柚子 ー短編・中編ー
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#1 [柚子]
:09/06/28 12:05
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#2 [柚子]
:09/06/28 12:15
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#3 [柚子]
“死姦”という言葉を聞いたことがあるだろうか。
“死”に“姦”で死姦。
俺がその魔力に憑かれてしまったのは、渚の死んだ日からだ。
:09/06/28 12:15
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#4 [柚子]
渚との出逢いは海だった。
男三人で行った海で俺たちはナンパに励んでいた。
何組もの女の子たちにフラれた末、女三人で来ていたグループのナンパに成功した。
:09/06/28 12:17
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#5 [柚子]
その中に渚がいた。
海でナンパした女の子と恋に落ちる。よくある話だ。
でも俺たちが他のカップルと違っていたのは、それが一夏の恋じゃなかったことだ。
:09/06/28 12:17
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:rbYytCdI
#6 [柚子]
出逢って三回目の夏、俺は渚との結婚を意識していた。
“プロポーズは俺たちが出逢ったあの海でしよう”
そんなロマンチストみたいなことを思いついた自分を呪ってやりたい。
:09/06/28 12:18
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#7 [柚子]
「ドライブがてら海でも見に行かないか?」
一緒に外食した帰りの車内で俺は渚に言った。
時計は夜九時を指していた。
:09/06/28 12:20
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#8 [柚子]
その日は金曜日で、土日が休みの俺たちが帰宅するには少し勿体ないような時刻だった。
いつもならどちらかの家に行ってDVDを観たりしながらのんびりするのだが、その日は違っていた。
プロポーズするつもりだった。あの海で。
:09/06/28 12:21
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#9 [柚子]
ポケットに入れてある指輪の箱を指先でこっそり確認しながら、俺は海へと車を走らせた。
夜の海は思いの外静かで、プロポーズの舞台としてはピッタリな気がした。
歩道に寄せて車を停めた俺たちは、浜松を手を繋ぎながら歩いた。
:09/06/28 12:22
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#10 [柚子]
「座ろうか」
俺がそう言うと、渚は頷き立ち止まった。
(いよいよだ…)
自分でも自惚れていると思うけど正直言って断られた場合のことは考えていなかった。
:09/06/28 12:25
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#11 [柚子]
それよりもどうやって結婚の話を切り出すか、そのことで頭が一杯だった。
自分からは一度も結婚という二文字を口にしたことのない渚は、どんな顔をするだろうか。
感動屋の渚のことだから、もしかしたら泣くかもしれないな。
:09/06/28 12:26
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#12 [柚子]
その後で笑うんだ。俺の大好きなあの笑顔で。
幸福な妄想を膨らませてから俺は口を開いた。
“結婚しよう”
その言葉を、俺は渚に伝えられたのだろうか。
:09/06/28 12:27
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#13 [柚子]
突如、後頭部に衝撃が走り俺はその場に倒れ込んだ。
目を開けた時にいたのは、病院のベッドの上だった。
俺の意識が戻ったことに気付いた看護師が医者を呼ぶ声が聞こえた。
:09/06/28 12:27
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#14 [柚子]
「何があったんですか?」
俺の質問に、その医者は何も答えてはくれなかった。
五分ほどの診察の後、病室をノックしたのは渚でも俺の両親でもなく、警察の人間だった。
:09/06/28 12:29
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#15 [柚子]
「海で倒れていた」
「誰かに背後から頭を殴られたようだ」
そんな説明をされた後で、刑事は俺に聞いた。
「何か覚えていることはあるか?」と。
:09/06/28 12:30
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#16 [柚子]
俺は首を横に振った。殴られたせいか、包帯で巻かれた頭部がズキズキと傷んだ。
「渚は?一緒にいた女性は無事なんですか?」
俺の質問に、刑事は意識はあると渋い顔で答えてから言葉を続けた。
:09/06/28 12:31
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#17 [柚子]
「でも今は会わないほうがいいだろう」
「えっ?そんなに重症なんですか?」
「いや…体は元気だ。今はまだ検査中で結果は出ていないが、衣類の状態や体についている痣から暴行を受けた可能性が高いと我々は踏んでいる」
:09/06/28 12:34
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#18 [柚子]
暴行というのが、レイプや強姦と言った単語と同類であることは俺にも理解できた。
「誰がそんな…」
俺が呟くと、刑事は大きなため息をついた。
:09/06/28 12:35
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#19 [柚子]
「それを君が知っているんじゃないかと思って、意識が戻るのを待ってたんだ」
刑事の言葉に、俺は記憶の糸を辿ろうとしたが、頭に鈍い痛みを感じただけで、何も思い出せなかった。
「すいません…」
:09/06/28 12:36
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#20 [柚子]
俺が謝ると、刑事は手を横に振った。
「いや、いいんだ。後ろから突然殴られたんだから、犯人の顔を見ていなくても仕方ない」
黙ったままの俺に、刑事は捜査についての簡単な説明をしてくれた。
:09/06/28 12:37
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#21 [柚子]
「今はDNAとか指紋とか技術が発達しているから、きっと犯人の手がかりが見つかるはずだ」
必ず自分が犯人を捕まえてみせる、そんな強い口調だった。
「膣内に犯人の精子でも残っていればいいんだが…」
:09/06/28 12:43
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#22 [柚子]
精子という言葉を口にした刑事は、すぐにハッとした顔で俺を見た。
「気にしないで下さい。覚悟はしてましたから。それにそんなことで彼女への気持ちは変わりませんから」
俺の言葉に、刑事は少しだけ笑顔を見せた。
:09/06/28 12:47
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#23 [柚子]
「プロポーズするつもりだったんです」
そう言って俺は指輪を入れていたポケットを触った。
「…あれ?」
服は倒れた時のままなのに、ポケットに入れていたはずの指輪がなくなっていた。
:09/06/28 12:50
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:rbYytCdI
#24 [柚子]
「どうしました?」
刑事が心配そうに俺を見ていた。
「いや…指輪が…あの海でプロポーズするつもりでポケットに入れていたんですけど…」
:09/06/28 12:50
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#25 [柚子]
「現場にいる刑事に聞いてみます。他になくなった物は?」
手帳に何か書き込みながら刑事はそう訊ねた。
「他は…あ…」
:09/06/28 12:56
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#26 [柚子]
財布に入っていたはずの、万札が二枚なくなっていた。
指紋が残っているかもしれないからと、財布を預かる代わりに刑事は名刺を置いていった。
中村恵太と名前の印字された名刺には、ボールペンで携帯の番号が書かれていた。
:09/06/28 13:03
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#27 [柚子]
「何か思い出したことがあれば、何時でも構いませんので連絡して下さい」
と言っていた中村刑事から犯人が捕まったと連絡があったのは、事件から二週間ほど経った日だった。
渚も俺も事件のショックから少しずつだが立ち直りかけていた矢先のことだった。
:09/06/28 13:04
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#28 [柚子]
セックスと呼ぶ行為をしなくなったことと、夜中に夢にうなされた渚が叫び声をあげて飛び起きる以外は、以前の生活に戻っていた。
指輪は見つからないままだったが、プロポーズの仕切り直しを考えていた時期だった。
:09/06/28 13:05
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#29 [柚子]
セックスと呼ぶ行為をしなくなったことと、夜中に夢にうなされた渚が叫び声をあげて飛び起きる以外は、以前の生活に戻っていた。
指輪は見つからないままだったが、プロポーズの仕切り直しを考えていた時期でもあった。
:09/06/28 13:06
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#30 [柚子]
:09/06/28 13:06
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#31 [柚子]
数日後、証人として裁判に呼ばれた俺は、犯人の顔を見て愕然とした。
正確には犯人たちだ。渚と俺を襲ったのは、まだ二十歳にも満たない大学生三人だった。
「海でいちゃつくカップル見てるとムカつくから」
:09/06/28 13:07
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#32 [柚子]
というのが、彼らの動機だった。
全く悪びれる様子もない彼らは、俺の財布から盗んだ金を使ったと答え、指輪に至っては女にやったといかにも気だるそうに答えた。
傍聴人席にいた彼らの両親らしき人物が頭を下げる横では、友達らしき女がガムを噛みながらニヤついた顔をしていた。
:09/06/28 13:08
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#33 [柚子]
あまりの怒りに手が震え、自分が証言した内容もはっきりと覚えていない。
ただただ早くその場を立ち去りたかった。
渚には、もう終わったとだけ伝えた。
:09/06/28 13:09
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:rbYytCdI
#34 [柚子]
“もう終わった”そう思っていた。
それが間違いだったと気付くのは、事件から一ヶ月が過ぎた頃だった。
その日会社を出た俺は、いつものように渚へ電話をかけた。
:09/06/28 13:11
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:rbYytCdI
#35 [柚子]
「一緒に夕飯でも食べないか?」
俺の誘いを渚は断った。
理由は体調不良だった。
「スーパーでお粥でも買って行こうか?」
:09/06/28 13:12
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:rbYytCdI
#36 [柚子]
という提案も、寝てれば治ると思うからと断られてしまった。
「そっか。それじゃ仕方ないな。ゆっくり休めよ」
ありがとうと渚は言った。それが俺の聞いた渚の最後の言葉だった。
:09/06/28 13:15
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:rbYytCdI
#37 [柚子]
あの日、少しだけでも渚の顔を見に行けば良かった。
そう後悔するのは、その日から二日経った後だった。
体調が治らないのか、メールすらない渚を心配した俺は渚の部屋に行った。
:09/06/28 13:17
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:rbYytCdI
#38 [柚子]
チャイムにも反応がないので、渚から貰った合鍵を使い中に入った。
玄関には、渚が出かける時にいつも履いていた靴がきれいに並べられたままになっていた。
「渚?寝てるのか?」
:09/06/28 13:20
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:rbYytCdI
#39 [柚子]
声を掛けながら寝室を覗いたが渚の姿はなかった。
次にリビングも見たがやはり渚の姿はなかった。
キッチンはリビングと一緒になっているので、見てないところと言えばトイレと風呂場だけだった。
:09/06/28 13:25
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:rbYytCdI
#40 [柚子]
出かけた形跡もなかった。
シャワーの音はしなかったが、念のためにと覗いた風呂場に渚はいた。
お湯が真っ赤に染まった浴槽の中に渚は浸かっていた。
:09/06/28 13:33
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#41 [柚子]
渚が何故そんな姿で最後を迎えることを選んだのかはわからない。
だが、全裸で真っ赤な浴槽に浸かる渚の姿は今までで一番綺麗に見えた。
息を飲んだ自分の喉の音で現実に戻された俺は、渚を浴槽から抱き上げた。
:09/06/28 14:23
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#42 [柚子]
渚の青白い顔を見た時から予想はしていたが、渚はすでに息を引き取っていた。
お湯の温度なのか渚の体はまだ温かく、脈を確認するまではまだ生きているという希望がどこかにあったのかもしれない。
俺はバスタオルで渚を包み寝室のベッドへ運び、寝かせた。
:09/06/28 14:25
:P906i
:rbYytCdI
#43 [柚子]
そこで脈を取り渚の死を改めて確信した。不思議と涙は出なかった。
悲しみとか絶望とかそういった感情はなく、というより何の感情も込み上げてこなかった。
愛する者の死というのは、こんなにもあっさりと受け入れることができるものなのだろうか。
:09/06/28 14:26
:P906i
:rbYytCdI
#44 [柚子]
俺はベッドに腰をおろすとゆっくりと渚の頬に手を伸ばした。
まだ微かに温かい渚の頬に触れた俺は、渚の死体を発見してから初めて“感情”に襲われた。
それは怒りでも憎しみでもまして悲しみでもなく、欲望だった。
:09/06/28 14:47
:P906i
:rbYytCdI
#45 [柚子]
頬に触れただけにも関わらず、俺は今にも射精してしまいそうなほどの興奮に襲われていた。
渚と一つになりたい。
その欲望を抑えるだけの理性が、その時の俺にはなかった。
:09/06/28 14:49
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:rbYytCdI
#46 [柚子]
短い挿入の後、俺は渚を浴槽に戻し、中村刑事に電話を入れた。
「連絡がないから心配で様子を見に来たら渚が死んでいた」
という俺の話を疑うものはいなかった。
:09/06/28 14:50
:P906i
:rbYytCdI
#47 [柚子]
遺書の代わりに、トイレのゴミ箱から妊娠検査薬が見つかった。結果は陽性だった。
渚は妊娠していた。
最近していなかったことと事件のことを考えると、父親は俺ではないだろう。
:09/06/28 14:52
:P906i
:rbYytCdI
#48 [柚子]
中村刑事が事件の話をしてくれたおかげで、渚は自殺として処理された。
俺が行ったあの行為は、俺と渚以外誰にも知られることはなかった。
渚がいなくなって一年が経とうとした頃、俺は同僚からある女性を紹介された。
:09/06/28 14:53
:P906i
:rbYytCdI
#49 [柚子]
クリクリとした大きな黒目が可愛らしい、三つ年下の女性だった。
渚のことを忘れたわけではなかったが、彼女と食事をする仲になった。
何度目かの食事は居酒屋だった。
:09/06/28 14:54
:P906i
:rbYytCdI
#50 [柚子]
酒の勢いで彼女とラブホテルへ入った。
しかしこれからという時になって、急に興奮と勢いが冷めた俺は何もせずにホテルを出た。
「お酒のせいだよ」
:09/06/28 14:55
:P906i
:rbYytCdI
#51 [柚子]
と、彼女は俺の不能さを責めなかったが、彼女とはそれっきりになった。
彼女からの連絡を俺が無視したからだ。
彼女を紹介した同僚も、何も言ってこなかった。
:09/06/28 14:56
:P906i
:rbYytCdI
#52 [柚子]
渚がいなくなって、二度目のクリスマスだった。
定時に仕事を終えた俺は、酒を買いに帰宅途中にあるコンビニへ寄った。
雑誌を立ち読みしてから、ビールとつまみ、缶コーヒーをカゴに入れレジへ向かった。
:09/06/28 14:58
:P906i
:rbYytCdI
#53 [柚子]
クリスマスにも関わらず、レジにいたのは若い女だった。
(クリスマスにバイトなんて恋人いないのかな)
ちょっとした好奇心から、店員の顔に目をやった。
:09/06/28 14:59
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:rbYytCdI
#54 [柚子]
その瞬間、フラッシュバックするみたいに記憶が蘇ってきた。
裁判の日に、傍聴席でガムを噛んでいたあの女だった。
予期せぬ偶然に全身に鳥肌が立った。
:09/06/28 15:00
:P906i
:rbYytCdI
#55 [柚子]
だが、さすがに
「あの日裁判所にいただろう?」
とは聞けず、そのまま会計を済ませ車に乗った。
気持ちを落ち着けようと、買ったばかりの缶コーヒーを口に含んだ。
:09/06/28 15:01
:P906i
:rbYytCdI
#56 [柚子]
缶コーヒーを飲みながら、改めて彼女に視線を戻した時だった。
レジに若い男が現れた。
彼の姿を見た彼女は壁にかけてある時計に目をやり、笑顔を見せた。
:09/06/28 15:07
:P906i
:rbYytCdI
#57 [柚子]
どうやら上がりの時間らしく、レジの点検をする彼女を遠目に眺めていた俺に、ある考えが浮かんだ。
(あの女をつけてみよう)
何故そんなことを思ったのかわからない。
:09/06/28 15:08
:P906i
:rbYytCdI
#58 [柚子]
クリスマスにまっすぐ帰宅するのが嫌だったのかもしれない。
それともそれもまたただの好奇心だったのかもしれない。
彼女が出てくるのを待っていると、すぐに彼女は店から出てきた。
:09/06/28 15:14
:P906i
:rbYytCdI
#59 [柚子]
店を出た彼女はカバンから携帯を取り出し、誰かと電話を始めた。
話ながら歩く彼女の後を車で追った。
かなり不審な車だったと思うが、彼女は全く気に止める様子もなく電話を続けていた。
:09/06/28 15:16
:P906i
:rbYytCdI
#60 [柚子]
ほんとは気付いて欲しかったのかもしれない。
俺があの時の事件の被害者だと思い出した彼女が、俺に謝る…そんな考えが頭の片隅にあった。
俺はただ謝ってほしかったのだ。それは裁判に出たあの日から変わず俺の中に存在している気持ちだった。
:09/06/28 15:20
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:rbYytCdI
#61 [柚子]
彼女はコンビニから一番近い駅で足を止めた。
電話を切った彼女は、鏡を取り出し髪型を整えていた。
誰かと待ち合わせをしているのだと、名探偵じゃない俺にも容易に想像できた。
:09/06/28 15:22
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:rbYytCdI
#62 [柚子]
彼女が見える位置に車を路駐し、煙草に火をつけた。
彼女が嬉しそうに手を振って車に駆け寄ったのは10分ほど経ってからだった。
そのまま車に乗り込んだ彼女を乗せた車を、俺はまた追いかけた。
:09/06/28 15:23
:P906i
:rbYytCdI
#63 [柚子]
その車がファミレスに入ったので、俺も後に続いた。
車から降りてきたのは彼女と男だった。二人は手を繋ぎ店内へと姿を消した。
少し迷って、俺も店内へ入ることにした。
:09/06/28 15:24
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:rbYytCdI
#64 [柚子]
(ここまできたらとことん尾行してやろう)
そんな意気込みで、入り口のドアを開けた。
店内を見回すと窓側の席に彼女の姿を見つけた。
:09/06/28 16:14
:P906i
:rbYytCdI
#65 [柚子]
案内された席からは相手の男の姿は背中しか見えなかった。
注文を済ませるとトイレへ向かった。
トイレへは、彼女のいる席の横を通るのが自然なルートだったからだ。
:09/06/28 16:15
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:rbYytCdI
#66 [柚子]
ちょうどその席の横を通る時、男の話し声が耳に入ってきた。
「クリスマスと言えばやっぱ酒だよな!」
聞き覚えのある声だった。
:09/06/28 16:16
:P906i
:rbYytCdI
#67 [柚子]
「去年もその前も、塀の中だったもんねー」
通りすぎようとしていた足を止め、振り返って男の顔を見た。
忘れもしない。渚を暴行したあのグループの一人の顔がそこにはあった。
:09/06/28 16:17
:P906i
:rbYytCdI
#68 [柚子]
「あ?何ジロジロ見てるんだよ、おっさん!」
威勢良く言葉を吐くそいつは、俺の顔など覚えてもいないようだった。
殴りかかりたい衝動を必死で抑え、席へ戻った。
:09/06/28 16:19
:P906i
:rbYytCdI
#69 [柚子]
あの再会は、神様からのクリスマスプレゼントだったんじゃないかと思う。
あのクリスマスの日、俺は生き返った気分だった。
渚がいなくなって死んでいた心が、感情を取り戻したのだ。
:09/06/28 16:22
:P906i
:rbYytCdI
#70 [柚子]
止まっていた時間が動き出すとは、ああいうことを言うのだろう。
俺の時計は動き出した。
憎しみと怒りを単3電池の代わりにして。
:09/06/28 16:23
:P906i
:rbYytCdI
#71 [柚子]
その日から、会社を定時に上がりコンビニへ向かうというサイクルが出来上がった。
彼女の姿を見つけた日は、車をコンビニの駐車場から移動させ、少し離れた場所で彼女のバイトが終わるのを待って尾行した。
いない日は、真っ直ぐ家へ帰った。
:09/06/28 16:24
:P906i
:rbYytCdI
#72 [柚子]
一ヶ月も経つ頃には、彼女のシフトと住んでいるアパート、交遊関係などを把握していた。
月曜と水曜が休みで、他の平日は八時まで、土日は朝から夕方までというのが彼女のシフトだった。
かなりの確率でバイト帰りにあの男の部屋に泊まりに行っていた。
:09/06/28 16:28
:P906i
:rbYytCdI
#73 [柚子]
アパートで一人で過ごすことの少ない彼女に近付くのは困難にも思えた。
その絶好の機会が訪れたのは二月に入ってすぐのことだった。
いつものようにコンビニ近くの道路に車を停め、彼女を待っていた。
:09/06/28 16:29
:P906i
:rbYytCdI
#74 [柚子]
その道路が、彼女が帰りに必ず通る道だということはすでに熟知していた。
吸っていた煙草の煙を逃がす為に、少し開けていた窓から彼女の声が聞こえてきた。
「はぁー?スノボ行くなんて言ってなかったじゃん」
:09/06/28 16:30
:P906i
:rbYytCdI
#75 [柚子]
電話をしながら歩いてきた彼女は酷く怒っていた。
恐らく電話の相手はあの男だろう。
「で、いつ行くの?は?来週?まじありえん」
:09/06/28 16:32
:P906i
:rbYytCdI
#76 [柚子]
いかにも若者らしい口調で話している彼女の話に、俺は聞き耳をたてた。
来週彼女が一人になるチャンスが訪れるかもしれない。
(いつだ?曜日でもいい。口にしろ…!)
:09/06/28 16:36
:P906i
:rbYytCdI
#77 [柚子]
俺の願いが通じたのか、彼女は“その日”を口にした。
「12日って私の誕生日なの忘れたの?」
尾行して分かったのだが、彼氏にベッタリな彼女には友達がほとんどいない様子だった。
:09/06/28 16:44
:P906i
:rbYytCdI
#78 [柚子]
12日彼女は一人でアパートにいる。
俺はそう確信した。
あの男が誕生日の彼女を置いてスノボに行くことが条件ではあるが。
:09/06/28 16:59
:P906i
:rbYytCdI
#79 [柚子]
何故彼女なのか。復讐ならあの男を直接襲えばいいのではないか?
理由は簡単で単純明快だ。
好きな女が他人の手によって犯される気分を、あの男にも味合わせてやる為だ。
:09/06/28 17:02
:P906i
:rbYytCdI
#80 [柚子]
その日の為に俺は早速準備を始めた。
まずインターネットの通販で宅急便の会社の制服を購入した。
次に用意したのは大きな段ボール。これは電器店で貰ってきた。
:09/06/28 17:04
:P906i
:rbYytCdI
#81 [柚子]
段ボールには、受取人を彼女、差出人を彼の名前にした伝票を貼った。
後はナイフとガムテープ、帽子を用意し、ひたすら決行の日を待った。
12日は金曜日だったので、会社が終わってから彼女のアパートに行くことにした。
:09/06/28 17:08
:P906i
:rbYytCdI
#82 [柚子]
何か新しい情報があるかもしれないと、彼女の尾行も続けていた。
11日、いつも通り八時にバイトを終えた彼女は、珍しく電話をしていなかった。
もしかしたら、明日のことでケンカでもしているのかもしれないなと思った。
:09/06/28 17:12
:P906i
:rbYytCdI
#83 [柚子]
予想通り、あの男と会わない日は真っ直ぐアパートに帰った。
彼女の部屋の電気が点くのを見届け、帰宅した。
12日、仕事が終わるのと同時に席を立った俺を見た同僚に声をかけられた。
:09/06/28 17:17
:P906i
:rbYytCdI
#84 [柚子]
いつだったか俺に女を紹介した同僚だった。
「なぁなぁ、お前最近彼女でもできたのか?」
「えっ?」
「いや、最近お前仕事終わるとすぐ帰るからさ」
:09/06/28 17:23
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:rbYytCdI
#85 [柚子]
「違うよ。今ちょっと海外ドラマにハマっててさ」
俺は咄嗟に昨日見たバラエティーに出ていた俳優の言葉を口にした。
「何だ、ドラマかよ」
どこか安心したように笑っている同僚に別れを告げ、会社を後にした。
:09/06/28 17:26
:P906i
:rbYytCdI
#86 [柚子]
家に帰ると、宅急便の制服に着替え帽子を深く被った。
鏡に写ったその姿は、どこにでもいそうな配達員に見えた。
(よし、後は…)
:09/06/28 17:28
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:rbYytCdI
#87 [柚子]
段ボールは昨日のうちに、車に積みこんである。
ちなみに段ボールの中身はカラだ。
中身があると、動きが鈍くなる気がしたので何も入れないことにした。
:09/06/28 17:30
:P906i
:rbYytCdI
#88 [柚子]
ポケットにサバイバルナイフを入れると、僅かな緊張が身体に走った。
時計を見ると、七時を少し過ぎたところだった。
彼女がバイトを終えるまでには、まだ時間があったが俺は家を出た。
:09/06/28 17:32
:P906i
:rbYytCdI
#89 [柚子]
いつもの場所でバイトが終わるのを待つことにした。
その時間が今までで一番長く感じたのは、緊張のせいだろうか。
八時二分に彼女は店から出てきた。
:09/06/28 17:34
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:rbYytCdI
#90 [柚子]
アパートに帰るかどうかは賭けだった。
誕生日だからと、家族と過ごす可能性は捨てきれなかった。
もしアパートに向かわず、どこかへ行くようだったら今日は諦めようと思っていた。
:09/06/28 17:36
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#91 [柚子]
だが、俺はその賭けに勝った。
アパートに帰った彼女は、部屋の電気を点けた。
念のため10分ほど待ってみたが、外出する気配はなかった。
:09/06/28 17:38
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#92 [柚子]
吸っていた煙草の火を消すと、車を降りた。
後部座席から段ボールを取り出し、彼女の部屋へと向かった。
深く息を吸ってから、玄関のチャイムを鳴らした。
:09/06/28 17:41
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#93 [柚子]
「はーい」
インターホン越しに彼女の声が聞こえた。
「柏木さんのお宅でしょうか?野田様からお届けものです」
:09/06/28 17:46
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#94 [柚子]
事前に用意していたセリフを述べると、彼女は
「えっ?武志から?」
と、嬉しそうな声をあげ、すぐにドアを開けた。
:09/06/28 17:48
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#95 [柚子]
カラの段ボールを、わざと重そうに抱えていた俺は、予定通りのセリフを口にした。
「かなり重いので、玄関の中に置きましょうか?」
俺の言葉に彼女は、何の疑いも持たず
:09/06/28 17:50
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#96 [柚子]
「あ、じゃあお願いします」
と、俺を招き入れた。
どうせこの大きな段ボールの中にどんなプレゼントが入っているのかしか考えていなかったのだろう。
面白いくらいすべてが計画通りに運んだ。
:09/06/28 17:52
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