こちら満腹堂【BL】
最新 最初 🆕
#1 [ひとり]
BLが嫌いだ
BLってなぁに?
BL?おいしいの?

とゆう方は回れ右でお願いします。


誹謗中傷は受け付けません。

.

⏰:09/12/06 20:03 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#2 [ひとり]
たとえば切り傷や火傷がいくつもある筋張った手だとか

たとえば雨の日には斬新な外ハネをみせるその癖毛だとか

たとえば酒と煙草でややしゃがれたその声だとかを


意識し始めたのはいつからだったろうか


.

⏰:09/12/06 20:09 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#3 [ひとり]
思い出そうとしたところでそれは酷く曖昧で

『今日この日を以て』なんてはっきりしたことはなく

ただぐだぐだのらくらした日々の中で、徐々に俺を侵食して今に至ったんだろう。


.

⏰:09/12/06 20:14 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#4 [ひとり]
自分でも気付かない程に緩く、静かに、確実に。


今はもう、後戻りしたくても道がわからないくらいまで来てしまった。


手遅れ。どうしてくれるんだ、



アホ。

.

⏰:09/12/06 20:20 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#5 [ひとり]
「アホ!?!?ちょ、おま、店長に向かって何て口のきき方すんだろねこの子は!!!!」

「あ、すんません、声出てましたか」

「出てたよ!確実傷付いたよ今!!もう嫌だ!!!!誰コイツ採用したのー!!ひろむっお前か!!!!」

「いや、お前もいたかんね」

.

⏰:09/12/06 20:31 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#6 [ひとり]
ここは厨房
今は4時

俺達は仕込みをしている。

大鍋から立つ湯気が熱ちぃ。

.

⏰:09/12/06 20:43 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#7 [ひとり]
「ハイ、確かにいましたよ三田さん。」

「え!?マヂでか!?!?」

「ホラみろ、てか店長のお前がいない訳ねーだろさ」

「そっすよ、テンチョー」

「・・・お前の"テンチョー"て何か響きがムカつくんだけど」

「そっすか?テンチョー」

.

⏰:09/12/06 20:48 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#8 [ひとり]
「もういいってそれ」

そう笑いながら俺の横でアホほどジャガイモの皮を剥いているのは店長の三田さん。

俺の、好きな人。






男だけど。

.

⏰:09/12/06 21:59 📱:F01B 🆔:p.xQ3Rrk


#9 [ひとり]
「まぁ下にアホ呼ばわりされないように励みたまえよ」

と口を挟むのは弘(ヒロム)さん
三田さんの幼なじみで、共同経営者だ。


「ひろむのその発言が既に俺をバカにしてると思いまーす」

「いいから早よ芋むけ」

「・・・・」


二人の何気ないやりとりにも、自分には入り込めない空気を感じて黙ってしまう俺は、マヂ相当キテると思う。


⏰:09/12/07 20:11 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#10 [ひとり]
俺の気なんか知らずに、
まぁ知られちゃ大変まずいんだが。二人の会話は展開されていく。

ますます俺は黙るしかない。




このもやもやを、どうしてくれようか。


⏰:09/12/07 20:19 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#11 [ひとり]
【休憩】


今晩は、ひとりです。


とりあえずここまでをプロローグとさせて戴きます。初心者なもんで文章力なんてからきしはなくそですが、読んでやんよという暖かいお心の方がいましたら、どうぞお付き合い下さいまし。

でわでわ、更新していきますん。

⏰:09/12/07 20:29 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#12 [ひとり]
【第一話/お通しカットとか認めない】




「根岸ーもうそっち終わりー?」

「はい」

「こっちもバッチよ、んぢゃ閉めますかー」

「おーお疲れお疲れー」

「あーマヂ腰いかれた」


野郎の声が飛び交う
閉店後のここは満腹堂。


⏰:09/12/07 20:37 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#13 [ひとり]
ここは男子率が非常に高い店だ。

経営責任者の弘さん
店長の三田さん
キッチンチーフの滝さん
ホールチーフの長谷部さん

と、バイトが三名
俺こと根岸と
大学生の津久井
それに紅一点、ノジコさん

⏰:09/12/07 20:44 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#14 [ひとり]
「根岸ー今からべぇやんちで飲むかんなーバックレんなよ」

とはノジコさん。紅一点のはずの彼女は、本物の男以上に男気に溢れた姐さんだ。

因みにべぇやんとは長谷部さんのこと。

⏰:09/12/07 20:51 📱:F01B 🆔:phl4pJ/M


#15 [海斗っち]
とってもおもしろです
更新頑張ってくださいね
応援してます

⏰:09/12/07 23:25 📱:SH905i 🆔:1.n4fm7U


#16 [ひとり]
【お返事】

>>15

海斗っちさん

ありがとうございます^^
今日もカタツムリほどのスピードですが、更新予定なんで、よろしくです(´_ゝ`)ぽよーん

⏰:09/12/08 19:35 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#17 [ひとり]
>>14

「いや、俺明日ちょっと用が・・」

ダウンのフードを被りながら語尾を濁す。
明日はダチとライブがあるから、昼過ぎからリハなんだ。

「用とか言ってどうせ女だろ!?却下却下!!!!」

三田さんがオーバーに手を降って言う。
俺の首に腕を巻きつけ、グッと距離が近くなる。

「店長命令だから、うん。」


⏰:09/12/08 21:09 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#18 [ひとり]
別に明日は女とどうこうあるわけじゃなければ、
三田さんがそんなつもりで言ってるんじゃない事もわかってる。

わかってるのに、

女より自分を優先しろと言われてるように錯覚して、勝手に嬉しくなって、だから、

「ちょ、わかりましたから、首苦しい」

俺は面倒くさそうなふりで了承してしまう。

⏰:09/12/08 21:58 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#19 [ひとり]
それから結局、長谷部さんちに満腹堂スタッフ一同が集結。


畳のそこかしこに転がる空き缶と、誰がいつつけたのかジブリのアニメがBGM替わりに流れる部屋で、折り重なるようにして雑魚寝を決め込む野郎共。ノジコさんはちゃっかり長谷部さんの布団を占領している。

⏰:09/12/08 22:09 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#20 [ひとり]
壁の時計は深夜2時を少し過ぎたところ。

俺は佳境に入ったアニメを観るともなしに眺めた。女の子と男の子が早朝の坂道をチャリで2ケツしている。

「マヂこれ好きだわ〜」

俺の横に胡座をかいた三田さんは、発泡酒片手に感動しているよう。声が上擦っている。

⏰:09/12/08 23:03 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#21 [ひとり]
恐らくこのアニメを流した張本人はこの人に違いない。

「お前好き?みみすま」

「はい?」

聞き慣れない単語に俺は聞き返した。

「なんすか、それ」

「みみすまだって、み・み・す・ま!!」

別に聞こえなかった訳じゃないのに、三田さんはもう一度謎の単語を繰り返した。顔が真っ赤だ。

⏰:09/12/08 23:08 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#22 [ひとり]
「いや、知らないんで」

「いや知らないとかじゃなくてさ〜、好きかどうかって話しさ」

「はぁ・・・」

そう言われても知らないものを好きか嫌いかなんて答えられる訳がない。曖昧に返事をする俺を余所に、三田さんは勝手に喋り続けた。

⏰:09/12/08 23:13 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#23 [ひとり]
「いいよな〜青いよ〜春だよ〜駆け抜けてるよこれ〜」

「・・・・はぁ」

「お前も覚えがあるだろ根岸、進路に悩み、恋に悩み、ってさ」

「・・・・いや、俺は特には」

実際俺は進路で悩んだ事も、色恋に悩んだ事もなかった。
何となく進学して、何となく彼女をつくり、何となく別れた。

「ないわけねーだろよオイ」

⏰:09/12/08 23:20 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#24 [ひとり]
そう言い切れるほど、あんたは俺の何を知ってるんだ。

「俺、基本なんとなくでここまで来てるんで」

「嘘つけカッコつけ〜可愛いあの娘にメロメロドキュンで悩んだ日々があっただろ?」

「いや、来るもの拒まずですから」

⏰:09/12/08 23:33 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#25 [ひとり]
実際そうだった。
付き合ってくれと言われるから付き合ったし、別れようと言われるから別れた。

「でたよっ!!モテ男発言!!!!」

三田さんが顔をしかめて俺を指差す、その指を払って聞き返した。

「そういう三田さんは経験あるんすか?」

⏰:09/12/08 23:44 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#26 [ひとり]
「俺?」

聞かれた三田さんは一瞬動きを止めて、それからヘラッとだらしなく笑った。

「そりゃあるべよ、好きだけど好きって気持ちが恥ずかしくってさ、無駄にチョッカイかけて嫌われたりね〜」

「ふーん」

「ふーんておま、聞いといて素っ気なさすぎじゃね?その態度」

⏰:09/12/08 23:53 📱:F01B 🆔:QWJBQQ5c


#27 [ひとり]
「いや、マヂ俺そういう経験ないんで」

ウソをついた。
本当は、まさに今がそうだ、今の俺が。

「嫌みなヤツだなーお前は」

三田さんが好きで、悩んで、ちょっかいかけて、そっけなくして。
全部が、独りよがりで。

「根岸も一度くらい経験したらわかるよ」

もうわかってる。

「いいぞ〜そういう甘酸っぱいのも」

全然よくねぇよ、苦しいんだよチクショー。

⏰:09/12/09 00:03 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#28 [ひとり]
「俺、明日マヂ用あるんで帰ります。」

遣り場のない気持ちを目の前のこの人にぶつけてしまいそうで、俺はそそくさと腰をあげた。

「え、なした急に?」

突然の行動に、俺を見上げる三田さんはポカン顔だ。

「いや、用事があるから、帰って寝ないと」

「ここで寝てきゃいいべ」

「風呂も入りたいんで、荷物もあるし」

「今2時過ぎよ?」

「チャリあるし」

⏰:09/12/09 00:15 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#29 [ひとり]
「いいから今日はここで寝てけって、俺が朝起こしてやっから」

腕を捕られた。

「いや、本当、帰ります」

「いや、本当ムリだし」

意味がわからない。

顔真っ赤で完全に酔っ払いだし、俺より5つも年が上のアラサーおやじだし、なのになんか帰るなとか腕掴んで上目遣いされて俺心臓バクバクいってんだけど。マヂで、

意味がわからない。

⏰:09/12/09 00:25 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#30 [ひとり]
三田さんの無意識の行動に、一々ムダな考えを巡らせては一喜一憂する。

帰るなと言われて喜んでいる俺と、何も知らずに無責任な事言うなと憤る俺が混在して、ぐちゃぐちゃだ。

いっそ今ここで言ってしまおうか。

あんたが好きだ

って。

⏰:09/12/09 09:19 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#31 [ひとり]
長谷部さんちの、酒の匂いが充満して換気もされてないこの部屋で。
みんなが横で寝ているこの部屋で。
『みみすま』とやらのエンディングロールが流れるこの部屋で。

あんたが好きなんだ

って。





そんなん

⏰:09/12/09 09:24 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#32 [ひとり]
「言えるわけねぇし・・・」

「ん?」

「いや、とにかく帰るんで離して下さい」

「店長の俺がこんなに言ってんのにお前は帰んのかよ根岸ー」

「帰ります」

「そっけなー」

三田さんは言いながら掴んでいた俺の腕を放るようにして離した。

⏰:09/12/09 09:30 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#33 [ひとり]
「じゃ、お疲れした」

俺が言って後ろの扉へ向かおうとすると

「おぅ、待てコラ」

「なに?」

「なにじゃなくて、送るし」

三田さんはふらふらと立ち上がった

「うぁ゙!!足痺れた気持ち悪りぃー」

それから痺れたらしい足にできるだけ刺激を与えないように、変な歩き方で俺に近付いてきた。

「ホレ、帰るんだろ?」

⏰:09/12/09 09:38 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#34 [ひとり]
「送るってあんた、俺チャリなんだってば」

「だからその辺までだよ、俺も風に当たりてぇし、付き合え」

そして俺より先に部屋を出ていってしまった。

「・・・・・・勝手だなぁ」

仕方なしに後に続く。

⏰:09/12/09 09:42 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#35 [ひとり]
「ちべ(冷)てぇー」

「もう12月っすからね」

「12月かよー1年早えーなオイ」

「その発言、かなりおっさんじみてますよ」

「ほっとけ!!」

俺達はチャリを挟んで横並びで歩いた。
二人分の白い息が、尖った冬の空気に溶けて消える。

⏰:09/12/09 09:48 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#36 [ひとり]
「今年のクリスマスも、このままじゃクソスマスで終わりそうだなー」

「三田さん彼女作んないんすか?」

「お前はっ倒されたいの?作んないんじゃねーよできねんだよ!!」

「ふーん」

「はい出た!!根岸の"ふーん"返し!!!!」

「あんた声デカいって」

⏰:09/12/09 09:55 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#37 [ひとり]
もう既に三時になろうかというところ、寝静まった家々。俺達以外誰もいない道に三田さんの声はよく響いた。

「つぅかあんたそろそろ戻らないと」

「え?」

「いやだって、あんま行くと帰り面倒いでしょ」

「あ〜〜〜・・・・うん」

「・・・・・・・あんた」

「そうだね、帰り道がね、うん」

そっかそっかと頷く姿に、嫌な予感がよぎる。

「あんた俺を"送ってる"ってこと忘れてたでしょ」

現にもう一駅分は歩いてきてしまっている。

⏰:09/12/09 10:17 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#38 [ひとり]
「店長にあんたとか言わないのー」

「話し逸らさないで下さい」

「んー・・・・うん、まぁアレだよ、つまり」

目が右へ左へ泳ぎに泳ぎまくっている。
俺の予感は確信に変わった。

「根岸んち泊め「嫌です」

最後まで言わせずに遮ると、口をものっそい勢いでへの字に曲げた。

⏰:09/12/09 15:06 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#39 [ひとり]
「お前言わせろよそこは」

「だって嫌っすもん」

「送ってやった俺の優しさをそんなぞんざいに蹴っていいのか」

「"やった"っつーかムリと付いてきただけでしょーが」

「んなッッ!!!!元も子もない事言うなよ!!!!」

「事実でしょーが!!!!」

立ち止まり、向き合った俺達は言い合いになる。正面から見た三田さんの顔はもう酔いが引いたようで白っぽく、闇にぼんやり浮かび上がっている。その中にあって、鼻の頭と少し覗いた耳だけが赤い。

⏰:09/12/09 19:43 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#40 [ひとり]
「泊めろ!!」

「嫌です!!」

「泊めろって!!」

「嫌ですってば!!」

頼むから大人しく帰ってくれ。俺はこのもやもやを、密室に二人きりで隠し通せる自信がなかった。

「頑なかっっ!!!!」

「そりゃあんたでしょ!!!!」

⏰:09/12/09 19:51 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#41 [ひとり]
「うるせぇな!!!!!」

「「!!!???」」

突然頭上から浴びせられた怒鳴り声に、ハッとそちらを仰ぎ見れば

「テメェら今何時だと思ってんだっっ!!!!とっとと帰ってクソして寝ろっっっ!!!!」

道路沿いのボロなアパートの一室から、冬場にも関わらずランニングシャツ一丁のおっさんが俺達を睨み下ろしている。

「「すんませーん」」

俺達は駆け足でその場を後にした。

⏰:09/12/09 19:58 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#42 [ひとり]
───
──────
─────────

「おじゃましまーすよっ」

「・・・・・・」


結局、三田さんは俺んちまで付いて来た。
鼻歌まじりに履き潰したティンバーのブーツを脱ぎ捨てる三田さん。

「お前んち何かいい匂いすんな」

「・・・・あぁ、アロマたいてるんで」

「うっわ〜恥ずかしいヤツだな〜」

「意味わかんねぇし」

⏰:09/12/09 20:04 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#43 [ひとり]
今だ赤みを帯びた鼻をひくひくさせて部屋の匂いを無遠慮に嗅ぎまくっている。

「いいから早く中入って下さい」

「へいへい、あ、便所貸して〜」

「・・・・嫌です」

「よし、じゃーここで「そこ、左側です」

「あいよー」

言ってトイレに駆け込んだ。

⏰:09/12/09 20:11 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#44 [ひとり]
「・・・・・ふぅ」

俺はフードを脱いで、その場にへたり込んだ。

「どうすんだよコレ・・」

マヂで途方に暮れた。密室に、好きな人と二人。これはかなり宜しくない展開だ。

とにかくアレだ、変な気が起きる前に寝てしまおう。

⏰:09/12/09 20:16 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#45 [ひとり]
そうと決まれば善は急げだ。ダウンとデニムは脱ぎ捨てて、とにかく着替えとバスタオルをひっ掴み風呂場へ向かう。と、

「・・・何やってんすか」

「いや、風呂借りようかと思って」

「したら先に一言あるでしょーよ」

「あ、借りまーす」

「遅せぇし・・・コレ、使って下さい」

「おぅ、さんきゅ」

⏰:09/12/09 21:10 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#46 [ひとり]
俺は自分のために持ってきたタオルと部屋着を脱衣所に置いて、ひとまずリビングへ退散。ベッドに倒れ込んだ。

「本当に勘弁してくれよ」

思わず声が漏れた。

俺んちの脱衣所で、勝手に風呂借りようとした三田さん。勝手に服脱いでた三田さん。

「身体・・・・」

見てしまった、あんな不意打ちで。まぁ、上裸だけだけど。

⏰:09/12/09 21:18 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#47 [ひとり]
でも、バッチリ目に焼き付けてる俺。しっかり反応してる俺。ボクサー一丁だったから、バレないように腰を引き気味にして退散した俺。






重傷だ。

⏰:09/12/09 21:22 📱:F01B 🆔:vju6tYo2


#48 [ひとり]
寝床はこのシングルベッドが一台。

三田さんにはここで寝てもらって、俺はカーペットで雑魚寝だな。

できるだけあの人に近づかないように、見ないようにしよう。

そうしよう。

頭ん中でシュミレーションしながら、身体がズンと重たくなるのを感じた──

⏰:09/12/10 20:28 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#49 [ひとり]
──
────

程よくスプリングの効いたベッドの上、ふかふかと柔らかく肌に馴染む布団の中で。ブラインドの隙間から差す陽に瞼を灼かれ目が覚めた。

いつもの部屋で迎える、いつも通りの朝。

背を反らすように、ゆっくりと伸びをする。

⏰:09/12/10 20:29 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#50 [ひとり]
その際横に張った肘の右側に、布団とも壁ともつかない感触。まだ薄らぼんやりした頭でもわかる違和感にそちらを向いて、


「!!??!!??」


寝起きドッキリ。冗談ぬきに息が止まった。鼻がつきそうな至近距離に、寝息をたてるおっさんが一匹。

「三田さん・・」

どうやらあのまま寝てしまったらしい俺の横で、壁に背をつけて狭さもお構いなしに爆睡している。

⏰:09/12/10 20:29 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#51 [ひとり]
その表情(カオ)は普段の三田さんが嘘のように幼い。

普段はギャーギャー騒がしく、おっさんキャラを全面に押し出してるこの人は、実はかなり造りが繊細だったりする。線も細く、飯食ってんのかよと思うほどだ。

そんな新鮮な様を堪能してハッと我に返れば、リハの時間が迫っている。

「やっべ」

俺は慌ててベッドから飛び出した。

⏰:09/12/10 20:30 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#52 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第一話はこれで完結です。中途半端ですんませんが、それも含めてだらだらなひとりスタイルとゆーことで、ご容赦くだせぇ。

二話目は三田目線で書くつもりですので、宜しく。

意見や感想頂けると小躍りして喜びます。

ぴよーん

⏰:09/12/10 20:35 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#53 [ひとり]
【第二話/女子は必ずサラダを頼む】



ガキん時の俺は凄げぇ女顔で、チビだった。挙げ句泣き虫のヘナチョコだった。だからクラスの男子にはからかわれ、女子には「可愛い」を日々連呼された。

言っとくけどさ、思春期の童貞男に「可愛い」とか吐くのは「死ね」と同義だかんね。マヂ男のプライドずたぼろだかんね。

⏰:09/12/10 21:10 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#54 [ひとり]
それでもヘナチョコな俺は当然自分の力だけでその窮地を打開できるはずもなく。

悩みに悩み、考えに考え抜いて一つの結論に達した。




そうだ、ヤンキーになろう。

⏰:09/12/10 21:14 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#55 [ひとり]
ちょうどいいところに幼なじみで二こ上のひろむがいた。当時高校一年生だったアイツは、既にそっちの街道を爆進中で、今見たら腹筋痙攣、100バー爆笑もんだけど、パンチに短ランがトレードマークだった。

俺は訴えた。ヤンキーになりたいんだと。ヤンキーになって誰からも舐められない男になりたいんだと。

⏰:09/12/10 21:27 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#56 [ひとり]
ひろむのつてで念願かなってヤンキーの仲間入りを果たした俺は、荒れに荒れた。中二の夏。我ながら駆け抜けてたと思うよ、うん。

全然泣かなくなったしね、喧嘩だって拳平らになるくらいやったしね、女子にもモテたしね、ケバいヤン女にばっかだけどね、うん。

⏰:09/12/10 21:38 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#57 [ひとり]
まぁまぁ前置きが長くなったけど、とにかくそんな感じで俺は舐められたくない一心で背伸びしてきたわけです。

社会に出てからも舐められないようにって一心で髭とか生やしてみて今日に至るわけです。

それが




「アレ?お前髭どしたよ」

⏰:09/12/10 21:47 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#58 [ひとり]
「──」

「あん?」

「起きたらなくなってたんだよ!!!!」

「意味わかんね」


俺だって「意味わかんね」っての。

朝、満腹飲みして根岸んちに泊まった朝。気付くと俺の顎髭が、俺の鎧と言っても過言じゃあない顎髭が、




忽然と消えた。

⏰:09/12/10 21:54 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#59 [ひとり]
根岸の姿もそこには無く、色気も素っ気もない書き置きが一枚。


三田さんへ

鍵はポストに入れといて

根岸




いやいやいやいや

⏰:09/12/10 21:57 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#60 [ひとり]
その前に言うことがあるでしょーよ!!

俺の髭に何してくれてんだあの野郎!!!!


「お前顎ツルツルだとやっぱ若く見えるなー」

呑気に無神経なこと抜かす滝をねめつける。

「デリケートな部分だからあんまそこツッコまないで!!!!」

⏰:09/12/10 22:01 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#61 [りんご]
実ゎ…☆
最初のときからずっと
読んでました´ω`笑
思いきって
コメしちゃいますー..
BLあんまり
好きじゃなかったのに
これはすごーく
おもしろいです´ω`☆
文の感じも素敵です
更新楽しみにしてます
頑張ってください

⏰:09/12/10 22:26 📱:SH903i 🆔:gCSWCqa.


#62 [ひとり]
>>61

りんごさん

コメありがとございますヒーハーヾ(´ω`)ノ喜

BLあんま得意でないんですね〜
そんなりんごさんにも気軽に読んでもらえるよなゆるーい感じで書き進めてきますんで、今後ともご贔屓に(´ω`)ペコペコ

いやぁコメ貰えるとひとりマヂ鼻息荒く頑張れます!!あざしたぁー

⏰:09/12/10 23:27 📱:F01B 🆔:CoaqmSpo


#63 [りんご]
BLって分かるようでやっぱ馴染みない世界なんで
んー(゚∀゚)?って
感じだったんです
でもこれは好きです

どんな内容であれ最後まで読みますよ
ひとりさんのお好きなようにお話展開させちゃってください☆!これからがとっても楽しみー
ハラハラドキドキさせてくださいね

何度もすみません
ヒーハー(´∀`)ノ

⏰:09/12/10 23:49 📱:SH903i 🆔:gCSWCqa.


#64 [ひとり]
>>63

りんごさん

ハラハラドキドキですか、努力します!多分ひとりにはムリな高等技術ですが(゚∀゚)ケラケラ

ではでは〜今からまた更新、ちょっぴですがしていきますよーぃ(゚∀゚)ケラケラ

⏰:09/12/11 00:18 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#65 [ひとり]
「んな騒ぐなや髭くらいでー」

「"くらい"じゃない!髭のない俺の顎なんて、チンコ丸出しの下半身みたいなもんなの!!!!」

「猥褻物かぁーそりゃいかんなぁ」

「いかんですよ!!いかんにも程がありますよ!!!!」

滝を相手に開店前の満腹堂でわめき散らす俺の頭に突如衝撃が走る。

「痛っ!!!?」

「仮にも飲食店なんだからあんまでけぇ声でチンコとか言うでないよ」

とっさに頭を庇った両手はそのままに、振り向くとひろむが呆れた顔で俺を見下ろしている。

⏰:09/12/11 00:30 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#66 [ひとり]
「外まで聞こえてんぞ」

「だってひろむ見てくれよコレ〜」

情けない声を出しながら、無防備な己の顎を突き出して見せる。

「お、髭剃ったのか」

「だから剃ったんじゃねぇ!!!剃られたんだ!!!!」


犯人は奴しかいない。
おのれ根岸っ覚えていやがれ。

⏰:09/12/11 00:35 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#67 [ひとり]
【休憩】

またまた今晩は、ひとりです。

短いですが第二話完結です。只単に、髭をそられた可哀想な三田が書きたかっただけですごめんなさい←

あと一話二話ときてお気づきでしょうが、タイトルはまるきりからきしの無意味です。気分です。

ではでは眠くなるまでもう少し、再び根岸目線に戻って更新させていただきますん。らんらんるー

⏰:09/12/11 00:45 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#68 [ひとり]
【第三話/居酒屋のお絞りの消毒臭さが好き】


ライブが無事終わり、ダチとの打ち上げも解散した俺が最寄り駅に降り立ったのは午前零時ジャスト。

今日が"昨日"になり、明日が新しい"今日"になるこの瞬間が、結構好きだったりする。目には見えなくても確かにそこに在るという安心感が、いい。


空気に触れる身体表面は確実に冷たいのに、一枚隔てた皮膚の下では、未だアルコールが冷めることなく力を発揮している。

⏰:09/12/11 01:03 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#69 [ひとり]
そして一人になってふっと思うのはあの人の事だ。

予期せぬ展開から一夜を共にした・・エロな意味でなく。そして不意打ちの寝顔。あれは反則だった。

思わずその可愛い寝顔には不釣り合いだと、髭を剃り落としてしまったが三田さん──


「怒ってんだろうなぁ」

なんて他人事のように呟いてみる。

⏰:09/12/11 01:09 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#70 [明希゚J゚=アキ]
 
更新されてるのが、
嬉しいです―ツ!
「ゆっくり更新して下さい…」
と言いたいんですが、
正直言うと早く読みたい!
て思っちゃいます…;;
でも、めちゃくちゃ応援してまつ!

⏰:09/12/11 05:40 📱:W65T 🆔:I1xxthB2


#71 [ひとり]
空には月。
欠けて頼りなげに、青白くそこに在る月。細っこい、酒の抜けた後のあの人の顔みたいだ。

なんて、気色悪い。売れないポエマーみたいな事を一瞬考えて鳥肌がたった。寒さとかそんなんじゃない鳥肌が。

疲れてるんだろう。早く家に帰ってディフューザーをつけよう。それから熱いシャワーを浴びよう。

⏰:09/12/11 09:15 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#72 [ひとり]
そんで寝る前には読みかけの本も読もう。

疲れてるんだ。
ぐっすり寝て、朝を待とう。

目が覚めればきっと疲れもとれて、ポエマーな俺なんか消えていなくなる筈だから。跡形もなく。

⏰:09/12/11 09:16 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#73 [ひとり]
考えていると、一人暮らしの我が家についた。

築十三年、どこにでもある平凡なボロアパートだが、いい具合に煤(スス)けた外壁に蔦(ツタ)が絡む様なんかは、貫禄があって結構気に入ってたりする。



帰宅後すぐに予定通りアロマをたき、シャワーを浴びた。ジンジャーティーも飲み、飲みながら丁寧に本も読んだ。

俺だけが作る、俺だけの空間、時間、ペース。

⏰:09/12/11 09:19 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#74 [ひとり]
なのに

「あ゙〜〜〜駄目だ」


チラつく。何をしててもあの人がチラついて仕方ない。俺の空間も、時間も、ペースも、全てをかき混ぜてぐちゃぐちゃにする。

丁寧に時間をかけて読んだ筈の本の内容だって、実際は一文字も頭に入ってこないし。紅茶だって本当はカモミールにしようとしてたのに間違えてジンジャーティー入れちまうし。


「こりゃもう限界か・・・・」

俺は観念したように静かに呟いて目を閉じた。

⏰:09/12/11 09:20 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#75 [ひとり]
>>70

明希さん

応援ありがとござい松ヾ(´∀`)ノ

期待に応えられるよに、できるだけ頑張ります!!!!が、多分むりなんで許して下さい(ぇ

ゆるーいとろーい更新でも、見捨てないで下さいましね(´;ω;`)テヘ

⏰:09/12/11 21:49 📱:F01B 🆔:4z3oIw1g


#76 [明希゚J゚=アキ]
 
待ってますよ!
ゆる〜リ更新して下さい!
 

⏰:09/12/11 22:15 📱:W65T 🆔:I1xxthB2


#77 [ひとり]
>>76

明希さん

そぉ言ってもらえるとひとりめっちゃやりやすいっす´∀`あざーす

でわでわ、今からまたぽっちりぽっちり更新しもすん。

⏰:09/12/12 08:07 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#78 [ひとり]
>>74
【つづき】


───
─────

翌日は雨だった。
いつもはチャリで向かう店まで、今日は電車で。

満腹堂は平日ランチもやっているので、早番の俺は午前中から店に向かう。

店の手前に来た所で三田さんの姿を見つけた。
傘を腕と首でひっかけて、両手でシャッターを上げようとしている。

⏰:09/12/12 09:12 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#79 [ひとり]
しゃがんだ足元が不安定に揺れていて、見ていられずに駆け寄り声をかけた。

「俺やりますよ、これ持ってて」

三田さんの胸に無理やり自分の傘を押し付け、ふんとシャッターを持ち上げた。建て付けが悪いのか初めこそ力が必要だが、一度動き出すとあとはガタガタとでかい音をたてながら素直に収まるところへ収まっていく。

⏰:09/12/12 09:49 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#80 [ひとり]
そして傘を受け取ろうと振り返れば

「根岸、テメェ・・・」

俺の上に傘を差し出した姿で、三田さんはドスの効いた声を出す。あ、やっぱり

「やっぱり怒ってます?」

「当たり前だ好き勝手しやがってコノヤロー」

⏰:09/12/12 09:58 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#81 [ひとり]
「勝手とか言うならあんたの行動だって勝手放題でしょ」

「余所は余所!うちはうち!!!!」

「母ちゃんかよ」

「オマケ付きのお菓子勝手にカゴに入れんじゃないの!戻してきなっ!!」

「入れてねーよ母ちゃん」

「あんたみたいな悪い子うちの子じゃないからね!うちに上げてやらないからねっ!!」

「いや寒みぃしそれはマヂ勘弁」

⏰:09/12/12 10:42 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#82 [ひとり]
俺が素で寒そうにしてるのがわかったのか、三田さんは舌打ちしながらも鍵を開けてくれる。


暖房のまだ効いていない室内でも、外に比べると随分暖かく感じた。

狭っちいバックルームで着替えを済ませホールに出ると、三田さんはカウンターで一服している。
暖房をつけたらしい。業務用エアコンからブーンと低い稼働音と一緒に、生暖かい風が強力に流れ込み、店内を満たしている。

⏰:09/12/12 11:24 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#83 [ひとり]
耳が寂しくて、レジ下のデッキに自分のiPodを繋ぎ曲を選ぶ。どれにしようか

「お前さー」

「なんすかー」

片手間に返事を返す。久々にユニコーンでもかけようか・・

「なして不意打ちに俺の髭ったんよ」

それとも午前中だし静かめの何かコンピでも・・・

「なぁおい根岸ー」

三田さんはカウンターから声をよこす。

「いやー綺麗な顔がもったいなーと思・・・・」

⏰:09/12/12 11:41 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#84 [ひとり]
言いかけてからハッとして口を噤んだ。俺今、何言った?

"綺麗な顔"とか。
おいおいちょっと待ってくれ自分。

恐る恐るレジ下から顔を出して様子を伺うと、三田さんとバッチリ目が合う。

⏰:09/12/12 11:51 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#85 [ひとり]
それから

「お前なぁ」

ヤバい、今の発言は完全にアウトだろ。一度合ってしまった視線をそらせずにいる。と、

「もちっとマシなジョーク言えないのかよー、センスねぇなぁ」

三田さんは呆れ顔。やれやれと煙草を灰皿に押し付けてスツールを降りると「着替えてこよ」と言ってバックへ消えていってしまった。

バレて・・・・・ない。

⏰:09/12/12 11:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#86 [ひとり]
ないけど、

「これはこれで、キツいな」

バレたら困るとか思ってたくせに、ああいう返しをされると何だかシャクに触る。

知ってほしいのか、本当は。いっそバレたらいいとでも、思ってるのか俺は。

⏰:09/12/12 12:23 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#87 [ひとり]
わからなくなってしまった。

でも確かに、バレたらいっそ楽になれるのかな、と思わなくもない。

気持ちを隠して接することが、日ごと苦しくなっている。そのせいか、日々あの人について考える時間が増えているのも事実だ。

きっかけさえあれば、もう気持ちを打ち明けてしまいそうだ。
そうなったら、あの人はどんな顔するんだろう。
今みたいに「センスねぇなぁ」なんて言って呆れるんだろうか。

⏰:09/12/12 12:32 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#88 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第三話はこれにて完結です。言いたい、言えない、揺れる根岸でした。チャンチャン
そしてまるきり気付かない三田でした。そりゃそーだ、三田はノンケだもの。まぁ、根岸も基本はノンケだけど。そんな設定ですた。はい。

⏰:09/12/12 12:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#89 [りんご]
更新されてるー☆
わーい\(^∀^)/
おもしろいです!

⏰:09/12/12 13:36 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#90 [ひとり]
>>89

りんごさん

りんごさんだーヾ(゚∀゚)ノヒャーイ
またまたコメ嬉しすでっす(>∀<)

今からまたちょと更新しますねぇ

⏰:09/12/12 15:55 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#91 [ひとり]
【第四話/だし巻き卵のおいしさよ】


ランチと夜の営業の合間。
雨の上がった満腹堂裏のベンチで軽く一服。店内で火照った身体に、冬の風が心地いい。

「横いい?」

声がして視線を向けるとノジコさんがいた。

「お疲れさまです」

「お疲れ」

スキニーで脚線美が強調された長い足を組むと、俺の横で煙草に火をつける。
旨そうに、ゆっくりと深く煙を吸った。

⏰:09/12/12 15:56 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#92 [ひとり]
それから徐にノジコさんは口を開く。

「根岸さー何かあった?」

「え、なんすか急に」

こういう勘が鋭いとこ、ドキッとする。しかも聞き方がストレート。回りくどい事が嫌いな彼女らしい。

「いや急っつーか結構前から気になってたんだわ」

「・・・・・・・」

「・・言いたくなきゃムリと聞くような野暮なことはしないよ」

「安心して」と軽く笑ったノジコさん。俺はその言葉に本当に安心して、気づけばとんでもない質問をしていた。

「ノジコさんは、女の人好きになったりしますか?」

⏰:09/12/12 15:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#93 [ひとり]
予期せぬ俺の質問に固まったノジコさんは、そのまま鼻から煙をフスーっと吹き出した。

「すんません、息なり変な事聞いて」

気まずくなって謝る俺。

「何で謝るの?」

「いや、だって」

「全然変な事じゃないじゃん」

⏰:09/12/12 15:57 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#94 [ひとり]
「・・・・」

「あたし両刀だし」

「りょ!?・・それって」

「バイだよ」


思わぬカミングアウトに、今度は俺が固まった。

「驚きすぎだから」

何でもないように、実際ノジコさんにすればそれは当たり前の事なのかもしれないが、ケラケラと笑った。ノジコさん、よく笑う人。

⏰:09/12/12 15:58 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#95 [ひとり]
「マヂすか」

「マヂっす、引いた?」

「いや、全然。悩んだり、なかったんすか?」

「ん〜・・・ないといえば嘘になる・・かなぁ」


少し遠くを見るようにしてノジコさんは続けた。

「でも好きになったらさぁ、もう手遅れなんだよねぇ」

⏰:09/12/12 15:59 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#96 [ひとり]
今の俺に、 その台詞はズシンと響いた。

「俺もそう、思います」

「だろ?」

俺の顔を見て、満足そうに言った彼女は、また旨そうに煙草を吸う。

「はい」

俺もそれに習って短くなった残りに口をつけた。

再び見上げた雨上がりの空。雲間から一筋、光がさしている。

⏰:09/12/12 16:02 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#97 [ひとり]
【休憩】

第四話、完結でーす。
ひとりの書く話し、一話一話が短いんで読みごたえないかもですがすんません。

ノジコさんはなんとバイでありました。色んな人がいるんです。"みんな違って、みんないい"です。

シュワッチ!!

⏰:09/12/12 16:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#98 [明希゚J゚=アキ]
 
(゚A゚;)更新されとる!
三田さんと根岸の
コンビネーション……
最高っす(*´д`)ハァハァ

頑張って「ひとり」殿(゚-゚) 

⏰:09/12/12 17:31 📱:W65T 🆔:W3gCfKok


#99 [ひとり]
>>98

明希さん

更新しちゃったよ、ムハハ(´∀`)できるだけ砕けた感じの会話を心がけていきたいと思っとりますんで、宜しくです(´_ゝ`)

明希さんいぱい来てくれて感謝いたしております(土下座)

⏰:09/12/12 18:46 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#100 [ひとり]
【第五話/居酒屋でハメ外し過ぎる奴らは大概スーツ】


「コルァ根岸先黒コルァ!!!!」

「三田さんそうゆう品のない絡み止めてもらえますか」

「うっせバカコルァ!!俺はまだお前の大罪を放免したつもりはないんじゃコルァ!!!!」


閉店後の三田さんはやけに巻き舌で絡んできた。

「つうか俺まだ剥けてもないんで」

「嘘つけコルァこのヤリチンインテリア気取りコルァ!!!!」

「・・・それは俺が家具みたいなヤツって事すか?それともインテリ気取りって言いたかったんすか?」

「・・・・・・・・コルァ!!!!!」

「"インテリ"って言いたかったんすね」

⏰:09/12/12 18:56 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#101 [ひとり]
「お黙り!!!!とにかく俺はまだお前を許しちゃいないんだよ!!!!!」

「・・・・・・・」

「オイ、声に出さなくても"面倒くせぇ"って顔に書いてあんぞ」

「あ、すんません」

「何その思いもしませんでした顔!!!!わざとらしいんですけど!!!!」

⏰:09/12/12 19:01 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#102 [ひとり]
言って至近距離でメンチを切られた。俺のが頭一つ分くらいデカいもんだから、なんか見上げる形の三田さんはちょっとマヌケだ。

とか今言ったら"火に油"なので、そんなバカはしない。

「すんませんでした。でもまた生えてくるんだから・・」

現にもう三田さんの顎には新しいメンバーが堂々揃い組だ。

⏰:09/12/12 19:06 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#103 [ひとり]
「そういうこっちゃないの!!悪いと思ったら素直に謝る!!!それができるヤツはまだ伸びしろがあるって先生思う!!!!」

「母ちゃんになったり先生になったり、世話しないねあんた」

「このへそ曲がり!!!!」


話しが全然先に進まない。

確かに勝手に許可なく髭を剃ったのは悪かったが、絶対にその方がいいって心底思う俺は素直に謝れないでいた。

⏰:09/12/12 19:14 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#104 [ひとり]
【訂正】

× 世話しない
○ 忙しない

すんませんした

⏰:09/12/12 19:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#105 [ひとり]
「じゃーどしたらいんすか?」

途方に暮れる俺と、沸点をかるく突破した三田さんの間

「まぁまぁまぁまぁ」

言いながら入ってきたのは弘さんだ。

「お前熱くなりすぎ。根岸も、一言素直にごめんて言ってやれよ」

⏰:09/12/12 19:19 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#106 [ひとり]
「"やれ"ってなんだよ!!俺はそんなんで謝られたって嬉しくもなんともねぇし!!!!」

「はいはい」

「流すな!!!!」


仲裁役を買って出てくれた弘さん。なのに俺は





嫉妬してる。

⏰:09/12/12 19:24 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#107 [ひとり]
なんか、弘さんに三田さんを取られたみたいな感覚。上手く言えないけど。

「ひろむも俺の事舐めてんだろ!!」

「舐めてねって」

「ひろむ」って呼ぶ三田さんの声が特別な感じがするのも、





ムカつく。

⏰:09/12/12 19:28 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#108 [ひとり]
嫉妬、疎外感、喪失感、また嫉妬。


気分が悪い。


「もういっすか?俺あがるんで」


早口で言ってバックルームへ向かった。うぜぇ。

⏰:09/12/12 19:32 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#109 [ひとり]
何がうぜぇかって、こんな気持ちになってる俺自身が一番うぜぇ。

23にもなって、自分の気持ちもコントロールできないなんて。

バックルームのロッカーにゴツと額を打ち付けた。


「カッコ悪・・・・」

⏰:09/12/12 19:35 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#110 [ひとり]
───
─────

着替えを済ませてホールに出ると、既に二人の姿はなかった。

「鍵・・・・」

しまった、俺は今日鍵を持っていない。閉めらんねぇじゃん。

今日鍵持ってんのは──

キッチンの当番ボードに「鍵」のマグネットが張ってあるスタッフを探すと「三田」「長谷部」とあった。

⏰:09/12/12 19:42 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#111 [ひとり]
三田さんは気まずいから、長谷部さんに電話する事にする。

ケータイの履歴から、長谷部さんに発信。「呼び出し中」の表示画面をぼんやり見下ろしていると

「おいまだかよー」

声がして、店内に冷気と外の匂いが滑り込んできた。

⏰:09/12/12 19:47 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#112 [ひとり]
「帰ってなかったんすね」

ケータイ片手に言う俺を

「当たり前だべ、お前鍵ねぇじゃんか」

不機嫌そうに睨む三田さんの顔は、鼻から下がグルグル巻きのマフラーに隠れて見えない。

⏰:09/12/12 19:52 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#113 [ひとり]
「いいから早よ外でれ」

言われてケータイの液晶に目をやると画面はまだ呼び出し中。俺は素早くそれを切って、三田さんの開放ったドアに向かった。

─────



外には、まばらな人影。

「お前今日チャリは?」

⏰:09/12/12 20:06 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#114 [ひとり]
「今日雨だったんで」

「したら今日電車?」

「はい」

「ふーん・・・」


さっきの興奮が嘘のような普通の会話。こりゃ弘さんにお灸を据えられたに違いない。

弘さんの言うことを、大概最後は素直に飲み込むっていう三田さんのパターンを知っている俺は、また少しモヤっとした気持ちになる。

⏰:09/12/12 20:12 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#115 [ひとり]
「したらさぁ、送ってやろっか」

「え?」


突然の申し出だった。
三田さんちは、店からも近い。


「送ってやるよ、バイクあるし」

「・・・ありがとうございます」

⏰:09/12/12 20:16 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#116 [ひとり]
「うん。てか腹へらね?」

本当にこの人の会話の展開は唐突だ。

「腹ですか、まぁボチボチっすかね」

「うん、じゃ作ってよ」

「はい?」

なにが「うん」なのか、てかなんで俺が飯を?三田さんに?

⏰:09/12/12 20:20 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#117 [ひとり]
「したらさ、チャラにしてやるよ1206事件の事は」

いつの間にか三田さんの中で俺がしでかしたアレは、「1206事件」と命名されていたらしい。


「材料あるの?」

「あるよ、チャーハン食べたい」

「はい」


それで話しがまとまった俺達は、三田さんちに向かって歩き出した。

⏰:09/12/12 20:26 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#118 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第五話も完結しました。焼き餅な根岸とよく喋る三田。さてさて三田んちでチャーハン作ることになった根岸ですが──話しは六話に繋がりますです!!

⏰:09/12/12 20:29 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#119 [りんご]
またまたコメしてしまう
りんごです(´∀`)ノ

根岸と三田さんの
やり取り素敵ですね
根岸がんばー(´∀`)!

あ、感想板とか
つくらないんですか?
なんか話の途中に
コメしちゃうのが
悪い気がして(´Д`)

⏰:09/12/12 20:48 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#120 [ひとり]
【第六話/パラパラ黄金炒飯】


「お邪魔します」

「どうぞ」


三田さんちに上がったのは初めてだった。
予想外に小綺麗なマンションの二階。

「取り敢えず洗面所借りていいすか」

「おう、てかキッチンで洗えば?」

「冷えたんでトイレも行きたいし」

「あぁ」

三田さんは「こっち」と言って俺を案内すると、先にリビングにいるからと言って突き当たりの部屋に消えて行った。

⏰:09/12/12 20:55 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#121 [ひとり]
>>119

りんごさん

キャーまたまた来てくれたんすね。う、嬉しくってなんだか視界が霞むぜ(うω;)←

感想板すか〜ひとりみたいなもんがそんなんおこがましくないすかね?
うちはここで書きつつコメ頂ける感じが気に入ってますが´∀`dbヒヒヒ

読む方にしたらやっぱ読みづらいですかね?

⏰:09/12/12 21:02 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#122 [りんご]
ここにだけは頻繁に
来てますよ(`∀´)にひ

読みづらいと
読んでる方に
申し訳ない気がして
読んでるとついつい
コメしたくなるんです…りんごみたいなやつが厚かましいですね!
ごめんなさいです(´Д`)

⏰:09/12/12 21:11 📱:SH903i 🆔:ESdadqyQ


#123 [ひとり]
セパレートタイプのバストイレ。用を足し、洗面台で手を洗う。視線を手から正面に向けると、鏡の中の自分と目が合った。

これはまた、予期せぬ展開。

「チャーハン食べたいって・・・」

可愛いなチクショー。

⏰:09/12/12 21:11 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#124 [ひとり]
>>122

りんごさん

いゃいゃコメ下さるとひとりかなりテンション上がるんで、これからもちょーだいませヨーアニョハセヨー(意味不)

ぢゃ他にも板別にあったがいいて方がいれば、作るかも・・・・です(´∀`)

⏰:09/12/12 21:15 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#125 [ひとり]
>>123

【つづき】

リビングでは、既に部屋着になってテレビを観る三田さんがいた。若手のお笑い芸人がベタベタの液体を頭から被って笑いをとっている。

「キッチン借ります」

背中に声をかけると、寝転んだ大勢で顔だけこちらに捻って

「お願いねー」

と一言。直ぐにテレビに視線を戻した。

⏰:09/12/12 21:22 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#126 [ひとり]
「さてっと」

チャーハン作りは手早さと火力が勝負だ。そして冷や飯。これでなくっちゃ始まらない。

冷蔵庫の中味は─卵・人参・玉ねぎと万能ネギ、チャーシューはなかったから代わりにハムでいいか・・・


腕まくりをして、いざっっ!!!!

⏰:09/12/12 21:38 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#127 [ひとり]
───
────

「うんめぇー!!」

一口ほうばった三田さんは声を上げる。胡座をかいた足をギュッと身体につける様に縮める様。また可愛いなんて思ってしまう。


今日、ノジコさんと話してから。俺は自分の気持ちに整理がついた気がする。整理っつーか、逃げない覚悟、っつーのかな。

⏰:09/12/12 21:46 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#128 [ひとり]
男の三田さんに、特別な感情を持ってる自分を受け入れるのにもかなりの決心がいったけど、
そっから自分の気持ちを相手に隠さない決意をするのは、更に勇気がいるもんなんだな。

でももう、決めたから。

三田さんにしたら迷惑極まりない決心かもしれないが、一度ビシッと振ってもらわなきゃ俺だってにっちもさっちも行かないんだ。

⏰:09/12/12 22:01 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#129 [ひとり]
「─ぎし──根岸!!!!」


名前を呼ばれていたらしい。

「はい、なんすか?」

「食えよ、冷めるべ」

「あぁ、うん」

それから暫くはテレビを見ながら無言でチャーハンを食べた。我ながら、上出来。

⏰:09/12/12 22:03 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#130 [ひとり]
「あ〜酒飲みてぇな〜」

画面を見つめたまま、唐突に三田さんが呟いた。

「いやいや、送ってくれるんでしょ」

「ん〜そうなんだけどさ、美味いもん食ったら酒飲みたいべ?」

「そりゃそうだけど・・」


⏰:09/12/12 22:40 📱:F01B 🆔:ql9Mw/7E


#131 [明希゚J゚=アキ]
 
 |ω・`)来ちゃった←
僕、ひとり殿のファンに
なっちゃったみたいです! 
あいらぶゆー(う3・`)です!←キモ

 

⏰:09/12/12 22:44 📱:W65T 🆔:W3gCfKok


#132 [ちずる]
感想板作ったらどうですか(´・ω・`)?
コメがたくさんあって読みいくいです・・・
私もこの小説大好きなんで頑張ってください

⏰:09/12/13 00:29 📱:SH905i 🆔:4PLFFtIA


#133 [ひとり]
>>131

明希さん

ミートゥー(ノ´3`)ノ←キモ返しwW

ファンとか嬉しっす(⊃∀//)照
明希さんに飽きられないよに頑張って書きますねっっ_φ(`∀´)

あ、感想板を総合に立てさせて頂きました。ひとりの分際で調子のってすんません(`ω`;;)
こちらです、よろしくちゃーん

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4639/

⏰:09/12/13 05:05 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#134 [ひとり]
>>132

ちずるさん

初めまして〜コメありがとうございます(´∀`)大好きだなんて・・///キャッ(黙ry)

見づらかったですか
ご迷惑おかけしました;;土下座

てなわけで、総合に板作っちゃいました!!
是非遊びきてください。泣いて喜びます←

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4639/

⏰:09/12/13 05:10 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#135 [ひとり]
>>130

【つづき】

「したらもうさ、いくね?」

「はい?何がすか」

「いや、送るとかさ、いくねぇかって話し」

「いや待って下さいよ」

「泊まればいいじゃん、うち」


皿の上、半分くらい食べたチャーハンの山をスプーンで更に切り崩しながら三田さんは言った

⏰:09/12/13 05:18 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#136 [ひとり]
「俺達もう、お泊まりした仲じゃん」

冗談で言われてるとわかるので

「おっさんが"じゃん"とか、禁止コードすれすれだな」

冗談で返した。
内心は、赤面症じゃなくてよかった。なんて、三田さんの無責任発言にドキドキしている。

⏰:09/12/13 05:23 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#137 [ひとり]
「一々傷付くなお前の発言は!!」

オーバーに傷つきました顔の三田さんは、言いながらもチャーハンを食べる手を止めない。

「飯粒とんでるし、食うか喋るか、どっちかにして下さい」

いやしんぼな姿に、俺は笑った。

⏰:09/12/13 05:30 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#138 [ひとり]
それから俺達は、酒をあけた。発泡酒やら、ビールやら、芋焼酎。ワインの栓を開ける頃には、二人ともかなり出来上がっていた。

頭にモヤがかかったような、身体が床から数ミリ浮いてるかのような、浮遊感。気分がいい。

俺達はいろんな話をした。

⏰:09/12/13 05:35 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#139 [ひとり]
それは高校の修学旅行で夜の薄野(ススキノ)に繰り出して入った店で担任と鉢合わせた話しだったり、小学生の時カンチョウが流行ってやりまくってたら関節が外れた話しだったり、下らない、愉快な話しばかりだった。

気分がいい、本当に。


「つーかお前も話せや、さっきから俺ばっかじゃん」


⏰:09/12/13 19:41 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#140 [ひとり]
今し方、ひったくりに間違われて70過ぎのばぁさんに町内一周追いかけ回された時の話しを終えた三田さんが言う。

「いや、俺そうゆう面白赤っ恥体験とかないんすよね」

「赤っ恥言うな!!」

「俺はいつでも全力投球なんだよ!!」と言ったあと、思い付いた素振りでニヤッと笑った。

「じゃーさ、根岸は代わりに初恋の話しにしとこう」

「しとこうって、勝手に決めないで下さいよ」

⏰:09/12/13 19:41 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#141 [ひとり]
「いや決めたから、うん」

「"いや"とか言われてもこっちが"いや"だから」

「いいだろ減るもんじゃなしー聞いてみたいんだよ根岸のそうゆうの」

「・・・・・・三田さん、俺の事知りたいの?」

聞くと直球で返事が返ってくる。

「知りたいさー、お前私生活とか謎過ぎるもんよ」

酔った三田さんは素面の時以上に自由で、素面では考えられない程素直だ。

⏰:09/12/13 19:42 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#142 [ひとり]
恋バナなんてと思ったが、これはチャンスかもしれない。

「いいけど、今好きな人の話しでもいいすか?」

「ウソ!?!?なんだよお前いるんじゃんかそうゆう人〜!!」

「俺の片思いですけどね」

「マヂでか!!??」

顔全体で驚いている、子供みたいな三田さん。

⏰:09/12/13 19:43 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#143 [ひとり]
「大マヂ」

三田さんの、視線を捉えた。俺は逃げないし、隠さない。

「真剣な表情(カオ)しちゃって〜羨ましいなコノコノ〜」

ただそれがこの人には今一届かないみたいだ。やっぱ、言葉にしなきゃ伝わらない。

俺は話し始めた。どんなにあんたが、好きかってことを。

⏰:09/12/13 19:44 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#144 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第六話完結〜ですっひっぱりますわょワタクシ(`∀´)ケケケ

第七話も引き続き三田の家で展開されます。あしからず。むしろ根岸の独白で終わるかも!?

定まってなくてすまません;;中味は開けてからのお楽しみって事でご勘弁下さい。

⏰:09/12/13 19:49 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#145 [ひとり]
【第七話/たこわさはテッパン】


その人は俺より少し年が上で、背は俺の少し下。

好きな事には必死こくくせに、興味ないことはにべもなく捨て置くタイプ。

⏰:09/12/13 20:14 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#146 [ひとり]
その人は自由でいつも元気がよくてよすぎてもう五月蠅いってジャッジに片足突っ込んでて。

勝手きままに見えて実は気い遣いなのにそれがわかりづらいちょっと損な人で。

⏰:09/12/13 20:15 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#147 [ひとり]
強がりの意地っ張りですぐつっかかってくるけど寝顔はガキみたいに幼くて。

酒が好きで飲むとすげぇ素直になって可愛い。

⏰:09/12/13 20:17 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#148 [ひとり]
芯の一本通った感じの考えや言動がまたギャップでたまにドキッとさせられて。

とにかく俺にないものを山ほど持っていて、いつも俺を惹きつける人。

そんな人。

⏰:09/12/13 20:21 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#149 [ひとり]
「そんな人です」

ぐだぐだとまとまりなく思った事、思い付いた順に口にした。
ふざけた合いの手の一つも入れられるかと思ったら、予想外に真剣な顔で俺の話に耳を傾けている。

「で、片思いしてます。以上」

言い切ってしまうと肩の辺りがフッと軽くなった気がした。

⏰:09/12/13 20:26 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#150 [ひとり]
三田さんは前のめりだった上体を後ろに傾け、両手で支えた。足も、フローリングに投げ出されている。

「そっかー・・根岸も恋しちゃってんのかー」

言って俯いた。その口元が、笑っているのが見える。俺は思い切って聞いてみた。

「その人に、心当たりとかないすか?」

⏰:09/12/13 20:31 📱:F01B 🆔:Zg3JWHQc


#151 [ひとり]
まぁ、答えは想像してたんだけど

「え〜・・・俺の知ってるヤツ?」

やっぱそうきたか。

「めっちゃ知ってますよ」

「マヂでか!!?え、もしやノジコ!!??」

「違います」

「え〜ぢゃあぁぁぁ・・・あ!!!うちの常連の真由美ちゃんだっっ!!!!」

「違いますって」

⏰:09/12/14 23:43 📱:F01B 🆔:KQGVxB5U


#152 [ひとり]
この人は考えもしないんだ。自分がそういう対象に観られてるなんて、万に一つも。そりゃそうか。三田さんは男で、俺も男なんだから。

仕方ない事だ。仕方ない事だ・・・・

言い聞かせるしかできない。でも、言い聞かせたってその側から不満が沸き上がってきてしまう。押さえられない、理不尽な感情が、後から後から。きりがなくてつい自嘲気味な笑いが零れた。

⏰:09/12/15 00:38 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#153 [ひとり]
「笑ってないで教えろよけちんぼ〜」

酔った三田さんは語尾を伸ばす癖が目立つ。

呑気そうなその調子にさえも、また理不尽な憤り。何でわかってくんねーんだろこの鈍チンは。


「あんただよ」

⏰:09/12/15 00:43 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#154 [ひとり]
「は?」


三田さんの表情が一瞬で素に戻った。お生憎様。今更んな顔したって遅いっす。

「だから、あんたなんだってば」








俺が惚れてるのは。

⏰:09/12/15 00:48 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#155 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第七話はこれにて完結ですん。ついに言っちゃいました根岸!!!!
でも好きっては言わないんだね。惚れてるって言うんだね。照れ屋さんな根岸です。これからもよろしく←何

⏰:09/12/15 00:54 📱:F01B 🆔:1/AKyjc2


#156 [ひとり]
【第八話/しめさば!!!!】


俺の聞いて「しまった」って表情(カオ)を見て、言って「しまった」って表情(カオ)になったアイツは、気まずくなってそのまま帰りだすのかと思いきや、

「あ、風呂かりますね」

風呂を借りると言い出した。それから歯ブラシねぇしと文句たれやがるから自分用の替えの歯ブラシを卸してやり、スクラブ洗顔は嫌だとゆうからそこは流石にねぇもんはしょーがねぇだろと一蹴して、

気付けば

「じゃ、おやすみなさい」

丁寧に挨拶して布団を被った根岸。

⏰:09/12/16 12:30 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#157 [ひとり]
「泊まんのかよ!!!!!」






とは流石に突っ込めない俺は、一セットしかない自分ちの布団を恨んだ。「お客様用」の備えをしておかなかった自分を恨んだ。

ほいで、すっぽり布団に収まった根岸の横に正座して、どうしたもんかと悩んでいた。

⏰:09/12/16 12:31 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#158 [ひとり]
実際今は十二月だし、マヂ寒みぃし。普段の俺なら布団よこせぐらいの事は言っていたと思う。ついでに無理やりもぐりこむぐらいしたと思う。

でも今それをやるにはあまりにも

「リスク高けってマヂ」

すっかり酔いも覚めたし、心臓バクついて当分寝れそうにないから、根岸が寝付いたら横からそっと潜り込もうか。

いや布団なしで寝るのだけはごめんだかんね。俺の風邪に対する免疫の弱さなめんなよ?生後1ヶ月の赤ん坊くらいの弱さと思ってくれたらいいから、うん。

⏰:09/12/16 12:33 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#159 [ひとり]
とかぐだぐだ考えていたら、こっちに背を向けてた根岸が反転したので、何気なく後頭部に視線を当てていた俺は目が合ってしまった。

「ねぇ」

「な・・んでしょうか」

「寝ないんすか?」

「あ、はい。僕まだ眠たくないんで、お構いなく」

「何で敬語なんだよ」

「え、あ、はい」

「答えになってねぇし」

⏰:09/12/16 12:35 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#160 [ひとり]
「いいからお前は早く寝てくれ!!!!!」

とはやっぱり言えずに、口ごもるしかない。だってしょうがねぇだろ。いきなり後輩の、しかも野郎が告ってきたらおじさんだって動揺ぐらいするさ。つぅか何で告っといてコイツこんなシレッとしてんだよ。


「三田さん、布団冷たい」

「あ?」

何で俺ばっか狼狽えてんだと考えていたら、何を言われたのか聞き逃した。

⏰:09/12/16 12:37 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#161 [ひとり]
「冷たいってば」

不機嫌そうな声と同時に布団から伸びたでかい手。避けるにはあまりに急過ぎて、まんまと掴まれた二の腕。引き寄せられて。


「やめろ酔っ払い!!!」

がなったところで、そこは既に根岸の懐の中だった。

⏰:09/12/16 12:39 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#162 [ひとり]
酒臭い。根岸は顔にでないタイプだけど、実は相当に酔っているらしい。その証拠に逃れようとして手を当てた根岸の胸は早鐘を打っている。普段生意気なその目でさえ、今はやや虚ろに潤んでる。

「温ったかいね」

「タメ口きくんじゃないよお前は」

「・・・・温ったかい」

「話しを聞け」

⏰:09/12/16 12:40 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#163 [ひとり]
つうかコイツ、悪酔いしただけなんじゃね?フッと浮かんだ考え。そうだよ、酔ってるだけだって。じゃなきゃおっさんの俺に告るとか、キチガイな事する訳ないって。なんだよそうかよそうだよマヂビビらせんなよコノヤロー。


納得したら、同時に眠気もやってきたみたいだ。

根岸じゃないけど、確かに温ったかい。ま、ちょっと骨ばった感触はいなめないけど。

⏰:09/12/16 12:42 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#164 [ひとり]
でもこんな風に誰かに守られるようにして寝るのなんていつぶりだろ?まだガキんちょで、お袋と一緒に寝てた時以来じゃね?

彼女がいた時だって、こんな風にされた事はなかったな。ホラ俺、女の前だとカッコつけちゃうし。



・・・・なんか、変な感じ。


「おやすみ、三田さん」


しょうがねぇから、お前の悪酔いにも目ぇ瞑ってやるよ。そんで


「おやすみ根岸」

⏰:09/12/16 12:44 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#165 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。

第八話完結です。今回はまた三田目線にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

彼全然理解してませんね。根岸の決死の告白は、どうやら三田の中で「悪酔い」って事になったらしいです。ドンマイ!!!!

⏰:09/12/16 12:49 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#166 [ひとり]
【第九話/こちら熱くなっておりますのでお気をつけ下さい】


朝、目覚めると見慣れない天井があった。背に馴れたスプリングの感触はなく、もっと硬質でダイレクトな当たり。

⏰:09/12/18 21:40 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#167 [ひとり]
そうして、俺のズシッと痺れる左腕の上。頭を預けてこちら向きで眠りの淵についているこの家の主の顔を見つめた。夢をみているらしい。血管の透けた目蓋の下で、目玉が忙しなく動いている。細く長い睫毛たちも、それに合わせて震えてみせた。


今日もバイトだ。早番じゃないしまだもう少しここでこうしていてもいいんだが・・・

⏰:09/12/18 21:41 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#168 [ひとり]
考えた末、やっぱり今すぐ帰る事にする。例えばこのままもう少しここで微睡んだとして、横のこの人が目覚めたとして。俺は言葉が浮かばなかった。「おはようございます」とか「昨日は泊めてもらっちゃってありがとうございました」とか。それから───



想いを告げた事に後悔はない。寧ろ心は晴れ渡って、清々しい。

ただ、一瞬見せた三田さんの素で驚いた顔。それを考えるときっと帰るのが今は得策なのだと思えた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#169 [ひとり]
三田さんの規則正しい寝息のリズムに合わせて、少しずつ左腕を引き抜く。長いこと下敷きになっていたそれは痺れきって、ダランと垂れて俺のいう事をきかない。

おかげで服を着替えるのに少し戸惑ったがそれも初めだけの事で。血が問題なく巡りだせば、従順になるのはあっという間。

忍び足で三田さんに細心の注意を払いつつ外に出た頃にはさっきの痺れが嘘のように完全に、それは「俺の左腕」になっていた。



三田さんの丸い綺麗なシルエットを支えていた一晩。その感覚が消えてしまってもうここにない事が、酷く悲しいことに感じた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#170 [ひとり]
───
─────


それから二週間経った。

十二月の一大イベントであるクリスマスもあっさり終わって(イブも本番も、三田さんはメリークソスマス!!とヤケッパチで仕事をしていた。)そこかしこに過剰にくっつけられた電飾や「Xmas」っぽいあれやこれやが姿を消すと、世間はいよいよ年の瀬らしい雰囲気に包まれる。

そして遂に、今年が終わろうとしている今日、俺は思うところがある。


「避けられてる」

「ん?」


外に人の姿はまちまちで、それでも軒を連ねる家々の玄関先につけられた「お飾り」からは確かなお祭りムードが漂っている。

⏰:09/12/18 21:43 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#171 [ひとり]
そこを行く俺の呟きを、横を歩く津久井は聞き逃さなかった。


「誰に避けられちゃってんのよ」

丈の短いミルクティー色のダッフル。そのポケットに両手を突っ込みながら聞いてくるコイツは俺とタメで、今は大学の三回生だ。

「好きな奴」

「あぁ、例のね」

年が同じである事と、津久井が懐っこいオープンな性格である事で、俺達はプライベートでもよく連んだ。

⏰:09/12/18 21:44 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#172 [ひとり]
そして「好きな奴がいて最近告白した」と打ち明けもした。もちろん名前は伏せたし、津久井も特にそこに突っ込んではこなかった。そういう空気のよめるところも、俺が津久井と居る事を好む理由の一つだ。

「焦りなさんなよ」

と軽い調子で肩を叩かれる。焦りなさんなと言われてはいそうですねと一呑みにできる余裕なんて俺にはないんだが、そこは口には出さないでおく。

だって二週間だ。そして今日も何も言ってこないとしたら、俺は年を越してあの人の返事を待つ事になるんだ。挙げ句今日までの二週間、あからさまに避けられている。冗談じゃない。

⏰:09/12/18 21:46 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#173 [ひとり]
押し黙る俺に、津久井が気を使ってわざとらしく明るい声で言う。

「まぁまぁまぁ!今日は愛しのあの子の事はちょっと忘れて、ぱーっといこうよ、ね!!!!」

空気が読める男、津久井 真希であっても、流石にそこは読み切れなかいか。

「そうだな、ぱっといこう」

会話の終わりと同時に視界に捉えた長谷部さんち。



満腹堂の皆と、酒と、




愛しのあの子が待っている。

⏰:09/12/18 21:46 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#174 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第九話完結。津久井をちょっと登場させてみました。根岸と津久井はタメなんです。津久井は本名を津久井真希といいます。女の子みたくな名前ですが、男の子です。よろしくです。

⏰:09/12/19 00:01 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#175 [ひとり]
【第十話/カクテルのネーミングセンスてぶっちゃけどうなん?】


「「おじゃましますー」」

鍵がかかっていない事は百も承知な俺と津久井は、扉脇のチャイムは完全無視で玄関へ踏み込んだ。

長谷部さんちは青い瓦屋根、二階建ての小さな一軒家だ。まぁ言ってしまうと借家なんだけど。買ったものであれ借りたものであれ、やはり一軒家は一軒家。以前家賃は大変じゃないのかと尋ねた事があったが、驚くほどに安かった。まだ長谷部さんちに上がった事がない時分だ。でもその安さの理由はすぐに納得がいった。

⏰:09/12/19 20:47 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#176 [ひとり]
「出る」のだ。



俺は今まで霊感なんてないと思っていて、実際そんなものなくて。だから知ったからといって何か目撃した訳じゃないんだが、いつも満腹呑みで使う一階の畳部屋(長谷部さんの寝室)の真上の部屋から、人が走り回る音やら、壁を殴る音やらがするのだ。そこは開かずの間になっていて、入り口の引き戸にはベタベタとミミズの這ったような字の書かれた札が貼ってある。

初めそれを知った時は流石に気味が悪かった。長谷部さんにも余計な事とはわかっていても、「家賃が破格だからっていかがなものか」と苦言を提したほどだ。

でもそんな俺に長谷部さんは笑って言ったんだ。



「人間は惰性と順応の生き物だよ」

⏰:09/12/19 20:47 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#177 [ひとり]
そうして俺はその言葉通りになる。遊びにいく回数が増す毎に、物音がする都度ビクビクとリアクションするのがまず面倒になる。そうなるとリアクションは益々右肩下がりに薄くなり、いつしか音がしない方が逆に「今日アイツどうしちゃったの?」みたいなスタンスにすり替わっていったのだ。

まさに「惰性」と「順応」。それを知ってしまった瞬間こそが、霊体験よりも俺をゾッとさせた。

ちなみに長谷部さんの叔母さんが霊能者でカラーコーディネーターらしく(どんな組み合わせだ)、引っ越した当時調べてもらったらしいのだが、どうやらいるのはリーマンのオッサンの霊らしい。

⏰:09/12/19 20:48 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#178 [ひとり]
オッサンの幽霊と同居してる長谷部さん。その長谷部さんちにいつも溜まる満腹堂の面々。玄関で津久井と順番に靴を脱ぐ間も聞こえてくるハシャいだ声。二階からの物音はそれに混じって微かにしか聞こえない。


──
────


「やってますねー」

津久井はリュックから持参したアルコールを畳の部屋にぶちまけながら言う。

「お前らも来たのかー今年の最後を一緒に過ごす相手他にいないのかよー寂しい奴らめ」

言って俺達をからかう滝さんはすでに出来上がっている。

「その言葉そっくりそのままバットで打ち返します」

「なにおぅ根岸め!!!!じゃー俺はそれを華麗な回転レシーブで打ち返すね!!!!」

「球技だけれども・・・」

⏰:09/12/19 20:48 📱:F01B 🆔:x8k3BwQQ


#179 [ひとり]
呆れ半分に笑いながら部屋を見渡して気が付いた。いない。

「弘さん、三田さんは?」

自分から質問しておいてなんだが、こんな時咄嗟に聞く相手が弘さんである事に薄っすらとジェラシー。

「うん、今日くるっつってたんだけどまだ来ないんだわ」

その内ヒョッコリ来るだろよと軽く言った弘さん。

⏰:09/12/20 21:00 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#180 [ひとり]
「そうですか」

「うん」


その時、時計の針はちょうど夕方の四時を指していて、確かに後から来るんだろうと俺は納得して、宴の輪に加わった。




それから五時になり──六時───七時───八時────


来ない。

⏰:09/12/20 22:50 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#181 [ひとり]
「アイツ何やってんだ?」

流石に皆が三田さんの不在を気にしだした。

「ちょっと誰か連絡してみたの?」

ノジコさんが言うと

「電話しても出ないんだよ」

と弘さんが答えた。

⏰:09/12/20 23:23 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#182 [ひとり]
「まったく何やってんだよアイツ」

何時もながら男勝りな口振りのノジコさん。

「あ、酒ねぇ・・・」

今の本題は三田さんの不在であって、まったく関係ない事なんだが、もう数時間前から出来上がっている滝さんは気にする風もなく思ったままを言う。

「ねぇ、酒ないんだけど」

横に座っていた俺の頬をグイグイと人差し指で押してくる。

⏰:09/12/20 23:31 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#183 [ひとり]
「根岸ー酒たんねぇー」

これは完全な悪酔いだ。今日の年越しという一大イベントに浮き足立って、開放的になりすぎているらしい。


「はいはい、分かりましたから」

俺は滝さんをなだめすかして

「ちょっと酒買ってきます」

と腰を上げた。

⏰:09/12/20 23:48 📱:F01B 🆔:rtGpV4jQ


#184 [ひとり]
津久井が「俺も行こうか」と声をかけてくれたが、そこはやんわりと断って、一人寒空の下へ。

東京の空は狭い。

31日のこんな時間までやってる店なんてデカいスーパーかコンビニくらいで、いつも行き着けの倉本(個人経営の酒屋だ)は蟻一匹の侵入たりとも許さないといった感じにシャッターをぴったり下げきっている。

⏰:09/12/21 18:39 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#185 [ひとり]
そうなるとやはり国道を挟んだ向こう側のコンビニまで行くしかない。

俺はマフラーを持ってこなかった事を遅蒔きながら後悔した。


国道沿いにでると思いの外車が走っていて、向こう側へ行くために昇った歩道橋から見下ろしたそれらのテールランプが、時期外れのイルミネーションみたいだった。


もうクリスマスは終わったんだよ。

そのままじっと観察していると、だんだんと行列する虫の目玉みたいにも、血管をながれる赤血球みたいにも見えてきた。

⏰:09/12/21 18:46 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#186 [ひとり]
「なんか、気持ち悪り・・・」

どうやら軽く酔ったようだ。視線を下から上へ。さっき長谷部さんちのそばで見上げた時より、空が近い。


あの人、どこで何やってんだろ──


bbb・・・・bbb・・・・

⏰:09/12/21 18:51 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#187 [ひとり]
寒さを凌ぐため上着のポケットに突っ込んでいた右手に携帯のバイブが当たった。

大方滝さん辺りが酒の催促か、ついでにつまみも買ってこいかのメールでもよこしたんだろう。

緩い動作でポケットから携帯を引き抜き折りたたみ式の携帯を開く。ディスプレイ画面にはメールの着信が一件。

⏰:09/12/21 19:22 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#188 [ひとり]
受信ボックスに入った状態で俺は一瞬固まった。




from 三田さん
Re:根岸よ、
─────────

家来て


────end─────


⏰:09/12/21 19:26 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#189 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十話も完結。クリスマスとかイベント性がもりもりな行事は完全スルーで年越しのお話をお送りしました。そして次話に続きます。

ちょっと補足しますと、滝と長谷部は、弘や三田と同高です。して弘、滝、長谷部はタメです。三田だけが学年違います。え、どうでもいい?んなこと言わないで下さいな〜´∀`誰

⏰:09/12/21 19:32 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#190 [ひとり]
【第十一話/お前片手でジョッキいくつ持てる?】


駆け足で向かった。三田さんちのドアの前に立って、チャイムを押そうとしている。


メールを見て何事かと電話をかけたが、三田さんは出なかった。そんな事されたら、行かない訳にいかないじゃないか。


⏰:09/12/21 20:42 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#191 [ひとり]
ピンポーン


間の抜けた音が廊下に恥ずかしく反響した。

「・・・・・・・・・」




出ない。

もう一度、



ピンポーン

⏰:09/12/21 20:48 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#192 [ひとり]
「・・・・・・・・・・・・」


やはり反応がない。


連打してみようか、


ピンポーン・・・・ピンポーン・・・・ピポピポピポピポン

「・・・・・・・・・・・・・・・」


ここまで無視だとこっちも意地になってくるな。


⏰:09/12/21 20:54 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#193 [ひとり]
そうして再びどっかのケンシロウのごとく連打を繰り出そうと指を構えたところで、ノブが内側から回されるのが見えた。

外開きのドアにぶつからないように一歩身を引いて待つと、中から小さく背中を丸めた三田さんが現れた。

グレーのスウェット上下の上にパーカーとチェックのチャンチャンコというしゃれた出で立ち。

⏰:09/12/21 21:01 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#194 [ひとり]
「ちゃ、チャンチャンコ・・・」

「よう、根岸」

「なんなんすか、いきなり家来いって」

「まぁ、上がれ」

三田さんは俺の返事を待たずに中に引っ込もうとする。

「ちょ、何なんすか」

⏰:09/12/21 21:31 📱:F01B 🆔:Sipkur5Y


#195 [ひとり]
再度繰り返した俺の問い掛けに、緩慢な動作でこちらへ振り返った三田さん。

「いいから、取り敢えず中入れって、寒みぃ」

よく見たら、小刻みに震えていた。

「わかりました」

唇も、なんかガサガサして青っぽい。

⏰:09/12/23 09:05 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#196 [ひとり]
リビングに通されると、そこは暖房の効き過ぎたティッシュ王国だった。

「・・・・思春期なんすか」

「違うわアホタレ」

散乱するティッシュティッシュティッシュ・・・

確定だ。

「じゃあ、風邪なんすか」

「そうだアホタレ」

「合ってても間違っててもアホタレなんですね」

⏰:09/12/23 09:06 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#197 [ひとり]
不満そうな口振りを装ってみても、内心では久々に口を利いて貰えた事を素直に喜んでいる俺がいる。なんて健気なんだろう。おしんにも勝る健気さじゃないかと思う。


「熱は?」

「熱なんて計ってもあ〜俺こんなに熱ある〜って余計凹むだけだから計らない」

ガラガラな声して

「何屁理屈こねてんですか、ちゃんと計って下さい」

⏰:09/12/23 09:06 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#198 [ひとり]
「引き出しの二番目」

「・・・・・はいはい」

「体温計取ってこい」って事らしい。自分は肩まですっぽり布団にくるまって、ティッシュ王国開拓のため未開封のティッシュ箱を新たに引き寄せた。

「引き出しってこっち?」

「うん」

二つ並びで置かれた高さの違う渋い茶の棚。その低いほうの二番目の引き出しを漁りながら、背で三田さんが豪快に鼻をかむ音を聞く。

⏰:09/12/23 09:07 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#199 [ひとり]
「あった」

目当てのものを手に布団の脇にしゃがみ、三田さんの前に差し出した。

「根岸〜鼻かみすぎで切れたしコレ」

俺の差し出した体温計より、今鼻をかんだことで切れた鼻の下が気になるらしい。

「いいからまず計ってみて下さい」

「痛てんだよ地味にー」

「赤チン塗っときな、赤チン塗れば何でも治してくれるから」

「何お前その保健室のババァ的発想」

⏰:09/12/23 09:13 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#200 [ひとり]
「俺の学校の保険医は若いお姉さんでしたよ」

「やめてその"へ〜お前の学校の保険医オバチャンだったんだ〜"顔、マヂムカつくから」

「白衣の下のボディーラインがまさにサンクチュアリっつーかなんつーか・・・・何?」


気が付くと、三田さんが何とも言えない顔でこちらを見ていた。

⏰:09/12/23 20:28 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#201 [ひとり]
なんだろう、敢えてその顔に台詞を当てるなら


「は?」


だろうか。または


「え?」


が近いか。

それから体調が優れない身でありながら、満面のスマイル。

⏰:09/12/23 20:34 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#202 [ひとり]
「病人の全開スマイルってなんか凄みありますね」

よくわからないので、取り敢えず礼儀としてちゃかしてみた。でも三田さんは聞こえてるんだかいないんだか。何かを噛み締めるように二三度ゆっくり頷いて口を開いた。


「やっぱ根岸はちゃんと女が好きなんだな」






ファック

⏰:09/12/23 20:42 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#203 [ひとり]
瞬間、頭の中で毒づいた。そういう事かよ。


「やっぱこの前のは只の悪酔いだよな、うん。」


うんとか勝手に納得してんじゃねー


「いやさ、じゃないかと思ったんだけどなんか遂ね、ガチだったらどうしよーとか思っててさぁ」


ガチガチのガチだよ文句あるかよ


「悪りぃ、実はさり気なく避けてた」


さり気なくねんだよバレバレだこの大根が

⏰:09/12/23 20:48 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#204 [ひとり]
「・・・・・・・・・・」

「え?何聞こえんし」

「三田さんです」

「へ?」

「俺が今好きなのは三田さんです。」


言い切ったら、暖房が効き過ぎているはずのこの部屋の温度が、ぐんと下がった気がした。
引き潮の音が聞こえてきそうな程に、三田さんが引いているのがわかる。

⏰:09/12/23 20:52 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#205 [ひとり]
でも今言わなきゃ、一生言えない気がして、俺は病人相手に喋り倒した。


「確かに俺は女が好きだし乳とか尻とか丸んてしてフニャンてするのが好きだし三田さんにそんな要素一っっっつもないのもまして男だって事も分かってますけどでもそれでも好きってのは事実だしリアルだし酒のせいとか悪酔いだとか都合のいい解釈つけてねじ曲げてなかったみたいにされるのはマヂムカつく。てかうぜぇ。」

⏰:09/12/23 20:58 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#206 [ひとり]
あんまり一気に喋ったもんだから若干息が上がった。そのまま立ち上がり


「おじゃましました」


俺は一目散、逃げるように玄関へ向かうと、スニーカーをつっかけるだけつっかけて外へ出た。

途中三田さんが俺を呼ぶガラガラ声がしたけど、聞こえないふり。

⏰:09/12/23 21:19 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#207 [ひとり]
風邪で弱っているのに息なり攻め立てて、挙げ句何もしないで(まぁ体温計は渡したけど)出てきた事に少し罪悪感を感じもしたが、それを差し引いてもやはり許せなかった。


「マヂ餓鬼・・・」


一つ溜め息。白い息が暗闇に溶けた。

携帯を取り出し画面を開くと、着信ありのマーク。予想通り満腹堂の皆からの電話だったので、取り敢えず弘さんに折り返す。

⏰:09/12/23 21:29 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#208 [ひとり]
「もしもし、あ、すんません・・・・・はい・・・・・はい・・・いや、三田さんとこに・・・・・はい、風邪らしくて・・・・・はい、あ、酒は・・・・・・そうすか、わかりました。すいません連絡しなくて・・・・えぇ、はい・・・・・はい、わかりました・・・・・・・あ、迷惑じゃなかったら弘さん、三田さんとこ行ってあげて下さい。結構辛そうだったんで・・・・・・・・・・いや、俺はそっち戻ります。はい・・・・・はい、お願いします、失礼しまーす」


電話を切って、長谷部さんちに向かう。今日はもう、呑みまくってやろう。ゲロ吐くまで呑んでやろう。

そう決意して、腕をぶんと回した。

⏰:09/12/23 21:56 📱:F01B 🆔:SdPnyTWc


#209 [ひとり]
【休憩】

おはようございます、ひとりです。

第十一話完結です。今度は素面でちゃんと告白できました根岸ですが、怒って逃げちゃいました。いかんですね、おこちゃまですね。でも彼は今まで受け身の生ぬるい恋愛しかしてこなかったんで、戸惑ってるんです。はい。と、フォローしてみるこすいひとりでした〜

⏰:09/12/24 10:49 📱:F01B 🆔:dVoX7R3g


#210 [我輩は匿名である]
おもしろいです★

⏰:09/12/24 14:58 📱:SH01A 🆔:uZWH5u4k


#211 [ホシ]
この小説すきです・ω・ひとりたむがんばってくださいx

⏰:09/12/24 16:50 📱:Sportio 🆔:0xEeDAsw


#212 [我輩は匿名である]
キャラのしゃべり方が銀魂ぽくて何か好きですw
頑張ってください

⏰:09/12/25 16:14 📱:PC 🆔:lmIIc1gs


#213 [ひとり]
>>211

ホシさん

好きだなんて、照れるやい(⊃∀//)←
ありがとございます^^総合に感想板もあるんで、是非また遊び来て下さいませ(´ω`)

⏰:09/12/26 20:53 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#214 [ひとり]
>>212

匿名さん

マヂでか←
ひとり銀魂好きですよ^^酢昆布も好きですよ(´∀`)←黙

⏰:09/12/26 20:55 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#215 [ひとり]
>>210

匿名さん

ありがとっす(`∀´)ひとりはその言葉だけで元気百倍です!!僕のかおをお食べよ!!!!です←意味不

⏰:09/12/26 20:57 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#216 [ひとり]
【第十二話/『はい喜んで』】



年が明けた。

テレビを付ければ各局が『あけましておめでとう』を連呼して、間に挟まれるフジカラーのCMの樹○希林までもが着物に身を包み『正月』な雰囲気を盛り上げている。

でも俺は、ちっともめでたくなんかなかった。

⏰:09/12/26 20:58 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#217 [ひとり]
「あんたおもち何個?」

「一個でいい」

1月2日。都内にある実家に帰省した俺に、早速根岸家特製雑煮に入れる餅の数を聞いてくる母親。

「一個でいいなんてゆうちゃん風邪でもひいてんの?」

「・・・風邪は今NGワードだから二度と言うなよ」

「意味わかんない、何でよ」

俺を『ゆうちゃん』と呼んでくるのは従兄弟のアキ。

「聞くな、大人の事情だから」

「どうせ禄でもない事情なんでしょ」

「お前なんか浪人しちまえ」

「お生憎様〜もう四月から花の女子大生確定で〜す」

「よし、俺が行ってその合格辞退しますって言って来てやる」

「やめてよバカ」

⏰:09/12/26 20:58 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#218 [ひとり]
根岸家では毎年、長男である親父のもとに次男三男が家族を連れて新年の挨拶に来る。というのが恒例行事になっている。三家族が一つのテーブル(正確に言えば二つの長いテーブルをくっつけたものなんだが)を囲んで酒を呑み御節をつつく様は圧巻だ。

大抵上座で親父達三兄弟が酒を酌み交わし、母親達は母親達でこれまた固まり去年一年間の労をねぎらい、近況を報告し合ったりする。すると自然に下座に子供達が固まる、という案配だ。

⏰:09/12/26 20:59 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#219 [ひとり]
従兄弟は全部で七人。その中でも年の近い者同士が自然と固まるのだが、毎年俺の横を陣取るのはアキだ。

「ねぇ、後で初詣行こうよ」

皿の上に御節の具で何やら不細工な顔を作って遊びながらアキが言う。

「嫌だよ寒みぃ」

「そんなん理由になんないよ、断るならもっとマシな理由考えるんだね」

「・・・嫌だよ面倒い」

「よし、行くのね」

「・・・・・・」

コイツは昔からこうと決めるとテコでも動かないという融通の効かなさ、よく言えば芯の強さがある。どうやら初詣は決定事項のようで、俺に断る術はないらしい。

⏰:09/12/26 20:59 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#220 [ひとり]
それから暫くゴロゴロと食っちゃ寝起きちゃ呑みを繰り返して、嫌々ながらアキに付き合って外へ出たのは午後三時。酒で体が大分温まっていたので助かった。

初詣へ向かう途中もアキはよく笑い、よく喋った。

「お前本当よくしゃべるな」

「だってゆうちゃんと会えるのってお正月くらいじゃん、メールしても返事遅いし」

「でもちゃんと返すだろ」

「結果論でしょ、いくら返してくれても、一週間後じゃ意味ないんだよね」

「なら電話すりゃいい」

「いつも留守電のくせによく言うよ」

「お前のタイミングが悪い」

⏰:09/12/26 21:00 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#221 [ひとり]
「でもま、許してやるか」

アキが悪ガキがうまい悪戯を思い付いた時のようにニヤリと笑った。

「すげぇ嫌な予感すんだけど」

「そんな事ないんじゃない?何か素敵な事が起こる予感ならしてるけど」

笑みが深まったその顔で、アキは嬉しそうに言った


「私、春からゆうちゃんちの近くに一人暮らしするの!!!!」







俺の嫌な予感は大体いつも当たるんだ。

⏰:09/12/26 21:00 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#222 [ひとり]
別にアキが嫌いな訳じゃない。寧ろ、俺によく懐いているし、可愛い奴だと思う。ただ一つ問題があるとするならそれは、懐き過ぎているという事だ。

今まで会うのは一年で正月と、夏に帰省すればその時、つまり多くて二回。それならまぁわかる。まぁ甘やかそう。だけどそれが毎日となれば話は別だ。

「お前さ、毎日俺んちこようとか思ってないよな?」

「えー思ってるよ」

「やめて」

「何でよー」

⏰:09/12/26 21:01 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#223 [ひとり]
「なんでもへったくれもないの!!」

「誰もへったくれてないしー」

「語尾伸ばすな、女子か」

「女子だし」

リアルに毎日うちに来られたらどうしよう。ていうかリアルに来る感じのテンションだよコレ、寧ろこのテンションで毎日来る気だよコイツ。俺は元々根暗な質で、一人の時間や空間をこよなく愛していたりする。俺の平穏。サンクチュアリ。

それがここ最近じゃどっかの小っさいオッサンのせいで心を乱されまくって平穏て何語?みたいな状態なのに、この上アキまで毎日来やがるようになったら・・・・

「今年俺、厄年だっけ」

「え、何?」

⏰:09/12/26 21:02 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#224 [ひとり]
「何でもない。いいから早く木箱にジャラ銭ぶちこんでアホみたいに上の鐘ジャランジャランさせてうさんくさい紙切れ引き抜いてワーイ凶がでたぁーかなんか言って帰ろうぜ」

「どしたのゆうちゃん、何かいきなりネガティブな感じでひくんだけど」

「引いとけ引いとけ、ついでにおみくじも引いとけよ三百円やるから」

「ゆうちゃん・・・・・・・・・・二百円足んない」




おみくじが予想外にぼったくっていて、俺のテンションは更に急降下を続けたのだった。

⏰:09/12/26 21:03 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#225 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

今回は根岸家からお届けしました。遂に登場した新キャラのアキ、皆さんよろしくお願いします(何が)まだひとり自身アキのキャラを掴みきれていませんので、読みづらいかもですがそこはぬるい気持ちでスルーよろしく。シュワッチ!!!!

⏰:09/12/26 21:06 📱:F01B 🆔:NBa4Z6xA


#226 [我輩は匿名である]
更新されてる
毎日楽しみに覗かさせて頂いてます根岸頑張れひとりさん頑張れ

⏰:09/12/26 23:01 📱:N04A 🆔:qzgqZ4Ts


#227 [ひとり]
>>226

匿名さん

ありがとうです^^
根岸共々がんばります(`∀´)ゞ!!!!よければ総合の掲示板にも遊びきてください〜

⏰:09/12/27 12:46 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#228 [ひとり]
【第十三話/トイレに貼られている挨拶書き『こんな所まで失礼します』って・・・本当にな!!!!】



風邪をひいた。三十一日。皆が年越しカウントダウンとかしちゃってお祭り騒ぎのその日。俺は一人体温がお祭り騒ぎに急上昇。今年最後の時を、うなされ寝汗かきまくりながら布団の中で越した。年越し蕎麦ならぬ、年越しがゆも食べた。味気ねぇ。

あと、職場の後輩に怒られた。怒られたというか、怒らせた。だけじゃなく、嫌われたかもしれない。


まぁ、俺が悪い。

⏰:09/12/27 21:19 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#229 [ひとり]
アイツが帰った後、しばらくしてひろむが来た。風邪薬とみかんゼリーを持って。


「お前も随分といいタイミングで風邪ひいたもんだね」

「悪りぃ」

「気にすんな、心の友よ」

「ジャイアン・・・」

俺が弱っている時、ひろむは優しい。映画の時のジャイアンくらい優しい。それは今みたいに単に風邪ひいた時だけじゃなくて、気持ちが弱って折れそうな時も含めて。どっかの誰かさんみたいに、床に伏せっている俺を叱りつけて逃げたりなんか絶対にしない。

⏰:09/12/27 21:19 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#230 [ひとり]
きっとひろむにはレーダーがついてるんだと思う。いくら隠そうとしても、ひろむは真っ先に気付くし、側にいてくれる。それがわかってるから俺も隠す事はしないし、素直でいられるんだと思う。ひろむにはその素直さが、どうも伝わりきってないようだけど。


「根岸いたんだろ?」

「あぁ、いたね」

実は根岸に『うぜぇ』とか言われて内心ショック受けてた俺。だってあれは本気の『うぜぇ』だった。

⏰:09/12/27 21:20 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#231 [ひとり]
ひろむはそんな事あったなんてもちろん知らないし、『ひろむの前だと素直な俺です』アピールしたばっかだけど、何故かそこは『は?ショックじゃねぇし』みたいな、ショックがってる自分を否定したい俺がいて。台詞棒読みしたみたいな気持ち悪い口振りになる。

「アイツ滝に酒買って来い言われて出てったのにいい加減帰って来ないからさ、事故ったりしてねぇかって若干焦った」

「そっか」

一方的なメールを送りつけた。あん時は熱の波がピークに来ていて、メール送るだけで精一杯だったんだ。

そこまで気が回らなかった。

⏰:09/12/27 21:21 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#232 [ひとり]
「俺がメールで呼び出したんだわ、ごめん」

「みたいね、やっと連絡ついたと思ったら『今三田さんちで風邪みたいだから来てあげて下さい』だもんよ」

近所迷惑も考えないで、性急にチャイムを鳴らしまくっていた根岸。扉一枚隔てた先で、あん時どんな顔してたのかってふと思った。

⏰:09/12/27 21:22 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#233 [ひとり]
「でもお前も珍しいな、俺じゃなくて、根岸呼ぶってのは」

「・・こないだ、ホラ、髭そられた事であの野郎は俺に借りがあったかんね」

嘘だ。根岸を家に泊めたあの日、確かにチャーハン食ってチャラにしたのに。頭で思っても、口が勝手に嘘を並べ立てる。

「まだんな事言ってんのかよ」

ひろむは『小学生か』って言って笑った。俺も『うっせほっとけ』と言って笑ったけど。

⏰:09/12/27 21:23 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#234 [ひとり]
考えてみれば、何で根岸を呼んだんだろう?


────


年が明けて、三ヶ日と一日経った今日、俺は気付いた。いや、気付いてはいたんだ。ただその事実を認めたくないから、気付かないふりをしていただけ。

⏰:09/12/27 21:25 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#235 [ひとり]
ぶっちゃければそれは



『甘え』



根岸がまさか本気で俺に気があるなんて・・・そう否定しながら、心のどっかじゃ俺を好いてるかもしれない根岸なら、風邪っぴきの自分のもとに駆けつけるに違いないって考えがあったんだ。例えそれが大晦日の、夜八時を軽く超えた時分でも。

⏰:09/12/27 21:29 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#236 [ひとり]
身体が弱ってたからとか、あの時は無意識だったからとか、そんなんは言い訳にしかならない。俺は俺の都合で根岸の気持ちを利用して、その上否定したんだから。

自分で自分に吐き気がする。最低だ。

もう嫌われて、口聞いてくんねぇかもしんないけど。やっぱここは一回ちゃんと謝っとかないと、俺の気が済まない。

「って結局また自分かよ」

自分本位な考えしかできないなんて、つくずくうんざりしてしまう。

「とにかく明後日・・・」

コタツの中、テーブルの上に顎を載せて、一月のシフトが書かれた用紙に目を走らせる。『根岸』の欄、六日の枠内には『遅』と印刷されていた。

⏰:09/12/27 21:32 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#237 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

十三話完結致しました。反省する三田でしたね、うん。悪いことは悪いって認められる人は、人間としての伸びしろがまだあるんだって先生思うよ!!!!アレ?こんな台詞前にどっかで聞いたような・・・・・(゚ω゚)←

⏰:09/12/27 21:41 📱:F01B 🆔:Hmc8sEFw


#238 [ひとり]
【第十四話/すいません、お絞りもう一つ下さいって言う女子は世話好き】


一月六日。今年初出勤の満腹堂に到着したのは午後四時半過ぎ。早番のスタッフと新年の挨拶を交わす。

「あけおめことよろー」

こんな程度の軽い感じで。その中には三田さんもいて、俺はなるべくそっちを見ないように意識した。

⏰:09/12/28 15:52 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#239 [ひとり]
気持ちを否定されてショックだった。でも間が空いて冷静になれた・・・・・気でいた。なのに

「やっぱうぜ」

可愛さ余ってなんとやら。視界の隅にチラつく三田さんに苛立つ。その事で、思ってる以上に自分が傷ついてるんだと知らされた。

「俺ってナイーブ」

「何ブツクサ言って、気味悪いよ」

⏰:09/12/28 15:52 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#240 [ひとり]
振り返ると、俺と同じ遅番出勤の津久井がいた。

「あけおめ」

「おめ」

気心の知れてる者同士であればある程、形式ばった挨拶は照れ臭い。

「で、なに根岸って独り言キャラだっけか?」

「いやまぁ、色々とあったんだわ」

⏰:09/12/28 15:53 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#241 [ひとり]
「例のあの子?」

「まぁ」

「まだ避けられてんの?」

「いや、逆」

「逆って・・避けてんの?」

「うん」

「『うん』って、何やってんの君達は」

「何やってんだろうね」

「俺が聞いてるんだけど」

「自分でもよくわかんね」

⏰:09/12/28 15:53 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#242 [ひとり]
「返事まだ貰ってないってこと?」

「貰うもなにも、否定されたし」

「・・・・・何それ」

「俺が酔って言った冗談だって、なかった事みたいにされてた」

「うわ〜・・・んでどしたん」

「んなのもっ回告るに決まってんじゃん」

「なのにまた答えは貰えなかったのかよ」

「うん、俺逃げたしね」

「はぁ?」

⏰:09/12/28 15:54 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#243 [ひとり]
「だってムカつくじゃん、せっかく勇気だして告ったのに、その気持ち否定されるとか」

「一応聞くけどさ、二回目ん時何て告ったん?」

「カッとなってよく覚えてないけど、好きだっつってんだろ的な・・・・あ、あとムカつくとか・・うぜぇって言ったかも」

それを聞いて津久井は顔をしかめた。

「最悪・・・・それ告ったんじゃなくて怒ったんじゃん」

「怒らせたのはあっちだし」

「同じ事だよ」

⏰:09/12/28 15:55 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#244 [ひとり]
「・・・・・・・」

そのまま中途半端に会話が途切れたロッカールームは静まりかえる。俺と津久井が立てる、布の擦れる音だけ。

着替えが済んだ俺が先に出ようとすると、まだボタンを留めてる途中の津久井が口を開いた。

「とにかくさ、いい加減楽になったら?」

「・・ありがと」

「おう」

⏰:09/12/28 15:55 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#245 [ひとり]
そうだ、いい加減楽になりたい。否定する程ありえないってんなら、それはもう絶望的なんだろうが、それでも俺は三田さんの口からちゃんと聞きたいんだ。ちゃんと、振ってほしい。

俺は決心して、厨房で寸胴を掻き回す三田さんの背中に話しかけた。

「三田さん」

「ん?うおっっっ!!!!びっくしたぁー!!!!」

振り向いた先にあったのが俺の顔だったのがいけないらしい。

⏰:09/12/28 16:02 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#246 [ひとり]
「断りなく俺の後ろに立つんじゃねーよ!!」

「ゴルゴ13かよ、とかツッコんだほがいいですか」

「いや・・・いいです」

「そうすか」

一瞬俺達の間に気まずい沈黙が流れたけど、そんなん周りは気付かない。

「実は」

『今日残って下さい』って言おうとしたら

⏰:09/12/28 16:08 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#247 [ひとり]
「根岸悪いけど今日話しあっから残って」

思いがけない一言に俺の言葉は阻まれた。

「あ、はい」

「後ついでにお前コレ変わって!!!」

「そんなドサクサ紛れに言ってもダメですよ、今日三田さんの当番でしょ」

「いいだろケチ!!これ疲れるから嫌いなんだよ、筋肉つきそうだし」

「女子かって」

⏰:09/12/28 16:15 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#248 [ひとり]
「髪に匂いついちゃうし〜」

「・・・・・・・」

「おいぃぃぃ!!!!!ツッコミ面倒くさがんないの!!!!そこは被せるでしょ!?基本でしょ!?!?」

「あ、俺テーブル拭いてきます」

「俺が滑ったちゃんみたあになってんですけどぉぉぉ!!!!ちょっとぉぉぉぉ!!!!!」



とにかく、ようやく答えがもらえそうだ。

⏰:09/12/28 16:20 📱:F01B 🆔:rkwSdkYA


#249 [ひとり]
────
───────


今日の仕事も無事終了して、皆それぞれ片付けの目処もたった頃、カウンターで電卓を叩いてた三田さんが言った。

「今日の鍵誰だっけかー」

「確か長谷部さんとノジコさんですよ」

側ではき掃除をしていた津久井が答えると、今度はカウンターに身を乗り出して、キッチンにいる二人にデカめの声をかけた。

「べぇやんとノジコはもう終わりそ?」

すると姿は見えないが奥から二人の『あー』とも『うぃー』ともつかない声が返ってくる。

⏰:09/12/29 22:10 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#250 [ひとり]
「オッケしたら今日俺閉めてくからどっちかよこせー」

「何あんた残んの?」

ここでようやく姿を見せたノジコさん。利き手の人差し指にホルダをひっかけてくるくると鍵を回しながら三田さんの横につけた。

「残るよ」

「何急に?いつも早く帰りてぇとかうっさいやつが」

言いながら探るような目で三田さんを見つめるノジコさんの顔は、クラスの悪ガキを叱る学級委員長のようにみえてちょっと笑える。

⏰:09/12/29 22:10 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#251 [ひとり]
「何か企んでんじゃないの?」

言うことまで洩れなく委員長だ。ここで一つ注意して欲しいのは、ノジコさんがバイトで、三田さんが店長だっていう事。二人の後ろでテーブルを磨いてた俺は隠れて少し笑った。

「別になんも企んでねって」

「怪しい〜」

「怪しくない!!」

「そのムキになる態度が更に怪しい〜」

「しつこい!!」

ノジコさん、面白がってる。

⏰:09/12/29 22:11 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#252 [ひとり]
「怪しくねぇよ、根岸も一緒だし」

正直驚いた。俺はてっきり一人で残るふりするんだって思ってたから。

「そうなん?」

「はい」

「ならまぁ安心か」

安心とか言いながらノジコさん、『なんだつまんねぇの』って顔に書いてありますよ。

⏰:09/12/29 22:12 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#253 [ひとり]
でもまぁ隠す必要がないなら楽でいい。床掃きしながら俺同様二人の会話を聞いてちょっと笑ってた津久井が

「したら俺帰るね」

と道具を片しに行ったので、『お疲れ』と声をかけて見送った。

それから長谷部さんとノジコさんも連れ立って出て行き、店には三田さんと俺の二人きりになった。

⏰:09/12/29 22:13 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#254 [ひとり]
「お前それ、いつまで拭いとく気?」

「え・・・あぁ」

言われて気付くと、俺はテーブルの同じ箇所ばかりをずっと磨いていたらしい。

「とりあえず着替えてらっしゃいよ」

「はい」

言われるままに更衣室に引っ込み、そそくさ着替えを済ませて再びホールに出ると、三田さんはカウンターからテーブルに移動して、煙草をふかしていた。

⏰:09/12/29 22:14 📱:F01B 🆔:7w8DO9h.


#255 [ひとり]
出てきた俺を見つけた三田さんは、煙草をくわえたまま指先でテーブルをコツコツ叩いて座れの合図を送ってくる。

「何か飲む?」

「いや、大丈夫です」

「そう」

最後の一口を吸い終わったのか、静かに灰皿で火を押し消すと、改まったように座り直した三田さん。

「根岸」

きた。降られる。

「はい」

⏰:09/12/31 00:14 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#256 [ひとり]
「ごめん!!」

「・・・・・・」

わかっていても、鉛を食わされたように胃のあたりが重たくなって、言葉が出てこない。

「本当、悪かったって思ってる」

「・・・・?」

「うん、お前の・・なんだ、俺を〜・・・す、好き?・・・・そういうのなんか・・つまり〜否定したっつーか」

「はい?」

⏰:09/12/31 00:15 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#257 [ひとり]
なんだ?話が読めない。つまり今の『ごめん』は、三十一日の事を言っているのか?

「俺さ、お前に甘えてたみたいだわ」

「はぁ、そうなんすか」

「うん、だからさ」

いつのどれを言っているんだろう。俺は三田さんに甘えられた覚えなんてない。まぁ、振り回された記憶なら山ほどあるんだけど。

⏰:09/12/31 00:18 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#258 [ひとり]
「だから・・あ、その前に聞いときたいんだけど」

「どの前なんすか今」

「いいから答えろよ、お前俺が好きなんだよな」

「何回言わせるんですか」

「・・・・・・・」

訴えるような三田さんの目に根負けした俺は、舌打ちして答えた。

「好きです」

⏰:09/12/31 00:19 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#259 [ひとり]
「よし、わかった」

「わかってんなら言わせんな、罰ゲームかなんかですかコレ」

「焦んなよ、こっからが大事なんだから」

そこまで言って三田さんは大きく深呼吸をした。その必死な感じが、子供の頃読んだ北風と太陽の絵本にでてくる、北風の挿し絵を連想させる。吸って、吐いて、二回、三回。

⏰:09/12/31 00:20 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#260 [ひとり]
それから決心が着いたらしく、また顔をあげるとこう切り出したんだ。

「根岸は俺で立つの?」

さっき飲み物断ってよかった。もし今何か飲んでたら、確実吹いてたわ。

「なんつーダイレクトな・・・」

「なんだよ男同士なんだから恥ずかしがることねぇだろ」

「そうですけど」

「で、たっちゃうワケ?」

「・・・・・はい」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#261 [ひとり]
「てことは、かいちゃうワケ?」

「そこはいいでしょ別に!!」

「先に確認しとかないと大事でしょうがそういう事は!!!!」


「好きでたつんだからその先は言わなくてもわかるでしょ、男なら」

「なるほどな」

⏰:09/12/31 00:22 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#262 [ひとり]
何が『なるほど』なのか、腕組みをして俯いたまま動かなくなった三田さん。俺は待つしかない。

深呼吸を繰り返していたさっきよりも長い間。

そしてその沈黙を破ったのもやっぱり三田さんだった。

「考えるよ、根岸」

「え?」

「お前が真剣だってわかったから、俺も真剣に考える」

「それって・・」

「うん、今お前とやるとこ想像してみたけど、別に思ったよか抵抗なかったわ」

「そういう沈黙だったのかよ今のは」

⏰:09/12/31 00:25 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#263 [ひとり]
「いや、さわりだけな」

「さわりだけ」

「あ、"触り"じゃなくて、事の流れをサラッとって意味での」

「わかってますよ」

「そっか、よし、まぁつまり、それが言いたかったってことだ」

『考える』。予想もしていなかった言葉に、頭がついていかない。

「テメェ俺がせっかく謝ってその上考えてやるっつってんのに、リアクションが薄すぎなんじゃね?」

⏰:09/12/31 00:26 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#264 [ひとり]
「あ、ちょっと今感激してるんでそういうノリいいっすわ」

「え、何それ聞いてないんですけど、感激させてやったのは俺だろコルァ!!もっと感激を表現しろコルァ!!」

「ちょ、マヂで、シッ」

「"シッ"とかうぜぇぇぇぇ!!!!どうしよ相手が冷静だと余計にヒートアップしちゃうじゃん俺!!しちゃうじゃん!!!!」

⏰:09/12/31 00:27 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#265 [ひとり]
三田さんが何事か叫んでいたけど、凄く遠くに聞こえていて理解できない。

今はっきりしてる事は、俺が予想していた結末は訪れなかったって事。これから先はわからないが。今はこれで十分過ぎるくらい十分で、いっぱいいっぱい。

今晩家に帰ったら一人で、柄にもなく小躍りしてしまいそうだ。

⏰:09/12/31 00:29 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#266 [ひとり]
【休憩】

おはようございます。ひとりです。

第・・・もう何話だかわかんなくなってきました←

三田、ようやく根岸の気持ちに気づけました。遅せぇよ。遅せぇけど、気づけただけではなまるです。

まだまだ続きますので、暇潰しに読んで頂けたらと思います。
てか今日大晦日!!!!

⏰:09/12/31 08:43 📱:F01B 🆔:VFbZnWIw


#267 [ホシ]
三田さんだいれくとな感じかわいいですx

⏰:09/12/31 23:43 📱:Sportio 🆔:Kf5q69TM


#268 [ひとり]
>>267

ホシさん

おぉホシさん!!またカキあざす^^以前も来て下さいましたよね?三田ダイレクトですよね、てか性格が雑ですwこれからも暇潰しに読んでやって下さい☆よければ総合の感想にも遊びきて下さいまし(´∀`)/

⏰:10/01/01 22:38 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#269 [ひとり]
【第十五話/さっきのお客さんトイレ長くね?】


三田さんに気持ちが伝わって、一人小躍りした日からもう一月とちょっと経った。

別に二人の間で交換日記を始めたわけでも、目と目があってモジモジするわけでもない。何が変わったかと言われれば、二人で飲みに行く事が増えたとか、後は・・・まぁそんくらいだ。

⏰:10/01/01 22:39 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#270 [ひとり]
俺からしたらそれだけで上出来。避けられる事も嫌われる事もなく、以前より少しだけ親密になれたんだから、それだけで。

ただ、逆を言えばこの状況は生殺しかもしれない。だって三田さんは『考える』って言ったんだ。嫌いじゃない、でも好きかと聞かれればそれもどうだろうと。だから『考える』と。まぁそういう事だ。

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#271 [ひとり]
「根岸ー今日鍋しようぜ」

『考える』と言ってくれたあの日から、三田さんはかなり積極的に俺を誘ってくる。あ、変な意味じゃなくて、飲みとか飲みとか、まぁ、飲みなんだけど。

「鍋っすか、どっかいい店知ってるんですか三田さん」

仕事中の俺は皿を次々とシンクに沈め、ジャブジャブ洗う手は休めずに聞いた。

「いやバカ言うな、昔っから鍋は家のコタツでって相場が決まってんだろ」

「いつの昔からそんなん決まってたんだよ」

⏰:10/01/01 22:40 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#272 [ひとり]
「そりゃまだ人間がサルだった頃から・・」

「その頃は残念だけどまだコタツも家もなかったと思いますよ」

「バッ、おっま何もわかってねぇのな、彼らには地球とゆう星そのものが大きな"我が家"だったんだ!」

「そういう話してるんじゃないから今」

「とにかく、そんくらいセオリーって意味さ」

「・・で、家って長谷部さんちでやるんですか?」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#273 [ひとり]
「いや、お前んちかうちんち」

「あ、・・・・そう」

「うん」

何てことだろう。これってもしや巷で言うところの"おうちデート"じゃなかろうか。

「で、どっちでやる?」

「どっちでもいいけど、材料何もないですよ」

「心配すんな、うちに田舎のばぁちゃんから山ほど野菜届いたんだ」

「あぁ、それで」

⏰:10/01/01 22:41 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#274 [ひとり]
なんだ、俺の勘違いかよ。つまりおうちデートじゃなくて、処理班て事か。



「うん、ばぁちゃんの野菜うまいから、根岸にも食わせてやろうと思って」

「・・したら三田さんちのほがいいんじゃないですか」

「そうな、うん、したら俺んちで」

言って三田さんは仕事に戻って行った。

三田さんが使うのはいつも反則技ばかりだ。期待させて落として、結局また期待させられて浮かれてる俺。まいったね。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#275 [ひとり]
────

「お疲れしたー」

「お疲れー」

今日は皆一斉に店じまい。弘さんがシャッターを下ろし鍵を閉めるのを待つ。

「うし、で、皆今日どうするんだ?」

閉めたシャッターをチェックしながら弘さんが言った。

⏰:10/01/01 22:42 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#276 [ひとり]
「津久井は?」

「俺明日一限から入ってるんで」

「俺暇よ」

「あたしも」

「じゃ俺んち?」

「そうするかー根岸は?」

「いや、俺はちょっと」

「そかぁー三田、お前は来るべ?」

⏰:10/01/01 22:43 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#277 [ひとり]
弘さんに問い掛けられて、三田さんは一瞬チラッと俺を見た。それから

「今日なんか調子悪りぃから帰るわ」

「また風邪かよ?」

「わかんね、だと不味いからさ」

「だな、んじゃ俺達だけで行きますか」

「あ、俺も途中まで」

そうして弘さん、滝さん、長谷部さん、ノジコさん、それに津久井は、駅の方向に向かって歩き出した。

⏰:10/01/01 22:45 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#278 [ひとり]
その後ろ姿が豆粒大になるまで二人で見送ってから

「嘘つきめ」

「そりゃそっちでしょ、いつ具合悪くなったんです」

「うるせー、行くぞ」

駅とは反対の方向に向けて歩き出した。

⏰:10/01/01 22:49 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#279 [ひとり]
三月。暦の上では春かもしれないが、まだまだ俄然寒く、防寒対策が欠かせない。

「俺んちにお前が来るのってさ、チャーハン時以来だよな」

すっかりお馴染みになったポジション。自転車を挟んで右に三田さん、左に俺。

⏰:10/01/01 23:01 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#280 [ひとり]
「そうでしたかね」

「『そうでしたかね』っておま、白々しいー」

「だって俺的にはチャーハンより告った事のが印象強くて」

「・・あぁ、まぁ、そうね」

横目で盗み観ると、三田さんは視線を宙に泳がせながら、顎髭を指腹でジョリジョリしていた。

⏰:10/01/01 23:12 📱:F01B 🆔:C52atI8E


#281 [ひとり]
この横からのアングル、俺的にかなりベストアングルだったりする。何がいいって、鼻の角度がいい。上向き過ぎず下向き過ぎない、程よい傾斜。本人は脂取り紙三枚半はかたいという自称ギッシュな鼻であるが、こうして見る限りそこまでとは思えない。

惚れた弱みか、未だ冬を主張するこの冷え切った夜気のせいか。男相手にこんな表現は似つかわしくないかもしれないが、横顔の三田さんは綺麗だ。

⏰:10/01/02 00:23 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#282 [ひとり]
「何、鼻糞でもそよいでる?」

俺の熱視線に気付いた三田さんだったが、残念。

「あんたのそういうとこ、なんか残念だよね」

「は?どゆ意味」

「三田さんてさ、女子より男子にモテるタイプだよね」

「え、喧嘩売ってんの?」

⏰:10/01/02 00:27 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#283 [ひとり]
「そういう喧嘩っぱやい発言とかも、なんか惜しいよね」

「よし、先ずその語尾の『ね』辞めようか、上から物言いな感じが勘に障る」

「だからそうじゃないんだよね」

「次言ったらマヂで俺の昇竜拳が火を噴くかんな」

「可愛いね」

⏰:10/01/02 00:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#284 [ひとり]
「£#&*@!?!?!?」

拳をグーの形にしたまま固まった三田さん。どうしたんだろ俺、これから三田さんちに二人きりだからって舞い上がり過ぎてるのかな。なんか、スイッチ入った感じする。

落ち着け、別に三田さんは俺を好きな訳じゃない。あんま浮かれて調子こいてると、バッサリいかれそうだし。ビークールだ、ビークール、俺。

⏰:10/01/02 00:37 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#285 [サルエルパンツ]
ヤバい面白すぎです!
ここまで読むのに何時間かかったかな〜?

かなりハマって気がついたらこんな時間です(笑)
ってことで寝ますおやすみなさい…
更新楽しみです
楽しみすぎて寝れないかもです(´_ゝ`)←三田さんの鼻ってこんな感じですか?

⏰:10/01/02 03:23 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#286 [ひとり]
>>285

サルエルパンツさん

いらっしゃいませ〜初めまして\(^o^)/
そんなにハマって頂けましたか、ひとり調子にのりますょヾ(´∀`)ノヒャヒャヒャ←
寝不足にはご用心☆まぁ正月だしいっかー(どっちだ)よければ総合に感想板ありますので、そっちにも遊びにいらして下さいなぁ〜

⏰:10/01/02 11:39 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#287 [サルエルパンツ]
安価失礼します(´_ゝ`)


>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700
>>701-800
>>801-900
>>901-1000

⏰:10/01/02 22:58 📱:F902iS 🆔:hTOvq6c6


#288 [ひとり]
───
─────

肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。

「玉ねぎですか」

「え、お前やったことないの?」

「うん、初めて」

キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。

「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」

⏰:10/01/02 23:30 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#289 [ひとり]
「知りませんて」

「食えばわかるよ」

なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。

「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」

「はい」

言われるままに皿と箸、コンロをセットする。

⏰:10/01/02 23:31 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#290 [ひとり]
「並べた?」

「はい」

「じゃ鍋持ってくぞ」

「どうぞー」

言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。

「ちょ、根岸そこ退いて」

「はいはい」

無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。

俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。

でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。

⏰:10/01/02 23:32 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。

好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。

「あ、うまい」

「だから言ったべ」

あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。

⏰:10/01/02 23:33 📱:F01B 🆔:Kzhnaq.I


#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。

「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 10:09 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて

「・・・・・・そっか」

と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。

「じゃあ」

「じゃ」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。

「「・・・・・・・・」」

何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

「うん、また来い」

「はい」

⏰:10/01/03 10:10 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。


近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。

ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。

漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。

胸がざわついた。

⏰:10/01/03 10:11 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#297 [ひとり]
【第十六話/つーかゲロゲロ聞こえるんですけど!!!!】


ひろむに誘われた時、咄嗟に調子が悪いってホラ吹いた。あいつには嘘つき呼ばわりされたけど、そんなんお互い様だろ。

ここ一月ちょっと、俺達はちょくちょく飲みに出た。誘うのはいつも俺だ。根岸の野郎、俺に好きとかぬかしておきながら、うんともすんともアクションがない。俺も考えるって言っちまった手前、奴を知るためにちょっと飲んだり食べに行ったり(休日の昼間に会うなんてのは流石にサムいから避けたけど)、二人での時間とか作ってみた訳だ。

⏰:10/01/03 19:40 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#298 [ひとり]
つぅか、絶対おかしいよね?普通逆だよね?なんで告ってきた筈のあいつを、考えてやる的な?完全有利な立場である俺様が?必死こいて誘ってやらなきゃいけないんだ!!!!!

何なのあの子!?!?

そうかと言って、本当はやっぱ俺をからかってるだけなんじゃないかと疑心暗鬼にかかって暫く飲みの誘いもしないでいると、なんか仕事中チラチラ見てくるし、『あれ?』みたいな顔してくるし。視線が痛てんだよテメェで誘ってこいやブォケェェェェ!!!!

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#299 [ひとり]
って思ってたところにばぁちゃんから届いた段ボール。それも二箱。中を開ければ、大量に押し込まれた野菜野菜野菜野菜・・・

その時頭に浮かんだのは、訴えるような目をする根岸の顔だった。仕方ない、鍋、誘ってやるか。

前にチラッと話したけど、奴の"来る者拒まず"は、事実らしい。てかそこダメだろ。俺が好きとか言うなら、もちっとがぶりよって来いっつんだよチキンが。

⏰:10/01/03 19:41 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#300 [ひとり]
そんで今日、根岸がうちに来た。男同士、何に気を遣う事もなく、ただ鍋をつついて、テレビを観て、合間にチョコチョコと下らない話をする。

無口でもないが、おしゃべりでもない根岸。俺の話しに笑ったりツッコんだりする根岸。鍋の灰汁を掬ったり、具を皿によそう根岸。酒を美味そうに飲む根岸。

根岸といるのは、楽だ。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#301 [ひとり]
うん、楽。まぁたまに心臓に悪い発言が飛び出る事もあるけど。さっき、うちに来る途中、いきなり『可愛いね』とか言いやがった時は本当に軽いパニックだった。何がパニックかって、真顔でんな事ぬかす根岸に対してもだが、それより何より、言われて悪い気がしなかった自分にパニックだ。

───それから飲んで食って気付けば深夜二時。どうせこの時間じゃ泊まってくんだろうと、二人分のビールのプルトップを開けたところで、根岸が言った。

⏰:10/01/03 19:42 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#302 [ひとり]
「したら俺、そろそろ帰りますね」

「え?」

寝耳に水だった。

「ほら、もう二時だし、明日もあるし」

明日があるって言ったって、二人して遅番じゃん。だったら

「泊まりゃいいのに」

⏰:10/01/03 19:43 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#303 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」

ダウンに袖を通しながら言う根岸はもう帰る気満々だ。確かに何かされても困るんだけど・・・なんだよ、

「・・・・・・そっか」

俺は玄関先まで見送りに出た。

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#304 [ひとり]
靴を履く根岸の背中をぼんやり見つめながら、ついさっき二缶も開けてしまったビールをどうしようかと考えた。

靴紐を結び終えた根岸がこちらに向き直って『じゃあ』と片手を挙げたので、俺もつられて『じゃ』と片手を挙げた。

「「・・・・・・・・」」

何だよ、この沈黙。送り出す俺が先に何か言うべきなのか。

「・・おじゃましました」

考えているうちに、先手を打ったのは根岸。

「うん、また来い」

俺はそう返すしかない。

「はい」

言ってさっさと出て行ってしまった。なんだよ。

ガチャ──

鍵の音がやけにデカく聞こえる。俺、何がしたいんだろ。てか、あいつにどうしてほしかったんだろ。

なんだ、胸がざわつく

⏰:10/01/03 19:44 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#305 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十五話十六話完結いたしましたぁ\(∀)/

てか十五話で休憩入れんの忘れてた(・∀`)テヘッ

また気分で三田目線してみました。チョコチョコ変わって読みにくかったらごめんなさい。三田の気持ちに微妙な変化が。どうなりますやら、乞うご期待☆

⏰:10/01/03 19:49 📱:F01B 🆔:dtBpp/ps


#306 [ひとり]
【第十七話/ちょ、いびき!?お客様ぁぁぁ!!!】


ちょっと前まで頻繁だった根岸との飲みの回数が減ったのには理由があった。

「四卓様お会計でーす」

「お待たせ致しましたぁーこちら熱いのでお気をつけ下さい」

「オーダーお願いしまーす」

「二卓様だし巻きお待ちー」

騒がしい店内。客の入りはピークだ。

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#307 [ひとり]
次々に出る料理と、同じ数下げられてくる空の皿。

それをさばきながらも頭の中ではもんもんとした気持ちを整理しようと必死だ。

あぁ、チクショウ。

─────
───────

⏰:10/01/04 09:12 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#308 [ひとり]
────
──────

「根岸、今日暇?」

裏口のベンチで一服しているところを発見して声をかけた。

「あ、三田さん、はざす」

「はよ、で、今日暇かよ?」

聞くと根岸は手にしていた携帯をパタンと畳んで言った。

「すんません、今日先約があるんです」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#309 [ひとり]
「そか、わぁった」

「すんません」

「いいって」

その時はそれだけで終わった。別にまた声かけりゃいいし、先約なら仕方ないと思ったから。

でも──

「根岸ー今日さ」

「あ、すんません今日もちょっと」

*****

「おいこれから・・」

「もう帰らないといけないんで」

*****

「根ぎ・・」

「お疲れしたー」

⏰:10/01/04 09:13 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#310 [ひとり]
いくら寛大な俺だって、流石に三度も連続で断られたら腹も立つ。つぅか腹が立つ。何様だ、あの野郎。


それから暫くは飲みに誘うこともしなかった。そうすりゃまた例の『あれ?』みたいな視線でチラ見してくんだろどうせ?わかってんだよ。くらいに高をくくって。

ところが。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#311 [ひとり]
来る日も来る日も根岸は仕事が終わると早々に身支度を済ませ、店を後にした。

何かがおかしい。
そしてその何かを、俺はついさっき目撃したんだ。

シフトが早番だった俺は、ランチのメニューのかかれたブラックボードを中に仕舞おうと店の入り口に出ていた。

「よっこいせ」

言ってやや腰をかがめたその時──

「ゆうちゃん、聞いてる?」

すこし張った可愛らしい声がして、何気なく中途半端な体制のまま視線を向ける。何だあれ。

⏰:10/01/04 09:14 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#312 [ひとり]
再生停止した画面のようにピタリと止まった動き。俺の視線の先には声の通りの可愛らしい女の子と




「根岸・・・?」

こちらに向かってくる遅番の根岸。

⏰:10/01/04 13:57 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#313 [ひとり]
俺は持ち上げかけていたブラックボードを下に置き直し、咄嗟にその陰に隠れた。

って何やってんだ俺。別に隠れる必要なんてないのに。もう一度陰から顔半分出してみる。いた。遠目で何喋ってっかはわかんねぇけど、ありゃ百パー根岸だ。

てか、腕・・・

「組んでるし」

全身白っぽい服で完全武装した女の子が、根岸の腕に自分の腕を絡めていた。うっわぁ〜・・・

⏰:10/01/04 13:58 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#314 [ひとり]
つまり

「そゆことね」

彼女ができたか。

「なるほど」

納得している間にも、根岸と女の子は着実に店に近付いていた。今物陰からニュッと出て行くのも気不味い。

俺は咄嗟にしゃがんだ体制のまま、店の中まで戻るという妙案を思い付いた。

うっ、この体制結構腰にくんな・・・

⏰:10/01/04 13:59 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#315 [ひとり]
キツいながらもなんとか無事戻れた店の中

「お前何してんの?」

顔を上げるとひろむがいた。

「何その格好、新しい遊び?」

俺のウンチングスタイル歩行法(と、名付けよう)を見たひろむは、怪訝な顔で言う。

「違げぇよ!"家政婦は見た"んだよ!!!!」

怒鳴りながら立ち上がる。あ、やっぱ腰痛って。

⏰:10/01/04 14:00 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#316 [ひとり]
「お前んなバイト始めたん?てかボードどした?」

「ものの例えだお前がやっとけ!!!!」

俺はそれだけ言い捨てて、裏口に煙草を吸いに行った。イライラした。

深くベンチに体を預けて、ゆっくりと煙を肺に送って、貯めて、吐く。どうにか気持ちを鎮めようとして。イライラの意味をわかりたくなくて。俺はただ、吸って、貯めて、吐いた。

⏰:10/01/04 14:04 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#317 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十七話?だっけ?完結です。二話続けての三田目線です。見ちゃったよ彼、見ちゃったよ。根岸のやつやりますな。女子と三田の二股とは。むふふ、個人的に振り回し振り回される二人ってのが好きです。←聞いなry

⏰:10/01/04 20:01 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#318 [ひとり]
【第十八話/秘伝のタレ】


「──それでね、今日は大学で──と───がマヂウケるから───」

かれこれ一時間、俺は耐え忍んでいる。

「───してイッキとか言ってコールかけ──」

目の前のグロスでギラギラした唇は未だペースを落とす事なく動き続けている。いや、むしろピッチ上がってんじゃなかろうか。

⏰:10/01/04 23:20 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#319 [ひとり]
「───だよ超笑えるっしょ?」

俺の耳はここ数日で目まぐるしい進化を遂げた。ここは敢えてキテレツの効果音と共に紹介したい。ティーティティーティティティティティーティッドン

「鼓膜機能シナクナール」

「は?どしたのゆうちゃん急に」

「・・・・・いや、こっちの話し」

⏰:10/01/04 23:21 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#320 [ひとり]
「何それ、てかどう思う今の話し?」

「あぁ、確かにザクロとイチヂクってキャラ被るよね」

「ちょっと全然聞いてなかったの?信じらんない!!だからね───」

「アキ、明日また聞くから、今日もう帰んな」

俺はとうとう限界が来てこう切り出した。

⏰:10/01/04 23:22 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#321 [ひとり]
「えぇ〜まだいいじゃん!!」

「ダメ、俺明日早番だし」

「ケチ〜」

「ホラ、送るからコート着て」

言って壁に掛けていた白いコートを放ると、渋々といった感じでそれを拾って立ち上がった。

⏰:10/01/04 23:24 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#322 [ひとり]
「明日また来ていい?」

「ダメっつっても来るんだろ」

「正解〜ぃ」

やっぱり。正解したところで、目糞程も嬉しくはないんだけど。

二人で外へ出ると、アキは当然のように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。

「寒っむ!!」

「そんなペラペラの服着てりゃーな」

⏰:10/01/04 23:46 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#323 [ひとり]
3月の頭。予告通り近くに越して来たアキは、正月に会った時とはガラッと印象が違っていた。

高三の夏までバリバリの体育会系で部活に打ち込んでいたその面影すら今はなく、エクステとかいう人工の毛をくっつけた頭や、なんちゃらネイルとかいう人工爪をキラッキラに飾り付けた指先、更に片目だけでも人工睫毛(ツケマって言うらしい)を三枚だか四枚だか装着した化粧の濃い顔は、本当に『え、どなた様ですか?』だった。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#324 [ひとり]
「可愛いっしょ?」

俺が"ペラペラ"と指摘したミニ丈のワンピースの裾をチョコっと持ち上げて笑いかけるてくる。

「短すぎ、風邪ひきそ」

俺は愛想もなしにそう答えた。

「え、何それ心配してくれてんの?」

アキはどこまでも果てしなくプラス思考だ。

⏰:10/01/04 23:47 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#325 [ひとり]
アキが越してきてから、三田さんと飲みに出かける回数が格段に減った。っつうかパタリと無くなってしまった。多分、三田さんちで鍋をしたあの日が最後だ。

何度も誘ってくれたのにそれを悉(コトゴト)く断り続けていたら、お誘いの声すらかけてくれなくなった。まぁ、当たり前と言えば当たり前なんだが。

アキもまだ入学したばかりで、新しくできた友達や入ったサークル、どんな環境に自分が居るのか、話せる肉親が必要なんだろうと思う。思うから、暫くはそんなアキに付き合おうって決めたんだ。だけど

⏰:10/01/04 23:48 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#326 [ひとり]
「じゃ、おやすみなさい」

「はい、おやすみ」

初めての一人暮らしに彼女が選んだのは、俺んちからすぐのところにある築年数も浅そうなサーモンピンクのアパート。その階段を二階へと駆け上がって行く。ブーツのヒールが、カンカンと鋭い音を立てた。

鍵を開け、ノブを回す。そして家の中に入ったところまで見届けてから俺は帰路につく。

⏰:10/01/04 23:50 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#327 [ひとり]
「参った・・・」

帰り道は自然と溜め息が零れる。まさか冗談でなく、毎日うちに入り浸るなんて。いくら覚悟していても、叔父さんや叔母さんに『頼むね』と言われても、流石にこれじゃあやってられない。

かと言って、もう来るなとも言えないし、妹みたいなアキが可愛い存在である事もまた確かで・・・・

「あ゙ぁ゙〜〜〜もう!なんだかなぁぁぁぁ」

俺の阿藤〇イにも匹敵し得る『なんだかなぁ』が、帰り道に虚しく響き渡った。

⏰:10/01/04 23:52 📱:F01B 🆔:5D9948e6


#328 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

二話越しでの根岸サイド。従兄弟のアキが再登場です。根岸って存外に身内思いなんです。はい。

ちなみアキが高校で所属していたのは、硬式テニス部でした。前衛でした。はい、補足情報でしたぁ〜

⏰:10/01/05 00:03 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#329 [ホシ]
三田さんの気持ち‥なんかせつなぁーいォ

⏰:10/01/05 08:45 📱:Sportio 🆔:VMqmuYas


#330 [ひとり]
>>329

ホシさん

切な〜いですか?ちゃっかりそこ狙ってたんで、そう言って頂けると嬉しいです(^∀^)

⏰:10/01/05 19:40 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#331 [ひとり]
【第十九話/レモン絞る前は一声かけるのが大人のマナー】


気付けば早いもので、もう四月も真ん中を過ぎた。

大学生になったアキも越して来た当初に比べれば、大分落ち着いてきて、流石に毎日深夜までうちに居座る事も減ってきた。ペース的には、週四くらい。せめてそのもう半分まで回数が減ってくれたら嬉しいのだが、贅沢は言うまい。

⏰:10/01/05 20:30 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#332 [ひとり]
それよりも今は、あの人の事だ。そう、三田さん。

アキにかまけている間に、全然誘われなくなってしまった俺。それは当然の事だと思う。そこで、再び自由な時間ができたんだしと、自分から誘ってみる事にした。

「はざす」

「はよ」

「はざーす」

今日は早番でランチをこなしていた俺、いつものベンチで一服しているところに遅出勤の三田さんと弘さんが現れた。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#333 [ひとり]
暫く三人で煙草片手に雑談。すると弘さんが徐にケツポケットから携帯を取り出した。

「悪り、電話」

話の腰を折った事を俺達に詫びてから通話ボタンを押した弘さんは

「もしもし、なに?」

話しながら店の中に消えて行った。後には俺と三田さんの二人きり。誘うなら、今だろう。

⏰:10/01/05 20:31 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#334 [ひとり]
「・・・・あの」

いつもペラペラよく喋る三田さんが、今日は黙って煙草を吸っている。なんだか雰囲気も違うような・・・

話を切り出すのが、少し戸惑われたが、そこは勢いまかせで。

「今日暇なら、久しぶりに飲み行きませんか?」

⏰:10/01/05 20:33 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#335 [ひとり]
「・・・・え?」

考え事でもしてたんだろうか、聞こえていなかったようなのでもう一度同じ台詞を繰り返した。

「だから、今日暇なら久しぶりに飲み行きませんか?」

「・・・・なんで?」


まさか『なんで?』なんて返しがくるとは予想していなかった俺、少し面食らった。

「いや、俺今日暇なんで、よかったら」

⏰:10/01/05 20:34 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#336 [ひとり]
やっぱ雰囲気が違う。つうか何だ、その冷めた目は?

「・・・・ははは」

突然三田さんは笑い出した。なんか、空笑い。馬鹿にされたような気分になる。

「なんすか、その笑い」

語尾がやや強くなってしまった。そんな俺に、一定して冷めた視線を送ってよこしながら、三田さんはこう聞いてきた。

⏰:10/01/05 20:35 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#337 [ひとり]
「根岸今楽しい?」

「何です急に?」

「・・・今楽しいかって聞いてんだけど」

質問に答えるための言葉以外は受け付けない。三田さんの目はそう物語っていて、俺は答えざるを得ない。

アキが大分落ち着いてくれたおかげで、またプライベートな時間ができて、こうして三田さんを飲みに誘える。そういう意味じゃやっぱ

「楽しいですね・・・今」

⏰:10/01/05 20:36 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#338 [ひとり]
正確には、三田さんとまた時間を持てるのが『楽しみです』なんだけど、質問の意図がさっぱりだし、第一馬鹿正直にそんなん言うなんて恥ず過ぎてムリだ。

俺の答えを聞いた三田さんは、またさっきの空笑いを繰り返した。嫌な感じ、何なんだろう。

「ははは・・・・」

「・・・・・」

俺の気持ちとは裏腹に、二人の間に流れる空気はいよいよ不穏なものに変わる。そして、茶化すように三田さんは言った。

「根岸ってばサイテー」

⏰:10/01/05 20:37 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#339 [ひとり]
は?

サイテー?最低?・・・・俺が?

そんな事、言われる覚えはない。

「何ですかさっきから意味わかんないよあんた」

「最低な奴に最低だっつって何が悪りんだよ、あ?」

目が据わってる。流石は元ヤンキーと言ったところだろうか、メンチ切る姿が様になってんな。なんて、まったく関係ない事を思ってみる。

⏰:10/01/05 20:38 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#340 [ひとり]
暫し無言での睨み合いが続いた。その沈黙を破ったのは、弘さん。

「三田ぁーちょっとこっちゃ来ーい」

その気の抜けた声に、張り詰めていた空気は一気に払拭された。これまた気の抜けた声で三田さんは

「なしただぁー五作どーん」

と返しながら、店内へと帰って行った。俺の存在なんてないみたいに、こちらには一瞥もくれずに。

なんだよ・・・・・・

「どういう事だよ」

俺は混乱し、途方に暮れた。

⏰:10/01/05 20:49 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#341 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第十九話完結しましたー三田キレました。根岸混乱しました。すれ違いはどこまで続くのか。それはひとりにも不明です←弘のナイスタイミングな一声に救われましたね。グッジョブ弘!!グッジョブ!!!!!

⏰:10/01/05 20:52 📱:F01B 🆔:SDc/X0Lc


#342 [ひとり]
【第二十話/シーザーサラダのドレッシング抜きでございます】


覚えのないいちゃもんをつけられた。テンションは底辺のままで夜の仕事は身が入らなかった。

仕事を回す上で必要な会話を何度か交わしたが、三田さんは至って普通だった。

じゃあベンチでのあの態度は何だったんだろう?

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#343 [ひとり]
その日の営業終了後、俺は納得がいかなくて、ロッカーで三田さんを待ち伏せた。

「三田さん、話あるんで、ちょっといいですか」

俺の言葉に、また例の冷めた目で三田さんは言った。

「俺は話なんてないんだけど」

なる程、二人の時はこうゆう態度な訳だ。

俺は食い下がった。

⏰:10/01/06 22:29 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#344 [ひとり]
「あんたになくても、俺にはあるんですよ」

「知るか」

「「・・・・・・・・」」

"とりつくしまもない"ってこういう事なんだろう。

じゃあ俺は、どうしたらいいんだ。何で急にこんな態度とられなきゃいけないんだよ。

⏰:10/01/06 22:31 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#345 [ひとり]
「したらもう俺帰るし」

「ちょ、」


バッ


風を切る音。

出て行こうとする三田さんの手を取った次の瞬間、勢いよく振り払われた。


「触んな」

⏰:10/01/06 22:32 📱:F01B 🆔:HDEStJ0Q


#346 [ひとり]
言って上着だけひっ掴んだ三田さんはノブに手をかけた。

元々ネジが緩くなっているロッカールームの扉。力任せに閉められたそれは、耳障りなでかい音を立てる。

行ってしまった。スタッフウェアのままで。春とは言っても夜はまだ冷えるのに、上着一枚で風邪でも引かなきゃいいけど。

一人取り残された俺、仕方がないので鍵をかけて自分も出ようとメッセンジャーバックを背負った。その時

⏰:10/01/07 09:06 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#347 [ひとり]
無音のロッカールームに人が入ってくる気配があった。

三田さん、戻って来てくれたのか。

俺は速い動作で扉を開けた。

「うおっ!自動扉かと思った、よう、お疲れ」

「・・・・・お疲れ様です」

「何だよ明からさまなガッカリ顔しやがって」

「そんな事ないですよ」


目の前にっていたのは、弘さんだった。

⏰:10/01/07 09:12 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#348 [ひとり]
今日の鍵当番は俺とノジコさんで、今日は自分が閉めるから先に帰って下さいと伝えた。鍵持ちでもないし、仕事はいつも手際よくこなす弘さんがこんな時間まで残っているというのはどうした訳か。

俺が考えてる事を察してか、弘さんはこちらが尋ねる前に口を開いた。

「お前待ってた」

「・・俺を、ですか?」

「そ、根岸を」

⏰:10/01/07 20:29 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#349 [ひとり]
「はぁ・・・」

俺は歯切れ悪く返事をする。

「まぁ、いいからちょっと付き合え」

訳の分からないまま取り敢えず弘さんに従って店を出た。何処へ向かうのやら、目的地を決めているらしい弘さんは淀みない足の運びで先へ向かう。等間隔に街灯の並ぶその下を、微妙な感覚を空けて後に続いた。

⏰:10/01/07 21:10 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#350 [ひとり]
「公園・・」

着いた先は、満腹道からほど近い『緑公園』という名のこじんまりした公園だった。あるのはシーソーに砂場にブランコ。セオリー通りのメンツ。砂場には誰かが忘れて行ったんだろう、小さなおもちゃの赤いバケツとスコップが転がっていた。

「お前何飲む?」

公園に入ってすぐにある自販機の前に立ち、弘さんが聞いてくる。

「じゃ、甘酒で」

⏰:10/01/07 21:41 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#363 [ひとり]
「ではこれにて二者面談を終了します」

「面談だったんすかコレ」

「そうだよ」

「そうだよって・・」

いっきに和らいだ空気と入れ違いに、痺れるような寒さを感じる。手の感覚も麻痺しているし。

⏰:10/01/08 20:32 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#364 [ひとり]
「てか寒っっむ!!!!」

どうやらそれは弘さんも同じだったらしく。

「とっとと帰ろうぜ根岸」

「はい」

俺と弘さんは先程の自販機脇に設置されたゴミ箱にそれぞれの缶を放り込んでから、等間隔で立ち並ぶ街灯の下を、二人横並びで元来た道へと歩いた。

明日、もう一度三田さんと話しをしよう。

⏰:10/01/08 20:41 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#365 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第二十話は弘をいっぱい出してみました。三田と根岸のために一肌脱いだ感じ。釘をさすお兄ちゃん弘です。彼の言う根岸の必死さとか、真剣さってのはアレです。三田を見る時の目とか、三田に対するちょっとした態度やリアクションの事です。そこに一々滲み出ちゃってる「ラブ」を、弘は感じとっていたようですね。ま、根岸自身は自覚なしのようですが。隠そうとも隠しきれぬ思いです。ラブです。ヒューヒュー←うざ

⏰:10/01/08 20:52 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#366 [ひとり]
【第二十一話/失礼しましたー】

別に『考えてやる』って言っただけで、付き合ってやるつもりだった訳じゃないし。別に根岸が女を好きになったって痛くも痒くもないし。寧ろそのほうが自然な事だし。俺にしたって喜ばしい事なんだ。

なんだけど、なんで・・・・

⏰:10/01/09 08:46 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#367 [との様]
感想板ってあります
更新頑張ってください
すっごくおもしろいです

⏰:10/01/09 09:00 📱:SH905i 🆔:Bx3.kDhs


#368 [ひとり]
「ニ股・・・」

って言ってしまえるんだろうアレは。

俺に好きとか言ったくせに、きっとあの女の子にも『お前が好きだぜベイベー』かなんか言ったんだ。きっとそうだ。

今思い返してもムシャクシャする。『今楽しいか』って聞いた時の『楽しいですね』って言った根岸の顔。よかったな彼女できて。俺の気持ち弄んでそんなに楽しいのかお前は・・・・

「って"俺の気持ち"ってなんだよ!!気持ちなんてねぇよクソッタレ!!!!」

⏰:10/01/09 09:04 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#369 [ひとり]
>>367

お初です^^コメありがとうございます\(∀)/

総合に感想用に設けたスレあります、「ひとり」で検索して頂ければと思いますm(・_、)mペコリンチョ

⏰:10/01/09 09:07 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#370 [ひとり]
爽やかな感じで微笑みやがって気持ち悪りぃ。ダメだ、もう一本。

「よくまぁそんだけ無駄に吸えるねぇ」

「あ?」

顔を上げると、滝が真ん前に突っ立っていた。

「煙草がもったいない」

「ほっとけ」

⏰:10/01/09 09:11 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#371 [ひとり]
「なんだよご機嫌斜めだなぁ」

休憩中。裏口のベンチを占領していた俺の横に無理やりケツを割り込ませてきた滝は、何がおもしろいのかニヤニヤしてくる。

「別に」

「エリカ様みてぇ」

滝は出会った当初から俺を玩具にして面白がる節がある。本気で迷惑な話だ。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#372 [ひとり]
「機嫌悪いのわかってんなら近寄んなよ」

「まぁそう言うなって、俺も吸いたい」

言いながら赤丸を一本取り出して火をつけた滝。空に向かって煙を細長く吐き出した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

大人しくなった滝と俺の間には、会話も特になく。今の俺はそのほうが助かるから、こっちから特に話し掛けることもしない。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#373 [ひとり]
一本目を早くも吸い終えた滝が、新しい煙草を取り出した。

まだ吸う気かよ。

「・・・・・・」

「アレ、行っちゃうの?」

内心で毒づいて店に戻ろうとしたら、止められた。

「悪るいけど、今は一人になりてんだよ」

「何言ってんの?キャラじゃねぇだろ、つかマヂ一人じゃ寒みぃから横いて」

調子こいて半袖で出てくるお前が悪い。

「俺はお前のホッカイロじゃねぇし」

⏰:10/01/09 21:48 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#374 [ひとり]
付き合ってられるか。

「ここなら二人だけど、店入ればもっと人いるぞぉ」

「木を隠すなら森の中って言うだろ」

「んー・・・・・・なんか違くね?」

あぁ、もう。

相手すんのが正直だるくて、滝には悪いけど俺は無視を決め込んでドアノブに手をかけた。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#375 [ひとり]
外に向かって開く設計の裏口扉。俺が再びノブに手をかけたのとほぼ同じタイミングで

「っっって!!!!!!」

自分じゃない力でもって、勢いよくそれは開かれた。まったくの予想外。

予知能力があるじゃなし、ボクサーでもない俺は、モロ顔面で扉を受け止めた。それを見て、

「ストライク!!」

滝の野郎がふざけた合いの手をいれてきやがった。コイツ、俺が例え目の前で事故にあって吹っ飛ばされたとしても、きっと今と同じようなふざけた合いの手で場を茶化すんだろう。間違いない。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#376 [ひとり]
にしても誰だよチクショウ!!!!顔面が凄さまじく痛いんですけどぉぉお!!!!!!てかもう、熱いんですけどぉぉお!!!!

あまりの衝撃にしゃがみこんだら、なんか涙まで出てきたし。最悪。

「すいません!大丈夫ですか!!?」

焦っているせいか、いつもよりやや張りのある声だけど、こりゃアイツだよ、うん、間違いなく100根岸だよ。

しゃがんだと同時に俯いたお陰で、顔を見なくて済むのがせめてもの救いか。

⏰:10/01/09 21:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#377 [ひとり]
「大丈夫・・・」

「顔、見せて下さい」

「・・・本当に、大丈夫」

「いいから」

「ちょ、マヂやめろ…」

顔の無事を確認しようと隣にしゃがみ覗き込んでくる根岸。

近いって。

「いいから、見せて」

⏰:10/01/09 23:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#378 [ひとり]
顔を庇うように巻き付けていた両腕をとられて、力ずくで顔を上げさせられた。

ホラァァア!!!!近いんだってば顔がぁぁあっ!!!!

「あ」

あ?

「鼻血」

「え、嘘」

言われてから遅蒔きながら気付いた、鼻下にスウッと微かに感じる生暖かさ。そこに手を当てれば指先の濡れる感触が。

「血だな」

「はい、血です」

⏰:10/01/09 23:51 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#379 [ひとり]
「血だねぇ、おぉ、鼻栓しろ鼻栓」

滝もいつの間にか側に来ていたらしい。面白がる声色に変わりはないけど、ポケットティッシュを差し出してきた。

なんだかんだ言っても、こういうとこ気がきくじゃねぇか。

「悪り」

素直に受け取って素早く抜き取ったティッシュを鼻に詰める。

やべ、ちょっと地べたに垂れたな。

見るとコンクリに点々と血痕が落ちていた。後で水かけて流さなきゃ。

⏰:10/01/09 23:54 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#380 [ひとり]
そんなことをぼんやり思いながら、グレーに映える赤に目を奪われて。

「立てますか?」

「ん、あぁ」

根岸の声で我に返った。

「鼻、折れたりしてないですよね」

言われて恐る恐る鼻を確認してみたら、よかった。

「骨はいってないくさい」

「そう、ですか」

心底安堵した様子。大袈裟だな。確かに目から星が飛び出る程度には痛かったけど。え、表現が昭和っぽいとか言わせねぇよ?

⏰:10/01/10 16:34 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#381 [ひとり]
「本当にもう大丈夫だから、滝、悪りんだけど」

「あいよー」

『消毒したい』って言おうとしたら、滝は察して足早に店の中へ消えて行った。やっぱこういう時は気が回る。さっき心の中で主張した前言は、撤回してやろう、うん。それから

「根岸、もういいって」

まだ横でこちらの様子を伺っている根岸の顔が何か言いたげだから、心からの『もういい』でそれを止めた。

そんなに謝られたって逆にこっちが気ィ使うっつーか。相変わらず位置が近いっつーか。

俺はじりじりっと微妙に根岸と距離をとる。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#382 [ひとり]
「じゃなくて三田さん、俺」

「なに?」

どうしよう。今更だけど、昨日あれだけツンケンした態度で避けていた相手とまともに会話してる自分に気付いて、なんかバツが悪い。そんな俺の胸中なんか知る筈もない根岸は、いけしゃあしゃあとこう言った。

「しつこいって思うかもしれませんけど、やっぱ俺納得いかないんで、今日残って下さい」

納得いかないって・・いやいや待てよ。何が納得いかないって?テメェは彼女できてウハウハなんだろ何ほざいてんだマヂで。意味わかんね。

今の俺、エベレストと張れるくらい沸点低いみたいだわ。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#383 [ひとり]
「しつこいって言われんのわかってんなら、そゆこと言うのやめたら?」

「・・・・・」

黙った根岸をその場に放置して、俺は逃げるように店に入った。ぶつけた鼻と、あとなんか左胸に圧がかかったみたいにぐぅっと痛い。

早くこの鼻、滝にマキロンで消毒してもらお。完全皮剥けてんだろコレ。でもこっちの痛みは・・・

黒いスタッフTシャツの胸の辺りを、乱暴に鷲掴んでごまかすのが精一杯だ。

⏰:10/01/10 16:40 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#384 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第二十一話、完結。
鼻を強打した三田と、させた根岸。空気読めてんだかいないんだかの滝でしたぁー。

滝はマイペースなチャランポランで、いつも隙あらば三田をからかってあそんでいます。

⏰:10/01/10 16:43 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#385 [ひとり]
【第二十二話/お冷やだけ注文してきた時は後回しが鉄則】


また逃げられてしまった。

「・・・・はぁ」

ため息しかでてこない。せっかく思いを伝えたのに、少し距離が近くなった気がしたのに。

近づいたと思った次の瞬間にはまた遠のいている。

気付かない程無意識のうちに。

「俺、何やらかしたんだよ・・・」

⏰:10/01/12 01:16 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#386 [ひとり]
見当も付かないが、昨日弘さんの二者面談(?)で半端はしないと宣言した手前、引くわけにはいかないし、もちろんそんな気毛頭なかった。


────
──────


今日一日もまた無事に終わろうとしている。深夜一時。常連の客がなかなか帰らなかったから、まだ暫くは締めに時間がかかりそうだ。

⏰:10/01/12 01:17 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#387 [ひとり]
三田さんが先に帰ってしまわないように、動きをちょこちょこ目で追いながらの作業。ちょうど床を掃いている時、ケツポケに突っ込んでいた携帯がバイブした。

こんな時間にメールをよこす相手なんて、限られてくる。仲良いダチか、或いは───


from:アキ
─────────

まだ仕事〜?

──end─────


「だと思った」

⏰:10/01/12 01:18 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#388 [ひとり]
思わず零れた独り言。

おそらく、毎度のことながら勝手に作った合い鍵で勝手に俺んちに上がり込み、いつの間にか勝手に持ち込んでいた部屋着にでも着替えて待っていたが、帰ってこない事にしびれを切らせて連絡をしてきたんだろう。

俺は素早く返事を返した。


──今日はまだ当分かかる。自分ち帰れ。──


送信。

⏰:10/01/12 01:19 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#389 [ひとり]
するとまた、間髪入れずに返信が。


──はぁ〜い──


内容はそれだけ。絶対にごねて意地でも待ってるとか言われると覚悟していたので、少し拍子抜けだが、これならこれでありがたい。

もう返事は返さずに、そのまま携帯をしまう。残りぶんの掃き掃除に戻ろうと顔を上げたら、思いがけず三田さんと目が合った。が、直ぐにそらされて

「・・・・・・・・」

今日は逃がさない。必ず話をつけてやる。必ず。

俺は強い決意と共に箒の柄を握り直した。

⏰:10/01/12 01:20 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#390 [ひとり]
─────
───

それから実際締め作業が完了したのは深夜二時。売上が合わないと三田さんが言い出した事で、幾分か余計に時間をくったが、そのお陰というか、自然な感じで一緒に残る事ができた。

今いるのは、三田さん、弘さんと俺。これなら何の遠慮もなく、三田さんを引き止められる。

「ひゃー合った合った、とっとと閉めるべ」

弘さんの一声を合図に、三人三様鞄を手に出口へ向かった。

「今何時根岸?」

「っと・・・二時半過ぎですね」

「マヂで?うっわ勘弁しろよ三田」

「俺じゃねーよ!誰だか知んないけど釣り銭間違えたソイツが悪い」

「店長のくせに無責任だなお前・・そう思うよな根岸」

「いや・・」

「ひろむこそ自分の肩書き棚に上げてんじゃねぇよ経営"責任者"が聞いてあきれるわ」

「わかってないねお前は、責任者として俺はお前に一任してる訳だからさ」

「一任つぅか、転嫁じゃね?」

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#391 [ひとり]
ヤバい。このままじゃなんか流れ的に三人で帰る感じじゃね?しかも俺チャリで、二人は歩きっていう・・・

内心で若干焦っていると、弘さんはシャッターを下ろした店の前で言った。

「あ、俺今日バイクだから、お疲れ〜」

それは見事な早業。止める隙もなく。俺と三田さんは走り去る弘さんの背中に『お疲れ様』の声も掛けられずにただそろって

「「え」」

と発する事しか叶わなかった。

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#392 [ひとり]
横にチラと視線をやれば、弘さんが走り去った方向にまだ目を向けている三田さん。『聞いてないよ』って顔に書いてある。

ありがとうございます。
弘さん。

俺は弘さんが敢えて一人先に帰った事を確信して、胸中で感謝した。昨日の甘酒の事もあるし、今度煙草の一箱でも奢らなくては。

⏰:10/01/12 21:06 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#393 [ひとり]
そうしていよいよ二人きりになってみれば。

やっぱ緊張すんな。

覚悟を決めていても、好きな相手に冷たくあしらわれるのはやっぱり応える。早く教会へ行って冒険の書に記録したいって思うくらいに、HPは消耗してるんだ。

それでも今何か言わなきゃ逃げられてしまうかもしれないこの状況で、俺に残された選択肢なんて、一つしかないのもわかりきってる事実だから。俺は意を決して話しかけ──


「ぐはっ!!?!!??」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#394 [ひとり]
突然だった。

ただでさえ腰にくる立ち仕事を日々やっている俺の、正にコアである腰に真後ろから、本当に突然、何かがぶつかってきた。

否、抱き付いてきた。が正しいか。

「来ちゃった!!!!」

振り向かなくたって声でわかる。

「なんでお前がここにいんだよ」

「実はね、サークルの子達と飲んでて終電逃しちゃってさぁ、だからさっきメールした時も、実は帰ってる途中だったんだよね〜」

「それで?」

「それでって・・・・だから一緒に帰れるんじゃないかな〜って思って来たの!!」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#395 [ひとり]
『ピッタリだったでしょ』とはしゃぐアキ。コイツはなんだってこういいところに・・・

「いいから先帰ってて」

「えー何でよわざわざ寄ってあげたのに」

「頼むから・・・」

もうこれは何かもので釣るしかないようだ。

「プリクラ」

「え?」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#396 [ひとり]
「撮ってやるから」

プリクラ、正式名称をプリント倶楽部。俺がまだランドセルしょってた時分に登場してから現在に致るまで、根強い人気で新機種が続々と登場し続けてる。

自分の顔をシールにして何が楽しいのか。俺からしたらその感覚はさっぱり理解できないんだが、アキはどうやら漏れる事なく好きらしい。

以前から撮ろう撮ろうとしつこくせがむのを、そればっかりはと拒否し続けてきた訳で。

「え、マヂで本気!!??」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#397 [ひとり]
それをすんなり手のひらを返したもんだから、『マヂ』と『本気』が同義だって区別もつかないくらいに喜んでくいついてきた。

かかった!!!!

俺は糸が引いたその瞬間を見逃さず、素早くリールを巻いた・・・・ってのはものの例えで

「だから今は帰ってろ」

とすかさず要求したんだ。

⏰:10/01/12 21:10 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#398 [ひとり]
「えーいいけど今から一人で何すんの?」

「一人?」

おいおい何言ってんだよ。一人な訳ないだろ俺は今から三田さんに・・・




いない。

「あの横にいた人なら帰ったよ」

「帰った!?!?」

「うん、ダッシュで」

「ダッ・・・・」

⏰:10/01/12 21:11 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#399 [ひとり]
畜生。またかよ。

「大人のダッシュってなんかウケ・・てちょっとゆうちゃん!!??」

俺は店の脇に止めていたチャリに反射的に跨ると、乱暴にそれを漕いで三田さんの後を追った。

アキがなんか叫んでる声が少し遠くに聞こえたけど、今はそれどころじゃないんだ。

なりふり構わず立ち漕ぎ。
風のビュッビュッと切れる音を、断続的に聞きながら。


早く


早く


早く


頭の中で
何度も何度も繰り返した。

⏰:10/01/12 21:12 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#400 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

いよいよ!!!!ってところでアキ登場(`∀´)

またも三田は逃げました。しかもダッシュで。
追う根岸逃げる三田。そして置いてきぼりのアキ。なんかもう、皆、ドンマイだよ!!!!は

⏰:10/01/12 21:43 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


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