<<来栖>>
最新 最初 🆕
#1 [nanoka]

怖い話を観たり聞いたりするのは好きですか?

――はい。

では、あなたは霊感がある方ですか?

――いいえ、全く。

⏰:09/10/18 00:08 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#2 [nanoka]

これは面接の時に俺と蒼井さんが交わした言葉。

蒼井さんの質問の真意など知らず、暢気に

「自慢じゃないっすけど、俺一回も幽霊とかそうゆう類い見たことないんすよねー」

と答えた俺を見て蒼井さんは微笑んだ。

⏰:09/10/18 00:17 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#3 [nanoka]

「うん。君に決めた。合格!」

「え?採用ですか?ほんとに俺でいいんすか!?」

思わず聞き返した俺に蒼井さんはもう一度静かに微笑んだ。

⏰:09/10/18 00:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#4 [nanoka]

マンガやら映画の影響を受けまくって

次は絶対バーでバイトする!!

そう決めていた俺。すでに10軒以上のバーの面接に落ちていた俺を雇ってくれたのが蒼井さんだった。

⏰:09/10/18 00:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#5 [nanoka]

酒の知識もほとんどないド素人の俺を雇ってくれた理由は後々わかるんだけど、それを俺が知るのはもう少し後になってから。

あの時は嬉しさのあまり、仕事内容には全く触れずに俺を採用したことに何の疑問も抱かなかった。

⏰:09/10/18 00:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#6 [nanoka]

俺がバイトすることになったバーの名前は来栖。

「これ、店の名刺なんだけど連絡先とか載ってるから渡しておくよ」

面接の日、帰り際に蒼井さんから渡された名刺に目を落とした俺は恐る恐る訊いた。

⏰:09/10/18 00:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#7 [nanoka]

「あのー…この漢字って何て読むんですか?」

これから働こうという店の名前もわからないなんて、ほんと失礼な奴だった。

「くるす」

蒼井さんは短く答えた。

⏰:09/10/18 00:47 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#8 [nanoka]

いまだに名前の由来は聞けないままでいる。

たまにお客さんが

「何で来栖なの?」

と訊ねても、蒼井さんは静かに微笑むだけで由来は決して口にしない。

⏰:09/10/18 00:49 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#9 [nanoka]

そんな蒼井さんを横で見ているせいもあって、俺はその質問を口に出せずにいる。

お客さんの一人がしつこく訊ねてくれたら…と思うけど、みんなあの蒼井さんの微笑みに負けて深く追及できなくなる。

⏰:09/10/18 00:56 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#10 [nanoka]

有無を言わせない魅力っていうのかな。

蒼井さんはそんな独特な雰囲気がある人だった。

同性に魅力を感じたのは蒼井さんが初めてだった。

⏰:09/10/18 01:00 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#11 [nanoka]

あ、変な意味じゃなくて、かっこいいなーとか人として憧れるって意味で、ね。

常連さんの話では、蒼井さんのおじいちゃんがロシア人らしく蒼井さんはいわゆるクォーターってやつらしい。

⏰:09/10/18 01:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#12 [nanoka]

直接、蒼井さんから聞いたわけじゃないから真実かどうかはわからないけど。

そういえば蒼井さんがクォーターだって教えてくれたおじさんがきっかけだったんだ。

蒼井さんのバーテンダーとは別の“仕事”を知ったきっかけはおじさんの怪談話だった。

⏰:09/10/18 01:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#13 [nanoka]

蒼井さんのバーでバイトを始めて2週間。

加藤さんと呼ばれるそのおじさんを常連さんだと俺が認識した頃だった。

一人でカウンター席に座り、蒼井さんや俺と会話を楽しんで帰るというのが加藤さんのいつものパターンだった。

⏰:09/10/18 01:15 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#14 [nanoka]

その日の加藤さんは、俺の目から見てもわかるくらい元気がなかった。

出されたカクテルにもほとんど口をつけていない。

体調でも悪いのかな?帰って休んだ方がいいんじゃないかな、などと余計な心配をしていたのを覚えている。

⏰:09/10/18 01:18 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#15 [nanoka]

「口に合いませんでしたか?」

数人のお客さんを送り出し、静かになった店内で蒼井さんはそう訊いた。

「あ、いや。美味しいよ」

⏰:09/10/18 01:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#16 [nanoka]

蒼井さんに訊かれ、思い出したように加藤さんはグラスに口をつけた。

「お気になさらず、残して下さい。氷が溶けて薄くなってるでしょうから」

蒼井さんの言葉に、加藤さんは少し困ったような顔をした。

⏰:09/10/18 01:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#17 [nanoka]

「不味かったとか、そうゆうんじゃないんだ」

そう否定する加藤さんに、蒼井さんは

「宜しければ同じもの作り直しましょうか?」

と微笑んだ。

⏰:09/10/18 01:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#18 [nanoka]

「あ、うん。そうしてもらおうかな。今日は飲みたい気分なんだ」

蒼井さんがカクテルを作っている間の加藤さんは酷く小難しい表情で、蒼井さんの手元を眺めていた。

「どうぞ」

⏰:09/10/18 01:32 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#19 [nanoka]

今度は目の前に出されたカクテルをすぐに口へと運んだ。

「美味いよ」

その言葉に、蒼井さんは小さく頭を下げた。

⏰:09/10/18 01:36 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#20 [nanoka]

「この間…」

ようやく自分から口を開いた加藤さんの声は、少し高揚していた。

何かを思いきって口にする時、特有の緊張感が俺にも伝わってきた。

⏰:09/10/18 01:39 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#21 [nanoka]

「家族で川に行ったんだ」

話の腰を折らないようにする為か、蒼井さんは相槌の代わりに作業していた手をとめた。

「夏休みなんだからどっか連れてけって子どもたちにねだられてな」

⏰:09/10/18 01:52 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#22 [nanoka]

きっと店に入ってからずっとこの話がしたかったのだろう。

加藤さんは話し続けた。

「じゃあまぁ川でバーベキューでもするかってことになったんだ」

⏰:09/10/18 01:55 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#23 [nanoka]

加藤さんの話が気になって俺もグラスを洗っていた手をとめた。

「女房と子ども2人と俺の4人で行ったんだ。夏休みだから他にも家族連れや大学生くらいの子らも来てて結構賑やかだった」

⏰:09/10/18 01:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#24 [nanoka]

そこまで聞く限りでは、楽しいバーベキューの話としか思えなかった。

事態を変えたのは、急に降りだした雨らしい。

「山だから急に天気が変わることは珍しくないし、川で泳いだ後だったからすでに身体も濡れてたし、大したことじゃなかったんだが…」

⏰:09/10/18 02:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#25 [nanoka]

そこまで話すと、加藤さんはグラスに残っていたカクテルを一気に飲み干し話を続けた。

「急に雨が降りだしたからみんな慌てて、バーベキューしてた小屋の辺りまで走ったんだ」

⏰:09/10/18 02:07 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#26 [nanoka]

「小屋って言っても、屋根があるだけで壁があるわけじゃなくて…」

「わかります。僕もキャンプ場やバーベキュー場には何度か行ったことありますから」

加藤さんの話をフォローするように、蒼井さんがそう言った。

⏰:09/10/18 02:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#27 [nanoka]

「そうか。多分あれだろうな。バーベキューの煙や何かを籠らないようにする為に屋根だけにしたんだと思うんだけど」

と、加藤さんは少しホッとしたような顔をした。

「そこで雨宿りしていると川が見えたんだ。それまで泳いでた川がな」

⏰:09/10/18 02:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#28 [nanoka]

「夕立みたいな強い雨だったからすぐに止むだろうと何気なく川を眺めてたんだ」

そこで加藤さんは口を閉じた。

その先が気になっていたが必死で「それで続きは?」そう訊くのを我慢した。

⏰:09/10/18 02:21 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#29 [nanoka]

動揺しているのか、空になったグラスを手に取った加藤さんに

「もう一杯召し上がりますか?」

と、蒼井さんが声をかけた。

⏰:09/10/18 02:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#30 [nanoka]

「あぁ。それじゃ同じものを」

誰も口を開かなくなった店内に、蒼井さんがカクテルを作る音が静かに響いた。

続きが気になって仕方なかった俺は、バイト中なのも忘れて突っ立ったまま加藤さんを見ていた。

⏰:09/10/18 02:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#31 [nanoka]

「どうぞ」

そう言ってグラスを置くのが蒼井さんの普段の出し方だった。

でもその時は違っていた。

⏰:09/10/18 02:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#32 [nanoka]

「薄い水色のワンピースを着た女性ですか?」

そう言って蒼井さんがグラスを置くと、うつ向いていた加藤さんは驚いた顔で蒼井さんを見上げた。

「視えるのか!?」

⏰:09/10/18 02:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#33 [nanoka]

「はい」

蒼井さんには全部わかっているようだった。

「そうか。やっぱり連れて帰ってしまってたか」

全く意味がわからずに間抜けな顔で蒼井さんに助けを求めていると目が合った。

⏰:09/10/18 02:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#34 [nanoka]

「彼に話してあげても構いませんか?」

蒼井さんが訊くと、加藤さんは思い出したように俺の方に振り向いた。

「あぁ。悪い悪い。お兄ちゃんいたの忘れてた」

⏰:09/10/18 02:40 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#35 [nanoka]

話したことで気が楽になったのか、加藤さんはそう言って少し笑顔を見せた。

「蒼井くんはな、霊が視えるんだ」

「へっ?」

⏰:09/10/18 02:43 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#36 [nanoka]

結婚して子どももいる人とは思えない常識離れした発言に、何とも間の抜けた声が出てしまった。

「俺も多少霊感があるみたいでたまに憑かれるんだ。その度に蒼井くんにはお世話になっててな」

⏰:09/10/18 02:47 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#37 [nanoka]

?マーク全開の俺に、加藤さんはさっきの話の続きをしてくれた。

雨が止まないかと川の方を眺めていた加藤さんは、川の反対側に人影を見つけたらしい。

それが蒼井さんの口にした薄い水色のワンピースの女性のようだ。

⏰:09/10/18 02:50 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#38 [nanoka]

「最初は逃げ遅れた子だと思ったんだ。雨も激しかったし川を渡れなくなったのかと思ってな」

でもすぐにそれがこの世のものではないと気付いたらしい。

「他の客も川の方を見ていたけど、それに気付いているのは俺だけみたいだった」

⏰:09/10/18 02:54 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#39 [nanoka]

元々、心霊関係の話が好きだった俺はすっかり加藤さんの話に夢中になっていた。

「この世のものじゃないって言ってもやっぱり気になって見てたんだ。そしたら…」

「そしたら…?」

⏰:09/10/18 02:57 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#40 [nanoka]

ついさっき常識離れした発言などと思ったことも忘れ続きを急かした。

「その女と目が合ったんだよ。一瞬な」

目が合った瞬間、全身に鳥肌が立ったと加藤さんは言った。

⏰:09/10/18 02:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#41 [nanoka]

「これはヤバいと思って、気付いていないフリをしたんだ。俺は何も視えてないぞーってな」

「それで?どうなったんですか?」

あまりに俺が興味津々なのが面白かったのか、加藤さんはわざと続きを焦らすような話し方をした。

⏰:09/10/18 03:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#42 [nanoka]

「目は逸らしているんだけど、どうしても意識はそっちに行ってしまってな」

「わかります!って俺は全く視えないですけど…」

「視えない方が幸せだよ。な、蒼井くん」

⏰:09/10/18 03:05 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#43 [nanoka]

加藤さんに同意を求められた蒼井さんは、例のお得意の微笑みを返した。

「そのまま10分くらい経ったかな。雨が止んで太陽が照り出したんだ。そしたら誰かが虹だ!って叫んだのが聞こえてきて、俺もつられて川の方に目をやっちゃってな」

⏰:09/10/18 03:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#44 [nanoka]

「思わず叫びそうになったよ。あの女が川を渡って来ようとしてたんだ」

「うおっ!怖っ!!」

話を聞いてるうちに俺まで鳥肌が立ってきて、手のひらで腕を擦った。

⏰:09/10/18 03:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#45 [nanoka]

「水面に目から上だけ出てる状態で泳いでる姿を見た時は、いい歳して泣きそうになったよ」

「それって加藤さんに近付いて来てたんですか?」

「多分な。とにかく見ちゃいかんと思ってひたすら無視してたよ」

⏰:09/10/18 03:17 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#46 [nanoka]

「完全に雨が上がって子どもに一緒に泳ごうって手を引かれて川を見た時かな、聞こえたんだ」

「な、何がですか?」

心霊好きなのに怖がりな俺はちょっとビビりながら訊いた。

⏰:09/10/18 03:21 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#47 [nanoka]

「ねぇ、視えてるの?って声が耳元で」

加藤さんの話に完全にビビってしまった俺が、今日は電気つけたまま寝ようと決意している間に、加藤さんのグラスが空になっていた。

「次はどうします?」

⏰:09/10/18 03:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#48 [nanoka]

蒼井さんの問いに

「いや、今日はもうやめとくよ。話してスッキリしたし」

と、加藤さんが答えると蒼井さんは自分の手首からブレスレットのような物を外して加藤さんに渡していた。

⏰:09/10/18 03:29 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#49 [nanoka]

よく見るとそれは数珠だった。透明で硝子みたいな玉でできた数珠。

「見つかってしまったみたいなので、しばらく隠れましょう」

蒼井さんは店の入り口を見ながら言った。

⏰:09/10/18 03:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#50 [nanoka]

「隠れんぼか」

加藤さんは小さく笑うと、数珠を手にはめ眺めた。

「今は僕がいるので店の中に入れないでしょうから、外に出てからはその数珠に隠してもらって下さい」

⏰:09/10/18 03:37 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#51 [nanoka]

「わかった。ありがとう」

「視えても目を合わさず、数珠はシャワーや寝る時も外さないで下さい」

蒼井さんの説明に加藤さんは二度頷いてから立ち上がった。

⏰:09/10/18 03:39 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#52 [nanoka]

「子どもの頃、隠れんぼ得意だったんだ」

そう言って笑顔を見せた加藤さんを見送ると、店内は蒼井さんと俺の2人だけになった。

「今日はそろそろお店閉めましょうか」

⏰:09/10/18 03:42 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#53 [nanoka]

蒼井さんは一体何者なのか?

という疑問を口にする暇もなく、蒼井さんは俺に背を向けテーブルを拭きはじめてしまった。

仕方なく俺も洗いかけだったグラスを手に取った。

⏰:09/10/18 03:46 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#54 [nanoka]

加藤さんの件で蒼井さんと話したことと言えば

「もし万が一、店の外で水色のワンピースの女性が見えても絶対に目を合わせないで下さいね」

という忠告だけだった。

⏰:09/10/18 03:49 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#55 [nanoka]

おかげで俺は帰り際かなりビビりながら店のドアを開ける羽目になってしまった。

まぁ、心霊スポットに行っても気配すら感じられない俺は何も視ることなく無事に終わったのだけど。

たとえ視えなくても怖いもんは怖い!!よね?

⏰:09/10/18 03:54 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#56 [nanoka]

一週間ほど経って加藤さんが店に来た。

いつものようにカウンターの席に座ると同時に

「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

と、俺に手招きをした。

⏰:09/10/18 03:56 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#57 [nanoka]

近寄ると、この間はめて帰った数珠を見せてくれた。

加藤さんの左手の手首につけられた数珠は何故か真っ黒になっていた。

加藤さんいわく「悪いものを吸い取るとこんな風に黒くなる」らしい。

⏰:09/10/18 04:01 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#58 [nanoka]

数珠の黒さにも驚いたが、一番ビックリしたのは蒼井さんにだった。

「もういなくなりましたから外しても大丈夫ですよ」

そう言われると加藤さんは数珠を外し、蒼井さんに返した。

⏰:09/10/18 04:04 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#59 [nanoka]

「うわー。真っ黒ですね」

蒼井さんも予想以上って感じで数珠を眺めてから自分の腕にはめた。

あり得ないことに真っ黒だった数珠が、蒼井さんの手にはめたとたん透明になっていった。

⏰:09/10/18 04:07 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#60 [nanoka]

「な、凄いやろ?」

呆気にとられていると加藤さんに声をかけられた。

「あ…はい。…てか何でですか?」

正直蒼井さんと出会うまで俺、幽霊の存在は信じてるけど霊能力者とかそうゆう類いはどうなの?ほんとなの?ってタイプだった。

⏰:09/10/18 04:11 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#61 [nanoka]

でも目の前で数珠が透明になっていくのをまじまじと見ていた俺は

「蒼井くんには霊とか悪いもんとかを浄化する力があるんや」

という加藤さんの言葉を、すんなりと受け入れることができた。

⏰:09/10/18 04:14 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#62 [nanoka]

こんな感じで呆気にとられている間に蒼井さんと心霊現象に関わる生活が始まった。

蒼井さんが浄化できる→店に霊が入れない→憑かれている人が安心できる、居心地がいい→といった流れがあるらしい。

⏰:09/10/18 04:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#63 [nanoka]

蒼井さんの力を知らなくても、悪いものが入れないから憑かれている人にとって“来栖”は居心地の良い場所のようだ。

そのせいか、バイトをしていると心霊関係の体験談をよく聞いた。

次はその中の一人の話をしようと思う。

⏰:09/10/18 04:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#64 [nanoka]


安価

>>1-63


⏰:09/10/18 15:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#65 [nanoka]

俺が2人目に常連さんだと認識して名前を覚えたのは明日香さんだった。

キャバ嬢らしく、いつも店に来た時にはすでに酔っ払っていた。

仕事終わりに一人で一杯だけカクテルを飲みに来る。

⏰:09/10/18 15:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#66 [nanoka]

明日香さんはよく俺に自分が体験した怖い話をしてくれた。

どうやら明日香さんの話を聞いてビビる俺の姿が面白いらしい。

「ねー、ちょっと聞いてよ。また変な体験しちゃってさー」

⏰:09/10/18 15:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#67 [nanoka]

大体こんな砕けた感じで、明日香さんの話は始まる。

「今度は何があったんですか!?」

心霊好きな俺としては明日香さんの話を聞くことは、ちょっとした楽しみの一つだった。

⏰:09/10/18 15:31 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#68 [nanoka]

「この間あそこを車で通ったんだけどさー」

「えっ?あそこってどこですか?」

俺が訊くと、明日香さんは煙草に火をつけながら答えた。

⏰:09/10/18 15:34 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#69 [nanoka]

「あそこよ、あそこ。焼身自殺があったアパート!知らないの?」

この辺で数年前にそうゆう事件があったという噂は聞いたことがあった。

「噂は聞いたことありますけど…」

⏰:09/10/18 15:38 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#70 [nanoka]

横目で蒼井さんに助けを求めると

「拓真くんのマンションのすぐ側ですよ」

と、話題を繋いでくれた。

そんな近くであった事件だとは知らなかったので驚いた記憶がある。

⏰:09/10/18 15:41 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#71 [nanoka]

「何年か前のことだしもう忘れかけてたんだけど、そのアパートの近くになって急に思い出して…」

車の助手席に乗っていた友達に明日香さんは言ったらしい。

「そういえば焼身自殺があったアパートってこの辺だよね」って。

⏰:09/10/18 15:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#72 [nanoka]

「その瞬間、車のロックがガチャガチャ鳴りはじめてさー」

「うわっ。怖っ!」

俺の反応を楽しむように明日香さんは続けた。

⏰:09/10/18 15:52 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#73 [nanoka]

「驚いてブレーキ踏んで車を停めたんだけど…顔あげたらそこちょうどそのアパートの目の前の道だったんだよね」

霊感もないくせに両腕に鳥肌が立ってしまった俺は、いつものように腕を擦りながら怖いを連発した。

⏰:09/10/18 15:55 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#74 [nanoka]

「ヤバいと思ってすぐに車を発進させたよ。で、もし憑いてたら嫌だなーって思って蒼井くんに会いに来たってわけ」

話終えた明日香さんに蒼井くんは微笑んだ。

「大丈夫ですよ。というか多分彼はあそこのアパートから動けないと思います」

⏰:09/10/18 15:59 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#75 [nanoka]

何でそんなことわかるんですか!ってツッコみたい気分を抑えつつ2人の話を聞いていた。

霊感体質なのか、明日香さんは毎週のように心霊体験をしては蒼井くんに憑かれてないかと確認していた。

前回来た時にも有名な心霊スポットに行ってきたと話していた。

⏰:09/10/18 16:04 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#76 [nanoka]

「いやー、夜中のトンネルって怖いね!まじで。ごめんなさい連発しちゃったよ、あたし」

いつもにも増してテンション高く話はじめた明日香さんに俺は手をとめた。

「トンネルってだけでもう怖いじゃないですか」

⏰:09/10/18 16:11 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#77 [nanoka]

「拓真くんてさ、聞きたがりのくせにビビりだよね」

性格をズバリ言い当てられた俺は微妙な心境で明日香さんの顔を見た。

「ま、そこが面白いんだけどねー」

⏰:09/10/18 16:13 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#78 [nanoka]

「てか何で夜中にトンネルなんか行ったんですか?」

俺が訊くと、明日香さんはきょとんとした顔をした。

「夜中にトンネルに行く理由なんて一つしかないじゃない」

⏰:09/10/18 16:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#79 [nanoka]

「肝試しですか?」

明日香さん、わざわざ試さなくても十分肝据わってるのに…。

などと考えながらそう訊くと明日香さんは大きく頷いた。

⏰:09/10/18 16:19 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#80 [nanoka]

「そうそれ!肝試しに行ってきたの」

怖かったと言っているわりに嬉しそうに見えたのは、多分気のせいではなかったと思う。

肝試しといっても当初の計画ではただトンネルを見に行くだけだったらしい。

⏰:09/10/18 16:22 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#81 [nanoka]

「でもさー、何か実際に見てみたらそれほどってゆうか全然怖くなくて」

怖くなかったのは明日香さんだけじゃないかと思いながら話を聞いた。

「お酒もちょっと入ってたし車から降りて歩いて中に入ってみようってことになったのね」

⏰:09/10/18 16:26 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#82 [nanoka]

「酒の勢いって怖いですね。てか、何人で行ったんですか?」

「あたし入れて3人。みんなキャバ嬢だよー。今度連れて来てあげよっか?」

「いや、遠慮しときます」

⏰:09/10/18 16:28 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#83 [nanoka]

俺は深々と頭を下げた。

女3人で夜中のトンネルに入れる度胸のあるお姉さん方に囲まれたら、俺には到底相手に仕切れないだろう。

「ふーん。ま、いいや。それでさっきの続きなんだけど、いざ中に入ったものの何も起きなくてさー」

⏰:09/10/18 16:32 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#84 [nanoka]

その時不意に明日香さんはあることを思い出したらしい。

そのトンネルの中にはお地蔵様があって、そのお地蔵様に触れると何かが起こるという噂だ。

「で、そのお地蔵様を探そうってことになったんだけど暗くてよく見えなくて」

⏰:09/10/18 16:40 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#85 [nanoka]

そこで明日香さんたちは、わざわざ車まで戻って車でトンネルに入りなおしたらしい。

すごい執念!笑

「車のライト照らしながらゆっくりトンネル進んでたらあったんだよね、ほんとにお地蔵様が」

⏰:09/10/18 16:57 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#86 [nanoka]

「見つけたからには触るしかない!ってなってみんなで車降りてお地蔵様の頭をなでなでしたのね」

「あり得ないですって。度胸有りすぎでしょ!」

俺の反応が面白いのか明日香さんは笑いながら、煙草の煙を吐いた。

⏰:09/10/18 17:01 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#87 [nanoka]

「でも何も起きなかったから白けて帰ろうってことになったのね」

「えっ?何もなかったんですか?」

「その時まではね」

⏰:09/10/18 17:03 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#88 [nanoka]

そう言って明日香さんは意味有り気な顔をした。

「3人で車に戻ってエンジンをかけて、さー帰るかって時になって後部座席に乗ってた子が突然悲鳴をあげたの」

⏰:09/10/18 17:05 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#89 [nanoka]

「ビックリして振り向いた瞬間、あたしも助手席にいた子も悲鳴あげちゃったよ。だってその子がお地蔵様の頭抱いてるんだもん」

「うわー。うわー。最悪の展開っすね」

俺はその時の様子がリアルに想像できた。

⏰:09/10/18 17:10 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#90 [nanoka]

「お地蔵様の頭なんかさすがに持って帰れないし、とりあえず返そうってことになったんだけど…」

「何でそんな冷静な判断下してるんですか」

「だってその子も何で持ってるのかわかんないって言うし…」

⏰:09/10/18 17:12 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#91 [nanoka]

「でさ、さっきお地蔵様があった場所に戻ったんだけどなかったんだよねー、お地蔵様」

「怖いし、どうにもならないしほんと最悪じゃないですか」

明日香さんとだけは肝試しに行きたくないって本気で思った。

⏰:09/10/18 17:16 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#92 [nanoka]

「暗いから場所間違えたのかなって話になってまた車に戻ったんだけど、今度は車が見つからなくてさー」

明日香さんの言葉に笑ったのは、蒼井さんだった。

「すいません、つい。拓真くんの言うようにほんとにあまりに最悪過ぎる展開だなと思って」

⏰:09/10/18 17:19 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#93 [nanoka]

「ほんと最悪ですよ!車はないしお地蔵様の体も見つからないし!!」

蒼井さんの同意を得たのが嬉しかったのか、明日香さんのテンションはさらに上がった。

「それで3人で途方に暮れてた時に聞こえてきたんですよ、足音が」

⏰:09/10/18 17:23 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#94 [nanoka]

姿は見えないけど、お地蔵様の足音だって3人ともがわかったらしい。

ゆっくり近付いてくる足音を聞いているうちに、どんどん空気が重くなっていったと明日香さんは言った。

⏰:09/10/18 17:25 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#95 [nanoka]

「あ、逃げないとヤバいって思ったね、直感ってやつ!」

「正しい判断ですね」

いつの間にか作業をやめて俺の隣に立っていた蒼井さんがそう呟いた。

⏰:09/10/18 17:27 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#96 [nanoka]

蒼井さんが言うのだから、正しい判断だったのだろうけど逃げても逃げてもトンネルから出れなかったらしい。

「足音はすぐ後ろまで迫ってるし、出口は見えないしで、ほんと焦った!走りながらごめんなさいってひたすら謝ったもん!!」

⏰:09/10/18 17:30 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#97 [nanoka]

夢中で逃げて気が付いたらトンネルの外に出てて、抱えてたはずのお地蔵様の頭もなくなってたらしい。

「あれはほんとに怖かった!」

と、興奮気味に話す明日香さんに蒼井さんは静かに微笑んだ。

⏰:09/10/18 17:44 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#98 [nanoka]

「憑いてきてはないみたいですね」

蒼井さんの言葉に、明日香さんはホッとした表情を見せた。

「心配でしたら、そのお友達も視てみますから今度連れて来て下さい」

⏰:09/10/18 17:46 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#99 [nanoka]

俺の顔を見ながら蒼井さんは言葉を続けた。

「拓真くんがお相手しますから」

肝っ玉の据わったお姉様方に囲まれるってある意味お地蔵様よりも怖いかもしれないと蒼井さんのちょっと意地悪な笑顔を見ながら思った。

⏰:09/10/18 18:48 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#100 [nanoka]


安価

>>1-63
>>64-99


⏰:09/10/18 18:50 📱:P906i 🆔:Fnj.Jafo


#101 [nanoka]

100まで続いたので
作ってみました.笑

感想板↓↓
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/

⏰:09/10/19 18:54 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#102 [nanoka]

まれに初めて店に来たお客さんでも店内と外の空気の違いに気付くこともある。

「あれっ?」

市原さんが初めて店に来た時の第一声はそれだった。

⏰:09/10/19 18:59 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#103 [nanoka]

その時俺は入り口のドアに一番近いテーブル席の片付けをしていた。

「どうかされました?」

見慣れない顔の市原さんに探りを入れるように、俺は声をかけた。

⏰:09/10/19 19:01 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#104 [nanoka]

「いや…あの、すぐ戻って来るから一瞬外に出てきていいかな?」

と、全く意味のわからないことを言い出した市原さんに俺は小さく「どうぞ」と答えた。

カクテルのボトルを拭いていた蒼井さんに目をやると、入れていいよと許可するように微笑んでいた。

⏰:09/10/19 19:05 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#105 [nanoka]

ほんとに一瞬で戻って来た市原さんは、外に出た理由について何の説明もしずに

「カウンター席、座っていいかな?」

と、俺に訊いた。

⏰:09/10/19 19:07 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#106 [nanoka]

俺はいつもそうするように椅子を少し引いて

「どうぞ」

と、席へ案内した。

30分くらいかな。市原さんは黙ったまま携帯を触ったりしながら飲んでいた。

⏰:09/10/19 19:10 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#107 [nanoka]

市原さんに対して少し不信感を抱いていた俺は、気付かれない程度にチラチラと市原さんを観察していた。

黒のスーツ。仕事終わりなのかネクタイはしていなかった。

髪は茶色で短髪。歳は20代後半だろうか。ごく普通のサラリーマンに見えた。

⏰:09/10/19 19:13 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#108 [nanoka]

一時間くらい経ってから、ようやく市原さんは口を開いた。

少し赤みがかった頬になり目も心なしかトロンとしていた。

お酒はあまり強くないようだった。

⏰:09/10/19 19:15 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#109 [nanoka]

「静かでいいな、この店」

俺にではなく、正面に立っていた蒼井さんに向けられた言葉だった。

「ありがとうございます」

蒼井さんはお得意の微笑みを返しながらそう答えた。

⏰:09/10/19 19:18 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#110 [nanoka]

「最近、うるさくてちょっと寝不足なんだ」

と、市原さんは目を擦った。

「近所で工事でもやってるんですか?」

⏰:09/10/19 19:20 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#111 [nanoka]

「あぁ…まぁそんなとこかな」

一瞬の間、俺は眠れない理由は工事じゃないんだろうなと思った。

サラリーマンが寝る時間帯にやる工事なんてそうそうあるわけもないし。

⏰:09/10/19 19:23 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#112 [nanoka]

「それは大変ですね」

と答えたきり蒼井さんが再び黙ると、市原さんは心を決めたという感じで

「ほんとは…」

と、口を開いた。

⏰:09/10/19 19:24 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#113 [nanoka]

「耳鳴りが酷いんだ。眠れないくらい」

病院行けばいいのに。って単純な俺とは逆に蒼井さんは真剣な表情をしていた。

「でも不思議なことにこの店入った瞬間、ピタッと耳鳴りが収まったんだ」

⏰:09/10/19 19:27 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#114 [nanoka]

あぁ、だから…。と俺は妙に納得した。

急に耳鳴りが止まったから驚いた顔をしてたのか。

「治ったのかとビックリして一度外に出てみたんだけど治ってはないみたいだ」

⏰:09/10/19 19:30 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#115 [nanoka]

耳鳴りについて説明を終えた市原さんは最後に独り言のように

「ここから出たくない」

と、呟いた。

⏰:09/10/19 19:32 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#116 [nanoka]

「耳鳴りがする時って…」

蒼井さんが口を開くと、市原さんが項垂れていた頭を少し上げた。

「近くに霊がいるって話は聞いたことありますか?」

⏰:09/10/19 19:34 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#117 [nanoka]

「え…」

市原さんは一瞬面食らったような顔をしたが、すぐに

「よくある都市伝説みたいなもんだろ」

と、笑った。

⏰:09/10/19 19:35 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#118 [nanoka]

「その話、あながち間違いではないんですよ」

「えっ?」

「正確には霊が喋っている声なんですけどね」

こんな話をしている時でも蒼井さんは笑顔を絶やさない。

⏰:09/10/19 19:38 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#119 [nanoka]

「ただ霊の声って普通の人にはうまく聞き取れないことが多いんですよ。耳鳴りみたいな“音”としてしか変換できないんです」

俺は市原さんの顔色を伺うように視線を移した。

⏰:09/10/19 19:41 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#120 [nanoka]

蒼井さんの話って単純に言えばあなたに霊が憑いてますよってことだから。

そんなこといきなり言われたら、若めのお兄ちゃんなら怒り出すんじゃないかとて心配だった。

でも俺のそんな心配は取り越し苦労に終わった。

⏰:09/10/19 19:43 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#121 [nanoka]

市原さんは真剣な表情で蒼井さんの話を聞いていた。

「じゃあずっと霊が俺に話しかけてるってことか?」

その言い方は何だか心当たりがあるようなそんな感じ言い方だった。

⏰:09/10/19 19:47 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#122 [nanoka]

「えぇ、おそらく」

「何て言ってるんだ!?」

その質問に蒼井さんはちょっと困った顔をした。

「店の外なのでよく聞こえないんですよ」

⏰:09/10/19 20:00 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#123 [nanoka]

意味がわからないという顔をした市原さんに、蒼井さんは説明を続けた。

「僕がいると霊が近くに来れないみたいなんです」

普通なら笑い飛ばされそうな話だが、蒼井さんが言うと真実に聞こえるから不思議だ。

⏰:09/10/19 20:06 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#124 [nanoka]

まぁ真実なんだけど。

「だからここは静かなんだ…」

市原さんも納得したように頷いていた。

でも市原さんには納得するに至った別の理由があった。

⏰:09/10/19 20:07 📱:P906i 🆔:SzarbkRI


#125 [nanoka]

事の始まりは市原さんが友人の部屋に泊まりに行ったことらしい。

「終電なくなっちゃったし泊めてくれ」

市原さんの言葉にそれまで陽気に飲んでいたその友人は渋い顔で言ったらしい。

⏰:09/10/20 17:24 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#126 [nanoka]

「泊めるのはいいけど絶対に窓の外を見るなよ」と。

訳がわからず理由を聞いても答えてくれなかったらしい。

「まぁ夜中だったし窓開けることもないだろうと深くは追及せずに泊めてもらうことにしたんだ」

⏰:09/10/20 17:29 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#127 [nanoka]

ポツポツと語り始めた市原さんの話に、いつの間にか俺は夢中になっていた。

「その晩は散々飲んだ後だったし、シャワーだけ借りてすぐに寝たんだ」

友人がベッド、市原さんはソファーに横になった。

⏰:09/10/20 17:32 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#128 [nanoka]

「目が覚めたら朝だった。携帯を確認したらまだ7時前だった」

休みなのに早く起き過ぎてしまったな、とまだベッドで寝息を立てている友人を見ながら思ったらしい。

同じく休日の友人を早くから起こすのも悪いし、かといって黙って帰るのも気がひけた、と市原さんは語った。

⏰:09/10/20 17:36 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#129 [nanoka]

「とりあえず一服しながら考えようと煙草を手に取ったんだけど…」

そこで友人が煙草を吸わないことを思い出したらしい。

部屋を見回したが灰皿も置いていなかった。

⏰:09/10/20 17:37 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#130 [nanoka]

非喫煙者の部屋で吸うのはどうかと考え、気を遣ってベランダに出たらしい。

「すっかり忘れてたんだ。窓の外を見るなって言われてたこと」

ベランダに出て空き缶片手に煙草を吸ったと話している市原さんの顔はどこか不安そうに見えた。

⏰:09/10/20 17:43 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#131 [nanoka]

ベランダからは川が見えたという。マンションと平行に流れる川。

「犬の散歩をしてる人なんかもいて、いい所だなーと思いながらしばらく景色を眺めてたんだ」

⏰:09/10/20 21:13 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#132 [nanoka]

おそらくその時もそうしていたのだろう。

市原さんは火をつけたままの煙草を指にはさみ、カウンターの向かいの壁に並べられたお酒のボトルを眺めていた。

「俺から見て右側に橋があったんだけど…高さはちょうど高速道路くらいの高さだったと思う」

⏰:09/10/20 21:21 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#133 [nanoka]

「その橋の上に女の子が立ってたんだ。女の子っていっても高校生くらいかな」

話を聞きながら俺は頭の中でその女の子をイメージしていた。

⏰:09/10/20 21:31 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#134 [nanoka]

「こんな時間から一人で何やってるんだろう?ってのが最初の印象かな」

市原さんの話では、その子は犬を連れてるわけでもなくただ橋に立っていただけらしい。

「それでどうなったんですか?」

⏰:09/10/20 21:42 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#135 [nanoka]

聞き耳を立てていることは隠していたはずなのについ口にしてしまった。

「え?あぁ…それでその女の子がな…」

突然俺に話しかけられた市原さんは面食らった顔をしながらも話を続けた。

⏰:09/10/20 21:49 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#136 [nanoka]

「こっちに向かって手を振ってきたんだ。最初は俺の他にもベランダに出てる奴がいるんだと思ったんだ。その子の友達とかな」

でもその視線はどう考えても自分に向けられているように思えたらしい。

⏰:09/10/20 21:52 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#137 [nanoka]

「違ったら恥ずかしいな何て考えながら俺も手を振ってみたんだ」

するとその女の子は、さっきよりも大きく手を振り返してきたらしい。

「あ、やっぱり俺にだったんだってちょっと嬉しくなって俺も大きく手を振ったんだ」

⏰:09/10/20 21:55 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#138 [nanoka]

「そしたらその子が何か叫んだんだ。でもうまく聞き取れなくて俺も叫んだんだ。え?何ー?って」

その市原さんの声で寝ていた友人が目を覚ましたらしい。

「ベランダにいる俺の姿を見るなりそいつすげー勢いで怒鳴ってきてさ」

⏰:09/10/20 21:59 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#139 [nanoka]

その時になってようやく市原さんは、友人から窓の外を見るなと言われていたことを思い出したらしい。

「でももう見ちゃった後だし何も変なとこないじゃんって俺笑ったんだ」

それでも友人は早く中に入れって市原さんの腕を引っ張ったという。

⏰:09/10/20 22:02 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#140 [nanoka]

「とりあえず落ち着かせようと女の子といいとこだからお前も来いよって言ったんだ」

そう言いながら視線を女の子のいた橋に戻した時だった。

市原さんの見ている前でその子は川に飛び込んだ。

⏰:09/10/20 22:05 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#141 [nanoka]

驚いて一瞬、力が緩んだ。と市原さんは言った。

そのタイミングを逃さず友人は市原さんを部屋に引っ張っりこんだらしい。

「何するんだよってさすがに俺も怒ったんだ。女の子が川に飛び込んだんだぞって」

⏰:09/10/20 22:09 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#142 [nanoka]

「そしたらそいつ俺の倍くらいの剣幕で怒鳴ってきたんだ。だったら川見てみろよ!あれが人間に見えるか!?って」

言われるままに川を見た市原さんの目に飛び込んできたのは、人とは思えないスピードで川を泳ぐ何かだった。

⏰:09/10/20 22:16 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#143 [nanoka]

「一瞬で全身に鳥肌がたったよ。だってその尋常じゃないスピードのそれ、明らかに俺らの方に向かって来てたんだ」

本気でヤバいと感じた市原さんは慌てて窓を閉めたらしい。

⏰:09/10/20 22:20 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#144 [nanoka]

「まぢで焦ったよ!だって窓閉めてる時にはもう川から上がってすぐ側まで来てたんだからな」

市原さんが窓を閉めたのとほぼ同時にバンッ!!という窓に何かがぶつかる音がした。

「間一髪じゃないですか!まぢ怖いっすね!!」

⏰:09/10/20 22:27 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#145 [nanoka]

バーににつかない口調にか俺のテンションにかはわからないが、市原さんは初めて笑顔を見せた。

「お前チキンだろ?」

という質問に、俺は苦笑するしかなかった。

⏰:09/10/20 22:29 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#146 [nanoka]

話し終えて少し気が楽になったのか、市原さんは

「あーっっ!」

と大きな声を出した。

正直あの時の市原さん、おかしくなっちゃったのかと思った。

⏰:09/10/20 22:32 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#147 [nanoka]

俺が呆気にとられていると市原さんは

「あ、悪い悪い」

と、笑った。

それから煙草に火をつけてゆっくりと言った。

⏰:09/10/20 22:33 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#148 [nanoka]

「この店から出たくないなーと思って、ね」

その言葉に返事をしたのは蒼井さんだった。

「よろしければ…」

⏰:09/10/20 22:37 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#149 [nanoka]

そう言って蒼井さんが差し出したのは、小さなビー玉のようなものだった。

ビー玉よりだいぶ小さくてどちらかといえば…

「…数珠?」

呟くように市原さんはそう言った。

⏰:09/10/20 22:43 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#150 [nanoka]

「耳栓がわりに」

短くそう言うと、蒼井さんは例の微笑みを振り撒いた。

「どゆこと?」

市原さんに訊かれ、俺はたどたどしい説明を付け加えた。

⏰:09/10/20 22:50 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#151 [nanoka]

「多分ですけどそれいつも蒼井さんがつけてる数珠なんです」

「それをバラしたのがこの玉ってこと?」

「はい。で、蒼井さんは霊をはね除けるってゆうか、何かそうゆう力があるので…」

⏰:09/10/20 22:55 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#152 [nanoka]

「なるほど!」

ほんとに理解できたのかは謎だけど市原さんはそう言って立ち上がると

「今日は帰るよ」

と、すでに財布を手に会計を急かした。

⏰:09/10/20 22:58 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#153 [nanoka]

「百聞は一見に如かず!」

などと手をヒラヒラさせながら店を出た市原さんが再び店に来たのは、一週間後のことだった。

二回目にもかかわらず常連さんみたいな態度でカウンターに座った。

⏰:09/10/20 23:02 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#154 [nanoka]


安価

>>1-63
>>65-99
>>102-153


⏰:09/10/20 23:07 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#155 [nanoka]


感想板↓↓

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/


⏰:09/10/20 23:08 📱:P906i 🆔:XhA/sXmE


#156 [nanoka]

「何か汚れちゃったんだけど…」

そう言って市原さんは手のひらに乗せた数珠を蒼井さんに見せた。

それは前にも見たことのある黒くくすんだ色をしていた。

⏰:09/10/22 16:40 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#157 [nanoka]

蒼井さんは静かに微笑むと新しい数珠の玉を市原さんの前に置いた。

「色はすぐに戻りますから気にしなくて良いですよ」

蒼井さんの言葉通り、蒼井さんの手のひらに乗せられた数珠は一分も経たない内に透明に戻っていた。

⏰:09/10/22 16:45 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#158 [nanoka]

「何だかUVセンサーみたいだな」

と、市原さんは笑った。

霊的なものを感知すると色が濃くなり、蒼井さんに触れていると薄くなる。

中々うまい例えだと思った。

⏰:09/10/22 16:47 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#159 [nanoka]

それ以来、市原さんはちょくちょく店に顔を出すようになった。

数珠が黒くなったら店に来て新しい数珠と取り替えてもらう。

蒼井さんいわく

⏰:09/10/22 17:03 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#160 [nanoka]

「あくまで応急措置なので憑かれているという状態が改善したわけじゃないんですけどね」

ということらしい。

「ちゃんとお祓いに行くのが一番なんですけど」

⏰:09/10/22 17:05 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#161 [nanoka]

何度目かに店に来た市原さんを見送った後、蒼井さんはそう呟いた。

「まだ憑いてるんですか?」

その日は他にお客さんもいなかったので、俺は訊いた。

⏰:09/10/22 17:07 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#162 [nanoka]

「無視していれば他に行くケースもあるんですけど、市原さんには執着があるみたいですね」

蒼井さんの口調から市原さんを心配していることが伝わってきた。

俺はずっと気になっていた質問を蒼井さんにした。

⏰:09/10/22 17:10 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#163 [nanoka]

「あの霊が喋っていることが声として認識できなくて耳鳴りに聞こえるって言ってましたよね?」

「えぇ。大まかに言えばそんな感じです」

「何て…言ってるんですか?あの霊」

⏰:09/10/22 17:12 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#164 [nanoka]

俺の質問に蒼井さんは少し考えてから、口を開いた。

「一緒に行こう。一緒に行こう。一緒に行こう。一緒に行こう。一緒に行こう。一緒に…」

ほんの一瞬だけど蒼井さんの声に女の人の声が重なって聞こえた気がして、俺は反射的に耳を塞いだ。

⏰:09/10/22 17:15 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#165 [nanoka]

「あ。すいません。怖がらせてしまいましたね」

そう言って微笑んだ時にはいつもの優しい蒼井さんの声だった。

でもビビりな俺は、それ以来その女の人について訊くのをやめた。

⏰:09/10/22 17:17 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#166 [nanoka]

市原さんがどうしてるかと言うと、いまだにお祓いには行かず、でも元気に店に通ってくれている。

もともと陽気な性格なのが幸いしたのか、悪い影響は出ていないようだった。

⏰:09/10/22 17:20 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#167 [nanoka]

むしろ影響が出たのは俺の方かもしれない。

蒼井さんの話を聞いてから耳鳴りがする度に辺りを確認せずにはいられなくなった。

突然誰もいないはずの辺りを確認する俺は、何も知らない人から見たらちょっとおかしい子に見えるかもしれない。

⏰:09/10/22 17:32 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#168 [nanoka]


安価

>>1-63
>>65-99
>>102-167

⏰:09/10/22 17:41 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#169 [nanoka]

蒼井さんはじゃんけんが強い。

というよりも俺は蒼井さんが負けてるところを一度も見たことがない。

うちの店は基本的に常連さんが多く、滅多にお酒の味や料金に文句を言ったり…というような揉め事はない。

⏰:09/10/22 17:43 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#170 [nanoka]

でもバーという店の性質上たまに酔っ払って、そういうことを言い出すお客さんもいる。

そんな時、蒼井さんはいつもじゃんけんをする。

「では僕とじゃんけんしませんか?」

⏰:09/10/22 17:45 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#171 [nanoka]

お客さんの言い分を全部聞いた後、蒼井さんはそう口にする。

呆気にとられたお客さんに蒼井さんは

「僕が負けたら料金はただにさせていただきます」

と、微笑むのだ。

⏰:09/10/22 17:47 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#172 [nanoka]

その日来ていたお客さんは店に入って来た時から足元がふらつくほど酔っていた。

見た目からしてその筋の人というか、そんな感じだった。

俺がちょっとビビっていたのは言うまでもないだろう。

⏰:09/10/22 17:49 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#173 [nanoka]

ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたろうかだっけ?そんなセリフが似合う人だった。

歳は多分30代前半なのだけど、声にも態度にも迫力があった。

そのせいか、30分も経たないうちにお客さんはその強面さんだけになってしまった。

⏰:09/10/22 17:53 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#174 [nanoka]

俺がビビっているのが伝わったのか、会計は蒼井さんが担当してくれた。

俺は何とも情けないような申し訳ないような気持ちで2人を見ていた。

計算を終え伝票を差し出した時になってその男性が怒り始めた。

⏰:09/10/22 17:58 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#175 [nanoka]

「一杯しか飲んでいないのに高すぎる」

とかそんなようなことを怒鳴っていた。

実際には六杯ほど飲んでいたので、実に理不尽で無茶苦茶な言い分だ。

⏰:09/10/22 18:12 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#176 [nanoka]

「この店はぼったくりだって言いふらずぞ」

などと散々怒鳴り散らした後、蒼井さんの顔を睨み付けた。

蒼井さんはいつものように微笑んでいた。

⏰:09/10/22 18:14 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#177 [nanoka]

「それは困ります。そんな噂がたったらお客さん来なくなってしまいます」

蒼井さんの言葉に男はそうだろうというように頷いた。

「でも料金を払っていただけないと、それはそれで困ります。お店つぶれてしまいます」

⏰:09/10/22 18:18 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#178 [nanoka]

蒼井さん、それは遠回しにお金払えって言ってるのと同じですよ!ってかなり焦った。

でも蒼井さんは微笑みを絶やすことなく続けた。

「だからじゃんけんで決めませんか?」

⏰:09/10/22 22:43 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#179 [nanoka]

「じゃんけん?」

「はい。僕が負けたら料金は支払わなくて結構です。でも僕が勝ったら…」

蒼井さんの言葉を最後まで聞かずに男は声をあげて笑い始めた。

⏰:09/10/22 22:45 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#180 [nanoka]

「兄ちゃん面白いな。ヤクザ相手にじゃんけんとは」

あぁ、やっぱりそっち系の方でしたかと思っているうちにじゃんけんが始った。

もちろん勝ったのは蒼井さんだ。

⏰:09/10/22 22:47 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#181 [nanoka]

でも諦めの悪いその男は

「三回勝負だった」

「五回勝負って言ったよな?」

と、じゃんけんを繰り返した。

⏰:09/10/22 22:49 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#182 [nanoka]

結局、蒼井さんが通算27勝目をあげ

「何で一回も勝てないんだ?」

と男が口にするまで、じゃんけんは続いた。

⏰:09/10/22 22:51 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#183 [nanoka]

じゃんけんとは言え27回もやると疲れるようだ。

男にはさっきまでの威勢の良さがなくなり、ただただ不思議だと呟いていた。

「僕じゃなくて後ろの人が凄いんです」

⏰:09/10/22 22:53 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#184 [nanoka]

「後ろって…」

と、男は蒼井さんの後ろを見た。

当たり前だけど何も見えなかったようだ。

⏰:09/10/22 22:58 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#185 [nanoka]

「平たく言えば物凄く強運な守護霊といったところですかね」

それは俺も初めて聞く話だった。

「じゃあパチンコや競馬も負けないのか?」

⏰:09/10/22 23:01 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#186 [nanoka]

男の質問に蒼井さんは少し苦笑しながら

「自分の欲の為に使うことはできないんですよ」

と、答えた。

⏰:09/10/22 23:02 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#187 [nanoka]

意外にも蒼井さんの話を疑うことのない様子の男に、俺はこっそり胸を撫で下ろした。

「いいことばかりでもないですけどね。おかげで霊も視えますし…」

色々と質問をしていた男が一番食い付いた言葉だった。

⏰:09/10/22 23:05 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#188 [nanoka]

「じゃあ俺に憑いてるものが視えるのか!?」

少し身を乗り出して男はそう訊いた。

蒼井さんは微笑むと、はいと短く答えた。

⏰:09/10/22 23:07 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#189 [nanoka]

「どんな奴だ!?俺に憑いてるのは!?」

何か思い当たることでもあるのか、男の眼差しは真剣だった。

「憑いてはいますけど悪いものではないですよ」

⏰:09/10/22 23:09 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#190 [nanoka]

蒼井さんの答えが不満だったのか、男は納得いかないといった顔で煙草に火をつけた。

「間違いなく何か悪いものが憑いている」

と言い張る男は、最近起こった異変について話始めた。

⏰:09/10/22 23:13 📱:P906i 🆔:TiXHFAh.


#191 [nanoka]

「絶対何かいるんだよ!最近俺、その何かにすっげー頭叩かれるんだ」

思わず「へ?」と間抜けな声が出てしまった。

睨み付けられた俺にはそれだけ?と聞き返す勇気はなかった。

⏰:09/10/23 23:27 📱:P906i 🆔:V9FMlRY2


#192 [nanoka]

「最初は気のせいかとも思ったんだけど、間違いなく叩かれてるんだ」

そう言って男は自分の後頭部を撫で下ろした。

「パーで平手打ちされたみたいな感じかな。でも振り向いても誰もいないんだよ。な?怖いだろっ?」

⏰:09/10/23 23:39 📱:P906i 🆔:V9FMlRY2


#193 [nanoka]

男に同意を求められ、俺は微妙に視線をそらした。

怖い話ならたくさん聞いてるし、正直他の人の話の方が何倍も怖かった。

でもその男にしてみたら、かなり怖いことらしく怖いだろ?と繰り返していた。

⏰:09/10/23 23:47 📱:P906i 🆔:V9FMlRY2


#194 [nanoka]

何度目かに男が怖いという単語を口にした時だった。

不意に蒼井さんが笑った。

笑ったのだ。いつもの微笑む方じゃなくて「ははっ」って声に出して。

⏰:09/10/23 23:54 📱:P906i 🆔:V9FMlRY2


#195 [nanoka]

蒼井さんがそんな風に笑うのを見るのはその時が初めてだった。

「何がおかしいんだ?」

蒼井さんに笑われたことがムカついたのか、止める暇もなく男は蒼井さんのシャツを掴んだ。

⏰:09/10/23 23:58 📱:P906i 🆔:V9FMlRY2


#196 [nanoka]

胸ぐらを掴むって光景を目にしたのも、あの時が初めてだった。

「痛っ!」

胸ぐらを掴んでいるのは男なのに、そう口にしたのはその男だった。

⏰:09/10/24 00:04 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#197 [nanoka]

すでに蒼井さんから手を離し、殴られた(らしい)頭を押さえながら

「な?今見ただろ?」

と、今度は俺に詰め寄ってきた。

⏰:09/10/24 00:07 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#198 [nanoka]

何だかもうただのおかしい人にしか見えなかった。

「覚えてませんか?」

そう訊いたのは蒼井さんだった。

俺と男の視線が蒼井さんに集まった。

⏰:09/10/24 00:16 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#199 [nanoka]

「そんな風に頭を叩かれて怒られたこと、覚えてませんか?」

蒼井さんの言葉に男はしばらく考えてから問い返すように呟いた。

「ば…ばあちゃん…?」

⏰:09/10/24 00:22 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#200 [nanoka]

「怒ってますよ、人の道に外れたことばかりしてるって。それから…」

蒼井さんは微笑みながら続けた。

「すごく心配してますよ。そんなことばかりしていたら長生きできないって」

⏰:09/10/24 00:24 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#201 [nanoka]

これは後になって聞いた話なんだけど、頭を叩かれたのは何か悪いことをした時ばかりだったらしい。

男を心配したおばあちゃんなりのお仕置きだったようだ。

危害を加えるどころか心配して見守ってくれていたおばあちゃんを怖がっている男の姿に堪えきれず蒼井さんは笑ってしまったらしい。

⏰:09/10/24 00:28 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#202 [nanoka]

「だから悪いものではないって言ったんですね」

男が帰った後、ようやく静かさを取り戻した店内で俺は蒼井さんにそう声をかけた。

「はい。僕、嘘はつきませんよ」

⏰:09/10/24 00:39 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#203 [nanoka]

そう言って微笑んだ後

「それに悪いものなら店の中には入って来れませんから」

と、説明してくれた。

「じゃあ今回みたいに守護霊みたいなものは中に入ってきてるんですか?」

⏰:09/10/24 00:41 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#204 [nanoka]

「そうですね。僕の後ろの方も店の中にいますし」

「蒼井さんの後ろの方ってどんな人なんですか?」

俺の質問に、蒼井さんは

⏰:09/10/24 00:43 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#205 [nanoka]

「内緒です」

と、笑った。

「さっきも言いましたけど僕、嘘はつかないんです。だから秘密が多いんですよね」

⏰:09/10/24 00:45 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#206 [nanoka]

嘘をつかないことやじゃんけんが異常に強いことも全部後ろの方の影響なのだろうか。

でも何となくそれ以上は聞けなかった。

聞いても教えてくれないだろうなって予感もあったし。

⏰:09/10/24 00:47 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#207 [nanoka]

だからかわりに

「俺の後ろにもいます?」

って訊いてみた。

蒼井さんの答えはイエスだった。

⏰:09/10/24 00:48 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#208 [nanoka]

「どんな人ですか?」

って訊いた後で

「あっ!やっぱりいいです。訊くのやめます」

と、自分で拒否してしまった。

⏰:09/10/24 00:49 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#209 [nanoka]

だってちょっと怖いじゃん。自分の守護霊について訊くのって。

だからいまだに、俺の後ろの方も蒼井さんの後ろの方も謎のままだ。

いつか蒼井さんが自分から話してくれる日が来るのかな。

⏰:09/10/24 00:51 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#210 [nanoka]


安価

>>1-63
>>65-99
>>102-167
>>169-209

⏰:09/10/24 00:53 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#211 [nanoka]


感想板↓↓

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/


⏰:09/10/24 00:55 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#212 [nanoka]

毎週火曜日に一人で飲みに来るお客さんがいる。

名前は神崎。下の名前は知らない。

30歳になったばかりの彼は職業柄、心霊現象を信じているらしい。

⏰:09/10/27 21:00 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#213 [nanoka]

「俺さー、不動産の仲介やってるんだ」

初めて神崎さんに会った時、そう説明された。

水曜日が休みらしく火曜日はだいたい毎週飲みに来るからよろしくというようなことを言われた。

⏰:09/10/27 21:02 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#214 [nanoka]

俺が怖い話を聞くのが好きだと蒼井さんが説明すると色々とそっち系の裏話を話してくれた。

あそこのマンションは出るとか、自殺した人の住んでたアパートの話とかね。

意外だったのが、幽霊が出るから引っ越したいと相談されることがよくあるという話だった。

⏰:09/10/27 21:06 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#215 [nanoka]

「えーっ。そんなこと言う人いるんですか!?」

俺が驚いていると、結構多いんだよ、と笑っていた。

「そういや駅でビラ配りしてる時に相談されたこともあったなー」

⏰:09/10/27 21:08 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#216 [nanoka]

「初対面の人にですか?」

「うん。物件が載ってるビラ渡したら今すぐ引っ越せる物件ありますか?って訊かれてさ」

「そんな人いるんですね」

⏰:09/10/27 21:10 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#217 [nanoka]

「あんまりにも真剣だったんで俺もビックリしたよ。話聞いたら他社でアパートを借りたばかりだったんだよね」

話しているうちにその時のことを思い出したのか、神崎さんは苦笑しながら話を続けた。

⏰:09/10/27 21:12 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#218 [nanoka]

「その子の話じゃ、そのアパート出るらしいんだ」

「出るって…幽霊ですよね?」

そんなことを初対面の人に真面目に相談するくらいだからよっぽど切羽詰まっていたのだろう。

⏰:09/10/27 21:15 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#219 [nanoka]

「その子の部屋に押し入れがついてたらしいんだ。部屋はフローリングなんだけど収納は押し入れっていう内装だったらしい」

神崎さんが言うには、そんな風に床だけリフォームして貸し出している部屋は少なくないようだった。

⏰:09/10/27 21:18 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#220 [nanoka]

「ま、今どき畳じゃ入居者入らないからな」

と、前置きして神崎さんは話を戻した。

「まぁ、その押し入れに出るって言うんだ。女の子が体育座りで押し入れの隅っこにいるって」

⏰:09/10/27 21:23 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#221 [nanoka]

「押し入れ使えませんね、それ」

俺の言葉に

「その子も同じこと言ってたよ」

と、神崎さんが笑った。

⏰:09/10/27 21:24 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#222 [nanoka]

「それでその子どうなったんですか?」

俺がそう質問すると神崎さんの顔から笑顔が消えた。

「わかんない」

⏰:09/10/27 21:35 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#223 [nanoka]

「えっ?」

「本気みたいだったから、名刺渡したんだけど結局一度も連絡なかったから」

そう言った後で独り言のように元気なのかなと呟いていた。

⏰:09/10/27 21:37 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#224 [nanoka]

神崎さんいわく

「よくあること」

のようだ。

「幽霊が出るってわかってても平気で入居者募集するしな」

⏰:09/10/27 21:39 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#225 [nanoka]

多分“大人の事情”というやつなのだろう。

「やっぱり幽霊が出るとかって入居前に伝えないんですか?」

「伝えないよ。殺人事件とか自殺とかあった部屋は事前に伝えなきゃいけないんだけど、自然死や幽霊の類いは黙ったままだね」

⏰:09/10/27 21:42 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#226 [nanoka]

「そうなんですか?」

「あぁ。まぁ俺たちは入居者を探して大家さんに紹介するのが仕事だから」

そう言って神崎さんは何か考えるように黙りこんだ。

⏰:09/10/27 21:44 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#227 [nanoka]

沈黙を破ったのは蒼井さんだった。

「よろしければもう一杯いかがですか?」

いつの間にか神崎さんのグラスは空になっていた。

⏰:09/10/27 21:45 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#228 [nanoka]

「あ…じゃあ同じものを」

蒼井さんは静かに微笑むとカクテルを作り始めた。

同時に神崎さんが再び口を開いた。

⏰:09/10/27 21:48 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#229 [nanoka]

「俺のとこの不動産屋で扱ってる物件で社員の間でも有名な物件があってさ」

と、神崎さんは幽霊マンションについて説明してくれた。

外から見た外観も暗くて、いかにもってマンションらしい。

⏰:09/10/27 21:50 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#230 [nanoka]

「両側にもマンションがあって、日が当たらないからなんだけど、それだけじゃない暗さがあるんだよな、あそこは」

「そこは何か事件とかあったんですか?」

「いや、何も。でもこの間そのマンションに住んでる夫婦が部屋を探しに来たんだ。担当したのが俺だったんで色々と聞いたよ」

⏰:09/10/27 21:53 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#231 [nanoka]

「心霊現象ですか?」

「あぁ。女の霊が出るらしい。鏡に写ったり視界の隅に見えたりするって言ってたよ」

「俺、そのマンションには絶対住みたくないです」

⏰:09/10/27 21:55 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#232 [nanoka]

「俺も」と、笑ってから神崎さんは言葉を続けた。

「毎日のように同じ女を見かけたらしい。でも実害っていうのかな。何かされるわけでもないしってことであまり気にしてなかったみたいなんだ」

すごい夫婦だなと思わず笑ってしまった。

⏰:09/10/27 21:58 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#233 [nanoka]

「でも奥さんが妊娠したんで引っ越しを決心したんだってさ。子供には見せたくないって言ってたよ」

「そのマンション今もあるんですか?」

「あるよ。しかも意外と入居者いるんだよ」

⏰:09/10/27 22:02 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#234 [nanoka]

「ええっ!?まじですか!?」

俺の反応が面白かったのか神崎さんはちょっと得意気に笑った。

「他の社員もそのマンションのことは知ってたけど、家賃安いからよく紹介してるみたいだしな」

⏰:09/10/27 22:09 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#235 [nanoka]

「家賃安いって言っても、幽霊出るんじゃ退去者も多いんじゃないですか?」

「それがあんまいないんだよ。出るのは例の女の霊だけみたいで、俺が担当した夫婦みたいに気にしない人は気にしないから」

そう言った神崎さんは少し不満そうな表情を浮かべていた。

⏰:09/10/27 22:14 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#236 [nanoka]

感情をストレートに表に出す人というのが、俺の抱く神崎さんのイメージだった。

ちょっと接客業には向かないタイプなのでは、と余計な心配をしてみたりもした。

⏰:09/10/27 22:15 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#237 [nanoka]

そんな神崎さんが、今まで見たことないくらい暗い顔で店に入ってきた。

初めて神崎さんに会った人でも

「何かあったんですか?」

と、訊いてしまいそうな雰囲気だった。

⏰:09/10/27 22:23 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#238 [nanoka]

「寝不足なんだ」

と、神崎さんは開口一番俺にそう言った。

自分でも暗い雰囲気を出していることに気付いているらしい。

⏰:09/10/27 22:25 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#239 [nanoka]

「仕事忙しいんですか?」

という俺の質問に

「あぁ…まぁ」

と、曖昧な答えが返ってきた。

⏰:09/10/27 22:27 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#240 [nanoka]

「前に幽霊マンションの話をしたの覚えてるか?」

「はい。社員さんの間で有名なマンションですよね」

記憶力がいいのは、自分の中で自慢できる部分だ。

⏰:09/10/27 22:30 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#241 [nanoka]

「他にもあるんだよ、そうゆうマンションや部屋」

「そうなんですか」

話の意図がよくわからなくて俺はそんなありきたりな相槌を返した。

⏰:09/10/27 22:33 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#242 [nanoka]

「この間話したマンションみたいに家賃を下げれば入居者がつくこともあれば、下げてもずっと空き部屋のままの物件もあるんだ」

返す言葉が思い付かず俺は黙ったまま神崎さんの話を聞いていた。

「そうゆう物件はさらに家賃を下げるんだ。それでも入居者がつかない場合どうするかわかるか?」

⏰:09/10/27 22:40 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#243 [nanoka]

俺は首を横に振った。

「入居者がいないってのは気まずいんだ。大家さんにしてみたらここの不動産屋に仲介を頼んでるから入居者がいないんじゃないかって思われることもあるし」

その辺の事情は何となく理解できた。

⏰:09/10/27 22:43 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#244 [nanoka]

「だけどこっちにしてみたら、お客さんに紹介できる物件は多い方がいいに決まってるよな」

「はい。わかります…何となくですけど」

「ま、大人の事情だよ。大家さんのご機嫌とりをするわけだ」

⏰:09/10/27 22:46 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#245 [nanoka]

「ご機嫌とり…ですか」

「そう。簡単に言えば俺ら社員がそうゆう物件に入居するんだよ」

礼金や敷金といった謝礼をなくしてもらい、社員が入居するんだと神崎さんは説明してくれた。

⏰:09/10/27 22:49 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#246 [nanoka]

「へー…何か色々大変なんですね」

俺の言葉に神崎さんは、ははっと力なく笑った。

「俺も今住んでるんだ」

「えっ?」

⏰:09/10/27 22:51 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#247 [nanoka]

「幽霊物件に」

吐き捨てるようにそう言った神崎さんは、グラスに半分くらい残っていたカクテルを一気に胃に流し込んだ。

やけ酒ってこうゆう飲み方をいうんだろうななどと考えていた俺の耳に

⏰:09/10/27 22:54 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#248 [nanoka]

「おかわり」

という神崎さんの声が響いた。

俺と神崎さんのやり取りをおそらく全部聞いていたであろう蒼井さんは、いつもの微笑みを崩すことなく、二杯目のカクテルを作り始めた。

⏰:09/10/27 22:56 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#249 [nanoka]

「出るんですか?そこ」

訊いてよいものか迷ったものの好奇心に負けて、そう訊いた。

「幽霊って意味ならまだ視てない。でも…」

神崎さんは一度言葉を切ってから続けた。

⏰:09/10/28 01:57 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#250 [nanoka]

「今の部屋に越してから、毎晩金縛りには遭うよ」

「あ。だから…」

「おかげで寝不足だよ。夜中に必ず目が覚めるわ金縛りになるわで、最悪な気分だよ」

⏰:09/10/28 02:00 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#251 [nanoka]

「テレビが置いてある壁が気になりますね」

そう言ったのは蒼井さんだった。

その時、神崎さんが物凄く驚いた顔をしていたのを、俺は横目で見た。

⏰:09/10/28 02:03 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#252 [nanoka]

「わかるのか!?」

そう言った神崎さんは毎晩あうという金縛りについて話し始めた。

時間は決まって3時〜4時の間。どんなに疲れていても寝苦しさで目が覚めるらしい。

⏰:09/10/28 02:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#253 [nanoka]

目が覚めて最初に感じるのは視線。誰かに睨まれている。そう感じるという。

「俺の部屋、ベランダに平行にベッドが置いてあるんだ。ベランダが南。東側の壁に頭を向けて寝てる」

神崎さんの説明を聞きながら俺は部屋の配置をイメージしていた。

⏰:09/10/28 03:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#254 [nanoka]

「東側の壁にテレビがあるんだ。寝ながら見るには少し不便だけど角部屋だから東側には誰も住んでないし好きなだけ音量上げれるからさ」

だいたいの配置がわかったところで話は本題に戻った。

⏰:09/10/28 03:06 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#255 [nanoka]

視線を感じるのは決まってその東側の壁かららしい。

そっちに頭を向けているので起き上がって振り向かなければ、視線の主を確かめることが出来ない。

怖いけど気になる。

⏰:09/10/28 03:09 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#256 [nanoka]

「起き上がろうとすると金縛りになるんだ。突然」

だから一度も“視てない”という。視線の主を。

「それと今日気付いたんだけど、今まで隣の部屋のテレビの音だと思っていた音が…」

⏰:09/10/28 03:12 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#257 [nanoka]

そう言ってから

「隣って西側の部屋な」

と、付け加えた。

今までは音量が大きくて、テレビの声が漏れているのだと思っていたらしい。

⏰:09/10/28 03:15 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#258 [nanoka]

「よく聞いてみたら東側の壁から聞こえてきたんだ」

東側の壁。神崎さんの部屋は角部屋だから、外からの音ということになる。

「夜中に視線を感じるのも東側の壁からだし、何だか気味が悪くなって…」

⏰:09/10/28 03:18 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#259 [nanoka]

・視線
・音(声?)
・金縛り

というのが神崎さんを悩ませている原因のようだった。

そんな三拍子揃った部屋、俺なら一日で引っ越すのだがそうゆうわけにもいかないらしい。

⏰:09/10/28 03:22 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#260 [nanoka]

「神崎さん明日水曜日だから仕事お休みですよね?」

何の脈絡もなく、蒼井さんがそう訊いた。

「え…あぁ。休みだけど」

神崎さんも少し面食らった表情を浮かべていた。

⏰:09/10/28 03:24 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#261 [nanoka]

「その部屋、見せてもらっても構いませんか?」

「えっ?」
「えっ?」

神崎さんと俺の声が見事にハモった瞬間だった。

⏰:09/10/28 03:26 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#262 [nanoka]

「今はまだ仮説の段階なので詳しくお話できないんですが、部屋を見ればはっきりわかると思うんです」

「明日は特に予定もないし俺は別に構わないけど…」

という神崎さんの一言で、急遽神崎さんの部屋への訪問が決定した。

⏰:09/10/28 03:30 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#263 [nanoka]

次の日の朝、蒼井さんからの着信で俺も神崎さんの部屋への家庭訪問に参加することになっていたことを初めて知った。

「マンションの下にいるから」

蒼井さんの言葉に慌てて支度を済ませている内に、何で俺が?という疑問は何処かへ消えてしまっていた。

⏰:09/10/28 03:35 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#264 [nanoka]

車内で蒼井さんがコンビニで買っておいてくれたサンドイッチとカフェオレを食している頃には、ちょっとした肝試し気分に浮き足立っていた。

蒼井さんの運転する車に初めて乗ったこともあって、何だかちょっと嬉しい気分でもあった。

⏰:09/10/28 03:39 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#265 [nanoka]

神崎さんのマンションまでは車で15分くらいだった。

昨日の会話では神崎さんが部屋の番号を言っていた記憶はなかったのだが蒼井さんは迷うことなく神崎さんの部屋に向かった。

チャイムを押して出てきたのが神崎さんだったので、俺が聞いてなかっただけかなと思ったくらいだ。

⏰:09/10/28 03:52 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#266 [nanoka]

でも神崎さんの

「あれ?俺どの部屋か言いましたっけ?」

という一言で、俺の記憶は間違ってなかったのだと確信した。

多分例の後ろの方の力なのだろう。

⏰:09/10/28 03:56 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#267 [nanoka]

蒼井さんは

「角部屋だとお聞きしていたので」

って言っていたけど、さっきエレベーターに乗った時六階建てのマンションの六階のボタンを蒼井さんが迷うことなく押したのを俺は見ていた。

⏰:09/10/28 03:59 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#268 [nanoka]

寝不足のせいか神崎さんはその件に関してあまり気に止める様子もなく

「とりあえず中に…」

と、玄関のドアを大きく開いてくれた。

⏰:09/10/28 04:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#269 [nanoka]

俺に霊感がないせいなのか正直普通の部屋にしか見えなかった。

ビールの空き缶やコンビニ弁当の容器なんかが流しに置かれている普通の男性の一人暮らしの部屋。

ホッとしたような少し残念なようなそんな気分だった。

⏰:09/10/28 04:04 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#270 [nanoka]

蒼井さんは俺とは全く違う感想のようで、真剣な表情で壁をコンコンと叩いていた。

その様子を神崎さんは黙って見つめていた。

少しして蒼井さんが壁を叩くのを止め、こちらに振り返った。

⏰:09/10/28 04:07 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#271 [nanoka]

「ここ、多分角部屋じゃないですね」

「えっ?」

意味がわからないという顔で神崎さんは蒼井さんの顔を見た。

⏰:09/10/28 04:09 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#272 [nanoka]

「壁の音も変ですし、さっき外から見た感じだと隣に部屋があると思うんです。ここよりは狭いかもしれませんが…」

蒼井さんの言葉を聞いた神崎さんは無言のまま、ベランダに向かった。

⏰:09/10/28 04:11 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#273 [nanoka]

ベランダの柵越しに隣の部屋を確認しているようだった。

「確かに変だな…」

独り言とも蒼井さんに向けた言葉ともとれる口調で、神崎さんはそう言った。

⏰:09/10/28 04:14 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#274 [nanoka]

神崎さんが変だと言ったのには理由が二つあった。

一つは角部屋のはずの神崎さんの部屋のベランダの横が外ではなく壁だったこと。

「ちょうどベランダのスペース分くらい手前に壁があったから今まで気付かなかった」らしい。

⏰:09/10/28 04:18 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#275 [nanoka]

カタカナのコのようなコンクリートでできた壁の出っぱりが見えたという。

そのコの字型の部分は東側の壁にくっつくように作られているようだ。

二つ目の疑問は、一面コンクリートの壁のその空間から音が聞こえるということだ。

⏰:09/10/28 04:22 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#276 [nanoka]

「玄関を出てすぐの通路も壁で行き止まりだし、ベランダ側も壁だから入り口がないはずなのに…」

神崎さんの口にした疑問に俺は部屋に入ってから初めて怖さを感じた。

確かにそうだ。部屋があると過程しても入り口のない部屋の意味がわからない。

⏰:09/10/28 04:26 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#277 [nanoka]

「五階の角部屋はどうなってます?」

蒼井さんの質問に、神崎さんはあっ!と声を漏らした。

「そういえば五階の角部屋もなかなか入居者が決まらなくて空き部屋なんです」

⏰:09/10/28 04:29 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#278 [nanoka]

「その部屋見れますか?」

「はい。大家さんの家すぐ近くなので鍵借りてきますよ」

そう言って出ていった神崎さんが戻ってくるまで10分もかからなかった。

⏰:09/10/28 04:32 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#279 [nanoka]

「部屋を見たいっていうお客さんがいるって言ったらすぐ貸してくれました」

と、手に持った鍵を蒼井さんに見せた。

「じゃあ早速行きましょうか」

⏰:09/10/28 04:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#280 [nanoka]

調べた結果、五階は普通の角部屋だった。

ただその部屋の上にあるのは位置的に神崎さんの住む部屋ではなく、あの奇妙な空間だろうという結論にまとまった。

「こっちの角部屋を借りなくて良かったですね」

⏰:09/10/28 04:38 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#281 [nanoka]

そう言って蒼井さんは微笑んだ。

「えっ?」

「だってほら、あの空間が真上にあるってことは夜中に目を開けたら視線の主とバッチリ目が合ってしまうことになるじゃないですか」

⏰:09/10/28 04:40 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#282 [nanoka]

とりあえず一度神崎さんの部屋に戻ろうということになりその部屋を後にした。

「あの空間の中が心霊現象の原因でしょうね」

蒼井さんの言葉に神崎さんも俺も同意した。

⏰:09/10/28 04:45 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#283 [nanoka]

「壊しましょうか」

そう言った蒼井さんはいつもにも増して笑顔だった。

「大家さんへの言い訳は後で考えましょう」

⏰:09/10/28 04:48 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#284 [nanoka]

蒼井さんの提案で半ば強引に壁を壊すことになったのだが、これが結構大変だった。

ドリルで穴を開けながらハンマーで叩くという作業を何度か繰り返した。

ちなみにドリルもハンマーも蒼井さんの車に積んであった。

⏰:09/10/28 04:53 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#285 [nanoka]

作業を担当したのは俺。

もしかしたら蒼井さん初めから壁を壊すつもりで道具を用意して俺を連れてきたのかもしれない。

ようやく人が入れるくらいの洞窟の入り口のような穴が空いた時には、俺は汗だくになっていた。

⏰:09/10/28 04:57 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#286 [nanoka]

「やっとあいたーっ!」

と、床に尻餅をついた俺を横目に神崎さんが穴を覗いた。

次の瞬間「ひッ!!」という声と共に俺の上に倒れ込んできた。

⏰:09/10/28 05:01 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#287 [nanoka]

「テレビ…テレビが…」

と、繰り返していた。

スペースにしたら二畳くらいのその謎の空間にはテレビが一台だけ置かれていたらしい。

⏰:09/10/28 05:03 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#288 [nanoka]

らしいというのは、俺は見ていないからだ。

蒼井さんに

「見ないほうがいいかもしれません」

って言われたから。

⏰:09/10/28 05:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#289 [nanoka]

その時点で部屋中に充満した血生臭い異臭だけで限界だったこともあって、俺は説明だけ聞くことにした。

テレビ以外には何もなく、ただそのテレビには画面が隠れるほど御札が貼られていたらしい。

⏰:09/10/28 05:08 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#290 [nanoka]

一番気味が悪かったのは、そのテレビの電源が入っていたことだった。

コンセントにささっていないのに、だ。

もちろん電池式なんていうオチもなくね。

⏰:09/10/28 05:10 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#291 [nanoka]

結局、あの空間が何だったのかはわからないままテレビだけ蒼井さんが回収するという形で、神崎さんの部屋を後にした。

「危ないから」

という理由で、帰りは蒼井さんではなく神崎さんの車で家まで送ってもらったのでテレビがどうなったのかもわからなかった。

⏰:09/10/28 05:13 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#292 [nanoka]

あの後どうなったのかは、蒼井さんに聞いても答えてくれない。

神崎さんも蒼井さんからは何も聞いていないらしい。

だからあくまで神崎さんが他の社員さんから伝え聞いた話なのだけど…。

⏰:09/10/28 05:17 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#293 [nanoka]

「大家さんに息子がいて、そいつひきこもりだったらしいんだ。精神を病んでたみたいで家庭内暴力とかもあったって話だ」

悩んだ末、息子に一人暮らしをさせることにした。

他所へ出すのは不安だし、ご飯や洗濯なんかの世話が出来るようにってあのマンションの一室を息子に使わせていたらしい。

⏰:09/10/28 05:21 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#294 [nanoka]

「そいつ一日中テレビ見ながらブツブツ何か呟いていたらしいわ」

ひきこもりだから姿を見なくなっても誰も不思議に思わなかった。

「いついなくなったのか、今どうしているのか、誰も知らないみたいだ」

⏰:09/10/28 05:24 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#295 [nanoka]

蒼井さんはずっと話を聞いてはいたけど、どこまでが真実でどこまでが噂なのかは教えてくれなかった。

だからあの空間をその息子が使っていたのかどうかすらわからないままだ。

ただ神崎さんを悩ませていた現象はあの日以来一度も起きていないということだった。

⏰:09/10/28 05:30 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#296 [nanoka]

蒼井さんが話してくれるまで真相は謎のままだけど、一つだけわかったことがある。

これといった理由がないのに格安な家賃の部屋は借りない方がいいということ。

少なくとも俺は格安物件は借りないと密かに胸に誓った。

⏰:09/10/28 05:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#297 [nanoka]


安価

>>1-63
>>65-99
>>102-167
>>169-209
>>211-296

⏰:09/10/28 05:36 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#298 [nanoka]


感想板↓↓

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/


⏰:09/10/28 05:37 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#299 [nanoka]

「お兄ちゃんは長いなぁ」

そう話しかけてきたのは、常連さんの一人である沢木さんだった。

推定年齢59歳。定年間近だと聞いている。

⏰:09/10/28 17:20 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#300 [nanoka]

沢木さんはニコニコと俺の顔を眺めながら訊いた。

「この店に入ってどれくらいになるんだ?」

俺は頭の中でカレンダーを思い浮かべながら答えた。

⏰:09/10/28 17:23 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#301 [nanoka]

「もうすぐ半年になります」

「半年か。長いなぁ。もしかして最高記録じゃないか?なぁ、蒼井くん」

話題をふられた蒼井さんは笑顔で「はい」と答えた。

⏰:09/10/28 17:25 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#302 [nanoka]

「拓真くんはよくやってくれてます」

不意討ちだった。蒼井さんに誉められた俺は思わずにやけてしまった顔を隠す暇がなかった。

「今までの子はすぐやめちゃってたからなぁ…」

⏰:09/10/28 17:31 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#303 [nanoka]

沢木さんと蒼井さんの会話を聞きながら、俺は空きテーブルを掃除していた。

いつもなら話し相手になっている間は仕事しないんだけど、自分から台拭きを手に掃除を始めた。

ほら俺、誉められて伸びるタイプだから。

⏰:09/10/28 17:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#304 [nanoka]

「拓真くん、霊感ゼロですし怖い話を聞くのも嫌いじゃないみたいなので」

蒼井さんの言葉に沢木さんは「そうかそうか」と笑っていた。

「そりゃこの店にピッタリな人材だなぁ」

⏰:09/10/28 17:36 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#305 [nanoka]

どうゆう意味だろう?って些細な疑問が湧いた。

怖い話を聞く機会が多いのは蒼井さんの体質上わかるのだけど、俺に霊感がないことは何か関係があるのだろうか。

閉店後、何気なく蒼井さんにその質問をぶつけてみた。

⏰:09/10/28 17:39 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#306 [nanoka]

「僕といると霊感が開花されちゃうみたいなんです」

と、蒼井さんは少し困ったような表情で微笑んだ。

「僕の力が移るわけではなくてその人本来の力なんですけどね」

⏰:09/10/28 17:41 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#307 [nanoka]

「本来の力…ですか」

「よく赤ちゃんや小さい子供は霊が視えるって言うじゃないですか」

その手の話は何度か聞いたことがあったので、俺は頷いた。

⏰:09/10/28 17:43 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#308 [nanoka]

「成長するにつれて視えなくなることが多いんですけど、僕と接しているうちに力が戻ってしまうみたいなんですよ、困ったことに」

「困るんですか?」

霊感があるなんて人によっては自慢する人もいるし、喜ぶ人もいるのでは…って思った。

⏰:09/10/28 17:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#309 [nanoka]

「視えないほうがいいこともあるんですよ」

というのが蒼井さんの答えだった。

霊感が開花しすぎて辞めてしまった子や、単純に怖い話が苦手で辞めた子がほとんどらしい。

⏰:09/10/28 17:49 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#310 [nanoka]

「あ。だから…」

俺はようやく面接の時に、蒼井さんにされた質問の意味が理解できた気がした。

「みんな三ヶ月ももたずに辞めてしまうんですよ。だから拓真くんがうちで働いてくれて助かってます」

⏰:09/10/28 17:52 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#311 [nanoka]

その日の夜、懐かしい夢を見た。

「拓真、起きて」

という母の声から夢が始まった。

母の運転する車で叔母さんの家に向かう途中だ。

⏰:09/10/28 18:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#312 [nanoka]

助手席で眠りこけている俺を母が必死で起こしている場面。

記憶にある場面だった。

小学生の頃、同じ場面を実際に経験したことがある。

母は道に迷っている。と、すぐにわかった。

⏰:09/10/28 18:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#313 [nanoka]

毎週のように顔を出していた叔母さんの家へ向かう道で迷ってしまったのだ。

普通に考えたらあり得ない事態に母は震えた声で寝ている俺を起こしていた。

「拓真、拓真」

⏰:09/10/28 18:08 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#314 [nanoka]

母の必死の呼びかけに幼い頃の俺が目を開けた。

「何?」

不機嫌そうに母に問いかける。

「叔母さん家に着くまで起きてて」

⏰:09/10/28 18:10 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#315 [nanoka]

「は?何で?」

「いいから!何かおかしいのよ」

いつになく厳しい口調の母に、言い様のない不安に駆られたのを覚えている。

⏰:09/10/28 18:12 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#316 [nanoka]

母が怒っていたわけも今ならわかる。

知っている道に出ようと車を走らせても、同じ場所に戻ってきてしまっていたのだから。

母は何十回と墓地のまわりを走らされていたらしい。

⏰:09/10/28 18:15 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#317 [nanoka]

叔母さん家の前には川が流れているのだが、その向かいが母の迷っていた墓地にあたる。

ほんの5分ほどの距離で、別の日に改めて墓地を見た母が

「何で迷ったんだろう」

と呟いていたくらい近くだ。

⏰:09/10/28 18:28 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#318 [nanoka]

俺が目を覚ましてからのことは夢の続きを見るまでもなく覚えている。

「何でこんなとこで迷ってるの?」

と、文句を言いながら俺が道案内をしたのだ。

⏰:09/10/28 18:35 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#319 [nanoka]

叔母さん家には母と一緒に何度も来ていた。

墓地から叔母さん家までの道順も覚えていた。

「真っ直ぐ行って」
「そこ右」
「次も右」

⏰:09/10/28 18:37 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#320 [nanoka]

寝ていたところを起こされ機嫌の悪い俺は、そんな感じで道案内をし叔母さん家に着いた。

夢の中の俺も同じように、ふて腐れた顔で道案内をしている。

あー…。眠いんだろうな。と、苦笑しながら幼い頃の自分を眺めていた。

⏰:09/10/28 18:40 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#321 [nanoka]

一つだけ記憶と違っていたのは、俺が言う先の道に男が立っていたことだ。

右と言えば右に進んだ道に左と言えば左に進んだ道に男が立っている。

男は俺に次に進む方向を指差して教えている。

⏰:09/10/28 18:44 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#322 [nanoka]

母には見えていない様子のその男は、次の方向を指差すと一度消えまた現れた。

最後に叔母さん家を指差したところで完全に姿を消した。

そこで夢から覚めた。

⏰:09/10/28 18:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#323 [nanoka]

夢の話を蒼井さんにしたのはちょっとした気まぐれだった。

お店が暇だったこともあって掃除に飽きた俺は

「そういえば昨日変な夢見たんですよー」

と、軽いノリで夢の話をしたのだ。

⏰:09/10/30 04:14 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#324 [nanoka]

「多分後ろの方が助けてくれたんだと思います」

蒼井さんは俺の話を聞いてそう言った。

夢の中で指差しながら帰り道を教えてくれたのは後ろの方だというのだ。

⏰:09/10/30 04:15 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#325 [nanoka]

「でも俺の記憶では道を覚えてた俺が自分で…」

反論しながらも心のどっかで蒼井さんが正しいんだろうなって思ってた。

今まで蒼井さんが間違った判断をしたところ見たことないし。

⏰:09/10/30 04:16 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#326 [nanoka]

「拓真くんは土地神様という言葉を聞いたことがありますか?」

蒼井さんの質問に俺は首を横に振った。

「土地を守る神様ってところですかね、簡単に言えば」

⏰:09/10/30 04:17 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#327 [nanoka]

「土地を守る…」

「はい。地域によって呼び方は色々なのですが」

「その土地神様が俺の夢と関係してるんですか?」

俺の問いに蒼井さんは少し考えるような仕草をした。

⏰:09/10/30 04:18 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#328 [nanoka]

「さっき土地神様は土地を守るって言いましたよね?でも広くは知られていないことが多いんです」

「まぁそうかもしれないですね。俺も今日知りましたし」

蒼井さんは少し寂しそうに微笑んでから

⏰:09/10/30 04:19 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#329 [nanoka]

「知る人がいないということがどうゆうことかわかりますか?」

と、俺に訊いた。

「感謝されない…?」

正解と言うかわりに蒼井さんは微笑んだ。

⏰:09/10/30 04:20 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#330 [nanoka]

「だからたまに連れてってしまうんですよ。気に入った人間を」

「えっ?」

「一般的に神隠しと言われているものです。地域によっては気に入られた人のことを魅入られたと言うようです」

⏰:09/10/30 04:21 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#331 [nanoka]

「神様が仕返しって」

俺のつっこみに蒼井さんは

「面白い発想ですね」

と、少しだけ笑った。

⏰:09/10/30 04:23 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#332 [nanoka]

誉めているのか貶しているのかいまいちわからなくて俺は微妙な表情を浮かべた。

「拓真くんは子供の頃、その土地神様に魅入られたんだと思います」

「えっ!?」

⏰:09/10/30 04:24 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#333 [nanoka]

「普通は魅入られたら連れていかれるんです。もし運良く助かってもその土地にまた入れば二度目はないと言いますか…」

「だったら土地神様とは関係ないんじゃないですか?俺、その後も何度も叔母さん家に行ってるから」

あれ以来迷子になった記憶はない。

⏰:09/10/30 04:25 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#334 [nanoka]

「拓真くんは後ろの方がすごく強い方ですから」

そう言って微笑んだ蒼井さんが俺ではなく俺の後ろを見ていた気がして、俺は思わず振り返ってしまった。

「もしかしたら僕といる影響が出てきてるのかもしれませんね」

⏰:09/10/30 04:26 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#335 [nanoka]

「えっ?」

「後ろの方を見たの初めてでしょう?」

「はい。でも夢ですよ?」

俺の反論に蒼井さんは苦笑しながらも

⏰:09/10/30 04:28 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#336 [nanoka]

「その夢を見たのも拓真くんの力が強くなってる証拠ですよ」

と、説明してくれた。

「力って?」

「いわゆる霊感です」

⏰:09/10/30 04:29 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#337 [nanoka]

「えっ?えっ?俺、霊感なんて全くないですよ。一度も幽霊とか視たことないですし」

「それは後ろの方のおかげです。視えないようにしてくれているんです」

と、蒼井さんはまた俺の後ろに向かって微笑んだ。

⏰:09/10/30 04:30 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#338 [nanoka]

「僕といる時間が長くなってきたから抑えきれなくなってきているのかもしれません」

と、蒼井さんは言った。

「でもほんとに俺、霊感とかないですよ」

⏰:09/10/30 04:31 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#339 [nanoka]

「そんなわけないじゃないですか。後ろの方はこんなに徳の高い方なのに」

わからないことだらけだったけど蒼井さんの言葉には不思議と説得力がある。

中でも一番説得力があったのは

⏰:09/10/30 04:32 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#340 [nanoka]

「じゃあ何で今まで視えなかったんですか?」

って訊いた俺に蒼井さんが言った言葉だ。

「だって拓真くん怖がりじゃないですか」

⏰:09/10/30 04:33 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#341 [nanoka]

蒼井さんいわく、小さい頃は俺にも後ろの方や他の色々なものが視えていたらしい。

あまりにはっきりと視えすぎた為に人との区別のつかない俺を心配した後ろの方が俺の力を制御してくれたようだ。

⏰:09/10/30 04:34 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#342 [nanoka]

中学生か高校生くらいになったら力を戻す予定だったのだが俺がかなりのビビり野郎に成長してしまった為に今でも抑えてくれているのだと言う。

確かに俺、説明もなしにいきなり幽霊視えるようになったら泣くかもしれない。

⏰:09/10/30 04:36 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#343 [nanoka]

何だか突拍子もない話というかすぐには信じられなかった。

今まで色んな怪談話も聞いたし本当だって信じてるけどいざ自分のことってなると、はいそうですかとはいかない。

だって自分は霊感ゼロだって思って生きてきたし。

⏰:09/10/30 04:39 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#344 [nanoka]

だけど次の日には蒼井さんの言葉が正しかったと知ることになる。

もう信じるしかなくなったって感じ。

だっていきなり“視える”側の人間になっちゃったんだから。

⏰:09/10/30 04:42 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#345 [nanoka]

安価

>>1-63
>>65-99
>>102-167
>>169-209
>>211-296
>>299-334

⏰:09/10/30 04:44 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#346 [nanoka]

それは唐突にやってきた。

外を歩いていたらポツポツと雨が降りだした時のように突然、でも当たり前のことのように。

最初の出逢いはバーからの帰り道だった。

⏰:09/10/31 12:23 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#347 [nanoka]

ラストまでお店にいると、終電がなくなってしまう為いつも徒歩か自転車でバイトに行っている。

その日は徒歩だった。

MP3で音楽を聴きながら帰っていた俺は地下鉄の出入口の前で足をとめた。

⏰:09/10/31 12:28 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#348 [nanoka]

女の子が一人で地面に座り込んでいたのだ。

うつ向いた状態で膝を抱えていたので歳はわからなかったけど、格好から俺と同じくらいの年齢だと思った。

グレーのパーカーに黒のスカート、ブーツ。髪も染めているようだった。

⏰:09/10/31 12:33 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#349 [nanoka]

酔っ払ってしまったのか、終電がなくなって困っているのかだと思った。

時計に目をやると深夜2時を過ぎていた。

俺はイヤホンを耳から外すと彼女に近付き声をかけた。

⏰:09/10/31 12:43 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#350 [nanoka]

「あの…大丈夫ですか?」

ありふれた言葉だけど他に何て聞いたらいいのかわからなかった。

俺の声に彼女は少し驚いた様子で顔を上げた。

⏰:09/10/31 12:56 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#351 [nanoka]

化粧はしているがまだ幼さの残る顔をしていた。

高校生?まさか家出?

そんなことを考えていると彼女が口を開いた。

⏰:09/10/31 14:15 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#352 [nanoka]

「実はちょっと困ったことになってて…」

深刻そうな口調に、俺の妄想は膨らむ一方だった。

お金貸してくれとか言われたらどうしよう。この子、カバン持ってないし…。

⏰:09/10/31 14:18 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#353 [nanoka]

声をかけたことを後悔しはじめていると

「助けてくれませんか?」

と、見つめられた。

財布の中に小銭しか入っていなかった俺は慌てて

⏰:09/10/31 14:20 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#354 [nanoka]

「お金貸す以外なら!」

と、答えた。

彼女はきょとんとした顔でまだ俺を見つめていた。

「や、俺バイト帰りで持ち合わせなくて…」

⏰:09/10/31 14:21 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#355 [nanoka]

まだお金を貸してほしいとも言われていないのに勝手に説明をする俺を見て彼女が笑った。

笑うとわずかに八重歯が覗く可愛い子だった。

「金銭的なことじゃないので安心して下さい」

⏰:09/10/31 14:23 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#356 [nanoka]

そう言うと彼女は立ち上がり歩きはじめた。

地下鉄の駅のすぐ側にある電話ボックス。彼女はそこで足をとめた。

「家に帰れなくなっちゃったの」

⏰:09/10/31 15:04 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#357 [nanoka]

「えっ?家族と喧嘩でもした?家に電話かけたい?」

俺の質問に彼女は首を横に振った。

「これ…」

彼女が指差したのは一枚の張り紙だった。

⏰:09/10/31 15:06 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#358 [nanoka]

この子を探しています。って駅とかでたまに配られているあのビラが電話ボックスに貼られていた。

そこに載っている写真は目の前にいる彼女そのものだった。

失踪時の服装と書かれた部分も彼女の着ている服と同じだった。

⏰:09/10/31 15:09 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#359 [nanoka]

「え…これ、君のこと?」

張り紙から目を離し振り向くと彼女はいなくなっていた。

近くを探してみたけどどこにも彼女の姿はなかった。

⏰:09/10/31 15:11 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#360 [nanoka]

次の日、蒼井さんに彼女の話をすると

「その子多分生きている人間ではないですね」

と、悲しそうな顔をした。

「遺体がまだ見つかってないんでしょう。亡くなった場所から離れられないことがありますから」

⏰:09/10/31 15:15 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#361 [nanoka]

「えっ?えっ?」

「後ろの方、拓真くんの力を抑えるのやめたみたいですね」

「ちょ…ちょっと待って下さい。俺が視たのって幽霊なんですか!?」

⏰:09/10/31 15:19 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#362 [nanoka]

「はい。後ろの方が頷いてますから間違いないと思います」

「え、でも普通の子でしたよ?血も出てなかったし、白いワンピースも着てませんでしたよ」

俺の反論を蒼井さんは笑顔で流した。

⏰:09/10/31 15:22 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#363 [nanoka]

「幽霊っていってもみんながみんなそんな姿じゃないですよ」

「そ、そうなんですか?」

「むしろ生きていた頃の姿で現れることのほうが多いくらいです。ホラー映画や怪談話は別ですけど」

⏰:09/10/31 15:24 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#364 [nanoka]

「じゃああの子はもう…」

「家に帰りたくて自分の姿が視えた拓真くんに助けを求めたんでしょうね」

「遺体が見つからないと、帰れないんですか?」

⏰:09/10/31 15:26 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#365 [nanoka]

駅の出入口で座り込んでいた彼女の姿を思い出して何だか切なくなった。

「俺に遺体を見つけてほしかったんですか?」

俺の質問に、蒼井さんは複雑そうな表情を浮かべた。

⏰:09/10/31 15:29 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#366 [nanoka]

「警察や探偵じゃないんですから遺体を見つけるのは難しいと思います」

「でも…」

「拓真くんの気持ちはわかります。でも例え霊が視えてもどうにもできないこともたくさんあるんですよ」

⏰:09/10/31 15:34 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#367 [nanoka]

蒼井さんの言っていることも意味もわかった。

でもあの子の膝を抱えてうつ向いていた姿を思い出すと何とかしてあげたいと思ってしまう。

「多分遺体があるのはその地下鉄の駅の近くだと思いますけど…」

⏰:09/10/31 15:40 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#368 [nanoka]

見かねたように蒼井さんはそう言った。

「そうなんですか!?」

「はい。遺体から遠い場所には行けないはずです」

⏰:09/10/31 15:49 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#369 [nanoka]

遺体を探しに行くと言い出した俺を蒼井さんは止めなかった。

それどころか一緒に探してくれると言ってくれた。

「今日はご予約も入ってませんし、少し遅めの開店にしましょう」

⏰:09/10/31 15:51 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#370 [nanoka]

彼女に会った駅までは歩いても10分かからない。

駅周辺なだけあって建物も多く彼女の遺体を見つけるのは困難に思えた。

「この近くって言っても、結構範囲広いですね」

⏰:09/10/31 15:59 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#371 [nanoka]

自分で言い出したくせに弱気な発言をした俺に

「ま、彼女にまた会えたら遺体まで案内してもらいましょう」

と、蒼井さんは微笑んだ。

何とも行き当たりばったりな計画だ。

⏰:09/10/31 16:01 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#372 [nanoka]

15分ほど駅のまわりの路地を歩いたが何の収穫もなかった。

「拓真くんがその子を視た場所に戻ってみましょうか」

という蒼井さんの提案で、駅前に向かうと人だかりができていた。

⏰:09/10/31 16:04 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#373 [nanoka]

野次馬らしき人達に混じってテレビ局の人も来ていた。

「何だろう?」

俺は野次馬の間から駅を覗いた。

⏰:09/10/31 16:06 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#374 [nanoka]

注目を浴びていたのは駅ではなく、隣のマンションだった。

ドラマで見るような立ち入り禁止のテープと警官が、マンション内に入らないように見張っていた。

それだけ確認すると野次馬から少し離れた場所にいた蒼井さんのところに戻った。

⏰:09/10/31 16:08 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#375 [nanoka]

「何かの事件があったみたいですよ」

という俺の声に重なって、女性の声が耳に入ってきた。

「先ほどこのマンションの一室から少女の遺体が発見されました。少女は二週間前から捜索願いが出されていましたが、警察は何の捜査もしておらず両親は自分たちでビラを配り娘を探していたようです」

⏰:09/10/31 16:12 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#376 [nanoka]

リポーターの女性が原稿の練習をしていた。

リポーターの手には電話ボックスに貼られていたのと同じ、あのビラが握られていた。

「彼女だ…」

⏰:09/10/31 16:18 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#377 [nanoka]

俺が初めて視た幽霊は可愛い女の子だった。

彼女は頭のイカれた塾の講師に殺され、彼の部屋の浴槽に放置されていた。

「両思いだと思っていたから家に誘った」

⏰:09/10/31 16:26 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#378 [nanoka]

彼はそう証言しているらしい。

俺が見つけるまでもなく、マンションの住人から異臭がするという通報で彼女は発見された。

彼女はようやく家に帰ることができた。

⏰:09/10/31 16:28 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#379 [nanoka]

「これからもっと色んな霊に出逢うと思います。毎回彼女みたいに肩入れしてしまっていたら大変ですよ」

と、蒼井さんにしては少し厳しいような冷たいようなことを言われた。

それから数珠をもらった。

⏰:09/10/31 16:31 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#380 [nanoka]

「最初のうちは霊と人との区別がつきにくいかもしれないので」

ということらしい。

蒼井さんと同じ透明の数珠は霊に近付くと色が変化する。

⏰:09/10/31 16:33 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#381 [nanoka]

彼女のことがなったから、最初から恨みたっぷりって感じの血だらけの霊に出くわしていたら、彼らとは関わることはなかったかもしれない。

もしかしたら俺の為に彼女が引き合わせてくれたんじゃないかって思う。

彼らと出逢ったのもあの駅の前だった。

⏰:09/10/31 16:36 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#382 [nanoka]

俺は毎日あの駅の前で足をとめ、彼女の遺体の発見されたマンションを見上げていた。

何をするわけでもなくただ見上げるだけ。

そんな動作が習慣になり始めていた頃、彼らに会った。

⏰:09/10/31 17:03 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#383 [nanoka]

第一印象は最悪だった。

あのマンションの前で写真を撮っている姿を見たのが最初だった。

眼鏡に首から下げたカメラ。ヲタクという三文字が頭に浮かんだ。

⏰:09/10/31 17:05 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#384 [nanoka]

そばにいる男はカメラの男に何か命令され、後をついてまわっている。

そっちの男にもあだ名を付けるならハチ公だろう。

見た目は普通だが、カメラの男に頭が上がらない子分のように見えた。

⏰:09/10/31 17:08 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#385 [nanoka]

「何も聞こえない」

「帰ったら早速現像してみよう」

など意味不明なことを話しながら写真を撮っている彼らがあのマンションを撮っているのだと気付いた時は酷く不快な気分になった。

⏰:09/10/31 17:11 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#386 [nanoka]

「お前ら何やってるんだよ!」

気付いたら彼らに向かって叫んでいた。

俺の声に気付いた二人は、きょとんとした顔で手をとめた。

⏰:09/10/31 17:13 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#387 [nanoka]

「人が殺された場所の写真なんか撮って楽しいかよっ!!」

怒りに任せて彼らに歩み寄ると、ハチ公が止めに入ってきた。

「ちょ…ちょっと待って下さい。僕たちは別に楽しんでるわけではなくて…」

⏰:09/10/31 17:17 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#388 [nanoka]

「助けにきたんだ」

そう言ったのはカメラの男だった。

「はっ?」

「えっと…うまく言えないんですけどほんとです。助けにきたんです」

⏰:09/10/31 17:19 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#389 [nanoka]

そう付け加えてハチ公は、カメラの男に助けを求めていた。

「説明難しいな…部長も何とか言って下さいよ」

どうやら犯罪マニアというのは俺の間違いらしかった。

⏰:09/10/31 17:21 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#390 [nanoka]

「多分言っても信じてもらえないと思うけど…」

そう前置きしてハチ公はそこにいる理由を説明した。

「この道、大学の通学路なんだ。だからよく通るんだけど最近助けてって声がよく聞こえてて…」

⏰:09/10/31 17:37 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#391 [nanoka]

「…助けて?」

「はい。あと帰りたいって声も。多分同じ声だと思うんだけど」

ハチ公の話を聞いているうちに彼女のことだと直感した。

⏰:09/10/31 17:39 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#392 [nanoka]

「その声って高校生の女の子みたいな声じゃ…?」

俺の質問にハチ公は驚いた顔をした。

「お兄さんも聞いたんですか?あの声」

⏰:09/10/31 17:41 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#393 [nanoka]

「聞いたというか…その声の主に会った…?のかな」

俺の言葉を聞いた時のカメラの男の食い付きは凄かった。

「それは生きてる時と死んでからとどっちだ!?」

⏰:09/10/31 17:45 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#394 [nanoka]

犯されるんじゃないかってくらい顔近付けてきて、かなり焦った。

その後も色々訊かれたんだけどバイトに遅れそうだったのもあって、俺から話を中断した。

不満そうなカメラ男に

⏰:09/10/31 17:48 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#395 [nanoka]

「この先の来栖ってバーでバイトしてるんで、良かったら今度来て下さい」

って言い残して逃げた。

だって何か勢いありすぎてちょっと怖かったんだもん、あのカメラ男。

⏰:09/10/31 17:49 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#396 [nanoka]

良かったら来て下さいとは言ったけど、まさか今日だとは思っていなかった。

開店準備をしながら蒼井さんに駅で変な二人組に会ったという話をした直後に、彼らは店にやって来た。

しかも人数増えてるし!

⏰:09/11/08 13:05 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#397 [nanoka]

驚いてる俺に彼らは次々と自己紹介をしていった。

最初に名乗ったのは俺が駅で会った二人だった。

カメラ男が亮太でハチ公は純という名前らしい。

⏰:09/11/08 15:13 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#398 [nanoka]

初めて顔を見た三人は全員女の子だった。

空と名乗ったのは一番ハキハキした口調のちょっと男勝りな女の子。

おっとりした口調の可愛らしい女の子が優ちゃん。

⏰:09/11/08 15:15 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#399 [nanoka]

一番最後に少し小さな声で桃果ですと言った女の子は人見知りっぽい印象を受けた。

いっぺんに五人から自己紹介をされ、名前を覚えるだけでも大変で一瞬自分がバイト中だということを忘れていた。

⏰:09/11/08 15:17 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#400 [nanoka]

思い出したように蒼井さんの顔を見ると、いつものように微笑んでいた。

いや、いつもより二割増しくらいの笑顔だった。

「それで、君は?」

⏰:09/11/08 15:19 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#401 [nanoka]

もう友達みたいな口調で、空さんが訊いた。

「あ。えっと拓真です。それからあそこにいるのが、蒼井さんです」

俺の言葉にみんな一斉に蒼井さんに視線を送った。

⏰:09/11/08 15:21 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#402 [nanoka]

「初めまして。蒼井です。みなさん宜しければ何か飲まれますか?」

蒼井さんが口を開いただけなのに、店内の雰囲気が明るくなった気がした。

蒼井さんの落ち着いた優しい声のせいかもしれない。

⏰:09/11/08 15:23 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#403 [nanoka]

全員がそれぞれ頼んだドリンクが揃う頃には、五人ともカウンターの席に座っていた。

あまり広くない店内のカウンター席は彼らで埋まってしまった。

「表の看板、クローズに変えてきてくれる?」

⏰:09/11/08 15:26 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#404 [nanoka]

彼らが蒼井さんの作ったカクテルを味わっている間にそう耳打ちされた。

「えっ?いいんですか?」

俺も小声で訊き返すと蒼井さんは笑顔でコクコクと頷いた。

⏰:09/11/08 15:28 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#405 [nanoka]

俺のせいで店を閉めるなんて申し訳ないなと少し暗い気分で看板をオープンからクローズに変えた。

店内に戻ると、空さんが二杯目のカクテルを受け取っているところだった。

「拓真くんも座って何か飲みますか?」

⏰:09/11/08 15:35 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#406 [nanoka]

「拓真くんも座って何か飲みますか?」

蒼井さんに言われ、俺は慌てて手を振った。

「いいです。俺は…」

言い終わらないうちに蒼井さんは

⏰:09/11/08 15:37 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#407 [nanoka]

「たまにはいいじゃないですか。今日は僕もお休みしますから」

と、ボックス席から椅子を持ってきてくれた。

結局カウンター席の向かい普段は厨房の場所に椅子を二つ運び、そこに俺と蒼井さんが座る形になった。

⏰:09/11/08 15:42 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#408 [nanoka]

そこまできて、ようやく話は本題に入った。

俺があの女の子に会った話をしている間、五人ともが真剣に聞いていてちょっと恥ずかしくなった。

普通なら夢でも見たんじゃないかと笑い飛ばされそうな話なのに。

⏰:09/11/08 15:45 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#409 [nanoka]

「なるほど…」

説明を終え、一番先に口を開いたのは亮太だった。

なるほどと呟いてから、俺をじっと見て言った。

「霊感があるのか?」

⏰:09/11/08 15:49 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#410 [nanoka]

その質問にどう答えていいのかわからず、目で蒼井さんに助けを求めた。

“霊感がある”という実感は正直まだあまりない。

「それについては僕が説明しましょう。半分は僕のせいでもあるので」

⏰:09/11/08 15:51 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#411 [nanoka]

そう前置きして蒼井さんはこの前俺にしてくれた後ろの方の話や、蒼井さんの力について説明をした。

誰も笑わなかったし、話の信憑性を疑っているという感じも皆無だった。

「………と、まぁ大まかに言えばこんな感じです」

⏰:09/11/08 15:54 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#412 [nanoka]

そう言って蒼井さんは微笑んだ。

「聞くよりも見る方が早いかもしれませんね」

と、蒼井さんが手にしたのは真っ黒くくすんだ数珠だった。

⏰:09/11/08 15:56 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#413 [nanoka]

「こんなこと言うと手品みたいになってしまいますけど、みなさん手に取って確認してみて下さい」

蒼井さんはまず亮太に数珠を手渡した。

しばらくその数珠を眺めていた亮太が横にいた優ちゃんに渡し、順番に全員が数珠を手に取った。

⏰:09/11/08 16:02 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#414 [nanoka]

最終的に蒼井さんの手に戻ってきた数珠は、最初と同じように真っ黒だった。

「それじゃあ…」

と、両手で蒼井さんはその数珠を包み、静かに目を閉じた。

⏰:09/11/08 16:03 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#415 [nanoka]

次に蒼井さんが手を広げた時には数珠は透明になっていた。

「これが僕の力です」

と、蒼井さんは微笑んだ。

一瞬の沈黙後、蒼井さんが質問攻めにあったのは説明するまでもないかな。

⏰:09/11/08 16:06 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#416 [nanoka]

全部の質問に一つ一つ丁寧に答えていく蒼井さんは、かなりがっちり彼らの心を掴んだようだった。

蒼井さんってすごくいい人という尊敬の眼差しが俺でもわかるくらい熱烈に送られていた。

一通り彼らの質問が落ち着くまで俺は黙ってカクテルを口に運んでいた。

⏰:09/11/08 16:13 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#417 [nanoka]

蒼井さんの話にしきりに感心し異様なまでに盛り上がっている様子を、俺は少し得意気な気持ちで眺めていた。

蒼井さんが褒められると、何だか嬉しい。

そんな和やかな雰囲気を変えたのは空さんの何気ない一言だった。

⏰:09/11/08 16:20 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#418 [nanoka]

「何か蒼井さんって枢先生と正反対って感じだね」

その言葉に、騒がしかった店内に沈黙が訪れた。

場が凍りつくという状況を俺は生まれて初めて経験した。

⏰:09/11/08 16:21 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#419 [nanoka]

「その枢先生のこと聞かせてもらえませんか?」

少し遠慮がちに蒼井さんが口を開くまで、誰一人言葉を発しなかった。

「枢先生というのは…」

⏰:09/11/08 16:23 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#420 [nanoka]

説明したのは亮太だった。時折空さんが捕捉しながら話は進んだ。

悪いモノを吸収する体質と俺は理解した。

吸収しても浄化していたが突然それがうまくいかなくなり今は入院中だという。

⏰:09/11/08 16:26 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#421 [nanoka]

彼らがそれを自分たちのせいだと責任を感じているということもわかった。

たしかに、蒼井さんと逆の体質のように思えた。

蒼井さんの場合…

と、そこまで頭の中で整理した時、蒼井さんが口を開いた。

⏰:09/11/08 16:28 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#422 [nanoka]

「僕は逆というより似ていると思います」

意外な答えだった。

「僕の場合、吸収するよりも前に霊が逃げちゃうんですけど…」

⏰:09/11/08 16:30 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#423 [nanoka]

「その方は一度吸収して、浄化しているんですよね。結果的に寄ってきた霊が消えるという点では同じですから」

そこまで話すと、蒼井さんはさっきの数珠を手にとった。

「さっき僕が見せたのと同じことが、彼女にもできるのだと思います」

⏰:09/11/08 16:34 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#424 [nanoka]

蒼井さんは言った。彼女の場合、一度身体に霊を入れることで浄化しているのではないかと。

「煙草を吸う様子を想像してみて下さい」

蒼井さんの言葉に、彼らが目を閉じたので俺も目を閉じて想像した。

⏰:09/11/08 16:36 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#425 [nanoka]

「その煙草の煙は真っ黒です。吸い込むと一度それは肺に入ります。

その煙を今度はゆっくりを吐き出します。

すると真っ白に浄化された煙が身体から出てきます」

⏰:09/11/08 16:40 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#426 [nanoka]

「これが亮太くんたちの話を聞いて僕がイメージした枢さんの浄化のイメージです」

ゆっくりと目を開けると、蒼井さんが微笑んでいた。

「話に聞いただけなのではっきりとは言えませんが」

⏰:09/11/08 16:42 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#427 [nanoka]

そう言って蒼井さんは彼らのほうへ視線を送った。

「もしかしたら今彼女は、どこかが悪いモノで詰まってしまっている状態なのかもしれませんね」

「詰まって…?」

⏰:09/11/08 16:44 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#428 [nanoka]

呟くようにそう訊いたのは空さんだった。

「はい。パイプなんかに汚れが詰まると水が流れなくなりますよね?」

「あ…なるほど」

⏰:09/11/08 16:46 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#429 [nanoka]

納得したような声を出した空さんに代わって、今度は亮太が質問した。

「その詰まりを直すことはできるんですか?」

蒼井さんはちょっと困った顔をした。

⏰:09/11/08 16:47 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#430 [nanoka]

「多分…まずは周りに集まっている悪いモノを遠ざけてから原因を探らないといけませんが…」

「蒼井さんにならできますか?」

真剣な表情だった。彼らにとって枢先生がどれほど大きな存在だったかがよくわかる。

⏰:09/11/08 16:50 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#431 [nanoka]

「一度会いに行ってみて、それからですね。詳しく話せるのは」

慎重で嘘のつけない蒼井さんらしい言葉だった。

「ただ一つだけ今でもわかることがあります」

⏰:09/11/08 16:52 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#432 [nanoka]

ゆっくりと優しく蒼井さんは続けた。

「彼女のことは君たちのせいじゃありませんよ。彼女がそうなったことの原因があるとしたら、詰まっている悪いナニカですから」

蒼井さんはもう一度彼らに向かって微笑んだ。

⏰:09/11/08 16:56 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#433 [nanoka]

安価
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:09/11/08 16:57 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#434 [nanoka]

変わった人たちだなっていうのが第一印象だった。

でも不思議と嫌いじゃなかった。

だから次の日、枢先生という女性に会いに行くことが決まった時も自分から一緒に行きたいと言った。

⏰:09/11/10 15:52 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#435 [nanoka]

蒼井さんは

「それじゃあお昼くらいに迎えに行きます」

と、快く承諾してくれた。

正直俺が行ったところで何かの役に立つとは思えなかった。

⏰:09/11/10 15:54 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#436 [nanoka]

ただの興味とか好奇心だったのかもしれない。

蒼井さんにもきっとわかっていたと思うけど、何も言わなかった。

病院に先に着いていた彼らも蒼井さんの横にいた俺を見ても表情を変えなかった。

⏰:09/11/10 15:57 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#437 [nanoka]

「おはようございます」

蒼井さんが声をかけると、待合室のソファーに座っていた亮太が立ち上がった。

つられるように横にいた空さんと優ちゃんも立ち上がり挨拶を返した。

⏰:09/11/10 15:58 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#438 [nanoka]

「面会の許可はとれましたか?」

蒼井さんの言葉に亮太が答えた。

「はい。談話室でなら全員入れるそうです」

⏰:09/11/10 16:01 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#439 [nanoka]

先に談話室に移動しているという枢先生に会うために俺たちは病院の廊下を歩いた。

誰も言葉を発しず、そのことが妙な緊張感を生んだ。

蒼井さんが談話室2と書かれたドアをノックすると、はーいと明るい声が返ってきた。

⏰:09/11/10 16:03 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#440 [nanoka]

すぐにドアが開き、中からピンクのナース服を着た看護師さんが出てきた。

「面会時間は一時間です。私は外にいますのでお話が終わったら部屋の電話からナースセンターにコールして下さい」

笑顔でてきぱきと説明をすると、看護師さんは談話室に背を向けた。

⏰:09/11/10 16:06 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#441 [nanoka]

中に入って最初に口を開いたのは枢先生だった。

「こんにちわ」

優しく微笑むその表情は、どこか蒼井さんに似ていて緊張がとけていくのを感じた。

⏰:09/11/10 16:08 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#442 [nanoka]

「何だか今日はすごく気分がいいの」

と、彼女は笑った。

知り合いと言っていたが、亮太たちのことはわからないみたいだった。

⏰:09/11/10 16:10 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#443 [nanoka]

「初めまして。僕は蒼井と言います。ここにいる亮太くんや空さん、優さんの友達です」

蒼井さんがそう話しかけると、一瞬彼女の表情に変化があった。

「亮太くん…?」

⏰:09/11/10 16:12 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#444 [nanoka]

「はい。彼が亮太くんです。前にも何度かお会いしたことがありますよね」

ゆっくりと言葉を選びながら蒼井さんは、枢先生に説明していった。

昨日はあんなにうるさかった亮太たちが今日は黙ってその様子を見ていた。

⏰:09/11/10 16:14 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#445 [nanoka]

三人とも枢先生を心配そうな表情で見つめていた。

俺も彼女を見ていた。いや性格には彼女の頭部を見ていた、だ。

ちょうどおでこがある辺りに黒いもやの様なものが浮かんでいた。

⏰:09/11/10 16:19 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#446 [nanoka]

俺はそれが何なのか気になって仕方なかった。

チラチラと蒼井さんに視線を送ってみたけど蒼井さんは微笑みを返してくれるだけだった。

もしかしたら俺にしか視えてないのかと心配になったくらいだ。

⏰:09/11/10 16:21 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#447 [nanoka]

結局その日は、彼女が亮太たちのことを思い出すことはなかった。

それでも彼女は終始ニコニコしていたし、その表情はどこか亮太たちを懐かしんでいるようにも見えた。

⏰:09/11/10 16:28 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#448 [nanoka]

面会時間を終えた後、蒼井さんは亮太たちをバーに誘った。

「コーヒーでも飲みながら説明させて下さい」

という蒼井さんの誘いを、亮太たちは二つ返事で受けた。

⏰:09/11/10 16:32 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#449 [nanoka]

移動途中の車内で俺はあの黒いもやについて蒼井さんに聞いてみた。

「やっぱり拓真くんにも見えてましたか」

と、ちょっと嬉しそうに笑ってからあれが原因だと思うと蒼井さんは言った。

⏰:09/11/10 16:34 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#450 [nanoka]

「あれがあると何回まわりの霊を祓ってもまたすぐ集まってきちゃうと思うんですよね」

「あのもや自体を何とかすることは出来ないんですか?」

俺の質問に蒼井さんは少し困った顔で言った。

⏰:09/11/10 16:37 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#451 [nanoka]

「悪い夢を見てうなされている人を起こしちゃいけないって聞いたことはありませんか?」

「あ。その話なら昔ばあちゃんから聞いたことあります。たしか夢から戻ってこれなくなるとかって…」

「あの黒いもやも同じようなものなんです。だから下手に手出ししていいものかどうか…」

⏰:09/11/10 16:39 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#452 [nanoka]

俺にしたのと同じ話を蒼井さんは亮太たちにも伝えた。

「ただ今日みたいに寄ってきた霊たちを一時的に祓うことはできます」

と、付け加えて。

⏰:09/11/10 16:41 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#453 [nanoka]

「後ろの方の話はしましたよね?今は彼女自身の後ろの方の力は彼女を守ることに使っていると思うんです。だからそれを僕が手伝って…」

彼女自身の力で黒いもやを祓うしかないのだと、蒼井さんは言った。

後ろの方の力を黒いもやだけに使えれば可能かもしれないと。

⏰:09/11/10 16:45 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#454 [nanoka]

「時間はかかるかもしれませんが、僕にも手伝わせてくれませんか?」

というわけで、蒼井さんは二日に一回のペースで彼女に会いに行くことになった。

俺と二人の時もあれば亮太や空さんたちをつれて行くこともあった。

⏰:09/11/10 16:50 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#455 [nanoka]

一ヶ月くらい経って、俺はある変化に気付いた。

あのもやが少し小さくなっていたのだ。

蒼井さんの言うように少しずつだけど、彼女は元気になっているように思えた。

⏰:09/11/10 16:52 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#456 [nanoka]

何より彼女が蒼井さんの顔を見た時に見せる笑顔が、その証拠だった。

「蒼井くんといるとすごく気分が楽になるの」

と、口癖のように彼女は言っていた。

⏰:09/11/10 16:54 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#457 [nanoka]

俺はそれが蒼井さんの霊を寄せつけない体質のせいだと知っていたけど、蒼井さんの姿を見た彼女が

「蒼井くん!」

と、すごく可愛らしい笑顔を見せると何だか俺まで嬉しくなった。

⏰:09/11/10 16:57 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#458 [nanoka]

二ヶ月が経つ頃には、もやの大きさが定まらなくなってきていた。

風船みたいだと思った。

膨らんだりしぼんだり絶えず大きさが変化しているそのもやは一番大きい時でも野球のボールくらいまで小さくなっていた。

⏰:09/11/10 17:00 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#459 [nanoka]

三ヶ月が経つ頃には他にも変化が起きていた。

悪い変化ではない。いい方の変化だ。

まずは亮太たちが来栖の常連さんになったこと。

⏰:09/11/10 17:18 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#460 [nanoka]

病院の帰りだけではなく、ちょこちょこ店に顔を出してくれるようになった。

それからもう一つ。

亮太たちの仕事を俺が手伝うことになったことだ。

⏰:09/11/10 17:20 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#461 [nanoka]

手伝うと言っても、俺は霊の依頼を亮太たちに伝えるという仲介役みたいな感じなのだけど。

あのマンションの遺体のように俺一人では何もしれあげられないことが多いけど亮太たちのおかげで、彼らの依頼を聞くことができるようになった。

⏰:09/11/10 17:23 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#462 [nanoka]

そんな風に色んなことが順調に進んでいたある日、俺は蒼井さんからある秘密を聞くことになった。

いつものように蒼井さんと店の片付けをしていた時だった。

何気なく俺は蒼井さんに訊いた。

⏰:09/11/10 17:25 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#463 [nanoka]

「そういえば蒼井さん明日も枢先生のとこ行くんですか?」

深い意味はなかった。ただもし行くなら俺も行こうかなくらいの気持ちでそう訊いた。

それなのに蒼井さんは急に黙ってしまった。

⏰:09/11/10 17:27 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#464 [nanoka]

しばらく一人で何か考えるようにグラスを拭いていた蒼井さんは不意に顔を上げ俺を見た。

「拓真くんにはほんとのこと話しておきます」

深刻な言葉とは裏腹に蒼井さんの顔は笑っていた。

⏰:09/11/10 17:31 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#465 [nanoka]

いたずらがバレた時みたいなそんな少し子供っぽい表情だった。

「ほんとはもう週一くらいでいいんですよね、病院に行くのは」

「えっ?」

⏰:09/11/10 17:32 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#466 [nanoka]

「拓真くんには視えてるからわかりますよね。もやが小さくなったこと」

「はい」

事実だった。その頃には、あのもやは飴玉くらいの大きさまで小さくなっていた。

⏰:09/11/10 17:34 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#467 [nanoka]

「もうほとんど影響力もないくらいなんです、実は」

「じゃあ何で…」

もやが小さくなってからも変わらず蒼井さんは病院に通っていた。

むしろ回数は増えたくらいだ。

⏰:09/11/10 17:35 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#468 [nanoka]

「僕が会いたいからです。枢さんに」

そう言って蒼井さんはニッコリと笑った。

「えっ?」

「でも僕の気持ちだけでいつまでもこのままにしておいちゃダメですね」

⏰:09/11/10 17:37 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#469 [nanoka]

そう言った蒼井さんは少し寂しそうだった。

「明日亮太くんたちも病院に来れるか聞いてみてもらえますか?」

俺は蒼井さんに言われるまま次の日病院に亮太たちを呼び出した。

⏰:09/11/10 17:39 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#470 [nanoka]

いつものように談話室に入ると

「今日はみんなにも視えるようにしましょう」

そう言って蒼井さんは両手であのもやを包んだ。

⏰:09/11/10 17:41 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#471 [nanoka]

「あ…!」

そばにいた亮太たちが声を洩らした。

どうやら亮太たちにももやが視えるようになったらしい。

⏰:09/11/10 17:42 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#472 [nanoka]

「この黒い塊がそもそもの原因です」

と、蒼井さんは言った。

「最初はもっと大きかったんですけど、今はここまで小さくなりました」

⏰:09/11/10 17:43 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#473 [nanoka]

そう説明をすると、蒼井さんはその塊を指で掴んだ。

右手の人差し指と親指で挟まれた塊は、逃げようと暴れているようにも見えた。

亮太たちも黙ってその光景を見つめていた。

⏰:09/11/10 17:45 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#474 [nanoka]

「さて…」

蒼井さんはそう呟くのと同時に指で掴んでいた塊を勢いよく指で押し潰した。

“ぱちん”という音が部屋に響いた。

⏰:09/11/10 17:47 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#475 [nanoka]

黒いもやは消えていた。

呆然としていると、枢先生の声が聞こえた。

「亮太くん…?と空に優ちゃん?」

枢先生は驚いた顔で亮太たちを見ていた。

⏰:09/11/10 17:50 📱:P906i 🆔:bCXhyViA


#476 [nanoka]

「行こうか」

蒼井さんに囁かれ、枢先生から目を離した。

蒼井さんはすでにドアの前にいた。慌てて後を追うと

「詳しいことは車で話すから」

⏰:09/11/11 02:26 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#477 [nanoka]

そう言われた。

事態が飲み込めなかったけど前を歩く蒼井さんの背中が小さく見えて、俺は黙ってついて行くことにした。

車までの距離がやけに長く感じた。

⏰:09/11/11 02:29 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#478 [nanoka]

蒼井さんが車のドアを閉めたのを確認すると、俺は口を開いた。

「何で声かけなかったんですか?せっかくあの塊が消えたのに」

「消えたからだよ」

蒼井さんは言った。

⏰:09/11/11 02:32 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#479 [nanoka]

「悪い夢を見ている人を起こしちゃいけないという話を覚えてるかな」

俺の返事を待たず蒼井さんは続けた。

まるで俺にではなく別の誰かに話しているみたいだった。

⏰:09/11/11 02:34 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#480 [nanoka]

「彼女は夢を見ていたんだ、悪い夢を。夢から覚めたら夢のことなんて忘れてしまう。今の彼女は僕が誰かわからない」

「蒼井さん…」

「拓真くんのこともわからないと思う…というよりもあの塊に取りつかれた間のことは多分ほとんど…」

⏰:09/11/11 02:37 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#481 [nanoka]

俺は蒼井さんがあの塊を指で潰した時のことを思い出していた。

蒼井さんはどんな気持ちで…。

「蒼井さん、やっぱり病院に戻りましょう」

⏰:09/11/11 02:39 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#482 [nanoka]

「でも…」

「別に忘れててもいいじゃないですか。また知り合いになれば」

顔を上げた蒼井さんと目が合った。

⏰:09/11/11 02:41 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#483 [nanoka]

蒼井さんの真似をして微笑んでみたけど、うまくできたかはわからなかった。

だから言葉を続けた。

「素敵じゃないですか。一生のうちに二度も運命の出逢いを体験できるなんて。しかも同じ相手と」

⏰:09/11/11 02:44 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#484 [nanoka]

俺の言葉が蒼井さんに届いたかはわからない。

でも蒼井さんは車を降り、病院に向かって歩きはじめた。

その背中はさっきよりも誇らしげに見えた。

⏰:09/11/11 02:45 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#485 [nanoka]

「初めまして、蒼井です」

蒼井さんは言った。初めての時と同じように。

「初めまして」

彼女は微笑んだ。

⏰:09/11/11 02:48 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#486 [nanoka]

「何だかあなたとは初めて会った気がしないわ。あなたといると懐かしいような幸せな気分になるの」

「光栄です。もしよかったら明日も会いに来ていいですか?」

彼女は再び微笑んだ。

「明日が待ち遠しいわ」

⏰:09/11/11 02:51 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#487 [nanoka]

安価

>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500

⏰:09/11/11 02:55 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#488 [nanoka]


感想お待ちしてます★

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4602/

⏰:09/11/11 02:59 📱:P906i 🆔:l/Kchu/.


#489 [nanoka]

自分には一般に霊と呼ばれるものが生きている時の姿で視えると気付いたのは、彼女に会った時だった。

蒼井さんの言葉を借りるなら俺の後ろの方がそういう無害な霊を選んで姿を視せているから。

無害という言い方は少し違うかもしれないと蒼井さんは言った。

⏰:09/11/12 16:25 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#490 [nanoka]

だけど俺や他の人に何かしようとしているわけではないので人間に近い姿をしている…と。

だから彼女を初めて視た時俺は普通のおばさんだと思った。

おばさんって言ったら失礼かもしれないけど30代半ばにはみえた彼女と会ったのは店に向かう途中だった。

⏰:09/11/12 16:29 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#491 [nanoka]

黒いスーツにゴムで無造作に一つに束ねた黒髪。

郵便局とか役場とかで事務とかやってそうなイメージだった。

その彼女が自動販売機の前で屈んで下を覗き込んでいた。

⏰:09/11/12 16:35 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#492 [nanoka]

のんびり歩いていた俺は、五メートルくらい出前から彼女に気付き何の気なしにその光景を見ていた。

(自販機の下にお金でも落としたのかな?)

と、余計な想像をしながら彼女に近づいた。

⏰:09/11/12 16:37 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#493 [nanoka]

近づいたって言っても彼女のいた場所がたまたま通り道だったんだけど。

特に話しかける気もなく、素通りした。

ちょうど彼女の後ろを通り過ぎた時だった。

⏰:09/11/12 16:44 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#494 [nanoka]

「やっぱこんなとこにあるわけないかぁー」

突然彼女がそう口にした。独り言だと思うんだけど、あまりに突然だったんで俺は振り向いて彼女を見てしまったんだ。

目が合った彼女は驚いた顔で俺を見上げてた。

⏰:09/11/12 16:52 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#495 [nanoka]

「どうかしたんですか?」

その状況で何もなかったように再び歩きはじめる勇気はなかった。

だからそう訊いた。

⏰:09/11/12 16:53 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#496 [nanoka]

彼女は俺の質問に答えるかわりに俺に質問した。

「あなた私が視えるの?」

さっきよりも驚いた顔で、そう訊いてきた。

俺は咄嗟に蒼井さんに貰った数珠を確認した。

⏰:09/11/12 16:57 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#497 [nanoka]

色が変わっていた。うっすらだけど間違いなく反応していた。

「視えます…ね」

俺の答えに彼女はもう驚いている様子はなかった。どっちかと言えば嬉しそうにみえた。

⏰:09/11/12 16:59 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#498 [nanoka]

「時計を探してるの」

彼女は言った。

俺は自分の左手にある腕時計に目を落とした。CASIOのGーSHOCK。

父から貰ったその腕時計はバイトまであと15分だと告げていた。

⏰:09/11/12 17:05 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#499 [nanoka]

「違う違う」

彼女は俺の腕時計を見ながら笑った。

「そうゆうゴツいのじゃなくて…」

なくしたという腕時計の説明をする彼女を俺は困惑しながら眺めていた。

⏰:09/11/12 17:15 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#500 [nanoka]

(この人…ほんとに幽霊だよな?いわゆる)

数珠が反応していなかったら普通のおばさんにしか見えない。

どうしたものかと悩んでいるうちに彼女に手を握られた。

⏰:09/11/12 17:17 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#501 [nanoka]

氷みたいに冷たく冷えきった手だった。

「というわけで宜しくね」

途中から全く彼女の話を聞いていなかった俺は何のことだかわからなかった。

⏰:09/11/12 17:19 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#502 [nanoka]

「よ…宜しくって?」

「だから腕時計!探してくれるんでしょ?あれがないと私カズに会いに行けない…」

怒ったような口調だった彼女はカズという名前を口にした途端暗い表情になった。

⏰:09/11/12 17:21 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#503 [nanoka]

「私がもう死んでるってことはわかってるんでしょ?カズも一緒に死んだの。事故だった」

恐らくさっき一度したであろう話を彼女はもう一度してくれた。

「カズが誕生日にプレゼントしてくれた腕時計がないの」

⏰:09/11/12 17:25 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#504 [nanoka]

「車の事故だった」

「デジタルじゃなくてアナログの時計。ベルトのとこが茶色い革で凄く気に入ってたの」

「事故にあった日の朝、家を出る時にはつけてた」

脈絡のない話だったけど、大体の内容は理解できた。

⏰:09/11/12 17:27 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#505 [nanoka]

とにかくその腕時計が見つからないことには、彼女はカズに会わせる顔がないらしい。

「探せって言われてもどうやって…」

「朝はあったのよ。確かに腕にはめたから」

⏰:09/11/12 17:33 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#506 [nanoka]

「じゃあその日に行った場所を探せば見つかるかもしれないってことですね」

俺の言葉に彼女は笑顔を見せた。

「探してくれるの!?」

「今あなたが探せって…」

⏰:09/11/12 17:35 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#507 [nanoka]

言い終えないうちに彼女が俺の言葉を遮った。

「待ち合わせしたのは駅前の喫茶店。ほらあそこの」

彼女が指差した喫茶店は、俺も何度か行ったことのある店だった。

⏰:09/11/12 17:37 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#508 [nanoka]

「それから…パチンコ!」

彼女の言葉に俺はほんとに幽霊なのかという忘れかけていた疑問を再び抱いた。

「そこにはカズの車で行ったの。デルジャン777って隣の市のお店」

⏰:09/11/12 17:39 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


#509 [nanoka]

「すごい名前ですね」

幽霊と話しているというのに不覚にも笑ってしまった。

「笑ってないでメモとかしなくて大丈夫?」

彼女に指摘され、俺は携帯の新規メールの本文のところにその店名を打ち込んだ。

⏰:09/11/12 17:42 📱:P906i 🆔:RPC8pAAU


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194