こちら満腹堂【BL】
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#353 [ひとり]
ギギギギ──ギギギギ──

ギギギギ──ギギギギ──

そうする内手の中の甘酒は徐々にぬるくなってきて、俺はプルトップを上げた。

カチュッと小気味いい音の後、フワッと甘い香りが鼻をくすぐる。喉に流し込んだ甘酒は、正月に実家で飲んだものよりずいぶんと甘ったるくて、俺は些か残念な気持ちになった。

⏰:10/01/08 19:34 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#354 [ひとり]
俺が一口飲み終わると、それを合図のように弘さんが話し掛けてきた。

「根岸って今いくつだっけ?」

「二十三です」

「まだまだ若かいなーオイ」

「そうですね、そうは見られない事が大半ですけど」

「そうか?相応じゃね?」

「この前俺より年上の人と飲み行ったら、店の子にタメって言われましたよ」

随分と昔の事のように、三田さんと飲み(本人曰わくライバル店の偵察だったらしいが)に行った先の、カウンター越しに喋った女性スタッフの『え、すいません、私てっきり・・・』って言葉を思い出していた。

⏰:10/01/08 19:36 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#355 [ひとり]
それは自分が子供の頃流行った玩具やテレビの話しで。女性スタッフと俺が偶然にも同世代だった事から話しに花が咲いた。すると三田さんは興味深く俺達の話しを聴いた後に

「なんだよ五年違うだけで随分ジェネレーションギャップじゃん俺」

なんて言うもんだから、焦ったその子から思わず口をついて出た一言だった。『え、すいません、私てっきり・・・』

⏰:10/01/08 19:37 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#356 [ひとり]
アレは完全に俺と三田さんをタメだって思っていた。いや、下手したら三田さんの方が若干下に見られていたのかもしれない。が、そこはあの人の名誉のためにも俺は目を瞑ることにしたんだ。


「ふ〜ん、まぁ、アイツが年より若く見えるってのもあんだろ」

その言葉で我に返る。弘さんが、俺の言う『年上の人』の正体をわかっているような口振りだから、思わずシーソーに落としていた視線を上げた。

「何で・・」

「アイツもさ、もう今年で二十九な訳よ」

知ってるんだ。言ったのか。

「三田さん・・」

「アイツはなんも言わないよ」

「じゃあ」

「そりゃ見てればわかるでしょ、わかりやすいもん、お前ら」

「ら?」

⏰:10/01/08 19:55 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#357 [ひとり]
心外だ。三田さんはともかくとして、何だって俺まで。


「いいよお前、必死っぽくて」

「はい?」

「いっつも生意気な目つきでブスーっとしててさ、何考えてんだコイツって思ってたけど」

弘さん、そんな風に思ってたのか。

⏰:10/01/08 20:01 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#358 [ひとり]
「でも三田の事になると必死なのな」

「それは、あの時は風邪って言うから俺も・・」

「そゆ事でなくてさ」

「・・・・?」

「・・・まぁいいよ、気付いてないなら」

俺的にはちっともまぁよくないんだが、弘さんは一人で完結させてしまって、これ以上話してくれる気はなさそうだ。

⏰:10/01/08 20:06 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#359 [ひとり]
「俺個人としちゃお前の気持ち尊重してやりたいと思ってんだよね」

弘さんて普段大人だしクールだし、カッコイイって思うんだけど。勝手に話しポンポン進めるこういうところ、三田さんぽいなって思ってしまう。

「俺の気持ち、ですか」

「うん、ちゃんと真剣なのは見てりゃわかるんだよオジさんくらいの年になると」

「そりゃ凄い」

⏰:10/01/08 20:11 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#360 [ひとり]
「まぁな、でも履き違えんなよ」

弘さんの纏う空気が、ガラッと変わった。今までずっと漕ぎ続けていたシーソーの動きもいつの間にか止まっていて。俺達はただ気の板に跨って静止していた。

「・・・・・・」

「俺は店のスタッフは皆兄弟みたいに思ってる。お前の事もだ。」

「・・・・・」

⏰:10/01/08 20:16 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#361 [ひとり]
「でもな、アイツの事はお前以上に大事だと思ってる」

肌に当たる空気がピリピリと刺さるように感じるのは、きっと寒さのせいばかりじゃない。

「さっきも言ったけどアイツも今年二十九だ、お前みたいに若気の至りって誤魔化しが利く年でもねぇ。今更踏み込んだ道で転んだら、擦り傷どころじゃ済まないってのは、わかるよな?」

視線が痛い。

⏰:10/01/08 20:23 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


#362 [ひとり]
でも、この痛さから目を逸らしちゃいけない気がした。だから、真っ直ぐに弘さんの目線を、気持ちを受け止めて、

「はい」

「半端はするなよ」

「はい、わかってます」

俺が言うと弘さんは

「うむ、ならよし!!!!!」

柄にもなくデカい声を張り上げた。

⏰:10/01/08 20:28 📱:F01B 🆔:jKMRlcOI


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