こちら満腹堂【BL】
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#251 [ひとり]
「何か企んでんじゃないの?」
言うことまで洩れなく委員長だ。ここで一つ注意して欲しいのは、ノジコさんがバイトで、三田さんが店長だっていう事。二人の後ろでテーブルを磨いてた俺は隠れて少し笑った。
「別になんも企んでねって」
「怪しい〜」
「怪しくない!!」
「そのムキになる態度が更に怪しい〜」
「しつこい!!」
ノジコさん、面白がってる。
・
:09/12/29 22:11 :F01B :7w8DO9h.
#252 [ひとり]
「怪しくねぇよ、根岸も一緒だし」
正直驚いた。俺はてっきり一人で残るふりするんだって思ってたから。
「そうなん?」
「はい」
「ならまぁ安心か」
安心とか言いながらノジコさん、『なんだつまんねぇの』って顔に書いてありますよ。
・
:09/12/29 22:12 :F01B :7w8DO9h.
#253 [ひとり]
でもまぁ隠す必要がないなら楽でいい。床掃きしながら俺同様二人の会話を聞いてちょっと笑ってた津久井が
「したら俺帰るね」
と道具を片しに行ったので、『お疲れ』と声をかけて見送った。
それから長谷部さんとノジコさんも連れ立って出て行き、店には三田さんと俺の二人きりになった。
・
:09/12/29 22:13 :F01B :7w8DO9h.
#254 [ひとり]
「お前それ、いつまで拭いとく気?」
「え・・・あぁ」
言われて気付くと、俺はテーブルの同じ箇所ばかりをずっと磨いていたらしい。
「とりあえず着替えてらっしゃいよ」
「はい」
言われるままに更衣室に引っ込み、そそくさ着替えを済ませて再びホールに出ると、三田さんはカウンターからテーブルに移動して、煙草をふかしていた。
・
:09/12/29 22:14 :F01B :7w8DO9h.
#255 [ひとり]
出てきた俺を見つけた三田さんは、煙草をくわえたまま指先でテーブルをコツコツ叩いて座れの合図を送ってくる。
「何か飲む?」
「いや、大丈夫です」
「そう」
最後の一口を吸い終わったのか、静かに灰皿で火を押し消すと、改まったように座り直した三田さん。
「根岸」
きた。降られる。
「はい」
・
:09/12/31 00:14 :F01B :VFbZnWIw
#256 [ひとり]
「ごめん!!」
「・・・・・・」
わかっていても、鉛を食わされたように胃のあたりが重たくなって、言葉が出てこない。
「本当、悪かったって思ってる」
「・・・・?」
「うん、お前の・・なんだ、俺を〜・・・す、好き?・・・・そういうのなんか・・つまり〜否定したっつーか」
「はい?」
・
:09/12/31 00:15 :F01B :VFbZnWIw
#257 [ひとり]
なんだ?話が読めない。つまり今の『ごめん』は、三十一日の事を言っているのか?
「俺さ、お前に甘えてたみたいだわ」
「はぁ、そうなんすか」
「うん、だからさ」
いつのどれを言っているんだろう。俺は三田さんに甘えられた覚えなんてない。まぁ、振り回された記憶なら山ほどあるんだけど。
・
:09/12/31 00:18 :F01B :VFbZnWIw
#258 [ひとり]
「だから・・あ、その前に聞いときたいんだけど」
「どの前なんすか今」
「いいから答えろよ、お前俺が好きなんだよな」
「何回言わせるんですか」
「・・・・・・・」
訴えるような三田さんの目に根負けした俺は、舌打ちして答えた。
「好きです」
・
:09/12/31 00:19 :F01B :VFbZnWIw
#259 [ひとり]
「よし、わかった」
「わかってんなら言わせんな、罰ゲームかなんかですかコレ」
「焦んなよ、こっからが大事なんだから」
そこまで言って三田さんは大きく深呼吸をした。その必死な感じが、子供の頃読んだ北風と太陽の絵本にでてくる、北風の挿し絵を連想させる。吸って、吐いて、二回、三回。
・
:09/12/31 00:20 :F01B :VFbZnWIw
#260 [ひとり]
それから決心が着いたらしく、また顔をあげるとこう切り出したんだ。
「根岸は俺で立つの?」
さっき飲み物断ってよかった。もし今何か飲んでたら、確実吹いてたわ。
「なんつーダイレクトな・・・」
「なんだよ男同士なんだから恥ずかしがることねぇだろ」
「そうですけど」
「で、たっちゃうワケ?」
「・・・・・はい」
・
:09/12/31 00:22 :F01B :VFbZnWIw
#261 [ひとり]
「てことは、かいちゃうワケ?」
「そこはいいでしょ別に!!」
「先に確認しとかないと大事でしょうがそういう事は!!!!」
「好きでたつんだからその先は言わなくてもわかるでしょ、男なら」
「なるほどな」
・
:09/12/31 00:22 :F01B :VFbZnWIw
#262 [ひとり]
何が『なるほど』なのか、腕組みをして俯いたまま動かなくなった三田さん。俺は待つしかない。
深呼吸を繰り返していたさっきよりも長い間。
そしてその沈黙を破ったのもやっぱり三田さんだった。
「考えるよ、根岸」
「え?」
「お前が真剣だってわかったから、俺も真剣に考える」
「それって・・」
「うん、今お前とやるとこ想像してみたけど、別に思ったよか抵抗なかったわ」
「そういう沈黙だったのかよ今のは」
・
:09/12/31 00:25 :F01B :VFbZnWIw
#263 [ひとり]
「いや、さわりだけな」
「さわりだけ」
「あ、"触り"じゃなくて、事の流れをサラッとって意味での」
「わかってますよ」
「そっか、よし、まぁつまり、それが言いたかったってことだ」
『考える』。予想もしていなかった言葉に、頭がついていかない。
「テメェ俺がせっかく謝ってその上考えてやるっつってんのに、リアクションが薄すぎなんじゃね?」
・
:09/12/31 00:26 :F01B :VFbZnWIw
#264 [ひとり]
「あ、ちょっと今感激してるんでそういうノリいいっすわ」
「え、何それ聞いてないんですけど、感激させてやったのは俺だろコルァ!!もっと感激を表現しろコルァ!!」
「ちょ、マヂで、シッ」
「"シッ"とかうぜぇぇぇぇ!!!!どうしよ相手が冷静だと余計にヒートアップしちゃうじゃん俺!!しちゃうじゃん!!!!」
・
:09/12/31 00:27 :F01B :VFbZnWIw
#265 [ひとり]
三田さんが何事か叫んでいたけど、凄く遠くに聞こえていて理解できない。
今はっきりしてる事は、俺が予想していた結末は訪れなかったって事。これから先はわからないが。今はこれで十分過ぎるくらい十分で、いっぱいいっぱい。
今晩家に帰ったら一人で、柄にもなく小躍りしてしまいそうだ。
・
:09/12/31 00:29 :F01B :VFbZnWIw
#266 [ひとり]
【休憩】
おはようございます。ひとりです。
第・・・もう何話だかわかんなくなってきました←
三田、ようやく根岸の気持ちに気づけました。遅せぇよ。遅せぇけど、気づけただけではなまるです。
まだまだ続きますので、暇潰しに読んで頂けたらと思います。
てか今日大晦日!!!!
・
:09/12/31 08:43 :F01B :VFbZnWIw
#267 [ホシ]
三田さんだいれくとな感じかわいいですx
:09/12/31 23:43 :Sportio :Kf5q69TM
#268 [ひとり]
>>267ホシさん
おぉホシさん!!またカキあざす^^以前も来て下さいましたよね?三田ダイレクトですよね、てか性格が雑ですwこれからも暇潰しに読んでやって下さい☆よければ総合の感想にも遊びきて下さいまし(´∀`)/
・
:10/01/01 22:38 :F01B :C52atI8E
#269 [ひとり]
【第十五話/さっきのお客さんトイレ長くね?】
三田さんに気持ちが伝わって、一人小躍りした日からもう一月とちょっと経った。
別に二人の間で交換日記を始めたわけでも、目と目があってモジモジするわけでもない。何が変わったかと言われれば、二人で飲みに行く事が増えたとか、後は・・・まぁそんくらいだ。
・
:10/01/01 22:39 :F01B :C52atI8E
#270 [ひとり]
俺からしたらそれだけで上出来。避けられる事も嫌われる事もなく、以前より少しだけ親密になれたんだから、それだけで。
ただ、逆を言えばこの状況は生殺しかもしれない。だって三田さんは『考える』って言ったんだ。嫌いじゃない、でも好きかと聞かれればそれもどうだろうと。だから『考える』と。まぁそういう事だ。
・
:10/01/01 22:40 :F01B :C52atI8E
#271 [ひとり]
「根岸ー今日鍋しようぜ」
『考える』と言ってくれたあの日から、三田さんはかなり積極的に俺を誘ってくる。あ、変な意味じゃなくて、飲みとか飲みとか、まぁ、飲みなんだけど。
「鍋っすか、どっかいい店知ってるんですか三田さん」
仕事中の俺は皿を次々とシンクに沈め、ジャブジャブ洗う手は休めずに聞いた。
「いやバカ言うな、昔っから鍋は家のコタツでって相場が決まってんだろ」
「いつの昔からそんなん決まってたんだよ」
・
:10/01/01 22:40 :F01B :C52atI8E
#272 [ひとり]
「そりゃまだ人間がサルだった頃から・・」
「その頃は残念だけどまだコタツも家もなかったと思いますよ」
「バッ、おっま何もわかってねぇのな、彼らには地球とゆう星そのものが大きな"我が家"だったんだ!」
「そういう話してるんじゃないから今」
「とにかく、そんくらいセオリーって意味さ」
「・・で、家って長谷部さんちでやるんですか?」
・
:10/01/01 22:41 :F01B :C52atI8E
#273 [ひとり]
「いや、お前んちかうちんち」
「あ、・・・・そう」
「うん」
何てことだろう。これってもしや巷で言うところの"おうちデート"じゃなかろうか。
「で、どっちでやる?」
「どっちでもいいけど、材料何もないですよ」
「心配すんな、うちに田舎のばぁちゃんから山ほど野菜届いたんだ」
「あぁ、それで」
・
:10/01/01 22:41 :F01B :C52atI8E
#274 [ひとり]
なんだ、俺の勘違いかよ。つまりおうちデートじゃなくて、処理班て事か。
「うん、ばぁちゃんの野菜うまいから、根岸にも食わせてやろうと思って」
「・・したら三田さんちのほがいいんじゃないですか」
「そうな、うん、したら俺んちで」
言って三田さんは仕事に戻って行った。
三田さんが使うのはいつも反則技ばかりだ。期待させて落として、結局また期待させられて浮かれてる俺。まいったね。
・
:10/01/01 22:42 :F01B :C52atI8E
#275 [ひとり]
────
「お疲れしたー」
「お疲れー」
今日は皆一斉に店じまい。弘さんがシャッターを下ろし鍵を閉めるのを待つ。
「うし、で、皆今日どうするんだ?」
閉めたシャッターをチェックしながら弘さんが言った。
・
:10/01/01 22:42 :F01B :C52atI8E
#276 [ひとり]
「津久井は?」
「俺明日一限から入ってるんで」
「俺暇よ」
「あたしも」
「じゃ俺んち?」
「そうするかー根岸は?」
「いや、俺はちょっと」
「そかぁー三田、お前は来るべ?」
・
:10/01/01 22:43 :F01B :C52atI8E
#277 [ひとり]
弘さんに問い掛けられて、三田さんは一瞬チラッと俺を見た。それから
「今日なんか調子悪りぃから帰るわ」
「また風邪かよ?」
「わかんね、だと不味いからさ」
「だな、んじゃ俺達だけで行きますか」
「あ、俺も途中まで」
そうして弘さん、滝さん、長谷部さん、ノジコさん、それに津久井は、駅の方向に向かって歩き出した。
・
:10/01/01 22:45 :F01B :C52atI8E
#278 [ひとり]
その後ろ姿が豆粒大になるまで二人で見送ってから
「嘘つきめ」
「そりゃそっちでしょ、いつ具合悪くなったんです」
「うるせー、行くぞ」
駅とは反対の方向に向けて歩き出した。
・
:10/01/01 22:49 :F01B :C52atI8E
#279 [ひとり]
三月。暦の上では春かもしれないが、まだまだ俄然寒く、防寒対策が欠かせない。
「俺んちにお前が来るのってさ、チャーハン時以来だよな」
すっかりお馴染みになったポジション。自転車を挟んで右に三田さん、左に俺。
・
:10/01/01 23:01 :F01B :C52atI8E
#280 [ひとり]
「そうでしたかね」
「『そうでしたかね』っておま、白々しいー」
「だって俺的にはチャーハンより告った事のが印象強くて」
「・・あぁ、まぁ、そうね」
横目で盗み観ると、三田さんは視線を宙に泳がせながら、顎髭を指腹でジョリジョリしていた。
・
:10/01/01 23:12 :F01B :C52atI8E
#281 [ひとり]
この横からのアングル、俺的にかなりベストアングルだったりする。何がいいって、鼻の角度がいい。上向き過ぎず下向き過ぎない、程よい傾斜。本人は脂取り紙三枚半はかたいという自称ギッシュな鼻であるが、こうして見る限りそこまでとは思えない。
惚れた弱みか、未だ冬を主張するこの冷え切った夜気のせいか。男相手にこんな表現は似つかわしくないかもしれないが、横顔の三田さんは綺麗だ。
・
:10/01/02 00:23 :F01B :Kzhnaq.I
#282 [ひとり]
「何、鼻糞でもそよいでる?」
俺の熱視線に気付いた三田さんだったが、残念。
「あんたのそういうとこ、なんか残念だよね」
「は?どゆ意味」
「三田さんてさ、女子より男子にモテるタイプだよね」
「え、喧嘩売ってんの?」
・
:10/01/02 00:27 :F01B :Kzhnaq.I
#283 [ひとり]
「そういう喧嘩っぱやい発言とかも、なんか惜しいよね」
「よし、先ずその語尾の『ね』辞めようか、上から物言いな感じが勘に障る」
「だからそうじゃないんだよね」
「次言ったらマヂで俺の昇竜拳が火を噴くかんな」
「可愛いね」
・
:10/01/02 00:31 :F01B :Kzhnaq.I
#284 [ひとり]
「£#&*@!?!?!?」
拳をグーの形にしたまま固まった三田さん。どうしたんだろ俺、これから三田さんちに二人きりだからって舞い上がり過ぎてるのかな。なんか、スイッチ入った感じする。
落ち着け、別に三田さんは俺を好きな訳じゃない。あんま浮かれて調子こいてると、バッサリいかれそうだし。ビークールだ、ビークール、俺。
・
:10/01/02 00:37 :F01B :Kzhnaq.I
#285 [サルエルパンツ]
ヤバい面白すぎです!
ここまで読むのに何時間かかったかな〜?
かなりハマって気がついたらこんな時間です(笑)
ってことで寝ますおやすみなさい…
更新楽しみです
楽しみすぎて寝れないかもです(´_ゝ`)←三田さんの鼻ってこんな感じですか?
:10/01/02 03:23 :F902iS :hTOvq6c6
#286 [ひとり]
>>285サルエルパンツさん
いらっしゃいませ〜初めまして\(^o^)/
そんなにハマって頂けましたか、ひとり調子にのりますょヾ(´∀`)ノヒャヒャヒャ←
寝不足にはご用心☆まぁ正月だしいっかー(どっちだ)よければ総合に感想板ありますので、そっちにも遊びにいらして下さいなぁ〜
・
:10/01/02 11:39 :F01B :Kzhnaq.I
#287 [サルエルパンツ]
:10/01/02 22:58 :F902iS :hTOvq6c6
#288 [ひとり]
───
─────
肉はないからと、近くの精肉店でそれだけ適当に見繕ってから三田さんちへ。
「玉ねぎですか」
「え、お前やったことないの?」
「うん、初めて」
キッチンの狭いスペースで手際よく材料を切っていく三田さん。いつも満腹堂で見る姿とはまた違って新鮮だ。
「マヂでか、チゲ鍋には玉ねぎが鉄板だろ」
・
:10/01/02 23:30 :F01B :Kzhnaq.I
#289 [ひとり]
「知りませんて」
「食えばわかるよ」
なんだろ、やたら機嫌がいいように見えるのは、俺の気のせいかな。
「根岸コンロと皿セットしてきて、そこの上に入ってっから」
「はい」
言われるままに皿と箸、コンロをセットする。
・
:10/01/02 23:31 :F01B :Kzhnaq.I
#290 [ひとり]
「並べた?」
「はい」
「じゃ鍋持ってくぞ」
「どうぞー」
言うと三田さんが鍋をもって登場した。腰をやや落として、摺り足でこちらに向かってくる。
「ちょ、根岸そこ退いて」
「はいはい」
無事、コンロに鍋を着地させると、コタツに潜り込みテレビをつけた。
・
:10/01/02 23:32 :F01B :Kzhnaq.I
#291 [ひとり]
三田さんはバラエティーが好きだ。コンロに着火し野菜が煮込まれるのを待つ間も、フジのなんだか無駄に芸人が出演する番組を選局して観ていた。
俺もそれに付き合う。別にお笑いは好きだけど、どっちか言ったらテレ東とかTBS派だ。
でもそんな事はちっとも重要じゃない。じゃあ何が重要なのかと言われれば、それは三田さんといるこの空間そのものだ。
・
:10/01/02 23:32 :F01B :Kzhnaq.I
#292 [ひとり]
番組の合間に交わす何気ない会話とか、ふきこぼれかけた鍋に二人で慌てたりとか、そういうのが。
好きな人と同じ場所に居て、同じものを観て、同じ鍋をつつく。空間を共有してる。それが重要なんだ。
「あ、うまい」
「だから言ったべ」
あと、予想外に玉ねぎがチゲ鍋にあってるんだって事が発覚した。
・
:10/01/02 23:33 :F01B :Kzhnaq.I
#293 [ひとり]
食って呑んで、深夜二時。そろそろ宴も闌(タケナワ)。灰皿代わりのビールの空き缶に煙草を落とすと、中から小さくジッと火種の消える音が聞こえた。
「したら俺、そろそろ帰りますね」
「え?」
「ほら、もう二時だし、明日もあるし」
「泊まりゃいいのに」
・
:10/01/03 10:09 :F01B :dtBpp/ps
#294 [ひとり]
「いや、酒の勢いで何かやらかしたら三田さんに悪いんで、今日は」
ダウンに袖を通しながら言う俺に、三田さんは少し間を置いて
「・・・・・・そっか」
と短く頷いて玄関まで見送りに来てくれた。
「じゃあ」
「じゃ」
・
:10/01/03 10:10 :F01B :dtBpp/ps
#295 [ひとり]
玄関先で向かい合って、軽く手を挙げる。
「「・・・・・・・・」」
何、この沈黙。帰る俺が先に何か言うべきなのか。
「・・おじゃましました」
「うん、また来い」
「はい」
・
:10/01/03 10:10 :F01B :dtBpp/ps
#296 [ひとり]
ドアを閉める。背中で三田さんが鍵をかけるガチャっという音を聞き届けてから歩き出した。
近くに適当に止めておいたチャリに跨ると、ハンドルもサドルもキンキンに冷え切っていた。寒い。
ダウンのジップを限界まで上げて風の侵入を防ぎながらチャリを漕ぐ。
漕ぎながら、今日の鍋の美味さを思った。三田さんが自分で選んだというコタツ布団の柄を思った。三田さんの笑った顔と、帰り際の何か言いたげな顔の訳を思った。
胸がざわついた。
・
:10/01/03 10:11 :F01B :dtBpp/ps
#297 [ひとり]
【第十六話/つーかゲロゲロ聞こえるんですけど!!!!】
ひろむに誘われた時、咄嗟に調子が悪いってホラ吹いた。あいつには嘘つき呼ばわりされたけど、そんなんお互い様だろ。
ここ一月ちょっと、俺達はちょくちょく飲みに出た。誘うのはいつも俺だ。根岸の野郎、俺に好きとかぬかしておきながら、うんともすんともアクションがない。俺も考えるって言っちまった手前、奴を知るためにちょっと飲んだり食べに行ったり(休日の昼間に会うなんてのは流石にサムいから避けたけど)、二人での時間とか作ってみた訳だ。
・
:10/01/03 19:40 :F01B :dtBpp/ps
#298 [ひとり]
つぅか、絶対おかしいよね?普通逆だよね?なんで告ってきた筈のあいつを、考えてやる的な?完全有利な立場である俺様が?必死こいて誘ってやらなきゃいけないんだ!!!!!
何なのあの子!?!?
そうかと言って、本当はやっぱ俺をからかってるだけなんじゃないかと疑心暗鬼にかかって暫く飲みの誘いもしないでいると、なんか仕事中チラチラ見てくるし、『あれ?』みたいな顔してくるし。視線が痛てんだよテメェで誘ってこいやブォケェェェェ!!!!
・
:10/01/03 19:41 :F01B :dtBpp/ps
#299 [ひとり]
って思ってたところにばぁちゃんから届いた段ボール。それも二箱。中を開ければ、大量に押し込まれた野菜野菜野菜野菜・・・
その時頭に浮かんだのは、訴えるような目をする根岸の顔だった。仕方ない、鍋、誘ってやるか。
前にチラッと話したけど、奴の"来る者拒まず"は、事実らしい。てかそこダメだろ。俺が好きとか言うなら、もちっとがぶりよって来いっつんだよチキンが。
・
:10/01/03 19:41 :F01B :dtBpp/ps
#300 [ひとり]
そんで今日、根岸がうちに来た。男同士、何に気を遣う事もなく、ただ鍋をつついて、テレビを観て、合間にチョコチョコと下らない話をする。
無口でもないが、おしゃべりでもない根岸。俺の話しに笑ったりツッコんだりする根岸。鍋の灰汁を掬ったり、具を皿によそう根岸。酒を美味そうに飲む根岸。
根岸といるのは、楽だ。
・
:10/01/03 19:42 :F01B :dtBpp/ps
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