虹色のオセロ

頭を上げようと引っ張ったけどピクリともしない。

「ちょっと！ねぇってば。」

「絶対返すから…お願いします。」

「１万ぐらいバイトしろよ。」

「前借り頼んだんですけど断られちゃって。」

「じゃあ親父かお袋に言え。頼むから頭上げてよ。頭下げられるの嫌いだから。」

「親、いないんです。」

「はぁ？」

瀬川仁士はやっと頭を上げてくれた。

「生徒資料見てもらえばわかります。俺、親いないんで。」

「何があったか知んないけど１万円ちゃんと返してくれんの？」

「約束します。」

「もし私が断ったら、どうしてたの？」

「強盗、カツアゲ、最悪…俺を買ってもらうとか。」

買ってもらうって…。

意味わかってんのかよ、ばかたれ。

「はぁ～。面倒なことだけは起こさないでよ？私、貸すから。」

ありがとうございます、と言ってまた頭を下げた瀬川仁士。

「財布、職員室だから取って来る。教室で待ってて」

そのあと、新手のカツアゲなんだか本当に金が必要だったのかわからないけど、私と瀬川仁士以外に誰もいない教室で、自分の生徒に１万円を渡した。

で、バレーボールの準備に行くと、遅いと叱られた。

踏んだり蹴ったりだね。

翌日のバレーボール大会、本番。

この前の予行練習とまるっきり同じものが始まった。

「それではみなさん、正々堂々戦ってください。」

体育教官の話、終わり。

みんな各自散らばってボールを地面に落とさないゲームを始める。

「マーマ。」

「…こら、二人きりのとき以外その呼び名禁止だよ。」

「大丈夫大丈夫。誰も聞いてないから。」

「どうだか…それより試合行かなくていいの？」

「まだ時間あるから暇なんだ。ママとお喋りしようと思って。」

「あーら、調度よかった。ママも今から暇なんだ。バレーボール大会終わるまでっ！」

教師はやることないのに何で準備手伝わされたんだって感じ。

今ジャージ着てる私、すっごい虚しい。

大会終わるまで生徒の安全を見張れだと？