<<来栖>>
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#299 [nanoka]

「お兄ちゃんは長いなぁ」

そう話しかけてきたのは、常連さんの一人である沢木さんだった。

推定年齢59歳。定年間近だと聞いている。

⏰:09/10/28 17:20 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#300 [nanoka]

沢木さんはニコニコと俺の顔を眺めながら訊いた。

「この店に入ってどれくらいになるんだ?」

俺は頭の中でカレンダーを思い浮かべながら答えた。

⏰:09/10/28 17:23 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#301 [nanoka]

「もうすぐ半年になります」

「半年か。長いなぁ。もしかして最高記録じゃないか?なぁ、蒼井くん」

話題をふられた蒼井さんは笑顔で「はい」と答えた。

⏰:09/10/28 17:25 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#302 [nanoka]

「拓真くんはよくやってくれてます」

不意討ちだった。蒼井さんに誉められた俺は思わずにやけてしまった顔を隠す暇がなかった。

「今までの子はすぐやめちゃってたからなぁ…」

⏰:09/10/28 17:31 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#303 [nanoka]

沢木さんと蒼井さんの会話を聞きながら、俺は空きテーブルを掃除していた。

いつもなら話し相手になっている間は仕事しないんだけど、自分から台拭きを手に掃除を始めた。

ほら俺、誉められて伸びるタイプだから。

⏰:09/10/28 17:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#304 [nanoka]

「拓真くん、霊感ゼロですし怖い話を聞くのも嫌いじゃないみたいなので」

蒼井さんの言葉に沢木さんは「そうかそうか」と笑っていた。

「そりゃこの店にピッタリな人材だなぁ」

⏰:09/10/28 17:36 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#305 [nanoka]

どうゆう意味だろう?って些細な疑問が湧いた。

怖い話を聞く機会が多いのは蒼井さんの体質上わかるのだけど、俺に霊感がないことは何か関係があるのだろうか。

閉店後、何気なく蒼井さんにその質問をぶつけてみた。

⏰:09/10/28 17:39 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#306 [nanoka]

「僕といると霊感が開花されちゃうみたいなんです」

と、蒼井さんは少し困ったような表情で微笑んだ。

「僕の力が移るわけではなくてその人本来の力なんですけどね」

⏰:09/10/28 17:41 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#307 [nanoka]

「本来の力…ですか」

「よく赤ちゃんや小さい子供は霊が視えるって言うじゃないですか」

その手の話は何度か聞いたことがあったので、俺は頷いた。

⏰:09/10/28 17:43 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#308 [nanoka]

「成長するにつれて視えなくなることが多いんですけど、僕と接しているうちに力が戻ってしまうみたいなんですよ、困ったことに」

「困るんですか?」

霊感があるなんて人によっては自慢する人もいるし、喜ぶ人もいるのでは…って思った。

⏰:09/10/28 17:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#309 [nanoka]

「視えないほうがいいこともあるんですよ」

というのが蒼井さんの答えだった。

霊感が開花しすぎて辞めてしまった子や、単純に怖い話が苦手で辞めた子がほとんどらしい。

⏰:09/10/28 17:49 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#310 [nanoka]

「あ。だから…」

俺はようやく面接の時に、蒼井さんにされた質問の意味が理解できた気がした。

「みんな三ヶ月ももたずに辞めてしまうんですよ。だから拓真くんがうちで働いてくれて助かってます」

⏰:09/10/28 17:52 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#311 [nanoka]

その日の夜、懐かしい夢を見た。

「拓真、起きて」

という母の声から夢が始まった。

母の運転する車で叔母さんの家に向かう途中だ。

⏰:09/10/28 18:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#312 [nanoka]

助手席で眠りこけている俺を母が必死で起こしている場面。

記憶にある場面だった。

小学生の頃、同じ場面を実際に経験したことがある。

母は道に迷っている。と、すぐにわかった。

⏰:09/10/28 18:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#313 [nanoka]

毎週のように顔を出していた叔母さんの家へ向かう道で迷ってしまったのだ。

普通に考えたらあり得ない事態に母は震えた声で寝ている俺を起こしていた。

「拓真、拓真」

⏰:09/10/28 18:08 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#314 [nanoka]

母の必死の呼びかけに幼い頃の俺が目を開けた。

「何?」

不機嫌そうに母に問いかける。

「叔母さん家に着くまで起きてて」

⏰:09/10/28 18:10 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#315 [nanoka]

「は?何で?」

「いいから!何かおかしいのよ」

いつになく厳しい口調の母に、言い様のない不安に駆られたのを覚えている。

⏰:09/10/28 18:12 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#316 [nanoka]

母が怒っていたわけも今ならわかる。

知っている道に出ようと車を走らせても、同じ場所に戻ってきてしまっていたのだから。

母は何十回と墓地のまわりを走らされていたらしい。

⏰:09/10/28 18:15 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#317 [nanoka]

叔母さん家の前には川が流れているのだが、その向かいが母の迷っていた墓地にあたる。

ほんの5分ほどの距離で、別の日に改めて墓地を見た母が

「何で迷ったんだろう」

と呟いていたくらい近くだ。

⏰:09/10/28 18:28 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#318 [nanoka]

俺が目を覚ましてからのことは夢の続きを見るまでもなく覚えている。

「何でこんなとこで迷ってるの?」

と、文句を言いながら俺が道案内をしたのだ。

⏰:09/10/28 18:35 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#319 [nanoka]

叔母さん家には母と一緒に何度も来ていた。

墓地から叔母さん家までの道順も覚えていた。

「真っ直ぐ行って」
「そこ右」
「次も右」

⏰:09/10/28 18:37 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#320 [nanoka]

寝ていたところを起こされ機嫌の悪い俺は、そんな感じで道案内をし叔母さん家に着いた。

夢の中の俺も同じように、ふて腐れた顔で道案内をしている。

あー…。眠いんだろうな。と、苦笑しながら幼い頃の自分を眺めていた。

⏰:09/10/28 18:40 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#321 [nanoka]

一つだけ記憶と違っていたのは、俺が言う先の道に男が立っていたことだ。

右と言えば右に進んだ道に左と言えば左に進んだ道に男が立っている。

男は俺に次に進む方向を指差して教えている。

⏰:09/10/28 18:44 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#322 [nanoka]

母には見えていない様子のその男は、次の方向を指差すと一度消えまた現れた。

最後に叔母さん家を指差したところで完全に姿を消した。

そこで夢から覚めた。

⏰:09/10/28 18:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#323 [nanoka]

夢の話を蒼井さんにしたのはちょっとした気まぐれだった。

お店が暇だったこともあって掃除に飽きた俺は

「そういえば昨日変な夢見たんですよー」

と、軽いノリで夢の話をしたのだ。

⏰:09/10/30 04:14 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#324 [nanoka]

「多分後ろの方が助けてくれたんだと思います」

蒼井さんは俺の話を聞いてそう言った。

夢の中で指差しながら帰り道を教えてくれたのは後ろの方だというのだ。

⏰:09/10/30 04:15 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#325 [nanoka]

「でも俺の記憶では道を覚えてた俺が自分で…」

反論しながらも心のどっかで蒼井さんが正しいんだろうなって思ってた。

今まで蒼井さんが間違った判断をしたところ見たことないし。

⏰:09/10/30 04:16 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#326 [nanoka]

「拓真くんは土地神様という言葉を聞いたことがありますか?」

蒼井さんの質問に俺は首を横に振った。

「土地を守る神様ってところですかね、簡単に言えば」

⏰:09/10/30 04:17 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#327 [nanoka]

「土地を守る…」

「はい。地域によって呼び方は色々なのですが」

「その土地神様が俺の夢と関係してるんですか?」

俺の問いに蒼井さんは少し考えるような仕草をした。

⏰:09/10/30 04:18 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#328 [nanoka]

「さっき土地神様は土地を守るって言いましたよね?でも広くは知られていないことが多いんです」

「まぁそうかもしれないですね。俺も今日知りましたし」

蒼井さんは少し寂しそうに微笑んでから

⏰:09/10/30 04:19 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#329 [nanoka]

「知る人がいないということがどうゆうことかわかりますか?」

と、俺に訊いた。

「感謝されない…?」

正解と言うかわりに蒼井さんは微笑んだ。

⏰:09/10/30 04:20 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#330 [nanoka]

「だからたまに連れてってしまうんですよ。気に入った人間を」

「えっ?」

「一般的に神隠しと言われているものです。地域によっては気に入られた人のことを魅入られたと言うようです」

⏰:09/10/30 04:21 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#331 [nanoka]

「神様が仕返しって」

俺のつっこみに蒼井さんは

「面白い発想ですね」

と、少しだけ笑った。

⏰:09/10/30 04:23 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#332 [nanoka]

誉めているのか貶しているのかいまいちわからなくて俺は微妙な表情を浮かべた。

「拓真くんは子供の頃、その土地神様に魅入られたんだと思います」

「えっ!?」

⏰:09/10/30 04:24 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#333 [nanoka]

「普通は魅入られたら連れていかれるんです。もし運良く助かってもその土地にまた入れば二度目はないと言いますか…」

「だったら土地神様とは関係ないんじゃないですか?俺、その後も何度も叔母さん家に行ってるから」

あれ以来迷子になった記憶はない。

⏰:09/10/30 04:25 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#334 [nanoka]

「拓真くんは後ろの方がすごく強い方ですから」

そう言って微笑んだ蒼井さんが俺ではなく俺の後ろを見ていた気がして、俺は思わず振り返ってしまった。

「もしかしたら僕といる影響が出てきてるのかもしれませんね」

⏰:09/10/30 04:26 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


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