<<来栖>>
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#301 [nanoka]

「もうすぐ半年になります」

「半年か。長いなぁ。もしかして最高記録じゃないか?なぁ、蒼井くん」

話題をふられた蒼井さんは笑顔で「はい」と答えた。

⏰:09/10/28 17:25 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#302 [nanoka]

「拓真くんはよくやってくれてます」

不意討ちだった。蒼井さんに誉められた俺は思わずにやけてしまった顔を隠す暇がなかった。

「今までの子はすぐやめちゃってたからなぁ…」

⏰:09/10/28 17:31 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#303 [nanoka]

沢木さんと蒼井さんの会話を聞きながら、俺は空きテーブルを掃除していた。

いつもなら話し相手になっている間は仕事しないんだけど、自分から台拭きを手に掃除を始めた。

ほら俺、誉められて伸びるタイプだから。

⏰:09/10/28 17:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#304 [nanoka]

「拓真くん、霊感ゼロですし怖い話を聞くのも嫌いじゃないみたいなので」

蒼井さんの言葉に沢木さんは「そうかそうか」と笑っていた。

「そりゃこの店にピッタリな人材だなぁ」

⏰:09/10/28 17:36 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#305 [nanoka]

どうゆう意味だろう?って些細な疑問が湧いた。

怖い話を聞く機会が多いのは蒼井さんの体質上わかるのだけど、俺に霊感がないことは何か関係があるのだろうか。

閉店後、何気なく蒼井さんにその質問をぶつけてみた。

⏰:09/10/28 17:39 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#306 [nanoka]

「僕といると霊感が開花されちゃうみたいなんです」

と、蒼井さんは少し困ったような表情で微笑んだ。

「僕の力が移るわけではなくてその人本来の力なんですけどね」

⏰:09/10/28 17:41 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#307 [nanoka]

「本来の力…ですか」

「よく赤ちゃんや小さい子供は霊が視えるって言うじゃないですか」

その手の話は何度か聞いたことがあったので、俺は頷いた。

⏰:09/10/28 17:43 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#308 [nanoka]

「成長するにつれて視えなくなることが多いんですけど、僕と接しているうちに力が戻ってしまうみたいなんですよ、困ったことに」

「困るんですか?」

霊感があるなんて人によっては自慢する人もいるし、喜ぶ人もいるのでは…って思った。

⏰:09/10/28 17:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#309 [nanoka]

「視えないほうがいいこともあるんですよ」

というのが蒼井さんの答えだった。

霊感が開花しすぎて辞めてしまった子や、単純に怖い話が苦手で辞めた子がほとんどらしい。

⏰:09/10/28 17:49 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#310 [nanoka]

「あ。だから…」

俺はようやく面接の時に、蒼井さんにされた質問の意味が理解できた気がした。

「みんな三ヶ月ももたずに辞めてしまうんですよ。だから拓真くんがうちで働いてくれて助かってます」

⏰:09/10/28 17:52 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#311 [nanoka]

その日の夜、懐かしい夢を見た。

「拓真、起きて」

という母の声から夢が始まった。

母の運転する車で叔母さんの家に向かう途中だ。

⏰:09/10/28 18:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#312 [nanoka]

助手席で眠りこけている俺を母が必死で起こしている場面。

記憶にある場面だった。

小学生の頃、同じ場面を実際に経験したことがある。

母は道に迷っている。と、すぐにわかった。

⏰:09/10/28 18:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#313 [nanoka]

毎週のように顔を出していた叔母さんの家へ向かう道で迷ってしまったのだ。

普通に考えたらあり得ない事態に母は震えた声で寝ている俺を起こしていた。

「拓真、拓真」

⏰:09/10/28 18:08 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#314 [nanoka]

母の必死の呼びかけに幼い頃の俺が目を開けた。

「何?」

不機嫌そうに母に問いかける。

「叔母さん家に着くまで起きてて」

⏰:09/10/28 18:10 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#315 [nanoka]

「は?何で?」

「いいから!何かおかしいのよ」

いつになく厳しい口調の母に、言い様のない不安に駆られたのを覚えている。

⏰:09/10/28 18:12 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#316 [nanoka]

母が怒っていたわけも今ならわかる。

知っている道に出ようと車を走らせても、同じ場所に戻ってきてしまっていたのだから。

母は何十回と墓地のまわりを走らされていたらしい。

⏰:09/10/28 18:15 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#317 [nanoka]

叔母さん家の前には川が流れているのだが、その向かいが母の迷っていた墓地にあたる。

ほんの5分ほどの距離で、別の日に改めて墓地を見た母が

「何で迷ったんだろう」

と呟いていたくらい近くだ。

⏰:09/10/28 18:28 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#318 [nanoka]

俺が目を覚ましてからのことは夢の続きを見るまでもなく覚えている。

「何でこんなとこで迷ってるの?」

と、文句を言いながら俺が道案内をしたのだ。

⏰:09/10/28 18:35 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#319 [nanoka]

叔母さん家には母と一緒に何度も来ていた。

墓地から叔母さん家までの道順も覚えていた。

「真っ直ぐ行って」
「そこ右」
「次も右」

⏰:09/10/28 18:37 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#320 [nanoka]

寝ていたところを起こされ機嫌の悪い俺は、そんな感じで道案内をし叔母さん家に着いた。

夢の中の俺も同じように、ふて腐れた顔で道案内をしている。

あー…。眠いんだろうな。と、苦笑しながら幼い頃の自分を眺めていた。

⏰:09/10/28 18:40 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#321 [nanoka]

一つだけ記憶と違っていたのは、俺が言う先の道に男が立っていたことだ。

右と言えば右に進んだ道に左と言えば左に進んだ道に男が立っている。

男は俺に次に進む方向を指差して教えている。

⏰:09/10/28 18:44 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#322 [nanoka]

母には見えていない様子のその男は、次の方向を指差すと一度消えまた現れた。

最後に叔母さん家を指差したところで完全に姿を消した。

そこで夢から覚めた。

⏰:09/10/28 18:47 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#323 [nanoka]

夢の話を蒼井さんにしたのはちょっとした気まぐれだった。

お店が暇だったこともあって掃除に飽きた俺は

「そういえば昨日変な夢見たんですよー」

と、軽いノリで夢の話をしたのだ。

⏰:09/10/30 04:14 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#324 [nanoka]

「多分後ろの方が助けてくれたんだと思います」

蒼井さんは俺の話を聞いてそう言った。

夢の中で指差しながら帰り道を教えてくれたのは後ろの方だというのだ。

⏰:09/10/30 04:15 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#325 [nanoka]

「でも俺の記憶では道を覚えてた俺が自分で…」

反論しながらも心のどっかで蒼井さんが正しいんだろうなって思ってた。

今まで蒼井さんが間違った判断をしたところ見たことないし。

⏰:09/10/30 04:16 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#326 [nanoka]

「拓真くんは土地神様という言葉を聞いたことがありますか?」

蒼井さんの質問に俺は首を横に振った。

「土地を守る神様ってところですかね、簡単に言えば」

⏰:09/10/30 04:17 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#327 [nanoka]

「土地を守る…」

「はい。地域によって呼び方は色々なのですが」

「その土地神様が俺の夢と関係してるんですか?」

俺の問いに蒼井さんは少し考えるような仕草をした。

⏰:09/10/30 04:18 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#328 [nanoka]

「さっき土地神様は土地を守るって言いましたよね?でも広くは知られていないことが多いんです」

「まぁそうかもしれないですね。俺も今日知りましたし」

蒼井さんは少し寂しそうに微笑んでから

⏰:09/10/30 04:19 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#329 [nanoka]

「知る人がいないということがどうゆうことかわかりますか?」

と、俺に訊いた。

「感謝されない…?」

正解と言うかわりに蒼井さんは微笑んだ。

⏰:09/10/30 04:20 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#330 [nanoka]

「だからたまに連れてってしまうんですよ。気に入った人間を」

「えっ?」

「一般的に神隠しと言われているものです。地域によっては気に入られた人のことを魅入られたと言うようです」

⏰:09/10/30 04:21 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#331 [nanoka]

「神様が仕返しって」

俺のつっこみに蒼井さんは

「面白い発想ですね」

と、少しだけ笑った。

⏰:09/10/30 04:23 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#332 [nanoka]

誉めているのか貶しているのかいまいちわからなくて俺は微妙な表情を浮かべた。

「拓真くんは子供の頃、その土地神様に魅入られたんだと思います」

「えっ!?」

⏰:09/10/30 04:24 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#333 [nanoka]

「普通は魅入られたら連れていかれるんです。もし運良く助かってもその土地にまた入れば二度目はないと言いますか…」

「だったら土地神様とは関係ないんじゃないですか?俺、その後も何度も叔母さん家に行ってるから」

あれ以来迷子になった記憶はない。

⏰:09/10/30 04:25 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#334 [nanoka]

「拓真くんは後ろの方がすごく強い方ですから」

そう言って微笑んだ蒼井さんが俺ではなく俺の後ろを見ていた気がして、俺は思わず振り返ってしまった。

「もしかしたら僕といる影響が出てきてるのかもしれませんね」

⏰:09/10/30 04:26 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#335 [nanoka]

「えっ?」

「後ろの方を見たの初めてでしょう?」

「はい。でも夢ですよ?」

俺の反論に蒼井さんは苦笑しながらも

⏰:09/10/30 04:28 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#336 [nanoka]

「その夢を見たのも拓真くんの力が強くなってる証拠ですよ」

と、説明してくれた。

「力って?」

「いわゆる霊感です」

⏰:09/10/30 04:29 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#337 [nanoka]

「えっ?えっ?俺、霊感なんて全くないですよ。一度も幽霊とか視たことないですし」

「それは後ろの方のおかげです。視えないようにしてくれているんです」

と、蒼井さんはまた俺の後ろに向かって微笑んだ。

⏰:09/10/30 04:30 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#338 [nanoka]

「僕といる時間が長くなってきたから抑えきれなくなってきているのかもしれません」

と、蒼井さんは言った。

「でもほんとに俺、霊感とかないですよ」

⏰:09/10/30 04:31 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#339 [nanoka]

「そんなわけないじゃないですか。後ろの方はこんなに徳の高い方なのに」

わからないことだらけだったけど蒼井さんの言葉には不思議と説得力がある。

中でも一番説得力があったのは

⏰:09/10/30 04:32 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#340 [nanoka]

「じゃあ何で今まで視えなかったんですか?」

って訊いた俺に蒼井さんが言った言葉だ。

「だって拓真くん怖がりじゃないですか」

⏰:09/10/30 04:33 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#341 [nanoka]

蒼井さんいわく、小さい頃は俺にも後ろの方や他の色々なものが視えていたらしい。

あまりにはっきりと視えすぎた為に人との区別のつかない俺を心配した後ろの方が俺の力を制御してくれたようだ。

⏰:09/10/30 04:34 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#342 [nanoka]

中学生か高校生くらいになったら力を戻す予定だったのだが俺がかなりのビビり野郎に成長してしまった為に今でも抑えてくれているのだと言う。

確かに俺、説明もなしにいきなり幽霊視えるようになったら泣くかもしれない。

⏰:09/10/30 04:36 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#343 [nanoka]

何だか突拍子もない話というかすぐには信じられなかった。

今まで色んな怪談話も聞いたし本当だって信じてるけどいざ自分のことってなると、はいそうですかとはいかない。

だって自分は霊感ゼロだって思って生きてきたし。

⏰:09/10/30 04:39 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#344 [nanoka]

だけど次の日には蒼井さんの言葉が正しかったと知ることになる。

もう信じるしかなくなったって感じ。

だっていきなり“視える”側の人間になっちゃったんだから。

⏰:09/10/30 04:42 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#345 [nanoka]

安価

>>1-63
>>65-99
>>102-167
>>169-209
>>211-296
>>299-334

⏰:09/10/30 04:44 📱:P906i 🆔:UjKXiWL2


#346 [nanoka]

それは唐突にやってきた。

外を歩いていたらポツポツと雨が降りだした時のように突然、でも当たり前のことのように。

最初の出逢いはバーからの帰り道だった。

⏰:09/10/31 12:23 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#347 [nanoka]

ラストまでお店にいると、終電がなくなってしまう為いつも徒歩か自転車でバイトに行っている。

その日は徒歩だった。

MP3で音楽を聴きながら帰っていた俺は地下鉄の出入口の前で足をとめた。

⏰:09/10/31 12:28 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#348 [nanoka]

女の子が一人で地面に座り込んでいたのだ。

うつ向いた状態で膝を抱えていたので歳はわからなかったけど、格好から俺と同じくらいの年齢だと思った。

グレーのパーカーに黒のスカート、ブーツ。髪も染めているようだった。

⏰:09/10/31 12:33 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#349 [nanoka]

酔っ払ってしまったのか、終電がなくなって困っているのかだと思った。

時計に目をやると深夜2時を過ぎていた。

俺はイヤホンを耳から外すと彼女に近付き声をかけた。

⏰:09/10/31 12:43 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#350 [nanoka]

「あの…大丈夫ですか?」

ありふれた言葉だけど他に何て聞いたらいいのかわからなかった。

俺の声に彼女は少し驚いた様子で顔を上げた。

⏰:09/10/31 12:56 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#351 [nanoka]

化粧はしているがまだ幼さの残る顔をしていた。

高校生?まさか家出?

そんなことを考えていると彼女が口を開いた。

⏰:09/10/31 14:15 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#352 [nanoka]

「実はちょっと困ったことになってて…」

深刻そうな口調に、俺の妄想は膨らむ一方だった。

お金貸してくれとか言われたらどうしよう。この子、カバン持ってないし…。

⏰:09/10/31 14:18 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#353 [nanoka]

声をかけたことを後悔しはじめていると

「助けてくれませんか?」

と、見つめられた。

財布の中に小銭しか入っていなかった俺は慌てて

⏰:09/10/31 14:20 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#354 [nanoka]

「お金貸す以外なら!」

と、答えた。

彼女はきょとんとした顔でまだ俺を見つめていた。

「や、俺バイト帰りで持ち合わせなくて…」

⏰:09/10/31 14:21 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#355 [nanoka]

まだお金を貸してほしいとも言われていないのに勝手に説明をする俺を見て彼女が笑った。

笑うとわずかに八重歯が覗く可愛い子だった。

「金銭的なことじゃないので安心して下さい」

⏰:09/10/31 14:23 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#356 [nanoka]

そう言うと彼女は立ち上がり歩きはじめた。

地下鉄の駅のすぐ側にある電話ボックス。彼女はそこで足をとめた。

「家に帰れなくなっちゃったの」

⏰:09/10/31 15:04 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#357 [nanoka]

「えっ?家族と喧嘩でもした?家に電話かけたい?」

俺の質問に彼女は首を横に振った。

「これ…」

彼女が指差したのは一枚の張り紙だった。

⏰:09/10/31 15:06 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#358 [nanoka]

この子を探しています。って駅とかでたまに配られているあのビラが電話ボックスに貼られていた。

そこに載っている写真は目の前にいる彼女そのものだった。

失踪時の服装と書かれた部分も彼女の着ている服と同じだった。

⏰:09/10/31 15:09 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#359 [nanoka]

「え…これ、君のこと?」

張り紙から目を離し振り向くと彼女はいなくなっていた。

近くを探してみたけどどこにも彼女の姿はなかった。

⏰:09/10/31 15:11 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#360 [nanoka]

次の日、蒼井さんに彼女の話をすると

「その子多分生きている人間ではないですね」

と、悲しそうな顔をした。

「遺体がまだ見つかってないんでしょう。亡くなった場所から離れられないことがありますから」

⏰:09/10/31 15:15 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#361 [nanoka]

「えっ?えっ?」

「後ろの方、拓真くんの力を抑えるのやめたみたいですね」

「ちょ…ちょっと待って下さい。俺が視たのって幽霊なんですか!?」

⏰:09/10/31 15:19 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#362 [nanoka]

「はい。後ろの方が頷いてますから間違いないと思います」

「え、でも普通の子でしたよ?血も出てなかったし、白いワンピースも着てませんでしたよ」

俺の反論を蒼井さんは笑顔で流した。

⏰:09/10/31 15:22 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#363 [nanoka]

「幽霊っていってもみんながみんなそんな姿じゃないですよ」

「そ、そうなんですか?」

「むしろ生きていた頃の姿で現れることのほうが多いくらいです。ホラー映画や怪談話は別ですけど」

⏰:09/10/31 15:24 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#364 [nanoka]

「じゃああの子はもう…」

「家に帰りたくて自分の姿が視えた拓真くんに助けを求めたんでしょうね」

「遺体が見つからないと、帰れないんですか?」

⏰:09/10/31 15:26 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#365 [nanoka]

駅の出入口で座り込んでいた彼女の姿を思い出して何だか切なくなった。

「俺に遺体を見つけてほしかったんですか?」

俺の質問に、蒼井さんは複雑そうな表情を浮かべた。

⏰:09/10/31 15:29 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#366 [nanoka]

「警察や探偵じゃないんですから遺体を見つけるのは難しいと思います」

「でも…」

「拓真くんの気持ちはわかります。でも例え霊が視えてもどうにもできないこともたくさんあるんですよ」

⏰:09/10/31 15:34 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#367 [nanoka]

蒼井さんの言っていることも意味もわかった。

でもあの子の膝を抱えてうつ向いていた姿を思い出すと何とかしてあげたいと思ってしまう。

「多分遺体があるのはその地下鉄の駅の近くだと思いますけど…」

⏰:09/10/31 15:40 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#368 [nanoka]

見かねたように蒼井さんはそう言った。

「そうなんですか!?」

「はい。遺体から遠い場所には行けないはずです」

⏰:09/10/31 15:49 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#369 [nanoka]

遺体を探しに行くと言い出した俺を蒼井さんは止めなかった。

それどころか一緒に探してくれると言ってくれた。

「今日はご予約も入ってませんし、少し遅めの開店にしましょう」

⏰:09/10/31 15:51 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#370 [nanoka]

彼女に会った駅までは歩いても10分かからない。

駅周辺なだけあって建物も多く彼女の遺体を見つけるのは困難に思えた。

「この近くって言っても、結構範囲広いですね」

⏰:09/10/31 15:59 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#371 [nanoka]

自分で言い出したくせに弱気な発言をした俺に

「ま、彼女にまた会えたら遺体まで案内してもらいましょう」

と、蒼井さんは微笑んだ。

何とも行き当たりばったりな計画だ。

⏰:09/10/31 16:01 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#372 [nanoka]

15分ほど駅のまわりの路地を歩いたが何の収穫もなかった。

「拓真くんがその子を視た場所に戻ってみましょうか」

という蒼井さんの提案で、駅前に向かうと人だかりができていた。

⏰:09/10/31 16:04 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#373 [nanoka]

野次馬らしき人達に混じってテレビ局の人も来ていた。

「何だろう?」

俺は野次馬の間から駅を覗いた。

⏰:09/10/31 16:06 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#374 [nanoka]

注目を浴びていたのは駅ではなく、隣のマンションだった。

ドラマで見るような立ち入り禁止のテープと警官が、マンション内に入らないように見張っていた。

それだけ確認すると野次馬から少し離れた場所にいた蒼井さんのところに戻った。

⏰:09/10/31 16:08 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#375 [nanoka]

「何かの事件があったみたいですよ」

という俺の声に重なって、女性の声が耳に入ってきた。

「先ほどこのマンションの一室から少女の遺体が発見されました。少女は二週間前から捜索願いが出されていましたが、警察は何の捜査もしておらず両親は自分たちでビラを配り娘を探していたようです」

⏰:09/10/31 16:12 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#376 [nanoka]

リポーターの女性が原稿の練習をしていた。

リポーターの手には電話ボックスに貼られていたのと同じ、あのビラが握られていた。

「彼女だ…」

⏰:09/10/31 16:18 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#377 [nanoka]

俺が初めて視た幽霊は可愛い女の子だった。

彼女は頭のイカれた塾の講師に殺され、彼の部屋の浴槽に放置されていた。

「両思いだと思っていたから家に誘った」

⏰:09/10/31 16:26 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#378 [nanoka]

彼はそう証言しているらしい。

俺が見つけるまでもなく、マンションの住人から異臭がするという通報で彼女は発見された。

彼女はようやく家に帰ることができた。

⏰:09/10/31 16:28 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#379 [nanoka]

「これからもっと色んな霊に出逢うと思います。毎回彼女みたいに肩入れしてしまっていたら大変ですよ」

と、蒼井さんにしては少し厳しいような冷たいようなことを言われた。

それから数珠をもらった。

⏰:09/10/31 16:31 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#380 [nanoka]

「最初のうちは霊と人との区別がつきにくいかもしれないので」

ということらしい。

蒼井さんと同じ透明の数珠は霊に近付くと色が変化する。

⏰:09/10/31 16:33 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#381 [nanoka]

彼女のことがなったから、最初から恨みたっぷりって感じの血だらけの霊に出くわしていたら、彼らとは関わることはなかったかもしれない。

もしかしたら俺の為に彼女が引き合わせてくれたんじゃないかって思う。

彼らと出逢ったのもあの駅の前だった。

⏰:09/10/31 16:36 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#382 [nanoka]

俺は毎日あの駅の前で足をとめ、彼女の遺体の発見されたマンションを見上げていた。

何をするわけでもなくただ見上げるだけ。

そんな動作が習慣になり始めていた頃、彼らに会った。

⏰:09/10/31 17:03 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#383 [nanoka]

第一印象は最悪だった。

あのマンションの前で写真を撮っている姿を見たのが最初だった。

眼鏡に首から下げたカメラ。ヲタクという三文字が頭に浮かんだ。

⏰:09/10/31 17:05 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#384 [nanoka]

そばにいる男はカメラの男に何か命令され、後をついてまわっている。

そっちの男にもあだ名を付けるならハチ公だろう。

見た目は普通だが、カメラの男に頭が上がらない子分のように見えた。

⏰:09/10/31 17:08 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#385 [nanoka]

「何も聞こえない」

「帰ったら早速現像してみよう」

など意味不明なことを話しながら写真を撮っている彼らがあのマンションを撮っているのだと気付いた時は酷く不快な気分になった。

⏰:09/10/31 17:11 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#386 [nanoka]

「お前ら何やってるんだよ!」

気付いたら彼らに向かって叫んでいた。

俺の声に気付いた二人は、きょとんとした顔で手をとめた。

⏰:09/10/31 17:13 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#387 [nanoka]

「人が殺された場所の写真なんか撮って楽しいかよっ!!」

怒りに任せて彼らに歩み寄ると、ハチ公が止めに入ってきた。

「ちょ…ちょっと待って下さい。僕たちは別に楽しんでるわけではなくて…」

⏰:09/10/31 17:17 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#388 [nanoka]

「助けにきたんだ」

そう言ったのはカメラの男だった。

「はっ?」

「えっと…うまく言えないんですけどほんとです。助けにきたんです」

⏰:09/10/31 17:19 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#389 [nanoka]

そう付け加えてハチ公は、カメラの男に助けを求めていた。

「説明難しいな…部長も何とか言って下さいよ」

どうやら犯罪マニアというのは俺の間違いらしかった。

⏰:09/10/31 17:21 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#390 [nanoka]

「多分言っても信じてもらえないと思うけど…」

そう前置きしてハチ公はそこにいる理由を説明した。

「この道、大学の通学路なんだ。だからよく通るんだけど最近助けてって声がよく聞こえてて…」

⏰:09/10/31 17:37 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#391 [nanoka]

「…助けて?」

「はい。あと帰りたいって声も。多分同じ声だと思うんだけど」

ハチ公の話を聞いているうちに彼女のことだと直感した。

⏰:09/10/31 17:39 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#392 [nanoka]

「その声って高校生の女の子みたいな声じゃ…?」

俺の質問にハチ公は驚いた顔をした。

「お兄さんも聞いたんですか?あの声」

⏰:09/10/31 17:41 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#393 [nanoka]

「聞いたというか…その声の主に会った…?のかな」

俺の言葉を聞いた時のカメラの男の食い付きは凄かった。

「それは生きてる時と死んでからとどっちだ!?」

⏰:09/10/31 17:45 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#394 [nanoka]

犯されるんじゃないかってくらい顔近付けてきて、かなり焦った。

その後も色々訊かれたんだけどバイトに遅れそうだったのもあって、俺から話を中断した。

不満そうなカメラ男に

⏰:09/10/31 17:48 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#395 [nanoka]

「この先の来栖ってバーでバイトしてるんで、良かったら今度来て下さい」

って言い残して逃げた。

だって何か勢いありすぎてちょっと怖かったんだもん、あのカメラ男。

⏰:09/10/31 17:49 📱:P906i 🆔:aBgdcliI


#396 [nanoka]

良かったら来て下さいとは言ったけど、まさか今日だとは思っていなかった。

開店準備をしながら蒼井さんに駅で変な二人組に会ったという話をした直後に、彼らは店にやって来た。

しかも人数増えてるし!

⏰:09/11/08 13:05 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#397 [nanoka]

驚いてる俺に彼らは次々と自己紹介をしていった。

最初に名乗ったのは俺が駅で会った二人だった。

カメラ男が亮太でハチ公は純という名前らしい。

⏰:09/11/08 15:13 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#398 [nanoka]

初めて顔を見た三人は全員女の子だった。

空と名乗ったのは一番ハキハキした口調のちょっと男勝りな女の子。

おっとりした口調の可愛らしい女の子が優ちゃん。

⏰:09/11/08 15:15 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#399 [nanoka]

一番最後に少し小さな声で桃果ですと言った女の子は人見知りっぽい印象を受けた。

いっぺんに五人から自己紹介をされ、名前を覚えるだけでも大変で一瞬自分がバイト中だということを忘れていた。

⏰:09/11/08 15:17 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


#400 [nanoka]

思い出したように蒼井さんの顔を見ると、いつものように微笑んでいた。

いや、いつもより二割増しくらいの笑顔だった。

「それで、君は?」

⏰:09/11/08 15:19 📱:P906i 🆔:FS//AjSY


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