こちら満腹堂【BL】
最新 最初 全
#401 [ひとり]
【第二十三話/エイヒレは長くしゃぶったもん勝ち】
ハァ──ハァ──ハァ──
「どんだけ足速いんだよ」
慣れない立ち漕ぎに上がった息で呟いた。いっても相手は生身でこっちはチャリだ。全力で漕げばすぐに追い付くだろうと践んでいたのに。
「見つけた」
煙草ばっかぱかぱか吸って体力なさげな三田さんは、予想以上の健闘を見せて。その後ろ姿を視界に捉えることができた頃には、こっちの体力が尽きかけていた。
・
:10/01/14 01:17 :F01B :eoTDsMHM
#402 [ひとり]
煙草ばっか吸ってるのは三田さんばかりじゃないって事か。
『もうここまで来れば─』とでも思ったのだろう。呑気にテクテク歩くその後ろ姿に向けて、俺はラストスパートをかけた。
「三田さん!」
あぁ、漕ぎながら大声出すと脇腹が痛い。
呼び掛けに振り向いた三田さんは俺の姿を認めると、口が『げ!!』という形に動いた。
『げ』じゃねんだよもう逃がさねぇぞ。
・
:10/01/14 01:19 :F01B :eoTDsMHM
#403 [ひとり]
ところが三田さんも粘り強いというか往生際が悪いというか・・
「あ、ちょっと!!!!」
今まで通って来たやや幅の広い道から、前動作もなくいきなり横道に入った。しかもまたダッシュで。
なんなんだあの人は。
昔はやんちゃしてましたとか言いながら、実は真面目な陸上部員だったんじゃないかと疑ってしまう。
もちろん自分も後を追うべくすぐその脇道に入ろうとした。したのだが。
・
:10/01/14 01:22 :F01B :eoTDsMHM
#404 [ひとり]
「うおっ!!!」
咄嗟にかけたブレーキで直撃は避けたけど。
「っぶねー。」
前輪からやや強い衝撃が、ハンドルを握る両手を始めとして全身に伝わってくる。三田さんが何の考えもなしに飛び込んだと思ったそこには"自転車・バイク進入禁止"と掛かれたポールが、道のど真ん中に鎮座していたのだ。
・
:10/01/14 01:24 :F01B :eoTDsMHM
#405 [ひとり]
「あぁ!!もう!!!!」
俺はヤケクソ気味に自転車をその場に捨て置いて、ポールを飛び越え三田さんの後を追った。
そこは細く長く、道と呼ぶにはあまりにお粗末で、民家と民家の間に辛うじてできた"隙間"と言ったほうが正しいような、碌に舗装もされていない道だった。
・
:10/01/14 01:28 :F01B :eoTDsMHM
#406 [ひとり]
塀に囲まれて日の当たらないそこは所々ぬかるんでいる。足を捕られながらそれでも俺は、前へ前へと足を動かした。
随分長い。
ひたすら続く一本道に、このままどこまで続くのだろうと思った矢先。俺の視界の真ん中に、白っぽい点が現れた。
出口だ。
おそらくあの白いものは街灯の光。その点めがけて走った結果。やはり新しい道にでた。
ちゃんと街灯で照らされて、舗装された道らしい道。
・
:10/01/14 01:36 :F01B :eoTDsMHM
#407 [ひとり]
そこは正面がどん詰まりで、左右ニ岐に別れたT字路になっている。
三田さんが行ったのは、右か。それとも左か。
左右に忙しなく視線をさ迷わせていると、右側の道。ここからじゃ死角になっている曲がり角の先から、『ゴッ』と物体と物体がぶつかり合う硬質な音が、俺の鼓膜に届いた。
真夜中で、辺りになんの物音もしないこのコンディションだからこそ聞き取れた。それくらいに地味な音でもあった。
・
:10/01/14 01:39 :F01B :eoTDsMHM
#408 [ひとり]
俺は反射的に音のした右道を選び、一つ目のコーナーを直角に曲がった。
そうしてようやく。
「・・・・・あの・・三田さん?」
ようやく捕まえた目当ての人物は、何故か曲がって直ぐに突っ立っている電柱の前に小さくうずくまっていて、声をかけると丸めた背中がビクッと反応した。
「大丈夫なわけねぇだろ!」
振り向いた顔。初見のポジショニングからして想像はできていたんだけど。
・
:10/01/14 01:41 :F01B :eoTDsMHM
#409 [ひとり]
「今日は顔、よくぶつけますね」
ちゃんと"今日の占いカウントダウン☆"見てきたんですか?
場を和ませようと続けた台詞が、今の三田さんには相応しくなかったらしい。
しゃがみ込んだまま上目使いで睨まれた。丁度いい角度で街灯に照らされているその目尻には痛さのせいか、もしくはついていない今日の自分に嫌気がさしてか、やや涙が滲んでいた。
・
:10/01/14 01:43 :F01B :eoTDsMHM
#410 [ひとり]
ついでに言えば、満腹堂の裏口で俺が勢いよく開け放った扉に鼻をぶつけた時、"応急処置"にかこつけておもしろ半分で滝さんが無理やり三田さんの鼻頭に貼り付けた絆創膏も(貼った本人はその姿を指差して『昭和のガキ大将』だと笑った)、電柱に再度ぶつけた衝撃でなんだか微妙にポイントからずれていて。やや右上がりにくしゃりと皺がよってしまったその下からは、薄ピンクのちょっと痛々しい傷口が覗いていた。
三田さん自身、己の鼻の上にへ貼りついている絆創膏が、もう何の役割も果たしていない事がわかったようで。俺を睨む目の強さは保ちながら、ペリとそいつを剥がしてお役御免だと地べたに投げ捨てた。
・
:10/01/14 21:14 :F01B :eoTDsMHM
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194