― 短編箱 ―
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#75 [栢]
相変わらず
ご飯粒を口元にくっつけてみたり
名前を呼ばれても
反応しなくなったり‥
終いには
ポットをやかんと間違えて
火にかけてしまったのだ。
底が真っ黒に焦げて溶けたポットを見て
ばあちゃんはじいちゃんに
怒鳴り散らした。
じいちゃんは
何も言わなかった
:09/10/11 23:51 :D905i :yXrxNsNQ
#76 [栢]
じいちゃんが
"ボケ"ていることがわかった私は
だんだんと切なくなり
かわいそうだと思うようになった。
あの時じいちゃんは
悲しいと思ってたかはわからないけど‥
かわいそうに感じて
厳しく言うばあちゃんを
嫌うようになった。
ばあちゃんはじいちゃんのこと
嫌いなんだ 、と‥
:09/10/11 23:53 :D905i :yXrxNsNQ
#77 [栢]
ある日
学校から帰ってくると
じいちゃんが家にいなくて
ばあちゃんに聞くと
「入院したんだよ」
とあっさり言われた。
じいちゃんがいなくなって
清々してるのか‥
更にばあちゃんへの憎悪は
大きなものになり
家が居心地悪かった。
:09/10/11 23:56 :D905i :yXrxNsNQ
#78 [栢]
"肺に水がたまってしまう病気"
詳しい病名は
まだ私も小さかったから
教えてもらえなかった。
:09/10/11 23:59 :D905i :yXrxNsNQ
#79 [栢]
お見舞いに行って
私は病室に入るのをためらった
じいちゃんは助からないと
どこかでわかっていたから‥
年も年だし
仕方ないとは思っていたけど
弱った姿を見たら
泣き出してしまいそうだった。
:09/10/12 00:00 :D905i :8HWp1nKk
#80 [栢]
お姉ちゃんに背中を押され
病室に入ると
ぐったりとした
たくさんの機械や管に繋がれた
じいちゃんがいた。
「ほらじいちゃん!
お見舞いに来てくれたんだよ!」
ばあちゃんが言うと
酸素マスクの下で小さな声で聞こえた
「ありがとう‥」
:09/10/12 00:04 :D905i :8HWp1nKk
#81 [栢]
久しぶりに聞いた声は
安定感を失っていた。
細く弱々しくなり
呂律がよく回っていなかった。
酔っぱらうたびに
げらげらと楽しそうに笑って
テンポよく話していたのに‥
そんな姿は
どこにももう見当たらない
:09/10/12 00:06 :D905i :8HWp1nKk
#82 [栢]
泣きたくなった
いや、少し泣いてしまっていた
笑うでもなく
辛そうにするでもなく
無表情なじいちゃん
何を思っているんだろう。
:09/10/12 00:15 :D905i :8HWp1nKk
#83 [栢]
水が飲みたくても
許されなかったじいちゃんは
白いコットンのようなものに
水を染み込ませて
それを吸っていた。
一生懸命、
「もっと飲みたいなぁ」と
わがままを言った。
もちろん
飲ませてはもらえなかったけど‥
人間らしいじいちゃんを見て
私はほっとした
:09/10/12 00:21 :D905i :8HWp1nKk
#84 [栢]
じいちゃんが
ばあちゃんの手を握り
途切れ途切れに話し始めた。
退院したらばあちゃんと
山に登って紅葉を見て
それから魚釣りをして‥
じいちゃんは
柔らかく笑っていた。
:09/10/12 00:24 :D905i :8HWp1nKk
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