こちら満腹堂【BL】
最新 最初 🆕
#522 [ひとり]
「あぁ、俺もあんな動けるヤツだとは思いませんでしたよ」

「じゃなくて、行ったらひろむにいきなり今日から入ったとか紹介されてさ」

「え、三田さんが弘さんと採用したんじゃないんですか?」

「俺知らないし、ひろむが知らん内に入れてた」

でもそれってどうだろう?弘さんは確かに全体の責任者だけれど、三田さんに黙って勝手に人を雇ったりするんだろうか。

「本当にまるきり知らなかったんですか?」

「ん?・・・んー」

ハッキリしない物言いと微妙にばつの悪そうな顔に、これは何かを隠してるんだと想像するのは容易かった。

⏰:10/02/10 09:14 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#523 [ひとり]
「・・・・知ってたんでしょ」

「いや、本当に知らなかったんだって!!」

誤魔化すように福神漬けをつついていた手を止めて、三田さんは抗議するような視線を寄越す。

「・・・そうですか」

俺は不自然なまでの聞き分けの良さで、再びカレーに意識を戻した・・・ように見せかけた。三田さんは隠し事が苦手だ。それは『お付き合い』する以前からとっくに心得ている。ベタだけど今俺のとっている行動は"押して駄目なら引いてみろ"な訳で、それがこの人にとって最大限の効果を齎すという事は、過去に幾度も実証済みなのだ。

⏰:10/02/10 09:15 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#524 [ひとり]
暫くは根競べ、俺はひたすらにカレーを食べて、どうでもいいクイズ番組を観た。観ながらたまにチラと横目で三田さんの様子を伺う事も忘れない。もういよいよ限界のようで、何を食べるわけでもないのに開いたり閉じたりと、口がしきりに動いている。言おうか言うまいか、逡巡しているみたいだ。

その姿が可笑しくて笑い出したい衝動にかられたけど、そこはぐっと飲み込んでひたすらに待つ。すると

「バイトを採ろうって話しはしてたけど、まさかアキちゃんとは思わなかった」

三田さんはボソッと零したんだ。

⏰:10/02/10 09:16 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#525 [ひとり]
「それじゃ、面接は弘さん一人でやったんすか?珍しい」

「うん、そう」

白状してもまだ尚気まずそうな態度。

「どうして三田さんは行かなかったんですか」

「それはお前、そのほら、あれだ、あのー…」

俺が詰めれば、三田さんは視線を逸らす。逸らした刹那覗いた耳が、心なしか赤くなっているのに気付いた。

「俺に言いたくないんですか」

⏰:10/02/10 21:36 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#526 [ひとり]
直感だった。三田さんが照れるような事なら、自分が関係あるんじゃないかなんて、とんだ自惚れだなと半分思いながらも。そしてその自惚れた直感は、どうも三田さんの確信をついていたようだ。

「・・・・・・・うるせ」

「耳真っ赤だけど」

「うっ・・・」

「白状しちゃいなよ」

「・・・ねぼ・・した、から」

観念したのか、つかえながらも口を開いた。

⏰:10/02/10 21:53 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#527 [ひとり]
どうも寝坊して、面接に行けなかったらしい。バイトの面接は毎度決まって午前中の、ランチ前の時間だ。ノジコさんはどうか知らないが、俺も津久井も、実際面接してもらったのは午前中の割と早い時間帯だったのを覚えている。

「寝坊って、んな事あったんですか?」

「ん、あった」

「そんなん言ってくれたら俺が電話で起こしてあげたのに」

「そりゃムリだろ」

「え、何でですか」

「だってお前も爆睡してたし」

⏰:10/02/10 22:11 📱:F01B 🆔:FBG14ABw


#528 [ひとり]
「あ、そうなんだ」

「うん」

「それすいません、いつの話しっすか?」

「俺らが・・つ、きあった、日」



なるほど。


つまり俺達が例の追いかけっこをやっていた次の日が、アキの面接日だったのか。そりゃあ俺には起こせないな、三田さんの横で昼過ぎまで確かにぐーすかやってたんだから。

⏰:10/02/11 01:08 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#529 [ひとり]
「しかも俺さ──」

三田さんの話しにはまだ続きがあった。

「ん?」

「俺一回目ぇ覚めたんだわ」

「あ、そうなんすか?でも、したら何で・・・」

「根岸が『行くな』って言った」

「えぇ!!??」

なんだそりゃ、それは初耳すぎる。てか、まるきりそんな記憶はない。

「覚えてねぇのかよ」

⏰:10/02/11 01:09 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#530 [ひとり]
三田さんの恨めしそうな視線に、今度は俺が言葉を詰まらせた。

「そのー・・・つまり、言っちゃえば・・・・お、ぼえてはー・・ない、です」

白状すると、そんなんわかってたわと言わんばかりにデカい溜め息を吐かれて、恐縮してしまう。

「お前ねぇ」

「本当に記憶ないんです、てかんな譫言、無視してくれたらよかったのに」

「そりゃ俺だって根岸が離してくれたらそうしてたさ」

⏰:10/02/11 01:10 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


#531 [ひとり]
でも、と三田さんは繋げた。

「俺が目ぇ覚めて布団から出ようとしたら、後ろっから羽交い締めするみたいに抱きつかれて、『行くなよ』とか言うから、だから・・・・」

自分で言いながらその時の事でも思い出したのか、今度は顔面までもが紅潮しだした。

おいおい、無意識の俺何してくれてんだ。まさか羽交い締め以上の何か、やらかしてはいるまいな。

一瞬思ってヒヤッとした。

「だから俺、面接あるって言ったんだ、なのに全然聞かなくて『そんなのいいからここに居ろよ』って、き、き、キス、されて」

いよいよ顔面の赤みがピークを迎えて、それは首までも染め上げる勢いだった。

あ、湯気出るかも。

⏰:10/02/11 01:11 📱:F01B 🆔:9n8RKG36


★コメント★

←次 | 前→
↩ トピック
msgβ
💬
🔍 ↔ 📝
C-BoX E194.194