こちら満腹堂【BL】
最新 最初 全
#648 [ひとり]
「ねぇ、三田さん、キスしたい」
根岸は恥ずかしげもなく謂うと、俺の頬にひたと手を当てる。酔ってさぞ火照ってるんだろうと思いきや、予想外にひやりと冷たい手だった。
「バカ、何謂って・・」
謂いかけた唇を、親指の腹でなぞられてしまえば、俺は黙るしかない。俺の全神経が、根岸の触れる箇所に集中していく。目が、離せない。
「見すぎ」
根岸は笑った。
「お前が見てくるからだろ」
・
:10/04/18 10:53 :F01B :Kn5n1jUU
#649 [ひとり]
謂い返すけど、内心は上の空だ。つっぱねた態度とは裏腹に、俺も・・・・
根岸が俺の髪に長い指を掻き入れた。頭皮を丁寧になぞられる感触に背筋が粟立ち、どうしようもなくて俺は目を瞑った。
それを見計らった絶妙のタイミングで、唇に当たる感触。否、当たるって表現はこの際相応しくない。
唇を、包まれた。
『ダチの家の便所で何してんだ!!』と自分を叱咤する俺と、『根岸にこうして欲しかったんだ』と待ち望んでいた俺が混在する。
・
:10/04/18 11:04 :F01B :Kn5n1jUU
#650 [ひとり]
ダメだダメだと思うほどに、もっと欲しいんだと求める自分も大きくなる。
後頭部を支える根岸の手が、優しく包み込んでくる根岸の唇が、嗚呼、やばいな、これ。
うっすらと目蓋を持ち上げると、視界一杯に根岸がいる。
目の前の首根っこに、しがみついてしまいたい衝動に駆られる。唇だけじゃ足りない。全身にキスを返して、鎖骨に歯をたててやりたいと羨望する。
俺って、こんなんだったっけ?自分が自分じゃないみたいだ。
・
:10/04/18 11:13 :F01B :Kn5n1jUU
#651 [ひとり]
付き合ってみて初めて解ったことなんだけど、根岸のキスは助走が長い。紳士的?て謂ってしまえるんだろうか。出だしっから息があがるほどにガツガツ来ることはまずなくて、いつも俺の様子を伺うように、スローでフラットなスタンスを崩さない。俺がそれに応える毎に、徐々に加速していく感じだ。
そうして優しく振る舞うことで、俺が焦れったい気持ちになってるなんて、きっとコイツは思いもしないんだろうが。俺は俺で、もっと求められたいなんて『恥ずくてとてもじゃないが謂える訳ねぇ』とプライドが邪魔をしている。
・
:10/04/18 11:23 :F01B :Kn5n1jUU
#652 [ひとり]
でも今日は・・・・
いつもじゃあり得ないこの状況と、根岸の吐息と一緒に吸い込むアルコールの香りに酔ったせいにしてしまえ。
俺はそろりと腕を伸ばして。
「三田さん?」
俺の行動に驚いたのか、根岸が動きを止めた。俺達は見つめ合う。根岸の瞳に映る己の表情までがはっきりとわかる距離で。
「そんなんじゃ足りねぇよ」
「え?」
・
:10/04/18 12:40 :F01B :Kn5n1jUU
#653 [ひとり]
「そんなんじゃ足りないっつってんだよ」
そろそろと伸ばしていた腕の動きを性急にして、ガバッと相手の首に巻き付けた。
「うおっ」
「そんな生温いんじゃ、俺は半勃ちにもなんねぇっつってんだ」
互いに基より承知のことだけど、我ながら色気も糞もあったもんじゃねぇ誘いかただ。それでも俺にとったら上出来。顔から火を噴く勢いで内なる羞恥心と闘った末の誘い文句だった。
・
:10/04/18 13:45 :F01B :Kn5n1jUU
#654 [ひとり]
「何度も謂わせんな」
初めはキョトン顔だった根岸だが、次第にその瞳に何かが宿っていくのがわかった。ギラついている。健全な、二十代男子がそこに居た。
「謂ってくれるじゃないすか」
不適な微笑み。俺も同様に返した。
「止まんなくなっても知らないよ」
「どうだか」
謂っとくが、今はちょっとしたラブシーンな訳だけど、やっぱ俺達にセオリーなやり方はできそうもない。
・
:10/04/18 13:52 :F01B :Kn5n1jUU
#655 [ひとり]
挑発。と謂ってしまえるような乱暴な誘いに乗った根岸は、さっきまでが嘘のように俺の唇にかぶりついてきた。
懐かしの歌謡曲が一瞬頭の中を過ぎる。男は狼なのよー気をつけなさいー。
まぁ、対する俺も狼。気をつけるも何も、上等じゃねぇか。
髪を鷲掴みにされ、身体を引き寄せられ、何度も角度を変えながら、奥まで舌で弄られる。
息つく暇がない
・
:10/04/18 19:52 :F01B :Kn5n1jUU
#656 [ひとり]
でも、どうでも良かった。
苦しくなる呼吸も、キツい大勢も、そんなん関係ねぇ。
根岸───
俺の頭は、バカみたいにそれだけに占領されていく。
根岸、根岸、根岸、
奴の首に回していた腕に力を込め直す。
・
:10/04/18 19:57 :F01B :Kn5n1jUU
#657 [ひとり]
すると、根岸はピタリと動きを止めて、俺を正面から射抜いた。
「三田さ、本気・・止まんない、俺、」
呼吸が苦しいのはお互い様だったようで、根岸は上がった息でつっかえつっかえそう謂った。
眉間に刻まれた皺が、本当に辛そう。
「根岸、」
「はい」
俺は奴の耳元に、こう、囁いた。
「止まんなくて、いんじゃね?」
・
:10/04/18 20:32 :F01B :Kn5n1jUU
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194