こちら満腹堂【BL】
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#347 [ひとり]
無音のロッカールームに人が入ってくる気配があった。

三田さん、戻って来てくれたのか。

俺は速い動作で扉を開けた。

「うおっ!自動扉かと思った、よう、お疲れ」

「・・・・・お疲れ様です」

「何だよ明からさまなガッカリ顔しやがって」

「そんな事ないですよ」


目の前にっていたのは、弘さんだった。

⏰:10/01/07 09:12 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#348 [ひとり]
今日の鍵当番は俺とノジコさんで、今日は自分が閉めるから先に帰って下さいと伝えた。鍵持ちでもないし、仕事はいつも手際よくこなす弘さんがこんな時間まで残っているというのはどうした訳か。

俺が考えてる事を察してか、弘さんはこちらが尋ねる前に口を開いた。

「お前待ってた」

「・・俺を、ですか?」

「そ、根岸を」

⏰:10/01/07 20:29 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#349 [ひとり]
「はぁ・・・」

俺は歯切れ悪く返事をする。

「まぁ、いいからちょっと付き合え」

訳の分からないまま取り敢えず弘さんに従って店を出た。何処へ向かうのやら、目的地を決めているらしい弘さんは淀みない足の運びで先へ向かう。等間隔に街灯の並ぶその下を、微妙な感覚を空けて後に続いた。

⏰:10/01/07 21:10 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#350 [ひとり]
「公園・・」

着いた先は、満腹道からほど近い『緑公園』という名のこじんまりした公園だった。あるのはシーソーに砂場にブランコ。セオリー通りのメンツ。砂場には誰かが忘れて行ったんだろう、小さなおもちゃの赤いバケツとスコップが転がっていた。

「お前何飲む?」

公園に入ってすぐにある自販機の前に立ち、弘さんが聞いてくる。

「じゃ、甘酒で」

⏰:10/01/07 21:41 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


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