死に至る病
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#340 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
やがて、僕は訊きたくなった。

理由もなく、雰囲気に流されたというのがぴったりかもしれない。

気づいたら訊いていた。



「直央ってさ」

「うん?」

「好きなやつ、いる?」

⏰:09/08/22 13:46 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#341 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
その時、だった。

暗闇をかき分けるように裂いて、空高く花火が上がっていき、大きな音を立て咲いた。

拍手がわきあがる。


それを合図にして、夜の花が次々と咲き乱れはじめた。

⏰:09/08/22 13:49 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#342 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
途切れることを惜しむように、絶え間なく咲く。

極彩色の花火は、黒の背景によく馴染み、映えていた。


直央は瞳に花火を映しながら、ぼんやり言った。

⏰:09/08/22 13:50 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#343 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「うん、いるよ」



今ならいつでも止めれた。

そうなんだと相づちをうって、話を終わらせればよかったのに、僕は続けてしまった。

⏰:09/08/22 13:51 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#344 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「どんなやつ?」

「王子様みたいな人かなっ」

「誰なの」


直央が困ったように眉を八の字にして、

もう止めようよぅ、

と言うのを――愚かにも僕はいじらしいと感じて、まだ続けた。

⏰:09/08/22 13:52 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#345 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ひときわ大きな花火が上がり、僕達を明るく照らした。



――そして、言った。


直央は、何々だよ、と可愛いらしく首をかしげて、言った。


思考が停止した。


目の前が真っ暗になった。

⏰:09/08/22 13:53 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#346 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
全身がぴりぴりと刺すようにひどく痛み、麻痺したように動かなくなった。



直央の言葉。

僕はそれをきちんと聞き取れていたのに、僕の全細胞が拒否して、すぐに記憶の隅へと追いやられてしまった。

心臓が早鐘を打つ。

⏰:09/08/22 13:54 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#347 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
そんな馬鹿なことがあるものか、と、震える拳を握りしめて、訊いた。

「い、今、なんて、言った?」

情けなく震えた声に、直央はにっこりと天使みたいに笑って(悪魔みたいに?)、

聞いたこともない甘い声で、

ささやくように、

恥ずかしそうに、


言ってしまった。

⏰:09/08/22 13:54 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#348 [chimu◆Hi9o8eIXuA]


「私の好きな人はねぇ」


ひときわ大きな花火が上がり、僕達を明るく照らした。






「渉ちゃんじゃない人」

⏰:09/08/22 14:01 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#349 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
頭が、無で満たされた。


体が冷たくなっていく。


手先や足の爪先から、どろどろとした氷水が這ってくるように、じわりじわりと冷たくなっていった。



現実と幻想の狭間で、僕は言葉を知らない獣のように叫び続けた。

⏰:09/08/22 14:07 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#350 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
無垢ゆえの残酷だった。



親友に好きな人を素直に教えた、喜んでくれると思って。

それ以外のなにものでもない。



では僕が間違っている。

⏰:09/08/22 14:08 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#351 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
目の前の少女にとってのハグ、キス、異性への嫉妬の定義を教えてください。



なにがいけなかった?

親友なんて、恋人なんて、きれいごとに縛られなければよかったのか?


奪えばいいのか?

⏰:09/08/22 14:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#352 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
無理矢理、真っ白いこいつを、欲望のままに汚せばいいのか?

好きになりやがれと、想いを押しつければいいのか?


だいたい好きな人って誰だよ、滅茶苦茶にしてやる、

――そうじゃなくて、ああ、もう、これは悪い夢なのか?


誰か僕に、教えてください。

⏰:09/08/22 14:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#353 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は無意識のうちにゆっくりと、花火を見上げる直央に手を伸ばした。



もう、いい。

もう、壊してやる。


好きな人がいるんだはいそうなんだ、じゃすまないくらいおまえを愛している。

⏰:09/08/22 14:11 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#354 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
他の女なんてみえない。

おまえがそうさせた。



直央、胸が、苦しい。


焼けそうだ。

⏰:09/08/22 14:13 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#355 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「直央ちゃーん、見てよ、わたがしにぷにたんの袋があるよん」

「ええっ、本当ぅぅ!?」

「ホントー」

「すごいすごいぃ。ごめん渉ちゃん、ちょっとりこちゃん達のところに行ってくるよぅー」

⏰:09/08/22 14:14 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#356 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
柔らかい髪に触れたその時、直央が僕のもとを去っていった。

僕の伸ばした手は空をつかんで、直央を捕まえることはできなかった。



花火が、きれいだった。

⏰:09/08/22 14:14 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#357 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ひとり残された僕に、高校生くらいの、きれいな女の子二人組が声をかけてきた。

珍しいことじゃなかった。

今までは直央がいるからと、ことごとく鼻であしらってきた。


これから私達と遊ぼう。

マスカラの塗りたくってあるまつ毛が、まっすぐな茶色い髪が、僕を物欲しそうに見ていた。

⏰:09/08/22 14:15 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#358 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
放心状態の僕は、何を勘違いしたかしらない女達に暗闇へと手を引かれて誘い込まれた。

花火の音が遠い。

誰もいない。


女達はいやらしい手つきで僕の体を触ってきた。

勝手に荒くなる女達の吐息が耳障りだった。

⏰:09/08/22 14:16 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#359 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
汚らわしい。

僕は女のひとりを草むらに思い切り突き飛ばし、もうひとりも背中を押して隣に突き飛ばした。

暑いし苦しいしでうざったるかった甚平の胸元を両手でがばっと開き、勝手に脱ぎだした女の服を下駄で踏みつけた。


どうして欲しいか言ってみろ。

自分のものとは思えない、低く冷たい声が暗い茂みに響いた。

⏰:09/08/22 14:16 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#360 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
めちゃくちゃにしてよ。

壊して。

女達が言った。



ふうん、いいよ。

直央の代わりに、壊してやる。

⏰:09/08/22 14:17 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#361 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「わ、渉っ……?」

その時、声がした。


僕が女を抱きしめたまま振り向くと、茂みの外にりこがいた。

驚愕の表情を、僕は笑った。


遅れて、女達がうつろな瞳でりこを見た。

⏰:09/08/22 14:18 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#362 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕は構わず続けた。



「なにしてんの、あんた…」

泣き出しそうな声だった。


女が舌打ちをする。

⏰:09/08/22 14:19 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#363 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「あんた邪魔だよ。早くここから消えてくれない」

女がりこに言った。

りこは歯をくいしばり、涙声でしぼるように叫んだ。



「渉、おまえ、なんてことしてるんだよ! こんなとこで、こんな時に、こんな女達と、こんなくだらないことして、――早く止めろっ!」


僕には届かない。

⏰:09/08/22 14:20 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#364 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
しびれを切らした女のひとりがのそのそと服を着て、りこに向かっていった。


「あんた、うるさい」

女はけらけらと笑いながら、りこを突き飛ばそうと手を出したが、

「畜生!」

りこはそう叫ぶと、なんの容赦もなしに女の顔面を殴りとばした。

⏰:09/08/22 14:21 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#365 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
女は突然のことに大した悲鳴も上げず倒れこみ、鼻血の垂れる鼻を押さえた。



僕は抱いていた女から離れると、殴られた女の顔を覗き込んだ。

これはすごい。

⏰:09/08/22 14:22 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#366 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「おまえも同じ顔にしてやる。間違っても、二度と直央ちゃんに近づけない顔にな」

りこは僕の胸ぐらをつかみ、すごみながら言った。


それでも僕は動じなかった。

⏰:09/08/22 14:22 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#367 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「我慢して、大切にしてきた女に裏切られた気持ちが、男勝りな女に分かるか。おまえは、りこは――湊に好きなやつができたら冷静でいられるのか?」

りこは黙って拳を振り上げると、僕の右頬を殴った。


「この甘ったれ野郎が! 直央ちゃんにフラれでもしたか? いい気味だね、むしろおまえみたいなやつにねちねち好かれるくらいなら、他のやつを好きになれた直央ちゃんは幸運だ。渉、おまえに直央ちゃんは不釣り合いなんだよ、人間性がな!」

⏰:09/08/22 14:23 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#368 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「……」

「好きな女に好きな男がいたら素直に身ぃ引いて応援すりゃいいんだよ! それなのに、なんだよ、このザマはよ、だらしねぇ! 飼い主に首輪外された、盛りのついた犬かおまえは!」

「そうだよ。犬だ。」


いいように直央に飼い馴らされてた、犬なんだよ。

⏰:09/08/22 14:24 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#369 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
涙が出た。

止まらない。


こんなにも直央を愛してるのに、弱い僕はくだらない解釈しかできない。

⏰:09/08/22 14:24 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#370 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕はりこに抱きつき、キスをした。

胸に手をやり、腰に手を回す。



もう一度、右頬に鈍い痛み。

股間まで蹴られた。


畜生、畜生と叫び涙を流しながら、りこは僕をきつく抱きしめた。

⏰:09/08/22 14:26 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#371 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
小さな頃から知ってる、優しいりこの匂いが、僕の犯した過ちをゆっくりと理解させていく。



直央、好きなんだ、

好きなんだよ、

愛してるんだよ、

それなのにどうして。

⏰:09/08/22 14:28 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#372 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
愛してるのに、どうして。

直央。

直央、なにがいけなかったんだよ教えてくれ。

僕は声に出して叫ぶ。



渉、おまえは悪くない、悪いのは誰でもないんだ。

りこも声に出して叫ぶ。

⏰:09/08/22 14:28 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#373 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
――『渉ちゃん』。


僕を呼ぶ甘い愛しい声が、頭の中で何度も繰り返される。


僕は手を差し伸べる。

けれど、直央は首を横に振って、本当に好きな人のもとへと駆けていく。

⏰:09/08/22 14:29 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#374 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
直央、と僕は叫ぶ。



命と差し替えてもいい、
全てを売っていい、
プライドなんて捨てていい、
生まれ変われなくていい、



僕を見て。

⏰:09/08/22 14:31 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#375 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ストックが切れたので、また後で更新します(^-^)

誤字脱字がありましたら、感想板まで知らせてくれると助かります

⏰:09/08/22 14:36 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#376 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
Their summer!
(Side Story)「貧血」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

また直央が倒れた。

全校集会での校長先生のありがたいお話(長くて眠くなって立つのがだるくなるのが嫌だけど)の最中いきなり電池が切れた玩具みたいに、ぱたっと倒れた。

その後すぐに目を開けて大丈夫だと言い張ったが、無理矢理、笹原先生に背負われて保健室へ運ばれた。

全校集会が終わり、見にきてみたらベッドの上で気持ちよさそうにすやすや眠っていた。

⏰:09/08/22 19:10 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#377 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
僕はベッドの横に椅子を持ってきて、しばらく寝顔を眺めた。

まつ毛なげぇな、つまめそう、ひっこぬいてやろうか。


ちょっと触ろうかなと手を伸ばしたところで、直央が目を開けた。

くるっとした碧い瞳で、辺りを見回し、頭を押さえながらゆっくりと起きた。

⏰:09/08/22 19:18 📱:N03A 🆔:SNme/9P6


#378 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
「おはよう、お姫様」


直央は驚いたように目を丸くして僕を見つめ、唸りながら、一緒なこと言わないでよぅと意味不明な発言をした。

まだ寝ぼけてる。

⏰:09/08/23 13:35 📱:N03A 🆔:ytt8HhJg


#379 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
ベッドの側にある窓から、生温い風と蝉の鳴き声が入ってくる。

もうすぐ夏休みだな。

お互いなにも喋らなかった。


やがて、保険室の風間先生が帰ってきた。

手にもつプリントは、扇ぐのに使ったのだろう、折り目だらけでしわくちゃだった。

⏰:09/08/23 15:00 📱:N03A 🆔:ytt8HhJg


#380 [chimu◆Hi9o8eIXuA]
風間先生は直央を見て、にっこり微笑みかけて近づいてきた。

真っ赤な口紅が、濡れたようにぬらぬら光っていた。


「心配したよー、狩山さん。具合はどんな感じかな? だいぶん良くなった?」

先生は直央の頭を撫でながら、優しく言った。

⏰:09/08/24 19:08 📱:N03A 🆔:ZJJ0NI9s


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