こちら満腹堂【BL】
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#500 [ひとり]
「根岸ー」

遠目に様子を窺っていた俺に、弘さんからお呼びがかかった。

その横にちょこんと佇む新米と揃って笑いかけられると、堪えていた溜め息がついでてしまう。

「なんです」

本当は予想をつけているのに、さも知りませんといった風を装い、二人のいる店の隅に近づく。


白々しいな、まったく。


「お前今日面倒みてやって」


やっぱりだ。


「はい、わかりました」


そう言う以外に術はないから。弘さんの指示に二つ返事ですんなり返した。

⏰:10/01/30 07:38 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#501 [ひとり]
『じゃあそういう事で』俺の役目は此処までと言わんばかりの態度で裏に捌ける弘さんに、明ら様な視線を投げつける。手元がライターで遊んでいた。


一服しに行く気だな、ちくしょー俺も吸いたいのに。


思っても叶わないこの状況だ、仕方がない。俺は背を向けていた現実を振り返った。


「で、何で此処にいる」

「どうこのスタッフT似合う?」

「俺の質問は無視か」

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#502 [ひとり]
「だってゆうちゃん最近遊び行ってもいない時あるし」

「俺にだって用事の一つや二つあるんだよ」

「一つ二つどころじゃないじゃん、朝帰りばっかりして」

母親のような口調にうんざりする。確かに女の一人暮らしは物騒だし、夜中一人で心細い事もあるだろうと思う。だからって、自分の恋人を蔑ろにしてまでかまってやれる程、俺の根はお人好しにできちゃない。

⏰:10/01/30 07:39 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#503 [ひとり]
「・・・・とにかく」

それ以上、母ちゃんの小言のような不満を吐き出されてはたまらないので、俺は無理矢理な軌道修正を図った。

「今日からお前も此処のバイトだ、ビシバシ教えるから甘えんなよ」

「てことはゆうちゃん先輩だ」

俺の前言はまたしても完全無視かと思ったが、もういっそ面倒なのでその事実を俺が無視した。

「まぁ、そうだな」

「よろしくお願いします、ゆうちゃん先輩」

常の呼び名に『先輩』と付け足した。何の創意工夫もない事に、キャッキャと喜ぶ姿を目の前にして先が思いやられる。

兎にも角にもその日が、アキの記念すべき初出勤日となった訳だ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#504 [ひとり]
───
─────

初日に先ず教えたのは基本中の基本ばかりだったが、アキは思いの外覚えが早かった。

俺を追っかけてくるような真似をして、もし皆に迷惑をかけるようならその時は・・・なんて考えてもいたのだが、どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。

基が体育会系出身なんだ。よくよく思えば礼儀マナーなんてそれこそ昔っから叩き込まれてきてる訳で、今更俺が手取り足取りしてやらなくとも、アキは当たり前のように明るい挨拶と気持ちのいい返事をホールに響かせて、夜には積極的に注文を取ったり席へ誘導したりと、目覚ましい活躍を遂げた。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#505 [ひとり]
「アキちゃんお疲れ」

「お疲れ様です」

仕事終わりに話しかけてきたのは津久井だった。

「前にもどっかでやってたの?」

「いえ、高校は部活一本で、引退してからはすぐに受験受験でしたからまったく」

俺以外と話す時のアキの口調は、なんというか、キビキビを絵に描いた様な話し方で、側で聞いていても気持ちがいい。

「そうなんだぁ、全然余裕です〜って感じだったけどねぇ」

「いえいえそんな、迷惑かけないかって冷や冷やし通しでしたよ」

感心したような津久井の口振りに、賺さず謙遜してみせたりして。

マヂ別人だろ。

⏰:10/01/30 07:40 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#506 [ひとり]
「ちょっと根岸、お前もこんな可愛い従兄弟が近くにいたんならなんでもっと早く連れて来なかったんだよ」

横で黙りを決め込んでケータイを弄っていたこちらに火の粉が飛んできた。

「うん、まぁ」

別に隠してたつもりはないが、なんだかこうして身内のアキが他人から褒められるのは不思議な気持ちがするものだ。なんとなく気恥ずかしくって、くすぐったい。

俺は語尾を濁して誤魔化しつつ、アキを見やった。アキは『可愛くなんかないです』と言って、照れ隠しなのかしきりにサイドの髪を耳に掛けたり、前髪をいじったりしている。

そのしおらしい姿がまた俺といる時とは違って新鮮で、なんだか微笑ましい。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#507 [ひとり]
ただ一つ気になる事もある。こうやってもう雇われてしまってからでは今更な話しだが、何故三田さんは何も言ってくれなかったんだろうか。それに面接をしたような素振りすら見た覚えはない。

まぁ其処は今日これから本人に聞けばいい話しなんだけど。

実はさっき黙ってメールをしていた相手がその三田さんだったりする。先にあっちが自分ちに帰ったので、俺も今から行きます。的なやり取りをしていた。

問題は、アキだ。

⏰:10/01/30 07:44 📱:F01B 🆔:aEmW27go


#508 [ホシ]
あげとこ・ω・

⏰:10/02/03 08:01 📱:Sportio 🆔:DLNGGhUs


#509 [ホシ]
あげる★+。

⏰:10/02/04 05:55 📱:Sportio 🆔:b6omUXD2


#510 [サルエルパンツ]
あげますよ!

⏰:10/02/04 17:33 📱:F902iS 🆔:wfgNwk1w


#511 [りんご]
あたしも
あげちゃうー(^ω^)ノ

⏰:10/02/04 20:11 📱:SH903i 🆔:hg1EVxs6


#512 [ホシ]
おやおやbげとこ・ω・

⏰:10/02/07 20:04 📱:Sportio 🆔:r2TOxY3.


#513 [ひとり]
今残ってるのは俺達三人。津久井はバイクで帰るし俺はチャリだ。そう言えば、アキは何で此処まで来たんだ?


「そういえばアキちゃんて帰り何で帰るの?」

俺が聞く前に、津久井がいいタイミングで質問してくれる。

「今日は電車で取り敢えず来てみたんですけど、終電ヤバいですかね」

「ヤバいっつーか、完全にアウトだよ」

「ですよね」

「なんなら俺乗っけてこうか?」

おいおい津久井、それは凄い素晴らしい提案じゃないか。俺は思わぬ天の助けに気付かれないほど小さい、しかし渾身のガッツポーズをした。

⏰:10/02/09 00:39 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#514 [ひとり]
「え、そんなの悪いですよ、それに私ゆうちゃ・・」

「悪いな津久井」

断りかけたアキの変わりに賺さず礼を言うと、津久井は屈託なく応えた。

「いいって、根岸んちの近くなら途中なんだし、ついでついで」

「え、津久井さん私本当に・・・」

「メット二個ある?」

「もち」

「んじゃ頼んだわ」

「おう」

口を再び開きかけたアキの先制をついて、どんどん話しを進めた俺は

「津久井の運転意外に荒いから、振り落とされんなよ」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#515 [ひとり]
言い添えて先に店を出た。

後から続いて津久井と、不満だらけな顔でしかし何も言えないアキが出てくる。

「後俺しめとくから、根岸は帰っていいよ」

キーケースをじゃらつかせながら言われて、

「おう悪り、おつかれ」

「おつかれ〜」

にこやかな津久井とは対局の、恨めしそうなアキの瞳に、流石にちょっと申し訳なくなる。

「・・・・・」

「アキも、おつかれ」

「・・・・うん」

⏰:10/02/09 00:40 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#516 [ひとり]
答える声も、酷くぶっきらぼうだ。

「よく頑張ったな」

機嫌をとるように初日の働きぶりを労って軽く頭を叩くように撫でてやる。

するとどうだろう、急に顔を上げて嬉しそうに笑いかけられた。ゲンキンな奴。見てくれをどんなに変えても、こういう所は昔っから変わらない。可愛い従兄弟のアキ。

「明日は一緒に帰ろうな」

なんて、思わず甘やかしてしまった。確かに最近三田さんちに入り浸ってばかりで、アキに構ってやれなかった、寂しい思いをさせてたんだろう。だからこそアキはバイト先までこうして乗り込んできたわけで。アキの事はもちろん知っている三田さんは、もしかしたらあの人なりにアキに気を使ってバイトに雇ってくれたんじゃないか、なんて考えが浮かんだ。

公私混同は否めないし、それに第一俺に内緒にする必要性は微塵も感じられないんだが。

⏰:10/02/09 00:41 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#517 [ひとり]
「絶対だからね」

「あぁ、絶対だ」

「ゆびきり」

「はいはい」

目の前に差し伸べられたら細っこいアキの小指に自分のを絡める。

「嘘ついたら針万本飲〜ます」

軽やかに歌ってみせたアキに、津久井が笑った。

「アキちゃんアキちゃん、それ千本だと思うよ」

「千本なんかじゃぬるいから、万本にしました」

ちょっと子供っぽいですかねと照れ臭そうに笑い返すアキと、そっかと軽く請け合った津久井だったが、俺はこの約束だけは破るまいと一人誓った。だって、アキの笑った顔の中でその目だけは本気の色を帯びていたから。こりゃ破りでもしたらその日のうちに裁縫屋の梯子もしかねないって確信があった。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#518 [ひとり]
「したらまた明日」

「うん、明日ねぇ」

「おつかれー」

俺は今度こそサドルに跨ると、地面を蹴って三田さんのもとへ向け走り出した。



チャイムを鳴らすと間もなく怠そうな応答があって扉が開かれ、現れた三田さんはスウェットの上下に邪魔な前髪をゴムで結んだ姿で俺を迎え入れた。

「お疲れさん」

「お疲れさまです」

靴紐を緩めようと玄関に腰掛けた俺が無造作に置いた荷物を、当たり前のように持ってリビングへと先に消える後ろ姿を振り返り見た。甲斐甲斐しい新妻みたいじゃないか。三田さんの一挙手一投足にこうして一々反応するのは気持ちが片道だった頃から何ら変わらないところだが、それに相手からの好意を汲み取れるようになったというのが最大の異点であり、それがどんなに俺を幸福の高みへと昇らせているのか、きっと当の本人は無意識無自覚なんだろう。

⏰:10/02/09 00:42 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#519 [ひとり]
あの人が往復した際に開閉したドア。その気流に乗っかって、胃をいい感じに刺激する匂いが漂ってきた。それを一粒の粒子も逃さぬように思い切り吸い込むと、うん、これはどうやらカレーみたいだ。三田さんの好物はカレーにハンバーグにミートスパゲティー、オムライスとお子さまランチのスタメンで構成されている。ただその中でカレーだけは厄介な奴なんだと以前愚痴られた事がある。何故かと聞き返すととんだ愚問だと呆れられた。要するに、その量が問題なのだと言う。

『考えてもみろ、一人暮らしってことは"独り"ってことだ』

俺は普段カレーなんてインスタントか外食でしか食べないからわからなかったが、何でも自炊派の三田さんにするとカレーは作れば毎回多すぎて後が困るんだそうだ。ならば初めから考えて少なめに作ってはどうかと提案したら

『それじゃやっぱり物足りない』

と一蹴されておしまい。普通に作れば多すぎて、控えて作れば物足りない。俺の中でカレーは、二人以上で食べてこそのカレーなのだと、何故か誇らしげに熱弁する姿がフラッシュバックした。

⏰:10/02/09 00:43 📱:F01B 🆔:gfb29CHM


#520 [ひとり]
「お前遅せぇよ」

三田さんの声でいつの間にか思い出に浸かっていた意識が浮上する。見れば手に皿とおたまを持って仁王立ちしていた。

「カレー冷める」

「はいはい」

踵をきちんと揃えて玄関の隅に靴を置くと、俺はカレーの匂いでいっぱいになった暖かいリビングへと向かった。



「「いただきます」」

コタツに入って俺達は手をあわせる。三田さんの作るカレーは煮崩れない綺麗なジャガイモがゴロゴロ入っていて、玉ねぎの甘さがたまらない。まさに絶品だ。

デカすぎるほどにデカいジャガイモをスプーンで割開くと、中から白く湯気が立ち上る。舌を火傷しないよう慎重に口に運び、はふはふと少しずつ熱を逃がしながら食べる。美味い。

俺同様に先ずジャガイモに手を着けたらしい三田さんも、はふはふやっている。そして全て飲み下すと、うんめーと顔全体で笑ってみせた。俺が美味いですねと同調すれば、更にその表情を綻ばせる。嗚呼またそんな顔して、抱きついてやろうかなコンチクショー。

⏰:10/02/10 09:13 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#521 [ひとり]
「そ、いへばは」

二個目のジャガイモを投入した口をはふはふさせつつ、三田さんが喋る。

「ア、あち、アキひゃん、あち、あち、」

「喰うか喋るかどっちかにして下さい」

俺が言うとどうやら先に食べる事に専念しようと決めたらしい。暫く待てば、マンゴーラッシーでジャガイモを飲み下して自由になった口を開く。

「びっくりしたよ、アキちゃん」

.

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#522 [ひとり]
「あぁ、俺もあんな動けるヤツだとは思いませんでしたよ」

「じゃなくて、行ったらひろむにいきなり今日から入ったとか紹介されてさ」

「え、三田さんが弘さんと採用したんじゃないんですか?」

「俺知らないし、ひろむが知らん内に入れてた」

でもそれってどうだろう?弘さんは確かに全体の責任者だけれど、三田さんに黙って勝手に人を雇ったりするんだろうか。

「本当にまるきり知らなかったんですか?」

「ん?・・・んー」

ハッキリしない物言いと微妙にばつの悪そうな顔に、これは何かを隠してるんだと想像するのは容易かった。

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#523 [ひとり]
「・・・・知ってたんでしょ」

「いや、本当に知らなかったんだって!!」

誤魔化すように福神漬けをつついていた手を止めて、三田さんは抗議するような視線を寄越す。

「・・・そうですか」

俺は不自然なまでの聞き分けの良さで、再びカレーに意識を戻した・・・ように見せかけた。三田さんは隠し事が苦手だ。それは『お付き合い』する以前からとっくに心得ている。ベタだけど今俺のとっている行動は"押して駄目なら引いてみろ"な訳で、それがこの人にとって最大限の効果を齎すという事は、過去に幾度も実証済みなのだ。

⏰:10/02/10 09:15 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#524 [ひとり]
暫くは根競べ、俺はひたすらにカレーを食べて、どうでもいいクイズ番組を観た。観ながらたまにチラと横目で三田さんの様子を伺う事も忘れない。もういよいよ限界のようで、何を食べるわけでもないのに開いたり閉じたりと、口がしきりに動いている。言おうか言うまいか、逡巡しているみたいだ。

その姿が可笑しくて笑い出したい衝動にかられたけど、そこはぐっと飲み込んでひたすらに待つ。すると

「バイトを採ろうって話しはしてたけど、まさかアキちゃんとは思わなかった」

三田さんはボソッと零したんだ。

⏰:10/02/10 09:16 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#525 [ひとり]
「それじゃ、面接は弘さん一人でやったんすか?珍しい」

「うん、そう」

白状してもまだ尚気まずそうな態度。

「どうして三田さんは行かなかったんですか」

「それはお前、そのほら、あれだ、あのー…」

俺が詰めれば、三田さんは視線を逸らす。逸らした刹那覗いた耳が、心なしか赤くなっているのに気付いた。

「俺に言いたくないんですか」

⏰:10/02/10 21:36 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#526 [ひとり]
直感だった。三田さんが照れるような事なら、自分が関係あるんじゃないかなんて、とんだ自惚れだなと半分思いながらも。そしてその自惚れた直感は、どうも三田さんの確信をついていたようだ。

「・・・・・・・うるせ」

「耳真っ赤だけど」

「うっ・・・」

「白状しちゃいなよ」

「・・・ねぼ・・した、から」

観念したのか、つかえながらも口を開いた。

⏰:10/02/10 21:53 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#527 [ひとり]
どうも寝坊して、面接に行けなかったらしい。バイトの面接は毎度決まって午前中の、ランチ前の時間だ。ノジコさんはどうか知らないが、俺も津久井も、実際面接してもらったのは午前中の割と早い時間帯だったのを覚えている。

「寝坊って、んな事あったんですか?」

「ん、あった」

「そんなん言ってくれたら俺が電話で起こしてあげたのに」

「そりゃムリだろ」

「え、何でですか」

「だってお前も爆睡してたし」

⏰:10/02/10 22:11 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#528 [ひとり]
「あ、そうなんだ」

「うん」

「それすいません、いつの話しっすか?」

「俺らが・・つ、きあった、日」



なるほど。


つまり俺達が例の追いかけっこをやっていた次の日が、アキの面接日だったのか。そりゃあ俺には起こせないな、三田さんの横で昼過ぎまで確かにぐーすかやってたんだから。

⏰:10/02/11 01:08 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#529 [ひとり]
「しかも俺さ──」

三田さんの話しにはまだ続きがあった。

「ん?」

「俺一回目ぇ覚めたんだわ」

「あ、そうなんすか?でも、したら何で・・・」

「根岸が『行くな』って言った」

「えぇ!!??」

なんだそりゃ、それは初耳すぎる。てか、まるきりそんな記憶はない。

「覚えてねぇのかよ」

⏰:10/02/11 01:09 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#530 [ひとり]
三田さんの恨めしそうな視線に、今度は俺が言葉を詰まらせた。

「そのー・・・つまり、言っちゃえば・・・・お、ぼえてはー・・ない、です」

白状すると、そんなんわかってたわと言わんばかりにデカい溜め息を吐かれて、恐縮してしまう。

「お前ねぇ」

「本当に記憶ないんです、てかんな譫言、無視してくれたらよかったのに」

「そりゃ俺だって根岸が離してくれたらそうしてたさ」

⏰:10/02/11 01:10 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#531 [ひとり]
でも、と三田さんは繋げた。

「俺が目ぇ覚めて布団から出ようとしたら、後ろっから羽交い締めするみたいに抱きつかれて、『行くなよ』とか言うから、だから・・・・」

自分で言いながらその時の事でも思い出したのか、今度は顔面までもが紅潮しだした。

おいおい、無意識の俺何してくれてんだ。まさか羽交い締め以上の何か、やらかしてはいるまいな。

一瞬思ってヒヤッとした。

「だから俺、面接あるって言ったんだ、なのに全然聞かなくて『そんなのいいからここに居ろよ』って、き、き、キス、されて」

いよいよ顔面の赤みがピークを迎えて、それは首までも染め上げる勢いだった。

あ、湯気出るかも。

⏰:10/02/11 01:11 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#532 [ひとり]
「だからお前がいけねんだよ根岸コノヤロォォオ!!!」

恥ずかしさの臨界点を超えてしまったらしい三田さんは、唐突に、叫ぶように俺に食ってかかった。

確かにそうだ、そうなるわ。

『ごもっともです。』としか、返す言葉が見つからない。

「申し訳ない」

「本当にな!!おかげであの日はひろむに一日中ぐちぐち言われて、散々だったんだ」

「・・申し訳ない」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#533 [ひとり]
俺は、不正を暴かれた政治家よろしく、繰り返し繰り返し陳謝した。

「本当に申し訳ないです、そして記憶ないです」

「バカ」

「はい、ごめんなさい」

「・・・・・とにかくだ、そういう訳あって面接はひろむ一人でやったわけ」

「はい」

「で、採る採らないは俺が決めるって言われれば、バックレた俺は何にも言えねぇよ」

「はい」

「蓋を開けてみりゃ『根岸アキです』って訳だ」

「はい」

⏰:10/02/11 01:12 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#534 [りんご]
あげます(・ω・)

⏰:10/02/17 01:57 📱:SH903i 🆔:sXavEeNs


#535 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/02/17 03:19 📱:SH02A 🆔:NfuyhUpk


#536 [ひとり]
「面接ん時、お前の従兄弟です、『ゆうちゃんが一緒なら安心だから』って言われたんだと、そりゃ断れねぇよ」

「アイツそんな事・・・すいません、ムリに雇ってもらって」

「いや、今日一日見てみたらかなり動けるみたいだし、実際一人増やすのは前々からひろむと話してたことだから、いんじゃね」

三田さんの言葉はありがたかった。が、アキには、軽く釘を刺しておく必要があるだろう。俺をコネにするなんて、裏口入学の〇〇゙やか〇みたいなまねは黙っていられない。

⏰:10/02/20 20:11 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#537 [ひとり]
少し現実(ここ)から意識を離した隙に──

「ゆうちゃん」

「はい?」

それはあまりに急で、自分を呼んでいると気付くのには少し時間がいった。

三田さんは少し冷めかけてきたカレーの残りに手を着けながら、意地悪くニャッとして見せた。

「こないだも思ったけど、ゆうちゃんて呼ばれてんのな、お前」

「まぁ、名前がゆうすけですから」

なんだろ、普段アキにそう呼ばれたところで何とも思わないが、三田さんに『ゆうちゃん』なんて言われると、なんだか不自然で居心地が悪い。

⏰:10/02/20 20:12 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#538 [ひとり]
「ゆうちゃんね〜」

「三田さんだって、下の名前で呼ばれる事くらいあるでしょ」

「そりゃあるけどもよ」

「の・・「のんちゃんはない」

呼びかけた名前は、その主である三田さんの声に被せられて、言いきることが叶わなかった。

「めっちゃ呼ばれてそ」

「俺はまんまだよ」

「まんまって・・望?」

⏰:10/02/20 20:13 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#539 [ひとり]
初めて三田さんの下の名前を呼んだ。疑問系だけど。すると三田さんはなんとも言い表し難い表情になる。

「何ですかその顔は」

「いやー、お前に下の名前で呼ばれるって凄げぇ気持ち悪りぃなと思って」

「失礼以外の何物でもねぇなその言い草」

「いや、マヂでムリだわ」

「わからなくもないですけどね、俺も三田さんに"ゆうちゃん"て呼ばれて凄い居心地悪かったから」

「お互い様じゃねーか」

「はい、変にとちくるっていきなり呼び方変えるとかはやめましょうね」

⏰:10/02/20 20:14 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#540 [ひとり]
俺が言うと三田さんは黙って頷いて、それから確認するように俺の名を呼んだ。

「根岸」

ほら、やっぱこれが今の俺には心地いいんだ。

「三田さん」

呼び返すと、三田さんもしっくりきたらしい。もう一度頷いてみせた。そして

「何このやり取り気持ち悪」

「そっちが始めたことでしょうが」

「いいから、とっととカレー食べちゃいな!!これじゃいつまで経っても片付きゃしないよ!!!!」

「またそうやって母ちゃんキャラに逃げる」

⏰:10/02/20 20:15 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#541 [ひとり]
そうだ、こうやってバカ言い合って、上の名前で呼び合うくらいが丁度いんだ。今までも、これからも。

非生産的かもしれない俺達の繋がりだけど、この関係が変わらずに続けばいい。そんな事を思った。変わらないなんて、そんなん不可能かもしれない、いや、絶対に不可能だけど、それでも強く思ったんだ。遠い先の事なんて想像つかないけど、そこでも俺の隣に三田さんが、アホ丸出しで笑っていてくれたらいいって。そんな事を思ったんだ。

このカレーの残りを食べたら、バスタブに湯を張って二人で入ろう。誘ったら、この人はまた火を噴くほどに照れて真っ赤になるんだろうな。ついでにちょっとイヤらしい事でも仕掛けてやろうか。

ねぇ、三田さん

「あ?」

好きだよ。

⏰:10/02/20 20:33 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#542 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

ひとりがいない間にあげて下さったりんごさん、匿名さん、ありがとですヾ(^▽^)ノ

ん〜なんか平和な二人・・・きっとこのあと狭い湯船に二人仲良く浸かったりなんかしたんでしょうね。まぁ平和なんてそうそう続くもんでもないんでしょーが・・・・

アキがいるものww

⏰:10/02/20 20:39 📱:F01B 🆔:l7X8LntM


#543 [ひとり]
【第二十七話/追加注文しすぎると伝票がなんかもうぐちゃぐちゃであれになる】


頬が熱い。

凄い見事な往復ビンタだった。いやいや、ビンタなんて可愛い感じじゃすまねぇよもう。こりゃ平手打ちだよ、平手打ち。

うん、やっぱ漢字で『平手打ち』の方が、俺のくらったダメージがどれだけのもんかってイメージがつきやすいな。

つうか

「あのね、アキちゃん」

⏰:10/02/23 20:07 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#544 [ひとり]
いい加減に腹の上からどいてくんないかな。いくら女の子の軽い体重でも、腹に圧がかかればそりゃどうしたって苦しいのよ。

最近腹筋をサボってたツケなのか、あぁ、息がしずらいったらない。

でもアキちゃんは一向にどいてくれる気配がないから、俺はため息をついた。満腹堂の、普段いろんな人が土足で踏みしめる床に頭やら背中やらをくっつけて。

⏰:10/02/23 20:13 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#545 [ひとり]
毎日入念に磨き上げても、一日の営業が終わる頃にはすっかり元の木阿弥で、スタッフTから剥き出しの腕がベタベタして気持ち悪い。

「いい加減どいてくれると、おじさん凄い助かるんだけど」

「・・・・・・」



はい、無視ですか。

いいよ、無視したきゃしたって、そりゃ皆が皆と仲良くできる訳もねぇし、俺と口利きたくないってんならあぁそりゃ一向に構いませんとも。ただ

「もう息苦しんだよ、悪いけど」

今のこの体制で無視を決め込まれては、そんな呑気に構えてもいられない。

⏰:10/02/23 20:20 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#546 [ひとり]
よし、今晩からまた腹筋始めよう。

誓いながら強制的に体をどかそうと、アキちゃんの腕に手をかけようとした、すると

「返してよ」

「え?」

久々に口を開いた彼女の声は、微かに低く、震えて聞こえた。

返すって、何を



「ゆうちゃん返してよ」

⏰:10/02/23 20:25 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#547 [ひとり]
肝が冷えた。

返してって──
ゆうちゃんって───


この子は、根岸と俺の事・・・・・・知ってる?


「え、ちょ、アキちゃんいきなり何言って・・・」

「いきなりじゃないよ、ずっとそんな気してたんだよ」

俺を睨みつけるその瞳には、薄暗い何かが揺らめいている。華の女子大生を捕まえて、こんなん失礼かもしんないけど、普通に怖いです。

⏰:10/02/23 20:30 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#548 [ひとり]
だいたい何でこんな事になったんだっけ。

普通に俺電卓たたいてて、アキちゃんが床を磨いてて、若い子の好きそうな恋愛ネタでもふってみるか〜みたいな軽い感じで話してて───


「学校楽し?」

「はい、楽しいですよ」

「そっかーサークルとか入ってんだっけ」

「はい、飲みサーですけど」

「いいじゃん飲みサー、出会いも多そうで」

「いや〜全然ですよ〜」

⏰:10/02/23 20:40 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#549 [ひとり]
そうそう、いい感じで会話のキャッチボールしてたじゃん俺達。凄げぇ和やかだったじゃん。なのに───


「そうなの?でもアキちゃんなら出会いなんかなくてももう彼氏もちか」

「いえいえ、いないんですよ私」

「え、以外」

「・・・・好きな人なら、いるんですけど、ね」

電卓をたたく片手間に会話をしていた俺は、アキちゃんのその発言で彼女の方を見た。実は彼氏がいないってことは知ってた。だから兄貴的存在の自分にいつまでもひっついていて困るって、根岸から聞かされてたから。

⏰:10/02/23 20:49 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#550 [ひとり]
でも、片思いする相手がいるなんて聞いてなかった。これはもしかしたら根岸も知らない事実なんじゃないか?


「へぇー好きな人いるんだ」

「はい、完全に片思いですけど」

「え、そうなの?ますます以外だわおじさん」

「ずっと、離れて住んでたんですよ、でも最近ようやくこっちに出て来て、頻繁に会えるようになって、私凄いアピって頑張ったんです。でもね、ダメみたいなんです」

⏰:10/02/23 20:54 📱:F01B 🆔:T93pivbA


#551 [ひとり]
アキちゃんは寂しそうに微笑った。その表情(カオ)は恋する女の子そのもので、俺は密かにドキッとしてしまった。

「ダメみたいって・・・せっかく近くにいれるんだから、まだ諦めるのは早いんじゃないかな」

無責任な励ましの言葉。でも、それしか思いつかない。恋愛なんて不慣れな俺が、先輩面して言える台詞なんて、たかがしれてた。

「恋人、いるんです、彼」

うわ、俺の無責任な励ましのせいで、アキちゃんに余計な事を言わせちまった・・・俺のバカ。

⏰:10/02/24 19:55 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#552 [ひとり]
思ったところで時既に。ひっこみ着かないしここで『あ、そうなんだ、ごめん』なんて言ったらこの場の空気が気まずくなるし・・もう、いっそ励まし倒してしまえ────


しまえ─────


しまえ─────


そう、その安易な考えがきっとよくなかった。いや、今更なんだけど・・・・

⏰:10/02/24 19:59 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#553 [ひとり]
「彼女ね〜そんなん関係ないでしょ、俺なら気にせずガツガツ行くね、恋愛ってさ、もっと自分勝手で自由にしていんじゃねーの?アキちゃんまだ若いしそんな可愛いんだから、今はオフェンスに徹した方がいいって、うん」


我ながら当たり障りのない台詞だ、自分の引き出しの少なさに笑えてくるよまったく。

とは内心思いつつも、全身全霊テンションあげて俺はアキちゃんを励ました。まぁ、その相手の彼女にしたら第三者が無責任なことぬかすんじゃねぇって思うだろうけど。そんな知らない彼女を気遣うより、今は緩く弧を描くように気分が下降しつつある、目の前のアキちゃんが先決だった。

⏰:10/02/24 20:38 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#554 [ひとり]
しかし俺の全力の励ましはやっぱり薄っぺらすぎてアキちゃんには届かないのか、まるきり反応が返ってこない。床に視線を落としているらしく、髪が顔にかかって表情はわからないが、でも今彼女の中に芽生えているのが、プラスの感情でないことだけは何となくわかった。

あんまりに白々しすぎて、逆に望みがないとか思わせてしまったんだろうか。

「あの、アキちゃ・・」

「知ったような口聞くな!」

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#555 [ひとり]
それはさっきまでの、例えるなら、んー・・小鳥のさえずりのように可憐な声?とは打って変わり、まるで・・・・まるでー・・・あ、うん。まるで改造したマフラーでふかしたような野太さと、腹に響く迫力を湛えた声だった。

そしてそのことに驚いている間に彼女は俺の腰掛けたスツールに歩み寄ると、その脚を華麗に足払い。上に座っていた俺はもちろんそれごと床に倒れたんだけど、彼女はすかさずそんな俺の腹の上に馬乗りになり、躊躇うことなくこれまた華麗な動作で往復の平手打ちを繰り出したんだ。

そして、一気に両の頬が熱くなった。なったけど、それはあくまで熱いってだけで、痛いとかではまったくなくて。つうか痛いより何より今の一連の出来事に驚いてしまってそれどころじゃなかった。

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#556 [ひとり]
確かに知らない。アキちゃんがどんなに相手の男を好きなのかも、好きな相手には恋人がいるって事実にどれくらい打ちのめされているのかも、今さっきチラッと話しを聞いた程度の俺には想像もつかないよ。

だからって、何で俺が八つ当たりみたいに殴られなきゃならないんだろ。

「え、何々、何で?」

思わず零れ出た当然の疑問に答えることなく、アキちゃんは俺の腹の上、ただ肩を小刻みに震わせていたんだ。

⏰:10/02/25 08:59 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#557 [ひとり]
それがつい数分前の出来事で、耐えるように肩を揺らす彼女に声をかけるのが偲ばれて、なんとなく黙っていたんだけど俺の筋肉が限界を訴え始めたから、どいてくれと頼んだ。するとかえって来た返事がこれだ


──ゆうちゃん返してよ──


さっきの話しの流れから、何で突然自分が殴られたのか。点と点が、一本の線で繋がったような感覚。

そっか、つまり、そゆこと?
え、マヂでか。

⏰:10/02/25 09:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#558 [ひとり]
「何であなたみたいなおじさんなので?ゆうちゃんを変な道に引き込まないで!お願いだから!お願いです!!」

そんな重ね重ねお願いされても、引き込まれたのはどっちか言ったら俺なんだけど・・・

とは流石に言えなくて、苦しそうに寄せたアキちゃんの小さい眉間の皺ばかりに視線をやった。

「私の方が、先だったのに・・先に好きになったのに・・・・」

⏰:10/02/25 09:26 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#559 [ひとり]
だからさっきも言ったじゃん。後とか先とか、恋愛ってそうゆうんじゃないって。

でも、これもまた俺は飲み込んだ。アキちゃんにしたら確かにポッと出の、しかもおっさんが恋敵になるだなんて、こんなことって想像できるだろうか。否、ムリでしょ。確実ムリだって。キャパ超えるって。

困り果てて何も言えない俺。するとアキちゃんはふーっと深く長い息を吐いた。それから、さっきまで貼り付けていた苦しそうな表情から一転、読めない無表情で俺を見下ろした。てか、マヂいい加減腹が・・・・

⏰:10/02/25 09:43 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#560 [ひとり]
「三田さん、下の名前は?」

「はい?」

「下の名前ですよ、三田、何?」

「の、望」

「のぞむ・・・じゃ、のんちゃんね」

「え・・・」

「のんちゃん、さっき言ったよね?恋愛は自分勝手で自由なもんだって」

言った。言ったけど、何だかとっても厭な予感がするのはおじさんの気のせいでしょうか?

「・・・言ったけど」

⏰:10/02/25 09:47 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#561 [ひとり]
「じゃあ、私まだ諦めなくっていいって事ですよね?」

今関係ないんだけど、この敬語とタメ口が混在する感じが根岸とシンクロする。さすが同じ血が混ざってるだけのことはあるな。つぅか、ただ単に俺が二人共に嘗められてるだけとかだったら、なんか凄げぇ凹むけど。

「うん・・・・え!?!?」

「え、じゃないですよ今更、言ったのはのんちゃんなんだから」

それは事実で、何も言い返せない。

⏰:10/02/25 09:51 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#562 [ひとり]
「私、諦めないから、つぅか、ゆうちゃん振り向かせるから」

「・・・アキちゃん、戦国武将みたい」

「何言ってんの?」

「ほら、あの時代の武将は、合戦前に互いの陣地から名前を名乗って宣戦布告し合ったらしいじゃん」

「だから?」

「今のアキちゃん、それっぽいな〜って」

「喧嘩売ってんですか?」

「めっそうもない」

俺は相変わらず床と仲良くしたまんまの体勢で、両手を顔の脇に挙げてみせた。

⏰:10/02/25 09:56 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#563 [ひとり]
「とにかく、そうゆうことなんで、明日っから覚悟して下さいね、私本気になったら、フェアとかそんなん関係ないんで」

そこまで言うと満足したのか、ここでようやくアキちゃんは立ち上る。長いこと押し潰されてた腹から急に圧迫感が取り除かれると、今度はなんだかスカスカして落ち着かなかった。

「あ、それと」

「あ?」

「ゆうちゃんにこの事言ったら・・・」

「んな野望なこたぁしねぇよ」

察してこちらが言えば、今度こそ納得して。『お疲れさまでした〜』と彼女は元気な声で挨拶をして退勤を押すと、颯爽と帰って行った。

⏰:10/02/25 10:04 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#564 [ひとり]
宣戦布告を叩きつけた彼女は、可愛らしい外見とは裏腹。その内は男気に溢れていて気持ちいい程だった。

彼女が消えた満腹堂の店内で独り。ようやく上体を起こした俺は、そこから勢いをつけて一気に立ち上がった。

フェアとか関係ない───

服を叩きながらさっきの言葉を思い返した。それを前もって言ってしまってることが、もう十分にフェアプレイだってこと、彼女は気付いてんのかな?否、きっとわかってないんだろう。

明日から・・・・あっちがその気なら、俺だって本気だ。根岸は、やらない。

俺は闘志を燃やしながら、残りの仕事に取り掛かろうと倒れたスツールに手をかけ、そこで動きを止めた。

⏰:10/02/25 10:13 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#565 [ひとり]
なんとなく向けた視線の先に、気になって仕方がないものを見つけてしまったから。


「あのヤロウ・・・・」


スツールを立て直してから、俺は溜め息混じりにそこへ向かう、拾い上げたそれは、そうモップ。


そこにはやりかけのままアキちゃんに置き去りにされたモップと、セットのバケツがあった。

⏰:10/02/25 10:17 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#566 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。
第二十七話完結致しました。アキに殴られた三田、可哀想にwWあんまドロドロし過ぎも違う気がして、軽くまとめたら気持ち悪い青春ドラマみたいになっちゃいました。ごめんなさい。もう少し、ドロっとマイルドにさせても良かったですかね。それにしてもこの話し、皆よく手がでますwW

⏰:10/02/25 10:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#567 [ひとり]
【第二十八話/まだ注文とってる途中でしょうがァァア!!!!】


最近気になる、というか、気に食わない事がある。いつからそんな仲になったのか、三田さんとアキの事だ。

ここ数日、気付いたらいつも二人で何か話している。何の話しか、聞いても二人共答えてくれないだろう事は目に見えているので、敢えて聞かないが、突然どうしたのか。挙げ句、アキが三田さんちにまで付いて来たりする。

⏰:10/02/26 21:27 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#568 [ひとり]
いやいや意味がわからないから。俺達の関係を知らないから、そこ空気読めとは流石に言わないが、それにしたって何がどうしたっていうんだ。

現に、今も進行形で二人はじゃれ合っている。

三田さんにしたら俺の従兄弟で職場の新人なら、そりゃ気にかけてやるのが当たり前なんだろうけど。アキの急激な懐きようは異様だ。

もしかしたらアキ、三田さんの事が・・・なんて、いらない考えまで首を擡げる始末だ。

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#569 [ひとり]
いけないいけない。今は目の前の仕込みに専念しなければ。気持ちを切り替えようとした刹那、肩にかけられた手。

「あんた今日暇?」

「あ、はい、暇です」

それはノジコさんだった。

「じゃ、今日はべぇやんちで」

「わかりました」

夜の予定が決まった。長谷部さんち、久々な気がする。

「あんた達もね」

⏰:10/02/26 21:28 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#570 [ひとり]
それはこちらに背を向けていた三田さんとアキにかけられたものだったが、小突き合いをしていた二人は気づかない。ノジコさんは声のボリュームを上げた。

「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

聞き分けない子供を叱る母のような口調に、ようやく気付いた二人は、やや驚いたような顔の後『はい』と首を縦にふった。

その動作までが示し合わせたかのように似ていて、また余計な考えに飲み込まれそうになる。

そのモヤモヤを切り刻むように、手元のキャベツを千切りにして気を紛らわせた。

⏰:10/02/26 21:29 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#571 [ひとり]
夜、時間はとっくに十二時を超えている。

満腹堂は基本『客が帰るまでが営業時間』というスタイルをとっている。事前によし皆で飲もうなんて決めた日に限って客足の引きが遅いなんてのは、よくある事だ。

「もうすぐ一時なるし」

「とっとと出て〜」

「酒家にあるん?」

皆思い思いに喋りながら店を出ると、もう春一番も訪れた後の今日の日はとても暖かだった。

⏰:10/02/26 21:47 📱:F01B 🆔:ssYbzadU


#572 [のん]
>>1-400
>>400-1000

⏰:10/02/27 08:51 📱:SH01B 🆔:WMPPJQms


#573 [ひとり]
>>572

のんさん

安価ありがとございます(´ω`)

⏰:10/02/28 09:08 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#574 [ひとり]
>>571

長谷部さんちは駅の反対側で、民家のやや奥まった所にある。バイクを牽いたりチャリをゆっくりジグザグに漕いだり、皆でのたくらと目的地へ向かう。俺の横には津久井がいた。

「その後どうなん?」

「まぁ、ぼちぼち」

片思いしていた例の相手とお付き合いを始めたんだと、津久井にはもちろん報告してあった。

それを自分の事のように喜んでくれた津久井は気を遣ってか、あまりオフの日に誘ってこなくなった。シフトも今月はうまい事ズレていたりして。だからこんな風にゆっくり話すのは、久々の事だ。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#575 [ひとり]
「照れんなって、順調なんしょ」

まぁ、確かに順調と言えば順調だし、そうでないと言えばそれもまた然りだ。

「・・ぼちぼち」

繰り返したら、突っ込まれた。

「何だよハッキリしないなぁ、何かあった?」

津久井が俺の立場ならどう感じるんだろうって思ったら『実は・・』って切り出しそうになった。でも俺達の前には、三田さんとアキが、ノジコさんと三人で歩いている。聞かれやしないかと思うと、とてもじゃないが言えない。

⏰:10/02/28 09:09 📱:F01B 🆔:xlO7LqJU


#576 [ひとり]
「いや、まぁ、ぼちぼちなんだよ」

「ふーん」

俺の濁した物言いから察してくれたらしい。津久井がそれ以上突っ込んでくる事はなかった。


長谷部さんちに着くと、皆ぞろぞろといつも決まりの畳部屋に向かう。そこは長谷部さんの寝床であると同時に、俺達満腹堂スタッフの宴会場でもあった。

皆慣れた様子で好き勝手座ったり寝転んだり、曲をかけたり。そんな中で一人だけ浮き足立った感の否めない奴が一人。アキだ。

⏰:10/03/01 09:02 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#577 [ひとり]
目を大きくして辺りを伺っている。確かに誰でも他人の家に初めて上がった時は、大抵興味津々で、色々見てしまうものだ。アキがそうして好奇心の色を貼り付けた目で観察する部屋の中、何かに視線が止まって、動かなくなった。

それから傍に腰を下ろしていた俺に身を寄せて、耳打ちしてくる。

「ねね、ゆうちゃんゆうちゃん」

「ん?」

「あれあれ、あれって卒アルだよねきっと?」

控えめに指差す先には、確かに卒業アルバムらしいかっちりした濃紺の本が一冊。漫画がごちゃごちゃ詰め込まれた本棚の中に、居心地悪そうに収まっていた。

⏰:10/03/01 09:03 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#578 [ひとり]
「多分そうなんじゃね」

今まで気にした事もなかったが、よくよく見ればそれ以外にもアルバムたらしき本が数冊、漫画と漫画の間にあるのを見つけた。

「あれ見たい!長谷部さん、あそこにあるのアルバムですよね?」

「え、あぁ、そうそう」

いいタイミングでリキュールやサイダーを両手に抱えて部屋に入って来た長谷部さんに、アルバムが見たいとアキがせがんだ。

「別にいいけど、笑わないでね」

⏰:10/03/01 09:04 📱:F01B 🆔:vbyvgOo6


#579 [ひとり]
長谷部さんは快く了承してくれる。それから運び込んだアルコールを数個あるコップに注ぎ分けて、サイダーやら牛乳やらと割りながら

「他の写真も同じ棚にあるから、好きに見ちゃっていいぞ」

と、漫画で飽和状態の棚を顎でさした。

「やった、ありがとうございます」

アキは待ってましたと言わんばかりの素早い動作で嬉しそうに目当ての棚を物色し始める。すると

「ちょ、バカお前それはやめとけって!」

俺の右隣で寛いでいた三田さんが、突然声を張った。

⏰:10/03/03 08:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#580 [ひとり]
「なしたよ突然、ビックリすんだろ」

滝さんが面食らった顔で文句をたれた。

「いや、別に卒アルだけでいんじゃねぇかと思って」

三田さんは場を取り繕うように笑って答えたが、もともと隠し事ができない人だ。何か見られなくないものがあるんですと、顔に書いてある。バレバレ。

そしてそれが卒業アルバムではなく、アキがランダムに手にしたアルバムだって事まで容易く理解ができた。

⏰:10/03/03 08:58 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#581 [ひとり]
「アキちゃんいいから気にしないで、好きにみちゃって」

笑顔を貼り付けたままの三田さんはスルーして、アキに話かけた滝さん。この人も三田さんが隠しだい何かがそこにあるんだって確信のもと、面白がっているのがこれまたバレバレだった。

「おいマヂそれは見てもつまんねぇから仕舞ってこいて!」

「のんちゃんにそんな事いう権利ないでしょ、これは長谷部さんのものなんだから!」

「いいから!」

「よくない!」

ここ最近ですっかり板に着いたじゃれ合いがまた始まって、俺はここでもかとうんざりする。

⏰:10/03/03 09:00 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#582 [ひとり]
「いい子だから!それをこっちに渡しなさい!!」

「何その口調キモイんですけどぉ!!」

「キモイ言うな!傷付くだろーがコノヤロー!!」

「別にのんちゃんが傷付いても私痛くも痒くもないし〜」

「つべこべ抜かしてねぇでいいからよこせ!!」

「ちょっと引っ張らないでよ破けるぅ〜!!!!」

周りで皆が笑っている。もうなんか、二人の活き活きした様を見るのが耐えるに難い・・・・頭、冷やそ。思い立ち表へ出ようと、無言で部屋を後にした。

⏰:10/03/03 20:57 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#583 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。
第二十八話完結です。またちょっとした行き違いが生じ始めたようです。ここからどう展開しようか、いつも行き当たりばったりで書いてるもんで、ひとり自身まだ検討もつきませんが、どうにかうまいこと着地したい!!しゅわっち

⏰:10/03/03 21:15 📱:F01B 🆔:vBSyG5To


#584 [我輩は匿名である]
更新まってます★

⏰:10/03/04 00:10 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#585 [ひとり]
>>574

匿名さん

応援ありがとござます(^ー^)

⏰:10/03/05 09:02 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#586 [ひとり]
安価ミス(゚Д゚;;)スマソ

⏰:10/03/05 09:03 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#587 [ひとり]
>>583

【第二十九話/嗚呼素晴らしき青春の軟骨からあげ】


アキちゃん。なんて呼んでいたこないだまで可愛いニューフェイスだった彼女は、ある一夜を境にして俺のライバルになった。

あの宣誓をたてた次の日から、アキちゃ・・もういっか、アキは何かと根岸や俺の周りをマークするようになった。

てか何で俺んちまで着いてくるかね!?いや、目的はもちろんわかってんだけど。手段を選ばないってよか、場所を選ばないんだねお前は。

⏰:10/03/05 09:04 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#588 [ひとり]
満腹堂でも、俺と根岸が二人で仕込みをしていれば割って入り、今は仕込みが先決だからと少し根岸から離れてやれば、何故か根岸そっちのけで俺の横に来て脇を小突いてきたりする。

もちろんやり返すけど。黙ってやられてやる程、俺は大人じゃねんだよ。

「オイコラ、せっかく今だけ根岸の横譲ってやったんだから、あっち行って来いよ」

「どうせんな事だろーと思った、そういうのムカつくから止めてよね」

「俺は今仕込みで忙しいんだよ」

アキの相手より夜の仕込みだ。餃子の種を皮の上に乗せながら言えば、アキはフンッと鼻を鳴らして、同様に種を包みだした。

根岸の血筋は皆そうなのか、アキも手先が器用で容量がいい。実家じゃ碌に料理なんてしなかったと言う割に、綺麗に"ひだ"を作っては、正確に並べていく。

⏰:10/03/05 09:05 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#589 [ひとり]
手伝いさえすれば俺もそのほうが捗るので文句は言わない。

「・・・・・・・」

「ねぇ」

「・・・・・・・」

「ねぇっ」

「・・・・・・・」

「ねぇって!」

ただ、脇腹を小突くのを止めてくれたら、尚嬉しいんだけど。

⏰:10/03/05 09:06 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#590 [ひとり]
「痛いって、そゆことしてる間に手ぇ動かせお前は!」

「動かしてるじゃん!」

唇を尖らせたアキの顔から視線をスライドさせれば、確かに手元は一定のペースで、それこそ機械みたいに正確なリズムで仕事をこなしていた。ぎゃふん。

「ねぇねぇ、私ゆうちゃんと来月デートに行きたいんだけど、シフト合わせてよのんちゃん」

「バカですか、そんなん言われて誰が『うんわかった』なんて言うんだよ、とんだお人好しだなコラ」

「だってのんちゃんお人好しでしょ?」

コイツ、絶対俺のことナメてるよ。

「でしょくない」

「でしょいよ」

「なんだよ『でしょい』って」

「そっちが先に言ったんじゃん」

⏰:10/03/05 09:09 📱:F01B 🆔:ZO9Mc9Sg


#591 [ひとり]
「どっちでもいいけどそんなん俺に頼んだって無駄だぞ」

第一、休みが合ったところで根岸がアキの誘いに乗るかはまた別の話しだ。

「私、誕生日なんだけど、来月」

「・・・知るか」

「誕生日、好きな人に祝って欲しいって思うのは自然な事じゃない?」

「俺に聞くなよ」

「22日」

「は?」

⏰:10/03/06 21:01 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#592 [ひとり]
「私の誕生日ね、22日」

「・・・・・・」

相変わらず等間隔にひだを作り続けるアキの細っぽちな指達を凝視した。その一本一本の指先にちょこんとついたオマケのような爪は、うちでバイトを始めたことで、綺麗に短く切りそろえられている。

誰だって、自分の大切に思う相手に生まれた日を祝ってもらえたら嬉しいさ。そりゃそうだろ。根岸とアキはいっても従兄弟で、根岸がまずアキを眼中に入れていない訳だし、今年大学へ入ったばかりの彼女の今の年は18で、すると来月の22で19になる訳で、19ったら十代最後の誕生日ってことになるからつまり・・・

⏰:10/03/06 21:13 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#593 [ひとり]
「三田!アキ!あんた達も夜はべぇやんちだからね!!わかった!!?」

突然、考えに没頭していた背にかけられた声に驚いて振り向くと、アキも同じタイミングで体を反転させていて、アキはどうだか知らないが、俺はノジコの有無を言わせぬ迫力に、気付けば素直に頷いていた。

よくわかんねぇけど、今日はべぇやんちらしい。なんか、久々だな。

⏰:10/03/06 21:21 📱:F01B 🆔:VOpDoyjQ


#594 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/03/08 21:57 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#595 [ひとり]
>>594

匿名さん

あげありがとございます(`∀´)

⏰:10/03/11 21:12 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#596 [ひとり]
>>593

営業後。やや時間はくるったけど、予定通りべぇやんちに向け俺達は繰り出した。

最近は本当暖ったかくて、嗚呼、春だなぁ〜と。向かう途中の桜の木を見て思う。あ、そいや花見もまだしてねぇよオイ。

花見、してぇな。ワンカップ片手に夜桜。たまらんね。皆でワイワイやろう。あと、二人でも行きたい。夜なら手とか、繋いでもバレないかな。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#597 [ひとり]
って、俺ってばとんだ乙女ちゃんだな。

一瞬自分で自分にひいた。

不規則にフラフラとべぇやんちへ向かう道中。俺の両サイドにはノジコとアキ。両手に華・・あはは、言ってて悲しくなる。花ってよりも、食虫植物だろコイツらは。

やたら絡んでくるアキと、滝並に俺をからかうノジコに挟まれながら、俺の神経は背中に集まっている。だって後ろには、根岸がいるから。

何喋ってんだろ。

⏰:10/03/11 21:13 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#598 [ひとり]
根岸の隣には、津久井がいる。二人はうちの店で知り合って以来仲がいい。根岸曰わく、今恋人がいるってことも津久井には言ったらしい。でもまさかそれが俺だとは思うまい、津久井よ。

ここのところは喩えではなくリアルに邪魔のされどおしで、二人でゆっくりもできていない。

楽しそうな声が背中にあたる。俺も、そっちに加わりたい。

なんて思っていたら、べぇやんちの青い瓦屋根が見えてきた。

家に上がったら、流石にアキと距離を置きたい。できれば、さり気なく根岸の横も、キープしたい。

⏰:10/03/11 21:14 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#599 [ひとり]
靴を脱いで、皆が列を作って一直線に"いつもの部屋"に向かう中、俺は気取られないよう自然に、且つ素早い動きで便所へ向かった。

別に用を足したい訳じゃあない。こうして時間をかせいでアキとは距離をとり、尚且つ先に部屋に腰を落ち着けている根岸の横を、後から行ってさり気なく、ここを強調したい。さり気なく確保するのが目的だった。

根岸本人に『あ、コイツ俺の横に来たかったんだな』なんて悟られるのは癪だから。絶対に"さり気なく"ないといけない。

⏰:10/03/11 21:27 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#600 [ひとり]
問題は、アキが根岸の横にピッタリとマークしているんじゃあないかってことなんだけど。この可能性はかなり高い。どんくらい高いかって、フランダースの犬を観てその内何回泣くかってくらいの高確率だ。てことはつまり100パーだ。100パーピッタリだ。

でも、例えば俺がスムーズに部屋に入ったとする。

俺部屋入る

根岸の横座る

アキに気づかれる

間に割り込まれる

⏰:10/03/11 21:36 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


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