吸血鬼死重奏
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#47 [渚坂]
「とりあえず、逃げなきゃよね…。って、うわ!」
立ち上がろうとした瞬間、私の耳をとてつもない轟音が貫いた。
またあの声だ。またあの地に響くような呻き声が辺りを飲み込んだのだ。
「ねえ!どうしよう、また声が近づいてきたよ!?」
ああ、嫌だ!掌で耳を覆ってもまだ私の耳に響く呻き声。体中の細胞が危険信号を発しているのが分かる。逃げなきゃ。
……でも、どこへ?
:09/07/11 19:03 :F905i :tSzZ2Nw.
#48 [渚坂]
そして次の瞬間、私たちが隠れている木の陰からちょうど10メールほど離れた場所の茂みが僅かに揺れた。隣にいた綾辻がゴクリとのどを鳴らし、こう呟いた。
「ったく、由がデカい声出すから、ついに『魔王様』がおいでなすったぜ」
……魔王。それはひどく恐ろしい名で、私にこれでもかっていうくらい恐怖を与える名。
:09/07/11 19:04 :F905i :tSzZ2Nw.
#49 [渚坂]
「な、んで?この前も来たばっかりじゃない!」
思わず叫んでいた。我ながら情けない声を出したと思う。
けれどすぐそこに魔王がいるのだ。
多少叫んだって居場所はもう知れているだろう。それよりも、私の体はピクリとも動くことができず、ただただ恐怖が支配していた。
:09/07/11 19:05 :F905i :tSzZ2Nw.
#50 [渚坂]
魔王が私をねらってきたのはこれが初めてじゃない。何度も全身の血液が逆流しそうなほどの体の震えを体験したし、立っていられないほどに腰を抜かしたこともある。
“何故、私はこんなにも狙われるのだろう”
こんなことを考えた日もあった。
でも、答えは驚くほど単純明快で、呆れるぐらい明確な因果関係がそこにはあった。簡単に言ってしまえば、私が人間で魔王が吸血鬼だから。
ただ、それだけ。
:09/07/18 09:22 :F905i :TzuKy0vI
#51 [渚坂]
そして吸血鬼は魔王だけではない。というか、魔王はもとは私と同じ学年の生徒なのだったりする。
もう訳が分からないっすよね……。でも大丈夫、私も未だに頭はクラッシュしてばっかりだから。
つまり、私が通う桔鳴高校は吸血鬼を集めた吸血鬼による吸血鬼の為の吸血鬼の学校なのだ。
まあ、吸血鬼っていきなり言われてもね……。はいはいそーですか、って信じれる人間がどこにいるだろうか。
いたら是非ともその思考回路を見てみたい。切実に。
:09/07/21 17:45 :F905i :lL94ZNjo
#52 [渚坂]
私がこんなに悶々と考え込んでいる間にも周りの空気は張り詰めていく一方で、隣の綾辻の眉間の皺も深くなっていく一方。
「くそっ!R.B.さえ貰ってれば何でもできるのに……」
綾辻ももう隠れる気はないらしい。証拠にさっきより声が数段大きくなっている。
:09/07/21 17:46 :F905i :lL94ZNjo
#53 [渚坂]
「え、R.B.ってみんなが毎朝飲んでる赤いタブレットよね?」
さっき立ち上がり損なった私は綾辻に手を引かれながらやっとのことで立ち上がった。私もさらさら隠れる気はない。こうなりゃヤケよ。それよりR.B.のことが気になる。
「今日の分のR.B.だ飲んでないんだよねー。そりゃ誰太も魔王様に変わっちゃうって話」
:09/07/21 17:47 :F905i :lL94ZNjo
#54 [渚坂]
そう言った綾辻は疲れきったサラリーマンのような疲労困憊した表情を作ったので、思わず「どんまいっ!」と肩を叩きたくなった。
……もちろん、この張り詰めた状況でそんなことはしなかったけど。
:09/07/21 17:47 :F905i :lL94ZNjo
#55 [渚坂]
『R.B.』それは毎朝朝礼の時に私以外の全ての生徒に配られる血のように赤い錠剤のこと。
その錠剤は彼らの中に存在する“ある欲望”を分解し、別の力へと変換させる不思議な力を持つらしい。
最近の科学はホント進んでるよね。
まあ、言わずとも彼らの中にある欲望とはただ一つ。「血を、人間の鮮血を貪りたい」というもののみ。
:09/07/21 17:48 :F905i :lL94ZNjo
#56 [渚坂]
なにせこの桔鳴高校の生徒は私以外全て吸血鬼なのだから。
R.B.のおかげで私は今日まで彼らの餌食にならずにすんだ、といっても過言ではない。
もちろん、横にいるこのオレンジ頭の綾辻も吸血鬼。
さらに詳しく言うならば、私を狙ってきた魔王とは、同じく同学年の“三國 誰太(ミクニ スイタ)”の中にある吸血鬼の本性の名。
:09/07/21 17:49 :F905i :lL94ZNjo
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