⏰:09/08/10 23:14 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#179 [我輩は匿名である]
 
俯きながらブツブツ呟き出した雀夜。
そうこうしている内に枝別れした道に着いた。

ここからはお互い帰り道が違うので、ここでお別れとなる。

雀夜の方の帰り道は暗く、僅かながら街灯で照らし出されているが
かなり危ないを雰囲気を醸し出していた。

だからといって、彼女を家まで送るような気は起きないけど。

⏰:09/08/10 23:16 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#180 [我輩は匿名である]
 
別に雀夜が襲われようとも、僕にとってはどうでもいいようなことだ。


「じゃあ、僕はこれで」

と言って、僕は片手を上げた。

「……え? ああ、うん……」

俯いていた顔をハッと上げて生返事をする雀夜。
考えに没頭してせいなのか、一瞬反応が遅かった。

なんとなく気になったので上げていた手を下げて、「それで?明日はどうするの?」と訊いてみた。

⏰:09/08/10 23:23 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#181 [我輩は匿名である]
 
「まだ考え中。そうね……また家に戻ってから考えるわ」


「そっか」と僕はリュックを背負い直しながら言う。

「じゃあ、また明日聞かせてよ。そん時また協力するからさ」


「いえ……、哀澤君はもう付き合ってくれなくていいわ」

「え?」

思わず、目をパチクリさせて訊く。

「もういいの?」

⏰:09/08/10 23:31 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#182 [我輩は匿名である]
 
「ええ。少しだけって約束だったでしょう?

それに哀澤君、すごく嫌々だったし」


「いや、そんな事は……」

あるけども。


……うーむ。
顔には出さなかったはずなんだけど……さすが雀夜と言ったところか。

⏰:09/08/10 23:36 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#183 [我輩は匿名である]
 
「それじゃあ、哀澤君」

「ああ、うん。それじゃあ……」

そう別れの挨拶を交わして、雀夜は親しげに手を振ったりせず
背を向けて自身の帰り道へと去って行った。

⏰:09/08/10 23:43 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#184 [我輩は匿名である]
 
僕は雀夜の後ろ姿を少しだけ見送ってから、自分の帰り道へと再び歩みを進めた。

こちらの道は雀夜が帰って行った道とは違って、あちらこちらに街灯が設置してあるおかげで
道端の小石に躓くようなこともなくスムーズに歩ける。


こういう時だけお役所様の素晴らしい仕事ぶりを手を叩いて賛美したくなるから不思議だ。

うん、純粋無垢に嘘っぱちだが。

⏰:09/08/10 23:45 📱:W63CA 🆔:H0ElhQt.


#185 [我輩は匿名である]
 
途中、ふと歩きながら僕らしくなく雀夜のことで考えを巡らしていた。

ああしてめでたくお役目御免と相成ったわけだが、考えてみれば雀夜が僕に頼み事をするなんてかなり珍しいことだ。

いや、自分のオススメの本を僕に無理やり読ませるとか
そういう頼み事(無理やり読ませる時点で頼み事でもなんでもないが)なら多々あるが、こういった頼み方は初めてされたような気がする。

⏰:09/08/11 00:11 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#186 [我輩は匿名である]
 
ふと、足を止めて背後の雀夜が帰って行った道を振り返ってみた。

雀夜はもうとっくにいなくなっていたが、なんとなく気になってしまった。


……雀夜はああ言っていたが、
一体どうするつもりなのだろう。

まさか一人で聞き込みでもするのだろうか。

いや、それはないか。
聞く前にあの仏頂面で逃げられるということを本人が一番よく分かっているだろうし。

⏰:09/08/11 00:13 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#187 [我輩は匿名である]
 
しかし珍しいな

この僕が、

雀夜の言うところの“人間失格”であるはずのこの僕が、

こうも他人の事を気にするなど……。

ま、別にどうでもいいけど。




………………。

⏰:09/08/11 00:17 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#188 [我輩は匿名である]
 
「どうでもいい……ね……」


なんとなく、2ヶ月の前の事を思い出した。


思い出されるのは


――あの日の事……。

⏰:09/08/11 00:18 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#189 [我輩は匿名である]
 
遊園地で一人途方に暮れていた僕に、話しかけてくれた彼女。

一緒に組もう、と言ってくれた彼女。


彼女にとってはなんでもない、ただ自分のためにやったことなんだろうけど……。

⏰:09/08/11 00:19 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#190 [我輩は匿名である]
 
だけど……僕はそんな彼女に恩気を感じていた。

あの時あのまま一人途方に暮れていたら、クラスのみんなにも知れて今ごろ変人扱いをされていたかもしれない。

そんなことですら、雀夜にとってはどうでもいいようなことなんだろうけれど。

………………。


でも、ねぇ……?

⏰:09/08/11 00:20 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#191 [我輩は匿名である]
 
……そうだな。借金にしろ恩にしろ、借りっぱなしというのは良くないし……


借りは返すのが社会の常識。

他人に弱味のようなものを握られているというのも気分が悪い。
今のうちにその借りを清算しておくのも一興だろう。


さーて、そういうわけだし――


雀夜のために、いっちょ一肌脱いで、化けの皮を被るとしますか

⏰:09/08/11 00:23 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#192 [我輩は匿名である]
 
生暖かく、気持ち悪い風が吹く。

まるで、これからの先に起こる事を予兆させるかような不気味な風に吹かれながら
僕は再び満月と街灯だけが照らす夜中の道を黙々と歩き出した。

⏰:09/08/11 00:26 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#193 [我輩は匿名である]
プロローグ
>>2-12

第一話
天落の糸、死色に望む
◆no.1
>>13-59

◆no.2
>>61-119

◆no.3
>>121-192

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
お願いします▼
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4513/

⏰:09/08/11 00:30 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#194 [我輩は匿名である]
 
翌日。

僕はいつも通りクラスのみんなに「おっはー」と、
陽気に朝の挨拶を交わし合いながら(ホントは面倒くさいからしたくはないんだけど。これも平穏無事に学校生活を送るためにはやむなき事だ)窓際の、僕の席の後ろの席に
座っている坊主頭の少年に近づいて声をかけた。

⏰:09/08/11 00:40 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#195 [我輩は匿名である]
 
「おっはー。天(テン)ちゃん」

「おお、哀(アイ)ぽん。おっはー」


パンパン、と手を叩きあって挨拶を交わす僕ら。

相変わらずのノリの良さに妙な安堵感をおぼえる。

⏰:09/08/11 00:42 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#196 [我輩は匿名である]
 
彼の名は天草小次郎(アマクサ コジロウ)。

通称、天ちゃん。

席も近いこともあってか、天草とはよく喋りあう仲で
よく昼飯の時なんかにも一緒にダベりながら食べあったりするほどの仲だったりする。


まあ、あくまで表面上での付き合いだけれどね。

⏰:09/08/11 00:43 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#197 [我輩は匿名である]
 
「せや。ちょい聞いてぇや哀ぽん」

天草はいつもの関西弁で手招きしながら言った。

「何? 天ちゃん」

僕はリュックを自分の机に雑に置いて、椅子をひいて天草に寄せた。


「じゃじゃーん! 見てみこれを!」

と言って、引き出しから取り出された物は夏目漱石が印刷された旧千円札だった。

⏰:09/08/11 00:46 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#198 [我輩は匿名である]
 
「うおっ、なっつかしいー。
どしたのそれ?」

「道端で拾うてん。いやー、まさか野口やのうて夏目を拾うとは思わんかったわ。
真夏ん中、目ぇ凝らして道端眺めとったかいがあったわ。夏目だけにな!」

「アハハハ。超面白れー」

超つまんねー。

⏰:09/08/11 00:51 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#199 [我輩は匿名である]
 
「これもう家宝にするわ。家の神棚に飾って拝んだりすんねん。
どや? メッチャ羨ましいやろ?」

「んなわけあるかい!」


天草の胸に関西式平手ツッコミを打ち込む。
少し強すぎせいか、「ごほごほ、ちょ、哀ぽん強すぎ」と咳こんだ。

⏰:09/08/11 00:52 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#200 [我輩は匿名である]
 


あー、くだらない。


今のやりとりのどこがそんなに面白いというんだ?

馬鹿馬鹿しい。


実にくだらない。

⏰:09/08/11 00:53 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#201 [我輩は匿名である]
 
「アハハハ、ごめんごめん。危うく殺すところだったよ」

「ホンマやで。堪忍してな。わしはまだ後47年生きるつもりでおるんやから」

「何その中途半端な数字」

ツッコミを入れてお互い声を上げて笑い出した。

天草なんか腹を抱えて目に涙すら浮かべている。

⏰:09/08/11 00:55 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#202 [我輩は匿名である]
 





くだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらないくだらない。



反吐が出るほど



――くだらない。

⏰:09/08/11 00:56 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#203 [我輩は匿名である]
 
「あ、そうだ天ちゃん。俺、天ちゃんに訊きたいことがあるんだけど」

僕は腹の中でそんなドス黒い事を考えつつも、満面の笑みを浮かべながら本題を切り出した。

「ん? なんや?」

「あのさ、一昨日ここの屋上で殺人事件があったじゃん?

その殺された人の情報が欲しいんだけど」

⏰:09/08/11 01:25 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#204 [我輩は匿名である]
 

「ほーう?」

天草は目の色を変えてニヤリと笑う。

「それはあれか?“情報屋”としてのわしに対して訊いとるんか?」

うん、と僕は頷いて肯定した。

⏰:09/08/11 01:28 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#205 [我輩は匿名である]
 
「……で? 何くれるんや?」

ニヤニヤ笑いのまま、天草は続ける。

「情報を提供するかわりにそれなりの対価を支払う――哀ぽんも勿論この事は知ってるやろ?

なんせ、わしはピカイチ級の――この学校では知らん者はおらんくらいのドケチな情報屋やでな。

そうやすやすと情報は与えられへんで」

⏰:09/08/11 01:29 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#206 [我輩は匿名である]
 
そう――
こいつはそのお調子者のお馬鹿なキャラとは裏腹に、情報屋というもう一つの顔を持っている。

その情報網はありとあらゆる分野に通じ、はては全校生徒のテストの点すら把握しているのではないか、と噂されるほどの人物なのである。

ただし、その情報を得るには天草の言った通り対価を必要とされる。

それは、僕とて例外ではない。

⏰:09/08/11 01:31 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#207 [我輩は匿名である]
 

「うーん……そうだなぁ……」

僕は腕を組んで思案を巡らす。

「じゃあ、俺の爺ちゃんのヌード写真なんてどう?」

「いらんわボケ! せめて婆ちゃんにしろや」

「あ、婆ちゃんなら良いんだ?」

⏰:09/08/11 01:32 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#208 [我輩は匿名である]
 
「ええわけあるかい! 例え話じゃっ」

えー。じゃあ、あの夜隠し撮りしたヌード写真の数々が無駄になるではないか、なんてあきらかにどん引きされるような事は勿論言わない。

言ってしまったら大変な事になっちゃうよ。

……そんな事実は一切無いけど。

⏰:09/08/11 01:34 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#209 [我輩は匿名である]
 
「んー、じゃあ今日の昼飯カレーパンをおごるってのはどう?」

「えらい安上がりできたな……。
ん〜、まあ、それでええわ。隣の良しみでそれで妥協しといたるわ」

天草はやれやれと言わんばかりの顔つきをして納得してくれた。

「マジで!? きゃー、天ちゃん最高! このナイスガイっ。この外人離れした顔を持つ男!」

⏰:09/08/11 01:36 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#210 [我輩は匿名である]
 
「ハッハッハッ。苦しゅうない。もっと誉めい」

殿様のように手で自分の顔を上機嫌に煽ぐ天草。
てか、最後のは誉め言葉じゃないぜ?

「まあ、そんなわけで……早速教えてくんね?」

「って切り替え早っ!
もう誉めるのおしまいかいな。
まあ、ええか。えーっと……鏡先輩の事やったな」

「うん。そう」

僕は頷きながら耳を傾ける。

⏰:09/08/11 01:40 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#211 [我輩は匿名である]
 
「最近起こった、しかもわしらの学校で起きた殺人事件やからな、質のええのを揃えてんで。

そうやな――」

天草はポケットから手帳を取り出してペラペラと開いた。

手帳には『天ちゃんの秘密ファイル』とタイトルがふってある。


「じゃまずは……鏡先輩が実はレズやった――ってのはどうや?」

⏰:09/08/11 01:42 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#212 [我輩は匿名である]
 
「え? レズ? 鏡先輩が? マジで?」


思わず、天草の机に体を乗り出す僕。

「そうや。鏡先輩な、ちっちゃい頃から男に興味あらへんかったみたいやねん。

もともと女ウケする顔しとったらしくてな、結構な数の女と付きおうとった――って話や。

これは鏡先輩と付きおうとった女の子から訊いた話やから確かな情報やで」

⏰:09/08/11 01:43 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#213 [我輩は匿名である]
 
へぇー、と素直に驚愕する僕。
何がビックリかって、そこまでする天草の行動にビックリだ。

⏰:09/08/11 01:45 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#214 [我輩は匿名である]
 
「ふふ、ビックリしとんな。でもまだまだこれからやで?

実はな、鏡先輩結構な女癖の悪い奴やったみたいでな――二股は当たり前のようにするよるわ、たった三日しか経ってへんのにあっという間に相手を振って他の女に移りよるわで
かなり知り合い連中に評判悪かってん。

しかも最近じゃあ自分より年上の社会人の女と付きおうて
金だけ貰ってこっぴどく振ったちゅう話もあんねん」

⏰:09/08/11 01:46 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#215 [我輩は匿名である]
 
ほぉー。そんなことまでしていたのか。

あの真面目で優しかった鏡先輩がねぇ、

などと生きていた頃の彼女に会ったこともないのにそんな感想を意味無く心の中でもらしてみた。
ホントに意味ねぇー。

⏰:09/08/11 01:55 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#216 [我輩は匿名である]
 

――って、そんなどうでもいいことは宇宙の片隅にでも置いといて……要するに、鏡先輩はかなりの数の人間に恨まれていた

……という事になるのか。

となると、恨みによる犯行が濃厚か。



恨みによる犯行……ねぇ……。

⏰:09/08/11 01:56 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#217 [我輩は匿名である]
 
「ま、こんなとこやな」

天草は手帳を閉じてポケットにしまった。

「こんなんで良かったか?」

「うん。サンキュー」

「でも、こんなん聞いてどうすんのや?」


天草は不思議そうに尋ねる。

ま、当然の疑問だな。
教えるつもりは毛頭無いが。

⏰:09/08/11 01:57 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#218 [我輩は匿名である]
 
ちょっとワケありでね、と天草に言って僕は席に座り直し
白いキャンパスに青い絵の具を塗りたくったかのような広い空をぼんやりと眺めながら、考え事にふけった。


その後、僕は休み時間を利用してせっせとラブレターを書き、(って言っても、実際は二、三行しか書いてないんだけど)それをある人の机の上にお忍びで置いて来た。

⏰:09/08/11 02:02 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#219 [我輩は匿名である]
 
んでまたその後も昼休みに教頭室に赴き、教頭先生とお茶を飲みながら世間話をしたり、密かに学校を抜き出してある物を調達しに行ったり、雀夜のクラスに足を運び、彼女に放課後一緒に屋上に来るよう、約束を交わしたりした。…うん




さて、これで舞台は整った。



「それでは――絶望の幕開けといきましょうか」

⏰:09/08/11 02:08 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#220 [我輩は匿名である]
プロローグ
>>2-12

第一話
天落の糸、死色に望む
◆no.1
>>13-59

◆no.2
>>61-119

◆no.3
>>121-192

◆no.4
>>194-219

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
お願いします▼
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4513/

⏰:09/08/11 02:12 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#221 [我輩は匿名である]
 
「ねぇ、屋上なんかに行って何をしに行くの?」


放課後、僕と雀夜は屋上に向かうべく、クソ暑い中長い階段をただひたすらに昇っていた。

滝のように流れる汗を半袖の肩口で拭う。

前から思っていたが、
何故六階もあるのにエレベーターをつけないのだろう。

何のための文明の利器だ。
と、理不尽に憤慨してみたり。

⏰:09/08/11 02:18 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#222 [我輩は匿名である]
 
「ねぇ、聞いてるの?
せめて何をしに行くのかぐらい教えてくれても良いんじゃない?」

雀夜は腕を組みながら不満げに言葉を発した。

相変わらずの無表情だが(この暑さの中で)さっさと図書室に行って本を読みたい、というのが雰囲気だけで伝わってくる。

⏰:09/08/11 02:19 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#223 [我輩は匿名である]
 
「行けば分かるよ」

「もっと具体的に言ってちょうだい」


「そうだなぁ……」

僕は階段を昇る足を止めることなく、雀夜の方に振り返って言った。



「君が望む、とっておきの“絶望”ってやつを見せてあげるよ」

⏰:09/08/11 02:20 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#224 [我輩は匿名である]
 
雀夜は、はてなと首を傾げつつ「どういう意味……?」と訊いてきたが僕はその質問を無視して
さらに屋上へと足を進めた。

⏰:09/08/11 02:21 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#225 [我輩は匿名である]
 
屋上には既に人が来ていた。


夕日が赤く屋上を照らし
夏の暖かくも強い風に吹かれながら、その人は背中を向け、髪をなびかせながら立っていた。

⏰:09/08/11 02:23 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#226 [我輩は匿名である]
 
僕は雀夜が最後に出るのを見届けてからドアを閉め、いつもように笑顔を作りながらそっと近づいた。




「お待たせしてすみません、





――――――先生」

⏰:09/08/11 02:23 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#227 [我輩は匿名である]
 

先生は――

花沢先生は――こちらに気付いて、「あら? 君はあの時の……」と目を丸くしてこっちを見た。


「ひょっとして…
この変な手紙を書いたの、君?」

そう言って、先生は怪訝そうな目をしてポケットから例の、

僕が書いた手紙を取り出した。

⏰:09/08/11 02:25 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#228 [我輩は匿名である]
 
「そうッス。ドキッとするくらい素敵なラブレターだったでしょう?」


「これのどこがラブのレターなの?
 『私はあなたのとんでもない秘密を握っています。バラされたくなければ、放課後、屋上に来てください』――って、これどう見ても脅迫状じゃない」

まあ確かにドキッとはしたけどね、と先生は付け加えた。

⏰:09/08/11 02:30 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#229 [我輩は匿名である]
 
「ほほう。では秘密を持っている事は否定しないんスね」

「当然よ。人間、生きていれば秘密の一つや二つ抱えるものでしょう?
 それとも、君は秘密なんか持っていないとでも言うのかしら?」


「まさか」

僕は両手を上げて首をすくめた。

⏰:09/08/11 02:31 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#230 [我輩は匿名である]
 
「それで? 脅迫までしてアタシを呼んだ用はなんなの?

事と次第によっては君、退学よ」


「いえね、ちょっとしたショーを始めようかと思いまして」


先生は、は? と言わんばかりの呆れ顔。

雀夜も、何ワケの分からないことを言っているの、と言いたげにこちらに視線を送ってくる。

⏰:09/08/11 02:33 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#231 [我輩は匿名である]
 
「何を言い出すのかと思えば……」


先生は理解に苦しむといった面持ちでこめかみを押さえて言う。

「ショーをやりたいのなら
そちらの奥さんにでも見せなさい。

アタシは帰らせてもらうわ」


と言って、ドアに近づこうとした先生を「待ってください」と手で制した。

⏰:09/08/11 02:34 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#232 [我輩は匿名である]
 
「あなたにいなくなってもらうと困るんですよ。

なんせ、うちの嫁さんがとても会いたがっていた人なんですから」


「ちょっと、私は先生に会いたいなんて一言も言ってないわよ」

即座に雀夜は嫁と言われた事に対して何もツッコミを入れず言い放った。

⏰:09/08/11 02:35 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#233 [我輩は匿名である]
 

「どうして? だって、花沢先生は君がとても会いたがっていた――


 鏡先輩を殺した 




――犯人なのに」

⏰:09/08/11 02:36 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#234 [我輩は匿名である]
 

途端、二人共声を失ったかのように驚愕した。

何言ってんだこいつ、というのが雰囲気だけで伝わってくる。


「は、はぁ? な、何を言っているの君は」

やがて、先生は動揺しつつも予想通りの言葉を発した。

⏰:09/08/11 02:37 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#235 [我輩は匿名である]
 
「先生っスよね? 鏡先輩をメールか何かで屋上まで呼び出し、彼女を気絶させて突き落としたのは」


先生は眉間をピクッと動かしたが、
結局何も言わず僕の話に耳を傾ける。


「実を言うとね、先生を一目見た時から犯人だと思っていたんです」

⏰:09/08/11 02:38 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#236 [我輩は匿名である]
 
「はは、あはははは!」

先生は腹を抱えて、まるで気でもふれたかのように大きく口を開けて笑い出した。


「今までされたことのない告白だわ。
面白い子だとは思っていたけど、ここまで面白いことを言う子だったなんてねー」

⏰:09/08/11 21:59 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#237 [我輩は匿名である]
 
やがて、先生は一瞬で笑みを消し真顔に戻って、「それで?」と言葉を続ける。


「アタシを犯人だと思った本当の理由は何なの?」


「そうですねぇ……」

僕は腕を組みながら空を見上げて言った。

⏰:09/08/11 22:00 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#238 [我輩は匿名である]
 


「例えば、仲の良かった教え子が殺されたというのに
割とあっさりとした感じで鏡先輩のことを語っていたところ……とか」

 
瞬間、先生の目が鋭利なものに変わった。


「先生が顧問をしている調理部の部長さんに話を聞いたんですけどね、
先生、鏡先輩と相当仲が良かったみたいじゃないッスか。

そんな人が悲しむ素振りを見せずに
淡々と鏡先輩の事を話すなんて妙だなーと思ったのがキッカケです」

⏰:09/08/11 22:03 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#239 [我輩は匿名である]
 
言い終わると先生は、フッ、と嘲るように笑った。


「もうアタシも大人だから物事の分別を分けるのがうまいのよ。

それにアタシは図太いから大抵の事にはすぐに立ち直れるの。
それだけのことよ」


「ホントにそれだけの理由ですかぁ〜?」

⏰:09/08/11 22:22 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#240 [我輩は匿名である]
 
僕は、誰から見ても不愉快な気分にさせるような嫌らしい笑みを浮かべながら言った。


先生は僕をゴキブリでも見るような不快な目で睨んできたが
また嘲けるように笑って、「バカバカしい」と吐き出した。

⏰:09/08/11 22:24 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#241 [我輩は匿名である]
 
「そもそもねぇ、犯人はここの女子生徒なのよ?
それは目撃者が口を揃えて言っていたことじゃない。

それとも、君の目にはアタシが“女子”生徒に見えるのかしら?」


先生は僕を心底馬鹿にしたように笑う。

僕はそれを見て同じく先生を馬鹿にするかのように「フッ」と、嘲るように笑った。

⏰:09/08/11 22:25 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#242 [我輩は匿名である]
 
ピタッと先生は笑いを止め「……何がおかしいのよ」と、こちらを睨んできた。


「いえ……。

そうですね……先ほどの質問に対する回答ですが、カツラを被って制服を着れば十分に見える……とでも言っておきましょうか」

⏰:09/08/11 23:03 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#243 [我輩は匿名である]
 
僕の言葉に先生は動揺したように僕から一歩退いた。

それを見た雀夜が「ああ、なるほどね」と納得したように口をもらした。


「な、何を言っているのよ君は」

先生は動揺しつつも、なんとか平静を保とうと奮闘しながら
こちらを睨み付けて言葉を紡ぐ。

⏰:09/08/11 23:05 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#244 [我輩は匿名である]
 
「あのねぇ、君。
目撃者の中にはアタシをよく知っている子もいたのよ?

仮にアタシが犯人だとしたらすぐに名指しでアタシを呼んでいたはずよ」


はあー、やれやれ。

そんな事まで説明しなければならないのか?

雀夜でさえ「愚かね」と言わんばかりの顔をしているぞ。

何だか説明するのも面倒くさくなってきたし
ここはひとつ、暇そうにしている雀夜とバトンタッチといきますか。

⏰:09/08/11 23:09 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#245 [我輩は匿名である]
 
「雀夜」と後ろにいる彼女に声をかけた。

「同じ女性である君なら、もうとっくに気がついているだろ?」


「ええ。勿論よ」

雀夜は無表情ながらも、得意げな目をして前へ躍り出た。

⏰:09/08/11 23:11 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#246 [我輩は匿名である]
 
「確か先生……目撃者の中に知り合いがいるのだからすぐに名前を呼ばれていたはず……
とか言っていましたよね?」

雀夜は雄弁に、周りの空気を冷やすかのような冷静な口調で語り出す。


「――その派手な化粧を一切せず、
スッピンでみんなの前に姿を現したから……では気付かれなかった理由になりませんか?」


「…………」


先生は顔を尚一層険しい顔に変化させて僕達を睨み付ける。

⏰:09/08/11 23:24 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#247 [我輩は匿名である]
 
「化粧をしているかしていないかで
女性の顔の印象なんてガラリと変わるものですし
その上でカツラなんか被られていたら、いくらよく知っている顔といえど、
なかなか気づけるようなものではないと思います。

それに――ここから校庭は結構な高さがありますし、
顔なんかよく見えなかったはずです」

⏰:09/08/11 23:25 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#248 [我輩は匿名である]
 
雀夜の言う通り、あの状況で先生だと確認するのは極めて困難だったはずだ。

その上で制服なんか着ていたら
女子生徒と間違えるのも無理はない。

⏰:09/08/11 23:26 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#249 [我輩は匿名である]
 
「ちょっと待ちなさいよ。

カツラ被って制服なんか着てたら
明らかに怪しまれるじゃない。

そんな格好をして鏡さんの前に出たら逃げられるかもしれないでしょうが」

先生は強気な姿勢を崩さず、矛盾点をついてくる。

⏰:09/08/11 23:28 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#250 [我輩は匿名である]
 
返す雀夜の方は、

「普段からあなたはかなりおちゃらけた人だと、調理部の人から話を聞きました。

聞けば、先生はナース服を着て
部活動に参加された事があるようですね?

そんな人が制服着て出てきたとしても、いつものおふざけと思われるだけで済んでいたはずです」


「…………っ」

先生はぐうの音も出ないと言わんばかりに口を閉ざす。

代わりに僕の腹の虫がぐうの音を鳴らした。

⏰:09/08/11 23:37 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#251 [我輩は匿名である]
 
あ〜、今日の夕飯何だろなぁ。


「い、いや! そもそもよ!」

先生は諦め悪く反抗期の中学生のごとく反論を述べてくる。

その様子を見て父性本能をくすぐられた僕としては

「いい加減になさい!」

とお叱りの声をあげたいところだ。

⏰:09/08/11 23:47 📱:W63CA 🆔:SwAqfx6Y


#252 [我輩は匿名である]
 
「彼女、空手を習っているのよ。
それも有段者。そんな子をどうやって気絶させるというのよ!」


耳がキンと鳴るくらい大きな声を張り上げる先生。

対する雀夜の方は一切微動だにせず、
直立不動で先生を見据える。

実に頼もしい。

いやー雀夜、ここまでやってくれるとは思わなかったよ。

⏰:09/08/12 00:29 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#253 [我輩は匿名である]
 
バトンタッチしたかいがあったというものだ。
さあ、どんどん言い返してやれ雀夜!

と、期待を胸に彼女を見つめていたが
何も言わず、やがてこちらにいつもの仏頂面を向けて、



「――だそうよ、哀澤君」

と静かに言った。


……あっさりバトンを返された。


いや、まあ仕方ないか。
そういえば、雀夜は鏡先輩の性癖とか知らなかったはずだし。

⏰:09/08/12 00:30 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#254 [我輩は匿名である]
 
「えーと……つまりですね……」


シリアスな雰囲気が少し崩れかけているのを気にしつつも、探偵役を再度務めて話を進める。

「これは、とある情報屋さんから仕入れた情報なんスけどね……
何でも鏡先輩、レズだったという話が出ているんですよ。

それも相当女癖の悪いレズっていう話が……」

⏰:09/08/12 00:49 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#255 [我輩は匿名である]
 
「ふん。それとアタシが鏡さんを気絶させる事と何の関係があるのよ?」


先生は鼻息を荒くして嘲笑いながら言い捨てる。

初めて会ったどこか大人の雰囲気漂う快活な女性の印象は
影も形も無くなっているな。
どうでもいいけど。

⏰:09/08/12 00:50 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#256 [我輩は匿名である]
 
「簡単な事です。
鏡先輩がレズだったとして、先生もそのレズだったとしたら……

しかもその相手が鏡先輩だったとしたら――?」


「…………!!」


先生は顔面を真っ青に染めて後ろにのぞけった。

僕はそんな先生を視覚に入れつつ、言葉を重ねる。

⏰:09/08/12 00:51 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#257 [我輩は匿名である]
 
「もしも恋人関係だったとしたら――いつものように鏡先輩を抱きつつ、
スタンガンなどで気絶させるなんてこと、
いとも簡単に出来ていたんじゃないっスか?」


先生は下を向いて
何も反論してこようとはしなかった。

しばらく先生の反応を待って僕も黙っていると、


「…………ふ」

 

⏰:09/08/12 00:52 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#258 [我輩は匿名である]
 

「ふははははははひひひははひはは!!!!」


先生はいきなり笑い狂った。
腹を抱え、頭をガリガリかきむしりながら――まるで、壊れた獣のように……。

それと同時に手に握っていた僕の書いた手紙が風で飛ばされ、空へと消える。

⏰:09/08/12 00:55 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#259 [我輩は匿名である]
 
先生をよく知る人がこれを見たらどう思っただろう。
恐怖で顔面を歪ませていたじゃないだろうか。
いや、普通の人でも血の気ぐらいは引いていたかもしれない。

先生のそんな様子を普通ではない僕と雀夜は、ただ特に思うところもなく静観していた。

⏰:09/08/12 00:56 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#260 [我輩は匿名である]
 
いや……。

雀夜だけはむしろこの状況を楽しむかのように、目を輝かせて見つめていた。


「ふひひひ、ひ、本当に面白い事を言う子ねぇ……」

やがて、先生は急に一切の笑みを消し
鬼のような形相で、



だんっっ!


と空気中に響くような凄い音をたてて床を踏みつけた。

⏰:09/08/12 00:57 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#261 [我輩は匿名である]
 
「そんなに言うなら証拠はあるんでしょうね!?

このアタシが犯人だという証拠が!!」


フー、フーと肩で荒く息をする先生を見て
思わずため息がもれた。

ドラマで耳が腐るほど聞いてきた台詞だが、
まさかこんな所でもそんなチープな言葉を聞くことになろうとはねぇ。

⏰:09/08/12 01:22 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#262 [我輩は匿名である]
 
「どうなのよ!? 

証拠はあるのかって訊いているのよ!!」


ああはいはい。証拠ね。

今言うからその耳障りな奇声を
命もろとも消してくれ。


「証拠なら、今あなたが持っているじゃないですか」


「はぁ? 馬鹿じゃないの。
そんなもの、どこにあるっていうのよ!」


先生は何も持っていないと言わんばかりに両手を開ける。

⏰:09/08/12 01:23 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#263 [我輩は匿名である]
 
「じゃあ、お訊きしますが……」


そんな先生に僕は詰め寄るように一歩ずつ近づいて、囁いた。


「先生は、どうやってこの屋上に来ることが出来たんですか?」




「――――!!」

⏰:09/08/12 01:25 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#264 [我輩は匿名である]
 
先生はハッと目を見開き、たじろぐ。
刹那、先生がスカートのポケットに
手をやるのを僕は見逃さなかった。


ふうん。

そこに鍵が入っているのか。


「確か、屋上の鍵は事件以来紛失したまま返ってこないんでしたよね?

事件後、屋上のドアの鍵はずっと閉められていたハズなのに、
どうやってここに来ることが出来たんですか?」

⏰:09/08/12 01:29 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#265 [我輩は匿名である]
 
「そ、それは――」


先生は何も言い返さず、
僕が近づいて来ると同時に一歩ずつ下がっていく。

先生の真っ青な顔には、
この暑さのせいではないだろう大量の汗が
頬を伝ってポタポタと流れていく。

どうせあの脅迫状で気が動転して、
そこまで考慮することができなかったのだろう。





……浅はかだね、先生。

⏰:09/08/12 01:35 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#266 [我輩は匿名である]
 
「さあ、どうなんです先生?」


先生と僕の、
ゆっくりとした鬼ごっこは続く。

あと五、六歩も歩けば足場が無くなり
先生の逃げ道は無くなる。

それ以上後ずされば、


先生は校庭へ真っ逆さまだ。

⏰:09/08/12 01:49 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#267 [我輩は匿名である]
 
見れば、都合の良いことに校庭には誰もいない。

学校の周りには住宅などは見当たらず、
うっそうと木々が生い茂っているだけなので
仮にここで先生を突き落としたとしても
誰かに見られる心配はないな。

⏰:09/08/12 01:51 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#268 [我輩は匿名である]
 
「ちょっと、ま、待って!」


先生は両手を突き出し、僕の歩行を止めた。


「何ですか?」

「か、鍵は――鍵……そ、そうよ!

鍵は教頭先生から合い鍵を借りたのよ!!」


先生はこれでどうだと言わんばかりに大声をあげる。

⏰:09/08/12 02:01 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#269 [我輩は匿名である]
 
「合い鍵を使って屋上に来たのよ!

ほら、その証拠に――」

先生はポケットから
『屋上用』と書かれた赤いナンバープレートのついた鍵を
取り出してかかげるように僕にみせた。

「どう?

これでもまだアタシが犯人だと言うの?」

「ええ、その通りです」

間髪入れず、僕は肯定した。

⏰:09/08/12 02:03 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#270 [我輩は匿名である]
 
「は、はぁ?
何言ってんのよあんたは。

ちゃんとここに合い鍵が――」

すかさず、僕はズボンのポケットから
ある物を取り出して眼前に示した。


先生はそれを驚愕するように目を見開き、
一瞬で顔を蒼白に染める。


「な、そ、それは、きょうと……なんで――……」

⏰:09/08/12 02:04 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#271 [我輩は匿名である]
 
「教頭先生から借りてきたんスよ。
あの後――先生の机に置き手紙をしてからすぐに……ね。

だから先生が合い鍵を持っているはずがないんスよ」


チャラチャラ、と
『合い鍵・屋上用』と書かれている青いナンバープレートのついた鍵を
先生に見せびらかすように振り鳴らした。

⏰:09/08/12 02:05 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#272 [我輩は匿名である]
 
「さて、先生。

一体どうやってこの合い鍵を使わずに
ここに来ることができたんですかぁ?」


僕はわざとらしく語尾を上げて、
嫌らしくニヤニヤと微笑んだ。


「あ……あああ――」


先生は手に持っていた鍵をだらんと下げ、
みるみるうちに顔面を歪ませ――やがてガクガクと震えだし
観念したかのように膝をついてガクッとうなだれた。

⏰:09/08/12 02:07 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#273 [我輩は匿名である]
 

「……ア、タシ、を――どう……する、つもりなの?」


間をおいて……途切れ途切れに、
先生は僕を見上げながら
声を絞り出すように言った。


「そんなの、警察に突き出すに決まっているじゃないですか」


僕はヘラヘラ笑いながら、
一切の感情を込めずに――突き放すように言い捨てた。

⏰:09/08/12 02:08 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#274 [我輩は匿名である]
 



「いや――――
 嫌――!!!!」

先生は絶叫した。


乱暴に頭をかきむしりながら、
首が折れそうなくらい凄い勢いで横に振って――絶叫した。

⏰:09/08/12 02:09 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#275 [我輩は匿名である]
 
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!
違う違う!ア、アタシは悪くはないわ!

悪くないっ。あ、あの女が――」

先生は目を血走せながら
毒を吐き出すように叫ぶ。


「あの女が――あの女が悪いのよ!
愛しているのはアタシだけだと言ったくせに
隠れて二股なんてするからっ!!」


先生は憎悪に満ちた赤く血走った目で叫び続ける。

⏰:09/08/12 02:10 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#276 [我輩は匿名である]
 
くだらない弁解をまるで負け犬ように吠えながら――叫び続ける。


「アタシにはあの娘しかいなかったのに!

アタシは心から愛していたのに信じていたのに!

アタシは悪くない――悪くないわっ!
裏切ったのはあいつよっ!
悪いのはあの女!あの女よっ!!
殺されて当然なのよあの女は!!」

⏰:09/08/12 12:42 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#277 [我輩は匿名である]
 
ぜぇーぜぇー、と唾液をポタポタと汚らしく垂らしながら息を切らせる先生。

その姿はもう、とても常人とは呼べない、

むしろ壊人と呼ぶにふさわしい有り様だった。


僕はそんな壊人を冷たく見据えながら、



「それで?」

と、どうでもよさそうに呟く。

⏰:09/08/12 12:43 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#278 [我輩は匿名である]
 
「どっちにしても先生が人を殺したのは変わりない。

世間はあなたが同じ性別の恋人を殺した狂人としか捉えない。

しかる所によって罪を裁かれ、
罰を受け、
一生人殺しとして生きていく――それだけですよ」

⏰:09/08/12 12:46 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#279 [我輩は匿名である]
 
人殺しに救いなど存在しない。


そこに待つものは暗闇だけだ。

暗闇だけが支配する、
永遠に光が灯さない絶無の世界だ。

井の中に落とされた蛙のように、
死ぬまで外の世界を見上げながら――絶望していろ。

⏰:09/08/12 13:36 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#280 [我輩は匿名である]
 
「あぁ……あぁあ……――」


先生は言葉にならない声で喘ぐ。


目から大量の涙を流して。
口をぽっかりと開けて。
頭を抱えながら。
俯きながら。

 ――喘いだ。
 「……れば……――?」

⏰:09/08/12 13:37 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#281 [我輩は匿名である]
 
やがて、先生はぼそぼそと
聞き取れない声で何かを呟く。


「何ですか?」

「どうすれば、アタシはどうすれば良いの!?」


先生は膝をつきながら、
まるでクモの糸にすがるように
僕のズボンの裾を掴んだ。


「人殺しとして生きていくなんていや!
 絶対いや!!


……いやなのぉ……」


先生は、涙と鼻水に濡れた汚い顔で僕を見上げた。

⏰:09/08/12 13:38 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#282 [我輩は匿名である]
 

救いを求めるように――見上げた。

 

⏰:09/08/12 13:39 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#283 [我輩は匿名である]
 

「じゃあ……」

僕は言う。

無様な姿を晒す彼女に対して。

それまでのヘラヘラ笑いを止めて。


一切の表情を消して。
一切の心情を消して。
鉄のような冷たさで。
死人のような冷たさで。



――僕は言った。

⏰:09/08/12 13:40 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#284 [我輩は匿名である]
 

「じゃあ――××××××××××××××××××××××?」



「あ…あぁあぁあ……」


先生の目が、一瞬で光を失う。


希望の灯し火が消えたかように、光を失う。

⏰:09/08/12 13:42 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#285 [我輩は匿名である]
 
そんな先生を無感情に見下しながら、僕は言った。


死に損ないに最後のトドメを刺すかのように、


平然と言ってのけた。

⏰:09/08/12 13:45 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#286 [我輩は匿名である]
 

「そうすれば、人殺しとして生きていかなくてすみますよ」












 「ああ……あぁあぁあああぁああ――――!!!!!!」

 

⏰:09/08/12 13:47 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#287 [我輩は匿名である]
 

――耳をつんざくような絶叫が、
夕暮れの赤く染まった空に響く。



先生の顔が、

絶望的なまでに、


醜く歪んだ――。

⏰:09/08/12 13:48 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#288 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ

第一話
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-289◆no.5

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
お願いします▼
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4513/

⏰:09/08/12 13:54 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#289 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ

第一話
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-287◆no.5

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
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⏰:09/08/12 13:58 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#290 [我輩は匿名である]
>>289

『人殺しとして生きていくなんていや! 絶対いや!!
 ……いやなのぅ……』


『じゃあ――そこから飛び降りて死ねばいいんじゃないですか?』


『あ…あぁあぁあ……』


『そうすれば、人殺しとして生きていかなくてすみますよ』



『ああ……あぁあぁあああぁああ――――!!!!!!』

⏰:09/08/12 14:00 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#291 [我輩は匿名である]
>>289


 カチッ。


と、そこで小型テープレコーダーが再生を止め、
巻き戻しを始めた。



「よく録れているわね」


雀夜は手にしているテープレコーダーを見つめながら、
静かに呟いた。

⏰:09/08/12 14:01 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#292 [我輩は匿名である]
>>289

「気に入った?」

「ええ、とても。

でもこれ、本当に私が貰っていいの?」


「うん。もともとそのつもりで買ってきた物だし」


「そう……。

それにしても、いつの間にこんな物を持っていたの?

録音ボタンを押す動作すら無かったから
渡されるまで気がつかなかったわ」

⏰:09/08/12 14:03 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#293 [我輩は匿名である]
>>289

「昼休み中に学校を抜け出して買ってきたんだ。

そんで屋上に着いたと同時に
ズボンのポケットに入れて置いたテープレコーダーに
手を突っ込んで録音ボタンを押したんだよ」


「抜け目無いわね」

⏰:09/08/12 14:05 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#294 [我輩は匿名である]
>>289

沈みかけた夕日の光が差す図書室の片隅、
僕と雀夜はそろっていつもの場所で椅子に座りながら
カセットテープの録音の出来を試聴しつつ、
そんな言葉を交わした。


と言っても僕は一昨日、
雀夜のせいで読み損なった『こころ』を読みながらだったので、
真剣に会話を交わしているわけではないのだが。

⏰:09/08/12 14:07 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#295 [我輩は匿名である]
>>289



「はな……先生……ど……て――」


「――救…車……早………っ!!」


「いや……――っ!! 先……っ…!」


「屋上……落ち……………、


自殺……?」

 

⏰:09/08/12 14:07 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#296 [我輩は匿名である]
>>289
 
先ほどからやたらと校庭が騒がしい。

ま、きっと……というか、
間違い無く“アレ”を発見した誰かが騒いで
それを聞きつけた生徒や先生で
ごった返しているに
違いないのだろうけど。



「それにしても……」


雀夜は外の喧騒などまったく気にも止めず、
巻き戻るテープを観察しながら言う。

⏰:09/08/12 14:09 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#297 [我輩は匿名である]
>>289

「よく合い鍵なんて借りる事ができたわね……。

ていうか、それ返さなくてよかったの?」


「ああ、これ?」


僕は一旦『こころ』を机の上に置いて、
ポケットから青いナンバープレートのついた鍵を取り出した。

⏰:09/08/12 14:10 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#298 [我輩は匿名である]
>>289

「そうだな。

後でこの“ナンバープレート”返さなきゃいけないな」


「は?」

と、珍しく口をポカンと開けて
驚きをあらわにする雀夜。


「返すのはその鍵でしょう?」


「返すのはこのナンバープレートだけだよ。

鍵そのものは僕の家の玄関の鍵なんだから」

⏰:09/08/12 14:12 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#299 [我輩は匿名である]
>>289

「……玄関の鍵?」

「うん。ほら、職員室に入った時、
すぐ横の壁に各教室の鍵が
フックにかけてあっただろ?

その鍵を見た時に自分の家の鍵と
よく似ているなぁと思ってね。

そんで確認ついでに教頭室に行って
合い鍵を見させてもらったんだけど、
案の定よく似ていたしこれは使えそうだなぁと思って」

⏰:09/08/12 14:17 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#300 [我輩は匿名である]
>>289

「それでナンバープレートだけ借りた……と?」


「うん。雀夜の話じゃ合い鍵を借りるには
そうとう骨が折れそうだったしね。

花沢先生の目をごまかせれば
それで良かったし。

それで家の鍵のキーホルダーを
無くしてしまったから
代わりになる物を貸してくれって、
教頭に頼んでみたら、いともあっさり簡単に
借してくれたってわけ」

⏰:09/08/12 14:27 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#301 [我輩は匿名である]
>>289

「じゃあ、わざわざ元々の合い鍵を外して
付けかえさせてもらったの?」


ナンバープレートを指差しながら雀夜は尋ねる。

「予備があったんだよ。
無くした時のためのね。

そんで好きなのを選んでくれ、って言われたから、
迷わずこの『合い鍵、屋上用』と
書かれたナンバープレートを選んだんだよ」

⏰:09/08/12 14:28 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#302 [我輩は匿名である]
>>289
 
と言って、僕は手に持っているナンバープレートを
人差し指ではじいた。

プラスチック独特の感触が
パンッという音と共に耳に伝わる。

⏰:09/08/12 14:30 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#303 [我輩は匿名である]
>>289

「そしてそれをあの時――先生が合い鍵を使って屋上に上がったと主張した時、
あたかも屋上の合い鍵と見せびらかして
花沢先生を騙くらかした、と……。


――とんだ詐欺師ね」

⏰:09/08/12 14:31 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#304 [我輩は匿名である]
>>289

心底呆れたようにそう言い捨てる雀夜。

そんな雀夜に僕は、

「お褒めに預かり光栄です。女王様」

と、冗談めかして
微笑みかけてみた。

⏰:09/08/12 14:32 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#305 [我輩は匿名である]
>>289

「それにしても……あの時
先生が動転してくれていた事もあって
屋上の鍵を開けてくれけど……

もし開けずにドアの前で
待っていたらどうしてたの?

紛失しているはずの屋上の鍵を
先生に使わせるのが
哀澤君の狙いだったんでしょう?」

⏰:09/08/12 14:36 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#306 [我輩は匿名である]
>>289

あ。せっかくボケてみたのに、
なんかスルーされちゃった。

まあいいや。
僕も気にせず、質問に答える。

「あくまで犯人である先生を
追いつめるためのひとつの手段に過ぎないよ。」

⏰:09/08/12 14:37 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#307 [我輩は匿名である]
>>289

「仮に先生がドアの鍵を開けずに
ドアの前で待っていたとしても、
他の方法で追いつめていたさ」



――というのは、ぶっちゃけウソ。

ホント言うと、そん時はそん時で
なんとかなるさ、と軽い考えでいた。

我ながら行き当たりばったりもいいところである。

⏰:09/08/12 14:52 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#308 [我輩は匿名である]
>>289

「じゃあ……

まったくの運任せだった、っていう訳ではなかったの……?」

「勿論だよ。

そんな馬鹿なことするワケないでしょ?」


実際は馬鹿なことをしたワケではあるのだが。

⏰:09/08/12 14:54 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#309 [我輩は匿名である]
>>289

始終、胡散臭さげな目で雀夜は僕を見ていたが
やがてハァー、と
わざとらしくため息をついた。

「まあいいわ。

素敵なプレゼントも
貰えたことだし」

雀夜は無表情ながらも、
愛おしいように
小型テープレコーダーを撫でた。

⏰:09/08/12 15:12 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#310 [我輩は匿名である]
>>289

「喜んでもらえて嬉しいよ」

これで貸し借りは無しだ。

にっこり微笑みながら、
そんなことを心の中で呟いた。


さーて。
話の区切りもついたとこだし、
『こころ』の続きでも読むとするか。

えーと、どの辺だったっけ。

⏰:09/08/12 15:13 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#311 [我輩は匿名である]
>>289

「――ねぇ、哀澤君」


ふと、雀夜がじっとこっちを見ながら
かき消えるような静かな声で呟いた。

僕はページをめくる手に
集中しながら、「何?」と
雀夜の方を見ずに訊き返した。



「哀澤君は――最初から先生を
死なせるつもりだったんじゃないの――?」
 

⏰:09/08/12 15:15 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#312 [我輩は匿名である]
>>289



 カチッ。



――と、そこでテープの巻き戻しが終わる音が聞こえた。


無機質な音が無意味に
僕の鼓膜を揺らがせる。

⏰:09/08/12 15:16 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#313 [我輩は匿名である]
>>289

「そうでなければ、テープレコーダーなんて
用意するハズがないもの。

始めから先生の死ぬ間際の叫び声を録音するために、
あんな事をしたんでしょう?


私に、いつでも好きな時に聞けるように……」



「…………」


 

⏰:09/08/12 15:17 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#314 [我輩は匿名である]
>>289

何も答えず、
目をそらすように
雀夜の背後の景色を見た。

見ると窓の外の夕日が、
もう半分近く山に隠れていた。
そろそろ帰り時かな。


「ねぇ……どうなの?」

雀夜は詰め寄るように
疑問をぶつけてくる。

⏰:09/08/12 15:19 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#315 [我輩は匿名である]
>>289

僕はページをペラペラと無意味にめくりながら、
無言で返答をごまかす。

やがて、結局は最後のページまでめくって
一旦本を閉じて机の上に置いた。


「さあ? 一体何の事かな?
何が何やらさっぱりだ」

僕は、おどけた風に
手のひらを上げてとぼけみせた。

⏰:09/08/12 15:21 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#316 [我輩は匿名である]
>>289

「――本当にそうかしら?」


「………………」


雀夜は僕の目を覗き込むように見た。

対する僕は空気中の埃だけを
見ているかのように、雀夜の方を見ない。


雀夜の詰め寄るような視線から
逃げるように、僕は見ない。


しばらくお互い何も言わず、
沈黙が続く……。

⏰:09/08/12 15:27 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#317 [我輩は匿名である]
>>289

やがて、しばらくしてから

「まあ、いいわ」

と、ため息混じりに雀夜は呟いた。



「……でも、最後にひとつだけ
答えてくれないかしら?」


「何だい?」

僕はいつもより五割増の
爽やか笑顔で応対した。




「本当は、いつから先生が犯人だと気づいていたの?」
 

⏰:09/08/12 15:29 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#318 [我輩は匿名である]
>>289
 

ぴたっと、そのまま笑顔が硬直する。


「…………」


いつから気づいていたのか……。


つまり――

先生の話を聞いて
犯人だと気づいた……という
あの時の僕の言葉を、
嘘だと見抜いてしまっているわけか……。

⏰:09/08/12 15:30 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#319 [我輩は匿名である]
>>289


「先生を見た時――」


やがて、僕は呟いた。

白状するように――呟いた。



「先生を最初見た時から――犯人だと思ってた」
 

⏰:09/08/12 15:32 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#320 [我輩は匿名である]
>>289


そう――

あの時、

『先生を一目見た時から犯人だと思っていた』

というあの言葉は、
まんざら冗談というわけではなかった。


先生の姿を見た時、
僕は一瞬で気づいた。


ああ――この人は、人を殺したことがあるな……と。

⏰:09/08/12 15:33 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#321 [我輩は匿名である]
>>289

人を殺した者でしか出せない――汚く淀んだ雰囲気を、
あの先生は醸し出していた。


それは、普通の人では
感知できないものだろう。


普通の人には。



僕のような、普通ではない人間でなければ……。
 

⏰:09/08/12 15:35 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#322 [我輩は匿名である]
>>289
 

「……そう」

しばらく間を空けたあと、
特にこれといって感慨も無さそうに、雀夜は言った。


続いて、ガタッと椅子を引いて
雀夜は手掲カバンを持って立ち上がる。


そんな雀夜を見て、

「どこ行くの?」

と思わず訊いた。

⏰:09/08/12 15:40 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#323 [我輩は匿名である]
>>289
 
「帰るのよ。

早く帰ってじっくりこれを聞きたいし」

と言って、雀夜はテープレコーダーを
宝物でも扱うように優しく撫でた。


「そっか。

じゃあ、帰り道気をつけてね。
 ――良い夢を」


「ええ。ホント……今日は良い夢が見れそう……」

⏰:09/08/12 16:11 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#324 [我輩は匿名である]
>>289

雀夜は無表情ながらも、
嬉しそうに目を細めながら
テープレコーダーを見つめて
吐息まじりに呟いた。


しばらくそんな雀夜の顔をじっと見ていると、
視線に気づいた雀夜は

「……何?」

と怪訝そうに訊いてきた。


「いや――何でもないよ」
 

⏰:09/08/12 16:32 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#325 [我輩は匿名である]
>>289

「そう……じゃあ、私はこれで」


テープレコーダーを握りしめたまま、
雀夜はこちらに手も振らなければ一瞥もせず
颯爽と図書室から出て行った。

⏰:09/08/12 16:33 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#326 [我輩は匿名である]
>>289

雀夜を見送ってから、
僕は始終続けていたヘラヘラ笑いを止めて嘆息した。


……なんで雀夜は
ああも僕の考えを
見通すことができるのだろう。


不思議でならない。

一度、雀夜の頭の中を覗いてみたいものだ。

⏰:09/08/12 16:34 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#327 [我輩は匿名である]
>>289



………………。



椅子にもたれながら
僕は顔を天井に向け、
目を軽く瞑って
“あの時”の雀夜の笑顔を
思い浮かべた。

⏰:09/08/12 16:35 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#328 [我輩は匿名である]
>>289


“あの時”――

先生が自分から屋上を飛び降りて、
校庭に落下するのを見届けた時――。



あの時、雀夜は先生が落ちて行く様を
静かに微笑みながら眺めていた。

⏰:09/08/12 16:36 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#329 [我輩は匿名である]
>>289

見とれるように。
見惚れるように。

まるで、最高に素晴らしい景色を
見ているかのように。

まるで、今まで見たことのない情景に
胸を弾ましているかのように。


愛くるしく。
狂おしく。


笑顔で――眺めていた。

⏰:09/08/12 16:38 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#330 [我輩は匿名である]
>>289

僕は……。


僕は……

そんな彼女の笑顔の方に見とれていた。



それは――初めて雀夜の笑顔を見たからでは、ない。


人間が。

人間が……これほどまでに美しく、
魅力的な笑顔を浮かべることができるなんて
思ってもいなかったからだ。
 

⏰:09/08/12 16:39 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#331 [我輩は匿名である]
>>289

きっと――僕は忘れない。
忘れることなんて、できない。

なぜなら――


なぜなら――この僕が、
心を奪われるくらいに。

奪われても良いと、
心の底から思えるくらいに。


果てしなく、陶酔してしまうような、
限りなく美しい情景を

――この目で見てしまったから……。

⏰:09/08/12 16:44 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#332 [我輩は匿名である]
>>289


………………。


僕は目をうっすら開けて、天井を見上げた。


最初は軽い気持ちだった。
彼女が望む、最高の絶望とやらを
見させてやったら
どんな反応をするのだろう、と……。

⏰:09/08/12 16:45 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#333 [我輩は匿名である]
>>289

そんな程度の理由で
僕は先生を死に追いやった。

そんなくだらない、
どうでもいいような理由で
先生を死に追いやった。


やっぱり僕は雀夜の言う通り、
最悪でどうしようもない――どうすることもできないくらい、
人間失格なのだろう。


弁解する余地も、無いくらいに。

自身を――人間失格と
認めざるをえないくらいに。

⏰:09/08/12 16:47 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#334 [我輩は匿名である]
>>289


それでも、


それでも、まだ、僕は――






「もう一度、見たいなあ……」



 

⏰:09/08/12 16:47 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#335 [我輩は匿名である]
>>289

天井の照明を眺めながらぼそりと呟く。


気がつくと、いつの間にやら
夕日が沈んで暗くなっていた。

年季の入った古くさい照明が、
図書室をぼんやりと明るく照らす。


校庭の方は相変わらず
パトカーか何かのサイレンの音と
やじうま達の声で騒がしいけど、
最初の頃に比べてみれば
いくらか落ち着きを取り戻していた。

⏰:09/08/12 16:49 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#336 [我輩は匿名である]
>>289



「帰ろっかな……」


暗くなった外を眺めながら、
そう思った。


僕は『こころ』を手に取り、
元の本棚に戻そうと席を立った。
 

⏰:09/08/12 16:49 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#337 [我輩は匿名である]
>>289


窓越しから見える満月が、

“あの時”

の雀夜の目のように、
不気味に輝いていた。









BAD END.

⏰:09/08/12 16:51 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#338 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ

第一話(完結)
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-287◆no.5
>>290-337◆no.6

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⏰:09/08/12 16:53 📱:W63CA 🆔:T.ve2BV.


#339 [我輩は匿名である]
>>338

第2章
悦楽の解剖×解剖の閲覧

⏰:09/08/14 07:46 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#340 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ

第一話(完結)
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-287◆no.5
>>290-337◆no.6

第二話
悦楽の解剖×解剖の閲覧
>>340-400◆no.1

オーダーしてあります
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⏰:09/08/14 07:49 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#341 [我輩は匿名である]
>>340

佐々木大輔(ササキ ダイスケ)は幼少の頃から、
小さな生物を殺戮するのが好きだった。


――否。

殺戮し、解剖するのに
無上の喜びを感じる変わった少年であった。


外側に興味など無かった。


興味があるのは中身の方だけだった。

⏰:09/08/14 07:52 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#342 [我輩は匿名である]
>>340

この心臓はどうやって
動いているのだろう?


これは何ていう臓器
なのだろう?


これは一体どういった理由で
機能しているのだろう?



そんな事を考えながら、
色んな生物を殺戮し、解剖してきた。

⏰:09/08/14 07:54 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#343 [我輩は匿名である]
>>340

時には蝉を。
時にはトカゲを。
時には――既に息絶えている雀なども解剖してきた。


そんな大輔を見て、
当然周りの大人達は
気味悪がった。


勿論大輔の両親も何度かやめるように説得し、
時には一日中説教をすることもあった。

⏰:09/08/14 07:57 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#344 [我輩は匿名である]
>>340

度重なる両親のうるさい説教に
しぶしぶ大輔は了承したが、
ならば大人達にバレないように
隠れてやれば良いと考え、
大人達の目に隠れて
生物達の解剖を続けるようになった。

その代償として、
人目を気にして行動しなければならなかったので、
前に比べ大分解剖する回数が
減ってしまったのが
気に病むところだったが。

⏰:09/08/14 07:58 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#345 [我輩は匿名である]
>>340

そんな大輔が誰の目も気にせず、
また誰にも邪魔されずに
人前で解剖ができる時間があった。



それは……小学校の授業でおこなう、

カエルの解剖だった。


大輔にとって、それは
至福ともいえる時間だった。

⏰:09/08/14 08:00 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#346 [我輩は匿名である]
>>340

邦洋は嬉々の表情を一切隠さず、解剖を楽しんだ。

麻酔針を刺し込むのも、
あの白い腹にメスを入れるのも、
どれも刺激的で最高だった。


しかし、やはりそんな異常な行動をとる邦洋を
周りのクラスメートが受け入れられるハズがなかった。

⏰:09/08/14 09:30 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#347 [我輩は匿名である]
>>346
×邦洋
〇大輔

⏰:09/08/14 09:30 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#348 [我輩は匿名である]
>>340
 
当然のように周りの子供達は
大輔を奇異な目で見つめ
影口を囁き、遠ざけ、
圧倒的なまでに無視を決め込んだ。


大輔も、何も人間の感情が
無いワケではない。

自分と同い年の少年少女達に
蔑んだ目で見られるのは
途方もなくつらかった。

⏰:09/08/14 09:33 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#349 [我輩は匿名である]
>>340

大輔もまた、この年の少年らしく
夜まで泥んこになるまで遊んだり、
くだらない事で笑いあえるような友達を
当たり前のように欲していた。

だが、そのささやかな願いが
この小学校の中で叶う事は
とうとう無かった。


結局、大輔は中学を進学したのを期に
自分の趣味を封印し、
他人に嫌われないように
愛想を振り撒いて
生きていく事に決めた。

⏰:09/08/14 09:36 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#350 [我輩は匿名である]
>>340

その甲斐あってか、大輔は念願だった友人ができ
周りの同級生達にも優しく、
笑顔が素敵な少年という目で
見られるようなり、
大輔が待ち望んでいた日常を
手に入れる事ができた。


それは、大輔が願ってもいない、
どこにでもありふれた普通の日常だった。

⏰:09/08/14 09:53 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#351 [我輩は匿名である]
>>340

こうして大輔は友人知人に恵まれながら、
高校、大学へと無難に進み
こうして教職にも就くができた。



しかし……それは大輔が望んだ職ではなかった。
 

⏰:09/08/14 09:54 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#352 [我輩は匿名である]
>>340

大輔は医者になりたかったのだ。


勿論、生者を助ける方ではない。



死んだ人間の体を合法的に解剖できる職業



――解剖医に。
 

⏰:09/08/14 09:55 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#353 [我輩は匿名である]
>>340

大輔の解剖に対する愛情は
年月と共に冷めていく事はなかった。


むしろ――月日が経つにつれて
解剖がしたいという欲求が
だんだんと埃が溜まっていくように募っていった。


だから大輔はその欲求を
発散させることができる解剖医を目指した。

これならば、多少は周りに
奇異な目で見られるかもしれないが、
立派な職業として扱ってもらえる。

⏰:09/08/14 18:37 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#354 [我輩は匿名である]
>>340

だが、大輔の両親は賛成しなかった。

それどころか、
怒涛のように猛反対した。


元来、大輔の両親は
自分達と同じ教職員になることを、
それこそ、その夢を叶えるために
大輔を育ててきたといっても
過言ではなかった。

大輔自身も幼少の頃から
聞かされてはいたが、
どうしても解剖医になりたいという必死な思いを
両親に伝えたのだが、
首を縦に振ることはなかった。

⏰:09/08/14 18:39 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#355 [我輩は匿名である]
>>340

そして、結局大輔の方が
先に折れてしまった。

元々、親には頭が上がらない性分だったうえに、
周りに良い顔をして
無難に生きてきた大輔にとって、
相手を折れさせる術を
持ち合わせていなかったのだ。

⏰:09/08/14 18:40 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#356 [我輩は匿名である]
>>340

こうして周りに
身を流し続けて早三十二年。


教職員に就いてから
もう十年あまりの年月が過ぎていた。
 

⏰:09/08/14 18:43 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#357 [我輩は匿名である]
>>340

大輔はもう限界だった。


解剖がしたくてしたくて
たまらなかった。

だから実家を出て行く事に決めた。


一人暮らしを始めて
生物の解剖を
また始めようと思ったのだ。

⏰:09/08/14 18:44 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#358 [我輩は匿名である]
>>340

両親に一人暮らしを始めたいという意思を伝えたら、
すぐに嬉しそうに笑みを浮かべながら
首を縦に振ってくれた。


実をいうと、
いつ言い出してくれるか
心待ちにしていたようだった。

おそらく大輔が自立した男になることを
望んでいたのだろう。

⏰:09/08/14 18:46 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#359 [我輩は匿名である]
>>340

こうして大輔は両親の賛成もあって
一人暮らしを始めた。


元々あまり金を使わない主義だったし、
貯金も溜まっていたので
すぐに引っ越すことができた。

⏰:09/08/14 18:50 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#360 [我輩は匿名である]
>>340

そして――大輔はまた、
生物の解剖を始めるようになった。

幼少の頃のように
虫類や爬虫類を捕まえては
解剖していった。


しかし、もはやそんなものでは
大輔の欲求を止める事は
できなくなっていた。

⏰:09/08/14 18:56 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#361 [我輩は匿名である]
>>340

だから一時期、
その辺にいる捨て猫や捨て犬……
果ては外で飼われているペットにも
手を出してしまった。



しかしこれも大輔を満足させることはできなかった。

⏰:09/08/14 18:58 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#362 [我輩は匿名である]
>>340

“人間”を解剖しなければ、
この溢れ返る欲求を
止めることはできない、と……。



そして、大輔はついに決行してしまった。





同じ生物である“人間”の解剖を――。

 

⏰:09/08/14 19:05 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#363 [我輩は匿名である]
>>340

――――――――――
――――――




「す、好きですぅ!

良かったら、わ、わたしと
付き合ってください!!!!」


 

⏰:09/08/14 19:09 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#364 [我輩は匿名である]
>>340

放課後の、夕暮れが差し込む図書室の中……今僕は
目の前にいる同い年くらいの女の子に
いきなり告白されてしまった。




ていうか、されてます。

現在進行形。


「ずっと……この高校に入学して、
同じ選択教科のクラスになってから、す、好きでした……」

⏰:09/08/14 19:12 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#365 [我輩は匿名である]
>>340

顔を真っ赤に赤らめ、
僕をチラチラと見ながら告白する彼女。






わー、うざー……。


「それでね、えーと……
哀澤君、今好きな人がいないなら
わたしと――その……」
 

⏰:09/08/14 19:16 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#366 [我輩は匿名である]
>>340

両の人差し指をツンツンさせながら、
彼女は言い淀んだ。


うむ。


いかにも恥ずかしがってます、
って感じだね。


いや〜こんな表現、
漫画の中だけだと思っていたよ。
まさかこうして現実に
お目にかかれる日が来ようとはね。

⏰:09/08/14 19:48 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#367 [我輩は匿名である]
>>340

こいつは貴重な体験だぁ。




……って、そうじゃなくて!



どうすんだよこの状況。

どうすれば良いんだよこの状況!!
 

⏰:09/08/14 19:57 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#368 [我輩は匿名である]
>>340

「あー……。
えと……何て言ったら良いか……」


頭をかきながら返答に窮していると、

「あ! そ、そうだよねっ。
急だし、困るよね。うん。

今すぐでなくても良いから、
また近いうちに返事を
聞かせてもらっていいかなっ?」


と、言われた。

⏰:09/08/14 19:58 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#369 [我輩は匿名である]
>>340

……いや、何ていうか、
それ以前に……。




……あなた、誰ですか?



「あのー、つかぬ事をお訊きしますが……」

「そ、それじゃあねっ。哀澤君!」
 

⏰:09/08/14 20:00 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#370 [我輩は匿名である]
>>340

僕の言葉を遮って、(寧ろ聞いてない?)彼女は後ろ姿を見せて
颯爽と図書室から出て行ってしまった。



彼女の後ろ姿を呆然と見届ける僕。
 

⏰:09/08/14 20:05 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#371 [我輩は匿名である]
>>340

静止する時間。
沈黙する図書室。

聞こえてくるのは、
上の階から流れる吹奏楽部の演奏だけ。



…………。



なんとなく、気になって
周りをキョロキョロ見渡す。

⏰:09/08/14 20:09 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#372 [我輩は匿名である]
>>340

本棚があちらこちらに並び、
中央には座って読書をするための机と椅子が並んでいる。


ドアの近くには
『今週のオススメ』と
書かれた掲示板の下に本が
机の上に並べられている。


そして……人気が無いのか、
僕以外誰かがいる気配は
感じられない放課後の図書室。 

⏰:09/08/14 20:59 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#373 [我輩は匿名である]
>>340

なんて、無意味に周りの状況を
小説風に説明してみたのは良いが、
今考えるべきはそこじゃないだろ。

と、自分に憤慨した。


とりあえず、状況を整理してみるか。

⏰:09/08/14 21:01 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#374 [我輩は匿名である]
>>340

えーと、確か今日の朝、
学校に行ってみたら
自分のげた箱にピンクな手紙が入っていて、
今どき時代遅れな連絡手段だなぁと思いながら
中を開けてみたら、

『放課後、図書室に来てください。大事な話があります』


なんていかにもなお呼び出しが書かれていて……
こ、これはまさか――果たし状か!?

僕に決闘を申込むつもりなのか!

⏰:09/08/14 21:03 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#375 [我輩は匿名である]
>>340

と粟立つ思いを心に秘めながらも
放課後の図書室に行ってみると、
見かけない女の子が立っていて
もしや君みたいな子猫ちゃんが僕に果たし状を?


ふっ、愚かな……と、
鼻で笑いつつも彼女に話しかけてみたら、
いきなりお付き合いを前提に
告白されて……。

⏰:09/08/14 21:05 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#376 [我輩は匿名である]
>>340

そんな――僕には心に決めた人が……


なんて心を傷めながらも
彼女の話に真摯な態度で耳を傾け、
そして、なんだかんだで――


現在にいたる、と。
 

⏰:09/08/14 21:07 📱:W63CA 🆔:jerY7sM.


#377 [我輩は匿名である]
>>340

ふむ。こんなところかね。

訂正を入れておくとするならば、
僕の心情を描写している部分は
全部まかりなく嘘っぱちである
というところぐらいか。

⏰:09/08/15 15:04 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#378 [我輩は匿名である]
>>340

はぁー、と思わずため息がもれる。


なんで僕なんかに告白なんてするかねぇ。
まったく、こういうのは苦手なのに……。


「さて、どうしたもんかね…」







「当然、イエスかノーでちゃんと返事をしてあげるのが
告白された側の義務じゃなくて?」
 

⏰:09/08/15 15:06 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#379 [我輩は匿名である]
>>340

え!? と、驚きながら
声がした方向……背後を振り向く。


腰まで伸びた綺麗な黒髪。
中学生くらいにしか
見えない低い身長と童顔。

顔には7月上旬の暑い気候もあってか、
雪のように白い肌に若干汗が滲んでいる。


そして、

昼間の猫のような鋭い目――。

 

⏰:09/08/15 17:05 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#380 [我輩は匿名である]
>>340



「……いたんだ、雀夜……」


「ええ」


と。

雀夜シキはいつもの無表情で平然と答えた。



……ていうか。


「いつからいたの?……」
 

⏰:09/08/15 17:07 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#381 [我輩は匿名である]
>>340

「哀澤君がよそよそしく図書室に入って来た辺りから」


「つまり、最初から全部見ていたわけですか……」


うわぁ。
一部始終ですらないのか。


「あれ?じゃあ、今までどこにいたの?

最初ここに来た時は姿形も
見えなかったけど……」
 

⏰:09/08/15 17:14 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#382 [我輩は匿名である]
>>340

「哀澤君が来た時、
ちょうど本を返しに本棚の方に行っていたから……
その時哀澤君の方からじゃ
隠れて見えなかったのよ」


あ、なるほど。

と、ポンと手を叩く僕。


「いや〜、それならそうと
声をかけてくれれば良かったのに。

恥ずかしいトコ見られちゃったよ」
 

⏰:09/08/15 21:25 📱:W63CA 🆔:oktR3v.c


#383 [我輩は匿名である]
>>340

「どことなく言い出しにくい
雰囲気が漂っていたから。

それに珍しく哀澤君が苦笑を浮かべながら
彼女の話を聞いていたから
面白くて気配を殺して覗き込んでいたの」


「覗き込んでたんだ……」


君はサスペンスドラマに出てくる覗き見趣味の家政婦か。
 

⏰:09/08/16 01:06 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#384 [我輩は匿名である]
>>340

「それにしてもよく彼女、
雀夜がいるのに告白なんてできたな。

他人がいることを知っていて
告白するなんて、凄い度胸だよな」
 

⏰:09/08/16 01:09 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#385 [我輩は匿名である]
>>340

「どうかしら。

始めここに来た時から本番前の女優みたいに
セリフの練習を一心不乱にしていたから、
私の存在なんて
気がついていなかったんじゃないかしら」


「ああ、なるほど」



「……にしても」

と言いながら、雀夜は
近くの椅子を引いて座った。

⏰:09/08/16 01:10 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#386 [我輩は匿名である]
>>340

「にしても、何?」


「モテるのね。哀澤君」

いつもの無表情だが、
目だけは妙に楽しそうに
細めながら言った。


「いやいや、そんな事無いって」


僕も雀夜の前の席に座って言った。

⏰:09/08/16 01:17 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#387 [我輩は匿名である]
>>340

「過大評価だよ。過大評価。

きっと何か勘違いをしているんだよ。
恋に恋する乙女みたいな感じでさ」


「どうかしらね」


彼女は頬杖をつきながら
僕の目を覗き込むように見る。


どうやら、からかってくれているらしい。

⏰:09/08/16 01:18 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#388 [我輩は匿名である]
>>340

「いやホント。
今考えてみたら、人違いだったのかも」


「それはないんじゃない?

だって、はっきり哀澤君の名前を
呼んでいたんだから」


あ。そうか。
 

⏰:09/08/16 01:20 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#389 [我輩は匿名である]
>>340

「ホント……、

哀澤君って自覚無いのね」


はぁー、と呆れたようにため息をつく雀夜。

「何、自覚って?」
 

⏰:09/08/16 17:01 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#390 [我輩は匿名である]
>>340

「哀澤君は見た目はまあまあだし、
性格も……まあ、
あくまでも作られたキャラだけど明るいし。

女の子がいつの間にか好きになってしまう典型的なタイプなのよ」


て言っても、
私には全然理解できないけれどね、
と雀夜は付け加えた。

⏰:09/08/16 21:08 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#391 [我輩は匿名である]
>>340

「ふーん。そんなもんかねぇ……」


「そういうものよ」

と言って、雀夜はポケットから
ハンカチを取り出して汗を拭き取る。

その様子を眺めていた僕も
つられるように半袖のカッターシャツの袖で汗を拭いつつ、

「暑いね、今日も……」

と、呟いた。

⏰:09/08/16 21:10 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#392 [我輩は匿名である]
>>340

そうね、とハンカチをポケットに閉まってから同意する雀夜。

見ると、この暑さのせいか
汗で半袖のブラウスが透けて
白い肌が見えていた。

図書室の窓は全部開いているけど
風があまり流れこんでこないのが、
このうだるような暑さの原因になっているのは間違いなかった。

⏰:09/08/16 21:13 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#393 [我輩は匿名である]
>>340

一応クーラーはあるけど授業で使う以外は
稼働させる事は禁止されている。

なんでも、地球温暖化を
考慮をした上でのものらしい。
そんなもんより僕達の体の方を考慮しろよと
学校側に憤慨したくなる。


ていうか、夕暮れ時なのに
昼間と変わらないこの暑さの方に
憤慨するべきところなのかもしれないが。

⏰:09/08/16 21:15 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#394 [我輩は匿名である]
>>340

「ところで……哀澤君、あの女の子は誰なの?

クラスメート?」


卒倒しそうな暑さに頭をぼんやりさせながらも、
何とか雀夜の不意に言われた質問をなんとか聞きとって、

「ん? ああ、さっきの子?」

と訊き返した。

⏰:09/08/16 22:21 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#395 [我輩は匿名である]
>>340

「ええ、勿論知っている子なんでしょう?」


「さあ? 言い方からして
僕と同じ同級生なんだろうな、
くらいしか分からないな」


「………………」


呆れたような目で僕を見る雀夜。
気のせいか、視線が冷たい。
 

⏰:09/08/16 22:25 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#396 [我輩は匿名である]
>>340

「哀れね、彼女も。

よりによってこんな人を
好きになってしまうなんて……」


あ。今なんか何気に侮辱された?

「いや、そんな事言われても
まだ入学してから三ヶ月くらいしか経ってないし、
同じクラスでもない人を
覚えてるわけないだろ?」

⏰:09/08/16 22:28 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#397 [我輩は匿名である]
>>340

「彼女、哀澤君と同じ選択教科のクラスになってから
ずっと好きだったって言っていたじゃない。

顔ぐらいは知っているものだと
彼女も思っていたハズよ」


あ。そういえばそんな事も言ってたっけ……。


僕達の学年……つまり一年生には
選択教科と呼ばれる科目が存在する。

それは習字、美術、音楽の中から
いずれかのものを一つ選び、
隣のクラスの生徒達と混同で
それぞれの教室に行き、
選択した教科を学ぶというシステムとなっている。

⏰:09/08/16 23:12 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#398 [我輩は匿名である]
>>340

ちなみに僕は音楽を選んでいるので、
自然とあの告白してきた女の子も
同じ音楽だった……という事になる。


えーと、つまり……
僕と彼女は顔見知りなわけで、
ひょっとしたら話もした事が
あるような仲……かもしれないということか?


あれ? おかしいな。


全然記憶に無いぞ、おい。

⏰:09/08/16 23:29 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#399 [我輩は匿名である]
>>340

「その顔は全然覚えていない
――って言った風な感じね」


「え? あは、あはははははは!!」


ズバリ図星をついてきた雀夜に
笑って場をごまかす僕。


しばらく沈黙が時間を支配する……。


「ホント……哀澤君らしいというか何というか……」

雀夜は心底呆れたような声で
先に沈黙を破った。

⏰:09/08/16 23:31 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#400 [我輩は匿名である]
>>340

「その分だと、クラスメートの名前も
半分以上はまだ覚えていないんじゃない?」


「ははは、やだなぁ。
いくらなんでもそんな事――」

あるけど。

「無いに決まってるじゃないか!」


「どうかしらね」

とため息混じりに呟く雀夜に、
「じゃあそっちはどうなんだ?」
と訊こうとして、やめた。

⏰:09/08/16 23:32 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#401 [我輩は匿名である]
>>340

雀夜のことだ。
んなもん覚えてないに決まってる。

半分どころか、ほとんど全員の名前すら
知らないんじゃないだろうか?


「それにしても……」

僕は腕を組みながらなんとなしに呟く。


「どうして記憶に無かったんだろうな。

どことなく彼女、雀夜に似ているのに……」
 

⏰:09/08/16 23:34 📱:W63CA 🆔:eR9g9ODg


#402 [我輩は匿名である]
>>340

「は?」

と、眉間にシワをよせて僕を睨み付ける雀夜。


……?

何でそんな目で僕を見るんだ?


「どうかしたの?」

僕は雀夜にそう問い掛けると、



「あの女が私に似ている……?
どこがよ? どんな風に?」

と、睨みをきかせた目で僕を見る雀夜さん。
どことなく、殺気が感じられるのは気のせいだろうか……?

⏰:09/08/17 00:02 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#403 [我輩は匿名である]
>>340

「えーと、例えば雀夜と同じ、
腰まで綺麗な黒髪があるところとか
身長が小さいところとか……」


「ふーん……。

じゃあ哀澤君はあの馬鹿みたいに短いミニスカートで
阿呆らしいくらいにケバケバしくマスカラを塗って
気持ち悪いくらいに変なネイルアートをしているあの女と
この私が酷似している……と、
そう言いわけね?」



「………………」

 

⏰:09/08/17 00:04 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#404 [我輩は匿名である]
>>340


いや、そこまで言ってないし。

それに『どことなく』としか言ってないし。

なんでか『酷似』にランクアップしてるし!


「あの……雀夜さん?
何をそんなに怒っておられるのデショウカ?」


後半、何故かカタコトになる僕。
少しだけ、宇宙人風味。

⏰:09/08/17 00:06 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#405 [我輩は匿名である]
>>340

「別に怒ってなんかないわ。
それで?あの女と私の一体どこらへんが
似ていると言うのかしら?」


……いや、怒ってるじゃん。

こっち睨んでるじゃん。
凍てつくような視線に殺意がこもってますよ?

⏰:09/08/17 00:08 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#406 [我輩は匿名である]
>>340

うーむ。

いつも何事にも動じなそうな
無表情な顔をお怒りモードにさせるほど、
あの女の子と似ていると言われたことが
そんなに嫌だったのだろうか……?


とにかく、このままではまずい。

話を変えないと……。


「それはそうと、今朝のニュース見た?

いや〜、マジでびっくりしたよねっ!」
 

⏰:09/08/17 00:09 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#407 [我輩は匿名である]
>>340

強引に話を変えた僕に、
雀夜は「……?」と
首を傾げたが、

「ええ、そうね。
確かにびっくりしたわ」

と話にのってくれた(助かった)。



「まさか、この近くであんな殺人事件が起きたなんて……」
 

⏰:09/08/17 00:18 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#408 [我輩は匿名である]
>>340

「へ? 殺人事件?」


「……? 

この近くで最近起きた殺人事件のことを
言っているんじゃないの?」


やべ。

実は今朝のニュースどころか、
新聞すら見てないんだよな。
話をそらすのに適当言っただけだし。

でも、何とか話を合わせないと。

またあのお怒りモードになってしまう!!

⏰:09/08/17 00:19 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#409 [我輩は匿名である]
>>340

「いや、それだよそれ!
ホントびっくりしたよねー」


「ええ。被害者の腹をナイフのような物で開腹させて、
尚且つ中の臓器を袋に入れた状態で
公園に放置されていたと聞いたけど、
未だに犯人は捕まっていないみたいね。

きっと犯人は解剖マニアか
なにか何でなんでしょうね」
 

⏰:09/08/17 00:26 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#410 [我輩は匿名である]
>>340

血なまぐさい話を瞳を輝かせながら
熱っぽく語る雀夜を見て、
何とか危険な事態を脱したようだと胸をなでおろした。

ふうー、手に汗かいちゃったよ
まったく。


それにしても、この近くでそんな殺人事件があったんだ。

⏰:09/08/17 00:30 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#411 [我輩は匿名である]
>>340

物騒だねぇ……何かあった時は
雀夜を盾にしてさっさと逃げなくちゃ。


などと、そんなさりげなくも
とんでもないことを考えていると、



ガチャッ。


と、不意に図書室のドアが開いて
教師らしきスーツを着た男性が入ってきた。

⏰:09/08/17 00:30 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#412 [我輩は匿名である]
>>340

「あれ? 誰かいたんだ?」

と言いつつ、いかにも人の良さそうな
眼鏡をかけた三十代前半くらいの男性が、
僕達の姿を視界に入れながら近づいてきた。


「よくこんな暑い所にいられるね君達。

さっさと家に帰ってクーラーの付いた部屋に
帰りたいなんて思わないのかい?」

⏰:09/08/17 00:31 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#413 [我輩は匿名である]
>>340

ニコニコ人懐っこい笑顔で問い掛ける男性に、

「私の家では基本的にクーラーは
付けないようになっているので、
どこにいても変わらないんです」

と、雀夜が冷たい眼差しを向けて言い放った。


「え、そうなのかい?
はは、悪いこと訊いちゃった――……」

ね、と言おうとしたのだろうか
教師と思わしき男性は雀夜の顔を見た途端、
急ブレーキをかけた車のように
口を開けたまま静止してしまった。

⏰:09/08/17 00:33 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#414 [我輩は匿名である]
>>430

「……? どうかしたんスか?」

僕の質問に先生(らしき人)は、

「あ、いや……ごめん。
何でもないんだ」

と苦笑を浮かべながら手を振った。

⏰:09/08/17 01:03 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#415 [我輩は匿名である]
>>340

「ここに何か用でもあるんスか?」


爽やかな笑顔を浮かべながら、
先生(らしき……って、ああ面倒くさい。先生と断定)に
ここに来た理由を尋ねてみると、


「君達、担任の先生から聞いていないのかい?」

と、目を丸くして言った。

⏰:09/08/17 01:05 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#416 [我輩は匿名である]
>>340

「少し前にこの学校で生徒が突き落とされて
殺された事件があっただろう?

そのこともあって今日から放課後に
各教室や校庭を見回って不審者や
おかしな行動をとっている先生や生徒がいないかどうかを
見張るためにこうしてここにも赴いたんだよ。


先週、職員会議で決まったことだから
ちゃんと君達にも伝わっているはずだよ?」
 

⏰:09/08/17 01:07 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#417 [我輩は匿名である]
>>340

「知ってたか?」

と訊いた僕に、
雀夜は首を振って

「全然知らないわ」

と無表情で応えた。

⏰:09/08/17 01:08 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#418 [我輩は匿名である]
>>340

「……というわけで、
僕達全然知らないんスけど」


「あれ? はは、おかしいな……。

君達、ちゃんと担任の先生の話とか聞いてる?」


「聞いてますよ」

そのまま聞き流しちゃってるけれど。

⏰:09/08/17 01:10 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#419 [我輩は匿名である]
>>340

雀夜の方を見ると、たぶん彼女も
そんなところなのだろう、
何も言わず、雀夜は
僕達のやりとりを静観していた。

基本的に僕達は自分達には関係の無い話を
容赦なく聞き流すようにできているので、
おそらく、ちゃんと担任に説明を聞いたのだろうが
関係無しと判断して
そのまま記憶から
消してしまったのだろう。

⏰:09/08/17 15:25 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#420 [我輩は匿名である]
>>340

「君達……しばらくここにいるのかい?」


ふいに、先生が今までの会話の流れから
ずれたことを訊いてきた。

『こいつら担任の話をちゃんと聞いてなかったな?』

とでも感ずかれちゃったのかな?

ま、別にどうでもいいか。
気にせず、

「いたら困るようなことでもあるんスか?」

と訊き返した。

⏰:09/08/17 15:26 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#421 [我輩は匿名である]
>>340

「いや、まだここにいるのなら
暗くなる前に早く帰りなさい
と言おうと思っただけだよ」


先生はにっこり微笑んで言った。


……なーんか、嘘くさい笑い方。

無理やり作ってる、ていうか。

「ええ。そのつもりです」

そんなことを考えながら、
僕がそう応えると
「そっか」とだけ言って、
先生は笑顔を崩さぬまま背中を向けた。

⏰:09/08/17 16:18 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#422 [我輩は匿名である]
>>340

「それじゃあ、ぼくはもう行くけど、
ホントに暗くなる前に帰るんだよ」

「はーい!」

僕は元気一杯(勿論演技だ)に返事をして、
雀夜は無言で窓の外を見ていた。


バイバイ、と僕達に手を振りながら、
先生は図書室から出て行った。

⏰:09/08/17 16:25 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#423 [我輩は匿名である]
>>340

先生を見届けた後、

「愛想の良い先生ね」

と雀夜がぼそりと呟いた。


「そうだねぇ」


「まるで、作ったような愛想笑いだったけれど」


「お? 雀夜もそう思ったんだ?」
 

⏰:09/08/17 16:26 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#424 [我輩は匿名である]
>>340

「ええ。ああいうのは
目を見ればすぐ分かるわ。

だって口は笑ってるけど、
目は全然笑っていないんだもの。その点……」


雀夜は僕の目を覗くように見た。

「哀澤君は花丸をあげたいくらいに
完璧な愛想笑いよね。


誰も気がつかないくらいに……」


「…………」
 

⏰:09/08/17 16:29 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#425 [我輩は匿名である]
>>340

はぁー、と心の中で嘆息する。


そりゃそうに決まってる。

生まれた時から周りに
愛想笑いを浮かべながら
生きてきたんだから。


簡単に他人を騙せるくらいに。


家族ですら、気がつかないくらいに。


自分の本当の笑顔すら、忘れてしまったくらいに。
 

⏰:09/08/17 16:48 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#426 [我輩は匿名である]
>>340

……何故だか、雀夜にだけは
見破れてしまったわけだけれど。


ま、言いふらしたりさえしなければ
別にいいんだけどねー。


「ところで……あの先生誰か知ってる?」
 

僕は愛想笑いを浮かべながら
話を変えて雀夜にそう訊くと、

「さあ? 初めて見たわ」

と首を傾げて言った。

⏰:09/08/17 16:49 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#427 [我輩は匿名である]
>>340

「ふーん。じゃあ他の学年の
先生だったのかな……?」


「そうかもしれないわね。
さして興味は無いし、どうでもいいけれど」


「それもそうだねぇ」

「……さて、ところで哀澤君」
 

⏰:09/08/17 17:13 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#428 [我輩は匿名である]
>>340

雀夜は急に目つきを変えて、
僕を射抜くように睨みつけてきた。



「話がそれてしまったけど、
あの女と私のどこが
似ているというのかしら?」




「……まだこだわってたんだ……」
 

⏰:09/08/17 17:14 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#429 [我輩は匿名である]
>>340

それから小一時間、僕は雀夜に
『あの女』たる僕に告白してきた彼女との相似性について
あれこれ説明を促され、
適当にぶらりゆらりとごまかしたりしつつ、
時折雀夜に首根っこを掴まれたりしながらも
僕は現実から逃避するかのように
よそ事を考えていた。




……先生のあの目は
人を殺したことがある目だな


――などと、考えながら。
 

⏰:09/08/17 17:15 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#430 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ

第一話(完結)
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-287◆no.5
>>290-337◆no.6

第二話
悦楽の解剖×解剖の閲覧
>>340-429◆no.1

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
お願いします▼
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4513/

⏰:09/08/17 17:31 📱:W63CA 🆔:926/yZjI


#431 [我輩は匿名である]
第一話(完結)
天落の糸、死色に望む
>>13-59 ◆no.1
>>61-119 ◆no.2
>>121-192◆no.3
>>194-219◆no.4
>>221-287◆no.5
>>290-337◆no.6

⏰:09/08/24 11:10 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#432 [我輩は匿名である]
>>2-12プロローグ
>>431第一話(完結)

第二話
悦楽の解剖×解剖の閲覧
>>340-429◆no.1
>>432-500◆no.2

オーダーしてあります
感想、質問等はこちらに
お願いします▼
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4522/

⏰:09/08/24 11:13 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#433 [我輩は匿名である]
>>432

その日、大輔は入念に準備を整えたすえ、ついに悪魔のような計画を実行する事に至った。



まず先に考えたのはどこで人を攫うか、だった。

当然ながら人が多い所ははばかれるし、昼間などはもっての他だ。


ゆえに、人が少なくなる夜中、
それも人気の無い所が自然と考えられた。
 

⏰:09/08/24 11:15 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#434 [我輩は匿名である]
>>432

大輔にはちょうど思い当たる場所があった。

そこは大輔が住んでいるアパート付近のとある路地だった。


そこは夜中になれば人が通らなくなり、しかも街灯が頼りなくあるくらいの、ほとんど暗闇と言っていいくらいに光を灯さない場所であった。
 

⏰:09/08/24 11:17 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#435 [我輩は匿名である]
>>432

大輔は、そこを自身が勤めている学校の帰り道として使用しており、
帰りが夜中になってしまった時などによくすれ違う女性がいたことを思い出した。


年は三十代後半くらいだろうか。

どこかの事務職の服装をした女性だった。

彼女はよく会社帰りにでも立ち寄っているのだろう、よくスーパーの袋を手に下げて、あの暗い道を独り歩いていた。
 

⏰:09/08/24 11:17 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#436 [我輩は匿名である]
>>432

あの女にしよう。


あそこなら誰の目にもふれずに攫えるはずだ。


大輔はそう心に決めた。

そもそも、男など最初から眼中に無かったし、攫うなら女の方が力も無いし好都合だろうと考えていた。
 

⏰:09/08/24 11:18 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#437 [我輩は匿名である]
>>432

より効率よく事を成し遂げるのであれば、幼少の子供の方が良いのだろうが、
夜中に独りで歩いたりなどしないだろうし、中高生ともなれば大人のそれと大して変わらないくらいに力がついてきているので攫って来るには少々難儀ものがある。
 

⏰:09/08/24 11:47 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#438 [我輩は匿名である]
>>432

その点、今回のターゲットは三十後半で全盛期に比べれば、大分老いのせいで力が衰えているだろうし、
見た目もその辺にいる中学生くらいの身長しか無く、体つきも細枝のような華奢な体型だった。


抱えて歩くのもそれほど苦にはならないだろうと思えた。
 

⏰:09/08/24 11:48 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#439 [我輩は匿名である]
>>432

次にどうやって攫うか、だった。


大輔はその方法を、まるで悪魔から啓示を授かったかのようにすぐに思いついた。


用意するのは、まずスタンガン。

これは勿論彼女を気絶させるための物だ。

適当に話かけて不意をついてスタンガンを彼女の体に押し当てればいい。
 

⏰:09/08/24 13:11 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#440 [我輩は匿名である]
>>432

その後、近くに停めておいた車(大輔の自家用車)に乗せ、自分も乗り込み車のカーテンを閉めて縄で彼女を縛り上げ、
口をガムテープで悲鳴を上げれぬように念入りにグルグル巻きにして、自分のアパートに連れ込めば良いだけだ。
 

⏰:09/08/24 13:40 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#441 [我輩は匿名である]
>>432

そう考えていた時には、すでに体が準備を整えるために動いていた。


スタンガン、縄、ナイフ――それも格段に切れ味の良い――、
ニット帽にマスク、そして手袋……その日の内に大輔は準備を整えた。


後は彼女があの道を訪れる、もっとも都合の良い時間(自然と学校が休みの土曜日となった)を選べばいい。
 

⏰:09/08/24 13:42 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#442 [我輩は匿名である]
>>432

そしてこの日……大輔は車に乗り込み、高まる胸の鼓動と高揚を秘めながら、車を発進させ、ターゲットがいるあの道へと向かった。
 

⏰:09/08/24 13:49 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#443 [我輩は匿名である]
>>432

時刻は夜の十時半、未だに車はせわしなくあちこち走り回っていたが、
目的地に近づくにつれ、嘘のように車の気配が消えていった。

元来、今大輔が走っているこの道は信号機が無く見通しが悪くて、好んで通る者は少なかった。

その点、大輔はこの道を頻繁に使っており、どこに何があるのか熟知しているので大した苦ではなかった。
 

⏰:09/08/24 13:51 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#444 [我輩は匿名である]
>>432

しばらくして、目的地のすぐ近くまで来て、適当な空き地に車を停めてスタンガンを隠し持って目的地まで歩き、ターゲットが来るのを静かに待った。


彼女は予想通りスーパーの袋を手に下げて現れた。
 

⏰:09/08/24 13:52 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#445 [我輩は匿名である]
>>432

土曜日のこの日は、何故かいつもより帰りが遅い事をすでに調べていたので、予定通り事が進みそうだと内心喜んだ。





「すみません、ちょっとよろしいですか?」



大輔は柔和そうな笑みを浮かべながら彼女に声をかけた。
 

⏰:09/08/24 13:52 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#446 [我輩は匿名である]
>>432

「あ、あなたは……」


と、彼女はよくすれ違う男性だと思い至ったのだろう、それほど警戒もされず「何でしょう?」と返事をしてきた。



「いえね、この辺で財布を落としてしまったみたいなんですよ。クレジットカードも入っているのですごく困っているんです。

良かったら、一緒に探してもらえてはくれないでしょうか?」
 

⏰:09/08/24 19:46 📱:W63CA 🆔:mAdcXY8s


#447 [我輩は匿名である]
 
これが大輔のような比較的端正な顔立ちをした人の良さそうな雰囲気な男でなければ適当なことを言って断っていただろう。


しかし彼女はよくすれ違うこの男を密かに気に止めていたせいも重なって心よく了承してくれた。
 

⏰:09/08/25 02:30 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#448 [我輩は匿名である]
>>432
二人は近くを
「無いですねぇ」
「どのような財布なんですか?」
「もう警察の方に届けられているのかもしれませんね」

などと言い合いながら、最初から存在しない物を真剣な顔を作りながら財布を探すふりをして、密かに隙ができるのを待った。


その時、彼女が大輔に背中を向けた。


――今だ!


大輔は静かに近寄って隠し持っていたスタンガンを彼女の体に押し当てた。

⏰:09/08/25 02:32 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#449 [我輩は匿名である]
>>432

彼女は「う……っ!」と小さく呻き、体をピクピク痙攣させた後、うなだれるようにアスファルトの上に倒れた。


うまくいったことに大輔は喜びの笑みを浮かべながら、彼女の体を背中に抱えた

その時、彼女が手に持っていたスーパーの袋も忘れずに回収して空き地に停めてある自分の車へと向かった。
 

⏰:09/08/25 12:59 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#450 [我輩は匿名である]
>>432

車にたどり着いた後、ドアを開け彼女の体と袋を押し入れ、自身も乗り込みカーテンを閉めて彼女の手足を縄で拘束し、口をガムテープで塞いだ。


気がついた時には、彼女を自宅の風呂場に連れ込んだ後だった。


おそらく、気分が高揚していて記憶が定まっていないのだろう。

何か、本能が命じるままに彼女を連れ込んだのはおぼろげながらに覚えていた。
 

⏰:09/08/25 13:00 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#451 [我輩は匿名である]
>>432

だが今はそんなことはどうでもよい。

それよりも早く彼女を解剖したい。


大輔はそう思い立ち、まず邪魔な衣服を脱がせる作業にかかった。

これがなかなかに難儀だった。

手を後ろ手に縛っているせいもあって思うようにいかない。
 

⏰:09/08/25 13:01 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#452 [我輩は匿名である]
>>432
仕方なく大輔は手に持っていたナイフで衣服を切り裂き、全裸にさせてから衣服をゴミ袋に入れ、ようやく彼女の白い肌へと対面した。


高まる鼓動が胸を打つ。

それ以前に溢れる興奮を抑えることができなかった。



――もう我慢できない――


大輔はナイフを力強く握り、そのまま刃を彼女の白い肌に突き刺した。
 

⏰:09/08/25 13:02 📱:W63CA 🆔:w5GyFhTw


#453 [我輩は匿名である]
>>432

途端、想像を絶する痛みのせいか、目を覚ました彼女の口からガムテープ越しに断末魔のような呻き声が風呂場中に響き渡る。


大輔のアパートでは完璧な防音加工がなされているので他の部屋に響き渡る心配は無い。

気兼ね無く解剖を楽しめる。
 

⏰:09/08/26 10:35 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#454 [我輩は匿名である]
>>432

突き刺したナイフをそのまま縦にスライドさせる。

赤黒い血が滝のように吹き出しナイフを伝って大輔の手にも届く。


もともと、この血を手早く処理するために風呂場を選んだのだが、どうやらその考えは正確だったらしい。
 

⏰:09/08/26 10:36 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#455 [我輩は匿名である]
>>432

そんなよそ事をすぐさま断ち切るかのように、暖かい、人の液体が大輔の五感を刺激し、さらに気分を高揚させる。



大輔は手袋をつけた手で彼女の腹を力ごしに開ける。

さらに響く悲痛な呻き声を聞きながら、彼女の臓器と対面する。
 

⏰:09/08/26 10:37 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#456 [我輩は匿名である]
>>432

――これが彼女の胃腸。

おお、これが女性にしかない、子宮と呼ばれるものか。


何て美しい。


ぼくは今、人間の真の姿をこの目で見ている。


なんて貴重で甘美な体験だろうか――。
 

⏰:09/08/26 10:38 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#457 [我輩は匿名である]
>>432

今なら断言できる。



家族といる時よりも
友達に囲まれている時よりも
幼少の頃、小さな生物を殺戮していたどんな時よりも――。



ぼくは今、最高に幸せだ。


 

⏰:09/08/26 10:39 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#458 [我輩は匿名である]
>>432

いつしか女の呻き声は、ふと糸が急に切れたかのように途絶え、
大輔の快楽の笑い声だけが静かに風呂場を響き渡らしていた。
 

⏰:09/08/26 10:40 📱:W63CA 🆔:.3jFXY.c


#459 [我輩は匿名である]
>>432

行為を終えた後、大輔は一部の臓器を冷凍庫に保存し残りの厄介な臓器を袋に詰めた。

そして血に濡れた彼女の体をタオルで血が滴り落ちないよう何重にもくるみ、自分の車に臓器を入れた袋ごと持ち込んだ。
 

⏰:09/09/14 13:20 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#460 [我輩は匿名である]
>>432

その後、血に濡れた自身の衣服を脱ぎ捨て、動きやすいジャージ姿に黒いニット帽とマスクをつけて、死体が乗っている車へと自身も乗り込んだ。


死体を置く場所はここより少し離れた、今ではもう誰も使うことはない寂れた公園にしようと決めていた。
 

⏰:09/09/14 13:20 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#461 [我輩は匿名である]
>>432

あそこなら死体を捨てるところを目撃される心配は無いだろうし、発見されるのはせいぜい翌日の通勤や通学時の朝時ぐらいだろう。


そう思案しながら車を走らせ、しばらくして目的地の公園についた。


真夜中のせいもあって誰かがいる気配は無い。
 

⏰:09/09/14 13:21 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#462 [我輩は匿名である]
 
改めて見周すと、公園とは名ばかりで子供達が遊べるような遊具はどこにも見当たらず、壊れて光を灯さない電灯だけがポツンと存在しているだけだった。


早速大輔はタオルでくるまれた死体を抱きかかえ、草が膝下まで伸びている原っぱへと投げ捨てた。

それと同時に一緒に持ってきた臓器入りの袋も捨てた。
 

⏰:09/09/14 13:21 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#463 [我輩は匿名である]
 
――これで良いだろう。

この女とは大した接点も無いし指紋もどこにもつけていないから警察がぼくを怪しむことはまず無い。


そんなことを考えながら、大輔は公園を後にして帰路へと着いた。


自分の部屋へと戻った後、あの時の余韻に浸りたくて、冷凍庫に保存してある透明の袋に入れてある彼女の臓器を取り出した。
 

⏰:09/09/14 13:22 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#464 [我輩は匿名である]
 
素晴らしい……。

なんで美しい造形なのだろう。


大輔は臓器に見とれながら知らず知らずの内に口に出して呟いていた。


だが……。

なぜだろう。
どこか、物足りない感じがした。
 

⏰:09/09/14 13:24 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#465 [我輩は匿名である]
 
確かにあの時のぼくは幸せの絶頂だった。

それを否定するつもりは一切しない。

だが、何かが物足りないような気がする……。


一体何が……?


臓器を眺めながら疑問に対する答えを導こうとしたが、結局その日は疲れもあって睡魔が襲い、大人しく寝床につくことにした。
 

⏰:09/09/14 13:25 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#466 [我輩は匿名である]
 
物足りなさの原因を見つけられぬまま、静かに時間だけが過ぎた。


公園に捨てた死体は予定から外れて二日間後の今日の早朝になってから発見された。

なんでも、通りすがりの主婦が異様な腐敗臭に気づき、臭いの元をたどってみたら、目を覆いたくなるほどの腐敗の進んだ、全裸の女性の死体を発見したらしい。
 

⏰:09/09/14 13:25 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#467 [我輩は匿名である]
 
大輔はそのニュースを朝食を食べながらなんの感慨も眺めていた。


そんなことよりも、一昨日から続く物足りない空虚感の方が気になっていた。

そんなモヤモヤとした感情を抱きつつ、いつものように自転車で学校へと通勤した。


その日は以前に行われた職員会議で、放課後の見回り役をする日であった。
 

⏰:09/09/14 13:26 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#468 [我輩は匿名である]
 
何でも、この間起きた殺人事件の件もあって、以後あのような事件を無きよう、見回りをすることが会議で決まってしまったのだ。


その役を大輔がすることも一緒に決まってしまった。

面倒だ面倒だと思いつつも、周りには愛想笑いを浮かべていかにもやる気があるように見せた。
 

⏰:09/09/14 13:30 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#469 [我輩は匿名である]
 
断れたら断りたいが、大輔はどこの顧問にも所属しておらず、比較的暇な方だったこともあり、断りづらかった。


それにこんな下らないことでもあっさり人間関係にヒビが入ったりするものだ。

無駄な衝突はしないに限る。


そう思いながら内心嫌々ながらも学校を見回った。
 

⏰:09/09/14 13:30 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#470 [我輩は匿名である]
 
外にはこの暑苦しい中、運動部の人間がその日のノルマをこなし、文化部の人間も同じようにそれぞれの部活内容をこなしていた。


――特に異常はなし、と。


そう確認しながら今度は図書室に近づいて見ると、放課後になってしばらく経つというのにまだ誰かいるようだった。
 

⏰:09/09/14 13:31 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#471 [我輩は匿名である]
 
部活以外で放課後まで残るのを学校側は快く思っていないので、そのような生徒を見つけ次第、早く帰るよう忠告するようにも教頭先生に言われていた事を思い出した。


そういったわけで図書室の中に入ってみたら、この蒸し暑い中、本を読まずだべっているだけの生徒がいた。
 

⏰:09/09/14 13:31 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#472 [我輩は匿名である]
 
一人はいかにもクラスのお調子者といった、明るい雰囲気の男子生徒と、もう一人は一見中学生くらいに見える、長い黒髪のどこか冷たい雰囲気を漂わせる女子生徒だった。


大輔は彼らに近づいて愛想笑いを浮かべながら気軽な感じで話しかけてみた。


その時だった。

大輔の言葉に返事を返すためにこちらに顔を向けた彼女を見た瞬間、鳥肌が立った。
 

⏰:09/09/14 13:33 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#473 [我輩は匿名である]
 
なんて美しい顔をしているのだろう――

大輔にとって、それは初めての経験だった。


人間の内側にしか興味が無かった大輔が、初めて人間の外側を見て心を奪われたのだ。
 

⏰:09/09/14 13:33 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#474 [我輩は匿名である]
 
こんな美しい造形をしている彼女の“中身”は一体どうなっているのだろう。


ああ、解剖してみたい――。


解剖して、彼女の“中”を覗いてみたい――。
 

⏰:09/09/14 13:34 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#475 [我輩は匿名である]
 
その日から、大輔は長い黒髪の彼女をどのように攫ってくれば良いか、そんなことばかり考えるようになってしまった。



―――――――――――
――――――――


図書室で告白されて二日間後の今日。


ついにその日が来てしまった。
 

⏰:09/09/14 13:41 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#476 [我輩は匿名である]
 
今日は選択教科の日……つまり、僕にとっては音楽の授業がある日でもあり、そしてあの時、図書室で僕に告白してきたあの娘と同じ空間で同じ時を過ごす日でもあるのだ……!!


なんて説明すると、まるで今から音楽室という名の戦場にいざ出陣しようとしているように見て取れるが、ぶっちゃけ言うとその時間は無事に過ぎ、今は他のクラスの班の人間達と一緒に体育館でお掃除中だったりする。
 

⏰:09/09/14 13:42 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#477 [我輩は匿名である]
 
昼休みが終わってから掃除をするというのが我が高校の決まりとなっており、この体育館はその広すぎる面積を先生方が考慮したのか、他のクラスの班と一緒に掃除することとなっていて、今月は僕らの班がその役割に任命されてしまったりするわけで、こうしてみんな仲良くこの蒸し暑さに愚痴りながらもお掃除中というわけなのである。
 

⏰:09/09/14 13:42 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#478 [我輩は匿名である]
 
何かついさっき無事に音楽の時間を過ごしたとか述べたような気がするが、いや確かにこの間の返事を聞かせろといった内容をあの娘は何も口走りはしなかったけど、比較的割と近い所に僕と彼女の席があったわけで、(今日になるまで全然気がつかなかった)やたらと彼女が僕の顔を恥ずかしがるようにチラチラとしきりに見てくるのでかなり居心地が悪かった。


あの分だと、『返事はいつしてくれるのかな? 明日かな? 明後日かな? ひょっとしたら今日にも……きゃっ☆』なんて乙女回路フル回転なことを考えているのはまず間違いないだろう。
 

⏰:09/09/14 13:43 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#479 [我輩は匿名である]
 
ああ、面倒くさい。

何が面倒かって、断りでもすればクラス中に噂が広まり、僕の明るくて優しいというイメージに傷が入りかねないことが一番憂慮すべきところだった。


かといって、下手にOKを出して付き合うようなことになってしまったら更に面倒なことになるのは目に見えている。


ああ、頭痛がしてくるぜ。
 

⏰:09/09/14 13:44 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#480 [我輩は匿名である]
 
「哀澤君、そこ邪魔よ」

「あ、ごめん」


ホウキを手にした雀夜にそう言われ、さっきからずっと同じ窓を拭いていた僕は逃げるようにその場所から離れた。


――そう。

一緒に掃除をする別のクラスの班というのは、実は雀夜がいる班でもあったのだ。
 

⏰:09/09/14 13:45 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#481 [我輩は匿名である]
 
雀夜はあの図書室の一件以来、僕に対してかなり冷たい態度で接してくるようになってしまった。

ていうか、図書室で会っても口を利いてくれなくなってしまった。


とは言っても、僕がいても必ず図書室にはやって来るし帰り道も一緒なので同じ時間帯で共に(お互い、かなり距離を置いてだけども)帰路についてもいるし、今のようにどうしても話しかければならない時は口を開いたりするが、それ以外は僕に声をかけるようなことは一切無かった。
 

⏰:09/09/14 13:45 📱:W63CA 🆔:ie7L33eQ


#482 [我輩は匿名である]
 
いや、もともとそんな図書室以外で喋りあうようなことは少なかったけど、今回は度を越して口数が少なかった。

今でも見て取れるが、こちらに対して常に剣呑なオーラを放ってくるのだ。気分が悪いったらありゃしない。


まだあのことを怒っているとでもいうのだろうか?


だとしたらどんだけ執念深いだよまったく。
 

⏰:09/09/16 13:03 📱:W63CA 🆔:8E4K4oH.


#483 [我輩は匿名である]
 
やれやれ……と、誰にも気がつかれないように小声でため息混じりに呟いた。


僕に告白してきたあの娘といい雀夜といい、女がこれほどまでに頭を悩ませる生物だとは思わなかった。


今までの人生の中でダントツトップクラスで悩まされているのではなかろうか。

なんかもう、日本一悩み王の座を獲得してしまったような気がしてきた。
 

⏰:09/09/16 13:04 📱:W63CA 🆔:8E4K4oH.


#484 [我輩は匿名である]
 
そんな座いらないからなんとかしてくれとガーディアンスピリット(またの名を守護霊)に切実に頼みたくなってきちゃったよ。嘘だけど。


いや、なんかもうホントに……。


「どうしたもんかねぇ……」

「何がどうしたって?」
 

⏰:09/09/16 13:04 📱:W63CA 🆔:8E4K4oH.


#485 [我輩は匿名である]
 
そう声をかけてきたのは、スピリチュアルメッセージを送ってきたガーディアンスピリットというわけではなく、いつもの関西弁といつもと変わらない坊主頭をした、天草小次郎だった。



「どないしたん哀ぽん。なんか悩み事?」


と言いながら僕の首に腕回す天草。
 

⏰:09/09/16 13:05 📱:W63CA 🆔:8E4K4oH.


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