― 短編箱 ―
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#137 [栢]

たくさんの金木犀の花束を
両手で抱えてくる

小さな亜季子を
橙色の花が覆う
まるで花束が歩いてるみたいだ

「ー‥虎太郎さん
具合はいかがですか?」

彼女はいつも
きっかりと5時にやってくる
花屋の看板娘であった

⏰:09/10/20 19:46 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#138 [栢]

三年前に彼女の店で知り合った
2人とも金木犀が好きで
仲を深め交際を初め‥
早2年と半月が過ぎる

柔らかい香りが包む

「虎太郎さん、
お元気ないですね‥」

小さな花を
細く白い指で愛でながら
ぽつりと呟く

⏰:09/10/20 19:57 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#139 [栢]

窓の外は
秋の世界が広がり
枯れ葉が淋しそうだった

「‥もう時が近いのでしょう。
最近、嫌な夢を見るので‥」

もう外への世界へは出れない
そう先々週に告げられた

ただ最期を待つしかないのだ

僕がそう言うと
亜季子は悔しそうに
きゅっと口を締める

⏰:09/10/20 20:05 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#140 [栢]

「最期などと‥
どうか、どうか
おっしゃらないで‥」

今にも溢れんばかりの雫を
こぼれぬようにと拭う彼女が愛おしい

強がりな彼女を僕は愛した

美しい黒髪に柔らかな声
おっとりしたように見えるが
どこかの親父のように頑固だ

涙をこぼしたことなどは
今までに一度もない

⏰:09/10/20 20:14 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#141 [栢]

「亜季子‥、
話を聞いていただけますか?」

一呼吸置いて
落ち着いた口調で言った


亜季子は改まったように
背筋をぴんと伸ばして
僕のことをじっと見つめた

⏰:09/10/20 20:17 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#142 [栢]

「もう‥
ここへは来なくてよいですよ」

微笑していたが
残酷すぎたか‥

今までにない表情を見せて
「どうしてです?」

僕の腕を掴む手に
ぎゅっと力が入っていくのがわかる

⏰:09/10/20 22:15 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#143 [栢]

「先は長くない‥。
死別はきっと
何よりも残酷でしょうから‥」

亜季子を想っての事であった
自分の最期を知ってから
何度も何度も考えたのだ

「私は‥決めたのです
死ぬまで虎太郎さんについて行くと
こころに誓ったのです‥
最期まであなたを‥」

小さく肩を震わせて
泣いているのか亜季子‥?

⏰:09/10/20 22:22 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#144 [栢]

「死に際など
見られたくはないのですよ
‥格好つきませんからね」

最期くらい
格好付けたかったのだ。
このように室内にいては
格好いいことなど見せられたことがない

亜季子には幸せになってほしい
まだ若くお美しい
10も離れた僕でなく
もっと素敵な人と‥

⏰:09/10/20 22:29 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#145 [栢]

枯れ葉がまた一枚
ひらり、

「虎太郎さん。
私は‥覚悟してきたのです
10も離れた貴方とでは
世間からの目は冷ややかです。

―‥ ですが、恋人として
何時かは妻として‥
貴方を支えようと強くなったつもりです。

貴方に肩を貸すために
涙を流さず生きて参りました。

私は‥頼りのない女でしょうか‥?」

⏰:09/10/20 22:36 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


#146 [栢]

ぽたぽたと雫が落ちる
強き彼女が初めて泣いた

「亜季子‥」

ふわりと優しい香りが漂う。

ぎゅっと肩を抱き寄せた
小さな亜季子の肩は
以前よりも小さくなったように思えた

「どうしてです‥?どうして‥」

布に雫が染み渡る
確かに彼女は泣いていた

⏰:09/10/20 22:43 📱:D905i 🆔:vOnJO0u6


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