こちら満腹堂【BL】
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#498 [ひとり]
【第二十六話/追加注文】
「今日からお世話になります」
突然の事すぎた
「わからない事だらけなので迷惑かけちゃうかもしれませんが」
事前に一言くらいあってもいいんじゃなかろうかと思う
「よろしくお願いします」
何でこんな事になったんだ?
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:10/01/30 07:37 :F01B :aEmW27go
#499 [ひとり]
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最近店も調子がいいから、もう一人雇おうか。
弘さんと三田さんが相談するのを何度か耳にしていたのは事実だ。
俺のいる所から少し離れたホールの隅で、スタッフウェアに身を包んだ二人。片方が何事か言うと、もう一方は頷きながらマメに手元のペンを動かしている。
弘さんと、新米バイト。
いいじゃないか。確かにここ最近人手が足りずに困ってたんだし。
女だったら華もあるだろう。
でも、これは流石にないんじゃないか?
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:10/01/30 07:37 :F01B :aEmW27go
#500 [ひとり]
「根岸ー」
遠目に様子を窺っていた俺に、弘さんからお呼びがかかった。
その横にちょこんと佇む新米と揃って笑いかけられると、堪えていた溜め息がついでてしまう。
「なんです」
本当は予想をつけているのに、さも知りませんといった風を装い、二人のいる店の隅に近づく。
白々しいな、まったく。
「お前今日面倒みてやって」
やっぱりだ。
「はい、わかりました」
そう言う以外に術はないから。弘さんの指示に二つ返事ですんなり返した。
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:10/01/30 07:38 :F01B :aEmW27go
#501 [ひとり]
『じゃあそういう事で』俺の役目は此処までと言わんばかりの態度で裏に捌ける弘さんに、明ら様な視線を投げつける。手元がライターで遊んでいた。
一服しに行く気だな、ちくしょー俺も吸いたいのに。
思っても叶わないこの状況だ、仕方がない。俺は背を向けていた現実を振り返った。
「で、何で此処にいる」
「どうこのスタッフT似合う?」
「俺の質問は無視か」
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:10/01/30 07:39 :F01B :aEmW27go
#502 [ひとり]
「だってゆうちゃん最近遊び行ってもいない時あるし」
「俺にだって用事の一つや二つあるんだよ」
「一つ二つどころじゃないじゃん、朝帰りばっかりして」
母親のような口調にうんざりする。確かに女の一人暮らしは物騒だし、夜中一人で心細い事もあるだろうと思う。だからって、自分の恋人を蔑ろにしてまでかまってやれる程、俺の根はお人好しにできちゃない。
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:10/01/30 07:39 :F01B :aEmW27go
#503 [ひとり]
「・・・・とにかく」
それ以上、母ちゃんの小言のような不満を吐き出されてはたまらないので、俺は無理矢理な軌道修正を図った。
「今日からお前も此処のバイトだ、ビシバシ教えるから甘えんなよ」
「てことはゆうちゃん先輩だ」
俺の前言はまたしても完全無視かと思ったが、もういっそ面倒なのでその事実を俺が無視した。
「まぁ、そうだな」
「よろしくお願いします、ゆうちゃん先輩」
常の呼び名に『先輩』と付け足した。何の創意工夫もない事に、キャッキャと喜ぶ姿を目の前にして先が思いやられる。
兎にも角にもその日が、アキの記念すべき初出勤日となった訳だ。
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:10/01/30 07:40 :F01B :aEmW27go
#504 [ひとり]
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初日に先ず教えたのは基本中の基本ばかりだったが、アキは思いの外覚えが早かった。
俺を追っかけてくるような真似をして、もし皆に迷惑をかけるようならその時は・・・なんて考えてもいたのだが、どうやら俺の取り越し苦労だったらしい。
基が体育会系出身なんだ。よくよく思えば礼儀マナーなんてそれこそ昔っから叩き込まれてきてる訳で、今更俺が手取り足取りしてやらなくとも、アキは当たり前のように明るい挨拶と気持ちのいい返事をホールに響かせて、夜には積極的に注文を取ったり席へ誘導したりと、目覚ましい活躍を遂げた。
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:10/01/30 07:40 :F01B :aEmW27go
#505 [ひとり]
「アキちゃんお疲れ」
「お疲れ様です」
仕事終わりに話しかけてきたのは津久井だった。
「前にもどっかでやってたの?」
「いえ、高校は部活一本で、引退してからはすぐに受験受験でしたからまったく」
俺以外と話す時のアキの口調は、なんというか、キビキビを絵に描いた様な話し方で、側で聞いていても気持ちがいい。
「そうなんだぁ、全然余裕です〜って感じだったけどねぇ」
「いえいえそんな、迷惑かけないかって冷や冷やし通しでしたよ」
感心したような津久井の口振りに、賺さず謙遜してみせたりして。
マヂ別人だろ。
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:10/01/30 07:40 :F01B :aEmW27go
#506 [ひとり]
「ちょっと根岸、お前もこんな可愛い従兄弟が近くにいたんならなんでもっと早く連れて来なかったんだよ」
横で黙りを決め込んでケータイを弄っていたこちらに火の粉が飛んできた。
「うん、まぁ」
別に隠してたつもりはないが、なんだかこうして身内のアキが他人から褒められるのは不思議な気持ちがするものだ。なんとなく気恥ずかしくって、くすぐったい。
俺は語尾を濁して誤魔化しつつ、アキを見やった。アキは『可愛くなんかないです』と言って、照れ隠しなのかしきりにサイドの髪を耳に掛けたり、前髪をいじったりしている。
そのしおらしい姿がまた俺といる時とは違って新鮮で、なんだか微笑ましい。
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:10/01/30 07:44 :F01B :aEmW27go
#507 [ひとり]
ただ一つ気になる事もある。こうやってもう雇われてしまってからでは今更な話しだが、何故三田さんは何も言ってくれなかったんだろうか。それに面接をしたような素振りすら見た覚えはない。
まぁ其処は今日これから本人に聞けばいい話しなんだけど。
実はさっき黙ってメールをしていた相手がその三田さんだったりする。先にあっちが自分ちに帰ったので、俺も今から行きます。的なやり取りをしていた。
問題は、アキだ。
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:10/01/30 07:44 :F01B :aEmW27go
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