こちら満腹堂【BL】
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#600 [ひとり]
問題は、アキが根岸の横にピッタリとマークしているんじゃあないかってことなんだけど。この可能性はかなり高い。どんくらい高いかって、フランダースの犬を観てその内何回泣くかってくらいの高確率だ。てことはつまり100パーだ。100パーピッタリだ。

でも、例えば俺がスムーズに部屋に入ったとする。

俺部屋入る

根岸の横座る

アキに気づかれる

間に割り込まれる

⏰:10/03/11 21:36 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#601 [ひとり]
これだけは絶対に嫌だ。

でも後から入れば・・・

俺部屋入る

アキ根岸の横にびったり

でももう片側空いてる

俺そこに座る

うん、完璧だろコレ。

⏰:10/03/11 21:39 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#602 [ひとり]
イメトレをした俺は、勇んで便所を出た。

「うんこ、長げぇよ」

出た所に滝が立っていた。習慣で、出る時自然に水を流してしまったので、普通に用を足していたと思われたんだろう。

「うんこじゃねぇよ」

「嘘こけ、小用にんなかかるか」

「最近きれが悪りんだ」

「・・・あそ」

⏰:10/03/11 21:52 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#603 [ひとり]
折角気合いを入れたのに、滝の下品な一言で、急激に気が抜けてしまった。

が、それがよかったらしい。

「はぁ〜出た出た」

腰を下ろしながら独り言。

「トイレですか」

「うん」

凄い自然な感じで、作戦通り根岸の横をキープできたのだった。もちろん、反対側にはアキがいるが、今は初めて上がったべぇやんちのあれやこれやに目を奪われているみたいで、これまた助かった。

⏰:10/03/11 22:04 📱:F01B 🆔:bk4/GH5o


#604 [ひとり]
少しして姿の見えなかったべぇやんが登場した両手に抱えた酒酒酒。普段満腹堂で鍛えているだけあって、随分な量を一気に運んできた。

そのタイミングで、アキがべぇやんに声をかけた。卒アルが見たいと言う。

女子は得てして過去の写真やプリクラを見たがるものだ。

どうぞお好きにと、べぇやんも快く了承していた。

アルバムでもバオバブでも好きに見たらいいさ。

⏰:10/03/12 00:22 📱:F01B 🆔:8eStKdnw


#605 [。゚+ゆきな+゚。]
>>269-600

⏰:10/03/13 00:04 📱:SH904i 🆔:H2bXfRmc


#606 [ひとり]
>>605

ゆきなさん

安価ありがとございます(゚∀゚)イヤン

⏰:10/03/13 08:42 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#607 [ひとり]
>>604

適当にえらんだグラスの中身を口に含んで、アキの動向を観察する。卒アルに手を伸ばした。するとべぇやんが『他のアルバムも好きに見ちゃって』と言い出した。更に目を爛々とさせたアキは、直感的に黄色のアルバムに手をかけた。て・・・・・え、それって。


いやいやいやいや不味いよ!!
ちょ、おっまマヂ何考えてんですかコノヤロォォオ!!!!

それは、俺のアルバムだった。女が得てして過去の写真を見たがるように、世の男達は得てして過去の写真を取って置くものなんだ。いや、知らんけど。

⏰:10/03/13 08:42 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#608 [ひとり]
俺はそうだよって話し。

昔、学生の時分に好きになった娘がいた。学校は違った。年は、俺の一つ上で、でも頼りなくて、俺がいなくちゃ、とか思ってた。少し身体が弱くて、消えちまうんじゃないかってくらい透き通った白い肌をしていた。でも彼女が微笑うと、パッと辺りが鮮やかになる。そんな華のある娘だった。

それまで・・ってのは、ヤンキーになってから暫く。"彼女"と言えばヤン女かじりのギャルか、ただのギャルか、はたまた筋金入りのヤン女か。

だからあの娘の存在は、俺の中でとても新鮮で、なんか甘酸っぱかった。

⏰:10/03/13 08:43 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#609 [ひとり]
あの当時はあの娘が全てで、あの娘で最後だって思ってた。"これから先もずっと"って。

まぁ、それが叶わなかったから、今の根岸と俺の関係があるんだけど。

少しばかりの彼女との思い出。それを捨てきれず、かといって自分で持っておくのはしんどくて、べぇやんちにこっそり持って来て、紛れさせていたもの。黄色のアルバム。

それが今、アキの手の中に。

⏰:10/03/13 08:43 📱:F01B 🆔:LbnwAcyw


#610 [ひとり]
「ちょ、バカお前それはやめとけって!」

気付いた時には、声が出ていた。

「なしたよ突然、ビックリすんだろ」

正面に居る滝が面食らった顔で文句をたれる。俺自身、無意識に出た声の張り具合に焦ってるんだけど、んなことはお首にも出さずに。

「いや、別に卒アルだけでいんじゃねぇかと思って」

さり気なさを装って、サラッと笑ってみせた。

⏰:10/03/15 00:04 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#611 [ひとり]
「アキちゃんいいから気にしないで、好きにみちゃって」

俺のスマイルを無に返すように無視を決め込んだ滝の野郎が、アキに余計なことを謂っている。お前は黙っとけ!!

「おいマヂそれは見てもつまんねぇから仕舞ってこいて!」

本当につまんねって。つまんねぇっつーか、根岸がいるんだから、そこわかれチクショー!!!!

「のんちゃんにそんな事いう権利ないでしょ、これは長谷部さんのものなんだから!」

⏰:10/03/15 00:41 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#612 [ひとり]
違うんです僕のなんです。頼むからマヂで、マヂごめんなさいやめて下さい。

「いいから!」

「よくない!」

厭な感じの脇汗かいてきた。

「いい子だから!それをこっちに渡しなさい!!」

「何その口調キモイんですけどぉ!!」

⏰:10/03/15 00:43 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#613 [ひとり]
「キモイ言うな!傷付くだろーがコノヤロー!!」

「別にのんちゃんが傷付いても私痛くも痒くもないし〜」

「つべこべ抜かしてねぇでいいからよこせ!!」

ツカツカとアキの傍に寄ると、黄色のそれを奪い取るようにひっ掴んだ。が、それはアキにしたら予想していた行動だったらしく、ぐっと力を込めていたアキの手からアルバムを奪取することに失敗した。

「ちょっと引っ張らないでよ破けるぅ〜!!!!」

⏰:10/03/15 00:46 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#614 [ひとり]
両側からアルバムを掴んで引き合う。周りで皆が笑ってるけど、オイィィィイ!!!!笑いごとじゃないんですけどッッ!!!こっちゃガチなんですけどマヂでェェエ!!!!!

別に彼女のことがまだ好きとか、そんなんじゃないけど。でも誰にだって綺麗な思い出の一つや二つあるじゃん!!!!踏み込まれたくないテリトリーってあるじゃん!!!!

頭の中で自分の行動を正当化しながら、一番見られたくない奴の方に眼をやる。

あれ?いねぇし。

⏰:10/03/15 09:10 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#615 [ひとり]
さっきまで居たはずの場所に居ない。便所、かな。まぁいい、助かった。

そうして一瞬気を抜いたそのタイミングで、アキは渾身の力を込めた。

「そんな見られたくないものでも入ってん、の!?!?」



「「あ・・・」」

『の』のところでぐんと引っ張られて、俺の指先からアルバムはあっけなく逃げていった。アキの方でも俺がここに来てあっさり離すなんて思わなかったんだろう。

⏰:10/03/15 09:11 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#616 [ひとり]
予想外の軽い抵抗力にバランスを崩し、勢いまかせにアルバムを放った。それは真上に。そしてバザと音をたてて天井に激突。そのまま垂直に畳へと着地を遂げた。

一瞬の出来事。中から、数枚の写真が飛び出している。

散らばったそれらの四角い枠一つ一つの中では、どれも金髪の少年と、色素の薄い栗色の髪の少女が並んでこちらに笑いかけている。

あちゃー。

⏰:10/03/15 09:11 📱:F01B 🆔:yIafTo3o


#617 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/03/19 20:47 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#618 [ひとり]
>>617

匿名さん

あげありがとうございますです(m_ _)m

⏰:10/03/19 22:01 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#619 [ひとり]
「あーあーもう何やってんだよバカ共が」

動きの固まった俺とアキの間に四つん這いで割って入った滝が、しょーがねぇなと飛び出た写真を拾おうとしてくれる。が、その滝も伸ばしかけた手をそのままに停止した。

「これ、って・・・」

「何お前まで腑抜けてんだよ、俺の大事なアルバ・・ム?あれ、これ・・・・」

それはべぇやんも同様だった。

⏰:10/03/19 22:01 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#620 [ひとり]
「・・・スミレ、ちゃん?」

「だよな、なんでうちに・・」

そう、二人はもちろんというか、俺の昔を知っている。当時最後の女だと謂い切ってしまえるくらいには、俺が本気だったことも。

それから

「お前いつの間にこんな・・・」

どうして俺があの娘、スミレと別れなきゃならなかったのかも。そのことで、俺がどれだけ落ち込んで、荒んだかも。全部。

⏰:10/03/19 22:02 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#621 [ひとり]
俺をみつめる、滝とべぇやんの視線が痛いぜ。ひーはー。

「い、・・・・・いや〜懐かしいなぁ〜まさか俺のアルバムが紛れこんでたなんてね〜、いやいや、どうりで家探しても出て来ねぇわけだわ、こりゃこりゃ・・・・・」

「「・・・・・・・」」

沈黙が、重いぜッッツ!!!!!いーやー。

「え、何々誰々、のんちゃんの元カノこれ!?!?やばッッ可愛いんですけど!!!!」

そしてお前はKYなッッツ!!!!アキは楽しげに写真を見始めた。誰もいいなんて謂ってねぇのに。否、べぇやんは謂ったけど、でもそれ俺のアルバムだし。したら俺に許可とれや。

⏰:10/03/19 22:03 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#622 [ひとり]
でも、この場に根岸がいなくてよかった、本当に。しつこいようだけど、今更過去の恋に未練なんかないんだけど。後ろめたくもないんだけど。でもやっぱホラ、根岸だって元カノの写真なんか見せられたとこで、面白くもないだろうし。俺が逆の立場だったらって考えたら、やっぱ愉快な気持ちはしないと思うんだ。

そこまで考えて、ふと可笑しくなった。だって、少し前なら根岸の恋バナでも酒の肴にしてやろうか。くらいのこと平気で考えてたのに、それがいざこの関係になってみれば厭だなんて、なんだか変な話だ。

「何にやけてんの?元カノのことでも思い出した?」

⏰:10/03/19 22:05 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#623 [ひとり]
自嘲気味な笑みが、気づかない内に出ていたらしい。アキに指摘されてはっとした。

そしてそんな自分が、また可笑しかった。ゲンキンなもんだ。さっき、散らばった写真が視界に広がった時には締め付けられるような一瞬の感覚に襲われた胸の辺りが、根岸を思った瞬間じんわり暖かくなったりするんだから。

「違げぇよ、見てもいいから、とりあえずしまえて」

⏰:10/03/19 22:06 📱:F01B 🆔:bDnASyug


#624 [ゆま]
あげ☆

⏰:10/03/23 12:48 📱:N08A3 🆔:7CHd2odw


#625 [我輩は匿名である]
あげっ!

⏰:10/03/29 00:56 📱:P01B 🆔:mIRDnjGA


#626 []
あぁげ

⏰:10/03/30 23:55 📱:930SH 🆔:2D9EVodY


#627 [我輩は匿名である]
あげ…

⏰:10/03/31 21:40 📱:SA001 🆔:.mOHXK9k


#628 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:10/03/31 22:29 📱:W64SA 🆔:238PFA1A


#629 [ゆま]
またまたあげ

⏰:10/04/01 20:10 📱:N08A3 🆔:8oXIEYFQ


#630 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/04/06 00:28 📱:W43H 🆔:HsQRHS8U


#631 [ひとり]
はーいと間延びした返事を寄越したアキは、だるそうに写真をかき集め、一枚ずつアルバムに仕舞い始めた。

仕舞いながら、『へぇー』だの『ふーん』だの言って鑑賞することも忘れない。そうしてアキが全てを元通り仕舞った(俺が脇から手を出しても、『それはまだ見てないから』と再び取り出されてしまって二度手間になるから諦めた)所で根岸が部屋に戻ってきた。襖が横に滑る音に機敏に反応した俺は、入室一番根岸とバッチリ目が合ってしまった。

いやいゃ"しまった"ってなんだし、なんか俺後ろめたいことしてたみたいじゃん!!そういうんじゃないから!!!!

「これそういうんじゃないから!!!」

「は?」

「いや、何でもね・・てお前随分長いうんこだったな、縮便ですかコノヤロー」

「誰がうんこっつったんすか、煙草ですよ、切れたんで」

「あ、そ、」

「はい」

⏰:10/04/10 21:27 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#632 [ひとり]
そうして俺の横に腰を落とした根岸からは、微かな外の匂いがした。パンツのポケットから徐に取り出された一般的に見れば小さなその箱。一本取って自前のジッポで火を点けた。ジッポって。俺なんか百円ライターの使いすてなのに、生意気だ。

「なんでHOPEなわけ?」

「?」

表情(カオ)だけで『え?』ってポーズを取ってから、吸い込んだ煙りを控えめにふーと横に逃がして

「なんです?」

なんて聞いてくる。誰でも当たり前にするそんな仕草まで堪らなく艶っぽく見えてしまうのは、俺の贔屓目なのか。なのかってか、そうなんだろうな。痛いな、俺。

⏰:10/04/10 21:39 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#633 [ひとり]
「いや、もっとスタンダードなのがあるだろうに、何故にHOPEかと思って」

「あぁ、これですか」

"これ"と指に挟んだそいつを少し上げて見せる。

「うん、それ、何か理由でもあんのかって思ってたんだわ」

「いやー・・・特にないんですけどね」

「でも変えたことないんだろ?他も試したりしなかったのかよ」

「俺、一途なんすよ」

⏰:10/04/10 21:46 📱:F01B 🆔:/UKBvUKY


#634 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/11 02:00 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#635 [ひとり]
「自分で言ってりゃ世話ねぇな」

「三田さんは?」

「俺?」

「うん」

『うん』と返した根岸の声が"二人の時"の甘さを湛えていて、俺は一瞬どきりとする。なんかこう、親密っぽい感じがだだ漏れてんじゃねぇかと心配になったからだ。

けど実際は俺の取り越し苦労に過ぎなくて、誰も彼もがてんで好き勝手やってるこの部屋で、俺達の存在なんてサキイカや氷結と同等くらいのもんだった。

「あんたは、一途なんすか」

⏰:10/04/11 20:37 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#636 [ひとり]
タバコの話からなんでテメェーの硬派ぶりのプレゼンにシフトしたのか。まぁ一途か一途じゃないかと言われれば

「一途・・かもね」

「なんすか『かもね』って、全然可愛くないんだけど」

「かっ!別にそんなん狙ってねぇよ!!」

「かもねはなしです、一途か、違うか、一か百しかないんです」

なんだよそれ、完全なお前ルールじゃねぇか。もしかしてコイツ、また酔ってやがんな。

⏰:10/04/11 20:43 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#637 [ひとり]
「お前、めんどくさいのな」

「・・・・傷つきました」

「はいはい」

「俺の心を傷つけた上に、答えまではぐらかすんですか」

「んなつもりねぇけどさぁ・・」

面白いから意地悪してみた。めんどくさいのは本当だけど、酔った根岸は可愛くもある。気分がよくて手元の缶ビールを口に含んだ。

「わかりました、じゃ、チューしますよ」

「ぶっ!!!」

「あーあー、何やってるんすか、まだ気管につまるような年でもないでしょう」

呆れ口調でツッコミつつ、緩慢な動作で箱ティッシュを手繰り寄せた根岸が俺の吹いたビールを始末してくれる。

て、違げぇだろ。

⏰:10/04/11 20:51 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#638 [ひとり]
今の俺悪くねぇし!!完全に根岸が悪いだろ!!!!何だろねこの子はいきなり『チュー』なんて破廉恥な!!!バカじゃねーの!!?バーカーバーカー!!!!!!

「げほっ、ごほっ、うぇ、ごふっ」

本当は言ってやりたいその台詞達は、咽せ返って次々でる咳に邪魔されて、頭の中を駆け巡るだけ駆け巡っただけだった。

根岸が、優しく背中をさすってくる。自分が起因であるくせに、第三者面で心配顔だ。何だよチクショー!!

⏰:10/04/11 21:00 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#639 [ひとり]
そこではたと気付いたんだが、酔ってつっかかる根岸を面白がっていた俺だけど、今のこの状況は完全に逆転しているんじゃあないか。酔った根岸の気まま発言に動揺して咽せるだなんて。

よくよく見れば心配面を貼り付けた顔の中で、口元。左の口角だけが微妙に上がっていた。

「からかったな」

それを見過ごさなかった俺は、咳でまだ整わない息のまま言ってやった。

「わかりました?」

とろんと虚ろな目をして、『わかりました?』と来たもんだ!!!!!

⏰:10/04/11 21:07 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#640 [ひとり]
「俺が店長だってことを忘れんなよ、あんま調子こいて嘘ぶいてっと減給すんぞコノヤロー」

「別に嘘ぶいちゃいないですよ」

「は?」

飄々と答えた根岸は凄げぇ自然に俺の片腕を掴むと、『よっ』と言って立ち上がった。

「おい、ちょっと」

腕を拘束されている俺は、相手が立ったら必然的に立ち上がらないと体制が苦しい。

訳も分からず立ち上がった俺の腕は、まだ根岸に掴まれたままで、俺が立ったと確認した根岸はそのまま俺を引っ張って廊下へと連れ出した。

え、何で?

⏰:10/04/11 21:15 📱:F01B 🆔:6Q6imcXo


#641 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/12 16:19 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#642 [◆S2mRWfM3VE]
>>400-700

⏰:10/04/14 21:18 📱:SH705i 🆔:y1p8TQvo


#643 [ひとり]
───
────

「・・・・・」

無言で腕をひかれて、大人しく付いて来てしまった先は便所だった・・・・連れしょん?な訳ないか。

「なぁ根岸」

「はい」

「狭い」

「そうですね」

『そうですね』、じゃねぇよ。何が嬉しくて大の大人が二人仲良く同じ便所に入らなきゃならないんだ。

⏰:10/04/18 06:53 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#644 [ひとり]
「『なんでこんな所連れてきたんだ』って思ってるんでしょ」

根岸はお見通しだと謂わんばかりに目を細めてこちらを伺ってくる。その表情から、完全にこの状況を楽しんでいやがるんだと容易く知れる。

「当たり前だ、用足したいなら一人でしろよ」

「んな訳ないでしょ、三田さん、俺が嘯いてるとか謂うから」

「だから何だよ」

ただでさえ密着してる狭いこの空間で、根岸は故意にその距離を縮めて来た。

俺は無意識に後ずさる。が、すぐ膝裏に便座が当たって、これ以上の退路はないぞと主張してくる。

⏰:10/04/18 07:06 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#645 [ひとり]
「お前ねぇ」

俺は溜め息をついて言った。

「こんなとこ誰かに見られでもしたらどうするよ」

そうだ。俺はそれが気が気じゃなかった。まだ誰にも謂ってない俺達の関係を、もしこんな形で知られることになんかなったら。考えただけで白眼むきそうだ。

俺の言葉を聞いて相変わらずフォンデュなみにとろんとした眼で何事か考えたらしい根岸は

「・・・・待ってて」

そう謂って一人便所から出て行った。

⏰:10/04/18 07:16 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#646 [ひとり]
突然取り残された俺。なんかよくわかんねぇけど、取り敢えず蓋の閉まった便座に腰掛けてみる。根岸の戻りは思う以上に早かった。

施錠してなかったドアをガチャと開ける。と、同時に謂った。

「三田さんは今吐いてます」

「・・は?」

「便所に籠もってゲーゲーやってます。だから皆こっちこないで下さい」

「おい」

⏰:10/04/18 07:32 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#647 [ひとり]
低い位置の俺に焦点を合わせてそれだけ謂うと、今度は腰を折って顔をぐっと近づけてきた。俺は少し背を反らして距離を計る。

「近いって」

「これで安心、もう誰も来ない」

「誰もってこたぁねぇだろ」

「上のトイレ行ってくれって謂ったから、こっちにはこないよ」

そう、べぇやんちには便所が二つ完備されていたりする。つまり来るなと謂われて、意地でも一階で用を足そうなんて奴はいない・・て事だ。根岸の謂ってる事は正しい。

⏰:10/04/18 07:42 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#648 [ひとり]
「ねぇ、三田さん、キスしたい」

根岸は恥ずかしげもなく謂うと、俺の頬にひたと手を当てる。酔ってさぞ火照ってるんだろうと思いきや、予想外にひやりと冷たい手だった。

「バカ、何謂って・・」

謂いかけた唇を、親指の腹でなぞられてしまえば、俺は黙るしかない。俺の全神経が、根岸の触れる箇所に集中していく。目が、離せない。

「見すぎ」

根岸は笑った。

「お前が見てくるからだろ」

⏰:10/04/18 10:53 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#649 [ひとり]
謂い返すけど、内心は上の空だ。つっぱねた態度とは裏腹に、俺も・・・・

根岸が俺の髪に長い指を掻き入れた。頭皮を丁寧になぞられる感触に背筋が粟立ち、どうしようもなくて俺は目を瞑った。

それを見計らった絶妙のタイミングで、唇に当たる感触。否、当たるって表現はこの際相応しくない。

唇を、包まれた。

『ダチの家の便所で何してんだ!!』と自分を叱咤する俺と、『根岸にこうして欲しかったんだ』と待ち望んでいた俺が混在する。

⏰:10/04/18 11:04 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#650 [ひとり]
ダメだダメだと思うほどに、もっと欲しいんだと求める自分も大きくなる。

後頭部を支える根岸の手が、優しく包み込んでくる根岸の唇が、嗚呼、やばいな、これ。

うっすらと目蓋を持ち上げると、視界一杯に根岸がいる。

目の前の首根っこに、しがみついてしまいたい衝動に駆られる。唇だけじゃ足りない。全身にキスを返して、鎖骨に歯をたててやりたいと羨望する。

俺って、こんなんだったっけ?自分が自分じゃないみたいだ。

⏰:10/04/18 11:13 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#651 [ひとり]
付き合ってみて初めて解ったことなんだけど、根岸のキスは助走が長い。紳士的?て謂ってしまえるんだろうか。出だしっから息があがるほどにガツガツ来ることはまずなくて、いつも俺の様子を伺うように、スローでフラットなスタンスを崩さない。俺がそれに応える毎に、徐々に加速していく感じだ。

そうして優しく振る舞うことで、俺が焦れったい気持ちになってるなんて、きっとコイツは思いもしないんだろうが。俺は俺で、もっと求められたいなんて『恥ずくてとてもじゃないが謂える訳ねぇ』とプライドが邪魔をしている。

⏰:10/04/18 11:23 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#652 [ひとり]
でも今日は・・・・

いつもじゃあり得ないこの状況と、根岸の吐息と一緒に吸い込むアルコールの香りに酔ったせいにしてしまえ。

俺はそろりと腕を伸ばして。

「三田さん?」

俺の行動に驚いたのか、根岸が動きを止めた。俺達は見つめ合う。根岸の瞳に映る己の表情までがはっきりとわかる距離で。

「そんなんじゃ足りねぇよ」

「え?」

⏰:10/04/18 12:40 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#653 [ひとり]
「そんなんじゃ足りないっつってんだよ」

そろそろと伸ばしていた腕の動きを性急にして、ガバッと相手の首に巻き付けた。

「うおっ」

「そんな生温いんじゃ、俺は半勃ちにもなんねぇっつってんだ」

互いに基より承知のことだけど、我ながら色気も糞もあったもんじゃねぇ誘いかただ。それでも俺にとったら上出来。顔から火を噴く勢いで内なる羞恥心と闘った末の誘い文句だった。

⏰:10/04/18 13:45 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#654 [ひとり]
「何度も謂わせんな」

初めはキョトン顔だった根岸だが、次第にその瞳に何かが宿っていくのがわかった。ギラついている。健全な、二十代男子がそこに居た。

「謂ってくれるじゃないすか」

不適な微笑み。俺も同様に返した。

「止まんなくなっても知らないよ」

「どうだか」

謂っとくが、今はちょっとしたラブシーンな訳だけど、やっぱ俺達にセオリーなやり方はできそうもない。

⏰:10/04/18 13:52 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#655 [ひとり]
挑発。と謂ってしまえるような乱暴な誘いに乗った根岸は、さっきまでが嘘のように俺の唇にかぶりついてきた。

懐かしの歌謡曲が一瞬頭の中を過ぎる。男は狼なのよー気をつけなさいー。

まぁ、対する俺も狼。気をつけるも何も、上等じゃねぇか。

髪を鷲掴みにされ、身体を引き寄せられ、何度も角度を変えながら、奥まで舌で弄られる。

息つく暇がない

⏰:10/04/18 19:52 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#656 [ひとり]
でも、どうでも良かった。

苦しくなる呼吸も、キツい大勢も、そんなん関係ねぇ。


根岸───


俺の頭は、バカみたいにそれだけに占領されていく。

根岸、根岸、根岸、

奴の首に回していた腕に力を込め直す。

⏰:10/04/18 19:57 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#657 [ひとり]
すると、根岸はピタリと動きを止めて、俺を正面から射抜いた。


「三田さ、本気・・止まんない、俺、」

呼吸が苦しいのはお互い様だったようで、根岸は上がった息でつっかえつっかえそう謂った。

眉間に刻まれた皺が、本当に辛そう。

「根岸、」

「はい」

俺は奴の耳元に、こう、囁いた。

「止まんなくて、いんじゃね?」

⏰:10/04/18 20:32 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#658 [ひとり]
「三田さ・・」

「止めようなんて考えるから、苦しくなるんだ」

「・・・いいんですか、んな事、謂っちゃって」

「知らなかったのか?」

「何を」

「俺もお前と同じ気持ちだってこと」

「はは」

根岸は短く笑う。俺達はまた互いを求め始める。

⏰:10/04/18 21:23 📱:F01B 🆔:Kn5n1jUU


#659 [ひとり]
今この瞬間。俺の頭がお前で一杯になってるこの瞬間に、お前の頭も俺で一杯になったらいい。

そう強く、もう"思う"ってより、"願う"に近い気持ちで舌を交えた。

さっきまでひやりとしていた根岸の手が熱い。

いつの間にかそれは直に俺の肌の上を滑るように動き回っている。ただそれだけのことで興奮しちゃうんだから、俺も、俺の息子もそうとういかれてる。

「三田さん、下が苦しそうですよ」

「ば・・か・・・」

油断したらアハンとか謂っちゃいそうで、俺は歯を食いしばって堪えた。

⏰:10/04/19 10:54 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#660 [我輩は匿名である]
>>600-700

⏰:10/04/19 13:20 📱:P03A 🆔:3sbxmL8g


#661 [ひとり]
「強がっちゃって」

目を瞑ったままでも、相手が微笑ったのが気配でわかる。

俺の前を寛げようと、根岸が手をかけたベルト。カチャカチャと響く音はやけにイヤらしい。

脳みそがドロドロに溶けてくみたいだ。もう、何も考えられない。ただ、根岸が欲しかった。根岸を、俺だけのものにしたかった。

「三田さん」

「根ぎ・・し」

「くわえていい?」

「一々聞くな・・・バカ」

するとまた、根岸が微笑った。そしてゆっくりと、自身(オレ)を包んだ。

「ぁ・・ん・・・」

⏰:10/04/19 23:08 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#662 [ひとり]
まさかコイツとこんなことになるなんて、ちょっと前の俺なら考えられなかっただろう。うん、絶対。

でも人生、何が起こるかわからんもんだ。

まさか根岸が俺を好いてるなんて思いもしなかった。そんな根岸に俺が惚れるなんてのはもっと予想外だ。そんで今、ダチの家の便所に二人籠もってイソイソと"ナニ"に励もうってんだから、これまた予期せぬ事態な訳で。

べぇやん、ごめん。汚さないように、善処します。

それにしたって、根岸の舌使いがヤバい。

「・・・ぎし・・もぅ・・・」

「だしていいよ」

あぁ、チキショー、気持ちいいなコノヤロー。

根岸の肩に、乱暴に爪を立てた。

⏰:10/04/19 23:29 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#663 [ひとり]
【休憩】

今晩はーひとりです。

第二十九話、完結。です★
振り返ってみると、なんだかてんこ盛りな回でした。ハイ。

おや、最後が中途半端だっておっしゃりたいんですね?いやいや、それがひとりなんですごめんなさいm(_ _)m

あ゙ぁぁぁ〜エロは難いんだよチキショォォォオ(;;´Д`)!!!!
誰かひとりにエロの書き方教えて下さい、三百円あげるから。ちーん

⏰:10/04/19 23:38 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#664 [ひとり]
【第三十話/ほっけの人気】


点滅しだした信号。
正直謂って、泣きそうだ。

あぁ、わかった、わかったから、そんなにを引っ張らないでくれ。

「ゆうちゃーん、早くぅー」

アキに急かされて小走りに横断歩道を渡りきる。

「セーフ」

審判のように大きくセーフのジェスチャーをするアキは、いい具合に出来上がっている。

今駆けてきた後ろを見やれば、赤信号。でも別に、走る必要なんてないんじゃないかと思う。深夜二時半過ぎ。車なんて、忘れた頃にやってくるくらいのペースだ。

⏰:10/04/19 23:52 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#665 [ひとり]
【訂正】

>>664

○ そんなに手を
× そんなにを

失礼しました。

⏰:10/04/19 23:54 📱:F01B 🆔:Szzdx9cw


#666 [ひとり]
手に食い込むビニール袋を右から左へ持ち替えて、アキの後を追う。

何してるのかって、見りゃわかるだろう、買い出しだ。

二人トイレに身を寄せ合ってイチャイチャしてたのが、随分と前のように思える。ダメだ、また泣きそう。

────
────────

三田さんが俺の肩に強く指を食い込ませた瞬間、予想外の事態が起きた。

ドンドンドン

「ねぇ、大丈夫ー?」

俺達はハッと顔を見合わせた。その時の三田さんったら、それこそ夢から覚めたような表情(カオ)だった。まぁ、俺もそれは同様だったんだろうが。

無遠慮に、続けて打ちつけられるドア。

ドンドンドン

⏰:10/04/20 00:04 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#667 [ひとり]
見つめ合ったままで暫く呆けた俺達は、次のノックで我に返った。

ドンドンドン

これは不味い。何が不味いって、誰も来やしないという過信から、鍵をかけていないのが不味い。そして、三田さんの格好が不味い。それは本人も重々承知の事だったようで、三田さんは慌ただしくベルトを締めながら、素早く便座から立ち上がる。すると膝が俺の顔面にクリーンヒット。

「痛っ!!!!」

たまらず立ち上がると、今度は俺の後頭部が三田さんの顎に見事に決まった。

「「痛だッッ!!!!」」

密室の俺達はてんやわんやだ。

「ねぇー何してんのー?」

外の声は、こちらの様子を完全に訝しんでいる。

⏰:10/04/20 00:14 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#668 [ひとり]
「もー本当に平気ぃ?開けるよ?」

やばい、やばいぞ、これはやばいッッツ!!!!!!

あの時の様子ったら、スローモーションで鮮明に思い返せる。

ガチャリと音を立てて回ったノブ。

素早く便座の蓋を上げしゃがみ込んだ三田さん。

俺もそれに習って瞬時にポージングを決めた。

キィ──・・

弱く鳴った扉が外に向けて開かれるのを背中で感じた。

⏰:10/04/20 00:23 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#669 [ひとり]
「ゲェェェ・・ウッ・・・・ォ・・ウエェェエ・・ウブッッ・・げほっ、がっ、ぺっ」

「何、まだ吐いてんの?」

扉の先に立っていたのは、予想通りアキ。

「あぁ、うん」

俺は背中をさすりながらアキを見て頷いた。

「皆が心配して様子見て来いって」

三田さんは後ろ姿で、無言で手だけ上げて見せる。

「もう少ししたら戻るからって謂っといてくれ」

「・・・わかった」

了承したアキは、今来た廊下を戻って行った。

あ、危ねぇ・・・・

⏰:10/04/20 00:29 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#670 [ひとり]
「ウッ・・・ブフッツ・・オゲェェエ!!!!」

三田さんは余念がない。アキの気配が完全に消えるまで、暫く演技を続けた。

「・・・・・行った?」

「はい、ご苦労様です」

「おう」

「どうします?」

「んーお前先戻っといて」

「分かりました」

⏰:10/04/20 08:45 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#671 [ひとり]
俺は渋々ながら、少し先に皆の元へ戻り、アキに重ねて三田さんはゲロってるけど大丈夫ですと伝えた。

内心、かなり凹んだ。そりゃそうだろ。あと一歩って時にあれじゃあ・・・

そんな俺にアキが意気揚々こう提案してきた。

「買い出し行こう」

本当はそんな気分じゃないけど、皆の手前断れないし、少し外の空気を吸えば気持ちも上向くかと付いてきてみた。みたんだが。

「結構歩いた気ぃしない?」

「そうだな」

行きも帰りも頭ん中はさっきの三田さんの痴態で一杯。

「はぁ・・・」

小さな溜め息は、誰の耳にも届かず宙に消えた。

⏰:10/04/20 08:55 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#672 [ひとり]
【休憩】

おはよーございます、ひとりです。

短いですが第三十話完結です。アキってば、またまたいい所で登場しちゃいましたね、可愛い奴です(´∀`)アーァ

⏰:10/04/20 08:58 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#673 [ひとり]
【第三十一話/マグロのカマって、なんか盛りだくさん】


長谷部さんちで飲みをしてからもう一週間が経とうとしている。忙殺されそうな日々が続いていた。来月、またライブに出て欲しいと助っ人の依頼が入ったのだ。学生時代に組んでいたメンバーからの誘いとあっては断るわけにもいかない。

満腹堂と家とスタジオを行き来する日々で、気付けば辺りの景色はすっかり葉桜が目立つようになっている。

⏰:10/04/20 09:09 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#674 [ひとり]
五月がすぐそこまで来ている。

満腹堂の裏口に置かれたベンチにかけて、紙切れを広げた。

五月の確定シフト。

三田さんに渡された時、こう謂われた。

『アキの誕生日、お前の休みにしといたから、祝ってやれ』

その言葉通り、二十二日の欄には根岸、休、と印刷されていた。

⏰:10/04/20 09:14 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#675 [ひとり]
こんなん謂ったら確実に怒るだろうが、ぶっちゃけ忘れていた。アキの誕生日。

でも三田さん、何でわざわざ俺が休みとってまで祝ってやらなきゃなんないんすか?

謂われた時俺は素直に返した。

だってそうだろ。大学の友達だって少なくないアキの誕生日を、従兄弟がしゃしゃりでてわざわざ祝うってのは妙な話だ。

俺の疑問に、三田さんは何事かもごもご謂っていたけれど、よく聞き取れなかった。聞き返そうとしたら『この話はしまいだ』と請け合ってくれなかった。

何なんだ、まったく。

⏰:10/04/20 09:20 📱:F01B 🆔:X3tyuUEE


#676 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/04/20 19:17 📱:SH03A 🆔:☆☆☆


#677 [ひとり]
>>676

匿名さん

あげありがとうございます(´_ゝ`)

⏰:10/04/21 00:24 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#678 [ひとり]
「火、貰える?」

不意に差した影と頭上から降る声に顔を上げれば、目の前にノジコさんがいた。

「どうぞ」

俺はケツ一つ分横にずれながら、パンツのポケットから取り出したジッポをカチンと開けて着火した。

ベンチの開けたスペースに腰を落ち着けて、ノジコさんは灯したライターから火をとると、真上に向けて煙を吐いた。

「邪魔した?」

「いえ、全然」

⏰:10/04/21 00:32 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#679 [ひとり]
「そう、なんかやたら難しい顔してたから」

「基がサスペンス顔なんで」

「あぁ、確かに"崖"、"二時間スペシャル"で検索したらヒットしそうな顔してる」

「それ、船越○一郎ですよね?」

「わかった?」

どうでもいい会話をしながら旨そうに煙草を吸うノジコさんを横目で見てたら、俺も吸いたくなってきて一本取り出す。

実際それは旨かった。

空は、よく晴れている。

⏰:10/04/21 00:39 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#680 [ひとり]
「シフト?」

ノジコさんの視線は、俺の左手にあるシフト表を捉えていた。

「はい、来月の確定です」

「あたしも早く貰わにゃ」

「ノジコさん、来月連勤やばいっすね」

「え、マヂで?」

「はい、普通に週休二日制のリーマンみたいっすよ」

「うわ、萎えるわー」

⏰:10/04/21 00:44 📱:F01B 🆔:pGKtM.9w


#681 [ひとり]
言って嫌そうに顔をしかめたノジコさん。

それから俺達は互いに無言で煙草を楽しんだ。

吸い終わってしまえば、またノジコさんから話しかけてくる。

「そういや最近恋人とは上手くいってんのかよ」

寄越された話題は唐突過ぎて、一瞬反応が遅れた。

「俺恋人いるなんて話しましたっけ」

⏰:10/04/22 01:17 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#682 [ひとり]
そうだ、謂った覚えがないのだ。なのに彼女はさも以前から知っていたかのような口振り。驚く俺の顔がおもしろいのか、横目でにやりと笑われた。

「今更すぎだな、いるんだろ?わかるよ」

喋ったその流れから自然と口元に二本目の煙草をくわえた。満腹堂は時代錯誤のヘビースモーカーが犇めいている。

「いつから」

「前、お前にここで質問された時から」

「ここで・・あぁ」

⏰:10/04/22 21:15 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#683 [ひとり]
そういえばあったな。まだ、俺が想いを伝えるべきか否か迷っていた時分。

このベンチで今みたいに二人煙草を吸いながら、ノジコさんにとんでもない質問をしたところ、彼女自身からバイだと突然のカミングアウトがあった。あの時の言葉がなければ、自分はまだ思い切れずにいたかもしれない。

「去年からじゃないですか」

「そうだよ」

「そうだよって、でも、あの時はまだ付き合うとかは全然、可能性すらなかったんですよ」

⏰:10/04/22 21:46 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#684 [ひとり]
「だろうね、あたしの言葉で踏ん切りでもついたかよ」

エスパーなのかと思うほど、ピタリと言い当てられてしまった。

「まいりました、何でもお見通しなんですね」

「まぁ、伊達に二十何年生きちゃないのよ」

"二十何年"なんつって、俺と大差ない年じゃないかとは思うが、確かに色々経験は積んでそうだ。

⏰:10/04/22 22:59 📱:F01B 🆔:5eZMuM6U


#685 [◆S2mRWfM3VE]
>>570-700

⏰:10/04/24 23:26 📱:SH705i 🆔:tY2027uY


#686 [我輩は匿名である]
あげ

⏰:10/04/25 23:08 📱:SH03A 🆔:☆☆☆


#687 [りんご]
あげーっ´ω`

⏰:10/04/26 17:35 📱:SH01B 🆔:r/9mJqac


#688 [我輩は匿名である]
あげ☆

⏰:10/04/29 11:59 📱:SA001 🆔:FF4XREoY


#689 [我輩は匿名である]
あげます

⏰:10/05/08 15:15 📱:SH906i 🆔:☆☆☆


#690 [ゆま]
あげりんこ
頑張ってください

⏰:10/05/11 12:22 📱:N08A3 🆔:Txp3sCe2


#691 [ひとり]
「でもあれっす、付き合えたからって、それで全て良しって訳でもないんすね」

「何、うまくいってないの?」

どういう訳だか、ノジコさんが相手だと俺は饒舌になる傾向がある。不思議な・・・包容力、とでも言うのだろうか。この人になら。そう思わせる何かがノジコさんにはあるんだ。

「うまくは・・・いってます」

「んだよそれ」

「でも俺、足んないんです」

「・・・・案外お前って欲張り?」

「めちゃくちゃ」

「人は見かけによんないなー」

⏰:10/05/20 09:39 📱:F01B 🆔:dUa5Yf5I


#692 [ひとり]
「意外ですか?」

「うん、かなり」

「俺もです」

「は?」

なんで当人のお前がそこに共感するんだよ。ノジコさんの顔は暗にそう謂っている。ですよね、ごもっとも。

俺は続けた。

「今まで知りませんでした。自分がこんなに欲張りで必死な、格好悪い奴だったって事。」

⏰:10/05/20 09:45 📱:F01B 🆔:dUa5Yf5I


#693 [ひとり]
「ぶふっ」

突然ノジコさんは吹き出した。

「なんだよ、こっちは真剣なんすけど」

そうだ、真剣に戸惑っている。今までこんな風に、誰かを強く求めるなんて事なかったから。来るもの拒まず、去るもの追わずな俺のスタンスは、今じゃどっかに置き忘れたらしく見る影もない。

順調な日々が続けば続くほど、いつか来るんじゃないかという『終わり』に恐怖する気持ちもでかくなるばかりだ。

⏰:10/05/22 19:17 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#694 [ひとり]
静かにくっくと噛み締めるようにして一頻り笑ったノジコさんは、満足したのか『はぁ』と息を着いてベンチに深くかけ直した。

「いや悪い、根岸が真剣なのはよくわかる」

「じゃあ、笑わないでもらえますか」

「でもお前それ、完全のろけじゃん」

「は?」

いやいや、俺は不安なんだっつーののろけてんじゃないんだっつーの。

⏰:10/05/22 19:21 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#695 [ひとり]
「つまりあれだよ、今がものっそい順調すぎて、これからもこの幸せが続くのかしらー怖いわーって事だろ?」

「・・・・・はい、その通りです。でもそれってのろけじゃなくね?」

「いや、お前は今のろけている」

そんな、断言されても・・・

俺は腑に落ちない思いを煙と共に吐き出した。

「つまりだ」

ノジコさんはぴっと人差し指を向けてくる。

⏰:10/05/22 19:26 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#696 [ひとり]
「それだけお前は相手の事が、好きすぎちゃって好きすぎちゃって、なんかもーそんな自分が怖いのさ」

「・・・・はぁ」

「それっくらい自分は今相手が好き!好き好き好き!!!!・・・・と、私にのろけてんだよ、わかったか」

「『好き好き〜』の下り、なんかキモかったです」

ゴスッ

ゲンコツが降ってきた。痛い。

⏰:10/05/22 19:32 📱:F01B 🆔:dAj/qkrs


#697 [我輩は匿名である]
あげます\(^O^)/

⏰:10/06/06 23:25 📱:P01B 🆔:/xHVwEcw


#698 [我輩は匿名である]
あげω

⏰:10/06/12 10:58 📱:SA001 🆔:piXyYC0Y


#699 [我輩は匿名である]
あげ^^

⏰:10/06/22 06:37 📱:W61T 🆔:EVIDdQfQ


#700 [我輩は匿名である]
>>1-100
>>101-200
>>201-300
>>301-400
>>401-500
>>501-600
>>601-700

⏰:10/06/23 21:46 📱:F02B 🆔:tzhKktzw


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