こちら満腹堂【BL】
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#546 [ひとり]
よし、今晩からまた腹筋始めよう。
誓いながら強制的に体をどかそうと、アキちゃんの腕に手をかけようとした、すると
「返してよ」
「え?」
久々に口を開いた彼女の声は、微かに低く、震えて聞こえた。
返すって、何を
「ゆうちゃん返してよ」
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:10/02/23 20:25 :F01B :T93pivbA
#547 [ひとり]
肝が冷えた。
返してって──
ゆうちゃんって───
この子は、根岸と俺の事・・・・・・知ってる?
「え、ちょ、アキちゃんいきなり何言って・・・」
「いきなりじゃないよ、ずっとそんな気してたんだよ」
俺を睨みつけるその瞳には、薄暗い何かが揺らめいている。華の女子大生を捕まえて、こんなん失礼かもしんないけど、普通に怖いです。
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:10/02/23 20:30 :F01B :T93pivbA
#548 [ひとり]
だいたい何でこんな事になったんだっけ。
普通に俺電卓たたいてて、アキちゃんが床を磨いてて、若い子の好きそうな恋愛ネタでもふってみるか〜みたいな軽い感じで話してて───
「学校楽し?」
「はい、楽しいですよ」
「そっかーサークルとか入ってんだっけ」
「はい、飲みサーですけど」
「いいじゃん飲みサー、出会いも多そうで」
「いや〜全然ですよ〜」
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:10/02/23 20:40 :F01B :T93pivbA
#549 [ひとり]
そうそう、いい感じで会話のキャッチボールしてたじゃん俺達。凄げぇ和やかだったじゃん。なのに───
「そうなの?でもアキちゃんなら出会いなんかなくてももう彼氏もちか」
「いえいえ、いないんですよ私」
「え、以外」
「・・・・好きな人なら、いるんですけど、ね」
電卓をたたく片手間に会話をしていた俺は、アキちゃんのその発言で彼女の方を見た。実は彼氏がいないってことは知ってた。だから兄貴的存在の自分にいつまでもひっついていて困るって、根岸から聞かされてたから。
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:10/02/23 20:49 :F01B :T93pivbA
#550 [ひとり]
でも、片思いする相手がいるなんて聞いてなかった。これはもしかしたら根岸も知らない事実なんじゃないか?
「へぇー好きな人いるんだ」
「はい、完全に片思いですけど」
「え、そうなの?ますます以外だわおじさん」
「ずっと、離れて住んでたんですよ、でも最近ようやくこっちに出て来て、頻繁に会えるようになって、私凄いアピって頑張ったんです。でもね、ダメみたいなんです」
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:10/02/23 20:54 :F01B :T93pivbA
#551 [ひとり]
アキちゃんは寂しそうに微笑った。その表情(カオ)は恋する女の子そのもので、俺は密かにドキッとしてしまった。
「ダメみたいって・・・せっかく近くにいれるんだから、まだ諦めるのは早いんじゃないかな」
無責任な励ましの言葉。でも、それしか思いつかない。恋愛なんて不慣れな俺が、先輩面して言える台詞なんて、たかがしれてた。
「恋人、いるんです、彼」
うわ、俺の無責任な励ましのせいで、アキちゃんに余計な事を言わせちまった・・・俺のバカ。
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:10/02/24 19:55 :F01B :R2AVBU6I
#552 [ひとり]
思ったところで時既に。ひっこみ着かないしここで『あ、そうなんだ、ごめん』なんて言ったらこの場の空気が気まずくなるし・・もう、いっそ励まし倒してしまえ────
しまえ─────
しまえ─────
そう、その安易な考えがきっとよくなかった。いや、今更なんだけど・・・・
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:10/02/24 19:59 :F01B :R2AVBU6I
#553 [ひとり]
「彼女ね〜そんなん関係ないでしょ、俺なら気にせずガツガツ行くね、恋愛ってさ、もっと自分勝手で自由にしていんじゃねーの?アキちゃんまだ若いしそんな可愛いんだから、今はオフェンスに徹した方がいいって、うん」
我ながら当たり障りのない台詞だ、自分の引き出しの少なさに笑えてくるよまったく。
とは内心思いつつも、全身全霊テンションあげて俺はアキちゃんを励ました。まぁ、その相手の彼女にしたら第三者が無責任なことぬかすんじゃねぇって思うだろうけど。そんな知らない彼女を気遣うより、今は緩く弧を描くように気分が下降しつつある、目の前のアキちゃんが先決だった。
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:10/02/24 20:38 :F01B :R2AVBU6I
#554 [ひとり]
しかし俺の全力の励ましはやっぱり薄っぺらすぎてアキちゃんには届かないのか、まるきり反応が返ってこない。床に視線を落としているらしく、髪が顔にかかって表情はわからないが、でも今彼女の中に芽生えているのが、プラスの感情でないことだけは何となくわかった。
あんまりに白々しすぎて、逆に望みがないとか思わせてしまったんだろうか。
「あの、アキちゃ・・」
「知ったような口聞くな!」
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:10/02/24 20:39 :F01B :R2AVBU6I
#555 [ひとり]
それはさっきまでの、例えるなら、んー・・小鳥のさえずりのように可憐な声?とは打って変わり、まるで・・・・まるでー・・・あ、うん。まるで改造したマフラーでふかしたような野太さと、腹に響く迫力を湛えた声だった。
そしてそのことに驚いている間に彼女は俺の腰掛けたスツールに歩み寄ると、その脚を華麗に足払い。上に座っていた俺はもちろんそれごと床に倒れたんだけど、彼女はすかさずそんな俺の腹の上に馬乗りになり、躊躇うことなくこれまた華麗な動作で往復の平手打ちを繰り出したんだ。
そして、一気に両の頬が熱くなった。なったけど、それはあくまで熱いってだけで、痛いとかではまったくなくて。つうか痛いより何より今の一連の出来事に驚いてしまってそれどころじゃなかった。
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:10/02/24 20:39 :F01B :R2AVBU6I
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