こちら満腹堂【BL】
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#401 [ひとり]
【第二十三話/エイヒレは長くしゃぶったもん勝ち】


ハァ──ハァ──ハァ──

「どんだけ足速いんだよ」


慣れない立ち漕ぎに上がった息で呟いた。いっても相手は生身でこっちはチャリだ。全力で漕げばすぐに追い付くだろうと践んでいたのに。

「見つけた」

煙草ばっかぱかぱか吸って体力なさげな三田さんは、予想以上の健闘を見せて。その後ろ姿を視界に捉えることができた頃には、こっちの体力が尽きかけていた。

⏰:10/01/14 01:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#402 [ひとり]
煙草ばっか吸ってるのは三田さんばかりじゃないって事か。

『もうここまで来れば─』とでも思ったのだろう。呑気にテクテク歩くその後ろ姿に向けて、俺はラストスパートをかけた。


「三田さん!」

あぁ、漕ぎながら大声出すと脇腹が痛い。

呼び掛けに振り向いた三田さんは俺の姿を認めると、口が『げ!!』という形に動いた。

『げ』じゃねんだよもう逃がさねぇぞ。

⏰:10/01/14 01:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#403 [ひとり]
ところが三田さんも粘り強いというか往生際が悪いというか・・

「あ、ちょっと!!!!」

今まで通って来たやや幅の広い道から、前動作もなくいきなり横道に入った。しかもまたダッシュで。

なんなんだあの人は。

昔はやんちゃしてましたとか言いながら、実は真面目な陸上部員だったんじゃないかと疑ってしまう。

もちろん自分も後を追うべくすぐその脇道に入ろうとした。したのだが。

⏰:10/01/14 01:22 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#404 [ひとり]
「うおっ!!!」

咄嗟にかけたブレーキで直撃は避けたけど。

「っぶねー。」

前輪からやや強い衝撃が、ハンドルを握る両手を始めとして全身に伝わってくる。三田さんが何の考えもなしに飛び込んだと思ったそこには"自転車・バイク進入禁止"と掛かれたポールが、道のど真ん中に鎮座していたのだ。

⏰:10/01/14 01:24 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#405 [ひとり]
「あぁ!!もう!!!!」

俺はヤケクソ気味に自転車をその場に捨て置いて、ポールを飛び越え三田さんの後を追った。

そこは細く長く、道と呼ぶにはあまりにお粗末で、民家と民家の間に辛うじてできた"隙間"と言ったほうが正しいような、碌に舗装もされていない道だった。

⏰:10/01/14 01:28 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#406 [ひとり]
塀に囲まれて日の当たらないそこは所々ぬかるんでいる。足を捕られながらそれでも俺は、前へ前へと足を動かした。

随分長い。

ひたすら続く一本道に、このままどこまで続くのだろうと思った矢先。俺の視界の真ん中に、白っぽい点が現れた。


出口だ。

おそらくあの白いものは街灯の光。その点めがけて走った結果。やはり新しい道にでた。

ちゃんと街灯で照らされて、舗装された道らしい道。

⏰:10/01/14 01:36 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#407 [ひとり]
そこは正面がどん詰まりで、左右ニ岐に別れたT字路になっている。

三田さんが行ったのは、右か。それとも左か。

左右に忙しなく視線をさ迷わせていると、右側の道。ここからじゃ死角になっている曲がり角の先から、『ゴッ』と物体と物体がぶつかり合う硬質な音が、俺の鼓膜に届いた。

真夜中で、辺りになんの物音もしないこのコンディションだからこそ聞き取れた。それくらいに地味な音でもあった。

⏰:10/01/14 01:39 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#408 [ひとり]
俺は反射的に音のした右道を選び、一つ目のコーナーを直角に曲がった。

そうしてようやく。

「・・・・・あの・・三田さん?」

ようやく捕まえた目当ての人物は、何故か曲がって直ぐに突っ立っている電柱の前に小さくうずくまっていて、声をかけると丸めた背中がビクッと反応した。

「大丈夫なわけねぇだろ!」

振り向いた顔。初見のポジショニングからして想像はできていたんだけど。

⏰:10/01/14 01:41 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#409 [ひとり]
「今日は顔、よくぶつけますね」

ちゃんと"今日の占いカウントダウン☆"見てきたんですか?

場を和ませようと続けた台詞が、今の三田さんには相応しくなかったらしい。

しゃがみ込んだまま上目使いで睨まれた。丁度いい角度で街灯に照らされているその目尻には痛さのせいか、もしくはついていない今日の自分に嫌気がさしてか、やや涙が滲んでいた。

⏰:10/01/14 01:43 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#410 [ひとり]
ついでに言えば、満腹堂の裏口で俺が勢いよく開け放った扉に鼻をぶつけた時、"応急処置"にかこつけておもしろ半分で滝さんが無理やり三田さんの鼻頭に貼り付けた絆創膏も(貼った本人はその姿を指差して『昭和のガキ大将』だと笑った)、電柱に再度ぶつけた衝撃でなんだか微妙にポイントからずれていて。やや右上がりにくしゃりと皺がよってしまったその下からは、薄ピンクのちょっと痛々しい傷口が覗いていた。

三田さん自身、己の鼻の上にへ貼りついている絆創膏が、もう何の役割も果たしていない事がわかったようで。俺を睨む目の強さは保ちながら、ペリとそいつを剥がしてお役御免だと地べたに投げ捨てた。

⏰:10/01/14 21:14 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#411 [ひとり]
「お前が追っかけるからまた顔ぶつけただろ」

いつもよりも低くかすれた声で三田さんがボソッと不満を漏らす。

そんなん言ったって

「今のはただ単に三田さんがセルフで起こしたアクシデントでしょ、俺関係ないですよ」

「関係ある、大あり」

「てか本を正せば、三田さんが俺から逃げるのがいけないんじゃないですか」

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#412 [ひとり]
「な・・・・テメェが・・」

話の流れとして返したその一言に、なにやら今までとはちょっと違う反応が返ってきた。が、よく聞き取れない。

「はい?」

散々避けられていた鬱憤から苛立ちを含んだ声で聞き返すと、三田さんは突然凄い怒気を放ちながら、俺を怒鳴りつけた。

「先に逃げたのはテメェだろ!!!!!!」

意表を突いたその怒声に、俺の体は自然現象として一気に粟だった。

こんな風に怒鳴る三田さんを見るのは、初めてだ。

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#413 [ひとり]
「・・・・・・・・俺が?」

怒鳴られた事に対しては正直驚きを隠せない俺だったが、それより何より聞き捨てならない台詞だ。

逃げた?先に?何から?

「あんた何言って・・・」

「っるせぇ!!先に背中向けたのはテメェだ!!!!それを今更とやかく言われる筋合いはねぇっつってんだ!!!!」

今は一体何時なんだろう。目の前のこの人の怒鳴り声は、騒音被害だって警察に届けられても文句は言えないぞっていうボリュームだ。

そしてそれだけに留まらず、三田さんはまた信じられない行動に出た。

⏰:10/01/14 21:16 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#414 [ひとり]
「もう今更俺に構うな!!」

捨て台詞としてそれだけ言うと、脱兎のごとくまた駆けだしたのだ。

「ちょ、三田さん!!!」

当然俺はその後を追った。ここまで来て、あんな意味のわからない事言われて、『はいそうですか』なんて引き下がれるか。

にしても俺達こんな事ばかり、もう何回繰り返してるんだ。

こんなに好きなのに。

逃げないでよ。

俺はなりふり構わず全力で走った。

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#415 [ひとり]
今まで通ったこともないような場所を道から道へ。右へ左へ。

多分三田さん、俺をまくために自分でもわからないで滅茶苦茶に走ってるんだと思う。

にしても速いな。なんなんだよその脚力は。

少しでも気を抜けば、見失ってしまうだろう。


「三田さ・・・・待って!!!!」

「待たない!!!!」

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#416 [ひとり]
「ちょ・・・マヂで・・・話聞けって!!!!」

「タメ口きくな!!!」

距離を詰められず、一定距離を保ったまま走り続ける。

「お願いだから!!!!」

「来るな!!!!」

クソっ脇腹痛ってぇ。

「逃げんな三田コラァ!!!!」

「テッメ・・・!!呼び捨てしてんじゃねぇ!!殴られてぇのかコラァ!!!!」

大声上げながら全力疾走する俺達は、きっと端から見たら異様な二人なんだと思う。

⏰:10/01/14 21:18 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#417 [ひとり]
「上等だ・・こいよ三田ぁぁあ!!!!」

売り言葉に買い言葉。
すると三田さんはピタッと足を止め瞬間こちらに振り向いた。

「え?」

まさか止まるなんて思ってなかったから。"車は急に止まれない"。"根岸も急には止まれない"。勢いのついている俺は、立ち止まった三田さん目掛けてグングン距離を縮めた。そして遂に───



「ぐっ───!!!!?」

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#418 [ひとり]
浮遊感。

スローモーションで展開する視界。

脳みそを直接掴まれて揺さぶられたような衝撃。



あ、俺殴られた。



それに気付いた時、俺の体は冷たいコンクリの道路と仲良しになっていた。

⏰:10/01/14 21:19 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#419 [ひとり]
それから遅れて、左頬にぐっと熱が集まるのを感じた。

うわぁ〜口ん中絶対切れてるってコレ。

横っ飛びに倒れ込んだ地面に唾を吐けば、予想通り。街灯の光を受けた唾液に混ざって、赤いものが目について。

⏰:10/01/14 21:53 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#420 [ひとり]
カッとなった俺はゆっくり立ち上がると、対峙した三田さんの右頬へ、めり込む程のパンチを見舞った。

ゴッ

骨と骨のぶつかり合う音。


「っ──痛てぇだろコラ」

流石と言うか何というか。体格差からみたら俺が断然優位な筈なのに、三田さんは拳の衝撃をまともに喰らっておきながら、ぐらつくだけに留まった。

⏰:10/01/15 09:09 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#421 [ひとり]
そして

「しつけんだって!」

ゴッ

また喰らわされた。三田さんの一発は重い。

だから俺も

「話し聞けっていってんだろ!!」

ゴッ

同じ箇所を続けざまに殴ったら、さっきよりやや応えたようだ。

「だから今更逃げた奴が調子いんだよ!」

ボッ

脇腹をいかれて、少しむせた。

「ゲホ・・いつ俺が逃げたんだ!」

⏰:10/01/15 09:10 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#422 [ひとり]
ボッ

俺も正面からボディーに一発ぶち込んだ。

「ゴホッ、ゲホ・・お前さ」

痛みやり過ごすように中腰姿勢で両膝に手をついた三田さんは、真下に視線をやったまま言った。

「彼女できたんだろ?」

「は?」

いつ俺に彼女が?"明太にぎりだと思ったら中身がツナマヨだった"ってくらい予想外で、俺は構えていたガードを下ろした。

そこへ

「隠したってもう知ってんだよ!」

ゴッ

また一発。
油断したせいで、簡単によろけた俺は、尻餅ついて尾てい骨を強か打った。

⏰:10/01/15 09:11 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#423 [ひとり]
「っ───」

痛すぎて声がでない俺の腹の上に、乱暴な動作で馬乗りになった三田さん。

「お前が!!」

「好きだって!!」

「言った!!」

「くせに!!」

「やっぱ!!」

「女が!!」

「いいん!!」

「だろ!!」

言葉と言葉の間に飛んでくるパンチを、左右の頬にモロに喰らいながら、


やべぇ、殴り殺されるかも。


とかリアルに思った。
それから


三田さんになら、それもありかも。


とも思った。

⏰:10/01/15 21:54 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#424 [ひとり]
それから

でもやっぱり殺されるんなら、その前にちゃんと伝えたいって、思い直して。



「好きだよ」



殴られながら言ったその台詞は酷く弱々しくて、不格好で、なんか薄っぺらに聞こえた。

それでも、それは三田さんの耳にも届いたようで。順番に振り下ろされていた両腕は、ぴたりと動きを止めたんだ。

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#425 [ひとり]
「殴られすぎて幻覚でも見えてんの?」

鼻から息を抜くようにして、三田さんは『はん』と俺を嘲笑った。

「違う、幻覚なんか見てない」

「俺は茶髪の巻き髪した覚えも、白いブリブリなコート着た覚えもねぇ」

「え、何それ?」

「白々しい、さっき店に来ただろ!!」

「さっき・・・・え、何が?」

ゴッ

また殴られた。

「だから彼女が来てただろ!!!!」

⏰:10/01/15 21:55 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#426 [ひとり]
さっき来た───

茶髪の巻き髪────

白─────

ブリブリなコート───



頭の中で少しずつ言葉のパーツを集めて。



彼女─────


組み立てて。


彼女──────


組み立てて。


かの・・───────え?




「えぇぇぇぇぇえ!?!?!?」

⏰:10/01/15 21:57 📱:F01B 🆔:ShyQlI2A


#427 [ひとり]
「うっせぇな!何だよ急に!!」

「え、ちょ、マヂえ?彼女?アイツが・・ちょ、ムリムリムリだよマヂ冗談キツいって、っていうかなんでアキ・・え、本当に、え、えぇぇぇぇぇぇえ!!!???」

突然雄弁になった俺に、やや怯む三田さん。

「何だよマヂ意味わかんねぇよ!彼女なら潔く彼女だって認めろ!!!!」

「いや、それはできません」

俺はノーの意思表示に片手を胸の高さに挙げた。

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#428 [ひとり]
「どこまでも往生際が悪・・・」

「従兄弟だから」







「は?」


再び振り上げにかかっていた三田さんの腕の動きが、中途半端な位置で止まった。

「何、言って・・・」

「アキは従兄弟だから、彼女にはできないです。てかその冗談キツいです」

⏰:10/01/16 08:34 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#429 [ひとり]
何だ、そっか。
そういう事なのか。

だから俺が"逃げた"って。


頭にかかっていた靄が、一気に晴れていく感覚。


「だから幻覚じゃないです。ちゃんと見えてますよ、三田さんが。ちゃんと・・・・俺の好きな人が」

「根岸・・・」


やべ、ちょっと今のは臭かったかな。


でもこの雰囲気は言っとくべきだろ。

だってつまりアレでしょ?
これ、ヤキモチでしょ?


そう気付いた途端に。口に広がる血の味も、腹の痛みも、殴られすぎてつっぱる顔の感覚も、その一つ一つが"証"みたいで。

ヤバい、凄げぇ嬉しい。

⏰:10/01/16 08:35 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#430 [ひとり]
もう感情が止めどなくて、喉がムズムズする。

「ごめん、誤解させて。俺マヂ三田さんだけだから。あんたしか見えてないから、だから・・・ごめんね」

アキが彼女じゃなかった事が余程信じられないのか、三田さんは口を半開きにしてキョトンとしていた。

「三田さん?」

名前を呼びながら、さっき殴ってしまった右の頬にそっと触れた。

⏰:10/01/16 08:36 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#431 [ひとり]
三田さんは俺の手の感触で我に返ったようで、馬乗りのまま俺を見つめた。その瞳にみるみる水の膜がはって、ゆらゆらと揺れる。決壊は近い。

「・・・・・俺・・・ごめ・・・」

喉を震わせながら。真っ赤になった顔で俯けば、前髪の隙間から大粒の雫がポタポタと俺のカットソーに染み込んでいく。

「・・ごめん・・・ごめ、根岸・・・・ごめ」

⏰:10/01/16 08:46 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#432 [ひとり]
さっきまでの猛々しい姿が嘘のように、小さくなってしまった三田さんは、さながら借りてきた猫。

声は出さずに、静かに肩を震わせて泣いた。

「ごめん・・・ごめんなさ・・・・」

「三田さん」

「俺・・・・ごめ・・・・ん・・」

「三田さん」

俯いて、謝るばかりの三田さんの顔を両手で包んで上げさせた。

⏰:10/01/16 08:51 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#433 [ひとり]
「俺こそごめんなさい」

目を見て言うと、真っ赤な顔がくしゃっと歪んだ。

なんだよコレ反則だろ。毎度毎度の反則技は心得ていたけど、こんな風に泣かれたら。

「・・岸、くるし・・・」

俺は力任せに三田さんの身体を抱き締めた。

モコモコしたダウン越しにも、三田さんの姿形を感じて。その華奢な形を、もっと感じたくて、更に力を込めた。

初めての抱擁。

⏰:10/01/16 09:02 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#434 [ひとり]
初めはぎゅうぎゅうと俺が締め上げているような一方的なものだったが、気付けば自分の背にも同じように腕が回されていて。無言で込められる力に、抱きしめ返されてるんだとまた嬉しくなる。

互いの肩上に顎をのせるように抱き合ったまま、俺は少し調子に乗ってみた。

「三田さん」

⏰:10/01/16 20:50 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#435 [ひとり]
「ん?」

泣いたせいで『ん?』が若干鼻声なのがいい。

「言って下さい」

「え?」

『何を』って顔に書いてある。そういう分かり易いところもいい。

「俺はもう、何度も言ったよ」

「・・・・・・」

あと、赤面症だったんだ。って新しい発見もあった。

「三田さんも同じなら、言って下さい」

何を言われてるのか、飲み込んだようで。

⏰:10/01/16 20:53 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#436 [ひとり]
「お〜・・・お、お前が・・・」

「・・・・・うん」

「俺はその〜つまり〜・・・・・なんだ」

「・・・・・うん」

「〜〜〜〜だぁぁぁあ!!!!恥ずい!!!根岸ヤバい!!!!俺今中三でオネショした時以上に恥ずいんですけど!!!!」

「・・・・・うん、そういうもんだと思います」

⏰:10/01/16 20:59 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#437 [ひとり]
「へ?」

「恋愛って、そういうもんだと思います。恥ずかしくって、みっともなくって、それでいいんですよ、きっと」

「・・・お前今日、よく喋んのな」

「はい、殴り合いと抱擁で今、アドレナリンどっぱんどっぱん出てますから」

「どっぱんどっぱんてか、ザッパンザッパンじゃね?」

「いや寧ろ、ズッキュンバッキュンて感じですね」

⏰:10/01/16 21:06 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#438 [ひとり]
「マヂでか」

「はい、マヂっす」

「俺もだわ、さっきの殴り合いと・・・あと、お前が好きすぎて、ズッキュンバッキュン」

「今・・・・」

今言った。確かに聞こえた。"好きすぎ"だって。

三田さんは照れ隠しのためか『つぅかズッキュンバッキュンてなんだし!!』とデカい声で一人ツッコミ。

あぁどうしよ。

⏰:10/01/16 21:11 📱:F01B 🆔:S6jD0iTs


#439 [ひとり]
三田さんが俺のために赤面している。俺のために、いい年こいて、なんかもじもじしている。

オッサンのくせに、オッサンのくせに・・・・

「あぁぁぁあ!!!もうダメだあんた可愛いすぎなんだよチキショォォオ!!!!」

「うおっ!!!何だよデカい声だして」

「うん、気持ちが振り切っちゃいました、キスしていいですか」

「お前、ムードもへったくれもねぇな」

三田さんは、俺の突然の申し出に呆れ半分に笑った。

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#440 [ひとり]
「男同士なんだから、遠慮してるだけ損でしょ」

「違いねぇ」

そして二人で笑った。

「じゃ、しますよ」

「ちょ、バカやめろ"しますよ"とか、中坊のファーストキスじゃあるまいし」

近付けようとした顔の左頬をぐんと手のひらで押し退けられて、上体がダイナミックに後ろへ反った。

「痛い痛い痛い腰きてるから!腰にヤバい影響が及んでるからコレ!!」

「あ、悪り」

⏰:10/01/17 16:16 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#441 [ひとり]
三田さんは慌てて手のひらを引っ込めた。

「だってお前が恥ずかしいこと言うからだろ」

眉を少しつり上げて怒ってみせるけど、それがただの照れ隠しってことは、容易に見て取れた。

「さっきも言いましたよね、恋愛はそういうもんだって」

「そうだけど・・・」

⏰:10/01/17 16:20 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#442 [ひとり]
「恥ずかしい今の状況を楽しんで下さい」

「・・お前って、よくわかんない奴だな」

「そうですか?俺は今最高に楽しんでますけど、てかファーストキスなんて目じゃないくらい、今のほうが恥ずかしいし、ドキドキしてますよ」

これは本音。実際中一の時一個上の先輩としたファーストキスは、彼女がして欲しそうだったからしてやったぐらいの感覚だったし。

⏰:10/01/17 16:21 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#443 [ひとり]
こんな風に自分の感情が動かされるなんて、一度だってなかったんだから。

「「・・・・・・・・」」

三田さんは俺の言葉を聞いて、静かになった。嫌じゃない沈黙。それから

「よしこい!」

『よしこい』って。ちょっと吹き出しそうになったけど、そこはぐっと堪えた。

「失礼します」

「・・・・・・・」

「あの、できれば目」

「・・・・あ、そっか」

⏰:10/01/17 16:23 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#444 [ひとり]
力一杯に目を瞑る三田さんと、徐々に距離がなくなっていく。


30p・・・・15p・・・・10p・・・・5p

















⏰:10/01/17 16:30 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#445 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ついにくっつきましたお待たせしました!!

初めての抱擁と初めての接吻。まぁチューの辺りはご想像にお任せします←

恋愛はこうでなければ!恥ずかしくみっともなく必死なんです!!と、自分の勝手な意見を全面に出させていただきました。

チューもっと詳しく見せろよってご意見あれば、感想番にリクも受け付けます。が、基本こんな感じです。ぴーや

⏰:10/01/17 21:31 📱:F01B 🆔:7F/S0ukA


#446 [しら☆たま]
やっとくっつきましたね!わくわくどきどきしました(*^ω^*)
これからどうなるのか楽しみです!
頑張って下さい!

⏰:10/01/17 22:27 📱:P03A 🆔:Yn1CqGvg


#447 [ひとり]
>>446

しらたまさん

初めまして、コメありがとうございます(^ω^)

本当にやっとって感じで、お待たせしました(笑)

よければ総合の感想板にも遊びきて下さい\(^Д^)/これからも根岸と三田をよろしくです

⏰:10/01/18 09:15 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#448 [ひとり]
【第二十四話/ホール回しはおてのもの】


根岸が女の子と腕を組んで登場したあの日、目撃してしまった俺はむしゃくしゃして。むしゃくしゃしてる自分に気付いてそれが益々俺のむしゃくしゃっぷりを増長させた。

だから夜、暇だったし機嫌悪かったし、早めの店仕舞いを主張した。もちろんひろむにダメって言われると思っていたら、すんなり快諾されて正直驚いたけど、それならしめたもんだ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#449 [ひとり]
きっとこのむしゃくしゃは嫉妬だ。確信していた。何に対してってんなもん決まってんだろーが。俺を好きだなんてほざいてフェイントかけた隙に、一人ちゃっかり彼女ができた根岸に対してだ。

俺なんか女っ気0なのに、毎日男子校みてぇな満腹堂で仕事して、休みは仲間と草野球。それもなければパチかスロット。なにこのカサついた日々・・・・思い返しても切なくなってくるわ。

⏰:10/01/18 10:09 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#450 [ひとり]
おかげでうちのジュニアも寂しがってますよ。どうしてくれるんですかコレ。考えてみれば去年の秋ぐらいから俺、一人でしか・・・あ、ダメダメダメ、マヂで泣けてくる。

となればもう、早く店を締めたそんな日に向かう先なんて一つだろぅが。

「お疲れさーん」

「おつー」

皆口々に言って、それから『どうする?』『べぇやんち?』なんてアフター10のご相談。

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#451 [ひとり]
お前らはそればっかりか!!

今いるのはひろむと長谷部と滝。根岸はもちろんさっさと帰った。チッ、抜け駆け野郎が。どうせ彼女とちちくりあうんだろ、勝手にやっとけ。

「オイオイもっとたまには発想変えてこーぜ」

俺の一声で、視線が集まる。すると滝が言った。

「じゃあ、根岸んち?」

「違っっっげぇえよ!!!!そういう事じゃねぇだろ!!!!まず"家"って発想は捨てなさい!!!!」

⏰:10/01/18 10:10 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#452 [ひとり]
「え、外で飲むの?公園とか?それはナシだわ〜」

べぇやんまで・・・

「"飲む"って発想も捨てて!!!!・・・いや、捨てなくてもいいか」

「どっちだよ!?!?」

ひろむがすかさずツッコんだ。そうだな、軽くひっかけてからってほうがテンション上がるかも・・・・

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#453 [ひとり]
「まぁ聞け、つまりだ。景気づけに軽〜く飲んでから、夜の町でお姉さんといいことしませんか?」

言ってて我ながらオヤジくさい下品な発言だと思った。でもこれくらいが丁度いいんだ。

俺の提案は効果覿面(テキメン)。コイツらも、どんだけしょっぱい性生活なんだか。

⏰:10/01/18 10:11 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#454 [ひとり]
それから俺達は立ち飲みの串カツ屋で本当に軽〜くひっかけて、ちょっとテンション上がったところでお姉さん達のもとへ向かった。

雑居ビルにネオンが眩しい街の一角。そこに地下へ下る細い急勾配の階段がある。入り口には陳腐な店名の周りに、これまた陳腐な光を放つ電球がくっつけられた看板が立っていて。俺達四人はその看板にハシャぎながら、地下へと降りて行った。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#455 [ひとり]
薄暗いホールに降り立つと、そこで好みの娘を選抜してそれぞれ指定の個室に通される。

こんな店来たの、どれくらいぶりだろ。一時期ハマって通ったことがあったけど、店の娘に病気をもらったっぽいことが発覚して以来、疎遠になっていた。てか今思えば、通うって行為自体なんか虚しいし。

過去のアホな自分を思って、ちょっとおセンチな俺。

⏰:10/01/18 10:12 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#456 [ひとり]
部屋には既に女の子がスタンバイしていて、窓口のパネルで見るより実物はポッチャリさんだった。

年は・・俺より下だろう。プラスチック製の桶んなかに、たっぷり入ったピンク色の液体を、 クチャクチャとほぐしている。

「今晩は」

「今晩は」

「シャワー浴びます?それともすぐに始める?」

クチャクチャさせながら聞いてくる。上目使いがいきすぎていてちょっと怖いよ。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#457 [ひとり]
「じゃ、念のためにシャワー浴びます」

何で敬語なんだ俺。てかどうしよ、ちょっと面倒いかも。

でも金を払っちまった手前、元を取らなきゃやっぱ損だろ。

「それともあっちにマットひいてする?」

女の子はシャワールームを顎でクイッと差して、誘うように笑った。

⏰:10/01/18 19:25 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#458 [ひとり]
「てか、本番も別で払ってくれたらしたげてもいいけど」

何をおっしゃってるんですかアナタは!?もっと体を大事にしなさいよ!!!

「いや、今日持ち合わせもそんなないから、本番はこの次にします」

「そう。じゃ、いってらっしゃい」

⏰:10/01/18 19:48 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#459 [ひとり]
言われて大人しくシャワールームに行き、ざっと洗って部屋に戻ると、女の子はつまらなそうな顔でまだローションをこねくり回していた。

遠目から見ると、料理してるみたいだ。

「おかえり、じゃ、始めよっか」

素知らぬ顔してこの娘は今日、何人の男共の相手をしてきたんだろ。いらない考えが頭をよぎる。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#460 [ひとり]
「本番しなければ、触ってもいいからね」

「あ、はい」

だからその上目使いが怖いんだってば。

俺はベッドに横たわり、女の子がその上に跨ってくる。

今自分が体を沈めるこのベッドに、何人の男が己の欲を吐き出していったんだ・・・ってまた余計なことを。いかんいかん。今は目の前のおっぱいに集中しよう。

取り敢えず、肩慣らしに右の乳房を揉んでみた。

⏰:10/01/18 19:49 📱:F01B 🆔:gE0ZDug6


#461 [ひとり]
───
─────

「いや〜久々だったぁ〜」

「俺今回当たりだったわ」

「マヂ?俺は悪かないんだけどイマイチ」

「とか言ってやることはやってるくせに〜」

「やらしー」

ひろむと滝とべぇやんが盛り上がってる。担当した娘のここがよかったあそこがおしかったでもまた指名して行っちゃおうかな云々カンヌン。俺はその輪には入らずに、一人微妙に距離をとって先を歩いた。

「オイ、三田はどうだったんさ?」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#462 [ひとり]
話に加わらない俺に小走りで駆け寄ったべぇやんが、肩を組んでくる。

「いや‥なんか俺・・・どうしよう」

気持ちが重たい。これは男としての危機かもしれない。

「なんどした?」

俺の落ち込みように、べぇやんがちょっと心配した声音で問いかけてきた。その後ろから、滝の声が。

「お前まさか、いかずじまいで」

「・・・・・・」

⏰:10/01/19 21:44 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#463 [ひとり]
無言のYES。三人の間にどよめきが走った。

「え゙マヂどしたお前」

「まさかのイ〇ポかよ」

「言い出しっぺなのに」

三人のそれぞれ哀れむ声が、余計俺のテンションの下降に勢いをつける。

「だってなんか・・起たなくて・・」

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#464 [ひとり]
「酒飲み過ぎたんじゃね」

「疲れてたんだよな」

「波って誰にでもあるし」

あの滝まで、俺の失態をフォローしてくる。やめてくれ。益々情けなくなるだけなんだから。


「・・・・うん」

力なく返事をした。そんでさっきのことを思い返した。

⏰:10/01/19 21:45 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#465 [ひとり]
ベッドに横になって、おっぱいに集中しようとして、ちょっと揉んだりしてみて、そんで女の子がわざとらしくあはんあはん言って、下をくわえられて、上下上下。

雲行きが怪しくなって、女の子が『あれー?』とか『んー何でだろ』とか言いながら、プロとしてのプライドでどうにかこうに俺のジュニアの機嫌をとろうと奮闘したけど。結局ジュニアは眠り続け、時間がきちまった訳だ。

⏰:10/01/19 21:46 📱:F01B 🆔:Dj8enbd2


#466 [ひとり]
去る間際、女の子の目が『マヂありえないって』と無言のメッセージを送ってきた。それは酷く白けきった表情で、でもいきすぎの上目遣いより何倍かましな顔に見えた。

てか、そんなん俺が言いたいさ。

「マヂありえないって・・・」

ボソッと零した一言は誰の耳にも届かずに、夜のネオンに吸い込まれた。

⏰:10/01/20 19:47 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#467 [ひとり]
ひろむ達は俺を励ますためか、はたまた久々の風俗で浮き足立ってか、よし飲み直しだとか騒いでいる。

横一列に広がって肩を組む。もちろん俺も強制的に参加させられ、ひろむに肩をがっしり掴まれて逃げられない。

すれ違う人は皆他人に無関心そうで、幅をとって闊歩する俺達に特に迷惑がる様子もなく、前から後ろへ通過通過通過。

⏰:10/01/20 19:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#468 [ひとり]
困ったことに母校の校歌をアカペラしだしたアホチントリオ。マヂでおやじくさいからやめて欲しい。

肩まで組まれて言い逃れなんてムリなんだろうけど、俺は関係なさげな顔で、歩き去る一人一人をぼんやり眺めていた。

こうしてすれ違うだけの人達にももちろんそれぞれの環境があって、立場があって、家族や恋人や仲間があって、悩みがあって。

⏰:10/01/20 19:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#469 [ひとり]
でもそれはこうしてすれ違っただけじゃ当然わからないことだし、相手だって俺が事を成せなかったってゆう残念な事実も、俺のやるせなさもわかりっこない。

皆、どっから来て、どこに帰るんだろう。家に家族がまってるのかな。可愛いペットがいるのかな。それとも恋人がいて・・・・

根岸も今頃、彼女と同じ布団にくるまって、あのデカい手で頭とか撫でてるのかな。

⏰:10/01/20 20:06 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#470 [ひとり]
あのちょっと見キツい目を緩ませて、見つめ合ったりしてるのかな。それから抱き合って・・・・

「ギャッ!!!!!」

「なんだよ三田、トカゲが潰れたみたいな声出して」

「トカゲって声でんの?」

「知んね、イメージだよ」

「ぐえ、想像しちゃった」


想像しちゃった。

⏰:10/01/20 20:12 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#471 [ひとり]
俺の奇声からとかげが潰れた話しにシフトチェンジした三人は、楽しそうに話し続けている。

お陰で俺の異変に、誰も気づかなかったみたいで助かった。

って何よ俺の息子ぉぉぉお!!!!!ちょ、マヂこのタイミングなわけ?このタイミングで起立しちゃうわけ??どんなよそれぇぇぇえ!!!!

想定外だよ、ライブ〇゙アの社長もビックリの想定外っぷりだよ!!

⏰:10/01/20 20:40 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#472 [ひとり]
気が動転した。

だってないだろ、さっき生の女の子と密室に二人っきりで、あんなにしてもらったのにうんともすんともなくて、

根岸と彼女のセ・・・セッ・・・・いや、まぁ、いいよ。

とにかくどうなってんだ俺の体は。何勃ちだよこれは。


⏰:10/01/20 20:48 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#473 [ひとり]
─────
───


「ふっ」

「何吹き出してるんですか?」

殴り合って、抱き合って、キスをした。

チャリを挟んで、横に並んで歩く。俺達の間に、チェーンのチャカチャカゆうリズムが刻まれていく。

「あれは、そうゆう勃起かと思ってね」

「ぼ、は?」

⏰:10/01/20 20:54 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#474 [ひとり]
根岸が近い。俺は気分がいい。

「いや、こっちの話し」

「気になるなぁ」

もうあと二時間もしないで、太陽が顔を出すだろう。このいい気分を持ち帰って、早く布団に潜り込みたい。

⏰:10/01/20 20:59 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#475 [ひとり]
それから


「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

「・・・・・・・うちで寝てく?」

「・・・・・・・うん」


それから、あの時の鈍感な自分に教えてやりたい。

「好きだからだよ」

「・・・え、なんて?」

「こっちの話し」

「なんですさっきから」

「内緒」

「ケチ」

「うっせ」

⏰:10/01/20 21:02 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#476 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

くっつくちょっと前の三田のエピソード。

ただ風俗とか行っちゃう三田が書きたかっただけなんです、ばっちぃ話しですみませんね(´_ゝ`)

でも書いたら、スッキリしたした(´∀`)ぷはぁ←

⏰:10/01/20 21:08 📱:F01B 🆔:LKvQxKtw


#477 [ひとり]
【第二十五話/やりかた変えますとか後のりのくせに】


─ストロベリーkiss─

『もう離さない』

『嬉しい』

それはそれは、甘くとろけるような────


ストロベリーkiss
fin





・・・ふーん。

⏰:10/01/21 20:03 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#478 [ひとり]
アキがうちに置いていった少女漫画を、パラパラとめくっていたら、それがどうも最終巻だったらしく、タイトル通りのストロベリーな感じのkissをして、完結した。

キスどころじゃないもんね。kissだもんもうね。国籍が違うじゃん。パリジェンヌじゃん。

こんなkissは一生無縁なんだろうけど、俺はそれで一向に構わなかった。

⏰:10/01/21 20:04 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#479 [ひとり]
ストロベリーなんて薄っぺらい味より、三田さんとした時の、煙草と血の味が混ざったキスの方がよっぽどいい。ていうか、それがいい。

毎回殴り合ってからキスなんて過激な事まさかできないけど、ファーストキスが血の味ってのも、新鮮でいいもんだ。

別に、変な趣味とかはないんだけど。

一生涯、忘れないだろうこれは。ってインパクトがあった。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#480 [ひとり]
痛みや傷はその内に消えて、跡形もなくなってしまうけど、この記憶だけは俺が死ぬまで残り続けるんだって思うと、自然と頬の筋肉も緩む。

三田さんも、同じ事思っててくれたら───

とか、乙女な自分。乙女座だけに・・・・なんかここ数日、俺はこんな調子でテンションがおかしい。

⏰:10/01/21 20:05 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#481 [ひとり]
それに暇さえあれば、あの日の接吻を思い返して、今みたいににやけてたりする。

ただ、表情筋が未発達なのか、常人よりやや表情が乏しいらしい俺が軽くにやけたくらいじゃ、誰も周りは気付かないからまだ救われてる。

ノジコさんと長谷部さんには、顔つきが柔らかくなったと褒められたし。それは常ににやけてるからです。とはとてもじゃないが言えないけれど。

⏰:10/01/21 20:08 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#482 [ひとり]
『よしこい』って言ったあの人の唇に、自分のを重ねた。長時間外気にさらされたせいで、ファーストコンタクトはえらいガサついていた。軽く一発。

二発三発、唇を投下。

固く瞑った目と、緊張でやや上がった肩から、徐々に徐々に力が抜けていくのがわかった。

それから、当てるだけのキスから、ついばむように。

⏰:10/01/21 20:09 📱:F01B 🆔:g5z4z0Vo


#483 [ひとり]
角度を微妙に変えながら、何度もついばむ。

それから形を確かめるように、ちょっと舌で三田さんの下唇をペロッとしてみた。

三田さんの肩に、再び力が入った。それでも目は瞑ったまま。

今度は上唇を同様に舐める。

⏰:10/01/22 19:55 📱:F01B 🆔:7dLzZf/c


#484 [我輩は匿名である]
>>250-400
>>401-550

⏰:10/01/23 21:03 📱:D705i 🆔:.pYgbVdI


#485 [ひとり]
舐めれば舐めるほど湿って柔らかくなる唇。

その感触に夢中になっていると、ぐっと頭を捕まれて

「お前舐めすぎ」

「だって気持ちいから」

「変態め」

「今更」

⏰:10/01/24 11:26 📱:F01B 🆔:dvJHU/6.


#486 [ホシ]
アゲ・ω・

⏰:10/01/26 01:06 📱:Sportio 🆔:9dZ9XDpk


#487 [明希]
あげとく〜!

⏰:10/01/26 02:50 📱:W65T 🆔:WvV/vnzc


#488 [りんご]
あたしも
あげとく〜\(^∀^)/

⏰:10/01/26 11:44 📱:SH903i 🆔:lK0FKcTA


#489 [キム]
あげー( ´∀`)/~~

⏰:10/01/26 22:56 📱:P03A 🆔:Fb3ywn56


#490 [ひとり]
なんかちょっといい感じの雰囲気でその気になってた俺だったのに、三田さんの完全に全て無視した発言が、らしすぎると言うか何と言うか。

「そこは『あはん』くらい言っときましょうよ」

「口をペロペロされて『あはん』なんて、完全にただの淫魔じゃん」

「雰囲気ですよ、雰囲気」

「青いんだなーそうゆうとこ」

⏰:10/01/29 08:47 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#491 [ひとり]
「ちょっとくらい夢見たっていいでしょ」

「俺に対して夢を抱こうってその姿勢が先ず間違ってんだよお前さんは」

「・・・・ごもっとも」

「だろ?」

そうだよ今までも別に三田さんに夢見たことなんかなかったよ。そんな夢見る隙もない程リアルなあんたが強烈過ぎて。凄げぇ引力で俺をかっさらう本物のこの人に惚れたんだから。

「はい」

すると三田さんは不適に笑って見せて

「ならとっととこいよ」

俺の唇にかぶりつくようなキスをよこしたんだ。

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#492 [ひとり]
「はいそこまで!!」

「痛゙ッッ」

もう何度目かわからない回想に耽っていると、パンッと小気味いい音と同時にケツに若干の痛みが。ケツキック。

横に立っていたのは弘さんだった。

「お前いい加減その締まりのねぇ顔なんとかならんのかい」

そう言って緩みきりの俺の頬をぐっとつねった。

「ひおうはん、いはい」

「聞こえない」

⏰:10/01/29 08:48 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#493 [ひとり]
「いはい・・・ってば!やめて下さい」

忌々しい手を払いのけると、痛くもないくせにわざとたらしく目の前でふって見せた。

「一体あとどんくらい続くのそのニヤニヤ顔」

「別にいいじゃないですか、なんか雰囲気とっつきやすくなったってお客さんにも好評なんすから」

「お前らが良くても俺が気になってしょうがねんだよ、店ん中で二人も顔の弛緩した野郎がウロチョロしてると」

「え?」

⏰:10/01/29 08:49 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#494 [ひとり]
実はここ、満腹堂の店先だったりして。俺の手には箒とチリトリが握られてたりして。今はランチ前だったりして。

「それって」

言いかけたところで背中からかけられたやる気のない挨拶は、絶対間違うはずのないあの人の声で。

「はよーお前らサボってんなよ店の真ん前で」

振り向けばやっぱりあの人で。

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#495 [ひとり]
「邪魔すんな今根岸と内緒のいい話ししてたんだから」

「何それ気持ち悪っ」

ひろむさんとジャレながら、店に入る前に一瞬。

確かにこっちをチラ見したあの人の目が笑いかけてくれたから。

きっと同じ気持ちなんだって、わかっちゃったから。あぁ、弘さんすんません。

俺のこのニヤニヤ


「当分収まりそうにないっす」

⏰:10/01/29 08:50 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#496 [ひとり]
【休憩】

おはようございます、ひとりです。

スランプ気味でしたが、戻って参りました。
ひとりの不在中も上げて下さった皆様、マヂはんぱねぇ感謝にもうジャンピング土下座の嵐です。

なんかあんまチューシーンとか克明な描写が、力及ばずできませなんだ、申し訳ないです。殴って下さい←

⏰:10/01/29 09:00 📱:F01B 🆔:1RggK/fA


#497 [蜜柑ボウヤ]
よっしゃあ!!
目ぇ食い縛れぇッ!!!!←←

初コメなうえに失礼な発言御許しください。土下座

実はずーーーーっと読んでました!![壁]ω・*)


コメントのタイミングが掴めずで…。(笑)

これからも応援しています♪頑張ってください☆★

⏰:10/01/30 00:02 📱:P905i 🆔:hlMj6bTY


#498 [ひとり]
【第二十六話/追加注文】



「今日からお世話になります」


突然の事すぎた


「わからない事だらけなので迷惑かけちゃうかもしれませんが」


事前に一言くらいあってもいいんじゃなかろうかと思う


「よろしくお願いします」


何でこんな事になったんだ?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#499 [ひとり]
───
─────


最近店も調子がいいから、もう一人雇おうか。


弘さんと三田さんが相談するのを何度か耳にしていたのは事実だ。

俺のいる所から少し離れたホールの隅で、スタッフウェアに身を包んだ二人。片方が何事か言うと、もう一方は頷きながらマメに手元のペンを動かしている。

弘さんと、新米バイト。

いいじゃないか。確かにここ最近人手が足りずに困ってたんだし。

女だったら華もあるだろう。

でも、これは流石にないんじゃないか?

⏰:10/01/30 07:37 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#500 [ひとり]
「根岸ー」

遠目に様子を窺っていた俺に、弘さんからお呼びがかかった。

その横にちょこんと佇む新米と揃って笑いかけられると、堪えていた溜め息がついでてしまう。

「なんです」

本当は予想をつけているのに、さも知りませんといった風を装い、二人のいる店の隅に近づく。


白々しいな、まったく。


「お前今日面倒みてやって」


やっぱりだ。


「はい、わかりました」


そう言う以外に術はないから。弘さんの指示に二つ返事ですんなり返した。

⏰:10/01/30 07:38 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#501 [ひとり]
『じゃあそういう事で』俺の役目は此処までと言わんばかりの態度で裏に捌ける弘さんに、明ら様な視線を投げつける。手元がライターで遊んでいた。


一服しに行く気だな、ちくしょー俺も吸いたいのに。


思っても叶わないこの状況だ、仕方がない。俺は背を向けていた現実を振り返った。


「で、何で此処にいる」

「どうこのスタッフT似合う?」

「俺の質問は無視か」

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#502 [ひとり]
「だってゆうちゃん最近遊び行ってもいない時あるし」

「俺にだって用事の一つや二つあるんだよ」

「一つ二つどころじゃないじゃん、朝帰りばっかりして」

母親のような口調にうんざりする。確かに女の一人暮らしは物騒だし、夜中一人で心細い事もあるだろうと思う。だからって、自分の恋人を蔑ろにしてまでかまってやれる程、俺の根はお人好しにできちゃない。

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#503 [ひとり]
「・・・・とにかく」

それ以上、母ちゃんの小言のような不満を吐き出されてはたまらないので、俺は無理矢理な軌道修正を図った。

「今日からお前も此処のバイトだ、ビシバシ教えるから甘えんなよ」

「てことはゆうちゃん先輩だ」

俺の前言はまたしても完全無視かと思ったが、もういっそ面倒なのでその事実を俺が無視した。

「まぁ、そうだな」

「よろしくお願いします、ゆうちゃん先輩」

常の呼び名に『先輩』と付け足した。何の創意工夫もない事に、キャッキャと喜ぶ姿を目の前にして先が思いやられる。

兎にも角にもその日が、アキの記念すべき初出勤日となった訳だ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#504 [ひとり]
───
─────

初日に先ず教えたのは基本中の基本ばかりだったが、アキは思いの外覚えが早かった。

俺を追っかけてくるような真似をして、もし皆に迷惑をかけるようならその時は・・・なんて考えてもいたのだが、どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

基が体育会系出身なんだ。よくよく思えば礼儀マナーなんてそれこそ昔っから叩き込まれてきてる訳で、今更俺が手取り足取りしてやらなくとも、アキは当たり前のように明るい挨拶と気持ちのいい返事をホールに響かせて、夜には積極的に注文を取ったり席へ誘導したりと、目覚ましい活躍を遂げた。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#505 [ひとり]
「アキちゃんお疲れ」

「お疲れ様です」

仕事終わりに話しかけてきたのは津久井だった。

「前にもどっかでやってたの?」

「いえ、高校は部活一本で、引退してからはすぐに受験受験でしたからまったく」

俺以外と話す時のアキの口調は、なんというか、キビキビを絵に描いた様な話し方で、側で聞いていても気持ちがいい。

「そうなんだぁ、全然余裕です〜って感じだったけどねぇ」

「いえいえそんな、迷惑かけないかって冷や冷やし通しでしたよ」

感心したような津久井の口振りに、賺さず謙遜してみせたりして。

マヂ別人だろ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#506 [ひとり]
「ちょっと根岸、お前もこんな可愛い従兄弟が近くにいたんならなんでもっと早く連れて来なかったんだよ」

横で黙りを決め込んでケータイを弄っていたこちらに火の粉が飛んできた。

「うん、まぁ」

別に隠してたつもりはないが、なんだかこうして身内のアキが他人から褒められるのは不思議な気持ちがするものだ。なんとなく気恥ずかしくって、くすぐったい。

俺は語尾を濁して誤魔化しつつ、アキを見やった。アキは『可愛くなんかないです』と言って、照れ隠しなのかしきりにサイドの髪を耳に掛けたり、前髪をいじったりしている。

そのしおらしい姿がまた俺といる時とは違って新鮮で、なんだか微笑ましい。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#507 [ひとり]
ただ一つ気になる事もある。こうやってもう雇われてしまってからでは今更な話しだが、何故三田さんは何も言ってくれなかったんだろうか。それに面接をしたような素振りすら見た覚えはない。

まぁ其処は今日これから本人に聞けばいい話しなんだけど。

実はさっき黙ってメールをしていた相手がその三田さんだったりする。先にあっちが自分ちに帰ったので、俺も今から行きます。的なやり取りをしていた。

問題は、アキだ。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#508 [ホシ]
あげとこ・ω・

⏰:10/02/03 08:01 📱:Sportio 🆔:DLNGGhUs


#509 [ホシ]
あげる★+。

⏰:10/02/04 05:55 📱:Sportio 🆔:b6omUXD2


#510 [サルエルパンツ]
あげますよ!

⏰:10/02/04 17:33 📱:F902iS 🆔:wfgNwk1w


#511 [りんご]
あたしも
あげちゃうー(^ω^)ノ

⏰:10/02/04 20:11 📱:SH903i 🆔:hg1EVxs6


#512 [ホシ]
おやおやbげとこ・ω・

⏰:10/02/07 20:04 📱:Sportio 🆔:r2TOxY3.


#513 [ひとり]
今残ってるのは俺達三人。津久井はバイクで帰るし俺はチャリだ。そう言えば、アキは何で此処まで来たんだ?


「そういえばアキちゃんて帰り何で帰るの?」

俺が聞く前に、津久井がいいタイミングで質問してくれる。

「今日は電車で取り敢えず来てみたんですけど、終電ヤバいですかね」

「ヤバいっつーか、完全にアウトだよ」

「ですよね」

「なんなら俺乗っけてこうか?」

おいおい津久井、それは凄い素晴らしい提案じゃないか。俺は思わぬ天の助けに気付かれないほど小さい、しかし渾身のガッツポーズをした。

⏰:10/02/09 00:39 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#514 [ひとり]
「え、そんなの悪いですよ、それに私ゆうちゃ・・」

「悪いな津久井」

断りかけたアキの変わりに賺さず礼を言うと、津久井は屈託なく応えた。

「いいって、根岸んちの近くなら途中なんだし、ついでついで」

「え、津久井さん私本当に・・・」

「メット二個ある?」

「もち」

「んじゃ頼んだわ」

「おう」

口を再び開きかけたアキの先制をついて、どんどん話しを進めた俺は

「津久井の運転意外に荒いから、振り落とされんなよ」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#515 [ひとり]
言い添えて先に店を出た。

後から続いて津久井と、不満だらけな顔でしかし何も言えないアキが出てくる。

「後俺しめとくから、根岸は帰っていいよ」

キーケースをじゃらつかせながら言われて、

「おう悪り、おつかれ」

「おつかれ〜」

にこやかな津久井とは対局の、恨めしそうなアキの瞳に、流石にちょっと申し訳なくなる。

「・・・・・」

「アキも、おつかれ」

「・・・・うん」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#516 [ひとり]
答える声も、酷くぶっきらぼうだ。

「よく頑張ったな」

機嫌をとるように初日の働きぶりを労って軽く頭を叩くように撫でてやる。

するとどうだろう、急に顔を上げて嬉しそうに笑いかけられた。ゲンキンな奴。見てくれをどんなに変えても、こういう所は昔っから変わらない。可愛い従兄弟のアキ。

「明日は一緒に帰ろうな」

なんて、思わず甘やかしてしまった。確かに最近三田さんちに入り浸ってばかりで、アキに構ってやれなかった、寂しい思いをさせてたんだろう。だからこそアキはバイト先までこうして乗り込んできたわけで。アキの事はもちろん知っている三田さんは、もしかしたらあの人なりにアキに気を使ってバイトに雇ってくれたんじゃないか、なんて考えが浮かんだ。

公私混同は否めないし、それに第一俺に内緒にする必要性は微塵も感じられないんだが。

⏰:10/02/09 00:41 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#517 [ひとり]
「絶対だからね」

「あぁ、絶対だ」

「ゆびきり」

「はいはい」

目の前に差し伸べられたら細っこいアキの小指に自分のを絡める。

「嘘ついたら針万本飲〜ます」

軽やかに歌ってみせたアキに、津久井が笑った。

「アキちゃんアキちゃん、それ千本だと思うよ」

「千本なんかじゃぬるいから、万本にしました」

ちょっと子供っぽいですかねと照れ臭そうに笑い返すアキと、そっかと軽く請け合った津久井だったが、俺はこの約束だけは破るまいと一人誓った。だって、アキの笑った顔の中でその目だけは本気の色を帯びていたから。こりゃ破りでもしたらその日のうちに裁縫屋の梯子もしかねないって確信があった。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#518 [ひとり]
「したらまた明日」

「うん、明日ねぇ」

「おつかれー」

俺は今度こそサドルに跨ると、地面を蹴って三田さんのもとへ向け走り出した。



チャイムを鳴らすと間もなく怠そうな応答があって扉が開かれ、現れた三田さんはスウェットの上下に邪魔な前髪をゴムで結んだ姿で俺を迎え入れた。

「お疲れさん」

「お疲れさまです」

靴紐を緩めようと玄関に腰掛けた俺が無造作に置いた荷物を、当たり前のように持ってリビングへと先に消える後ろ姿を振り返り見た。甲斐甲斐しい新妻みたいじゃないか。三田さんの一挙手一投足にこうして一々反応するのは気持ちが片道だった頃から何ら変わらないところだが、それに相手からの好意を汲み取れるようになったというのが最大の異点であり、それがどんなに俺を幸福の高みへと昇らせているのか、きっと当の本人は無意識無自覚なんだろう。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#519 [ひとり]
あの人が往復した際に開閉したドア。その気流に乗っかって、胃をいい感じに刺激する匂いが漂ってきた。それを一粒の粒子も逃さぬように思い切り吸い込むと、うん、これはどうやらカレーみたいだ。三田さんの好物はカレーにハンバーグにミートスパゲティー、オムライスとお子さまランチのスタメンで構成されている。ただその中でカレーだけは厄介な奴なんだと以前愚痴られた事がある。何故かと聞き返すととんだ愚問だと呆れられた。要するに、その量が問題なのだと言う。

『考えてもみろ、一人暮らしってことは"独り"ってことだ』

俺は普段カレーなんてインスタントか外食でしか食べないからわからなかったが、何でも自炊派の三田さんにするとカレーは作れば毎回多すぎて後が困るんだそうだ。ならば初めから考えて少なめに作ってはどうかと提案したら

『それじゃやっぱり物足りない』

と一蹴されておしまい。普通に作れば多すぎて、控えて作れば物足りない。俺の中でカレーは、二人以上で食べてこそのカレーなのだと、何故か誇らしげに熱弁する姿がフラッシュバックした。

⏰:10/02/09 00:43 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#520 [ひとり]
「お前遅せぇよ」

三田さんの声でいつの間にか思い出に浸かっていた意識が浮上する。見れば手に皿とおたまを持って仁王立ちしていた。

「カレー冷める」

「はいはい」

踵をきちんと揃えて玄関の隅に靴を置くと、俺はカレーの匂いでいっぱいになった暖かいリビングへと向かった。



「「いただきます」」

コタツに入って俺達は手をあわせる。三田さんの作るカレーは煮崩れない綺麗なジャガイモがゴロゴロ入っていて、玉ねぎの甘さがたまらない。まさに絶品だ。

デカすぎるほどにデカいジャガイモをスプーンで割開くと、中から白く湯気が立ち上る。舌を火傷しないよう慎重に口に運び、はふはふと少しずつ熱を逃がしながら食べる。美味い。

俺同様に先ずジャガイモに手を着けたらしい三田さんも、はふはふやっている。そして全て飲み下すと、うんめーと顔全体で笑ってみせた。俺が美味いですねと同調すれば、更にその表情を綻ばせる。嗚呼またそんな顔して、抱きついてやろうかなコンチクショー。

⏰:10/02/10 09:13 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#521 [ひとり]
「そ、いへばは」

二個目のジャガイモを投入した口をはふはふさせつつ、三田さんが喋る。

「ア、あち、アキひゃん、あち、あち、」

「喰うか喋るかどっちかにして下さい」

俺が言うとどうやら先に食べる事に専念しようと決めたらしい。暫く待てば、マンゴーラッシーでジャガイモを飲み下して自由になった口を開く。

「びっくりしたよ、アキちゃん」

.

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#522 [ひとり]
「あぁ、俺もあんな動けるヤツだとは思いませんでしたよ」

「じゃなくて、行ったらひろむにいきなり今日から入ったとか紹介されてさ」

「え、三田さんが弘さんと採用したんじゃないんですか?」

「俺知らないし、ひろむが知らん内に入れてた」

でもそれってどうだろう?弘さんは確かに全体の責任者だけれど、三田さんに黙って勝手に人を雇ったりするんだろうか。

「本当にまるきり知らなかったんですか?」

「ん?・・・んー」

ハッキリしない物言いと微妙にばつの悪そうな顔に、これは何かを隠してるんだと想像するのは容易かった。

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#523 [ひとり]
「・・・・知ってたんでしょ」

「いや、本当に知らなかったんだって!!」

誤魔化すように福神漬けをつついていた手を止めて、三田さんは抗議するような視線を寄越す。

「・・・そうですか」

俺は不自然なまでの聞き分けの良さで、再びカレーに意識を戻した・・・ように見せかけた。三田さんは隠し事が苦手だ。それは『お付き合い』する以前からとっくに心得ている。ベタだけど今俺のとっている行動は"押して駄目なら引いてみろ"な訳で、それがこの人にとって最大限の効果を齎すという事は、過去に幾度も実証済みなのだ。

⏰:10/02/10 09:15 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#524 [ひとり]
暫くは根競べ、俺はひたすらにカレーを食べて、どうでもいいクイズ番組を観た。観ながらたまにチラと横目で三田さんの様子を伺う事も忘れない。もういよいよ限界のようで、何を食べるわけでもないのに開いたり閉じたりと、口がしきりに動いている。言おうか言うまいか、逡巡しているみたいだ。

その姿が可笑しくて笑い出したい衝動にかられたけど、そこはぐっと飲み込んでひたすらに待つ。すると

「バイトを採ろうって話しはしてたけど、まさかアキちゃんとは思わなかった」

三田さんはボソッと零したんだ。

⏰:10/02/10 09:16 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#525 [ひとり]
「それじゃ、面接は弘さん一人でやったんすか?珍しい」

「うん、そう」

白状してもまだ尚気まずそうな態度。

「どうして三田さんは行かなかったんですか」

「それはお前、そのほら、あれだ、あのー…」

俺が詰めれば、三田さんは視線を逸らす。逸らした刹那覗いた耳が、心なしか赤くなっているのに気付いた。

「俺に言いたくないんですか」

⏰:10/02/10 21:36 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#526 [ひとり]
直感だった。三田さんが照れるような事なら、自分が関係あるんじゃないかなんて、とんだ自惚れだなと半分思いながらも。そしてその自惚れた直感は、どうも三田さんの確信をついていたようだ。

「・・・・・・・うるせ」

「耳真っ赤だけど」

「うっ・・・」

「白状しちゃいなよ」

「・・・ねぼ・・した、から」

観念したのか、つかえながらも口を開いた。

⏰:10/02/10 21:53 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#527 [ひとり]
どうも寝坊して、面接に行けなかったらしい。バイトの面接は毎度決まって午前中の、ランチ前の時間だ。ノジコさんはどうか知らないが、俺も津久井も、実際面接してもらったのは午前中の割と早い時間帯だったのを覚えている。

「寝坊って、んな事あったんですか?」

「ん、あった」

「そんなん言ってくれたら俺が電話で起こしてあげたのに」

「そりゃムリだろ」

「え、何でですか」

「だってお前も爆睡してたし」

⏰:10/02/10 22:11 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#528 [ひとり]
「あ、そうなんだ」

「うん」

「それすいません、いつの話しっすか?」

「俺らが・・つ、きあった、日」



なるほど。


つまり俺達が例の追いかけっこをやっていた次の日が、アキの面接日だったのか。そりゃあ俺には起こせないな、三田さんの横で昼過ぎまで確かにぐーすかやってたんだから。

⏰:10/02/11 01:08 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#529 [ひとり]
「しかも俺さ──」

三田さんの話しにはまだ続きがあった。

「ん?」

「俺一回目ぇ覚めたんだわ」

「あ、そうなんすか?でも、したら何で・・・」

「根岸が『行くな』って言った」

「えぇ!!??」

なんだそりゃ、それは初耳すぎる。てか、まるきりそんな記憶はない。

「覚えてねぇのかよ」

⏰:10/02/11 01:09 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#530 [ひとり]
三田さんの恨めしそうな視線に、今度は俺が言葉を詰まらせた。

「そのー・・・つまり、言っちゃえば・・・・お、ぼえてはー・・ない、です」

白状すると、そんなんわかってたわと言わんばかりにデカい溜め息を吐かれて、恐縮してしまう。

「お前ねぇ」

「本当に記憶ないんです、てかんな譫言、無視してくれたらよかったのに」

「そりゃ俺だって根岸が離してくれたらそうしてたさ」

⏰:10/02/11 01:10 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#531 [ひとり]
でも、と三田さんは繋げた。

「俺が目ぇ覚めて布団から出ようとしたら、後ろっから羽交い締めするみたいに抱きつかれて、『行くなよ』とか言うから、だから・・・・」

自分で言いながらその時の事でも思い出したのか、今度は顔面までもが紅潮しだした。

おいおい、無意識の俺何してくれてんだ。まさか羽交い締め以上の何か、やらかしてはいるまいな。

一瞬思ってヒヤッとした。

「だから俺、面接あるって言ったんだ、なのに全然聞かなくて『そんなのいいからここに居ろよ』って、き、き、キス、されて」

いよいよ顔面の赤みがピークを迎えて、それは首までも染め上げる勢いだった。

あ、湯気出るかも。

⏰:10/02/11 01:11 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#532 [ひとり]
「だからお前がいけねんだよ根岸コノヤロォォオ!!!」

恥ずかしさの臨界点を超えてしまったらしい三田さんは、唐突に、叫ぶように俺に食ってかかった。

確かにそうだ、そうなるわ。

『ごもっともです。』としか、返す言葉が見つからない。

「申し訳ない」

「本当にな!!おかげであの日はひろむに一日中ぐちぐち言われて、散々だったんだ」

「・・申し訳ない」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#533 [ひとり]
俺は、不正を暴かれた政治家よろしく、繰り返し繰り返し陳謝した。

「本当に申し訳ないです、そして記憶ないです」

「バカ」

「はい、ごめんなさい」

「・・・・・とにかくだ、そういう訳あって面接はひろむ一人でやったわけ」

「はい」

「で、採る採らないは俺が決めるって言われれば、バックレた俺は何にも言えねぇよ」

「はい」

「蓋を開けてみりゃ『根岸アキです』って訳だ」

「はい」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#534 [りんご]
あげます(・ω・)

⏰:10/02/17 01:57 📱:SH903i 🆔:sXavEeNs


#535 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/02/17 03:19 📱:SH02A 🆔:NfuyhUpk


#536 [ひとり]
「面接ん時、お前の従兄弟です、『ゆうちゃんが一緒なら安心だから』って言われたんだと、そりゃ断れねぇよ」

「アイツそんな事・・・すいません、ムリに雇ってもらって」

「いや、今日一日見てみたらかなり動けるみたいだし、実際一人増やすのは前々からひろむと話してたことだから、いんじゃね」

三田さんの言葉はありがたかった。が、アキには、軽く釘を刺しておく必要があるだろう。俺をコネにするなんて、裏口入学の〇〇゙やか〇みたいなまねは黙っていられない。

⏰:10/02/20 20:11 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#537 [ひとり]
少し現実(ここ)から意識を離した隙に──

「ゆうちゃん」

「はい?」

それはあまりに急で、自分を呼んでいると気付くのには少し時間がいった。

三田さんは少し冷めかけてきたカレーの残りに手を着けながら、意地悪くニャッとして見せた。

「こないだも思ったけど、ゆうちゃんて呼ばれてんのな、お前」

「まぁ、名前がゆうすけですから」

なんだろ、普段アキにそう呼ばれたところで何とも思わないが、三田さんに『ゆうちゃん』なんて言われると、なんだか不自然で居心地が悪い。

⏰:10/02/20 20:12 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#538 [ひとり]
「ゆうちゃんね〜」

「三田さんだって、下の名前で呼ばれる事くらいあるでしょ」

「そりゃあるけどもよ」

「の・・「のんちゃんはない」

呼びかけた名前は、その主である三田さんの声に被せられて、言いきることが叶わなかった。

「めっちゃ呼ばれてそ」

「俺はまんまだよ」

「まんまって・・望?」

⏰:10/02/20 20:13 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#539 [ひとり]
初めて三田さんの下の名前を呼んだ。疑問系だけど。すると三田さんはなんとも言い表し難い表情になる。

「何ですかその顔は」

「いやー、お前に下の名前で呼ばれるって凄げぇ気持ち悪りぃなと思って」

「失礼以外の何物でもねぇなその言い草」

「いや、マヂでムリだわ」

「わからなくもないですけどね、俺も三田さんに"ゆうちゃん"て呼ばれて凄い居心地悪かったから」

「お互い様じゃねーか」

「はい、変にとちくるっていきなり呼び方変えるとかはやめましょうね」

⏰:10/02/20 20:14 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#540 [ひとり]
俺が言うと三田さんは黙って頷いて、それから確認するように俺の名を呼んだ。

「根岸」

ほら、やっぱこれが今の俺には心地いいんだ。

「三田さん」

呼び返すと、三田さんもしっくりきたらしい。もう一度頷いてみせた。そして

「何このやり取り気持ち悪」

「そっちが始めたことでしょうが」

「いいから、とっととカレー食べちゃいな!!これじゃいつまで経っても片付きゃしないよ!!!!」

「またそうやって母ちゃんキャラに逃げる」

⏰:10/02/20 20:15 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#541 [ひとり]
そうだ、こうやってバカ言い合って、上の名前で呼び合うくらいが丁度いんだ。今までも、これからも。

非生産的かもしれない俺達の繋がりだけど、この関係が変わらずに続けばいい。そんな事を思った。変わらないなんて、そんなん不可能かもしれない、いや、絶対に不可能だけど、それでも強く思ったんだ。遠い先の事なんて想像つかないけど、そこでも俺の隣に三田さんが、アホ丸出しで笑っていてくれたらいいって。そんな事を思ったんだ。

このカレーの残りを食べたら、バスタブに湯を張って二人で入ろう。誘ったら、この人はまた火を噴くほどに照れて真っ赤になるんだろうな。ついでにちょっとイヤらしい事でも仕掛けてやろうか。

ねぇ、三田さん

「あ?」

好きだよ。

⏰:10/02/20 20:33 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#542 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ひとりがいない間にあげて下さったりんごさん、匿名さん、ありがとですヾ(^▽^)ノ

ん〜なんか平和な二人・・・きっとこのあと狭い湯船に二人仲良く浸かったりなんかしたんでしょうね。まぁ平和なんてそうそう続くもんでもないんでしょーが・・・・

アキがいるものww

⏰:10/02/20 20:39 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#543 [ひとり]
【第二十七話/追加注文しすぎると伝票がなんかもうぐちゃぐちゃであれになる】


頬が熱い。

凄い見事な往復ビンタだった。いやいや、ビンタなんて可愛い感じじゃすまねぇよもう。こりゃ平手打ちだよ、平手打ち。

うん、やっぱ漢字で『平手打ち』の方が、俺のくらったダメージがどれだけのもんかってイメージがつきやすいな。

つうか

「あのね、アキちゃん」

⏰:10/02/23 20:07 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#544 [ひとり]
いい加減に腹の上からどいてくんないかな。いくら女の子の軽い体重でも、腹に圧がかかればそりゃどうしたって苦しいのよ。

最近腹筋をサボってたツケなのか、あぁ、息がしずらいったらない。

でもアキちゃんは一向にどいてくれる気配がないから、俺はため息をついた。満腹堂の、普段いろんな人が土足で踏みしめる床に頭やら背中やらをくっつけて。

⏰:10/02/23 20:13 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#545 [ひとり]
毎日入念に磨き上げても、一日の営業が終わる頃にはすっかり元の木阿弥で、スタッフTから剥き出しの腕がベタベタして気持ち悪い。

「いい加減どいてくれると、おじさん凄い助かるんだけど」

「・・・・・・」



はい、無視ですか。

いいよ、無視したきゃしたって、そりゃ皆が皆と仲良くできる訳もねぇし、俺と口利きたくないってんならあぁそりゃ一向に構いませんとも。ただ

「もう息苦しんだよ、悪いけど」

今のこの体制で無視を決め込まれては、そんな呑気に構えてもいられない。

⏰:10/02/23 20:20 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#546 [ひとり]
よし、今晩からまた腹筋始めよう。

誓いながら強制的に体をどかそうと、アキちゃんの腕に手をかけようとした、すると

「返してよ」

「え?」

久々に口を開いた彼女の声は、微かに低く、震えて聞こえた。

返すって、何を



「ゆうちゃん返してよ」

⏰:10/02/23 20:25 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#547 [ひとり]
肝が冷えた。

返してって──
ゆうちゃんって───


この子は、根岸と俺の事・・・・・・知ってる?


「え、ちょ、アキちゃんいきなり何言って・・・」

「いきなりじゃないよ、ずっとそんな気してたんだよ」

俺を睨みつけるその瞳には、薄暗い何かが揺らめいている。華の女子大生を捕まえて、こんなん失礼かもしんないけど、普通に怖いです。

⏰:10/02/23 20:30 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#548 [ひとり]
だいたい何でこんな事になったんだっけ。

普通に俺電卓たたいてて、アキちゃんが床を磨いてて、若い子の好きそうな恋愛ネタでもふってみるか〜みたいな軽い感じで話してて───


「学校楽し?」

「はい、楽しいですよ」

「そっかーサークルとか入ってんだっけ」

「はい、飲みサーですけど」

「いいじゃん飲みサー、出会いも多そうで」

「いや〜全然ですよ〜」

⏰:10/02/23 20:40 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#549 [ひとり]
そうそう、いい感じで会話のキャッチボールしてたじゃん俺達。凄げぇ和やかだったじゃん。なのに───


「そうなの?でもアキちゃんなら出会いなんかなくてももう彼氏もちか」

「いえいえ、いないんですよ私」

「え、以外」

「・・・・好きな人なら、いるんですけど、ね」

電卓をたたく片手間に会話をしていた俺は、アキちゃんのその発言で彼女の方を見た。実は彼氏がいないってことは知ってた。だから兄貴的存在の自分にいつまでもひっついていて困るって、根岸から聞かされてたから。

⏰:10/02/23 20:49 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#550 [ひとり]
でも、片思いする相手がいるなんて聞いてなかった。これはもしかしたら根岸も知らない事実なんじゃないか?


「へぇー好きな人いるんだ」

「はい、完全に片思いですけど」

「え、そうなの?ますます以外だわおじさん」

「ずっと、離れて住んでたんですよ、でも最近ようやくこっちに出て来て、頻繁に会えるようになって、私凄いアピって頑張ったんです。でもね、ダメみたいなんです」

⏰:10/02/23 20:54 📱:F01B 🆔:T93pivbA


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