こちら満腹堂【BL】
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#250 [ひとり]
「オッケしたら今日俺閉めてくからどっちかよこせー」

「何あんた残んの?」

ここでようやく姿を見せたノジコさん。利き手の人差し指にホルダをひっかけてくるくると鍵を回しながら三田さんの横につけた。

「残るよ」

「何急に?いつも早く帰りてぇとかうっさいやつが」

言いながら探るような目で三田さんを見つめるノジコさんの顔は、クラスの悪ガキを叱る学級委員長のようにみえてちょっと笑える。

⏰:09/12/29 22:10 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#251 [ひとり]
「何か企んでんじゃないの?」

言うことまで洩れなく委員長だ。ここで一つ注意して欲しいのは、ノジコさんがバイトで、三田さんが店長だっていう事。二人の後ろでテーブルを磨いてた俺は隠れて少し笑った。

「別になんも企んでねって」

「怪しい〜」

「怪しくない!!」

「そのムキになる態度が更に怪しい〜」

「しつこい!!」

ノジコさん、面白がってる。

⏰:09/12/29 22:11 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#252 [ひとり]
「怪しくねぇよ、根岸も一緒だし」

正直驚いた。俺はてっきり一人で残るふりするんだって思ってたから。

「そうなん?」

「はい」

「ならまぁ安心か」

安心とか言いながらノジコさん、『なんだつまんねぇの』って顔に書いてありますよ。

⏰:09/12/29 22:12 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#253 [ひとり]
でもまぁ隠す必要がないなら楽でいい。床掃きしながら俺同様二人の会話を聞いてちょっと笑ってた津久井が

「したら俺帰るね」

と道具を片しに行ったので、『お疲れ』と声をかけて見送った。

それから長谷部さんとノジコさんも連れ立って出て行き、店には三田さんと俺の二人きりになった。

⏰:09/12/29 22:13 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#254 [ひとり]
「お前それ、いつまで拭いとく気?」

「え・・・あぁ」

言われて気付くと、俺はテーブルの同じ箇所ばかりをずっと磨いていたらしい。

「とりあえず着替えてらっしゃいよ」

「はい」

言われるままに更衣室に引っ込み、そそくさ着替えを済ませて再びホールに出ると、三田さんはカウンターからテーブルに移動して、煙草をふかしていた。

⏰:09/12/29 22:14 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#255 [ひとり]
出てきた俺を見つけた三田さんは、煙草をくわえたまま指先でテーブルをコツコツ叩いて座れの合図を送ってくる。

「何か飲む?」

「いや、大丈夫です」

「そう」

最後の一口を吸い終わったのか、静かに灰皿で火を押し消すと、改まったように座り直した三田さん。

「根岸」

きた。降られる。

「はい」

⏰:09/12/31 00:14 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#256 [ひとり]
「ごめん!!」

「・・・・・・」

わかっていても、鉛を食わされたように胃のあたりが重たくなって、言葉が出てこない。

「本当、悪かったって思ってる」

「・・・・?」

「うん、お前の・・なんだ、俺を〜・・・す、好き?・・・・そういうのなんか・・つまり〜否定したっつーか」

「はい?」

⏰:09/12/31 00:15 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#257 [ひとり]
なんだ?話が読めない。つまり今の『ごめん』は、三十一日の事を言っているのか?

「俺さ、お前に甘えてたみたいだわ」

「はぁ、そうなんすか」

「うん、だからさ」

いつのどれを言っているんだろう。俺は三田さんに甘えられた覚えなんてない。まぁ、振り回された記憶なら山ほどあるんだけど。

⏰:09/12/31 00:18 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#258 [ひとり]
「だから・・あ、その前に聞いときたいんだけど」

「どの前なんすか今」

「いいから答えろよ、お前俺が好きなんだよな」

「何回言わせるんですか」

「・・・・・・・」

訴えるような三田さんの目に根負けした俺は、舌打ちして答えた。

「好きです」

⏰:09/12/31 00:19 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#259 [ひとり]
「よし、わかった」

「わかってんなら言わせんな、罰ゲームかなんかですかコレ」

「焦んなよ、こっからが大事なんだから」

そこまで言って三田さんは大きく深呼吸をした。その必死な感じが、子供の頃読んだ北風と太陽の絵本にでてくる、北風の挿し絵を連想させる。吸って、吐いて、二回、三回。

⏰:09/12/31 00:20 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#260 [ひとり]
それから決心が着いたらしく、また顔をあげるとこう切り出したんだ。

「根岸は俺で立つの?」

さっき飲み物断ってよかった。もし今何か飲んでたら、確実吹いてたわ。

「なんつーダイレクトな・・・」

「なんだよ男同士なんだから恥ずかしがることねぇだろ」

「そうですけど」

「で、たっちゃうワケ?」

「・・・・・はい」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#261 [ひとり]
「てことは、かいちゃうワケ?」

「そこはいいでしょ別に!!」

「先に確認しとかないと大事でしょうがそういう事は!!!!」


「好きでたつんだからその先は言わなくてもわかるでしょ、男なら」

「なるほどな」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#262 [ひとり]
何が『なるほど』なのか、腕組みをして俯いたまま動かなくなった三田さん。俺は待つしかない。

深呼吸を繰り返していたさっきよりも長い間。

そしてその沈黙を破ったのもやっぱり三田さんだった。

「考えるよ、根岸」

「え?」

「お前が真剣だってわかったから、俺も真剣に考える」

「それって・・」

「うん、今お前とやるとこ想像してみたけど、別に思ったよか抵抗なかったわ」

「そういう沈黙だったのかよ今のは」

⏰:09/12/31 00:25 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#263 [ひとり]
「いや、さわりだけな」

「さわりだけ」

「あ、"触り"じゃなくて、事の流れをサラッとって意味での」

「わかってますよ」

「そっか、よし、まぁつまり、それが言いたかったってことだ」

『考える』。予想もしていなかった言葉に、頭がついていかない。

「テメェ俺がせっかく謝ってその上考えてやるっつってんのに、リアクションが薄すぎなんじゃね?」

⏰:09/12/31 00:26 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#264 [ひとり]
「あ、ちょっと今感激してるんでそういうノリいいっすわ」

「え、何それ聞いてないんですけど、感激させてやったのは俺だろコルァ!!もっと感激を表現しろコルァ!!」

「ちょ、マヂで、シッ」

「"シッ"とかうぜぇぇぇぇ!!!!どうしよ相手が冷静だと余計にヒートアップしちゃうじゃん俺!!しちゃうじゃん!!!!」

⏰:09/12/31 00:27 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#265 [ひとり]
三田さんが何事か叫んでいたけど、凄く遠くに聞こえていて理解できない。

今はっきりしてる事は、俺が予想していた結末は訪れなかったって事。これから先はわからないが。今はこれで十分過ぎるくらい十分で、いっぱいいっぱい。

今晩家に帰ったら一人で、柄にもなく小躍りしてしまいそうだ。

⏰:09/12/31 00:29 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#266 [ひとり]
【休憩】

おはようございます。ひとりです。

第・・・もう何話だかわかんなくなってきました←

三田、ようやく根岸の気持ちに気づけました。遅せぇよ。遅せぇけど、気づけただけではなまるです。

まだまだ続きますので、暇潰しに読んで頂けたらと思います。
てか今日大晦日!!!!

⏰:09/12/31 08:43 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#267 [ホシ]
三田さんだいれくとな感じかわいいですx

⏰:09/12/31 23:43 📱:Sportio 🆔:Kf5q69TM


#268 [ひとり]
>>267

ホシさん

おぉホシさん!!またカキあざす^^以前も来て下さいましたよね?三田ダイレクトですよね、てか性格が雑ですwこれからも暇潰しに読んでやって下さい☆よければ総合の感想にも遊びきて下さいまし(´∀`)/

⏰:10/01/01 22:38 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#269 [ひとり]
【第十五話/さっきのお客さんトイレ長くね?】


三田さんに気持ちが伝わって、一人小躍りした日からもう一月とちょっと経った。

別に二人の間で交換日記を始めたわけでも、目と目があってモジモジするわけでもない。何が変わったかと言われれば、二人で飲みに行く事が増えたとか、後は・・・まぁそんくらいだ。

⏰:10/01/01 22:39 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#270 [ひとり]
俺からしたらそれだけで上出来。避けられる事も嫌われる事もなく、以前より少しだけ親密になれたんだから、それだけで。

ただ、逆を言えばこの状況は生殺しかもしれない。だって三田さんは『考える』って言ったんだ。嫌いじゃない、でも好きかと聞かれればそれもどうだろうと。だから『考える』と。まぁそういう事だ。

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#271 [ひとり]
「根岸ー今日鍋しようぜ」

『考える』と言ってくれたあの日から、三田さんはかなり積極的に俺を誘ってくる。あ、変な意味じゃなくて、飲みとか飲みとか、まぁ、飲みなんだけど。

「鍋っすか、どっかいい店知ってるんですか三田さん」

仕事中の俺は皿を次々とシンクに沈め、ジャブジャブ洗う手は休めずに聞いた。

「いやバカ言うな、昔っから鍋は家のコタツでって相場が決まってんだろ」

「いつの昔からそんなん決まってたんだよ」

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#272 [ひとり]
「そりゃまだ人間がサルだった頃から・・」

「その頃は残念だけどまだコタツも家もなかったと思いますよ」

「バッ、おっま何もわかってねぇのな、彼らには地球とゆう星そのものが大きな"我が家"だったんだ!」

「そういう話してるんじゃないから今」

「とにかく、そんくらいセオリーって意味さ」

「・・で、家って長谷部さんちでやるんですか?」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#273 [ひとり]
「いや、お前んちかうちんち」

「あ、・・・・そう」

「うん」

何てことだろう。これってもしや巷で言うところの"おうちデート"じゃなかろうか。

「で、どっちでやる?」

「どっちでもいいけど、材料何もないですよ」

「心配すんな、うちに田舎のばぁちゃんから山ほど野菜届いたんだ」

「あぁ、それで」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#274 [ひとり]
なんだ、俺の勘違いかよ。つまりおうちデートじゃなくて、処理班て事か。



「うん、ばぁちゃんの野菜うまいから、根岸にも食わせてやろうと思って」

「・・したら三田さんちのほがいいんじゃないですか」

「そうな、うん、したら俺んちで」

言って三田さんは仕事に戻って行った。

三田さんが使うのはいつも反則技ばかりだ。期待させて落として、結局また期待させられて浮かれてる俺。まいったね。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#275 [ひとり]
────

「お疲れしたー」

「お疲れー」

今日は皆一斉に店じまい。弘さんがシャッターを下ろし鍵を閉めるのを待つ。

「うし、で、皆今日どうするんだ?」

閉めたシャッターをチェックしながら弘さんが言った。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#276 [ひとり]
「津久井は?」

「俺明日一限から入ってるんで」

「俺暇よ」

「あたしも」

「じゃ俺んち?」

「そうするかー根岸は?」

「いや、俺はちょっと」

「そかぁー三田、お前は来るべ?」

⏰:10/01/01 22:43 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#277 [ひとり]
弘さんに問い掛けられて、三田さんは一瞬チラッと俺を見た。それから

「今日なんか調子悪りぃから帰るわ」

「また風邪かよ?」

「わかんね、だと不味いからさ」

「だな、んじゃ俺達だけで行きますか」

「あ、俺も途中まで」

そうして弘さん、滝さん、長谷部さん、ノジコさん、それに津久井は、駅の方向に向かって歩き出した。

⏰:10/01/01 22:45 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#278 [ひとり]
その後ろ姿が豆粒大になるまで二人で見送ってから

「嘘つきめ」

「そりゃそっちでしょ、いつ具合悪くなったんです」

「うるせー、行くぞ」

駅とは反対の方向に向けて歩き出した。

⏰:10/01/01 22:49 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#279 [ひとり]
三月。暦の上では春かもしれないが、まだまだ俄然寒く、防寒対策が欠かせない。

「俺んちにお前が来るのってさ、チャーハン時以来だよな」

すっかりお馴染みになったポジション。自転車を挟んで右に三田さん、左に俺。

⏰:10/01/01 23:01 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#280 [ひとり]
「そうでしたかね」

「『そうでしたかね』っておま、白々しいー」

「だって俺的にはチャーハンより告った事のが印象強くて」

「・・あぁ、まぁ、そうね」

横目で盗み観ると、三田さんは視線を宙に泳がせながら、顎髭を指腹でジョリジョリしていた。

⏰:10/01/01 23:12 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#281 [ひとり]
この横からのアングル、俺的にかなりベストアングルだったりする。何がいいって、鼻の角度がいい。上向き過ぎず下向き過ぎない、程よい傾斜。本人は脂取り紙三枚半はかたいという自称ギッシュな鼻であるが、こうして見る限りそこまでとは思えない。

惚れた弱みか、未だ冬を主張するこの冷え切った夜気のせいか。男相手にこんな表現は似つかわしくないかもしれないが、横顔の三田さんは綺麗だ。

⏰:10/01/02 00:23 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#282 [ひとり]
「何、鼻糞でもそよいでる?」

俺の熱視線に気付いた三田さんだったが、残念。

「あんたのそういうとこ、なんか残念だよね」

「は?どゆ意味」

「三田さんてさ、女子より男子にモテるタイプだよね」

「え、喧嘩売ってんの?」

⏰:10/01/02 00:27 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#283 [ひとり]
「そういう喧嘩っぱやい発言とかも、なんか惜しいよね」

「よし、先ずその語尾の『ね』辞めようか、上から物言いな感じが勘に障る」

「だからそうじゃないんだよね」

「次言ったらマヂで俺の昇竜拳が火を噴くかんな」

「可愛いね」

⏰:10/01/02 00:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#284 [ひとり]
「£#&*@!?!?!?」

拳をグーの形にしたまま固まった三田さん。どうしたんだろ俺、これから三田さんちに二人きりだからって舞い上がり過ぎてるのかな。なんか、スイッチ入った感じする。

落ち着け、別に三田さんは俺を好きな訳じゃない。あんま浮かれて調子こいてると、バッサリいかれそうだし。ビークールだ、ビークール、俺。

⏰:10/01/02 00:37 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#285 [サルエルパンツ]
ヤバい面白すぎです!
ここまで読むのに何時間かかったかな〜?

かなりハマって気がついたらこんな時間です(笑)
ってことで寝ますおやすみなさい…
更新楽しみです
楽しみすぎて寝れないかもです(´_ゝ`)←三田さんの鼻ってこんな感じですか?

⏰:10/01/02 03:23 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#286 [ひとり]
>>285

サルエルパンツさん

いらっしゃいませ〜初めまして\(^o^)/
そんなにハマって頂けましたか、ひとり調子にのりますょヾ(´∀`)ノヒャヒャヒャ←
寝不足にはご用心☆まぁ正月だしいっかー(どっちだ)よければ総合に感想板ありますので、そっちにも遊びにいらして下さいなぁ〜

⏰:10/01/02 11:39 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#287 [サルエルパンツ]
安価失礼します(´_ゝ`)


>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/01/02 22:58 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#288 [ひとり]
───
─────

肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。

「玉ねぎですか」

「え、お前やったことないの?」

「うん、初めて」

キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。

「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」

⏰:10/01/02 23:30 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#289 [ひとり]
「知りませんて」

「食えばわかるよ」

なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。

「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」

「はい」

言われるままに皿と箸、コンロをセットする。

⏰:10/01/02 23:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#290 [ひとり]
「並べた?」

「はい」

「じゃ鍋持ってくぞ」

「どうぞー」

言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。

「ちょ、根岸そこ退いて」

「はいはい」

無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。

俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。

でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。

好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。

「あ、うまい」

「だから言ったべ」

あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。

⏰:10/01/02 23:33 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。

「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 10:09 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて

「・・・・・・そっか」

と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。

「じゃあ」

「じゃ」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。

「「・・・・・・・・」」

何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

「うん、また来い」

「はい」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。


近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。

ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。

漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。

胸がざわついた。

⏰:10/01/03 10:11 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#297 [ひとり]
【第十六話/つーかゲロゲロ聞こえるんですけど!!!!】


ひろむに誘われた時、咄嗟に調子が悪いってホラ吹いた。あいつには嘘つき呼ばわりされたけど、そんなんお互い様だろ。

ここ一月ちょっと、俺達はちょくちょく飲みに出た。誘うのはいつも俺だ。根岸の野郎、俺に好きとかぬかしておきながら、うんともすんともアクションがない。俺も考えるって言っちまった手前、奴を知るためにちょっと飲んだり食べに行ったり(休日の昼間に会うなんてのは流石にサムいから避けたけど)、二人での時間とか作ってみた訳だ。

⏰:10/01/03 19:40 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#298 [ひとり]
つぅか、絶対おかしいよね?普通逆だよね?なんで告ってきた筈のあいつを、考えてやる的な?完全有利な立場である俺様が?必死こいて誘ってやらなきゃいけないんだ!!!!!

何なのあの子!?!?

そうかと言って、本当はやっぱ俺をからかってるだけなんじゃないかと疑心暗鬼にかかって暫く飲みの誘いもしないでいると、なんか仕事中チラチラ見てくるし、『あれ?』みたいな顔してくるし。視線が痛てんだよテメェで誘ってこいやブォケェェェェ!!!!

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#299 [ひとり]
って思ってたところにばぁちゃんから届いた段ボール。それも二箱。中を開ければ、大量に押し込まれた野菜野菜野菜野菜・・・

その時頭に浮かんだのは、訴えるような目をする根岸の顔だった。仕方ない、鍋、誘ってやるか。

前にチラッと話したけど、奴の"来る者拒まず"は、事実らしい。てかそこダメだろ。俺が好きとか言うなら、もちっとがぶりよって来いっつんだよチキンが。

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#300 [ひとり]
そんで今日、根岸がうちに来た。男同士、何に気を遣う事もなく、ただ鍋をつついて、テレビを観て、合間にチョコチョコと下らない話をする。

無口でもないが、おしゃべりでもない根岸。俺の話しに笑ったりツッコんだりする根岸。鍋の灰汁を掬ったり、具を皿によそう根岸。酒を美味そうに飲む根岸。

根岸といるのは、楽だ。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#301 [ひとり]
うん、楽。まぁたまに心臓に悪い発言が飛び出る事もあるけど。さっき、うちに来る途中、いきなり『可愛いね』とか言いやがった時は本当に軽いパニックだった。何がパニックかって、真顔でんな事ぬかす根岸に対してもだが、それより何より、言われて悪い気がしなかった自分にパニックだ。

───それから飲んで食って気付けば深夜二時。どうせこの時間じゃ泊まってくんだろうと、二人分のビールのプルトップを開けたところで、根岸が言った。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#302 [ひとり]
「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

寝耳に水だった。

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

明日があるって言ったって、二人して遅番じゃん。だったら

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 19:43 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#303 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う根岸はもう帰る気満々だ。確かに何かされても困るんだけど・・・なんだよ、

「・・・・・・そっか」

俺は玄関先まで見送りに出た。

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#304 [ひとり]
靴を履く根岸の背中をぼんやり見つめながら、ついさっき二缶も開けてしまったビールをどうしようかと考えた。

靴紐を結び終えた根岸がこちらに向き直って『じゃあ』と片手を挙げたので、俺もつられて『じゃ』と片手を挙げた。

「「・・・・・・・・」」

何だよ、この沈黙。送り出す俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

考えているうちに、先手を打ったのは根岸。

「うん、また来い」

俺はそう返すしかない。

「はい」

言ってさっさと出て行ってしまった。なんだよ。

ガチャ──

鍵の音がやけにデカく聞こえる。俺、何がしたいんだろ。てか、あいつにどうしてほしかったんだろ。

なんだ、胸がざわつく

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#305 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十五話十六話完結いたしましたぁ\(∀)/

てか十五話で休憩入れんの忘れてた(・∀`)テヘッ

また気分で三田目線してみました。チョコチョコ変わって読みにくかったらごめんなさい。三田の気持ちに微妙な変化が。どうなりますやら、乞うご期待☆

⏰:10/01/03 19:49 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#306 [ひとり]
【第十七話/ちょ、いびき!?お客様ぁぁぁ!!!】


ちょっと前まで頻繁だった根岸との飲みの回数が減ったのには理由があった。

「四卓様お会計でーす」

「お待たせ致しましたぁーこちら熱いのでお気をつけ下さい」

「オーダーお願いしまーす」

「二卓様だし巻きお待ちー」

騒がしい店内。客の入りはピークだ。

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#307 [ひとり]
次々に出る料理と、同じ数下げられてくる空の皿。

それをさばきながらも頭の中ではもんもんとした気持ちを整理しようと必死だ。

あぁ、チクショウ。

─────
───────

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#308 [ひとり]
────
──────

「根岸、今日暇?」

裏口のベンチで一服しているところを発見して声をかけた。

「あ、三田さん、はざす」

「はよ、で、今日暇かよ?」

聞くと根岸は手にしていた携帯をパタンと畳んで言った。

「すんません、今日先約があるんです」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#309 [ひとり]
「そか、わぁった」

「すんません」

「いいって」

その時はそれだけで終わった。別にまた声かけりゃいいし、先約なら仕方ないと思ったから。

でも──

「根岸ー今日さ」

「あ、すんません今日もちょっと」

*****

「おいこれから・・」

「もう帰らないといけないんで」

*****

「根ぎ・・」

「お疲れしたー」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#310 [ひとり]
いくら寛大な俺だって、流石に三度も連続で断られたら腹も立つ。つぅか腹が立つ。何様だ、あの野郎。


それから暫くは飲みに誘うこともしなかった。そうすりゃまた例の『あれ?』みたいな視線でチラ見してくんだろどうせ?わかってんだよ。くらいに高をくくって。

ところが。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#311 [ひとり]
来る日も来る日も根岸は仕事が終わると早々に身支度を済ませ、店を後にした。

何かがおかしい。
そしてその何かを、俺はついさっき目撃したんだ。

シフトが早番だった俺は、ランチのメニューのかかれたブラックボードを中に仕舞おうと店の入り口に出ていた。

「よっこいせ」

言ってやや腰をかがめたその時──

「ゆうちゃん、聞いてる?」

すこし張った可愛らしい声がして、何気なく中途半端な体制のまま視線を向ける。何だあれ。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#312 [ひとり]
再生停止した画面のようにピタリと止まった動き。俺の視線の先には声の通りの可愛らしい女の子と




「根岸・・・?」

こちらに向かってくる遅番の根岸。

⏰:10/01/04 13:57 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#313 [ひとり]
俺は持ち上げかけていたブラックボードを下に置き直し、咄嗟にその陰に隠れた。

って何やってんだ俺。別に隠れる必要なんてないのに。もう一度陰から顔半分出してみる。いた。遠目で何喋ってっかはわかんねぇけど、ありゃ百パー根岸だ。

てか、腕・・・

「組んでるし」

全身白っぽい服で完全武装した女の子が、根岸の腕に自分の腕を絡めていた。うっわぁ〜・・・

⏰:10/01/04 13:58 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#314 [ひとり]
つまり

「そゆことね」

彼女ができたか。

「なるほど」

納得している間にも、根岸と女の子は着実に店に近付いていた。今物陰からニュッと出て行くのも気不味い。

俺は咄嗟にしゃがんだ体制のまま、店の中まで戻るという妙案を思い付いた。

うっ、この体制結構腰にくんな・・・

⏰:10/01/04 13:59 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#315 [ひとり]
キツいながらもなんとか無事戻れた店の中

「お前何してんの?」

顔を上げるとひろむがいた。

「何その格好、新しい遊び?」

俺のウンチングスタイル歩行法(と、名付けよう)を見たひろむは、怪訝な顔で言う。

「違げぇよ!"家政婦は見た"んだよ!!!!」

怒鳴りながら立ち上がる。あ、やっぱ腰痛って。

⏰:10/01/04 14:00 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#316 [ひとり]
「お前んなバイト始めたん?てかボードどした?」

「ものの例えだお前がやっとけ!!!!」

俺はそれだけ言い捨てて、裏口に煙草を吸いに行った。イライラした。

深くベンチに体を預けて、ゆっくりと煙を肺に送って、貯めて、吐く。どうにか気持ちを鎮めようとして。イライラの意味をわかりたくなくて。俺はただ、吸って、貯めて、吐いた。

⏰:10/01/04 14:04 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#317 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十七話?だっけ?完結です。二話続けての三田目線です。見ちゃったよ彼、見ちゃったよ。根岸のやつやりますな。女子と三田の二股とは。むふふ、個人的に振り回し振り回される二人ってのが好きです。←聞いなry

⏰:10/01/04 20:01 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#318 [ひとり]
【第十八話/秘伝のタレ】


「──それでね、今日は大学で──と───がマヂウケるから───」

かれこれ一時間、俺は耐え忍んでいる。

「───してイッキとか言ってコールかけ──」

目の前のグロスでギラギラした唇は未だペースを落とす事なく動き続けている。いや、むしろピッチ上がってんじゃなかろうか。

⏰:10/01/04 23:20 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#319 [ひとり]
「───だよ超笑えるっしょ?」

俺の耳はここ数日で目まぐるしい進化を遂げた。ここは敢えてキテレツの効果音と共に紹介したい。ティーティティーティティティティティーティッドン

「鼓膜機能シナクナール」

「は?どしたのゆうちゃん急に」

「・・・・・いや、こっちの話し」

⏰:10/01/04 23:21 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#320 [ひとり]
「何それ、てかどう思う今の話し?」

「あぁ、確かにザクロとイチヂクってキャラ被るよね」

「ちょっと全然聞いてなかったの?信じらんない!!だからね───」

「アキ、明日また聞くから、今日もう帰んな」

俺はとうとう限界が来てこう切り出した。

⏰:10/01/04 23:22 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#321 [ひとり]
「えぇ〜まだいいじゃん!!」

「ダメ、俺明日早番だし」

「ケチ〜」

「ホラ、送るからコート着て」

言って壁に掛けていた白いコートを放ると、渋々といった感じでそれを拾って立ち上がった。

⏰:10/01/04 23:24 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#322 [ひとり]
「明日また来ていい?」

「ダメっつっても来るんだろ」

「正解〜ぃ」

やっぱり。正解したところで、目糞程も嬉しくはないんだけど。

二人で外へ出ると、アキは当然のように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「寒っむ!!」

「そんなペラペラの服着てりゃーな」

⏰:10/01/04 23:46 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#323 [ひとり]
3月の頭。予告通り近くに越して来たアキは、正月に会った時とはガラッと印象が違っていた。

高三の夏までバリバリの体育会系で部活に打ち込んでいたその面影すら今はなく、エクステとかいう人工の毛をくっつけた頭や、なんちゃらネイルとかいう人工爪をキラッキラに飾り付けた指先、更に片目だけでも人工睫毛(ツケマって言うらしい)を三枚だか四枚だか装着した化粧の濃い顔は、本当に『え、どなた様ですか?』だった。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#324 [ひとり]
「可愛いっしょ?」

俺が"ペラペラ"と指摘したミニ丈のワンピースの裾をチョコっと持ち上げて笑いかけるてくる。

「短すぎ、風邪ひきそ」

俺は愛想もなしにそう答えた。

「え、何それ心配してくれてんの?」

アキはどこまでも果てしなくプラス思考だ。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#325 [ひとり]
アキが越してきてから、三田さんと飲みに出かける回数が格段に減った。っつうかパタリと無くなってしまった。多分、三田さんちで鍋をしたあの日が最後だ。

何度も誘ってくれたのにそれを悉(コトゴト)く断り続けていたら、お誘いの声すらかけてくれなくなった。まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだが。

アキもまだ入学したばかりで、新しくできた友達や入ったサークル、どんな環境に自分が居るのか、話せる肉親が必要なんだろうと思う。思うから、暫くはそんなアキに付き合おうって決めたんだ。だけど

⏰:10/01/04 23:48 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#326 [ひとり]
「じゃ、おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

初めての一人暮らしに彼女が選んだのは、俺んちからすぐのところにある築年数も浅そうなサーモンピンクのアパート。その階段を二階へと駆け上がって行く。ブーツのヒールが、カンカンと鋭い音を立てた。

鍵を開け、ノブを回す。そして家の中に入ったところまで見届けてから俺は帰路につく。

⏰:10/01/04 23:50 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#327 [ひとり]
「参った・・・」

帰り道は自然と溜め息が零れる。まさか冗談でなく、毎日うちに入り浸るなんて。いくら覚悟していても、叔父さんや叔母さんに『頼むね』と言われても、流石にこれじゃあやってられない。

かと言って、もう来るなとも言えないし、妹みたいなアキが可愛い存在である事もまた確かで・・・・

「あ゙ぁ゙〜〜〜もう!なんだかなぁぁぁぁ」

俺の阿藤〇イにも匹敵し得る『なんだかなぁ』が、帰り道に虚しく響き渡った。

⏰:10/01/04 23:52 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#328 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

二話越しでの根岸サイド。従兄弟のアキが再登場です。根岸って存外に身内思いなんです。はい。

ちなみアキが高校で所属していたのは、硬式テニス部でした。前衛でした。はい、補足情報でしたぁ〜

⏰:10/01/05 00:03 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#329 [ホシ]
三田さんの気持ち‥なんかせつなぁーいォ

⏰:10/01/05 08:45 📱:Sportio 🆔:VMqmuYas


#330 [ひとり]
>>329

ホシさん

切な〜いですか?ちゃっかりそこ狙ってたんで、そう言って頂けると嬉しいです(^∀^)

⏰:10/01/05 19:40 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#331 [ひとり]
【第十九話/レモン絞る前は一声かけるのが大人のマナー】


気付けば早いもので、もう四月も真ん中を過ぎた。

大学生になったアキも越して来た当初に比べれば、大分落ち着いてきて、流石に毎日深夜までうちに居座る事も減ってきた。ペース的には、週四くらい。せめてそのもう半分まで回数が減ってくれたら嬉しいのだが、贅沢は言うまい。

⏰:10/01/05 20:30 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#332 [ひとり]
それよりも今は、あの人の事だ。そう、三田さん。

アキにかまけている間に、全然誘われなくなってしまった俺。それは当然の事だと思う。そこで、再び自由な時間ができたんだしと、自分から誘ってみる事にした。

「はざす」

「はよ」

「はざーす」

今日は早番でランチをこなしていた俺、いつものベンチで一服しているところに遅出勤の三田さんと弘さんが現れた。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#333 [ひとり]
暫く三人で煙草片手に雑談。すると弘さんが徐にケツポケットから携帯を取り出した。

「悪り、電話」

話の腰を折った事を俺達に詫びてから通話ボタンを押した弘さんは

「もしもし、なに?」

話しながら店の中に消えて行った。後には俺と三田さんの二人きり。誘うなら、今だろう。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#334 [ひとり]
「・・・・あの」

いつもペラペラよく喋る三田さんが、今日は黙って煙草を吸っている。なんだか雰囲気も違うような・・・

話を切り出すのが、少し戸惑われたが、そこは勢いまかせで。

「今日暇なら、久しぶりに飲み行きませんか?」

⏰:10/01/05 20:33 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#335 [ひとり]
「・・・・え?」

考え事でもしてたんだろうか、聞こえていなかったようなのでもう一度同じ台詞を繰り返した。

「だから、今日暇なら久しぶりに飲み行きませんか?」

「・・・・なんで?」


まさか『なんで?』なんて返しがくるとは予想していなかった俺、少し面食らった。

「いや、俺今日暇なんで、よかったら」

⏰:10/01/05 20:34 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#336 [ひとり]
やっぱ雰囲気が違う。つうか何だ、その冷めた目は?

「・・・・ははは」

突然三田さんは笑い出した。なんか、空笑い。馬鹿にされたような気分になる。

「なんすか、その笑い」

語尾がやや強くなってしまった。そんな俺に、一定して冷めた視線を送ってよこしながら、三田さんはこう聞いてきた。

⏰:10/01/05 20:35 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#337 [ひとり]
「根岸今楽しい?」

「何です急に?」

「・・・今楽しいかって聞いてんだけど」

質問に答えるための言葉以外は受け付けない。三田さんの目はそう物語っていて、俺は答えざるを得ない。

アキが大分落ち着いてくれたおかげで、またプライベートな時間ができて、こうして三田さんを飲みに誘える。そういう意味じゃやっぱ

「楽しいですね・・・今」

⏰:10/01/05 20:36 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#338 [ひとり]
正確には、三田さんとまた時間を持てるのが『楽しみです』なんだけど、質問の意図がさっぱりだし、第一馬鹿正直にそんなん言うなんて恥ず過ぎてムリだ。

俺の答えを聞いた三田さんは、またさっきの空笑いを繰り返した。嫌な感じ、何なんだろう。

「ははは・・・・」

「・・・・・」

俺の気持ちとは裏腹に、二人の間に流れる空気はいよいよ不穏なものに変わる。そして、茶化すように三田さんは言った。

「根岸ってばサイテー」

⏰:10/01/05 20:37 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#339 [ひとり]
は?

サイテー?最低?・・・・俺が?

そんな事、言われる覚えはない。

「何ですかさっきから意味わかんないよあんた」

「最低な奴に最低だっつって何が悪りんだよ、あ?」

目が据わってる。流石は元ヤンキーと言ったところだろうか、メンチ切る姿が様になってんな。なんて、まったく関係ない事を思ってみる。

⏰:10/01/05 20:38 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#340 [ひとり]
暫し無言での睨み合いが続いた。その沈黙を破ったのは、弘さん。

「三田ぁーちょっとこっちゃ来ーい」

その気の抜けた声に、張り詰めていた空気は一気に払拭された。これまた気の抜けた声で三田さんは

「なしただぁー五作どーん」

と返しながら、店内へと帰って行った。俺の存在なんてないみたいに、こちらには一瞥もくれずに。

なんだよ・・・・・・

「どういう事だよ」

俺は混乱し、途方に暮れた。

⏰:10/01/05 20:49 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#341 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十九話完結しましたー三田キレました。根岸混乱しました。すれ違いはどこまで続くのか。それはひとりにも不明です←弘のナイスタイミングな一声に救われましたね。グッジョブ弘!!グッジョブ!!!!!

⏰:10/01/05 20:52 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#342 [ひとり]
【第二十話/シーザーサラダのドレッシング抜きでございます】


覚えのないいちゃもんをつけられた。テンションは底辺のままで夜の仕事は身が入らなかった。

仕事を回す上で必要な会話を何度か交わしたが、三田さんは至って普通だった。

じゃあベンチでのあの態度は何だったんだろう?

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#343 [ひとり]
その日の営業終了後、俺は納得がいかなくて、ロッカーで三田さんを待ち伏せた。

「三田さん、話あるんで、ちょっといいですか」

俺の言葉に、また例の冷めた目で三田さんは言った。

「俺は話なんてないんだけど」

なる程、二人の時はこうゆう態度な訳だ。

俺は食い下がった。

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#344 [ひとり]
「あんたになくても、俺にはあるんですよ」

「知るか」

「「・・・・・・・・」」

"とりつくしまもない"ってこういう事なんだろう。

じゃあ俺は、どうしたらいいんだ。何で急にこんな態度とられなきゃいけないんだよ。

⏰:10/01/06 22:31 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#345 [ひとり]
「したらもう俺帰るし」

「ちょ、」


バッ


風を切る音。

出て行こうとする三田さんの手を取った次の瞬間、勢いよく振り払われた。


「触んな」

⏰:10/01/06 22:32 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#346 [ひとり]
言って上着だけひっ掴んだ三田さんはノブに手をかけた。

元々ネジが緩くなっているロッカールームの扉。力任せに閉められたそれは、耳障りなでかい音を立てる。

行ってしまった。スタッフウェアのままで。春とは言っても夜はまだ冷えるのに、上着一枚で風邪でも引かなきゃいいけど。

一人取り残された俺、仕方がないので鍵をかけて自分も出ようとメッセンジャーバックを背負った。その時

⏰:10/01/07 09:06 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#347 [ひとり]
無音のロッカールームに人が入ってくる気配があった。

三田さん、戻って来てくれたのか。

俺は速い動作で扉を開けた。

「うおっ!自動扉かと思った、よう、お疲れ」

「・・・・・お疲れ様です」

「何だよ明からさまなガッカリ顔しやがって」

「そんな事ないですよ」


目の前にっていたのは、弘さんだった。

⏰:10/01/07 09:12 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#348 [ひとり]
今日の鍵当番は俺とノジコさんで、今日は自分が閉めるから先に帰って下さいと伝えた。鍵持ちでもないし、仕事はいつも手際よくこなす弘さんがこんな時間まで残っているというのはどうした訳か。

俺が考えてる事を察してか、弘さんはこちらが尋ねる前に口を開いた。

「お前待ってた」

「・・俺を、ですか?」

「そ、根岸を」

⏰:10/01/07 20:29 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#349 [ひとり]
「はぁ・・・」

俺は歯切れ悪く返事をする。

「まぁ、いいからちょっと付き合え」

訳の分からないまま取り敢えず弘さんに従って店を出た。何処へ向かうのやら、目的地を決めているらしい弘さんは淀みない足の運びで先へ向かう。等間隔に街灯の並ぶその下を、微妙な感覚を空けて後に続いた。

⏰:10/01/07 21:10 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#350 [ひとり]
「公園・・」

着いた先は、満腹道からほど近い『緑公園』という名のこじんまりした公園だった。あるのはシーソーに砂場にブランコ。セオリー通りのメンツ。砂場には誰かが忘れて行ったんだろう、小さなおもちゃの赤いバケツとスコップが転がっていた。

「お前何飲む?」

公園に入ってすぐにある自販機の前に立ち、弘さんが聞いてくる。

「じゃ、甘酒で」

⏰:10/01/07 21:41 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#363 [ひとり]
「ではこれにて二者面談を終了します」

「面談だったんすかコレ」

「そうだよ」

「そうだよって・・」

いっきに和らいだ空気と入れ違いに、痺れるような寒さを感じる。手の感覚も麻痺しているし。

⏰:10/01/08 20:32 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#364 [ひとり]
「てか寒っっむ!!!!」

どうやらそれは弘さんも同じだったらしく。

「とっとと帰ろうぜ根岸」

「はい」

俺と弘さんは先程の自販機脇に設置されたゴミ箱にそれぞれの缶を放り込んでから、等間隔で立ち並ぶ街灯の下を、二人横並びで元来た道へと歩いた。

明日、もう一度三田さんと話しをしよう。

⏰:10/01/08 20:41 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#365 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第二十話は弘をいっぱい出してみました。三田と根岸のために一肌脱いだ感じ。釘をさすお兄ちゃん弘です。彼の言う根岸の必死さとか、真剣さってのはアレです。三田を見る時の目とか、三田に対するちょっとした態度やリアクションの事です。そこに一々滲み出ちゃってる「ラブ」を、弘は感じとっていたようですね。ま、根岸自身は自覚なしのようですが。隠そうとも隠しきれぬ思いです。ラブです。ヒューヒュー←うざ

⏰:10/01/08 20:52 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#366 [ひとり]
【第二十一話/失礼しましたー】

別に『考えてやる』って言っただけで、付き合ってやるつもりだった訳じゃないし。別に根岸が女を好きになったって痛くも痒くもないし。寧ろそのほうが自然な事だし。俺にしたって喜ばしい事なんだ。

なんだけど、なんで・・・・

⏰:10/01/09 08:46 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#367 [との様]
感想板ってあります
更新頑張ってください
すっごくおもしろいです

⏰:10/01/09 09:00 📱:SH905i 🆔:Bx3.kDhs


#368 [ひとり]
「ニ股・・・」

って言ってしまえるんだろうアレは。

俺に好きとか言ったくせに、きっとあの女の子にも『お前が好きだぜベイベー』かなんか言ったんだ。きっとそうだ。

今思い返してもムシャクシャする。『今楽しいか』って聞いた時の『楽しいですね』って言った根岸の顔。よかったな彼女できて。俺の気持ち弄んでそんなに楽しいのかお前は・・・・

「って"俺の気持ち"ってなんだよ!!気持ちなんてねぇよクソッタレ!!!!」

⏰:10/01/09 09:04 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#369 [ひとり]
>>367

お初です^^コメありがとうございます\(∀)/

総合に感想用に設けたスレあります、「ひとり」で検索して頂ければと思いますm(・_、)mペコリンチョ

⏰:10/01/09 09:07 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#370 [ひとり]
爽やかな感じで微笑みやがって気持ち悪りぃ。ダメだ、もう一本。

「よくまぁそんだけ無駄に吸えるねぇ」

「あ?」

顔を上げると、滝が真ん前に突っ立っていた。

「煙草がもったいない」

「ほっとけ」

⏰:10/01/09 09:11 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#371 [ひとり]
「なんだよご機嫌斜めだなぁ」

休憩中。裏口のベンチを占領していた俺の横に無理やりケツを割り込ませてきた滝は、何がおもしろいのかニヤニヤしてくる。

「別に」

「エリカ様みてぇ」

滝は出会った当初から俺を玩具にして面白がる節がある。本気で迷惑な話だ。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#372 [ひとり]
「機嫌悪いのわかってんなら近寄んなよ」

「まぁそう言うなって、俺も吸いたい」

言いながら赤丸を一本取り出して火をつけた滝。空に向かって煙を細長く吐き出した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

大人しくなった滝と俺の間には、会話も特になく。今の俺はそのほうが助かるから、こっちから特に話し掛けることもしない。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#373 [ひとり]
一本目を早くも吸い終えた滝が、新しい煙草を取り出した。

まだ吸う気かよ。

「・・・・・・」

「アレ、行っちゃうの?」

内心で毒づいて店に戻ろうとしたら、止められた。

「悪るいけど、今は一人になりてんだよ」

「何言ってんの?キャラじゃねぇだろ、つかマヂ一人じゃ寒みぃから横いて」

調子こいて半袖で出てくるお前が悪い。

「俺はお前のホッカイロじゃねぇし」

⏰:10/01/09 21:48 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#374 [ひとり]
付き合ってられるか。

「ここなら二人だけど、店入ればもっと人いるぞぉ」

「木を隠すなら森の中って言うだろ」

「んー・・・・・・なんか違くね?」

あぁ、もう。

相手すんのが正直だるくて、滝には悪いけど俺は無視を決め込んでドアノブに手をかけた。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#375 [ひとり]
外に向かって開く設計の裏口扉。俺が再びノブに手をかけたのとほぼ同じタイミングで

「っっって!!!!!!」

自分じゃない力でもって、勢いよくそれは開かれた。まったくの予想外。

予知能力があるじゃなし、ボクサーでもない俺は、モロ顔面で扉を受け止めた。それを見て、

「ストライク!!」

滝の野郎がふざけた合いの手をいれてきやがった。コイツ、俺が例え目の前で事故にあって吹っ飛ばされたとしても、きっと今と同じようなふざけた合いの手で場を茶化すんだろう。間違いない。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#376 [ひとり]
にしても誰だよチクショウ!!!!顔面が凄さまじく痛いんですけどぉぉお!!!!!!てかもう、熱いんですけどぉぉお!!!!

あまりの衝撃にしゃがみこんだら、なんか涙まで出てきたし。最悪。

「すいません!大丈夫ですか!!?」

焦っているせいか、いつもよりやや張りのある声だけど、こりゃアイツだよ、うん、間違いなく100根岸だよ。

しゃがんだと同時に俯いたお陰で、顔を見なくて済むのがせめてもの救いか。

⏰:10/01/09 21:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#377 [ひとり]
「大丈夫・・・」

「顔、見せて下さい」

「・・・本当に、大丈夫」

「いいから」

「ちょ、マヂやめろ…」

顔の無事を確認しようと隣にしゃがみ覗き込んでくる根岸。

近いって。

「いいから、見せて」

⏰:10/01/09 23:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#378 [ひとり]
顔を庇うように巻き付けていた両腕をとられて、力ずくで顔を上げさせられた。

ホラァァア!!!!近いんだってば顔がぁぁあっ!!!!

「あ」

あ?

「鼻血」

「え、嘘」

言われてから遅蒔きながら気付いた、鼻下にスウッと微かに感じる生暖かさ。そこに手を当てれば指先の濡れる感触が。

「血だな」

「はい、血です」

⏰:10/01/09 23:51 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#379 [ひとり]
「血だねぇ、おぉ、鼻栓しろ鼻栓」

滝もいつの間にか側に来ていたらしい。面白がる声色に変わりはないけど、ポケットティッシュを差し出してきた。

なんだかんだ言っても、こういうとこ気がきくじゃねぇか。

「悪り」

素直に受け取って素早く抜き取ったティッシュを鼻に詰める。

やべ、ちょっと地べたに垂れたな。

見るとコンクリに点々と血痕が落ちていた。後で水かけて流さなきゃ。

⏰:10/01/09 23:54 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#380 [ひとり]
そんなことをぼんやり思いながら、グレーに映える赤に目を奪われて。

「立てますか?」

「ん、あぁ」

根岸の声で我に返った。

「鼻、折れたりしてないですよね」

言われて恐る恐る鼻を確認してみたら、よかった。

「骨はいってないくさい」

「そう、ですか」

心底安堵した様子。大袈裟だな。確かに目から星が飛び出る程度には痛かったけど。え、表現が昭和っぽいとか言わせねぇよ?

⏰:10/01/10 16:34 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#381 [ひとり]
「本当にもう大丈夫だから、滝、悪りんだけど」

「あいよー」

『消毒したい』って言おうとしたら、滝は察して足早に店の中へ消えて行った。やっぱこういう時は気が回る。さっき心の中で主張した前言は、撤回してやろう、うん。それから

「根岸、もういいって」

まだ横でこちらの様子を伺っている根岸の顔が何か言いたげだから、心からの『もういい』でそれを止めた。

そんなに謝られたって逆にこっちが気ィ使うっつーか。相変わらず位置が近いっつーか。

俺はじりじりっと微妙に根岸と距離をとる。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#382 [ひとり]
「じゃなくて三田さん、俺」

「なに?」

どうしよう。今更だけど、昨日あれだけツンケンした態度で避けていた相手とまともに会話してる自分に気付いて、なんかバツが悪い。そんな俺の胸中なんか知る筈もない根岸は、いけしゃあしゃあとこう言った。

「しつこいって思うかもしれませんけど、やっぱ俺納得いかないんで、今日残って下さい」

納得いかないって・・いやいや待てよ。何が納得いかないって?テメェは彼女できてウハウハなんだろ何ほざいてんだマヂで。意味わかんね。

今の俺、エベレストと張れるくらい沸点低いみたいだわ。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#383 [ひとり]
「しつこいって言われんのわかってんなら、そゆこと言うのやめたら?」

「・・・・・」

黙った根岸をその場に放置して、俺は逃げるように店に入った。ぶつけた鼻と、あとなんか左胸に圧がかかったみたいにぐぅっと痛い。

早くこの鼻、滝にマキロンで消毒してもらお。完全皮剥けてんだろコレ。でもこっちの痛みは・・・

黒いスタッフTシャツの胸の辺りを、乱暴に鷲掴んでごまかすのが精一杯だ。

⏰:10/01/10 16:40 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#384 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第二十一話、完結。
鼻を強打した三田と、させた根岸。空気読めてんだかいないんだかの滝でしたぁー。

滝はマイペースなチャランポランで、いつも隙あらば三田をからかってあそんでいます。

⏰:10/01/10 16:43 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#385 [ひとり]
【第二十二話/お冷やだけ注文してきた時は後回しが鉄則】


また逃げられてしまった。

「・・・・はぁ」

ため息しかでてこない。せっかく思いを伝えたのに、少し距離が近くなった気がしたのに。

近づいたと思った次の瞬間にはまた遠のいている。

気付かない程無意識のうちに。

「俺、何やらかしたんだよ・・・」

⏰:10/01/12 01:16 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#386 [ひとり]
見当も付かないが、昨日弘さんの二者面談(?)で半端はしないと宣言した手前、引くわけにはいかないし、もちろんそんな気毛頭なかった。


────
──────


今日一日もまた無事に終わろうとしている。深夜一時。常連の客がなかなか帰らなかったから、まだ暫くは締めに時間がかかりそうだ。

⏰:10/01/12 01:17 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#387 [ひとり]
三田さんが先に帰ってしまわないように、動きをちょこちょこ目で追いながらの作業。ちょうど床を掃いている時、ケツポケに突っ込んでいた携帯がバイブした。

こんな時間にメールをよこす相手なんて、限られてくる。仲良いダチか、或いは───


from:アキ
─────────

まだ仕事〜?

──end─────


「だと思った」

⏰:10/01/12 01:18 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#388 [ひとり]
思わず零れた独り言。

おそらく、毎度のことながら勝手に作った合い鍵で勝手に俺んちに上がり込み、いつの間にか勝手に持ち込んでいた部屋着にでも着替えて待っていたが、帰ってこない事にしびれを切らせて連絡をしてきたんだろう。

俺は素早く返事を返した。


──今日はまだ当分かかる。自分ち帰れ。──


送信。

⏰:10/01/12 01:19 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#389 [ひとり]
するとまた、間髪入れずに返信が。


──はぁ〜い──


内容はそれだけ。絶対にごねて意地でも待ってるとか言われると覚悟していたので、少し拍子抜けだが、これならこれでありがたい。

もう返事は返さずに、そのまま携帯をしまう。残りぶんの掃き掃除に戻ろうと顔を上げたら、思いがけず三田さんと目が合った。が、直ぐにそらされて

「・・・・・・・・」

今日は逃がさない。必ず話をつけてやる。必ず。

俺は強い決意と共に箒の柄を握り直した。

⏰:10/01/12 01:20 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#390 [ひとり]
─────
───

それから実際締め作業が完了したのは深夜二時。売上が合わないと三田さんが言い出した事で、幾分か余計に時間をくったが、そのお陰というか、自然な感じで一緒に残る事ができた。

今いるのは、三田さん、弘さんと俺。これなら何の遠慮もなく、三田さんを引き止められる。

「ひゃー合った合った、とっとと閉めるべ」

弘さんの一声を合図に、三人三様鞄を手に出口へ向かった。

「今何時根岸?」

「っと・・・二時半過ぎですね」

「マヂで?うっわ勘弁しろよ三田」

「俺じゃねーよ!誰だか知んないけど釣り銭間違えたソイツが悪い」

「店長のくせに無責任だなお前・・そう思うよな根岸」

「いや・・」

「ひろむこそ自分の肩書き棚に上げてんじゃねぇよ経営"責任者"が聞いてあきれるわ」

「わかってないねお前は、責任者として俺はお前に一任してる訳だからさ」

「一任つぅか、転嫁じゃね?」

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#391 [ひとり]
ヤバい。このままじゃなんか流れ的に三人で帰る感じじゃね?しかも俺チャリで、二人は歩きっていう・・・

内心で若干焦っていると、弘さんはシャッターを下ろした店の前で言った。

「あ、俺今日バイクだから、お疲れ〜」

それは見事な早業。止める隙もなく。俺と三田さんは走り去る弘さんの背中に『お疲れ様』の声も掛けられずにただそろって

「「え」」

と発する事しか叶わなかった。

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#392 [ひとり]
横にチラと視線をやれば、弘さんが走り去った方向にまだ目を向けている三田さん。『聞いてないよ』って顔に書いてある。

ありがとうございます。
弘さん。

俺は弘さんが敢えて一人先に帰った事を確信して、胸中で感謝した。昨日の甘酒の事もあるし、今度煙草の一箱でも奢らなくては。

⏰:10/01/12 21:06 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#393 [ひとり]
そうしていよいよ二人きりになってみれば。

やっぱ緊張すんな。

覚悟を決めていても、好きな相手に冷たくあしらわれるのはやっぱり応える。早く教会へ行って冒険の書に記録したいって思うくらいに、HPは消耗してるんだ。

それでも今何か言わなきゃ逃げられてしまうかもしれないこの状況で、俺に残された選択肢なんて、一つしかないのもわかりきってる事実だから。俺は意を決して話しかけ──


「ぐはっ!!?!!??」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#394 [ひとり]
突然だった。

ただでさえ腰にくる立ち仕事を日々やっている俺の、正にコアである腰に真後ろから、本当に突然、何かがぶつかってきた。

否、抱き付いてきた。が正しいか。

「来ちゃった!!!!」

振り向かなくたって声でわかる。

「なんでお前がここにいんだよ」

「実はね、サークルの子達と飲んでて終電逃しちゃってさぁ、だからさっきメールした時も、実は帰ってる途中だったんだよね〜」

「それで?」

「それでって・・・・だから一緒に帰れるんじゃないかな〜って思って来たの!!」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#395 [ひとり]
『ピッタリだったでしょ』とはしゃぐアキ。コイツはなんだってこういいところに・・・

「いいから先帰ってて」

「えー何でよわざわざ寄ってあげたのに」

「頼むから・・・」

もうこれは何かもので釣るしかないようだ。

「プリクラ」

「え?」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#396 [ひとり]
「撮ってやるから」

プリクラ、正式名称をプリント倶楽部。俺がまだランドセルしょってた時分に登場してから現在に致るまで、根強い人気で新機種が続々と登場し続けてる。

自分の顔をシールにして何が楽しいのか。俺からしたらその感覚はさっぱり理解できないんだが、アキはどうやら漏れる事なく好きらしい。

以前から撮ろう撮ろうとしつこくせがむのを、そればっかりはと拒否し続けてきた訳で。

「え、マヂで本気!!??」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#397 [ひとり]
それをすんなり手のひらを返したもんだから、『マヂ』と『本気』が同義だって区別もつかないくらいに喜んでくいついてきた。

かかった!!!!

俺は糸が引いたその瞬間を見逃さず、素早くリールを巻いた・・・・ってのはものの例えで

「だから今は帰ってろ」

とすかさず要求したんだ。

⏰:10/01/12 21:10 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#398 [ひとり]
「えーいいけど今から一人で何すんの?」

「一人?」

おいおい何言ってんだよ。一人な訳ないだろ俺は今から三田さんに・・・




いない。

「あの横にいた人なら帰ったよ」

「帰った!?!?」

「うん、ダッシュで」

「ダッ・・・・」

⏰:10/01/12 21:11 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#399 [ひとり]
畜生。またかよ。

「大人のダッシュってなんかウケ・・てちょっとゆうちゃん!!??」

俺は店の脇に止めていたチャリに反射的に跨ると、乱暴にそれを漕いで三田さんの後を追った。

アキがなんか叫んでる声が少し遠くに聞こえたけど、今はそれどころじゃないんだ。

なりふり構わず立ち漕ぎ。
風のビュッビュッと切れる音を、断続的に聞きながら。


早く


早く


早く


頭の中で
何度も何度も繰り返した。

⏰:10/01/12 21:12 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#400 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

いよいよ!!!!ってところでアキ登場(`∀´)

またも三田は逃げました。しかもダッシュで。
追う根岸逃げる三田。そして置いてきぼりのアキ。なんかもう、皆、ドンマイだよ!!!!は

⏰:10/01/12 21:43 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


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