こちら満腹堂【BL】
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#162 [ひとり]
酒臭い。根岸は顔にでないタイプだけど、実は相当に酔っているらしい。その証拠に逃れようとして手を当てた根岸の胸は早鐘を打っている。普段生意気なその目でさえ、今はやや虚ろに潤んでる。

「温ったかいね」

「タメ口きくんじゃないよお前は」

「・・・・温ったかい」

「話しを聞け」

⏰:09/12/16 12:40 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#163 [ひとり]
つうかコイツ、悪酔いしただけなんじゃね?フッと浮かんだ考え。そうだよ、酔ってるだけだって。じゃなきゃおっさんの俺に告るとか、キチガイな事する訳ないって。なんだよそうかよそうだよマヂビビらせんなよコノヤロー。


納得したら、同時に眠気もやってきたみたいだ。

根岸じゃないけど、確かに温ったかい。ま、ちょっと骨ばった感触はいなめないけど。

⏰:09/12/16 12:42 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#164 [ひとり]
でもこんな風に誰かに守られるようにして寝るのなんていつぶりだろ?まだガキんちょで、お袋と一緒に寝てた時以来じゃね?

彼女がいた時だって、こんな風にされた事はなかったな。ホラ俺、女の前だとカッコつけちゃうし。



・・・・なんか、変な感じ。


「おやすみ、三田さん」


しょうがねぇから、お前の悪酔いにも目ぇ瞑ってやるよ。そんで


「おやすみ根岸」

⏰:09/12/16 12:44 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#165 [ひとり]
【休憩】

こんにちは、ひとりです。

第八話完結です。今回はまた三田目線にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?

彼全然理解してませんね。根岸の決死の告白は、どうやら三田の中で「悪酔い」って事になったらしいです。ドンマイ!!!!

⏰:09/12/16 12:49 📱:F01B 🆔:8bhMJjwU


#166 [ひとり]
【第九話/こちら熱くなっておりますのでお気をつけ下さい】


朝、目覚めると見慣れない天井があった。背に馴れたスプリングの感触はなく、もっと硬質でダイレクトな当たり。

⏰:09/12/18 21:40 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#167 [ひとり]
そうして、俺のズシッと痺れる左腕の上。頭を預けてこちら向きで眠りの淵についているこの家の主の顔を見つめた。夢をみているらしい。血管の透けた目蓋の下で、目玉が忙しなく動いている。細く長い睫毛たちも、それに合わせて震えてみせた。


今日もバイトだ。早番じゃないしまだもう少しここでこうしていてもいいんだが・・・

⏰:09/12/18 21:41 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#168 [ひとり]
考えた末、やっぱり今すぐ帰る事にする。例えばこのままもう少しここで微睡んだとして、横のこの人が目覚めたとして。俺は言葉が浮かばなかった。「おはようございます」とか「昨日は泊めてもらっちゃってありがとうございました」とか。それから───



想いを告げた事に後悔はない。寧ろ心は晴れ渡って、清々しい。

ただ、一瞬見せた三田さんの素で驚いた顔。それを考えるときっと帰るのが今は得策なのだと思えた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#169 [ひとり]
三田さんの規則正しい寝息のリズムに合わせて、少しずつ左腕を引き抜く。長いこと下敷きになっていたそれは痺れきって、ダランと垂れて俺のいう事をきかない。

おかげで服を着替えるのに少し戸惑ったがそれも初めだけの事で。血が問題なく巡りだせば、従順になるのはあっという間。

忍び足で三田さんに細心の注意を払いつつ外に出た頃にはさっきの痺れが嘘のように完全に、それは「俺の左腕」になっていた。



三田さんの丸い綺麗なシルエットを支えていた一晩。その感覚が消えてしまってもうここにない事が、酷く悲しいことに感じた。

⏰:09/12/18 21:42 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#170 [ひとり]
───
─────


それから二週間経った。

十二月の一大イベントであるクリスマスもあっさり終わって(イブも本番も、三田さんはメリークソスマス!!とヤケッパチで仕事をしていた。)そこかしこに過剰にくっつけられた電飾や「Xmas」っぽいあれやこれやが姿を消すと、世間はいよいよ年の瀬らしい雰囲気に包まれる。

そして遂に、今年が終わろうとしている今日、俺は思うところがある。


「避けられてる」

「ん?」


外に人の姿はまちまちで、それでも軒を連ねる家々の玄関先につけられた「お飾り」からは確かなお祭りムードが漂っている。

⏰:09/12/18 21:43 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


#171 [ひとり]
そこを行く俺の呟きを、横を歩く津久井は聞き逃さなかった。


「誰に避けられちゃってんのよ」

丈の短いミルクティー色のダッフル。そのポケットに両手を突っ込みながら聞いてくるコイツは俺とタメで、今は大学の三回生だ。

「好きな奴」

「あぁ、例のね」

年が同じである事と、津久井が懐っこいオープンな性格である事で、俺達はプライベートでもよく連んだ。

⏰:09/12/18 21:44 📱:F01B 🆔:KCoLFDYA


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