こちら満腹堂【BL】
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#351 [ひとり]
遠慮なく答えると、弘さんは『はいよ』と快く甘酒を奢ってくれた。

それから二人でシーソーに跨って向き合った状態で腰掛ける。俺は甘酒の暖かさを掌で堪能し、弘さんもホットコーヒーで同様に缶から暖をとった。

そうしながら、どちらからともなくシーソーを漕ぎ出すと、錆ついた遊具はギギギギと悲鳴を上げて、静まり返った夜の公園内にあってその音は少し不気味な雰囲気を演出していた。

⏰:10/01/07 21:52 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#352 [ひとり]
弘さんと二人きりってシチュエーション自体がかなり稀な上に、加えて夜の公園で二人向き合って仲良くシーソーを漕いでいる。なんだろうこれは。

俺を待っていたという事は、何がしかの用があるのだろうが、弘さんは黙ったまま引き続き掌で缶をコロコロさせながら、地面を卦っている。

相手が蹴れば自ずと俺の座る側が下がり、なんとなくそこは礼儀だろうと、俺も地べたを蹴り返す。下から上に、また下に。

⏰:10/01/07 22:01 📱:F01B 🆔:UEkoMjr2


#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#363 [ひとり]
「ではこれにて二者面談を終了します」

「面談だったんすかコレ」

「そうだよ」

「そうだよって・・」

いっきに和らいだ空気と入れ違いに、痺れるような寒さを感じる。手の感覚も麻痺しているし。

⏰:10/01/08 20:32 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#364 [ひとり]
「てか寒っっむ!!!!」

どうやらそれは弘さんも同じだったらしく。

「とっとと帰ろうぜ根岸」

「はい」

俺と弘さんは先程の自販機脇に設置されたゴミ箱にそれぞれの缶を放り込んでから、等間隔で立ち並ぶ街灯の下を、二人横並びで元来た道へと歩いた。

明日、もう一度三田さんと話しをしよう。

⏰:10/01/08 20:41 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#365 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

第二十話は弘をいっぱい出してみました。三田と根岸のために一肌脱いだ感じ。釘をさすお兄ちゃん弘です。彼の言う根岸の必死さとか、真剣さってのはアレです。三田を見る時の目とか、三田に対するちょっとした態度やリアクションの事です。そこに一々滲み出ちゃってる「ラブ」を、弘は感じとっていたようですね。ま、根岸自身は自覚なしのようですが。隠そうとも隠しきれぬ思いです。ラブです。ヒューヒュー←うざ

⏰:10/01/08 20:52 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#366 [ひとり]
【第二十一話/失礼しましたー】

別に『考えてやる』って言っただけで、付き合ってやるつもりだった訳じゃないし。別に根岸が女を好きになったって痛くも痒くもないし。寧ろそのほうが自然な事だし。俺にしたって喜ばしい事なんだ。

なんだけど、なんで・・・・

⏰:10/01/09 08:46 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#367 [との様]
感想板ってあります
更新頑張ってください
すっごくおもしろいです

⏰:10/01/09 09:00 📱:SH905i 🆔:Bx3.kDhs


#368 [ひとり]
「ニ股・・・」

って言ってしまえるんだろうアレは。

俺に好きとか言ったくせに、きっとあの女の子にも『お前が好きだぜベイベー』かなんか言ったんだ。きっとそうだ。

今思い返してもムシャクシャする。『今楽しいか』って聞いた時の『楽しいですね』って言った根岸の顔。よかったな彼女できて。俺の気持ち弄んでそんなに楽しいのかお前は・・・・

「って"俺の気持ち"ってなんだよ!!気持ちなんてねぇよクソッタレ!!!!」

⏰:10/01/09 09:04 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#369 [ひとり]
>>367

お初です^^コメありがとうございます\(∀)/

総合に感想用に設けたスレあります、「ひとり」で検索して頂ければと思いますm(・_、)mペコリンチョ

⏰:10/01/09 09:07 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#370 [ひとり]
爽やかな感じで微笑みやがって気持ち悪りぃ。ダメだ、もう一本。

「よくまぁそんだけ無駄に吸えるねぇ」

「あ?」

顔を上げると、滝が真ん前に突っ立っていた。

「煙草がもったいない」

「ほっとけ」

⏰:10/01/09 09:11 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#371 [ひとり]
「なんだよご機嫌斜めだなぁ」

休憩中。裏口のベンチを占領していた俺の横に無理やりケツを割り込ませてきた滝は、何がおもしろいのかニヤニヤしてくる。

「別に」

「エリカ様みてぇ」

滝は出会った当初から俺を玩具にして面白がる節がある。本気で迷惑な話だ。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#372 [ひとり]
「機嫌悪いのわかってんなら近寄んなよ」

「まぁそう言うなって、俺も吸いたい」

言いながら赤丸を一本取り出して火をつけた滝。空に向かって煙を細長く吐き出した。

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

大人しくなった滝と俺の間には、会話も特になく。今の俺はそのほうが助かるから、こっちから特に話し掛けることもしない。

⏰:10/01/09 21:47 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#373 [ひとり]
一本目を早くも吸い終えた滝が、新しい煙草を取り出した。

まだ吸う気かよ。

「・・・・・・」

「アレ、行っちゃうの?」

内心で毒づいて店に戻ろうとしたら、止められた。

「悪るいけど、今は一人になりてんだよ」

「何言ってんの?キャラじゃねぇだろ、つかマヂ一人じゃ寒みぃから横いて」

調子こいて半袖で出てくるお前が悪い。

「俺はお前のホッカイロじゃねぇし」

⏰:10/01/09 21:48 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#374 [ひとり]
付き合ってられるか。

「ここなら二人だけど、店入ればもっと人いるぞぉ」

「木を隠すなら森の中って言うだろ」

「んー・・・・・・なんか違くね?」

あぁ、もう。

相手すんのが正直だるくて、滝には悪いけど俺は無視を決め込んでドアノブに手をかけた。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#375 [ひとり]
外に向かって開く設計の裏口扉。俺が再びノブに手をかけたのとほぼ同じタイミングで

「っっって!!!!!!」

自分じゃない力でもって、勢いよくそれは開かれた。まったくの予想外。

予知能力があるじゃなし、ボクサーでもない俺は、モロ顔面で扉を受け止めた。それを見て、

「ストライク!!」

滝の野郎がふざけた合いの手をいれてきやがった。コイツ、俺が例え目の前で事故にあって吹っ飛ばされたとしても、きっと今と同じようなふざけた合いの手で場を茶化すんだろう。間違いない。

⏰:10/01/09 21:49 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#376 [ひとり]
にしても誰だよチクショウ!!!!顔面が凄さまじく痛いんですけどぉぉお!!!!!!てかもう、熱いんですけどぉぉお!!!!

あまりの衝撃にしゃがみこんだら、なんか涙まで出てきたし。最悪。

「すいません!大丈夫ですか!!?」

焦っているせいか、いつもよりやや張りのある声だけど、こりゃアイツだよ、うん、間違いなく100根岸だよ。

しゃがんだと同時に俯いたお陰で、顔を見なくて済むのがせめてもの救いか。

⏰:10/01/09 21:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#377 [ひとり]
「大丈夫・・・」

「顔、見せて下さい」

「・・・本当に、大丈夫」

「いいから」

「ちょ、マヂやめろ…」

顔の無事を確認しようと隣にしゃがみ覗き込んでくる根岸。

近いって。

「いいから、見せて」

⏰:10/01/09 23:50 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#378 [ひとり]
顔を庇うように巻き付けていた両腕をとられて、力ずくで顔を上げさせられた。

ホラァァア!!!!近いんだってば顔がぁぁあっ!!!!

「あ」

あ?

「鼻血」

「え、嘘」

言われてから遅蒔きながら気付いた、鼻下にスウッと微かに感じる生暖かさ。そこに手を当てれば指先の濡れる感触が。

「血だな」

「はい、血です」

⏰:10/01/09 23:51 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#379 [ひとり]
「血だねぇ、おぉ、鼻栓しろ鼻栓」

滝もいつの間にか側に来ていたらしい。面白がる声色に変わりはないけど、ポケットティッシュを差し出してきた。

なんだかんだ言っても、こういうとこ気がきくじゃねぇか。

「悪り」

素直に受け取って素早く抜き取ったティッシュを鼻に詰める。

やべ、ちょっと地べたに垂れたな。

見るとコンクリに点々と血痕が落ちていた。後で水かけて流さなきゃ。

⏰:10/01/09 23:54 📱:F01B 🆔:/gnyrYEk


#380 [ひとり]
そんなことをぼんやり思いながら、グレーに映える赤に目を奪われて。

「立てますか?」

「ん、あぁ」

根岸の声で我に返った。

「鼻、折れたりしてないですよね」

言われて恐る恐る鼻を確認してみたら、よかった。

「骨はいってないくさい」

「そう、ですか」

心底安堵した様子。大袈裟だな。確かに目から星が飛び出る程度には痛かったけど。え、表現が昭和っぽいとか言わせねぇよ?

⏰:10/01/10 16:34 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#381 [ひとり]
「本当にもう大丈夫だから、滝、悪りんだけど」

「あいよー」

『消毒したい』って言おうとしたら、滝は察して足早に店の中へ消えて行った。やっぱこういう時は気が回る。さっき心の中で主張した前言は、撤回してやろう、うん。それから

「根岸、もういいって」

まだ横でこちらの様子を伺っている根岸の顔が何か言いたげだから、心からの『もういい』でそれを止めた。

そんなに謝られたって逆にこっちが気ィ使うっつーか。相変わらず位置が近いっつーか。

俺はじりじりっと微妙に根岸と距離をとる。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#382 [ひとり]
「じゃなくて三田さん、俺」

「なに?」

どうしよう。今更だけど、昨日あれだけツンケンした態度で避けていた相手とまともに会話してる自分に気付いて、なんかバツが悪い。そんな俺の胸中なんか知る筈もない根岸は、いけしゃあしゃあとこう言った。

「しつこいって思うかもしれませんけど、やっぱ俺納得いかないんで、今日残って下さい」

納得いかないって・・いやいや待てよ。何が納得いかないって?テメェは彼女できてウハウハなんだろ何ほざいてんだマヂで。意味わかんね。

今の俺、エベレストと張れるくらい沸点低いみたいだわ。

⏰:10/01/10 16:36 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#383 [ひとり]
「しつこいって言われんのわかってんなら、そゆこと言うのやめたら?」

「・・・・・」

黙った根岸をその場に放置して、俺は逃げるように店に入った。ぶつけた鼻と、あとなんか左胸に圧がかかったみたいにぐぅっと痛い。

早くこの鼻、滝にマキロンで消毒してもらお。完全皮剥けてんだろコレ。でもこっちの痛みは・・・

黒いスタッフTシャツの胸の辺りを、乱暴に鷲掴んでごまかすのが精一杯だ。

⏰:10/01/10 16:40 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#384 [ひとり]
【休憩】

今日は、ひとりです。

第二十一話、完結。
鼻を強打した三田と、させた根岸。空気読めてんだかいないんだかの滝でしたぁー。

滝はマイペースなチャランポランで、いつも隙あらば三田をからかってあそんでいます。

⏰:10/01/10 16:43 📱:F01B 🆔:8Q25XGmU


#385 [ひとり]
【第二十二話/お冷やだけ注文してきた時は後回しが鉄則】


また逃げられてしまった。

「・・・・はぁ」

ため息しかでてこない。せっかく思いを伝えたのに、少し距離が近くなった気がしたのに。

近づいたと思った次の瞬間にはまた遠のいている。

気付かない程無意識のうちに。

「俺、何やらかしたんだよ・・・」

⏰:10/01/12 01:16 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#386 [ひとり]
見当も付かないが、昨日弘さんの二者面談(?)で半端はしないと宣言した手前、引くわけにはいかないし、もちろんそんな気毛頭なかった。


────
──────


今日一日もまた無事に終わろうとしている。深夜一時。常連の客がなかなか帰らなかったから、まだ暫くは締めに時間がかかりそうだ。

⏰:10/01/12 01:17 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#387 [ひとり]
三田さんが先に帰ってしまわないように、動きをちょこちょこ目で追いながらの作業。ちょうど床を掃いている時、ケツポケに突っ込んでいた携帯がバイブした。

こんな時間にメールをよこす相手なんて、限られてくる。仲良いダチか、或いは───


from:アキ
─────────

まだ仕事〜?

──end─────


「だと思った」

⏰:10/01/12 01:18 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#388 [ひとり]
思わず零れた独り言。

おそらく、毎度のことながら勝手に作った合い鍵で勝手に俺んちに上がり込み、いつの間にか勝手に持ち込んでいた部屋着にでも着替えて待っていたが、帰ってこない事にしびれを切らせて連絡をしてきたんだろう。

俺は素早く返事を返した。


──今日はまだ当分かかる。自分ち帰れ。──


送信。

⏰:10/01/12 01:19 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#389 [ひとり]
するとまた、間髪入れずに返信が。


──はぁ〜い──


内容はそれだけ。絶対にごねて意地でも待ってるとか言われると覚悟していたので、少し拍子抜けだが、これならこれでありがたい。

もう返事は返さずに、そのまま携帯をしまう。残りぶんの掃き掃除に戻ろうと顔を上げたら、思いがけず三田さんと目が合った。が、直ぐにそらされて

「・・・・・・・・」

今日は逃がさない。必ず話をつけてやる。必ず。

俺は強い決意と共に箒の柄を握り直した。

⏰:10/01/12 01:20 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#390 [ひとり]
─────
───

それから実際締め作業が完了したのは深夜二時。売上が合わないと三田さんが言い出した事で、幾分か余計に時間をくったが、そのお陰というか、自然な感じで一緒に残る事ができた。

今いるのは、三田さん、弘さんと俺。これなら何の遠慮もなく、三田さんを引き止められる。

「ひゃー合った合った、とっとと閉めるべ」

弘さんの一声を合図に、三人三様鞄を手に出口へ向かった。

「今何時根岸?」

「っと・・・二時半過ぎですね」

「マヂで?うっわ勘弁しろよ三田」

「俺じゃねーよ!誰だか知んないけど釣り銭間違えたソイツが悪い」

「店長のくせに無責任だなお前・・そう思うよな根岸」

「いや・・」

「ひろむこそ自分の肩書き棚に上げてんじゃねぇよ経営"責任者"が聞いてあきれるわ」

「わかってないねお前は、責任者として俺はお前に一任してる訳だからさ」

「一任つぅか、転嫁じゃね?」

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#391 [ひとり]
ヤバい。このままじゃなんか流れ的に三人で帰る感じじゃね?しかも俺チャリで、二人は歩きっていう・・・

内心で若干焦っていると、弘さんはシャッターを下ろした店の前で言った。

「あ、俺今日バイクだから、お疲れ〜」

それは見事な早業。止める隙もなく。俺と三田さんは走り去る弘さんの背中に『お疲れ様』の声も掛けられずにただそろって

「「え」」

と発する事しか叶わなかった。

⏰:10/01/12 01:22 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#392 [ひとり]
横にチラと視線をやれば、弘さんが走り去った方向にまだ目を向けている三田さん。『聞いてないよ』って顔に書いてある。

ありがとうございます。
弘さん。

俺は弘さんが敢えて一人先に帰った事を確信して、胸中で感謝した。昨日の甘酒の事もあるし、今度煙草の一箱でも奢らなくては。

⏰:10/01/12 21:06 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#393 [ひとり]
そうしていよいよ二人きりになってみれば。

やっぱ緊張すんな。

覚悟を決めていても、好きな相手に冷たくあしらわれるのはやっぱり応える。早く教会へ行って冒険の書に記録したいって思うくらいに、HPは消耗してるんだ。

それでも今何か言わなきゃ逃げられてしまうかもしれないこの状況で、俺に残された選択肢なんて、一つしかないのもわかりきってる事実だから。俺は意を決して話しかけ──


「ぐはっ!!?!!??」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#394 [ひとり]
突然だった。

ただでさえ腰にくる立ち仕事を日々やっている俺の、正にコアである腰に真後ろから、本当に突然、何かがぶつかってきた。

否、抱き付いてきた。が正しいか。

「来ちゃった!!!!」

振り向かなくたって声でわかる。

「なんでお前がここにいんだよ」

「実はね、サークルの子達と飲んでて終電逃しちゃってさぁ、だからさっきメールした時も、実は帰ってる途中だったんだよね〜」

「それで?」

「それでって・・・・だから一緒に帰れるんじゃないかな〜って思って来たの!!」

⏰:10/01/12 21:07 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#395 [ひとり]
『ピッタリだったでしょ』とはしゃぐアキ。コイツはなんだってこういいところに・・・

「いいから先帰ってて」

「えー何でよわざわざ寄ってあげたのに」

「頼むから・・・」

もうこれは何かもので釣るしかないようだ。

「プリクラ」

「え?」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#396 [ひとり]
「撮ってやるから」

プリクラ、正式名称をプリント倶楽部。俺がまだランドセルしょってた時分に登場してから現在に致るまで、根強い人気で新機種が続々と登場し続けてる。

自分の顔をシールにして何が楽しいのか。俺からしたらその感覚はさっぱり理解できないんだが、アキはどうやら漏れる事なく好きらしい。

以前から撮ろう撮ろうとしつこくせがむのを、そればっかりはと拒否し続けてきた訳で。

「え、マヂで本気!!??」

⏰:10/01/12 21:08 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#397 [ひとり]
それをすんなり手のひらを返したもんだから、『マヂ』と『本気』が同義だって区別もつかないくらいに喜んでくいついてきた。

かかった!!!!

俺は糸が引いたその瞬間を見逃さず、素早くリールを巻いた・・・・ってのはものの例えで

「だから今は帰ってろ」

とすかさず要求したんだ。

⏰:10/01/12 21:10 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#398 [ひとり]
「えーいいけど今から一人で何すんの?」

「一人?」

おいおい何言ってんだよ。一人な訳ないだろ俺は今から三田さんに・・・




いない。

「あの横にいた人なら帰ったよ」

「帰った!?!?」

「うん、ダッシュで」

「ダッ・・・・」

⏰:10/01/12 21:11 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#399 [ひとり]
畜生。またかよ。

「大人のダッシュってなんかウケ・・てちょっとゆうちゃん!!??」

俺は店の脇に止めていたチャリに反射的に跨ると、乱暴にそれを漕いで三田さんの後を追った。

アキがなんか叫んでる声が少し遠くに聞こえたけど、今はそれどころじゃないんだ。

なりふり構わず立ち漕ぎ。
風のビュッビュッと切れる音を、断続的に聞きながら。


早く


早く


早く


頭の中で
何度も何度も繰り返した。

⏰:10/01/12 21:12 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


#400 [ひとり]
【休憩】

今晩は、ひとりです。

いよいよ!!!!ってところでアキ登場(`∀´)

またも三田は逃げました。しかもダッシュで。
追う根岸逃げる三田。そして置いてきぼりのアキ。なんかもう、皆、ドンマイだよ!!!!は

⏰:10/01/12 21:43 📱:F01B 🆔:sF.a5tXc


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