こちら満腹堂【BL】
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#406 [ひとり]
塀に囲まれて日の当たらないそこは所々ぬかるんでいる。足を捕られながらそれでも俺は、前へ前へと足を動かした。

随分長い。

ひたすら続く一本道に、このままどこまで続くのだろうと思った矢先。俺の視界の真ん中に、白っぽい点が現れた。


出口だ。

おそらくあの白いものは街灯の光。その点めがけて走った結果。やはり新しい道にでた。

ちゃんと街灯で照らされて、舗装された道らしい道。

⏰:10/01/14 01:36 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#407 [ひとり]
そこは正面がどん詰まりで、左右ニ岐に別れたT字路になっている。

三田さんが行ったのは、右か。それとも左か。

左右に忙しなく視線をさ迷わせていると、右側の道。ここからじゃ死角になっている曲がり角の先から、『ゴッ』と物体と物体がぶつかり合う硬質な音が、俺の鼓膜に届いた。

真夜中で、辺りになんの物音もしないこのコンディションだからこそ聞き取れた。それくらいに地味な音でもあった。

⏰:10/01/14 01:39 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#408 [ひとり]
俺は反射的に音のした右道を選び、一つ目のコーナーを直角に曲がった。

そうしてようやく。

「・・・・・あの・・三田さん?」

ようやく捕まえた目当ての人物は、何故か曲がって直ぐに突っ立っている電柱の前に小さくうずくまっていて、声をかけると丸めた背中がビクッと反応した。

「大丈夫なわけねぇだろ!」

振り向いた顔。初見のポジショニングからして想像はできていたんだけど。

⏰:10/01/14 01:41 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#409 [ひとり]
「今日は顔、よくぶつけますね」

ちゃんと"今日の占いカウントダウン☆"見てきたんですか?

場を和ませようと続けた台詞が、今の三田さんには相応しくなかったらしい。

しゃがみ込んだまま上目使いで睨まれた。丁度いい角度で街灯に照らされているその目尻には痛さのせいか、もしくはついていない今日の自分に嫌気がさしてか、やや涙が滲んでいた。

⏰:10/01/14 01:43 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#410 [ひとり]
ついでに言えば、満腹堂の裏口で俺が勢いよく開け放った扉に鼻をぶつけた時、"応急処置"にかこつけておもしろ半分で滝さんが無理やり三田さんの鼻頭に貼り付けた絆創膏も(貼った本人はその姿を指差して『昭和のガキ大将』だと笑った)、電柱に再度ぶつけた衝撃でなんだか微妙にポイントからずれていて。やや右上がりにくしゃりと皺がよってしまったその下からは、薄ピンクのちょっと痛々しい傷口が覗いていた。

三田さん自身、己の鼻の上にへ貼りついている絆創膏が、もう何の役割も果たしていない事がわかったようで。俺を睨む目の強さは保ちながら、ペリとそいつを剥がしてお役御免だと地べたに投げ捨てた。

⏰:10/01/14 21:14 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#411 [ひとり]
「お前が追っかけるからまた顔ぶつけただろ」

いつもよりも低くかすれた声で三田さんがボソッと不満を漏らす。

そんなん言ったって

「今のはただ単に三田さんがセルフで起こしたアクシデントでしょ、俺関係ないですよ」

「関係ある、大あり」

「てか本を正せば、三田さんが俺から逃げるのがいけないんじゃないですか」

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#412 [ひとり]
「な・・・・テメェが・・」

話の流れとして返したその一言に、なにやら今までとはちょっと違う反応が返ってきた。が、よく聞き取れない。

「はい?」

散々避けられていた鬱憤から苛立ちを含んだ声で聞き返すと、三田さんは突然凄い怒気を放ちながら、俺を怒鳴りつけた。

「先に逃げたのはテメェだろ!!!!!!」

意表を突いたその怒声に、俺の体は自然現象として一気に粟だった。

こんな風に怒鳴る三田さんを見るのは、初めてだ。

⏰:10/01/14 21:15 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#413 [ひとり]
「・・・・・・・・俺が?」

怒鳴られた事に対しては正直驚きを隠せない俺だったが、それより何より聞き捨てならない台詞だ。

逃げた?先に?何から?

「あんた何言って・・・」

「っるせぇ!!先に背中向けたのはテメェだ!!!!それを今更とやかく言われる筋合いはねぇっつってんだ!!!!」

今は一体何時なんだろう。目の前のこの人の怒鳴り声は、騒音被害だって警察に届けられても文句は言えないぞっていうボリュームだ。

そしてそれだけに留まらず、三田さんはまた信じられない行動に出た。

⏰:10/01/14 21:16 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#414 [ひとり]
「もう今更俺に構うな!!」

捨て台詞としてそれだけ言うと、脱兎のごとくまた駆けだしたのだ。

「ちょ、三田さん!!!」

当然俺はその後を追った。ここまで来て、あんな意味のわからない事言われて、『はいそうですか』なんて引き下がれるか。

にしても俺達こんな事ばかり、もう何回繰り返してるんだ。

こんなに好きなのに。

逃げないでよ。

俺はなりふり構わず全力で走った。

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


#415 [ひとり]
今まで通ったこともないような場所を道から道へ。右へ左へ。

多分三田さん、俺をまくために自分でもわからないで滅茶苦茶に走ってるんだと思う。

にしても速いな。なんなんだよその脚力は。

少しでも気を抜けば、見失ってしまうだろう。


「三田さ・・・・待って!!!!」

「待たない!!!!」

⏰:10/01/14 21:17 📱:F01B 🆔:eoTDsMHM


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