こちら満腹堂【BL】
最新 最初 🆕
#1 [ひとり]
BLが嫌いだ
BLってなぁに?
BL?おいしいの?

とゆう方は回れ右でお願いします。


誹謗中傷は受け付けません。

.

⏰:09/12/06 20:03 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#2 [ひとり]
たとえば切り傷や火傷がいくつもある筋張った手だとか

たとえば雨の日には斬新な外ハネをみせるその癖毛だとか

たとえば酒と煙草でややしゃがれたその声だとかを


意識し始めたのはいつからだったろうか


.

⏰:09/12/06 20:09 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#3 [ひとり]
思い出そうとしたところでそれは酷く曖昧で

『今日この日を以て』なんてはっきりしたことはなく

ただぐだぐだのらくらした日々の中で、徐々に俺を侵食して今に至ったんだろう。


.

⏰:09/12/06 20:14 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#4 [ひとり]
自分でも気付かない程に緩く、静かに、確実に。


今はもう、後戻りしたくても道がわからないくらいまで来てしまった。


手遅れ。どうしてくれるんだ、



アホ。

.

⏰:09/12/06 20:20 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#5 [ひとり]
「アホ!?!?ちょ、おま、店長に向かって何て口のきき方すんだろねこの子は!!!!」

「あ、すんません、声出てましたか」

「出てたよ!確実傷付いたよ今!!もう嫌だ!!!!誰コイツ採用したのー!!ひろむっお前か!!!!」

「いや、お前もいたかんね」

.

⏰:09/12/06 20:31 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#6 [ひとり]
ここは厨房
今は4時

俺達は仕込みをしている。

大鍋から立つ湯気が熱ちぃ。

.

⏰:09/12/06 20:43 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#7 [ひとり]
「ハイ、確かにいましたよ三田さん。」

「え!?マヂでか!?!?」

「ホラみろ、てか店長のお前がいない訳ねーだろさ」

「そっすよ、テンチョー」

「・・・お前の"テンチョー"て何か響きがムカつくんだけど」

「そっすか?テンチョー」

.

⏰:09/12/06 20:48 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#8 [ひとり]
「もういいってそれ」

そう笑いながら俺の横でアホほどジャガイモの皮を剥いているのは店長の三田さん。

俺の、好きな人。






男だけど。

.

⏰:09/12/06 21:59 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#9 [ひとり]
「まぁ下にアホ呼ばわりされないように励みたまえよ」

と口を挟むのは弘(ヒロム)さん
三田さんの幼なじみで、共同経営者だ。


「ひろむのその発言が既に俺をバカにしてると思いまーす」

「いいから早よ芋むけ」

「・・・・」


二人の何気ないやりとりにも、自分には入り込めない空気を感じて黙ってしまう俺は、マヂ相当キテると思う。


⏰:09/12/07 20:11 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#10 [ひとり]
俺の気なんか知らずに、
まぁ知られちゃ大変まずいんだが。二人の会話は展開されていく。

ますます俺は黙るしかない。




このもやもやを、どうしてくれようか。


⏰:09/12/07 20:19 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#11 [ひとり]
【休憩】


今晩は、ひとりです。


とりあえずここまでをプロローグとさせて戴きます。初心者なもんで文章力なんてからきしはなくそですが、読んでやんよという暖かいお心の方がいましたら、どうぞお付き合い下さいまし。

でわでわ、更新していきますん。

⏰:09/12/07 20:29 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#12 [ひとり]
【第一話/お通しカットとか認めない】




「根岸ーもうそっち終わりー?」

「はい」

「こっちもバッチよ、んぢゃ閉めますかー」

「おーお疲れお疲れー」

「あーマヂ腰いかれた」


野郎の声が飛び交う
閉店後のここは満腹堂。


⏰:09/12/07 20:37 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#13 [ひとり]
ここは男子率が非常に高い店だ。

経営責任者の弘さん
店長の三田さん
キッチンチーフの滝さん
ホールチーフの長谷部さん

と、バイトが三名
俺こと根岸と
大学生の津久井
それに紅一点、ノジコさん

⏰:09/12/07 20:44 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#14 [ひとり]
「根岸ー今からべぇやんちで飲むかんなーバックレんなよ」

とはノジコさん。紅一点のはずの彼女は、本物の男以上に男気に溢れた姐さんだ。

因みにべぇやんとは長谷部さんのこと。

⏰:09/12/07 20:51 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#15 [海斗っち]
とってもおもしろです
更新頑張ってくださいね
応援してます

⏰:09/12/07 23:25 📱:SH905i 🆔:1.n4fm7U


#16 [ひとり]
【お返事】

>>15

海斗っちさん

ありがとうございます^^
今日もカタツムリほどのスピードですが、更新予定なんで、よろしくです(´_ゝ`)ぽよーん

⏰:09/12/08 19:35 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#17 [ひとり]
>>14

「いや、俺明日ちょっと用が・・」

ダウンのフードを被りながら語尾を濁す。
明日はダチとライブがあるから、昼過ぎからリハなんだ。

「用とか言ってどうせ女だろ!?却下却下!!!!」

三田さんがオーバーに手を降って言う。
俺の首に腕を巻きつけ、グッと距離が近くなる。

「店長命令だから、うん。」


⏰:09/12/08 21:09 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#18 [ひとり]
別に明日は女とどうこうあるわけじゃなければ、
三田さんがそんなつもりで言ってるんじゃない事もわかってる。

わかってるのに、

女より自分を優先しろと言われてるように錯覚して、勝手に嬉しくなって、だから、

「ちょ、わかりましたから、首苦しい」

俺は面倒くさそうなふりで了承してしまう。

⏰:09/12/08 21:58 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#19 [ひとり]
それから結局、長谷部さんちに満腹堂スタッフ一同が集結。


畳のそこかしこに転がる空き缶と、誰がいつつけたのかジブリのアニメがBGM替わりに流れる部屋で、折り重なるようにして雑魚寝を決め込む野郎共。ノジコさんはちゃっかり長谷部さんの布団を占領している。

⏰:09/12/08 22:09 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#20 [ひとり]
壁の時計は深夜2時を少し過ぎたところ。

俺は佳境に入ったアニメを観るともなしに眺めた。女の子と男の子が早朝の坂道をチャリで2ケツしている。

「マヂこれ好きだわ〜」

俺の横に胡座をかいた三田さんは、発泡酒片手に感動しているよう。声が上擦っている。

⏰:09/12/08 23:03 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#21 [ひとり]
恐らくこのアニメを流した張本人はこの人に違いない。

「お前好き?みみすま」

「はい?」

聞き慣れない単語に俺は聞き返した。

「なんすか、それ」

「みみすまだって、み・み・す・ま!!」

別に聞こえなかった訳じゃないのに、三田さんはもう一度謎の単語を繰り返した。顔が真っ赤だ。

⏰:09/12/08 23:08 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#22 [ひとり]
「いや、知らないんで」

「いや知らないとかじゃなくてさ〜、好きかどうかって話しさ」

「はぁ・・・」

そう言われても知らないものを好きか嫌いかなんて答えられる訳がない。曖昧に返事をする俺を余所に、三田さんは勝手に喋り続けた。

⏰:09/12/08 23:13 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#23 [ひとり]
「いいよな〜青いよ〜春だよ〜駆け抜けてるよこれ〜」

「・・・・はぁ」

「お前も覚えがあるだろ根岸、進路に悩み、恋に悩み、ってさ」

「・・・・いや、俺は特には」

実際俺は進路で悩んだ事も、色恋に悩んだ事もなかった。
何となく進学して、何となく彼女をつくり、何となく別れた。

「ないわけねーだろよオイ」

⏰:09/12/08 23:20 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#24 [ひとり]
そう言い切れるほど、あんたは俺の何を知ってるんだ。

「俺、基本なんとなくでここまで来てるんで」

「嘘つけカッコつけ〜可愛いあの娘にメロメロドキュンで悩んだ日々があっただろ?」

「いや、来るもの拒まずですから」

⏰:09/12/08 23:33 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#25 [ひとり]
実際そうだった。
付き合ってくれと言われるから付き合ったし、別れようと言われるから別れた。

「でたよっ!!モテ男発言!!!!」

三田さんが顔をしかめて俺を指差す、その指を払って聞き返した。

「そういう三田さんは経験あるんすか?」

⏰:09/12/08 23:44 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#26 [ひとり]
「俺?」

聞かれた三田さんは一瞬動きを止めて、それからヘラッとだらしなく笑った。

「そりゃあるべよ、好きだけど好きって気持ちが恥ずかしくってさ、無駄にチョッカイかけて嫌われたりね〜」

「ふーん」

「ふーんておま、聞いといて素っ気なさすぎじゃね?その態度」

⏰:09/12/08 23:53 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#27 [ひとり]
「いや、マヂ俺そういう経験ないんで」

ウソをついた。
本当は、まさに今がそうだ、今の俺が。

「嫌みなヤツだなーお前は」

三田さんが好きで、悩んで、ちょっかいかけて、そっけなくして。
全部が、独りよがりで。

「根岸も一度くらい経験したらわかるよ」

もうわかってる。

「いいぞ〜そういう甘酸っぱいのも」

全然よくねぇよ、苦しいんだよチクショー。

⏰:09/12/09 00:03 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#28 [ひとり]
「俺、明日マヂ用あるんで帰ります。」

遣り場のない気持ちを目の前のこの人にぶつけてしまいそうで、俺はそそくさと腰をあげた。

「え、なした急に?」

突然の行動に、俺を見上げる三田さんはポカン顔だ。

「いや、用事があるから、帰って寝ないと」

「ここで寝てきゃいいべ」

「風呂も入りたいんで、荷物もあるし」

「今2時過ぎよ?」

「チャリあるし」

⏰:09/12/09 00:15 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#29 [ひとり]
「いいから今日はここで寝てけって、俺が朝起こしてやっから」

腕を捕られた。

「いや、本当、帰ります」

「いや、本当ムリだし」

意味がわからない。

顔真っ赤で完全に酔っ払いだし、俺より5つも年が上のアラサーおやじだし、なのになんか帰るなとか腕掴んで上目遣いされて俺心臓バクバクいってんだけど。マヂで、

意味がわからない。

⏰:09/12/09 00:25 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#30 [ひとり]
三田さんの無意識の行動に、一々ムダな考えを巡らせては一喜一憂する。

帰るなと言われて喜んでいる俺と、何も知らずに無責任な事言うなと憤る俺が混在して、ぐちゃぐちゃだ。

いっそ今ここで言ってしまおうか。

あんたが好きだ

って。

⏰:09/12/09 09:19 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#31 [ひとり]
長谷部さんちの、酒の匂いが充満して換気もされてないこの部屋で。
みんなが横で寝ているこの部屋で。
『みみすま』とやらのエンディングロールが流れるこの部屋で。

あんたが好きなんだ

って。





そんなん

⏰:09/12/09 09:24 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#32 [ひとり]
「言えるわけねぇし・・・」

「ん?」

「いや、とにかく帰るんで離して下さい」

「店長の俺がこんなに言ってんのにお前は帰んのかよ根岸ー」

「帰ります」

「そっけなー」

三田さんは言いながら掴んでいた俺の腕を放るようにして離した。

⏰:09/12/09 09:30 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#33 [ひとり]
「じゃ、お疲れした」

俺が言って後ろの扉へ向かおうとすると

「おぅ、待てコラ」

「なに?」

「なにじゃなくて、送るし」

三田さんはふらふらと立ち上がった

「うぁ゙!!足痺れた気持ち悪りぃー」

それから痺れたらしい足にできるだけ刺激を与えないように、変な歩き方で俺に近付いてきた。

「ホレ、帰るんだろ?」

⏰:09/12/09 09:38 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#34 [ひとり]
「送るってあんた、俺チャリなんだってば」

「だからその辺までだよ、俺も風に当たりてぇし、付き合え」

そして俺より先に部屋を出ていってしまった。

「・・・・・・勝手だなぁ」

仕方なしに後に続く。

⏰:09/12/09 09:42 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#35 [ひとり]
「ちべ(冷)てぇー」

「もう12月っすからね」

「12月かよー1年早えーなオイ」

「その発言、かなりおっさんじみてますよ」

「ほっとけ!!」

俺達はチャリを挟んで横並びで歩いた。
二人分の白い息が、尖った冬の空気に溶けて消える。

⏰:09/12/09 09:48 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#36 [ひとり]
「今年のクリスマスも、このままじゃクソスマスで終わりそうだなー」

「三田さん彼女作んないんすか?」

「お前はっ倒されたいの?作んないんじゃねーよできねんだよ!!」

「ふーん」

「はい出た!!根岸の"ふーん"返し!!!!」

「あんた声デカいって」

⏰:09/12/09 09:55 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#37 [ひとり]
もう既に三時になろうかというところ、寝静まった家々。俺達以外誰もいない道に三田さんの声はよく響いた。

「つぅかあんたそろそろ戻らないと」

「え?」

「いやだって、あんま行くと帰り面倒いでしょ」

「あ〜〜〜・・・・うん」

「・・・・・・・あんた」

「そうだね、帰り道がね、うん」

そっかそっかと頷く姿に、嫌な予感がよぎる。

「あんた俺を"送ってる"ってこと忘れてたでしょ」

現にもう一駅分は歩いてきてしまっている。

⏰:09/12/09 10:17 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#38 [ひとり]
「店長にあんたとか言わないのー」

「話し逸らさないで下さい」

「んー・・・・うん、まぁアレだよ、つまり」

目が右へ左へ泳ぎに泳ぎまくっている。
俺の予感は確信に変わった。

「根岸んち泊め「嫌です」

最後まで言わせずに遮ると、口をものっそい勢いでへの字に曲げた。

⏰:09/12/09 15:06 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#39 [ひとり]
「お前言わせろよそこは」

「だって嫌っすもん」

「送ってやった俺の優しさをそんなぞんざいに蹴っていいのか」

「"やった"っつーかムリと付いてきただけでしょーが」

「んなッッ!!!!元も子もない事言うなよ!!!!」

「事実でしょーが!!!!」

立ち止まり、向き合った俺達は言い合いになる。正面から見た三田さんの顔はもう酔いが引いたようで白っぽく、闇にぼんやり浮かび上がっている。その中にあって、鼻の頭と少し覗いた耳だけが赤い。

⏰:09/12/09 19:43 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#40 [ひとり]
「泊めろ!!」

「嫌です!!」

「泊めろって!!」

「嫌ですってば!!」

頼むから大人しく帰ってくれ。俺はこのもやもやを、密室に二人きりで隠し通せる自信がなかった。

「頑なかっっ!!!!」

「そりゃあんたでしょ!!!!」

⏰:09/12/09 19:51 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#41 [ひとり]
「うるせぇな!!!!!」

「「!!!???」」

突然頭上から浴びせられた怒鳴り声に、ハッとそちらを仰ぎ見れば

「テメェら今何時だと思ってんだっっ!!!!とっとと帰ってクソして寝ろっっっ!!!!」

道路沿いのボロなアパートの一室から、冬場にも関わらずランニングシャツ一丁のおっさんが俺達を睨み下ろしている。

「「すんませーん」」

俺達は駆け足でその場を後にした。

⏰:09/12/09 19:58 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#42 [ひとり]
───
──────
─────────

「おじゃましまーすよっ」

「・・・・・・」


結局、三田さんは俺んちまで付いて来た。
鼻歌まじりに履き潰したティンバーのブーツを脱ぎ捨てる三田さん。

「お前んち何かいい匂いすんな」

「・・・・あぁ、アロマたいてるんで」

「うっわ〜恥ずかしいヤツだな〜」

「意味わかんねぇし」

⏰:09/12/09 20:04 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#43 [ひとり]
今だ赤みを帯びた鼻をひくひくさせて部屋の匂いを無遠慮に嗅ぎまくっている。

「いいから早く中入って下さい」

「へいへい、あ、便所貸して〜」

「・・・・嫌です」

「よし、じゃーここで「そこ、左側です」

「あいよー」

言ってトイレに駆け込んだ。

⏰:09/12/09 20:11 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#44 [ひとり]
「・・・・・ふぅ」

俺はフードを脱いで、その場にへたり込んだ。

「どうすんだよコレ・・」

マヂで途方に暮れた。密室に、好きな人と二人。これはかなり宜しくない展開だ。

とにかくアレだ、変な気が起きる前に寝てしまおう。

⏰:09/12/09 20:16 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#45 [ひとり]
そうと決まれば善は急げだ。ダウンとデニムは脱ぎ捨てて、とにかく着替えとバスタオルをひっ掴み風呂場へ向かう。と、

「・・・何やってんすか」

「いや、風呂借りようかと思って」

「したら先に一言あるでしょーよ」

「あ、借りまーす」

「遅せぇし・・・コレ、使って下さい」

「おぅ、さんきゅ」

⏰:09/12/09 21:10 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#46 [ひとり]
俺は自分のために持ってきたタオルと部屋着を脱衣所に置いて、ひとまずリビングへ退散。ベッドに倒れ込んだ。

「本当に勘弁してくれよ」

思わず声が漏れた。

俺んちの脱衣所で、勝手に風呂借りようとした三田さん。勝手に服脱いでた三田さん。

「身体・・・・」

見てしまった、あんな不意打ちで。まぁ、上裸だけだけど。

⏰:09/12/09 21:18 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#47 [ひとり]
でも、バッチリ目に焼き付けてる俺。しっかり反応してる俺。ボクサー一丁だったから、バレないように腰を引き気味にして退散した俺。






重傷だ。

⏰:09/12/09 21:22 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#48 [ひとり]
寝床はこのシングルベッドが一台。

三田さんにはここで寝てもらって、俺はカーペットで雑魚寝だな。

できるだけあの人に近づかないように、見ないようにしよう。

そうしよう。

頭ん中でシュミレーションしながら、身体がズンと重たくなるのを感じた──

⏰:09/12/10 20:28 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#49 [ひとり]
──
────

程よくスプリングの効いたベッドの上、ふかふかと柔らかく肌に馴染む布団の中で。ブラインドの隙間から差す陽に瞼を灼かれ目が覚めた。

いつもの部屋で迎える、いつも通りの朝。

背を反らすように、ゆっくりと伸びをする。

⏰:09/12/10 20:29 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#50 [ひとり]
その際横に張った肘の右側に、布団とも壁ともつかない感触。まだ薄らぼんやりした頭でもわかる違和感にそちらを向いて、


「!!??!!??」


寝起きドッキリ。冗談ぬきに息が止まった。鼻がつきそうな至近距離に、寝息をたてるおっさんが一匹。

「三田さん・・」

どうやらあのまま寝てしまったらしい俺の横で、壁に背をつけて狭さもお構いなしに爆睡している。

⏰:09/12/10 20:29 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#51 [ひとり]
その表情(カオ)は普段の三田さんが嘘のように幼い。

普段はギャーギャー騒がしく、おっさんキャラを全面に押し出してるこの人は、実はかなり造りが繊細だったりする。線も細く、飯食ってんのかよと思うほどだ。

そんな新鮮な様を堪能してハッと我に返れば、リハの時間が迫っている。

「やっべ」

俺は慌ててベッドから飛び出した。

⏰:09/12/10 20:30 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#52 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第一話はこれで完結です。中途半端ですんませんが、それも含めてだらだらなひとりスタイルとゆーことで、ご容赦くだせぇ。

二話目は三田目線で書くつもりですので、宜しく。

意見や感想頂けると小躍りして喜びます。

ぴよーん

⏰:09/12/10 20:35 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#53 [ひとり]
【第二話/女子は必ずサラダを頼む】



ガキん時の俺は凄げぇ女顔で、チビだった。挙げ句泣き虫のヘナチョコだった。だからクラスの男子にはからかわれ、女子には「可愛い」を日々連呼された。

言っとくけどさ、思春期の童貞男に「可愛い」とか吐くのは「死ね」と同義だかんね。マヂ男のプライドずたぼろだかんね。

⏰:09/12/10 21:10 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#54 [ひとり]
それでもヘナチョコな俺は当然自分の力だけでその窮地を打開できるはずもなく。

悩みに悩み、考えに考え抜いて一つの結論に達した。




そうだ、ヤンキーになろう。

⏰:09/12/10 21:14 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#55 [ひとり]
ちょうどいいところに幼なじみで二こ上のひろむがいた。当時高校一年生だったアイツは、既にそっちの街道を爆進中で、今見たら腹筋痙攣、100バー爆笑もんだけど、パンチに短ランがトレードマークだった。

俺は訴えた。ヤンキーになりたいんだと。ヤンキーになって誰からも舐められない男になりたいんだと。

⏰:09/12/10 21:27 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#56 [ひとり]
ひろむのつてで念願かなってヤンキーの仲間入りを果たした俺は、荒れに荒れた。中二の夏。我ながら駆け抜けてたと思うよ、うん。

全然泣かなくなったしね、喧嘩だって拳平らになるくらいやったしね、女子にもモテたしね、ケバいヤン女にばっかだけどね、うん。

⏰:09/12/10 21:38 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#57 [ひとり]
まぁまぁ前置きが長くなったけど、とにかくそんな感じで俺は舐められたくない一心で背伸びしてきたわけです。

社会に出てからも舐められないようにって一心で髭とか生やしてみて今日に至るわけです。

それが




「アレ?お前髭どしたよ」

⏰:09/12/10 21:47 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#58 [ひとり]
「──」

「あん?」

「起きたらなくなってたんだよ!!!!」

「意味わかんね」


俺だって「意味わかんね」っての。

朝、満腹飲みして根岸んちに泊まった朝。気付くと俺の顎髭が、俺の鎧と言っても過言じゃあない顎髭が、




忽然と消えた。

⏰:09/12/10 21:54 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#59 [ひとり]
根岸の姿もそこには無く、色気も素っ気もない書き置きが一枚。


三田さんへ

鍵はポストに入れといて

根岸




いやいやいやいや

⏰:09/12/10 21:57 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#60 [ひとり]
その前に言うことがあるでしょーよ!!

俺の髭に何してくれてんだあの野郎!!!!


「お前顎ツルツルだとやっぱ若く見えるなー」

呑気に無神経なこと抜かす滝をねめつける。

「デリケートな部分だからあんまそこツッコまないで!!!!」

⏰:09/12/10 22:01 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#61 [りんご]
実ゎ…☆
最初のときからずっと
読んでました´ω`笑
思いきって
コメしちゃいますー..
BLあんまり
好きじゃなかったのに
これはすごーく
おもしろいです´ω`☆
文の感じも素敵です
更新楽しみにしてます
頑張ってください

⏰:09/12/10 22:26 📱:SH903i 🆔:gCSWCqa.


#62 [ひとり]
>>61

りんごさん

コメありがとございますヒーハーヾ(´ω`)ノ喜

BLあんま得意でないんですね〜
そんなりんごさんにも気軽に読んでもらえるよなゆるーい感じで書き進めてきますんで、今後ともご贔屓に(´ω`)ペコペコ

いやぁコメ貰えるとひとりマヂ鼻息荒く頑張れます!!あざしたぁー

⏰:09/12/10 23:27 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#63 [りんご]
BLって分かるようでやっぱ馴染みない世界なんで
んー(゚∀゚)?って
感じだったんです
でもこれは好きです

どんな内容であれ最後まで読みますよ
ひとりさんのお好きなようにお話展開させちゃってください☆!これからがとっても楽しみー
ハラハラドキドキさせてくださいね

何度もすみません
ヒーハー(´∀`)ノ

⏰:09/12/10 23:49 📱:SH903i 🆔:gCSWCqa.


#64 [ひとり]
>>63

りんごさん

ハラハラドキドキですか、努力します!多分ひとりにはムリな高等技術ですが(゚∀゚)ケラケラ

ではでは〜今からまた更新、ちょっぴですがしていきますよーぃ(゚∀゚)ケラケラ

⏰:09/12/11 00:18 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#65 [ひとり]
「んな騒ぐなや髭くらいでー」

「"くらい"じゃない!髭のない俺の顎なんて、チンコ丸出しの下半身みたいなもんなの!!!!」

「猥褻物かぁーそりゃいかんなぁ」

「いかんですよ!!いかんにも程がありますよ!!!!」

滝を相手に開店前の満腹堂でわめき散らす俺の頭に突如衝撃が走る。

「痛っ!!!?」

「仮にも飲食店なんだからあんまでけぇ声でチンコとか言うでないよ」

とっさに頭を庇った両手はそのままに、振り向くとひろむが呆れた顔で俺を見下ろしている。

⏰:09/12/11 00:30 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#66 [ひとり]
「外まで聞こえてんぞ」

「だってひろむ見てくれよコレ〜」

情けない声を出しながら、無防備な己の顎を突き出して見せる。

「お、髭剃ったのか」

「だから剃ったんじゃねぇ!!!剃られたんだ!!!!」


犯人は奴しかいない。
おのれ根岸っ覚えていやがれ。

⏰:09/12/11 00:35 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#67 [ひとり]
【休憩】

またまた今晩は、ひとりです。

短いですが第二話完結です。只単に、髭をそられた可哀想な三田が書きたかっただけですごめんなさい←

あと一話二話ときてお気づきでしょうが、タイトルはまるきりからきしの無意味です。気分です。

ではでは眠くなるまでもう少し、再び根岸目線に戻って更新させていただきますん。らんらんるー

⏰:09/12/11 00:45 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#68 [ひとり]
【第三話/居酒屋のお絞りの消毒臭さが好き】


ライブが無事終わり、ダチとの打ち上げも解散した俺が最寄り駅に降り立ったのは午前零時ジャスト。

今日が"昨日"になり、明日が新しい"今日"になるこの瞬間が、結構好きだったりする。目には見えなくても確かにそこに在るという安心感が、いい。


空気に触れる身体表面は確実に冷たいのに、一枚隔てた皮膚の下では、未だアルコールが冷めることなく力を発揮している。

⏰:09/12/11 01:03 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#69 [ひとり]
そして一人になってふっと思うのはあの人の事だ。

予期せぬ展開から一夜を共にした・・エロな意味でなく。そして不意打ちの寝顔。あれは反則だった。

思わずその可愛い寝顔には不釣り合いだと、髭を剃り落としてしまったが三田さん──


「怒ってんだろうなぁ」

なんて他人事のように呟いてみる。

⏰:09/12/11 01:09 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#70 [明希゚J゚=アキ]
 
更新されてるのが、
嬉しいです―ツ!
「ゆっくり更新して下さい…」
と言いたいんですが、
正直言うと早く読みたい!
て思っちゃいます…;;
でも、めちゃくちゃ応援してまつ!

⏰:09/12/11 05:40 📱:W65T 🆔:I1xxthB2


#71 [ひとり]
空には月。
欠けて頼りなげに、青白くそこに在る月。細っこい、酒の抜けた後のあの人の顔みたいだ。

なんて、気色悪い。売れないポエマーみたいな事を一瞬考えて鳥肌がたった。寒さとかそんなんじゃない鳥肌が。

疲れてるんだろう。早く家に帰ってディフューザーをつけよう。それから熱いシャワーを浴びよう。

⏰:09/12/11 09:15 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#72 [ひとり]
そんで寝る前には読みかけの本も読もう。

疲れてるんだ。
ぐっすり寝て、朝を待とう。

目が覚めればきっと疲れもとれて、ポエマーな俺なんか消えていなくなる筈だから。跡形もなく。

⏰:09/12/11 09:16 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#73 [ひとり]
考えていると、一人暮らしの我が家についた。

築十三年、どこにでもある平凡なボロアパートだが、いい具合に煤(スス)けた外壁に蔦(ツタ)が絡む様なんかは、貫禄があって結構気に入ってたりする。



帰宅後すぐに予定通りアロマをたき、シャワーを浴びた。ジンジャーティーも飲み、飲みながら丁寧に本も読んだ。

俺だけが作る、俺だけの空間、時間、ペース。

⏰:09/12/11 09:19 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#74 [ひとり]
なのに

「あ゙〜〜〜駄目だ」


チラつく。何をしててもあの人がチラついて仕方ない。俺の空間も、時間も、ペースも、全てをかき混ぜてぐちゃぐちゃにする。

丁寧に時間をかけて読んだ筈の本の内容だって、実際は一文字も頭に入ってこないし。紅茶だって本当はカモミールにしようとしてたのに間違えてジンジャーティー入れちまうし。


「こりゃもう限界か・・・・」

俺は観念したように静かに呟いて目を閉じた。

⏰:09/12/11 09:20 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#75 [ひとり]
>>70

明希さん

応援ありがとござい松ヾ(´∀`)ノ

期待に応えられるよに、できるだけ頑張ります!!!!が、多分むりなんで許して下さい(ぇ

ゆるーいとろーい更新でも、見捨てないで下さいましね(´;ω;`)テヘ

⏰:09/12/11 21:49 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#76 [明希゚J゚=アキ]
 
待ってますよ!
ゆる〜リ更新して下さい!
 

⏰:09/12/11 22:15 📱:W65T 🆔:I1xxthB2


#77 [ひとり]
>>76

明希さん

そぉ言ってもらえるとひとりめっちゃやりやすいっす´∀`あざーす

でわでわ、今からまたぽっちりぽっちり更新しもすん。

⏰:09/12/12 08:07 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#78 [ひとり]
>>74
【つづき】


───
─────

翌日は雨だった。
いつもはチャリで向かう店まで、今日は電車で。

満腹堂は平日ランチもやっているので、早番の俺は午前中から店に向かう。

店の手前に来た所で三田さんの姿を見つけた。
傘を腕と首でひっかけて、両手でシャッターを上げようとしている。

⏰:09/12/12 09:12 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#79 [ひとり]
しゃがんだ足元が不安定に揺れていて、見ていられずに駆け寄り声をかけた。

「俺やりますよ、これ持ってて」

三田さんの胸に無理やり自分の傘を押し付け、ふんとシャッターを持ち上げた。建て付けが悪いのか初めこそ力が必要だが、一度動き出すとあとはガタガタとでかい音をたてながら素直に収まるところへ収まっていく。

⏰:09/12/12 09:49 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#80 [ひとり]
そして傘を受け取ろうと振り返れば

「根岸、テメェ・・・」

俺の上に傘を差し出した姿で、三田さんはドスの効いた声を出す。あ、やっぱり

「やっぱり怒ってます?」

「当たり前だ好き勝手しやがってコノヤロー」

⏰:09/12/12 09:58 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#81 [ひとり]
「勝手とか言うならあんたの行動だって勝手放題でしょ」

「余所は余所!うちはうち!!!!」

「母ちゃんかよ」

「オマケ付きのお菓子勝手にカゴに入れんじゃないの!戻してきなっ!!」

「入れてねーよ母ちゃん」

「あんたみたいな悪い子うちの子じゃないからね!うちに上げてやらないからねっ!!」

「いや寒みぃしそれはマヂ勘弁」

⏰:09/12/12 10:42 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#82 [ひとり]
俺が素で寒そうにしてるのがわかったのか、三田さんは舌打ちしながらも鍵を開けてくれる。


暖房のまだ効いていない室内でも、外に比べると随分暖かく感じた。

狭っちいバックルームで着替えを済ませホールに出ると、三田さんはカウンターで一服している。
暖房をつけたらしい。業務用エアコンからブーンと低い稼働音と一緒に、生暖かい風が強力に流れ込み、店内を満たしている。

⏰:09/12/12 11:24 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#83 [ひとり]
耳が寂しくて、レジ下のデッキに自分のiPodを繋ぎ曲を選ぶ。どれにしようか

「お前さー」

「なんすかー」

片手間に返事を返す。久々にユニコーンでもかけようか・・

「なして不意打ちに俺の髭ったんよ」

それとも午前中だし静かめの何かコンピでも・・・

「なぁおい根岸ー」

三田さんはカウンターから声をよこす。

「いやー綺麗な顔がもったいなーと思・・・・」

⏰:09/12/12 11:41 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#84 [ひとり]
言いかけてからハッとして口を噤んだ。俺今、何言った?

"綺麗な顔"とか。
おいおいちょっと待ってくれ自分。

恐る恐るレジ下から顔を出して様子を伺うと、三田さんとバッチリ目が合う。

⏰:09/12/12 11:51 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#85 [ひとり]
それから

「お前なぁ」

ヤバい、今の発言は完全にアウトだろ。一度合ってしまった視線をそらせずにいる。と、

「もちっとマシなジョーク言えないのかよー、センスねぇなぁ」

三田さんは呆れ顔。やれやれと煙草を灰皿に押し付けてスツールを降りると「着替えてこよ」と言ってバックへ消えていってしまった。

バレて・・・・・ない。

⏰:09/12/12 11:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#86 [ひとり]
ないけど、

「これはこれで、キツいな」

バレたら困るとか思ってたくせに、ああいう返しをされると何だかシャクに触る。

知ってほしいのか、本当は。いっそバレたらいいとでも、思ってるのか俺は。

⏰:09/12/12 12:23 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#87 [ひとり]
わからなくなってしまった。

でも確かに、バレたらいっそ楽になれるのかな、と思わなくもない。

気持ちを隠して接することが、日ごと苦しくなっている。そのせいか、日々あの人について考える時間が増えているのも事実だ。

きっかけさえあれば、もう気持ちを打ち明けてしまいそうだ。
そうなったら、あの人はどんな顔するんだろう。
今みたいに「センスねぇなぁ」なんて言って呆れるんだろうか。

⏰:09/12/12 12:32 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#88 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第三話はこれにて完結です。言いたい、言えない、揺れる根岸でした。チャンチャン
そしてまるきり気付かない三田でした。そりゃそーだ、三田はノンケだもの。まぁ、根岸も基本はノンケだけど。そんな設定ですた。はい。

⏰:09/12/12 12:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#89 [りんご]
更新されてるー☆
わーい\(^∀^)/
おもしろいです!

⏰:09/12/12 13:36 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#90 [ひとり]
>>89

りんごさん

りんごさんだーヾ(゚∀゚)ノヒャーイ
またまたコメ嬉しすでっす(>∀<)

今からまたちょと更新しますねぇ

⏰:09/12/12 15:55 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#91 [ひとり]
【第四話/だし巻き卵のおいしさよ】


ランチと夜の営業の合間。
雨の上がった満腹堂裏のベンチで軽く一服。店内で火照った身体に、冬の風が心地いい。

「横いい?」

声がして視線を向けるとノジコさんがいた。

「お疲れさまです」

「お疲れ」

スキニーで脚線美が強調された長い足を組むと、俺の横で煙草に火をつける。
旨そうに、ゆっくりと深く煙を吸った。

⏰:09/12/12 15:56 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#92 [ひとり]
それから徐にノジコさんは口を開く。

「根岸さー何かあった?」

「え、なんすか急に」

こういう勘が鋭いとこ、ドキッとする。しかも聞き方がストレート。回りくどい事が嫌いな彼女らしい。

「いや急っつーか結構前から気になってたんだわ」

「・・・・・・・」

「・・言いたくなきゃムリと聞くような野暮なことはしないよ」

「安心して」と軽く笑ったノジコさん。俺はその言葉に本当に安心して、気づけばとんでもない質問をしていた。

「ノジコさんは、女の人好きになったりしますか?」

⏰:09/12/12 15:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#93 [ひとり]
予期せぬ俺の質問に固まったノジコさんは、そのまま鼻から煙をフスーっと吹き出した。

「すんません、息なり変な事聞いて」

気まずくなって謝る俺。

「何で謝るの?」

「いや、だって」

「全然変な事じゃないじゃん」

⏰:09/12/12 15:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#94 [ひとり]
「・・・・」

「あたし両刀だし」

「りょ!?・・それって」

「バイだよ」


思わぬカミングアウトに、今度は俺が固まった。

「驚きすぎだから」

何でもないように、実際ノジコさんにすればそれは当たり前の事なのかもしれないが、ケラケラと笑った。ノジコさん、よく笑う人。

⏰:09/12/12 15:58 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#95 [ひとり]
「マヂすか」

「マヂっす、引いた?」

「いや、全然。悩んだり、なかったんすか?」

「ん〜・・・ないといえば嘘になる・・かなぁ」


少し遠くを見るようにしてノジコさんは続けた。

「でも好きになったらさぁ、もう手遅れなんだよねぇ」

⏰:09/12/12 15:59 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#96 [ひとり]
今の俺に、 その台詞はズシンと響いた。

「俺もそう、思います」

「だろ?」

俺の顔を見て、満足そうに言った彼女は、また旨そうに煙草を吸う。

「はい」

俺もそれに習って短くなった残りに口をつけた。

再び見上げた雨上がりの空。雲間から一筋、光がさしている。

⏰:09/12/12 16:02 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#97 [ひとり]
【休憩】

第四話、完結でーす。
ひとりの書く話し、一話一話が短いんで読みごたえないかもですがすんません。

ノジコさんはなんとバイでありました。色んな人がいるんです。"みんな違って、みんないい"です。

シュワッチ!!

⏰:09/12/12 16:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#98 [明希゚J゚=アキ]
 
(゚A゚;)更新されとる!
三田さんと根岸の
コンビネーション……
最高っす(*´д`)ハァハァ

頑張って「ひとり」殿(゚-゚) 

⏰:09/12/12 17:31 📱:W65T 🆔:W3gCfKok


#99 [ひとり]
>>98

明希さん

更新しちゃったよ、ムハハ(´∀`)できるだけ砕けた感じの会話を心がけていきたいと思っとりますんで、宜しくです(´_ゝ`)

明希さんいぱい来てくれて感謝いたしております(土下座)

⏰:09/12/12 18:46 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#100 [ひとり]
【第五話/居酒屋でハメ外し過ぎる奴らは大概スーツ】


「コルァ根岸先黒コルァ!!!!」

「三田さんそうゆう品のない絡み止めてもらえますか」

「うっせバカコルァ!!俺はまだお前の大罪を放免したつもりはないんじゃコルァ!!!!」


閉店後の三田さんはやけに巻き舌で絡んできた。

「つうか俺まだ剥けてもないんで」

「嘘つけコルァこのヤリチンインテリア気取りコルァ!!!!」

「・・・それは俺が家具みたいなヤツって事すか?それともインテリ気取りって言いたかったんすか?」

「・・・・・・・・コルァ!!!!!」

「"インテリ"って言いたかったんすね」

⏰:09/12/12 18:56 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#101 [ひとり]
「お黙り!!!!とにかく俺はまだお前を許しちゃいないんだよ!!!!!」

「・・・・・・・」

「オイ、声に出さなくても"面倒くせぇ"って顔に書いてあんぞ」

「あ、すんません」

「何その思いもしませんでした顔!!!!わざとらしいんですけど!!!!」

⏰:09/12/12 19:01 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#102 [ひとり]
言って至近距離でメンチを切られた。俺のが頭一つ分くらいデカいもんだから、なんか見上げる形の三田さんはちょっとマヌケだ。

とか今言ったら"火に油"なので、そんなバカはしない。

「すんませんでした。でもまた生えてくるんだから・・」

現にもう三田さんの顎には新しいメンバーが堂々揃い組だ。

⏰:09/12/12 19:06 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#103 [ひとり]
「そういうこっちゃないの!!悪いと思ったら素直に謝る!!!それができるヤツはまだ伸びしろがあるって先生思う!!!!」

「母ちゃんになったり先生になったり、世話しないねあんた」

「このへそ曲がり!!!!」


話しが全然先に進まない。

確かに勝手に許可なく髭を剃ったのは悪かったが、絶対にその方がいいって心底思う俺は素直に謝れないでいた。

⏰:09/12/12 19:14 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#104 [ひとり]
【訂正】

× 世話しない
○ 忙しない

すんませんした

⏰:09/12/12 19:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#105 [ひとり]
「じゃーどしたらいんすか?」

途方に暮れる俺と、沸点をかるく突破した三田さんの間

「まぁまぁまぁまぁ」

言いながら入ってきたのは弘さんだ。

「お前熱くなりすぎ。根岸も、一言素直にごめんて言ってやれよ」

⏰:09/12/12 19:19 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#106 [ひとり]
「"やれ"ってなんだよ!!俺はそんなんで謝られたって嬉しくもなんともねぇし!!!!」

「はいはい」

「流すな!!!!」


仲裁役を買って出てくれた弘さん。なのに俺は





嫉妬してる。

⏰:09/12/12 19:24 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#107 [ひとり]
なんか、弘さんに三田さんを取られたみたいな感覚。上手く言えないけど。

「ひろむも俺の事舐めてんだろ!!」

「舐めてねって」

「ひろむ」って呼ぶ三田さんの声が特別な感じがするのも、





ムカつく。

⏰:09/12/12 19:28 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#108 [ひとり]
嫉妬、疎外感、喪失感、また嫉妬。


気分が悪い。


「もういっすか?俺あがるんで」


早口で言ってバックルームへ向かった。うぜぇ。

⏰:09/12/12 19:32 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#109 [ひとり]
何がうぜぇかって、こんな気持ちになってる俺自身が一番うぜぇ。

23にもなって、自分の気持ちもコントロールできないなんて。

バックルームのロッカーにゴツと額を打ち付けた。


「カッコ悪・・・・」

⏰:09/12/12 19:35 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#110 [ひとり]
───
─────

着替えを済ませてホールに出ると、既に二人の姿はなかった。

「鍵・・・・」

しまった、俺は今日鍵を持っていない。閉めらんねぇじゃん。

今日鍵持ってんのは──

キッチンの当番ボードに「鍵」のマグネットが張ってあるスタッフを探すと「三田」「長谷部」とあった。

⏰:09/12/12 19:42 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#111 [ひとり]
三田さんは気まずいから、長谷部さんに電話する事にする。

ケータイの履歴から、長谷部さんに発信。「呼び出し中」の表示画面をぼんやり見下ろしていると

「おいまだかよー」

声がして、店内に冷気と外の匂いが滑り込んできた。

⏰:09/12/12 19:47 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#112 [ひとり]
「帰ってなかったんすね」

ケータイ片手に言う俺を

「当たり前だべ、お前鍵ねぇじゃんか」

不機嫌そうに睨む三田さんの顔は、鼻から下がグルグル巻きのマフラーに隠れて見えない。

⏰:09/12/12 19:52 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#113 [ひとり]
「いいから早よ外でれ」

言われてケータイの液晶に目をやると画面はまだ呼び出し中。俺は素早くそれを切って、三田さんの開放ったドアに向かった。

─────



外には、まばらな人影。

「お前今日チャリは?」

⏰:09/12/12 20:06 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#114 [ひとり]
「今日雨だったんで」

「したら今日電車?」

「はい」

「ふーん・・・」


さっきの興奮が嘘のような普通の会話。こりゃ弘さんにお灸を据えられたに違いない。

弘さんの言うことを、大概最後は素直に飲み込むっていう三田さんのパターンを知っている俺は、また少しモヤっとした気持ちになる。

⏰:09/12/12 20:12 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#115 [ひとり]
「したらさぁ、送ってやろっか」

「え?」


突然の申し出だった。
三田さんちは、店からも近い。


「送ってやるよ、バイクあるし」

「・・・ありがとうございます」

⏰:09/12/12 20:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#116 [ひとり]
「うん。てか腹へらね?」

本当にこの人の会話の展開は唐突だ。

「腹ですか、まぁボチボチっすかね」

「うん、じゃ作ってよ」

「はい?」

なにが「うん」なのか、てかなんで俺が飯を?三田さんに?

⏰:09/12/12 20:20 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#117 [ひとり]
「したらさ、チャラにしてやるよ1206事件の事は」

いつの間にか三田さんの中で俺がしでかしたアレは、「1206事件」と命名されていたらしい。


「材料あるの?」

「あるよ、チャーハン食べたい」

「はい」


それで話しがまとまった俺達は、三田さんちに向かって歩き出した。

⏰:09/12/12 20:26 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#118 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第五話も完結しました。焼き餅な根岸とよく喋る三田。さてさて三田んちでチャーハン作ることになった根岸ですが──話しは六話に繋がりますです!!

⏰:09/12/12 20:29 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#119 [りんご]
またまたコメしてしまう
りんごです(´∀`)ノ

根岸と三田さんの
やり取り素敵ですね
根岸がんばー(´∀`)!

あ、感想板とか
つくらないんですか?
なんか話の途中に
コメしちゃうのが
悪い気がして(´Д`)

⏰:09/12/12 20:48 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#120 [ひとり]
【第六話/パラパラ黄金炒飯】


「お邪魔します」

「どうぞ」


三田さんちに上がったのは初めてだった。
予想外に小綺麗なマンションの二階。

「取り敢えず洗面所借りていいすか」

「おう、てかキッチンで洗えば?」

「冷えたんでトイレも行きたいし」

「あぁ」

三田さんは「こっち」と言って俺を案内すると、先にリビングにいるからと言って突き当たりの部屋に消えて行った。

⏰:09/12/12 20:55 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#121 [ひとり]
>>119

りんごさん

キャーまたまた来てくれたんすね。う、嬉しくってなんだか視界が霞むぜ(うω;)←

感想板すか〜ひとりみたいなもんがそんなんおこがましくないすかね?
うちはここで書きつつコメ頂ける感じが気に入ってますが´∀`dbヒヒヒ

読む方にしたらやっぱ読みづらいですかね?

⏰:09/12/12 21:02 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#122 [りんご]
ここにだけは頻繁に
来てますよ(`∀´)にひ

読みづらいと
読んでる方に
申し訳ない気がして
読んでるとついつい
コメしたくなるんです…りんごみたいなやつが厚かましいですね!
ごめんなさいです(´Д`)

⏰:09/12/12 21:11 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#123 [ひとり]
セパレートタイプのバストイレ。用を足し、洗面台で手を洗う。視線を手から正面に向けると、鏡の中の自分と目が合った。

これはまた、予期せぬ展開。

「チャーハン食べたいって・・・」

可愛いなチクショー。

⏰:09/12/12 21:11 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#124 [ひとり]
>>122

りんごさん

いゃいゃコメ下さるとひとりかなりテンション上がるんで、これからもちょーだいませヨーアニョハセヨー(意味不)

ぢゃ他にも板別にあったがいいて方がいれば、作るかも・・・・です(´∀`)

⏰:09/12/12 21:15 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#125 [ひとり]
>>123

【つづき】

リビングでは、既に部屋着になってテレビを観る三田さんがいた。若手のお笑い芸人がベタベタの液体を頭から被って笑いをとっている。

「キッチン借ります」

背中に声をかけると、寝転んだ大勢で顔だけこちらに捻って

「お願いねー」

と一言。直ぐにテレビに視線を戻した。

⏰:09/12/12 21:22 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#126 [ひとり]
「さてっと」

チャーハン作りは手早さと火力が勝負だ。そして冷や飯。これでなくっちゃ始まらない。

冷蔵庫の中味は─卵・人参・玉ねぎと万能ネギ、チャーシューはなかったから代わりにハムでいいか・・・


腕まくりをして、いざっっ!!!!

⏰:09/12/12 21:38 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#127 [ひとり]
───
────

「うんめぇー!!」

一口ほうばった三田さんは声を上げる。胡座をかいた足をギュッと身体につける様に縮める様。また可愛いなんて思ってしまう。


今日、ノジコさんと話してから。俺は自分の気持ちに整理がついた気がする。整理っつーか、逃げない覚悟、っつーのかな。

⏰:09/12/12 21:46 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#128 [ひとり]
男の三田さんに、特別な感情を持ってる自分を受け入れるのにもかなりの決心がいったけど、
そっから自分の気持ちを相手に隠さない決意をするのは、更に勇気がいるもんなんだな。

でももう、決めたから。

三田さんにしたら迷惑極まりない決心かもしれないが、一度ビシッと振ってもらわなきゃ俺だってにっちもさっちも行かないんだ。

⏰:09/12/12 22:01 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#129 [ひとり]
「─ぎし──根岸!!!!」


名前を呼ばれていたらしい。

「はい、なんすか?」

「食えよ、冷めるべ」

「あぁ、うん」

それから暫くはテレビを見ながら無言でチャーハンを食べた。我ながら、上出来。

⏰:09/12/12 22:03 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#130 [ひとり]
「あ〜酒飲みてぇな〜」

画面を見つめたまま、唐突に三田さんが呟いた。

「いやいや、送ってくれるんでしょ」

「ん〜そうなんだけどさ、美味いもん食ったら酒飲みたいべ?」

「そりゃそうだけど・・」


⏰:09/12/12 22:40 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#131 [明希゚J゚=アキ]
 
 |ω・`)来ちゃった←
僕、ひとり殿のファンに
なっちゃったみたいです! 
あいらぶゆー(う3・`)です!←キモ

 

⏰:09/12/12 22:44 📱:W65T 🆔:W3gCfKok


#132 [ちずる]
感想板作ったらどうですか(´・ω・`)?
コメがたくさんあって読みいくいです・・・
私もこの小説大好きなんで頑張ってください

⏰:09/12/13 00:29 📱:SH905i 🆔:4PLFFtIA


#133 [ひとり]
>>131

明希さん

ミートゥー(ノ´3`)ノ←キモ返しwW

ファンとか嬉しっす(⊃∀//)照
明希さんに飽きられないよに頑張って書きますねっっ_φ(`∀´)

あ、感想板を総合に立てさせて頂きました。ひとりの分際で調子のってすんません(`ω`;;)
こちらです、よろしくちゃーん

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4639/

⏰:09/12/13 05:05 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#134 [ひとり]
>>132

ちずるさん

初めまして〜コメありがとうございます(´∀`)大好きだなんて・・///キャッ(黙ry)

見づらかったですか
ご迷惑おかけしました;;土下座

てなわけで、総合に板作っちゃいました!!
是非遊びきてください。泣いて喜びます←

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4639/

⏰:09/12/13 05:10 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#135 [ひとり]
>>130

【つづき】

「したらもうさ、いくね?」

「はい?何がすか」

「いや、送るとかさ、いくねぇかって話し」

「いや待って下さいよ」

「泊まればいいじゃん、うち」


皿の上、半分くらい食べたチャーハンの山をスプーンで更に切り崩しながら三田さんは言った

⏰:09/12/13 05:18 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#136 [ひとり]
「俺達もう、お泊まりした仲じゃん」

冗談で言われてるとわかるので

「おっさんが"じゃん"とか、禁止コードすれすれだな」

冗談で返した。
内心は、赤面症じゃなくてよかった。なんて、三田さんの無責任発言にドキドキしている。

⏰:09/12/13 05:23 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#137 [ひとり]
「一々傷付くなお前の発言は!!」

オーバーに傷つきました顔の三田さんは、言いながらもチャーハンを食べる手を止めない。

「飯粒とんでるし、食うか喋るか、どっちかにして下さい」

いやしんぼな姿に、俺は笑った。

⏰:09/12/13 05:30 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#138 [ひとり]
それから俺達は、酒をあけた。発泡酒やら、ビールやら、芋焼酎。ワインの栓を開ける頃には、二人ともかなり出来上がっていた。

頭にモヤがかかったような、身体が床から数ミリ浮いてるかのような、浮遊感。気分がいい。

俺達はいろんな話をした。

⏰:09/12/13 05:35 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#139 [ひとり]
それは高校の修学旅行で夜の薄野(ススキノ)に繰り出して入った店で担任と鉢合わせた話しだったり、小学生の時カンチョウが流行ってやりまくってたら関節が外れた話しだったり、下らない、愉快な話しばかりだった。

気分がいい、本当に。


「つーかお前も話せや、さっきから俺ばっかじゃん」


⏰:09/12/13 19:41 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#140 [ひとり]
今し方、ひったくりに間違われて70過ぎのばぁさんに町内一周追いかけ回された時の話しを終えた三田さんが言う。

「いや、俺そうゆう面白赤っ恥体験とかないんすよね」

「赤っ恥言うな!!」

「俺はいつでも全力投球なんだよ!!」と言ったあと、思い付いた素振りでニヤッと笑った。

「じゃーさ、根岸は代わりに初恋の話しにしとこう」

「しとこうって、勝手に決めないで下さいよ」

⏰:09/12/13 19:41 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#141 [ひとり]
「いや決めたから、うん」

「"いや"とか言われてもこっちが"いや"だから」

「いいだろ減るもんじゃなしー聞いてみたいんだよ根岸のそうゆうの」

「・・・・・・三田さん、俺の事知りたいの?」

聞くと直球で返事が返ってくる。

「知りたいさー、お前私生活とか謎過ぎるもんよ」

酔った三田さんは素面の時以上に自由で、素面では考えられない程素直だ。

⏰:09/12/13 19:42 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#142 [ひとり]
恋バナなんてと思ったが、これはチャンスかもしれない。

「いいけど、今好きな人の話しでもいいすか?」

「ウソ!?!?なんだよお前いるんじゃんかそうゆう人〜!!」

「俺の片思いですけどね」

「マヂでか!!??」

顔全体で驚いている、子供みたいな三田さん。

⏰:09/12/13 19:43 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#143 [ひとり]
「大マヂ」

三田さんの、視線を捉えた。俺は逃げないし、隠さない。

「真剣な表情(カオ)しちゃって〜羨ましいなコノコノ〜」

ただそれがこの人には今一届かないみたいだ。やっぱ、言葉にしなきゃ伝わらない。

俺は話し始めた。どんなにあんたが、好きかってことを。

⏰:09/12/13 19:44 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#144 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第六話完結〜ですっひっぱりますわょワタクシ(`∀´)ケケケ

第七話も引き続き三田の家で展開されます。あしからず。むしろ根岸の独白で終わるかも!?

定まってなくてすまません;;中味は開けてからのお楽しみって事でご勘弁下さい。

⏰:09/12/13 19:49 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#145 [ひとり]
【第七話/たこわさはテッパン】


その人は俺より少し年が上で、背は俺の少し下。

好きな事には必死こくくせに、興味ないことはにべもなく捨て置くタイプ。

⏰:09/12/13 20:14 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#146 [ひとり]
その人は自由でいつも元気がよくてよすぎてもう五月蠅いってジャッジに片足突っ込んでて。

勝手きままに見えて実は気い遣いなのにそれがわかりづらいちょっと損な人で。

⏰:09/12/13 20:15 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#147 [ひとり]
強がりの意地っ張りですぐつっかかってくるけど寝顔はガキみたいに幼くて。

酒が好きで飲むとすげぇ素直になって可愛い。

⏰:09/12/13 20:17 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#148 [ひとり]
芯の一本通った感じの考えや言動がまたギャップでたまにドキッとさせられて。

とにかく俺にないものを山ほど持っていて、いつも俺を惹きつける人。

そんな人。

⏰:09/12/13 20:21 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#149 [ひとり]
「そんな人です」

ぐだぐだとまとまりなく思った事、思い付いた順に口にした。
ふざけた合いの手の一つも入れられるかと思ったら、予想外に真剣な顔で俺の話に耳を傾けている。

「で、片思いしてます。以上」

言い切ってしまうと肩の辺りがフッと軽くなった気がした。

⏰:09/12/13 20:26 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#150 [ひとり]
三田さんは前のめりだった上体を後ろに傾け、両手で支えた。足も、フローリングに投げ出されている。

「そっかー・・根岸も恋しちゃってんのかー」

言って俯いた。その口元が、笑っているのが見える。俺は思い切って聞いてみた。

「その人に、心当たりとかないすか?」

⏰:09/12/13 20:31 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#151 [ひとり]
まぁ、答えは想像してたんだけど

「え〜・・・俺の知ってるヤツ?」

やっぱそうきたか。

「めっちゃ知ってますよ」

「マヂでか!!?え、もしやノジコ!!??」

「違います」

「え〜ぢゃあぁぁぁ・・・あ!!!うちの常連の真由美ちゃんだっっ!!!!」

「違いますって」

⏰:09/12/14 23:43 📱:F01B 🆔:KQGVxB5U


#152 [ひとり]
この人は考えもしないんだ。自分がそういう対象に観られてるなんて、万に一つも。そりゃそうか。三田さんは男で、俺も男なんだから。

仕方ない事だ。仕方ない事だ・・・・

言い聞かせるしかできない。でも、言い聞かせたってその側から不満が沸き上がってきてしまう。押さえられない、理不尽な感情が、後から後から。きりがなくてつい自嘲気味な笑いが零れた。

⏰:09/12/15 00:38 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#153 [ひとり]
「笑ってないで教えろよけちんぼ〜」

酔った三田さんは語尾を伸ばす癖が目立つ。

呑気そうなその調子にさえも、また理不尽な憤り。何でわかってくんねーんだろこの鈍チンは。


「あんただよ」

⏰:09/12/15 00:43 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#154 [ひとり]
「は?」


三田さんの表情が一瞬で素に戻った。お生憎様。今更んな顔したって遅いっす。

「だから、あんたなんだってば」








俺が惚れてるのは。

⏰:09/12/15 00:48 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#155 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第七話はこれにて完結ですん。ついに言っちゃいました根岸!!!!
でも好きっては言わないんだね。惚れてるって言うんだね。照れ屋さんな根岸です。これからもよろしく←何

⏰:09/12/15 00:54 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#156 [ひとり]
【第八話/しめさば!!!!】


俺の聞いて「しまった」って表情(カオ)を見て、言って「しまった」って表情(カオ)になったアイツは、気まずくなってそのまま帰りだすのかと思いきや、

「あ、風呂かりますね」

風呂を借りると言い出した。それから歯ブラシねぇしと文句たれやがるから自分用の替えの歯ブラシを卸してやり、スクラブ洗顔は嫌だとゆうからそこは流石にねぇもんはしょーがねぇだろと一蹴して、

気付けば

「じゃ、おやすみなさい」

丁寧に挨拶して布団を被った根岸。

⏰:09/12/16 12:30 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#157 [ひとり]
「泊まんのかよ!!!!!」






とは流石に突っ込めない俺は、一セットしかない自分ちの布団を恨んだ。「お客様用」の備えをしておかなかった自分を恨んだ。

ほいで、すっぽり布団に収まった根岸の横に正座して、どうしたもんかと悩んでいた。

⏰:09/12/16 12:31 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#158 [ひとり]
実際今は十二月だし、マヂ寒みぃし。普段の俺なら布団よこせぐらいの事は言っていたと思う。ついでに無理やりもぐりこむぐらいしたと思う。

でも今それをやるにはあまりにも

「リスク高けってマヂ」

すっかり酔いも覚めたし、心臓バクついて当分寝れそうにないから、根岸が寝付いたら横からそっと潜り込もうか。

いや布団なしで寝るのだけはごめんだかんね。俺の風邪に対する免疫の弱さなめんなよ?生後1ヶ月の赤ん坊くらいの弱さと思ってくれたらいいから、うん。

⏰:09/12/16 12:33 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#159 [ひとり]
とかぐだぐだ考えていたら、こっちに背を向けてた根岸が反転したので、何気なく後頭部に視線を当てていた俺は目が合ってしまった。

「ねぇ」

「な・・んでしょうか」

「寝ないんすか?」

「あ、はい。僕まだ眠たくないんで、お構いなく」

「何で敬語なんだよ」

「え、あ、はい」

「答えになってねぇし」

⏰:09/12/16 12:35 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#160 [ひとり]
「いいからお前は早く寝てくれ!!!!!」

とはやっぱり言えずに、口ごもるしかない。だってしょうがねぇだろ。いきなり後輩の、しかも野郎が告ってきたらおじさんだって動揺ぐらいするさ。つぅか何で告っといてコイツこんなシレッとしてんだよ。


「三田さん、布団冷たい」

「あ?」

何で俺ばっか狼狽えてんだと考えていたら、何を言われたのか聞き逃した。

⏰:09/12/16 12:37 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#161 [ひとり]
「冷たいってば」

不機嫌そうな声と同時に布団から伸びたでかい手。避けるにはあまりに急過ぎて、まんまと掴まれた二の腕。引き寄せられて。


「やめろ酔っ払い!!!」

がなったところで、そこは既に根岸の懐の中だった。

⏰:09/12/16 12:39 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#162 [ひとり]
酒臭い。根岸は顔にでないタイプだけど、実は相当に酔っているらしい。その証拠に逃れようとして手を当てた根岸の胸は早鐘を打っている。普段生意気なその目でさえ、今はやや虚ろに潤んでる。

「温ったかいね」

「タメ口きくんじゃないよお前は」

「・・・・温ったかい」

「話しを聞け」

⏰:09/12/16 12:40 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#163 [ひとり]
つうかコイツ、悪酔いしただけなんじゃね?フッと浮かんだ考え。そうだよ、酔ってるだけだって。じゃなきゃおっさんの俺に告るとか、キチガイな事する訳ないって。なんだよそうかよそうだよマヂビビらせんなよコノヤロー。


納得したら、同時に眠気もやってきたみたいだ。

根岸じゃないけど、確かに温ったかい。ま、ちょっと骨ばった感触はいなめないけど。

⏰:09/12/16 12:42 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#164 [ひとり]
でもこんな風に誰かに守られるようにして寝るのなんていつぶりだろ?まだガキんちょで、お袋と一緒に寝てた時以来じゃね?

彼女がいた時だって、こんな風にされた事はなかったな。ホラ俺、女の前だとカッコつけちゃうし。



・・・・なんか、変な感じ。


「おやすみ、三田さん」


しょうがねぇから、お前の悪酔いにも目ぇ瞑ってやるよ。そんで


「おやすみ根岸」

⏰:09/12/16 12:44 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#165 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。

第八話完結です。今回はまた三田目線にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

彼全然理解してませんね。根岸の決死の告白は、どうやら三田の中で「悪酔い」って事になったらしいです。ドンマイ!!!!

⏰:09/12/16 12:49 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#166 [ひとり]
【第九話/こちら熱くなっておりますのでお気をつけ下さい】


朝、目覚めると見慣れない天井があった。背に馴れたスプリングの感触はなく、もっと硬質でダイレクトな当たり。

⏰:09/12/18 21:40 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#167 [ひとり]
そうして、俺のズシッと痺れる左腕の上。頭を預けてこちら向きで眠りの淵についているこの家の主の顔を見つめた。夢をみているらしい。血管の透けた目蓋の下で、目玉が忙しなく動いている。細く長い睫毛たちも、それに合わせて震えてみせた。


今日もバイトだ。早番じゃないしまだもう少しここでこうしていてもいいんだが・・・

⏰:09/12/18 21:41 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#168 [ひとり]
考えた末、やっぱり今すぐ帰る事にする。例えばこのままもう少しここで微睡んだとして、横のこの人が目覚めたとして。俺は言葉が浮かばなかった。「おはようございます」とか「昨日は泊めてもらっちゃってありがとうございました」とか。それから───



想いを告げた事に後悔はない。寧ろ心は晴れ渡って、清々しい。

ただ、一瞬見せた三田さんの素で驚いた顔。それを考えるときっと帰るのが今は得策なのだと思えた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#169 [ひとり]
三田さんの規則正しい寝息のリズムに合わせて、少しずつ左腕を引き抜く。長いこと下敷きになっていたそれは痺れきって、ダランと垂れて俺のいう事をきかない。

おかげで服を着替えるのに少し戸惑ったがそれも初めだけの事で。血が問題なく巡りだせば、従順になるのはあっという間。

忍び足で三田さんに細心の注意を払いつつ外に出た頃にはさっきの痺れが嘘のように完全に、それは「俺の左腕」になっていた。



三田さんの丸い綺麗なシルエットを支えていた一晩。その感覚が消えてしまってもうここにない事が、酷く悲しいことに感じた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#170 [ひとり]
───
─────


それから二週間経った。

十二月の一大イベントであるクリスマスもあっさり終わって(イブも本番も、三田さんはメリークソスマス!!とヤケッパチで仕事をしていた。)そこかしこに過剰にくっつけられた電飾や「Xmas」っぽいあれやこれやが姿を消すと、世間はいよいよ年の瀬らしい雰囲気に包まれる。

そして遂に、今年が終わろうとしている今日、俺は思うところがある。


「避けられてる」

「ん?」


外に人の姿はまちまちで、それでも軒を連ねる家々の玄関先につけられた「お飾り」からは確かなお祭りムードが漂っている。

⏰:09/12/18 21:43 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#171 [ひとり]
そこを行く俺の呟きを、横を歩く津久井は聞き逃さなかった。


「誰に避けられちゃってんのよ」

丈の短いミルクティー色のダッフル。そのポケットに両手を突っ込みながら聞いてくるコイツは俺とタメで、今は大学の三回生だ。

「好きな奴」

「あぁ、例のね」

年が同じである事と、津久井が懐っこいオープンな性格である事で、俺達はプライベートでもよく連んだ。

⏰:09/12/18 21:44 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#172 [ひとり]
そして「好きな奴がいて最近告白した」と打ち明けもした。もちろん名前は伏せたし、津久井も特にそこに突っ込んではこなかった。そういう空気のよめるところも、俺が津久井と居る事を好む理由の一つだ。

「焦りなさんなよ」

と軽い調子で肩を叩かれる。焦りなさんなと言われてはいそうですねと一呑みにできる余裕なんて俺にはないんだが、そこは口には出さないでおく。

だって二週間だ。そして今日も何も言ってこないとしたら、俺は年を越してあの人の返事を待つ事になるんだ。挙げ句今日までの二週間、あからさまに避けられている。冗談じゃない。

⏰:09/12/18 21:46 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#173 [ひとり]
押し黙る俺に、津久井が気を使ってわざとらしく明るい声で言う。

「まぁまぁまぁ!今日は愛しのあの子の事はちょっと忘れて、ぱーっといこうよ、ね!!!!」

空気が読める男、津久井 真希であっても、流石にそこは読み切れなかいか。

「そうだな、ぱっといこう」

会話の終わりと同時に視界に捉えた長谷部さんち。



満腹堂の皆と、酒と、




愛しのあの子が待っている。

⏰:09/12/18 21:46 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#174 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第九話完結。津久井をちょっと登場させてみました。根岸と津久井はタメなんです。津久井は本名を津久井真希といいます。女の子みたくな名前ですが、男の子です。よろしくです。

⏰:09/12/19 00:01 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#175 [ひとり]
【第十話/カクテルのネーミングセンスてぶっちゃけどうなん?】


「「おじゃましますー」」

鍵がかかっていない事は百も承知な俺と津久井は、扉脇のチャイムは完全無視で玄関へ踏み込んだ。

長谷部さんちは青い瓦屋根、二階建ての小さな一軒家だ。まぁ言ってしまうと借家なんだけど。買ったものであれ借りたものであれ、やはり一軒家は一軒家。以前家賃は大変じゃないのかと尋ねた事があったが、驚くほどに安かった。まだ長谷部さんちに上がった事がない時分だ。でもその安さの理由はすぐに納得がいった。

⏰:09/12/19 20:47 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#176 [ひとり]
「出る」のだ。



俺は今まで霊感なんてないと思っていて、実際そんなものなくて。だから知ったからといって何か目撃した訳じゃないんだが、いつも満腹呑みで使う一階の畳部屋(長谷部さんの寝室)の真上の部屋から、人が走り回る音やら、壁を殴る音やらがするのだ。そこは開かずの間になっていて、入り口の引き戸にはベタベタとミミズの這ったような字の書かれた札が貼ってある。

初めそれを知った時は流石に気味が悪かった。長谷部さんにも余計な事とはわかっていても、「家賃が破格だからっていかがなものか」と苦言を提したほどだ。

でもそんな俺に長谷部さんは笑って言ったんだ。



「人間は惰性と順応の生き物だよ」

⏰:09/12/19 20:47 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#177 [ひとり]
そうして俺はその言葉通りになる。遊びにいく回数が増す毎に、物音がする都度ビクビクとリアクションするのがまず面倒になる。そうなるとリアクションは益々右肩下がりに薄くなり、いつしか音がしない方が逆に「今日アイツどうしちゃったの?」みたいなスタンスにすり替わっていったのだ。

まさに「惰性」と「順応」。それを知ってしまった瞬間こそが、霊体験よりも俺をゾッとさせた。

ちなみに長谷部さんの叔母さんが霊能者でカラーコーディネーターらしく(どんな組み合わせだ)、引っ越した当時調べてもらったらしいのだが、どうやらいるのはリーマンのオッサンの霊らしい。

⏰:09/12/19 20:48 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#178 [ひとり]
オッサンの幽霊と同居してる長谷部さん。その長谷部さんちにいつも溜まる満腹堂の面々。玄関で津久井と順番に靴を脱ぐ間も聞こえてくるハシャいだ声。二階からの物音はそれに混じって微かにしか聞こえない。


──
────


「やってますねー」

津久井はリュックから持参したアルコールを畳の部屋にぶちまけながら言う。

「お前らも来たのかー今年の最後を一緒に過ごす相手他にいないのかよー寂しい奴らめ」

言って俺達をからかう滝さんはすでに出来上がっている。

「その言葉そっくりそのままバットで打ち返します」

「なにおぅ根岸め!!!!じゃー俺はそれを華麗な回転レシーブで打ち返すね!!!!」

「球技だけれども・・・」

⏰:09/12/19 20:48 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#179 [ひとり]
呆れ半分に笑いながら部屋を見渡して気が付いた。いない。

「弘さん、三田さんは?」

自分から質問しておいてなんだが、こんな時咄嗟に聞く相手が弘さんである事に薄っすらとジェラシー。

「うん、今日くるっつってたんだけどまだ来ないんだわ」

その内ヒョッコリ来るだろよと軽く言った弘さん。

⏰:09/12/20 21:00 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#180 [ひとり]
「そうですか」

「うん」


その時、時計の針はちょうど夕方の四時を指していて、確かに後から来るんだろうと俺は納得して、宴の輪に加わった。




それから五時になり──六時───七時───八時────


来ない。

⏰:09/12/20 22:50 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#181 [ひとり]
「アイツ何やってんだ?」

流石に皆が三田さんの不在を気にしだした。

「ちょっと誰か連絡してみたの?」

ノジコさんが言うと

「電話しても出ないんだよ」

と弘さんが答えた。

⏰:09/12/20 23:23 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#182 [ひとり]
「まったく何やってんだよアイツ」

何時もながら男勝りな口振りのノジコさん。

「あ、酒ねぇ・・・」

今の本題は三田さんの不在であって、まったく関係ない事なんだが、もう数時間前から出来上がっている滝さんは気にする風もなく思ったままを言う。

「ねぇ、酒ないんだけど」

横に座っていた俺の頬をグイグイと人差し指で押してくる。

⏰:09/12/20 23:31 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#183 [ひとり]
「根岸ー酒たんねぇー」

これは完全な悪酔いだ。今日の年越しという一大イベントに浮き足立って、開放的になりすぎているらしい。


「はいはい、分かりましたから」

俺は滝さんをなだめすかして

「ちょっと酒買ってきます」

と腰を上げた。

⏰:09/12/20 23:48 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#184 [ひとり]
津久井が「俺も行こうか」と声をかけてくれたが、そこはやんわりと断って、一人寒空の下へ。

東京の空は狭い。

31日のこんな時間までやってる店なんてデカいスーパーかコンビニくらいで、いつも行き着けの倉本(個人経営の酒屋だ)は蟻一匹の侵入たりとも許さないといった感じにシャッターをぴったり下げきっている。

⏰:09/12/21 18:39 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#185 [ひとり]
そうなるとやはり国道を挟んだ向こう側のコンビニまで行くしかない。

俺はマフラーを持ってこなかった事を遅蒔きながら後悔した。


国道沿いにでると思いの外車が走っていて、向こう側へ行くために昇った歩道橋から見下ろしたそれらのテールランプが、時期外れのイルミネーションみたいだった。


もうクリスマスは終わったんだよ。

そのままじっと観察していると、だんだんと行列する虫の目玉みたいにも、血管をながれる赤血球みたいにも見えてきた。

⏰:09/12/21 18:46 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#186 [ひとり]
「なんか、気持ち悪り・・・」

どうやら軽く酔ったようだ。視線を下から上へ。さっき長谷部さんちのそばで見上げた時より、空が近い。


あの人、どこで何やってんだろ──


bbb・・・・bbb・・・・

⏰:09/12/21 18:51 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#187 [ひとり]
寒さを凌ぐため上着のポケットに突っ込んでいた右手に携帯のバイブが当たった。

大方滝さん辺りが酒の催促か、ついでにつまみも買ってこいかのメールでもよこしたんだろう。

緩い動作でポケットから携帯を引き抜き折りたたみ式の携帯を開く。ディスプレイ画面にはメールの着信が一件。

⏰:09/12/21 19:22 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#188 [ひとり]
受信ボックスに入った状態で俺は一瞬固まった。




from 三田さん
Re:根岸よ、
─────────

家来て


────end─────


⏰:09/12/21 19:26 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#189 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十話も完結。クリスマスとかイベント性がもりもりな行事は完全スルーで年越しのお話をお送りしました。そして次話に続きます。

ちょっと補足しますと、滝と長谷部は、弘や三田と同高です。して弘、滝、長谷部はタメです。三田だけが学年違います。え、どうでもいい?んなこと言わないで下さいな〜´∀`誰

⏰:09/12/21 19:32 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#190 [ひとり]
【第十一話/お前片手でジョッキいくつ持てる?】


駆け足で向かった。三田さんちのドアの前に立って、チャイムを押そうとしている。


メールを見て何事かと電話をかけたが、三田さんは出なかった。そんな事されたら、行かない訳にいかないじゃないか。


⏰:09/12/21 20:42 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#191 [ひとり]
ピンポーン


間の抜けた音が廊下に恥ずかしく反響した。

「・・・・・・・・・」




出ない。

もう一度、



ピンポーン

⏰:09/12/21 20:48 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#192 [ひとり]
「・・・・・・・・・・・・」


やはり反応がない。


連打してみようか、


ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・ピポピポピポピポン

「・・・・・・・・・・・・・・・」


ここまで無視だとこっちも意地になってくるな。


⏰:09/12/21 20:54 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#193 [ひとり]
そうして再びどっかのケンシロウのごとく連打を繰り出そうと指を構えたところで、ノブが内側から回されるのが見えた。

外開きのドアにぶつからないように一歩身を引いて待つと、中から小さく背中を丸めた三田さんが現れた。

グレーのスウェット上下の上にパーカーとチェックのチャンチャンコというしゃれた出で立ち。

⏰:09/12/21 21:01 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#194 [ひとり]
「ちゃ、チャンチャンコ・・・」

「よう、根岸」

「なんなんすか、いきなり家来いって」

「まぁ、上がれ」

三田さんは俺の返事を待たずに中に引っ込もうとする。

「ちょ、何なんすか」

⏰:09/12/21 21:31 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#195 [ひとり]
再度繰り返した俺の問い掛けに、緩慢な動作でこちらへ振り返った三田さん。

「いいから、取り敢えず中入れって、寒みぃ」

よく見たら、小刻みに震えていた。

「わかりました」

唇も、なんかガサガサして青っぽい。

⏰:09/12/23 09:05 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#196 [ひとり]
リビングに通されると、そこは暖房の効き過ぎたティッシュ王国だった。

「・・・・思春期なんすか」

「違うわアホタレ」

散乱するティッシュティッシュティッシュ・・・

確定だ。

「じゃあ、風邪なんすか」

「そうだアホタレ」

「合ってても間違っててもアホタレなんですね」

⏰:09/12/23 09:06 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#197 [ひとり]
不満そうな口振りを装ってみても、内心では久々に口を利いて貰えた事を素直に喜んでいる俺がいる。なんて健気なんだろう。おしんにも勝る健気さじゃないかと思う。


「熱は?」

「熱なんて計ってもあ〜俺こんなに熱ある〜って余計凹むだけだから計らない」

ガラガラな声して

「何屁理屈こねてんですか、ちゃんと計って下さい」

⏰:09/12/23 09:06 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#198 [ひとり]
「引き出しの二番目」

「・・・・・はいはい」

「体温計取ってこい」って事らしい。自分は肩まですっぽり布団にくるまって、ティッシュ王国開拓のため未開封のティッシュ箱を新たに引き寄せた。

「引き出しってこっち?」

「うん」

二つ並びで置かれた高さの違う渋い茶の棚。その低いほうの二番目の引き出しを漁りながら、背で三田さんが豪快に鼻をかむ音を聞く。

⏰:09/12/23 09:07 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#199 [ひとり]
「あった」

目当てのものを手に布団の脇にしゃがみ、三田さんの前に差し出した。

「根岸〜鼻かみすぎで切れたしコレ」

俺の差し出した体温計より、今鼻をかんだことで切れた鼻の下が気になるらしい。

「いいからまず計ってみて下さい」

「痛てんだよ地味にー」

「赤チン塗っときな、赤チン塗れば何でも治してくれるから」

「何お前その保健室のババァ的発想」

⏰:09/12/23 09:13 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#200 [ひとり]
「俺の学校の保険医は若いお姉さんでしたよ」

「やめてその"へ〜お前の学校の保険医オバチャンだったんだ〜"顔、マヂムカつくから」

「白衣の下のボディーラインがまさにサンクチュアリっつーかなんつーか・・・・何?」


気が付くと、三田さんが何とも言えない顔でこちらを見ていた。

⏰:09/12/23 20:28 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#201 [ひとり]
なんだろう、敢えてその顔に台詞を当てるなら


「は?」


だろうか。または


「え?」


が近いか。

それから体調が優れない身でありながら、満面のスマイル。

⏰:09/12/23 20:34 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#202 [ひとり]
「病人の全開スマイルってなんか凄みありますね」

よくわからないので、取り敢えず礼儀としてちゃかしてみた。でも三田さんは聞こえてるんだかいないんだか。何かを噛み締めるように二三度ゆっくり頷いて口を開いた。


「やっぱ根岸はちゃんと女が好きなんだな」






ファック

⏰:09/12/23 20:42 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#203 [ひとり]
瞬間、頭の中で毒づいた。そういう事かよ。


「やっぱこの前のは只の悪酔いだよな、うん。」


うんとか勝手に納得してんじゃねー


「いやさ、じゃないかと思ったんだけどなんか遂ね、ガチだったらどうしよーとか思っててさぁ」


ガチガチのガチだよ文句あるかよ


「悪りぃ、実はさり気なく避けてた」


さり気なくねんだよバレバレだこの大根が

⏰:09/12/23 20:48 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#204 [ひとり]
「・・・・・・・・・・」

「え?何聞こえんし」

「三田さんです」

「へ?」

「俺が今好きなのは三田さんです。」


言い切ったら、暖房が効き過ぎているはずのこの部屋の温度が、ぐんと下がった気がした。
引き潮の音が聞こえてきそうな程に、三田さんが引いているのがわかる。

⏰:09/12/23 20:52 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#205 [ひとり]
でも今言わなきゃ、一生言えない気がして、俺は病人相手に喋り倒した。


「確かに俺は女が好きだし乳とか尻とか丸んてしてフニャンてするのが好きだし三田さんにそんな要素一っっっつもないのもまして男だって事も分かってますけどでもそれでも好きってのは事実だしリアルだし酒のせいとか悪酔いだとか都合のいい解釈つけてねじ曲げてなかったみたいにされるのはマヂムカつく。てかうぜぇ。」

⏰:09/12/23 20:58 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#206 [ひとり]
あんまり一気に喋ったもんだから若干息が上がった。そのまま立ち上がり


「おじゃましました」


俺は一目散、逃げるように玄関へ向かうと、スニーカーをつっかけるだけつっかけて外へ出た。

途中三田さんが俺を呼ぶガラガラ声がしたけど、聞こえないふり。

⏰:09/12/23 21:19 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#207 [ひとり]
風邪で弱っているのに息なり攻め立てて、挙げ句何もしないで(まぁ体温計は渡したけど)出てきた事に少し罪悪感を感じもしたが、それを差し引いてもやはり許せなかった。


「マヂ餓鬼・・・」


一つ溜め息。白い息が暗闇に溶けた。

携帯を取り出し画面を開くと、着信ありのマーク。予想通り満腹堂の皆からの電話だったので、取り敢えず弘さんに折り返す。

⏰:09/12/23 21:29 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#208 [ひとり]
「もしもし、あ、すんません・・・・・はい・・・・・はい・・・いや、三田さんとこに・・・・・はい、風邪らしくて・・・・・はい、あ、酒は・・・・・・そうすか、わかりました。すいません連絡しなくて・・・・えぇ、はい・・・・・はい、わかりました・・・・・・・あ、迷惑じゃなかったら弘さん、三田さんとこ行ってあげて下さい。結構辛そうだったんで・・・・・・・・・・いや、俺はそっち戻ります。はい・・・・・はい、お願いします、失礼しまーす」


電話を切って、長谷部さんちに向かう。今日はもう、呑みまくってやろう。ゲロ吐くまで呑んでやろう。

そう決意して、腕をぶんと回した。

⏰:09/12/23 21:56 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#209 [ひとり]
【休憩】

おはようございます、ひとりです。

第十一話完結です。今度は素面でちゃんと告白できました根岸ですが、怒って逃げちゃいました。いかんですね、おこちゃまですね。でも彼は今まで受け身の生ぬるい恋愛しかしてこなかったんで、戸惑ってるんです。はい。と、フォローしてみるこすいひとりでした〜

⏰:09/12/24 10:49 📱:F01B 🆔:dVoX7R3g


#210 [我輩は匿名である]
おもしろいです★

⏰:09/12/24 14:58 📱:SH01A 🆔:uZWH5u4k


#211 [ホシ]
この小説すきです・ω・ひとりたむがんばってくださいx

⏰:09/12/24 16:50 📱:Sportio 🆔:0xEeDAsw


#212 [我輩は匿名である]
キャラのしゃべり方が銀魂ぽくて何か好きですw
頑張ってください

⏰:09/12/25 16:14 📱:PC 🆔:lmIIc1gs


#213 [ひとり]
>>211

ホシさん

好きだなんて、照れるやい(⊃∀//)←
ありがとございます^^総合に感想板もあるんで、是非また遊び来て下さいませ(´ω`)

⏰:09/12/26 20:53 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#214 [ひとり]
>>212

匿名さん

マヂでか←
ひとり銀魂好きですよ^^酢昆布も好きですよ(´∀`)←黙

⏰:09/12/26 20:55 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#215 [ひとり]
>>210

匿名さん

ありがとっす(`∀´)ひとりはその言葉だけで元気百倍です!!僕のかおをお食べよ!!!!です←意味不

⏰:09/12/26 20:57 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#216 [ひとり]
【第十二話/『はい喜んで』】



年が明けた。

テレビを付ければ各局が『あけましておめでとう』を連呼して、間に挟まれるフジカラーのCMの樹○希林までもが着物に身を包み『正月』な雰囲気を盛り上げている。

でも俺は、ちっともめでたくなんかなかった。

⏰:09/12/26 20:58 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#217 [ひとり]
「あんたおもち何個?」

「一個でいい」

1月2日。都内にある実家に帰省した俺に、早速根岸家特製雑煮に入れる餅の数を聞いてくる母親。

「一個でいいなんてゆうちゃん風邪でもひいてんの?」

「・・・風邪は今NGワードだから二度と言うなよ」

「意味わかんない、何でよ」

俺を『ゆうちゃん』と呼んでくるのは従兄弟のアキ。

「聞くな、大人の事情だから」

「どうせ禄でもない事情なんでしょ」

「お前なんか浪人しちまえ」

「お生憎様〜もう四月から花の女子大生確定で〜す」

「よし、俺が行ってその合格辞退しますって言って来てやる」

「やめてよバカ」

⏰:09/12/26 20:58 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#218 [ひとり]
根岸家では毎年、長男である親父のもとに次男三男が家族を連れて新年の挨拶に来る。というのが恒例行事になっている。三家族が一つのテーブル(正確に言えば二つの長いテーブルをくっつけたものなんだが)を囲んで酒を呑み御節をつつく様は圧巻だ。

大抵上座で親父達三兄弟が酒を酌み交わし、母親達は母親達でこれまた固まり去年一年間の労をねぎらい、近況を報告し合ったりする。すると自然に下座に子供達が固まる、という案配だ。

⏰:09/12/26 20:59 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#219 [ひとり]
従兄弟は全部で七人。その中でも年の近い者同士が自然と固まるのだが、毎年俺の横を陣取るのはアキだ。

「ねぇ、後で初詣行こうよ」

皿の上に御節の具で何やら不細工な顔を作って遊びながらアキが言う。

「嫌だよ寒みぃ」

「そんなん理由になんないよ、断るならもっとマシな理由考えるんだね」

「・・・嫌だよ面倒い」

「よし、行くのね」

「・・・・・・」

コイツは昔からこうと決めるとテコでも動かないという融通の効かなさ、よく言えば芯の強さがある。どうやら初詣は決定事項のようで、俺に断る術はないらしい。

⏰:09/12/26 20:59 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#220 [ひとり]
それから暫くゴロゴロと食っちゃ寝起きちゃ呑みを繰り返して、嫌々ながらアキに付き合って外へ出たのは午後三時。酒で体が大分温まっていたので助かった。

初詣へ向かう途中もアキはよく笑い、よく喋った。

「お前本当よくしゃべるな」

「だってゆうちゃんと会えるのってお正月くらいじゃん、メールしても返事遅いし」

「でもちゃんと返すだろ」

「結果論でしょ、いくら返してくれても、一週間後じゃ意味ないんだよね」

「なら電話すりゃいい」

「いつも留守電のくせによく言うよ」

「お前のタイミングが悪い」

⏰:09/12/26 21:00 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#221 [ひとり]
「でもま、許してやるか」

アキが悪ガキがうまい悪戯を思い付いた時のようにニヤリと笑った。

「すげぇ嫌な予感すんだけど」

「そんな事ないんじゃない?何か素敵な事が起こる予感ならしてるけど」

笑みが深まったその顔で、アキは嬉しそうに言った


「私、春からゆうちゃんちの近くに一人暮らしするの!!!!」







俺の嫌な予感は大体いつも当たるんだ。

⏰:09/12/26 21:00 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#222 [ひとり]
別にアキが嫌いな訳じゃない。寧ろ、俺によく懐いているし、可愛い奴だと思う。ただ一つ問題があるとするならそれは、懐き過ぎているという事だ。

今まで会うのは一年で正月と、夏に帰省すればその時、つまり多くて二回。それならまぁわかる。まぁ甘やかそう。だけどそれが毎日となれば話は別だ。

「お前さ、毎日俺んちこようとか思ってないよな?」

「えー思ってるよ」

「やめて」

「何でよー」

⏰:09/12/26 21:01 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#223 [ひとり]
「なんでもへったくれもないの!!」

「誰もへったくれてないしー」

「語尾伸ばすな、女子か」

「女子だし」

リアルに毎日うちに来られたらどうしよう。ていうかリアルに来る感じのテンションだよコレ、寧ろこのテンションで毎日来る気だよコイツ。俺は元々根暗な質で、一人の時間や空間をこよなく愛していたりする。俺の平穏。サンクチュアリ。

それがここ最近じゃどっかの小っさいオッサンのせいで心を乱されまくって平穏て何語?みたいな状態なのに、この上アキまで毎日来やがるようになったら・・・・

「今年俺、厄年だっけ」

「え、何?」

⏰:09/12/26 21:02 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#224 [ひとり]
「何でもない。いいから早く木箱にジャラ銭ぶちこんでアホみたいに上の鐘ジャランジャランさせてうさんくさい紙切れ引き抜いてワーイ凶がでたぁーかなんか言って帰ろうぜ」

「どしたのゆうちゃん、何かいきなりネガティブな感じでひくんだけど」

「引いとけ引いとけ、ついでにおみくじも引いとけよ三百円やるから」

「ゆうちゃん・・・・・・・・・・二百円足んない」




おみくじが予想外にぼったくっていて、俺のテンションは更に急降下を続けたのだった。

⏰:09/12/26 21:03 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#225 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

今回は根岸家からお届けしました。遂に登場した新キャラのアキ、皆さんよろしくお願いします(何が)まだひとり自身アキのキャラを掴みきれていませんので、読みづらいかもですがそこはぬるい気持ちでスルーよろしく。シュワッチ!!!!

⏰:09/12/26 21:06 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#226 [我輩は匿名である]
更新されてる
毎日楽しみに覗かさせて頂いてます根岸頑張れひとりさん頑張れ

⏰:09/12/26 23:01 📱:N04A 🆔:qzgqZ4Ts


#227 [ひとり]
>>226

匿名さん

ありがとうです^^
根岸共々がんばります(`∀´)ゞ!!!!よければ総合の掲示板にも遊びきてください〜

⏰:09/12/27 12:46 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#228 [ひとり]
【第十三話/トイレに貼られている挨拶書き『こんな所まで失礼します』って・・・本当にな!!!!】



風邪をひいた。三十一日。皆が年越しカウントダウンとかしちゃってお祭り騒ぎのその日。俺は一人体温がお祭り騒ぎに急上昇。今年最後の時を、うなされ寝汗かきまくりながら布団の中で越した。年越し蕎麦ならぬ、年越しがゆも食べた。味気ねぇ。

あと、職場の後輩に怒られた。怒られたというか、怒らせた。だけじゃなく、嫌われたかもしれない。


まぁ、俺が悪い。

⏰:09/12/27 21:19 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#229 [ひとり]
アイツが帰った後、しばらくしてひろむが来た。風邪薬とみかんゼリーを持って。


「お前も随分といいタイミングで風邪ひいたもんだね」

「悪りぃ」

「気にすんな、心の友よ」

「ジャイアン・・・」

俺が弱っている時、ひろむは優しい。映画の時のジャイアンくらい優しい。それは今みたいに単に風邪ひいた時だけじゃなくて、気持ちが弱って折れそうな時も含めて。どっかの誰かさんみたいに、床に伏せっている俺を叱りつけて逃げたりなんか絶対にしない。

⏰:09/12/27 21:19 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#230 [ひとり]
きっとひろむにはレーダーがついてるんだと思う。いくら隠そうとしても、ひろむは真っ先に気付くし、側にいてくれる。それがわかってるから俺も隠す事はしないし、素直でいられるんだと思う。ひろむにはその素直さが、どうも伝わりきってないようだけど。


「根岸いたんだろ?」

「あぁ、いたね」

実は根岸に『うぜぇ』とか言われて内心ショック受けてた俺。だってあれは本気の『うぜぇ』だった。

⏰:09/12/27 21:20 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#231 [ひとり]
ひろむはそんな事あったなんてもちろん知らないし、『ひろむの前だと素直な俺です』アピールしたばっかだけど、何故かそこは『は?ショックじゃねぇし』みたいな、ショックがってる自分を否定したい俺がいて。台詞棒読みしたみたいな気持ち悪い口振りになる。

「アイツ滝に酒買って来い言われて出てったのにいい加減帰って来ないからさ、事故ったりしてねぇかって若干焦った」

「そっか」

一方的なメールを送りつけた。あん時は熱の波がピークに来ていて、メール送るだけで精一杯だったんだ。

そこまで気が回らなかった。

⏰:09/12/27 21:21 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#232 [ひとり]
「俺がメールで呼び出したんだわ、ごめん」

「みたいね、やっと連絡ついたと思ったら『今三田さんちで風邪みたいだから来てあげて下さい』だもんよ」

近所迷惑も考えないで、性急にチャイムを鳴らしまくっていた根岸。扉一枚隔てた先で、あん時どんな顔してたのかってふと思った。

⏰:09/12/27 21:22 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#233 [ひとり]
「でもお前も珍しいな、俺じゃなくて、根岸呼ぶってのは」

「・・こないだ、ホラ、髭そられた事であの野郎は俺に借りがあったかんね」

嘘だ。根岸を家に泊めたあの日、確かにチャーハン食ってチャラにしたのに。頭で思っても、口が勝手に嘘を並べ立てる。

「まだんな事言ってんのかよ」

ひろむは『小学生か』って言って笑った。俺も『うっせほっとけ』と言って笑ったけど。

⏰:09/12/27 21:23 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#234 [ひとり]
考えてみれば、何で根岸を呼んだんだろう?


────


年が明けて、三ヶ日と一日経った今日、俺は気付いた。いや、気付いてはいたんだ。ただその事実を認めたくないから、気付かないふりをしていただけ。

⏰:09/12/27 21:25 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#235 [ひとり]
ぶっちゃければそれは



『甘え』



根岸がまさか本気で俺に気があるなんて・・・そう否定しながら、心のどっかじゃ俺を好いてるかもしれない根岸なら、風邪っぴきの自分のもとに駆けつけるに違いないって考えがあったんだ。例えそれが大晦日の、夜八時を軽く超えた時分でも。

⏰:09/12/27 21:29 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#236 [ひとり]
身体が弱ってたからとか、あの時は無意識だったからとか、そんなんは言い訳にしかならない。俺は俺の都合で根岸の気持ちを利用して、その上否定したんだから。

自分で自分に吐き気がする。最低だ。

もう嫌われて、口聞いてくんねぇかもしんないけど。やっぱここは一回ちゃんと謝っとかないと、俺の気が済まない。

「って結局また自分かよ」

自分本位な考えしかできないなんて、つくずくうんざりしてしまう。

「とにかく明後日・・・」

コタツの中、テーブルの上に顎を載せて、一月のシフトが書かれた用紙に目を走らせる。『根岸』の欄、六日の枠内には『遅』と印刷されていた。

⏰:09/12/27 21:32 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#237 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

十三話完結致しました。反省する三田でしたね、うん。悪いことは悪いって認められる人は、人間としての伸びしろがまだあるんだって先生思うよ!!!!アレ?こんな台詞前にどっかで聞いたような・・・・・(゚ω゚)←

⏰:09/12/27 21:41 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#238 [ひとり]
【第十四話/すいません、お絞りもう一つ下さいって言う女子は世話好き】


一月六日。今年初出勤の満腹堂に到着したのは午後四時半過ぎ。早番のスタッフと新年の挨拶を交わす。

「あけおめことよろー」

こんな程度の軽い感じで。その中には三田さんもいて、俺はなるべくそっちを見ないように意識した。

⏰:09/12/28 15:52 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#239 [ひとり]
気持ちを否定されてショックだった。でも間が空いて冷静になれた・・・・・気でいた。なのに

「やっぱうぜ」

可愛さ余ってなんとやら。視界の隅にチラつく三田さんに苛立つ。その事で、思ってる以上に自分が傷ついてるんだと知らされた。

「俺ってナイーブ」

「何ブツクサ言って、気味悪いよ」

⏰:09/12/28 15:52 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#240 [ひとり]
振り返ると、俺と同じ遅番出勤の津久井がいた。

「あけおめ」

「おめ」

気心の知れてる者同士であればある程、形式ばった挨拶は照れ臭い。

「で、なに根岸って独り言キャラだっけか?」

「いやまぁ、色々とあったんだわ」

⏰:09/12/28 15:53 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#241 [ひとり]
「例のあの子?」

「まぁ」

「まだ避けられてんの?」

「いや、逆」

「逆って・・避けてんの?」

「うん」

「『うん』って、何やってんの君達は」

「何やってんだろうね」

「俺が聞いてるんだけど」

「自分でもよくわかんね」

⏰:09/12/28 15:53 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#242 [ひとり]
「返事まだ貰ってないってこと?」

「貰うもなにも、否定されたし」

「・・・・・何それ」

「俺が酔って言った冗談だって、なかった事みたいにされてた」

「うわ〜・・・んでどしたん」

「んなのもっ回告るに決まってんじゃん」

「なのにまた答えは貰えなかったのかよ」

「うん、俺逃げたしね」

「はぁ?」

⏰:09/12/28 15:54 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#243 [ひとり]
「だってムカつくじゃん、せっかく勇気だして告ったのに、その気持ち否定されるとか」

「一応聞くけどさ、二回目ん時何て告ったん?」

「カッとなってよく覚えてないけど、好きだっつってんだろ的な・・・・あ、あとムカつくとか・・うぜぇって言ったかも」

それを聞いて津久井は顔をしかめた。

「最悪・・・・それ告ったんじゃなくて怒ったんじゃん」

「怒らせたのはあっちだし」

「同じ事だよ」

⏰:09/12/28 15:55 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#244 [ひとり]
「・・・・・・・」

そのまま中途半端に会話が途切れたロッカールームは静まりかえる。俺と津久井が立てる、布の擦れる音だけ。

着替えが済んだ俺が先に出ようとすると、まだボタンを留めてる途中の津久井が口を開いた。

「とにかくさ、いい加減楽になったら?」

「・・ありがと」

「おう」

⏰:09/12/28 15:55 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#245 [ひとり]
そうだ、いい加減楽になりたい。否定する程ありえないってんなら、それはもう絶望的なんだろうが、それでも俺は三田さんの口からちゃんと聞きたいんだ。ちゃんと、振ってほしい。

俺は決心して、厨房で寸胴を掻き回す三田さんの背中に話しかけた。

「三田さん」

「ん?うおっっっ!!!!びっくしたぁー!!!!」

振り向いた先にあったのが俺の顔だったのがいけないらしい。

⏰:09/12/28 16:02 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#246 [ひとり]
「断りなく俺の後ろに立つんじゃねーよ!!」

「ゴルゴ13かよ、とかツッコんだほがいいですか」

「いや・・・いいです」

「そうすか」

一瞬俺達の間に気まずい沈黙が流れたけど、そんなん周りは気付かない。

「実は」

『今日残って下さい』って言おうとしたら

⏰:09/12/28 16:08 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#247 [ひとり]
「根岸悪いけど今日話しあっから残って」

思いがけない一言に俺の言葉は阻まれた。

「あ、はい」

「後ついでにお前コレ変わって!!!」

「そんなドサクサ紛れに言ってもダメですよ、今日三田さんの当番でしょ」

「いいだろケチ!!これ疲れるから嫌いなんだよ、筋肉つきそうだし」

「女子かって」

⏰:09/12/28 16:15 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#248 [ひとり]
「髪に匂いついちゃうし〜」

「・・・・・・・」

「おいぃぃぃ!!!!!ツッコミ面倒くさがんないの!!!!そこは被せるでしょ!?基本でしょ!?!?」

「あ、俺テーブル拭いてきます」

「俺が滑ったちゃんみたあになってんですけどぉぉぉ!!!!ちょっとぉぉぉぉ!!!!!」



とにかく、ようやく答えがもらえそうだ。

⏰:09/12/28 16:20 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#249 [ひとり]
────
───────


今日の仕事も無事終了して、皆それぞれ片付けの目処もたった頃、カウンターで電卓を叩いてた三田さんが言った。

「今日の鍵誰だっけかー」

「確か長谷部さんとノジコさんですよ」

側ではき掃除をしていた津久井が答えると、今度はカウンターに身を乗り出して、キッチンにいる二人にデカめの声をかけた。

「べぇやんとノジコはもう終わりそ?」

すると姿は見えないが奥から二人の『あー』とも『うぃー』ともつかない声が返ってくる。

⏰:09/12/29 22:10 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#250 [ひとり]
「オッケしたら今日俺閉めてくからどっちかよこせー」

「何あんた残んの?」

ここでようやく姿を見せたノジコさん。利き手の人差し指にホルダをひっかけてくるくると鍵を回しながら三田さんの横につけた。

「残るよ」

「何急に?いつも早く帰りてぇとかうっさいやつが」

言いながら探るような目で三田さんを見つめるノジコさんの顔は、クラスの悪ガキを叱る学級委員長のようにみえてちょっと笑える。

⏰:09/12/29 22:10 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#251 [ひとり]
「何か企んでんじゃないの?」

言うことまで洩れなく委員長だ。ここで一つ注意して欲しいのは、ノジコさんがバイトで、三田さんが店長だっていう事。二人の後ろでテーブルを磨いてた俺は隠れて少し笑った。

「別になんも企んでねって」

「怪しい〜」

「怪しくない!!」

「そのムキになる態度が更に怪しい〜」

「しつこい!!」

ノジコさん、面白がってる。

⏰:09/12/29 22:11 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#252 [ひとり]
「怪しくねぇよ、根岸も一緒だし」

正直驚いた。俺はてっきり一人で残るふりするんだって思ってたから。

「そうなん?」

「はい」

「ならまぁ安心か」

安心とか言いながらノジコさん、『なんだつまんねぇの』って顔に書いてありますよ。

⏰:09/12/29 22:12 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#253 [ひとり]
でもまぁ隠す必要がないなら楽でいい。床掃きしながら俺同様二人の会話を聞いてちょっと笑ってた津久井が

「したら俺帰るね」

と道具を片しに行ったので、『お疲れ』と声をかけて見送った。

それから長谷部さんとノジコさんも連れ立って出て行き、店には三田さんと俺の二人きりになった。

⏰:09/12/29 22:13 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#254 [ひとり]
「お前それ、いつまで拭いとく気?」

「え・・・あぁ」

言われて気付くと、俺はテーブルの同じ箇所ばかりをずっと磨いていたらしい。

「とりあえず着替えてらっしゃいよ」

「はい」

言われるままに更衣室に引っ込み、そそくさ着替えを済ませて再びホールに出ると、三田さんはカウンターからテーブルに移動して、煙草をふかしていた。

⏰:09/12/29 22:14 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#255 [ひとり]
出てきた俺を見つけた三田さんは、煙草をくわえたまま指先でテーブルをコツコツ叩いて座れの合図を送ってくる。

「何か飲む?」

「いや、大丈夫です」

「そう」

最後の一口を吸い終わったのか、静かに灰皿で火を押し消すと、改まったように座り直した三田さん。

「根岸」

きた。降られる。

「はい」

⏰:09/12/31 00:14 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#256 [ひとり]
「ごめん!!」

「・・・・・・」

わかっていても、鉛を食わされたように胃のあたりが重たくなって、言葉が出てこない。

「本当、悪かったって思ってる」

「・・・・?」

「うん、お前の・・なんだ、俺を〜・・・す、好き?・・・・そういうのなんか・・つまり〜否定したっつーか」

「はい?」

⏰:09/12/31 00:15 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#257 [ひとり]
なんだ?話が読めない。つまり今の『ごめん』は、三十一日の事を言っているのか?

「俺さ、お前に甘えてたみたいだわ」

「はぁ、そうなんすか」

「うん、だからさ」

いつのどれを言っているんだろう。俺は三田さんに甘えられた覚えなんてない。まぁ、振り回された記憶なら山ほどあるんだけど。

⏰:09/12/31 00:18 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#258 [ひとり]
「だから・・あ、その前に聞いときたいんだけど」

「どの前なんすか今」

「いいから答えろよ、お前俺が好きなんだよな」

「何回言わせるんですか」

「・・・・・・・」

訴えるような三田さんの目に根負けした俺は、舌打ちして答えた。

「好きです」

⏰:09/12/31 00:19 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#259 [ひとり]
「よし、わかった」

「わかってんなら言わせんな、罰ゲームかなんかですかコレ」

「焦んなよ、こっからが大事なんだから」

そこまで言って三田さんは大きく深呼吸をした。その必死な感じが、子供の頃読んだ北風と太陽の絵本にでてくる、北風の挿し絵を連想させる。吸って、吐いて、二回、三回。

⏰:09/12/31 00:20 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#260 [ひとり]
それから決心が着いたらしく、また顔をあげるとこう切り出したんだ。

「根岸は俺で立つの?」

さっき飲み物断ってよかった。もし今何か飲んでたら、確実吹いてたわ。

「なんつーダイレクトな・・・」

「なんだよ男同士なんだから恥ずかしがることねぇだろ」

「そうですけど」

「で、たっちゃうワケ?」

「・・・・・はい」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#261 [ひとり]
「てことは、かいちゃうワケ?」

「そこはいいでしょ別に!!」

「先に確認しとかないと大事でしょうがそういう事は!!!!」


「好きでたつんだからその先は言わなくてもわかるでしょ、男なら」

「なるほどな」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#262 [ひとり]
何が『なるほど』なのか、腕組みをして俯いたまま動かなくなった三田さん。俺は待つしかない。

深呼吸を繰り返していたさっきよりも長い間。

そしてその沈黙を破ったのもやっぱり三田さんだった。

「考えるよ、根岸」

「え?」

「お前が真剣だってわかったから、俺も真剣に考える」

「それって・・」

「うん、今お前とやるとこ想像してみたけど、別に思ったよか抵抗なかったわ」

「そういう沈黙だったのかよ今のは」

⏰:09/12/31 00:25 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#263 [ひとり]
「いや、さわりだけな」

「さわりだけ」

「あ、"触り"じゃなくて、事の流れをサラッとって意味での」

「わかってますよ」

「そっか、よし、まぁつまり、それが言いたかったってことだ」

『考える』。予想もしていなかった言葉に、頭がついていかない。

「テメェ俺がせっかく謝ってその上考えてやるっつってんのに、リアクションが薄すぎなんじゃね?」

⏰:09/12/31 00:26 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#264 [ひとり]
「あ、ちょっと今感激してるんでそういうノリいいっすわ」

「え、何それ聞いてないんですけど、感激させてやったのは俺だろコルァ!!もっと感激を表現しろコルァ!!」

「ちょ、マヂで、シッ」

「"シッ"とかうぜぇぇぇぇ!!!!どうしよ相手が冷静だと余計にヒートアップしちゃうじゃん俺!!しちゃうじゃん!!!!」

⏰:09/12/31 00:27 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#265 [ひとり]
三田さんが何事か叫んでいたけど、凄く遠くに聞こえていて理解できない。

今はっきりしてる事は、俺が予想していた結末は訪れなかったって事。これから先はわからないが。今はこれで十分過ぎるくらい十分で、いっぱいいっぱい。

今晩家に帰ったら一人で、柄にもなく小躍りしてしまいそうだ。

⏰:09/12/31 00:29 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#266 [ひとり]
【休憩】

おはようございます。ひとりです。

第・・・もう何話だかわかんなくなってきました←

三田、ようやく根岸の気持ちに気づけました。遅せぇよ。遅せぇけど、気づけただけではなまるです。

まだまだ続きますので、暇潰しに読んで頂けたらと思います。
てか今日大晦日!!!!

⏰:09/12/31 08:43 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#267 [ホシ]
三田さんだいれくとな感じかわいいですx

⏰:09/12/31 23:43 📱:Sportio 🆔:Kf5q69TM


#268 [ひとり]
>>267

ホシさん

おぉホシさん!!またカキあざす^^以前も来て下さいましたよね?三田ダイレクトですよね、てか性格が雑ですwこれからも暇潰しに読んでやって下さい☆よければ総合の感想にも遊びきて下さいまし(´∀`)/

⏰:10/01/01 22:38 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#269 [ひとり]
【第十五話/さっきのお客さんトイレ長くね?】


三田さんに気持ちが伝わって、一人小躍りした日からもう一月とちょっと経った。

別に二人の間で交換日記を始めたわけでも、目と目があってモジモジするわけでもない。何が変わったかと言われれば、二人で飲みに行く事が増えたとか、後は・・・まぁそんくらいだ。

⏰:10/01/01 22:39 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#270 [ひとり]
俺からしたらそれだけで上出来。避けられる事も嫌われる事もなく、以前より少しだけ親密になれたんだから、それだけで。

ただ、逆を言えばこの状況は生殺しかもしれない。だって三田さんは『考える』って言ったんだ。嫌いじゃない、でも好きかと聞かれればそれもどうだろうと。だから『考える』と。まぁそういう事だ。

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#271 [ひとり]
「根岸ー今日鍋しようぜ」

『考える』と言ってくれたあの日から、三田さんはかなり積極的に俺を誘ってくる。あ、変な意味じゃなくて、飲みとか飲みとか、まぁ、飲みなんだけど。

「鍋っすか、どっかいい店知ってるんですか三田さん」

仕事中の俺は皿を次々とシンクに沈め、ジャブジャブ洗う手は休めずに聞いた。

「いやバカ言うな、昔っから鍋は家のコタツでって相場が決まってんだろ」

「いつの昔からそんなん決まってたんだよ」

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#272 [ひとり]
「そりゃまだ人間がサルだった頃から・・」

「その頃は残念だけどまだコタツも家もなかったと思いますよ」

「バッ、おっま何もわかってねぇのな、彼らには地球とゆう星そのものが大きな"我が家"だったんだ!」

「そういう話してるんじゃないから今」

「とにかく、そんくらいセオリーって意味さ」

「・・で、家って長谷部さんちでやるんですか?」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#273 [ひとり]
「いや、お前んちかうちんち」

「あ、・・・・そう」

「うん」

何てことだろう。これってもしや巷で言うところの"おうちデート"じゃなかろうか。

「で、どっちでやる?」

「どっちでもいいけど、材料何もないですよ」

「心配すんな、うちに田舎のばぁちゃんから山ほど野菜届いたんだ」

「あぁ、それで」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#274 [ひとり]
なんだ、俺の勘違いかよ。つまりおうちデートじゃなくて、処理班て事か。



「うん、ばぁちゃんの野菜うまいから、根岸にも食わせてやろうと思って」

「・・したら三田さんちのほがいいんじゃないですか」

「そうな、うん、したら俺んちで」

言って三田さんは仕事に戻って行った。

三田さんが使うのはいつも反則技ばかりだ。期待させて落として、結局また期待させられて浮かれてる俺。まいったね。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#275 [ひとり]
────

「お疲れしたー」

「お疲れー」

今日は皆一斉に店じまい。弘さんがシャッターを下ろし鍵を閉めるのを待つ。

「うし、で、皆今日どうするんだ?」

閉めたシャッターをチェックしながら弘さんが言った。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#276 [ひとり]
「津久井は?」

「俺明日一限から入ってるんで」

「俺暇よ」

「あたしも」

「じゃ俺んち?」

「そうするかー根岸は?」

「いや、俺はちょっと」

「そかぁー三田、お前は来るべ?」

⏰:10/01/01 22:43 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#277 [ひとり]
弘さんに問い掛けられて、三田さんは一瞬チラッと俺を見た。それから

「今日なんか調子悪りぃから帰るわ」

「また風邪かよ?」

「わかんね、だと不味いからさ」

「だな、んじゃ俺達だけで行きますか」

「あ、俺も途中まで」

そうして弘さん、滝さん、長谷部さん、ノジコさん、それに津久井は、駅の方向に向かって歩き出した。

⏰:10/01/01 22:45 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#278 [ひとり]
その後ろ姿が豆粒大になるまで二人で見送ってから

「嘘つきめ」

「そりゃそっちでしょ、いつ具合悪くなったんです」

「うるせー、行くぞ」

駅とは反対の方向に向けて歩き出した。

⏰:10/01/01 22:49 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#279 [ひとり]
三月。暦の上では春かもしれないが、まだまだ俄然寒く、防寒対策が欠かせない。

「俺んちにお前が来るのってさ、チャーハン時以来だよな」

すっかりお馴染みになったポジション。自転車を挟んで右に三田さん、左に俺。

⏰:10/01/01 23:01 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#280 [ひとり]
「そうでしたかね」

「『そうでしたかね』っておま、白々しいー」

「だって俺的にはチャーハンより告った事のが印象強くて」

「・・あぁ、まぁ、そうね」

横目で盗み観ると、三田さんは視線を宙に泳がせながら、顎髭を指腹でジョリジョリしていた。

⏰:10/01/01 23:12 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#281 [ひとり]
この横からのアングル、俺的にかなりベストアングルだったりする。何がいいって、鼻の角度がいい。上向き過ぎず下向き過ぎない、程よい傾斜。本人は脂取り紙三枚半はかたいという自称ギッシュな鼻であるが、こうして見る限りそこまでとは思えない。

惚れた弱みか、未だ冬を主張するこの冷え切った夜気のせいか。男相手にこんな表現は似つかわしくないかもしれないが、横顔の三田さんは綺麗だ。

⏰:10/01/02 00:23 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#282 [ひとり]
「何、鼻糞でもそよいでる?」

俺の熱視線に気付いた三田さんだったが、残念。

「あんたのそういうとこ、なんか残念だよね」

「は?どゆ意味」

「三田さんてさ、女子より男子にモテるタイプだよね」

「え、喧嘩売ってんの?」

⏰:10/01/02 00:27 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#283 [ひとり]
「そういう喧嘩っぱやい発言とかも、なんか惜しいよね」

「よし、先ずその語尾の『ね』辞めようか、上から物言いな感じが勘に障る」

「だからそうじゃないんだよね」

「次言ったらマヂで俺の昇竜拳が火を噴くかんな」

「可愛いね」

⏰:10/01/02 00:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#284 [ひとり]
「£#&*@!?!?!?」

拳をグーの形にしたまま固まった三田さん。どうしたんだろ俺、これから三田さんちに二人きりだからって舞い上がり過ぎてるのかな。なんか、スイッチ入った感じする。

落ち着け、別に三田さんは俺を好きな訳じゃない。あんま浮かれて調子こいてると、バッサリいかれそうだし。ビークールだ、ビークール、俺。

⏰:10/01/02 00:37 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#285 [サルエルパンツ]
ヤバい面白すぎです!
ここまで読むのに何時間かかったかな〜?

かなりハマって気がついたらこんな時間です(笑)
ってことで寝ますおやすみなさい…
更新楽しみです
楽しみすぎて寝れないかもです(´_ゝ`)←三田さんの鼻ってこんな感じですか?

⏰:10/01/02 03:23 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#286 [ひとり]
>>285

サルエルパンツさん

いらっしゃいませ〜初めまして\(^o^)/
そんなにハマって頂けましたか、ひとり調子にのりますょヾ(´∀`)ノヒャヒャヒャ←
寝不足にはご用心☆まぁ正月だしいっかー(どっちだ)よければ総合に感想板ありますので、そっちにも遊びにいらして下さいなぁ〜

⏰:10/01/02 11:39 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#287 [サルエルパンツ]
安価失礼します(´_ゝ`)


>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/01/02 22:58 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#288 [ひとり]
───
─────

肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。

「玉ねぎですか」

「え、お前やったことないの?」

「うん、初めて」

キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。

「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」

⏰:10/01/02 23:30 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#289 [ひとり]
「知りませんて」

「食えばわかるよ」

なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。

「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」

「はい」

言われるままに皿と箸、コンロをセットする。

⏰:10/01/02 23:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#290 [ひとり]
「並べた?」

「はい」

「じゃ鍋持ってくぞ」

「どうぞー」

言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。

「ちょ、根岸そこ退いて」

「はいはい」

無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。

俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。

でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。

好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。

「あ、うまい」

「だから言ったべ」

あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。

⏰:10/01/02 23:33 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。

「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 10:09 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて

「・・・・・・そっか」

と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。

「じゃあ」

「じゃ」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。

「「・・・・・・・・」」

何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

「うん、また来い」

「はい」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。


近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。

ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。

漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。

胸がざわついた。

⏰:10/01/03 10:11 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#297 [ひとり]
【第十六話/つーかゲロゲロ聞こえるんですけど!!!!】


ひろむに誘われた時、咄嗟に調子が悪いってホラ吹いた。あいつには嘘つき呼ばわりされたけど、そんなんお互い様だろ。

ここ一月ちょっと、俺達はちょくちょく飲みに出た。誘うのはいつも俺だ。根岸の野郎、俺に好きとかぬかしておきながら、うんともすんともアクションがない。俺も考えるって言っちまった手前、奴を知るためにちょっと飲んだり食べに行ったり(休日の昼間に会うなんてのは流石にサムいから避けたけど)、二人での時間とか作ってみた訳だ。

⏰:10/01/03 19:40 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#298 [ひとり]
つぅか、絶対おかしいよね?普通逆だよね?なんで告ってきた筈のあいつを、考えてやる的な?完全有利な立場である俺様が?必死こいて誘ってやらなきゃいけないんだ!!!!!

何なのあの子!?!?

そうかと言って、本当はやっぱ俺をからかってるだけなんじゃないかと疑心暗鬼にかかって暫く飲みの誘いもしないでいると、なんか仕事中チラチラ見てくるし、『あれ?』みたいな顔してくるし。視線が痛てんだよテメェで誘ってこいやブォケェェェェ!!!!

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#299 [ひとり]
って思ってたところにばぁちゃんから届いた段ボール。それも二箱。中を開ければ、大量に押し込まれた野菜野菜野菜野菜・・・

その時頭に浮かんだのは、訴えるような目をする根岸の顔だった。仕方ない、鍋、誘ってやるか。

前にチラッと話したけど、奴の"来る者拒まず"は、事実らしい。てかそこダメだろ。俺が好きとか言うなら、もちっとがぶりよって来いっつんだよチキンが。

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#300 [ひとり]
そんで今日、根岸がうちに来た。男同士、何に気を遣う事もなく、ただ鍋をつついて、テレビを観て、合間にチョコチョコと下らない話をする。

無口でもないが、おしゃべりでもない根岸。俺の話しに笑ったりツッコんだりする根岸。鍋の灰汁を掬ったり、具を皿によそう根岸。酒を美味そうに飲む根岸。

根岸といるのは、楽だ。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#301 [ひとり]
うん、楽。まぁたまに心臓に悪い発言が飛び出る事もあるけど。さっき、うちに来る途中、いきなり『可愛いね』とか言いやがった時は本当に軽いパニックだった。何がパニックかって、真顔でんな事ぬかす根岸に対してもだが、それより何より、言われて悪い気がしなかった自分にパニックだ。

───それから飲んで食って気付けば深夜二時。どうせこの時間じゃ泊まってくんだろうと、二人分のビールのプルトップを開けたところで、根岸が言った。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#302 [ひとり]
「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

寝耳に水だった。

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

明日があるって言ったって、二人して遅番じゃん。だったら

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 19:43 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#303 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う根岸はもう帰る気満々だ。確かに何かされても困るんだけど・・・なんだよ、

「・・・・・・そっか」

俺は玄関先まで見送りに出た。

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#304 [ひとり]
靴を履く根岸の背中をぼんやり見つめながら、ついさっき二缶も開けてしまったビールをどうしようかと考えた。

靴紐を結び終えた根岸がこちらに向き直って『じゃあ』と片手を挙げたので、俺もつられて『じゃ』と片手を挙げた。

「「・・・・・・・・」」

何だよ、この沈黙。送り出す俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

考えているうちに、先手を打ったのは根岸。

「うん、また来い」

俺はそう返すしかない。

「はい」

言ってさっさと出て行ってしまった。なんだよ。

ガチャ──

鍵の音がやけにデカく聞こえる。俺、何がしたいんだろ。てか、あいつにどうしてほしかったんだろ。

なんだ、胸がざわつく

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#305 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十五話十六話完結いたしましたぁ\(∀)/

てか十五話で休憩入れんの忘れてた(・∀`)テヘッ

また気分で三田目線してみました。チョコチョコ変わって読みにくかったらごめんなさい。三田の気持ちに微妙な変化が。どうなりますやら、乞うご期待☆

⏰:10/01/03 19:49 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#306 [ひとり]
【第十七話/ちょ、いびき!?お客様ぁぁぁ!!!】


ちょっと前まで頻繁だった根岸との飲みの回数が減ったのには理由があった。

「四卓様お会計でーす」

「お待たせ致しましたぁーこちら熱いのでお気をつけ下さい」

「オーダーお願いしまーす」

「二卓様だし巻きお待ちー」

騒がしい店内。客の入りはピークだ。

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#307 [ひとり]
次々に出る料理と、同じ数下げられてくる空の皿。

それをさばきながらも頭の中ではもんもんとした気持ちを整理しようと必死だ。

あぁ、チクショウ。

─────
───────

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#308 [ひとり]
────
──────

「根岸、今日暇?」

裏口のベンチで一服しているところを発見して声をかけた。

「あ、三田さん、はざす」

「はよ、で、今日暇かよ?」

聞くと根岸は手にしていた携帯をパタンと畳んで言った。

「すんません、今日先約があるんです」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#309 [ひとり]
「そか、わぁった」

「すんません」

「いいって」

その時はそれだけで終わった。別にまた声かけりゃいいし、先約なら仕方ないと思ったから。

でも──

「根岸ー今日さ」

「あ、すんません今日もちょっと」

*****

「おいこれから・・」

「もう帰らないといけないんで」

*****

「根ぎ・・」

「お疲れしたー」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#310 [ひとり]
いくら寛大な俺だって、流石に三度も連続で断られたら腹も立つ。つぅか腹が立つ。何様だ、あの野郎。


それから暫くは飲みに誘うこともしなかった。そうすりゃまた例の『あれ?』みたいな視線でチラ見してくんだろどうせ?わかってんだよ。くらいに高をくくって。

ところが。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#311 [ひとり]
来る日も来る日も根岸は仕事が終わると早々に身支度を済ませ、店を後にした。

何かがおかしい。
そしてその何かを、俺はついさっき目撃したんだ。

シフトが早番だった俺は、ランチのメニューのかかれたブラックボードを中に仕舞おうと店の入り口に出ていた。

「よっこいせ」

言ってやや腰をかがめたその時──

「ゆうちゃん、聞いてる?」

すこし張った可愛らしい声がして、何気なく中途半端な体制のまま視線を向ける。何だあれ。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#312 [ひとり]
再生停止した画面のようにピタリと止まった動き。俺の視線の先には声の通りの可愛らしい女の子と




「根岸・・・?」

こちらに向かってくる遅番の根岸。

⏰:10/01/04 13:57 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#313 [ひとり]
俺は持ち上げかけていたブラックボードを下に置き直し、咄嗟にその陰に隠れた。

って何やってんだ俺。別に隠れる必要なんてないのに。もう一度陰から顔半分出してみる。いた。遠目で何喋ってっかはわかんねぇけど、ありゃ百パー根岸だ。

てか、腕・・・

「組んでるし」

全身白っぽい服で完全武装した女の子が、根岸の腕に自分の腕を絡めていた。うっわぁ〜・・・

⏰:10/01/04 13:58 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#314 [ひとり]
つまり

「そゆことね」

彼女ができたか。

「なるほど」

納得している間にも、根岸と女の子は着実に店に近付いていた。今物陰からニュッと出て行くのも気不味い。

俺は咄嗟にしゃがんだ体制のまま、店の中まで戻るという妙案を思い付いた。

うっ、この体制結構腰にくんな・・・

⏰:10/01/04 13:59 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#315 [ひとり]
キツいながらもなんとか無事戻れた店の中

「お前何してんの?」

顔を上げるとひろむがいた。

「何その格好、新しい遊び?」

俺のウンチングスタイル歩行法(と、名付けよう)を見たひろむは、怪訝な顔で言う。

「違げぇよ!"家政婦は見た"んだよ!!!!」

怒鳴りながら立ち上がる。あ、やっぱ腰痛って。

⏰:10/01/04 14:00 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#316 [ひとり]
「お前んなバイト始めたん?てかボードどした?」

「ものの例えだお前がやっとけ!!!!」

俺はそれだけ言い捨てて、裏口に煙草を吸いに行った。イライラした。

深くベンチに体を預けて、ゆっくりと煙を肺に送って、貯めて、吐く。どうにか気持ちを鎮めようとして。イライラの意味をわかりたくなくて。俺はただ、吸って、貯めて、吐いた。

⏰:10/01/04 14:04 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#317 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十七話?だっけ?完結です。二話続けての三田目線です。見ちゃったよ彼、見ちゃったよ。根岸のやつやりますな。女子と三田の二股とは。むふふ、個人的に振り回し振り回される二人ってのが好きです。←聞いなry

⏰:10/01/04 20:01 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#318 [ひとり]
【第十八話/秘伝のタレ】


「──それでね、今日は大学で──と───がマヂウケるから───」

かれこれ一時間、俺は耐え忍んでいる。

「───してイッキとか言ってコールかけ──」

目の前のグロスでギラギラした唇は未だペースを落とす事なく動き続けている。いや、むしろピッチ上がってんじゃなかろうか。

⏰:10/01/04 23:20 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#319 [ひとり]
「───だよ超笑えるっしょ?」

俺の耳はここ数日で目まぐるしい進化を遂げた。ここは敢えてキテレツの効果音と共に紹介したい。ティーティティーティティティティティーティッドン

「鼓膜機能シナクナール」

「は?どしたのゆうちゃん急に」

「・・・・・いや、こっちの話し」

⏰:10/01/04 23:21 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#320 [ひとり]
「何それ、てかどう思う今の話し?」

「あぁ、確かにザクロとイチヂクってキャラ被るよね」

「ちょっと全然聞いてなかったの?信じらんない!!だからね───」

「アキ、明日また聞くから、今日もう帰んな」

俺はとうとう限界が来てこう切り出した。

⏰:10/01/04 23:22 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#321 [ひとり]
「えぇ〜まだいいじゃん!!」

「ダメ、俺明日早番だし」

「ケチ〜」

「ホラ、送るからコート着て」

言って壁に掛けていた白いコートを放ると、渋々といった感じでそれを拾って立ち上がった。

⏰:10/01/04 23:24 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#322 [ひとり]
「明日また来ていい?」

「ダメっつっても来るんだろ」

「正解〜ぃ」

やっぱり。正解したところで、目糞程も嬉しくはないんだけど。

二人で外へ出ると、アキは当然のように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「寒っむ!!」

「そんなペラペラの服着てりゃーな」

⏰:10/01/04 23:46 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#323 [ひとり]
3月の頭。予告通り近くに越して来たアキは、正月に会った時とはガラッと印象が違っていた。

高三の夏までバリバリの体育会系で部活に打ち込んでいたその面影すら今はなく、エクステとかいう人工の毛をくっつけた頭や、なんちゃらネイルとかいう人工爪をキラッキラに飾り付けた指先、更に片目だけでも人工睫毛(ツケマって言うらしい)を三枚だか四枚だか装着した化粧の濃い顔は、本当に『え、どなた様ですか?』だった。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#324 [ひとり]
「可愛いっしょ?」

俺が"ペラペラ"と指摘したミニ丈のワンピースの裾をチョコっと持ち上げて笑いかけるてくる。

「短すぎ、風邪ひきそ」

俺は愛想もなしにそう答えた。

「え、何それ心配してくれてんの?」

アキはどこまでも果てしなくプラス思考だ。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#325 [ひとり]
アキが越してきてから、三田さんと飲みに出かける回数が格段に減った。っつうかパタリと無くなってしまった。多分、三田さんちで鍋をしたあの日が最後だ。

何度も誘ってくれたのにそれを悉(コトゴト)く断り続けていたら、お誘いの声すらかけてくれなくなった。まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだが。

アキもまだ入学したばかりで、新しくできた友達や入ったサークル、どんな環境に自分が居るのか、話せる肉親が必要なんだろうと思う。思うから、暫くはそんなアキに付き合おうって決めたんだ。だけど

⏰:10/01/04 23:48 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#326 [ひとり]
「じゃ、おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

初めての一人暮らしに彼女が選んだのは、俺んちからすぐのところにある築年数も浅そうなサーモンピンクのアパート。その階段を二階へと駆け上がって行く。ブーツのヒールが、カンカンと鋭い音を立てた。

鍵を開け、ノブを回す。そして家の中に入ったところまで見届けてから俺は帰路につく。

⏰:10/01/04 23:50 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#327 [ひとり]
「参った・・・」

帰り道は自然と溜め息が零れる。まさか冗談でなく、毎日うちに入り浸るなんて。いくら覚悟していても、叔父さんや叔母さんに『頼むね』と言われても、流石にこれじゃあやってられない。

かと言って、もう来るなとも言えないし、妹みたいなアキが可愛い存在である事もまた確かで・・・・

「あ゙ぁ゙〜〜〜もう!なんだかなぁぁぁぁ」

俺の阿藤〇イにも匹敵し得る『なんだかなぁ』が、帰り道に虚しく響き渡った。

⏰:10/01/04 23:52 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#328 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

二話越しでの根岸サイド。従兄弟のアキが再登場です。根岸って存外に身内思いなんです。はい。

ちなみアキが高校で所属していたのは、硬式テニス部でした。前衛でした。はい、補足情報でしたぁ〜

⏰:10/01/05 00:03 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#329 [ホシ]
三田さんの気持ち‥なんかせつなぁーいォ

⏰:10/01/05 08:45 📱:Sportio 🆔:VMqmuYas


#330 [ひとり]
>>329

ホシさん

切な〜いですか?ちゃっかりそこ狙ってたんで、そう言って頂けると嬉しいです(^∀^)

⏰:10/01/05 19:40 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#331 [ひとり]
【第十九話/レモン絞る前は一声かけるのが大人のマナー】


気付けば早いもので、もう四月も真ん中を過ぎた。

大学生になったアキも越して来た当初に比べれば、大分落ち着いてきて、流石に毎日深夜までうちに居座る事も減ってきた。ペース的には、週四くらい。せめてそのもう半分まで回数が減ってくれたら嬉しいのだが、贅沢は言うまい。

⏰:10/01/05 20:30 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#332 [ひとり]
それよりも今は、あの人の事だ。そう、三田さん。

アキにかまけている間に、全然誘われなくなってしまった俺。それは当然の事だと思う。そこで、再び自由な時間ができたんだしと、自分から誘ってみる事にした。

「はざす」

「はよ」

「はざーす」

今日は早番でランチをこなしていた俺、いつものベンチで一服しているところに遅出勤の三田さんと弘さんが現れた。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#333 [ひとり]
暫く三人で煙草片手に雑談。すると弘さんが徐にケツポケットから携帯を取り出した。

「悪り、電話」

話の腰を折った事を俺達に詫びてから通話ボタンを押した弘さんは

「もしもし、なに?」

話しながら店の中に消えて行った。後には俺と三田さんの二人きり。誘うなら、今だろう。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#334 [ひとり]
「・・・・あの」

いつもペラペラよく喋る三田さんが、今日は黙って煙草を吸っている。なんだか雰囲気も違うような・・・

話を切り出すのが、少し戸惑われたが、そこは勢いまかせで。

「今日暇なら、久しぶりに飲み行きませんか?」

⏰:10/01/05 20:33 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#335 [ひとり]
「・・・・え?」

考え事でもしてたんだろうか、聞こえていなかったようなのでもう一度同じ台詞を繰り返した。

「だから、今日暇なら久しぶりに飲み行きませんか?」

「・・・・なんで?」


まさか『なんで?』なんて返しがくるとは予想していなかった俺、少し面食らった。

「いや、俺今日暇なんで、よかったら」

⏰:10/01/05 20:34 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#336 [ひとり]
やっぱ雰囲気が違う。つうか何だ、その冷めた目は?

「・・・・ははは」

突然三田さんは笑い出した。なんか、空笑い。馬鹿にされたような気分になる。

「なんすか、その笑い」

語尾がやや強くなってしまった。そんな俺に、一定して冷めた視線を送ってよこしながら、三田さんはこう聞いてきた。

⏰:10/01/05 20:35 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#337 [ひとり]
「根岸今楽しい?」

「何です急に?」

「・・・今楽しいかって聞いてんだけど」

質問に答えるための言葉以外は受け付けない。三田さんの目はそう物語っていて、俺は答えざるを得ない。

アキが大分落ち着いてくれたおかげで、またプライベートな時間ができて、こうして三田さんを飲みに誘える。そういう意味じゃやっぱ

「楽しいですね・・・今」

⏰:10/01/05 20:36 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#338 [ひとり]
正確には、三田さんとまた時間を持てるのが『楽しみです』なんだけど、質問の意図がさっぱりだし、第一馬鹿正直にそんなん言うなんて恥ず過ぎてムリだ。

俺の答えを聞いた三田さんは、またさっきの空笑いを繰り返した。嫌な感じ、何なんだろう。

「ははは・・・・」

「・・・・・」

俺の気持ちとは裏腹に、二人の間に流れる空気はいよいよ不穏なものに変わる。そして、茶化すように三田さんは言った。

「根岸ってばサイテー」

⏰:10/01/05 20:37 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#339 [ひとり]
は?

サイテー?最低?・・・・俺が?

そんな事、言われる覚えはない。

「何ですかさっきから意味わかんないよあんた」

「最低な奴に最低だっつって何が悪りんだよ、あ?」

目が据わってる。流石は元ヤンキーと言ったところだろうか、メンチ切る姿が様になってんな。なんて、まったく関係ない事を思ってみる。

⏰:10/01/05 20:38 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#340 [ひとり]
暫し無言での睨み合いが続いた。その沈黙を破ったのは、弘さん。

「三田ぁーちょっとこっちゃ来ーい」

その気の抜けた声に、張り詰めていた空気は一気に払拭された。これまた気の抜けた声で三田さんは

「なしただぁー五作どーん」

と返しながら、店内へと帰って行った。俺の存在なんてないみたいに、こちらには一瞥もくれずに。

なんだよ・・・・・・

「どういう事だよ」

俺は混乱し、途方に暮れた。

⏰:10/01/05 20:49 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#341 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十九話完結しましたー三田キレました。根岸混乱しました。すれ違いはどこまで続くのか。それはひとりにも不明です←弘のナイスタイミングな一声に救われましたね。グッジョブ弘!!グッジョブ!!!!!

⏰:10/01/05 20:52 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#342 [ひとり]
【第二十話/シーザーサラダのドレッシング抜きでございます】


覚えのないいちゃもんをつけられた。テンションは底辺のままで夜の仕事は身が入らなかった。

仕事を回す上で必要な会話を何度か交わしたが、三田さんは至って普通だった。

じゃあベンチでのあの態度は何だったんだろう?

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#343 [ひとり]
その日の営業終了後、俺は納得がいかなくて、ロッカーで三田さんを待ち伏せた。

「三田さん、話あるんで、ちょっといいですか」

俺の言葉に、また例の冷めた目で三田さんは言った。

「俺は話なんてないんだけど」

なる程、二人の時はこうゆう態度な訳だ。

俺は食い下がった。

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#344 [ひとり]
「あんたになくても、俺にはあるんですよ」

「知るか」

「「・・・・・・・・」」

"とりつくしまもない"ってこういう事なんだろう。

じゃあ俺は、どうしたらいいんだ。何で急にこんな態度とられなきゃいけないんだよ。

⏰:10/01/06 22:31 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#345 [ひとり]
「したらもう俺帰るし」

「ちょ、」


バッ


風を切る音。

出て行こうとする三田さんの手を取った次の瞬間、勢いよく振り払われた。


「触んな」

⏰:10/01/06 22:32 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#346 [ひとり]
言って上着だけひっ掴んだ三田さんはノブに手をかけた。

元々ネジが緩くなっているロッカールームの扉。力任せに閉められたそれは、耳障りなでかい音を立てる。

行ってしまった。スタッフウェアのままで。春とは言っても夜はまだ冷えるのに、上着一枚で風邪でも引かなきゃいいけど。

一人取り残された俺、仕方がないので鍵をかけて自分も出ようとメッセンジャーバックを背負った。その時

⏰:10/01/07 09:06 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#347 [ひとり]
無音のロッカールームに人が入ってくる気配があった。

三田さん、戻って来てくれたのか。

俺は速い動作で扉を開けた。

「うおっ!自動扉かと思った、よう、お疲れ」

「・・・・・お疲れ様です」

「何だよ明からさまなガッカリ顔しやがって」

「そんな事ないですよ」


目の前にっていたのは、弘さんだった。

⏰:10/01/07 09:12 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#348 [ひとり]
今日の鍵当番は俺とノジコさんで、今日は自分が閉めるから先に帰って下さいと伝えた。鍵持ちでもないし、仕事はいつも手際よくこなす弘さんがこんな時間まで残っているというのはどうした訳か。

俺が考えてる事を察してか、弘さんはこちらが尋ねる前に口を開いた。

「お前待ってた」

「・・俺を、ですか?」

「そ、根岸を」

⏰:10/01/07 20:29 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#349 [ひとり]
「はぁ・・・」

俺は歯切れ悪く返事をする。

「まぁ、いいからちょっと付き合え」

訳の分からないまま取り敢えず弘さんに従って店を出た。何処へ向かうのやら、目的地を決めているらしい弘さんは淀みない足の運びで先へ向かう。等間隔に街灯の並ぶその下を、微妙な感覚を空けて後に続いた。

⏰:10/01/07 21:10 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#350 [ひとり]
「公園・・」

着いた先は、満腹道からほど近い『緑公園』という名のこじんまりした公園だった。あるのはシーソーに砂場にブランコ。セオリー通りのメンツ。砂場には誰かが忘れて行ったんだろう、小さなおもちゃの赤いバケツとスコップが転がっていた。

「お前何飲む?」

公園に入ってすぐにある自販機の前に立ち、弘さんが聞いてくる。

「じゃ、甘酒で」

⏰:10/01/07 21:41 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#363 [ひとり]
「ではこれにて二者面談を終了します」

「面談だったんすかコレ」

「そうだよ」

「そうだよって・・」

いっきに和らいだ空気と入れ違いに、痺れるような寒さを感じる。手の感覚も麻痺しているし。

⏰:10/01/08 20:32 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#364 [ひとり]
「てか寒っっむ!!!!」

どうやらそれは弘さんも同じだったらしく。

「とっとと帰ろうぜ根岸」

「はい」

俺と弘さんは先程の自販機脇に設置されたゴミ箱にそれぞれの缶を放り込んでから、等間隔で立ち並ぶ街灯の下を、二人横並びで元来た道へと歩いた。

明日、もう一度三田さんと話しをしよう。

⏰:10/01/08 20:41 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#365 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第二十話は弘をいっぱい出してみました。三田と根岸のために一肌脱いだ感じ。釘をさすお兄ちゃん弘です。彼の言う根岸の必死さとか、真剣さってのはアレです。三田を見る時の目とか、三田に対するちょっとした態度やリアクションの事です。そこに一々滲み出ちゃってる「ラブ」を、弘は感じとっていたようですね。ま、根岸自身は自覚なしのようですが。隠そうとも隠しきれぬ思いです。ラブです。ヒューヒュー←うざ

⏰:10/01/08 20:52 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#366 [ひとり]
【第二十一話/失礼しましたー】

別に『考えてやる』って言っただけで、付き合ってやるつもりだった訳じゃないし。別に根岸が女を好きになったって痛くも痒くもないし。寧ろそのほうが自然な事だし。俺にしたって喜ばしい事なんだ。

なんだけど、なんで・・・・

⏰:10/01/09 08:46 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#367 [との様]
感想板ってあります
更新頑張ってください
すっごくおもしろいです

⏰:10/01/09 09:00 📱:SH905i 🆔:Bx3.kDhs


#368 [ひとり]
「ニ股・・・」

って言ってしまえるんだろうアレは。

俺に好きとか言ったくせに、きっとあの女の子にも『お前が好きだぜベイベー』かなんか言ったんだ。きっとそうだ。

今思い返してもムシャクシャする。『今楽しいか』って聞いた時の『楽しいですね』って言った根岸の顔。よかったな彼女できて。俺の気持ち弄んでそんなに楽しいのかお前は・・・・

「って"俺の気持ち"ってなんだよ!!気持ちなんてねぇよクソッタレ!!!!」

⏰:10/01/09 09:04 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#369 [ひとり]
>>367

お初です^^コメありがとうございます\(∀)/

総合に感想用に設けたスレあります、「ひとり」で検索して頂ければと思いますm(・_、)mペコリンチョ

⏰:10/01/09 09:07 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#370 [ひとり]
爽やかな感じで微笑みやがって気持ち悪りぃ。ダメだ、もう一本。

「よくまぁそんだけ無駄に吸えるねぇ」

「あ?」

顔を上げると、滝が真ん前に突っ立っていた。

「煙草がもったいない」

「ほっとけ」

⏰:10/01/09 09:11 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#371 [ひとり]
「なんだよご機嫌斜めだなぁ」

休憩中。裏口のベンチを占領していた俺の横に無理やりケツを割り込ませてきた滝は、何がおもしろいのかニヤニヤしてくる。

「別に」

「エリカ様みてぇ」

滝は出会った当初から俺を玩具にして面白がる節がある。本気で迷惑な話だ。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#372 [ひとり]
「機嫌悪いのわかってんなら近寄んなよ」

「まぁそう言うなって、俺も吸いたい」

言いながら赤丸を一本取り出して火をつけた滝。空に向かって煙を細長く吐き出した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

大人しくなった滝と俺の間には、会話も特になく。今の俺はそのほうが助かるから、こっちから特に話し掛けることもしない。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#373 [ひとり]
一本目を早くも吸い終えた滝が、新しい煙草を取り出した。

まだ吸う気かよ。

「・・・・・・」

「アレ、行っちゃうの?」

内心で毒づいて店に戻ろうとしたら、止められた。

「悪るいけど、今は一人になりてんだよ」

「何言ってんの?キャラじゃねぇだろ、つかマヂ一人じゃ寒みぃから横いて」

調子こいて半袖で出てくるお前が悪い。

「俺はお前のホッカイロじゃねぇし」

⏰:10/01/09 21:48 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#374 [ひとり]
付き合ってられるか。

「ここなら二人だけど、店入ればもっと人いるぞぉ」

「木を隠すなら森の中って言うだろ」

「んー・・・・・・なんか違くね?」

あぁ、もう。

相手すんのが正直だるくて、滝には悪いけど俺は無視を決め込んでドアノブに手をかけた。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#375 [ひとり]
外に向かって開く設計の裏口扉。俺が再びノブに手をかけたのとほぼ同じタイミングで

「っっって!!!!!!」

自分じゃない力でもって、勢いよくそれは開かれた。まったくの予想外。

予知能力があるじゃなし、ボクサーでもない俺は、モロ顔面で扉を受け止めた。それを見て、

「ストライク!!」

滝の野郎がふざけた合いの手をいれてきやがった。コイツ、俺が例え目の前で事故にあって吹っ飛ばされたとしても、きっと今と同じようなふざけた合いの手で場を茶化すんだろう。間違いない。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#376 [ひとり]
にしても誰だよチクショウ!!!!顔面が凄さまじく痛いんですけどぉぉお!!!!!!てかもう、熱いんですけどぉぉお!!!!

あまりの衝撃にしゃがみこんだら、なんか涙まで出てきたし。最悪。

「すいません!大丈夫ですか!!?」

焦っているせいか、いつもよりやや張りのある声だけど、こりゃアイツだよ、うん、間違いなく100根岸だよ。

しゃがんだと同時に俯いたお陰で、顔を見なくて済むのがせめてもの救いか。

⏰:10/01/09 21:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#377 [ひとり]
「大丈夫・・・」

「顔、見せて下さい」

「・・・本当に、大丈夫」

「いいから」

「ちょ、マヂやめろ…」

顔の無事を確認しようと隣にしゃがみ覗き込んでくる根岸。

近いって。

「いいから、見せて」

⏰:10/01/09 23:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#378 [ひとり]
顔を庇うように巻き付けていた両腕をとられて、力ずくで顔を上げさせられた。

ホラァァア!!!!近いんだってば顔がぁぁあっ!!!!

「あ」

あ?

「鼻血」

「え、嘘」

言われてから遅蒔きながら気付いた、鼻下にスウッと微かに感じる生暖かさ。そこに手を当てれば指先の濡れる感触が。

「血だな」

「はい、血です」

⏰:10/01/09 23:51 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#379 [ひとり]
「血だねぇ、おぉ、鼻栓しろ鼻栓」

滝もいつの間にか側に来ていたらしい。面白がる声色に変わりはないけど、ポケットティッシュを差し出してきた。

なんだかんだ言っても、こういうとこ気がきくじゃねぇか。

「悪り」

素直に受け取って素早く抜き取ったティッシュを鼻に詰める。

やべ、ちょっと地べたに垂れたな。

見るとコンクリに点々と血痕が落ちていた。後で水かけて流さなきゃ。

⏰:10/01/09 23:54 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#380 [ひとり]
そんなことをぼんやり思いながら、グレーに映える赤に目を奪われて。

「立てますか?」

「ん、あぁ」

根岸の声で我に返った。

「鼻、折れたりしてないですよね」

言われて恐る恐る鼻を確認してみたら、よかった。

「骨はいってないくさい」

「そう、ですか」

心底安堵した様子。大袈裟だな。確かに目から星が飛び出る程度には痛かったけど。え、表現が昭和っぽいとか言わせねぇよ?

⏰:10/01/10 16:34 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#381 [ひとり]
「本当にもう大丈夫だから、滝、悪りんだけど」

「あいよー」

『消毒したい』って言おうとしたら、滝は察して足早に店の中へ消えて行った。やっぱこういう時は気が回る。さっき心の中で主張した前言は、撤回してやろう、うん。それから

「根岸、もういいって」

まだ横でこちらの様子を伺っている根岸の顔が何か言いたげだから、心からの『もういい』でそれを止めた。

そんなに謝られたって逆にこっちが気ィ使うっつーか。相変わらず位置が近いっつーか。

俺はじりじりっと微妙に根岸と距離をとる。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#382 [ひとり]
「じゃなくて三田さん、俺」

「なに?」

どうしよう。今更だけど、昨日あれだけツンケンした態度で避けていた相手とまともに会話してる自分に気付いて、なんかバツが悪い。そんな俺の胸中なんか知る筈もない根岸は、いけしゃあしゃあとこう言った。

「しつこいって思うかもしれませんけど、やっぱ俺納得いかないんで、今日残って下さい」

納得いかないって・・いやいや待てよ。何が納得いかないって?テメェは彼女できてウハウハなんだろ何ほざいてんだマヂで。意味わかんね。

今の俺、エベレストと張れるくらい沸点低いみたいだわ。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#383 [ひとり]
「しつこいって言われんのわかってんなら、そゆこと言うのやめたら?」

「・・・・・」

黙った根岸をその場に放置して、俺は逃げるように店に入った。ぶつけた鼻と、あとなんか左胸に圧がかかったみたいにぐぅっと痛い。

早くこの鼻、滝にマキロンで消毒してもらお。完全皮剥けてんだろコレ。でもこっちの痛みは・・・

黒いスタッフTシャツの胸の辺りを、乱暴に鷲掴んでごまかすのが精一杯だ。

⏰:10/01/10 16:40 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#384 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第二十一話、完結。
鼻を強打した三田と、させた根岸。空気読めてんだかいないんだかの滝でしたぁー。

滝はマイペースなチャランポランで、いつも隙あらば三田をからかってあそんでいます。

⏰:10/01/10 16:43 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#385 [ひとり]
【第二十二話/お冷やだけ注文してきた時は後回しが鉄則】


また逃げられてしまった。

「・・・・はぁ」

ため息しかでてこない。せっかく思いを伝えたのに、少し距離が近くなった気がしたのに。

近づいたと思った次の瞬間にはまた遠のいている。

気付かない程無意識のうちに。

「俺、何やらかしたんだよ・・・」

⏰:10/01/12 01:16 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#386 [ひとり]
見当も付かないが、昨日弘さんの二者面談(?)で半端はしないと宣言した手前、引くわけにはいかないし、もちろんそんな気毛頭なかった。


────
──────


今日一日もまた無事に終わろうとしている。深夜一時。常連の客がなかなか帰らなかったから、まだ暫くは締めに時間がかかりそうだ。

⏰:10/01/12 01:17 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#387 [ひとり]
三田さんが先に帰ってしまわないように、動きをちょこちょこ目で追いながらの作業。ちょうど床を掃いている時、ケツポケに突っ込んでいた携帯がバイブした。

こんな時間にメールをよこす相手なんて、限られてくる。仲良いダチか、或いは───


from:アキ
─────────

まだ仕事〜?

──end─────


「だと思った」

⏰:10/01/12 01:18 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#388 [ひとり]
思わず零れた独り言。

おそらく、毎度のことながら勝手に作った合い鍵で勝手に俺んちに上がり込み、いつの間にか勝手に持ち込んでいた部屋着にでも着替えて待っていたが、帰ってこない事にしびれを切らせて連絡をしてきたんだろう。

俺は素早く返事を返した。


──今日はまだ当分かかる。自分ち帰れ。──


送信。

⏰:10/01/12 01:19 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#389 [ひとり]
するとまた、間髪入れずに返信が。


──はぁ〜い──


内容はそれだけ。絶対にごねて意地でも待ってるとか言われると覚悟していたので、少し拍子抜けだが、これならこれでありがたい。

もう返事は返さずに、そのまま携帯をしまう。残りぶんの掃き掃除に戻ろうと顔を上げたら、思いがけず三田さんと目が合った。が、直ぐにそらされて

「・・・・・・・・」

今日は逃がさない。必ず話をつけてやる。必ず。

俺は強い決意と共に箒の柄を握り直した。

⏰:10/01/12 01:20 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#390 [ひとり]
─────
───

それから実際締め作業が完了したのは深夜二時。売上が合わないと三田さんが言い出した事で、幾分か余計に時間をくったが、そのお陰というか、自然な感じで一緒に残る事ができた。

今いるのは、三田さん、弘さんと俺。これなら何の遠慮もなく、三田さんを引き止められる。

「ひゃー合った合った、とっとと閉めるべ」

弘さんの一声を合図に、三人三様鞄を手に出口へ向かった。

「今何時根岸?」

「っと・・・二時半過ぎですね」

「マヂで?うっわ勘弁しろよ三田」

「俺じゃねーよ!誰だか知んないけど釣り銭間違えたソイツが悪い」

「店長のくせに無責任だなお前・・そう思うよな根岸」

「いや・・」

「ひろむこそ自分の肩書き棚に上げてんじゃねぇよ経営"責任者"が聞いてあきれるわ」

「わかってないねお前は、責任者として俺はお前に一任してる訳だからさ」

「一任つぅか、転嫁じゃね?」

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#391 [ひとり]
ヤバい。このままじゃなんか流れ的に三人で帰る感じじゃね?しかも俺チャリで、二人は歩きっていう・・・

内心で若干焦っていると、弘さんはシャッターを下ろした店の前で言った。

「あ、俺今日バイクだから、お疲れ〜」

それは見事な早業。止める隙もなく。俺と三田さんは走り去る弘さんの背中に『お疲れ様』の声も掛けられずにただそろって

「「え」」

と発する事しか叶わなかった。

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#392 [ひとり]
横にチラと視線をやれば、弘さんが走り去った方向にまだ目を向けている三田さん。『聞いてないよ』って顔に書いてある。

ありがとうございます。
弘さん。

俺は弘さんが敢えて一人先に帰った事を確信して、胸中で感謝した。昨日の甘酒の事もあるし、今度煙草の一箱でも奢らなくては。

⏰:10/01/12 21:06 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#393 [ひとり]
そうしていよいよ二人きりになってみれば。

やっぱ緊張すんな。

覚悟を決めていても、好きな相手に冷たくあしらわれるのはやっぱり応える。早く教会へ行って冒険の書に記録したいって思うくらいに、HPは消耗してるんだ。

それでも今何か言わなきゃ逃げられてしまうかもしれないこの状況で、俺に残された選択肢なんて、一つしかないのもわかりきってる事実だから。俺は意を決して話しかけ──


「ぐはっ!!?!!??」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#394 [ひとり]
突然だった。

ただでさえ腰にくる立ち仕事を日々やっている俺の、正にコアである腰に真後ろから、本当に突然、何かがぶつかってきた。

否、抱き付いてきた。が正しいか。

「来ちゃった!!!!」

振り向かなくたって声でわかる。

「なんでお前がここにいんだよ」

「実はね、サークルの子達と飲んでて終電逃しちゃってさぁ、だからさっきメールした時も、実は帰ってる途中だったんだよね〜」

「それで?」

「それでって・・・・だから一緒に帰れるんじゃないかな〜って思って来たの!!」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#395 [ひとり]
『ピッタリだったでしょ』とはしゃぐアキ。コイツはなんだってこういいところに・・・

「いいから先帰ってて」

「えー何でよわざわざ寄ってあげたのに」

「頼むから・・・」

もうこれは何かもので釣るしかないようだ。

「プリクラ」

「え?」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#396 [ひとり]
「撮ってやるから」

プリクラ、正式名称をプリント倶楽部。俺がまだランドセルしょってた時分に登場してから現在に致るまで、根強い人気で新機種が続々と登場し続けてる。

自分の顔をシールにして何が楽しいのか。俺からしたらその感覚はさっぱり理解できないんだが、アキはどうやら漏れる事なく好きらしい。

以前から撮ろう撮ろうとしつこくせがむのを、そればっかりはと拒否し続けてきた訳で。

「え、マヂで本気!!??」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#397 [ひとり]
それをすんなり手のひらを返したもんだから、『マヂ』と『本気』が同義だって区別もつかないくらいに喜んでくいついてきた。

かかった!!!!

俺は糸が引いたその瞬間を見逃さず、素早くリールを巻いた・・・・ってのはものの例えで

「だから今は帰ってろ」

とすかさず要求したんだ。

⏰:10/01/12 21:10 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#398 [ひとり]
「えーいいけど今から一人で何すんの?」

「一人?」

おいおい何言ってんだよ。一人な訳ないだろ俺は今から三田さんに・・・




いない。

「あの横にいた人なら帰ったよ」

「帰った!?!?」

「うん、ダッシュで」

「ダッ・・・・」

⏰:10/01/12 21:11 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#399 [ひとり]
畜生。またかよ。

「大人のダッシュってなんかウケ・・てちょっとゆうちゃん!!??」

俺は店の脇に止めていたチャリに反射的に跨ると、乱暴にそれを漕いで三田さんの後を追った。

アキがなんか叫んでる声が少し遠くに聞こえたけど、今はそれどころじゃないんだ。

なりふり構わず立ち漕ぎ。
風のビュッビュッと切れる音を、断続的に聞きながら。


早く


早く


早く


頭の中で
何度も何度も繰り返した。

⏰:10/01/12 21:12 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#400 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

いよいよ!!!!ってところでアキ登場(`∀´)

またも三田は逃げました。しかもダッシュで。
追う根岸逃げる三田。そして置いてきぼりのアキ。なんかもう、皆、ドンマイだよ!!!!は

⏰:10/01/12 21:43 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#401 [ひとり]
【第二十三話/エイヒレは長くしゃぶったもん勝ち】


ハァ──ハァ──ハァ──

「どんだけ足速いんだよ」


慣れない立ち漕ぎに上がった息で呟いた。いっても相手は生身でこっちはチャリだ。全力で漕げばすぐに追い付くだろうと践んでいたのに。

「見つけた」

煙草ばっかぱかぱか吸って体力なさげな三田さんは、予想以上の健闘を見せて。その後ろ姿を視界に捉えることができた頃には、こっちの体力が尽きかけていた。

⏰:10/01/14 01:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#402 [ひとり]
煙草ばっか吸ってるのは三田さんばかりじゃないって事か。

『もうここまで来れば─』とでも思ったのだろう。呑気にテクテク歩くその後ろ姿に向けて、俺はラストスパートをかけた。


「三田さん!」

あぁ、漕ぎながら大声出すと脇腹が痛い。

呼び掛けに振り向いた三田さんは俺の姿を認めると、口が『げ!!』という形に動いた。

『げ』じゃねんだよもう逃がさねぇぞ。

⏰:10/01/14 01:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#403 [ひとり]
ところが三田さんも粘り強いというか往生際が悪いというか・・

「あ、ちょっと!!!!」

今まで通って来たやや幅の広い道から、前動作もなくいきなり横道に入った。しかもまたダッシュで。

なんなんだあの人は。

昔はやんちゃしてましたとか言いながら、実は真面目な陸上部員だったんじゃないかと疑ってしまう。

もちろん自分も後を追うべくすぐその脇道に入ろうとした。したのだが。

⏰:10/01/14 01:22 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#404 [ひとり]
「うおっ!!!」

咄嗟にかけたブレーキで直撃は避けたけど。

「っぶねー。」

前輪からやや強い衝撃が、ハンドルを握る両手を始めとして全身に伝わってくる。三田さんが何の考えもなしに飛び込んだと思ったそこには"自転車・バイク進入禁止"と掛かれたポールが、道のど真ん中に鎮座していたのだ。

⏰:10/01/14 01:24 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#405 [ひとり]
「あぁ!!もう!!!!」

俺はヤケクソ気味に自転車をその場に捨て置いて、ポールを飛び越え三田さんの後を追った。

そこは細く長く、道と呼ぶにはあまりにお粗末で、民家と民家の間に辛うじてできた"隙間"と言ったほうが正しいような、碌に舗装もされていない道だった。

⏰:10/01/14 01:28 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#406 [ひとり]
塀に囲まれて日の当たらないそこは所々ぬかるんでいる。足を捕られながらそれでも俺は、前へ前へと足を動かした。

随分長い。

ひたすら続く一本道に、このままどこまで続くのだろうと思った矢先。俺の視界の真ん中に、白っぽい点が現れた。


出口だ。

おそらくあの白いものは街灯の光。その点めがけて走った結果。やはり新しい道にでた。

ちゃんと街灯で照らされて、舗装された道らしい道。

⏰:10/01/14 01:36 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#407 [ひとり]
そこは正面がどん詰まりで、左右ニ岐に別れたT字路になっている。

三田さんが行ったのは、右か。それとも左か。

左右に忙しなく視線をさ迷わせていると、右側の道。ここからじゃ死角になっている曲がり角の先から、『ゴッ』と物体と物体がぶつかり合う硬質な音が、俺の鼓膜に届いた。

真夜中で、辺りになんの物音もしないこのコンディションだからこそ聞き取れた。それくらいに地味な音でもあった。

⏰:10/01/14 01:39 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#408 [ひとり]
俺は反射的に音のした右道を選び、一つ目のコーナーを直角に曲がった。

そうしてようやく。

「・・・・・あの・・三田さん?」

ようやく捕まえた目当ての人物は、何故か曲がって直ぐに突っ立っている電柱の前に小さくうずくまっていて、声をかけると丸めた背中がビクッと反応した。

「大丈夫なわけねぇだろ!」

振り向いた顔。初見のポジショニングからして想像はできていたんだけど。

⏰:10/01/14 01:41 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#409 [ひとり]
「今日は顔、よくぶつけますね」

ちゃんと"今日の占いカウントダウン☆"見てきたんですか?

場を和ませようと続けた台詞が、今の三田さんには相応しくなかったらしい。

しゃがみ込んだまま上目使いで睨まれた。丁度いい角度で街灯に照らされているその目尻には痛さのせいか、もしくはついていない今日の自分に嫌気がさしてか、やや涙が滲んでいた。

⏰:10/01/14 01:43 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#410 [ひとり]
ついでに言えば、満腹堂の裏口で俺が勢いよく開け放った扉に鼻をぶつけた時、"応急処置"にかこつけておもしろ半分で滝さんが無理やり三田さんの鼻頭に貼り付けた絆創膏も(貼った本人はその姿を指差して『昭和のガキ大将』だと笑った)、電柱に再度ぶつけた衝撃でなんだか微妙にポイントからずれていて。やや右上がりにくしゃりと皺がよってしまったその下からは、薄ピンクのちょっと痛々しい傷口が覗いていた。

三田さん自身、己の鼻の上にへ貼りついている絆創膏が、もう何の役割も果たしていない事がわかったようで。俺を睨む目の強さは保ちながら、ペリとそいつを剥がしてお役御免だと地べたに投げ捨てた。

⏰:10/01/14 21:14 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#411 [ひとり]
「お前が追っかけるからまた顔ぶつけただろ」

いつもよりも低くかすれた声で三田さんがボソッと不満を漏らす。

そんなん言ったって

「今のはただ単に三田さんがセルフで起こしたアクシデントでしょ、俺関係ないですよ」

「関係ある、大あり」

「てか本を正せば、三田さんが俺から逃げるのがいけないんじゃないですか」

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#412 [ひとり]
「な・・・・テメェが・・」

話の流れとして返したその一言に、なにやら今までとはちょっと違う反応が返ってきた。が、よく聞き取れない。

「はい?」

散々避けられていた鬱憤から苛立ちを含んだ声で聞き返すと、三田さんは突然凄い怒気を放ちながら、俺を怒鳴りつけた。

「先に逃げたのはテメェだろ!!!!!!」

意表を突いたその怒声に、俺の体は自然現象として一気に粟だった。

こんな風に怒鳴る三田さんを見るのは、初めてだ。

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#413 [ひとり]
「・・・・・・・・俺が?」

怒鳴られた事に対しては正直驚きを隠せない俺だったが、それより何より聞き捨てならない台詞だ。

逃げた?先に?何から?

「あんた何言って・・・」

「っるせぇ!!先に背中向けたのはテメェだ!!!!それを今更とやかく言われる筋合いはねぇっつってんだ!!!!」

今は一体何時なんだろう。目の前のこの人の怒鳴り声は、騒音被害だって警察に届けられても文句は言えないぞっていうボリュームだ。

そしてそれだけに留まらず、三田さんはまた信じられない行動に出た。

⏰:10/01/14 21:16 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#414 [ひとり]
「もう今更俺に構うな!!」

捨て台詞としてそれだけ言うと、脱兎のごとくまた駆けだしたのだ。

「ちょ、三田さん!!!」

当然俺はその後を追った。ここまで来て、あんな意味のわからない事言われて、『はいそうですか』なんて引き下がれるか。

にしても俺達こんな事ばかり、もう何回繰り返してるんだ。

こんなに好きなのに。

逃げないでよ。

俺はなりふり構わず全力で走った。

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#415 [ひとり]
今まで通ったこともないような場所を道から道へ。右へ左へ。

多分三田さん、俺をまくために自分でもわからないで滅茶苦茶に走ってるんだと思う。

にしても速いな。なんなんだよその脚力は。

少しでも気を抜けば、見失ってしまうだろう。


「三田さ・・・・待って!!!!」

「待たない!!!!」

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#416 [ひとり]
「ちょ・・・マヂで・・・話聞けって!!!!」

「タメ口きくな!!!」

距離を詰められず、一定距離を保ったまま走り続ける。

「お願いだから!!!!」

「来るな!!!!」

クソっ脇腹痛ってぇ。

「逃げんな三田コラァ!!!!」

「テッメ・・・!!呼び捨てしてんじゃねぇ!!殴られてぇのかコラァ!!!!」

大声上げながら全力疾走する俺達は、きっと端から見たら異様な二人なんだと思う。

⏰:10/01/14 21:18 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#417 [ひとり]
「上等だ・・こいよ三田ぁぁあ!!!!」

売り言葉に買い言葉。
すると三田さんはピタッと足を止め瞬間こちらに振り向いた。

「え?」

まさか止まるなんて思ってなかったから。"車は急に止まれない"。"根岸も急には止まれない"。勢いのついている俺は、立ち止まった三田さん目掛けてグングン距離を縮めた。そして遂に───



「ぐっ───!!!!?」

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#418 [ひとり]
浮遊感。

スローモーションで展開する視界。

脳みそを直接掴まれて揺さぶられたような衝撃。



あ、俺殴られた。



それに気付いた時、俺の体は冷たいコンクリの道路と仲良しになっていた。

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#419 [ひとり]
それから遅れて、左頬にぐっと熱が集まるのを感じた。

うわぁ〜口ん中絶対切れてるってコレ。

横っ飛びに倒れ込んだ地面に唾を吐けば、予想通り。街灯の光を受けた唾液に混ざって、赤いものが目について。

⏰:10/01/14 21:53 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#420 [ひとり]
カッとなった俺はゆっくり立ち上がると、対峙した三田さんの右頬へ、めり込む程のパンチを見舞った。

ゴッ

骨と骨のぶつかり合う音。


「っ──痛てぇだろコラ」

流石と言うか何というか。体格差からみたら俺が断然優位な筈なのに、三田さんは拳の衝撃をまともに喰らっておきながら、ぐらつくだけに留まった。

⏰:10/01/15 09:09 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#421 [ひとり]
そして

「しつけんだって!」

ゴッ

また喰らわされた。三田さんの一発は重い。

だから俺も

「話し聞けっていってんだろ!!」

ゴッ

同じ箇所を続けざまに殴ったら、さっきよりやや応えたようだ。

「だから今更逃げた奴が調子いんだよ!」

ボッ

脇腹をいかれて、少しむせた。

「ゲホ・・いつ俺が逃げたんだ!」

⏰:10/01/15 09:10 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#422 [ひとり]
ボッ

俺も正面からボディーに一発ぶち込んだ。

「ゴホッ、ゲホ・・お前さ」

痛みやり過ごすように中腰姿勢で両膝に手をついた三田さんは、真下に視線をやったまま言った。

「彼女できたんだろ?」

「は?」

いつ俺に彼女が?"明太にぎりだと思ったら中身がツナマヨだった"ってくらい予想外で、俺は構えていたガードを下ろした。

そこへ

「隠したってもう知ってんだよ!」

ゴッ

また一発。
油断したせいで、簡単によろけた俺は、尻餅ついて尾てい骨を強か打った。

⏰:10/01/15 09:11 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#423 [ひとり]
「っ───」

痛すぎて声がでない俺の腹の上に、乱暴な動作で馬乗りになった三田さん。

「お前が!!」

「好きだって!!」

「言った!!」

「くせに!!」

「やっぱ!!」

「女が!!」

「いいん!!」

「だろ!!」

言葉と言葉の間に飛んでくるパンチを、左右の頬にモロに喰らいながら、


やべぇ、殴り殺されるかも。


とかリアルに思った。
それから


三田さんになら、それもありかも。


とも思った。

⏰:10/01/15 21:54 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#424 [ひとり]
それから

でもやっぱり殺されるんなら、その前にちゃんと伝えたいって、思い直して。



「好きだよ」



殴られながら言ったその台詞は酷く弱々しくて、不格好で、なんか薄っぺらに聞こえた。

それでも、それは三田さんの耳にも届いたようで。順番に振り下ろされていた両腕は、ぴたりと動きを止めたんだ。

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#425 [ひとり]
「殴られすぎて幻覚でも見えてんの?」

鼻から息を抜くようにして、三田さんは『はん』と俺を嘲笑った。

「違う、幻覚なんか見てない」

「俺は茶髪の巻き髪した覚えも、白いブリブリなコート着た覚えもねぇ」

「え、何それ?」

「白々しい、さっき店に来ただろ!!」

「さっき・・・・え、何が?」

ゴッ

また殴られた。

「だから彼女が来てただろ!!!!」

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#426 [ひとり]
さっき来た───

茶髪の巻き髪────

白─────

ブリブリなコート───



頭の中で少しずつ言葉のパーツを集めて。



彼女─────


組み立てて。


彼女──────


組み立てて。


かの・・───────え?




「えぇぇぇぇぇえ!?!?!?」

⏰:10/01/15 21:57 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#427 [ひとり]
「うっせぇな!何だよ急に!!」

「え、ちょ、マヂえ?彼女?アイツが・・ちょ、ムリムリムリだよマヂ冗談キツいって、っていうかなんでアキ・・え、本当に、え、えぇぇぇぇぇぇえ!!!???」

突然雄弁になった俺に、やや怯む三田さん。

「何だよマヂ意味わかんねぇよ!彼女なら潔く彼女だって認めろ!!!!」

「いや、それはできません」

俺はノーの意思表示に片手を胸の高さに挙げた。

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#428 [ひとり]
「どこまでも往生際が悪・・・」

「従兄弟だから」







「は?」


再び振り上げにかかっていた三田さんの腕の動きが、中途半端な位置で止まった。

「何、言って・・・」

「アキは従兄弟だから、彼女にはできないです。てかその冗談キツいです」

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#429 [ひとり]
何だ、そっか。
そういう事なのか。

だから俺が"逃げた"って。


頭にかかっていた靄が、一気に晴れていく感覚。


「だから幻覚じゃないです。ちゃんと見えてますよ、三田さんが。ちゃんと・・・・俺の好きな人が」

「根岸・・・」


やべ、ちょっと今のは臭かったかな。


でもこの雰囲気は言っとくべきだろ。

だってつまりアレでしょ?
これ、ヤキモチでしょ?


そう気付いた途端に。口に広がる血の味も、腹の痛みも、殴られすぎてつっぱる顔の感覚も、その一つ一つが"証"みたいで。

ヤバい、凄げぇ嬉しい。

⏰:10/01/16 08:35 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#430 [ひとり]
もう感情が止めどなくて、喉がムズムズする。

「ごめん、誤解させて。俺マヂ三田さんだけだから。あんたしか見えてないから、だから・・・ごめんね」

アキが彼女じゃなかった事が余程信じられないのか、三田さんは口を半開きにしてキョトンとしていた。

「三田さん?」

名前を呼びながら、さっき殴ってしまった右の頬にそっと触れた。

⏰:10/01/16 08:36 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#431 [ひとり]
三田さんは俺の手の感触で我に返ったようで、馬乗りのまま俺を見つめた。その瞳にみるみる水の膜がはって、ゆらゆらと揺れる。決壊は近い。

「・・・・・俺・・・ごめ・・・」

喉を震わせながら。真っ赤になった顔で俯けば、前髪の隙間から大粒の雫がポタポタと俺のカットソーに染み込んでいく。

「・・ごめん・・・ごめ、根岸・・・・ごめ」

⏰:10/01/16 08:46 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#432 [ひとり]
さっきまでの猛々しい姿が嘘のように、小さくなってしまった三田さんは、さながら借りてきた猫。

声は出さずに、静かに肩を震わせて泣いた。

「ごめん・・・ごめんなさ・・・・」

「三田さん」

「俺・・・・ごめ・・・・ん・・」

「三田さん」

俯いて、謝るばかりの三田さんの顔を両手で包んで上げさせた。

⏰:10/01/16 08:51 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#433 [ひとり]
「俺こそごめんなさい」

目を見て言うと、真っ赤な顔がくしゃっと歪んだ。

なんだよコレ反則だろ。毎度毎度の反則技は心得ていたけど、こんな風に泣かれたら。

「・・岸、くるし・・・」

俺は力任せに三田さんの身体を抱き締めた。

モコモコしたダウン越しにも、三田さんの姿形を感じて。その華奢な形を、もっと感じたくて、更に力を込めた。

初めての抱擁。

⏰:10/01/16 09:02 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#434 [ひとり]
初めはぎゅうぎゅうと俺が締め上げているような一方的なものだったが、気付けば自分の背にも同じように腕が回されていて。無言で込められる力に、抱きしめ返されてるんだとまた嬉しくなる。

互いの肩上に顎をのせるように抱き合ったまま、俺は少し調子に乗ってみた。

「三田さん」

⏰:10/01/16 20:50 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#435 [ひとり]
「ん?」

泣いたせいで『ん?』が若干鼻声なのがいい。

「言って下さい」

「え?」

『何を』って顔に書いてある。そういう分かり易いところもいい。

「俺はもう、何度も言ったよ」

「・・・・・・」

あと、赤面症だったんだ。って新しい発見もあった。

「三田さんも同じなら、言って下さい」

何を言われてるのか、飲み込んだようで。

⏰:10/01/16 20:53 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#436 [ひとり]
「お〜・・・お、お前が・・・」

「・・・・・うん」

「俺はその〜つまり〜・・・・・なんだ」

「・・・・・うん」

「〜〜〜〜だぁぁぁあ!!!!恥ずい!!!根岸ヤバい!!!!俺今中三でオネショした時以上に恥ずいんですけど!!!!」

「・・・・・うん、そういうもんだと思います」

⏰:10/01/16 20:59 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#437 [ひとり]
「へ?」

「恋愛って、そういうもんだと思います。恥ずかしくって、みっともなくって、それでいいんですよ、きっと」

「・・・お前今日、よく喋んのな」

「はい、殴り合いと抱擁で今、アドレナリンどっぱんどっぱん出てますから」

「どっぱんどっぱんてか、ザッパンザッパンじゃね?」

「いや寧ろ、ズッキュンバッキュンて感じですね」

⏰:10/01/16 21:06 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#438 [ひとり]
「マヂでか」

「はい、マヂっす」

「俺もだわ、さっきの殴り合いと・・・あと、お前が好きすぎて、ズッキュンバッキュン」

「今・・・・」

今言った。確かに聞こえた。"好きすぎ"だって。

三田さんは照れ隠しのためか『つぅかズッキュンバッキュンてなんだし!!』とデカい声で一人ツッコミ。

あぁどうしよ。

⏰:10/01/16 21:11 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#439 [ひとり]
三田さんが俺のために赤面している。俺のために、いい年こいて、なんかもじもじしている。

オッサンのくせに、オッサンのくせに・・・・

「あぁぁぁあ!!!もうダメだあんた可愛いすぎなんだよチキショォォオ!!!!」

「うおっ!!!何だよデカい声だして」

「うん、気持ちが振り切っちゃいました、キスしていいですか」

「お前、ムードもへったくれもねぇな」

三田さんは、俺の突然の申し出に呆れ半分に笑った。

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#440 [ひとり]
「男同士なんだから、遠慮してるだけ損でしょ」

「違いねぇ」

そして二人で笑った。

「じゃ、しますよ」

「ちょ、バカやめろ"しますよ"とか、中坊のファーストキスじゃあるまいし」

近付けようとした顔の左頬をぐんと手のひらで押し退けられて、上体がダイナミックに後ろへ反った。

「痛い痛い痛い腰きてるから!腰にヤバい影響が及んでるからコレ!!」

「あ、悪り」

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#441 [ひとり]
三田さんは慌てて手のひらを引っ込めた。

「だってお前が恥ずかしいこと言うからだろ」

眉を少しつり上げて怒ってみせるけど、それがただの照れ隠しってことは、容易に見て取れた。

「さっきも言いましたよね、恋愛はそういうもんだって」

「そうだけど・・・」

⏰:10/01/17 16:20 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#442 [ひとり]
「恥ずかしい今の状況を楽しんで下さい」

「・・お前って、よくわかんない奴だな」

「そうですか?俺は今最高に楽しんでますけど、てかファーストキスなんて目じゃないくらい、今のほうが恥ずかしいし、ドキドキしてますよ」

これは本音。実際中一の時一個上の先輩としたファーストキスは、彼女がして欲しそうだったからしてやったぐらいの感覚だったし。

⏰:10/01/17 16:21 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#443 [ひとり]
こんな風に自分の感情が動かされるなんて、一度だってなかったんだから。

「「・・・・・・・・」」

三田さんは俺の言葉を聞いて、静かになった。嫌じゃない沈黙。それから

「よしこい!」

『よしこい』って。ちょっと吹き出しそうになったけど、そこはぐっと堪えた。

「失礼します」

「・・・・・・・」

「あの、できれば目」

「・・・・あ、そっか」

⏰:10/01/17 16:23 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#444 [ひとり]
力一杯に目を瞑る三田さんと、徐々に距離がなくなっていく。


30p・・・・15p・・・・10p・・・・5p

















⏰:10/01/17 16:30 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#445 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ついにくっつきましたお待たせしました!!

初めての抱擁と初めての接吻。まぁチューの辺りはご想像にお任せします←

恋愛はこうでなければ!恥ずかしくみっともなく必死なんです!!と、自分の勝手な意見を全面に出させていただきました。

チューもっと詳しく見せろよってご意見あれば、感想番にリクも受け付けます。が、基本こんな感じです。ぴーや

⏰:10/01/17 21:31 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#446 [しら☆たま]
やっとくっつきましたね!わくわくどきどきしました(*^ω^*)
これからどうなるのか楽しみです!
頑張って下さい!

⏰:10/01/17 22:27 📱:P03A 🆔:Yn1CqGvg


#447 [ひとり]
>>446

しらたまさん

初めまして、コメありがとうございます(^ω^)

本当にやっとって感じで、お待たせしました(笑)

よければ総合の感想板にも遊びきて下さい\(^Д^)/これからも根岸と三田をよろしくです

⏰:10/01/18 09:15 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#448 [ひとり]
【第二十四話/ホール回しはおてのもの】


根岸が女の子と腕を組んで登場したあの日、目撃してしまった俺はむしゃくしゃして。むしゃくしゃしてる自分に気付いてそれが益々俺のむしゃくしゃっぷりを増長させた。

だから夜、暇だったし機嫌悪かったし、早めの店仕舞いを主張した。もちろんひろむにダメって言われると思っていたら、すんなり快諾されて正直驚いたけど、それならしめたもんだ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#449 [ひとり]
きっとこのむしゃくしゃは嫉妬だ。確信していた。何に対してってんなもん決まってんだろーが。俺を好きだなんてほざいてフェイントかけた隙に、一人ちゃっかり彼女ができた根岸に対してだ。

俺なんか女っ気0なのに、毎日男子校みてぇな満腹堂で仕事して、休みは仲間と草野球。それもなければパチかスロット。なにこのカサついた日々・・・・思い返しても切なくなってくるわ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#450 [ひとり]
おかげでうちのジュニアも寂しがってますよ。どうしてくれるんですかコレ。考えてみれば去年の秋ぐらいから俺、一人でしか・・・あ、ダメダメダメ、マヂで泣けてくる。

となればもう、早く店を締めたそんな日に向かう先なんて一つだろぅが。

「お疲れさーん」

「おつー」

皆口々に言って、それから『どうする?』『べぇやんち?』なんてアフター10のご相談。

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#451 [ひとり]
お前らはそればっかりか!!

今いるのはひろむと長谷部と滝。根岸はもちろんさっさと帰った。チッ、抜け駆け野郎が。どうせ彼女とちちくりあうんだろ、勝手にやっとけ。

「オイオイもっとたまには発想変えてこーぜ」

俺の一声で、視線が集まる。すると滝が言った。

「じゃあ、根岸んち?」

「違っっっげぇえよ!!!!そういう事じゃねぇだろ!!!!まず"家"って発想は捨てなさい!!!!」

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#452 [ひとり]
「え、外で飲むの?公園とか?それはナシだわ〜」

べぇやんまで・・・

「"飲む"って発想も捨てて!!!!・・・いや、捨てなくてもいいか」

「どっちだよ!?!?」

ひろむがすかさずツッコんだ。そうだな、軽くひっかけてからってほうがテンション上がるかも・・・・

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#453 [ひとり]
「まぁ聞け、つまりだ。景気づけに軽〜く飲んでから、夜の町でお姉さんといいことしませんか?」

言ってて我ながらオヤジくさい下品な発言だと思った。でもこれくらいが丁度いいんだ。

俺の提案は効果覿面(テキメン)。コイツらも、どんだけしょっぱい性生活なんだか。

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#454 [ひとり]
それから俺達は立ち飲みの串カツ屋で本当に軽〜くひっかけて、ちょっとテンション上がったところでお姉さん達のもとへ向かった。

雑居ビルにネオンが眩しい街の一角。そこに地下へ下る細い急勾配の階段がある。入り口には陳腐な店名の周りに、これまた陳腐な光を放つ電球がくっつけられた看板が立っていて。俺達四人はその看板にハシャぎながら、地下へと降りて行った。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#455 [ひとり]
薄暗いホールに降り立つと、そこで好みの娘を選抜してそれぞれ指定の個室に通される。

こんな店来たの、どれくらいぶりだろ。一時期ハマって通ったことがあったけど、店の娘に病気をもらったっぽいことが発覚して以来、疎遠になっていた。てか今思えば、通うって行為自体なんか虚しいし。

過去のアホな自分を思って、ちょっとおセンチな俺。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#456 [ひとり]
部屋には既に女の子がスタンバイしていて、窓口のパネルで見るより実物はポッチャリさんだった。

年は・・俺より下だろう。プラスチック製の桶んなかに、たっぷり入ったピンク色の液体を、 クチャクチャとほぐしている。

「今晩は」

「今晩は」

「シャワー浴びます?それともすぐに始める?」

クチャクチャさせながら聞いてくる。上目使いがいきすぎていてちょっと怖いよ。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#457 [ひとり]
「じゃ、念のためにシャワー浴びます」

何で敬語なんだ俺。てかどうしよ、ちょっと面倒いかも。

でも金を払っちまった手前、元を取らなきゃやっぱ損だろ。

「それともあっちにマットひいてする?」

女の子はシャワールームを顎でクイッと差して、誘うように笑った。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#458 [ひとり]
「てか、本番も別で払ってくれたらしたげてもいいけど」

何をおっしゃってるんですかアナタは!?もっと体を大事にしなさいよ!!!

「いや、今日持ち合わせもそんなないから、本番はこの次にします」

「そう。じゃ、いってらっしゃい」

⏰:10/01/18 19:48 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#459 [ひとり]
言われて大人しくシャワールームに行き、ざっと洗って部屋に戻ると、女の子はつまらなそうな顔でまだローションをこねくり回していた。

遠目から見ると、料理してるみたいだ。

「おかえり、じゃ、始めよっか」

素知らぬ顔してこの娘は今日、何人の男共の相手をしてきたんだろ。いらない考えが頭をよぎる。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#460 [ひとり]
「本番しなければ、触ってもいいからね」

「あ、はい」

だからその上目使いが怖いんだってば。

俺はベッドに横たわり、女の子がその上に跨ってくる。

今自分が体を沈めるこのベッドに、何人の男が己の欲を吐き出していったんだ・・・ってまた余計なことを。いかんいかん。今は目の前のおっぱいに集中しよう。

取り敢えず、肩慣らしに右の乳房を揉んでみた。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#461 [ひとり]
───
─────

「いや〜久々だったぁ〜」

「俺今回当たりだったわ」

「マヂ?俺は悪かないんだけどイマイチ」

「とか言ってやることはやってるくせに〜」

「やらしー」

ひろむと滝とべぇやんが盛り上がってる。担当した娘のここがよかったあそこがおしかったでもまた指名して行っちゃおうかな云々カンヌン。俺はその輪には入らずに、一人微妙に距離をとって先を歩いた。

「オイ、三田はどうだったんさ?」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#462 [ひとり]
話に加わらない俺に小走りで駆け寄ったべぇやんが、肩を組んでくる。

「いや‥なんか俺・・・どうしよう」

気持ちが重たい。これは男としての危機かもしれない。

「なんどした?」

俺の落ち込みように、べぇやんがちょっと心配した声音で問いかけてきた。その後ろから、滝の声が。

「お前まさか、いかずじまいで」

「・・・・・・」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#463 [ひとり]
無言のYES。三人の間にどよめきが走った。

「え゙マヂどしたお前」

「まさかのイ〇ポかよ」

「言い出しっぺなのに」

三人のそれぞれ哀れむ声が、余計俺のテンションの下降に勢いをつける。

「だってなんか・・起たなくて・・」

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#464 [ひとり]
「酒飲み過ぎたんじゃね」

「疲れてたんだよな」

「波って誰にでもあるし」

あの滝まで、俺の失態をフォローしてくる。やめてくれ。益々情けなくなるだけなんだから。


「・・・・うん」

力なく返事をした。そんでさっきのことを思い返した。

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#465 [ひとり]
ベッドに横になって、おっぱいに集中しようとして、ちょっと揉んだりしてみて、そんで女の子がわざとらしくあはんあはん言って、下をくわえられて、上下上下。

雲行きが怪しくなって、女の子が『あれー?』とか『んー何でだろ』とか言いながら、プロとしてのプライドでどうにかこうに俺のジュニアの機嫌をとろうと奮闘したけど。結局ジュニアは眠り続け、時間がきちまった訳だ。

⏰:10/01/19 21:46 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#466 [ひとり]
去る間際、女の子の目が『マヂありえないって』と無言のメッセージを送ってきた。それは酷く白けきった表情で、でもいきすぎの上目遣いより何倍かましな顔に見えた。

てか、そんなん俺が言いたいさ。

「マヂありえないって・・・」

ボソッと零した一言は誰の耳にも届かずに、夜のネオンに吸い込まれた。

⏰:10/01/20 19:47 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#467 [ひとり]
ひろむ達は俺を励ますためか、はたまた久々の風俗で浮き足立ってか、よし飲み直しだとか騒いでいる。

横一列に広がって肩を組む。もちろん俺も強制的に参加させられ、ひろむに肩をがっしり掴まれて逃げられない。

すれ違う人は皆他人に無関心そうで、幅をとって闊歩する俺達に特に迷惑がる様子もなく、前から後ろへ通過通過通過。

⏰:10/01/20 19:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#468 [ひとり]
困ったことに母校の校歌をアカペラしだしたアホチントリオ。マヂでおやじくさいからやめて欲しい。

肩まで組まれて言い逃れなんてムリなんだろうけど、俺は関係なさげな顔で、歩き去る一人一人をぼんやり眺めていた。

こうしてすれ違うだけの人達にももちろんそれぞれの環境があって、立場があって、家族や恋人や仲間があって、悩みがあって。

⏰:10/01/20 19:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#469 [ひとり]
でもそれはこうしてすれ違っただけじゃ当然わからないことだし、相手だって俺が事を成せなかったってゆう残念な事実も、俺のやるせなさもわかりっこない。

皆、どっから来て、どこに帰るんだろう。家に家族がまってるのかな。可愛いペットがいるのかな。それとも恋人がいて・・・・

根岸も今頃、彼女と同じ布団にくるまって、あのデカい手で頭とか撫でてるのかな。

⏰:10/01/20 20:06 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#470 [ひとり]
あのちょっと見キツい目を緩ませて、見つめ合ったりしてるのかな。それから抱き合って・・・・

「ギャッ!!!!!」

「なんだよ三田、トカゲが潰れたみたいな声出して」

「トカゲって声でんの?」

「知んね、イメージだよ」

「ぐえ、想像しちゃった」


想像しちゃった。

⏰:10/01/20 20:12 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#471 [ひとり]
俺の奇声からとかげが潰れた話しにシフトチェンジした三人は、楽しそうに話し続けている。

お陰で俺の異変に、誰も気づかなかったみたいで助かった。

って何よ俺の息子ぉぉぉお!!!!!ちょ、マヂこのタイミングなわけ?このタイミングで起立しちゃうわけ??どんなよそれぇぇぇえ!!!!

想定外だよ、ライブ〇゙アの社長もビックリの想定外っぷりだよ!!

⏰:10/01/20 20:40 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#472 [ひとり]
気が動転した。

だってないだろ、さっき生の女の子と密室に二人っきりで、あんなにしてもらったのにうんともすんともなくて、

根岸と彼女のセ・・・セッ・・・・いや、まぁ、いいよ。

とにかくどうなってんだ俺の体は。何勃ちだよこれは。


⏰:10/01/20 20:48 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#473 [ひとり]
─────
───


「ふっ」

「何吹き出してるんですか?」

殴り合って、抱き合って、キスをした。

チャリを挟んで、横に並んで歩く。俺達の間に、チェーンのチャカチャカゆうリズムが刻まれていく。

「あれは、そうゆう勃起かと思ってね」

「ぼ、は?」

⏰:10/01/20 20:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#474 [ひとり]
根岸が近い。俺は気分がいい。

「いや、こっちの話し」

「気になるなぁ」

もうあと二時間もしないで、太陽が顔を出すだろう。このいい気分を持ち帰って、早く布団に潜り込みたい。

⏰:10/01/20 20:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#475 [ひとり]
それから


「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

「・・・・・・・うちで寝てく?」

「・・・・・・・うん」


それから、あの時の鈍感な自分に教えてやりたい。

「好きだからだよ」

「・・・え、なんて?」

「こっちの話し」

「なんですさっきから」

「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

⏰:10/01/20 21:02 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#476 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

くっつくちょっと前の三田のエピソード。

ただ風俗とか行っちゃう三田が書きたかっただけなんです、ばっちぃ話しですみませんね(´_ゝ`)

でも書いたら、スッキリしたした(´∀`)ぷはぁ←

⏰:10/01/20 21:08 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#477 [ひとり]
【第二十五話/やりかた変えますとか後のりのくせに】


─ストロベリーkiss─

『もう離さない』

『嬉しい』

それはそれは、甘くとろけるような────


ストロベリーkiss
fin





・・・ふーん。

⏰:10/01/21 20:03 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#478 [ひとり]
アキがうちに置いていった少女漫画を、パラパラとめくっていたら、それがどうも最終巻だったらしく、タイトル通りのストロベリーな感じのkissをして、完結した。

キスどころじゃないもんね。kissだもんもうね。国籍が違うじゃん。パリジェンヌじゃん。

こんなkissは一生無縁なんだろうけど、俺はそれで一向に構わなかった。

⏰:10/01/21 20:04 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#479 [ひとり]
ストロベリーなんて薄っぺらい味より、三田さんとした時の、煙草と血の味が混ざったキスの方がよっぽどいい。ていうか、それがいい。

毎回殴り合ってからキスなんて過激な事まさかできないけど、ファーストキスが血の味ってのも、新鮮でいいもんだ。

別に、変な趣味とかはないんだけど。

一生涯、忘れないだろうこれは。ってインパクトがあった。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#480 [ひとり]
痛みや傷はその内に消えて、跡形もなくなってしまうけど、この記憶だけは俺が死ぬまで残り続けるんだって思うと、自然と頬の筋肉も緩む。

三田さんも、同じ事思っててくれたら───

とか、乙女な自分。乙女座だけに・・・・なんかここ数日、俺はこんな調子でテンションがおかしい。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#481 [ひとり]
それに暇さえあれば、あの日の接吻を思い返して、今みたいににやけてたりする。

ただ、表情筋が未発達なのか、常人よりやや表情が乏しいらしい俺が軽くにやけたくらいじゃ、誰も周りは気付かないからまだ救われてる。

ノジコさんと長谷部さんには、顔つきが柔らかくなったと褒められたし。それは常ににやけてるからです。とはとてもじゃないが言えないけれど。

⏰:10/01/21 20:08 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#482 [ひとり]
『よしこい』って言ったあの人の唇に、自分のを重ねた。長時間外気にさらされたせいで、ファーストコンタクトはえらいガサついていた。軽く一発。

二発三発、唇を投下。

固く瞑った目と、緊張でやや上がった肩から、徐々に徐々に力が抜けていくのがわかった。

それから、当てるだけのキスから、ついばむように。

⏰:10/01/21 20:09 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#483 [ひとり]
角度を微妙に変えながら、何度もついばむ。

それから形を確かめるように、ちょっと舌で三田さんの下唇をペロッとしてみた。

三田さんの肩に、再び力が入った。それでも目は瞑ったまま。

今度は上唇を同様に舐める。

⏰:10/01/22 19:55 📱:F01B 🆔:7dLzZf/c


#484 [我輩は匿名である]
>>250-400
>>401-550

⏰:10/01/23 21:03 📱:D705i 🆔:.pYgbVdI


#485 [ひとり]
舐めれば舐めるほど湿って柔らかくなる唇。

その感触に夢中になっていると、ぐっと頭を捕まれて

「お前舐めすぎ」

「だって気持ちいから」

「変態め」

「今更」

⏰:10/01/24 11:26 📱:F01B 🆔:dvJHU/6.


#486 [ホシ]
アゲ・ω・

⏰:10/01/26 01:06 📱:Sportio 🆔:9dZ9XDpk


#487 [明希]
あげとく〜!

⏰:10/01/26 02:50 📱:W65T 🆔:WvV/vnzc


#488 [りんご]
あたしも
あげとく〜\(^∀^)/

⏰:10/01/26 11:44 📱:SH903i 🆔:lK0FKcTA


#489 [キム]
あげー( ´∀`)/~~

⏰:10/01/26 22:56 📱:P03A 🆔:Fb3ywn56


#490 [ひとり]
なんかちょっといい感じの雰囲気でその気になってた俺だったのに、三田さんの完全に全て無視した発言が、らしすぎると言うか何と言うか。

「そこは『あはん』くらい言っときましょうよ」

「口をペロペロされて『あはん』なんて、完全にただの淫魔じゃん」

「雰囲気ですよ、雰囲気」

「青いんだなーそうゆうとこ」

⏰:10/01/29 08:47 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#491 [ひとり]
「ちょっとくらい夢見たっていいでしょ」

「俺に対して夢を抱こうってその姿勢が先ず間違ってんだよお前さんは」

「・・・・ごもっとも」

「だろ?」

そうだよ今までも別に三田さんに夢見たことなんかなかったよ。そんな夢見る隙もない程リアルなあんたが強烈過ぎて。凄げぇ引力で俺をかっさらう本物のこの人に惚れたんだから。

「はい」

すると三田さんは不適に笑って見せて

「ならとっととこいよ」

俺の唇にかぶりつくようなキスをよこしたんだ。

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#492 [ひとり]
「はいそこまで!!」

「痛゙ッッ」

もう何度目かわからない回想に耽っていると、パンッと小気味いい音と同時にケツに若干の痛みが。ケツキック。

横に立っていたのは弘さんだった。

「お前いい加減その締まりのねぇ顔なんとかならんのかい」

そう言って緩みきりの俺の頬をぐっとつねった。

「ひおうはん、いはい」

「聞こえない」

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#493 [ひとり]
「いはい・・・ってば!やめて下さい」

忌々しい手を払いのけると、痛くもないくせにわざとたらしく目の前でふって見せた。

「一体あとどんくらい続くのそのニヤニヤ顔」

「別にいいじゃないですか、なんか雰囲気とっつきやすくなったってお客さんにも好評なんすから」

「お前らが良くても俺が気になってしょうがねんだよ、店ん中で二人も顔の弛緩した野郎がウロチョロしてると」

「え?」

⏰:10/01/29 08:49 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#494 [ひとり]
実はここ、満腹堂の店先だったりして。俺の手には箒とチリトリが握られてたりして。今はランチ前だったりして。

「それって」

言いかけたところで背中からかけられたやる気のない挨拶は、絶対間違うはずのないあの人の声で。

「はよーお前らサボってんなよ店の真ん前で」

振り向けばやっぱりあの人で。

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#495 [ひとり]
「邪魔すんな今根岸と内緒のいい話ししてたんだから」

「何それ気持ち悪っ」

ひろむさんとジャレながら、店に入る前に一瞬。

確かにこっちをチラ見したあの人の目が笑いかけてくれたから。

きっと同じ気持ちなんだって、わかっちゃったから。あぁ、弘さんすんません。

俺のこのニヤニヤ


「当分収まりそうにないっす」

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#496 [ひとり]
【休憩】

おはようございます、ひとりです。

スランプ気味でしたが、戻って参りました。
ひとりの不在中も上げて下さった皆様、マヂはんぱねぇ感謝にもうジャンピング土下座の嵐です。

なんかあんまチューシーンとか克明な描写が、力及ばずできませなんだ、申し訳ないです。殴って下さい←

⏰:10/01/29 09:00 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#497 [蜜柑ボウヤ]
よっしゃあ!!
目ぇ食い縛れぇッ!!!!←←

初コメなうえに失礼な発言御許しください。土下座

実はずーーーーっと読んでました!![壁]ω・*)


コメントのタイミングが掴めずで…。(笑)

これからも応援しています♪頑張ってください☆★

⏰:10/01/30 00:02 📱:P905i 🆔:hlMj6bTY


#498 [ひとり]
【第二十六話/追加注文】



「今日からお世話になります」


突然の事すぎた


「わからない事だらけなので迷惑かけちゃうかもしれませんが」


事前に一言くらいあってもいいんじゃなかろうかと思う


「よろしくお願いします」


何でこんな事になったんだ?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#499 [ひとり]
───
─────


最近店も調子がいいから、もう一人雇おうか。


弘さんと三田さんが相談するのを何度か耳にしていたのは事実だ。

俺のいる所から少し離れたホールの隅で、スタッフウェアに身を包んだ二人。片方が何事か言うと、もう一方は頷きながらマメに手元のペンを動かしている。

弘さんと、新米バイト。

いいじゃないか。確かにここ最近人手が足りずに困ってたんだし。

女だったら華もあるだろう。

でも、これは流石にないんじゃないか?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#500 [ひとり]
「根岸ー」

遠目に様子を窺っていた俺に、弘さんからお呼びがかかった。

その横にちょこんと佇む新米と揃って笑いかけられると、堪えていた溜め息がついでてしまう。

「なんです」

本当は予想をつけているのに、さも知りませんといった風を装い、二人のいる店の隅に近づく。


白々しいな、まったく。


「お前今日面倒みてやって」


やっぱりだ。


「はい、わかりました」


そう言う以外に術はないから。弘さんの指示に二つ返事ですんなり返した。

⏰:10/01/30 07:38 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#501 [ひとり]
『じゃあそういう事で』俺の役目は此処までと言わんばかりの態度で裏に捌ける弘さんに、明ら様な視線を投げつける。手元がライターで遊んでいた。


一服しに行く気だな、ちくしょー俺も吸いたいのに。


思っても叶わないこの状況だ、仕方がない。俺は背を向けていた現実を振り返った。


「で、何で此処にいる」

「どうこのスタッフT似合う?」

「俺の質問は無視か」

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#502 [ひとり]
「だってゆうちゃん最近遊び行ってもいない時あるし」

「俺にだって用事の一つや二つあるんだよ」

「一つ二つどころじゃないじゃん、朝帰りばっかりして」

母親のような口調にうんざりする。確かに女の一人暮らしは物騒だし、夜中一人で心細い事もあるだろうと思う。だからって、自分の恋人を蔑ろにしてまでかまってやれる程、俺の根はお人好しにできちゃない。

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#503 [ひとり]
「・・・・とにかく」

それ以上、母ちゃんの小言のような不満を吐き出されてはたまらないので、俺は無理矢理な軌道修正を図った。

「今日からお前も此処のバイトだ、ビシバシ教えるから甘えんなよ」

「てことはゆうちゃん先輩だ」

俺の前言はまたしても完全無視かと思ったが、もういっそ面倒なのでその事実を俺が無視した。

「まぁ、そうだな」

「よろしくお願いします、ゆうちゃん先輩」

常の呼び名に『先輩』と付け足した。何の創意工夫もない事に、キャッキャと喜ぶ姿を目の前にして先が思いやられる。

兎にも角にもその日が、アキの記念すべき初出勤日となった訳だ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#504 [ひとり]
───
─────

初日に先ず教えたのは基本中の基本ばかりだったが、アキは思いの外覚えが早かった。

俺を追っかけてくるような真似をして、もし皆に迷惑をかけるようならその時は・・・なんて考えてもいたのだが、どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

基が体育会系出身なんだ。よくよく思えば礼儀マナーなんてそれこそ昔っから叩き込まれてきてる訳で、今更俺が手取り足取りしてやらなくとも、アキは当たり前のように明るい挨拶と気持ちのいい返事をホールに響かせて、夜には積極的に注文を取ったり席へ誘導したりと、目覚ましい活躍を遂げた。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#505 [ひとり]
「アキちゃんお疲れ」

「お疲れ様です」

仕事終わりに話しかけてきたのは津久井だった。

「前にもどっかでやってたの?」

「いえ、高校は部活一本で、引退してからはすぐに受験受験でしたからまったく」

俺以外と話す時のアキの口調は、なんというか、キビキビを絵に描いた様な話し方で、側で聞いていても気持ちがいい。

「そうなんだぁ、全然余裕です〜って感じだったけどねぇ」

「いえいえそんな、迷惑かけないかって冷や冷やし通しでしたよ」

感心したような津久井の口振りに、賺さず謙遜してみせたりして。

マヂ別人だろ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#506 [ひとり]
「ちょっと根岸、お前もこんな可愛い従兄弟が近くにいたんならなんでもっと早く連れて来なかったんだよ」

横で黙りを決め込んでケータイを弄っていたこちらに火の粉が飛んできた。

「うん、まぁ」

別に隠してたつもりはないが、なんだかこうして身内のアキが他人から褒められるのは不思議な気持ちがするものだ。なんとなく気恥ずかしくって、くすぐったい。

俺は語尾を濁して誤魔化しつつ、アキを見やった。アキは『可愛くなんかないです』と言って、照れ隠しなのかしきりにサイドの髪を耳に掛けたり、前髪をいじったりしている。

そのしおらしい姿がまた俺といる時とは違って新鮮で、なんだか微笑ましい。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#507 [ひとり]
ただ一つ気になる事もある。こうやってもう雇われてしまってからでは今更な話しだが、何故三田さんは何も言ってくれなかったんだろうか。それに面接をしたような素振りすら見た覚えはない。

まぁ其処は今日これから本人に聞けばいい話しなんだけど。

実はさっき黙ってメールをしていた相手がその三田さんだったりする。先にあっちが自分ちに帰ったので、俺も今から行きます。的なやり取りをしていた。

問題は、アキだ。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#508 [ホシ]
あげとこ・ω・

⏰:10/02/03 08:01 📱:Sportio 🆔:DLNGGhUs


#509 [ホシ]
あげる★+。

⏰:10/02/04 05:55 📱:Sportio 🆔:b6omUXD2


#510 [サルエルパンツ]
あげますよ!

⏰:10/02/04 17:33 📱:F902iS 🆔:wfgNwk1w


#511 [りんご]
あたしも
あげちゃうー(^ω^)ノ

⏰:10/02/04 20:11 📱:SH903i 🆔:hg1EVxs6


#512 [ホシ]
おやおやbげとこ・ω・

⏰:10/02/07 20:04 📱:Sportio 🆔:r2TOxY3.


#513 [ひとり]
今残ってるのは俺達三人。津久井はバイクで帰るし俺はチャリだ。そう言えば、アキは何で此処まで来たんだ?


「そういえばアキちゃんて帰り何で帰るの?」

俺が聞く前に、津久井がいいタイミングで質問してくれる。

「今日は電車で取り敢えず来てみたんですけど、終電ヤバいですかね」

「ヤバいっつーか、完全にアウトだよ」

「ですよね」

「なんなら俺乗っけてこうか?」

おいおい津久井、それは凄い素晴らしい提案じゃないか。俺は思わぬ天の助けに気付かれないほど小さい、しかし渾身のガッツポーズをした。

⏰:10/02/09 00:39 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#514 [ひとり]
「え、そんなの悪いですよ、それに私ゆうちゃ・・」

「悪いな津久井」

断りかけたアキの変わりに賺さず礼を言うと、津久井は屈託なく応えた。

「いいって、根岸んちの近くなら途中なんだし、ついでついで」

「え、津久井さん私本当に・・・」

「メット二個ある?」

「もち」

「んじゃ頼んだわ」

「おう」

口を再び開きかけたアキの先制をついて、どんどん話しを進めた俺は

「津久井の運転意外に荒いから、振り落とされんなよ」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#515 [ひとり]
言い添えて先に店を出た。

後から続いて津久井と、不満だらけな顔でしかし何も言えないアキが出てくる。

「後俺しめとくから、根岸は帰っていいよ」

キーケースをじゃらつかせながら言われて、

「おう悪り、おつかれ」

「おつかれ〜」

にこやかな津久井とは対局の、恨めしそうなアキの瞳に、流石にちょっと申し訳なくなる。

「・・・・・」

「アキも、おつかれ」

「・・・・うん」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#516 [ひとり]
答える声も、酷くぶっきらぼうだ。

「よく頑張ったな」

機嫌をとるように初日の働きぶりを労って軽く頭を叩くように撫でてやる。

するとどうだろう、急に顔を上げて嬉しそうに笑いかけられた。ゲンキンな奴。見てくれをどんなに変えても、こういう所は昔っから変わらない。可愛い従兄弟のアキ。

「明日は一緒に帰ろうな」

なんて、思わず甘やかしてしまった。確かに最近三田さんちに入り浸ってばかりで、アキに構ってやれなかった、寂しい思いをさせてたんだろう。だからこそアキはバイト先までこうして乗り込んできたわけで。アキの事はもちろん知っている三田さんは、もしかしたらあの人なりにアキに気を使ってバイトに雇ってくれたんじゃないか、なんて考えが浮かんだ。

公私混同は否めないし、それに第一俺に内緒にする必要性は微塵も感じられないんだが。

⏰:10/02/09 00:41 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#517 [ひとり]
「絶対だからね」

「あぁ、絶対だ」

「ゆびきり」

「はいはい」

目の前に差し伸べられたら細っこいアキの小指に自分のを絡める。

「嘘ついたら針万本飲〜ます」

軽やかに歌ってみせたアキに、津久井が笑った。

「アキちゃんアキちゃん、それ千本だと思うよ」

「千本なんかじゃぬるいから、万本にしました」

ちょっと子供っぽいですかねと照れ臭そうに笑い返すアキと、そっかと軽く請け合った津久井だったが、俺はこの約束だけは破るまいと一人誓った。だって、アキの笑った顔の中でその目だけは本気の色を帯びていたから。こりゃ破りでもしたらその日のうちに裁縫屋の梯子もしかねないって確信があった。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#518 [ひとり]
「したらまた明日」

「うん、明日ねぇ」

「おつかれー」

俺は今度こそサドルに跨ると、地面を蹴って三田さんのもとへ向け走り出した。



チャイムを鳴らすと間もなく怠そうな応答があって扉が開かれ、現れた三田さんはスウェットの上下に邪魔な前髪をゴムで結んだ姿で俺を迎え入れた。

「お疲れさん」

「お疲れさまです」

靴紐を緩めようと玄関に腰掛けた俺が無造作に置いた荷物を、当たり前のように持ってリビングへと先に消える後ろ姿を振り返り見た。甲斐甲斐しい新妻みたいじゃないか。三田さんの一挙手一投足にこうして一々反応するのは気持ちが片道だった頃から何ら変わらないところだが、それに相手からの好意を汲み取れるようになったというのが最大の異点であり、それがどんなに俺を幸福の高みへと昇らせているのか、きっと当の本人は無意識無自覚なんだろう。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#519 [ひとり]
あの人が往復した際に開閉したドア。その気流に乗っかって、胃をいい感じに刺激する匂いが漂ってきた。それを一粒の粒子も逃さぬように思い切り吸い込むと、うん、これはどうやらカレーみたいだ。三田さんの好物はカレーにハンバーグにミートスパゲティー、オムライスとお子さまランチのスタメンで構成されている。ただその中でカレーだけは厄介な奴なんだと以前愚痴られた事がある。何故かと聞き返すととんだ愚問だと呆れられた。要するに、その量が問題なのだと言う。

『考えてもみろ、一人暮らしってことは"独り"ってことだ』

俺は普段カレーなんてインスタントか外食でしか食べないからわからなかったが、何でも自炊派の三田さんにするとカレーは作れば毎回多すぎて後が困るんだそうだ。ならば初めから考えて少なめに作ってはどうかと提案したら

『それじゃやっぱり物足りない』

と一蹴されておしまい。普通に作れば多すぎて、控えて作れば物足りない。俺の中でカレーは、二人以上で食べてこそのカレーなのだと、何故か誇らしげに熱弁する姿がフラッシュバックした。

⏰:10/02/09 00:43 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#520 [ひとり]
「お前遅せぇよ」

三田さんの声でいつの間にか思い出に浸かっていた意識が浮上する。見れば手に皿とおたまを持って仁王立ちしていた。

「カレー冷める」

「はいはい」

踵をきちんと揃えて玄関の隅に靴を置くと、俺はカレーの匂いでいっぱいになった暖かいリビングへと向かった。



「「いただきます」」

コタツに入って俺達は手をあわせる。三田さんの作るカレーは煮崩れない綺麗なジャガイモがゴロゴロ入っていて、玉ねぎの甘さがたまらない。まさに絶品だ。

デカすぎるほどにデカいジャガイモをスプーンで割開くと、中から白く湯気が立ち上る。舌を火傷しないよう慎重に口に運び、はふはふと少しずつ熱を逃がしながら食べる。美味い。

俺同様に先ずジャガイモに手を着けたらしい三田さんも、はふはふやっている。そして全て飲み下すと、うんめーと顔全体で笑ってみせた。俺が美味いですねと同調すれば、更にその表情を綻ばせる。嗚呼またそんな顔して、抱きついてやろうかなコンチクショー。

⏰:10/02/10 09:13 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#521 [ひとり]
「そ、いへばは」

二個目のジャガイモを投入した口をはふはふさせつつ、三田さんが喋る。

「ア、あち、アキひゃん、あち、あち、」

「喰うか喋るかどっちかにして下さい」

俺が言うとどうやら先に食べる事に専念しようと決めたらしい。暫く待てば、マンゴーラッシーでジャガイモを飲み下して自由になった口を開く。

「びっくりしたよ、アキちゃん」

.

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#522 [ひとり]
「あぁ、俺もあんな動けるヤツだとは思いませんでしたよ」

「じゃなくて、行ったらひろむにいきなり今日から入ったとか紹介されてさ」

「え、三田さんが弘さんと採用したんじゃないんですか?」

「俺知らないし、ひろむが知らん内に入れてた」

でもそれってどうだろう?弘さんは確かに全体の責任者だけれど、三田さんに黙って勝手に人を雇ったりするんだろうか。

「本当にまるきり知らなかったんですか?」

「ん?・・・んー」

ハッキリしない物言いと微妙にばつの悪そうな顔に、これは何かを隠してるんだと想像するのは容易かった。

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#523 [ひとり]
「・・・・知ってたんでしょ」

「いや、本当に知らなかったんだって!!」

誤魔化すように福神漬けをつついていた手を止めて、三田さんは抗議するような視線を寄越す。

「・・・そうですか」

俺は不自然なまでの聞き分けの良さで、再びカレーに意識を戻した・・・ように見せかけた。三田さんは隠し事が苦手だ。それは『お付き合い』する以前からとっくに心得ている。ベタだけど今俺のとっている行動は"押して駄目なら引いてみろ"な訳で、それがこの人にとって最大限の効果を齎すという事は、過去に幾度も実証済みなのだ。

⏰:10/02/10 09:15 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#524 [ひとり]
暫くは根競べ、俺はひたすらにカレーを食べて、どうでもいいクイズ番組を観た。観ながらたまにチラと横目で三田さんの様子を伺う事も忘れない。もういよいよ限界のようで、何を食べるわけでもないのに開いたり閉じたりと、口がしきりに動いている。言おうか言うまいか、逡巡しているみたいだ。

その姿が可笑しくて笑い出したい衝動にかられたけど、そこはぐっと飲み込んでひたすらに待つ。すると

「バイトを採ろうって話しはしてたけど、まさかアキちゃんとは思わなかった」

三田さんはボソッと零したんだ。

⏰:10/02/10 09:16 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#525 [ひとり]
「それじゃ、面接は弘さん一人でやったんすか?珍しい」

「うん、そう」

白状してもまだ尚気まずそうな態度。

「どうして三田さんは行かなかったんですか」

「それはお前、そのほら、あれだ、あのー…」

俺が詰めれば、三田さんは視線を逸らす。逸らした刹那覗いた耳が、心なしか赤くなっているのに気付いた。

「俺に言いたくないんですか」

⏰:10/02/10 21:36 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#526 [ひとり]
直感だった。三田さんが照れるような事なら、自分が関係あるんじゃないかなんて、とんだ自惚れだなと半分思いながらも。そしてその自惚れた直感は、どうも三田さんの確信をついていたようだ。

「・・・・・・・うるせ」

「耳真っ赤だけど」

「うっ・・・」

「白状しちゃいなよ」

「・・・ねぼ・・した、から」

観念したのか、つかえながらも口を開いた。

⏰:10/02/10 21:53 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#527 [ひとり]
どうも寝坊して、面接に行けなかったらしい。バイトの面接は毎度決まって午前中の、ランチ前の時間だ。ノジコさんはどうか知らないが、俺も津久井も、実際面接してもらったのは午前中の割と早い時間帯だったのを覚えている。

「寝坊って、んな事あったんですか?」

「ん、あった」

「そんなん言ってくれたら俺が電話で起こしてあげたのに」

「そりゃムリだろ」

「え、何でですか」

「だってお前も爆睡してたし」

⏰:10/02/10 22:11 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#528 [ひとり]
「あ、そうなんだ」

「うん」

「それすいません、いつの話しっすか?」

「俺らが・・つ、きあった、日」



なるほど。


つまり俺達が例の追いかけっこをやっていた次の日が、アキの面接日だったのか。そりゃあ俺には起こせないな、三田さんの横で昼過ぎまで確かにぐーすかやってたんだから。

⏰:10/02/11 01:08 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#529 [ひとり]
「しかも俺さ──」

三田さんの話しにはまだ続きがあった。

「ん?」

「俺一回目ぇ覚めたんだわ」

「あ、そうなんすか?でも、したら何で・・・」

「根岸が『行くな』って言った」

「えぇ!!??」

なんだそりゃ、それは初耳すぎる。てか、まるきりそんな記憶はない。

「覚えてねぇのかよ」

⏰:10/02/11 01:09 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#530 [ひとり]
三田さんの恨めしそうな視線に、今度は俺が言葉を詰まらせた。

「そのー・・・つまり、言っちゃえば・・・・お、ぼえてはー・・ない、です」

白状すると、そんなんわかってたわと言わんばかりにデカい溜め息を吐かれて、恐縮してしまう。

「お前ねぇ」

「本当に記憶ないんです、てかんな譫言、無視してくれたらよかったのに」

「そりゃ俺だって根岸が離してくれたらそうしてたさ」

⏰:10/02/11 01:10 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#531 [ひとり]
でも、と三田さんは繋げた。

「俺が目ぇ覚めて布団から出ようとしたら、後ろっから羽交い締めするみたいに抱きつかれて、『行くなよ』とか言うから、だから・・・・」

自分で言いながらその時の事でも思い出したのか、今度は顔面までもが紅潮しだした。

おいおい、無意識の俺何してくれてんだ。まさか羽交い締め以上の何か、やらかしてはいるまいな。

一瞬思ってヒヤッとした。

「だから俺、面接あるって言ったんだ、なのに全然聞かなくて『そんなのいいからここに居ろよ』って、き、き、キス、されて」

いよいよ顔面の赤みがピークを迎えて、それは首までも染め上げる勢いだった。

あ、湯気出るかも。

⏰:10/02/11 01:11 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#532 [ひとり]
「だからお前がいけねんだよ根岸コノヤロォォオ!!!」

恥ずかしさの臨界点を超えてしまったらしい三田さんは、唐突に、叫ぶように俺に食ってかかった。

確かにそうだ、そうなるわ。

『ごもっともです。』としか、返す言葉が見つからない。

「申し訳ない」

「本当にな!!おかげであの日はひろむに一日中ぐちぐち言われて、散々だったんだ」

「・・申し訳ない」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#533 [ひとり]
俺は、不正を暴かれた政治家よろしく、繰り返し繰り返し陳謝した。

「本当に申し訳ないです、そして記憶ないです」

「バカ」

「はい、ごめんなさい」

「・・・・・とにかくだ、そういう訳あって面接はひろむ一人でやったわけ」

「はい」

「で、採る採らないは俺が決めるって言われれば、バックレた俺は何にも言えねぇよ」

「はい」

「蓋を開けてみりゃ『根岸アキです』って訳だ」

「はい」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#534 [りんご]
あげます(・ω・)

⏰:10/02/17 01:57 📱:SH903i 🆔:sXavEeNs


#535 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/02/17 03:19 📱:SH02A 🆔:NfuyhUpk


#536 [ひとり]
「面接ん時、お前の従兄弟です、『ゆうちゃんが一緒なら安心だから』って言われたんだと、そりゃ断れねぇよ」

「アイツそんな事・・・すいません、ムリに雇ってもらって」

「いや、今日一日見てみたらかなり動けるみたいだし、実際一人増やすのは前々からひろむと話してたことだから、いんじゃね」

三田さんの言葉はありがたかった。が、アキには、軽く釘を刺しておく必要があるだろう。俺をコネにするなんて、裏口入学の〇〇゙やか〇みたいなまねは黙っていられない。

⏰:10/02/20 20:11 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#537 [ひとり]
少し現実(ここ)から意識を離した隙に──

「ゆうちゃん」

「はい?」

それはあまりに急で、自分を呼んでいると気付くのには少し時間がいった。

三田さんは少し冷めかけてきたカレーの残りに手を着けながら、意地悪くニャッとして見せた。

「こないだも思ったけど、ゆうちゃんて呼ばれてんのな、お前」

「まぁ、名前がゆうすけですから」

なんだろ、普段アキにそう呼ばれたところで何とも思わないが、三田さんに『ゆうちゃん』なんて言われると、なんだか不自然で居心地が悪い。

⏰:10/02/20 20:12 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#538 [ひとり]
「ゆうちゃんね〜」

「三田さんだって、下の名前で呼ばれる事くらいあるでしょ」

「そりゃあるけどもよ」

「の・・「のんちゃんはない」

呼びかけた名前は、その主である三田さんの声に被せられて、言いきることが叶わなかった。

「めっちゃ呼ばれてそ」

「俺はまんまだよ」

「まんまって・・望?」

⏰:10/02/20 20:13 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#539 [ひとり]
初めて三田さんの下の名前を呼んだ。疑問系だけど。すると三田さんはなんとも言い表し難い表情になる。

「何ですかその顔は」

「いやー、お前に下の名前で呼ばれるって凄げぇ気持ち悪りぃなと思って」

「失礼以外の何物でもねぇなその言い草」

「いや、マヂでムリだわ」

「わからなくもないですけどね、俺も三田さんに"ゆうちゃん"て呼ばれて凄い居心地悪かったから」

「お互い様じゃねーか」

「はい、変にとちくるっていきなり呼び方変えるとかはやめましょうね」

⏰:10/02/20 20:14 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#540 [ひとり]
俺が言うと三田さんは黙って頷いて、それから確認するように俺の名を呼んだ。

「根岸」

ほら、やっぱこれが今の俺には心地いいんだ。

「三田さん」

呼び返すと、三田さんもしっくりきたらしい。もう一度頷いてみせた。そして

「何このやり取り気持ち悪」

「そっちが始めたことでしょうが」

「いいから、とっととカレー食べちゃいな!!これじゃいつまで経っても片付きゃしないよ!!!!」

「またそうやって母ちゃんキャラに逃げる」

⏰:10/02/20 20:15 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#541 [ひとり]
そうだ、こうやってバカ言い合って、上の名前で呼び合うくらいが丁度いんだ。今までも、これからも。

非生産的かもしれない俺達の繋がりだけど、この関係が変わらずに続けばいい。そんな事を思った。変わらないなんて、そんなん不可能かもしれない、いや、絶対に不可能だけど、それでも強く思ったんだ。遠い先の事なんて想像つかないけど、そこでも俺の隣に三田さんが、アホ丸出しで笑っていてくれたらいいって。そんな事を思ったんだ。

このカレーの残りを食べたら、バスタブに湯を張って二人で入ろう。誘ったら、この人はまた火を噴くほどに照れて真っ赤になるんだろうな。ついでにちょっとイヤらしい事でも仕掛けてやろうか。

ねぇ、三田さん

「あ?」

好きだよ。

⏰:10/02/20 20:33 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#542 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ひとりがいない間にあげて下さったりんごさん、匿名さん、ありがとですヾ(^▽^)ノ

ん〜なんか平和な二人・・・きっとこのあと狭い湯船に二人仲良く浸かったりなんかしたんでしょうね。まぁ平和なんてそうそう続くもんでもないんでしょーが・・・・

アキがいるものww

⏰:10/02/20 20:39 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#543 [ひとり]
【第二十七話/追加注文しすぎると伝票がなんかもうぐちゃぐちゃであれになる】


頬が熱い。

凄い見事な往復ビンタだった。いやいや、ビンタなんて可愛い感じじゃすまねぇよもう。こりゃ平手打ちだよ、平手打ち。

うん、やっぱ漢字で『平手打ち』の方が、俺のくらったダメージがどれだけのもんかってイメージがつきやすいな。

つうか

「あのね、アキちゃん」

⏰:10/02/23 20:07 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#544 [ひとり]
いい加減に腹の上からどいてくんないかな。いくら女の子の軽い体重でも、腹に圧がかかればそりゃどうしたって苦しいのよ。

最近腹筋をサボってたツケなのか、あぁ、息がしずらいったらない。

でもアキちゃんは一向にどいてくれる気配がないから、俺はため息をついた。満腹堂の、普段いろんな人が土足で踏みしめる床に頭やら背中やらをくっつけて。

⏰:10/02/23 20:13 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#545 [ひとり]
毎日入念に磨き上げても、一日の営業が終わる頃にはすっかり元の木阿弥で、スタッフTから剥き出しの腕がベタベタして気持ち悪い。

「いい加減どいてくれると、おじさん凄い助かるんだけど」

「・・・・・・」



はい、無視ですか。

いいよ、無視したきゃしたって、そりゃ皆が皆と仲良くできる訳もねぇし、俺と口利きたくないってんならあぁそりゃ一向に構いませんとも。ただ

「もう息苦しんだよ、悪いけど」

今のこの体制で無視を決め込まれては、そんな呑気に構えてもいられない。

⏰:10/02/23 20:20 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#546 [ひとり]
よし、今晩からまた腹筋始めよう。

誓いながら強制的に体をどかそうと、アキちゃんの腕に手をかけようとした、すると

「返してよ」

「え?」

久々に口を開いた彼女の声は、微かに低く、震えて聞こえた。

返すって、何を



「ゆうちゃん返してよ」

⏰:10/02/23 20:25 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#547 [ひとり]
肝が冷えた。

返してって──
ゆうちゃんって───


この子は、根岸と俺の事・・・・・・知ってる?


「え、ちょ、アキちゃんいきなり何言って・・・」

「いきなりじゃないよ、ずっとそんな気してたんだよ」

俺を睨みつけるその瞳には、薄暗い何かが揺らめいている。華の女子大生を捕まえて、こんなん失礼かもしんないけど、普通に怖いです。

⏰:10/02/23 20:30 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#548 [ひとり]
だいたい何でこんな事になったんだっけ。

普通に俺電卓たたいてて、アキちゃんが床を磨いてて、若い子の好きそうな恋愛ネタでもふってみるか〜みたいな軽い感じで話してて───


「学校楽し?」

「はい、楽しいですよ」

「そっかーサークルとか入ってんだっけ」

「はい、飲みサーですけど」

「いいじゃん飲みサー、出会いも多そうで」

「いや〜全然ですよ〜」

⏰:10/02/23 20:40 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#549 [ひとり]
そうそう、いい感じで会話のキャッチボールしてたじゃん俺達。凄げぇ和やかだったじゃん。なのに───


「そうなの?でもアキちゃんなら出会いなんかなくてももう彼氏もちか」

「いえいえ、いないんですよ私」

「え、以外」

「・・・・好きな人なら、いるんですけど、ね」

電卓をたたく片手間に会話をしていた俺は、アキちゃんのその発言で彼女の方を見た。実は彼氏がいないってことは知ってた。だから兄貴的存在の自分にいつまでもひっついていて困るって、根岸から聞かされてたから。

⏰:10/02/23 20:49 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#550 [ひとり]
でも、片思いする相手がいるなんて聞いてなかった。これはもしかしたら根岸も知らない事実なんじゃないか?


「へぇー好きな人いるんだ」

「はい、完全に片思いですけど」

「え、そうなの?ますます以外だわおじさん」

「ずっと、離れて住んでたんですよ、でも最近ようやくこっちに出て来て、頻繁に会えるようになって、私凄いアピって頑張ったんです。でもね、ダメみたいなんです」

⏰:10/02/23 20:54 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#551 [ひとり]
アキちゃんは寂しそうに微笑った。その表情(カオ)は恋する女の子そのもので、俺は密かにドキッとしてしまった。

「ダメみたいって・・・せっかく近くにいれるんだから、まだ諦めるのは早いんじゃないかな」

無責任な励ましの言葉。でも、それしか思いつかない。恋愛なんて不慣れな俺が、先輩面して言える台詞なんて、たかがしれてた。

「恋人、いるんです、彼」

うわ、俺の無責任な励ましのせいで、アキちゃんに余計な事を言わせちまった・・・俺のバカ。

⏰:10/02/24 19:55 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#552 [ひとり]
思ったところで時既に。ひっこみ着かないしここで『あ、そうなんだ、ごめん』なんて言ったらこの場の空気が気まずくなるし・・もう、いっそ励まし倒してしまえ────


しまえ─────


しまえ─────


そう、その安易な考えがきっとよくなかった。いや、今更なんだけど・・・・

⏰:10/02/24 19:59 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#553 [ひとり]
「彼女ね〜そんなん関係ないでしょ、俺なら気にせずガツガツ行くね、恋愛ってさ、もっと自分勝手で自由にしていんじゃねーの?アキちゃんまだ若いしそんな可愛いんだから、今はオフェンスに徹した方がいいって、うん」


我ながら当たり障りのない台詞だ、自分の引き出しの少なさに笑えてくるよまったく。

とは内心思いつつも、全身全霊テンションあげて俺はアキちゃんを励ました。まぁ、その相手の彼女にしたら第三者が無責任なことぬかすんじゃねぇって思うだろうけど。そんな知らない彼女を気遣うより、今は緩く弧を描くように気分が下降しつつある、目の前のアキちゃんが先決だった。

⏰:10/02/24 20:38 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#554 [ひとり]
しかし俺の全力の励ましはやっぱり薄っぺらすぎてアキちゃんには届かないのか、まるきり反応が返ってこない。床に視線を落としているらしく、髪が顔にかかって表情はわからないが、でも今彼女の中に芽生えているのが、プラスの感情でないことだけは何となくわかった。

あんまりに白々しすぎて、逆に望みがないとか思わせてしまったんだろうか。

「あの、アキちゃ・・」

「知ったような口聞くな!」

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#555 [ひとり]
それはさっきまでの、例えるなら、んー・・小鳥のさえずりのように可憐な声?とは打って変わり、まるで・・・・まるでー・・・あ、うん。まるで改造したマフラーでふかしたような野太さと、腹に響く迫力を湛えた声だった。

そしてそのことに驚いている間に彼女は俺の腰掛けたスツールに歩み寄ると、その脚を華麗に足払い。上に座っていた俺はもちろんそれごと床に倒れたんだけど、彼女はすかさずそんな俺の腹の上に馬乗りになり、躊躇うことなくこれまた華麗な動作で往復の平手打ちを繰り出したんだ。

そして、一気に両の頬が熱くなった。なったけど、それはあくまで熱いってだけで、痛いとかではまったくなくて。つうか痛いより何より今の一連の出来事に驚いてしまってそれどころじゃなかった。

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#556 [ひとり]
確かに知らない。アキちゃんがどんなに相手の男を好きなのかも、好きな相手には恋人がいるって事実にどれくらい打ちのめされているのかも、今さっきチラッと話しを聞いた程度の俺には想像もつかないよ。

だからって、何で俺が八つ当たりみたいに殴られなきゃならないんだろ。

「え、何々、何で?」

思わず零れ出た当然の疑問に答えることなく、アキちゃんは俺の腹の上、ただ肩を小刻みに震わせていたんだ。

⏰:10/02/25 08:59 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#557 [ひとり]
それがつい数分前の出来事で、耐えるように肩を揺らす彼女に声をかけるのが偲ばれて、なんとなく黙っていたんだけど俺の筋肉が限界を訴え始めたから、どいてくれと頼んだ。するとかえって来た返事がこれだ


──ゆうちゃん返してよ──


さっきの話しの流れから、何で突然自分が殴られたのか。点と点が、一本の線で繋がったような感覚。

そっか、つまり、そゆこと?
え、マヂでか。

⏰:10/02/25 09:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#558 [ひとり]
「何であなたみたいなおじさんなので?ゆうちゃんを変な道に引き込まないで!お願いだから!お願いです!!」

そんな重ね重ねお願いされても、引き込まれたのはどっちか言ったら俺なんだけど・・・

とは流石に言えなくて、苦しそうに寄せたアキちゃんの小さい眉間の皺ばかりに視線をやった。

「私の方が、先だったのに・・先に好きになったのに・・・・」

⏰:10/02/25 09:26 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#559 [ひとり]
だからさっきも言ったじゃん。後とか先とか、恋愛ってそうゆうんじゃないって。

でも、これもまた俺は飲み込んだ。アキちゃんにしたら確かにポッと出の、しかもおっさんが恋敵になるだなんて、こんなことって想像できるだろうか。否、ムリでしょ。確実ムリだって。キャパ超えるって。

困り果てて何も言えない俺。するとアキちゃんはふーっと深く長い息を吐いた。それから、さっきまで貼り付けていた苦しそうな表情から一転、読めない無表情で俺を見下ろした。てか、マヂいい加減腹が・・・・

⏰:10/02/25 09:43 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#560 [ひとり]
「三田さん、下の名前は?」

「はい?」

「下の名前ですよ、三田、何?」

「の、望」

「のぞむ・・・じゃ、のんちゃんね」

「え・・・」

「のんちゃん、さっき言ったよね?恋愛は自分勝手で自由なもんだって」

言った。言ったけど、何だかとっても厭な予感がするのはおじさんの気のせいでしょうか?

「・・・言ったけど」

⏰:10/02/25 09:47 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#561 [ひとり]
「じゃあ、私まだ諦めなくっていいって事ですよね?」

今関係ないんだけど、この敬語とタメ口が混在する感じが根岸とシンクロする。さすが同じ血が混ざってるだけのことはあるな。つぅか、ただ単に俺が二人共に嘗められてるだけとかだったら、なんか凄げぇ凹むけど。

「うん・・・・え!?!?」

「え、じゃないですよ今更、言ったのはのんちゃんなんだから」

それは事実で、何も言い返せない。

⏰:10/02/25 09:51 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#562 [ひとり]
「私、諦めないから、つぅか、ゆうちゃん振り向かせるから」

「・・・アキちゃん、戦国武将みたい」

「何言ってんの?」

「ほら、あの時代の武将は、合戦前に互いの陣地から名前を名乗って宣戦布告し合ったらしいじゃん」

「だから?」

「今のアキちゃん、それっぽいな〜って」

「喧嘩売ってんですか?」

「めっそうもない」

俺は相変わらず床と仲良くしたまんまの体勢で、両手を顔の脇に挙げてみせた。

⏰:10/02/25 09:56 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#563 [ひとり]
「とにかく、そうゆうことなんで、明日っから覚悟して下さいね、私本気になったら、フェアとかそんなん関係ないんで」

そこまで言うと満足したのか、ここでようやくアキちゃんは立ち上る。長いこと押し潰されてた腹から急に圧迫感が取り除かれると、今度はなんだかスカスカして落ち着かなかった。

「あ、それと」

「あ?」

「ゆうちゃんにこの事言ったら・・・」

「んな野望なこたぁしねぇよ」

察してこちらが言えば、今度こそ納得して。『お疲れさまでした〜』と彼女は元気な声で挨拶をして退勤を押すと、颯爽と帰って行った。

⏰:10/02/25 10:04 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#564 [ひとり]
宣戦布告を叩きつけた彼女は、可愛らしい外見とは裏腹。その内は男気に溢れていて気持ちいい程だった。

彼女が消えた満腹堂の店内で独り。ようやく上体を起こした俺は、そこから勢いをつけて一気に立ち上がった。

フェアとか関係ない───

服を叩きながらさっきの言葉を思い返した。それを前もって言ってしまってることが、もう十分にフェアプレイだってこと、彼女は気付いてんのかな?否、きっとわかってないんだろう。

明日から・・・・あっちがその気なら、俺だって本気だ。根岸は、やらない。

俺は闘志を燃やしながら、残りの仕事に取り掛かろうと倒れたスツールに手をかけ、そこで動きを止めた。

⏰:10/02/25 10:13 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#565 [ひとり]
なんとなく向けた視線の先に、気になって仕方がないものを見つけてしまったから。


「あのヤロウ・・・・」


スツールを立て直してから、俺は溜め息混じりにそこへ向かう、拾い上げたそれは、そうモップ。


そこにはやりかけのままアキちゃんに置き去りにされたモップと、セットのバケツがあった。

⏰:10/02/25 10:17 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#566 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。
第二十七話完結致しました。アキに殴られた三田、可哀想にwWあんまドロドロし過ぎも違う気がして、軽くまとめたら気持ち悪い青春ドラマみたいになっちゃいました。ごめんなさい。もう少し、ドロっとマイルドにさせても良かったですかね。それにしてもこの話し、皆よく手がでますwW

⏰:10/02/25 10:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#567 [ひとり]
【第二十八話/まだ注文とってる途中でしょうがァァア!!!!】


最近気になる、というか、気に食わない事がある。いつからそんな仲になったのか、三田さんとアキの事だ。

ここ数日、気付いたらいつも二人で何か話している。何の話しか、聞いても二人共答えてくれないだろう事は目に見えているので、敢えて聞かないが、突然どうしたのか。挙げ句、アキが三田さんちにまで付いて来たりする。

⏰:10/02/26 21:27 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#568 [ひとり]
いやいや意味がわからないから。俺達の関係を知らないから、そこ空気読めとは流石に言わないが、それにしたって何がどうしたっていうんだ。

現に、今も進行形で二人はじゃれ合っている。

三田さんにしたら俺の従兄弟で職場の新人なら、そりゃ気にかけてやるのが当たり前なんだろうけど。アキの急激な懐きようは異様だ。

もしかしたらアキ、三田さんの事が・・・なんて、いらない考えまで首を擡げる始末だ。

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#569 [ひとり]
いけないいけない。今は目の前の仕込みに専念しなければ。気持ちを切り替えようとした刹那、肩にかけられた手。

「あんた今日暇?」

「あ、はい、暇です」

それはノジコさんだった。

「じゃ、今日はべぇやんちで」

「わかりました」

夜の予定が決まった。長谷部さんち、久々な気がする。

「あんた達もね」

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#570 [ひとり]
それはこちらに背を向けていた三田さんとアキにかけられたものだったが、小突き合いをしていた二人は気づかない。ノジコさんは声のボリュームを上げた。

「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

聞き分けない子供を叱る母のような口調に、ようやく気付いた二人は、やや驚いたような顔の後『はい』と首を縦にふった。

その動作までが示し合わせたかのように似ていて、また余計な考えに飲み込まれそうになる。

そのモヤモヤを切り刻むように、手元のキャベツを千切りにして気を紛らわせた。

⏰:10/02/26 21:29 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#571 [ひとり]
夜、時間はとっくに十二時を超えている。

満腹堂は基本『客が帰るまでが営業時間』というスタイルをとっている。事前によし皆で飲もうなんて決めた日に限って客足の引きが遅いなんてのは、よくある事だ。

「もうすぐ一時なるし」

「とっとと出て〜」

「酒家にあるん?」

皆思い思いに喋りながら店を出ると、もう春一番も訪れた後の今日の日はとても暖かだった。

⏰:10/02/26 21:47 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#572 [のん]
>>1-400
>>400-1000

⏰:10/02/27 08:51 📱:SH01B 🆔:WMPPJQms


#573 [ひとり]
>>572

のんさん

安価ありがとございます(´ω`)

⏰:10/02/28 09:08 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#574 [ひとり]
>>571

長谷部さんちは駅の反対側で、民家のやや奥まった所にある。バイクを牽いたりチャリをゆっくりジグザグに漕いだり、皆でのたくらと目的地へ向かう。俺の横には津久井がいた。

「その後どうなん?」

「まぁ、ぼちぼち」

片思いしていた例の相手とお付き合いを始めたんだと、津久井にはもちろん報告してあった。

それを自分の事のように喜んでくれた津久井は気を遣ってか、あまりオフの日に誘ってこなくなった。シフトも今月はうまい事ズレていたりして。だからこんな風にゆっくり話すのは、久々の事だ。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#575 [ひとり]
「照れんなって、順調なんしょ」

まぁ、確かに順調と言えば順調だし、そうでないと言えばそれもまた然りだ。

「・・ぼちぼち」

繰り返したら、突っ込まれた。

「何だよハッキリしないなぁ、何かあった?」

津久井が俺の立場ならどう感じるんだろうって思ったら『実は・・』って切り出しそうになった。でも俺達の前には、三田さんとアキが、ノジコさんと三人で歩いている。聞かれやしないかと思うと、とてもじゃないが言えない。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#576 [ひとり]
「いや、まぁ、ぼちぼちなんだよ」

「ふーん」

俺の濁した物言いから察してくれたらしい。津久井がそれ以上突っ込んでくる事はなかった。


長谷部さんちに着くと、皆ぞろぞろといつも決まりの畳部屋に向かう。そこは長谷部さんの寝床であると同時に、俺達満腹堂スタッフの宴会場でもあった。

皆慣れた様子で好き勝手座ったり寝転んだり、曲をかけたり。そんな中で一人だけ浮き足立った感の否めない奴が一人。アキだ。

⏰:10/03/01 09:02 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#577 [ひとり]
目を大きくして辺りを伺っている。確かに誰でも他人の家に初めて上がった時は、大抵興味津々で、色々見てしまうものだ。アキがそうして好奇心の色を貼り付けた目で観察する部屋の中、何かに視線が止まって、動かなくなった。

それから傍に腰を下ろしていた俺に身を寄せて、耳打ちしてくる。

「ねね、ゆうちゃんゆうちゃん」

「ん?」

「あれあれ、あれって卒アルだよねきっと?」

控えめに指差す先には、確かに卒業アルバムらしいかっちりした濃紺の本が一冊。漫画がごちゃごちゃ詰め込まれた本棚の中に、居心地悪そうに収まっていた。

⏰:10/03/01 09:03 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#578 [ひとり]
「多分そうなんじゃね」

今まで気にした事もなかったが、よくよく見ればそれ以外にもアルバムたらしき本が数冊、漫画と漫画の間にあるのを見つけた。

「あれ見たい!長谷部さん、あそこにあるのアルバムですよね?」

「え、あぁ、そうそう」

いいタイミングでリキュールやサイダーを両手に抱えて部屋に入って来た長谷部さんに、アルバムが見たいとアキがせがんだ。

「別にいいけど、笑わないでね」

⏰:10/03/01 09:04 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#579 [ひとり]
長谷部さんは快く了承してくれる。それから運び込んだアルコールを数個あるコップに注ぎ分けて、サイダーやら牛乳やらと割りながら

「他の写真も同じ棚にあるから、好きに見ちゃっていいぞ」

と、漫画で飽和状態の棚を顎でさした。

「やった、ありがとうございます」

アキは待ってましたと言わんばかりの素早い動作で嬉しそうに目当ての棚を物色し始める。すると

「ちょ、バカお前それはやめとけって!」

俺の右隣で寛いでいた三田さんが、突然声を張った。

⏰:10/03/03 08:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#580 [ひとり]
「なしたよ突然、ビックリすんだろ」

滝さんが面食らった顔で文句をたれた。

「いや、別に卒アルだけでいんじゃねぇかと思って」

三田さんは場を取り繕うように笑って答えたが、もともと隠し事ができない人だ。何か見られなくないものがあるんですと、顔に書いてある。バレバレ。

そしてそれが卒業アルバムではなく、アキがランダムに手にしたアルバムだって事まで容易く理解ができた。

⏰:10/03/03 08:58 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#581 [ひとり]
「アキちゃんいいから気にしないで、好きにみちゃって」

笑顔を貼り付けたままの三田さんはスルーして、アキに話かけた滝さん。この人も三田さんが隠しだい何かがそこにあるんだって確信のもと、面白がっているのがこれまたバレバレだった。

「おいマヂそれは見てもつまんねぇから仕舞ってこいて!」

「のんちゃんにそんな事いう権利ないでしょ、これは長谷部さんのものなんだから!」

「いいから!」

「よくない!」

ここ最近ですっかり板に着いたじゃれ合いがまた始まって、俺はここでもかとうんざりする。

⏰:10/03/03 09:00 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#582 [ひとり]
「いい子だから!それをこっちに渡しなさい!!」

「何その口調キモイんですけどぉ!!」

「キモイ言うな!傷付くだろーがコノヤロー!!」

「別にのんちゃんが傷付いても私痛くも痒くもないし〜」

「つべこべ抜かしてねぇでいいからよこせ!!」

「ちょっと引っ張らないでよ破けるぅ〜!!!!」

周りで皆が笑っている。もうなんか、二人の活き活きした様を見るのが耐えるに難い・・・・頭、冷やそ。思い立ち表へ出ようと、無言で部屋を後にした。

⏰:10/03/03 20:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#583 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。
第二十八話完結です。またちょっとした行き違いが生じ始めたようです。ここからどう展開しようか、いつも行き当たりばったりで書いてるもんで、ひとり自身まだ検討もつきませんが、どうにかうまいこと着地したい!!しゅわっち

⏰:10/03/03 21:15 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#584 [我輩は匿名である]
更新まってます★

⏰:10/03/04 00:10 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#585 [ひとり]
>>574

匿名さん

応援ありがとござます(^ー^)

⏰:10/03/05 09:02 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#586 [ひとり]
安価ミス(゚Д゚;;)スマソ

⏰:10/03/05 09:03 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#587 [ひとり]
>>583

【第二十九話/嗚呼素晴らしき青春の軟骨からあげ】


アキちゃん。なんて呼んでいたこないだまで可愛いニューフェイスだった彼女は、ある一夜を境にして俺のライバルになった。

あの宣誓をたてた次の日から、アキちゃ・・もういっか、アキは何かと根岸や俺の周りをマークするようになった。

てか何で俺んちまで着いてくるかね!?いや、目的はもちろんわかってんだけど。手段を選ばないってよか、場所を選ばないんだねお前は。

⏰:10/03/05 09:04 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#588 [ひとり]
満腹堂でも、俺と根岸が二人で仕込みをしていれば割って入り、今は仕込みが先決だからと少し根岸から離れてやれば、何故か根岸そっちのけで俺の横に来て脇を小突いてきたりする。

もちろんやり返すけど。黙ってやられてやる程、俺は大人じゃねんだよ。

「オイコラ、せっかく今だけ根岸の横譲ってやったんだから、あっち行って来いよ」

「どうせんな事だろーと思った、そういうのムカつくから止めてよね」

「俺は今仕込みで忙しいんだよ」

アキの相手より夜の仕込みだ。餃子の種を皮の上に乗せながら言えば、アキはフンッと鼻を鳴らして、同様に種を包みだした。

根岸の血筋は皆そうなのか、アキも手先が器用で容量がいい。実家じゃ碌に料理なんてしなかったと言う割に、綺麗に"ひだ"を作っては、正確に並べていく。

⏰:10/03/05 09:05 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#589 [ひとり]
手伝いさえすれば俺もそのほうが捗るので文句は言わない。

「・・・・・・・」

「ねぇ」

「・・・・・・・」

「ねぇっ」

「・・・・・・・」

「ねぇって!」

ただ、脇腹を小突くのを止めてくれたら、尚嬉しいんだけど。

⏰:10/03/05 09:06 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#590 [ひとり]
「痛いって、そゆことしてる間に手ぇ動かせお前は!」

「動かしてるじゃん!」

唇を尖らせたアキの顔から視線をスライドさせれば、確かに手元は一定のペースで、それこそ機械みたいに正確なリズムで仕事をこなしていた。ぎゃふん。

「ねぇねぇ、私ゆうちゃんと来月デートに行きたいんだけど、シフト合わせてよのんちゃん」

「バカですか、そんなん言われて誰が『うんわかった』なんて言うんだよ、とんだお人好しだなコラ」

「だってのんちゃんお人好しでしょ?」

コイツ、絶対俺のことナメてるよ。

「でしょくない」

「でしょいよ」

「なんだよ『でしょい』って」

「そっちが先に言ったんじゃん」

⏰:10/03/05 09:09 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#591 [ひとり]
「どっちでもいいけどそんなん俺に頼んだって無駄だぞ」

第一、休みが合ったところで根岸がアキの誘いに乗るかはまた別の話しだ。

「私、誕生日なんだけど、来月」

「・・・知るか」

「誕生日、好きな人に祝って欲しいって思うのは自然な事じゃない?」

「俺に聞くなよ」

「22日」

「は?」

⏰:10/03/06 21:01 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#592 [ひとり]
「私の誕生日ね、22日」

「・・・・・・」

相変わらず等間隔にひだを作り続けるアキの細っぽちな指達を凝視した。その一本一本の指先にちょこんとついたオマケのような爪は、うちでバイトを始めたことで、綺麗に短く切りそろえられている。

誰だって、自分の大切に思う相手に生まれた日を祝ってもらえたら嬉しいさ。そりゃそうだろ。根岸とアキはいっても従兄弟で、根岸がまずアキを眼中に入れていない訳だし、今年大学へ入ったばかりの彼女の今の年は18で、すると来月の22で19になる訳で、19ったら十代最後の誕生日ってことになるからつまり・・・

⏰:10/03/06 21:13 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#593 [ひとり]
「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

突然、考えに没頭していた背にかけられた声に驚いて振り向くと、アキも同じタイミングで体を反転させていて、アキはどうだか知らないが、俺はノジコの有無を言わせぬ迫力に、気付けば素直に頷いていた。

よくわかんねぇけど、今日はべぇやんちらしい。なんか、久々だな。

⏰:10/03/06 21:21 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#594 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/03/08 21:57 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#595 [ひとり]
>>594

匿名さん

あげありがとございます(`∀´)

⏰:10/03/11 21:12 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#596 [ひとり]
>>593

営業後。やや時間はくるったけど、予定通りべぇやんちに向け俺達は繰り出した。

最近は本当暖ったかくて、嗚呼、春だなぁ〜と。向かう途中の桜の木を見て思う。あ、そいや花見もまだしてねぇよオイ。

花見、してぇな。ワンカップ片手に夜桜。たまらんね。皆でワイワイやろう。あと、二人でも行きたい。夜なら手とか、繋いでもバレないかな。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#597 [ひとり]
って、俺ってばとんだ乙女ちゃんだな。

一瞬自分で自分にひいた。

不規則にフラフラとべぇやんちへ向かう道中。俺の両サイドにはノジコとアキ。両手に華・・あはは、言ってて悲しくなる。花ってよりも、食虫植物だろコイツらは。

やたら絡んでくるアキと、滝並に俺をからかうノジコに挟まれながら、俺の神経は背中に集まっている。だって後ろには、根岸がいるから。

何喋ってんだろ。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#598 [ひとり]
根岸の隣には、津久井がいる。二人はうちの店で知り合って以来仲がいい。根岸曰わく、今恋人がいるってことも津久井には言ったらしい。でもまさかそれが俺だとは思うまい、津久井よ。

ここのところは喩えではなくリアルに邪魔のされどおしで、二人でゆっくりもできていない。

楽しそうな声が背中にあたる。俺も、そっちに加わりたい。

なんて思っていたら、べぇやんちの青い瓦屋根が見えてきた。

家に上がったら、流石にアキと距離を置きたい。できれば、さり気なく根岸の横も、キープしたい。

⏰:10/03/11 21:14 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#599 [ひとり]
靴を脱いで、皆が列を作って一直線に"いつもの部屋"に向かう中、俺は気取られないよう自然に、且つ素早い動きで便所へ向かった。

別に用を足したい訳じゃあない。こうして時間をかせいでアキとは距離をとり、尚且つ先に部屋に腰を落ち着けている根岸の横を、後から行ってさり気なく、ここを強調したい。さり気なく確保するのが目的だった。

根岸本人に『あ、コイツ俺の横に来たかったんだな』なんて悟られるのは癪だから。絶対に"さり気なく"ないといけない。

⏰:10/03/11 21:27 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#600 [ひとり]
問題は、アキが根岸の横にピッタリとマークしているんじゃあないかってことなんだけど。この可能性はかなり高い。どんくらい高いかって、フランダースの犬を観てその内何回泣くかってくらいの高確率だ。てことはつまり100パーだ。100パーピッタリだ。

でも、例えば俺がスムーズに部屋に入ったとする。

俺部屋入る

根岸の横座る

アキに気づかれる

間に割り込まれる

⏰:10/03/11 21:36 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#601 [ひとり]
これだけは絶対に嫌だ。

でも後から入れば・・・

俺部屋入る

アキ根岸の横にびったり

でももう片側空いてる

俺そこに座る

うん、完璧だろコレ。

⏰:10/03/11 21:39 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#602 [ひとり]
イメトレをした俺は、勇んで便所を出た。

「うんこ、長げぇよ」

出た所に滝が立っていた。習慣で、出る時自然に水を流してしまったので、普通に用を足していたと思われたんだろう。

「うんこじゃねぇよ」

「嘘こけ、小用にんなかかるか」

「最近きれが悪りんだ」

「・・・あそ」

⏰:10/03/11 21:52 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#603 [ひとり]
折角気合いを入れたのに、滝の下品な一言で、急激に気が抜けてしまった。

が、それがよかったらしい。

「はぁ〜出た出た」

腰を下ろしながら独り言。

「トイレですか」

「うん」

凄い自然な感じで、作戦通り根岸の横をキープできたのだった。もちろん、反対側にはアキがいるが、今は初めて上がったべぇやんちのあれやこれやに目を奪われているみたいで、これまた助かった。

⏰:10/03/11 22:04 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#604 [ひとり]
少しして姿の見えなかったべぇやんが登場した両手に抱えた酒酒酒。普段満腹堂で鍛えているだけあって、随分な量を一気に運んできた。

そのタイミングで、アキがべぇやんに声をかけた。卒アルが見たいと言う。

女子は得てして過去の写真やプリクラを見たがるものだ。

どうぞお好きにと、べぇやんも快く了承していた。

アルバムでもバオバブでも好きに見たらいいさ。

⏰:10/03/12 00:22 📱:F01B 🆔:8eStKdnw


#605 [。゚+ゆきな+゚。]
>>269-600

⏰:10/03/13 00:04 📱:SH904i 🆔:H2bXfRmc


#606 [ひとり]
>>605

ゆきなさん

安価ありがとございます(゚∀゚)イヤン

⏰:10/03/13 08:42 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#607 [ひとり]
>>604

適当にえらんだグラスの中身を口に含んで、アキの動向を観察する。卒アルに手を伸ばした。するとべぇやんが『他のアルバムも好きに見ちゃって』と言い出した。更に目を爛々とさせたアキは、直感的に黄色のアルバムに手をかけた。て・・・・・え、それって。


いやいやいやいや不味いよ!!
ちょ、おっまマヂ何考えてんですかコノヤロォォオ!!!!

それは、俺のアルバムだった。女が得てして過去の写真を見たがるように、世の男達は得てして過去の写真を取って置くものなんだ。いや、知らんけど。

⏰:10/03/13 08:42 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#608 [ひとり]
俺はそうだよって話し。

昔、学生の時分に好きになった娘がいた。学校は違った。年は、俺の一つ上で、でも頼りなくて、俺がいなくちゃ、とか思ってた。少し身体が弱くて、消えちまうんじゃないかってくらい透き通った白い肌をしていた。でも彼女が微笑うと、パッと辺りが鮮やかになる。そんな華のある娘だった。

それまで・・ってのは、ヤンキーになってから暫く。"彼女"と言えばヤン女かじりのギャルか、ただのギャルか、はたまた筋金入りのヤン女か。

だからあの娘の存在は、俺の中でとても新鮮で、なんか甘酸っぱかった。

⏰:10/03/13 08:43 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#609 [ひとり]
あの当時はあの娘が全てで、あの娘で最後だって思ってた。"これから先もずっと"って。

まぁ、それが叶わなかったから、今の根岸と俺の関係があるんだけど。

少しばかりの彼女との思い出。それを捨てきれず、かといって自分で持っておくのはしんどくて、べぇやんちにこっそり持って来て、紛れさせていたもの。黄色のアルバム。

それが今、アキの手の中に。

⏰:10/03/13 08:43 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#610 [ひとり]
「ちょ、バカお前それはやめとけって!」

気付いた時には、声が出ていた。

「なしたよ突然、ビックリすんだろ」

正面に居る滝が面食らった顔で文句をたれる。俺自身、無意識に出た声の張り具合に焦ってるんだけど、んなことはお首にも出さずに。

「いや、別に卒アルだけでいんじゃねぇかと思って」

さり気なさを装って、サラッと笑ってみせた。

⏰:10/03/15 00:04 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#611 [ひとり]
「アキちゃんいいから気にしないで、好きにみちゃって」

俺のスマイルを無に返すように無視を決め込んだ滝の野郎が、アキに余計なことを謂っている。お前は黙っとけ!!

「おいマヂそれは見てもつまんねぇから仕舞ってこいて!」

本当につまんねって。つまんねぇっつーか、根岸がいるんだから、そこわかれチクショー!!!!

「のんちゃんにそんな事いう権利ないでしょ、これは長谷部さんのものなんだから!」

⏰:10/03/15 00:41 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#612 [ひとり]
違うんです僕のなんです。頼むからマヂで、マヂごめんなさいやめて下さい。

「いいから!」

「よくない!」

厭な感じの脇汗かいてきた。

「いい子だから!それをこっちに渡しなさい!!」

「何その口調キモイんですけどぉ!!」

⏰:10/03/15 00:43 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#613 [ひとり]
「キモイ言うな!傷付くだろーがコノヤロー!!」

「別にのんちゃんが傷付いても私痛くも痒くもないし〜」

「つべこべ抜かしてねぇでいいからよこせ!!」

ツカツカとアキの傍に寄ると、黄色のそれを奪い取るようにひっ掴んだ。が、それはアキにしたら予想していた行動だったらしく、ぐっと力を込めていたアキの手からアルバムを奪取することに失敗した。

「ちょっと引っ張らないでよ破けるぅ〜!!!!」

⏰:10/03/15 00:46 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#614 [ひとり]
両側からアルバムを掴んで引き合う。周りで皆が笑ってるけど、オイィィィイ!!!!笑いごとじゃないんですけどッッ!!!こっちゃガチなんですけどマヂでェェエ!!!!!

別に彼女のことがまだ好きとか、そんなんじゃないけど。でも誰にだって綺麗な思い出の一つや二つあるじゃん!!!!踏み込まれたくないテリトリーってあるじゃん!!!!

頭の中で自分の行動を正当化しながら、一番見られたくない奴の方に眼をやる。

あれ?いねぇし。

⏰:10/03/15 09:10 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#615 [ひとり]
さっきまで居たはずの場所に居ない。便所、かな。まぁいい、助かった。

そうして一瞬気を抜いたそのタイミングで、アキは渾身の力を込めた。

「そんな見られたくないものでも入ってん、の!?!?」



「「あ・・・」」

『の』のところでぐんと引っ張られて、俺の指先からアルバムはあっけなく逃げていった。アキの方でも俺がここに来てあっさり離すなんて思わなかったんだろう。

⏰:10/03/15 09:11 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#616 [ひとり]
予想外の軽い抵抗力にバランスを崩し、勢いまかせにアルバムを放った。それは真上に。そしてバザと音をたてて天井に激突。そのまま垂直に畳へと着地を遂げた。

一瞬の出来事。中から、数枚の写真が飛び出している。

散らばったそれらの四角い枠一つ一つの中では、どれも金髪の少年と、色素の薄い栗色の髪の少女が並んでこちらに笑いかけている。

あちゃー。

⏰:10/03/15 09:11 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#617 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/03/19 20:47 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#618 [ひとり]
>>617

匿名さん

あげありがとうございますです(m_ _)m

⏰:10/03/19 22:01 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#619 [ひとり]
「あーあーもう何やってんだよバカ共が」

動きの固まった俺とアキの間に四つん這いで割って入った滝が、しょーがねぇなと飛び出た写真を拾おうとしてくれる。が、その滝も伸ばしかけた手をそのままに停止した。

「これ、って・・・」

「何お前まで腑抜けてんだよ、俺の大事なアルバ・・ム?あれ、これ・・・・」

それはべぇやんも同様だった。

⏰:10/03/19 22:01 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#620 [ひとり]
「・・・スミレ、ちゃん?」

「だよな、なんでうちに・・」

そう、二人はもちろんというか、俺の昔を知っている。当時最後の女だと謂い切ってしまえるくらいには、俺が本気だったことも。

それから

「お前いつの間にこんな・・・」

どうして俺があの娘、スミレと別れなきゃならなかったのかも。そのことで、俺がどれだけ落ち込んで、荒んだかも。全部。

⏰:10/03/19 22:02 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#621 [ひとり]
俺をみつめる、滝とべぇやんの視線が痛いぜ。ひーはー。

「い、・・・・・いや〜懐かしいなぁ〜まさか俺のアルバムが紛れこんでたなんてね〜、いやいや、どうりで家探しても出て来ねぇわけだわ、こりゃこりゃ・・・・・」

「「・・・・・・・」」

沈黙が、重いぜッッツ!!!!!いーやー。

「え、何々誰々、のんちゃんの元カノこれ!?!?やばッッ可愛いんですけど!!!!」

そしてお前はKYなッッツ!!!!アキは楽しげに写真を見始めた。誰もいいなんて謂ってねぇのに。否、べぇやんは謂ったけど、でもそれ俺のアルバムだし。したら俺に許可とれや。

⏰:10/03/19 22:03 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#622 [ひとり]
でも、この場に根岸がいなくてよかった、本当に。しつこいようだけど、今更過去の恋に未練なんかないんだけど。後ろめたくもないんだけど。でもやっぱホラ、根岸だって元カノの写真なんか見せられたとこで、面白くもないだろうし。俺が逆の立場だったらって考えたら、やっぱ愉快な気持ちはしないと思うんだ。

そこまで考えて、ふと可笑しくなった。だって、少し前なら根岸の恋バナでも酒の肴にしてやろうか。くらいのこと平気で考えてたのに、それがいざこの関係になってみれば厭だなんて、なんだか変な話だ。

「何にやけてんの?元カノのことでも思い出した?」

⏰:10/03/19 22:05 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#623 [ひとり]
自嘲気味な笑みが、気づかない内に出ていたらしい。アキに指摘されてはっとした。

そしてそんな自分が、また可笑しかった。ゲンキンなもんだ。さっき、散らばった写真が視界に広がった時には締め付けられるような一瞬の感覚に襲われた胸の辺りが、根岸を思った瞬間じんわり暖かくなったりするんだから。

「違げぇよ、見てもいいから、とりあえずしまえて」

⏰:10/03/19 22:06 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#624 [ゆま]
あげ☆

⏰:10/03/23 12:48 📱:N08A3 🆔:7CHd2odw


#625 [我輩は匿名である]
あげっ!

⏰:10/03/29 00:56 📱:P01B 🆔:mIRDnjGA


#626 []
あぁげ

⏰:10/03/30 23:55 📱:930SH 🆔:2D9EVodY


#627 [我輩は匿名である]
あげ…

⏰:10/03/31 21:40 📱:SA001 🆔:.mOHXK9k


#628 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:10/03/31 22:29 📱:W64SA 🆔:238PFA1A


#629 [ゆま]
またまたあげ

⏰:10/04/01 20:10 📱:N08A3 🆔:8oXIEYFQ


#630 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/04/06 00:28 📱:W43H 🆔:HsQRHS8U


#631 [ひとり]
はーいと間延びした返事を寄越したアキは、だるそうに写真をかき集め、一枚ずつアルバムに仕舞い始めた。

仕舞いながら、『へぇー』だの『ふーん』だの言って鑑賞することも忘れない。そうしてアキが全てを元通り仕舞った(俺が脇から手を出しても、『それはまだ見てないから』と再び取り出されてしまって二度手間になるから諦めた)所で根岸が部屋に戻ってきた。襖が横に滑る音に機敏に反応した俺は、入室一番根岸とバッチリ目が合ってしまった。

いやいゃ"しまった"ってなんだし、なんか俺後ろめたいことしてたみたいじゃん!!そういうんじゃないから!!!!

「これそういうんじゃないから!!!」

「は?」

「いや、何でもね・・てお前随分長いうんこだったな、縮便ですかコノヤロー」

「誰がうんこっつったんすか、煙草ですよ、切れたんで」

「あ、そ、」

「はい」

⏰:10/04/10 21:27 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#632 [ひとり]
そうして俺の横に腰を落とした根岸からは、微かな外の匂いがした。パンツのポケットから徐に取り出された一般的に見れば小さなその箱。一本取って自前のジッポで火を点けた。ジッポって。俺なんか百円ライターの使いすてなのに、生意気だ。

「なんでHOPEなわけ?」

「?」

表情(カオ)だけで『え?』ってポーズを取ってから、吸い込んだ煙りを控えめにふーと横に逃がして

「なんです?」

なんて聞いてくる。誰でも当たり前にするそんな仕草まで堪らなく艶っぽく見えてしまうのは、俺の贔屓目なのか。なのかってか、そうなんだろうな。痛いな、俺。

⏰:10/04/10 21:39 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#633 [ひとり]
「いや、もっとスタンダードなのがあるだろうに、何故にHOPEかと思って」

「あぁ、これですか」

"これ"と指に挟んだそいつを少し上げて見せる。

「うん、それ、何か理由でもあんのかって思ってたんだわ」

「いやー・・・特にないんですけどね」

「でも変えたことないんだろ?他も試したりしなかったのかよ」

「俺、一途なんすよ」

⏰:10/04/10 21:46 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#634 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/11 02:00 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#635 [ひとり]
「自分で言ってりゃ世話ねぇな」

「三田さんは?」

「俺?」

「うん」

『うん』と返した根岸の声が"二人の時"の甘さを湛えていて、俺は一瞬どきりとする。なんかこう、親密っぽい感じがだだ漏れてんじゃねぇかと心配になったからだ。

けど実際は俺の取り越し苦労に過ぎなくて、誰も彼もがてんで好き勝手やってるこの部屋で、俺達の存在なんてサキイカや氷結と同等くらいのもんだった。

「あんたは、一途なんすか」

⏰:10/04/11 20:37 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#636 [ひとり]
タバコの話からなんでテメェーの硬派ぶりのプレゼンにシフトしたのか。まぁ一途か一途じゃないかと言われれば

「一途・・かもね」

「なんすか『かもね』って、全然可愛くないんだけど」

「かっ!別にそんなん狙ってねぇよ!!」

「かもねはなしです、一途か、違うか、一か百しかないんです」

なんだよそれ、完全なお前ルールじゃねぇか。もしかしてコイツ、また酔ってやがんな。

⏰:10/04/11 20:43 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#637 [ひとり]
「お前、めんどくさいのな」

「・・・・傷つきました」

「はいはい」

「俺の心を傷つけた上に、答えまではぐらかすんですか」

「んなつもりねぇけどさぁ・・」

面白いから意地悪してみた。めんどくさいのは本当だけど、酔った根岸は可愛くもある。気分がよくて手元の缶ビールを口に含んだ。

「わかりました、じゃ、チューしますよ」

「ぶっ!!!」

「あーあー、何やってるんすか、まだ気管につまるような年でもないでしょう」

呆れ口調でツッコミつつ、緩慢な動作で箱ティッシュを手繰り寄せた根岸が俺の吹いたビールを始末してくれる。

て、違げぇだろ。

⏰:10/04/11 20:51 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#638 [ひとり]
今の俺悪くねぇし!!完全に根岸が悪いだろ!!!!何だろねこの子はいきなり『チュー』なんて破廉恥な!!!バカじゃねーの!!?バーカーバーカー!!!!!!

「げほっ、ごほっ、うぇ、ごふっ」

本当は言ってやりたいその台詞達は、咽せ返って次々でる咳に邪魔されて、頭の中を駆け巡るだけ駆け巡っただけだった。

根岸が、優しく背中をさすってくる。自分が起因であるくせに、第三者面で心配顔だ。何だよチクショー!!

⏰:10/04/11 21:00 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#639 [ひとり]
そこではたと気付いたんだが、酔ってつっかかる根岸を面白がっていた俺だけど、今のこの状況は完全に逆転しているんじゃあないか。酔った根岸の気まま発言に動揺して咽せるだなんて。

よくよく見れば心配面を貼り付けた顔の中で、口元。左の口角だけが微妙に上がっていた。

「からかったな」

それを見過ごさなかった俺は、咳でまだ整わない息のまま言ってやった。

「わかりました?」

とろんと虚ろな目をして、『わかりました?』と来たもんだ!!!!!

⏰:10/04/11 21:07 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#640 [ひとり]
「俺が店長だってことを忘れんなよ、あんま調子こいて嘘ぶいてっと減給すんぞコノヤロー」

「別に嘘ぶいちゃいないですよ」

「は?」

飄々と答えた根岸は凄げぇ自然に俺の片腕を掴むと、『よっ』と言って立ち上がった。

「おい、ちょっと」

腕を拘束されている俺は、相手が立ったら必然的に立ち上がらないと体制が苦しい。

訳も分からず立ち上がった俺の腕は、まだ根岸に掴まれたままで、俺が立ったと確認した根岸はそのまま俺を引っ張って廊下へと連れ出した。

え、何で?

⏰:10/04/11 21:15 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#641 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/12 16:19 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#642 [◆S2mRWfM3VE]
>>400-700

⏰:10/04/14 21:18 📱:SH705i 🆔:y1p8TQvo


#643 [ひとり]
───
────

「・・・・・」

無言で腕をひかれて、大人しく付いて来てしまった先は便所だった・・・・連れしょん?な訳ないか。

「なぁ根岸」

「はい」

「狭い」

「そうですね」

『そうですね』、じゃねぇよ。何が嬉しくて大の大人が二人仲良く同じ便所に入らなきゃならないんだ。

⏰:10/04/18 06:53 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#644 [ひとり]
「『なんでこんな所連れてきたんだ』って思ってるんでしょ」

根岸はお見通しだと謂わんばかりに目を細めてこちらを伺ってくる。その表情から、完全にこの状況を楽しんでいやがるんだと容易く知れる。

「当たり前だ、用足したいなら一人でしろよ」

「んな訳ないでしょ、三田さん、俺が嘯いてるとか謂うから」

「だから何だよ」

ただでさえ密着してる狭いこの空間で、根岸は故意にその距離を縮めて来た。

俺は無意識に後ずさる。が、すぐ膝裏に便座が当たって、これ以上の退路はないぞと主張してくる。

⏰:10/04/18 07:06 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#645 [ひとり]
「お前ねぇ」

俺は溜め息をついて言った。

「こんなとこ誰かに見られでもしたらどうするよ」

そうだ。俺はそれが気が気じゃなかった。まだ誰にも謂ってない俺達の関係を、もしこんな形で知られることになんかなったら。考えただけで白眼むきそうだ。

俺の言葉を聞いて相変わらずフォンデュなみにとろんとした眼で何事か考えたらしい根岸は

「・・・・待ってて」

そう謂って一人便所から出て行った。

⏰:10/04/18 07:16 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#646 [ひとり]
突然取り残された俺。なんかよくわかんねぇけど、取り敢えず蓋の閉まった便座に腰掛けてみる。根岸の戻りは思う以上に早かった。

施錠してなかったドアをガチャと開ける。と、同時に謂った。

「三田さんは今吐いてます」

「・・は?」

「便所に籠もってゲーゲーやってます。だから皆こっちこないで下さい」

「おい」

⏰:10/04/18 07:32 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#647 [ひとり]
低い位置の俺に焦点を合わせてそれだけ謂うと、今度は腰を折って顔をぐっと近づけてきた。俺は少し背を反らして距離を計る。

「近いって」

「これで安心、もう誰も来ない」

「誰もってこたぁねぇだろ」

「上のトイレ行ってくれって謂ったから、こっちにはこないよ」

そう、べぇやんちには便所が二つ完備されていたりする。つまり来るなと謂われて、意地でも一階で用を足そうなんて奴はいない・・て事だ。根岸の謂ってる事は正しい。

⏰:10/04/18 07:42 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#648 [ひとり]
「ねぇ、三田さん、キスしたい」

根岸は恥ずかしげもなく謂うと、俺の頬にひたと手を当てる。酔ってさぞ火照ってるんだろうと思いきや、予想外にひやりと冷たい手だった。

「バカ、何謂って・・」

謂いかけた唇を、親指の腹でなぞられてしまえば、俺は黙るしかない。俺の全神経が、根岸の触れる箇所に集中していく。目が、離せない。

「見すぎ」

根岸は笑った。

「お前が見てくるからだろ」

⏰:10/04/18 10:53 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#649 [ひとり]
謂い返すけど、内心は上の空だ。つっぱねた態度とは裏腹に、俺も・・・・

根岸が俺の髪に長い指を掻き入れた。頭皮を丁寧になぞられる感触に背筋が粟立ち、どうしようもなくて俺は目を瞑った。

それを見計らった絶妙のタイミングで、唇に当たる感触。否、当たるって表現はこの際相応しくない。

唇を、包まれた。

『ダチの家の便所で何してんだ!!』と自分を叱咤する俺と、『根岸にこうして欲しかったんだ』と待ち望んでいた俺が混在する。

⏰:10/04/18 11:04 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#650 [ひとり]
ダメだダメだと思うほどに、もっと欲しいんだと求める自分も大きくなる。

後頭部を支える根岸の手が、優しく包み込んでくる根岸の唇が、嗚呼、やばいな、これ。

うっすらと目蓋を持ち上げると、視界一杯に根岸がいる。

目の前の首根っこに、しがみついてしまいたい衝動に駆られる。唇だけじゃ足りない。全身にキスを返して、鎖骨に歯をたててやりたいと羨望する。

俺って、こんなんだったっけ?自分が自分じゃないみたいだ。

⏰:10/04/18 11:13 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#651 [ひとり]
付き合ってみて初めて解ったことなんだけど、根岸のキスは助走が長い。紳士的?て謂ってしまえるんだろうか。出だしっから息があがるほどにガツガツ来ることはまずなくて、いつも俺の様子を伺うように、スローでフラットなスタンスを崩さない。俺がそれに応える毎に、徐々に加速していく感じだ。

そうして優しく振る舞うことで、俺が焦れったい気持ちになってるなんて、きっとコイツは思いもしないんだろうが。俺は俺で、もっと求められたいなんて『恥ずくてとてもじゃないが謂える訳ねぇ』とプライドが邪魔をしている。

⏰:10/04/18 11:23 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#652 [ひとり]
でも今日は・・・・

いつもじゃあり得ないこの状況と、根岸の吐息と一緒に吸い込むアルコールの香りに酔ったせいにしてしまえ。

俺はそろりと腕を伸ばして。

「三田さん?」

俺の行動に驚いたのか、根岸が動きを止めた。俺達は見つめ合う。根岸の瞳に映る己の表情までがはっきりとわかる距離で。

「そんなんじゃ足りねぇよ」

「え?」

⏰:10/04/18 12:40 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#653 [ひとり]
「そんなんじゃ足りないっつってんだよ」

そろそろと伸ばしていた腕の動きを性急にして、ガバッと相手の首に巻き付けた。

「うおっ」

「そんな生温いんじゃ、俺は半勃ちにもなんねぇっつってんだ」

互いに基より承知のことだけど、我ながら色気も糞もあったもんじゃねぇ誘いかただ。それでも俺にとったら上出来。顔から火を噴く勢いで内なる羞恥心と闘った末の誘い文句だった。

⏰:10/04/18 13:45 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#654 [ひとり]
「何度も謂わせんな」

初めはキョトン顔だった根岸だが、次第にその瞳に何かが宿っていくのがわかった。ギラついている。健全な、二十代男子がそこに居た。

「謂ってくれるじゃないすか」

不適な微笑み。俺も同様に返した。

「止まんなくなっても知らないよ」

「どうだか」

謂っとくが、今はちょっとしたラブシーンな訳だけど、やっぱ俺達にセオリーなやり方はできそうもない。

⏰:10/04/18 13:52 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#655 [ひとり]
挑発。と謂ってしまえるような乱暴な誘いに乗った根岸は、さっきまでが嘘のように俺の唇にかぶりついてきた。

懐かしの歌謡曲が一瞬頭の中を過ぎる。男は狼なのよー気をつけなさいー。

まぁ、対する俺も狼。気をつけるも何も、上等じゃねぇか。

髪を鷲掴みにされ、身体を引き寄せられ、何度も角度を変えながら、奥まで舌で弄られる。

息つく暇がない

⏰:10/04/18 19:52 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#656 [ひとり]
でも、どうでも良かった。

苦しくなる呼吸も、キツい大勢も、そんなん関係ねぇ。


根岸───


俺の頭は、バカみたいにそれだけに占領されていく。

根岸、根岸、根岸、

奴の首に回していた腕に力を込め直す。

⏰:10/04/18 19:57 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#657 [ひとり]
すると、根岸はピタリと動きを止めて、俺を正面から射抜いた。


「三田さ、本気・・止まんない、俺、」

呼吸が苦しいのはお互い様だったようで、根岸は上がった息でつっかえつっかえそう謂った。

眉間に刻まれた皺が、本当に辛そう。

「根岸、」

「はい」

俺は奴の耳元に、こう、囁いた。

「止まんなくて、いんじゃね?」

⏰:10/04/18 20:32 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#658 [ひとり]
「三田さ・・」

「止めようなんて考えるから、苦しくなるんだ」

「・・・いいんですか、んな事、謂っちゃって」

「知らなかったのか?」

「何を」

「俺もお前と同じ気持ちだってこと」

「はは」

根岸は短く笑う。俺達はまた互いを求め始める。

⏰:10/04/18 21:23 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#659 [ひとり]
今この瞬間。俺の頭がお前で一杯になってるこの瞬間に、お前の頭も俺で一杯になったらいい。

そう強く、もう"思う"ってより、"願う"に近い気持ちで舌を交えた。

さっきまでひやりとしていた根岸の手が熱い。

いつの間にかそれは直に俺の肌の上を滑るように動き回っている。ただそれだけのことで興奮しちゃうんだから、俺も、俺の息子もそうとういかれてる。

「三田さん、下が苦しそうですよ」

「ば・・か・・・」

油断したらアハンとか謂っちゃいそうで、俺は歯を食いしばって堪えた。

⏰:10/04/19 10:54 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#660 [我輩は匿名である]
>>600-700

⏰:10/04/19 13:20 📱:P03A 🆔:3sbxmL8g


#661 [ひとり]
「強がっちゃって」

目を瞑ったままでも、相手が微笑ったのが気配でわかる。

俺の前を寛げようと、根岸が手をかけたベルト。カチャカチャと響く音はやけにイヤらしい。

脳みそがドロドロに溶けてくみたいだ。もう、何も考えられない。ただ、根岸が欲しかった。根岸を、俺だけのものにしたかった。

「三田さん」

「根ぎ・・し」

「くわえていい?」

「一々聞くな・・・バカ」

するとまた、根岸が微笑った。そしてゆっくりと、自身(オレ)を包んだ。

「ぁ・・ん・・・」

⏰:10/04/19 23:08 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#662 [ひとり]
まさかコイツとこんなことになるなんて、ちょっと前の俺なら考えられなかっただろう。うん、絶対。

でも人生、何が起こるかわからんもんだ。

まさか根岸が俺を好いてるなんて思いもしなかった。そんな根岸に俺が惚れるなんてのはもっと予想外だ。そんで今、ダチの家の便所に二人籠もってイソイソと"ナニ"に励もうってんだから、これまた予期せぬ事態な訳で。

べぇやん、ごめん。汚さないように、善処します。

それにしたって、根岸の舌使いがヤバい。

「・・・ぎし・・もぅ・・・」

「だしていいよ」

あぁ、チキショー、気持ちいいなコノヤロー。

根岸の肩に、乱暴に爪を立てた。

⏰:10/04/19 23:29 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#663 [ひとり]
【休憩】

今晩はーひとりです。

第二十九話、完結。です★
振り返ってみると、なんだかてんこ盛りな回でした。ハイ。

おや、最後が中途半端だっておっしゃりたいんですね?いやいや、それがひとりなんですごめんなさいm(_ _)m

あ゙ぁぁぁ〜エロは難いんだよチキショォォォオ(;;´Д`)!!!!
誰かひとりにエロの書き方教えて下さい、三百円あげるから。ちーん

⏰:10/04/19 23:38 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#664 [ひとり]
【第三十話/ほっけの人気】


点滅しだした信号。
正直謂って、泣きそうだ。

あぁ、わかった、わかったから、そんなにを引っ張らないでくれ。

「ゆうちゃーん、早くぅー」

アキに急かされて小走りに横断歩道を渡りきる。

「セーフ」

審判のように大きくセーフのジェスチャーをするアキは、いい具合に出来上がっている。

今駆けてきた後ろを見やれば、赤信号。でも別に、走る必要なんてないんじゃないかと思う。深夜二時半過ぎ。車なんて、忘れた頃にやってくるくらいのペースだ。

⏰:10/04/19 23:52 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#665 [ひとり]
【訂正】

>>664

○ そんなに手を
× そんなにを

失礼しました。

⏰:10/04/19 23:54 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#666 [ひとり]
手に食い込むビニール袋を右から左へ持ち替えて、アキの後を追う。

何してるのかって、見りゃわかるだろう、買い出しだ。

二人トイレに身を寄せ合ってイチャイチャしてたのが、随分と前のように思える。ダメだ、また泣きそう。

────
────────

三田さんが俺の肩に強く指を食い込ませた瞬間、予想外の事態が起きた。

ドンドンドン

「ねぇ、大丈夫ー?」

俺達はハッと顔を見合わせた。その時の三田さんったら、それこそ夢から覚めたような表情(カオ)だった。まぁ、俺もそれは同様だったんだろうが。

無遠慮に、続けて打ちつけられるドア。

ドンドンドン

⏰:10/04/20 00:04 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#667 [ひとり]
見つめ合ったままで暫く呆けた俺達は、次のノックで我に返った。

ドンドンドン

これは不味い。何が不味いって、誰も来やしないという過信から、鍵をかけていないのが不味い。そして、三田さんの格好が不味い。それは本人も重々承知の事だったようで、三田さんは慌ただしくベルトを締めながら、素早く便座から立ち上がる。すると膝が俺の顔面にクリーンヒット。

「痛っ!!!!」

たまらず立ち上がると、今度は俺の後頭部が三田さんの顎に見事に決まった。

「「痛だッッ!!!!」」

密室の俺達はてんやわんやだ。

「ねぇー何してんのー?」

外の声は、こちらの様子を完全に訝しんでいる。

⏰:10/04/20 00:14 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#668 [ひとり]
「もー本当に平気ぃ?開けるよ?」

やばい、やばいぞ、これはやばいッッツ!!!!!!

あの時の様子ったら、スローモーションで鮮明に思い返せる。

ガチャリと音を立てて回ったノブ。

素早く便座の蓋を上げしゃがみ込んだ三田さん。

俺もそれに習って瞬時にポージングを決めた。

キィ──・・

弱く鳴った扉が外に向けて開かれるのを背中で感じた。

⏰:10/04/20 00:23 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#669 [ひとり]
「ゲェェェ・・ウッ・・・・ォ・・ウエェェエ・・ウブッッ・・げほっ、がっ、ぺっ」

「何、まだ吐いてんの?」

扉の先に立っていたのは、予想通りアキ。

「あぁ、うん」

俺は背中をさすりながらアキを見て頷いた。

「皆が心配して様子見て来いって」

三田さんは後ろ姿で、無言で手だけ上げて見せる。

「もう少ししたら戻るからって謂っといてくれ」

「・・・わかった」

了承したアキは、今来た廊下を戻って行った。

あ、危ねぇ・・・・

⏰:10/04/20 00:29 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#670 [ひとり]
「ウッ・・・ブフッツ・・オゲェェエ!!!!」

三田さんは余念がない。アキの気配が完全に消えるまで、暫く演技を続けた。

「・・・・・行った?」

「はい、ご苦労様です」

「おう」

「どうします?」

「んーお前先戻っといて」

「分かりました」

⏰:10/04/20 08:45 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#671 [ひとり]
俺は渋々ながら、少し先に皆の元へ戻り、アキに重ねて三田さんはゲロってるけど大丈夫ですと伝えた。

内心、かなり凹んだ。そりゃそうだろ。あと一歩って時にあれじゃあ・・・

そんな俺にアキが意気揚々こう提案してきた。

「買い出し行こう」

本当はそんな気分じゃないけど、皆の手前断れないし、少し外の空気を吸えば気持ちも上向くかと付いてきてみた。みたんだが。

「結構歩いた気ぃしない?」

「そうだな」

行きも帰りも頭ん中はさっきの三田さんの痴態で一杯。

「はぁ・・・」

小さな溜め息は、誰の耳にも届かず宙に消えた。

⏰:10/04/20 08:55 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#672 [ひとり]
【休憩】

おはよーございます、ひとりです。

短いですが第三十話完結です。アキってば、またまたいい所で登場しちゃいましたね、可愛い奴です(´∀`)アーァ

⏰:10/04/20 08:58 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#673 [ひとり]
【第三十一話/マグロのカマって、なんか盛りだくさん】


長谷部さんちで飲みをしてからもう一週間が経とうとしている。忙殺されそうな日々が続いていた。来月、またライブに出て欲しいと助っ人の依頼が入ったのだ。学生時代に組んでいたメンバーからの誘いとあっては断るわけにもいかない。

満腹堂と家とスタジオを行き来する日々で、気付けば辺りの景色はすっかり葉桜が目立つようになっている。

⏰:10/04/20 09:09 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#674 [ひとり]
五月がすぐそこまで来ている。

満腹堂の裏口に置かれたベンチにかけて、紙切れを広げた。

五月の確定シフト。

三田さんに渡された時、こう謂われた。

『アキの誕生日、お前の休みにしといたから、祝ってやれ』

その言葉通り、二十二日の欄には根岸、休、と印刷されていた。

⏰:10/04/20 09:14 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#675 [ひとり]
こんなん謂ったら確実に怒るだろうが、ぶっちゃけ忘れていた。アキの誕生日。

でも三田さん、何でわざわざ俺が休みとってまで祝ってやらなきゃなんないんすか?

謂われた時俺は素直に返した。

だってそうだろ。大学の友達だって少なくないアキの誕生日を、従兄弟がしゃしゃりでてわざわざ祝うってのは妙な話だ。

俺の疑問に、三田さんは何事かもごもご謂っていたけれど、よく聞き取れなかった。聞き返そうとしたら『この話はしまいだ』と請け合ってくれなかった。

何なんだ、まったく。

⏰:10/04/20 09:20 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#676 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/20 19:17 📱:SH03A 🆔:☆☆☆


#677 [ひとり]
>>676

匿名さん

あげありがとうございます(´_ゝ`)

⏰:10/04/21 00:24 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#678 [ひとり]
「火、貰える?」

不意に差した影と頭上から降る声に顔を上げれば、目の前にノジコさんがいた。

「どうぞ」

俺はケツ一つ分横にずれながら、パンツのポケットから取り出したジッポをカチンと開けて着火した。

ベンチの開けたスペースに腰を落ち着けて、ノジコさんは灯したライターから火をとると、真上に向けて煙を吐いた。

「邪魔した?」

「いえ、全然」

⏰:10/04/21 00:32 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#679 [ひとり]
「そう、なんかやたら難しい顔してたから」

「基がサスペンス顔なんで」

「あぁ、確かに"崖"、"二時間スペシャル"で検索したらヒットしそうな顔してる」

「それ、船越○一郎ですよね?」

「わかった?」

どうでもいい会話をしながら旨そうに煙草を吸うノジコさんを横目で見てたら、俺も吸いたくなってきて一本取り出す。

実際それは旨かった。

空は、よく晴れている。

⏰:10/04/21 00:39 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#680 [ひとり]
「シフト?」

ノジコさんの視線は、俺の左手にあるシフト表を捉えていた。

「はい、来月の確定です」

「あたしも早く貰わにゃ」

「ノジコさん、来月連勤やばいっすね」

「え、マヂで?」

「はい、普通に週休二日制のリーマンみたいっすよ」

「うわ、萎えるわー」

⏰:10/04/21 00:44 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#681 [ひとり]
言って嫌そうに顔をしかめたノジコさん。

それから俺達は互いに無言で煙草を楽しんだ。

吸い終わってしまえば、またノジコさんから話しかけてくる。

「そういや最近恋人とは上手くいってんのかよ」

寄越された話題は唐突過ぎて、一瞬反応が遅れた。

「俺恋人いるなんて話しましたっけ」

⏰:10/04/22 01:17 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#682 [ひとり]
そうだ、謂った覚えがないのだ。なのに彼女はさも以前から知っていたかのような口振り。驚く俺の顔がおもしろいのか、横目でにやりと笑われた。

「今更すぎだな、いるんだろ?わかるよ」

喋ったその流れから自然と口元に二本目の煙草をくわえた。満腹堂は時代錯誤のヘビースモーカーが犇めいている。

「いつから」

「前、お前にここで質問された時から」

「ここで・・あぁ」

⏰:10/04/22 21:15 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#683 [ひとり]
そういえばあったな。まだ、俺が想いを伝えるべきか否か迷っていた時分。

このベンチで今みたいに二人煙草を吸いながら、ノジコさんにとんでもない質問をしたところ、彼女自身からバイだと突然のカミングアウトがあった。あの時の言葉がなければ、自分はまだ思い切れずにいたかもしれない。

「去年からじゃないですか」

「そうだよ」

「そうだよって、でも、あの時はまだ付き合うとかは全然、可能性すらなかったんですよ」

⏰:10/04/22 21:46 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#684 [ひとり]
「だろうね、あたしの言葉で踏ん切りでもついたかよ」

エスパーなのかと思うほど、ピタリと言い当てられてしまった。

「まいりました、何でもお見通しなんですね」

「まぁ、伊達に二十何年生きちゃないのよ」

"二十何年"なんつって、俺と大差ない年じゃないかとは思うが、確かに色々経験は積んでそうだ。

⏰:10/04/22 22:59 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#685 [◆S2mRWfM3VE]
>>570-700

⏰:10/04/24 23:26 📱:SH705i 🆔:tY2027uY


#686 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/04/25 23:08 📱:SH03A 🆔:☆☆☆


#687 [りんご]
あげーっ´ω`

⏰:10/04/26 17:35 📱:SH01B 🆔:r/9mJqac


#688 [我輩は匿名である]
あげ☆

⏰:10/04/29 11:59 📱:SA001 🆔:FF4XREoY


#689 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/05/08 15:15 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#690 [ゆま]
あげりんこ
頑張ってください

⏰:10/05/11 12:22 📱:N08A3 🆔:Txp3sCe2


#691 [ひとり]
「でもあれっす、付き合えたからって、それで全て良しって訳でもないんすね」

「何、うまくいってないの?」

どういう訳だか、ノジコさんが相手だと俺は饒舌になる傾向がある。不思議な・・・包容力、とでも言うのだろうか。この人になら。そう思わせる何かがノジコさんにはあるんだ。

「うまくは・・・いってます」

「んだよそれ」

「でも俺、足んないんです」

「・・・・案外お前って欲張り?」

「めちゃくちゃ」

「人は見かけによんないなー」

⏰:10/05/20 09:39 📱:F01B 🆔:dUa5Yf5I


#692 [ひとり]
「意外ですか?」

「うん、かなり」

「俺もです」

「は?」

なんで当人のお前がそこに共感するんだよ。ノジコさんの顔は暗にそう謂っている。ですよね、ごもっとも。

俺は続けた。

「今まで知りませんでした。自分がこんなに欲張りで必死な、格好悪い奴だったって事。」

⏰:10/05/20 09:45 📱:F01B 🆔:dUa5Yf5I


#693 [ひとり]
「ぶふっ」

突然ノジコさんは吹き出した。

「なんだよ、こっちは真剣なんすけど」

そうだ、真剣に戸惑っている。今までこんな風に、誰かを強く求めるなんて事なかったから。来るもの拒まず、去るもの追わずな俺のスタンスは、今じゃどっかに置き忘れたらしく見る影もない。

順調な日々が続けば続くほど、いつか来るんじゃないかという『終わり』に恐怖する気持ちもでかくなるばかりだ。

⏰:10/05/22 19:17 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#694 [ひとり]
静かにくっくと噛み締めるようにして一頻り笑ったノジコさんは、満足したのか『はぁ』と息を着いてベンチに深くかけ直した。

「いや悪い、根岸が真剣なのはよくわかる」

「じゃあ、笑わないでもらえますか」

「でもお前それ、完全のろけじゃん」

「は?」

いやいや、俺は不安なんだっつーののろけてんじゃないんだっつーの。

⏰:10/05/22 19:21 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#695 [ひとり]
「つまりあれだよ、今がものっそい順調すぎて、これからもこの幸せが続くのかしらー怖いわーって事だろ?」

「・・・・・はい、その通りです。でもそれってのろけじゃなくね?」

「いや、お前は今のろけている」

そんな、断言されても・・・

俺は腑に落ちない思いを煙と共に吐き出した。

「つまりだ」

ノジコさんはぴっと人差し指を向けてくる。

⏰:10/05/22 19:26 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#696 [ひとり]
「それだけお前は相手の事が、好きすぎちゃって好きすぎちゃって、なんかもーそんな自分が怖いのさ」

「・・・・はぁ」

「それっくらい自分は今相手が好き!好き好き好き!!!!・・・・と、私にのろけてんだよ、わかったか」

「『好き好き〜』の下り、なんかキモかったです」

ゴスッ

ゲンコツが降ってきた。痛い。

⏰:10/05/22 19:32 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#697 [我輩は匿名である]
あげます\(^O^)/

⏰:10/06/06 23:25 📱:P01B 🆔:/xHVwEcw


#698 [我輩は匿名である]
あげω

⏰:10/06/12 10:58 📱:SA001 🆔:piXyYC0Y


#699 [我輩は匿名である]
あげ^^

⏰:10/06/22 06:37 📱:W61T 🆔:EVIDdQfQ


#700 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:10/06/23 21:46 📱:F02B 🆔:tzhKktzw


#701 [ピーチ]
あげ^^

⏰:10/06/25 20:36 📱:W61T 🆔:BlrYITxk


#702 [我輩は匿名である]
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400
>>401-450
>>451-500
>>501-550
>>551-600
>>601-650
>>651-700
>>701-750
>>751-800

⏰:10/06/25 21:41 📱:W61P 🆔:u0H3C68Y


#703 [我輩は匿名である]
あげ(・o・)ノ

⏰:10/07/18 18:52 📱:W61T 🆔:/ocTKlZk


#704 [我輩は匿名である]
書いてほしいです

⏰:10/08/15 23:14 📱:W61T 🆔:7Uv.s8Cw


#705 [我輩は匿名である]
あげる〜

⏰:10/09/06 21:31 📱:N07A3 🆔:cbJz8gpM


#706 [ひとり]
>>696


「・・・・・・」

黙って殴られた場所をさする。
そうなんだろうか。
これはのろけなんだろうか。

自分としては
かなり切実なつもりなんだが。


「流れ、速いな」


「はい?」

「雲」

「蜘蛛?」

⏰:10/09/19 20:44 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#707 [ひとり]
口で説明するのが面倒くさいのか
ノジコさんは空いている左の人差し指をぴっと上に向けた。


「あぁ、雲」

納得して、見上げた空に浮かぶ雲は
確かに気流が速いのか
見る間に形を変えていく。
目まぐるしい。


⏰:10/09/19 20:47 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#708 [ひとり]
「これと同じだ、根岸」

「?」

再び視線を雲からノジコさんに戻すと彼女もこちらを見ていて目が合った。

「何がですか?」

「お前の不安がる気持ちも、お前と恋人の関係も、諸々」

「ざっくりまとめにかかりましたね」

「うん」


良いこと言ってるようで、イマイチ意味が落ちてこない。

⏰:10/09/19 20:51 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#709 [ひとり]
「つまりそれは・・・どういうこと?」


「お前ってもっと、センスのある英一郎かと思ってたのに」

残念そうにそう言う彼女の口振りは、半分冗談めいているが半分は本気っぽかった。

「すいません、英一郎にはなれませんが、センスは・・・頑張ります」

「センスって頑張るものぢゃねーべや」

「はぁ・・・」

⏰:10/09/19 20:55 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#710 [ひとり]
なら俺にどうしろと。

センスもなく、崖、2時間スペシャルと検索しても引っかからないこの俺にどうしろというんだ。


「変わるんだよ、根岸」

「・・・?」

「流れが速い雲みたいに、人は変わる。感情も、関係も、自分の外も中も」


そこでノジコさんは言葉をきって、寿命僅かな残りを、フィルタぎりぎりまで吸い上げた。

⏰:10/09/19 20:59 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#711 [ひとり]
「要はだ、悩もうが悩まなかろうが変わるもんは変わってくんだし、あんまウジウジしないでセックスにでも励めってことだ!」


勢いよく言い切った彼女はベンチから腰を上げ一歩前に踏み出すと、むん、と大きく背を反らせてのびをした。

「ノジコさん・・・・」


⏰:10/09/19 21:25 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#712 [ひとり]
その、凛とした背中がただただ俺には眩しくて、かっこ良くて


「ノジコさんて・・・・」

「ん、何?」


なんか俺、もう・・・

⏰:10/09/19 21:26 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#713 [ひとり]
「ちんこついてますよね?」



そう疑わずにはいれなかった。



ゴッッ!!!!!





例え二発目の拳をくらおうとも。

⏰:10/09/19 21:29 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#714 [ひとり]
【休憩】

第三十一話完結です。
5ヶ月またいで。

いやー放置もいいとこ、すいません。

上げて下さった皆々様、ありがとうございます。ひとり、戻ってまいりました´▽`

また、暇つぶしに覗いてやってくださいまし。

⏰:10/09/19 21:34 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#715 [ビーチ]
待ってました(≧∇≦)

⏰:10/09/19 21:53 📱:W61T 🆔:V1Z2xzOM


#716 [ひとり]
【第三十二話/雰囲気満点のお品書き】


今朝からの俺の失態を今ここに箇条書きにしてみようと思う。


@セオリーに寝坊

A洗顔フォームで歯磨き

Bバリアフリーな場所で転ける

C遅番なのに早番の時間に出勤

Dまたバリアフリーな(以下省略)

E財布を忘れた

Fタバコを逆向きにくわえ着火

⏰:10/09/20 08:44 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#717 [ひとり]
思い返せばまだまだ出てきそうだけど、悲しくなるからこの辺でよしとこう。

とにかく、こんな具合に絶不調。


「なんかお前今日絶不調な」


わかってることを他人にツッコまれるってのは、甚だムカッ腹にくるもんだ。


「っせーな、わかってるよ」


⏰:10/09/20 08:47 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#718 [ひとり]
俺の不調ぶりに比例して、滝の目尻が下がっていくのがまた頭にくる。

わかってる、わかってるぞ滝。お前が俺を大好きだってことは。

でも、コイツの愛情表現はひねくれてる。ひねり揚げ煎餅くらい、見事なまでに。

ひろむのチームに入って滝と知り合って暫く経った頃、俺は何かと俺を弄り倒す滝が気にくわなくて、つい滝を殴ったことがあった。

⏰:10/09/20 08:53 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#719 [ひとり]
当然、滝は応戦した。
結果は誰の目にも明らか。

新米の喧嘩も碌にできねぇわっぱがいくら猫パンチを繰り出したところで、毎日他校生と拳でやりあってる相手に適うはずもなく、見事返り討ちにあったんだけど。

顔面や全身の痛みと、わかっちゃいたがヘナチョコな自分への情けなさとで、俺はひろむの前で号泣したんだ。

あぁ、恥ずかしいよ、フォーティーンの俺。

⏰:10/09/20 08:59 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#720 [ひとり]
で、そん時ベタに土手で沈む夕日を見ながらおいおい泣き喚く俺にひろむは教えてくれたんだ。


「あいつ、相当お前の事好きみたいだからさ、許してやれ、な?」


って。

当時俺も、好きな子がいるとわざとちょっかいかけてアピったり、イタズラして気を惹くなんてことはあったもんだが。

滝の俺に対する嫌がらせやちょっかい、それが好きの裏返しだとすれば、度を越えている。普通じゃない。

そう思った。

⏰:10/09/20 09:07 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#721 [我輩は匿名である]
でも、今だからわかる。
普通じゃない滝を理解した、今の俺だから。

コイツ、俺のこと大好きです。
好きすぎて気になってしょーがないんです。

「あぁぁぁもうすっさいんだよテメェーはぁぁぁぁあ!!!!」

「なんも言ってねーべや」

⏰:10/09/20 20:30 📱:PC 🆔:mjfnmNa2


#722 [ひとり]
>>721

すんません、スマホから書き込んだら半値が名無しにorz

⏰:10/09/20 20:36 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#723 [ひとり]
「その目がうるさいんじゃボケェコラハゲェェエー!!!」

「お前みたいに煙草逆着火もしないしなんもない所でバカみたいにすっ転ぶこともない俺様がボケなはずないしハゲはたしなむ程度だアホめが」


にやにや笑いを顔面に貼り付けたまま、勝ち誇った態度で言い切られちまえば、俺はもう言い返す言葉も見つからない。

つーか、相手がコイツの場合は言い返すだけ無駄だ。いやんばかん。もー帰りてぇよー。

⏰:10/09/20 20:43 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#724 [ひとり]
「冗談はさておいて」


しつこく滝が口を開いた。


「なにが『冗談はさておいて』だ。お前の存在自体、主成分は『冗談』みたいなもんじゃねーか」

「何か言ったかよ」

「なんでもねーよ!」

⏰:10/09/20 20:55 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#725 [ひとり]
「お前なんか様子へん」


そりゃ変にもなるわ。


「なんか予定でもあるん?」


俺はなんもねーよ。俺はな。


「わかった!今日アレだ、なんか祝日・・・建国記念日?」


はいバカ入りまーす!


⏰:10/09/20 21:01 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#726 [ひとり]
お前がいくらない知恵絞っても、今日が何の日で、なんでそわついてんのかなんてわかりっこないんだ滝よ。



「今日22日だろ?22日・・・・・22日」


横で唸り始めた金髪のアホウは放っておいて。俺は休憩所のベンチから立ち上がった。


「22日・・・・・あ!なんか、なんか思い出しそう!!」なんの記念日だっけかなー・・・


⏰:10/09/20 21:08 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#727 [ひとり]
だから、なんの祝日でもないんだってばよ。



そう、今日は22日。
俺がお人好しにも二人の休みをかぶらせてやった。


5月22日。



根岸 アキ。19才の誕生日。

⏰:10/09/20 21:12 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#728 [ひとり]
【休憩】

こんばんわ!わんばんこ!ひとりです´▽`

第三十二話、完結。です`▽´!
アキの誕生日にそわつく三田と、ちょっかいかけまくる滝。

ひとり、実は滝とノジコが好きです←

滝は三田が大好きなんです。
あ、根岸とは違った意味でww

いやー久々書いてみると、感覚がつかめまてん!!!タヒ

⏰:10/09/20 21:21 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#729 [吉川]
【第三十三話/パセリは添え物じゃない】


カップル、カップルカップルファミリー。ファミリー、カップルファミリーファミリー喧嘩してるカップル。


右を向いても左を向いても、人ひとHITO!!


人酔いしてしまいそうな、此処は治外法権。夢の国。ネズミの支配する国・・・

⏰:10/09/21 08:21 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#730 [吉川]
「ゆうちゃん早く〜ファストパスの時間きちゃうよ〜!」

楽しそうに数歩先で俺に向けるアキは、何を隠そう、否、おおっぴらにネズミーランド信者である。

「あんま走ると周りにぶつかるぞ」

「子供じゃないんだから大丈・・痛っ!あ、すいません!」


だからホラ、言わんこっちゃない。


⏰:10/09/21 08:28 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#731 [ひとり]
あ、半値またミスった( ̄口 ̄;;)
すんません、何度もorz

⏰:10/09/21 08:30 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#732 [ひとり]
>>730 【訂正】

×俺に向けるアキ
○俺に笑顔を向けるアキ

ですた。

⏰:10/09/21 08:32 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#733 [ひとり]
アキにぶつかられたカップルはお互いを見つめ合うのに忙しいのか、謝るアキには目もくれず人混みの中を去っていった。


「・・・・」


その後ろ姿を、じっと見詰めるアキ。
いや、んなうらめしそうな顔したって


「お前が周りも見ずに走るからだろ」


追い付いて俺が声をかけると、ハッとした顔でこちらを見る。

⏰:10/09/21 08:38 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#734 [ひとり]
「・・・・・」


「なんだ、当たりどころでも悪かったか?」


「うーぅん・・あ!スプラッシュスプラッシュ!!早く行かなきゃ!!」


そうしてまた小走りで先を急ぎだした。
俺は、その後を黙ってついて行くしかない。

⏰:10/09/21 08:42 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#735 [ひとり]
本日、5月22日、晴れ。
根岸 アキ、19才の誕生日。

その思惑はなんなのか図りかねるところだが、俺は三田さんに言われるままにアキの誕生日を半ば強制的に祝わされている。


アキもアキだ。

大学にやれサークルだやれゼミだとたくさん仲間をこさえておきながら、何が楽しくて従兄弟の俺と誕生日にこんな所まできているんだろうか。

⏰:10/09/21 08:50 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#736 [ひとり]
頭にふざけたデカいリボンと耳の被り物をつけて愉快そうにしているアキ。まぁ本人が楽しんでいるならよしとしよう。


人混みも遊園知的なスポットもぶっちゃけ得意ではない俺は、ネズミ王国から縁遠い人間として恐らく国内でも5本の指には入るんじゃなかろうか。


つまりわからない。
右も左も未知の場所なのである。
対してアキはホラこっち次はあっちと流石のフリーク、道を極めている。色んな意味で。

⏰:10/09/21 11:53 📱:F01B 🆔:☆☆☆


#737 [ひとり]
なんでも先に発券すると、時間帯で優先的に乗り物に乗れる優待券があるらしく、その約束の時間が迫っているらしかった。アキ曰く、"スプラッシュ"ってやつはバカ正直に並べば一時間以上は軽く並ばされるアトラクションなんだとか。

五月晴れが過ぎる今日の日にそんなマネはごめんだ。うん、使ってこう!使えるアイテムは惜しみ無く使ってこう!

⏰:10/09/22 08:26 📱:PC 🆔:kJ6OecNk


#738 [ひとり]
言われるがままにアキの後ろを付いて行くと、なんか山っぽいでっかいアトラクションに到着した。

「よかったぁ間に合ったね!」

右腕にはめたピンクゴールドの時計で時間を確かめたアキ。間に合ったらしい。

「早く、中行こうゆうちゃん」

また性懲りもなく小走りを始めた。はいはい、どこまでもお供しましょう。

俺は大人しくその後に従うのだった。

⏰:10/09/23 21:46 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#739 [ひとり]
暗がりの中を乗り物に運ばれてどんぶらこどんぶらこしていると、終わりは突然に訪れた。"うさがどん"がなんだか悪のキツネと熊に吊し上げられてんなぁー・・・と、思ったらそのままま急降下。

あぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁああ


と、俺は為す術もない。
その後どこからか隠し撮りされていた写真で確認すると、
三田さんには絶対見せられない。見せたら100笑い者にされる事請け合いな見事な白目の自分がいた。これを金を出して思い出にいかがですかと言うんだから、夢の国も考える事が鬼畜だ。

いるもんか、500円くれるって言われたって、いるもんか。バーロー。

⏰:10/09/23 21:58 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#740 [ひとり]
その後も俺は言われるがままにアキに付き従った。スペースマウンテンなるものには合計3度も乗車を強要された。

何度もしつこく言わせてもらうが俺は遊園地的スポットが苦手だ。もっと言えば絶叫を目的にした乗り物なんてもっての他。誰が好き好んで内臓に過度なGをかけたいものか。


正直、とってもグロッキーだ。

⏰:10/09/23 22:07 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#741 [ひとり]
それでも今日の主役が誰なのか、自分が何のためにこんな縁もゆかりもない場所にいるのか、それを心の中で反芻することで折れてしまいそうな己をどうにか保って時間は夜の8時。

ゴールが見えてきた。頑張れ、頑張れ俺。あとはお約束らしいパレードとやらを見たらコンプリートだ。

アキは終始バラエティー番組に引っ張り凧なタレント級のバイタリティーを見せ、大いに喋り、笑い、走り、飲み、食べ、また喋り、たまに人にぶつかったりした。

今はアキ持参の二人用の小さなレジャーシートを広げ、休憩がてらパレードに向けての場所とりを命じられている。

⏰:10/09/23 22:25 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#742 [ひとり]
本人はおみやげを買うからと、これまた駆け足で人並みをかき分け消えて行った。ふぅ。ここへ来て本日はじめての自由時間。あぁー・・・煙草、吸いてえ。

店は、夜の営業も始まってる時間だ。あの人、今頃はホッピー片手に料理の腕を奮ってるんだろうな。前髪を鍋から立ち上る湯気にやられてまた斬新な外はねにさせながら。下らないバカ話にでも花を咲かせながら。


会いたい。声、聞きたい。

⏰:10/09/23 22:44 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#743 [ひとり]
吸いたくとも吸えない煙草とあの人の事を考えながら、手持ちぶさたになってジッポを手元で弄ぶ。見渡せば、俺同様に場所とりをしている家族連れや女子のグループにカップル。疲れきった顔のお父さんに、眠ってしまったチビッ子。ガールズトークの止まらない子達もいれば、ピタリと寄り添い好き好きと囁き会う恋人達も。

俺とアキは、きっと端から見ればカップルのように見えるんだろうな。
手を繋がなくとも、寄り添い合わずとも、俺とアキの見てくれなら、自ずとそう見られる筈だ。


これがもし、三田さんとなら・・・


俺と三田さんが遊園地デート。お手て繋いでスキップステップ。うぇ、よさやい、柄でもない。

⏰:10/09/23 23:13 📱:PC 🆔:c5UNqKp.


#744 [ひとり]
「ゆうちゃーんお待たせー」

名前を呼ばれ、意識が現実に引き戻される。俺の左横に座ったアキの前には土産物が詰まっているんだろう袋。なんだ、やけにでかいな。

「お前、大丈夫なのか?」

「何が?」

俺の問いかけに小さな頭を傾げてみせる。

「いや、金。そんな買い込んで、言えば出してやったのに」

「あぁ、これ?大丈夫だよー全部大学の子達に配るお菓子とかだし。あ、満腹堂の皆にも買っておいたから」

「ならいいけど・・・ありがとな」

「どういたしまして」

アキはニコッと歯を見せて笑った。
それにしても満腹堂のあの面子が夢の国産の菓子を・・・菓子箱に群がるその姿は、想像するだに不釣り合い過ぎて笑える。

⏰:10/09/24 09:11 📱:PC 🆔:zXdvqjZ.


#745 [我輩は匿名である]
あげ(^O^)

⏰:10/10/14 11:03 📱:W61T 🆔:9.ZSjVeQ


#746 [我輩は匿名である]
主がんがれ

⏰:10/11/09 20:45 📱:SA001 🆔:jvfbznVk


#747 [我輩は匿名である]
あげぽよ

⏰:10/11/15 23:03 📱:P03A 🆔:02/lO5W2


#748 [我輩は匿名である]
(^O^)

⏰:10/11/20 09:14 📱:W61T 🆔:B2SwkWKs


#749 [☆ララ☆]
あげ〜ヨヨ

⏰:10/11/23 22:45 📱:840SC 🆔:.Pjjkkjg


#750 [なお]
あげ〜

⏰:10/11/24 10:40 📱:F08A3 🆔:MUAN4nyM


#751 [我輩は匿名である]
あげあげあげ

⏰:10/11/25 21:24 📱:W61T 🆔:8dM/eoQI


#752 [我輩は匿名である]
あげ 

⏰:10/11/28 14:04 📱:SH005 🆔:ZF7MYx02


#753 [しゃーぷ]
お初です´ω`
今日数時間かけて読み終わりました!!いつの間にか外真っ暗^^/ 続き待ってます!頑張ってください(゚∀゚)

⏰:10/11/28 18:32 📱:SH903i 🆔:rXqE7f5U


#754 [しゃーぷ]
あげます

⏰:10/11/29 17:40 📱:SH903i 🆔:QFgaQ7mk


#755 [我輩は匿名である]
あげる

⏰:10/12/04 00:03 📱:W61T 🆔:VZab3QMI


#756 [我輩は匿名である]
あげい

⏰:10/12/06 21:31 📱:SH005 🆔:GjR/q8hI


#757 []
(^O^)

⏰:10/12/09 14:04 📱:W61T 🆔:Ra4fwEZ6


#758 [迷子]
あげ(m'□'m)

⏰:10/12/14 06:59 📱:P06B 🆔:eZyODSTo


#759 []
あげ(^O^)

⏰:10/12/15 19:15 📱:W61T 🆔:i5n.iMog


#760 [ひとり]
「あとこれは、はい。」


「ん?」


アキはニヤつく俺の目の前に、菓子をしこたま詰め込んだデカい袋とはまた別の小さい袋を差し出した。


「なにこれ。」


「いいから、あけて。」

.

⏰:10/12/23 15:34 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#761 [ひとり]
よくわかんらないが、開けろと謂うので開けてみる。


「これって・・」

「じゃーん!ストラップだよ、かわいいでしょう!!?」


袋の中にあったのは、王国を支配するおネズミ様のストラップだった。にしてもこれは。

「でかくねーか?」


.

⏰:10/12/23 15:46 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#762 [ひとり]
確かにつむじの辺りから紐が出てる辺りどっかに括り付けるんだろうと予想はつくし、包装用の袋の後ろにはばっちり【ストラップ】と商品名がうってある。

にしたってほんと、でかい。


「お揃いにしちゃった。」

そう謂って嬉しそうにアキが取り出した携帯には、俺が手に持つネズミに赤いリボンをカスタムしたタイプの、同じくドデカい自称ストラップがぶらーん。

.

⏰:10/12/23 15:57 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#763 [ひとり]
比率が完全に1:1だ。

「これね、クリーナーなんだって。かわいい上にケータイも拭けるとか、一石二鳥だよね。万能だよね。」

さすが夢の国だよ〜と感激してさっそく携帯を磨きだしたアキを尻目に、これを自分が付けてあまつさえ携帯を磨いちゃったりするところを想像してみた。

いやいや、キツいってそれは。

「そうだな、一石二鳥だよな。はい、ありがとうございまーす。」

.

⏰:10/12/23 16:02 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#764 [ひとり]
じゃあこの話はこれで終わりと謂わんばかりの素早い動作でストラップを上着のポケットにしまおうとするや、アキはその動きに待ったをかけた。

「つけないの?」

「え、いやぁ、これはちょっと、ねぇ?」

「かわいい上にケータイも拭けるんだよ?」

「わぁー・・凄いですねぇ。」

「おそろいなんだよ?」

「ん?・・・うん。嬉しいなー。」

.

⏰:10/12/23 16:10 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#765 [ひとり]
「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



「「・・・・・・・・・・・」」



「・・わかったよ。付ければいいんだろ。付ければ。」

「うん!」


仕方ない。今日の主賓が謂うことには逆らえない。

.

⏰:10/12/23 16:13 📱:F01B 🆔:Knl6lSy6


#766 [ひとり]
アキお目当てのパレードが始まる頃には、俺の携帯にしっかりぶらさがるネズミの親玉。デカすぎてポケットに収まらず、外に飛び出してだらんぶらんと愉しげだ。


パレードは確かに綺麗だと思った。あと、ピチピチの全身タイツに身を包んだお姉さん達のプロの仕事には感心した。きぐるみならいざ知らず、あの笑顔を園内ぐるっと一周する間顔面に貼り付けて。俺には到底できない神業だ。別にやる気ないけど。

.

⏰:10/12/24 10:37 📱:F01B 🆔:SRkq9zXQ


#767 [ひとり]
最前列を確保していた俺達の前を目まぐるしく通過していくキャラクターとオブジェに、アキは終始わーだのきゃーだのとはしゃいでいた。

歓喜しては手を振り、振ったかと思えばせわしなくデジカメのシャッターをきって。忙しい奴。

横でそうしている姿は、可愛くもあり、微笑ましくもある。子供とかできたら、こんな感じなんだろうか。

.

⏰:10/12/24 10:54 📱:F01B 🆔:SRkq9zXQ


#768 [ひとり]
なんて。俺とあの人がいくら頑張ったところで、それは絶対ないんだけど。まぁ、いざとなれば養子縁組み?


「ってそりゃないか。」

「うん、あれはないなって何時も思うんだぁ。」


俺の思わず漏れてしまった呟きに、アキは何度も頷いていた。

「え、ごめん何が?」

「だからーパレードの最後にド〇モのおっきいオブジェがでてくること。なんか一気に現実に引き戻された気分になるんだよねぇ。」

.

⏰:10/12/24 11:01 📱:F01B 🆔:SRkq9zXQ


#769 [ひとり]
「もちっと余韻に浸らせてって話しだよー」


口では謂いながら、観るだけ観るとさっさと立ち上がるアキ。
見れば周りもサクサクと後片付けに励んでいる。


「随分と忙しないな」

「皆また今から乗り物乗ったりおみや買ったりするからねー」

.

⏰:10/12/26 08:56 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#770 [ひとり]
「貪欲だ、貪欲だぞ日本人」

「せっかく来たならギリギリまで楽しまなきゃ損でしょー」


て事は、もれなくお前も・・・


「さぁーて、ぢゃー行きますか!」


来たッッ!


「いやぁー今日はもうちょっと・・・」

⏰:10/12/26 09:05 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#771 [ひとり]
ここまでがワンセット。ここがゴール地点。そう信じて疑わなかった俺。浅はかだったのか。俺が浅はかだったのか。


「なんつーかホラあれだよ・・あのーアレだ。お前には話してなかったかも知れないが、実のところ俺にはパレードの後に園内に留まると出るという持病の発作が・・・」


アキの白けきった視線が痛くないと謂えば嘘になるがこの際そこは無視だ。帰りたい。もうぶっちゃけ帰りたいんです。

⏰:10/12/26 10:18 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#772 [ひとり]
「ゆうちゃん・・」

「いや、なんかもう、ゴホッ、ほら出始めtゲホッゴホッ」

「ゆうちゃんてば・・」

「く、苦し、ゴホゴホッ!ガヘッ!うぅ息がで「ゆうちゃん!!!」


俺の迫真の演技は、アキの一声で遮られた。嗚呼、駄目なのか。またあの無意味なGをかけて体力を消耗するだけ消耗する非生産的なマシーンに俺を乗せるのか。



「安心してよ、もう帰るから」

.

⏰:10/12/26 10:28 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#773 [ひとり]
それは思いがけない台詞だった。『もう帰る』?自分の耳を疑ってしまう。


「アキ、帰るってのはアレか。舞浜駅から東京駅まで乗り継いでそこから今度は中央線で・・」

「うん、帰る。明日一限あるし、それにこの荷物じゃちょっとね」


そう謂って、さっき買い込んで来た土産物のしこたま詰まった袋を持ち上げて笑ってみせる。

.

⏰:10/12/26 10:33 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#774 [ひとり]
「そっか。なら、よし。帰ろう」

「うん」

「荷物かして、持つ」

「ありがと」


長い、長い道のりだった。だがしかし、止まない雨はない。明けない夜はない。俺はミッションを完遂したんだ。そう、【アキの誕生日を祝う】というミッションを・・・・・

.

⏰:10/12/26 10:38 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#775 [ひとり]
・・・・祝う・・・祝う・・・・いわ・・・・ん?


俺はここへ来て、遅蒔きながら気付いてしまった。




【祝っていない】ことに。


確かに三田さんの命令で無理くりとらされた休みに、アキが行きたいと謂うネズミーランドに保護者として付いて来た。

.

⏰:10/12/26 10:42 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#776 [ひとり]
でもそれだけ。気の利いたプレゼントもなければ、一言の『おめでとう』もない。てか逆にプレゼントされちゃってるし。・・・・なんてことだ。


帰ろうと謂って歩き始めた途端に俺が立ち止まったもんだから、アキは不思議そうに俺を振り返った。


「ゆうちゃん?」


「アキ」


「なぁに?」


.

⏰:10/12/26 10:47 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#777 [ひとり]
「誕生日おめでとう」


「ゆうちゃん・・」


遅すぎるこのタイミング。でも謂わないよりは謂ったほうがいいに決まってる。


「プレゼントすれば、何がほしい?」

.

⏰:10/12/26 10:51 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#778 [ひとり]
>>777

【訂正】

×プレゼントすれば、何がほしい?

○プレゼント、何がほしい?


失礼しましたm(_ _)m

⏰:10/12/26 10:53 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#779 [ひとり]
「え?」

「何か欲しいもんあるだろ?デッカイねずみのぬいぐるみとかでもいいぞ。今日なら買ってやる」


俺の申し出にアキは逡巡している様子で、あーとかうーとか声に出して真剣な顔。


ほんの一時待つと、決心したのかぱっとこちらへ向き直った。

.

⏰:10/12/26 10:57 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#780 [ひとり]
そして右手をこちらに差し出してこう謂った。


「手、繋いで」




え、それだけ?


「今日ならなんでもお願い聞いてくれるんでしょ?」


いやいや、そこまでは謂ってない。けど、変な奴。もっと欲をかいたっていいだろうに。

.

⏰:10/12/26 11:24 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#781 [ひとり]
「いつも俺の腕にぶら下がってくるくせに」

「私からね。そうじゃなくて、ゆうちゃんから繋いで欲しいの」


よくわからないが、従兄弟同士でおて手繋ぐくらいでプレゼントになるならまぁ安上がりでいいか。


俺は軽い気持ちでアキの手をとった。

.

⏰:10/12/26 11:28 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#782 [ひとり]
「はい」


「・・もう!そうじゃなくって!」


だがアキの奴は気に食わないらしく、膨れっ面になる。


「なんだよ」


「恋人繋ぎがしたいの!」


「あぁ、はいはい」

.

⏰:10/12/26 11:31 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#783 [ひとり]
恋人繋ぎ。それは互いの指と指の間に相手の指を挟み込む繋ぎ方で、季節関係なく長時間そうする事により大量の手汗をかいてお互いうぇ〜となる繋ぎ方の名称だ。


「これでどうだ」

「うむ、満足じゃ」

「さようか」


そして俺達は駅に向けて歩きだした。

.

⏰:10/12/26 11:35 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#784 [ひとり]
【休憩】

第・・・わかんねーこれ何話目だっけ(・∀・)?←コラ

アキは根岸におめでとーって謂ってほしかったんです。恋人繋ぎがしたかったんです。なのに終始根岸は気づかないんです。

書いていてアキが不憫になってしもうたですじゃ(うω;`)

てか、皆様上げて下さってありがとうございます!
ひとり、感謝の涙と鼻水で顔中ベトベトんなりますた!!

⏰:10/12/26 14:12 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#785 [ひとり]
【第三十四話/食用花ったって、花は花】


昔、学生の時分に好きになった娘がいた。学校は違った。年は、俺の一つ上で、でも頼りなくて、俺がいなくちゃ、とか思ってた。少し身体が弱くて、消えちまうんじゃないかってくらい透き通った白い肌をしていた。でも彼女が微笑うと、パッと辺りが鮮やかになる。そんな華のある娘だった。


当時はあの娘が全てで、あの娘で最後だって思ってた。"これから先もずっと"って───


.

⏰:10/12/26 15:42 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#786 [ひとり]
久々にあの夢を見た。あの娘の夢。俺等が別れた学校近くの土手。日は傾いて、遠く帰宅を促す終業のチャイムが響く中、すみれの頬を伝う一筋の滴。それが傾いた西日に透き通って、綺麗で、悲しくて──


行ってしまう。すみれが行ってしまう───


駄目だ───


駄目だ───行くな───



.

⏰:10/12/26 15:58 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#787 [ひとり]
「──ッッだ!!」


目が覚めたら、寝汗びっちょり。おえ、おやじ臭せ。


んだよ、朝から胸糞悪りぃな。


とりあえず纏わりつく汗がうざったくて風呂場へ向かう。
うぅ、頭がフラつく。
昨日は素面でいるのがしんどくて、滝と無理やりべぇやんちに押し掛けドンチャン騒ぎ。

バッチリ二日酔いを喰らったみたいだ。痛ってー。

.

⏰:10/12/26 16:04 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#788 [ひとり]
いやいやだってだよ?マヂありえないんだってあのじゃじゃ馬娘が。


俺の太平洋より広く底なし沼より深いこの優しさをいいように利用しやがって、根岸とこ、こ、恋人繋ぎだなんて!!


イヤン!バカン!破廉恥ッッツ!!!!


ちゃっかり繋いだ手を写メって俺に送りつけてきやがったわけだ。思い返しても腹が立つ。


.

⏰:10/12/26 16:09 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#789 [ひとり]
根岸も根岸だ。


俺は祝ってやれとは謂ったが、手を繋いでこいなんてひとッッッ───────・・・ことも謂わなかった!!!!


あのバカが。


次から次へ溢れ出る不満を熱いシャワーに強く打たれて誤魔化す。イラついてる時ってのはエネルギーが溢れ出ていいね!なんかこう、1ミクロンの汚れも見逃さねーぞってくらい憎しみを込めて全身をガシガシ洗ったら、逆にスッキリして二日酔いもちったぁマシになった気がしたり。


.

⏰:10/12/26 16:16 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#790 [ひとり]
シャワーから戻ると、まだ野郎二人は夢の中のようだ。

そういや今日滝は遅番だし、べぇやんは休みだったもんな。あーあ、だらしなく腹なんかだしちゃって、ジャージーのゴム跡がばっちりついてますよコノヤロー・・・・・・マジックマジック・・・・・・・


────
──────


これでよし。我ながらプロの仕事だ。さて、そんじゃ一旦帰りますか。


俺は一人そそくさとべぇやんちを退散した。

.

⏰:10/12/26 16:26 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#791 [ひとり]
今日は早番。着替えだけしたら直ぐにでも出ないとこりゃ遅刻だな。


小走りで我が家のある二階へ駆け上がると、片手でホルダを外しながら、もう片方で玄関脇の茶のポストを弄った。


出張お姉ちゃんのチラシに俺には縁もゆかりもなさげなネイルの割引券付きハガキ、それからそれからー・・ん、手紙?

.

⏰:10/12/26 16:34 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#792 [ひとり]
それは薄紫色の便箋で、俺の名前と住所と郵便番号が几帳面で華奢な字で綴られていた。

ちょうどホルダーを外しきり鍵穴に鍵をぶち込んだところだった俺は、ドアを開けながらその小綺麗な便箋の裏を返した。


宛名がない。


.

⏰:10/12/26 16:41 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#793 [ひとり]
誰だか知らないが、俺の近しい奴でこんなコジャレた手紙を送ってくる奴なんて、誰も思い付かない。

ものっそい中身が気になるところではあるが、今は何はさておき着替えだ。


俺はテキトーな服を見繕って着替えると、薄紫のその手紙をくしゃくしゃにならないようケツポケに仕舞って店へ向かった。


.

⏰:10/12/26 16:45 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#794 [ひとり]
【休憩】

第三十四話完結です。

三田んちに届いた一通のお手紙。何かが起こりそうな予感(☆∀☆)ウヘヘ

あー収集つかんくなったらどぎゃんしょ´∀`ぇ

⏰:10/12/26 16:57 📱:F01B 🆔:sQ7DWHS.


#795 [我輩は匿名である]
失礼します。

>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/12/31 19:18 📱:N04A 🆔:☆☆☆


#796 [はみ]
あげ

続き楽しみにしてます!

⏰:11/01/09 18:52 📱:S001 🆔:5tAqvWb6


#797 [ゆう]
続き書かないのかなー?
主さん、続き楽しみにしてます!

⏰:11/01/29 21:26 📱:N04A 🆔:☆☆☆


#798 [ピーチ]
あげ(*^o^*)

⏰:11/02/21 17:53 📱:W61T 🆔:xNAEfJ/k


#799 [ねこ]
あげ!

⏰:11/03/10 19:35 📱:PC 🆔:J3hSn7Cg


#800 [我輩は匿名である]
あげ\(^o^)/

⏰:11/04/02 11:32 📱:P905i 🆔:KS27eqhE


#801 [ひとり]
【第三十五話/知ってる?しっかり洗ってあるジョッキはリング状の泡がくっきりでるんだってよ】

俺が店の前まで行くと、そこには既にひろむがいた。

『遅っせーよ』

『悪り悪り、てかお前鍵は?』

『忘れた。けど取り帰るのメンドイから待ってた』

『あっそ』

.

⏰:11/07/25 21:58 📱:Android 🆔:uLO90tJY


#802 [ひとり]
低血圧なひろむは早番の時いつもテンションが低い。

『……』

俺が鍵を開けるのを眠そうな目でただひたすらに見守っている。

『……』

俺も特にこちらから話しかけることはしない。鍵のガチャガチャゆう音や、シャッターの立て付けがギギギギ唸る音だけが響く。

『……あ』

.

⏰:11/07/25 22:04 📱:Android 🆔:uLO90tJY


#803 [ひとり]
普段なら中に入って一服をするまでろくに喋らないひろむが、珍しく張りのある声をあげた。

ガラガラガラ

『ん?なした』

『いや、そいやーお前んちにも届いた?』

『なにが』

『す――...』

『はざーす』

.

⏰:11/07/25 22:13 📱:Android 🆔:uLO90tJY


#804 [ひとり]
ひろむが何か言いかけたところで後ろからかかった声に振り返ると、津久井が立っていた。

『おう、はよ』

『はよ』

軽く挨拶を返した所でシャッターがちょうど上まで上がりきった。

.

⏰:11/07/25 22:18 📱:Android 🆔:uLO90tJY


#805 [ひとり]
『あれ、なんか弘さん腕筋めっちゃついてないすか?』

『あ?あぁ、最近また筋トレ始めた』

『いいよなー絶対つきやすい体質ですよね、俺なんか鍛えても鍛えても・・・』

『シーチキンと卵だよ』

『ビルダーっすねー』


二人はそのまま筋肉の話に花を咲かせながら店の中へと消えていった。

.

⏰:11/07/26 00:19 📱:F02A 🆔:A/aVvrPE


#806 [ひとり]
一人取り残され俺。



『「す」ってなんだよ』


宙ぶらりんになったままの話の続きが気になるも、先ずは一服だと、遅れて店に入った。

.

⏰:11/07/26 00:22 📱:F02A 🆔:A/aVvrPE


#807 [ひとり]
結果、ひろむが言いかけた「す」の続きは聞けぬまま店が始まり、ランチになり、遅番の奴らが出勤し、仕込みになり、そして夜の営業が始まろうとしている。


『あ、そいやー朝の話しの続きなんだけどよ』

その頃になって、やっと気付いたひろむが話しかけてきた。

『おう』

『あれさ、す――』プルルル


『『・・・・・・』』プルルル

『鳴ってんぞ』

.

⏰:11/07/26 00:29 📱:F02A 🆔:A/aVvrPE


#808 [ひとり]
『悪い』

『ん』


なんだってこういいタイミングで。


ひろむは電話にでると『お疲れさまですー』だの『こちらこそお世話になってますー』だのと口上を垂れている。

恐らく仕入れ先のおとくいさん。とかだろう。

.

⏰:11/07/26 00:32 📱:F02A 🆔:A/aVvrPE


#809 [ひとり]
ほいでもってそのまま『今近くに?』『了解です、私も向かいますんでー』とかなんとか言うが早い。


そのまま身一つ、財布だけをケツポケに突っ込みひろむは店を出ていった。


オイオイ、だからー「す」の後が気になんだろーがよ「す――・・」なんだよったくよー。


もやっとするぜチクショーめ。
.

⏰:11/07/26 01:30 📱:F02A 🆔:A/aVvrPE


#810 [ひとり]
『どうしたんですか、ブザ…ブスッとして』

『お前今"不細工"って言おうとしたべ』

『めっそーもない』

『いいよ、顔に描いてあんだよ』


根岸は仏頂面な俺の横へ来てマリネにする為の玉葱を切り刻んでいる。

.

⏰:11/07/26 20:33 📱:Android 🆔:p7cjSAYw


#811 [ひとり]
『で、何が原因でそんな不細工面になってるんです?』

『言っちゃったなッッ!もう言っちゃった不細工ってッッ!!』

『……』

『はいそして出ましたー!"うるせーよ"って表情だけでアピールでましたぁぁぁ!!何なの!?目だけで演技する役者気取りなの!?リアクション芸人馬鹿にすんなよッッ!?!?』

『いや、思ってねーしうぜーな』

『ほら出たッッツ!!!』

.

⏰:11/07/26 20:40 📱:Android 🆔:p7cjSAYw


#812 [にゃんき]
根岸の性格大好きです
続きがめっちゃ気になります

ひとりサン、頑張ってください

⏰:11/07/27 00:05 📱:N03A 🆔:Pcj81E/6


#813 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:11/08/11 19:49 📱:P06B 🆔:FmzzQeCo


#814 [はるな]
あげます (`・∀・)b
ずっと見てたから、更新されてて嬉しー!!

⏰:11/08/15 09:46 📱:iPhone 🆔:BACfIC5U


#815 [我輩は匿名である]
あげ(;o;)

⏰:11/11/01 00:53 📱:Android 🆔:w6Ji6F8A


#816 [辛姫]
更新まってます

⏰:11/12/21 10:03 📱:SH705i 🆔:kNOBWCQw


#817 [我輩は匿名である]
ずっと見てましたー
更新もうしないのかな?

⏰:12/08/30 21:50 📱:iPhone 🆔:xqCEAQug


#818 [ひとり]
『もうわかったから。で、そんなに眉間に皺を寄せてるのは何でなんすか?』

『いやさ、今朝から中途半端になってる話しがあって、続きが気になって仕方ないんだわ』

『ふーん。普段は細いことに頓着しない三田さんが、珍しいですね』

『・・・否定はしないけどよ、ちょっとは心遣いしろよ、お前も日本人の端くれだろ』

『嫌だな、それって日本人の悪い癖ですよ?思ったことをきちんと伝え合わなくては、本当の信頼関係は築けないんです』

『お前が今どの立ち位置から話しているのかわからないが、ちょっともっともな事言わないでもらっていいか?』


駄目だ。一向に話が先に進まない。


『ちょっと外のボード仕舞ってくるわ』


諦めて、一先ず通りに出しているボードを回収に向かう。

.

⏰:12/09/16 12:12 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#819 [ひとり]
『ん?』


その途中、何気なく手を突っ込んだケツポケ。指先に当たった何かを引き抜くと。


『あぁ、そういえば』


すっかり忘れていたが、今朝がた郵便ポストから抜き取った、宛名不明の手紙。一体誰から送られたものなのか?それを確かめるべく、表に出たところで、俺は封を切った。

開くと同時に、仄かにいい匂いがした。

無意識のうちにそれを深呼吸するようにして吸い込む。それから中に入っていた便箋を取り出すと、そこには丁寧な字で、簡潔にこう書かれていた。


─────
──────────

望へ

突然の手紙で驚かせてしまったらごめんなさい。
お久しぶりです。
突然ですが、帰国することとなりました。
会いに行きます。楽しみにしててね。

.

⏰:12/09/16 12:33 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#820 [ひとり]
『これって・・・マヂでか』



最後に書かれていた、差出人の名前。







『すみれ・・・』

.

⏰:12/09/16 12:35 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#821 [ひとり]
【休憩】

はい、皆様こんにちは。
大変、大変お待たせいたしました。
ひとりです。

あれ?誰も待っていないですって?
そうかーそうだと薄々感じてはいたんだよなー。だよなー、そりゃそうだよなー。


・・・でも!そんな中でもあげて下さった 、少数派の皆様のために!!
更新して参ります。
ありがとうございます!ありがとうございます!!!

⏰:12/09/16 12:44 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#822 [ひとり]
【第三十六話/梅は苦手だけど、練り梅はいけるの】


三田さんが変だ。

あの人の場合、いつも変だけど、今日は特に変だ。なんつーか、



挙動不審。



店にお客さんが入って来る毎に、何故か小走りで確認しに行く。何度も、何度も。

いやいや、あんたの持ち場はキッチンだろうが。

.

⏰:12/09/16 12:50 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#823 [ひとり]
そしてまた。



『らっしゃーせー!』


津久井の声に反応して、表に行こうとしてるし。


『はいはい、ストップストップ』


いい加減に目障りだ。行ったり来たり、気が散って仕方ない。

丁度俺の横で、豆腐サラダの仕上げにかかっていた三田さんの、肩を掴んで動きを制した。

.

⏰:12/09/16 12:54 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#824 [ひとり]
『ん?何だよ?』


「なんだよ」はこっちの台詞だ。


『何をそんなにソワソワしてるんですか、友達でも来るんですか』


すると、何故か三田さんは狼狽えだした。


『と、と、友達、うん、友達・・・かなー』


なんだ。「かなー」って。

.

⏰:12/09/16 13:07 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#825 [ひとり]
で、またフロアに行くし。駆け足だし。





その日は、終始そんな感じで落ち着きがない三田さんを、横目でチラチラ見ながら1日が終わった。



客引きよく、レジ金の差異もなし。
腕の時計に目をやれば、時間はまだ11時半を少し過ぎたところ。


こんな日にはきっとまた・・・

.

⏰:12/09/16 13:19 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#826 [ひとり]
『姐さんが言うことは〜?』


突然、声を張った滝さん。


『『『ぜった〜い!!!!』』』


それに続くオーディエンス。
やっぱり、そうなるんだ。


『では!』

『いざ参らん!』

『長谷部城へ!!!』


長谷部城とは。なんとも守りの緩そうな名前だ。

.

⏰:12/09/16 13:24 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#827 [ひとり]
肩を組んだ滝さんとノジコさんを先頭にして、店をでる一向。


もちろん参加するんだろうと、三田さんを探すと、一人店の隅。何か紙切れのようなものを凝視している。

真一文字に結んだ口元。


『三田さん』


入口のドアを開いて声をかける。が、返答がない。電池が切れたかの様に、微動だにしない。


『三田さん!』


『・・・へっ!?ん!?!?何だ、どした!?!?』


『早く、皆外で待ってますよ』


『あぁ・・おうよ』


「悪りぃ悪りぃ」と言いながら、チンタラとこちらに向かって歩いてくる三田さん。

本当に、今日は変だ。

.

⏰:12/09/16 22:19 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#828 [ひとり]
俺が出勤して間もなくはこんな調子じゃなかった筈だ。


いつからだろうか。どの辺りから様子が・・・




───────ブラックボード


そうだ、仕舞いに行くと出ていって、いやに戻りが遅くて、それで────────


あの時、何かあったんだ。俺は直感した。

.

⏰:12/09/16 22:27 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#829 [ひとり]
丁度、ドアを開いて待つ俺を、横切ろうとした三田さん。まるっきり、心ここにあらず。といった風だ。


はぁ、と溜め息をついて、自分の足元に視線を落とした。




『ちょっと、早く出てくださいってば、閉めますから』


落とした視界の隅に、中途半端に立ち止まった三田さんの足を捉えて。

言いながら、顔を上げた俺の目の前の三田さんは、さっきまでの脱け殻のような様から一転。何故かバッキバキに目玉(メンタマ)をひんむいていた。


戦慄く口元。

.

⏰:12/09/16 22:48 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#830 [ひとり]
『す・・・・す・・・・・』


『す?』



必死になって、何事か言おうとする、その人の視線を辿れば。






鼻を掠める、仄かな香り。




真っ暗な夜に、パン、とそこだけスポットライトを当てたような。


世界が一気に華やいだ感覚。




三田さんは、振り絞るように。







『すみれ───────!』

.

⏰:12/09/16 22:50 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#831 [ひとり]
【休憩】


こんばんは。わんばんこ。ひとりです。


第三十六話、完結いたしました。
遂に現れた!彼女の名はすみれ!!!
名前からして儚げ!女子力はカンストッッ!ってかんじです ( ゚∀゚)・∵.グハッ


あーあーどうなんだーどうすんだー。
ひとりにも収集がつかない予感がムンムンです ( ゚∀゚)HA-HA-HA

⏰:12/09/16 23:04 📱:Android 🆔:8K9twFOI


#832 [ひとり]
【第三十七話/二次会の相談はよそでしてくれ】



これって、夢?それとも、幻?



グイッ



『痛デデデデデッッツ!?!!!?───ってぇなァァア!!!!』


突然の頬の痛みに、「何すんだコノヤロー」と身をよじる。いつの間にか横にいた滝が、俺の頬肉をねじりあげていた。


『いや、夢かなんかかと思って・・・』


信じられないといった表情(カオ)で、一点を見つめる。なら、自分の頬をつねればいいだろ。加減がないんだよ、このバカ。


頬のピリピリした痛みを、掌でゴシゴシと擦って紛らせる。





やっぱ──────
本物だもんなぁ──────



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⏰:12/09/17 10:31 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#833 [ひとり]
どういった経緯でかわからないが、気付くと俺は長谷部の家の、いつもの部屋に居た。


なにも変わらない見慣れた空間に、一つだけの違和感。その原因、すみれは俺の正面で笑っている。


両側には、ひろむとべぇやん。二人が何か言う毎に、「あはは」と、笑いかたのお手本のように、綺麗に笑って見せる。




「で、望は元気だった?」


傍観していた俺。突然自分に話題を振らないでくれ!てか、そんなに見つめないで!穴が開くから!!ホールが空いてしまうからッッツ!!!!

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⏰:12/09/17 10:49 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#834 [ひとり]
『おぉう、おう、元気元気!』


「おぉう」って何だし。声、裏返ってんじゃねーよ。恥ずかしいな、俺。


『こいつは元気だけが取り柄だからな!』


滝くん、君は黙っていようか。すみれもね、「そうだった」とか同調しないで、調子乗るから。



『ねぇ、ところで私、突然お邪魔しちゃって大丈夫だったの?』


『あぁ、大丈夫大丈夫!』


考えなしの滝が即答した。


『コイツらは、職場の連中だからよ』


『そうなの、ごめんなさいね、突然こんなに夜分遅くにお邪魔してしまって。私、美丘すみれと言います。美しい丘の美丘に、名前は平仮名ですみれ。よろしくね』


すみれは、慣れた感じでサラッと自己紹介をした。それを受けて。


『私のことはノジコって呼んで、皆そう呼ぶから。よろしく、すみれさん』


『俺、津久井って言います。津久井真希。すみれさん、めっちゃ美人っすね!この人達にこんな美人の知り合いがいたなんて・・』

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⏰:12/09/17 11:22 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#835 [ひとり]
『一言余計なんだよ』


左隣に胡座をかいていたひろむが、津久井の頭をこづく。


『痛てッッ!』


それを見たすみれは、口元にそっと手を添えて、控えめにクスクスと笑っている。


『で、君は?』


『俺は・・』


次に、すみれが声をかけたのは───────


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⏰:12/09/17 11:58 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#836 [ひとり]
『根岸っていいます。初めまして』


『初めまして、根岸くん。よろしくね』


『はい、よろしくお願いします』






心臓に悪いわッッツ!



何これッッッ!?何この感じッッッ!?
いやいや、別に二人にしたら何気ないやり取りだ。落ち着け、落ち着くんだ望。


俺の心の臓は、ものっそい勢いで暴れまくっている。


昔の彼女と、今の、彼氏?

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⏰:12/09/17 11:58 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#837 [ひとり]
嗚呼、寿命が縮まる。5年くらい縮まる。


早く!早く終われ、この下りッッツ!!




『はい!はい、はい!!!』



その場の空気を、一刀両断する勢いで。
割って入ってきたアキ。



『私、根岸アキです!ゆうちゃんとは、従兄弟同士です!』


『あら、そうなの?』


『はい!あの、すみれさんに、1つ質問していいですか?』


『もちろん、何かしら?』

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⏰:12/09/17 12:18 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#838 [ひとり]
『あの、すみれさんってー』



ん?何だか、嫌な予感が・・・



『もしかして、てか、正解だって、確信しちゃってるんですけどー』



待ってー、待ってねアキちゃーん、お前、今なに言おうとしてるんだー。おじさん、胸騒ぎがさっきまでの比じゃあないぜー。




『のんちゃんの、元カノさんですよね!?』








はい、アウトー。

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⏰:12/09/17 13:05 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#839 [ひとり]
【休憩】


こんにちは、ひとりです。

第三十七話、完結です!
アキのトラブルメーカースキル発動!!

空気を読めないのか、はたまたわざとか。わざとであって欲しい、そんなひとりです(´・∀・`)ぁ

⏰:12/09/17 13:56 📱:Android 🆔:l7CvryUY


#840 [我輩は匿名である]
ひとりさん更新ありがとうございます!!
わー…アキ邪魔しないでー。すみれさん…クラッシャーにならないですかね?心配です!笑
もーずっと根岸といちゃこらしちゃっててください!そして根岸に思う存分愛されてください、三田さん!!!笑

⏰:12/10/05 02:10 📱:iPhone 🆔:qIpIanw2


#841 [にゃんこ]
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⏰:12/10/12 20:10 📱:SA002 🆔:u5PQGx3M


#842 [我輩は匿名である]
読みたい(o^^o)

⏰:13/05/21 02:23 📱:Android 🆔:fmlsuEYM


#843 [我輩は匿名である]
大好きなのであげ!

⏰:13/06/12 00:30 📱:F02A 🆔:x11eez0w


#844 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑a

⏰:22/10/02 03:14 📱:Android 🆔:Ltpo.xA.


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