街がスカーレットに染まる時
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#80 [ぎぶそん]
「最初はブルハみたいな音楽がやりたかったんだけど、指が動かないから今の路線に変更した訳。
バンド名の由来はキャンキャン吠えることから来ていて、初期の音楽性を表している」
真織がホットプレートの上で焼く肉を返しながら、スピッツに関するうんちくを垂れる。
へー、と一同が関心を覚える。
長田君も小柴君も、スピッツに詳しい訳ではないらしい。
テナーやアジカンだのが演りたくて入部したけど、椎橋君と同じ感じで改めて彼らの歌に聞き惚れたとか。
真織の影響力は凄い。
皆の心にどんどんスピッツが入っていく。
:09/10/17 17:59
:N703iD
:OucnczyY
#81 [ぎぶそん]
「ライブでは何々演るの」
「内緒」
「『スカーレット』演ってよ」
「知ーらない」
「意地悪」
「あ。『放浪カナメはどこまでも』演ろっかなー」
「それを言うならカモメでしょ」
「『放浪カナメ』って良くね?足立さんのこと今からそう呼ぶわ」
「うるさい。年中ヤニ男」
私は彼の煙草の箱を中身ごとゴミ箱に入れた。
彼が「あ!」っと小さく悲鳴を上げると、取り乱すようにしてあさる。
「仲良いなあ」と椎橋君がにやけて呟く。
ここに来てずっと表情が硬かった長田君と小柴君も、特に「放浪カナメ」の下りで笑ってた。
:09/10/17 20:23
:N703iD
:OucnczyY
#82 [ぎぶそん]
食べ終わった後も、談笑は続いていた。
「彼らの一番の神曲って何だと思う?
とりあえず、『ロビンソン』のイントロは神がかかってるやろ」
椎橋君が煙草の灰を灰皿に落としながら皆に尋ねる。
「『猫になりたい』のイントロもなかなかの神だと思うよ」
あまり喋らない小柴君が強気に主張した。
「神曲となると『ガーベラ』か『楓』を俺は推すかなあ」
長田君が頬杖をついた状態で言う。
「はいはい!きりがないかやめましょ!結局もう全部神なんよ、神」
真織が両手を広げ割って入る。
その言葉に一同が頷いた。
:09/10/19 03:26
:N703iD
:C/V69ls2
#83 [ぎぶそん]
椎橋君たちがようやく腰を上げたのは、午後十時を過ぎたところだった。
三人に別れを告げ真織と二人きりになると、ベランダの窓を開け座り込む。
このシチュエーション、彼がここに来て何度目だろうか。
今となると、とても習慣づいたような気がする。
「良かったね。仲間が沢山出来て」
「まあね」
彼がケースからギターを取り出す。
今日は何を歌ってくれるんだろう。
「さっき小柴が『猫になりたい』なんて口に出したから、久しぶりに歌いたくなったわ」
彼が楽譜を広げ、その曲のページで動かす手を止める。
:09/10/19 18:02
:N703iD
:C/V69ls2
#84 [ぎぶそん]
「目を閉じて浮かべた密やかな逃げ場所は
シチリアの浜辺の絵ハガキとよく似てた
砂ぼこりにまみれて歩く
街は季節を嫌ってる
つくられた安らぎを捨てて
猫になりたい 君の腕の中
寂しい夜が終わるまでここにいたいよ
猫になりたい 言葉ははかない
消えないようにキズつけてあげるよ
猫になりたい 君の腕の中
寂しい夜が終わるまでここにいたいよ
猫になりたい 言葉ははかない
消えないようにキズつけてあげるよ」
:09/10/19 18:07
:N703iD
:C/V69ls2
#85 [ぎぶそん]
「西條って確かに見た目が派手で近寄りがたいかも知れないけど、実際はとてもいい奴だよ」
優哉が袖を捲りながら、彼女の私の前で他の女のことを誉める。
「そうね。彼女、風俗店で働いてるらしいし、男への接し方は熟知してるかもね」
「何それ。やってることで人のものさしを測るの?かなめってそんな奴だったっけ?」
温厚な彼がややむきになる。
「…何か最近二人で会っても楽しくないね」
そして、付け加えるように言った。
楽シクナイッテ何?
あなたが目の前の私をこれ一つも見てくれてないからじゃない…。
:09/10/19 18:43
:N703iD
:C/V69ls2
#86 [ぎぶそん]
真織の歌う歌を聴きながら、すっかり忘れていた過去のことを思い出した。
優哉と関係がこじれ始めた頃の出来事。
「人間は面倒臭い。猫に生まれてれば良かったかも」私は俯き加減でぼやく。
「でも、その人間じゃなかったらこうしてこの歌に感動することも出来なかった」
真織が白い歯を見せる。
あなた、最近私の前でよく笑うようになったね。
そうだね。人間として生まれて来なかったらあなたとも出会えてなくて、その上一つの音楽を共有することもなかった。
:09/10/19 19:30
:N703iD
:C/V69ls2
#87 [ぎぶそん]
一週間後。真織はアパートの近くの個別指導の塾でアルバイトをし始めた。
実際のところ、理学部に進学したのは高校の数学教師になりたかったかららしい。
今とは作家になる夢を優先したいから、大学生活の間に先生気分を味わっておくとか。
アルバイトが入ってる日、スーツ姿に着替えた彼はわざわざ私を広場に呼んで彼と同じサークルの皆の前で自分のネクタイを結ばせる。
輪の中にいるさりげない理香ちゃんの視線が痛い。
全く、どうせなら彼女に結んでもらえばいいのに。というかいい加減自分一人で結ぶようになって。
:09/10/20 23:10
:SH705i
:bX1zemXg
#88 [ぎぶそん]
その日の夜はテーブルに並んだ二種類のカップ麺を前に、彼が帰宅するのをTVゲームをしながらずっと待っていた。
一人で先に食べておくのも侘しいしね。
午後十時半過ぎ、玄関の鍵の開く音がした後に、黒のスーツ姿の彼が顔を現す。
「今日これ買って来た。後で一緒にやろー」
彼がリビングに腰を下ろすと、スーパーの袋から帰りがけに衝動的に買ったというしゃぼん玉セットを取り出す。
懐かしい。小学生の頃休み時間に校庭の隅で友達と一緒にやってたなあ。
それを目にしただけで、とても懐古な気持ちをくすぐられた。
:09/10/26 02:49
:SH705i
:qR2hLkuw
#89 [ぎぶそん]
食後にベランダに出て、二人で無邪気にしゃぼん玉を吹きながらはしゃぐ。
「見てて。今から俺、飛び切りデケーの作るから」
至近距離にいる彼が小さく私を手招く。
私の視線が、一気に彼の口先の緑色のプラスチックのストローに集中する。
彼が生み出す無色透明の液体の泡が、どんどんと膨らんでいく。
そして、今までで一番大きな玉が夜空へと浮かび上がった。
「しゃぼん玉とんだ
屋根までとんだ
屋根までとんで
こわれて消えた」
私はその玉を見送りながら、誰もが知っている童謡を口ずさんだ。
:09/10/26 03:03
:SH705i
:qR2hLkuw
#90 [ぎぶそん]
「知ってる?その歌は自分の子供が生まれてすぐに死んだっていう悲しい歌なんだよ」
彼がベランダの柵にもたれ掛かる状態で両肘をつけたまま、暗闇に包まれた街目掛け泡を吹き続ける。
反対に私は吹くのを止めた。
彼に言われて初めて気がついたけど、『うまれてすぐに こわれて消えた』というフレーズは確かにその思いを直に表しているのかも。
ねえ真織。誰かを失ってばかりの私はあなたを失うのがとても怖いよ。
いつか私たちの関係もこのしゃぼん玉たちと同じように、きっと壊れて消えていくだろうから。
:09/10/26 03:18
:SH705i
:qR2hLkuw
#91 [我輩は匿名である]
頑張って
:09/11/01 10:37
:W56T
:tJVxcJv6
#92 [ぎぶそん]
しばらくして、真織に続くように私も街中の中華料理店でアルバイトをすることとなった。
厨房に入って、ただただ機械のように主に配膳と皿洗いをし続ける。
慣れて来たら、ホールの仕事内容もさせられるらしい。
アルバイトの最中、同期で入った中野静香という同級生の子と親しくなった。
店の近くの美容専門学校に通っているらしく、見た目も金色に染めた髪と特徴的なマッシュルームヘアの髪型、個性的な服装とそれらしい。
小柄な体格と頬を染めるピンク色のチークが、どこと無く佳奈を思い出させる。
:09/11/03 03:20
:SH705i
:G9w4Ke6c
#93 [ぎぶそん]
「初給料で何買おっかなー。かなめは欲しいものとかある?」
狭い厨房の隅で皿洗いをしながら、静香がこちらに話し掛けてくる。
その傍らで私は、注文を受けた分のご飯を電気釜から速やかについでいた。
「アコギが欲しい」
「へー。音楽するんだあ。何か意外」
水道から流れっぱなしの水の音に負けないようにと、静香が少し声の音量を上げて言う。
私自身も、まさか自分が音楽をやろうと決意するなんて思ってもみなかった。
目を閉じると、部屋の壁にもたれて弾き語りをする真織の姿が浮かぶ。
今の私の羨望の的。
:09/11/03 03:51
:SH705i
:G9w4Ke6c
#94 [ぎぶそん]
アルバイトから帰宅すると、物音一つしない明かりの点いたリビングで真織が寝転がっていた。
テーブルの上には二人分のコンビニ弁当と、溢れんばかりの吸い殻が入った灰皿が。
「今までずっと何もしないでそうしてたの?
先に食べてれば良かったのに」
私は肩から提げていたショルダーバッグを外し、床に置いた。
「誰かさんだっていつも俺の帰りを待ってるじゃん」彼が上体を起こして、欠伸をしつつ少し寝癖のついた髪を掻き分ける。
その仕草を見て、私は顔に笑みを浮かべた。
立ち仕事からくる足の痛みも何処へやら。
:09/11/04 02:54
:SH705i
:JwJwdF2k
#95 [ぎぶそん]
「椎橋は『三日月ロック』、長田は『名前をつけてやる』、小柴は『惑星のかけら』派なんだとよ」
弁当に入ってるコロッケに付属のタルタルソースをかけながら、彼が口を開く。今日はバンドのメンバーでスピッツのどのアルバムが好きかそれぞれ打ち明けたらしい。
「私は『フェイクファー』かな」
私も彼と同じようにして、ソースを目一杯出す。
「『スカーレット』好きだねえ」
「あんたは何派なの?」
「内緒」
何それ。隠す必要がどこにあるのよ。
スピッツを話す時の彼はいつも嬉しそうで、照れ臭そうだ。
:09/11/04 03:19
:SH705i
:JwJwdF2k
#96 [我輩は匿名である]
あげ
がんばって!
:09/11/26 18:24
:W56T
:Qz9p.CVk
#97 [ぎぶそん]
「…『三日月ロック』」
彼が固有名詞をぼやく。
「え?何?」
「俺が一番好きなの。椎橋が今日絶賛してた時、『げっ!被ってる!』って思った」
彼が少しぷんむくれの表情をしながら、頭を掻いた。
なーんでそこで同じ気持ちを素直に共有しないのかな。
友達どうし気が合う証拠ってことでいいじゃない。
「…今度のライブでは『三日月ロック』の曲を中心にやるよ」
彼が私の瞳を見て言った。
彼の透き通った真っすぐな視線と、私の視線が重なる。
うん、とそれをありのまま受け入れる形で私は小さく頷いた。
:09/12/01 01:26
:SH705i
:tD4FaRYY
#98 [ぎぶそん]
「『ロビンソン』の歌詞って何を言ってるのか分かんなくない?」
食事を済ませた後、無言のまま歌詞カードを見つめていた彼が口を開いた。
部屋からは丁度、彼の言う曲が流れていた。
「心中をイメージした歌っていう噂は聞いたことはあるけど。
でも私は違うと思うな」
私はきっと、歌詞を書いた草野さんですら全てを理解出来てないなんて思ってる。
「考えるな、感じろってことか」
彼が歌詞カードを閉じる。
きっとスピッツの歌は、誰からしてみてもその人だけの世界にすることが出来るから、いいんだね。
:09/12/01 01:43
:SH705i
:tD4FaRYY
#99 [ぎぶそん]
日曜日の夕方。
アルバイトから帰宅すると、横になった彼が携帯型ゲーム機をいじっていた。
その周辺では電気量販店の袋や口の開いた箱、説明書等が散らばってる。
ゲーム機の画面を後ろから覗き込むと、彼は『ポケットモンスター』のゲームの最新作を黙々とやっていた。
うわー、懐かしい。小学生の頃物凄く流行ってたなあ。
「あんたがポケモンするなんて意外」
私は少し茶化してやった。
「俺、思いきり『ポケモン世代』だし。ガキの頃から新作が出る度買ってるの」彼は黙々とタッチペンでゲーム操作をする。
:09/12/01 02:02
:SH705i
:tD4FaRYY
#100 [ぎぶそん]
見た目に似合わず、可愛いところがあるじゃない。
何だろう。真織と居ると常に何か新しい発見と癒しがある。
「『ハルノウタ』に『ワカバ』…」
彼はゲーム内の自分のポケモンたちに愛称をつけていた。
どれもスピッツの曲名に関するものばっか。
「ニックネームあった方が愛着湧くしね」
さっきから彼の発言の一言一言が不似合い過ぎて、お腹がよじれそうだ。
「あ、ライバルの名前は『カナメ』に設定したから。これからこてんぱんにやっつけてやるわ」
彼が意地悪そうに笑う。
私は後ろからその頭を小突いた。
:09/12/01 02:19
:SH705i
:tD4FaRYY
#101 [ぎぶそん]
数日後の放課後、私は写真を撮る最適な題材となる「景色」を探す為、ぼんやりと街を歩き続けていた。
普段は足を入れたことのない地下道を下りてすぐ、茶髪の若い男性がギターケースの上に座って弾き語りをしているのが見えた。
斉藤和義の「歌うたいのバラッド」を、楽譜も何も見ずに慣れた様子で歌い続ける。
ストリートライブという奴か。
私は思わず立ち止まり、彼の真正面にくるように反対側の壁に腰を下ろした。
少しだけ、いつか真織が「スカーレット」を歌っていた時と同じ空気がそこに流れていたから。
:09/12/02 00:15
:SH705i
:nIbz/fOI
#102 [ぎぶそん]
男性のその歌を聴き入って間もない内に、彼はその一曲を歌い上げた
彼が顔を上げ、数メートル先にいる「客」の私に声を掛ける。
「…こんにちは!」
彼の目尻のシワがくっきりと表れる。
黒目がちなその瞳は、都会の空気に濁ることなく光を発していた。
この人、普段他人に恨みを買われることがないだろうなと思った。
「今日は雲一つないいい天気ですね」
「え?ああ、そうですね」
差し障りのない天候の話から二人の会話は入っていく。
一時も彼は笑顔を崩さないでいた。
:09/12/04 00:36
:SH705i
:36M7fz9.
#103 [ぎぶそん]
そうして話はだんだんとお互いのことについて進んでいく。
男性の名前は村山啓司さん。
ここら近辺にある私立大学の四年生らしい。
私は彼に自分の名前と身分、そして今何か写真を撮る為に色んな場所を歩き回っていることを伝えた。
「音楽はどんなの聴くんですか?」
啓司さんが口元を緩ませて私に問う。
「スピッツが好きです」
「…スピッツ!いいですよねー。
僕もよく聴きますよ」
彼の声のトーンが上がる。
そして彼は自分の目の前に広げてあった持参のファイルノートを、パラパラとめくり出した。
:09/12/04 15:20
:SH705i
:36M7fz9.
#104 [ぎぶそん]
「久しぶりだから歌えるかは分からないけど…」
啓司さんが一度、コホンと小さく咳ばらいをした。
その数秒後彼がギターに手をやると、地下道に乾いたギターから奏でられる「ロビンソン」のイントロが響く。
それを男らしい重量感のある声で、彼が歌い続ける。
真織が普段スピッツを歌う時とはまた違う世界観が漂っていた。
そういえば、真織はまだ私の前でこの歌を歌ってくれてないなと思った。
私は首から提げていたカメラを自分の顔の前にやった。
レンズ越しに彼と彼を取り巻く全てを見つめる。
:09/12/06 00:27
:SH705i
:T9/Xo4o6
#105 [ぎぶそん]
シャッターの音が彼の弾き語りを邪魔しないようにと、遠慮しがちに鳴る。
被写体となった彼は、若干顔に恥ずかしそうな笑みを浮かべていた。
「良かったらまた遊びに来てください。
毎週木曜日のこの時間帯は、いつもここにいますんで」
ストリートライブが終わった後の立ち話の際に、彼にこう伝えられた。
私は時間の許す限りは何度でもここへ来ようと思った。
一枚の写真に収めても、何度でも自分の目で見たい風景を見つけたから。
私は啓司さんの純朴そうな風貌と物越しの低い姿勢に、人間としての魅力を感じた。
:09/12/06 00:45
:SH705i
:T9/Xo4o6
#106 [我輩は匿名である]
楽しみにしてます(^^)
:09/12/06 06:08
:SH906iTV
:NvD7CL3s
#107 [ぎぶそん]
翌日。軽音学部の定期ライブ本番がいよいよ次の日と迫った。
夜、私と真織はお互いの子供時代について語り明かすこととなった。
彼は小学生の頃から大勢の前で面白いことをやってみせたり、それによって皆を笑わせるのが好きだったらしい。
ムードメーカーな所は今とはほとんど変わってない様子。
「あの頃は皆でサッカーの練習サボって、誰かの家で皆でポケモンのアニメ観てたっけなあ」
テーブルに頬杖をつき、天を仰いで彼が言う。
「今でもポケモンのゲームやってるの俺だけなんじゃね」という呟きに私は笑った。
:09/12/07 21:53
:SH705i
:xg7qNZ7o
#108 [ぎぶそん]
そして中学生の頃にギターを覚え、文化祭で当時「Brand‐New Myself〜僕にできること」がブレイクしたチャコールフィルターのコピーを演ってみたらしい。
懐かしい。解散するには惜しいバンドだった。
「高校は男子校だったよ。
野郎共でワイワイ騒ぐの好きだし」
彼が紙パックのジュースを音を立てて吸う。
私は元彼の優哉も同じような理由で、高校は男子校に通っていたという話を思い出した。
たったそれだけの記憶が蘇っただけで、視界にぼんやりと靄がかかる。
心に何か見えないトゲが刺さる。
:09/12/07 22:12
:SH705i
:xg7qNZ7o
#109 [ぎぶそん]
「かなめは?どんな感じだった?」
彼の問い掛けでふと我に返る。
彼がこれから私からどんな話が聞けるのだろうと、好奇心旺盛の目で見てくる。
私は口数が少なくて、周りとの壁を作っていた幼少期を送っていた。
クラスに一人は存在するような、休み時間も誰とも馴染もうとせず席に座ってるような子だった。
そうに告げると、「あー、そんな感じがするわ」と納得したように言われた。
「そういえば一人だけ、『千明』って子はちょっかいを出してくれていたなあ」
私はある同級生の存在を、記憶の片隅から思い出した。
:09/12/07 22:29
:SH705i
:xg7qNZ7o
#110 [ぎぶそん]
小六の時同じクラスになった富田千明は小学生ながら美容やお洒落に関心を持っていて、実にませた子だった。
長身で子供離れしたスタイルを持っていたので、自分自身を高めたいという意識が早熟したのだろう。
そんな彼女は、自分とは対照的な地味で存在感の薄かった私を「あだっち」という愛称で呼び、放課後になるとちょくちょく遊びに誘ってくれた。
本屋でファッション雑誌を立ち読みしたり、グラウンドでやっているサッカー部の練習を眺めていたりしていた。
私は彼女といる時、いつも楽しくないと感じたことはなかった。
:09/12/10 00:28
:SH705i
:AKXQnaXE
#111 [我輩は匿名である]
111
:09/12/10 03:23
:SH904i
:wT5Q3hb6
#112 [ぎぶそん]
小学校を卒業した後は私は公立の、千明は私立の中学校へとそれぞれ進学することとなった。
小六の頃は夜になるとよく千明から自宅に電話が掛かってきていたが、中学に入ってからは新しい友達が出来たからなのかぱったりと音信が絶えた。
中学二年になりたての頃、千明が不登校気味だということを共通の知人から聞いた。
頭髪を派手に染め、露出の多い服を着て、コンビニの前で同じような仲間とたむろしているのをちょくちょく近隣に住む住民から目撃されているらしい。
私はそれを耳にした時、ただ千明らしいとだけ思った。
:09/12/13 00:37
:SH705i
:S2K0AsXE
#113 [ぎぶそん]
同じ年の秋に、偶然彼女と会った。場所は二人でよく行っていた本屋。
外見は不良そのものだったが、心もそうだとは彼女の変わらない優しい雰囲気からは感じられなかった。
彼女は私とは視線を合わせず、すれ違い様に「ばーか」とだけ告げた。
これが今の所、私が彼女を見た最後の瞬間だ。
その後風の噂で彼女は十五で十歳以上年の離れた男性との間に子供を身篭り、そのまま結婚したということを聞いた。
元気してるかな、千明。
もう一度会えた時は、あの時「ばーか」の意味を聞かせて欲しい。
:09/12/13 01:01
:SH705i
:S2K0AsXE
#114 [ぎぶそん]
「で、高校三年間もまた友達がいない生活だった」
私は過去の話を、自虐気味に閉じてみた。
それを真織は煙草の煙で咳込み、上手く笑えずにいた。
今思えば、千明が初めてだったかも知れない。
家族以外で、私を必要としてくれていた人。
中学校に入学した当初、千明は「あだっちがこっちの学校に転校してくればいいのに」と周りに口にしていたことがあったらしい。
その後、彼女は学校に通わなくなった。
私は嬉しかった。彼女の印象に私が残っていることが。
それと同時に悲しくなった。彼女の力になれなかったことを。
:09/12/13 01:21
:SH705i
:S2K0AsXE
#115 [のん]
書かないんですか?
更新楽しみにしてます
:10/01/30 07:24
:W56T
:msLOlqqg
#116 [ぎぶそん]
「またいつか出会うよ、忘れた頃にさ。
そんなもんでしょ?人生って」
彼が何時になく静かに煙を吐く。
表情もどこか儚げで哀しい。
今になって気づいたけど、彼は細くてとても綺麗な指をしている。
おかしな表現をすると、煙草を吸うのにも、ギターを弾くのにも持ってこいの指だ。
「明日のライブ、楽しみにしてるから」
私はその場を立ち上がり、ベッドへと向かった。
――あなたにも、もう一度会いたいと思ってる人がいるの?
喉元で詰まってしまった言葉を、深い心の奥底まで沈めながら。
:10/02/23 19:03
:SH705i
:C1TvH8W.
#117 [ぎぶそん]
翌日。
目覚ましのベルが鳴る前に起きてみたが、部屋に真織の姿はなかった。
きっと今頃、本番前の最後の予行練習に精を出していることだろう。
ライブに行くということを意識しながら、箪笥の奥で眠っていたジーンズを取り出す。
上は真織専用の衣類ボックスから、適当に選んだ黒のTシャツを拝借させてもらった。
鏡の前に立つボーイッシュな自分に、苦笑いを送る。
化粧はほんの気持ち程度にすることにした。"本日の主役"なんてのは私じゃないし。
テキトーテキトー。
:10/02/23 19:21
:SH705i
:C1TvH8W.
#118 [ぎぶそん]
――そろそろかな。
私は時計の針に目をやった。
予定では加奈がアパートに訪ねて来て、一緒にライブハウスまで行くことになっている。
そこでタイミング良くメールが届き、机の上の携帯が振動する。
宛先はその彼女から。
「ごめぇん。
昨日鈴木君誘ってOK貰ったから彼と行くねぇ!
また向こうで会お!」
彼女の自由気ままな性格は例えるならネコかな、なんて笑ってしまう。
そういえば、スピッツの歌にはネコがよく出て来るなぁ。
バンド名は犬だけど、草野さんは犬よりネコが好きなのかな、なんて思ってしまう。
:10/02/23 19:39
:SH705i
:C1TvH8W.
#119 [いちご]
更新楽しみにしてます
頑張ってください!
:10/03/07 09:53
:P903i
:Cgyk5OOo
#120 [ぎぶそん]
部屋を出て、自転車を漕ぎ目的地を目指す。
どんよりとした雲が、今日の街の景色を冴えなくしている。
でもそんなことはお構いなしに、私の漕ぐスピードは上がる。
チケットの右隅に書いてある地図によると、駅から歩いて五分したところにある、商店街の外れにある小さな建物の二階がライブハウスの場所となる。
地図どおりに進んでみたところでライブハウスの看板を見つけ、自転車をその辺に止めて階段を上がる。
すぐ目の前にいた男女も、はやる気持ちで二階へと駆け上がっていっていた。
:10/03/11 00:55
:SH705i
:r3kx0MPo
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