街がスカーレットに染まる時
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#61 [ぎぶそん]
「おうよ!俺はテツローと違って平和主義者だから、トラブルとは無縁なの。
あーっ。そんなことより煙草吸いてえ」
真織がテーブルに自分の顎を置く。

私たちが通っているこの大学は、数年前から敷地内を全て禁煙としている。
ヘビースモーカーの彼にとっては実に応うことだろう。

「あっ、部屋がどんどん煙草臭くなってるのに気づいた時は出ていけって思いました」

私のこの発言に、一同が笑う。

軽音学部の人たちとは接する機会がないだろうと思ってたけど、今日一日で顔見知りの人たちが数人出来た。
なんか暖かい。

⏰:09/10/16 01:42 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#62 [ぎぶそん]
「あー!もうダメ!
煙草吸いてえ!
足立さん、帰ろうや」

勢いをついて真織が立ち上がる。
敢えて私のことを名字で呼んでいるのは、周りに親密さを悟られたくないからであろう。

「おー、仲良いんだねえ」三年の田口さんという男の人が、にやけ顔で言う。

「足立さんは最近歩いて帰るのが面倒臭いそうで、俺をアッシーと使ってるんです」
真織がその人にバイクの鍵を見せる。

ここ最近、放課後は彼と一緒にバイクで帰ってる。
徒歩が嫌というのもあるけど、ただバイクに乗るのが好きなんだ。
真織のバイクに乗るのが。

⏰:09/10/16 01:58 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#63 [ぎぶそん]
「ここまで来たらもう大丈夫でしょ。
あ、帰る前にちょっと一本吸わして、一本」

私の断りを聞く前に彼がパーカーのポケットから煙草の箱を取り出し、当たり前のように吸う準備をする。

「ちょっとは禁煙しようとは思わないの?
あんたの尊敬する草野さんは随分昔に煙草をやめたらしいよ」
「あの人はあの人、俺は俺」

彼は悠然とした態度で吸い続ける。

体内はニコチンまみれであろうこの男から、何であんな綺麗な歌声が出せるのだろう。
彼は結局、一本と言わずその場で三本吸っていた。

⏰:09/10/16 02:18 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#64 [ぎぶそん]
「…ったく、イチャこくんだったら自分らの家でやれっての。
公私混同すな!」
「かなめ、飲み過ぎ」

うっさい!と中身の空いた缶を彼に向かって投げる。

この日の夜の私は、真織の買って来た(買わせた)大量ね缶酎ハイで、ひどく酔い潰れていた。
愚痴を吐きまくり、悶々とする思いを目の前の彼にぶつけまくる。

将来は法律に携わる職を希望している者が、あろうことか法律違反をしている。
まあいっかあ、どうせ自分も後数ヶ月で二十歳だし。
今日は難しいことは考えたくない。
忘れたい、何もかも。

⏰:09/10/16 20:47 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#65 [ぎぶそん]
「そんなに悔しいなら新しい男でも作って見返してやりゃいいじゃん」
「それが出来たら苦労しないよ」

顔を仰ぎ、その上から酎ハイをぐいと押し込むように飲む。
レモン味のアルコールが気持ちよく食道を通っていく。

「でもかなめは幸せじゃん。
俺っていう心優しき人間と一緒にいるから、常に孤独を感じずに済む」
「その変わり煩わしさを感じてるけど」

つまみの乾燥スルメイカをくちゃくちゃと音を立てて貪る。
「あんまりだ」とぼやきながら、彼もそれに手を伸ばす。
その嘆く彼の姿が可笑しかったので、私は笑った。

⏰:09/10/16 21:04 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#66 [ぎぶそん]
「冗談に決まってんじゃん。それに、あんたがあの時声掛けて軽音の人らと楽しい時を過ごせたから、だいぶ救われたっていうのはある」

私は酒にもつまみにも手を出すのをやめた。
頭はかなり惚けているけど、きちんと平常心を保って言葉を発してる。

「何かあった時は、また俺らんとこに気軽に来ればいい」

その後話題は彼のいる軽音学部にまつわる内容へと転換した。
テツローはパチンコで三万摺っただとか、スリップノットっていうバンドが人気だとか。
先程の怒りが何だったのだと思うほど、私は彼の話を夢中で聞いていた。

⏰:09/10/16 21:39 📱:N703iD 🆔:HnX9XJ7c


#67 [ぎぶそん]
一週間後、空き時間に大学内にある図書館で一人で黙々と勉強をしていると、誰かが後ろから私の肩を叩いた。

「かなめっ!佳奈から聞いたよ!一年の男の子と一緒に住んでるんだって?」

同じ学科の市橋由美が、にたりとした顔で私を見る。
佳奈ったら、お喋りなんだから。

「伊藤君だっけ?軽音の友達からの情報によると、彼部内でなかなか目立ってるらしいよ」

彼女が私の隣の席に座る。
へえ、とだけ私は返す。

音楽やってる人なんて見た目がちょっと野暮ったくて、どれも似たり寄ったりにしか見えないけどな。

⏰:09/10/17 01:06 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#68 [ぎぶそん]
その時間の終了のチャイムが聞こえ、図書館を出る。
真織たちがいつも群れ集まってる広場を横切らなければ、次の授業がある場所へは行けない。
どうか彼がいませんように。

「あ、足立さんだ!足立さーん!」

…いた。
まったく、殊更に呼び止めたりしないでよ。
一応気付かれないようにと顔を伏せて歩いてたのに。

「へえ、この人が伊藤の同居人の人!?」

真織と一緒にいるその同級生らが、私を好奇な目で見てくる。

その中にいた小柄な女の子に一瞬、突き刺すような視線を送られたのは気のせいであろうか。

⏰:09/10/17 01:30 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#69 [ぎぶそん]
高校を卒業したてで大学にどう溶け込めばいいのかいまいち分からない一年生の中では、確かに真織は一際垢抜けたポジションにいるのかも知れない。

外見、物腰、雰囲気、その歳で既に洗練されたものがある。

そしてその輪は彼中心に動いてるようで、同い年の子たちから彼は慕われている様子だった。

「じゃあ私、急いでるから」
言い終える前に足を歩める。
「あ、足立さーん!今日帰りにトイレットペーパー買うよねえ?」
そんな私を彼が大声で後ろから呼び止める。

もう!二人の私情を大っぴらにしないでよ、恥ずかしい。

⏰:09/10/17 01:56 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#70 [ぎぶそん]
その日の夜、二人で近所のスーパーで買った数種類の半額惣菜を広げ、ありつく。

「さっきからずっと携帯いじりっぱなしだね」

彼が食事にあまり手をつけず、携帯画面の文字を打つことに必死になっていたので声をかけた。
普段あまり携帯を触らない彼にしては稀な行動なので、気になってはみる。

「うん。理香ちゃんって子からメールが届いてさ。
ほら、今日俺たちの中にいた背のちっちゃい子」

ああ。私を睨んだ子か。
彼は小さく唸り声を上げながら、携帯片手に格闘している。

⏰:09/10/17 02:15 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


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