<<来栖>>
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#211 [nanoka]


感想板↓↓

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⏰:09/10/24 00:55 📱:P906i 🆔:pqfYGj1o


#212 [nanoka]

毎週火曜日に一人で飲みに来るお客さんがいる。

名前は神崎。下の名前は知らない。

30歳になったばかりの彼は職業柄、心霊現象を信じているらしい。

⏰:09/10/27 21:00 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#213 [nanoka]

「俺さー、不動産の仲介やってるんだ」

初めて神崎さんに会った時、そう説明された。

水曜日が休みらしく火曜日はだいたい毎週飲みに来るからよろしくというようなことを言われた。

⏰:09/10/27 21:02 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#214 [nanoka]

俺が怖い話を聞くのが好きだと蒼井さんが説明すると色々とそっち系の裏話を話してくれた。

あそこのマンションは出るとか、自殺した人の住んでたアパートの話とかね。

意外だったのが、幽霊が出るから引っ越したいと相談されることがよくあるという話だった。

⏰:09/10/27 21:06 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#215 [nanoka]

「えーっ。そんなこと言う人いるんですか!?」

俺が驚いていると、結構多いんだよ、と笑っていた。

「そういや駅でビラ配りしてる時に相談されたこともあったなー」

⏰:09/10/27 21:08 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#216 [nanoka]

「初対面の人にですか?」

「うん。物件が載ってるビラ渡したら今すぐ引っ越せる物件ありますか?って訊かれてさ」

「そんな人いるんですね」

⏰:09/10/27 21:10 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#217 [nanoka]

「あんまりにも真剣だったんで俺もビックリしたよ。話聞いたら他社でアパートを借りたばかりだったんだよね」

話しているうちにその時のことを思い出したのか、神崎さんは苦笑しながら話を続けた。

⏰:09/10/27 21:12 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#218 [nanoka]

「その子の話じゃ、そのアパート出るらしいんだ」

「出るって…幽霊ですよね?」

そんなことを初対面の人に真面目に相談するくらいだからよっぽど切羽詰まっていたのだろう。

⏰:09/10/27 21:15 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#219 [nanoka]

「その子の部屋に押し入れがついてたらしいんだ。部屋はフローリングなんだけど収納は押し入れっていう内装だったらしい」

神崎さんが言うには、そんな風に床だけリフォームして貸し出している部屋は少なくないようだった。

⏰:09/10/27 21:18 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#220 [nanoka]

「ま、今どき畳じゃ入居者入らないからな」

と、前置きして神崎さんは話を戻した。

「まぁ、その押し入れに出るって言うんだ。女の子が体育座りで押し入れの隅っこにいるって」

⏰:09/10/27 21:23 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#221 [nanoka]

「押し入れ使えませんね、それ」

俺の言葉に

「その子も同じこと言ってたよ」

と、神崎さんが笑った。

⏰:09/10/27 21:24 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#222 [nanoka]

「それでその子どうなったんですか?」

俺がそう質問すると神崎さんの顔から笑顔が消えた。

「わかんない」

⏰:09/10/27 21:35 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#223 [nanoka]

「えっ?」

「本気みたいだったから、名刺渡したんだけど結局一度も連絡なかったから」

そう言った後で独り言のように元気なのかなと呟いていた。

⏰:09/10/27 21:37 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#224 [nanoka]

神崎さんいわく

「よくあること」

のようだ。

「幽霊が出るってわかってても平気で入居者募集するしな」

⏰:09/10/27 21:39 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#225 [nanoka]

多分“大人の事情”というやつなのだろう。

「やっぱり幽霊が出るとかって入居前に伝えないんですか?」

「伝えないよ。殺人事件とか自殺とかあった部屋は事前に伝えなきゃいけないんだけど、自然死や幽霊の類いは黙ったままだね」

⏰:09/10/27 21:42 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#226 [nanoka]

「そうなんですか?」

「あぁ。まぁ俺たちは入居者を探して大家さんに紹介するのが仕事だから」

そう言って神崎さんは何か考えるように黙りこんだ。

⏰:09/10/27 21:44 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#227 [nanoka]

沈黙を破ったのは蒼井さんだった。

「よろしければもう一杯いかがですか?」

いつの間にか神崎さんのグラスは空になっていた。

⏰:09/10/27 21:45 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#228 [nanoka]

「あ…じゃあ同じものを」

蒼井さんは静かに微笑むとカクテルを作り始めた。

同時に神崎さんが再び口を開いた。

⏰:09/10/27 21:48 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#229 [nanoka]

「俺のとこの不動産屋で扱ってる物件で社員の間でも有名な物件があってさ」

と、神崎さんは幽霊マンションについて説明してくれた。

外から見た外観も暗くて、いかにもってマンションらしい。

⏰:09/10/27 21:50 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#230 [nanoka]

「両側にもマンションがあって、日が当たらないからなんだけど、それだけじゃない暗さがあるんだよな、あそこは」

「そこは何か事件とかあったんですか?」

「いや、何も。でもこの間そのマンションに住んでる夫婦が部屋を探しに来たんだ。担当したのが俺だったんで色々と聞いたよ」

⏰:09/10/27 21:53 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#231 [nanoka]

「心霊現象ですか?」

「あぁ。女の霊が出るらしい。鏡に写ったり視界の隅に見えたりするって言ってたよ」

「俺、そのマンションには絶対住みたくないです」

⏰:09/10/27 21:55 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#232 [nanoka]

「俺も」と、笑ってから神崎さんは言葉を続けた。

「毎日のように同じ女を見かけたらしい。でも実害っていうのかな。何かされるわけでもないしってことであまり気にしてなかったみたいなんだ」

すごい夫婦だなと思わず笑ってしまった。

⏰:09/10/27 21:58 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#233 [nanoka]

「でも奥さんが妊娠したんで引っ越しを決心したんだってさ。子供には見せたくないって言ってたよ」

「そのマンション今もあるんですか?」

「あるよ。しかも意外と入居者いるんだよ」

⏰:09/10/27 22:02 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#234 [nanoka]

「ええっ!?まじですか!?」

俺の反応が面白かったのか神崎さんはちょっと得意気に笑った。

「他の社員もそのマンションのことは知ってたけど、家賃安いからよく紹介してるみたいだしな」

⏰:09/10/27 22:09 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#235 [nanoka]

「家賃安いって言っても、幽霊出るんじゃ退去者も多いんじゃないですか?」

「それがあんまいないんだよ。出るのは例の女の霊だけみたいで、俺が担当した夫婦みたいに気にしない人は気にしないから」

そう言った神崎さんは少し不満そうな表情を浮かべていた。

⏰:09/10/27 22:14 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#236 [nanoka]

感情をストレートに表に出す人というのが、俺の抱く神崎さんのイメージだった。

ちょっと接客業には向かないタイプなのでは、と余計な心配をしてみたりもした。

⏰:09/10/27 22:15 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#237 [nanoka]

そんな神崎さんが、今まで見たことないくらい暗い顔で店に入ってきた。

初めて神崎さんに会った人でも

「何かあったんですか?」

と、訊いてしまいそうな雰囲気だった。

⏰:09/10/27 22:23 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#238 [nanoka]

「寝不足なんだ」

と、神崎さんは開口一番俺にそう言った。

自分でも暗い雰囲気を出していることに気付いているらしい。

⏰:09/10/27 22:25 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#239 [nanoka]

「仕事忙しいんですか?」

という俺の質問に

「あぁ…まぁ」

と、曖昧な答えが返ってきた。

⏰:09/10/27 22:27 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#240 [nanoka]

「前に幽霊マンションの話をしたの覚えてるか?」

「はい。社員さんの間で有名なマンションですよね」

記憶力がいいのは、自分の中で自慢できる部分だ。

⏰:09/10/27 22:30 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#241 [nanoka]

「他にもあるんだよ、そうゆうマンションや部屋」

「そうなんですか」

話の意図がよくわからなくて俺はそんなありきたりな相槌を返した。

⏰:09/10/27 22:33 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#242 [nanoka]

「この間話したマンションみたいに家賃を下げれば入居者がつくこともあれば、下げてもずっと空き部屋のままの物件もあるんだ」

返す言葉が思い付かず俺は黙ったまま神崎さんの話を聞いていた。

「そうゆう物件はさらに家賃を下げるんだ。それでも入居者がつかない場合どうするかわかるか?」

⏰:09/10/27 22:40 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#243 [nanoka]

俺は首を横に振った。

「入居者がいないってのは気まずいんだ。大家さんにしてみたらここの不動産屋に仲介を頼んでるから入居者がいないんじゃないかって思われることもあるし」

その辺の事情は何となく理解できた。

⏰:09/10/27 22:43 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#244 [nanoka]

「だけどこっちにしてみたら、お客さんに紹介できる物件は多い方がいいに決まってるよな」

「はい。わかります…何となくですけど」

「ま、大人の事情だよ。大家さんのご機嫌とりをするわけだ」

⏰:09/10/27 22:46 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#245 [nanoka]

「ご機嫌とり…ですか」

「そう。簡単に言えば俺ら社員がそうゆう物件に入居するんだよ」

礼金や敷金といった謝礼をなくしてもらい、社員が入居するんだと神崎さんは説明してくれた。

⏰:09/10/27 22:49 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#246 [nanoka]

「へー…何か色々大変なんですね」

俺の言葉に神崎さんは、ははっと力なく笑った。

「俺も今住んでるんだ」

「えっ?」

⏰:09/10/27 22:51 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#247 [nanoka]

「幽霊物件に」

吐き捨てるようにそう言った神崎さんは、グラスに半分くらい残っていたカクテルを一気に胃に流し込んだ。

やけ酒ってこうゆう飲み方をいうんだろうななどと考えていた俺の耳に

⏰:09/10/27 22:54 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#248 [nanoka]

「おかわり」

という神崎さんの声が響いた。

俺と神崎さんのやり取りをおそらく全部聞いていたであろう蒼井さんは、いつもの微笑みを崩すことなく、二杯目のカクテルを作り始めた。

⏰:09/10/27 22:56 📱:P906i 🆔:BSCzB462


#249 [nanoka]

「出るんですか?そこ」

訊いてよいものか迷ったものの好奇心に負けて、そう訊いた。

「幽霊って意味ならまだ視てない。でも…」

神崎さんは一度言葉を切ってから続けた。

⏰:09/10/28 01:57 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#250 [nanoka]

「今の部屋に越してから、毎晩金縛りには遭うよ」

「あ。だから…」

「おかげで寝不足だよ。夜中に必ず目が覚めるわ金縛りになるわで、最悪な気分だよ」

⏰:09/10/28 02:00 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#251 [nanoka]

「テレビが置いてある壁が気になりますね」

そう言ったのは蒼井さんだった。

その時、神崎さんが物凄く驚いた顔をしていたのを、俺は横目で見た。

⏰:09/10/28 02:03 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#252 [nanoka]

「わかるのか!?」

そう言った神崎さんは毎晩あうという金縛りについて話し始めた。

時間は決まって3時〜4時の間。どんなに疲れていても寝苦しさで目が覚めるらしい。

⏰:09/10/28 02:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#253 [nanoka]

目が覚めて最初に感じるのは視線。誰かに睨まれている。そう感じるという。

「俺の部屋、ベランダに平行にベッドが置いてあるんだ。ベランダが南。東側の壁に頭を向けて寝てる」

神崎さんの説明を聞きながら俺は部屋の配置をイメージしていた。

⏰:09/10/28 03:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#254 [nanoka]

「東側の壁にテレビがあるんだ。寝ながら見るには少し不便だけど角部屋だから東側には誰も住んでないし好きなだけ音量上げれるからさ」

だいたいの配置がわかったところで話は本題に戻った。

⏰:09/10/28 03:06 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#255 [nanoka]

視線を感じるのは決まってその東側の壁かららしい。

そっちに頭を向けているので起き上がって振り向かなければ、視線の主を確かめることが出来ない。

怖いけど気になる。

⏰:09/10/28 03:09 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#256 [nanoka]

「起き上がろうとすると金縛りになるんだ。突然」

だから一度も“視てない”という。視線の主を。

「それと今日気付いたんだけど、今まで隣の部屋のテレビの音だと思っていた音が…」

⏰:09/10/28 03:12 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#257 [nanoka]

そう言ってから

「隣って西側の部屋な」

と、付け加えた。

今までは音量が大きくて、テレビの声が漏れているのだと思っていたらしい。

⏰:09/10/28 03:15 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#258 [nanoka]

「よく聞いてみたら東側の壁から聞こえてきたんだ」

東側の壁。神崎さんの部屋は角部屋だから、外からの音ということになる。

「夜中に視線を感じるのも東側の壁からだし、何だか気味が悪くなって…」

⏰:09/10/28 03:18 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#259 [nanoka]

・視線
・音(声?)
・金縛り

というのが神崎さんを悩ませている原因のようだった。

そんな三拍子揃った部屋、俺なら一日で引っ越すのだがそうゆうわけにもいかないらしい。

⏰:09/10/28 03:22 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#260 [nanoka]

「神崎さん明日水曜日だから仕事お休みですよね?」

何の脈絡もなく、蒼井さんがそう訊いた。

「え…あぁ。休みだけど」

神崎さんも少し面食らった表情を浮かべていた。

⏰:09/10/28 03:24 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#261 [nanoka]

「その部屋、見せてもらっても構いませんか?」

「えっ?」
「えっ?」

神崎さんと俺の声が見事にハモった瞬間だった。

⏰:09/10/28 03:26 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#262 [nanoka]

「今はまだ仮説の段階なので詳しくお話できないんですが、部屋を見ればはっきりわかると思うんです」

「明日は特に予定もないし俺は別に構わないけど…」

という神崎さんの一言で、急遽神崎さんの部屋への訪問が決定した。

⏰:09/10/28 03:30 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#263 [nanoka]

次の日の朝、蒼井さんからの着信で俺も神崎さんの部屋への家庭訪問に参加することになっていたことを初めて知った。

「マンションの下にいるから」

蒼井さんの言葉に慌てて支度を済ませている内に、何で俺が?という疑問は何処かへ消えてしまっていた。

⏰:09/10/28 03:35 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#264 [nanoka]

車内で蒼井さんがコンビニで買っておいてくれたサンドイッチとカフェオレを食している頃には、ちょっとした肝試し気分に浮き足立っていた。

蒼井さんの運転する車に初めて乗ったこともあって、何だかちょっと嬉しい気分でもあった。

⏰:09/10/28 03:39 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#265 [nanoka]

神崎さんのマンションまでは車で15分くらいだった。

昨日の会話では神崎さんが部屋の番号を言っていた記憶はなかったのだが蒼井さんは迷うことなく神崎さんの部屋に向かった。

チャイムを押して出てきたのが神崎さんだったので、俺が聞いてなかっただけかなと思ったくらいだ。

⏰:09/10/28 03:52 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#266 [nanoka]

でも神崎さんの

「あれ?俺どの部屋か言いましたっけ?」

という一言で、俺の記憶は間違ってなかったのだと確信した。

多分例の後ろの方の力なのだろう。

⏰:09/10/28 03:56 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#267 [nanoka]

蒼井さんは

「角部屋だとお聞きしていたので」

って言っていたけど、さっきエレベーターに乗った時六階建てのマンションの六階のボタンを蒼井さんが迷うことなく押したのを俺は見ていた。

⏰:09/10/28 03:59 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#268 [nanoka]

寝不足のせいか神崎さんはその件に関してあまり気に止める様子もなく

「とりあえず中に…」

と、玄関のドアを大きく開いてくれた。

⏰:09/10/28 04:02 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#269 [nanoka]

俺に霊感がないせいなのか正直普通の部屋にしか見えなかった。

ビールの空き缶やコンビニ弁当の容器なんかが流しに置かれている普通の男性の一人暮らしの部屋。

ホッとしたような少し残念なようなそんな気分だった。

⏰:09/10/28 04:04 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#270 [nanoka]

蒼井さんは俺とは全く違う感想のようで、真剣な表情で壁をコンコンと叩いていた。

その様子を神崎さんは黙って見つめていた。

少しして蒼井さんが壁を叩くのを止め、こちらに振り返った。

⏰:09/10/28 04:07 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#271 [nanoka]

「ここ、多分角部屋じゃないですね」

「えっ?」

意味がわからないという顔で神崎さんは蒼井さんの顔を見た。

⏰:09/10/28 04:09 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#272 [nanoka]

「壁の音も変ですし、さっき外から見た感じだと隣に部屋があると思うんです。ここよりは狭いかもしれませんが…」

蒼井さんの言葉を聞いた神崎さんは無言のまま、ベランダに向かった。

⏰:09/10/28 04:11 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#273 [nanoka]

ベランダの柵越しに隣の部屋を確認しているようだった。

「確かに変だな…」

独り言とも蒼井さんに向けた言葉ともとれる口調で、神崎さんはそう言った。

⏰:09/10/28 04:14 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#274 [nanoka]

神崎さんが変だと言ったのには理由が二つあった。

一つは角部屋のはずの神崎さんの部屋のベランダの横が外ではなく壁だったこと。

「ちょうどベランダのスペース分くらい手前に壁があったから今まで気付かなかった」らしい。

⏰:09/10/28 04:18 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#275 [nanoka]

カタカナのコのようなコンクリートでできた壁の出っぱりが見えたという。

そのコの字型の部分は東側の壁にくっつくように作られているようだ。

二つ目の疑問は、一面コンクリートの壁のその空間から音が聞こえるということだ。

⏰:09/10/28 04:22 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#276 [nanoka]

「玄関を出てすぐの通路も壁で行き止まりだし、ベランダ側も壁だから入り口がないはずなのに…」

神崎さんの口にした疑問に俺は部屋に入ってから初めて怖さを感じた。

確かにそうだ。部屋があると過程しても入り口のない部屋の意味がわからない。

⏰:09/10/28 04:26 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#277 [nanoka]

「五階の角部屋はどうなってます?」

蒼井さんの質問に、神崎さんはあっ!と声を漏らした。

「そういえば五階の角部屋もなかなか入居者が決まらなくて空き部屋なんです」

⏰:09/10/28 04:29 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#278 [nanoka]

「その部屋見れますか?」

「はい。大家さんの家すぐ近くなので鍵借りてきますよ」

そう言って出ていった神崎さんが戻ってくるまで10分もかからなかった。

⏰:09/10/28 04:32 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#279 [nanoka]

「部屋を見たいっていうお客さんがいるって言ったらすぐ貸してくれました」

と、手に持った鍵を蒼井さんに見せた。

「じゃあ早速行きましょうか」

⏰:09/10/28 04:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#280 [nanoka]

調べた結果、五階は普通の角部屋だった。

ただその部屋の上にあるのは位置的に神崎さんの住む部屋ではなく、あの奇妙な空間だろうという結論にまとまった。

「こっちの角部屋を借りなくて良かったですね」

⏰:09/10/28 04:38 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#281 [nanoka]

そう言って蒼井さんは微笑んだ。

「えっ?」

「だってほら、あの空間が真上にあるってことは夜中に目を開けたら視線の主とバッチリ目が合ってしまうことになるじゃないですか」

⏰:09/10/28 04:40 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#282 [nanoka]

とりあえず一度神崎さんの部屋に戻ろうということになりその部屋を後にした。

「あの空間の中が心霊現象の原因でしょうね」

蒼井さんの言葉に神崎さんも俺も同意した。

⏰:09/10/28 04:45 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#283 [nanoka]

「壊しましょうか」

そう言った蒼井さんはいつもにも増して笑顔だった。

「大家さんへの言い訳は後で考えましょう」

⏰:09/10/28 04:48 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#284 [nanoka]

蒼井さんの提案で半ば強引に壁を壊すことになったのだが、これが結構大変だった。

ドリルで穴を開けながらハンマーで叩くという作業を何度か繰り返した。

ちなみにドリルもハンマーも蒼井さんの車に積んであった。

⏰:09/10/28 04:53 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#285 [nanoka]

作業を担当したのは俺。

もしかしたら蒼井さん初めから壁を壊すつもりで道具を用意して俺を連れてきたのかもしれない。

ようやく人が入れるくらいの洞窟の入り口のような穴が空いた時には、俺は汗だくになっていた。

⏰:09/10/28 04:57 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#286 [nanoka]

「やっとあいたーっ!」

と、床に尻餅をついた俺を横目に神崎さんが穴を覗いた。

次の瞬間「ひッ!!」という声と共に俺の上に倒れ込んできた。

⏰:09/10/28 05:01 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#287 [nanoka]

「テレビ…テレビが…」

と、繰り返していた。

スペースにしたら二畳くらいのその謎の空間にはテレビが一台だけ置かれていたらしい。

⏰:09/10/28 05:03 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#288 [nanoka]

らしいというのは、俺は見ていないからだ。

蒼井さんに

「見ないほうがいいかもしれません」

って言われたから。

⏰:09/10/28 05:05 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#289 [nanoka]

その時点で部屋中に充満した血生臭い異臭だけで限界だったこともあって、俺は説明だけ聞くことにした。

テレビ以外には何もなく、ただそのテレビには画面が隠れるほど御札が貼られていたらしい。

⏰:09/10/28 05:08 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#290 [nanoka]

一番気味が悪かったのは、そのテレビの電源が入っていたことだった。

コンセントにささっていないのに、だ。

もちろん電池式なんていうオチもなくね。

⏰:09/10/28 05:10 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#291 [nanoka]

結局、あの空間が何だったのかはわからないままテレビだけ蒼井さんが回収するという形で、神崎さんの部屋を後にした。

「危ないから」

という理由で、帰りは蒼井さんではなく神崎さんの車で家まで送ってもらったのでテレビがどうなったのかもわからなかった。

⏰:09/10/28 05:13 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#292 [nanoka]

あの後どうなったのかは、蒼井さんに聞いても答えてくれない。

神崎さんも蒼井さんからは何も聞いていないらしい。

だからあくまで神崎さんが他の社員さんから伝え聞いた話なのだけど…。

⏰:09/10/28 05:17 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#293 [nanoka]

「大家さんに息子がいて、そいつひきこもりだったらしいんだ。精神を病んでたみたいで家庭内暴力とかもあったって話だ」

悩んだ末、息子に一人暮らしをさせることにした。

他所へ出すのは不安だし、ご飯や洗濯なんかの世話が出来るようにってあのマンションの一室を息子に使わせていたらしい。

⏰:09/10/28 05:21 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#294 [nanoka]

「そいつ一日中テレビ見ながらブツブツ何か呟いていたらしいわ」

ひきこもりだから姿を見なくなっても誰も不思議に思わなかった。

「いついなくなったのか、今どうしているのか、誰も知らないみたいだ」

⏰:09/10/28 05:24 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#295 [nanoka]

蒼井さんはずっと話を聞いてはいたけど、どこまでが真実でどこまでが噂なのかは教えてくれなかった。

だからあの空間をその息子が使っていたのかどうかすらわからないままだ。

ただ神崎さんを悩ませていた現象はあの日以来一度も起きていないということだった。

⏰:09/10/28 05:30 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


#296 [nanoka]

蒼井さんが話してくれるまで真相は謎のままだけど、一つだけわかったことがある。

これといった理由がないのに格安な家賃の部屋は借りない方がいいということ。

少なくとも俺は格安物件は借りないと密かに胸に誓った。

⏰:09/10/28 05:34 📱:P906i 🆔:lksf9tkg


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