吸血鬼死重奏
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#72 [渚坂]


「死んだか?つまらん……」


その一言に私の中で沸き上がっていたある感情が沸点へと達した。一気に体温が上昇し、頭に血が上る。目の前がチカチカして視野はみるみる狭くなっていく。

今では魔王しか目に入らない。

⏰:09/08/05 18:51 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#73 [渚坂]


そして気付いたときには右足が地面を蹴り上げ、体は風を一身に受けていた。

「うわぁぁぁああ!!!!」

よくも綾辻を……。綾辻を!!
もちろん人間の私が“魔王”に勝てるはずがないのは分かってる。

“ヤメナサイ”

“ニゲナサイ”

“ナニガシタイノ?”

心の隅でもう一人の私が制止をかけるのだが、それ以上に熱い感情が私を突き動かす。友達が、私の大切な人を見捨てて逃げるなんで私には出来ない。

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#74 [渚坂]


「そちらから来ていただけるなんて有り難い。遠慮なく血を啜らせていただくぞ」


両手を広げ、ニヤリと笑う口から必要以上に尖った牙をむく魔王。その表情に一瞬だけ背筋が凍る。だけど、立ち止まってなんかいられない……!!

⏰:09/08/05 18:52 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#75 [渚坂]


チャンスは一度。
誰太君の懐に入ったその一瞬のみ。急かされるようにせわしなく足を動かしながらポケットから護身用の小さな金色の十字架を取り出す。

これは入学した誰もに渡されるただの備品。
吸血鬼の生徒たちには十字架になれるために渡されたようだが、今の私にはどんなものより心強い武器となっていた。

⏰:09/08/05 18:53 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#76 [渚坂]


感想お待ちしてます(^ω^)

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⏰:09/08/05 18:54 📱:F905i 🆔:zDPjXS.w


#77 [渚坂]


……十字架なんて必要ないと馬鹿にした私が馬鹿でした。まさかこれがこんな風に役立つ日がくるなんて、ね。


私自身の体重を乗せて尖った部分を胸部に振り下ろせば、魔王の動きを鈍らせることぐらいできるだろう。

⏰:09/08/16 23:58 📱:F905i 🆔:Lqbduplk


#78 [渚坂]


魔王との距離はあと数メートル。

じわじわと手を濡らす汗で滑り落ちそうになる十字架を強く握りなおす。


「っ……!」


そして私は勢いよく“三國 誰太”の懐に体当たりしたが、もちろん私ごときの勢いで誰太君がよろめくわけもなく、逆に顎を捕まれ腰を引き寄せられた。端から見れば、まるでキスでもされそうな構図である。


……もう、逃げられない。

でも、これでいい。

⏰:09/08/16 23:59 📱:F905i 🆔:Lqbduplk


#79 [渚坂]


私は手に持っていた十字架を誰太君の体に振り下ろした。
……が、私が腕を振り下ろした瞬間、あろうことか魔王はあれだけ密接に接触していた私の体を突き飛ばしてきた。

ゆっくりと視界が反転する。


「……へっ?」


あれだけ意気込んでいたにも関わらず、気の抜けるような声を発しながら私はしりもちをついてしまった。


⏰:09/08/17 00:00 📱:F905i 🆔:SlJXxl/w


#80 [渚坂]


「ははは!残念だったな。お前の考えなど手に取るように分かるぞ」


魔王の乾いた笑いが響く。
ごめん綾辻。私やっぱり何も出来なかった……。

「くっ……!!」

今はただ魔王を睨みつける。虚勢にしかすぎないのだけど、そうでもしないとこの毒々しい空気にのまれてしまいそうで……。

⏰:09/08/17 00:01 📱:F905i 🆔:SlJXxl/w


#81 [渚坂]


「おお!その挑戦的な顔いいな。俺は威勢のいい女は割と好きだぞ」

「五月蝿いっ!お前は綾辻を……」


私の火照った頬を冷やすように一筋の滴が流れ落ちた。泣いてもどうしようもないことぐらい分かってるけど、一回溢れ出した涙は止め処なく私の頬を濡らす。

⏰:09/08/17 00:01 📱:F905i 🆔:SlJXxl/w


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