こちら満腹堂【BL】
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#269 [ひとり]
【第十五話/さっきのお客さんトイレ長くね?】


三田さんに気持ちが伝わって、一人小躍りした日からもう一月とちょっと経った。

別に二人の間で交換日記を始めたわけでも、目と目があってモジモジするわけでもない。何が変わったかと言われれば、二人で飲みに行く事が増えたとか、後は・・・まぁそんくらいだ。

⏰:10/01/01 22:39 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#270 [ひとり]
俺からしたらそれだけで上出来。避けられる事も嫌われる事もなく、以前より少しだけ親密になれたんだから、それだけで。

ただ、逆を言えばこの状況は生殺しかもしれない。だって三田さんは『考える』って言ったんだ。嫌いじゃない、でも好きかと聞かれればそれもどうだろうと。だから『考える』と。まぁそういう事だ。

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#271 [ひとり]
「根岸ー今日鍋しようぜ」

『考える』と言ってくれたあの日から、三田さんはかなり積極的に俺を誘ってくる。あ、変な意味じゃなくて、飲みとか飲みとか、まぁ、飲みなんだけど。

「鍋っすか、どっかいい店知ってるんですか三田さん」

仕事中の俺は皿を次々とシンクに沈め、ジャブジャブ洗う手は休めずに聞いた。

「いやバカ言うな、昔っから鍋は家のコタツでって相場が決まってんだろ」

「いつの昔からそんなん決まってたんだよ」

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#272 [ひとり]
「そりゃまだ人間がサルだった頃から・・」

「その頃は残念だけどまだコタツも家もなかったと思いますよ」

「バッ、おっま何もわかってねぇのな、彼らには地球とゆう星そのものが大きな"我が家"だったんだ!」

「そういう話してるんじゃないから今」

「とにかく、そんくらいセオリーって意味さ」

「・・で、家って長谷部さんちでやるんですか?」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#273 [ひとり]
「いや、お前んちかうちんち」

「あ、・・・・そう」

「うん」

何てことだろう。これってもしや巷で言うところの"おうちデート"じゃなかろうか。

「で、どっちでやる?」

「どっちでもいいけど、材料何もないですよ」

「心配すんな、うちに田舎のばぁちゃんから山ほど野菜届いたんだ」

「あぁ、それで」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#274 [ひとり]
なんだ、俺の勘違いかよ。つまりおうちデートじゃなくて、処理班て事か。



「うん、ばぁちゃんの野菜うまいから、根岸にも食わせてやろうと思って」

「・・したら三田さんちのほがいいんじゃないですか」

「そうな、うん、したら俺んちで」

言って三田さんは仕事に戻って行った。

三田さんが使うのはいつも反則技ばかりだ。期待させて落として、結局また期待させられて浮かれてる俺。まいったね。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#275 [ひとり]
────

「お疲れしたー」

「お疲れー」

今日は皆一斉に店じまい。弘さんがシャッターを下ろし鍵を閉めるのを待つ。

「うし、で、皆今日どうするんだ?」

閉めたシャッターをチェックしながら弘さんが言った。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#276 [ひとり]
「津久井は?」

「俺明日一限から入ってるんで」

「俺暇よ」

「あたしも」

「じゃ俺んち?」

「そうするかー根岸は?」

「いや、俺はちょっと」

「そかぁー三田、お前は来るべ?」

⏰:10/01/01 22:43 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#277 [ひとり]
弘さんに問い掛けられて、三田さんは一瞬チラッと俺を見た。それから

「今日なんか調子悪りぃから帰るわ」

「また風邪かよ?」

「わかんね、だと不味いからさ」

「だな、んじゃ俺達だけで行きますか」

「あ、俺も途中まで」

そうして弘さん、滝さん、長谷部さん、ノジコさん、それに津久井は、駅の方向に向かって歩き出した。

⏰:10/01/01 22:45 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#278 [ひとり]
その後ろ姿が豆粒大になるまで二人で見送ってから

「嘘つきめ」

「そりゃそっちでしょ、いつ具合悪くなったんです」

「うるせー、行くぞ」

駅とは反対の方向に向けて歩き出した。

⏰:10/01/01 22:49 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#279 [ひとり]
三月。暦の上では春かもしれないが、まだまだ俄然寒く、防寒対策が欠かせない。

「俺んちにお前が来るのってさ、チャーハン時以来だよな」

すっかりお馴染みになったポジション。自転車を挟んで右に三田さん、左に俺。

⏰:10/01/01 23:01 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#280 [ひとり]
「そうでしたかね」

「『そうでしたかね』っておま、白々しいー」

「だって俺的にはチャーハンより告った事のが印象強くて」

「・・あぁ、まぁ、そうね」

横目で盗み観ると、三田さんは視線を宙に泳がせながら、顎髭を指腹でジョリジョリしていた。

⏰:10/01/01 23:12 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#281 [ひとり]
この横からのアングル、俺的にかなりベストアングルだったりする。何がいいって、鼻の角度がいい。上向き過ぎず下向き過ぎない、程よい傾斜。本人は脂取り紙三枚半はかたいという自称ギッシュな鼻であるが、こうして見る限りそこまでとは思えない。

惚れた弱みか、未だ冬を主張するこの冷え切った夜気のせいか。男相手にこんな表現は似つかわしくないかもしれないが、横顔の三田さんは綺麗だ。

⏰:10/01/02 00:23 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#282 [ひとり]
「何、鼻糞でもそよいでる?」

俺の熱視線に気付いた三田さんだったが、残念。

「あんたのそういうとこ、なんか残念だよね」

「は?どゆ意味」

「三田さんてさ、女子より男子にモテるタイプだよね」

「え、喧嘩売ってんの?」

⏰:10/01/02 00:27 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#283 [ひとり]
「そういう喧嘩っぱやい発言とかも、なんか惜しいよね」

「よし、先ずその語尾の『ね』辞めようか、上から物言いな感じが勘に障る」

「だからそうじゃないんだよね」

「次言ったらマヂで俺の昇竜拳が火を噴くかんな」

「可愛いね」

⏰:10/01/02 00:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#284 [ひとり]
「£#&*@!?!?!?」

拳をグーの形にしたまま固まった三田さん。どうしたんだろ俺、これから三田さんちに二人きりだからって舞い上がり過ぎてるのかな。なんか、スイッチ入った感じする。

落ち着け、別に三田さんは俺を好きな訳じゃない。あんま浮かれて調子こいてると、バッサリいかれそうだし。ビークールだ、ビークール、俺。

⏰:10/01/02 00:37 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#285 [サルエルパンツ]
ヤバい面白すぎです!
ここまで読むのに何時間かかったかな〜?

かなりハマって気がついたらこんな時間です(笑)
ってことで寝ますおやすみなさい…
更新楽しみです
楽しみすぎて寝れないかもです(´_ゝ`)←三田さんの鼻ってこんな感じですか?

⏰:10/01/02 03:23 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#286 [ひとり]
>>285

サルエルパンツさん

いらっしゃいませ〜初めまして\(^o^)/
そんなにハマって頂けましたか、ひとり調子にのりますょヾ(´∀`)ノヒャヒャヒャ←
寝不足にはご用心☆まぁ正月だしいっかー(どっちだ)よければ総合に感想板ありますので、そっちにも遊びにいらして下さいなぁ〜

⏰:10/01/02 11:39 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#287 [サルエルパンツ]
安価失礼します(´_ゝ`)


>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/01/02 22:58 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#288 [ひとり]
───
─────

肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。

「玉ねぎですか」

「え、お前やったことないの?」

「うん、初めて」

キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。

「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」

⏰:10/01/02 23:30 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#289 [ひとり]
「知りませんて」

「食えばわかるよ」

なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。

「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」

「はい」

言われるままに皿と箸、コンロをセットする。

⏰:10/01/02 23:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#290 [ひとり]
「並べた?」

「はい」

「じゃ鍋持ってくぞ」

「どうぞー」

言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。

「ちょ、根岸そこ退いて」

「はいはい」

無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。

俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。

でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。

好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。

「あ、うまい」

「だから言ったべ」

あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。

⏰:10/01/02 23:33 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。

「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 10:09 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて

「・・・・・・そっか」

と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。

「じゃあ」

「じゃ」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。

「「・・・・・・・・」」

何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

「うん、また来い」

「はい」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。


近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。

ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。

漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。

胸がざわついた。

⏰:10/01/03 10:11 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#297 [ひとり]
【第十六話/つーかゲロゲロ聞こえるんですけど!!!!】


ひろむに誘われた時、咄嗟に調子が悪いってホラ吹いた。あいつには嘘つき呼ばわりされたけど、そんなんお互い様だろ。

ここ一月ちょっと、俺達はちょくちょく飲みに出た。誘うのはいつも俺だ。根岸の野郎、俺に好きとかぬかしておきながら、うんともすんともアクションがない。俺も考えるって言っちまった手前、奴を知るためにちょっと飲んだり食べに行ったり(休日の昼間に会うなんてのは流石にサムいから避けたけど)、二人での時間とか作ってみた訳だ。

⏰:10/01/03 19:40 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#298 [ひとり]
つぅか、絶対おかしいよね?普通逆だよね?なんで告ってきた筈のあいつを、考えてやる的な?完全有利な立場である俺様が?必死こいて誘ってやらなきゃいけないんだ!!!!!

何なのあの子!?!?

そうかと言って、本当はやっぱ俺をからかってるだけなんじゃないかと疑心暗鬼にかかって暫く飲みの誘いもしないでいると、なんか仕事中チラチラ見てくるし、『あれ?』みたいな顔してくるし。視線が痛てんだよテメェで誘ってこいやブォケェェェェ!!!!

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#299 [ひとり]
って思ってたところにばぁちゃんから届いた段ボール。それも二箱。中を開ければ、大量に押し込まれた野菜野菜野菜野菜・・・

その時頭に浮かんだのは、訴えるような目をする根岸の顔だった。仕方ない、鍋、誘ってやるか。

前にチラッと話したけど、奴の"来る者拒まず"は、事実らしい。てかそこダメだろ。俺が好きとか言うなら、もちっとがぶりよって来いっつんだよチキンが。

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#300 [ひとり]
そんで今日、根岸がうちに来た。男同士、何に気を遣う事もなく、ただ鍋をつついて、テレビを観て、合間にチョコチョコと下らない話をする。

無口でもないが、おしゃべりでもない根岸。俺の話しに笑ったりツッコんだりする根岸。鍋の灰汁を掬ったり、具を皿によそう根岸。酒を美味そうに飲む根岸。

根岸といるのは、楽だ。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#301 [ひとり]
うん、楽。まぁたまに心臓に悪い発言が飛び出る事もあるけど。さっき、うちに来る途中、いきなり『可愛いね』とか言いやがった時は本当に軽いパニックだった。何がパニックかって、真顔でんな事ぬかす根岸に対してもだが、それより何より、言われて悪い気がしなかった自分にパニックだ。

───それから飲んで食って気付けば深夜二時。どうせこの時間じゃ泊まってくんだろうと、二人分のビールのプルトップを開けたところで、根岸が言った。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#302 [ひとり]
「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

寝耳に水だった。

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

明日があるって言ったって、二人して遅番じゃん。だったら

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 19:43 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#303 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う根岸はもう帰る気満々だ。確かに何かされても困るんだけど・・・なんだよ、

「・・・・・・そっか」

俺は玄関先まで見送りに出た。

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#304 [ひとり]
靴を履く根岸の背中をぼんやり見つめながら、ついさっき二缶も開けてしまったビールをどうしようかと考えた。

靴紐を結び終えた根岸がこちらに向き直って『じゃあ』と片手を挙げたので、俺もつられて『じゃ』と片手を挙げた。

「「・・・・・・・・」」

何だよ、この沈黙。送り出す俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

考えているうちに、先手を打ったのは根岸。

「うん、また来い」

俺はそう返すしかない。

「はい」

言ってさっさと出て行ってしまった。なんだよ。

ガチャ──

鍵の音がやけにデカく聞こえる。俺、何がしたいんだろ。てか、あいつにどうしてほしかったんだろ。

なんだ、胸がざわつく

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#305 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十五話十六話完結いたしましたぁ\(∀)/

てか十五話で休憩入れんの忘れてた(・∀`)テヘッ

また気分で三田目線してみました。チョコチョコ変わって読みにくかったらごめんなさい。三田の気持ちに微妙な変化が。どうなりますやら、乞うご期待☆

⏰:10/01/03 19:49 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#306 [ひとり]
【第十七話/ちょ、いびき!?お客様ぁぁぁ!!!】


ちょっと前まで頻繁だった根岸との飲みの回数が減ったのには理由があった。

「四卓様お会計でーす」

「お待たせ致しましたぁーこちら熱いのでお気をつけ下さい」

「オーダーお願いしまーす」

「二卓様だし巻きお待ちー」

騒がしい店内。客の入りはピークだ。

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#307 [ひとり]
次々に出る料理と、同じ数下げられてくる空の皿。

それをさばきながらも頭の中ではもんもんとした気持ちを整理しようと必死だ。

あぁ、チクショウ。

─────
───────

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#308 [ひとり]
────
──────

「根岸、今日暇?」

裏口のベンチで一服しているところを発見して声をかけた。

「あ、三田さん、はざす」

「はよ、で、今日暇かよ?」

聞くと根岸は手にしていた携帯をパタンと畳んで言った。

「すんません、今日先約があるんです」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#309 [ひとり]
「そか、わぁった」

「すんません」

「いいって」

その時はそれだけで終わった。別にまた声かけりゃいいし、先約なら仕方ないと思ったから。

でも──

「根岸ー今日さ」

「あ、すんません今日もちょっと」

*****

「おいこれから・・」

「もう帰らないといけないんで」

*****

「根ぎ・・」

「お疲れしたー」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#310 [ひとり]
いくら寛大な俺だって、流石に三度も連続で断られたら腹も立つ。つぅか腹が立つ。何様だ、あの野郎。


それから暫くは飲みに誘うこともしなかった。そうすりゃまた例の『あれ?』みたいな視線でチラ見してくんだろどうせ?わかってんだよ。くらいに高をくくって。

ところが。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#311 [ひとり]
来る日も来る日も根岸は仕事が終わると早々に身支度を済ませ、店を後にした。

何かがおかしい。
そしてその何かを、俺はついさっき目撃したんだ。

シフトが早番だった俺は、ランチのメニューのかかれたブラックボードを中に仕舞おうと店の入り口に出ていた。

「よっこいせ」

言ってやや腰をかがめたその時──

「ゆうちゃん、聞いてる?」

すこし張った可愛らしい声がして、何気なく中途半端な体制のまま視線を向ける。何だあれ。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#312 [ひとり]
再生停止した画面のようにピタリと止まった動き。俺の視線の先には声の通りの可愛らしい女の子と




「根岸・・・?」

こちらに向かってくる遅番の根岸。

⏰:10/01/04 13:57 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#313 [ひとり]
俺は持ち上げかけていたブラックボードを下に置き直し、咄嗟にその陰に隠れた。

って何やってんだ俺。別に隠れる必要なんてないのに。もう一度陰から顔半分出してみる。いた。遠目で何喋ってっかはわかんねぇけど、ありゃ百パー根岸だ。

てか、腕・・・

「組んでるし」

全身白っぽい服で完全武装した女の子が、根岸の腕に自分の腕を絡めていた。うっわぁ〜・・・

⏰:10/01/04 13:58 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#314 [ひとり]
つまり

「そゆことね」

彼女ができたか。

「なるほど」

納得している間にも、根岸と女の子は着実に店に近付いていた。今物陰からニュッと出て行くのも気不味い。

俺は咄嗟にしゃがんだ体制のまま、店の中まで戻るという妙案を思い付いた。

うっ、この体制結構腰にくんな・・・

⏰:10/01/04 13:59 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#315 [ひとり]
キツいながらもなんとか無事戻れた店の中

「お前何してんの?」

顔を上げるとひろむがいた。

「何その格好、新しい遊び?」

俺のウンチングスタイル歩行法(と、名付けよう)を見たひろむは、怪訝な顔で言う。

「違げぇよ!"家政婦は見た"んだよ!!!!」

怒鳴りながら立ち上がる。あ、やっぱ腰痛って。

⏰:10/01/04 14:00 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#316 [ひとり]
「お前んなバイト始めたん?てかボードどした?」

「ものの例えだお前がやっとけ!!!!」

俺はそれだけ言い捨てて、裏口に煙草を吸いに行った。イライラした。

深くベンチに体を預けて、ゆっくりと煙を肺に送って、貯めて、吐く。どうにか気持ちを鎮めようとして。イライラの意味をわかりたくなくて。俺はただ、吸って、貯めて、吐いた。

⏰:10/01/04 14:04 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#317 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十七話?だっけ?完結です。二話続けての三田目線です。見ちゃったよ彼、見ちゃったよ。根岸のやつやりますな。女子と三田の二股とは。むふふ、個人的に振り回し振り回される二人ってのが好きです。←聞いなry

⏰:10/01/04 20:01 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#318 [ひとり]
【第十八話/秘伝のタレ】


「──それでね、今日は大学で──と───がマヂウケるから───」

かれこれ一時間、俺は耐え忍んでいる。

「───してイッキとか言ってコールかけ──」

目の前のグロスでギラギラした唇は未だペースを落とす事なく動き続けている。いや、むしろピッチ上がってんじゃなかろうか。

⏰:10/01/04 23:20 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#319 [ひとり]
「───だよ超笑えるっしょ?」

俺の耳はここ数日で目まぐるしい進化を遂げた。ここは敢えてキテレツの効果音と共に紹介したい。ティーティティーティティティティティーティッドン

「鼓膜機能シナクナール」

「は?どしたのゆうちゃん急に」

「・・・・・いや、こっちの話し」

⏰:10/01/04 23:21 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#320 [ひとり]
「何それ、てかどう思う今の話し?」

「あぁ、確かにザクロとイチヂクってキャラ被るよね」

「ちょっと全然聞いてなかったの?信じらんない!!だからね───」

「アキ、明日また聞くから、今日もう帰んな」

俺はとうとう限界が来てこう切り出した。

⏰:10/01/04 23:22 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#321 [ひとり]
「えぇ〜まだいいじゃん!!」

「ダメ、俺明日早番だし」

「ケチ〜」

「ホラ、送るからコート着て」

言って壁に掛けていた白いコートを放ると、渋々といった感じでそれを拾って立ち上がった。

⏰:10/01/04 23:24 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#322 [ひとり]
「明日また来ていい?」

「ダメっつっても来るんだろ」

「正解〜ぃ」

やっぱり。正解したところで、目糞程も嬉しくはないんだけど。

二人で外へ出ると、アキは当然のように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「寒っむ!!」

「そんなペラペラの服着てりゃーな」

⏰:10/01/04 23:46 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#323 [ひとり]
3月の頭。予告通り近くに越して来たアキは、正月に会った時とはガラッと印象が違っていた。

高三の夏までバリバリの体育会系で部活に打ち込んでいたその面影すら今はなく、エクステとかいう人工の毛をくっつけた頭や、なんちゃらネイルとかいう人工爪をキラッキラに飾り付けた指先、更に片目だけでも人工睫毛(ツケマって言うらしい)を三枚だか四枚だか装着した化粧の濃い顔は、本当に『え、どなた様ですか?』だった。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#324 [ひとり]
「可愛いっしょ?」

俺が"ペラペラ"と指摘したミニ丈のワンピースの裾をチョコっと持ち上げて笑いかけるてくる。

「短すぎ、風邪ひきそ」

俺は愛想もなしにそう答えた。

「え、何それ心配してくれてんの?」

アキはどこまでも果てしなくプラス思考だ。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#325 [ひとり]
アキが越してきてから、三田さんと飲みに出かける回数が格段に減った。っつうかパタリと無くなってしまった。多分、三田さんちで鍋をしたあの日が最後だ。

何度も誘ってくれたのにそれを悉(コトゴト)く断り続けていたら、お誘いの声すらかけてくれなくなった。まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだが。

アキもまだ入学したばかりで、新しくできた友達や入ったサークル、どんな環境に自分が居るのか、話せる肉親が必要なんだろうと思う。思うから、暫くはそんなアキに付き合おうって決めたんだ。だけど

⏰:10/01/04 23:48 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#326 [ひとり]
「じゃ、おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

初めての一人暮らしに彼女が選んだのは、俺んちからすぐのところにある築年数も浅そうなサーモンピンクのアパート。その階段を二階へと駆け上がって行く。ブーツのヒールが、カンカンと鋭い音を立てた。

鍵を開け、ノブを回す。そして家の中に入ったところまで見届けてから俺は帰路につく。

⏰:10/01/04 23:50 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#327 [ひとり]
「参った・・・」

帰り道は自然と溜め息が零れる。まさか冗談でなく、毎日うちに入り浸るなんて。いくら覚悟していても、叔父さんや叔母さんに『頼むね』と言われても、流石にこれじゃあやってられない。

かと言って、もう来るなとも言えないし、妹みたいなアキが可愛い存在である事もまた確かで・・・・

「あ゙ぁ゙〜〜〜もう!なんだかなぁぁぁぁ」

俺の阿藤〇イにも匹敵し得る『なんだかなぁ』が、帰り道に虚しく響き渡った。

⏰:10/01/04 23:52 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#328 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

二話越しでの根岸サイド。従兄弟のアキが再登場です。根岸って存外に身内思いなんです。はい。

ちなみアキが高校で所属していたのは、硬式テニス部でした。前衛でした。はい、補足情報でしたぁ〜

⏰:10/01/05 00:03 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#329 [ホシ]
三田さんの気持ち‥なんかせつなぁーいォ

⏰:10/01/05 08:45 📱:Sportio 🆔:VMqmuYas


#330 [ひとり]
>>329

ホシさん

切な〜いですか?ちゃっかりそこ狙ってたんで、そう言って頂けると嬉しいです(^∀^)

⏰:10/01/05 19:40 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#331 [ひとり]
【第十九話/レモン絞る前は一声かけるのが大人のマナー】


気付けば早いもので、もう四月も真ん中を過ぎた。

大学生になったアキも越して来た当初に比べれば、大分落ち着いてきて、流石に毎日深夜までうちに居座る事も減ってきた。ペース的には、週四くらい。せめてそのもう半分まで回数が減ってくれたら嬉しいのだが、贅沢は言うまい。

⏰:10/01/05 20:30 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#332 [ひとり]
それよりも今は、あの人の事だ。そう、三田さん。

アキにかまけている間に、全然誘われなくなってしまった俺。それは当然の事だと思う。そこで、再び自由な時間ができたんだしと、自分から誘ってみる事にした。

「はざす」

「はよ」

「はざーす」

今日は早番でランチをこなしていた俺、いつものベンチで一服しているところに遅出勤の三田さんと弘さんが現れた。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#333 [ひとり]
暫く三人で煙草片手に雑談。すると弘さんが徐にケツポケットから携帯を取り出した。

「悪り、電話」

話の腰を折った事を俺達に詫びてから通話ボタンを押した弘さんは

「もしもし、なに?」

話しながら店の中に消えて行った。後には俺と三田さんの二人きり。誘うなら、今だろう。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#334 [ひとり]
「・・・・あの」

いつもペラペラよく喋る三田さんが、今日は黙って煙草を吸っている。なんだか雰囲気も違うような・・・

話を切り出すのが、少し戸惑われたが、そこは勢いまかせで。

「今日暇なら、久しぶりに飲み行きませんか?」

⏰:10/01/05 20:33 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#335 [ひとり]
「・・・・え?」

考え事でもしてたんだろうか、聞こえていなかったようなのでもう一度同じ台詞を繰り返した。

「だから、今日暇なら久しぶりに飲み行きませんか?」

「・・・・なんで?」


まさか『なんで?』なんて返しがくるとは予想していなかった俺、少し面食らった。

「いや、俺今日暇なんで、よかったら」

⏰:10/01/05 20:34 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#336 [ひとり]
やっぱ雰囲気が違う。つうか何だ、その冷めた目は?

「・・・・ははは」

突然三田さんは笑い出した。なんか、空笑い。馬鹿にされたような気分になる。

「なんすか、その笑い」

語尾がやや強くなってしまった。そんな俺に、一定して冷めた視線を送ってよこしながら、三田さんはこう聞いてきた。

⏰:10/01/05 20:35 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#337 [ひとり]
「根岸今楽しい?」

「何です急に?」

「・・・今楽しいかって聞いてんだけど」

質問に答えるための言葉以外は受け付けない。三田さんの目はそう物語っていて、俺は答えざるを得ない。

アキが大分落ち着いてくれたおかげで、またプライベートな時間ができて、こうして三田さんを飲みに誘える。そういう意味じゃやっぱ

「楽しいですね・・・今」

⏰:10/01/05 20:36 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#338 [ひとり]
正確には、三田さんとまた時間を持てるのが『楽しみです』なんだけど、質問の意図がさっぱりだし、第一馬鹿正直にそんなん言うなんて恥ず過ぎてムリだ。

俺の答えを聞いた三田さんは、またさっきの空笑いを繰り返した。嫌な感じ、何なんだろう。

「ははは・・・・」

「・・・・・」

俺の気持ちとは裏腹に、二人の間に流れる空気はいよいよ不穏なものに変わる。そして、茶化すように三田さんは言った。

「根岸ってばサイテー」

⏰:10/01/05 20:37 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#339 [ひとり]
は?

サイテー?最低?・・・・俺が?

そんな事、言われる覚えはない。

「何ですかさっきから意味わかんないよあんた」

「最低な奴に最低だっつって何が悪りんだよ、あ?」

目が据わってる。流石は元ヤンキーと言ったところだろうか、メンチ切る姿が様になってんな。なんて、まったく関係ない事を思ってみる。

⏰:10/01/05 20:38 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#340 [ひとり]
暫し無言での睨み合いが続いた。その沈黙を破ったのは、弘さん。

「三田ぁーちょっとこっちゃ来ーい」

その気の抜けた声に、張り詰めていた空気は一気に払拭された。これまた気の抜けた声で三田さんは

「なしただぁー五作どーん」

と返しながら、店内へと帰って行った。俺の存在なんてないみたいに、こちらには一瞥もくれずに。

なんだよ・・・・・・

「どういう事だよ」

俺は混乱し、途方に暮れた。

⏰:10/01/05 20:49 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#341 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十九話完結しましたー三田キレました。根岸混乱しました。すれ違いはどこまで続くのか。それはひとりにも不明です←弘のナイスタイミングな一声に救われましたね。グッジョブ弘!!グッジョブ!!!!!

⏰:10/01/05 20:52 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#342 [ひとり]
【第二十話/シーザーサラダのドレッシング抜きでございます】


覚えのないいちゃもんをつけられた。テンションは底辺のままで夜の仕事は身が入らなかった。

仕事を回す上で必要な会話を何度か交わしたが、三田さんは至って普通だった。

じゃあベンチでのあの態度は何だったんだろう?

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#343 [ひとり]
その日の営業終了後、俺は納得がいかなくて、ロッカーで三田さんを待ち伏せた。

「三田さん、話あるんで、ちょっといいですか」

俺の言葉に、また例の冷めた目で三田さんは言った。

「俺は話なんてないんだけど」

なる程、二人の時はこうゆう態度な訳だ。

俺は食い下がった。

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#344 [ひとり]
「あんたになくても、俺にはあるんですよ」

「知るか」

「「・・・・・・・・」」

"とりつくしまもない"ってこういう事なんだろう。

じゃあ俺は、どうしたらいいんだ。何で急にこんな態度とられなきゃいけないんだよ。

⏰:10/01/06 22:31 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#345 [ひとり]
「したらもう俺帰るし」

「ちょ、」


バッ


風を切る音。

出て行こうとする三田さんの手を取った次の瞬間、勢いよく振り払われた。


「触んな」

⏰:10/01/06 22:32 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#346 [ひとり]
言って上着だけひっ掴んだ三田さんはノブに手をかけた。

元々ネジが緩くなっているロッカールームの扉。力任せに閉められたそれは、耳障りなでかい音を立てる。

行ってしまった。スタッフウェアのままで。春とは言っても夜はまだ冷えるのに、上着一枚で風邪でも引かなきゃいいけど。

一人取り残された俺、仕方がないので鍵をかけて自分も出ようとメッセンジャーバックを背負った。その時

⏰:10/01/07 09:06 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#347 [ひとり]
無音のロッカールームに人が入ってくる気配があった。

三田さん、戻って来てくれたのか。

俺は速い動作で扉を開けた。

「うおっ!自動扉かと思った、よう、お疲れ」

「・・・・・お疲れ様です」

「何だよ明からさまなガッカリ顔しやがって」

「そんな事ないですよ」


目の前にっていたのは、弘さんだった。

⏰:10/01/07 09:12 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#348 [ひとり]
今日の鍵当番は俺とノジコさんで、今日は自分が閉めるから先に帰って下さいと伝えた。鍵持ちでもないし、仕事はいつも手際よくこなす弘さんがこんな時間まで残っているというのはどうした訳か。

俺が考えてる事を察してか、弘さんはこちらが尋ねる前に口を開いた。

「お前待ってた」

「・・俺を、ですか?」

「そ、根岸を」

⏰:10/01/07 20:29 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#349 [ひとり]
「はぁ・・・」

俺は歯切れ悪く返事をする。

「まぁ、いいからちょっと付き合え」

訳の分からないまま取り敢えず弘さんに従って店を出た。何処へ向かうのやら、目的地を決めているらしい弘さんは淀みない足の運びで先へ向かう。等間隔に街灯の並ぶその下を、微妙な感覚を空けて後に続いた。

⏰:10/01/07 21:10 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#350 [ひとり]
「公園・・」

着いた先は、満腹道からほど近い『緑公園』という名のこじんまりした公園だった。あるのはシーソーに砂場にブランコ。セオリー通りのメンツ。砂場には誰かが忘れて行ったんだろう、小さなおもちゃの赤いバケツとスコップが転がっていた。

「お前何飲む?」

公園に入ってすぐにある自販機の前に立ち、弘さんが聞いてくる。

「じゃ、甘酒で」

⏰:10/01/07 21:41 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#363 [ひとり]
「ではこれにて二者面談を終了します」

「面談だったんすかコレ」

「そうだよ」

「そうだよって・・」

いっきに和らいだ空気と入れ違いに、痺れるような寒さを感じる。手の感覚も麻痺しているし。

⏰:10/01/08 20:32 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#364 [ひとり]
「てか寒っっむ!!!!」

どうやらそれは弘さんも同じだったらしく。

「とっとと帰ろうぜ根岸」

「はい」

俺と弘さんは先程の自販機脇に設置されたゴミ箱にそれぞれの缶を放り込んでから、等間隔で立ち並ぶ街灯の下を、二人横並びで元来た道へと歩いた。

明日、もう一度三田さんと話しをしよう。

⏰:10/01/08 20:41 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#365 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第二十話は弘をいっぱい出してみました。三田と根岸のために一肌脱いだ感じ。釘をさすお兄ちゃん弘です。彼の言う根岸の必死さとか、真剣さってのはアレです。三田を見る時の目とか、三田に対するちょっとした態度やリアクションの事です。そこに一々滲み出ちゃってる「ラブ」を、弘は感じとっていたようですね。ま、根岸自身は自覚なしのようですが。隠そうとも隠しきれぬ思いです。ラブです。ヒューヒュー←うざ

⏰:10/01/08 20:52 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#366 [ひとり]
【第二十一話/失礼しましたー】

別に『考えてやる』って言っただけで、付き合ってやるつもりだった訳じゃないし。別に根岸が女を好きになったって痛くも痒くもないし。寧ろそのほうが自然な事だし。俺にしたって喜ばしい事なんだ。

なんだけど、なんで・・・・

⏰:10/01/09 08:46 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#367 [との様]
感想板ってあります
更新頑張ってください
すっごくおもしろいです

⏰:10/01/09 09:00 📱:SH905i 🆔:Bx3.kDhs


#368 [ひとり]
「ニ股・・・」

って言ってしまえるんだろうアレは。

俺に好きとか言ったくせに、きっとあの女の子にも『お前が好きだぜベイベー』かなんか言ったんだ。きっとそうだ。

今思い返してもムシャクシャする。『今楽しいか』って聞いた時の『楽しいですね』って言った根岸の顔。よかったな彼女できて。俺の気持ち弄んでそんなに楽しいのかお前は・・・・

「って"俺の気持ち"ってなんだよ!!気持ちなんてねぇよクソッタレ!!!!」

⏰:10/01/09 09:04 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#369 [ひとり]
>>367

お初です^^コメありがとうございます\(∀)/

総合に感想用に設けたスレあります、「ひとり」で検索して頂ければと思いますm(・_、)mペコリンチョ

⏰:10/01/09 09:07 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#370 [ひとり]
爽やかな感じで微笑みやがって気持ち悪りぃ。ダメだ、もう一本。

「よくまぁそんだけ無駄に吸えるねぇ」

「あ?」

顔を上げると、滝が真ん前に突っ立っていた。

「煙草がもったいない」

「ほっとけ」

⏰:10/01/09 09:11 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#371 [ひとり]
「なんだよご機嫌斜めだなぁ」

休憩中。裏口のベンチを占領していた俺の横に無理やりケツを割り込ませてきた滝は、何がおもしろいのかニヤニヤしてくる。

「別に」

「エリカ様みてぇ」

滝は出会った当初から俺を玩具にして面白がる節がある。本気で迷惑な話だ。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#372 [ひとり]
「機嫌悪いのわかってんなら近寄んなよ」

「まぁそう言うなって、俺も吸いたい」

言いながら赤丸を一本取り出して火をつけた滝。空に向かって煙を細長く吐き出した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

大人しくなった滝と俺の間には、会話も特になく。今の俺はそのほうが助かるから、こっちから特に話し掛けることもしない。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#373 [ひとり]
一本目を早くも吸い終えた滝が、新しい煙草を取り出した。

まだ吸う気かよ。

「・・・・・・」

「アレ、行っちゃうの?」

内心で毒づいて店に戻ろうとしたら、止められた。

「悪るいけど、今は一人になりてんだよ」

「何言ってんの?キャラじゃねぇだろ、つかマヂ一人じゃ寒みぃから横いて」

調子こいて半袖で出てくるお前が悪い。

「俺はお前のホッカイロじゃねぇし」

⏰:10/01/09 21:48 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#374 [ひとり]
付き合ってられるか。

「ここなら二人だけど、店入ればもっと人いるぞぉ」

「木を隠すなら森の中って言うだろ」

「んー・・・・・・なんか違くね?」

あぁ、もう。

相手すんのが正直だるくて、滝には悪いけど俺は無視を決め込んでドアノブに手をかけた。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#375 [ひとり]
外に向かって開く設計の裏口扉。俺が再びノブに手をかけたのとほぼ同じタイミングで

「っっって!!!!!!」

自分じゃない力でもって、勢いよくそれは開かれた。まったくの予想外。

予知能力があるじゃなし、ボクサーでもない俺は、モロ顔面で扉を受け止めた。それを見て、

「ストライク!!」

滝の野郎がふざけた合いの手をいれてきやがった。コイツ、俺が例え目の前で事故にあって吹っ飛ばされたとしても、きっと今と同じようなふざけた合いの手で場を茶化すんだろう。間違いない。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#376 [ひとり]
にしても誰だよチクショウ!!!!顔面が凄さまじく痛いんですけどぉぉお!!!!!!てかもう、熱いんですけどぉぉお!!!!

あまりの衝撃にしゃがみこんだら、なんか涙まで出てきたし。最悪。

「すいません!大丈夫ですか!!?」

焦っているせいか、いつもよりやや張りのある声だけど、こりゃアイツだよ、うん、間違いなく100根岸だよ。

しゃがんだと同時に俯いたお陰で、顔を見なくて済むのがせめてもの救いか。

⏰:10/01/09 21:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#377 [ひとり]
「大丈夫・・・」

「顔、見せて下さい」

「・・・本当に、大丈夫」

「いいから」

「ちょ、マヂやめろ…」

顔の無事を確認しようと隣にしゃがみ覗き込んでくる根岸。

近いって。

「いいから、見せて」

⏰:10/01/09 23:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#378 [ひとり]
顔を庇うように巻き付けていた両腕をとられて、力ずくで顔を上げさせられた。

ホラァァア!!!!近いんだってば顔がぁぁあっ!!!!

「あ」

あ?

「鼻血」

「え、嘘」

言われてから遅蒔きながら気付いた、鼻下にスウッと微かに感じる生暖かさ。そこに手を当てれば指先の濡れる感触が。

「血だな」

「はい、血です」

⏰:10/01/09 23:51 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#379 [ひとり]
「血だねぇ、おぉ、鼻栓しろ鼻栓」

滝もいつの間にか側に来ていたらしい。面白がる声色に変わりはないけど、ポケットティッシュを差し出してきた。

なんだかんだ言っても、こういうとこ気がきくじゃねぇか。

「悪り」

素直に受け取って素早く抜き取ったティッシュを鼻に詰める。

やべ、ちょっと地べたに垂れたな。

見るとコンクリに点々と血痕が落ちていた。後で水かけて流さなきゃ。

⏰:10/01/09 23:54 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#380 [ひとり]
そんなことをぼんやり思いながら、グレーに映える赤に目を奪われて。

「立てますか?」

「ん、あぁ」

根岸の声で我に返った。

「鼻、折れたりしてないですよね」

言われて恐る恐る鼻を確認してみたら、よかった。

「骨はいってないくさい」

「そう、ですか」

心底安堵した様子。大袈裟だな。確かに目から星が飛び出る程度には痛かったけど。え、表現が昭和っぽいとか言わせねぇよ?

⏰:10/01/10 16:34 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#381 [ひとり]
「本当にもう大丈夫だから、滝、悪りんだけど」

「あいよー」

『消毒したい』って言おうとしたら、滝は察して足早に店の中へ消えて行った。やっぱこういう時は気が回る。さっき心の中で主張した前言は、撤回してやろう、うん。それから

「根岸、もういいって」

まだ横でこちらの様子を伺っている根岸の顔が何か言いたげだから、心からの『もういい』でそれを止めた。

そんなに謝られたって逆にこっちが気ィ使うっつーか。相変わらず位置が近いっつーか。

俺はじりじりっと微妙に根岸と距離をとる。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#382 [ひとり]
「じゃなくて三田さん、俺」

「なに?」

どうしよう。今更だけど、昨日あれだけツンケンした態度で避けていた相手とまともに会話してる自分に気付いて、なんかバツが悪い。そんな俺の胸中なんか知る筈もない根岸は、いけしゃあしゃあとこう言った。

「しつこいって思うかもしれませんけど、やっぱ俺納得いかないんで、今日残って下さい」

納得いかないって・・いやいや待てよ。何が納得いかないって?テメェは彼女できてウハウハなんだろ何ほざいてんだマヂで。意味わかんね。

今の俺、エベレストと張れるくらい沸点低いみたいだわ。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#383 [ひとり]
「しつこいって言われんのわかってんなら、そゆこと言うのやめたら?」

「・・・・・」

黙った根岸をその場に放置して、俺は逃げるように店に入った。ぶつけた鼻と、あとなんか左胸に圧がかかったみたいにぐぅっと痛い。

早くこの鼻、滝にマキロンで消毒してもらお。完全皮剥けてんだろコレ。でもこっちの痛みは・・・

黒いスタッフTシャツの胸の辺りを、乱暴に鷲掴んでごまかすのが精一杯だ。

⏰:10/01/10 16:40 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#384 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第二十一話、完結。
鼻を強打した三田と、させた根岸。空気読めてんだかいないんだかの滝でしたぁー。

滝はマイペースなチャランポランで、いつも隙あらば三田をからかってあそんでいます。

⏰:10/01/10 16:43 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#385 [ひとり]
【第二十二話/お冷やだけ注文してきた時は後回しが鉄則】


また逃げられてしまった。

「・・・・はぁ」

ため息しかでてこない。せっかく思いを伝えたのに、少し距離が近くなった気がしたのに。

近づいたと思った次の瞬間にはまた遠のいている。

気付かない程無意識のうちに。

「俺、何やらかしたんだよ・・・」

⏰:10/01/12 01:16 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#386 [ひとり]
見当も付かないが、昨日弘さんの二者面談(?)で半端はしないと宣言した手前、引くわけにはいかないし、もちろんそんな気毛頭なかった。


────
──────


今日一日もまた無事に終わろうとしている。深夜一時。常連の客がなかなか帰らなかったから、まだ暫くは締めに時間がかかりそうだ。

⏰:10/01/12 01:17 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#387 [ひとり]
三田さんが先に帰ってしまわないように、動きをちょこちょこ目で追いながらの作業。ちょうど床を掃いている時、ケツポケに突っ込んでいた携帯がバイブした。

こんな時間にメールをよこす相手なんて、限られてくる。仲良いダチか、或いは───


from:アキ
─────────

まだ仕事〜?

──end─────


「だと思った」

⏰:10/01/12 01:18 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#388 [ひとり]
思わず零れた独り言。

おそらく、毎度のことながら勝手に作った合い鍵で勝手に俺んちに上がり込み、いつの間にか勝手に持ち込んでいた部屋着にでも着替えて待っていたが、帰ってこない事にしびれを切らせて連絡をしてきたんだろう。

俺は素早く返事を返した。


──今日はまだ当分かかる。自分ち帰れ。──


送信。

⏰:10/01/12 01:19 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#389 [ひとり]
するとまた、間髪入れずに返信が。


──はぁ〜い──


内容はそれだけ。絶対にごねて意地でも待ってるとか言われると覚悟していたので、少し拍子抜けだが、これならこれでありがたい。

もう返事は返さずに、そのまま携帯をしまう。残りぶんの掃き掃除に戻ろうと顔を上げたら、思いがけず三田さんと目が合った。が、直ぐにそらされて

「・・・・・・・・」

今日は逃がさない。必ず話をつけてやる。必ず。

俺は強い決意と共に箒の柄を握り直した。

⏰:10/01/12 01:20 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#390 [ひとり]
─────
───

それから実際締め作業が完了したのは深夜二時。売上が合わないと三田さんが言い出した事で、幾分か余計に時間をくったが、そのお陰というか、自然な感じで一緒に残る事ができた。

今いるのは、三田さん、弘さんと俺。これなら何の遠慮もなく、三田さんを引き止められる。

「ひゃー合った合った、とっとと閉めるべ」

弘さんの一声を合図に、三人三様鞄を手に出口へ向かった。

「今何時根岸?」

「っと・・・二時半過ぎですね」

「マヂで?うっわ勘弁しろよ三田」

「俺じゃねーよ!誰だか知んないけど釣り銭間違えたソイツが悪い」

「店長のくせに無責任だなお前・・そう思うよな根岸」

「いや・・」

「ひろむこそ自分の肩書き棚に上げてんじゃねぇよ経営"責任者"が聞いてあきれるわ」

「わかってないねお前は、責任者として俺はお前に一任してる訳だからさ」

「一任つぅか、転嫁じゃね?」

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#391 [ひとり]
ヤバい。このままじゃなんか流れ的に三人で帰る感じじゃね?しかも俺チャリで、二人は歩きっていう・・・

内心で若干焦っていると、弘さんはシャッターを下ろした店の前で言った。

「あ、俺今日バイクだから、お疲れ〜」

それは見事な早業。止める隙もなく。俺と三田さんは走り去る弘さんの背中に『お疲れ様』の声も掛けられずにただそろって

「「え」」

と発する事しか叶わなかった。

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#392 [ひとり]
横にチラと視線をやれば、弘さんが走り去った方向にまだ目を向けている三田さん。『聞いてないよ』って顔に書いてある。

ありがとうございます。
弘さん。

俺は弘さんが敢えて一人先に帰った事を確信して、胸中で感謝した。昨日の甘酒の事もあるし、今度煙草の一箱でも奢らなくては。

⏰:10/01/12 21:06 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#393 [ひとり]
そうしていよいよ二人きりになってみれば。

やっぱ緊張すんな。

覚悟を決めていても、好きな相手に冷たくあしらわれるのはやっぱり応える。早く教会へ行って冒険の書に記録したいって思うくらいに、HPは消耗してるんだ。

それでも今何か言わなきゃ逃げられてしまうかもしれないこの状況で、俺に残された選択肢なんて、一つしかないのもわかりきってる事実だから。俺は意を決して話しかけ──


「ぐはっ!!?!!??」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#394 [ひとり]
突然だった。

ただでさえ腰にくる立ち仕事を日々やっている俺の、正にコアである腰に真後ろから、本当に突然、何かがぶつかってきた。

否、抱き付いてきた。が正しいか。

「来ちゃった!!!!」

振り向かなくたって声でわかる。

「なんでお前がここにいんだよ」

「実はね、サークルの子達と飲んでて終電逃しちゃってさぁ、だからさっきメールした時も、実は帰ってる途中だったんだよね〜」

「それで?」

「それでって・・・・だから一緒に帰れるんじゃないかな〜って思って来たの!!」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#395 [ひとり]
『ピッタリだったでしょ』とはしゃぐアキ。コイツはなんだってこういいところに・・・

「いいから先帰ってて」

「えー何でよわざわざ寄ってあげたのに」

「頼むから・・・」

もうこれは何かもので釣るしかないようだ。

「プリクラ」

「え?」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#396 [ひとり]
「撮ってやるから」

プリクラ、正式名称をプリント倶楽部。俺がまだランドセルしょってた時分に登場してから現在に致るまで、根強い人気で新機種が続々と登場し続けてる。

自分の顔をシールにして何が楽しいのか。俺からしたらその感覚はさっぱり理解できないんだが、アキはどうやら漏れる事なく好きらしい。

以前から撮ろう撮ろうとしつこくせがむのを、そればっかりはと拒否し続けてきた訳で。

「え、マヂで本気!!??」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#397 [ひとり]
それをすんなり手のひらを返したもんだから、『マヂ』と『本気』が同義だって区別もつかないくらいに喜んでくいついてきた。

かかった!!!!

俺は糸が引いたその瞬間を見逃さず、素早くリールを巻いた・・・・ってのはものの例えで

「だから今は帰ってろ」

とすかさず要求したんだ。

⏰:10/01/12 21:10 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#398 [ひとり]
「えーいいけど今から一人で何すんの?」

「一人?」

おいおい何言ってんだよ。一人な訳ないだろ俺は今から三田さんに・・・




いない。

「あの横にいた人なら帰ったよ」

「帰った!?!?」

「うん、ダッシュで」

「ダッ・・・・」

⏰:10/01/12 21:11 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#399 [ひとり]
畜生。またかよ。

「大人のダッシュってなんかウケ・・てちょっとゆうちゃん!!??」

俺は店の脇に止めていたチャリに反射的に跨ると、乱暴にそれを漕いで三田さんの後を追った。

アキがなんか叫んでる声が少し遠くに聞こえたけど、今はそれどころじゃないんだ。

なりふり構わず立ち漕ぎ。
風のビュッビュッと切れる音を、断続的に聞きながら。


早く


早く


早く


頭の中で
何度も何度も繰り返した。

⏰:10/01/12 21:12 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#400 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

いよいよ!!!!ってところでアキ登場(`∀´)

またも三田は逃げました。しかもダッシュで。
追う根岸逃げる三田。そして置いてきぼりのアキ。なんかもう、皆、ドンマイだよ!!!!は

⏰:10/01/12 21:43 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#401 [ひとり]
【第二十三話/エイヒレは長くしゃぶったもん勝ち】


ハァ──ハァ──ハァ──

「どんだけ足速いんだよ」


慣れない立ち漕ぎに上がった息で呟いた。いっても相手は生身でこっちはチャリだ。全力で漕げばすぐに追い付くだろうと践んでいたのに。

「見つけた」

煙草ばっかぱかぱか吸って体力なさげな三田さんは、予想以上の健闘を見せて。その後ろ姿を視界に捉えることができた頃には、こっちの体力が尽きかけていた。

⏰:10/01/14 01:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#402 [ひとり]
煙草ばっか吸ってるのは三田さんばかりじゃないって事か。

『もうここまで来れば─』とでも思ったのだろう。呑気にテクテク歩くその後ろ姿に向けて、俺はラストスパートをかけた。


「三田さん!」

あぁ、漕ぎながら大声出すと脇腹が痛い。

呼び掛けに振り向いた三田さんは俺の姿を認めると、口が『げ!!』という形に動いた。

『げ』じゃねんだよもう逃がさねぇぞ。

⏰:10/01/14 01:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#403 [ひとり]
ところが三田さんも粘り強いというか往生際が悪いというか・・

「あ、ちょっと!!!!」

今まで通って来たやや幅の広い道から、前動作もなくいきなり横道に入った。しかもまたダッシュで。

なんなんだあの人は。

昔はやんちゃしてましたとか言いながら、実は真面目な陸上部員だったんじゃないかと疑ってしまう。

もちろん自分も後を追うべくすぐその脇道に入ろうとした。したのだが。

⏰:10/01/14 01:22 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#404 [ひとり]
「うおっ!!!」

咄嗟にかけたブレーキで直撃は避けたけど。

「っぶねー。」

前輪からやや強い衝撃が、ハンドルを握る両手を始めとして全身に伝わってくる。三田さんが何の考えもなしに飛び込んだと思ったそこには"自転車・バイク進入禁止"と掛かれたポールが、道のど真ん中に鎮座していたのだ。

⏰:10/01/14 01:24 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#405 [ひとり]
「あぁ!!もう!!!!」

俺はヤケクソ気味に自転車をその場に捨て置いて、ポールを飛び越え三田さんの後を追った。

そこは細く長く、道と呼ぶにはあまりにお粗末で、民家と民家の間に辛うじてできた"隙間"と言ったほうが正しいような、碌に舗装もされていない道だった。

⏰:10/01/14 01:28 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#406 [ひとり]
塀に囲まれて日の当たらないそこは所々ぬかるんでいる。足を捕られながらそれでも俺は、前へ前へと足を動かした。

随分長い。

ひたすら続く一本道に、このままどこまで続くのだろうと思った矢先。俺の視界の真ん中に、白っぽい点が現れた。


出口だ。

おそらくあの白いものは街灯の光。その点めがけて走った結果。やはり新しい道にでた。

ちゃんと街灯で照らされて、舗装された道らしい道。

⏰:10/01/14 01:36 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#407 [ひとり]
そこは正面がどん詰まりで、左右ニ岐に別れたT字路になっている。

三田さんが行ったのは、右か。それとも左か。

左右に忙しなく視線をさ迷わせていると、右側の道。ここからじゃ死角になっている曲がり角の先から、『ゴッ』と物体と物体がぶつかり合う硬質な音が、俺の鼓膜に届いた。

真夜中で、辺りになんの物音もしないこのコンディションだからこそ聞き取れた。それくらいに地味な音でもあった。

⏰:10/01/14 01:39 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#408 [ひとり]
俺は反射的に音のした右道を選び、一つ目のコーナーを直角に曲がった。

そうしてようやく。

「・・・・・あの・・三田さん?」

ようやく捕まえた目当ての人物は、何故か曲がって直ぐに突っ立っている電柱の前に小さくうずくまっていて、声をかけると丸めた背中がビクッと反応した。

「大丈夫なわけねぇだろ!」

振り向いた顔。初見のポジショニングからして想像はできていたんだけど。

⏰:10/01/14 01:41 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#409 [ひとり]
「今日は顔、よくぶつけますね」

ちゃんと"今日の占いカウントダウン☆"見てきたんですか?

場を和ませようと続けた台詞が、今の三田さんには相応しくなかったらしい。

しゃがみ込んだまま上目使いで睨まれた。丁度いい角度で街灯に照らされているその目尻には痛さのせいか、もしくはついていない今日の自分に嫌気がさしてか、やや涙が滲んでいた。

⏰:10/01/14 01:43 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#410 [ひとり]
ついでに言えば、満腹堂の裏口で俺が勢いよく開け放った扉に鼻をぶつけた時、"応急処置"にかこつけておもしろ半分で滝さんが無理やり三田さんの鼻頭に貼り付けた絆創膏も(貼った本人はその姿を指差して『昭和のガキ大将』だと笑った)、電柱に再度ぶつけた衝撃でなんだか微妙にポイントからずれていて。やや右上がりにくしゃりと皺がよってしまったその下からは、薄ピンクのちょっと痛々しい傷口が覗いていた。

三田さん自身、己の鼻の上にへ貼りついている絆創膏が、もう何の役割も果たしていない事がわかったようで。俺を睨む目の強さは保ちながら、ペリとそいつを剥がしてお役御免だと地べたに投げ捨てた。

⏰:10/01/14 21:14 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#411 [ひとり]
「お前が追っかけるからまた顔ぶつけただろ」

いつもよりも低くかすれた声で三田さんがボソッと不満を漏らす。

そんなん言ったって

「今のはただ単に三田さんがセルフで起こしたアクシデントでしょ、俺関係ないですよ」

「関係ある、大あり」

「てか本を正せば、三田さんが俺から逃げるのがいけないんじゃないですか」

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#412 [ひとり]
「な・・・・テメェが・・」

話の流れとして返したその一言に、なにやら今までとはちょっと違う反応が返ってきた。が、よく聞き取れない。

「はい?」

散々避けられていた鬱憤から苛立ちを含んだ声で聞き返すと、三田さんは突然凄い怒気を放ちながら、俺を怒鳴りつけた。

「先に逃げたのはテメェだろ!!!!!!」

意表を突いたその怒声に、俺の体は自然現象として一気に粟だった。

こんな風に怒鳴る三田さんを見るのは、初めてだ。

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#413 [ひとり]
「・・・・・・・・俺が?」

怒鳴られた事に対しては正直驚きを隠せない俺だったが、それより何より聞き捨てならない台詞だ。

逃げた?先に?何から?

「あんた何言って・・・」

「っるせぇ!!先に背中向けたのはテメェだ!!!!それを今更とやかく言われる筋合いはねぇっつってんだ!!!!」

今は一体何時なんだろう。目の前のこの人の怒鳴り声は、騒音被害だって警察に届けられても文句は言えないぞっていうボリュームだ。

そしてそれだけに留まらず、三田さんはまた信じられない行動に出た。

⏰:10/01/14 21:16 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#414 [ひとり]
「もう今更俺に構うな!!」

捨て台詞としてそれだけ言うと、脱兎のごとくまた駆けだしたのだ。

「ちょ、三田さん!!!」

当然俺はその後を追った。ここまで来て、あんな意味のわからない事言われて、『はいそうですか』なんて引き下がれるか。

にしても俺達こんな事ばかり、もう何回繰り返してるんだ。

こんなに好きなのに。

逃げないでよ。

俺はなりふり構わず全力で走った。

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#415 [ひとり]
今まで通ったこともないような場所を道から道へ。右へ左へ。

多分三田さん、俺をまくために自分でもわからないで滅茶苦茶に走ってるんだと思う。

にしても速いな。なんなんだよその脚力は。

少しでも気を抜けば、見失ってしまうだろう。


「三田さ・・・・待って!!!!」

「待たない!!!!」

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#416 [ひとり]
「ちょ・・・マヂで・・・話聞けって!!!!」

「タメ口きくな!!!」

距離を詰められず、一定距離を保ったまま走り続ける。

「お願いだから!!!!」

「来るな!!!!」

クソっ脇腹痛ってぇ。

「逃げんな三田コラァ!!!!」

「テッメ・・・!!呼び捨てしてんじゃねぇ!!殴られてぇのかコラァ!!!!」

大声上げながら全力疾走する俺達は、きっと端から見たら異様な二人なんだと思う。

⏰:10/01/14 21:18 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#417 [ひとり]
「上等だ・・こいよ三田ぁぁあ!!!!」

売り言葉に買い言葉。
すると三田さんはピタッと足を止め瞬間こちらに振り向いた。

「え?」

まさか止まるなんて思ってなかったから。"車は急に止まれない"。"根岸も急には止まれない"。勢いのついている俺は、立ち止まった三田さん目掛けてグングン距離を縮めた。そして遂に───



「ぐっ───!!!!?」

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#418 [ひとり]
浮遊感。

スローモーションで展開する視界。

脳みそを直接掴まれて揺さぶられたような衝撃。



あ、俺殴られた。



それに気付いた時、俺の体は冷たいコンクリの道路と仲良しになっていた。

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#419 [ひとり]
それから遅れて、左頬にぐっと熱が集まるのを感じた。

うわぁ〜口ん中絶対切れてるってコレ。

横っ飛びに倒れ込んだ地面に唾を吐けば、予想通り。街灯の光を受けた唾液に混ざって、赤いものが目について。

⏰:10/01/14 21:53 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#420 [ひとり]
カッとなった俺はゆっくり立ち上がると、対峙した三田さんの右頬へ、めり込む程のパンチを見舞った。

ゴッ

骨と骨のぶつかり合う音。


「っ──痛てぇだろコラ」

流石と言うか何というか。体格差からみたら俺が断然優位な筈なのに、三田さんは拳の衝撃をまともに喰らっておきながら、ぐらつくだけに留まった。

⏰:10/01/15 09:09 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#421 [ひとり]
そして

「しつけんだって!」

ゴッ

また喰らわされた。三田さんの一発は重い。

だから俺も

「話し聞けっていってんだろ!!」

ゴッ

同じ箇所を続けざまに殴ったら、さっきよりやや応えたようだ。

「だから今更逃げた奴が調子いんだよ!」

ボッ

脇腹をいかれて、少しむせた。

「ゲホ・・いつ俺が逃げたんだ!」

⏰:10/01/15 09:10 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#422 [ひとり]
ボッ

俺も正面からボディーに一発ぶち込んだ。

「ゴホッ、ゲホ・・お前さ」

痛みやり過ごすように中腰姿勢で両膝に手をついた三田さんは、真下に視線をやったまま言った。

「彼女できたんだろ?」

「は?」

いつ俺に彼女が?"明太にぎりだと思ったら中身がツナマヨだった"ってくらい予想外で、俺は構えていたガードを下ろした。

そこへ

「隠したってもう知ってんだよ!」

ゴッ

また一発。
油断したせいで、簡単によろけた俺は、尻餅ついて尾てい骨を強か打った。

⏰:10/01/15 09:11 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#423 [ひとり]
「っ───」

痛すぎて声がでない俺の腹の上に、乱暴な動作で馬乗りになった三田さん。

「お前が!!」

「好きだって!!」

「言った!!」

「くせに!!」

「やっぱ!!」

「女が!!」

「いいん!!」

「だろ!!」

言葉と言葉の間に飛んでくるパンチを、左右の頬にモロに喰らいながら、


やべぇ、殴り殺されるかも。


とかリアルに思った。
それから


三田さんになら、それもありかも。


とも思った。

⏰:10/01/15 21:54 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#424 [ひとり]
それから

でもやっぱり殺されるんなら、その前にちゃんと伝えたいって、思い直して。



「好きだよ」



殴られながら言ったその台詞は酷く弱々しくて、不格好で、なんか薄っぺらに聞こえた。

それでも、それは三田さんの耳にも届いたようで。順番に振り下ろされていた両腕は、ぴたりと動きを止めたんだ。

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#425 [ひとり]
「殴られすぎて幻覚でも見えてんの?」

鼻から息を抜くようにして、三田さんは『はん』と俺を嘲笑った。

「違う、幻覚なんか見てない」

「俺は茶髪の巻き髪した覚えも、白いブリブリなコート着た覚えもねぇ」

「え、何それ?」

「白々しい、さっき店に来ただろ!!」

「さっき・・・・え、何が?」

ゴッ

また殴られた。

「だから彼女が来てただろ!!!!」

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#426 [ひとり]
さっき来た───

茶髪の巻き髪────

白─────

ブリブリなコート───



頭の中で少しずつ言葉のパーツを集めて。



彼女─────


組み立てて。


彼女──────


組み立てて。


かの・・───────え?




「えぇぇぇぇぇえ!?!?!?」

⏰:10/01/15 21:57 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#427 [ひとり]
「うっせぇな!何だよ急に!!」

「え、ちょ、マヂえ?彼女?アイツが・・ちょ、ムリムリムリだよマヂ冗談キツいって、っていうかなんでアキ・・え、本当に、え、えぇぇぇぇぇぇえ!!!???」

突然雄弁になった俺に、やや怯む三田さん。

「何だよマヂ意味わかんねぇよ!彼女なら潔く彼女だって認めろ!!!!」

「いや、それはできません」

俺はノーの意思表示に片手を胸の高さに挙げた。

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#428 [ひとり]
「どこまでも往生際が悪・・・」

「従兄弟だから」







「は?」


再び振り上げにかかっていた三田さんの腕の動きが、中途半端な位置で止まった。

「何、言って・・・」

「アキは従兄弟だから、彼女にはできないです。てかその冗談キツいです」

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#429 [ひとり]
何だ、そっか。
そういう事なのか。

だから俺が"逃げた"って。


頭にかかっていた靄が、一気に晴れていく感覚。


「だから幻覚じゃないです。ちゃんと見えてますよ、三田さんが。ちゃんと・・・・俺の好きな人が」

「根岸・・・」


やべ、ちょっと今のは臭かったかな。


でもこの雰囲気は言っとくべきだろ。

だってつまりアレでしょ?
これ、ヤキモチでしょ?


そう気付いた途端に。口に広がる血の味も、腹の痛みも、殴られすぎてつっぱる顔の感覚も、その一つ一つが"証"みたいで。

ヤバい、凄げぇ嬉しい。

⏰:10/01/16 08:35 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#430 [ひとり]
もう感情が止めどなくて、喉がムズムズする。

「ごめん、誤解させて。俺マヂ三田さんだけだから。あんたしか見えてないから、だから・・・ごめんね」

アキが彼女じゃなかった事が余程信じられないのか、三田さんは口を半開きにしてキョトンとしていた。

「三田さん?」

名前を呼びながら、さっき殴ってしまった右の頬にそっと触れた。

⏰:10/01/16 08:36 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#431 [ひとり]
三田さんは俺の手の感触で我に返ったようで、馬乗りのまま俺を見つめた。その瞳にみるみる水の膜がはって、ゆらゆらと揺れる。決壊は近い。

「・・・・・俺・・・ごめ・・・」

喉を震わせながら。真っ赤になった顔で俯けば、前髪の隙間から大粒の雫がポタポタと俺のカットソーに染み込んでいく。

「・・ごめん・・・ごめ、根岸・・・・ごめ」

⏰:10/01/16 08:46 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#432 [ひとり]
さっきまでの猛々しい姿が嘘のように、小さくなってしまった三田さんは、さながら借りてきた猫。

声は出さずに、静かに肩を震わせて泣いた。

「ごめん・・・ごめんなさ・・・・」

「三田さん」

「俺・・・・ごめ・・・・ん・・」

「三田さん」

俯いて、謝るばかりの三田さんの顔を両手で包んで上げさせた。

⏰:10/01/16 08:51 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#433 [ひとり]
「俺こそごめんなさい」

目を見て言うと、真っ赤な顔がくしゃっと歪んだ。

なんだよコレ反則だろ。毎度毎度の反則技は心得ていたけど、こんな風に泣かれたら。

「・・岸、くるし・・・」

俺は力任せに三田さんの身体を抱き締めた。

モコモコしたダウン越しにも、三田さんの姿形を感じて。その華奢な形を、もっと感じたくて、更に力を込めた。

初めての抱擁。

⏰:10/01/16 09:02 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#434 [ひとり]
初めはぎゅうぎゅうと俺が締め上げているような一方的なものだったが、気付けば自分の背にも同じように腕が回されていて。無言で込められる力に、抱きしめ返されてるんだとまた嬉しくなる。

互いの肩上に顎をのせるように抱き合ったまま、俺は少し調子に乗ってみた。

「三田さん」

⏰:10/01/16 20:50 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#435 [ひとり]
「ん?」

泣いたせいで『ん?』が若干鼻声なのがいい。

「言って下さい」

「え?」

『何を』って顔に書いてある。そういう分かり易いところもいい。

「俺はもう、何度も言ったよ」

「・・・・・・」

あと、赤面症だったんだ。って新しい発見もあった。

「三田さんも同じなら、言って下さい」

何を言われてるのか、飲み込んだようで。

⏰:10/01/16 20:53 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#436 [ひとり]
「お〜・・・お、お前が・・・」

「・・・・・うん」

「俺はその〜つまり〜・・・・・なんだ」

「・・・・・うん」

「〜〜〜〜だぁぁぁあ!!!!恥ずい!!!根岸ヤバい!!!!俺今中三でオネショした時以上に恥ずいんですけど!!!!」

「・・・・・うん、そういうもんだと思います」

⏰:10/01/16 20:59 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#437 [ひとり]
「へ?」

「恋愛って、そういうもんだと思います。恥ずかしくって、みっともなくって、それでいいんですよ、きっと」

「・・・お前今日、よく喋んのな」

「はい、殴り合いと抱擁で今、アドレナリンどっぱんどっぱん出てますから」

「どっぱんどっぱんてか、ザッパンザッパンじゃね?」

「いや寧ろ、ズッキュンバッキュンて感じですね」

⏰:10/01/16 21:06 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#438 [ひとり]
「マヂでか」

「はい、マヂっす」

「俺もだわ、さっきの殴り合いと・・・あと、お前が好きすぎて、ズッキュンバッキュン」

「今・・・・」

今言った。確かに聞こえた。"好きすぎ"だって。

三田さんは照れ隠しのためか『つぅかズッキュンバッキュンてなんだし!!』とデカい声で一人ツッコミ。

あぁどうしよ。

⏰:10/01/16 21:11 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#439 [ひとり]
三田さんが俺のために赤面している。俺のために、いい年こいて、なんかもじもじしている。

オッサンのくせに、オッサンのくせに・・・・

「あぁぁぁあ!!!もうダメだあんた可愛いすぎなんだよチキショォォオ!!!!」

「うおっ!!!何だよデカい声だして」

「うん、気持ちが振り切っちゃいました、キスしていいですか」

「お前、ムードもへったくれもねぇな」

三田さんは、俺の突然の申し出に呆れ半分に笑った。

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#440 [ひとり]
「男同士なんだから、遠慮してるだけ損でしょ」

「違いねぇ」

そして二人で笑った。

「じゃ、しますよ」

「ちょ、バカやめろ"しますよ"とか、中坊のファーストキスじゃあるまいし」

近付けようとした顔の左頬をぐんと手のひらで押し退けられて、上体がダイナミックに後ろへ反った。

「痛い痛い痛い腰きてるから!腰にヤバい影響が及んでるからコレ!!」

「あ、悪り」

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#441 [ひとり]
三田さんは慌てて手のひらを引っ込めた。

「だってお前が恥ずかしいこと言うからだろ」

眉を少しつり上げて怒ってみせるけど、それがただの照れ隠しってことは、容易に見て取れた。

「さっきも言いましたよね、恋愛はそういうもんだって」

「そうだけど・・・」

⏰:10/01/17 16:20 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#442 [ひとり]
「恥ずかしい今の状況を楽しんで下さい」

「・・お前って、よくわかんない奴だな」

「そうですか?俺は今最高に楽しんでますけど、てかファーストキスなんて目じゃないくらい、今のほうが恥ずかしいし、ドキドキしてますよ」

これは本音。実際中一の時一個上の先輩としたファーストキスは、彼女がして欲しそうだったからしてやったぐらいの感覚だったし。

⏰:10/01/17 16:21 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#443 [ひとり]
こんな風に自分の感情が動かされるなんて、一度だってなかったんだから。

「「・・・・・・・・」」

三田さんは俺の言葉を聞いて、静かになった。嫌じゃない沈黙。それから

「よしこい!」

『よしこい』って。ちょっと吹き出しそうになったけど、そこはぐっと堪えた。

「失礼します」

「・・・・・・・」

「あの、できれば目」

「・・・・あ、そっか」

⏰:10/01/17 16:23 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#444 [ひとり]
力一杯に目を瞑る三田さんと、徐々に距離がなくなっていく。


30p・・・・15p・・・・10p・・・・5p

















⏰:10/01/17 16:30 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#445 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ついにくっつきましたお待たせしました!!

初めての抱擁と初めての接吻。まぁチューの辺りはご想像にお任せします←

恋愛はこうでなければ!恥ずかしくみっともなく必死なんです!!と、自分の勝手な意見を全面に出させていただきました。

チューもっと詳しく見せろよってご意見あれば、感想番にリクも受け付けます。が、基本こんな感じです。ぴーや

⏰:10/01/17 21:31 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#446 [しら☆たま]
やっとくっつきましたね!わくわくどきどきしました(*^ω^*)
これからどうなるのか楽しみです!
頑張って下さい!

⏰:10/01/17 22:27 📱:P03A 🆔:Yn1CqGvg


#447 [ひとり]
>>446

しらたまさん

初めまして、コメありがとうございます(^ω^)

本当にやっとって感じで、お待たせしました(笑)

よければ総合の感想板にも遊びきて下さい\(^Д^)/これからも根岸と三田をよろしくです

⏰:10/01/18 09:15 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#448 [ひとり]
【第二十四話/ホール回しはおてのもの】


根岸が女の子と腕を組んで登場したあの日、目撃してしまった俺はむしゃくしゃして。むしゃくしゃしてる自分に気付いてそれが益々俺のむしゃくしゃっぷりを増長させた。

だから夜、暇だったし機嫌悪かったし、早めの店仕舞いを主張した。もちろんひろむにダメって言われると思っていたら、すんなり快諾されて正直驚いたけど、それならしめたもんだ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#449 [ひとり]
きっとこのむしゃくしゃは嫉妬だ。確信していた。何に対してってんなもん決まってんだろーが。俺を好きだなんてほざいてフェイントかけた隙に、一人ちゃっかり彼女ができた根岸に対してだ。

俺なんか女っ気0なのに、毎日男子校みてぇな満腹堂で仕事して、休みは仲間と草野球。それもなければパチかスロット。なにこのカサついた日々・・・・思い返しても切なくなってくるわ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#450 [ひとり]
おかげでうちのジュニアも寂しがってますよ。どうしてくれるんですかコレ。考えてみれば去年の秋ぐらいから俺、一人でしか・・・あ、ダメダメダメ、マヂで泣けてくる。

となればもう、早く店を締めたそんな日に向かう先なんて一つだろぅが。

「お疲れさーん」

「おつー」

皆口々に言って、それから『どうする?』『べぇやんち?』なんてアフター10のご相談。

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#451 [ひとり]
お前らはそればっかりか!!

今いるのはひろむと長谷部と滝。根岸はもちろんさっさと帰った。チッ、抜け駆け野郎が。どうせ彼女とちちくりあうんだろ、勝手にやっとけ。

「オイオイもっとたまには発想変えてこーぜ」

俺の一声で、視線が集まる。すると滝が言った。

「じゃあ、根岸んち?」

「違っっっげぇえよ!!!!そういう事じゃねぇだろ!!!!まず"家"って発想は捨てなさい!!!!」

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#452 [ひとり]
「え、外で飲むの?公園とか?それはナシだわ〜」

べぇやんまで・・・

「"飲む"って発想も捨てて!!!!・・・いや、捨てなくてもいいか」

「どっちだよ!?!?」

ひろむがすかさずツッコんだ。そうだな、軽くひっかけてからってほうがテンション上がるかも・・・・

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#453 [ひとり]
「まぁ聞け、つまりだ。景気づけに軽〜く飲んでから、夜の町でお姉さんといいことしませんか?」

言ってて我ながらオヤジくさい下品な発言だと思った。でもこれくらいが丁度いいんだ。

俺の提案は効果覿面(テキメン)。コイツらも、どんだけしょっぱい性生活なんだか。

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#454 [ひとり]
それから俺達は立ち飲みの串カツ屋で本当に軽〜くひっかけて、ちょっとテンション上がったところでお姉さん達のもとへ向かった。

雑居ビルにネオンが眩しい街の一角。そこに地下へ下る細い急勾配の階段がある。入り口には陳腐な店名の周りに、これまた陳腐な光を放つ電球がくっつけられた看板が立っていて。俺達四人はその看板にハシャぎながら、地下へと降りて行った。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#455 [ひとり]
薄暗いホールに降り立つと、そこで好みの娘を選抜してそれぞれ指定の個室に通される。

こんな店来たの、どれくらいぶりだろ。一時期ハマって通ったことがあったけど、店の娘に病気をもらったっぽいことが発覚して以来、疎遠になっていた。てか今思えば、通うって行為自体なんか虚しいし。

過去のアホな自分を思って、ちょっとおセンチな俺。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#456 [ひとり]
部屋には既に女の子がスタンバイしていて、窓口のパネルで見るより実物はポッチャリさんだった。

年は・・俺より下だろう。プラスチック製の桶んなかに、たっぷり入ったピンク色の液体を、 クチャクチャとほぐしている。

「今晩は」

「今晩は」

「シャワー浴びます?それともすぐに始める?」

クチャクチャさせながら聞いてくる。上目使いがいきすぎていてちょっと怖いよ。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#457 [ひとり]
「じゃ、念のためにシャワー浴びます」

何で敬語なんだ俺。てかどうしよ、ちょっと面倒いかも。

でも金を払っちまった手前、元を取らなきゃやっぱ損だろ。

「それともあっちにマットひいてする?」

女の子はシャワールームを顎でクイッと差して、誘うように笑った。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#458 [ひとり]
「てか、本番も別で払ってくれたらしたげてもいいけど」

何をおっしゃってるんですかアナタは!?もっと体を大事にしなさいよ!!!

「いや、今日持ち合わせもそんなないから、本番はこの次にします」

「そう。じゃ、いってらっしゃい」

⏰:10/01/18 19:48 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#459 [ひとり]
言われて大人しくシャワールームに行き、ざっと洗って部屋に戻ると、女の子はつまらなそうな顔でまだローションをこねくり回していた。

遠目から見ると、料理してるみたいだ。

「おかえり、じゃ、始めよっか」

素知らぬ顔してこの娘は今日、何人の男共の相手をしてきたんだろ。いらない考えが頭をよぎる。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#460 [ひとり]
「本番しなければ、触ってもいいからね」

「あ、はい」

だからその上目使いが怖いんだってば。

俺はベッドに横たわり、女の子がその上に跨ってくる。

今自分が体を沈めるこのベッドに、何人の男が己の欲を吐き出していったんだ・・・ってまた余計なことを。いかんいかん。今は目の前のおっぱいに集中しよう。

取り敢えず、肩慣らしに右の乳房を揉んでみた。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#461 [ひとり]
───
─────

「いや〜久々だったぁ〜」

「俺今回当たりだったわ」

「マヂ?俺は悪かないんだけどイマイチ」

「とか言ってやることはやってるくせに〜」

「やらしー」

ひろむと滝とべぇやんが盛り上がってる。担当した娘のここがよかったあそこがおしかったでもまた指名して行っちゃおうかな云々カンヌン。俺はその輪には入らずに、一人微妙に距離をとって先を歩いた。

「オイ、三田はどうだったんさ?」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#462 [ひとり]
話に加わらない俺に小走りで駆け寄ったべぇやんが、肩を組んでくる。

「いや‥なんか俺・・・どうしよう」

気持ちが重たい。これは男としての危機かもしれない。

「なんどした?」

俺の落ち込みように、べぇやんがちょっと心配した声音で問いかけてきた。その後ろから、滝の声が。

「お前まさか、いかずじまいで」

「・・・・・・」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#463 [ひとり]
無言のYES。三人の間にどよめきが走った。

「え゙マヂどしたお前」

「まさかのイ〇ポかよ」

「言い出しっぺなのに」

三人のそれぞれ哀れむ声が、余計俺のテンションの下降に勢いをつける。

「だってなんか・・起たなくて・・」

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#464 [ひとり]
「酒飲み過ぎたんじゃね」

「疲れてたんだよな」

「波って誰にでもあるし」

あの滝まで、俺の失態をフォローしてくる。やめてくれ。益々情けなくなるだけなんだから。


「・・・・うん」

力なく返事をした。そんでさっきのことを思い返した。

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#465 [ひとり]
ベッドに横になって、おっぱいに集中しようとして、ちょっと揉んだりしてみて、そんで女の子がわざとらしくあはんあはん言って、下をくわえられて、上下上下。

雲行きが怪しくなって、女の子が『あれー?』とか『んー何でだろ』とか言いながら、プロとしてのプライドでどうにかこうに俺のジュニアの機嫌をとろうと奮闘したけど。結局ジュニアは眠り続け、時間がきちまった訳だ。

⏰:10/01/19 21:46 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#466 [ひとり]
去る間際、女の子の目が『マヂありえないって』と無言のメッセージを送ってきた。それは酷く白けきった表情で、でもいきすぎの上目遣いより何倍かましな顔に見えた。

てか、そんなん俺が言いたいさ。

「マヂありえないって・・・」

ボソッと零した一言は誰の耳にも届かずに、夜のネオンに吸い込まれた。

⏰:10/01/20 19:47 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#467 [ひとり]
ひろむ達は俺を励ますためか、はたまた久々の風俗で浮き足立ってか、よし飲み直しだとか騒いでいる。

横一列に広がって肩を組む。もちろん俺も強制的に参加させられ、ひろむに肩をがっしり掴まれて逃げられない。

すれ違う人は皆他人に無関心そうで、幅をとって闊歩する俺達に特に迷惑がる様子もなく、前から後ろへ通過通過通過。

⏰:10/01/20 19:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#468 [ひとり]
困ったことに母校の校歌をアカペラしだしたアホチントリオ。マヂでおやじくさいからやめて欲しい。

肩まで組まれて言い逃れなんてムリなんだろうけど、俺は関係なさげな顔で、歩き去る一人一人をぼんやり眺めていた。

こうしてすれ違うだけの人達にももちろんそれぞれの環境があって、立場があって、家族や恋人や仲間があって、悩みがあって。

⏰:10/01/20 19:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#469 [ひとり]
でもそれはこうしてすれ違っただけじゃ当然わからないことだし、相手だって俺が事を成せなかったってゆう残念な事実も、俺のやるせなさもわかりっこない。

皆、どっから来て、どこに帰るんだろう。家に家族がまってるのかな。可愛いペットがいるのかな。それとも恋人がいて・・・・

根岸も今頃、彼女と同じ布団にくるまって、あのデカい手で頭とか撫でてるのかな。

⏰:10/01/20 20:06 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#470 [ひとり]
あのちょっと見キツい目を緩ませて、見つめ合ったりしてるのかな。それから抱き合って・・・・

「ギャッ!!!!!」

「なんだよ三田、トカゲが潰れたみたいな声出して」

「トカゲって声でんの?」

「知んね、イメージだよ」

「ぐえ、想像しちゃった」


想像しちゃった。

⏰:10/01/20 20:12 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#471 [ひとり]
俺の奇声からとかげが潰れた話しにシフトチェンジした三人は、楽しそうに話し続けている。

お陰で俺の異変に、誰も気づかなかったみたいで助かった。

って何よ俺の息子ぉぉぉお!!!!!ちょ、マヂこのタイミングなわけ?このタイミングで起立しちゃうわけ??どんなよそれぇぇぇえ!!!!

想定外だよ、ライブ〇゙アの社長もビックリの想定外っぷりだよ!!

⏰:10/01/20 20:40 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#472 [ひとり]
気が動転した。

だってないだろ、さっき生の女の子と密室に二人っきりで、あんなにしてもらったのにうんともすんともなくて、

根岸と彼女のセ・・・セッ・・・・いや、まぁ、いいよ。

とにかくどうなってんだ俺の体は。何勃ちだよこれは。


⏰:10/01/20 20:48 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#473 [ひとり]
─────
───


「ふっ」

「何吹き出してるんですか?」

殴り合って、抱き合って、キスをした。

チャリを挟んで、横に並んで歩く。俺達の間に、チェーンのチャカチャカゆうリズムが刻まれていく。

「あれは、そうゆう勃起かと思ってね」

「ぼ、は?」

⏰:10/01/20 20:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#474 [ひとり]
根岸が近い。俺は気分がいい。

「いや、こっちの話し」

「気になるなぁ」

もうあと二時間もしないで、太陽が顔を出すだろう。このいい気分を持ち帰って、早く布団に潜り込みたい。

⏰:10/01/20 20:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#475 [ひとり]
それから


「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

「・・・・・・・うちで寝てく?」

「・・・・・・・うん」


それから、あの時の鈍感な自分に教えてやりたい。

「好きだからだよ」

「・・・え、なんて?」

「こっちの話し」

「なんですさっきから」

「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

⏰:10/01/20 21:02 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#476 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

くっつくちょっと前の三田のエピソード。

ただ風俗とか行っちゃう三田が書きたかっただけなんです、ばっちぃ話しですみませんね(´_ゝ`)

でも書いたら、スッキリしたした(´∀`)ぷはぁ←

⏰:10/01/20 21:08 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#477 [ひとり]
【第二十五話/やりかた変えますとか後のりのくせに】


─ストロベリーkiss─

『もう離さない』

『嬉しい』

それはそれは、甘くとろけるような────


ストロベリーkiss
fin





・・・ふーん。

⏰:10/01/21 20:03 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#478 [ひとり]
アキがうちに置いていった少女漫画を、パラパラとめくっていたら、それがどうも最終巻だったらしく、タイトル通りのストロベリーな感じのkissをして、完結した。

キスどころじゃないもんね。kissだもんもうね。国籍が違うじゃん。パリジェンヌじゃん。

こんなkissは一生無縁なんだろうけど、俺はそれで一向に構わなかった。

⏰:10/01/21 20:04 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#479 [ひとり]
ストロベリーなんて薄っぺらい味より、三田さんとした時の、煙草と血の味が混ざったキスの方がよっぽどいい。ていうか、それがいい。

毎回殴り合ってからキスなんて過激な事まさかできないけど、ファーストキスが血の味ってのも、新鮮でいいもんだ。

別に、変な趣味とかはないんだけど。

一生涯、忘れないだろうこれは。ってインパクトがあった。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#480 [ひとり]
痛みや傷はその内に消えて、跡形もなくなってしまうけど、この記憶だけは俺が死ぬまで残り続けるんだって思うと、自然と頬の筋肉も緩む。

三田さんも、同じ事思っててくれたら───

とか、乙女な自分。乙女座だけに・・・・なんかここ数日、俺はこんな調子でテンションがおかしい。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#481 [ひとり]
それに暇さえあれば、あの日の接吻を思い返して、今みたいににやけてたりする。

ただ、表情筋が未発達なのか、常人よりやや表情が乏しいらしい俺が軽くにやけたくらいじゃ、誰も周りは気付かないからまだ救われてる。

ノジコさんと長谷部さんには、顔つきが柔らかくなったと褒められたし。それは常ににやけてるからです。とはとてもじゃないが言えないけれど。

⏰:10/01/21 20:08 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#482 [ひとり]
『よしこい』って言ったあの人の唇に、自分のを重ねた。長時間外気にさらされたせいで、ファーストコンタクトはえらいガサついていた。軽く一発。

二発三発、唇を投下。

固く瞑った目と、緊張でやや上がった肩から、徐々に徐々に力が抜けていくのがわかった。

それから、当てるだけのキスから、ついばむように。

⏰:10/01/21 20:09 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#483 [ひとり]
角度を微妙に変えながら、何度もついばむ。

それから形を確かめるように、ちょっと舌で三田さんの下唇をペロッとしてみた。

三田さんの肩に、再び力が入った。それでも目は瞑ったまま。

今度は上唇を同様に舐める。

⏰:10/01/22 19:55 📱:F01B 🆔:7dLzZf/c


#484 [我輩は匿名である]
>>250-400
>>401-550

⏰:10/01/23 21:03 📱:D705i 🆔:.pYgbVdI


#485 [ひとり]
舐めれば舐めるほど湿って柔らかくなる唇。

その感触に夢中になっていると、ぐっと頭を捕まれて

「お前舐めすぎ」

「だって気持ちいから」

「変態め」

「今更」

⏰:10/01/24 11:26 📱:F01B 🆔:dvJHU/6.


#486 [ホシ]
アゲ・ω・

⏰:10/01/26 01:06 📱:Sportio 🆔:9dZ9XDpk


#487 [明希]
あげとく〜!

⏰:10/01/26 02:50 📱:W65T 🆔:WvV/vnzc


#488 [りんご]
あたしも
あげとく〜\(^∀^)/

⏰:10/01/26 11:44 📱:SH903i 🆔:lK0FKcTA


#489 [キム]
あげー( ´∀`)/~~

⏰:10/01/26 22:56 📱:P03A 🆔:Fb3ywn56


#490 [ひとり]
なんかちょっといい感じの雰囲気でその気になってた俺だったのに、三田さんの完全に全て無視した発言が、らしすぎると言うか何と言うか。

「そこは『あはん』くらい言っときましょうよ」

「口をペロペロされて『あはん』なんて、完全にただの淫魔じゃん」

「雰囲気ですよ、雰囲気」

「青いんだなーそうゆうとこ」

⏰:10/01/29 08:47 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#491 [ひとり]
「ちょっとくらい夢見たっていいでしょ」

「俺に対して夢を抱こうってその姿勢が先ず間違ってんだよお前さんは」

「・・・・ごもっとも」

「だろ?」

そうだよ今までも別に三田さんに夢見たことなんかなかったよ。そんな夢見る隙もない程リアルなあんたが強烈過ぎて。凄げぇ引力で俺をかっさらう本物のこの人に惚れたんだから。

「はい」

すると三田さんは不適に笑って見せて

「ならとっととこいよ」

俺の唇にかぶりつくようなキスをよこしたんだ。

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#492 [ひとり]
「はいそこまで!!」

「痛゙ッッ」

もう何度目かわからない回想に耽っていると、パンッと小気味いい音と同時にケツに若干の痛みが。ケツキック。

横に立っていたのは弘さんだった。

「お前いい加減その締まりのねぇ顔なんとかならんのかい」

そう言って緩みきりの俺の頬をぐっとつねった。

「ひおうはん、いはい」

「聞こえない」

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#493 [ひとり]
「いはい・・・ってば!やめて下さい」

忌々しい手を払いのけると、痛くもないくせにわざとたらしく目の前でふって見せた。

「一体あとどんくらい続くのそのニヤニヤ顔」

「別にいいじゃないですか、なんか雰囲気とっつきやすくなったってお客さんにも好評なんすから」

「お前らが良くても俺が気になってしょうがねんだよ、店ん中で二人も顔の弛緩した野郎がウロチョロしてると」

「え?」

⏰:10/01/29 08:49 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#494 [ひとり]
実はここ、満腹堂の店先だったりして。俺の手には箒とチリトリが握られてたりして。今はランチ前だったりして。

「それって」

言いかけたところで背中からかけられたやる気のない挨拶は、絶対間違うはずのないあの人の声で。

「はよーお前らサボってんなよ店の真ん前で」

振り向けばやっぱりあの人で。

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#495 [ひとり]
「邪魔すんな今根岸と内緒のいい話ししてたんだから」

「何それ気持ち悪っ」

ひろむさんとジャレながら、店に入る前に一瞬。

確かにこっちをチラ見したあの人の目が笑いかけてくれたから。

きっと同じ気持ちなんだって、わかっちゃったから。あぁ、弘さんすんません。

俺のこのニヤニヤ


「当分収まりそうにないっす」

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#496 [ひとり]
【休憩】

おはようございます、ひとりです。

スランプ気味でしたが、戻って参りました。
ひとりの不在中も上げて下さった皆様、マヂはんぱねぇ感謝にもうジャンピング土下座の嵐です。

なんかあんまチューシーンとか克明な描写が、力及ばずできませなんだ、申し訳ないです。殴って下さい←

⏰:10/01/29 09:00 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#497 [蜜柑ボウヤ]
よっしゃあ!!
目ぇ食い縛れぇッ!!!!←←

初コメなうえに失礼な発言御許しください。土下座

実はずーーーーっと読んでました!![壁]ω・*)


コメントのタイミングが掴めずで…。(笑)

これからも応援しています♪頑張ってください☆★

⏰:10/01/30 00:02 📱:P905i 🆔:hlMj6bTY


#498 [ひとり]
【第二十六話/追加注文】



「今日からお世話になります」


突然の事すぎた


「わからない事だらけなので迷惑かけちゃうかもしれませんが」


事前に一言くらいあってもいいんじゃなかろうかと思う


「よろしくお願いします」


何でこんな事になったんだ?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#499 [ひとり]
───
─────


最近店も調子がいいから、もう一人雇おうか。


弘さんと三田さんが相談するのを何度か耳にしていたのは事実だ。

俺のいる所から少し離れたホールの隅で、スタッフウェアに身を包んだ二人。片方が何事か言うと、もう一方は頷きながらマメに手元のペンを動かしている。

弘さんと、新米バイト。

いいじゃないか。確かにここ最近人手が足りずに困ってたんだし。

女だったら華もあるだろう。

でも、これは流石にないんじゃないか?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#500 [ひとり]
「根岸ー」

遠目に様子を窺っていた俺に、弘さんからお呼びがかかった。

その横にちょこんと佇む新米と揃って笑いかけられると、堪えていた溜め息がついでてしまう。

「なんです」

本当は予想をつけているのに、さも知りませんといった風を装い、二人のいる店の隅に近づく。


白々しいな、まったく。


「お前今日面倒みてやって」


やっぱりだ。


「はい、わかりました」


そう言う以外に術はないから。弘さんの指示に二つ返事ですんなり返した。

⏰:10/01/30 07:38 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#501 [ひとり]
『じゃあそういう事で』俺の役目は此処までと言わんばかりの態度で裏に捌ける弘さんに、明ら様な視線を投げつける。手元がライターで遊んでいた。


一服しに行く気だな、ちくしょー俺も吸いたいのに。


思っても叶わないこの状況だ、仕方がない。俺は背を向けていた現実を振り返った。


「で、何で此処にいる」

「どうこのスタッフT似合う?」

「俺の質問は無視か」

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#502 [ひとり]
「だってゆうちゃん最近遊び行ってもいない時あるし」

「俺にだって用事の一つや二つあるんだよ」

「一つ二つどころじゃないじゃん、朝帰りばっかりして」

母親のような口調にうんざりする。確かに女の一人暮らしは物騒だし、夜中一人で心細い事もあるだろうと思う。だからって、自分の恋人を蔑ろにしてまでかまってやれる程、俺の根はお人好しにできちゃない。

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#503 [ひとり]
「・・・・とにかく」

それ以上、母ちゃんの小言のような不満を吐き出されてはたまらないので、俺は無理矢理な軌道修正を図った。

「今日からお前も此処のバイトだ、ビシバシ教えるから甘えんなよ」

「てことはゆうちゃん先輩だ」

俺の前言はまたしても完全無視かと思ったが、もういっそ面倒なのでその事実を俺が無視した。

「まぁ、そうだな」

「よろしくお願いします、ゆうちゃん先輩」

常の呼び名に『先輩』と付け足した。何の創意工夫もない事に、キャッキャと喜ぶ姿を目の前にして先が思いやられる。

兎にも角にもその日が、アキの記念すべき初出勤日となった訳だ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#504 [ひとり]
───
─────

初日に先ず教えたのは基本中の基本ばかりだったが、アキは思いの外覚えが早かった。

俺を追っかけてくるような真似をして、もし皆に迷惑をかけるようならその時は・・・なんて考えてもいたのだが、どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

基が体育会系出身なんだ。よくよく思えば礼儀マナーなんてそれこそ昔っから叩き込まれてきてる訳で、今更俺が手取り足取りしてやらなくとも、アキは当たり前のように明るい挨拶と気持ちのいい返事をホールに響かせて、夜には積極的に注文を取ったり席へ誘導したりと、目覚ましい活躍を遂げた。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#505 [ひとり]
「アキちゃんお疲れ」

「お疲れ様です」

仕事終わりに話しかけてきたのは津久井だった。

「前にもどっかでやってたの?」

「いえ、高校は部活一本で、引退してからはすぐに受験受験でしたからまったく」

俺以外と話す時のアキの口調は、なんというか、キビキビを絵に描いた様な話し方で、側で聞いていても気持ちがいい。

「そうなんだぁ、全然余裕です〜って感じだったけどねぇ」

「いえいえそんな、迷惑かけないかって冷や冷やし通しでしたよ」

感心したような津久井の口振りに、賺さず謙遜してみせたりして。

マヂ別人だろ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#506 [ひとり]
「ちょっと根岸、お前もこんな可愛い従兄弟が近くにいたんならなんでもっと早く連れて来なかったんだよ」

横で黙りを決め込んでケータイを弄っていたこちらに火の粉が飛んできた。

「うん、まぁ」

別に隠してたつもりはないが、なんだかこうして身内のアキが他人から褒められるのは不思議な気持ちがするものだ。なんとなく気恥ずかしくって、くすぐったい。

俺は語尾を濁して誤魔化しつつ、アキを見やった。アキは『可愛くなんかないです』と言って、照れ隠しなのかしきりにサイドの髪を耳に掛けたり、前髪をいじったりしている。

そのしおらしい姿がまた俺といる時とは違って新鮮で、なんだか微笑ましい。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#507 [ひとり]
ただ一つ気になる事もある。こうやってもう雇われてしまってからでは今更な話しだが、何故三田さんは何も言ってくれなかったんだろうか。それに面接をしたような素振りすら見た覚えはない。

まぁ其処は今日これから本人に聞けばいい話しなんだけど。

実はさっき黙ってメールをしていた相手がその三田さんだったりする。先にあっちが自分ちに帰ったので、俺も今から行きます。的なやり取りをしていた。

問題は、アキだ。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#508 [ホシ]
あげとこ・ω・

⏰:10/02/03 08:01 📱:Sportio 🆔:DLNGGhUs


#509 [ホシ]
あげる★+。

⏰:10/02/04 05:55 📱:Sportio 🆔:b6omUXD2


#510 [サルエルパンツ]
あげますよ!

⏰:10/02/04 17:33 📱:F902iS 🆔:wfgNwk1w


#511 [りんご]
あたしも
あげちゃうー(^ω^)ノ

⏰:10/02/04 20:11 📱:SH903i 🆔:hg1EVxs6


#512 [ホシ]
おやおやbげとこ・ω・

⏰:10/02/07 20:04 📱:Sportio 🆔:r2TOxY3.


#513 [ひとり]
今残ってるのは俺達三人。津久井はバイクで帰るし俺はチャリだ。そう言えば、アキは何で此処まで来たんだ?


「そういえばアキちゃんて帰り何で帰るの?」

俺が聞く前に、津久井がいいタイミングで質問してくれる。

「今日は電車で取り敢えず来てみたんですけど、終電ヤバいですかね」

「ヤバいっつーか、完全にアウトだよ」

「ですよね」

「なんなら俺乗っけてこうか?」

おいおい津久井、それは凄い素晴らしい提案じゃないか。俺は思わぬ天の助けに気付かれないほど小さい、しかし渾身のガッツポーズをした。

⏰:10/02/09 00:39 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#514 [ひとり]
「え、そんなの悪いですよ、それに私ゆうちゃ・・」

「悪いな津久井」

断りかけたアキの変わりに賺さず礼を言うと、津久井は屈託なく応えた。

「いいって、根岸んちの近くなら途中なんだし、ついでついで」

「え、津久井さん私本当に・・・」

「メット二個ある?」

「もち」

「んじゃ頼んだわ」

「おう」

口を再び開きかけたアキの先制をついて、どんどん話しを進めた俺は

「津久井の運転意外に荒いから、振り落とされんなよ」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#515 [ひとり]
言い添えて先に店を出た。

後から続いて津久井と、不満だらけな顔でしかし何も言えないアキが出てくる。

「後俺しめとくから、根岸は帰っていいよ」

キーケースをじゃらつかせながら言われて、

「おう悪り、おつかれ」

「おつかれ〜」

にこやかな津久井とは対局の、恨めしそうなアキの瞳に、流石にちょっと申し訳なくなる。

「・・・・・」

「アキも、おつかれ」

「・・・・うん」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#516 [ひとり]
答える声も、酷くぶっきらぼうだ。

「よく頑張ったな」

機嫌をとるように初日の働きぶりを労って軽く頭を叩くように撫でてやる。

するとどうだろう、急に顔を上げて嬉しそうに笑いかけられた。ゲンキンな奴。見てくれをどんなに変えても、こういう所は昔っから変わらない。可愛い従兄弟のアキ。

「明日は一緒に帰ろうな」

なんて、思わず甘やかしてしまった。確かに最近三田さんちに入り浸ってばかりで、アキに構ってやれなかった、寂しい思いをさせてたんだろう。だからこそアキはバイト先までこうして乗り込んできたわけで。アキの事はもちろん知っている三田さんは、もしかしたらあの人なりにアキに気を使ってバイトに雇ってくれたんじゃないか、なんて考えが浮かんだ。

公私混同は否めないし、それに第一俺に内緒にする必要性は微塵も感じられないんだが。

⏰:10/02/09 00:41 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#517 [ひとり]
「絶対だからね」

「あぁ、絶対だ」

「ゆびきり」

「はいはい」

目の前に差し伸べられたら細っこいアキの小指に自分のを絡める。

「嘘ついたら針万本飲〜ます」

軽やかに歌ってみせたアキに、津久井が笑った。

「アキちゃんアキちゃん、それ千本だと思うよ」

「千本なんかじゃぬるいから、万本にしました」

ちょっと子供っぽいですかねと照れ臭そうに笑い返すアキと、そっかと軽く請け合った津久井だったが、俺はこの約束だけは破るまいと一人誓った。だって、アキの笑った顔の中でその目だけは本気の色を帯びていたから。こりゃ破りでもしたらその日のうちに裁縫屋の梯子もしかねないって確信があった。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#518 [ひとり]
「したらまた明日」

「うん、明日ねぇ」

「おつかれー」

俺は今度こそサドルに跨ると、地面を蹴って三田さんのもとへ向け走り出した。



チャイムを鳴らすと間もなく怠そうな応答があって扉が開かれ、現れた三田さんはスウェットの上下に邪魔な前髪をゴムで結んだ姿で俺を迎え入れた。

「お疲れさん」

「お疲れさまです」

靴紐を緩めようと玄関に腰掛けた俺が無造作に置いた荷物を、当たり前のように持ってリビングへと先に消える後ろ姿を振り返り見た。甲斐甲斐しい新妻みたいじゃないか。三田さんの一挙手一投足にこうして一々反応するのは気持ちが片道だった頃から何ら変わらないところだが、それに相手からの好意を汲み取れるようになったというのが最大の異点であり、それがどんなに俺を幸福の高みへと昇らせているのか、きっと当の本人は無意識無自覚なんだろう。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#519 [ひとり]
あの人が往復した際に開閉したドア。その気流に乗っかって、胃をいい感じに刺激する匂いが漂ってきた。それを一粒の粒子も逃さぬように思い切り吸い込むと、うん、これはどうやらカレーみたいだ。三田さんの好物はカレーにハンバーグにミートスパゲティー、オムライスとお子さまランチのスタメンで構成されている。ただその中でカレーだけは厄介な奴なんだと以前愚痴られた事がある。何故かと聞き返すととんだ愚問だと呆れられた。要するに、その量が問題なのだと言う。

『考えてもみろ、一人暮らしってことは"独り"ってことだ』

俺は普段カレーなんてインスタントか外食でしか食べないからわからなかったが、何でも自炊派の三田さんにするとカレーは作れば毎回多すぎて後が困るんだそうだ。ならば初めから考えて少なめに作ってはどうかと提案したら

『それじゃやっぱり物足りない』

と一蹴されておしまい。普通に作れば多すぎて、控えて作れば物足りない。俺の中でカレーは、二人以上で食べてこそのカレーなのだと、何故か誇らしげに熱弁する姿がフラッシュバックした。

⏰:10/02/09 00:43 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#520 [ひとり]
「お前遅せぇよ」

三田さんの声でいつの間にか思い出に浸かっていた意識が浮上する。見れば手に皿とおたまを持って仁王立ちしていた。

「カレー冷める」

「はいはい」

踵をきちんと揃えて玄関の隅に靴を置くと、俺はカレーの匂いでいっぱいになった暖かいリビングへと向かった。



「「いただきます」」

コタツに入って俺達は手をあわせる。三田さんの作るカレーは煮崩れない綺麗なジャガイモがゴロゴロ入っていて、玉ねぎの甘さがたまらない。まさに絶品だ。

デカすぎるほどにデカいジャガイモをスプーンで割開くと、中から白く湯気が立ち上る。舌を火傷しないよう慎重に口に運び、はふはふと少しずつ熱を逃がしながら食べる。美味い。

俺同様に先ずジャガイモに手を着けたらしい三田さんも、はふはふやっている。そして全て飲み下すと、うんめーと顔全体で笑ってみせた。俺が美味いですねと同調すれば、更にその表情を綻ばせる。嗚呼またそんな顔して、抱きついてやろうかなコンチクショー。

⏰:10/02/10 09:13 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#521 [ひとり]
「そ、いへばは」

二個目のジャガイモを投入した口をはふはふさせつつ、三田さんが喋る。

「ア、あち、アキひゃん、あち、あち、」

「喰うか喋るかどっちかにして下さい」

俺が言うとどうやら先に食べる事に専念しようと決めたらしい。暫く待てば、マンゴーラッシーでジャガイモを飲み下して自由になった口を開く。

「びっくりしたよ、アキちゃん」

.

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#522 [ひとり]
「あぁ、俺もあんな動けるヤツだとは思いませんでしたよ」

「じゃなくて、行ったらひろむにいきなり今日から入ったとか紹介されてさ」

「え、三田さんが弘さんと採用したんじゃないんですか?」

「俺知らないし、ひろむが知らん内に入れてた」

でもそれってどうだろう?弘さんは確かに全体の責任者だけれど、三田さんに黙って勝手に人を雇ったりするんだろうか。

「本当にまるきり知らなかったんですか?」

「ん?・・・んー」

ハッキリしない物言いと微妙にばつの悪そうな顔に、これは何かを隠してるんだと想像するのは容易かった。

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#523 [ひとり]
「・・・・知ってたんでしょ」

「いや、本当に知らなかったんだって!!」

誤魔化すように福神漬けをつついていた手を止めて、三田さんは抗議するような視線を寄越す。

「・・・そうですか」

俺は不自然なまでの聞き分けの良さで、再びカレーに意識を戻した・・・ように見せかけた。三田さんは隠し事が苦手だ。それは『お付き合い』する以前からとっくに心得ている。ベタだけど今俺のとっている行動は"押して駄目なら引いてみろ"な訳で、それがこの人にとって最大限の効果を齎すという事は、過去に幾度も実証済みなのだ。

⏰:10/02/10 09:15 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#524 [ひとり]
暫くは根競べ、俺はひたすらにカレーを食べて、どうでもいいクイズ番組を観た。観ながらたまにチラと横目で三田さんの様子を伺う事も忘れない。もういよいよ限界のようで、何を食べるわけでもないのに開いたり閉じたりと、口がしきりに動いている。言おうか言うまいか、逡巡しているみたいだ。

その姿が可笑しくて笑い出したい衝動にかられたけど、そこはぐっと飲み込んでひたすらに待つ。すると

「バイトを採ろうって話しはしてたけど、まさかアキちゃんとは思わなかった」

三田さんはボソッと零したんだ。

⏰:10/02/10 09:16 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#525 [ひとり]
「それじゃ、面接は弘さん一人でやったんすか?珍しい」

「うん、そう」

白状してもまだ尚気まずそうな態度。

「どうして三田さんは行かなかったんですか」

「それはお前、そのほら、あれだ、あのー…」

俺が詰めれば、三田さんは視線を逸らす。逸らした刹那覗いた耳が、心なしか赤くなっているのに気付いた。

「俺に言いたくないんですか」

⏰:10/02/10 21:36 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#526 [ひとり]
直感だった。三田さんが照れるような事なら、自分が関係あるんじゃないかなんて、とんだ自惚れだなと半分思いながらも。そしてその自惚れた直感は、どうも三田さんの確信をついていたようだ。

「・・・・・・・うるせ」

「耳真っ赤だけど」

「うっ・・・」

「白状しちゃいなよ」

「・・・ねぼ・・した、から」

観念したのか、つかえながらも口を開いた。

⏰:10/02/10 21:53 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#527 [ひとり]
どうも寝坊して、面接に行けなかったらしい。バイトの面接は毎度決まって午前中の、ランチ前の時間だ。ノジコさんはどうか知らないが、俺も津久井も、実際面接してもらったのは午前中の割と早い時間帯だったのを覚えている。

「寝坊って、んな事あったんですか?」

「ん、あった」

「そんなん言ってくれたら俺が電話で起こしてあげたのに」

「そりゃムリだろ」

「え、何でですか」

「だってお前も爆睡してたし」

⏰:10/02/10 22:11 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#528 [ひとり]
「あ、そうなんだ」

「うん」

「それすいません、いつの話しっすか?」

「俺らが・・つ、きあった、日」



なるほど。


つまり俺達が例の追いかけっこをやっていた次の日が、アキの面接日だったのか。そりゃあ俺には起こせないな、三田さんの横で昼過ぎまで確かにぐーすかやってたんだから。

⏰:10/02/11 01:08 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#529 [ひとり]
「しかも俺さ──」

三田さんの話しにはまだ続きがあった。

「ん?」

「俺一回目ぇ覚めたんだわ」

「あ、そうなんすか?でも、したら何で・・・」

「根岸が『行くな』って言った」

「えぇ!!??」

なんだそりゃ、それは初耳すぎる。てか、まるきりそんな記憶はない。

「覚えてねぇのかよ」

⏰:10/02/11 01:09 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#530 [ひとり]
三田さんの恨めしそうな視線に、今度は俺が言葉を詰まらせた。

「そのー・・・つまり、言っちゃえば・・・・お、ぼえてはー・・ない、です」

白状すると、そんなんわかってたわと言わんばかりにデカい溜め息を吐かれて、恐縮してしまう。

「お前ねぇ」

「本当に記憶ないんです、てかんな譫言、無視してくれたらよかったのに」

「そりゃ俺だって根岸が離してくれたらそうしてたさ」

⏰:10/02/11 01:10 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#531 [ひとり]
でも、と三田さんは繋げた。

「俺が目ぇ覚めて布団から出ようとしたら、後ろっから羽交い締めするみたいに抱きつかれて、『行くなよ』とか言うから、だから・・・・」

自分で言いながらその時の事でも思い出したのか、今度は顔面までもが紅潮しだした。

おいおい、無意識の俺何してくれてんだ。まさか羽交い締め以上の何か、やらかしてはいるまいな。

一瞬思ってヒヤッとした。

「だから俺、面接あるって言ったんだ、なのに全然聞かなくて『そんなのいいからここに居ろよ』って、き、き、キス、されて」

いよいよ顔面の赤みがピークを迎えて、それは首までも染め上げる勢いだった。

あ、湯気出るかも。

⏰:10/02/11 01:11 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#532 [ひとり]
「だからお前がいけねんだよ根岸コノヤロォォオ!!!」

恥ずかしさの臨界点を超えてしまったらしい三田さんは、唐突に、叫ぶように俺に食ってかかった。

確かにそうだ、そうなるわ。

『ごもっともです。』としか、返す言葉が見つからない。

「申し訳ない」

「本当にな!!おかげであの日はひろむに一日中ぐちぐち言われて、散々だったんだ」

「・・申し訳ない」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#533 [ひとり]
俺は、不正を暴かれた政治家よろしく、繰り返し繰り返し陳謝した。

「本当に申し訳ないです、そして記憶ないです」

「バカ」

「はい、ごめんなさい」

「・・・・・とにかくだ、そういう訳あって面接はひろむ一人でやったわけ」

「はい」

「で、採る採らないは俺が決めるって言われれば、バックレた俺は何にも言えねぇよ」

「はい」

「蓋を開けてみりゃ『根岸アキです』って訳だ」

「はい」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#534 [りんご]
あげます(・ω・)

⏰:10/02/17 01:57 📱:SH903i 🆔:sXavEeNs


#535 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/02/17 03:19 📱:SH02A 🆔:NfuyhUpk


#536 [ひとり]
「面接ん時、お前の従兄弟です、『ゆうちゃんが一緒なら安心だから』って言われたんだと、そりゃ断れねぇよ」

「アイツそんな事・・・すいません、ムリに雇ってもらって」

「いや、今日一日見てみたらかなり動けるみたいだし、実際一人増やすのは前々からひろむと話してたことだから、いんじゃね」

三田さんの言葉はありがたかった。が、アキには、軽く釘を刺しておく必要があるだろう。俺をコネにするなんて、裏口入学の〇〇゙やか〇みたいなまねは黙っていられない。

⏰:10/02/20 20:11 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#537 [ひとり]
少し現実(ここ)から意識を離した隙に──

「ゆうちゃん」

「はい?」

それはあまりに急で、自分を呼んでいると気付くのには少し時間がいった。

三田さんは少し冷めかけてきたカレーの残りに手を着けながら、意地悪くニャッとして見せた。

「こないだも思ったけど、ゆうちゃんて呼ばれてんのな、お前」

「まぁ、名前がゆうすけですから」

なんだろ、普段アキにそう呼ばれたところで何とも思わないが、三田さんに『ゆうちゃん』なんて言われると、なんだか不自然で居心地が悪い。

⏰:10/02/20 20:12 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#538 [ひとり]
「ゆうちゃんね〜」

「三田さんだって、下の名前で呼ばれる事くらいあるでしょ」

「そりゃあるけどもよ」

「の・・「のんちゃんはない」

呼びかけた名前は、その主である三田さんの声に被せられて、言いきることが叶わなかった。

「めっちゃ呼ばれてそ」

「俺はまんまだよ」

「まんまって・・望?」

⏰:10/02/20 20:13 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#539 [ひとり]
初めて三田さんの下の名前を呼んだ。疑問系だけど。すると三田さんはなんとも言い表し難い表情になる。

「何ですかその顔は」

「いやー、お前に下の名前で呼ばれるって凄げぇ気持ち悪りぃなと思って」

「失礼以外の何物でもねぇなその言い草」

「いや、マヂでムリだわ」

「わからなくもないですけどね、俺も三田さんに"ゆうちゃん"て呼ばれて凄い居心地悪かったから」

「お互い様じゃねーか」

「はい、変にとちくるっていきなり呼び方変えるとかはやめましょうね」

⏰:10/02/20 20:14 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#540 [ひとり]
俺が言うと三田さんは黙って頷いて、それから確認するように俺の名を呼んだ。

「根岸」

ほら、やっぱこれが今の俺には心地いいんだ。

「三田さん」

呼び返すと、三田さんもしっくりきたらしい。もう一度頷いてみせた。そして

「何このやり取り気持ち悪」

「そっちが始めたことでしょうが」

「いいから、とっととカレー食べちゃいな!!これじゃいつまで経っても片付きゃしないよ!!!!」

「またそうやって母ちゃんキャラに逃げる」

⏰:10/02/20 20:15 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#541 [ひとり]
そうだ、こうやってバカ言い合って、上の名前で呼び合うくらいが丁度いんだ。今までも、これからも。

非生産的かもしれない俺達の繋がりだけど、この関係が変わらずに続けばいい。そんな事を思った。変わらないなんて、そんなん不可能かもしれない、いや、絶対に不可能だけど、それでも強く思ったんだ。遠い先の事なんて想像つかないけど、そこでも俺の隣に三田さんが、アホ丸出しで笑っていてくれたらいいって。そんな事を思ったんだ。

このカレーの残りを食べたら、バスタブに湯を張って二人で入ろう。誘ったら、この人はまた火を噴くほどに照れて真っ赤になるんだろうな。ついでにちょっとイヤらしい事でも仕掛けてやろうか。

ねぇ、三田さん

「あ?」

好きだよ。

⏰:10/02/20 20:33 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#542 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ひとりがいない間にあげて下さったりんごさん、匿名さん、ありがとですヾ(^▽^)ノ

ん〜なんか平和な二人・・・きっとこのあと狭い湯船に二人仲良く浸かったりなんかしたんでしょうね。まぁ平和なんてそうそう続くもんでもないんでしょーが・・・・

アキがいるものww

⏰:10/02/20 20:39 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#543 [ひとり]
【第二十七話/追加注文しすぎると伝票がなんかもうぐちゃぐちゃであれになる】


頬が熱い。

凄い見事な往復ビンタだった。いやいや、ビンタなんて可愛い感じじゃすまねぇよもう。こりゃ平手打ちだよ、平手打ち。

うん、やっぱ漢字で『平手打ち』の方が、俺のくらったダメージがどれだけのもんかってイメージがつきやすいな。

つうか

「あのね、アキちゃん」

⏰:10/02/23 20:07 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#544 [ひとり]
いい加減に腹の上からどいてくんないかな。いくら女の子の軽い体重でも、腹に圧がかかればそりゃどうしたって苦しいのよ。

最近腹筋をサボってたツケなのか、あぁ、息がしずらいったらない。

でもアキちゃんは一向にどいてくれる気配がないから、俺はため息をついた。満腹堂の、普段いろんな人が土足で踏みしめる床に頭やら背中やらをくっつけて。

⏰:10/02/23 20:13 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#545 [ひとり]
毎日入念に磨き上げても、一日の営業が終わる頃にはすっかり元の木阿弥で、スタッフTから剥き出しの腕がベタベタして気持ち悪い。

「いい加減どいてくれると、おじさん凄い助かるんだけど」

「・・・・・・」



はい、無視ですか。

いいよ、無視したきゃしたって、そりゃ皆が皆と仲良くできる訳もねぇし、俺と口利きたくないってんならあぁそりゃ一向に構いませんとも。ただ

「もう息苦しんだよ、悪いけど」

今のこの体制で無視を決め込まれては、そんな呑気に構えてもいられない。

⏰:10/02/23 20:20 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#546 [ひとり]
よし、今晩からまた腹筋始めよう。

誓いながら強制的に体をどかそうと、アキちゃんの腕に手をかけようとした、すると

「返してよ」

「え?」

久々に口を開いた彼女の声は、微かに低く、震えて聞こえた。

返すって、何を



「ゆうちゃん返してよ」

⏰:10/02/23 20:25 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#547 [ひとり]
肝が冷えた。

返してって──
ゆうちゃんって───


この子は、根岸と俺の事・・・・・・知ってる?


「え、ちょ、アキちゃんいきなり何言って・・・」

「いきなりじゃないよ、ずっとそんな気してたんだよ」

俺を睨みつけるその瞳には、薄暗い何かが揺らめいている。華の女子大生を捕まえて、こんなん失礼かもしんないけど、普通に怖いです。

⏰:10/02/23 20:30 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#548 [ひとり]
だいたい何でこんな事になったんだっけ。

普通に俺電卓たたいてて、アキちゃんが床を磨いてて、若い子の好きそうな恋愛ネタでもふってみるか〜みたいな軽い感じで話してて───


「学校楽し?」

「はい、楽しいですよ」

「そっかーサークルとか入ってんだっけ」

「はい、飲みサーですけど」

「いいじゃん飲みサー、出会いも多そうで」

「いや〜全然ですよ〜」

⏰:10/02/23 20:40 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#549 [ひとり]
そうそう、いい感じで会話のキャッチボールしてたじゃん俺達。凄げぇ和やかだったじゃん。なのに───


「そうなの?でもアキちゃんなら出会いなんかなくてももう彼氏もちか」

「いえいえ、いないんですよ私」

「え、以外」

「・・・・好きな人なら、いるんですけど、ね」

電卓をたたく片手間に会話をしていた俺は、アキちゃんのその発言で彼女の方を見た。実は彼氏がいないってことは知ってた。だから兄貴的存在の自分にいつまでもひっついていて困るって、根岸から聞かされてたから。

⏰:10/02/23 20:49 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#550 [ひとり]
でも、片思いする相手がいるなんて聞いてなかった。これはもしかしたら根岸も知らない事実なんじゃないか?


「へぇー好きな人いるんだ」

「はい、完全に片思いですけど」

「え、そうなの?ますます以外だわおじさん」

「ずっと、離れて住んでたんですよ、でも最近ようやくこっちに出て来て、頻繁に会えるようになって、私凄いアピって頑張ったんです。でもね、ダメみたいなんです」

⏰:10/02/23 20:54 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#551 [ひとり]
アキちゃんは寂しそうに微笑った。その表情(カオ)は恋する女の子そのもので、俺は密かにドキッとしてしまった。

「ダメみたいって・・・せっかく近くにいれるんだから、まだ諦めるのは早いんじゃないかな」

無責任な励ましの言葉。でも、それしか思いつかない。恋愛なんて不慣れな俺が、先輩面して言える台詞なんて、たかがしれてた。

「恋人、いるんです、彼」

うわ、俺の無責任な励ましのせいで、アキちゃんに余計な事を言わせちまった・・・俺のバカ。

⏰:10/02/24 19:55 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#552 [ひとり]
思ったところで時既に。ひっこみ着かないしここで『あ、そうなんだ、ごめん』なんて言ったらこの場の空気が気まずくなるし・・もう、いっそ励まし倒してしまえ────


しまえ─────


しまえ─────


そう、その安易な考えがきっとよくなかった。いや、今更なんだけど・・・・

⏰:10/02/24 19:59 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#553 [ひとり]
「彼女ね〜そんなん関係ないでしょ、俺なら気にせずガツガツ行くね、恋愛ってさ、もっと自分勝手で自由にしていんじゃねーの?アキちゃんまだ若いしそんな可愛いんだから、今はオフェンスに徹した方がいいって、うん」


我ながら当たり障りのない台詞だ、自分の引き出しの少なさに笑えてくるよまったく。

とは内心思いつつも、全身全霊テンションあげて俺はアキちゃんを励ました。まぁ、その相手の彼女にしたら第三者が無責任なことぬかすんじゃねぇって思うだろうけど。そんな知らない彼女を気遣うより、今は緩く弧を描くように気分が下降しつつある、目の前のアキちゃんが先決だった。

⏰:10/02/24 20:38 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#554 [ひとり]
しかし俺の全力の励ましはやっぱり薄っぺらすぎてアキちゃんには届かないのか、まるきり反応が返ってこない。床に視線を落としているらしく、髪が顔にかかって表情はわからないが、でも今彼女の中に芽生えているのが、プラスの感情でないことだけは何となくわかった。

あんまりに白々しすぎて、逆に望みがないとか思わせてしまったんだろうか。

「あの、アキちゃ・・」

「知ったような口聞くな!」

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#555 [ひとり]
それはさっきまでの、例えるなら、んー・・小鳥のさえずりのように可憐な声?とは打って変わり、まるで・・・・まるでー・・・あ、うん。まるで改造したマフラーでふかしたような野太さと、腹に響く迫力を湛えた声だった。

そしてそのことに驚いている間に彼女は俺の腰掛けたスツールに歩み寄ると、その脚を華麗に足払い。上に座っていた俺はもちろんそれごと床に倒れたんだけど、彼女はすかさずそんな俺の腹の上に馬乗りになり、躊躇うことなくこれまた華麗な動作で往復の平手打ちを繰り出したんだ。

そして、一気に両の頬が熱くなった。なったけど、それはあくまで熱いってだけで、痛いとかではまったくなくて。つうか痛いより何より今の一連の出来事に驚いてしまってそれどころじゃなかった。

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#556 [ひとり]
確かに知らない。アキちゃんがどんなに相手の男を好きなのかも、好きな相手には恋人がいるって事実にどれくらい打ちのめされているのかも、今さっきチラッと話しを聞いた程度の俺には想像もつかないよ。

だからって、何で俺が八つ当たりみたいに殴られなきゃならないんだろ。

「え、何々、何で?」

思わず零れ出た当然の疑問に答えることなく、アキちゃんは俺の腹の上、ただ肩を小刻みに震わせていたんだ。

⏰:10/02/25 08:59 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#557 [ひとり]
それがつい数分前の出来事で、耐えるように肩を揺らす彼女に声をかけるのが偲ばれて、なんとなく黙っていたんだけど俺の筋肉が限界を訴え始めたから、どいてくれと頼んだ。するとかえって来た返事がこれだ


──ゆうちゃん返してよ──


さっきの話しの流れから、何で突然自分が殴られたのか。点と点が、一本の線で繋がったような感覚。

そっか、つまり、そゆこと?
え、マヂでか。

⏰:10/02/25 09:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#558 [ひとり]
「何であなたみたいなおじさんなので?ゆうちゃんを変な道に引き込まないで!お願いだから!お願いです!!」

そんな重ね重ねお願いされても、引き込まれたのはどっちか言ったら俺なんだけど・・・

とは流石に言えなくて、苦しそうに寄せたアキちゃんの小さい眉間の皺ばかりに視線をやった。

「私の方が、先だったのに・・先に好きになったのに・・・・」

⏰:10/02/25 09:26 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#559 [ひとり]
だからさっきも言ったじゃん。後とか先とか、恋愛ってそうゆうんじゃないって。

でも、これもまた俺は飲み込んだ。アキちゃんにしたら確かにポッと出の、しかもおっさんが恋敵になるだなんて、こんなことって想像できるだろうか。否、ムリでしょ。確実ムリだって。キャパ超えるって。

困り果てて何も言えない俺。するとアキちゃんはふーっと深く長い息を吐いた。それから、さっきまで貼り付けていた苦しそうな表情から一転、読めない無表情で俺を見下ろした。てか、マヂいい加減腹が・・・・

⏰:10/02/25 09:43 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#560 [ひとり]
「三田さん、下の名前は?」

「はい?」

「下の名前ですよ、三田、何?」

「の、望」

「のぞむ・・・じゃ、のんちゃんね」

「え・・・」

「のんちゃん、さっき言ったよね?恋愛は自分勝手で自由なもんだって」

言った。言ったけど、何だかとっても厭な予感がするのはおじさんの気のせいでしょうか?

「・・・言ったけど」

⏰:10/02/25 09:47 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#561 [ひとり]
「じゃあ、私まだ諦めなくっていいって事ですよね?」

今関係ないんだけど、この敬語とタメ口が混在する感じが根岸とシンクロする。さすが同じ血が混ざってるだけのことはあるな。つぅか、ただ単に俺が二人共に嘗められてるだけとかだったら、なんか凄げぇ凹むけど。

「うん・・・・え!?!?」

「え、じゃないですよ今更、言ったのはのんちゃんなんだから」

それは事実で、何も言い返せない。

⏰:10/02/25 09:51 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#562 [ひとり]
「私、諦めないから、つぅか、ゆうちゃん振り向かせるから」

「・・・アキちゃん、戦国武将みたい」

「何言ってんの?」

「ほら、あの時代の武将は、合戦前に互いの陣地から名前を名乗って宣戦布告し合ったらしいじゃん」

「だから?」

「今のアキちゃん、それっぽいな〜って」

「喧嘩売ってんですか?」

「めっそうもない」

俺は相変わらず床と仲良くしたまんまの体勢で、両手を顔の脇に挙げてみせた。

⏰:10/02/25 09:56 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#563 [ひとり]
「とにかく、そうゆうことなんで、明日っから覚悟して下さいね、私本気になったら、フェアとかそんなん関係ないんで」

そこまで言うと満足したのか、ここでようやくアキちゃんは立ち上る。長いこと押し潰されてた腹から急に圧迫感が取り除かれると、今度はなんだかスカスカして落ち着かなかった。

「あ、それと」

「あ?」

「ゆうちゃんにこの事言ったら・・・」

「んな野望なこたぁしねぇよ」

察してこちらが言えば、今度こそ納得して。『お疲れさまでした〜』と彼女は元気な声で挨拶をして退勤を押すと、颯爽と帰って行った。

⏰:10/02/25 10:04 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#564 [ひとり]
宣戦布告を叩きつけた彼女は、可愛らしい外見とは裏腹。その内は男気に溢れていて気持ちいい程だった。

彼女が消えた満腹堂の店内で独り。ようやく上体を起こした俺は、そこから勢いをつけて一気に立ち上がった。

フェアとか関係ない───

服を叩きながらさっきの言葉を思い返した。それを前もって言ってしまってることが、もう十分にフェアプレイだってこと、彼女は気付いてんのかな?否、きっとわかってないんだろう。

明日から・・・・あっちがその気なら、俺だって本気だ。根岸は、やらない。

俺は闘志を燃やしながら、残りの仕事に取り掛かろうと倒れたスツールに手をかけ、そこで動きを止めた。

⏰:10/02/25 10:13 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#565 [ひとり]
なんとなく向けた視線の先に、気になって仕方がないものを見つけてしまったから。


「あのヤロウ・・・・」


スツールを立て直してから、俺は溜め息混じりにそこへ向かう、拾い上げたそれは、そうモップ。


そこにはやりかけのままアキちゃんに置き去りにされたモップと、セットのバケツがあった。

⏰:10/02/25 10:17 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#566 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。
第二十七話完結致しました。アキに殴られた三田、可哀想にwWあんまドロドロし過ぎも違う気がして、軽くまとめたら気持ち悪い青春ドラマみたいになっちゃいました。ごめんなさい。もう少し、ドロっとマイルドにさせても良かったですかね。それにしてもこの話し、皆よく手がでますwW

⏰:10/02/25 10:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#567 [ひとり]
【第二十八話/まだ注文とってる途中でしょうがァァア!!!!】


最近気になる、というか、気に食わない事がある。いつからそんな仲になったのか、三田さんとアキの事だ。

ここ数日、気付いたらいつも二人で何か話している。何の話しか、聞いても二人共答えてくれないだろう事は目に見えているので、敢えて聞かないが、突然どうしたのか。挙げ句、アキが三田さんちにまで付いて来たりする。

⏰:10/02/26 21:27 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#568 [ひとり]
いやいや意味がわからないから。俺達の関係を知らないから、そこ空気読めとは流石に言わないが、それにしたって何がどうしたっていうんだ。

現に、今も進行形で二人はじゃれ合っている。

三田さんにしたら俺の従兄弟で職場の新人なら、そりゃ気にかけてやるのが当たり前なんだろうけど。アキの急激な懐きようは異様だ。

もしかしたらアキ、三田さんの事が・・・なんて、いらない考えまで首を擡げる始末だ。

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#569 [ひとり]
いけないいけない。今は目の前の仕込みに専念しなければ。気持ちを切り替えようとした刹那、肩にかけられた手。

「あんた今日暇?」

「あ、はい、暇です」

それはノジコさんだった。

「じゃ、今日はべぇやんちで」

「わかりました」

夜の予定が決まった。長谷部さんち、久々な気がする。

「あんた達もね」

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#570 [ひとり]
それはこちらに背を向けていた三田さんとアキにかけられたものだったが、小突き合いをしていた二人は気づかない。ノジコさんは声のボリュームを上げた。

「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

聞き分けない子供を叱る母のような口調に、ようやく気付いた二人は、やや驚いたような顔の後『はい』と首を縦にふった。

その動作までが示し合わせたかのように似ていて、また余計な考えに飲み込まれそうになる。

そのモヤモヤを切り刻むように、手元のキャベツを千切りにして気を紛らわせた。

⏰:10/02/26 21:29 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#571 [ひとり]
夜、時間はとっくに十二時を超えている。

満腹堂は基本『客が帰るまでが営業時間』というスタイルをとっている。事前によし皆で飲もうなんて決めた日に限って客足の引きが遅いなんてのは、よくある事だ。

「もうすぐ一時なるし」

「とっとと出て〜」

「酒家にあるん?」

皆思い思いに喋りながら店を出ると、もう春一番も訪れた後の今日の日はとても暖かだった。

⏰:10/02/26 21:47 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#572 [のん]
>>1-400
>>400-1000

⏰:10/02/27 08:51 📱:SH01B 🆔:WMPPJQms


#573 [ひとり]
>>572

のんさん

安価ありがとございます(´ω`)

⏰:10/02/28 09:08 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#574 [ひとり]
>>571

長谷部さんちは駅の反対側で、民家のやや奥まった所にある。バイクを牽いたりチャリをゆっくりジグザグに漕いだり、皆でのたくらと目的地へ向かう。俺の横には津久井がいた。

「その後どうなん?」

「まぁ、ぼちぼち」

片思いしていた例の相手とお付き合いを始めたんだと、津久井にはもちろん報告してあった。

それを自分の事のように喜んでくれた津久井は気を遣ってか、あまりオフの日に誘ってこなくなった。シフトも今月はうまい事ズレていたりして。だからこんな風にゆっくり話すのは、久々の事だ。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#575 [ひとり]
「照れんなって、順調なんしょ」

まぁ、確かに順調と言えば順調だし、そうでないと言えばそれもまた然りだ。

「・・ぼちぼち」

繰り返したら、突っ込まれた。

「何だよハッキリしないなぁ、何かあった?」

津久井が俺の立場ならどう感じるんだろうって思ったら『実は・・』って切り出しそうになった。でも俺達の前には、三田さんとアキが、ノジコさんと三人で歩いている。聞かれやしないかと思うと、とてもじゃないが言えない。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#576 [ひとり]
「いや、まぁ、ぼちぼちなんだよ」

「ふーん」

俺の濁した物言いから察してくれたらしい。津久井がそれ以上突っ込んでくる事はなかった。


長谷部さんちに着くと、皆ぞろぞろといつも決まりの畳部屋に向かう。そこは長谷部さんの寝床であると同時に、俺達満腹堂スタッフの宴会場でもあった。

皆慣れた様子で好き勝手座ったり寝転んだり、曲をかけたり。そんな中で一人だけ浮き足立った感の否めない奴が一人。アキだ。

⏰:10/03/01 09:02 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#577 [ひとり]
目を大きくして辺りを伺っている。確かに誰でも他人の家に初めて上がった時は、大抵興味津々で、色々見てしまうものだ。アキがそうして好奇心の色を貼り付けた目で観察する部屋の中、何かに視線が止まって、動かなくなった。

それから傍に腰を下ろしていた俺に身を寄せて、耳打ちしてくる。

「ねね、ゆうちゃんゆうちゃん」

「ん?」

「あれあれ、あれって卒アルだよねきっと?」

控えめに指差す先には、確かに卒業アルバムらしいかっちりした濃紺の本が一冊。漫画がごちゃごちゃ詰め込まれた本棚の中に、居心地悪そうに収まっていた。

⏰:10/03/01 09:03 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#578 [ひとり]
「多分そうなんじゃね」

今まで気にした事もなかったが、よくよく見ればそれ以外にもアルバムたらしき本が数冊、漫画と漫画の間にあるのを見つけた。

「あれ見たい!長谷部さん、あそこにあるのアルバムですよね?」

「え、あぁ、そうそう」

いいタイミングでリキュールやサイダーを両手に抱えて部屋に入って来た長谷部さんに、アルバムが見たいとアキがせがんだ。

「別にいいけど、笑わないでね」

⏰:10/03/01 09:04 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#579 [ひとり]
長谷部さんは快く了承してくれる。それから運び込んだアルコールを数個あるコップに注ぎ分けて、サイダーやら牛乳やらと割りながら

「他の写真も同じ棚にあるから、好きに見ちゃっていいぞ」

と、漫画で飽和状態の棚を顎でさした。

「やった、ありがとうございます」

アキは待ってましたと言わんばかりの素早い動作で嬉しそうに目当ての棚を物色し始める。すると

「ちょ、バカお前それはやめとけって!」

俺の右隣で寛いでいた三田さんが、突然声を張った。

⏰:10/03/03 08:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#580 [ひとり]
「なしたよ突然、ビックリすんだろ」

滝さんが面食らった顔で文句をたれた。

「いや、別に卒アルだけでいんじゃねぇかと思って」

三田さんは場を取り繕うように笑って答えたが、もともと隠し事ができない人だ。何か見られなくないものがあるんですと、顔に書いてある。バレバレ。

そしてそれが卒業アルバムではなく、アキがランダムに手にしたアルバムだって事まで容易く理解ができた。

⏰:10/03/03 08:58 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#581 [ひとり]
「アキちゃんいいから気にしないで、好きにみちゃって」

笑顔を貼り付けたままの三田さんはスルーして、アキに話かけた滝さん。この人も三田さんが隠しだい何かがそこにあるんだって確信のもと、面白がっているのがこれまたバレバレだった。

「おいマヂそれは見てもつまんねぇから仕舞ってこいて!」

「のんちゃんにそんな事いう権利ないでしょ、これは長谷部さんのものなんだから!」

「いいから!」

「よくない!」

ここ最近ですっかり板に着いたじゃれ合いがまた始まって、俺はここでもかとうんざりする。

⏰:10/03/03 09:00 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#582 [ひとり]
「いい子だから!それをこっちに渡しなさい!!」

「何その口調キモイんですけどぉ!!」

「キモイ言うな!傷付くだろーがコノヤロー!!」

「別にのんちゃんが傷付いても私痛くも痒くもないし〜」

「つべこべ抜かしてねぇでいいからよこせ!!」

「ちょっと引っ張らないでよ破けるぅ〜!!!!」

周りで皆が笑っている。もうなんか、二人の活き活きした様を見るのが耐えるに難い・・・・頭、冷やそ。思い立ち表へ出ようと、無言で部屋を後にした。

⏰:10/03/03 20:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#583 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。
第二十八話完結です。またちょっとした行き違いが生じ始めたようです。ここからどう展開しようか、いつも行き当たりばったりで書いてるもんで、ひとり自身まだ検討もつきませんが、どうにかうまいこと着地したい!!しゅわっち

⏰:10/03/03 21:15 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#584 [我輩は匿名である]
更新まってます★

⏰:10/03/04 00:10 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#585 [ひとり]
>>574

匿名さん

応援ありがとござます(^ー^)

⏰:10/03/05 09:02 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#586 [ひとり]
安価ミス(゚Д゚;;)スマソ

⏰:10/03/05 09:03 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#587 [ひとり]
>>583

【第二十九話/嗚呼素晴らしき青春の軟骨からあげ】


アキちゃん。なんて呼んでいたこないだまで可愛いニューフェイスだった彼女は、ある一夜を境にして俺のライバルになった。

あの宣誓をたてた次の日から、アキちゃ・・もういっか、アキは何かと根岸や俺の周りをマークするようになった。

てか何で俺んちまで着いてくるかね!?いや、目的はもちろんわかってんだけど。手段を選ばないってよか、場所を選ばないんだねお前は。

⏰:10/03/05 09:04 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#588 [ひとり]
満腹堂でも、俺と根岸が二人で仕込みをしていれば割って入り、今は仕込みが先決だからと少し根岸から離れてやれば、何故か根岸そっちのけで俺の横に来て脇を小突いてきたりする。

もちろんやり返すけど。黙ってやられてやる程、俺は大人じゃねんだよ。

「オイコラ、せっかく今だけ根岸の横譲ってやったんだから、あっち行って来いよ」

「どうせんな事だろーと思った、そういうのムカつくから止めてよね」

「俺は今仕込みで忙しいんだよ」

アキの相手より夜の仕込みだ。餃子の種を皮の上に乗せながら言えば、アキはフンッと鼻を鳴らして、同様に種を包みだした。

根岸の血筋は皆そうなのか、アキも手先が器用で容量がいい。実家じゃ碌に料理なんてしなかったと言う割に、綺麗に"ひだ"を作っては、正確に並べていく。

⏰:10/03/05 09:05 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#589 [ひとり]
手伝いさえすれば俺もそのほうが捗るので文句は言わない。

「・・・・・・・」

「ねぇ」

「・・・・・・・」

「ねぇっ」

「・・・・・・・」

「ねぇって!」

ただ、脇腹を小突くのを止めてくれたら、尚嬉しいんだけど。

⏰:10/03/05 09:06 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#590 [ひとり]
「痛いって、そゆことしてる間に手ぇ動かせお前は!」

「動かしてるじゃん!」

唇を尖らせたアキの顔から視線をスライドさせれば、確かに手元は一定のペースで、それこそ機械みたいに正確なリズムで仕事をこなしていた。ぎゃふん。

「ねぇねぇ、私ゆうちゃんと来月デートに行きたいんだけど、シフト合わせてよのんちゃん」

「バカですか、そんなん言われて誰が『うんわかった』なんて言うんだよ、とんだお人好しだなコラ」

「だってのんちゃんお人好しでしょ?」

コイツ、絶対俺のことナメてるよ。

「でしょくない」

「でしょいよ」

「なんだよ『でしょい』って」

「そっちが先に言ったんじゃん」

⏰:10/03/05 09:09 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#591 [ひとり]
「どっちでもいいけどそんなん俺に頼んだって無駄だぞ」

第一、休みが合ったところで根岸がアキの誘いに乗るかはまた別の話しだ。

「私、誕生日なんだけど、来月」

「・・・知るか」

「誕生日、好きな人に祝って欲しいって思うのは自然な事じゃない?」

「俺に聞くなよ」

「22日」

「は?」

⏰:10/03/06 21:01 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#592 [ひとり]
「私の誕生日ね、22日」

「・・・・・・」

相変わらず等間隔にひだを作り続けるアキの細っぽちな指達を凝視した。その一本一本の指先にちょこんとついたオマケのような爪は、うちでバイトを始めたことで、綺麗に短く切りそろえられている。

誰だって、自分の大切に思う相手に生まれた日を祝ってもらえたら嬉しいさ。そりゃそうだろ。根岸とアキはいっても従兄弟で、根岸がまずアキを眼中に入れていない訳だし、今年大学へ入ったばかりの彼女の今の年は18で、すると来月の22で19になる訳で、19ったら十代最後の誕生日ってことになるからつまり・・・

⏰:10/03/06 21:13 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#593 [ひとり]
「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

突然、考えに没頭していた背にかけられた声に驚いて振り向くと、アキも同じタイミングで体を反転させていて、アキはどうだか知らないが、俺はノジコの有無を言わせぬ迫力に、気付けば素直に頷いていた。

よくわかんねぇけど、今日はべぇやんちらしい。なんか、久々だな。

⏰:10/03/06 21:21 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#594 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/03/08 21:57 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#595 [ひとり]
>>594

匿名さん

あげありがとございます(`∀´)

⏰:10/03/11 21:12 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#596 [ひとり]
>>593

営業後。やや時間はくるったけど、予定通りべぇやんちに向け俺達は繰り出した。

最近は本当暖ったかくて、嗚呼、春だなぁ〜と。向かう途中の桜の木を見て思う。あ、そいや花見もまだしてねぇよオイ。

花見、してぇな。ワンカップ片手に夜桜。たまらんね。皆でワイワイやろう。あと、二人でも行きたい。夜なら手とか、繋いでもバレないかな。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#597 [ひとり]
って、俺ってばとんだ乙女ちゃんだな。

一瞬自分で自分にひいた。

不規則にフラフラとべぇやんちへ向かう道中。俺の両サイドにはノジコとアキ。両手に華・・あはは、言ってて悲しくなる。花ってよりも、食虫植物だろコイツらは。

やたら絡んでくるアキと、滝並に俺をからかうノジコに挟まれながら、俺の神経は背中に集まっている。だって後ろには、根岸がいるから。

何喋ってんだろ。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#598 [ひとり]
根岸の隣には、津久井がいる。二人はうちの店で知り合って以来仲がいい。根岸曰わく、今恋人がいるってことも津久井には言ったらしい。でもまさかそれが俺だとは思うまい、津久井よ。

ここのところは喩えではなくリアルに邪魔のされどおしで、二人でゆっくりもできていない。

楽しそうな声が背中にあたる。俺も、そっちに加わりたい。

なんて思っていたら、べぇやんちの青い瓦屋根が見えてきた。

家に上がったら、流石にアキと距離を置きたい。できれば、さり気なく根岸の横も、キープしたい。

⏰:10/03/11 21:14 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#599 [ひとり]
靴を脱いで、皆が列を作って一直線に"いつもの部屋"に向かう中、俺は気取られないよう自然に、且つ素早い動きで便所へ向かった。

別に用を足したい訳じゃあない。こうして時間をかせいでアキとは距離をとり、尚且つ先に部屋に腰を落ち着けている根岸の横を、後から行ってさり気なく、ここを強調したい。さり気なく確保するのが目的だった。

根岸本人に『あ、コイツ俺の横に来たかったんだな』なんて悟られるのは癪だから。絶対に"さり気なく"ないといけない。

⏰:10/03/11 21:27 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#600 [ひとり]
問題は、アキが根岸の横にピッタリとマークしているんじゃあないかってことなんだけど。この可能性はかなり高い。どんくらい高いかって、フランダースの犬を観てその内何回泣くかってくらいの高確率だ。てことはつまり100パーだ。100パーピッタリだ。

でも、例えば俺がスムーズに部屋に入ったとする。

俺部屋入る

根岸の横座る

アキに気づかれる

間に割り込まれる

⏰:10/03/11 21:36 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


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