こちら満腹堂【BL】
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#554 [ひとり]
しかし俺の全力の励ましはやっぱり薄っぺらすぎてアキちゃんには届かないのか、まるきり反応が返ってこない。床に視線を落としているらしく、髪が顔にかかって表情はわからないが、でも今彼女の中に芽生えているのが、プラスの感情でないことだけは何となくわかった。

あんまりに白々しすぎて、逆に望みがないとか思わせてしまったんだろうか。

「あの、アキちゃ・・」

「知ったような口聞くな!」

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#555 [ひとり]
それはさっきまでの、例えるなら、んー・・小鳥のさえずりのように可憐な声?とは打って変わり、まるで・・・・まるでー・・・あ、うん。まるで改造したマフラーでふかしたような野太さと、腹に響く迫力を湛えた声だった。

そしてそのことに驚いている間に彼女は俺の腰掛けたスツールに歩み寄ると、その脚を華麗に足払い。上に座っていた俺はもちろんそれごと床に倒れたんだけど、彼女はすかさずそんな俺の腹の上に馬乗りになり、躊躇うことなくこれまた華麗な動作で往復の平手打ちを繰り出したんだ。

そして、一気に両の頬が熱くなった。なったけど、それはあくまで熱いってだけで、痛いとかではまったくなくて。つうか痛いより何より今の一連の出来事に驚いてしまってそれどころじゃなかった。

⏰:10/02/24 20:39 📱:F01B 🆔:R2AVBU6I


#556 [ひとり]
確かに知らない。アキちゃんがどんなに相手の男を好きなのかも、好きな相手には恋人がいるって事実にどれくらい打ちのめされているのかも、今さっきチラッと話しを聞いた程度の俺には想像もつかないよ。

だからって、何で俺が八つ当たりみたいに殴られなきゃならないんだろ。

「え、何々、何で?」

思わず零れ出た当然の疑問に答えることなく、アキちゃんは俺の腹の上、ただ肩を小刻みに震わせていたんだ。

⏰:10/02/25 08:59 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#557 [ひとり]
それがつい数分前の出来事で、耐えるように肩を揺らす彼女に声をかけるのが偲ばれて、なんとなく黙っていたんだけど俺の筋肉が限界を訴え始めたから、どいてくれと頼んだ。するとかえって来た返事がこれだ


──ゆうちゃん返してよ──


さっきの話しの流れから、何で突然自分が殴られたのか。点と点が、一本の線で繋がったような感覚。

そっか、つまり、そゆこと?
え、マヂでか。

⏰:10/02/25 09:22 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#558 [ひとり]
「何であなたみたいなおじさんなので?ゆうちゃんを変な道に引き込まないで!お願いだから!お願いです!!」

そんな重ね重ねお願いされても、引き込まれたのはどっちか言ったら俺なんだけど・・・

とは流石に言えなくて、苦しそうに寄せたアキちゃんの小さい眉間の皺ばかりに視線をやった。

「私の方が、先だったのに・・先に好きになったのに・・・・」

⏰:10/02/25 09:26 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#559 [ひとり]
だからさっきも言ったじゃん。後とか先とか、恋愛ってそうゆうんじゃないって。

でも、これもまた俺は飲み込んだ。アキちゃんにしたら確かにポッと出の、しかもおっさんが恋敵になるだなんて、こんなことって想像できるだろうか。否、ムリでしょ。確実ムリだって。キャパ超えるって。

困り果てて何も言えない俺。するとアキちゃんはふーっと深く長い息を吐いた。それから、さっきまで貼り付けていた苦しそうな表情から一転、読めない無表情で俺を見下ろした。てか、マヂいい加減腹が・・・・

⏰:10/02/25 09:43 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#560 [ひとり]
「三田さん、下の名前は?」

「はい?」

「下の名前ですよ、三田、何?」

「の、望」

「のぞむ・・・じゃ、のんちゃんね」

「え・・・」

「のんちゃん、さっき言ったよね?恋愛は自分勝手で自由なもんだって」

言った。言ったけど、何だかとっても厭な予感がするのはおじさんの気のせいでしょうか?

「・・・言ったけど」

⏰:10/02/25 09:47 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#561 [ひとり]
「じゃあ、私まだ諦めなくっていいって事ですよね?」

今関係ないんだけど、この敬語とタメ口が混在する感じが根岸とシンクロする。さすが同じ血が混ざってるだけのことはあるな。つぅか、ただ単に俺が二人共に嘗められてるだけとかだったら、なんか凄げぇ凹むけど。

「うん・・・・え!?!?」

「え、じゃないですよ今更、言ったのはのんちゃんなんだから」

それは事実で、何も言い返せない。

⏰:10/02/25 09:51 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#562 [ひとり]
「私、諦めないから、つぅか、ゆうちゃん振り向かせるから」

「・・・アキちゃん、戦国武将みたい」

「何言ってんの?」

「ほら、あの時代の武将は、合戦前に互いの陣地から名前を名乗って宣戦布告し合ったらしいじゃん」

「だから?」

「今のアキちゃん、それっぽいな〜って」

「喧嘩売ってんですか?」

「めっそうもない」

俺は相変わらず床と仲良くしたまんまの体勢で、両手を顔の脇に挙げてみせた。

⏰:10/02/25 09:56 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


#563 [ひとり]
「とにかく、そうゆうことなんで、明日っから覚悟して下さいね、私本気になったら、フェアとかそんなん関係ないんで」

そこまで言うと満足したのか、ここでようやくアキちゃんは立ち上る。長いこと押し潰されてた腹から急に圧迫感が取り除かれると、今度はなんだかスカスカして落ち着かなかった。

「あ、それと」

「あ?」

「ゆうちゃんにこの事言ったら・・・」

「んな野望なこたぁしねぇよ」

察してこちらが言えば、今度こそ納得して。『お疲れさまでした〜』と彼女は元気な声で挨拶をして退勤を押すと、颯爽と帰って行った。

⏰:10/02/25 10:04 📱:F01B 🆔:QEi6v1sE


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