街がスカーレットに染まる時
最新 最初 🆕
#69 [ぎぶそん]
高校を卒業したてで大学にどう溶け込めばいいのかいまいち分からない一年生の中では、確かに真織は一際垢抜けたポジションにいるのかも知れない。

外見、物腰、雰囲気、その歳で既に洗練されたものがある。

そしてその輪は彼中心に動いてるようで、同い年の子たちから彼は慕われている様子だった。

「じゃあ私、急いでるから」
言い終える前に足を歩める。
「あ、足立さーん!今日帰りにトイレットペーパー買うよねえ?」
そんな私を彼が大声で後ろから呼び止める。

もう!二人の私情を大っぴらにしないでよ、恥ずかしい。

⏰:09/10/17 01:56 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#70 [ぎぶそん]
その日の夜、二人で近所のスーパーで買った数種類の半額惣菜を広げ、ありつく。

「さっきからずっと携帯いじりっぱなしだね」

彼が食事にあまり手をつけず、携帯画面の文字を打つことに必死になっていたので声をかけた。
普段あまり携帯を触らない彼にしては稀な行動なので、気になってはみる。

「うん。理香ちゃんって子からメールが届いてさ。
ほら、今日俺たちの中にいた背のちっちゃい子」

ああ。私を睨んだ子か。
彼は小さく唸り声を上げながら、携帯片手に格闘している。

⏰:09/10/17 02:15 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#71 [ぎぶそん]
「…ああっ!質問に答えたところでまた別の質問が返ってくる!」

両手で頭を抱える彼。
落ち着きを取り戻す為か、煙草を吸い始めた。

「別にいいじゃん。
私が男だったらその理香ちゃんって子と沢山会話をしたくて、必死で話を盛り上げようとするけどな」

今日彼女を一目見て、余裕で『アリ』だと思った。
軽薄な性格で背の高い私とは違って、朗らかで愛くるしい彼女はその場にいるだけで周りが和むような雰囲気を持っていた。

「えー。文字で会話すんのってめんどくせ」
携帯を放り、彼が床に寝転んだ。

⏰:09/10/17 02:39 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#72 [ぎぶそん]
「じゃあこれからお風呂とか出掛けるとか適当に嘘ついて、『切れ』ばいい」

えー、それもなあ、と彼はどっちつかずの態度を取る。

「そしたらいっそのこと彼女のこと好きになれば?
そうすれば気も楽だし逆に楽しくなる」

向こうはおそらくあんたに気があるんだから。

「えー。あの子は何か違うなあ。俺、一人称が自分の名前の子あんま好きじゃない」

彼が天井を仰いだまま返答する。
へえ。あんたにも異性の好き嫌いというものがあるんだ。

⏰:09/10/17 02:57 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#73 [ぎぶそん]
「っていうか、あんたってわりかし異性に対して真面目なんだね」

思い切り遊びたい年頃だろうに、意外と堅い。

「んー。俺は、『女の人と暮らしてるなんてあり得ない!今すぐ住む場所を変えて!』なんてお説教を受けるシチュエーションを避けたいだけ」

「何言ってるの。新しい物件なんて探せばまたすぐに見つかるって」

「俺はここが気に入ってんの」

体ごと顔を向こうにやりながら、やや彼が感情を剥き出しにして言った。
彼のその言動を、私は嫌いではなかった。

⏰:09/10/17 03:18 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#74 [ぎぶそん]
翌週の水曜日。
この日の彼は一限から授業だというのに、タオルケットにくるんだ状態でぐずついたままでいた。
いつまでそうしてんの、と私は急き立てた。

「…風邪引いた。今日学校休む」

無理もない。
彼は未だに自分の寝具を持っておらず、まともな寝方をしていなかった。
毎回毎回敷き布団を広げるのが面倒らしい。

「よし、二段ベッド買おう」

「は?今ある自分のベッドはどうすんの?」

「リサイクルショップにでも売りに行く。あれはもう要らない」

私はお気に入りのダブルサイズのベッドを見つめた。

⏰:09/10/17 15:20 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#75 [ぎぶそん]
その三日後の金曜日。
一年以上使用していた自分のベッドとも今夜で最後となる。
せっかくなので、彼にも半分のスペースを貸してあげることにした。
二人が横たえても、ベッドはまだ十二分に余裕がある。
二人で微かに名残惜しむ気持ちを分け合う。

「スピッツのどこが好き?」
仄暗い部屋の中、お互い仰向いたまま話し込む。

「言わなーい」
「教えてよ、ケチ」
「全部だよ、全部」
「よくある答え方」
「そういうと思った。でもそれしか言い様がない」

大丈夫。私も近い将来、きっとそう言う。

⏰:09/10/17 15:44 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#76 [ぎぶそん]
「サギ師かまじない師、たぶんどちらかといわれればどっちだと思う?」
「何が?」
「自分の前世。『俺のすべて』にあるじゃん」

ああ。こないだ一緒にライブDVDを観て、「この曲かっこいい」って自分でも思わず何度も言ってた歌か。

「サギ師じゃないのかなあ。周りに自分を偽ってばっか」
「俺も」
「じゃあ、私の前でも嘘をついてる?」
「わかんない。むしろ自分という生き物すらよく分かってないから」

私も同じ。十九年以上生きてて自分というものを一番掴めてない。
そして生まれて来た意味も解せぬまま。

⏰:09/10/17 16:08 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#77 [ぎぶそん]
「今度六月にあるライブに見に来て。
俺ら新入生バンドは一番手だから時間に遅れないこと」

「バンドのメンバー揃ったんだ」

「うん。ていうか、今週の日曜日その皆がここに遊びに来ることになってるからよろしく」

「えっ!勝手に色々決めないでよ!」

私は手に持っていた小さなクッションを彼に投げた。
プライベートまで知れ渡ってる上に、その家まで教えてどうすんの。

「いいじゃん。
かなめもその時間空けといて。夜は焼き肉する予定だから。久しぶりのご馳走になりそう」

私も一緒にいること前提なんだ。

⏰:09/10/17 16:27 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


#78 [ぎぶそん]
翌日。部屋にあるベッドを業者に引き取ってもらってから、その変わりとなるように予め百貨店で発注しておいた二段ベッドが運ばれてきた。
ステンレス製で出来た、シンプルなデザイン仕上げで、二人のインスピレーションが見事に合致して、即購入を決めたもの。

深夜。上下に分かれて就寝する。
上段の彼が何度も寝返りを打つので、その度にベッドが音を立てる。

「上の人。さっきからみしみしうるさいですよ」
「すまん」

そう詫びながらもまた体の向きを変えた様子で、再び上段のベッドが軋む。
この男、何というか阿呆だ。

⏰:09/10/17 17:00 📱:N703iD 🆔:OucnczyY


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194