虹色のオセロ
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#501 [ゆーちん]
「来年も期待してる」
「うん」
喫煙、飲酒、叱りたい事だらけだけど、これも仁士からのタレコミだから言えなかった。
てゆーか禁煙してたんじゃないの、栄之助。
禁煙してたのに吸っちゃうぐらい、荒れる事があったんだろうな。
で、その原因ってやっぱ…私なのかな。
:09/05/06 20:09 :SH901iC :aLDiVks2
#502 [ゆーちん]
何も言えなくなってしまい、沈黙になる更衣室。
また、先に沈黙を破ったのは栄之助だった。
「ママさ、俺の気持ち知ってんでしょ?なのに避けたりしなくて、ありがとね」
あらら、自分から言ったよ。
「あのさ、その栄之助の気持ちって、やっぱ…」
:09/05/06 20:10 :SH901iC :aLDiVks2
#503 [ゆーちん]
私を女として好きなの?って質問は、栄之助に遮られた。
「言わないで」
「…」
あぁ、じゃあそうなのか。
「もう襲ったりしないからさ、これからもママでいてよ」
:09/05/06 20:11 :SH901iC :aLDiVks2
#504 [ゆーちん]
「栄之助はそれでいいの?私が聞くのも変だけどキスしたりして、歯止め効く?」
「効く。女としてより、柴田七海にはママとして、いて欲しいから」
「あんたがそれほどママに執着する意味って何?」
「…反動かな。甘え知らずだったから」
ふーん、私と仁士の考えはビンゴじゃん。
じゃあやっぱ、その執着心は深く考えなくていいのか。
:09/05/06 20:12 :SH901iC :aLDiVks2
#505 [ゆーちん]
「わかった、これからもママするよ」
「で、俺また彼女できたんだ。彼女いるから、もうママに変な事しないよ。でもたまに甘えさせてね」
栄之助の笑顔はいつもと違った。
無理してる。
ママだからわかるんだよ。
:09/05/06 20:13 :SH901iC :aLDiVks2
#506 [ゆーちん]
「うん、了解」
「たまぁにチューとかさせてね?んじゃ」
栄之助はそう言って逃げるように更衣室から出て行った。
なんか…不完全燃焼。
:09/05/06 20:13 :SH901iC :aLDiVks2
#507 [ゆーちん]
いつの間にか冬になっていた。
ビデオの早送り?ってぐらい早かった。
あれから、栄之助とも仁士とも相変わらず。
たまに更衣室で甘えん坊になる栄之助とオセロして、キスする。
:09/05/08 10:58 :SH901iC :OrUQies.
#508 [ゆーちん]
もう襲ってこなかったし、キス以外をする事もなかった。
もちろん、家に来る事もなければルームドレス姿を見れる事なんかない。
栄之助に変わり、仁士がよく家に来るようになった。
:09/05/08 10:58 :SH901iC :OrUQies.
#509 [ゆーちん]
バイトまでの時間潰しだとか、蕾夢預かってだとか。
今じゃ蕾夢とはすっかりラブラブな私。
お風呂デビューもしちゃったぐらいだもん。
すっかりベビーシッターなんだ。
面倒だと思ってた子守りがだんだん楽しくなってくる。
でもやっぱり教師だけは楽しくなんないけどね。
そして冬休みが来た。
なんだか波乱万丈な予感。
:09/05/08 10:59 :SH901iC :OrUQies.
#510 [ゆーちん]
夏休み同様、生徒のいない学校は寒さを除けば快適だった。
授業もない、補習もない。
超ラク!
「柴田先生」
学年主任だ。
「はい」
「すみませんが職員室のストーブの灯油の補充、お願いします」
げぇー。
やだよ〜、面倒だよ〜、寒いよ〜。
だなんて断れる訳もなく、
「はーい」
渋々了解した。
:09/05/08 11:00 :SH901iC :OrUQies.
#511 [ゆーちん]
外にある灯油置き場までダッシュ。
寒い、寒い、寒い!
灯油補充って地味だし臭いから大嫌い。
「ぶーっさいくな顔になってますよぉ」
…なぜ、いる。
「うるせぇやい」
「今日蕾夢と行くね」
「てゆーか冬休みなんじゃないんですか委員長。なんでいんの」
:09/05/08 11:00 :SH901iC :OrUQies.
#512 [ゆーちん]
夏休みにも、普通に学校にいたもんなこいつ。
「生徒会の集まりですけど」
うちの学校は、各クラス委員長が生徒会部員という風になっている。
だったらクラス委員長会って名前にすればいいのに、生徒会だなんてカッコイイ名前付けちゃってさ。
:09/05/08 11:01 :SH901iC :OrUQies.
#513 [ゆーちん]
「あぁ、なるほど!休み中も集まりとかあるんだ」
「休み明けのイベント考えないとだし」
「イベント?」
「マラソン大会」
「げぇー。最悪。私マラソン大嫌い。いっつもバックレてたなぁ」
:09/05/08 11:02 :SH901iC :OrUQies.
#514 [ゆーちん]
遠い日を思い出す私に、仁士は言う。
「七海みたいな奴がいるから今年はマラソンじゃなく登山にしよっかって案もある」
「登山?」
これまた斬新なアイデアですこと。
「でも費用が足りないから結局はマラソン大会になりそう。行き詰まったから、とりあえず今日は解散っつーことで、そこ歩いてたら不細工なおばさんが見えたから来てみたって訳だ」
:09/05/08 11:02 :SH901iC :OrUQies.
#515 [ゆーちん]
「…最後の方、喧嘩売りまくりだね、あんた。」
「買わないの?」
「寒いから買わない。つーか、またうち来るの?」
「夜間バイトだから蕾夢見ててね」
「また夜間?今日は冷え込むらしいから気を付けろ〜。蕾夢連れて来る時も暖かい格好させて来なよ」
:09/05/08 11:03 :SH901iC :OrUQies.
#516 [ゆーちん]
「あいあい。んじゃまた後で」
仁士は小走りで帰ってった。
だから私も小走りで職員室に戻る。
職員室ではニンマリ笑顔の学年主任が私を待ちわびていたので、わざとらしく寒い寒い騒いでやると、お茶を出してくれた。
ラッキー。
:09/05/08 11:03 :SH901iC :OrUQies.
#517 [ゆーちん]
夕方、さっさと帰宅するとタイミングを見計らったように瀬川兄弟が来た。
バイトが始まるまで仁士は私の家でくつろいで行くって魂胆か、この野郎。
「なんで自分んちでくつろがないのよ」
「狭いから」
…はい、会話終了。
何か機嫌悪い?
さっきは小走りするぐらい元気だったのに。
:09/05/08 11:04 :SH901iC :OrUQies.
#518 [ゆーちん]
「仁士?」
「何」
「何か怒ってる?」
「別に」
んー、テンション低い。
異様に低い。
「蕾夢ぅ、にいに機嫌悪いの?」
「きげん?」
「うん。にいに怒ってる?」
「わかんない」
だよねー。
2才がわかるわけないか。
ソファーにでかでかと寝転がる金髪にいには、一体何時からバイトなのかは知らないが、しばらくするといびきをかいて眠っていた。
:09/05/08 11:05 :SH901iC :OrUQies.
#519 [ゆーちん]
「蕾夢、にいに寝ちゃったね」
「ななみちゃん、らいむ、おなかちゅいた」
出ました〜、おなかちゅいた。
可愛すぎて溶けちゃいそう。
ばっちりスープパスタの準備ができていた私は、いつものようにレオにご飯をあげてから蕾夢と二人でいただきますをする。
:09/05/08 11:06 :SH901iC :OrUQies.
#520 [ゆーちん]
ソファーで寝てる奴は放っておく。
それが私流。
「おいち」
ズキューン。
蕾夢の笑顔にやられました。
「いっぱい食べなよ」
「うん」
そんな癒され夕食タイムが終わり、しばらくテレビを見てから、お風呂の時間。
:09/05/08 11:06 :SH901iC :OrUQies.
#521 [ゆーちん]
なーんで私が生徒の弟を風呂に入れてんだって感じだけど、同情が愛情に変わったっていう話だ。
今じゃ蕾夢は余所の子とは思えないね。
蕾夢ラブ!
:09/05/08 11:07 :SH901iC :OrUQies.
#522 [ゆーちん]
「らいむね、あした、にいにと、じゃんけんする」
めちゃくちゃ意味わかんねぇし、主旨もわかんねぇ〜。
じゃんけんぐらい勝手にすればいいのに、いちいち私に教えてくれんだよ、この子。
可愛くて可愛くて、泣かずにいられないって感じ。
:09/05/08 11:08 :SH901iC :OrUQies.
#523 [ゆーちん]
「七海ちゃんともじゃんけんしようよ」
「いいよ」
湯船に浸かりながらじゃんけんをした。
不器用なチョキが可愛くて吹き出してしまう。
「らいむのかちー」
その笑顔が見たくて、後だしして負けてやってんだよ2才児!
本当、可愛い。
:09/05/08 11:08 :SH901iC :OrUQies.
#524 [ゆーちん]
お風呂から出ると19:30だった。
仁士はまだ寝てる。
「仁士、バイト何時から?」
「んー…はちじ」
何、蕾夢みたいな甘えた声出してんだよ。
お前は栄之助か?
「あと30分だよ」
「ん」
って言ってまた寝ちゃった。
寝不足で機嫌悪かったのかな?
:09/05/08 11:09 :SH901iC :OrUQies.
#525 [ゆーちん]
蕾夢が持ち込んで来たアニメDVDを2才児と真剣になりながら見ていると、蕾夢が私の膝に寝転がって来た。
「どした?眠い?」
蕾夢は目をゴシゴシかきながら頷いた。
「寝よっか」
また蕾夢が頷く。
DVDを止め、テレビを消し、寝室に行く準備をする。
ふと振り替えればすぐ後ろにソファーがあって、そこには仁士が弟より先に眠ってる。
:09/05/08 11:10 :SH901iC :OrUQies.
#526 [ゆーちん]
…ん?
眠ってる?
時計は20:30になろうとしていた。
完全に遅刻じゃんか!
「仁士、起きて!起きろってば」
「…痛い痛い。何」
「8時回ってるよ?バイト遅刻」
「えっ…えぇ?」
意識を戻した仁士は慌て起き上がった。
:09/05/08 11:10 :SH901iC :OrUQies.
#527 [ゆーちん]
「何で起こしてくんなかったんだよ!」
…何で私が叱られてんのよ。
「はぁ?起きなかったあんたが悪いんでしょ?」
「普通起こすだろ!鈍感!」
「人のせいにするなよ!」
「あぁー、もういいよ。七海と騒いでても意味ないしな!」
:09/05/08 11:11 :SH901iC :OrUQies.
#528 [ゆーちん]
うっざー。
「ふざけんな、バカたれガキんちょ!」
「ババアに言われたくないね!」
そう、捨て台詞を吐いて仁士は出て行った。
何なの、あれ。
本気でうざい。
何様?
:09/05/08 11:11 :SH901iC :OrUQies.
#529 [ゆーちん]
「ななみちゃん」
「何?」
「にいに、どうしたの?」
「知らないよ。ほら、蕾夢寝るんでしょ?ベッド行くよ。おいで」
蕾夢の手をひきながらベッドに向かう間も、はらわたが煮えくりかえっていた。
何であんなに偉そうなわけ、あのガキ!
起こしてあげただけでも感謝しろよ、ったく。
:09/05/08 11:12 :SH901iC :OrUQies.
#530 [ゆーちん]
ベッドに入っても、思い出してはイライラしていた。
「ななみちゃん、てぇにぎって」
蕾夢が小さな手を出したので、何も言わずに握ってあげた。
すると、蕾夢は小さな声で私に言った。
「おこんないで」
心臓が跳ね上がった。
蕾夢に対して怒ってなんかないのに、蕾夢は私の怒りを感じ取っていたんだ。
:09/05/08 11:13 :SH901iC :OrUQies.
#531 [ゆーちん]
蕾夢に当たるつもりはないのに、ちょっと口調がキツくなったかなって反省。
「ごめんね、蕾夢」
「もうおこんない?」
「怒んない。本当にごめんね」
:09/05/08 11:13 :SH901iC :OrUQies.
#532 [ゆーちん]
蕾夢が眠り、冷静になってからよく考えてみた。
私、大人げなかったかも。
10も離れたガキの喧嘩を買って、その上2才の子供にも当たっちゃって…。
「ごめんねー」
スヤスヤと眠る蕾夢の柔らかな頬を撫でた。
気持ちが落ち着いたし、罪悪感さえ出てきた。
:09/05/08 11:14 :SH901iC :OrUQies.
#533 [ゆーちん]
仁士だってまだ17才のガキなわけで、遊びたい盛りなんだ。
でも、裕福ではない家庭だからバイトに明け暮れてて…
勉強だって出来る奴だから、それなりに努力してるんだろうし。
:09/05/08 11:14 :SH901iC :OrUQies.
#534 [ゆーちん]
バイトに勉強、その上、蕾夢の面倒を見ていると来た。
そりゃ大変極まりないよね。
私の人生に比べれば、仁士のが大変。
:09/05/08 11:15 :SH901iC :OrUQies.
#535 [ゆーちん]
学校嫌いで、サボってばっかで、先生いじめた学生時代。
就職活動なんかもせずにフリーターしながら毎日過ごして、彼氏作って、浮気して、浮気されて、別れて…また彼氏作って。
結婚考えた相手もいたけど、でも結局ダメで。
:09/05/08 11:15 :SH901iC :OrUQies.
#536 [ゆーちん]
で、数ヶ月前にいきなり教師になって。
教員免許を取ったのだって、ただのノリだったし。
その免許の噂を聞き付けて、私を採用した学校も変な学校だよね。
真剣に何か取り組んだ事ない、って言うか…気まぐれと行き当たりばったりで生きてきた私の人生と、仁士の人生を比べるのも可哀想だ。
:09/05/08 11:16 :SH901iC :OrUQies.
#537 [ゆーちん]
仁士が帰って来たら、謝ろう。
素直に謝る女はモテる、って褒めてくれるかもしんないからね?
…なんちゃって。
:09/05/08 11:16 :SH901iC :OrUQies.
#538 [ゆーちん]
深夜2時。
仁士が帰って来た。
「おかえり」
「うぉっ、起きてたの」
いつもは蕾夢と一緒に爆睡ぶっかましてる私だから、普通に起きている事にビックリしていた。
:09/05/08 11:18 :SH901iC :OrUQies.
#539 [ゆーちん]
「何か飲む?」
今日も泥だらけ。
汚い格好のクラス委員長。
「冷たいお茶ちょうだい」
「ん」
仁士はフーッとため息をつきながら椅子に座り、せっせと煙草を吸い始めた。
:09/05/08 11:18 :SH901iC :OrUQies.
#540 [ゆーちん]
「ん」
「どーも」
お茶を飲む仁士。
それを眺める私。
…無言。
そんな空気にしびれを切らしたのは仁士だった。
「言い訳していい?」
「…何を?」
仁士が口を開こうとした時、寝室から蕾夢の声がした。
:09/05/08 11:19 :SH901iC :OrUQies.
#541 [ゆーちん]
「まま…」
小さな声だったけど、その切なげな声は私たちの部屋まで届いて来た。
それを聞いて、いたたまれない気持ちになる。
あんな小さな子に、私は苛立ちをぶつけてしまったんだから。
:09/05/08 11:19 :SH901iC :OrUQies.
#542 [ゆーちん]
それでなくても親の愛が少ない子なのに。
「泣いてる?」
「いや、たぶん寝言」
「ちょっと私、見てくる」
隣の部屋である寝室に行き、蕾夢の様子を覗いた。
ごそごそと布団でもがいていた。
:09/05/08 11:20 :SH901iC :OrUQies.
#543 [ゆーちん]
「ママいるよ」
ママでもないのに、そう言って手を握ってあげると、蕾夢の動きが止まる。
嘘も方便。
:09/05/08 11:20 :SH901iC :OrUQies.
#544 [ゆーちん]
蕾夢に布団をかぶせ、仁士が待つ部屋に戻る。
2本目の煙草に火を点けていた。
「未成年の喫煙は法律で違反されてます」
「…棒読みだな。蕾夢は?」
「ん、大丈夫」
「そ。ありがと」
「うん」
私が椅子に座ると仁士はさっきの続きを喋り出した。
:09/05/08 11:21 :SH901iC :OrUQies.
#545 [ゆーちん]
「最近バイト大変でさ。学校にも行かなきゃで、寝不足続いてたんだ」
「…ふーん」
やっぱりね。
私が睨んだ通りだ。
:09/05/08 11:22 :SH901iC :OrUQies.
#546 [ゆーちん]
「家にいても蕾夢がいるから昼寝もできなくて…託児所に行くの嫌がるから無理矢理連れてく訳いかないし。蕾夢のこと好きだけど、でも…一緒にいすぎると疲れるんだ」
申し訳なさそうに仁士は呟いた。
パーフェクト人間が私に初めて溢した弱音。
「こんな兄貴最低だよな」
「あんたは偉いよ。兄貴って役目をちゃんと務めてんじゃん。最低なんかじゃない。最高の兄貴だよ」
:09/05/08 11:23 :SH901iC :OrUQies.
#547 [ゆーちん]
吸わない煙草からは、白い煙が虚しく立ち上っていた。
「自分がいくら辛くても蕾夢に当たらないのは偉いよ。私さっきあんたが飛び出してった後、蕾夢に冷たい態度取っちゃったんだ。八つ当たり。私の方が最低だよ。ごめんね」
:09/05/08 11:23 :SH901iC :OrUQies.
#548 [ゆーちん]
「いや、あれは俺が悪かったから…」
「ううん。違う。仁士が寝不足になるほど頑張ってんの私ちゃんと知ってたのに、助けてあげられなかったんだもん。副担任として情けないよね」
「副担任って…懐かしい響き。なんか七海が教師だってこと、たまに忘れる」
:09/05/08 11:24 :SH901iC :OrUQies.
#549 [ゆーちん]
「それって私がまだ17の少女みたいだって事?」
「は?違うし」
「私も仁士が生徒だってこと、たまに忘れるよ。つーかこんな厚かましい生徒なんて、なかなかいないよ普通」
「ハハッ、かもな」
仁士が笑う。
だから私も笑う。
:09/05/08 11:24 :SH901iC :OrUQies.
#550 [ゆーちん]
「仲直りね」
「お互いごめん、って事で」
仁士が手を差し伸べたので、その手に応えた。
仲直りの握手。
変な教師と生徒。
:09/05/08 11:25 :SH901iC :OrUQies.
#551 [ゆーちん]
最初は同情だった。
可哀想な兄弟だから、って。
私にできる事あるなら助けてあげるよ、って。
偽善者だよね、私。
でもね、今日仁士と喧嘩して蕾夢の寝顔を見てから、何かちょっと考え変わったんだ。
で、仁士と仲直りの握手をした瞬間から私の中にあった同情心が完全に消えた。
:09/05/08 11:25 :SH901iC :OrUQies.
#552 [ゆーちん]
こいつらの役に立ちたい、って素直に思えた。
カッコつけてるわけじゃない。
本当に、二人の幸せに貢献したいって思えた。
友情だとか母性愛だとか、どの愛なのかもわかんないけど…とにかく純粋にそう思ったんだ。
:09/05/08 11:26 :SH901iC :OrUQies.
#553 [ゆーちん]
「すみれちゃんが妊娠したかも」
「…はぁ?」
冬の更衣室は冷える。
だから私のおサボり場所は屋上に変更。
日中は太陽が温かくて気持ちいいんだ。
:09/05/09 12:16 :SH901iC :JSeFKct6
#554 [ゆーちん]
ま、晴れてる日限定のおサボり場所なんだけどね。
「生理が来ないって」
「避妊しなかったの?」
「ちゃんとしたよ」
他の生徒におサボりがバレないように、ちょいと入り組んだ場所でのおサボりだけど、ここはここでまた気持ちいいから満足してた。
:09/05/09 12:16 :SH901iC :JSeFKct6
#555 [ゆーちん]
「検査は?」
「まだ」
日光浴中の私に、見慣れた顔が隣に座り、いきなり何を言い出すかと思ったら、彼女の妊娠疑惑。
最近、あんまりキスとかしてこなくなったと思えば、これだからなぁ…バカ猿め。
:09/05/09 12:17 :SH901iC :JSeFKct6
#556 [ゆーちん]
「話は検査してからだよ。ちゃんと病院で診てもらいな」
「…なんか最近ママ冷たいね」
「何で?そんなことないよ。最近やっと親離れしたと思っていた子供が、子供できたかもって言って来た事は悲しいけどね」
「…仕方ないじゃん。頼れるのはママしかいないんだから」
:09/05/09 12:18 :SH901iC :JSeFKct6
#557 [ゆーちん]
そうやって、しょげてる顔なんてまだまだガキそのもの。
ガキがガキ作っただなんて、もし本当だったらどうすんのよ。
ママは今から頭が痛いよ。
彼女にちゃんと病院行くように説得して、結果がわかったらまた教えて、と約束し、栄之助は授業に戻って行った。
:09/05/09 12:19 :SH901iC :JSeFKct6
#558 [ゆーちん]
帰りぎわ、久しぶりにキスしてくれた。
これは浮気?
それともマザコン?
いや、彼女からすれば浮気だろうな。
でも栄之助からすれば、マザコンなだけ。
私からすると…どうなんだろ、わかんない。
:09/05/09 12:19 :SH901iC :JSeFKct6
#559 [ゆーちん]
数日後、栄之助から真夜中に電話がかかってきた。
「…はい」
「ごめん、起こした」
「本当だよ。今3時だよ?」
「もうすぐママんちに着くんだ。鍵開けて」
…いきなりだな、おい。
「やだー」
「凍え死ぬから絶対開けてよ?それじゃ」
:09/05/09 12:20 :SH901iC :JSeFKct6
#560 [ゆーちん]
久しぶりに栄之助の強引さを目の当たりにした真冬の真夜中。
眠い目をこすり、起き上がって玄関の鍵を開けようとしたら、ちょうどチャイムが鳴った。
ナイスタイミング。
:09/05/09 12:20 :SH901iC :JSeFKct6
#561 [ゆーちん]
扉を開けると、トナカイさん並みに真っ赤なお鼻の栄之助がいた。
家に上げた途端、栄之助は私を抱き締めた。
「どした?」
「…」
何も言わない。
「私に話したい事あるんでしょ?今すぐ聞かせたい?それとも朝イチ?」
:09/05/09 12:22 :SH901iC :JSeFKct6
#562 [ゆーちん]
私的には朝イチがいいな。
眠くて眠くて頭が回らない。
「ママ、睡魔に弱いから朝イチでいいよ」
「あら、ママ想いね」
「当たり前じゃん」
「お風呂入って来る?またルームドレス姿見たい」
私が笑うと、栄之助も笑ってた。
:09/05/09 12:22 :SH901iC :JSeFKct6
#563 [ゆーちん]
「俺のルームドレス姿似合ってた?」
「とっても」
栄之助をバスルームに放り込み、私はベッドに戻って、またすぐに夢へと落ちた。
栄之助の温もりの中で眠っていた事に気付いたのは、それから5時間後の朝8時だった。
:09/05/09 12:23 :SH901iC :JSeFKct6
#564 [ゆーちん]
「遅刻!…って、土曜だった」
慌てて起きた私は相当虚しい奴だ。
土曜だって事をすっかり忘れていたなんて、栄之助にバカだなんて言えない。
:09/05/09 12:23 :SH901iC :JSeFKct6
#565 [ゆーちん]
まだ気持ちよさそうに眠っている栄之助をベッドに残し、そそくさと着替えや歯磨きを済ませた。
「おはよ、レオ。栄之助まだ寝てるからシーッね」
レオとじゃれながら栄之助が起きてくるのを待った。
最近の若者は遅寝遅起きだね。
お肌に悪いぞー。
:09/05/09 12:25 :SH901iC :JSeFKct6
#566 [ゆーちん]
「…おはよ」
頭ボサボサの栄之助が起きて来たのは13:00を回ってからだった。
残念、ルームドレスは着ていなかった。
「おはよ。私のスウェット着れちゃうなんて、どんだけ細身なの」
「んー、丈は短いけど」
横幅は全然余裕なのに縦幅がアウト。
:09/05/09 12:26 :SH901iC :JSeFKct6
#567 [ゆーちん]
足首や手首が見えまくっているスウェット姿には、ルームドレスの時よりも笑えた。
すぐに、昨日着ていた服に着替えた栄之助。
また写真に収め忘れちゃったよ。
:09/05/09 12:26 :SH901iC :JSeFKct6
#568 [ゆーちん]
「お腹すいたね。何か食べる?」
「うん」
昼ご飯を用意してあったので、朝昼兼用ご飯を食べる事に。
「いただきます」
「召し上がれ」
簡単手間いらずのオムライスを栄之助は美味い美味いと食べてくれた。
:09/05/09 12:29 :SH901iC :JSeFKct6
#569 [ゆーちん]
和やかなムードを一転させたのはテレビのニュースだった。
妊婦がたらい回しにされた、というニュース。
さすがに【妊婦】だなんて言葉に反応しないはずなかった。
:09/05/09 12:29 :SH901iC :JSeFKct6
#570 [ゆーちん]
「食べ終わったら話すね」
「ん」
ちょっと気まずい雰囲気のまま、ごちそうさま。
栄之助はソワソワしながら煙草に火をつけた。
「禁煙は?」
「失敗…って、何で知ってんの?」
「仁士に聞いた」
「…そう」
:09/05/09 12:30 :SH901iC :JSeFKct6
#571 [ゆーちん]
「私も禁煙中なんだよ?精神的に辛くなると手が出るんだけど、もう絶てたかも。10ヶ月ぐらい吸ってない」
「凄いね。俺は1ヶ月もしないうちにアウト」
「精神的に追い込まれてるからでしょ?禁煙失敗したの」
栄之助は頷いた。
:09/05/09 12:30 :SH901iC :JSeFKct6
#572 [ゆーちん]
「生徒の喫煙見逃す教師なんて、やっぱ違法?」
「ママが捕まったら保釈金出すよ」
苦笑いの二人。
なかなか本題に入れない。
「…栄之助」
「俺、パパになるつもりだったんだ」
:09/05/09 12:31 :SH901iC :JSeFKct6
#573 [ゆーちん]
煙草を持つ手が震えていた。
いきなり入った本題に、私の気持ちも震えてた。
「すみれちゃんと病院行ったよ。見事妊娠しててさ。だから腹くくったんだ」
「うん」
「でも、すみれちゃんは母親になる気ゼロで…堕ろすの一点張り」
:09/05/09 12:32 :SH901iC :JSeFKct6
#574 [ゆーちん]
栄之助は煙草の火を消した。
「…それで?」
「手術代ちょうだいって。親父に金ぐらいもらうのは簡単だけど、その金渡しちゃったら…もう赤ちゃんいないんだよ」
「そうだね」
:09/05/09 12:33 :SH901iC :JSeFKct6
#575 [ゆーちん]
「俺すみれちゃん好きだったけど、赤ちゃんに対してやけに冷たかった事知って、一気に萎えてさ。
本当は産んで欲しいんだけど母親が、すみれちゃんが、子供なんかいらないって邪魔者扱いする姿見て…正直幻滅。
これから一緒にやってく自信ないけど、赤ちゃん産んで欲しいし…でも無理だろうしで、どうしていいか」
:09/05/09 12:33 :SH901iC :JSeFKct6
#576 [ゆーちん]
何も言えないよ。
二人の問題なんだから、私が口を出す権利なんてない。
「17と18の子供が、子供産むのなんて簡単じゃないのはわかってるけど…」
へぇ、すみれちゃんって年上なんだ。
:09/05/09 12:34 :SH901iC :JSeFKct6
#577 [ゆーちん]
栄之助が混乱している時に、私の頭は妙に冷静だった。
「すみれちゃんに、ちゃんと伝えたんだ。赤ちゃん産んで、って。殺すなんて耐えられない、って。そしたら…ウザイって言われちゃった。本当ビックリ。
せっかく芽生えたすみれちゃんへの恋愛感情一気にダウン。でも赤ちゃんだけは諦めらんない」
:09/05/09 12:34 :SH901iC :JSeFKct6
#578 [ゆーちん]
どうしたもんかね。
どうにもできないよ。
「説得してもすみれちゃんは聞く耳持たない」
「で、私にどうして欲しいの?すみれちゃんに説得しろと?」
「違うよ。ただの報告…と17の少年の悲痛な声」
:09/05/09 12:35 :SH901iC :JSeFKct6
#579 [ゆーちん]
「栄之助、ここがあんたの正念場だよ。ウザがられても、お互いが納得する結果を導かなきゃ。こうしてる間にも、あんたとすみれちゃんの子供は生きてんだよ。早くママとパパに会いたいな、って腹の中で成長してんだよ」
:09/05/09 12:36 :SH901iC :JSeFKct6
#580 [ゆーちん]
栄之助は泣いていた。
「産む、産まない、どっちにしろ栄之助は今現在の時点で父親なんだよ?
泣いてる暇なんか無いくらい、わかってんでしょ?」
「…うん」
「赤ちゃんとすみれちゃんと、あんたの為にも決断は早いに越した事はない」
:09/05/09 12:37 :SH901iC :JSeFKct6
#581 [ゆーちん]
栄之助はコクリコクリと何度も頷いた。
「ほら、行きな」
栄之助に手を差し伸べた。
ギュッと握り返してくる手のひらは、しっかりとした男の手。
私に甘えまくってた男の手とは、違って見えた。
:09/05/09 12:37 :SH901iC :JSeFKct6
#582 [ゆーちん]
「大丈夫、大丈夫」
鼻をすする栄之助を抱き締めてあげた。
ママから子への応援ハグ。
栄之助が抱き締め返してくる事はなかった。
「ありがとう、ママ」
:09/05/09 12:38 :SH901iC :JSeFKct6
#583 [ゆーちん]
それだけ言って、涙を拭いた栄之助は帰ってった。
きっと今からすみれちゃんのところに向かうに違いない。
まだまだ未熟なガキんちょに、幸あれ。
:09/05/09 12:39 :SH901iC :JSeFKct6
#584 [ゆーちん]
―――
栄之助とすみれちゃんが結局どうなったのか、わからないまま週が開けた。
月曜日の朝はとても寒い。
火曜日の朝もとても寒い。
そして水曜日の朝ももちろん寒かった。
「ななみん、おはよう」
ガキは朝から元気だ。
おばちゃんは足先が冷えて泣きそうだよ。
:09/05/09 12:45 :SH901iC :JSeFKct6
#585 [ゆーちん]
「ななみん先生、おはようございまーす」
…このおっさんも朝から元気だ。
「おはようございます、保泉先生」
「もうすぐ期末テストですよ〜」
「あ、そっか。このテストで進学とか留年とか決まってくるんですよね」
:09/05/09 12:46 :SH901iC :JSeFKct6
#586 [ゆーちん]
懐かしい〜。
毎年必死だったっけ、私。
「留年ギリギリの奴らにはラストチャンスみたいなもんですね」
「なるほどー」
なるほど、なんて言ってるけど学年末テストの大変さを一番味わって来た私なんだ。
わからない訳がない。
:09/05/09 12:49 :SH901iC :JSeFKct6
#587 [ゆーちん]
「でも、その前にマラソン大会ですね」
「…あぁ。結局マラソン大会に決まったんですか」
「予算が足りないらしくて、例年通りのマラソン大会なんです。教師はマラソンコース誘導とかです」
「了解しました」
:09/05/09 12:50 :SH901iC :JSeFKct6
#588 [ゆーちん]
保泉はさ、変態だけど新人の私に色々教えてくれるから、ありがたいんだよね。
まぁ、その気づかいもできないんじゃ、ただの変態男か。
:09/05/09 12:51 :SH901iC :JSeFKct6
#589 [ゆーちん]
「はい、それじゃあ今日はここまでです。委員長の瀬川くん、この資料を職員室まで運ぶの手伝ってね」
「…はーい」
2Cでの授業が終わり、起立、礼、休み時間。
仁士は私を睨みながら教壇に向かって来た。
:09/05/09 12:53 :SH901iC :JSeFKct6
#590 [ゆーちん]
「せっかくの休み時間がパシりで終わっちゃいまーす」
「エヘッ、ごめんねぇ」
そんなブリっ子、可愛くねぇぞってな目で睨み、資料を持ってくれた。
廊下を歩く。
周りの生徒に聞かれないように小声で喋った。
:09/05/09 12:54 :SH901iC :JSeFKct6
#591 [ゆーちん]
「登山ダメだったんだね」
「予算がアウト」
「ふーん、ドンマイ」
「…まさか、それ言う為に俺をパシりにした?」
「そうだよ」
「…最悪」
「なんで、いいじゃな〜い。それより、栄之助…」
「あぁ、うん。今日も来てない」
:09/05/09 12:54 :SH901iC :JSeFKct6
#592 [ゆーちん]
仁士も栄之助にすみれちゃんの妊娠の話は聞いたらしく、気になっていたようだ。
「今日水曜だから、休み始めて3日だね」
「七海んちに行ったのって金曜だろ?」
「正確には土曜の真夜中」
「じゃあ今日で4日か。ママの喝、効いてるといいんだけど」
:09/05/09 12:55 :SH901iC :JSeFKct6
#593 [ゆーちん]
あの日、私の家に来た事は栄之助から直接聞いたらしく、月曜日の朝イチで私のところに飛んできた仁士。
結局どうなったのかを聞きたくても、当の本人が姿を現さないんじゃ話にならない。
おサボり3日目。
明日こそは登校しろ、と願いながら今日も一日、教師という苦痛を乗り切った。
:09/05/09 12:56 :SH901iC :JSeFKct6
#594 [ゆーちん]
結局栄之助はその週、学校に来なかった。
あれからちょうど一週間。
気になってはいたけど、自分から電話なんかする気分でもなく、もう一人の方に電話をかける事にした金曜日の21:00前。
:09/05/09 12:57 :SH901iC :JSeFKct6
#595 [ゆーちん]
「集〜合〜」
有無を言わさず呼び付けた。
金髪頭はご機嫌ななめで来てくれた。
「栄之助に電話しよ」
「自分でしろよ。何で呼び出されてんの俺」
「栄之助だって私より仁士の方が言いやすいよ」
「…で、その栄之助と仁士の会話を盗み聞きするつもり?」
「うん」
「最悪な教師だな」
:09/05/09 12:57 :SH901iC :JSeFKct6
#596 [ゆーちん]
冷たい事言いながら、顔は笑ってんの。
ドS疑惑。
「気にならないの?もう一週間だよ」
「気にはなるけど無理に聞き出すのも悪いじゃん」
「そうだけど…でも栄之助はきっと聞いて欲しいって思ってるに違いない」
:09/05/09 12:58 :SH901iC :JSeFKct6
#597 [ゆーちん]
「何でわかんだよ」
「ママの勘」
仁士は小さく笑ってから、栄之助に電話をかけた。
「七海が一緒だって事は内緒だからな。黙ってろよ」
「了解」
完全なる盗み聞きだね。
仁士は共犯者って事で、ちょっと申し訳ない。
:09/05/09 12:59 :SH901iC :JSeFKct6
#598 [ゆーちん]
2コール目で栄之助は電話に出た。
スピーカー機能にしてもらい、私は黙って二人の会話を聞く。
「もしー、生きてんの?」
「死んでる〜」
「あっそ。今どこ?」
「部屋だけど」
「どうなったの、彼女と子供」
:09/05/09 13:00 :SH901iC :JSeFKct6
#599 [ゆーちん]
しばし無言。
「おーい、栄之助」
「うん」
「言いたくねぇんなら別にいいけど」
栄之助はまた無言になった。
しばらくすると、悲しい音が聞こえた。
:09/05/09 13:00 :SH901iC :JSeFKct6
#600 [ゆーちん]
「おい、泣くな」
「あのさ…笑うなよ?」
「おう」
「俺の子供じゃないんだって」
落胆した。
私も泣きたくなった。
そんな展開、誰も望んでないよ。
「何…で、だよ」
仁士もひどく動揺していた。
「すみれちゃんがそう言うんだから、そうなんだよ。それに、日数も合わない」
:09/05/09 13:01 :SH901iC :JSeFKct6
#601 [ゆーちん]
「他に男がいた、って事?」
「…らしいね」
「何だよそれ…」
ため息しか出なかった。
栄之助を今すぐ抱き締めてあげたくなった。
「仁士、ごめん」
我慢できなかった。
気付いた時にはペラペラと口が動いてた。
:09/05/09 13:02 :SH901iC :JSeFKct6
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