街がスカーレットに染まる時
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#1 [ぎぶそん]
どうもm(__)m
携帯を修理に出して今書いてるのが書き込めないので、暫くはこちらを書いていきます。
よろしくお願いします。

⏰:09/10/13 20:18 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#2 [ぎぶそん]
「その人、どうしても近くにいい物件を見つけられなかったらしくて。
その代わり、もちろん家賃は半分ずつ。少しでも貯蓄したいかなめには申し分ないと思うけど」
電話越しに、毛利佳奈の饒舌な口振りでの催促が続く。

「その人の名前は?」
「伊藤真織。イトウマオリよ」

真織さん。女か。

「分かった。でも、私もずっと住ませてあげるっていう保証はしないよ。トラブルを起こした際は早急に出て行ってもらう」

⏰:09/10/13 20:22 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#3 [ぎぶそん]
現在、現代社会に広く蔓延しているルームシェア。
私も大学の知人からの押し付けにも似た頼みにより、近日中に見ず知らずの人間と同じ屋根の下で暮らすこととなった。

同居人となる伊藤真織さんは年齢は私より一つ下で、この春から私と同じ大学に通うらしい。

電話を切った後、未知の同生活に向けて私は血眼で部屋の片付けに取り掛かった。
テーブルの上に山積みになっているカップ麺や弁当の空や、床に散らばっているプリントをゴミ袋に入れることから始まる。

⏰:09/10/13 20:36 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#4 [ぎぶそん]
同じ週の火曜日。伊藤さんの荷物と思われるものたちが、引っ越し業者のトラックによって運ばれてきた。
業者の人に渡されたのは、大型の段ボール二箱分。やけに少なくない?

そしてそのおまけにと、一つの黒いギターケースも受け取った。
へー。伊藤さんって楽器やるんだ。
少ない荷物なのに宅急便で送らなかったのは、こいつがあるからなのかな。

中身が入ってる様子のそれを、私は落とさないように慎重にリビング隅に置いた。

⏰:09/10/13 20:52 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#5 [ぎぶそん]
今日から一緒に住むことになる伊藤さんって、どんな人なんだろう。
渋々ルームシェアを承諾したものの、内心気にならずにはいられない。

私のこと見て、何と思うのだろうか。
凄く物静かな人だったら、どう付き合っていけばいいのか。
近所迷惑を気にしない、騒がしい人だったらどう出て行ってもらう口実をするか。

この共同生活、差し障りなく穏便に過ごせるといいけど。

そう思いふけっている途中で、部屋のインターホンが鳴った。

⏰:09/10/13 21:09 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#6 [ぎぶそん]
ようやく同居人との初顔合わせかも知れない。
手鏡で身だしなみを確認してから、ゆっくりと玄関のドアを開ける。

「足立かなめさん?」
私の予想は外れ、灰色のパーカーを羽織った背の高い黒髪の男の人がそこには立っていた。

「ええ、伊藤さんの知り合いの方ですか?
彼女ならまだこちらには顔を見せていませんよ」
彼を伊藤さんの身内か恋人と想定した上で話を進める。

「…いえ、俺がその伊藤真織です」
鼻の頭を人差し指で掻きながら、男の人は遠慮がちに言った。

⏰:09/10/13 21:22 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#7 [ぎぶそん]
私はその男の人、ならびに今日から一緒に住むことになる伊藤真織君を部屋に上げた。
上げたという表現も変か。
これから自分の住みかとなる場所に、たった今彼はたどり着いた。

「どういうこと。同居人が男の人だなんて聞いてないよ」
トイレに入ってすかさず佳奈に電話を掛けた私は、やや感情的になりつつ彼女に問いただす。

「だって、尋ねてもないじゃない」
揚げ足を取った様子で佳奈は笑った。

⏰:09/10/13 23:05 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#8 [ぎぶそん]
「いいじゃない。佳奈は会ったことないんだけど、その真織君って子、なかなかの美形らしいし。
どうしてもルームシェアが嫌っていうなら彼氏の一人や二人でも作ることね」

じゃあ佳奈、この後用事があるから、と彼女に告げられた所でお互い電話を切った。
最後の台詞は、最近失恋したばかりの私にはきついよ…。

私は今、とても面倒なことに巻き込まれているのだろうか。
それとも…。

⏰:09/10/13 23:16 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#9 [ぎぶそん]
その日の夕飯は、真織君が近所で買って来たコンビニ弁当を小さなテーブルを囲って食べることとなった。

目の前にいる得体の知れない彼は近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、とてもじゃないけど話しかけづらかった。
別に何か話したいとも思わないけど。

テレビも着けず物音一つしない部屋で静かに夕食の時間を過ごす。

「同居人が男って知ってがっかりな顔してる」
脚を立て行儀の悪い格好で黙々と弁当に箸をつけていた彼が、初めて口を割った。

⏰:09/10/13 23:26 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#10 [ぎぶそん]
「勘違いしてもらいたくないから最初に言っとくけど、俺は寝食する為にここにいる訳だから。
あんたに変なことして、ここを斡旋してくれた毛利さんって人に迷惑掛けるつもりもないんで」
白いご飯をばくばくと口に放り込みつつ、彼は言った。

初対面だというのに、初っぱなから生意気な口の聞き方をする彼に苛つく。
一応、私はあなたより一つ年上なんですけど。

ルームシェアと聞いて二人で部屋のインテリアに凝ってみたら時には友達として語り合ったりみたり、少しだけそんな想像をしていた自分が馬鹿みたいだった。

⏰:09/10/13 23:40 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#11 [ぎぶそん]
「煙草吸ってもいいっすか?」
食後の彼が手持ちぶさたになった様子で、ズボンのポケットから煙草の箱とライターを取り出した。

「どうぞ。ご勝手に」
読んでいる雑誌に目を向けたまま、私は彼の要求を受け入れる。
しまった。未成年に向かって「どうぞ」なんて言ってしまった。

彼は慣れた手つきで吸い始め、豪快に口から煙を吐いている。

佳奈が異性の一番好きな仕草は、煙草を吸ってる時だって言ってたっけ。
私からしてみたら、煙草を吸う若者の九割がただのかっこつけにしか見えないけど。

⏰:09/10/13 23:53 📱:N703iD 🆔:oNHA7wXY


#12 [ぎぶそん]
毎週欠かさずチェックしているお笑い番組を観終わった後で、私は彼より先にお風呂に入った。
彼の為に久しぶりに浴槽を洗いその浴槽に湯をはったいうのに、後でいい、とそっけなく言われたので。

念のためと、普段掛けない脱衣室の鍵を掛けている自分がいた。

いつにも増して、今日の疲れはとにかくひどい。
大方は気疲れといった所か。
何も考えずに、長いこと湯船に浸かったままでいた。

⏰:09/10/14 00:11 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#13 [ぎぶそん]
「出たよ。
湯が冷めない内に入ったら?」
テレビの隣にある棚から取り出したタオルで濡れた髪を拭きつつ、私は同じ空間にいる彼に声をかけた。

私の話が聞こえたのか、その彼はベランダのドアを開けて壁にもたれかかったまま、音量を気にしつつ弾き語りをしていた。
昼間私が部屋の隅に置いていた黒いギターケースが、彼の側で開いたままでいた。

乾いたギターの静かなアルペジオの音と、彼の小さな歌声が私の耳にも聴こえてくる。

⏰:09/10/14 00:29 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#14 [ぎぶそん]
「離さない このまま時が流れても
ひとつだけ小さな赤い灯を
守り続けていくよ

喜び 悲しみ 心ゆがめても
寒がりな二人を暖めて
無邪気なままの熱で

乱れ飛ぶ声に かき消されて
コーヒーの渦に溶けそうでも
ゆらめく陽炎の向こうから
君が手を伸ばしたら

離さない 優しく 抱きしめるまで
何もかも忘れていられるよ
ほこりまみれの街で」

⏰:09/10/14 00:39 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#15 [ぎぶそん]
「好きなの?スピッツ」
タオルを持つ手を動かしたまま、私は彼の側に座った。

「別に」
彼はをあぐらをかいた脚の上にギターを置き、近くにほっぽってあった煙草の箱に手をつけた。

嘘おっしゃい。
あんたのその性格に似合わない清涼感漂う歌声といい、明らかに全てがボーカルを意識したようなものじゃない。
きっと、少しでも理想に近づきたくて練習したんでしょ。

私はケースの中に入ってあった楽譜に映っているボーカルの横顔を見つめた。

⏰:09/10/14 00:55 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#16 [ぎぶそん]
「曲名の『スカーレット』って何の意味?花の名前か何か?」
その楽譜を手に取り、彼がたった今歌った曲の項目のページを開いた。
とても綺麗なメロディーラインだと思うし、私も弾けるように練習してみようかな。

「緋色に近い色のことらしいよ」
彼が灰皿に煙草の灰を落とす。

「ふーん。赤っぽい色か」
頭の中で色を想像する。

「ぷっ。あはは」
突然、彼が笑い出した。

⏰:09/10/14 01:05 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#17 [ぎぶそん]
「何?」
「いや、俺と同じように思ってた人がいるんだなあって思って。
後、あんた化粧してる時の顔と素顔が全く変わらなさすぎでウケる」

彼が煙草の煙でむせ返りながら笑い続ける。
私の眼を、ここに来て初めてまともに見てくれた瞬間。

「何よ!ちょっとあんたの足元にあるそいつを貸しなさいよ」
催促するように両手を伸ばす。

「弾けんの?」
私にギターを渡すと、彼が意地悪そうな笑みを浮かべる。

⏰:09/10/14 01:19 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#18 [ぎぶそん]
「弾けない。教えて」
渡されたばかりのギターを彼に返す。

「ぷっ、何それ。
初心者向きの『チェリー』からでも練習してみれば?
一ヶ月もあれば弾けるようになるよ」

「歌って」
「気分じゃないからやだ」「歌ってよ」

しょうがねえなぁ、と言いながら煙草を灰皿に押し付けると、私のリクエストに応えて「チェリー」を歌いだした。
少しは彼とも打ち解けてきたかな、そう思いながら私は彼の歌を側で聴いていた。

⏰:09/10/14 02:27 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#19 [ぎぶそん]
「やべぇ。今日こっちで寝具一式買うの忘れた」
風呂上がりの彼が、顔を歪ませて呟いた。

「はい、これ貸してあげる。今日寝る時はそれ使っていいよ」
私は彼にタオルケットを差し出し、リビングの中央にある長年愛用している白い折り畳みイスを指差した。

「明日の入学式は何時から?目覚ましセットしておく」
「九時半から入場だから、七時頃には目を覚ましたい」

私はベッドの備え付けに置いてあった置き時計を、明日の朝七時に鳴るように目覚ましの針を合わせた。

⏰:09/10/14 02:42 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#20 [ぎぶそん]
彼に了承を取り、部屋の電気を消した。
長い一日がようやく幕を閉じる。

「これ、なかなか寝心地いいんだけど。
布団買う手間省けそう」
真っ暗闇の中の彼のユーモラスな発言に、私は声を出して笑った。

「…大学ってどんな感じ?」

私の笑いがおさまると、次はこんな質問をしてきた。
気になるんだ。
真織君も明日から大学生の仲間入りだしね。

「少なくとも共同生活よりは、神経を張り巡らす必要がない所だよ」
私は自分で言った台詞に対してふふふと少しだけ笑った。

⏰:09/10/14 02:57 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#21 [ぎぶそん]
「…悪かったな。
あんたの楽しい大学生活、俺がぶっ壊しちまって」
何を思ったのか、彼の雰囲気がしんみりとしてきた。
ただの生意気な少年かと思ってたけど、一応悪気があるとか可愛いところあるじゃん。

「別に。この広い部屋を一人きりで過ごすのももったいないって思ってたし」
って、これは少し嫌味になるかな。

「…俺のことは呼び捨てで構わないよ。
俺はあんたのことを名前では呼ばないけど」
何だそれ。やっぱり生意気は生意気か。

「おやすみ。真織」
彼に背を向けるように、私は寝返りを打った。

⏰:09/10/14 03:08 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#22 [ぎぶそん]
翌朝目覚ましのベルで起きると、私も彼のスケジュールに合わせて朝食の準備をしたりせわしなく動く。
何か今の私、芸能人の付き人みたい。

「ちょっとネクタイ結んでくんない?」
皿洗いの途中、脱衣場にいた彼に呼ばれた。

「私、あなたの奥さんじゃないんですけど」
未完成の晴れ姿の彼に見惚れる間もなく、指示どおりに赤いネクタイを結んであげる。

「まあ、そう堅いこと言わないで」
「で、本当の理由は?」
「…中学も高校の時もずっと学ランだった」
ぷっ。結べないなら結べないって素直に言えばいいのに。

⏰:09/10/14 03:25 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#23 [ぎぶそん]
「昼はその辺のファミレスで食べてくるから用意しなくていいよ。
で、夜は俺の入学祝を兼ねてパァーッと焼肉でも食いに行こうぜ。
もちろん、あんたの奢りで」
玄関で革靴を履きドアを開けた彼が、ドアノブに手を掛けたまま私の目を見て歯を剥き出しにしてにやけた。

「そう年上の女にたからないで下さいな。
それに今日は、佳奈があんたの顔見たさに遊びに来るらしいよ。佳奈っていうのは、あんたにここを紹介した毛利さんのことね。
今晩は三人でお好み焼きパーティでもしましょうってさ」

お好み焼きかあ、それも悪くないなとぼやくと、彼は玄関のドアを閉め、外に出た。

⏰:09/10/14 03:45 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#24 [ぎぶそん]
昼過ぎ、約束どうり佳奈が私の部屋を訪ねてきた。

「どう?共同生活を一日終えてみて」
彼女が共同生活の差し入れにと、大きな紙袋から即席めんや袋菓子などの食糧を次から次へと取り出してテーブルに並べる。
今回私に頼んだこと、彼女自身も内心申し訳なさを感じているようだ。

「もう最っ悪。…ってのは嘘で、良くも悪くもないってところかな」

「で、その伊藤真織君がカッコいいっていうのは本当?佳奈、一目惚れでもしちやったらどうしよう〜!」佳奈が紙袋から取り出すスピードを速める。

⏰:09/10/14 04:05 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#25 [ぎぶそん]
おいおい。同じサークルの何トカクンが好きだとかいう話はどうなったのよ。
そう思いつつ、彼女に私が感じた限りの真織の特徴を伝える。

まん丸な眼に、綺麗に整えられた眉。
鼻は普通より高くて、唇は少しぼてっとしてる。
輪郭はシャープで、羨ましい限りの小顔かも。
髪の色は黒くて、毛先には緩やかにパーマがかかっていたかな。
身長は一七八センチくらい。ファッションはカジュアル系。

私の表現がよっぽどうまかったのか、佳奈は自身の想像上の真織に思いを馳せる。

⏰:09/10/14 04:19 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#26 [ぎぶそん]
でも、私にとって真織という少年の特に印象深かった部分は、セブンスターの煙草とマーティンのギター、透明感のある歌声、この三つ。
そうはっきりと思ったけど、佳奈には云わなかった。どうせ伝わらないだろうし。

「それから彼は、スピッツがとても好きみたいよ」
ベランダ近くで無造作に置かれてあった楽譜を佳奈に見せた。

「佳奈はあっちのがいい。『ダーリンダ〜リン』の人たち」
「ミスチル。私は別にどっちでもないな」

何てのは嘘。昨日の一晩で、スピッツという音楽アーティストに興味を持ったことは確か。

⏰:09/10/14 04:30 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#27 [ぎぶそん]
夕方、二人でうとうとしかけていると本日の主役の真織が帰って来た。
手には本屋の手提げ袋か。
また新しい楽譜でも買ったのかな。

「キャー!想像どおりの色男!
でもやっぱり、鈴木君の方がカッコいいかなぁ」

佳奈のハイテンションに、さすがの彼も少々たじっている様子だった。
でもまあ良かった。佳奈が彼を好きとかになったら、ますます話がややこしくなりそうだし。

佳奈と私はホットプレートを敷いたりと、夕飯の準備に取り掛かった。
部屋着に着替えた真織は、私たちの様子を何もしないではたからただ見ていた。

⏰:09/10/14 04:48 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#28 [ぎぶそん]
「それでは、真織君の入学を祝って乾杯〜!」

佳奈と私が昼間にコンビニで買ってきたコーラ片手に、祝杯を上げる。
本当は缶酎ハイ片手に、といきたいところなんだけど三人ともまだ未成年だし。

まあ、この中で一番若い彼はお構い無しにスパスパ煙草を吸ってるけどね。

佳奈お手製のお好み焼きを三人で味わいながら、佳奈がひたすら真織に質問をしそれを彼が受け答えする状態が続いていく。
その話の中で分かったことは、彼は理学部に進学するってこと、そして彼女はいないこと。

⏰:09/10/14 15:39 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#29 [ぎぶそん]
「真織君、何かサークルには入るつもり?
サッカー部だったらマネージャーとして佳奈もいるからね」
佳奈が缶コーラを一口飲んでから言った。

「軽音学部に入るつもり」
お。そうくるかなと思ってました。
彼がお好み焼きの皿を綺麗にたいらげた。

「高校の時は周りに自分と趣味の合う奴がいなかったから、大学では同じ趣味の奴に出会って一緒に演りたい」
そして今度は、コーラを一気に飲み干した。

自分の趣味って、スピッツのことなのかな。
中高生にとってはバンプやアジカンといったバンドの方が馴染みがあるしね。

⏰:09/10/14 16:05 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#30 [ぎぶそん]
「足立さんは何かサークル入ってるんすか?」
彼が脚を崩し、テーブルに置いてたセブンスターの箱から煙草を一本取り出した。
よそよそしく名字でなんか呼んじゃって。

「かなめはね、今写真部に入ってるけど、同じ写真部にいた彼と別れちゃったから辞めるかもって」
私が質問を返す前に、代わりに佳奈が答えた。
他人の不幸は密の味といわんばかりににやにやしてる。

「ありがちな退部理由だな」
彼がライターの火を煙草に押し当てる。

⏰:09/10/14 16:19 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#31 [ぎぶそん]
「そんな下らないことで辞めたりしないよ。」
私は空いた袋菓子を集めゴミ箱に入れ始めた。

この部屋の壁には、私の撮った写真があちこちと貼られてる。三段ボックスの上には愛用の一眼レフカメラを飾ってる。
今それら全ては私の中で何らかの意味をなしていて、私は怯えている。いつかそれら全てがガラクタとなる瞬間を。

夜の八時を過ぎて、親からの帰宅の催促の電話を受けて佳奈は帰る準備をし始めた。
玄関先で送ろうか、と真織と二人して尋ねたが地下鉄で帰るから大丈夫と笑って答えた。

⏰:09/10/14 16:45 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#32 [ぎぶそん]
「すげぇ明るい人だなぁ、毛利さんって。
俺てっきり、もっと落ち着いててしっかりした人を想像してた」

彼がベランダの窓を開け、壁にもたれた。そして、自分の元にギターケースを引きずり中を開ける。
昨日と同じように、その近くに座る私。
春の夜風が、穏やかな速さでこの部屋に入ってくる。

「確かにちょっと空気読めない部分もあるけど、私が大学で一番親しくしてるのは彼女だよ」
「へぇ」
「大事な友達なの」

一弦一弦の音を軽く確認した後、彼はあまり音を立てずにアルペジオ方式で静かに弾き出した。

⏰:09/10/14 17:03 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#33 [ぎぶそん]
「それで?スピッツを好きになったきっかけは?」
歌なしの彼の弾く「スターゲイザー」を聴きながら、私は顔に屈託のない笑みを浮かべていた。

「何であんたにそんなこと言わなきゃいかんの」
「あんたが誰が好きだろうが何時彼女が出来ようが興味はないけど、それくらい教えてくれたっていいじゃない。同じ家に住む者として」

「わかんない。気がついたら心の中に入ってた。
小五の時、親父に連れてってもらった彼らのライブがきっかけといえばそうなのかも知れないけど、何時好きになったのかは自分でも覚えていない」

⏰:09/10/14 17:14 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#34 [ぎぶそん]
彼が今弾いてるのを途中で止めると、今度は「スカーレット」を弾き出した。
私が彼のことを同居人として悪くはないかな、と思うきっかけとなった曲。

その場を立ち上がった私はボックスの上にあった一眼レフカメラを手に取り、再び彼の近くに腰を下ろした。

「私も、何時これに興味を持ったかなんて覚えていない。しいていうなら、小学生の時に観た『めぐり逢い』ってドラマで福山雅治が演じてた役の部屋に貼られた写真いっぱいの壁が印象的だったからかな。

カメラを手の中で転がすように触り続ける。

⏰:09/10/14 18:04 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#35 [ぎぶそん]
「私、この街であなたが出会ったスピッツファンの第一号でいいよ」
「へぇ。大体好きになってどれくらい?」
「一日」
「何それ」

気持ち的に、お互い目を見て笑い合う回数も増えていく。
彼の弾く忠実にスピッツの世界観を再現しかつ、自分の愛するモノとして独創性を放つ曲たちが、一晩中この部屋のBGMとして流れ続けた。

真織。あんたのおかげで二年目からの大学生活は爽やかに送れそうな気がするよ。
いつから横になり体を丸くしている私は、ベランダから見える夜空に一つだけ輝いている星を眺めていた。

⏰:09/10/14 18:22 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#36 [ぎぶそん]
翌朝。二人してベランダの窓を開けっ放しにしたままその場で寝ていたのには驚いたのと笑った。

「今日は一日どっかドライブに行こうや。明日から二人共学校始まるし、これからお互い顔を合わせる機会も減っていくからよ」
「生憎、私は車は持ってないよ。それとも提案者のあなたが持ってるというのかしら」

洗面台に二人並んで歯を磨きながら、三面鏡に向かって会話を続ける。
その鏡には、生気の薄れた寝ぼけ眼の二人の顔が映る。

⏰:09/10/14 18:40 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#37 [ぎぶそん]
「これだよ、これ」
共に出掛ける準備をし部屋を後にした後、彼がアパートの駐輪場に止めてあった大型二輪を出した。
煙草とギターと同じくらいの愛用品らしい。

引っ越しの際も実家の埼玉からここまで来たのもこれ一本だったとも話す。

全体的に黒っぽいそのオートバイは、年齢の割に少し落ち着いた雰囲気のある彼の愛車とするにはぴったりだと感じた。

「捕まって」
彼に渡されたルメットを着け、彼の後ろに同乗する。
バイクに跨ぐのはこれが生まれて初めて。

⏰:09/10/14 18:55 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#38 [ぎぶそん]
自分の両腕を彼の腰に回す。彼の背中に顔を歪ませると、その匂いがほのかに漂ってくる。二人の距離がゼロになる。

「ちょっと、そんなくっつかないで。あんたの豊満な胸が俺の背中に当たってる」
「うるさい」
私は回す腕の力をもっと強めた。

彼がエンジンを吹かせ、勢いよく発進させた。
自分たちと平行して動く自動車らと同等に、車道を真っ直ぐ走り続ける。
バイクが生み出す追い風が、彼が着ている灰色のパーカーを膨らませる。
速やかに視界を移動し続ける景色を眺める余裕もなく、私は彼にしっかりしがみついていた。

⏰:09/10/14 19:16 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#39 [ぎぶそん]
「どう?今の気分は?」
「最高」
言葉もいらないくらいに。

「行き先なんて特に決めてないけどいいよなあ?
まさに俺の人生と同じ。適当、いい加減」

走る音で前に座る彼には聞こえてないかも知れないけど、私は声に出して笑っていた。

適当でいい加減なのは私も同じ。
だからあなたは今ここにいる。

お互いの適当加減で私たちはこうして巡り合い、そして今同じ二輪に乗って目的のない旅に出ている。

今の私はそんな行き当たりばったりな人生を楽しんでる。そして満足してる。

⏰:09/10/14 19:27 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


#40 [ぎぶそん]
昼近くになりお互い空腹を感じた頃に、目についたパスタ屋に入り昼食を取った。

その後延々と街を走り続け、夕方、町外れの人気のないバス停のベンチに二人で腰かけた。近くの自販機で彼が買った同じ缶コーヒーを二人して口にする。

「前付き合ってたっていう写真部の彼とは何が理由で別れたの」
「何であんたにそんなこと言わなきゃなんないの」
「別に。一同居人としてただ聞いてみただけ」

辺り一面、田んぼだらけの景色が夕焼け色に染まっていく。

⏰:09/10/14 19:52 📱:N703iD 🆔:Sv8iNI2o


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