浮き世の諸事情｡

　
｢‥あぁ､やっと｣

神様と目があった
なんだか胸が飛び跳ねた
恐怖じゃない何か別の‥

｢本当に‥あんな所にいたら
今頃喰われてましたよ？貴女｣

‥ん？

　
｢運が良かったです‥ね｣

ちょっと待てよ

｢あのー‥｣

恐る恐る声をかけてみた
起き上がろうとしたけど
体に力が入らなかった

｢こら､病人‥動いたら死にますよ？｣

もしかしたらあたし‥

　
｢生きてます‥か？｣

すると神様は切れ長の目で
こっちをじっーと見つめ
あたしの隣に腰をかけた

逆光でよくわからなかったけど
よく見ればかなり色白で鼻が高い

怪しい‥雰囲気

　
｢あのまま‥置き去りにしても
よかったんですけど､ね｣

クスっと鼻で笑い
これまた綺麗な手であたしの顔を撫でた

｢助けて‥くれたんですか？
こんなあたしを？｣

こんなボロボロの着物着て
髪もボサボサで化粧もしてない
こんな汚らしいあたしを‥

　
｢拾っただけ､ですよ｣

あぁ‥なんて優しい人なんだ
神様だ神様だ!!!

嬉しさのあまり涙を浮かべた
‥のもつかの間

神様はやっぱり存在しないのだ

　
：
：
：

｢で？貴女､名前‥は？｣

独特の語り口調の神様は
何とも落ち着いた様子で
お茶を入れている

あ‥睫毛すごい長い｡
いーなー‥羨ましい
この人‥何才くらいなんだろう

　
｢‥名前は､と聞いているんです
聞こえませんか？この耳､は｣

ｷﾞｭｯ

｢いぃいっっ!!!!
ちょっと何するんですかっ!!
は‥離してくださいっ｣

神様はあたしの耳を右手で
それはもう思いっきり引っ張り
左手は全く別物かのように
湯呑みを口元に運んでいた

　
　
　
嫌な‥
　　　予感‥
　　　　　　がします‥｡

　
｢うぅ‥っかや!!‥かやです!!｣

涙をいっぱいに溜めて叫んだ

途端に神様のお仕置きは終わった

い‥痛い‥痛すぎる

　

｢ほう､"かや"とは‥
どんな字を‥あてるのですか？｣

ズズズーっと茶をすする音が
部屋中に響き渡った

｢‥"香"る"夜"です｣