浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#1 [笹]
「浮き世」とは
辛く儚い世の中または俗世間。
‥他にも意味がありますが、
説明するほどの物でも、
ないでしょう、ね
:10/01/24 18:10 :D905i :ZJpO7xz6
#2 [笹]
気が付いたら
生い茂った竹林の中
竹が風に揺れて
ミシミシ音を立ている
ぼやけた世界に
あたしは目をつむって‥
この世に別れを告げた。
:10/01/24 18:12 :D905i :ZJpO7xz6
#3 [笹]
『こっちに来るんじゃないよ!!
‥汚らわしい!!』
バチンッ
あたしは‥人間なのだろうか
『お前のせいで‥お前のせいで‥
父ちゃん死んじゃったじゃないか!
お前が殺したんだ!!化け物!!』
:10/01/24 18:14 :D905i :ZJpO7xz6
#4 [笹]
ドカッ ドカッ ‥
鈍い音と鋭い衝撃が体を伝った
あたしは何故生まれてきたのか‥
よく‥わからなかった
:10/01/24 18:18 :D905i :ZJpO7xz6
#5 [笹]
『いや‥やめてよお母さ‥』
『汚い声で呼ぶんじゃない!!
あたしはお前の母親じゃない!』
『‥ご‥めんなさい‥。』
幸せの意味を知らずに終わった
つまらない人生だったな‥
:10/01/24 18:21 :D905i :ZJpO7xz6
#6 [笹]
:
:
:
「‥ごめん‥なさいっ
ごめんなさい‥許し‥て」
‥あれ?
あぁ‥あたし死んだんだ
痛み無かったし‥
死ぬってそんな辛くないんだ‥
:10/01/24 18:22 :D905i :ZJpO7xz6
#7 [笹]
ぼうっと差し込む光に
思わず目を細めた
これから地獄行きか天国行きか
決めるんだろーなぁ‥
まぁ
あたしは地獄に決まってる‥
あたしは人殺しだもんね
:10/01/24 18:23 :D905i :ZJpO7xz6
#8 [笹]
ほら‥やってきたよ神様だ
神様って案外普通なんだなぁ‥
もっとこう‥何て言うか‥
あーでも‥綺麗な顔かも
神様ってこんな美形なんだぁ‥
:10/01/24 18:25 :D905i :ZJpO7xz6
#9 [笹]
「‥あぁ、やっと」
神様と目があった
なんだか胸が飛び跳ねた
恐怖じゃない何か別の‥
「本当に‥あんな所にいたら
今頃喰われてましたよ?貴女」
‥ん?
:10/01/24 18:26 :D905i :ZJpO7xz6
#10 [笹]
「運が良かったです‥ね」
ちょっと待てよ
「あのー‥」
恐る恐る声をかけてみた
起き上がろうとしたけど
体に力が入らなかった
「こら、病人‥動いたら死にますよ?」
もしかしたらあたし‥
:10/01/24 18:27 :D905i :ZJpO7xz6
#11 [笹]
「生きてます‥か?」
すると神様は切れ長の目で
こっちをじっーと見つめ
あたしの隣に腰をかけた
逆光でよくわからなかったけど
よく見ればかなり色白で鼻が高い
怪しい‥雰囲気
:10/01/24 18:27 :D905i :ZJpO7xz6
#12 [笹]
「あのまま‥置き去りにしても
よかったんですけど、ね」
クスっと鼻で笑い
これまた綺麗な手であたしの顔を撫でた
「助けて‥くれたんですか?
こんなあたしを?」
こんなボロボロの着物着て
髪もボサボサで化粧もしてない
こんな汚らしいあたしを‥
:10/01/24 18:28 :D905i :ZJpO7xz6
#13 [笹]
「拾っただけ、ですよ」
あぁ‥なんて優しい人なんだ
神様だ神様だ!!!
嬉しさのあまり涙を浮かべた
‥のもつかの間
神様はやっぱり存在しないのだ
:10/01/24 18:29 :D905i :ZJpO7xz6
#14 [笹]
:
:
:
「で?貴女、名前‥は?」
独特の語り口調の神様は
何とも落ち着いた様子で
お茶を入れている
あ‥睫毛すごい長い。
いーなー‥羨ましい
この人‥何才くらいなんだろう
:10/01/24 18:35 :D905i :ZJpO7xz6
#15 [笹]
「‥名前は、と聞いているんです
聞こえませんか?この耳、は」
ギュッ
「いぃいっっ!!!!
ちょっと何するんですかっ!!
は‥離してくださいっ」
神様はあたしの耳を右手で
それはもう思いっきり引っ張り
左手は全く別物かのように
湯呑みを口元に運んでいた
:10/01/24 18:36 :D905i :ZJpO7xz6
#16 [笹]
嫌な‥
予感‥
がします‥。
:10/01/24 18:37 :D905i :ZJpO7xz6
#17 [笹]
「うぅ‥っかや!!‥かやです!!」
涙をいっぱいに溜めて叫んだ
途端に神様のお仕置きは終わった
い‥痛い‥痛すぎる
:10/01/24 18:38 :D905i :ZJpO7xz6
#18 [笹]
「ほう、"かや"とは‥
どんな字を‥あてるのですか?」
ズズズーっと茶をすする音が
部屋中に響き渡った
「‥"香"る"夜"です」
:10/01/24 18:39 :D905i :ZJpO7xz6
#19 [笹]
「‥」
「‥香る‥よ‥」
「何とも‥、夜が期待できそうです、ね」
顔をゆっくりこちらに向けて
意味ありげに怪しく笑った
:10/01/24 18:39 :D905i :ZJpO7xz6
#20 [笹]
「な‥//
べべ‥別にそういう‥
ヤらしい名前じゃ‥」
「誰が‥
"ヤらしい"と言いました?」
あたし‥からかわれてる?
てか‥何なのこの人 !!
この余裕綽々なかんじ‥
:10/01/24 18:40 :D905i :ZJpO7xz6
#21 [笹]
「‥あ‥貴方のお名前は?」
話を切り替えるので
‥精一杯なほど
この人は話がうまいというか
川が流れていくように
するする進んで
いつの間にか自分もその流れに‥
「名前?‥何故言わなきゃいけないのですか?」
何故って‥この人
:10/01/24 18:41 :D905i :ZJpO7xz6
#22 [笹]
―‥ 一体、何なの ?
_
:10/01/24 18:42 :D905i :ZJpO7xz6
#23 [笹]
:
:
:
「あぁ‥そうだ」
「‥な、何ですか?」
「私が‥香夜を‥」
そう言いながら
ミシミシと近づいて
「拾った、わけですから‥」
遂には吐息がかかるくらいにまで
何故か高鳴る鼓動
:10/01/24 19:06 :D905i :ZJpO7xz6
#24 [笹]
「だ‥だから何ですか?」
飛び出した自分の声が
震えていたのがわかった
喰われそうな‥
気もしなくもなかった
:10/01/24 19:08 :D905i :ZJpO7xz6
#25 [笹]
「今日から貴女は‥
私の、所有物です」
:10/01/24 19:08 :D905i :ZJpO7xz6
#26 [笹]
しょ‥しょ‥
「所有物?!‥何ですかそれ!!」
ふ‥ふざけないでよ
あたし一応人間よ?
こんな訳の分からない人の
所有物になんかぁ‥
:10/01/24 19:09 :D905i :ZJpO7xz6
#27 [笹]
「所有物の意味も知らないんですか?」
なんとも悠長に
普通のことかのように
振る舞ってるけどこの人‥
「わかります!!
馬鹿にしないでください!!」
「ほう、
それならお分かりでしょう?
‥今日から貴女は私の‥」
誘拐よ!!監禁よ!!
犯罪だわ‥こんなの!!
:10/01/24 19:10 :D905i :ZJpO7xz6
#28 [笹]
「べ‥別に!!
誰も‥助けてなんて
言ってないじゃないですか!!」
さっきまでは
あんなに感謝してたのに‥はは
だけどこんなの納得いかない!!
:10/01/24 19:11 :D905i :ZJpO7xz6
#29 [笹]
「自分の立場‥
お分かりで、お出でで?
それなら‥死にます、か?」
:10/01/24 19:12 :D905i :ZJpO7xz6
#30 [笹]
人の言葉に
こんな凍り付いたことはない
この表情‥この目つき
本気‥だっ‥!!
思わず声を失った
あたし‥殺される‥?
:10/01/24 19:13 :D905i :ZJpO7xz6
#31 [笹]
「そうですねぇ‥
選ぶ権利を与えましょう、か
首絞めも結構
殴る蹴るその他も結構
刃物で刺すも結構‥
あぁ‥
切腹と言う手もありますねぇ
いや、しかし‥
私の着物が汚れるのは‥
ちょいと厄介ですからぁ‥ねぇ」
冷たい手があたしの首を這う
え‥苦しいの‥やだよ?
:10/01/24 19:14 :D905i :ZJpO7xz6
#32 [笹]
「何でもよいのなら‥
首をちょいと‥」
「やややややっ!!
やめて下さいぃいっ!!」
「それでは‥
所有物、と言うことで‥契約を」
ニコッと愛想良く笑ったが
なんと言うか‥心晴れず。
:10/01/24 19:15 :D905i :ZJpO7xz6
#33 [笹]
「‥って言うか!!
話逸らさないでくださいよ!!」
「さぁ‥」
むくっと立ち上がって
また壁にもたれかかり
‥ぼうっと空を眺めてた
無理矢理に体を起こしてみるが
やっぱり重い
:10/01/24 19:16 :D905i :ZJpO7xz6
#34 [笹]
「名前です!!貴方の!!」
「名前‥
何故"所有物"に教えな‥」
「名前無くちゃ‥
呼べないじゃないですか!!
ふ‥不便です!!」
なんかイライラしてきた‥
ほんとに何なのよ!!
もう‥嫌
:10/01/24 19:18 :D905i :ZJpO7xz6
#35 [笹]
「不便‥ねぇ
そうですね‥呼び名、か」
こうやってもったいぶるのも
あたしを馬鹿にしてるんだわ
逃げ出さなくちゃ‥!!
「逃げようなんて‥無駄、ですよ」
:10/01/24 19:18 :D905i :ZJpO7xz6
#36 [笹]
背筋がぞっとした
何かが不気味な冷たい物が
這い上がってくるような‥
「に、逃げようなんて‥!!」
「‥思っていらっしゃる」
鋭い眼差しが捉えて離さない
"イケない物に出くわした"
そんな気もしたけれど
美しすぎて、見とれてしまって
動けなくなっていた。
:10/01/26 16:10 :D905i :3fGEyA9k
#37 [笹]
‥見透かされてる?
特別な力でも持ってるの?
「あの‥」
だらしなく開けたままの口から
間の抜けた声が出た
その人は表情を全く変えずに
ゆっくりとこちらに視線を落とす
「何か、」
捕まえておきながら
その関心なさそうな声‥
:10/01/26 16:15 :D905i :3fGEyA9k
#38 [笹]
「どうするつもりですか?」
すると
やっと眉間がピクリと動いて
また同じ口調で"何を、"と言う
きっとこの人とあたしの性格は
正反対なのだと思う
ここまで白けてる人‥初めて
:10/01/26 16:20 :D905i :3fGEyA9k
#39 [笹]
ムスッとして少し睨みつける
‥動じない。
もっと睨みつける
‥全く。
ここまで来ると‥
何故か芽生える、寂しさ
:10/01/26 16:21 :D905i :3fGEyA9k
#40 [笹]
「どう、されたいんで?」
お茶をすすって放った声は
すごく低くて部屋中に響き渡った
「どうって‥
どうされたいも、こうされたいも
言わなくてもわかるでしょう?
所有物なんて嫌です!!絶対に」
つい声が大きくなってしまった
はっとして咄嗟に下を向く
:10/01/26 16:26 :D905i :3fGEyA9k
#41 [笹]
―‥沈黙
何故か急に恥ずかしくなる
「では‥夫婦にでも、なりますか?」
「め‥め、おと?!
ふざけるのもいい加減に‥」
と、言い終わる前に
あの綺麗な手で塞がれた馬鹿でかい声は情けなく語尾を弱めた
:10/01/26 16:32 :D905i :3fGEyA9k
#42 [笹]
「あまり大きな声を出されると‥」
ばつが悪そうに
眉を下げて小声で‥
初めて人らしい振る舞いを見た
「ほら‥、」
足音が近づいてきた襖に目をやる
:10/01/26 16:37 :D905i :3fGEyA9k
#43 [笹]
「壱助さん?
如何なさいましたか?」
襖の向こうから
落ち着いた女の人の声が聞こえた
「あぁ‥いえ、
どうか、お気になさらず」
目に見えない向こうの人に
その人は律儀に頭を下げた
足音が遠ざかると
すっと口元から冷たい感覚が消え
妙な緊張と息苦しさに
深く息を付いた
:10/01/26 16:42 :D905i :3fGEyA9k
#44 [笹]
あ‥なるほど、
「壱助‥さん?」
馴れ馴れしく、だけどぎこちなく
「‥」
興味なさそうな
冷たい目がこちらを向いたが
‥あたしは見逃さなかった。
"壱助さん"の口元が
少しだけ、ほんの少しだけ緩んだ
:10/01/26 16:47 :D905i :3fGEyA9k
#45 [笹]
:10/01/26 16:55 :D905i :3fGEyA9k
#46 [笹]
浮き世、とは
辛く儚い世の中の事‥。
‥誰にでも
思い出したくない過去は
あるもの、ですよ
威勢の良い、この"捨て猫"も
また‥然り。
:10/01/26 22:25 :D905i :3fGEyA9k
#47 [笹]
:
:
:
どうやって逃げ出そうか‥
取り敢えずここは宿みたい。
さっきの女の人は
ここの女将さんのようだ
壱助さん、とやらは
逃げようと企んでるのをわかって
あたしから目を逸らさないのか‥
:10/01/26 22:29 :D905i :3fGEyA9k
#48 [笹]
「何か‥変ですか?」
様子を伺うように
恐る恐る目を合わせてみる
「いえ‥、何も」
真っ直ぐに伸びた長い睫
綺麗な首筋、透き通った肌
見れば見るほど美しくて、
ただ見てるだけで
惚れてしまいそう‥。
:10/01/26 22:32 :D905i :3fGEyA9k
#49 [笹]
って、何考えてるのよ!!
はっと我に返って
"そうですか"とぶっきらぼうに
目を伏せながら呟いた。
「ただ‥」
あの綺麗な手が
今度はあたしの髪を撫でる
外がだんだんと橙色に染まる
窓からの光が
壱助さんの横顔を染める。
:10/01/26 22:38 :D905i :3fGEyA9k
#50 [笹]
綺麗な夕日色に
壱助さんの美しさが
何とも、ぴたりと合っていて
女のあたしが嫉妬しそうなほど
色っぽく映し出した。
"ただ‥"の後に続く言葉を
あたしは黙って待った
普段はせっかちだから
こんなことは‥有り得ないのに
:10/01/26 22:41 :D905i :3fGEyA9k
#51 [笹]
「可愛らしいな、と‥」
_
:10/01/26 22:42 :D905i :3fGEyA9k
#52 [笹]
いや、まさかと思った。
‥お世辞に違いないのだ
こんな美しい人に
"可愛らしい"なんて言われても
正直、嫌味にしか聞こえない
そんなことを言って
あたしが油断したすきに
"喰ってしまおう"とか、
きっと考えているんだ‥。
そう疑わなければ、
自分を見失ってしまいそうで
急に忙しくなった鼓動に
気づかぬ振りをする
:10/01/26 22:46 :D905i :3fGEyA9k
#53 [笹]
そんなあたしをよそに
クスッと鼻で笑って
ゆっくりと立ち上がった。
着物の裾や襟を整えて‥
「ちょいと、野暮用に」
畳が擦れる音
襖に手をかけゆっくり開ける音
ひとつひとつに
何故か奥ゆかしさを感じる
:10/01/26 22:50 :D905i :3fGEyA9k
#54 [笹]
「野暮用‥?今から?」
「まぁ、‥はい」
"此処から出ないで下さい、よ"
相変わらずの口調で
そう言い残して去っていった。
まだ少しだけ落ち着かない胸に
手を当てて深く息を吐いた
:10/01/26 22:53 :D905i :3fGEyA9k
#55 [笹]
畳の匂いが鼻の奥をくすぐる
こんなに安心して
畳の上に寝そべったのは
もう‥いつぶりだろう
ぼーっと天井を眺める
「あ‥今が狙い目‥だ」
:10/01/26 22:56 :D905i :3fGEyA9k
#56 [笹]
:
:
:
だけど頭をよぎるのは
壱助さんの言い付け。
会ったばかりの人の言い付けを
何故守ろうとするのか‥
逃げてしまえばこっちの物
「此処から出ないで下さい、よ」
口調を真似して呟いた
:10/01/26 22:59 :D905i :3fGEyA9k
#57 [笹]
何となく逃げられない気がした
逃げても捕まりそうな気がした
いや、
逃げたら捕まえてほしいのかも‥
わからない
大人なんて嫌いだ。
なのに‥誰かに心配されたい
誰かに求められたいと思う
:10/01/26 23:01 :D905i :3fGEyA9k
#58 [笹]
と、言うより
恐らく‥いや絶対
逃げたら‥
殺される気がしたのだ。
:10/01/26 23:03 :D905i :3fGEyA9k
#59 [笹]
死んでもいいと思ったくせに
死にたくないと今思うのは、
まだ人間らしい証拠なのかな‥
大の字になって
"所有物"は"所有物"なりに
いろいろと考えた
「‥はぁ」
ため息がいつの間にやら癖になった
:10/01/26 23:05 :D905i :3fGEyA9k
#60 [笹]
:
:
:
どれくらい経っただろう
急に寂しくなってきた‥。
『あんたのせいで‥!!』
独りになると、
『死んじまったじゃないか!!』
決まって甦る
『この人殺し!!化け物!!』
痛い思い出
:10/01/27 00:42 :D905i :.cEN1Iy.
#61 [笹]
もしもあの時‥
お父さんに助けを求めなかったら
『お父さん‥助けてぇ!!』
無事だったのかな。
『‥香夜!!』
あの時の‥
飛び散った父の生々しい血が
べたりと頬に付いたあの感触が
―‥未だに忘れられない
:10/01/27 00:48 :D905i :.cEN1Iy.
#62 [笹]
頬を伝う冷たいものを
恐る恐る手で拭い
涙だとわかって安堵した。
結局誰かに捕まるなら、
あの時連れ去られてしまえば
お父さんは生きていたのかも‥
「‥痛い、」
母親が残した体中の傷が疼いた
:10/01/27 00:54 :D905i :.cEN1Iy.
#63 [笹]
着物で隠せるのが唯一の幸い
背中だから、時々
寝返りをうつと痛むけど‥
ふぅっと息を吐いて
鏡越しに醜い背中を眺めた
‥痛々しい傷
爪を立てられたり
刃物を振り回されたり
今思えばあの時の母は、
何かに取り憑かれてたんじゃないかと疑ってしまうほどだ
:10/01/27 01:02 :D905i :.cEN1Iy.
#64 [笹]
「化け物は‥」
「母親の方‥ですか?」
振り返ると
いつ帰ってきたのか
‥壱助さんの姿が
足音くらい立ててよ‥
びっくりしたぁ
「お‥お帰りなさい」
「‥折角、良い隙をあげたのに」
:10/01/27 13:12 :D905i :.cEN1Iy.
#65 [笹]
壱助さん
あんた訳わかんないよ‥
捕まえて"所有物"だ"夫婦"だ
逃げられないと言っておきながら
あたしに逃げるための
時間を与えるなんて‥ねぇ。
「言い付けは守る主義ですから」
急いで腕を通した着物の胸元を
忙しなく直しながら言った
:10/01/27 13:15 :D905i :.cEN1Iy.
#66 [笹]
"それは、それは"と満足そうに
少し距離を置いて正座する、
壱助さんは無関心なのか
ただ口数が少ない方なのか
よくわからない
「勢いの良い、"猫娘"」
「へ?」
「かと、思いきや」
「や?」
「傷を負った"捨て猫"と、きた」
:10/01/27 13:21 :D905i :.cEN1Iy.
#67 [笹]
それでいて、
口を開いたかと思えば
訳のわからないことばかり
「‥何の話ですか?」
「幼き頃のその傷は、」
「だから何の‥」
「少々貴女には深すぎた」
「‥」
見透かされたのか、
独り言を聞かれたのか、
そんなことは気にならない
:10/01/27 13:25 :D905i :.cEN1Iy.
#68 [笹]
自然と口が開く
「でも、あたしには‥
この傷を背負う義務がある」
「義、務」
ぽつり、呟いた壱助さんの口が
少し歪んで見えた
「"生きたい"って思わなければ
何もかもが上手くいったんです。
あたしさえ犠牲になれば‥
死ななくて済んだ‥。」
情けない自分の声が憎らしい
:10/01/27 13:30 :D905i :.cEN1Iy.
#69 [笹]
「母を許そうとは思いません。
そこまで出来た人間ではないし
自分の事も‥許せないんです
だから‥仕方ない事です」
ぷつり、ぷつりと
出た言葉を紡ぎ合わせると
壱助さんは目を細めた。
:10/01/27 13:34 :D905i :.cEN1Iy.
#70 [笹]
「ほぅ‥興味深いです、ね」
本当に興味あるのかな‥
目をこちらに向けもせず
お茶を入れる姿は
どうも、そうは見えない‥。
「香夜さんが、助けを求めた時
代わりに父親が殺されると‥
予期していたなら、
貴女は確かに‥人殺しです」
胸が痛む。息が少し上がった
何故‥知ってるの?
:10/01/27 16:56 :D905i :.cEN1Iy.
#71 [笹]
「しかし‥その様なことは
貴女でなくても、考えませんぜ
よって、罪意識は無用です、よ」
わからない。
今まであんなに自分を攻めてきた
そう思って‥孤独に生きてきた
母の暴力にも耐えたのに‥
「貴女は、悪くない‥香夜さん」
:10/01/27 17:01 :D905i :.cEN1Iy.
#72 [笹]
いきなり救われてしまっても、
自分への対応の仕方がわからない
「忘れられない過去も、
思い出したくない過去も、
誰にでも有るじゃぁないですか
もっと‥肩の力、抜きましょう」
目の奥が痛いくらいに熱くなる
目の前の壱助さんが
‥一気にぼやけた
:10/01/27 17:06 :D905i :.cEN1Iy.
#73 [笹]
あぁ‥もう
人前で泣かないと決めたのに。
「一つだけ、忘れなければ‥」
懸命に涙を拭ってみても
指の隙間から溢れ出る
何が悲しいの‥?
何が辛いの‥?
どうして‥こんなに‥。
「父上に救われた、その命
無駄な物に‥してはいけない」
:10/01/27 17:11 :D905i :.cEN1Iy.
#74 [笹]
壱助さんは
今どんな顔をしてるのかな‥
どんな思いで、どんな表情で‥
「死のう、なんざぁ‥
もう‥これっきりに、」
壱助さんの冷たい手が
あたしの手首を掴む
「‥っ」
恥ずかしくて堪らない
お父さんに、申し訳ない
「‥しましょう、か」
:10/01/27 17:16 :D905i :.cEN1Iy.
#75 [笹]
手首の腫れ上がった傷口を
細い指が撫でる
お父さん‥お父さん
‥ごめんなさい
「う‥っ‥グズ」
必死に声を殺しても
ただただ辛いだけで、虚しくて
悔しいだけだった
:10/01/27 17:20 :D905i :.cEN1Iy.
#76 [笹]
「壱助‥ッさん‥グズ」
「‥何か、」
落ち着いた声がどこか懐かしくて
「死にた‥くな‥ッ‥で」
本当は死にたくなんかない。
あの時お父さんに
生を訴えた時と同じ
死にたくなんかないんだ‥
:10/01/27 17:23 :D905i :.cEN1Iy.
#77 [笹]
「よし、よし」
ぽん、とぎこちなく
あたしの頭を撫でた手に
救われた気がした。
その瞬間に
子供のように声を上げて泣いた
壱助さんの懐に顔を埋めて
何年分もの涙を流した。
:10/01/27 17:26 :D905i :.cEN1Iy.
#78 [笹]
:
:
:
「おや、おや」
窓から差し込む
満月の優しすぎる光が照らす
「子供です、ね‥香夜さんは」
泣き疲れたあたしを抱いて
壱助さんがクスッと笑った。
:10/01/27 17:29 :D905i :.cEN1Iy.
#79 [笹]
:10/01/27 17:42 :D905i :.cEN1Iy.
#80 [笹]
一週間もすりゃぁ、
人の性格も良くわかるもので
"捨て猫"はと言うと
泣くは、喚くは‥
かと思えば、眠りにつき
何かと‥忙しない猫でして、ね
それに加えて、頑固ときた
"言うは易いが行うは難い"
頑固者には、身に滲みる言葉です
:10/01/28 13:15 :D905i :Ad90U/U2
#81 [笹]
:
:
:
ある晴れた日の事である。
「あら、壱助さんじゃないかぁ
相変わらず‥色男だねぇ」
団子屋の腰掛けに座ろうとすると
そこの女将がやって来た。
「あぁ‥伊代さん
ご無沙汰しておりました、ね」
壱助は律儀に正座をして頭を下げた
:10/01/28 13:20 :D905i :Ad90U/U2
#82 [笹]
「聞いたよー?壱助さんよぉ、
最近若い子‥、
連れて歩いてるそうじゃないか」
伊代はお茶を差し出し
興味深い様子で身を乗り出した
「只の‥"捨て猫"ですよ」
「そんなぁ、隠さなくたって‥」
クスクスと笑って
壱助の肩をポンと叩く
:10/01/28 13:25 :D905i :Ad90U/U2
#83 [笹]
「紹介しておくれよー
今日は連れてないのかい?」
「えぇ‥、
自立するそうです、よ」
「自立?」
伊代は不思議そうに首を傾げる
話好きな伊代は
話に花を咲かせる"花咲女将"
愛想もいいもんだから
此処はいつでも大繁盛
:10/01/28 13:30 :D905i :Ad90U/U2
#84 [笹]
「"遊女になる"‥と、ね」
うっすら笑って茶を啜り
壱助は団子を手に取った
「ゆ‥遊女って‥何でまた」
伊代は緩んだ顔を引き締め
唾をごくりと飲んだ
:10/01/28 13:33 :D905i :Ad90U/U2
#85 [笹]
:
:
:
こうなったのも、つい今朝の事。
『もういいです!
‥あたし
花街に行って遊女になります!
それで沢山稼いで
壱助さん見返してやります!!』
「と、言うもんでねぇ」
今朝の出来事を坦々と語る姿を
伊代はそわそわしながら見つめた
:10/01/28 14:09 :D905i :Ad90U/U2
#86 [笹]
「まさか壱助さん‥
止めなかったのかい?!」
つい大きくなってしまった声に
他の客も反応する
「止めましたよ、もちろん
"男を知らないくせに
良く言えたもんだ‥。
雇ってもらえませんぜ"、と」
「そんな言い方しちゃあ、
余計維持になるじゃないかぁ!」
他の客の視線も気にならないほど
慌てふためく伊代
:10/01/28 14:14 :D905i :Ad90U/U2
#87 [笹]
手にした団子をじっと眺め
変わらぬ口調で壱助は続ける
『だ‥大丈夫ですっ!!
あたし、経験あぁ‥あります!』
「と、分かりやすい嘘まで付いて
維持を張るもんですから‥
"這っても黒豆、ですね"、と」
楽しそうな顔の壱助とは対照に
呆れたような顔の伊代
:10/01/28 14:19 :D905i :Ad90U/U2
#88 [笹]
『く‥黒豆?!
一体何なんですか?
人を所有物、猫呼ばわりして
‥仕舞いには黒豆?
いい加減にしてくださいよ!!
あたしそんなに色黒くないし
背丈だって人並みです!!』
「‥と、色をなしてしまいまして」
"参った、参った"と微笑し
頭を軽く叩く壱助
:10/01/28 14:24 :D905i :Ad90U/U2
#89 [笹]
伊代は深くため息を付いて
"全く‥"と頭を抱えた
「そんな言葉、
若い子が分かる訳ないだろう?
その子の反応は妥当だよ、全く」
「そうですか、ね」
無関心そうに団子を口に入れ
満足そうな顔をする
:10/01/28 14:27 :D905i :Ad90U/U2
#90 [笹]
「ちょいと壱助さん!!
そんな純粋な子、
からかうのは程々にしなよぉ?
ましてや、維持っ張りの子を‥」
眉間に軽くしわを寄せた伊代を
横目でちらりと見つめる
「本当に‥"這っても黒豆"
素直に止めればいいものを、
維持を張って‥ねぇ
‥仕様がない"猫"です、ね」
:10/01/28 14:32 :D905i :Ad90U/U2
#91 [笹]
:
:
:
――‥花街
そこは遊女屋が集まる町の事。
本来あたしみたいな生女が
足を運ぶような所じゃない。
「いや‥でも‥」
『宿代を‥
払ってあげてると言うのに、』
「引き下がるわけには‥」
『あぁ‥"所有物"には
宿代はかかりませんでした、ね』
「いかない‥!」
:10/01/28 14:38 :D905i :Ad90U/U2
#92 [笹]
壱助さんの言葉が頭をよぎる
悔しい‥情けない。
唇を思い切り噛み締めて
一軒の遊女屋に足を踏み入れた
絶対‥ぜぇぇぇぇったい!!
稼いで、見返してやるんだから!!
:10/01/28 14:41 :D905i :Ad90U/U2
#93 [笹]
:
:
:
団子の串を静かに皿に置いて
"ご馳走様でした"と手を合わせる
「でも、壱助さんよぉ‥
心配してなそうな素振りだけど
本当は
居ても立っても居られなくて
出てきたんじゃないのかい?」
ニヤニヤしながら
伊代は壱助の脇腹を肘で小突いた
:10/01/28 14:45 :D905i :Ad90U/U2
#94 [笹]
「まさか、
心配するも何も‥
"産毛ばかりの捨て猫"ですから
誰でも良いって訳じゃ
ないでしょうから、ね」
すっと腰を上げて下駄を履く
「男の力にゃ、勝てないよぉ?
可愛い子なんだろうから‥
すぐに客が‥」
そう言い終わる前に
軽く頭を下げて去っていった
:10/01/28 14:50 :D905i :Ad90U/U2
#95 [笹]
「意地っ張りなのは‥
"おあいこ"なんじゃないかねぇ」
伊代は、壱助の背中を見つめ
"やれやれ"と緩く微笑んだ
:10/01/28 14:53 :D905i :Ad90U/U2
#96 [笹]
:
:
:
「で、あんた‥
経験はあるのかい?」
梅の花のような香りがする部屋で
此処の遊女屋を取り仕切る
"京さん"は煙管を蒸かして言う
「え?!あぁ‥えっとぉ」
全身にどっと汗をかき
後ろに隠した手が忙しなくなる
:10/01/28 15:05 :D905i :Ad90U/U2
#97 [笹]
「‥悪いけど、生娘は雇えないよ」
冷たく言い放つ声の後ろで
男女の色がましい声が聞こえる
やっぱり‥
あたしの来る所じゃないかも
「ささ、産毛の子猫ちゃんは
お家に帰って
"おまんま"でも喰ってな」
煙を顔に吹きかけられて
しかも子供扱いされて‥
:10/01/28 15:11 :D905i :Ad90U/U2
#98 [笹]
引き下がってたまるか‥!!
「経験‥あります!!」
色がましい声をかき消すように
顔にかかった煙を吹き飛ばす様に
大声で言ってしまった
:10/01/28 15:13 :D905i :Ad90U/U2
#99 [笹]
"ほぉう"と言って
目を細めて赤い唇を吊り上げた
「それなら‥
今晩から早速、仕事だよ」
げ‥いきなり今晩から?
辺りはもう急かすかのように
夕日色に染まっていた
:10/01/28 15:17 :D905i :Ad90U/U2
#100 [笹]
:
:
:
「んふ‥もう‥、
あぁん‥まだ駄目よぉ」
「まだ駄目なのかい?
此処はこんなに‥」
‥‥‥早くも、
消 え た い !!
:10/01/28 15:20 :D905i :Ad90U/U2
#101 [笹]
襖の向こうから聞こえる声
耳を塞いでも聞こえてくる
「声で・か・す・ぎ!!」
小声なりに強めに
襖に向かって叫んでみた
「えーっと‥
まずは、お客さんにお酒注いで
それからー‥笑顔を忘れない
初めてのお客さんには
積極的に詰め寄る‥
って、
あたしも初めてなんだけど」
:10/01/28 15:24 :D905i :Ad90U/U2
#102 [笹]
初めてって痛いって聞くけど‥
まぁ‥そうは言ってもねぇ?
そーんなに、
泣くほど痛いはず‥ない
「‥よね、」
ごくりと唾を飲み込み
手汗を着物で拭う
:10/01/28 15:26 :D905i :Ad90U/U2
#103 [笹]
鏡に映る自分の姿
いつもとは違う
あたしじゃないみたい‥
真っ赤な着物に山吹色の帯
真っ赤な紅に綺麗なかんざし
「初めて抱かれるって‥
どんな感じ、なのかなぁ」
鏡の向こうの自分に投げかける
初めてくらい愛する人に‥
捧げたかったなぁ
:10/01/28 15:29 :D905i :Ad90U/U2
#104 [笹]
「香夜、お客様がいらしたよ」
さっきとは打って変わって
商売様の笑顔の京さん
声は一段、いや二段くらい
高くなっている
"香夜は、今日からなんですよ
手加減してやってくださいな"
にやりと笑って襖を閉めた
ついに‥来てしまった
:10/01/28 15:33 :D905i :Ad90U/U2
#105 [笹]
「い‥いらっしゃいまし」
思わず声が上擦った
正座をして深く頭を下げる
このまま‥頭を上げたくない
そんな気持ちに駆られる
「可愛らしい方です、ね
頭をお上げくださいな」
あぁ何か落ち着く声‥
この人なら何とか‥
:10/01/28 15:37 :D905i :Ad90U/U2
#106 [笹]
「ひぃぃぃいいぃぃ!!!!」
頭を上げて驚いて腰を抜かした
なんで‥なんで‥
「い‥壱助さん?!」
紛れもなく
あたしの目の前にいる男は
今朝喧嘩した壱助さんである
「どうして‥こんな所に?!」
:10/01/28 15:39 :D905i :Ad90U/U2
#107 [笹]
紛れもなく、紛れもなく
この美しさは壱助さん
「おや、おや
どうして‥名前をご存知で?」
この調子も壱助さん
「どうしてって‥香夜ですよ」
「あぁ‥香夜さん
お綺麗になられました、ね」
分かってたくせに‥わざとらしい
:10/01/28 15:43 :D905i :Ad90U/U2
#108 [笹]
「‥あたしの事
様子、見にきたんですか?」
ふてくされ気味に一応酒を注ぐ
「様子‥
さぁ何の事、でしょうね」
あの怪しい笑みを浮かべて
酒を手に取る
お隣は‥
どうやら"行為"に至ったらしい
色がましい声が耳にへばりつく
:10/01/28 15:47 :D905i :Ad90U/U2
#109 [笹]
沈黙‥と行きたいとこだけど
お隣の声の"おかげ"‥
"せい"で沈黙が破られる
―‥気まずい。
「香夜さん‥」
やっぱり素直に‥
「本当に‥」
謝ろうかな‥ぁ
:10/01/28 15:50 :D905i :Ad90U/U2
#110 [笹]
「お綺麗です、ね」
頬に冷たい感覚
あの綺麗な手で頬を包み込まれた
壱助さんの目が
いつもとどこか違う‥
「い‥壱助さん?」
「お美しい‥」
「壱助さん‥?ちょっと‥」
:10/01/28 15:52 :D905i :Ad90U/U2
#111 [笹]
あっという間に
壱助さんの顔がこちらに迫る
その向こうには天井が見える
壱助さん‥ちょっと待ってよ
たった一杯で酔ってるの?
「壱助さん‥
からかうのは止めてください」
引きつる笑顔を向けても
無駄だった
:10/01/28 15:55 :D905i :Ad90U/U2
#112 [笹]
やだ‥
「こんなに‥胸元を開けて」
「や‥」
細くて白い指が胸元を這う
「積極的です、ね」
「壱助さん‥」
華奢な手でも力は強かった
上で捕らえられた両腕が
びくともしなかった
:10/01/28 15:59 :D905i :Ad90U/U2
#113 [笹]
「まだ生娘となれば‥」
「いやぁ‥」
「こちらも力が入ります、ね」
「止めて‥壱助さん」
「そんな顔も、惹かれますねぇ」
首筋にねっとりと這う舌
思わず体が飛び跳ねる
:10/01/28 16:02 :D905i :Ad90U/U2
#114 [笹]
最初から‥
このつもりだったの?
最初から‥
喰らうつもりだったの?
ねぇ壱助さん‥
あたし、わかんないよ
せっかく‥せっかく
心が開ける人ができたのに
壱助さん‥
そんな簡単に信じたあたしが
馬鹿だったのかな‥、
:10/01/28 16:04 :D905i :Ad90U/U2
#115 [笹]
もう‥いいや、
もう‥
「今朝の威勢はどこ、に?」
首筋から感覚が消えた
「男とは‥こういう者、ですよ」
溢れ出した涙を
壱助さんの手が拭う
:10/01/28 16:09 :D905i :Ad90U/U2
#116 [笹]
「言わんこっちゃ、ない」
そして‥笑った。
:10/01/28 16:10 :D905i :Ad90U/U2
#117 [笹]
:10/01/28 16:13 :D905i :Ad90U/U2
#118 [笹]
嗚呼‥
何て馬鹿なことを‥
本当にあたしは愚かだ。
今更、後悔しても及ばない
この前は優しく抱き締めてくれた
だけど、今は違う
壱助さん‥怖いだけです。
"呉牛、月に喘ぐ"
:10/01/28 19:08 :D905i :Ad90U/U2
#119 [笹]
:
:
:
「どんな、お気持ちで?」
もう‥諦めました、か
「‥悔しい、だけです」
帯を緩めてみても無関心
触れてみれば、
怯えるようにぴくりと跳ねる
どうしたもんか‥。
:10/01/28 19:09 :D905i :Ad90U/U2
#120 [笹]
「壱助さん‥」
あまりに情けない声で
「何か、ご要望がお有りで?」
蚊の泣くような声で
「こうして‥いつも?」
尋ねるものですから
「手加減、している方ですぜ」
悪者になったような気分ですよ
:10/01/28 19:09 :D905i :Ad90U/U2
#121 [笹]
「‥悔しい」
やはり香夜さんは子供で
「何故、」
泣きじゃくって
「たった一週間で‥
貴方を知った気になってた」
焼き餅を焼いて
:10/01/28 19:10 :D905i :Ad90U/U2
#122 [笹]
「それは、それは」
しかし、少しだけ‥
「壱助さん‥」
色めいて、‥全く
「‥」
香夜さん、貴女は私を‥
:10/01/28 19:11 :D905i :Ad90U/U2
#123 [笹]
「抱いて‥下さい」
―‥どうしたいの、か
_
:10/01/28 19:13 :D905i :Ad90U/U2
#124 [笹]
含み笑い、体を離せば
"どうして"と言うような顔をする
どうかしている、貴女は
「いたッ‥」
目を覚ませと額を叩いても
張り合いがありゃしない
:10/01/28 19:14 :D905i :Ad90U/U2
#125 [笹]
「‥さぁ、帰りますよ」
「‥はい」
そんな顔されちゃぁ、
着物を直す手も躊躇います、ぜ
:10/01/28 19:15 :D905i :Ad90U/U2
#126 [笹]
本当に‥貴女という人は
「壱助‥さん」
―‥本当に
:10/01/28 19:16 :D905i :Ad90U/U2
#127 [笹]
「‥ごめんなさい。」
世話が焼ける"子猫"です、ね
:10/01/28 19:16 :D905i :Ad90U/U2
#128 [笹]
:10/01/28 19:23 :D905i :Ad90U/U2
#129 [笹]
"矯めるなら若木のうち"
悪い癖や欠点などは
柔軟な"幼少"のうちに直さねば
成長してからでは直しにくい。
―‥そういう事、ですよ
:10/01/28 20:25 :D905i :Ad90U/U2
#130 [笹]
:
:
:
穏やかな朝に
不釣り合いな‥
「いッ‥たぁああぁあいぃい!!」
激痛の目覚まし。
:10/01/28 20:25 :D905i :Ad90U/U2
#131 [笹]
「朝から‥騒がしいです、ね」
人の顔面ひっぱたいといて‥
憎い‥憎すぎる
「朝くらい穏やかに‥」
起き上がり目線を上げると
「起きさせて‥」
:10/01/28 20:26 :D905i :Ad90U/U2
#132 [笹]
異様な重い空気と
壱助さんの鋭い視線
「ください‥」
迫力に
「‥な、何でも‥ないです」
負けました。
:10/01/28 20:27 :D905i :Ad90U/U2
#133 [笹]
:
:
「お金は‥稼げたんですかい?」
明らかにいつもより声質が鋭い
そして、正座‥辛い
「いえ‥全く」
ちゅんちゅん、と鳴く雀
こけこけ、と鳴く鶏
ぼろぼろ、と泣く私
‥惨めです本当に
:10/01/28 20:28 :D905i :Ad90U/U2
#134 [笹]
「情けない」
「ご、ごもっとも‥です」
後悔先に立たずとは
このこと‥ですね
じりじり迫る壱助さんの視線
じりじり痺れる足
呆れたように深く息を吐き
いらいらしているのか
組んだ腕を片指で叩く壱助さん
:10/01/28 20:28 :D905i :Ad90U/U2
#135 [笹]
「出来ないことは言わない事、
意地を張っても構いはしないが
分かりやすい嘘は無用。」
まるで子を叱る父である。
いつもより少し声を張って
語尾が乱暴だ。
:10/01/28 20:29 :D905i :Ad90U/U2
#136 [笹]
「"私は愚かな雌猫です。
自らの体を安売りした上に、
情けないことに結果は皆無でした
このような事を以後繰り返さぬ様
壱助様には逆らわず
忠実である事をここに誓います"
はい、復唱」
「え‥?
そんないきなり言われても‥」
:10/01/28 20:30 :D905i :Ad90U/U2
#137 [笹]
壱助さん=優しい
「人の話は、よく聞く事」
取り消したいと思います
「わ、私は‥愚かな雌猫です。
えーっと‥何だっけ‥?」
やっぱり鬼だと思います
:10/01/28 20:31 :D905i :Ad90U/U2
#138 [笹]
「"自分の体を安売りした上に"」
だってこんな威圧感のある目
‥初めてですよ
「あぅ‥
自分の体を安売りした上に‥」
「‥」
「愚かな事‥」
:10/01/28 20:32 :D905i :Ad90U/U2
#139 [笹]
「最初から、はいもう一度」
鬼‥鬼‥鬼!!!!
:10/01/28 20:32 :D905i :Ad90U/U2
#140 [笹]
「壱助様は
鬼ではなく神様です、よ」
うわ‥読まれてる‥
貴方の笑顔は最恐です、よと
:10/01/28 20:33 :D905i :Ad90U/U2
#141 [笹]
だけど‥、何でだろう
そんな思いとは裏腹に
壱助さんの傍はどこか落ち着く
居場所‥見つけました。
:10/01/28 20:34 :D905i :Ad90U/U2
#142 [笹]
許される限り
あなたの傍に置いて頂きたい
_
:10/01/28 20:35 :D905i :Ad90U/U2
#143 [笹]
「自分の事は、大切にして下さい
‥世話をかけますから、ね」
「‥は、はいっ!!」
思わず顔が緩みます
:10/01/28 20:37 :D905i :Ad90U/U2
#144 [笹]
「では‥最初から、はいもう一度」
「えぇ‥まだやるんですかぁ?」
「"壱助様には逆らわず"です、よ」
「‥はぁーい」
やっぱり、
よく考えておきます‥
:10/01/28 20:39 :D905i :Ad90U/U2
#145 [笹]
:10/01/28 20:44 :D905i :Ad90U/U2
#146 [我輩は匿名である]
:10/01/28 21:30 :W53H :4WiSLrw2
#147 [笹]
まだ幼い雌猫が、
体を売ろうなんざぁ‥
馬鹿げた話です。
本当に危なっかしいもんです、よ
あれこれ口で言うよりも
心の中で考えてる事のほうが
ずっと痛切じゃありやせんか
私は、そういう気質なもんで‥
"鳴かぬ蛍が身を焦がす"って、か
:10/01/29 00:39 :D905i :XWctwuXA
#148 [笹]
:
:
:
「またですかぁ?」
まただ。
"ちょいと野暮用に"って
壱助さんは決まって夕方に
下駄を履いて出て行く
「すぐに‥戻ります、よ」
なんだかあれから
更に子供扱いされてる気がする
:10/01/29 00:43 :D905i :XWctwuXA
#149 [笹]
あたしの思い違いかもしれない
だけど‥、何となくあの日から
距離が‥遠くなった気がするの
距離って言うのは、
座った時とかの間隔のことだけど
「考えすぎかなぁー‥」
壱助さんの背中をぼうっと見つめ
あたしはただ
力なく手を振るだけだった
:10/01/29 00:46 :D905i :XWctwuXA
#150 [笹]
"野暮用"って何だろう‥
拗ねた子供のように
口をつんと尖らせて畳に寝転ぶ
『手加減、してる方ですぜ』
「‥まさかっ、」
:10/01/29 00:50 :D905i :XWctwuXA
#151 [笹]
:
:
:
「壱助さんじゃないかぁ!!」
「あぁ‥伊代さん」
にこりと微笑む壱助の腕を
伊代がしっかりと捕まえた
「"あぁ‥"じゃないよぉ!!
どうなったんだい?!」
手に汗握るように
またそわそわしている
:10/01/29 15:19 :D905i :XWctwuXA
#152 [笹]
「どうなった、と言いますと?」
"惚けるんじゃないよ"と
伊代がせかす
:10/01/29 15:20 :D905i :XWctwuXA
#153 [笹]
:
:
「そうかそうかぁー
無事だったのかい」
見たこともない人間を
全く子供かのように心配するほど
伊代は人情味に溢れてる
:10/01/29 15:21 :D905i :XWctwuXA
#154 [笹]
「そんなに心配しなくても、
大丈夫でしたが、ね」
いつものように茶を啜り
団子を手に取り眺める
「壱助さん!あんたねぇ
女の子にとっちゃあ
事によっては死のうと思うくらい
大事になるんだからさぁ‥
ちゃんと面倒見てやんなよぅ?」
:10/01/29 15:21 :D905i :XWctwuXA
#155 [笹]
女は女の味方である。
そうは言っても
壱助の無関心さには
女じゃなくてもこう言うだろうと
伊代は思うのだ
「それでぇ‥"猫ちゃん"は
何ともなかったのかい?」
腕を組んで
まるでお説教をしてるようだ
:10/01/29 15:22 :D905i :XWctwuXA
#156 [笹]
「何とも、無かったんじゃあ‥」
『たった一週間で
貴方を知った気になってた‥』
‥どうした、もんかねぇ
:10/01/29 15:23 :D905i :XWctwuXA
#157 [笹]
「‥ないですか、ねぇ」
壱助は団子に口を付けず
そのまま皿に置いた
「連れて歩くなら、
もっとしっかりしなよぉ!!」
べしんっと一発
壱助の肩にお見舞い
:10/01/29 15:24 :D905i :XWctwuXA
#158 [笹]
「しかし‥少々」
『‥抱いて、ください』
―‥酒でも飲んだ、か
―‥空気に飲まれた、か
それとも‥
:10/01/29 15:24 :D905i :XWctwuXA
#159 [笹]
「飲まれちまったようで、」
―‥正気、か
あの時の目は虚ろではなかった
だとしたら、 やはり
:10/01/29 15:25 :D905i :XWctwuXA
#160 [笹]
「"酒でも飲ませて襲った"
なんて言わないだろうねぇ?」
‥否定はできません、ぜ
「まさか‥そうなのかい?」
驚くように伊代は口をはっと塞ぐ
:10/01/29 15:26 :D905i :XWctwuXA
#161 [笹]
「いえ、いえ
せめて‥人並みでないと、ね」
その言葉に
ぽかんとだらしなく口を開けた
"人並み?"と目で訴えられて
:10/01/29 15:27 :D905i :XWctwuXA
#162 [笹]
「中の‥下では、何とも」
壱助はそう言い残し
団子をそのままにして
去っていった
:10/01/29 15:27 :D905i :XWctwuXA
#163 [笹]
:
:
:
さて、どうしたもんか
「‥ニャァ」
珍しく思い耽って宿に戻る
入り口手前で
何故か躊躇していると
一匹の猫が足元にすり寄ってきた
:10/01/29 15:28 :D905i :XWctwuXA
#164 [笹]
"獣はあまり好かないんで、ね"と
少し冷たい視線を向けると
寂しそうにニャァと鳴いた
「‥"猫"はどうして、こうも」
その場にしゃがみこみ
喉元を撫でてやる
:10/01/29 15:29 :D905i :XWctwuXA
#165 [笹]
「‥気まぐれなのか、ねぇ」
普段は猫なんて
寄って来やしないんですが
「ミャァ‥ウ」
‥撫でてやると
可愛い声を出すもんで
:10/01/29 15:30 :D905i :XWctwuXA
#166 [笹]
「情けない‥奴です、よ」
目を細めて微笑した
:10/01/29 15:30 :D905i :XWctwuXA
#167 [笹]
すりすりと身を寄せて
何を、考えているんで?
人と猫は
分かり合えませんか、ね
「発情期です‥か」
猫の丸い目がパチクリする
惚けるんですかい?
:10/01/29 15:31 :D905i :XWctwuXA
#168 [笹]
"さて‥"と腰を上げようとすると
"嫌だ"と言うように身を乗り出す
「"飼い猫"が‥妬くんでね」
大きく一撫でして立ち上がる
:10/01/29 15:31 :D905i :XWctwuXA
#169 [笹]
「‥隠れても無駄、ですよ」
「ひぁぁああっ!!」
びくりと肩を持ち上げて
‥苦笑いする猫が一匹。
:10/01/29 15:32 :D905i :XWctwuXA
#170 [笹]
「いいいっ壱助さんっ
おかっ‥お帰りなさぁい」
「何してお出でで?」
‥どうしたもんか、ね
:10/01/29 15:33 :D905i :XWctwuXA
#171 [笹]
「‥心配で、‥壱助さんの事が」
馴れては、いるんですぜ?
しかし情けない‥男です、よ
:10/01/29 15:34 :D905i :XWctwuXA
#172 [笹]
:10/01/29 15:38 :D905i :XWctwuXA
#173 [笹]
"腹立てるより義理立てろ"
腹を立てて何になるんで?
どうにもなりや、しやせんよ
本当に、訳の分からない厄介者を
拾ってしまったもんです、ね
:10/01/29 16:48 :D905i :XWctwuXA
#174 [笹]
:
:
壱助さんが‥猫としゃべってた
有り得ない‥
あんなに動物嫌いなのに!!
熱でもあるのかなぁ
「何、か」
「い‥いえ、何も」
‥気のせいか。
:10/01/29 16:48 :D905i :XWctwuXA
#175 [笹]
「さっきから‥何か、」
ついついじっと見てしまう
意識はしてないんだけど‥
まぁ、壱助さん綺麗だし
普通は見とれるものよね
‥自問自答である。
:10/01/29 16:49 :D905i :XWctwuXA
#176 [笹]
「壱助さん‥もしかして‥」
無意識のうちに
あたしは口が開いてしまう
壱助さんにこんな事聞くなんて
虎の穴に手突っ込むようなもの
「もしかして、花街に‥」
・・・って、
:10/01/29 16:50 :D905i :XWctwuXA
#177 [笹]
「何で脱いでるんですかぁああ?!」
_
:10/01/29 16:51 :D905i :XWctwuXA
#178 [笹]
真珠みたいに白い肌
まるで歌舞伎の女形みたいに
綺麗な顔わしてるもんだから
体も華奢なのかと思ったら
案外‥と言うか
かなりしっかりしてて
搾られてるってかんじ‥。
腰の当たりがすごく色っぽくて
何て綺麗なんだろうこの人は‥
:10/01/29 16:51 :D905i :XWctwuXA
#179 [笹]
って‥
いちいち描写したくなるほど
美しかった
「ちょっ‥と
いきなり何してるんですか!!」
腰のあたりまで着物を下ろし
ぎろりと此方を睨み付けられる
:10/01/29 16:52 :D905i :XWctwuXA
#180 [笹]
「何とは‥
着替えの意味もご存知でない?」
またそうやって‥
「ご存知ですぅ!!
着替えるなら一言かけてから‥」
からかうんだから
:10/01/29 16:53 :D905i :XWctwuXA
#181 [笹]
"着替えます、よ"って
‥今更遅いですよぉ
熱くなる顔を抑えて
黙って背を向けた
するすると帯が解ける音
そんな音でさえ
壱助さんは色っぽくしてしまう
:10/01/29 16:54 :D905i :XWctwuXA
#182 [笹]
「終わりました、よ」
一呼吸置いて体の向きを返る
いちいちドキドキして
あたし馬鹿みたいだなぁ‥
おいおい壱助さん
時が止まってるじゃあ
ありませんか。
「ちゃんと腕通してくださいぃ!!」
:10/01/29 16:54 :D905i :XWctwuXA
#183 [笹]
また半裸状態
露出狂ですかあなた‥もう
「はい、はい」
くつくつと笑いながら袖を通す
着物が畳を擦る音に
壱助さんの呼吸が答える
「花街が‥どうかしやした、か」
:10/01/29 16:55 :D905i :XWctwuXA
#184 [笹]
目の前に正座して
長い睫を柔らかく揺らす
調子狂いますよ‥本当に
「壱助さん‥
いつもいつも野暮用って、
本当は、花街に
行ってるんじゃないですか?」
軽く唇を噛んで頬を膨らます
:10/01/29 16:55 :D905i :XWctwuXA
#185 [笹]
「そうだったら‥何、か」
動揺する様子もない
掴み所がない人ね
「やっぱり‥そうなんですか?」
語尾が弱くなる
聞かなきゃよかったって
これまた後悔先に立たず。
:10/01/29 16:56 :D905i :XWctwuXA
#186 [笹]
「さぁ‥ね」
妖しい笑みを浮かべた時は
あたしをからかってるのだ
「行くな、と?」
「当たり前です‥!
何か‥嫌なんですよぉ」
「ほぉう」
:10/01/29 16:57 :D905i :XWctwuXA
#187 [笹]
すると
壱助さんがぬっと身を乗り出し
じっと見つめてきたもんで
不意を付かれて倒れ込んだ
「それなら‥香夜さんが
お相手を、していただけるんで?」
:10/01/29 16:57 :D905i :XWctwuXA
#188 [笹]
急に体が重くなる
あたしを見下ろすその目が憎い
壱助さんは、ずるいよ
「‥嫌です」
「おや、この前は‥
色めいて抱けと言ったのに」
「‥あ、あれは」
自分でもよくわかりません
何て言えるはずもなく
:10/01/29 16:58 :D905i :XWctwuXA
#189 [笹]
「色んな遊女を抱いてる人に
‥抱かれたくはありません」
目を伏せて
のしかかる体を押し上げる
「こいつぁ‥手厳しい」
雪みたいな手が頬を撫でた
‥また喰らおうとするの?
:10/01/29 16:59 :D905i :XWctwuXA
#190 [笹]
「中の下では‥」
雪がするする首筋を流れ
胸元をするりと抜けた
「"目覚めない"もんで、ね」
胸にひんやりとした感覚
睨みつけるように
鋭い目であたしを突き刺す
:10/01/29 16:59 :D905i :XWctwuXA
#191 [笹]
「きゃああぁああぁあっ」
いざと言うときに
力は発揮されるようで
どんと壱助さんの体を突き飛ばし
目をむき出しにした
:10/01/29 17:00 :D905i :XWctwuXA
#192 [笹]
有り得ないっ有り得ない!!!
「壱助さんの‥
すけべぇええぇえぇ!!!!」
もう、お嫁にいけません。うぅ
:10/01/29 17:00 :D905i :XWctwuXA
#193 [笹]
「そんなに怒っていては‥
嫁に行けません、よ」
「壱助さんのせいですぅう!!!」
目一杯叫んでやった。
―‥壱助さんの馬鹿やろうっ!!
:10/01/29 17:02 :D905i :XWctwuXA
#194 [笹]
:10/01/29 17:06 :D905i :XWctwuXA
#195 [我輩は匿名である]
:10/01/29 21:42 :W53H :CL/ESoxg
#196 [我輩は匿名である]
:10/01/29 21:42 :W53H :CL/ESoxg
#197 [笹]
死にそうな所を
拾ってやったと言うのに‥
疑い深い猫、ですよ
少しは恩でも返そうと
‥思わないんですかい?
"猫は三年の恩を三日で忘れる"
‥って、ね
:10/01/30 19:50 :D905i :weUwJGLs
#198 [笹]
:
:
:
何をするでもない
壱助さんはいつもこう。
正座してお茶を入れて啜って
少し間を置いてまた啜って‥
飲み終えたら
‥―立ち膝で窓際に座る
ぼうっと空ばかり眺めて
何が面白いのだろう。
:10/01/30 19:50 :D905i :weUwJGLs
#199 [笹]
立ち膝で座ってる時の
少しはだけた着物から見える
白い肌が何とも‥。
あー‥羨ましさを越えて憎らしい
‥ねぇ壱助さん
あたしが居ること忘れてる?
存在消されてる?
:10/01/30 19:51 :D905i :weUwJGLs
#200 [笹]
そういえば、壱助さんは何で‥
あたしを助けてくれたの?
:10/01/30 19:52 :D905i :weUwJGLs
#201 [笹]
しかも、それから
ずっと面倒見てくれてる。
扱いは‥まぁ考えないとして
お金だってないのに‥。
―‥ただの人助け?
あたしに対する同情かしら
:10/01/30 19:52 :D905i :weUwJGLs
#202 [笹]
「さて、」
壱助さんが珍しく
自分から口を開いた
そして立ち上がる。
また‥花街?
だけど、まだ午前中よ?
:10/01/30 19:53 :D905i :weUwJGLs
#203 [笹]
「‥行きます、か」
すっと腰を上げて
帯をきつく引っ張り整える
「何処‥行くんですか?」
不安そうに見つめると
ひんやりとした手が
あたしの腕をしっかり捕まえた
:10/01/30 19:54 :D905i :weUwJGLs
#204 [笹]
「なっ‥何処に?!」
「その内わかります、よ」
あたしと壱助さんの温度差は
一ヶ月経っても縮まらない
:10/01/30 19:55 :D905i :weUwJGLs
#205 [笹]
:
:
「壱助さぁんっ」
こちらの呼びかけに
一切振り返りもせずに
ただ腕を引いて街を歩く
そんな中でも
町娘の黄色い声が聞こえる
"あら、色男ーっ"
"見とれちゃうわぁー"
:10/01/30 19:55 :D905i :weUwJGLs
#206 [笹]
自然と眉間にしわが寄った
だけど当の本人は
ぴくりともしない
普段から持て余されてる色男は
もう馴れているのだろう
‥憎たらしい。
:10/01/30 19:56 :D905i :weUwJGLs
#207 [笹]
:
:
:
「あらぁああ!!壱助さんっ
紹介しに?」
うわ‥綺麗な人‥。
団子屋から出てきたその人は
壱助さんを見るやいなや
顔に花を咲かせた
:10/01/30 19:57 :D905i :weUwJGLs
#208 [笹]
「今日はちょいと、別件でして」
「あら‥そうなのかい
ちょいと時間があるならさぁ
紹介しておくれよぉっ!」
その人と壱助さんが話す姿は
何故かしっくりきて
‥お似合いだった
:10/01/30 19:58 :D905i :weUwJGLs
#209 [笹]
"では‥"と言うと
壱助さんはあたしに
横目で合図をする
「あ‥香夜です!!はじめまして」
ぺこりとぎこちなくお辞儀をした
:10/01/30 19:58 :D905i :weUwJGLs
#210 [笹]
「香夜ちゃん?
可愛いじゃないかぁーっ
やっぱり壱助さん、
お目が高いよぉーあんた!!」
ぽんっとあたしの肩を叩いく
その美しい手が
初めてとは思えないくらい
優しくて暖かかった
:10/01/30 19:59 :D905i :weUwJGLs
#211 [笹]
「伊代さんにゃあ、劣りますぜ」
あたしなんかと扱いが違う
優しい目で見つめてた
この色男め‥
そんな言葉がぽんと出るなんて
確かに綺麗だし、いい人そう
‥だけど、ちょいと悔しい
:10/01/30 20:00 :D905i :weUwJGLs
#212 [笹]
「馬鹿言うんじゃないよぉ!全く」
壱助さんを叩くのも
何となく馴れてる気がして‥
やっぱりあたしなんかは
まだ付き合いが浅いんだって
思い知らされるのだ。
:10/01/30 20:01 :D905i :weUwJGLs
#213 [笹]
"団子屋の女将の伊代です"と
笑顔で言われて
ついついつられて笑顔になる
大人の女と言えば
"あの母親"しか印象にないから
なんだか不思議な感じがするの
:10/01/30 20:02 :D905i :weUwJGLs
#214 [笹]
「‥では、これで」
息つく間もなく
またぐいっと手を引かれ
伊代さんに軽くお辞儀して
団子屋を後にした
「あれは‥仲いいのね、きっと」
クスっと笑いながら
伊代は二人の背中を眺めた
:10/01/30 20:04 :D905i :weUwJGLs
#215 [笹]
:
:
:
「‥此処ですか?」
壱助さんが足を止めたのは
怪しい雰囲気の
お店‥のような建物の前
手を引かれて入ってみると
これまた怪しいお婆さん
こ‥怖いじゃあありませんか
:10/01/30 20:04 :D905i :weUwJGLs
#216 [笹]
「お願いします、ね」
そう言うと今度は
お婆さんに手を引かれて
襖の奥へ
「ちょ‥壱助さん?!」
壱助さんは
こちらに来る様子もなく
側にあった椅子に腰を掛けた
:10/01/30 20:05 :D905i :weUwJGLs
#217 [笹]
次の瞬間壱助さんの姿が消え
ばんっと襖が現れた
‥な、何でぇえ?
「あの‥何を‥」
またこの人も
あたしの存在無視ですか‥?
:10/01/30 20:05 :D905i :weUwJGLs
#218 [笹]
お婆さんは物差し片手に
あたしを睨み付ける
それはもう‥殺されそうなくらい
「あんた‥年は?」
しゃがれ声が沈黙を破る
「じゅ‥十八‥です」
:10/01/30 20:06 :D905i :weUwJGLs
#219 [笹]
"へぇ"と無関心な声を出し
日焼けした黒い手が
こちらに物差しをあてがう
こっちが喋ろうもんなら
キッと睨み付けられる
一体何なんですか?
:10/01/30 20:06 :D905i :weUwJGLs
#220 [笹]
「きゃっ‥何するんですか?!」
突然胸を鷲掴みにする
小さな骨張った手
「‥中の下だね」
壱助さんと同じ捨て台詞。
反論する間もなく
お婆さんは何か書き留め
算盤をはじき出した
:10/01/30 20:07 :D905i :weUwJGLs
#221 [笹]
"こんなもんかねぇ"と呟くと
「壱助!!ちょっと来な!!」
壱助さんを呼び捨て‥
どんな関係‥?
すると壱助さんが
襖の向こうから現れ
あたしに目もくれずに
お婆さんの元へ
:10/01/30 20:08 :D905i :weUwJGLs
#222 [笹]
「こんなもんでどうかねぇ?」
さっきの紙を壱助さんに渡す
少し顔をしかめて
こしょこしょと耳打ち
「まぁ、色男の言うことにゃあ
聞かない訳には‥」
こしょこしょ
こしょこしょ
:10/01/30 20:08 :D905i :weUwJGLs
#223 [笹]
「これは、有り難い」
「2、3日したらまた来な」
話は終わったのか
あたしは一切事情を知ることなく
また手を引かれる
:10/01/30 20:09 :D905i :weUwJGLs
#224 [笹]
顔色一つ変えない壱助さんに
あたしは事情を聞かなかった
そうじゃない。
‥聞けなかったんだ
:10/01/30 20:10 :D905i :weUwJGLs
#225 [笹]
あの耳打ちから漏れた言葉
確かに聞こえたのは
"お金"のやり取り
:10/01/30 20:11 :D905i :weUwJGLs
#226 [笹]
ねぇ‥壱助さん
あたしを売るんでしょう?
_
:10/01/30 20:11 :D905i :weUwJGLs
#227 [笹]
:10/01/30 20:15 :D905i :weUwJGLs
#228 [我輩は匿名である]
:10/01/30 21:47 :W53H :QSzgxyWw
#229 [笹]
>>228いつも安価有難うございます ^^
よかったら感想板にも
いらしてください>< !!
:10/01/30 21:50 :D905i :weUwJGLs
#230 [笹]
さて‥これで用も済みやした
―‥もう
おさらば、ですよ
"能事終われり"、ですかね
:10/01/31 19:06 :D905i :HYkp9PyY
#231 [笹]
:
:
壱助さん
もうさよならですか?
確かにあたしは
お金ばかり喰って
役立たずだし、むしろ足手纏い
特別可愛くもないし
‥中の下だし
連れてるだけ無駄かもしれない
:10/01/31 19:07 :D905i :HYkp9PyY
#232 [笹]
だけど最初からその気なら
‥優しくしないで欲しかった
死ぬなと言ったのも
遊女屋から連れ戻したのも
全部このため?
せっかく
居場所を見つけたと思ったのに
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#233 [笹]
壱助さん‥
_
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#234 [笹]
:
:
:
壱助さんの様子は
いつもと何一つ変わらない
やっぱりあたしは
"所有物"でしかなかった
ああ‥どうしよう
聞いてみようかな
:10/01/31 19:10 :D905i :HYkp9PyY
#235 [笹]
だけど"そうです、よ"なんて
はっきり言われちゃったら
泣いちゃうかもしれない
壱助さんは確実に
あたしの変化に気付いてる
いつもより多く
こちらに目配りしてるから‥
深く息を吐く
このまま魂も一緒に抜けそうだ
:10/01/31 19:11 :D905i :HYkp9PyY
#236 [笹]
結局捕らえられる運命か
結局売られる運命‥か
壱助さんに出会って
人生に少し期待したのに
やっぱり運命は変えられない?
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#237 [笹]
そんなことを考えてばかりで
目の奥が火傷しそう
ここまできて
泣いたら‥負けだ
「どうか‥しました、か」
見かねた壱助さんが
あたしの前にお茶を差し出す
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#238 [笹]
これも機嫌取り?
最後くらい優しくしようって?
考え出したら止まらない性格だ
「‥」
目が合わないように
無理やり目を伏せる
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#239 [笹]
「雨でも‥降るんですか、ね」
晴れ渡る空を眺めてる
「私を‥売るんですか?」
すると壱助さんは珍しく
驚いたような顔をして
そして一瞬にして
いつも通りに戻った
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#240 [笹]
「さぁ‥」
はぐらかすんだ
いつもそうやって。
都合が悪いとき、
面白がってるとき‥いつもそう
1ヶ月でやっと知れた
貴方の癖です。
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#241 [笹]
「どうでしょうか、ねぇ」
嫌だ‥嫌だよ‥
嫌だよ、壱助さん
独りにしないでよ‥
どこにも行っちゃ嫌‥
ああ‥堪えきれない。
目の前がぼやける
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#242 [笹]
寝てしまおう。
今日はもう寝てしまおう。
だけど‥朝が来るのが怖い
「もう、お休みですかい?」
「‥」
背を向けて布団をかぶると
"おや、おや"と
溜め息混じりに聞こえた
布団が冷たい
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#243 [笹]
:
:
結局なかなか寝付けなくて
寝てはすぐ目が覚めて‥
それの繰り返し
だけど着実に
夜は明けていって
ついに壱助さんが動き出した
襖の奥から聞こえるしゃがれ声
"迎え"にきたんだ‥
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#244 [笹]
あたしは息を潜めて
ぎゅっと小さくなった
体が小刻みに震えてるのが分かる
このまま目を開けなければ
見逃してくれたりしないかな
今から窓の外に逃げ出そうか
そんなことばかりが
頭の中を駆け巡る
脳に冷や汗をかいた
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#245 [笹]
するとまもなくして
襖が開く音がした
「香夜さん‥」
小さく呼びかけた声
そんな声で呼んだって
あたしの気持ちは和らがないよ
:10/01/31 19:16 :D905i :HYkp9PyY
#246 [笹]
「香夜さん‥朝です、よ」
貴方って人は
本当にいつもその調子
声に全く感情が漏れない
だから時々
その声があたしを突き刺すの
ねぇ‥壱助さん
貴方にとってあたしは‥
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#247 [笹]
「いったあぁああぁあい!!!」
縮こまった体が飛び起きる
腹部に走る激痛
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#248 [笹]
「狸寝入りなど無駄、ですよ」
お腹を抱えて縮こまるあたしに
壱助さんはそう吐き捨てた
思わずむせ返るほど
どうやら強く蹴られたらしい
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#249 [笹]
「最後くらい‥最後くらい
優しくしてくださいよ!!!」
顔を上げて泣きわめく
しかし目の前には壱助さんだけ
あのお婆さんはいない
しかも何か綺麗な色の
布を抱えている
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#250 [笹]
「最後‥なら、ね」
珍しく人らしい困った顔で
クスッと含み笑い
「‥?」
「最後なら、優しくします、よ
しかし‥
誰が最後と‥言いました?」
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#251 [笹]
その瞬間目の前が
山吹の鮮やかな色に染まった
「‥着物‥きれい」
息をのむほど綺麗な色の生地に
赤い花の刺繍がされていた
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#252 [笹]
「でも‥でも壱助さん
あたしを‥売るんでしょう?!」
そういい終わる前に
"馬、鹿"と口元を緩ませて
それをあたしに差し出した
「一ヶ月、経ったので‥
"所有物"から昇格、ですよ」
:10/01/31 19:20 :D905i :HYkp9PyY
#253 [笹]
「‥壱助さん
あたしのために‥?」
睫毛を伏せただけで
返事はなかった
だけどわかったよ
"早く着てくだせぇ"と
頭をぽんと撫でてくれた
一ヶ月たてば変わりますか?
壱助さんの声が
柔らかく感じたの
:10/01/31 19:21 :D905i :HYkp9PyY
#254 [笹]
:
:
「丁度良い‥ようですね」
その着物は袖の長さも
丈の長さも胸周りも腰周りも
全部がぴったりで
そこでやっと
"あぁそう言うことか"って
あのお婆さんを思い出す
と同時に
壱助さんを疑った自分を恥じる
:10/01/31 19:24 :D905i :HYkp9PyY
#255 [笹]
「壱助さん‥
あ、ありがとう‥ございます」
これでもかと言うくらい
頭を深く下げた
「本当に‥疑い深い人です、よ」
そしてまたお茶を啜る
いつもの壱助さん
:10/01/31 19:26 :D905i :HYkp9PyY
#256 [笹]
「‥ごめんなさい」
「何故、謝る」
この人は大人だと思う
あたしの知ってる大人なんかより
ずっとずっと大人だ。
「‥ごめんなさい。」
「売り飛ばされたいです、か」
「‥い、嫌です」
:10/01/31 19:29 :D905i :HYkp9PyY
#257 [笹]
「壱助さんっあたし‥!!」
何処までも貴方は
期待を裏切りやしない。
「‥約束しましょう。」
何処までも貴方は優しくて
「貴女を独りにしない、と」
頭があがらないのです。
:10/01/31 19:33 :D905i :HYkp9PyY
#258 [笹]
:10/01/31 19:37 :D905i :HYkp9PyY
#259 [我輩は匿名である]
:10/01/31 20:56 :W53H :c7HoKKOs
#260 [笹]
嫉妬‥、
私は餓鬼に‥興味はないです、よ
強いて言うなら
‥"保護者"ですか、ね
"親の心、子知らず"
:10/02/01 17:03 :D905i :CnOOZU0s
#261 [笹]
「いやぁあぁあああ!!」
どんなに暴れても
壱助さんの力に勝てるはずもなく
「少し黙ってくれや、しやせんか」
ぐいっと片手であたしの両腕を掴み
せっせとそれを帯で縛り上げる
前の帯がもういらないからって
そんな事に使わなくても‥
:10/02/01 17:04 :D905i :CnOOZU0s
#262 [笹]
あっさり両腕を縛られ
捕らわれの身
「解いてください!!」
「何、故」
またお茶を啜る
何事もなかったかのように
「何故って‥こうする理由は?!
ちょっと戻ってくるのが
遅かっただけじゃないですか!!」
:10/02/01 17:05 :D905i :CnOOZU0s
#263 [笹]
―‥少しの沈黙
一気に空気が凍りついた
カタンと湯飲みを置く
またその落ち着き方が怖い
「ほぉう‥遅かった"だけ"、と」
_
:10/02/01 17:06 :D905i :CnOOZU0s
#264 [笹]
いつも以上に鋭い目が
あたしを滅多刺しにする
‥心臓が止まりそうですよ
―‥事の発端は今日の午前中の事
:10/02/01 17:06 :D905i :CnOOZU0s
#265 [笹]
:
:
「えーっと、漢方薬‥と
後は、お茶の葉と‥
それからぁー‥何だっけ?」
朝っぱらから
‥最早あたしの日常の一部だけど
顔面ひっぱたかれて、
買い出しに行ってこいって
買ってくる物を
呪文みたいに聞かされて
ぴょいっと宿から放り出された
:10/02/01 17:07 :D905i :CnOOZU0s
#266 [笹]
「そんな一回じゃ
覚えられないよー‥もう」
ぶつぶつ言いながら
街のあちこちを行ったりきたり
しかも荷物が増える増える。
これを一人で持てなんて
壱助さんはやっぱり鬼だ
:10/02/01 17:08 :D905i :CnOOZU0s
#267 [笹]
だけどそんなこと言ったら
どんなことになるか‥
とりあえず、骨一本は犠牲だ‥
いろいろと目に見えてるので
一人で頑張ってた訳です。
:10/02/01 17:09 :D905i :CnOOZU0s
#268 [笹]
「あらお嬢ちゃん
そんなに大荷物、大変ねぇ‥
財布出せるかい?」
「あぁ‥大丈夫‥です」
袖の中を何とか弄る
手は吊りそうだし肩凝るし
早く済ませて帰りたいったら
この上ない
お金足りたかなぁー‥
‥嘘、ちょっと待って
:10/02/01 17:09 :D905i :CnOOZU0s
#269 [笹]
「お財布がなぁああい!!!」
_
:10/02/01 17:10 :D905i :CnOOZU0s
#270 [笹]
だってさっきまでここに‥
どこかに落としたかなぁ
あっれー‥?
がさがさばたばたばたっっ
「うぎゃあぁああっ!!!」
足元が荷物で埋まる
思いっきりぶちまけてしまった
:10/02/01 17:11 :D905i :CnOOZU0s
#271 [笹]
今日はついてないや‥
溜め息を付き
ぺこぺこ頭を下げて
慌てて荷物を拾う
あーあ、誰か助けてくれな‥
「大丈夫ですかい?」
「ふえ?」
:10/02/01 17:11 :D905i :CnOOZU0s
#272 [笹]
目の前には
荷物拾いを手伝ってくれてる
男気溢れる人。
って言うか
壱助さんばっかり見てたら
どんな人も
男らしく見えるんだけど‥
「あぁっ‥すみません
ありがとうございます」
:10/02/01 17:12 :D905i :CnOOZU0s
#273 [笹]
男の人はこうでなくちゃ!!
なぁんて壱助さんを思い浮かべて
思ってしまう不束物です
「これ、貴女の財布ですか?」
「あぁああ!!!あったぁぁ!!!」
確かに壱助さんから預かった財布
いやー助かったぁ
死ななくて済みそうです‥はは
:10/02/01 17:13 :D905i :CnOOZU0s
#274 [笹]
「ふはは、元気な方だ」
そんな事言われちゃって
しかも目尻下げて笑われて
不覚にも、どきどき
ちゃっちゃと会計済ませて
"お茶でもおごらせて下さい"
なんて言おうもんなら
"お茶は是非と言いたいですが
おごりでは‥"
なんて遠慮するもので
:10/02/01 17:13 :D905i :CnOOZU0s
#275 [笹]
:
:
:
「本当に面白い方だ」
本当によく笑う人だなぁ
壱助さんぴくりともしないもんな
んー‥人ってこうあるべきよね
:10/02/01 17:14 :D905i :CnOOZU0s
#276 [笹]
「よかったらこの後
お時間‥いただけませんか?」
その人は祥吉さんと言って
この街の大工さんらしい。
「あぁ‥はい!!」
まぁ少しくらいならって
思ったわけですよ
:10/02/01 17:15 :D905i :CnOOZU0s
#277 [笹]
:
:
「‥いい人だったんだもん」
確かにいい人だった
壱助さんばかりといるから余計
「ほぉう‥
知らない叔父さんには
付いて行くなと‥
教わらなかったんですかい?」
縛られたあたしを
舐めるように眺めながら言った
:10/02/01 17:16 :D905i :CnOOZU0s
#278 [笹]
「そんな‥子供じゃないです」
いつまでも子供扱いして‥
もういい加減嫌なのだ
帯を解こうと必死にもがく
だけどもがけばもがく程
痛くなるくらいに締め付ける
「では‥大人です、か?」
:10/02/01 17:16 :D905i :CnOOZU0s
#279 [笹]
壱助さんは立ち上がり
着物を畳に擦り付け
こちらににじり寄ってきた
「そ‥そうですよ!!」
もちろん壱助さんは
あたしなんかを大人だなんて
思ってもなくて‥
「男を‥知らないくせに?」
:10/02/01 17:17 :D905i :CnOOZU0s
#280 [笹]
冷たい手が頬を這う
あの時の壱助さんが蘇る
あの冷え切った心の‥
「前に‥言ったはず、ですが」
首筋を伝い胸元を緩めて
「や‥」
「男はこういう物‥だと」
舌を這わせて
:10/02/01 17:18 :D905i :CnOOZU0s
#281 [笹]
「いや‥やめて」
「最後まで、されなきゃ‥
わからないんですかい?」
「いやぁあぁっ」
縛られた手は役立たずで
声を上げても無駄だと言われ
ただ泣くしかなかった
:10/02/01 17:18 :D905i :CnOOZU0s
#282 [笹]
「優しさなんてのは‥
ただの餌、ですよ」
酷いよ‥酷いよ貴方
みんながみんな‥
そういう訳じゃないじゃない
あたしに跨る壱助さんが
冷たい目で見下ろす
祥吉さんも‥そんな目だったかも
:10/02/01 17:19 :D905i :CnOOZU0s
#283 [笹]
「嬉しかったんです、か
こんな事‥されて」
唇が今にも触れそうなくらい
壱助さんの吐息は暖かかった
:10/02/01 17:20 :D905i :CnOOZU0s
#284 [笹]
:
:
あれから祥吉さんに
唇を奪われてしまい
運良く?悪く?
壱助さんに見つかってしまい
祥吉さんは何処かへ蹴り飛ばされ
‥あたしはこういう訳で
:10/02/01 17:20 :D905i :CnOOZU0s
#285 [笹]
「さて‥お仕置きです、よ」
壱助さんは
"子供"と接吻なんて
‥真っ平だそうで
も、もちろんあたしもよ!!
この人としたら
唇食いちぎられそうだもの
:10/02/01 17:21 :D905i :CnOOZU0s
#286 [笹]
体を離してまたお茶。
お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶
その内体が緑色になるわよ!!
‥もう
:10/02/01 17:22 :D905i :CnOOZU0s
#287 [笹]
「どう‥されたいです、か」
帯解かれたいです。
「ここで男を知ります、か
あぁ‥それは無理でした」
「へ?」
「‥中の下では、"目覚め"ません」
‥本当に緑色になればいいのに
なんて、思うほど憎い
:10/02/01 17:22 :D905i :CnOOZU0s
#288 [笹]
「そうです、ねぇ
三角木馬に座るも結構
針山を登るも結構
爪でその皮膚
丁寧に剥いでやりやしょう、か
お薦めは‥
爪との間に針をぶすっと‥」
「ぎゃあぁあぁあっ」
:10/02/01 17:25 :D905i :CnOOZU0s
#289 [笹]
痛い‥痛すぎる
って言うか
なんでそんな拷問好き?
三角木馬とか‥本格的だし
本物の変態‥
爪とか、ぜーったい無理!!
だったら死んだほうが‥
:10/02/01 17:26 :D905i :CnOOZU0s
#290 [笹]
「死なせません、ぜ」
急に柔らかくなる声
やっぱりわかる
壱助さんの微妙な声の変化
「無駄な命に、してはいけない」
「‥わかってますよ」
:10/02/01 17:27 :D905i :CnOOZU0s
#291 [笹]
死んだりしない
お父さんのためにも‥。
「まぁ、今回は‥見逃しましょう
父上から預かった命、ですから」
「ほんとですか?!」
久しぶりの生きた心地ですよ
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#292 [笹]
―――――――‥‥
_
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#293 [笹]
「ぬぁ‥ぬぁあ‥」
「何、か」
「何って‥だって」
「消毒、ですよ」
「えぇえぇええ?!」
:10/02/01 17:29 :D905i :CnOOZU0s
#294 [笹]
たった一度、触れただけ
一瞬だけ‥重なった。
_
:10/02/01 17:30 :D905i :CnOOZU0s
#295 [笹]
:10/02/01 17:33 :D905i :CnOOZU0s
#296 [我輩は匿名である]
:10/02/01 21:28 :W53H :G6YaoaOg
#297 [笹]
"立てば芍薬、座れば牡丹、
歩く姿は百合の花"
そんな言葉がありますが
そんなに美しい女性って
実際にいるのかな?
壱助さんは
出会ったことあるんだって
今日はそんな壱助さんの
少し昔のお話です。
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#298 [笹]
:
:
:
色がましい声で溢れる此処に
そんな声が一切聞こえない部屋
「また、来やしたぜ?」
毎日のように通いつめるのは
此処目的ではない
「また来たのかい
‥懲りない男だねぇ」
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#299 [笹]
目的はこの遊女
容姿端麗
性格も気は強いが悪くはない
「まぁ、まぁ」
決まって距離を少しばかり取って
隣で足を崩す
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#300 [笹]
新しい着物だとか簪だとか
そんなことを言えば
"よく見てるねぇ"と
呆れ顔で笑顔を向ける
真っ白な首筋にある小さな黒子
彼女は好きじゃないと言う
‥私はそうは思わないのですが
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#301 [笹]
「あんた位だよぉ?
此処へ来て手を出さないの」
「ほぉう‥そりゃあいい」
「金払ってるんだから
何したっていいんだのに‥」
"好き者だねぇ"と酒を差し出す
:10/02/01 22:34 :D905i :CnOOZU0s
#302 [笹]
「他の輩と‥
一緒にされちゃあ、困りやすから」
他に理由があると言えば
ないとは言い切れません、ね
好きな女にゃ、
金払って手を出す気はないんでね
:10/02/01 22:35 :D905i :CnOOZU0s
#303 [笹]
「全く‥馬鹿な人」
赤い紅を緩ませて
本当はあどけなさが残る
白いお粉で顔を隠して
金で買われる惨めな女
「あたしが抱いてと言っても
抱かないのかい?」
少し不安そうに顔を覗き込む
そんな顔して
‥何を求めてるんで?
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#304 [笹]
「"外"に出たら‥いくらでも」
「それなら、あんたのは
一生お目にかかれないねぇ」
嫌味ったらしく
目を細めて呟いた
ほう‥貴女も好き者です、か
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#305 [笹]
「まだ返し終わりません、か」
心配そうに見つめれば
"一生だよ"と言う
この遊女には莫大の借金がある
自殺した父親の残したものだ
それを返すために
此処で体を売っていると言う
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#306 [笹]
「一生売ってもね、
終わらないんだよ、好き者さん」
煙管を吹かして
煙を宙に漂わせる
それをぼうっと眺めて
消えるのを見送っていた
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#307 [笹]
「‥体に悪いですぜ?」
「知ってるさ、
これで死ねるなら‥死にたいよ」
馬鹿なことを言う人です、よ
「‥金なら、私が代わりに‥」
すると大口を開けて笑った
他の女なら下品な姿だ
:10/02/01 22:38 :D905i :CnOOZU0s
#308 [笹]
「お節介は、よしとくれよ
あんたにゃ関係ないだろう?」
曇った目の奥が
叫んでいるじゃあ、ないですか
"助けてくれ"と
言ってるっというのに
全く遊女は、演技が上手い
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#309 [笹]
「‥好き者さん?」
最期だと甘えます、か
「壱助と、申しまして」
少し躊躇いやしたか
所詮私は貴女の"顧客"
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#310 [笹]
「壱助さん‥抱いとくれよ」
真っ白な華奢な肩
何人がそこに触れましたか
‥私は、何人目で?
「此処では‥控えます、よ」
此を嫉妬と言うならば
‥受け入れ、ましょうか。
:10/02/01 22:40 :D905i :CnOOZU0s
#311 [笹]
「‥汚いからかい?」
「いえ、」
「‥最期に、
あんたに抱かれたいんだよ」
「今日は、これで‥」
あぁ‥貴女と言う人は
私の気持ちを知ってるくせに‥
涙に弱いと知ってお出でで?
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#312 [笹]
「嫌なんだよ‥
一度でいい‥壱助さん」
やっと子供らしくなって
大きな雫をこぼして
"最期"などと言いますか
「‥もう大人でしょうに、
みっともない、ですよ」
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#313 [笹]
力なく抱き締めると
しがみつくように
着物に爪を立ててただをこねる
「馬鹿です、ね‥全く」
軽く口元に口づけた
:10/02/01 22:42 :D905i :CnOOZU0s
#314 [笹]
色がましい声に埋もれて
聞こえる泣き口説く声
背中に訴える枯れた声
貴女を愛した男は
酷く我が儘で
貴女が愛したであろう男は
‥酷く情けなかった
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#315 [笹]
―‥"籠の鳥"
振り返った時には
何も掴めなかった無力の掌と
煙管と白い着物に染み付いた
美しすぎて恐ろしい赤い花
こんなにも‥
お慕い申し上げていたのに、と
嘆いたって宙に浮いて消えるだけ
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#316 [笹]
:
:
「立てば芍薬、座れば牡丹
‥歩く姿は何とやら」
月光に浮かぶ
目の前の小娘を‥
「うぅ‥壱、助さん」
また愛そうなんて、
「‥程遠い、か」
嗚呼‥わからない男です、よ
:10/02/01 22:44 :D905i :CnOOZU0s
#317 [笹]
:10/02/01 22:48 :D905i :CnOOZU0s
#318 [笹]
消毒だと言っているのに‥
"顔に紅葉を散らす"訳を
教えていただけや、しやせんか
:10/02/02 22:52 :D905i :0yxagqRA
#319 [笹]
:
:
:
「ただいまぁー」
たった五日で
お茶の葉一缶終わっちゃうって
‥飲みすぎでしょうよ
だから今日は
三つも買ってきちゃったっ
安くしてもらえたし
んー‥得した気分
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#320 [笹]
これで半月はもつよね
って言っても‥半月だけ
「壱助さーん!!
買ってきましたよーお茶の葉」
「‥」
‥無視ですか。
せっかく買ってきてあげたのにぃ
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#321 [笹]
「‥返事くらいしてくださいよぉ」
ぷぅっと頬を膨らませて
横になってる背中に訴えた
‥チュンチュン
何も音がしない
静かな日だなぁー
:10/02/02 22:54 :D905i :0yxagqRA
#322 [笹]
窓の外をじっと眺めて
葉から落ちる雫を目で追った
‥チュンチュン
‥チュンチュン
「‥もっしっかっしってぇ」
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#323 [笹]
不思議と緩む頬
着物をきっちり整えたまま
左腕を枕にして
横になってる壱助さんに
そろりと近づいた
「‥寝てる?」
‥って言うか、生きてる?
死んでる?って
不安になる程微動だにしなくて
また肌が白いから余計‥。
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#324 [笹]
「おーい」
目の前で手を振ってみたり
いろんな角度から覗いてみたり
‥どの角度から見ても
綺麗だよねぇ、と感心。
「‥ふふ」
怪しい笑みを浮かべる
壱助さんの寝顔なんて
‥初めてみた。
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#325 [笹]
‥いつも寝てるのかなぁ
あたしが出かけてる時
こうして、寝溜めしてるのかな
伸びきった首筋
伏せられた長い睫
筋の通った鼻
腰の辺りなんてあたしより‥
「‥きれいですねぇ、本当に」
全く抜け目がないから
憎たらしくなる
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#326 [笹]
壱助さんの横に寝転がって
ふうっと息を吐く
天井を眺めて
独特の自然の模様を
ぼうっと目に映してみた
よく耳をそばだてると
微かに壱助さんの寝息が
耳をくすぐった
乱れない規則正しい呼吸
:10/02/02 22:57 :D905i :0yxagqRA
#327 [笹]
「‥消毒」
ふと横に顔を向けると
色っぽい唇に目が行く
消毒‥消毒かぁ
本当に触れただけだったけど
柔らかかったなぁ‥
しかも、あったかかった
「‥むふっ」
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#328 [笹]
思わずにやけてしまうほど
あの一瞬は
あたしの脳内を満たして
甘ったるい時間をくれた
「"消毒です、よ"なぁんて‥
そんな消毒がありますかぁ?」
人形のように固まった頬に
語りかける
もちろん返事はない
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#329 [笹]
なんとなく
あの簡素な返事が恋しくなる
無関心そうな声も
あるとないとじゃ大違いだ
「‥壱助さん?
拾ってくれて、ありがとお」
面と向かって
言えた試しがないから‥
こんな時に言ってみるのは
ずるいかな、
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#330 [笹]
こんなに誰かの隣が
居心地いいなんて‥
知らなかったなぁ
‥生きてて良かった。
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#331 [笹]
:
:
「風邪‥引きます、よ」
目を開けると
目の前で小さく丸まる猫一匹
羽織物をかけてやると
微かに声を立てた
『‥拾ってくれて、ありがとお』
‥珍しく素直になるもんで、
起きているとも気付かずに
‥本当に鈍いです、ね
:10/02/02 23:00 :D905i :0yxagqRA
#332 [笹]
寝ている時だけは大人しい
子供同然じゃあ、ないですか
目を細めて前髪をそっと撫でた
するすると指の隙間を抜ける
細くて艶のある具合が
何とも垢抜けていて
子供だと言えないほどに美しい
:10/02/02 23:01 :D905i :0yxagqRA
#333 [笹]
「ちょいと‥
無防備すぎやしやせん、か」
裾の辺りが少しはだけて
女らしい脚が見える
小さく開いた手に指を添えれば
赤ん坊のように
ぎゅっと握りしめられた
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#334 [笹]
「本当に‥放っておけやしない」
呆れるように溜め息をつき
緩く笑った
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#335 [笹]
:
:
:
あぁ‥寝ちゃった。
壱助さんが起きたら
"寝顔見ちゃったぁーっ"って
からかってやりたかったのに
まぁそんなの
‥からかいの内に
入らないんだろうけど
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#336 [笹]
「‥んん」
乱暴に目をこすると
辺りがぼやけて見えた
その時の顔と言ったら
相当酷かったに違いない
「あ‥壱助さん、起きてる」
あたしが買ってきた
新しいお茶の缶が開けられていた
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#337 [笹]
いつものように
正座してお茶を啜る姿を見て
夢でないと確信する
「あぁ、やっと」
顔をちらりとも向けず
そう言った
自分にかけてあった
壱助さん香りがする羽織物
‥何だかいい目覚め
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#338 [笹]
「夢でも見ました、か」
「夢‥?」
夢なんて見たかな‥
覚えてないや
すると壱助さんは
顔だけこちらに向けて
視線を落とした
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#339 [笹]
「"壱助さん、
お慕い申し上げておりました"と
寝言で、言っていたもので‥」
一度瞬きをして
一気に顔に熱が走ったのは
言うまでもない。
"鈍い人です、ね"と
壱助はまた茶を啜った
:10/02/02 23:05 :D905i :0yxagqRA
#340 [笹]
:10/02/02 23:08 :D905i :0yxagqRA
#341 [我輩は匿名である]
:10/02/03 19:07 :W53H :IjHWvVJs
#342 [笹]
鈍い上に‥
喜怒哀楽が激しい、ときた
この上なく‥厄介です、ね
‥まだまだ
子供じゃあ、ないですか
"かわいさ余って憎さ百倍"
そんな言葉がありますが
‥この憎たらしさは、どうだか
:10/02/03 21:25 :D905i :s1isUj7A
#343 [笹]
「どうして‥
あんな事したんですか!?」
「大したこと‥
ないじゃあないです、か」
「大した事ない?
鼻血でちゃったんですよ?!
血ですよ?血!血!血ーっ!」
「鼻血くらい
貴女も、出るでしょう」
「それとこれとは別です!!」
「ほう‥、全く鈍い人だ」
:10/02/03 21:25 :D905i :s1isUj7A
#344 [笹]
:
:
:
「伊代さん!!
どう思いますかぁ?!」
せっせと他の客に
団子やらお茶やら運ぶ
女将に訴えた
「んー‥そうだねぇ、
‥はい、団子お待ちーっ」
:10/02/03 21:26 :D905i :s1isUj7A
#345 [笹]
眉間に深くシワを寄せて
ぷうっと頬を膨らます
香夜は物凄い形相で団子を喰らい
一席空けた横に座る
壱助を睨みつけた
「またお茶ですかぁ?
体緑色になっちゃいますよ」
低い声を横に向けて放つ
しかし変わらぬ壱助の表情
:10/02/03 21:26 :D905i :s1isUj7A
#346 [笹]
「‥五月蝿い猫です、ね」
茶を啜って
"やれ、やれ"と軽くあしらった
「んもーっ!!いらいらするぅ」
キーっと頭をかきむしり
落ち着かない香夜の前に
仕事が落ち着いた伊代が座る
「全く、何したってんだぁい?」
:10/02/03 21:27 :D905i :s1isUj7A
#347 [笹]
はぁとため息を付いて
壱助に視線を落とす伊代
「ちょいと、
わからせてやっただけ、ですよ」
「‥何をだい?」
「壱助さん、人殴ったんです!!」
:10/02/03 21:28 :D905i :s1isUj7A
#348 [笹]
:
:
珍しく壱助さんが
買い出しに付いて来てくれた今朝
だけどちょっと
ご機嫌斜めなようで
野良猫にキッと睨みをきかせ
下駄を乱暴に鳴らしてた
:10/02/03 21:28 :D905i :s1isUj7A
#349 [笹]
「あ‥壱助さん
鯛焼き食べましょうよーっ」
「‥甘味は好みやせん」
「美味しいのにー‥」
「食べたら良いじゃあ、ないですか」
そう言われたから
買いに行ったんです。
買いに行っただけ!ですよ?
それなのに‥
:10/02/03 21:29 :D905i :s1isUj7A
#350 [笹]
「鯛焼き一つくださぁーい」
「毎度ありーっ!!
おや、お嬢ちゃん‥
別嬪さんだねぇ」
鯛焼きを売ってたのは
お兄さんって感じの若い人
威勢がよくて粋な感じ
:10/02/03 21:29 :D905i :s1isUj7A
#351 [笹]
「へ?
や、やだなぁーお兄さんっ
そんなお世辞言っても
一つしか買いませんよー?」
とか言いながら
やっぱり内心嬉しくて
顔を赤く染めてしまったんです
「手厳しいなぁー
‥今夜、どうだい?」
まさか鯛焼き屋さんから
そんな言葉でるとは
思いもしないじゃない?
:10/02/03 21:30 :D905i :s1isUj7A
#352 [笹]
だから驚いて
ついついどもってしまって‥
「おや、
照れた顔もかわいいねぇ」
なんて言われて
"あいよ"って鯛焼きを
わざわざこちら側にきて
渡してくれたわけです
「あ、ありがとうございます」
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#353 [笹]
突然背筋が凍りついた
後ろから殺気
カラン‥コロン
壱助さんの下駄の音が
だんだんと大きくなる
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#354 [笹]
「あぁ、では‥こっこれで」
「ちょいと、お話くらい‥」
鯛焼き屋さんに
腕を掴まれ引き寄せられた
カラン‥コロン
来る‥来るよぉーっ
鯛焼き屋さん離れてくださ‥
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#355 [笹]
「‥鯛焼き屋さん、とやら」
低い声がこちらに向かって
刃を剥いた
「んあ?何だぁ?あんた」
たたたたっ鯛焼き屋さん!!
壱助さんに何て口のきき方っ
:10/02/03 21:32 :D905i :s1isUj7A
#356 [笹]
壱助さんの切れ長の目が
鯛焼き屋さんを捕らえた
「私の妻に‥
触れないで、いただきたい」
あたしを捕らえた手がぱっと離れ
鯛焼き屋さんの目が開ききり
口がだらしなく開いていた
「つつ‥妻?!
そりゃあ‥失敬し‥」
:10/02/03 21:33 :D905i :s1isUj7A
#357 [笹]
―‥ドカッ
壱助さんの拳が
勢いよく鯛焼き屋さんの
顔面に吹っ飛んできた
あたしの足元に倒れ込んだ
彼の鼻から垂れる赤い血
有 り 得 な い !!
:10/02/03 21:34 :D905i :s1isUj7A
#358 [笹]
「壱助さん何てこと‥
‥大丈夫ですか?」
"悪いのは俺の方だ"と
軽く笑って謝る鯛焼き屋さん
「壱助さん!!謝って下さい」
正反対にしれっとした顔で
そんな様子も見せない壱助さん
と言うか
まだいらいらしてる模様
眉間にしわが寄っていた
‥人に当たるなんて酷い
:10/02/03 21:34 :D905i :s1isUj7A
#359 [笹]
:
:
:
結局壱助さんは謝らず
あたしが代わりに謝って
鯛焼きをたくさん買って今
「ねぇ?伊代さん
あたし間違ってないですよね?!」
事情を話せばぶり返す熱
自然と声量も大きくなる
「まぁ、いきなり殴るのは
良くないねぇ‥」
呆れ顔で伊代が壱助を見つめる
:10/02/03 21:35 :D905i :s1isUj7A
#360 [笹]
「‥わからない人です、ね」
「ただ手を握っただけでしょう?
それだけで殴るなんて‥酷い!!」
明らかな温度差に
伊代はくすりと笑った
「手をあげるのは良くないけど‥
全く、わかりやすいねぇあんた」
:10/02/03 21:36 :D905i :s1isUj7A
#361 [笹]
「‥」
「香夜ちゃんも、
わかってやんなよぅ?」
わかってやれって‥
人を殴る気持ちなんて
あたしにはわかんないよ
何だか突然泣きたくなった
:10/02/03 21:36 :D905i :s1isUj7A
#362 [笹]
「妻に手出されちゃ‥
誰だって‥ねぇ?」
伊代が目で壱助に訴えると
"全くです、よ"と茶を啜る
そんなのはもう
耳に入らないくらい香夜はご立腹
:10/02/03 21:37 :D905i :s1isUj7A
#363 [笹]
「こりゃあ‥手強いです、ね」
涙目で伊代に訴える香夜を
横目で見つめて呟いた
「"妻"と言う言葉も
ご存知ないんですか、ね」
‥ぽつり呟き微笑んだ
:10/02/03 21:38 :D905i :s1isUj7A
#364 [笹]
:10/02/03 21:41 :D905i :s1isUj7A
#365 [我輩は匿名である]
:10/02/04 08:23 :W53H :1leDQ1V.
#366 [笹]
私の飼い猫は、
幼い頃に親の愛情を
あまり受けてないようで‥
そうとなれば、親代わり
"蝶よ花よ"と育てましょう、か
:10/02/04 19:11 :D905i :5gVCO4/Q
#367 [笹]
:
:
:
またお茶の葉がなくなり
また買い出し
半月もたなかった‥有り得ない
壱助さんを連れてくると
喧嘩の原因になりかねないので
今日はひとりです。
:10/02/04 19:12 :D905i :5gVCO4/Q
#368 [笹]
「‥。」
一枚のチラシが
お茶屋さんの壁に貼ってあった
ぴらぴらと風になびいて
音をたててるもんだから
ついつい目が行った
「‥わぁ」
胸を時めかせた
:10/02/04 19:12 :D905i :5gVCO4/Q
#369 [笹]
:
:
:
「壱助さぁぁああん!!!」
子供みたいに駆け寄って
息を切らせて叫ぶ
「何、か」
珍しくお茶飲んでない‥
って、もう無いんだった
ぼうっと窓の外を眺めて
枝に止まる雀を
愛おしそうに見つめてる
:10/02/04 19:13 :D905i :5gVCO4/Q
#370 [笹]
‥お茶なくても
機嫌良いときあるんだぁ
新しい発見である。
「壱助さん!!今日の夜お祭り!!」
そう
あのチラシは夏祭りの物で
心惹かれたの
:10/02/04 19:13 :D905i :5gVCO4/Q
#371 [笹]
だって小さな時に
数回しか行ったことないんだもん
‥水飴とか食べたいし
「それが何、か」
早く茶を渡せと言わんばかりに
湯飲みをカタカタ鳴らす
‥依存症ですかあなた
:10/02/04 19:14 :D905i :5gVCO4/Q
#372 [笹]
「一緒に行きましょうよーっ!!」
人が勇気出して誘ってるのに
"何、故"と言う
乙女心わかれーっ!!もうっ
「‥水飴食べたいんですぅ」
やっぱり今日は
ご機嫌がよろしいらしい壱助さん
「ほぉう‥よし、よし」
睫を伏せて口角を上げ
一度だけ頷いた
:10/02/04 19:15 :D905i :5gVCO4/Q
#373 [笹]
:
:
「壱助さん早くぅっ!!」
浴衣の袖をひらひらさせて
下駄が忙しなく踊る
「まぁ、まぁ」
と言って出てきた壱助さんは
目眩がするほど美しすぎた
緩く着こなした浴衣
懐から見える白い肌の面積が
いつもより確実に多い
:10/02/04 19:16 :D905i :5gVCO4/Q
#374 [笹]
こりゃあ‥
落ち着いてあるけない‥
いかんいかん!!
しっかりしろ香夜!!
「水飴は逃げやしやせん、よ」
‥それでもって
今日はかなり穏やかだから
少し調子が狂います
:10/02/04 19:16 :D905i :5gVCO4/Q
#375 [笹]
壱助さんの一歩後ろを歩く
‥いい匂いがする。
提灯のぼんやりした明かりが
壱助さんの首筋を照らして
この世の物とは思えないくらい
本当に綺麗で‥
やっぱり女なんじゃないかとか
疑ってしまう
:10/02/04 19:18 :D905i :5gVCO4/Q
#376 [笹]
お昼の街の賑わいとは
また違う雰囲気で
家族連れや恋仲の人達が
たくさんいた
周りの人たちに
あたしと壱助さんは
‥どう映ってるんだろう
一歩の距離がもどかしくなる
:10/02/04 19:18 :D905i :5gVCO4/Q
#377 [笹]
:
:
「お父さん!!金魚すくい!!」
小さな女の子が
父親の浴衣の袖を引っ張った
「おぉ!懐かしいなぁ
やってみるかい?」
目線を合わせて小さく屈んで
答えた笑顔が羨ましい
思わず足が止まった
お父さん‥か
:10/02/04 19:19 :D905i :5gVCO4/Q
#378 [笹]
‥ギュウ
突然手に冷たい感覚
目をやれば真っ白で綺麗な手
「金魚すくい‥やりたい、かい」
視線を前に向けたまま
壱助さんがそう言った
「‥え?」
今日の壱助さんは
やっぱりどこか可笑しい
:10/02/04 19:19 :D905i :5gVCO4/Q
#379 [笹]
きっとこの握った手も
ぎこちない喋り方も
壱助さんなりの気配りだ
‥何となくそんな気がした
何も言わずに
あたしの答えを待つ
器用そうに見えて
案外不器用なのかもな‥
今日二つめの新しい発見
:10/02/04 19:20 :D905i :5gVCO4/Q
#380 [笹]
:
:
結局金魚すくいやって
やっぱり壱助さん器用で
ひょいひょいすくうもんだから
叔父さんも困り顔
言うまでもなくあたしは
一匹もすくえず‥。
と言うか正直な所
壱助さんの横顔に見とれてた
睫‥また伸びてた気がしました。
:10/02/04 19:21 :D905i :5gVCO4/Q
#381 [笹]
"猫のくせに、
魚一匹も捕まえられぬとは‥
‥やれ、やれ"
クスっと鼻であしらわれ
いつもの調子の壱助さんに
少し緊張がほぐれた
:10/02/04 19:21 :D905i :5gVCO4/Q
#382 [笹]
:
:
:
「あ!水飴だよ壱助さん!」
まるで子供なのだ
壱助さんの手を引いて
人混みを掻き分けて先走る
だけどそれでも構わない
だって水飴なんて久しぶりよ!!
「はい、はい」
水飴を手にしたあたしに
呆れるように返事をした
:10/02/04 19:22 :D905i :5gVCO4/Q
#383 [笹]
水飴をびろんと伸ばして
目を輝かせて巻き取る
キラキラ光るそれを
目を細めて眺める壱助さんと
自然と目があった
「‥食べますか?」
「甘味は‥好みません、で」
あぁそうだったと
気落ちするあたしの手を
また引いて歩く
:10/02/04 19:22 :D905i :5gVCO4/Q
#384 [笹]
親子みたいかな?
それとも恋仲同士?
‥何でもいいのだ
ただ今の時間が心地いいの
:10/02/04 19:23 :D905i :5gVCO4/Q
#385 [笹]
:
:
人が疎らになり
明かりもあまり届かない土手へ
蒸し暑かった人混みで
じわりと汗をかいた背中に
ひんやりした心地いい風が吹く
水飴を銜えて
浴衣を気にしながら腰掛けた
:10/02/04 19:23 :D905i :5gVCO4/Q
#386 [笹]
「壱助さんって‥」
あたしの口は
急に語り出すから冷や汗物
"愛する人いますか?"なんて
聞こうとするのだから
‥本当に恐ろしい
:10/02/04 19:24 :D905i :5gVCO4/Q
#387 [笹]
「人混みは疲れます、ね」
「え?あぁ‥
そ‥そうですねぇーあはは」
壱助さんの声が
久しぶりにはっきり聞こえたから
何だか、どきっとした
:10/02/04 19:25 :D905i :5gVCO4/Q
#388 [笹]
「‥満足ですかい?」
水飴を頬張るあたしを見つめて
壱助さんが呟いた
いやもう
壱助さんの浴衣姿だけで満足‥
なんて言えませんよ。ええ
:10/02/04 19:26 :D905i :5gVCO4/Q
#389 [笹]
「はいっ!!
ありがとうございまし‥」
あれ‥?
突然目の前がひっくり返る
微かに首筋に感じる温もり
:10/02/04 19:26 :D905i :5gVCO4/Q
#390 [笹]
「いぃいっ壱助さん?!」
暗くてよかった‥
絶対今あたし顔赤いよ‥
「たまには、
いいじゃあ‥ないです、か」
甘い声が耳をくすぐる
:10/02/04 19:27 :D905i :5gVCO4/Q
#391 [笹]
手を引き寄せられて
壱助さんの膝を
枕にしてしまったあたし
それだけで心臓が壊れそうなのに
華奢で大きな手が
ふわっとあたしの髪を撫でて
もう‥香夜は死にそうですよ
:10/02/04 19:28 :D905i :5gVCO4/Q
#392 [笹]
「‥香夜さん」
優しく頬を撫でて
ねぇ‥壱助さん
:10/02/04 19:28 :D905i :5gVCO4/Q
#393 [笹]
「―――――‥、」
"あたしもです"と囁いた。
:10/02/04 19:29 :D905i :5gVCO4/Q
#394 [笹]
:10/02/04 19:33 :D905i :5gVCO4/Q
#395 [我輩は匿名である]
:10/02/05 12:42 :W53H :QBCwpTC2
#396 [笹]
最近、猫は‥危なっかしい
"親"としての責任が
問われます故‥
そこら寄り付く輩を
‥退治せねばぁ、なりませんで
"親の意見と茄子の花は
千に一つも仇はない"
:10/02/05 22:14 :D905i :mdMMDFsU
#397 [笹]
―‥鬼も風邪を引くらしい。
また新しい発見である。
と言うわけで
漢方薬でも買ってこようと
また街に出たのです
やっと此処にも馴れてきて
顔も覚えてもらえるようになった
:10/02/05 22:17 :D905i :mdMMDFsU
#398 [笹]
「‥さて、そろそろ戻らなきゃ
壱助さんに‥。」
いつだって死と隣り合わせ
壱助さんは殺しはしないって
言ってはいるけど‥
「爪の間に針を‥」
考えるだけで心臓が痛みますよ
:10/02/05 22:18 :D905i :mdMMDFsU
#399 [笹]
ふうっと深く息を付いて
足早に宿に戻ろうとした
‥足が動かない、あれ?
足がずしりと重い
もしかして死神?迎えに?
:10/02/05 22:18 :D905i :mdMMDFsU
#400 [笹]
思わず引きつる顔を
恐る恐る下に向けると
「‥え?」
そこにはあたしの着物に
ぎゅっとしがみつく子供
着物に顔を埋めたまま離さない
あたし‥子供産んだかしら
なーんて訳の分からんことを
真剣に考えてしまう
:10/02/05 22:19 :D905i :mdMMDFsU
#401 [笹]
「ごるぁぁぁああ!!!」
突然‥
物凄い形相をした男の人が
こちら目掛けて突進してきたのだ
‥いつだって死と隣り合わせ。
「ちょ‥何何なんなのー?!」
あたふたするものの
子供が地蔵のように重く
ぴくりともしない足
:10/02/05 22:20 :D905i :mdMMDFsU
#402 [笹]
し、し‥‥死ぬ。
_
:10/02/05 22:21 :D905i :mdMMDFsU
#403 [笹]
「こっち来るなよぉお!!」
「お前っ!!
米粒を茶碗に残すなって
あれだけ言っただろう!!」
は?
「見えなかったんだぁ!」
「言い訳するなー!!」
明らかに男の人の視線は
この子供に向いている
:10/02/05 22:21 :D905i :mdMMDFsU
#404 [笹]
「あ‥あのぅ」
あたしを盾にして隠れる子供
とっつかまえようと
あたしの前で機敏に動く人
そしてあたしの周りで始まる
いたちごっこ。
「一粒だけだろーっ!」
「お前っ見えてるじゃあないか!!」
「うぅ‥来るなぁあ!!」
‥厄介な物に巻き込まれました
:10/02/05 22:22 :D905i :mdMMDFsU
#405 [笹]
:
:
:
「いやぁーお恥ずかしい所を」
先程の鬼みたいな顔とは
打って変わって
がははと笑うその人は
"茂七"と言うらしい。
とても人がよさそうだ
隣にちょこんと座る
口を尖らせた少年は"正宗"くん
米一粒を残した少年だ
:10/02/05 22:23 :D905i :mdMMDFsU
#406 [笹]
「正宗は姉貴の子供でして」
「お姉さんの‥そうでしたか」
「姉貴は病弱なもんで、
よく俺が世話するんですが‥」
見る限り
あまり懐いてなさそうだ
「茂七‥怒ると怖いんだもん」
正宗くんが拗ねた様子で呟いた
子供らしい理由に
思わずクスリと笑ってしまう程
:10/02/05 22:23 :D905i :mdMMDFsU
#407 [笹]
「迷惑かけちゃいやしたし‥
飯でもおごらせてくださいよ!」
非常に爽やかである
うん‥いい青年ってかんじ
‥なんて品定めするほど
あたしは男を知りません
「本当ですかぁっ?」
食べ物には目がありません
:10/02/05 22:24 :D905i :mdMMDFsU
#408 [笹]
"道草を喰わない、こと"
‥鬼が呼んでいる
"でないと‥お仕置きです、よ"
か‥帰らねば
:10/02/05 22:24 :D905i :mdMMDFsU
#409 [笹]
「お言葉に甘えたい所ですが、
"鬼"に殺されるので‥あは」
「鬼?」
「鬼のような人が、待ってるので」
:10/02/05 22:26 :D905i :mdMMDFsU
#410 [笹]
:
:
:
何だか足取りが軽い
だって明日
男の人とお食事なんて‥
「うふふー」
「ほぉう‥
こりゃあ随分と
遅い帰りで、いらっしゃる」
心臓‥いや
体の全部の臓器がびくりとした
:10/02/05 22:27 :D905i :mdMMDFsU
#411 [笹]
「あぁあ‥ちょっと」
あははなんて笑って見せても
‥もちろん無駄で
布団の上で正座をする壱助さんは
怪しい笑みを浮かべた
「病人をほったらかしにするとは
‥薄情な人です、ねぇ」
:10/02/05 22:28 :D905i :mdMMDFsU
#412 [笹]
額にあてていた濡れた手拭いを
ピンと張って‥戦闘態勢ですね
「いや、そのぉ‥」
「お仕置きがそんなに
‥お好きです、か」
「ひぃっ!!」
「自虐的です、ね」
「‥ッうぅ!!!」
:10/02/05 22:29 :D905i :mdMMDFsU
#413 [笹]
壱助さんの右手が
あたしの首をぐっと掴む
細い指が食い込むのが分かる
「く‥るひぃ」
「風邪を引いてます故‥
少々手に力が入りませんで」
鬼‥鬼鬼鬼!!
「もっと苦しんだ顔が
見たいもの、ですが‥ねぇ」
死ぬ‥窒息死‥馬鹿力‥
:10/02/05 22:29 :D905i :mdMMDFsU
#414 [笹]
にやりと微笑む壱助さん
優しい笑顔なのだ
いや優しすぎる笑顔なのだ
笑顔が怖いと思うのは
壱助さんくらいだよ
「い‥ひふへ」
ぱっと手が離されると
肺が破裂しそうなほど息を吸い
酸素が脳に一気に入って
体が浮きそうになった
:10/02/05 22:30 :D905i :mdMMDFsU
#415 [笹]
「‥んぐっはぁ」
「何を‥してたんですかい?」
手拭いをこっちに差し出し
"早く濡らして絞れ"と言うように
顔に押し付ける
もう治ったんじゃないですか?
壱助さん不死身そうだし
「それが‥」
:10/02/05 22:31 :D905i :mdMMDFsU
#416 [笹]
:
:
冷たい水に手を浸ける
壱助さんの手みたい‥
ぎゅっと絞りながら事情を話すと
乱暴に手拭いを受け取った
「その茂七とやらは‥何者で?」
少し気だるそうに
帯を緩めて白い肌が顔を出す
いつになっても慣れない
この美しさ
:10/02/05 22:31 :D905i :mdMMDFsU
#417 [笹]
「すごくいい人そうでしたよ!
金物屋さんをやってるそうで‥」
「ほぉう‥」
明らかに話し聞いてないし‥
興味ないなら聞かなきゃいいのに
ずずっと茶を啜るのは
いつもと変わらず元気な気がする
:10/02/05 22:32 :D905i :mdMMDFsU
#418 [笹]
「私は香夜さんの
‥"親代わり"です、ぜ?」
親代わり‥うん
まぁそうなのかもしれない
自分で言うのもあれだけど
"飼い主"同然である
「まぁ‥そうですねぇ」
:10/02/05 22:33 :D905i :mdMMDFsU
#419 [笹]
心配してくれてるのかな?
それとも‥"焼き餅"かなぁー
なぁーんて‥
壱助さんは
あたしみたいな子供に
妬くような人じゃないけど
:10/02/05 22:33 :D905i :mdMMDFsU
#420 [笹]
「そやつに会う‥
義務が、あります‥ねぇ」
カタンと湯飲みが音を立てる
あの口角だけ上げた笑みは
この世で一番恐ろしいのだ
:10/02/05 22:35 :D905i :mdMMDFsU
#421 [笹]
:10/02/05 22:40 :D905i :mdMMDFsU
#422 [我輩は匿名である]
:10/02/06 08:59 :W53H :evpZsMz6
#423 [笹]
:
:
:
「‥何で付いてくるんですかぁ」
結局付いてきた壱助さん
改め保護者さま
「"責任"ですから、ね」
下駄が立てる音は
明らかに不機嫌そうである
:10/02/06 21:16 :D905i :uaVNeT2k
#424 [笹]
放たれる威圧感に
周りの人々も寄り付かず
町娘たちは
黙って壱助さんを目で追った
「別にそんな‥
ご飯頂くだけですよー」
「二人で来るなと‥
言われてお出でで?」
痛いところをつくものです
:10/02/06 21:18 :D905i :uaVNeT2k
#425 [笹]
「‥風邪は?
もう治ったんですか?」
「‥ごほごほ
まだ‥です、が」
変な演技しないでくださいよ
棒読みの咳なんて
初めて聞きましたよ、もう
「だったら
寝てなくちゃだめです!!」
立ち止まって後ろを向き
訴えてみても‥無駄
:10/02/06 21:18 :D905i :uaVNeT2k
#426 [笹]
「あんまり茂七さんに
突っかからないでくださいよ?」
せっかくの楽しみが‥
仕方なく溜め息を付き
前を向いた瞬間だった。
「んぎゃっ!!」
後ろからど突かれて
顔面から地面に突っ込み
走る激痛、土の味
:10/02/06 21:19 :D905i :uaVNeT2k
#427 [笹]
言うまでもなく
犯人は壱助さんです
「風邪を引いてます故‥
ちょいと、意識が朦朧と‥ねぇ」
鋭い切れ長の目が見下ろす
行かないでほしいなら
素直に言えばいいのに‥
体がいくつあっても足りない位
それでもって
よく耐えられるなと自讃する
:10/02/06 21:19 :D905i :uaVNeT2k
#428 [笹]
「香夜さん?!大丈夫ですかい?」
心配そうな面持ちで
駆けつけてくれたのは
茂七さんだった
‥ちょっと、間が悪いです
「あぁ‥大丈夫ですよぉーう」
おどけながら立ち上がり
着物の埃をはらった
:10/02/06 21:20 :D905i :uaVNeT2k
#429 [笹]
"やだー恥ずかしいなー"なんて
へらへらしてるのは
どうやら場違いだったみたい
「‥女性に何てことするんだ!!」
‥茂七さんっ命知らずっ!!
「ほぉう‥」
少し笑みを浮かべて目を細める
逆鱗に触れた合図です
:10/02/06 21:21 :D905i :uaVNeT2k
#430 [笹]
壱助さんは絶対に
茂七さんみたいな‥
こういう熱い人が嫌いだと思う
‥の前に、男が嫌いだと思う。
:10/02/06 21:21 :D905i :uaVNeT2k
#431 [笹]
:
:
:
「えっと‥
此方が昨日話した茂七さん」
目の前に座る彼を紹介
茂七さんは間が悪そうに
軽く会釈をした
そして‥
隣に座る威厳ある父(仮)
やはり茶を啜る父(仮)
:10/02/06 21:22 :D905i :uaVNeT2k
#432 [笹]
「それで‥此方が‥」
「‥香夜の兄、です」
あ‥兄と来ましたか?!
まぁ夫とかよりはましだけど
兄‥はぁ、
あたしの兄にしては美しすぎる
「え、ちょっと‥壱助さ‥」
「"お兄様"です、よ」
いつもより張った声が
ずしりと重くのし掛かる
:10/02/06 21:23 :D905i :uaVNeT2k
#433 [笹]
「お兄様でいらっしゃいましたか
これは誠に無礼な事を‥」
深々と頭を下げる茂七さん
‥残念ながら
お兄様じゃないんですぅ
「いえ、いえ」
‥この雰囲気で
一体何を話すのか
:10/02/06 21:23 :D905i :uaVNeT2k
#434 [笹]
:
:
「香夜さんは今お幾つで?」
カチャカチャ
「十八ですよっ」
ズルズル
「いやー一番美しい時だぁ!!」
カツカツ
「やだなぁーっ
そんな事ないですってー」
コツコツ
:10/02/06 21:24 :D905i :uaVNeT2k
#435 [笹]
ねぇわざとでしょう?
ねぇわざとなんでしょう?
その音!!
食事の時なんて
あたしが音立てると
五月蠅いって怒るじゃない‥
「いち‥じゃない、お兄様?」
「何、か」
「もう少し‥」
:10/02/06 21:25 :D905i :uaVNeT2k
#436 [笹]
「あぁ、
香夜は本当に良い妹でして‥
あれやこれやとお声が
良く掛かるんですが、ねぇ」
口角が上がった
しかも饒舌
声掛かってるのは貴方でしょ
「もう心に決めた者が
‥居るそうですぜ?」
"ねぇ"と横目で訴え
足をぐいっと踏みにじられ
強要される同意
:10/02/06 21:26 :D905i :uaVNeT2k
#437 [笹]
「香夜さん‥そうなんですかい?」
茂七さんの見開いた目が
何とも印象的で
「ふぇっ?!
あぁ‥えっと‥まぁ‥うぅん」
語尾を弱めれば
潰され行く足の指
「ゔ‥い、居ますぅ!!!」
もうヤケだ
箸を握りしめて声を張る
折角、いい出会いだと思ったのに
あたし一生嫁に行けないのか‥
:10/02/06 21:27 :D905i :uaVNeT2k
#438 [笹]
:
:
結局威圧感に負け
大したお話も出来ず終い
「ご馳走様でした
何か、空気悪くなってしまって
申し訳なかったです‥」
頭が上がりませんよ
お兄様‥鬼ぃ様。はは
しかし茂七さんの返事は
予想外だった
:10/02/06 21:28 :D905i :uaVNeT2k
#439 [笹]
「いやぁそんなそんな!!
お兄様にも早速ご挨拶出来まして
‥これからが楽しみですね!!」
がははとまた笑い
あたしの肩をバシバシ叩く
これから?
‥あたし一応さっき
心に決めた人がいるって‥
:10/02/06 21:28 :D905i :uaVNeT2k
#440 [笹]
「こんな別嬪さんと
恋仲になれるなんて
俺も運がいいなぁ!!」
ほ?
何を勘違いしてるのか
どこまで前向きなのか
「とんだ勘違い野郎です、ね」
背を向けてぽつり呟いたのは
もちろんお兄(鬼)様。
:10/02/06 21:29 :D905i :uaVNeT2k
#441 [笹]
刀で一突きするように
躊躇なく毒を吐く
その度ひやひやさせられるのは
言うまでもない
「さ、帰りますよ香夜さん」
腕を掴むでなく
ぎゅっとあたしの手を握りしめ
思い切り引き寄せられた
:10/02/06 21:29 :D905i :uaVNeT2k
#442 [笹]
「‥?」
ぽかんと口をだらしなく開けた
茂七さんをよそ目に
壱助さんの唇が
あたしの首筋に触れた
「ちょちょちょいっ!!!
お‥お兄様何を‥?!」
わけわかりません
状況が読めません
:10/02/06 21:30 :D905i :uaVNeT2k
#443 [笹]
「‥"壱助さん"です、よ」
「え‥お兄様じゃあ」
目をぱちくりさせて
珍しい物を見るような茂七さん
こんな変な所見られるなんて‥
恥ずかしすぎる!!
:10/02/06 21:30 :D905i :uaVNeT2k
#444 [笹]
血液が体を
何度も何度も巡るのがわかる
勢いの良い鼓動が帯びる熱
「‥妻です、よ
さぁて、帰ったら直ぐに
此の火照った体を頂こう、か」
首筋を一舐め
生暖かい感覚に支配され
足の力が抜けそうだ
「なな‥なっ」
顔を真っ赤にした茂七さんは
嵐のように目の前から去った
:10/02/06 21:31 :D905i :uaVNeT2k
#445 [笹]
もう‥もう‥もう!!!
「壱助さんのすけべぇえぇえ!!!」
「おや、おや
威勢が良い妹です、ね」
破廉恥なクセに美しいから
結局、憎めない訳ですが‥
:10/02/06 21:32 :D905i :uaVNeT2k
#446 [笹]
:10/02/06 21:35 :D905i :uaVNeT2k
#447 [我輩は匿名である]
:10/02/07 09:32 :W53H :CcPPBOhA
#448 [我輩は匿名である]
:10/02/07 09:33 :W53H :CcPPBOhA
#449 [れぃ]
:10/02/07 11:31 :N04A :eBOH6ab6
#450 [笹]
酒は人を変えますが、
酔った姿が‥本当の姿
とも言うもんで‥。
しかし、酒に飲まれては
だらしなくなるものです、よ
"赤いは酒の咎"なんぞ‥
言い訳は無用です、ぜ
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#451 [笹]
:
:
―‥ある日の事である。
宿から聞こえるむせび声
何かと思って襖を開ければ
ぽつり部屋の片隅で
‥うずくまる"雌猫"一匹
「うぅ‥ッグズ」
‥酒臭い
虚しく転がる一升瓶
滴がぽたり
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#452 [笹]
足袋が畳に擦れる音に
ぴくりと反応しこちらを向いた
「壱助さぁああぁん」
酷い顔‥ですねぇ
「遅かったじゃ‥ッヒク
遅かったじゃらいれすかぁ」
四つん這いで着物にしがみつく
流石"雌猫"
:10/02/07 18:26 :D905i :zJfCkqns
#453 [笹]
「‥酔ってるんで?」
「酔ってまぁぁあっしゅ!!」
"えへへ"なんて言いながら
右手を挙げて見上げた
‥厄介な者に出くわしやした、ね
:10/02/07 18:27 :D905i :zJfCkqns
#454 [笹]
:
:
先程からひっきりなしに
だらしない笑みを浮かべ
一人騒ぎ立てる
「‥香夜さん」
「なんれすかぁ?ッヒク」
火照った体をよじり
目の前に座った
:10/02/07 18:27 :D905i :zJfCkqns
#455 [笹]
「‥騒がしいのです、が」
そんな事で
黙るとも思わないが
他にかける言葉がないもんで
「壱助さんも‥
飲みましゅかぁあ?」
馬鹿でかい声が鼓膜を突き刺す
:10/02/07 18:28 :D905i :zJfCkqns
#456 [笹]
「結構、です」
すると寂しそうに肩を落とし
"飲みましぇん?"と二度押し
―‥全く、困ったもんです、よ
:10/02/07 18:28 :D905i :zJfCkqns
#457 [笹]
:
:
「まだ‥寝ませんで?」
既に日付が変わり
静まり返った闇に包まれ
照らすは月の光のみ
子供のようにぐずるので
布団を乱暴に投げつけると
ぱたりと声がしなくなる
急に大人しくなられると
ちょいと、不安になるもので‥
:10/02/07 18:29 :D905i :zJfCkqns
#458 [笹]
「風邪‥引きます、よ」
顔にかかった布団を
除けてやれば
―‥ やられたもんだ
「ぶぁぁあっ!!」
‥糞、餓鬼
:10/02/07 18:30 :D905i :zJfCkqns
#459 [笹]
飛び出した両手が首に絡みつき
無理やり布団の中に押し込まれた
「命知らずです、ね」
こちらの気も知らずに
‥貴女と言う人は
:10/02/07 18:30 :D905i :zJfCkqns
#460 [笹]
背を向けて目を瞑る
乱れた鼓動を整えて
深く溜め息を吐く
調子が狂います、ぜ
「寝ちゃう‥んれすかぁ?」
「‥」
背中に問う声が
情けないほどに弱まった
:10/02/07 18:31 :D905i :zJfCkqns
#461 [笹]
「んう‥」
しなびた声が耳にかかる
こちらに現れた小さな白い手
生娘が男を‥襲う気ですかい?
後ろから抱きついた貴女は
何を思ってるのか‥
いつもなら頬を染めて
嫌だと喚くと言うのに
:10/02/07 18:31 :D905i :zJfCkqns
#462 [笹]
全く、酒は人を変えます故‥
そのせいで虚しくなるのも
また‥然り
「‥壱助さん」
背中に響く声が
こんなにも、こんなにも‥
「何、か」
色めいて聞こえるのも
:10/02/07 18:32 :D905i :zJfCkqns
#463 [笹]
「‥寂しかった」
‥酒の力ですか、ね
小さく震える体を
抱き締めてやりたいのに
どうしてこうも、躊躇うか
‥情けないもんです
:10/02/07 18:32 :D905i :zJfCkqns
#464 [笹]
:
:
「‥馬鹿です、ねぇ」
答えるような幼い寝息
月明かりに照らされた肌に
そっと触れる
呆れるほどに無防備で
着物を掴んだ柔らかな手が
ぴくりと呼吸した
:10/02/07 18:33 :D905i :zJfCkqns
#465 [笹]
「‥放って、置けやしない」
他の輩の前で
酒など飲ませてたまるかと
仕様もない独占欲に駆られ
‥小さな体を思い切り抱き寄せた
:10/02/07 18:33 :D905i :zJfCkqns
#466 [笹]
:
:
久しぶりに眠りに付いた
目を覚ますと
長い睫を伏せた"猫"
昨晩の艶やかさは何処へやら
‥何時ものあどけなさを残す姿
はだけた浴衣から
美しい鎖骨が見え
小さく微笑み遠慮がちに触れた
:10/02/07 18:34 :D905i :zJfCkqns
#467 [笹]
「ん‥う」
眩しそうに目を細めた酔っ払い
ちょいと間を置いて目を見開き
どうやら我に返った様子
「あ‥え?そそ‥添い寝?!」
:10/02/07 18:34 :D905i :zJfCkqns
#468 [笹]
色気のない声を出し
あたふたする姿を見て
何故か安堵を覚えたもので‥
「壱助さん‥え?やだぁっ」
頬を紅くして
布団に顔をうずめた
何を考えたんですか、ね
そんな簡単に
手なんか出しやしない‥ですぜ
:10/02/07 18:35 :D905i :zJfCkqns
#469 [笹]
「あたし‥何かしました?」
しかし覚えてないとなると
「昨夜は‥
楽しませていただきました、よ」
ちょいと悔しい物があるもんで
:10/02/07 18:36 :D905i :zJfCkqns
#470 [笹]
「嘘‥うそぉおお!?」
貴女の恥じらい困惑する顔を
見たくなって‥しまう。
意地の悪い男‥です、よ
:10/02/07 18:37 :D905i :zJfCkqns
#471 [笹]
:10/02/07 18:40 :D905i :zJfCkqns
#472 [笹]
時には
究極の選択が迫られることが
誰にでもあるもの、です
自分の無力さに
酷く腹が立つ‥こともある
"断腸の思い"で
時に人は物事を切り捨て
生きていかなければならない
それが‥人生と言うものです、よ
:10/02/08 20:12 :D905i :hMEINdHE
#473 [笹]
:
:
「雨なんて珍しいですよね」
ザァ―‥
今日は珍しく
此の街に雨が降った
濡れた地面の独特の匂いが
鼻の奥をくすぐる
真っ赤な番傘から落ちる
雨滴に睫を濡らした
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#474 [笹]
「‥あたしも入れてください」
「何、故」
もちろんあたしは
傘なんて持っていなくて
壱助さんの傘の中に
一緒に入れてもらうつもりで
今日は街に出た
だけどやっぱり
そううまくは行かないもの
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#475 [笹]
「濡れちゃうぅ‥」
ぐいぐい無理やり
頭を突っ込んでみても
大きな手で押し出される
「ちょっとくらい
いいじゃないですかぁっ!」
ぷうと頬を膨らませても
「ね?壱助さぁあん、うふん」
ない色気を絞り出しても
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#476 [笹]
「濡れたくらいで死ぬほど
‥か弱くないでしょう、貴女」
‥無駄ですか。
横目でぼそり呟かれた
これが図星だから辛い
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#477 [笹]
「高い着物ですから‥
汚されては困りやすから、ね」
そう言って
傘を少しこちらに傾けた
「やっぱり壱助さんって
案外優しいですよねっ」
「‥水溜まりにその顔、
突っ込まれたいんですかい?」
「いや‥結構です!!!」
壱助さんは
褒められるのが嫌いだそうです
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#478 [笹]
:
:
雨となると
いつもの街もどこか寂しい
賑わいは雨音に変わる
「壱助さん、鯛焼き食べたーい」
「‥」
壱助さんの足が急に止まる
濡れぬように
慌てて傘の中に戻った
「どうしたんですか?」
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#479 [笹]
壱助さんの視線の先には
小さな竹薮
薄暗くて気味が悪い
「‥血腥い」
「え?」
壱助さんは顔をしかめて
そこから目を離さない
雨音と竹のきしむ音の向こうに
聞こえたのは生々しく鈍い音
荒れ狂った女の声
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#480 [笹]
「どうしてお前はいつもいつも!!」
バシンッバシンッ
「言うことが聞けないんだい!」
ドガッ
「この役立たず!!」
「‥ッゲホッ、かぁさ‥ん」
「お前なんかねぇ‥お前なんか」
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#481 [笹]
足が震えた
何とも言えない感情が
わぁっとこみ上げてくる
悔しさに唇を噛み締め
拳を握った
自然とそちらへ足が向かう
「香夜さん‥」
行くなと壱助さんが
あたしの着物の袖を引いた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#482 [笹]
「‥死んじゃうかもしれない」
そう言って振り払い
声のするほうへ足を進めた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#483 [笹]
:
:
そこには物凄い形相をした
母親らしき女の人と
この雨の中
裸でうずくまる少年
少年の体は
いたるところに痣ができ
歪に腫れ上がった跡や
刃物で切られたような
鋭い傷が無数にあった
母親に思い切りぶたれ
蹴飛ばされ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#484 [笹]
昔の自分と少年を重ねた
「‥やめ‥なさいよ」
憤りに得体の知れない
幼い頃の感情が湧き上がる
「お前なんか
生まれてこなければよかった!!」
ドガッ
「ごめ‥なさい、ゲホッ‥んぐ」
少年の口から吐き出された
真っ赤な血が雨に消える
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#485 [笹]
声を張ろうと
大きく息をすると
壱助さんがあたしの腕を掴んだ
「‥帰ります、よ」
「何言ってるんですか‥?
このままじゃあの子‥」
目の奥から今にも
熱いものが溢れそうで
今止めなかったら
この子は死ぬかもしれない
今あたしが助けなきゃ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#486 [笹]
「貴女に‥何ができるんで?」
いつになく真剣な眼差しが
訴えかける
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#487 [笹]
「何って‥
助けるんですあの子を!!」
手を振り払おうとしても
壱助さんの手は
掴んで離さなかった
ひどい‥壱助さん
「壱助さんにはわからないんです
親に暴力を振るわれて
黙って耐えて‥」
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#488 [笹]
不安定な言葉を
無理に立て直しながら
何度も何度も振り払おうとした
「助けた所で‥
彼は、幸せになれますかい?」
悲しそうな壱助さんの目が
捕らえて離さない
幸せ‥?
幸せに決まってるじゃない
:10/02/08 20:20 :D905i :hMEINdHE
#489 [笹]
「彼を助けて、その後
貴女が養うとでも‥?」
「それは‥」
「見知らぬ土地に放されても
‥彼は死に至るでしょう。
貴女は、彼の家庭の事情を
全てご存知なんですかい?
彼はあんな母親でも、
慕っているかも‥しれない」
何も言い返せない自分に
腹が立った
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#490 [笹]
「中途半端に
情に流されて動いては‥
却って苦しめることになる。」
だけど‥だけど
あの子死んじゃうよ‥
「今此処で
あの母親に何か言えば
‥彼は本当に殺されます、よ」
うずくまる少年が
ちらりとこちらを向いた
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#491 [笹]
助けを求めるでもない
憎しみも悲しみも
何も訴えてこない
曇った目をしていた。
恐怖をも覚えるほど
一番辛くさせる眼差しだった
:10/02/08 20:22 :D905i :hMEINdHE
#492 [笹]
:
:
‥雨は止まない
さっきの少年の目が
頭に焼き付いて離れない
あたしには
何もできないと言う悔しさ
一方的に押しつけてしまった
自分の感情。
もうわからないよ‥壱助さん
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#493 [笹]
「死んじゃったら‥
死んじゃったら‥どうしよう」
ぶわっと泣き出し
顔を両手でふさいだ
これは不安よりも恐怖で
自分の無力さへの
憤りでもあった
たくさんの思いが
複雑に絡みうめき
涙になって流れてゆく
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#494 [笹]
「香夜さん‥」
畳を擦ってこちらに寄り添い
後ろから優しく
壱助さんが抱きしめた
「‥あたし‥もう」
濡れた体を
優しく撫でるように
手拭いをあてがう
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#495 [笹]
「もう、何も見なくていい‥
何も考えなくていいんです、よ」
いつもより暖かい
壱助さんの手が
あたしの目を覆った。
:10/02/08 20:24 :D905i :hMEINdHE
#496 [笹]
「何も‥。
しかし、あの目を
一生忘れてはいけません、ぜ
あの目を忘れた瞬間‥
貴女は彼を‥
見殺しにした事となる。」
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#497 [笹]
人は本当に無力で
結局は願うことしかできない。
そのもどかしさが
絡みついてうめき声を上げる
それでもこの願いが
少しでも、たった一瞬でも
誰かを救えると言うのなら
あたしは一生
願うことをやめないでしょう
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#498 [笹]
―‥そして
"生きることを諦めない"と
心に誓うのです。
_
:10/02/08 20:26 :D905i :hMEINdHE
#499 [笹]
:10/02/08 20:29 :D905i :hMEINdHE
#500 [笹]
どんなに気が強い"猫"も
どんなに意地っ張りな"猫"も
本人の気付かぬ内に
心が虚空に蝕まれるもの
心が"綿のよう"になれば
それも一気に
音を立てて崩れ出すものです、よ
:10/02/09 18:49 :D905i :rBP2/YbM
#501 [笹]
「香夜さん‥、」
昨日の雨も
夜中の内に上がり
澄んだ青空が広がった
―‥チュンチュン
「朝です、よ」
:10/02/09 18:50 :D905i :rBP2/YbM
#502 [笹]
ベチンッ
「いぃったあぁい!!!」
またいつもの朝を迎えた
いつになったら
あたしは1人で起きられるのか
‥こんな毎日毎日
顔面叩かれてたら、腫れてしまう
:10/02/09 18:50 :D905i :rBP2/YbM
#503 [笹]
そして今日も
壱助さんはお美しい
‥只でさえ朝早いのに
着物もきっちり来て
全く寝起きって感じがしない
やっぱり寝てないのかな?
ゆっくり体を起こす
夢にあの少年が出てきて
うなされたのか‥
少し体が汗ばんでる気もした
:10/02/09 18:51 :D905i :rBP2/YbM
#504 [笹]
「‥」
無言で見つめる壱助さんの手には
空になったお茶の葉の袋
「あのぉ、」
「‥何、か」
何でいつもそう
仏頂面なのかしら‥。
:10/02/09 18:51 :D905i :rBP2/YbM
#505 [笹]
笑ったりしたら絶対‥
‥笑わなくてももてるから
憎いんだった。
「お茶‥」
「買ってきてください、ね」
「そうじゃなくてぇ‥」
「買ってきてください、ね」
:10/02/09 18:52 :D905i :rBP2/YbM
#506 [笹]
「‥もうちょっと」
「早く」
こう言うときだけ
笑顔を浮かべる
壱助さんは
笑わなくていいかも‥。
:10/02/09 18:52 :D905i :rBP2/YbM
#507 [笹]
またぼうっと窓の外を眺めてる
そんな壱助さんを
ぼうっと見つめるあたし
こちらに目を向けてないのに
"何、か"と言う
背中にも目がついてるのかしら
未だに壱助さんは
沢山の謎に包まれています
:10/02/09 18:53 :D905i :rBP2/YbM
#508 [笹]
「‥行って参ります」
そう言って
しぶしぶ布団から
出たその時であった
「‥あれ?」
足元がふわり浮くような
不思議な感覚に襲われ
頭が石のように重く感じ
そのまま意識が飛び
体が‥
:10/02/09 18:53 :D905i :rBP2/YbM
#509 [笹]
:
:
:
一瞬どこかへ旅立った
自分を引き戻し
はっと目を覚ます
目の前には
切れ長の目の肌が白い‥
「壱助さん‥?」
はて‥
何があったんだろうか
:10/02/09 18:54 :D905i :rBP2/YbM
#510 [笹]
「‥危なっかしいです、ね」
目を細めて、呆れた様子
今‥この体勢は‥
この頭に触れるのは‥
「ひざ‥膝枕」
思わず上擦った声に
ごくりと唾を飲んだ
:10/02/09 18:54 :D905i :rBP2/YbM
#511 [笹]
壱助さんに
膝枕をしてもらうなんて
壱助さんの
お膝様をお借りするなんて
‥なんて命知らずなんだ
「わわっ
ごっごめんなさいこんなっ」
慌てふためくあたしの顔は
きっと真っ赤に染まってる
火がでるほど熱かった
:10/02/09 18:55 :D905i :rBP2/YbM
#512 [笹]
下から見る壱助さんの姿は
彫刻みたいに鼻が高くて
また睫長くなってる気がして
たった一度だけ触れた唇が
あの優しい感覚を蘇らせた
‥同じ世界の人間か疑うほど
親の顔が見てみたい
「そんなに‥
か弱かったんですかい?」
「へ?」
:10/02/09 18:55 :D905i :rBP2/YbM
#513 [笹]
すると見る見る内に
いい匂いと共に近づく
あの美しい顔
「ちょっちょっ壱助さんっ?!」
また消毒ですか?!
待ってよ心の準備ってもんが‥
:10/02/09 18:56 :D905i :rBP2/YbM
#514 [笹]
‥コツン
え?
恐る恐る目を開けると
近すぎてぼやけて見えるが
やっぱり美しい壱助さんの顔
:10/02/09 18:56 :D905i :rBP2/YbM
#515 [笹]
「な‥えぇ‥?」
触れていたのは
唇と唇ではなく額と額
残念ながら‥
いや、べ別に残念じゃないけど‥
消毒ではありませんでした
:10/02/09 18:57 :D905i :rBP2/YbM
#516 [笹]
しばらくの間壱助さんは
寝てるのかと疑うほどに
ぴくりともしなかった
火照った頬を
くすぐる規則正しい呼吸
こっちは緊張しすぎて
息苦しいと言うのに‥
壱助さん
いろいろと手慣れすぎです
:10/02/09 18:57 :D905i :rBP2/YbM
#517 [笹]
「壱‥助さぁん?」
すると
一時の眠りから覚めたように
目を開けてすっと顔を離した
それと同時にあたしは
その間呼吸できなかった分を
部屋の空気を全部吸い取るくらい
思いっきり体に取り込んだ
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#518 [笹]
「‥全く、」
いやいや
いきなりそんなことされた
こっちが全くですよ
「たったあれ如きで‥
熱を出すとは、ね」
「熱?」
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#519 [笹]
そう言われてみれば
朝からちょっと体が重かったかも
昨日の雨にやられたかな?
「情けない‥ですね」
はぁっとため息を吐くと
:10/02/09 18:58 :D905i :rBP2/YbM
#520 [笹]
ガサッ
一気に目の前が暗くなった
‥お茶の匂い
間違いなく
今あたしに被さってるのは
さっきまで壱助さんが手にしてた
お茶の葉の空袋
そっか‥
じゃあ今日はお茶お預けかぁ
:10/02/09 18:59 :D905i :rBP2/YbM
#521 [笹]
「‥ごめんなさい」
自分の声が袋中を駆け巡り
また耳の奥へ帰る
きっとお茶は
壱助さんの命の次に大切なもの
そう考えたら
何だか急に申し訳なくなった
:10/02/09 18:59 :D905i :rBP2/YbM
#522 [笹]
グシャッ
耳を突き刺すような音と共に
朝と同じ激痛が顔面に走る
「ったぁあいぃ!!」
何でこうも壱助さんは
顔面攻撃が好きなんだろうか‥
ただでさえ不細工なのに‥もう
:10/02/09 19:00 :D905i :rBP2/YbM
#523 [笹]
息つく暇もなく
壱助さんはやりたい放題
「うわっまぶしっ!!」
一気に袋を取り去られ
急にさす光の眩しさに
目の前が眩んだ
じーっとこちらを見つめる
美しい視線とぶつかった
:10/02/09 19:00 :D905i :rBP2/YbM
#524 [笹]
まばたきもしないで
ただじっと‥
熱のせいか頭が働かない
いつもなら
考えなくとも口が勝手に
喋り出すのになぁ
:10/02/09 19:01 :D905i :rBP2/YbM
#525 [笹]
:
:
「どんな‥夢を?」
先に口を開いたのは
壱助さんの方だった
ひんやりした雪のような手が
額にそっと触れた
‥心地いい
:10/02/09 19:01 :D905i :rBP2/YbM
#526 [笹]
「昨日の‥少年の」
蚊の鳴くような声で答えると
"そうです、か"と
何かを考え込んでる顔で言った
壱助さんの手は
まるで魔法の手みたいで
熱を吸い取っていくような
‥そんな気がした
:10/02/09 19:02 :D905i :rBP2/YbM
#527 [笹]
それから
何を言うでもなく‥
壱助さんは優しく
あたしの額辺りを撫でて
また空を眺めてた
「壱助さん‥空好きですよね」
大した答えなど
期待してなかった
「‥何か見えるんですか?」
返事のない横顔に続けて問った
:10/02/09 19:02 :D905i :rBP2/YbM
#528 [笹]
「‥いえ、何も」
「どうしてそんなに
眺めてるんですか?いつも
何か考え事でも?」
するとぴたりと手が止まった
:10/02/09 19:03 :D905i :rBP2/YbM
#529 [笹]
「何も‥考えたくないから
こうして居るんです、よ」
気のせいだろうか
いつもより少しだけ
横顔が寂しそうに見えた
‥見ていられなかった
今日のあたしはどうかしてる
:10/02/09 19:03 :D905i :rBP2/YbM
#530 [笹]
――――‥
_
:10/02/09 19:04 :D905i :rBP2/YbM
#531 [笹]
ふわりと
お茶の香りが宙を舞う
体が勝手に動いてしまった
‥きっと壱助さんが
その左手で魔法をかけたのだ
衝動的に起き上がり
壱助さんを
胸の中に押し込めた
:10/02/09 19:04 :D905i :rBP2/YbM
#532 [笹]
ぎゅうっと綺麗な背中を
壊れそうなくらい
強く抱きしめると
壱助さんは力なく応えた
「‥泣いてるんで?」
わからない
わからないけど
‥涙が止まらなかった
:10/02/09 19:05 :D905i :rBP2/YbM
#533 [笹]
「壱助さ‥ん
何処にも‥行かないで」
情けなく弱々しい声を
涙と一緒に落とした
何故そんなことを言ったのか
‥わからない
だけど急に不安になった
独りにされてしまいそうで
壱助さんはこんなあたしに
‥疲れているんじゃないかって
:10/02/09 19:05 :D905i :rBP2/YbM
#534 [笹]
「約束、したでしょう
独りにしない‥と」
包み込むように
ぎこちなくあたしを撫でた手に
一瞬にして不安が吸い取られた
:10/02/09 19:06 :D905i :rBP2/YbM
#535 [笹]
あたしの、居場所は
―‥貴方の隣。
_
:10/02/09 19:07 :D905i :rBP2/YbM
#536 [笹]
:10/02/09 19:10 :D905i :rBP2/YbM
#537 [笹]
まだまだ子供な"飼い猫"が
ぼうっと空ばかり眺めて
雪を待ちわびているもんで‥
"色は思案の外"と
良く言われます故‥
―‥自分でも、
良くわかりゃしないのですが、ね
:10/02/10 16:47 :D905i :yQPzNAIc
#538 [笹]
:
:
雲が低い
空一面を灰色に染める
「‥雪ですか、ね」
冷えた空気が息を白く染めた
:10/02/10 16:48 :D905i :yQPzNAIc
#539 [笹]
:
:
「お帰りなさいっ」
窓から乗り出すような勢いで
雪が降るのを待ちわびていると
壱助さんが帰ってきた
「今日、雪降りますかねぇ?」
別に雪は珍しくない
だけど真っ白に染められた街に
なんだかとてもわくわくして
何時になっても
目を輝かせてしまうのだ
:10/02/10 16:48 :D905i :yQPzNAIc
#540 [笹]
「‥さぁ、ね」
後ろで聞こえた素っ気ない声に
着物と肌がすれる音が続く
「‥んう」
また黙って着替えて‥
着替えるときは声かけてって
あれだけ言ってるのに
気付かぬふりをして
じっと空とにらめっこ
:10/02/10 16:49 :D905i :yQPzNAIc
#541 [笹]
―‥だけど沈黙となれば
どこかむず痒い
「外、寒かったですか?」
「そりゃあ‥ねぇ」
今度は畳と着物がすれる音
どうやら着替え終わったらしい
:10/02/10 16:50 :D905i :yQPzNAIc
#542 [笹]
流石に手が冷えてきた
外へ向けた息も白い
「囲炉裏があると
やっぱり冬はいいですよねぇ」
なーんて
あたしにとっては珍しかった
囲炉裏に暖かさを求めて
振り返ってみたものの‥
:10/02/10 16:50 :D905i :yQPzNAIc
#543 [笹]
「壱助さん!!」
どうしてそうも貴方は‥
囲炉裏の前に立ちはだかる
壱助さんの背中
「ちゃ‥ちゃんと袖!!」
時々よくわかんない所で
壱助さんは半裸になりたがる
‥露出狂だ。
:10/02/10 16:51 :D905i :yQPzNAIc
#544 [笹]
そして何度見ても
この美しさには慣れない
雪みたいに真っ白だから
囲炉裏に近づいたら
溶けちゃうんじゃないかって
馬鹿みたいな心配をするほど
一気に火照った顔を
ぷいっと背けて
また空に目を向けた
雪‥やっぱり降らないかなぁ
:10/02/10 16:51 :D905i :yQPzNAIc
#545 [笹]
:
:
結局"まぁ、まぁ"と言って
言うことを聞いてくれず‥
って言うか
何が"まぁ、まぁ"よ!!
あたしだって暖まりたいのにぃ‥
:10/02/10 16:52 :D905i :yQPzNAIc
#546 [笹]
「雪が降りそうだって言うのに
何でわざわざ‥
着物下ろすんですかぁ?」
少し乱暴に唇を尖らせて
後ろにある背中に訴えると
「いいじゃあ、ないですか」
と、満足げな声が返ってきた
:10/02/10 16:53 :D905i :yQPzNAIc
#547 [笹]
ちらりと少し顔を向けて
横目で様子をうかがえば
胡座をかいた片膝に
頬杖を付いてくつろいでいる
あったかそう‥
行きたい‥けど
そんな半裸の男の人の
隣になんか並べない!と言う
‥生娘の葛藤。
ただただ時間が過ぎ
体が冷え行くだけだった
:10/02/10 16:53 :D905i :yQPzNAIc
#548 [笹]
:
:
「‥へっくしゅん!!」
このままじゃ風邪引く‥
冷えた手を口元の前で握りしめ
はぁーっと息を吹きかける
「やれ、やれ」
:10/02/10 16:54 :D905i :yQPzNAIc
#549 [笹]
やれやれって‥
そもそも壱助さんが
変態な趣味持ってるからよ!!
最早此処まで来ると
動いてたまるかとヤケになるもの
「仕方のない人、ですねぇ」
_
:10/02/10 16:55 :D905i :yQPzNAIc
#550 [笹]
――‥ ギュウゥ
一気にあたしの体を温めたのは
後ろからいきなり
抱きついてきた壱助さんだった
:10/02/10 16:55 :D905i :yQPzNAIc
#551 [笹]
「維持など張らずに‥
此方に来れば良いものを」
首を抱くようにして
絡みつく腕が
男らしいくせに美しくもある
「べ‥別に、維持なんて‥」
言い訳を並べようとした口に
華奢な指が触れた
:10/02/10 16:57 :D905i :yQPzNAIc
#552 [笹]
「ほぉう‥」
「壱助さんが‥
あく‥悪趣味だから」
いつもと違って
暖かい壱助さんの体に
とても違和感を覚えて
なんだかいつもとは
別の人のような気もして‥
乱れる鼓動を
止めてしまいたかった
:10/02/10 16:57 :D905i :yQPzNAIc
#553 [笹]
「‥こいつぁ、手厳しい」
急に横で見せた含み笑いに
いつもより瞬きを多めにして
顔を背けてみる
「おや‥顔が赤く‥」
「言わないで下さいぃっ!!」
もう‥香夜は溶けそうです。
:10/02/10 16:58 :D905i :yQPzNAIc
#554 [笹]
そんな火照った顔を見るために
出し惜しみしてたかのように
ちらちらと粉雪が舞う
「雪だぁあっ!!
ほらっ壱助さん雪‥」
降り出した雪が
あたしを子供にさせたから
夢中にさせたから
横にいた貴方をも
消してしまったから
:10/02/10 16:59 :D905i :yQPzNAIc
#555 [笹]
――――――‥
_
:10/02/10 16:59 :D905i :yQPzNAIc
#556 [笹]
「おや、おや
随分と大胆‥ですねぇ」
意識が飛びそうなほどに
唇から伝った熱で
‥早くも、雪解けの予感です。
_
:10/02/10 17:00 :D905i :yQPzNAIc
#557 [笹]
【 お ま け 】
「あ‥あれは事故‥」
「事故?‥ほぉう」
「そうです事故です事故っ!!」
「‥あの後
物足りずに自ら唇を‥」
「言わないでぇえぇぇえっ!!!」
‥めでたし、めでたし。
:10/02/10 17:04 :D905i :yQPzNAIc
#558 [笹]
番外編 【待ちわびて】
*。*。*。*。*。*
急に寒くなったので
甘甘をご提供 ////
なんかいろいろとあれですが←
あくまで番外編なので
好きにさせていただきましたw
外ばっかり見てる上に
意地っ張りな香夜ちゃんに
してやったりの壱助さん
香夜ちゃん案外大胆w
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/:10/02/10 17:07 :D905i :yQPzNAIc
#559 [笹]
貴女がそうしたいと言うならば
私は何も言いません、よ
"去るもの追わず"
:10/02/14 01:33 :D905i :AHFqEp8k
#560 [笹]
「‥」
あの日から
口数が確実に減った
何を考えているのか‥
正座したまま虚ろな目
「どうか‥しました、か」
「‥いえ、別に」
不思議なほど此の調子
此方の調子が狂います、よ
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#561 [笹]
夜になれば寝付きもせず
声を殺して泣く、ときた
‥どうしたもんか、ねぇ
「‥壱助さん」
畳に話しかけて‥
私は此方なのですが
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#562 [笹]
「何、か」
「壱助さんは‥」
言葉が途切れた
いや‥躊躇っているのでしょう
小さく喉が動いた
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#563 [笹]
「壱助さんは‥本当にあたしと
ずっと一緒に?」
「居ます、よ」
嫌だとでも言いますかい?
去る者は追わぬ主義ですが‥
「恋仲の人が出来たら‥
あたし、邪魔ですよね?」
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#564 [笹]
そんな事で‥
今まで泣いてたの、か
全く‥貴女と言う人は
「ほう‥」
「あたしなんかと居たら
一生結婚できませんよ?
壱助さん‥絶対いい人に‥」
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#565 [笹]
「其れならば‥去る、と?」
「‥んう」
下を向いて肩を震わせる
本当に意地が悪い奴です
貴女を何処までも困らせたい
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#566 [笹]
「香夜さん次第です、よ」
「‥足手纏いな気がして」
悩みなど無さそうな顔を
している人ほど
押し潰されそうになっている
‥そんな物です
:10/02/14 01:37 :D905i :AHFqEp8k
#567 [笹]
「あたし、どじだし‥五月蠅いし
色気もないし、使えないし‥」
自分を何だとお思いで?
ちょいと安く見積もりすぎでは‥
「どう‥したいんで?」
貴女は私を苦しめる
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#568 [笹]
「‥」
何処までも、何処までも
「答えられぬと言うなら‥」
「一日‥時間を下さい」
お考えになろうと‥いうこと、か
別れもそう遠くはない、と
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#569 [笹]
:
:
背を向けて眠りにつく
香夜さんが悩んでいる事は
正直言えば下らない
無駄な心配でしかない
しかし貴女にとっては
大問題なのでしょう
‥本当に鈍い人だ
だから放って置けないと言うのに
:10/02/14 01:39 :D905i :AHFqEp8k
#570 [笹]
後ろの気配が息を潜めて
ゆっくりと布団から抜け出した
小さく鼻を啜り
着物がはらりと脱げる音
帯をきっちりしめて
‥音が止まる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#571 [笹]
闇に包まれて
何も見えないはずなのに
何故でしょう、ね
貴女の泣き顔が目に浮かぶ‥
"行くな"と声をかける事も
抱き寄せる事も
肝心な時に限ってできずに
体が動かなくなる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#572 [笹]
私は、
何に躊躇っているのでしょう、ね
―‥ 足音が消えた
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#573 [笹]
:
:
一睡もできずに
唯ぼうっと
月明かりが照らす畳の網目を
雑に何度も目で追った
重い体を起こし
消えた隣の温もりに
そっと手を添える
「‥馬鹿です、ね」
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#574 [笹]
枕元に置き手紙
『最後の挨拶くらい
しっかりしたかったのですが
壱助さんの顔を見たら
辛くなると思ったので‥
どうか、お許し下さい。
本当にお世話になりました』
綺麗に整った文字が
一カ所滲んでいた
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#575 [笹]
「もうだいぶ
連れ添ったと言うのに‥
淡泊な別れです、ね‥香夜さん」
目を細めて
ぼやけた文字を撫でた
:10/02/14 01:42 :D905i :AHFqEp8k
#576 [笹]
本当に意地っ張りな人だ
最後の最後まで
香夜さん‥
貴女は貴女でした、ね
_
:10/02/14 01:43 :D905i :AHFqEp8k
#577 [笹]
:10/02/14 01:46 :D905i :AHFqEp8k
#578 [笹]
自分で腹を括ったって
後悔は
情が籠もれば籠もるほど
溢れかえってくるもので
何度泣いても泣き足りない
でも、泣くことしか
あたしにはできないのだから‥
"声涙、倶に下る"
:10/02/14 22:37 :D905i :AHFqEp8k
#579 [笹]
:
:
理由は簡単で
これ以上
迷惑をかけたくなかった
あの日あたしの居場所は
壱助さんの隣しかないって
そう思った
だけど‥だけど違う
今までとは確実に何かが違う
:10/02/14 22:38 :D905i :AHFqEp8k
#580 [笹]
いけないことに
気がついてしまった気がして
もう一緒に居られないって
‥そう思ったの
できるならこんなこと
したくなかった‥
離れたくなかった
:10/02/14 22:38 :D905i :AHFqEp8k
#581 [笹]
意地悪だけど根は優しいし
あたしを認めてくれたから
あたしを助けてくれたから
「はぁ‥」
もう泣きそうだ
家出てから
泣かないって決めたのに‥
壱助さんといたら
すぐ泣いちゃう
‥居心地いいんだよね、それだけ
:10/02/14 22:39 :D905i :AHFqEp8k
#582 [笹]
「猫ぉ‥
これからどうしよう」
野良猫がすり寄ってきた
そんなに可哀想に見えたかな
「‥行くあてがないや」
飢え死にするかも‥
んう‥壱助さぁん
「ミャァウ」
真っ黒な瞳が
こちらを覗き込む
:10/02/14 22:40 :D905i :AHFqEp8k
#583 [笹]
「お前も‥独りかぁ」
思いっきり撫でてやる
毛の下から伝わる暖かさに
何故か胸が苦しくなった
‥また遊女屋かなぁ
:10/02/14 22:40 :D905i :AHFqEp8k
#584 [笹]
「‥香夜ちゃん?」
「‥伊代さぁああぁん!」
:10/02/14 22:41 :D905i :AHFqEp8k
#585 [笹]
:
:
「でもさぁ香夜ちゃん?
壱助さん心配するだろう?」
不安そうな顔で
伊代さんはお茶を差し出した
「でも‥
去るのもあたし次第だって
壱助さん言ってたし‥」
「んん‥まぁねぇ
あの人も‥」
そう言って眉を下げて
緩く微笑んだ
:10/02/14 22:41 :D905i :AHFqEp8k
#586 [笹]
「‥?」
「香夜ちゃんと"同じ"さぁ」
「同じ?」
意味深な言葉を残し
頬杖を尽きながら団子を食らう
伊代さんはいつも幸せそう
:10/02/14 22:42 :D905i :AHFqEp8k
#587 [笹]
湯飲みの中をぼうっと覗き込む
深い緑色の奥に
自分のみっともない顔が
ぼやけて映し出された
お茶‥まだ大丈夫だよね
この前買ってきたばかりだし
「‥はぁ」
体に染み付いた習慣が
余計虚しくさせて、ため息
:10/02/14 22:42 :D905i :AHFqEp8k
#588 [笹]
「でも、どうするんだい?
これから一人じゃあ‥」
「んー‥」
出された団子に目もくれず
緑色をじっと見つめる
「あたしんちでよけりゃあ‥
汚いけど、使うかい?」
「え?!いいんですかっ?」
:10/02/14 22:43 :D905i :AHFqEp8k
#589 [笹]
思わず身を乗り出した
しかしすぐさま冷静になり
この朗報の穴に気づく
「でも‥壱助さん
来ますよね‥此処」
見つかっては
合わせる顔がないの
もう会わない
迷惑かけないって決めたから
:10/02/14 22:43 :D905i :AHFqEp8k
#590 [笹]
結局飢え死に‥
じゃなきゃ、遊女屋
でも遊女屋だって
壱助さん来るかもしれない‥
何を考えても
壱助さんばかり絡んで
情けないほどに
自分は頼ってばかりだったと
改めて実感するのだ
:10/02/14 22:44 :D905i :AHFqEp8k
#591 [笹]
「まぁ‥来るけどさぁ
部屋貸すから、ね?」
母親のような笑みを
此方に向けた伊代さん
母親の笑みなんて
あたしにはわからないけど
:10/02/14 22:45 :D905i :AHFqEp8k
#592 [笹]
「でも‥タダで借りるなんて」
「それなら、うちで雇うよ?
裏方ならできるだろう?」
裏方‥そっか
表にでなきゃいいんだ
「よろしくお願いします!!」
:10/02/14 22:45 :D905i :AHFqEp8k
#593 [笹]
いつか壱助さんが
迎えに来てくれたら‥なんて
仕様もない希望を抱いていた
日が経てば経つほどに
このもどかしさは
恐ろしいくらいに膨れ上がり
壱助さんは
‥あたしを蝕んでいくの
:10/02/14 22:46 :D905i :AHFqEp8k
#594 [笹]
:10/02/14 22:51 :D905i :AHFqEp8k
#595 [笹]
去るものは追わぬ主義
確か‥
私はそう言いました、ね
"乙に澄ます"のも
終わりにしやしょう、か
:10/02/14 22:57 :D905i :AHFqEp8k
#596 [笹]
:
:
「香夜ちゃーん!!」
「はぁい!」
あれから一週間
あたしの知る限りでは
壱助さんは此処には来ておらず
伊代さんと伊代さんのご家族に
本当に親切にしてもらい
不自由なく生活してます
:10/02/14 22:57 :D905i :AHFqEp8k
#597 [笹]
だけどやっぱり
忘れることができなくて
夢に見ては
涙に濡れた頬を拭う
夢の中でしか会えないなら
ずっと眠りについてたいくらい
:10/02/14 22:58 :D905i :AHFqEp8k
#598 [笹]
朝独りでに目が覚めて
笑いもせずにあたしを見下ろして
"朝です、よ"って言う
そんな声を脳裏から
無理矢理に引っ張り出せば
虚しさが増すばかり
‥馬鹿だなぁ、あたし
:10/02/14 22:58 :D905i :AHFqEp8k
#599 [笹]
「ちょいと、
買い出し行ってくるから
その間店番‥お願いできる?」
店番‥
表にでなきゃ、か‥
「あぁ‥はい!」
お世話になってるんだもの
しっかり働かなきゃ
:10/02/14 22:59 :D905i :AHFqEp8k
#600 [笹]
:
:
「‥あぁああ」
独りになると‥貴方ばかり
会いたくない
合わせる顔もない
‥だけど何処かで
ふらりと現れる壱助さんに
期待してるみたい
:10/02/14 22:59 :D905i :AHFqEp8k
#601 [笹]
「もぉ‥わかんないよぉ」
前のめりに突っ伏して
頭を掻きむしる
木の独特の慣れない香りに
顔をしかめ
恋しくなるは貴方の香り
‥こんな気持ち初めて
:10/02/14 23:00 :D905i :AHFqEp8k
#602 [笹]
「‥香夜さん?」
名前を呼ばれて
慌てて顔を上げると
「も‥茂七さん?!」
:10/02/14 23:00 :D905i :AHFqEp8k
#603 [笹]
:
:
茂七さんには失礼だけど
‥正直がっかり
その上なんとなく気まずい
「どうぞ」
ぎこちなく茶を差し出す
あー‥そろそろ壱助さん
お茶飲み切っちゃうかも
:10/02/14 23:01 :D905i :AHFqEp8k
#604 [笹]
「何でまたこんな所で?」
茂七さんは目を丸くして
湯飲みに手を添えた
何で‥何ででしょう
もう自分でもよくわからない
「ほら、あたしも
稼がなきゃなぁー‥なんて」
思いっきり顔を釣り上げて
作り上げた笑顔を向け
変におどけて見せた
:10/02/14 23:01 :D905i :AHFqEp8k
#605 [笹]
「偉いなぁ香夜さんは!!」
またがははと笑う
何て呑気なのかしら‥
気付けば、ほら
道行く人に目を凝らして
探してしまっているじゃない
一発で見つける自信はあるのに‥
:10/02/14 23:02 :D905i :AHFqEp8k
#606 [笹]
「そういえば‥
お兄‥じゃない、旦那は?」
お兄様でもいい
旦那様ならどれだけいいことか
あたしと壱助さんには
何の繋がりもない
:10/02/14 23:02 :D905i :AHFqEp8k
#607 [笹]
「あぁ‥えっと
本当は、旦那じゃないんです」
「え?!」
茂七さんの表情は
面白いほどにころころ変わる
「あたしはただ
あの方にお世話になってた‥」
:10/02/14 23:03 :D905i :AHFqEp8k
#608 [笹]
‥お世話になってた
「だけ、なんです」
こんなに薄っぺらかったのか
言葉にしてやっと気づく
何もなかった
壱助さんとの間には、何も
:10/02/14 23:03 :D905i :AHFqEp8k
#609 [笹]
「そうかそうか!!
と、言うことは‥やっぱり」
お世話になっただけじゃない
その上
縛られたり叩かれたり蹴られたり
酷い扱いだったじゃない
:10/02/14 23:04 :D905i :AHFqEp8k
#610 [笹]
「俺と恋仲になると言うことか!!」
「‥え?」
茂七さん‥あんたって人は
:10/02/14 23:05 :D905i :AHFqEp8k
#611 [笹]
とんだ‥
「‥勘違い野郎です、ね」
はっきりとあたしの目は
目の前に現れた
貴方の姿を捕らえました。
:10/02/14 23:06 :D905i :AHFqEp8k
#612 [笹]
:10/02/14 23:09 :D905i :AHFqEp8k
#613 [笹]
:
:
来てくれた‥壱助さん
もう何年も何十年も
会ってなかったような気がする
壱助さんは何一つ変わらず‥
表情さえも変えずに
入り口の柱に寄りかかり
横目で此方を睨みつけた
:10/02/15 16:51 :D905i :4vzAUNjI
#614 [笹]
「壱す‥」
「おいこら!!
お前‥香夜さんの
旦那じゃないんだって?」
茂七さんがすかさず責め立て
つかつかと詰め寄った
本当に命知らず‥
:10/02/15 16:52 :D905i :4vzAUNjI
#615 [笹]
「俺は嘘をつく奴が
大嫌いなんだぁよ!!」
と茂七さんが言い終わる前に
壱助さんは
するりと目の前に立ちはだかる
茂七さんをかわし‥
「‥帰ります、よ」
「へ?」
:10/02/15 16:52 :D905i :4vzAUNjI
#616 [笹]
あたしの手首を捕らえた
あの美しくて冷たい手
「でも‥あたし」
いつもより少し
壱助さんが情で動いてる気がする
気のせいかな?
:10/02/15 16:53 :D905i :4vzAUNjI
#617 [笹]
そのままぐいっと引っ張られ
前のめりになる
忙しなく下駄に足を突っ込み
わけがわからぬままに
体を預けてみた
「壱助さん‥ちょっと待って‥」
「‥その勘違い野郎に
ついて行く、とでも?」
:10/02/15 16:53 :D905i :4vzAUNjI
#618 [笹]
急に足を止めて
前に放った言葉なのに
威圧感はいつも以上
「その通りだ!
香夜さんと俺は恋仲に‥」
「格下げです、よ」
少しくらい茂七さんの話を
最後まで聞いてあげてほしい
そう思うくらい
:10/02/15 16:54 :D905i :4vzAUNjI
#619 [笹]
壱助さんはぶった斬るように
次々に言葉を並べる
怒ってるかな‥
「格下げ‥?」
「"所有物"に格下げ、ですよ」
:10/02/15 16:55 :D905i :4vzAUNjI
#620 [笹]
―‥、
「‥もう、嫌なんです」
思わず零れた言葉に
反応するように振り向いた
‥顔も見たくない
辛くて苦しくて仕方がないの
:10/02/15 16:55 :D905i :4vzAUNjI
#621 [笹]
「‥嫌、とは」
白々しい視線が
上から惜しげもなく降り注ぐ
「もう迷惑かけたくない‥
宿代も食事代も
壱助さんに任せっきりで、
あたし‥赤の他人ですよ?」
親切にされるのが
もう怖くなってしまったの
:10/02/15 16:57 :D905i :4vzAUNjI
#622 [笹]
‥会えて嬉しいのに
「ほぉう‥それで?」
相変わらず冷静で
熱くなってる自分が
馬鹿馬鹿しく思えてしまうほど
しっかりと掴んで離さない
その繋がりを見つめて
その繋がりを妬んだ
:10/02/15 16:57 :D905i :4vzAUNjI
#623 [笹]
「それで‥それで、
最近おかしいんです。
壱助さんといると
辛くて‥苦しくて‥もう、」
‥また泣いてしまった
乱暴に涙を左手で拭っても
それを無駄にしてしまうほど
溢れかえって止まらない
:10/02/15 16:58 :D905i :4vzAUNjI
#624 [笹]
「‥」
声のない返事に
余計に胸を痛ませて
「胸の奥がずきずき痛んで‥
この気持ち‥」
「それ以上‥
言わないで、もらえやせんか」
_
:10/02/15 16:59 :D905i :4vzAUNjI
#625 [笹]
ぎゅっと繋がりが力強く‥
ぽつり呟くような声と共に
傷つけてしまったかな‥
一番大切にしなきゃ
いけない人なのに
「許しません、ぜ」
見上げて、ほら
この程度じゃ傷つかない?
それとも無理してる?
:10/02/15 16:59 :D905i :4vzAUNjI
#626 [笹]
まだまだあたしは
‥貴方を何も知らないの
「"所有物"ですから‥」
だけど変なんです
あたしなんかの言葉に
酷く傷付いてほしいなんて
考えてしまうんですから
:10/02/15 17:00 :D905i :4vzAUNjI
#627 [笹]
「勝手に‥
私の傍を離れるなど、ね」
もっと貴方を知りたくて
_
:10/02/15 17:01 :D905i :4vzAUNjI
#628 [笹]
【 お ま け / 茂七さんの行方】
香夜ちゃんが泣き出して
「男が女性を泣かせるなど
言語道断だ‥!!」
(って言ってたんですが
邪魔なので省略しました←)
「茂七さんじゃないかぁ!!
今団子焼けるから
さぁさ!入っとくれよぉ」
丁度帰ってきて
気を利かせた伊代さんが
団子食わせて
黙らせてましたとさ
め で た し め で た し ←
:10/02/15 17:02 :D905i :4vzAUNjI
#629 [笹]
第十八章 【迎えに来て】
*。*。*。*。*
個人的に
壱助さんと茂七さんの
温度差が好きですwww
とりあえず
香夜ちゃん!!
その胸の痛みはko‥じゃないのか
って言いたいです ^ω^ え
壱助さんは何故最後まで
言わせなかったのでしょーか
そこ大事です\(^O^)/うふ
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/
:10/02/15 17:06 :D905i :4vzAUNjI
#630 [笹]
:10/02/15 17:07 :D905i :4vzAUNjI
#631 [笹]
やっと心配事も
‥無くなりました、ね
"愁眉を開く"とでも言いましょう
心配事‥と言うほどの物でも
ないような気もしますが
分かりやすい上に
‥鈍い、ときた
今後が最大の心配事です、ね
:10/02/15 20:59 :D905i :4vzAUNjI
#632 [笹]
:
:
久しぶりの宿
畳の匂いに囲炉裏の暖かさ
壱助さんがお茶を啜る音
何だか妙に嬉しくて
落ち着いていられない
「今後とも‥
よろしくお願いいたします」
額を畳にこすりつけ
深く頭を下げた
:10/02/15 21:00 :D905i :4vzAUNjI
#633 [笹]
「‥自分のした事を
お分かりでお出でで?」
湯飲みを置き
こちらに近付く着物が擦れる音
お仕置き‥か
まぁ仕方ないよね
これだけお世話になった人に
置き手紙だけ残して
姿を消したんだもの
:10/02/15 21:01 :D905i :4vzAUNjI
#634 [笹]
「頭を‥上げて下さい、よ」
どんな形相をしてるのか‥
目があった瞬間
その目力だけで殺されそうだ
:10/02/15 21:02 :D905i :4vzAUNjI
#635 [笹]
:
:
ごくりと唾を飲み
恐る恐る顔をあげれば
思いの外、穏やかな‥
と言うか
いつもと変わらぬ仏頂面
「あの‥えーっと‥」
目が泳ぐとはこのことですね
:10/02/15 21:02 :D905i :4vzAUNjI
#636 [笹]
お顔を直視できませぬ
いや、でも
美しいお顔‥拝見したいかも
あれやこれやと
頭の中を駆け巡り
一週間の距離に戸惑う
「‥香夜さん」
:10/02/15 21:03 :D905i :4vzAUNjI
#637 [笹]
首筋を這う冷たい手
お仕置き‥
コッチのお仕置きですか?
それとも
首をちょいと‥のアレですか?
「こ‥心の準備が‥」
:10/02/15 21:03 :D905i :4vzAUNjI
#638 [笹]
何時だって壱助さんは
あたしの予想通りには行かない
‥期待には応えてくれるけど
するりとソレは首筋を通り抜け
「壱助‥さん?」
ぎゅうっと抱き寄せられた
:10/02/15 21:04 :D905i :4vzAUNjI
#639 [笹]
不安定になり
壱助さんに体を預ける
この胸板、薄く見せておいて
包み込むように広い
あったかい‥
壱助さんの傍は
本当に落ち着くのだ
:10/02/15 21:05 :D905i :4vzAUNjI
#640 [笹]
「香夜さん‥あんただけだ」
「へ‥?」
顔を首元に埋め
低い声が体に響いた
ぎゅうっと力を込めて
少し苦しいくらいに
強く抱きしめられて
今までにないくらい
こんなに誰かに求められたのは
初めてなのかもしれない
:10/02/15 21:05 :D905i :4vzAUNjI
#641 [笹]
目の奥が熱くなる
この言葉の意味が
あたしの思う意味じゃなくても
がっかりしない
むしろ気にならない
言葉以上に伝わる温もりを
あたしは信じたいです
:10/02/15 21:06 :D905i :4vzAUNjI
#642 [笹]
:
:
しばらく動かず何も言わず
聞こえるのは
整った壱助さんの呼吸と
自分の忙しない鼓動
どうしたらその呼吸が
乱れるますか?
どうしたら頬を赤く染めますか?
仕様もないことばかり
最近では考えてしまうの
:10/02/15 21:06 :D905i :4vzAUNjI
#643 [笹]
「壱助さん‥?」
もしかしたら
寝ているのかもしれない
‥それくらい静かで
「あの、
壱助さん‥あたしの事‥」
「香夜さん‥」
「は‥はい」
:10/02/15 21:07 :D905i :4vzAUNjI
#644 [笹]
さっきから
まともに会話ができていない
全てが何処かぎこちないの
「あんただけだ‥」
「壱助さん‥それは‥」
「こんなに、
子供じみた事をするのは‥」
「子供っ‥?」
:10/02/15 21:08 :D905i :4vzAUNjI
#645 [笹]
やっぱり
あたしの予想通りにはいかない
ぐいぐいと力が強まれば
いつの間にか
呼吸を乱す原因になり
「壱助さ‥くる、苦ひいっ」
「本当に貴女と言う人は‥」
:10/02/15 21:08 :D905i :4vzAUNjI
#646 [笹]
その内背骨が
粉々になりそうなほど
「痛い‥いたっ‥
今ぼきって!ぼきっていった!!」
「"所有物"と言う分際で‥
此方が緩く扱いだしたのを
良いことに‥ねぇ」
「壱助さん!!ぐぇっ
本当に‥本当に砕け‥っう」
:10/02/15 21:09 :D905i :4vzAUNjI
#647 [笹]
めりめりと
背中からひしめく音
今回ばかりは
やっぱり一本くらい犠牲に‥
「随分と、度胸がお有りで‥」
それなのに
耳元で囁く色っぽい声に
全身が熱を帯びてしまう
:10/02/15 21:09 :D905i :4vzAUNjI
#648 [笹]
「本当に‥ごめんなさ‥うぃ
もう‥こんなっ‥んぐ!!」
この勢いに乗って
内蔵が破裂しそうな気もしてくる
「それとも何ですか‥
余程、自虐行為がお好みで?」
何故でしょう壱助さん
人を戒めてる時でさえ
冷静さは保ちつつ
それでいて色めいて
:10/02/15 21:10 :D905i :4vzAUNjI
#649 [笹]
もはやその冷静さは‥冷酷。
「もう二度と‥離れませんーっ!!
だから許してくだ‥」
すると呆気ないほどに
するりと手放され
みっともなくそのまま
倒れ込んだ
多少背中が痛むものの
‥背骨さん健在です!!
:10/02/15 21:10 :D905i :4vzAUNjI
#650 [笹]
「言いました、ね?」
「‥え?」
呼吸を整え少し帯を緩めつつ
体を無理やり起こせば
何事もなかったかのように
綺麗に正座している壱助さん
:10/02/15 21:11 :D905i :4vzAUNjI
#651 [笹]
「二度と離れない、と」
にやりとつり上がった
艶容な口元
「‥言いましたけど」
だから何ですかと言う話である
不思議そうに見つめれば
満足そうに茶を啜った
:10/02/15 21:11 :D905i :4vzAUNjI
#652 [笹]
そしてまた貴方は呟いた
"あんただけだ。"‥と
_
:10/02/15 21:12 :D905i :4vzAUNjI
#653 [笹]
第十九章 【約束、交わして】
*。*。*。*。*。*
本日二度目の更新
早く二人を絡めたくて
書いてしまいましたw
どうやら皆様のおかげで
スランプ抜け出しました ^ω^
えーっと
もどかしいですねw
直接的な言葉は避け続けます←
もどかしいのが好きなんです//
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/4676/:10/02/15 21:15 :D905i :4vzAUNjI
#654 [笹]
壱助さんと居ると
何だかんだ、落ち着くの
嫌な過去も忘れられて
今の時に満足できる
思わず"会心の笑みを漏らす"もの
:10/02/16 22:38 :D905i :H0XuP1PQ
#655 [笹]
:
:
「壱助さん!!」
「何、か」
―‥ある日の午後
「裾!!」
「‥」
:10/02/16 22:39 :D905i :H0XuP1PQ
#656 [笹]
出掛けようと腰を上げた
壱助さんの着物の裾を
引っ張った
眉間にしわを寄せて
それを見下げる壱助さん
「解れてますよ!!」
裾から垂れた細い糸が
畳の上を這っていたのだ
:10/02/16 22:39 :D905i :H0XuP1PQ
#657 [笹]
「おや、おや」
それは驚いているのか‥
声の調子からは
全く読みとれないのが
壱助さん独特なのです
:10/02/16 22:40 :D905i :H0XuP1PQ
#658 [笹]
:
:
「あたしが直しますから‥
脱いで下さい!!」
よく言えたものだ
あたしみたいな生娘が
色男に脱げなんて‥
「こりゃぁ、随分と積極的‥」
「ち‥違いますぅ!!」
:10/02/16 22:41 :D905i :H0XuP1PQ
#659 [笹]
くすっと鼻で笑い
するりと帯を解く
顔を覗かせた真っ白な肌に
目を奪われて‥
「って、
目の前で脱がないでください!!」
:10/02/16 22:41 :D905i :H0XuP1PQ
#660 [笹]
気付けば
してやられているのです
「注文が多いです、ね」
いちいち顔を熱くして
何時か慣れる時が来るだろうか
:10/02/16 22:42 :D905i :H0XuP1PQ
#661 [笹]
:
:
「ほぉう‥」
解れた裾に針を通し
ちくちくと縫い上げる手を
物珍しそうに見つめていた
‥なんか、可愛い
いや、壱助さんに可愛いなんて
‥あたしは何を考えてるんだ
:10/02/16 22:42 :D905i :H0XuP1PQ
#662 [笹]
最近何かと愛着がわいて
時々そんな事を考える
だけどこの人には
美しいという言葉が
一番似合うわけですが‥
「随分と‥器用なものです、ね」
「お裁縫は得意なんですよっ!」
と得意げに
にいっと笑ってみせれば
:10/02/16 22:43 :D905i :H0XuP1PQ
#663 [笹]
「"だけ"」
と痛いところを突いてくる
だけど最近
壱助さんがよく笑う気がする
此は笑う‥って言うのか
よくわからないけど
含み笑い?‥そんなの。
:10/02/16 22:43 :D905i :H0XuP1PQ
#664 [笹]
「何処で‥
引っ掛けてきたんですか?」
「さぁ、ね」
わざとはぐらかしているのか
本当にわからないのか
睫を伏せて腕を組み直す
:10/02/16 22:44 :D905i :H0XuP1PQ
#665 [笹]
「‥」
ちくちくちくちく
「‥」
ちくちくちくちく
‥見すぎ!!
ちょっとやりにくいし
何か近いんですけど!!
:10/02/16 22:44 :D905i :H0XuP1PQ
#666 [笹]
あっちこっちに角度を変えて
針を目で追っている
本当にもう少しで
その綺麗な顔まで縫いそうなほど
「あの‥やりにくいんですけど」
その手を止めれば
「いいじゃあ、ないですか」
いつもの調子
そんなに面白いだろうか
:10/02/16 22:45 :D905i :H0XuP1PQ
#667 [笹]
代わりに羽織っただけの浴衣
きちんと着ていないのは
初めてだから‥なんか新鮮で
それでいて今日は
やっぱり何処か‥うん
珍しく壱助さんから
寄ってきたからかな?
「‥ちょっと
あっち行ってて下さい」
:10/02/16 22:46 :D905i :H0XuP1PQ
#668 [笹]
「‥」
‥どうしてそんな
不機嫌になるんですか!!
切れ長の目で一度睨み付けて
仕方なさそうに腰を上げた
ひらり翻った浴衣から香る
壱助さんの匂いが鼻をくすぐる
:10/02/16 22:46 :D905i :H0XuP1PQ
#669 [笹]
胡座をかいて茶を啜り
外の世界に目を向けて
だらしなく下がった襟元の色気
ただの浴衣さえ
貴方が着れば一級品
‥あたしもあれくらい
美しく生まれたかったもんだ
:10/02/16 22:47 :D905i :H0XuP1PQ
#670 [笹]
:
:
「でーきたっ!!」
我ながら完璧
着物を宙に広げて
満足そうに微笑んだ
「壱助さーん、できましたよーっ」
「はい、はい」
返事をするものの
動こうとしないもんだから
自ら近寄った
:10/02/16 22:48 :D905i :H0XuP1PQ
#671 [笹]
「はいっどーそ!」
着物を差し出せば
"有り難い"とぽつり呟き
するりと袖を通した
今日の壱助さんは
とても穏やかな気がします
それから‥素直。
:10/02/16 22:49 :D905i :H0XuP1PQ
#672 [笹]
「ちょいと手が‥
冷えちまったもんで、ね」
袖に閉まっていた両手を
此方に差し出しながら言った
いつも冷たい気もするけど‥
脱いだ浴衣をあたしの肩にかけ
にやり口角をあげる
:10/02/16 22:49 :D905i :H0XuP1PQ
#673 [笹]
「暖めてくれや‥しやせん、か」
浴衣ごと包み込むように
抱き寄せて
胸の中に押し込められた
少し冷えた体と暖かな鼓動
何故だかこの上ない
幸せを感じて‥
:10/02/16 22:50 :D905i :H0XuP1PQ
#674 [笹]
最初から
こうしたかったのかな、なんて
仕様もなく良いように考える
やっと貴方に
‥追いつけた気がします。
_
:10/02/16 22:51 :D905i :H0XuP1PQ
#675 [笹]
:10/02/16 22:54 :D905i :H0XuP1PQ
#676 [笹]
少しの人情
少しの気の迷い
たった其れだけでも
"月夜に釜を抜かれる"事がある
いつ何時も
油断しては成らぬと言うのに‥
ねぇ、香夜さん‥
:10/02/17 23:52 :D905i :fmvw49TU
#677 [笹]
:
:
誘拐されました。
自分でも
よくまだ理解できてません
とりあえず
暗いっ!怖いっ!!
壱助さぁぁあんっ!!
:10/02/17 23:53 :D905i :fmvw49TU
#678 [笹]
:
:
ついさっきのこと。
壱助さんのお茶を買うため
いつも通り街に出ました
「あーあ‥
本当に毎回毎回
なくなるのが早くなる
もう一週間で飲み切って‥
ありえない、あの人」
ぶつぶつ言いながら
大量に買った
お茶の袋を抱えて帰る途中
:10/02/17 23:53 :D905i :fmvw49TU
#679 [笹]
目の前にうずくまった女の人
「大丈夫ですか?」
声をかけて顔を覗き込めば
それはそれは美しい方で
「少々‥立ち眩みがして」
頭を抑えて眉間に皺を寄せていた
:10/02/17 23:54 :D905i :fmvw49TU
#680 [笹]
あまりに辛そうで
放っておけるわけもなく
‥普通は放っておかないか
「あの‥立てますか?
此処じゃ危ないので何処か‥」
誰だって油断するでしょう
誰だって心配するでしょう
:10/02/17 23:54 :D905i :fmvw49TU
#681 [笹]
肩を貸して立たせてあげた瞬間
「‥?!」
腹部に走った激痛
よく覚えてないけど
多分殴られたんだと思います
:10/02/17 23:55 :D905i :fmvw49TU
#682 [笹]
:
:
そこから全く記憶がなく
気付いたら真っ暗闇で
しかも
手足縛られ‥口塞がれ
‥此処どこなのよぉーっ!!
って叫びたくても叫べない
‥辛いです
:10/02/17 23:56 :D905i :fmvw49TU
#683 [笹]
「お律様、
あの男がもうそろそろ此方へ‥」
微かに男の低い声が
向こう側から聞こえた
「そうかい‥
相当此の娘気に入ってるのかい」
次に聞こえたのは女の‥
ん‥?
:10/02/17 23:56 :D905i :fmvw49TU
#684 [笹]
―‥もしかして
『少々‥立ち眩みが』
‥あぁあああ!!
さっきの女の人の声だ
「‥憎たらしい娘だねぇ」
チッと舌打ちが聞こえた
さっきの雰囲気とは大違い
:10/02/17 23:57 :D905i :fmvw49TU
#685 [笹]
話の内容的には
憎たらしい娘があたしで
あの男が壱助さん‥かな?
ってことは
壱助さんが助けに来てくれるっ!!
その瞬間
一気に体の力が抜けて
楽になった
なぁーんだ
すぐ帰れるじゃなぁい!
:10/02/17 23:57 :D905i :fmvw49TU
#686 [笹]
何て‥調子に乗れば
「それで、あの娘は?」
「へいっ」
‥ろくなは事ない
:10/02/17 23:58 :D905i :fmvw49TU
#687 [笹]
―‥バン!!
一瞬で光が差し込み
真っ白になった世界に目を細めた
びくんと心臓が飛び跳ね
目の前に急に現れた
柄の悪い男に驚く
「おいお前!!」
:10/02/17 23:58 :D905i :fmvw49TU
#688 [笹]
塞がれた口を
塞がれてるなりに
ぱくぱくと開け
最早‥涙目
こんなごっつい男の人
久しぶりに見たよ‥
壱助さんしか見てないから
余計に驚いた
「暴れたら‥
只じゃ、おかねぇからな!!!」
「‥んっ、んぐ」
:10/02/17 23:59 :D905i :fmvw49TU
#689 [笹]
これ以上はないと言うくらいに
思い切り縦に首を振った
‥これは本当に殺される。
_
:10/02/18 00:00 :D905i :4LI2ZH.E
#690 [笹]
バン!!
その男は思い切り襖を閉め
また一人暗闇に放り出された
もう怖すぎて‥
体の震えが止まらないよ
壱助さん早く助けてぇ‥
:10/02/18 00:00 :D905i :4LI2ZH.E
#691 [笹]
:
:
「あら、いらっしゃい」
「ご無沙汰しておりました、ね
‥お姉様」
‥!!
壱助さんだっ!
その声を聞いて
ほっと胸をなで下ろした
:10/02/18 00:01 :D905i :4LI2ZH.E
#692 [笹]
「‥此処へは、あれから
来てないそうじゃない?」
「えぇ‥まぁ」
男が思い切り閉めた弾みで
少しだけ出来た隙間に
思い切り目を押し当てた
派手な着物を着崩したあの女の人
その傍にお猪口を手にした
壱助さん
:10/02/18 00:01 :D905i :4LI2ZH.E
#693 [笹]
その横に大きめの布団
この独特の香り
もしかして此処‥遊女屋?
「相変わらず‥お綺麗で」
艶容な唇をうっすら釣り上げて
あたしには見せない優しい笑み
:10/02/18 00:02 :D905i :4LI2ZH.E
#694 [笹]
「まぁ‥
あの子と重ねてるのかい?」
あの子‥?
それにさっき壱助さん
"お姉様"って‥
やっぱり常連なのかな
信じたくないけど
考え出したら止まらないたち
‥何だか悔しいよ。
:10/02/18 00:02 :D905i :4LI2ZH.E
#695 [笹]
「いえ、いえ
‥確かにそっくりですが、ね」
「双子だもの、当たり前さ」
女の人の赤く染まった爪が
壱助さんの真っ白な頬を撫でた
それに応えるように
壱助さんが片方の手を握った
:10/02/18 00:04 :D905i :4LI2ZH.E
#696 [笹]
‥やだ。
あたしの前で?
壱助さん、
あたしに気付かないの?
暴れてみても
余計に縄が食い込み痛むだけ
声を上げても
周りの色がましい声に消される
:10/02/18 00:04 :D905i :4LI2ZH.E
#697 [笹]
ねぇ‥やめて
壱助さんに触らないでよ‥
壱助さん‥壱助さんっ!!
_
:10/02/18 00:05 :D905i :4LI2ZH.E
#698 [笹]
:10/02/18 00:10 :D905i :4LI2ZH.E
#699 [笹]
:10/02/18 00:27 :D905i :4LI2ZH.E
#700 [笹]
:10/02/18 00:30 :D905i :4LI2ZH.E
#701 [笹]
:10/02/18 00:32 :D905i :4LI2ZH.E
#702 [笹]
:10/02/18 00:34 :D905i :4LI2ZH.E
#703 [笹]
:
:
目の前で繋がった手と手
真っ赤な着物が背を向けて
貴方に詰め寄る
見たくもない光景
だけど目が離せない
今すぐ追い払いたい
だけど今のあたしは無能
もどかしさと悔しさに
涙を浮かべても
貴方は気付いてくれなくて‥
:10/02/18 20:11 :D905i :4LI2ZH.E
#704 [笹]
「彼女は、首筋に
黒子がありました‥」
「‥やめとくれよ
もうあの子は居ないじゃないの」
頬を這った赤い爪
それに手を添えて微笑した
:10/02/18 20:12 :D905i :4LI2ZH.E
#705 [笹]
壱助さん‥やだよ
あたしが子供だから?
あたしじゃ満たされないから?
あたしは‥貴方がいいのに
:10/02/18 20:12 :D905i :4LI2ZH.E
#706 [笹]
「まぁ、まぁ」
そう言うと壱助さんは
赤い爪を優しく払いのけ
睫を伏せた
「‥壱助さん、抱いとくれよ」
甘ったるい声が響く
暴れすぎて食い込む縄
じりじりと痛みが熱さに変わる
:10/02/18 20:13 :D905i :4LI2ZH.E
#707 [笹]
悔しくて悔しくてたまらない
思いきり噛み締めると
布に滲んだ鉄分が
舌に流れ込んだ
「あの子と同じだろう?
あの子と何一つ変わらない‥
それとも何だい‥
あんな小娘を慕ってるとでも?」
挑発的に腕を首に絡ませて
紅に染まった唇を
壱助さんの首筋に寄せた
:10/02/18 20:14 :D905i :4LI2ZH.E
#708 [笹]
あの子って誰だろう‥
壱助さんの恋仲だった人?
あたしとは
恋仲でも何でもないのに
どうしてこんなに
気になっちゃうんだろう‥
壱助さんには
あたしなんか釣り合わない
わかってるのに
:10/02/18 20:14 :D905i :4LI2ZH.E
#709 [笹]
「香夜さんを‥ご存知で?」
微動だにせず唇だけ動かした
「まだまだ子供じゃないか‥
あんなのよりも‥ねぇ?」
そうだ‥
誰から見ても
あたしはまだ子供
壱助さんも
あたしのことなんて
相手にしてないかもしれない
:10/02/18 20:14 :D905i :4LI2ZH.E
#710 [笹]
蛇のように絡みつき
舌を頬に這わせた
「そうです、ね
確かに‥子供だ」
ほらやっぱり
期待して盛り上がってるのは
あたしだけなんだ
:10/02/18 20:15 :D905i :4LI2ZH.E
#711 [笹]
納得しようと
自らに語りかけても
溢れ出す涙は止まらない
今にも重なりそうな唇
思わず息をひそめた
「しかし‥」
―‥目の前で重なった
:10/02/18 20:15 :D905i :4LI2ZH.E
#712 [笹]
欲望をかき回すように
お互いを弄り
漏れる女の吐息と
冷静な顔つきの貴方
色がましいほどの接吻
耳にへばり付く音
その目にあたしは映らない
‥このまま消えてしまいたい
事が一気に重なりすぎて
自分を見失ってしまいそう
:10/02/18 20:16 :D905i :4LI2ZH.E
#713 [笹]
:
:
「ぎゃあぁああぁ!!!」
それは突然だった
いつの間にか二人は離れ
悲鳴を上げて悶える女の姿
ぺろりと舐めた壱助さんの唇には
真っ赤な血液
:10/02/18 20:17 :D905i :4LI2ZH.E
#714 [笹]
転がる女の口からも
同じ色の液体が滴る
「私は、好き者なもんで‥ね」
横目でその姿を見つめ
すぐさま腰を上げた
:10/02/18 20:17 :D905i :4LI2ZH.E
#715 [笹]
「げほっ‥んぐ
お前‥ふざけるな‥っ!!」
「連れを悪く言われては‥
流石に私も‥黙っちゃいない」
冷酷な視線が女を突き刺す
悲鳴に反応して
集まった男たちが刀を抜いた
「よくも‥貴様!!」
:10/02/18 20:18 :D905i :4LI2ZH.E
#716 [笹]
壱助さん‥殺されちゃう
逃げて壱助さん!!
しかしそれには目もくれず
すたすたと此方に向かってきた
もしかして‥最初から
:10/02/18 20:18 :D905i :4LI2ZH.E
#717 [笹]
「ふざけるのもいい加減に‥!!」
そう言った一人の男が
刀を壱助さんの背中に振り上げた
「どいつもこいつも‥
騒がしいです、ね」
:10/02/18 20:19 :D905i :4LI2ZH.E
#718 [笹]
―‥ドカッ!
そう言い終わる前に
すぐさま振り返り
余裕の回し蹴り‥
壱助さん‥貴方強すぎです
怖じ気づいた他の衆に
睨みをきかせると
「何時まで其処に‥居る気で?」
:10/02/18 20:20 :D905i :4LI2ZH.E
#719 [笹]
場に似合わないような
美しい手が襖を開けた
「おや、おや
随分と悪趣味な‥」
悪趣味って‥
好きで縛られてるんじゃない!!
ぼろぼろ涙を零すあたしの
口を塞いでた布を
簡単に解いて
ひょいと抱き抱えられた
:10/02/18 20:20 :D905i :4LI2ZH.E
#720 [笹]
「壱助さぁあんっ!」
「‥全く、だらしない」
呆れ顔に呆れ口調
結局はどんな対応でも
壱助さんなら許せちゃう
:10/02/18 20:21 :D905i :4LI2ZH.E
#721 [笹]
「‥どうしてだい?!」
急に背中から聞こえた
女の叫び声
「あの子が居なくなったら‥!
あの子が死んだら、
振り向いてもらえると
‥思っていたのに!!」
:10/02/18 20:22 :D905i :4LI2ZH.E
#722 [笹]
後ろを覗き込めば
狂気に犯された女が
あの真っ赤な爪で頭を掻きむしり
急に老いぼれたようで
‥まるで化け物
「あの子さえ居なくなれば‥
あんたはあたしの物だった
あの子が邪魔をしたんだ!!」
:10/02/18 20:22 :D905i :4LI2ZH.E
#723 [笹]
立ち止まり
真っ直ぐ前を見据えた壱助さんは
黙ってそれを聞いていた
「‥今度はその娘かい?!
どうしてあたしじゃ‥」
俯き滴る雫
こぼれた血液と混ざり合い
怪しく濁る
:10/02/18 20:23 :D905i :4LI2ZH.E
#724 [笹]
‥この人は
壱助さんを愛してたんだ
あの涙は
さっきあたしが流したものと
きっと同じ
憎しみや嫉妬
嫌らしい欲情に埋もれた
透き通ってたはずの心
なんだか
わかる気がした‥
:10/02/18 20:23 :D905i :4LI2ZH.E
#725 [笹]
「‥ちょいと、貴女は
履き違えてしまった」
ぽつりそう言い残して
振り向きもせずに、
―‥そして悲しい顔をした。
_
:10/02/18 20:24 :D905i :4LI2ZH.E
#726 [笹]
:10/02/18 20:29 :D905i :4LI2ZH.E
#727 [笹]
:10/02/18 20:31 :D905i :4LI2ZH.E
#728 [笹]
誰かに対する愛情は
大きければ大きいほど
失った時の悲しみが
憎しみに変わる
人格をも変えてしまう
愛は何よりも暖かく
そして恐ろしくもある
:10/02/21 18:50 :D905i :lVW6ewV2
#729 [笹]
:
:
あたしの母親と
あの遊女さんは
同じ顔をしてた気がする
酷く狂気におかされて
憎しみが溢れ出して‥
だけどその目の奥は
不釣り合いなほどに
孤独の悲しみに濡れ
未来に瞳を曇らせていた
:10/02/21 18:50 :D905i :lVW6ewV2
#730 [笹]
愛されたいと思うのも
愛したいと思うのも
‥人間の本質で
愛する人がいて初めて
心の支えができる
母親を許すわけじゃない
妹を殺す事も許されない
だけど‥
:10/02/21 18:51 :D905i :lVW6ewV2
#731 [笹]
「‥壱助さん」
「気になります、か」
あの表情が頭から離れない
ずしりとした感覚が
頭の先から流れ出す
「あの遊女さん‥、」
「妹を‥殺しました」
「‥双子の?」
「えぇ、」
:10/02/21 18:51 :D905i :lVW6ewV2
#732 [笹]
「壱助さんは‥恐ろしいですね」
そう言うと
驚きもせずに
むしろ納得してるみたいに
ほくそ笑んで目を細めた
「それだけ‥
魅了してしまうんだもの」
「私が‥
殺めたような物です、よ」
:10/02/21 18:52 :D905i :lVW6ewV2
#733 [笹]
壱助さんが悪いのかな
誰が悪い‥?
「誰も‥悪くないと思います」
「ほぉう‥」
壱助さんは
興味深そうにこちらを見つめ
楽に足を崩した
「愛されたいじゃないですか‥
誰だって」
:10/02/21 18:52 :D905i :lVW6ewV2
#734 [笹]
だって‥
あたしは愛を知らないから
愛されたいって思います
愛しても見捨てられて
それでも無理矢理に追いかけて
あたしに向けられたのは
痛いほどの言葉たちと
たくさんの醜い傷
お父さんに対する母の愛情に
あたしは負けてしまったの
:10/02/21 18:53 :D905i :lVW6ewV2
#735 [笹]
これが愛だと言うなら
もう誰も‥愛したくない
「香夜さん、」
それはとても優しくて
だけど厳しくて
「見返りを求めてしまえば
‥それは、ただの欲望だ」
「欲‥望?」
:10/02/21 18:53 :D905i :lVW6ewV2
#736 [笹]
「愛されると言うことは
誰にとっても本望です、よ
しかし‥
此方が得するような愛などない」
得なんかしなくていい
ただ同じ重さのものが欲しくて
「初対面の人を愛せと言われて
愛せる人などいないでしょう
‥自然とそんなものは
生まれるもので、香夜さん」
:10/02/21 18:54 :D905i :lVW6ewV2
#737 [笹]
だから何だと言うの?
「相手もまた‥然り
愛してと言ったって
‥無理なものは無理です、ぜ
偽りとなれば
また話は別ですが‥」
「運命ってことですか?」
運命‥そんな不確かなものを
壱助さんは信じないでしょう
:10/02/21 18:54 :D905i :lVW6ewV2
#738 [笹]
「自らが与え続ければいい
‥それだけの事、ですよ」
壱助さんは色男だから
そんな事が言えるんじゃないのか
与え続けて成果がなければ
疲れてしまうじゃない
:10/02/21 18:55 :D905i :lVW6ewV2
#739 [笹]
「お律さんが‥
私を慕ってくれていた
それは自然と起こった感情で
自らの自由な思いです。
しかしそれを私にも求めて‥
都合のいい話じゃあないですか
関係のない彼女の自由をも犯し
‥それが愛だとでも?」
貴方は何処までも大人で
:10/02/21 18:56 :D905i :lVW6ewV2
#740 [笹]
「与えれば、必ず与えられる
そんな保証が此の世に有るなら
‥ソレは偽りと化す
彼女はちょいとばかり
‥求めすぎた」
いつもいつも
何かを教えてくれる
:10/02/21 18:57 :D905i :lVW6ewV2
#741 [笹]
「分からないからこその
本物だと思うのですが、ね」
「ソレが本物なら‥
どれだけ辛くても‥そっか」
辛くても耐えられる
耐えられなくなった時
ソレは偽りに変わる
:10/02/21 18:57 :D905i :lVW6ewV2
#742 [笹]
「時に泣き、時に憎しみ
‥それが浮き世と言うもんで
誰かの幸福が
誰かの不幸になる‥」
じゃあ、あたしが
辛い思いをした時に
誰かが幸せになってたのかな
:10/02/21 18:58 :D905i :lVW6ewV2
#743 [笹]
他人の幸せを
願える人になれたなら
自分の幸せを
そっちのけにできたなら
‥それが一番の幸せ
偽りのない本物が手に入る
:10/02/21 18:58 :D905i :lVW6ewV2
#744 [笹]
『あの子さえ居なくなれば‥!!』
本物の愛を見つけて
"貴方が幸せなら其れでいい"
‥そのことに気付けたなら
「不幸は幸せに‥
変わるもんです、よ」
_
:10/02/21 18:59 :D905i :lVW6ewV2
#745 [笹]
:10/02/21 19:03 :D905i :lVW6ewV2
#746 [笹]
:
:
「それより‥!!」
「まだ、何か」
貴女は素直な娘だと
思うのですが‥
ちょいと怒った様子で
此方に詰め寄ってきた
ふわり、香る貴女
:10/02/21 19:04 :D905i :lVW6ewV2
#747 [笹]
「何ですかあれ!!」
大人の色気とは程遠い
首筋のあどけなさ
自然に染まった唇の色が
何とも‥柔らかく
「あれ、とは?」
じっと睨みをきかせても
今回ばかりは
怖じ気付かずに‥強気、と来た
:10/02/21 19:05 :D905i :lVW6ewV2
#748 [笹]
「さっき遊女さんに‥」
「はい、はい
近頃、あのような行為からは
疎遠だったもので‥
ついつい‥力んでしまい」
くすっと鼻であしらえば
不満そうに顔をしかめる
:10/02/21 19:05 :D905i :lVW6ewV2
#749 [笹]
確かにアレは
意図的なもので
思いの外、血が出てしまい
しかし
一体‥何だって言うんで?
「そうじゃなくて!!」
随分と今日は
はっきりと物を言う
:10/02/21 19:06 :D905i :lVW6ewV2
#750 [笹]
私に睨みをきかせるとは‥
何様のおつもりなのか、ねぇ
「誘惑に負けたんですか?!」
「‥誘、惑」
あぁ‥なるほど、ねぇ
:10/02/21 19:06 :D905i :lVW6ewV2
#751 [笹]
「妬いていらっしゃるんで?」
貴女は本当に
‥可愛らしい人だ
しかし、何時もは此処で
違うと頬を染めて声を張る
:10/02/21 19:07 :D905i :lVW6ewV2
#752 [笹]
「そりゃ‥妬きますよ」
「ほぉう」
どうしたもんか‥ねぇ
珍しい話だ
一向に目を逸らそうとせず
潤んだ瞳の色に魅了され
‥自分に呆れるもんで
:10/02/21 19:07 :D905i :lVW6ewV2
#753 [笹]
「よし、よし」
誤魔化そうと頭を撫でても
機嫌は直らず
‥しぶとい、ですね
「子供扱いしないでくださいぃ!」
そんなつもりは
さらさら無いのですが‥
:10/02/21 19:07 :D905i :lVW6ewV2
#754 [笹]
子供を相手にするほど
暇じゃあない
「では、何ですか
あのように‥されたいとでも?」
言い寄られては立場がない
やれやれと睫を伏せれば
:10/02/21 19:08 :D905i :lVW6ewV2
#755 [笹]
――――‥
やられだもんだ
_
:10/02/21 19:08 :D905i :lVW6ewV2
#756 [笹]
押し当てられた唇
随分と‥強引な方だ
盛りの猫ですか、貴女は
堅く閉じられた瞼が
時折ぴくりと動く
数秒押し当て満足したのか
急に離して頬を染めた
:10/02/21 19:09 :D905i :lVW6ewV2
#757 [笹]
「‥消毒ですかい?」
羞恥に溢れた熱を
瞳に目一杯溜めて
不満そうな唇
「‥下手くそ」
「へ?」
そう吐き捨てて含み笑い
:10/02/21 19:09 :D905i :lVW6ewV2
#758 [笹]
香夜さん‥
あんたは本当に
子供じみた事をするもんだ
「ちょいと‥
大人になったらどうです、か」
‥あんたが悪い
:10/02/21 19:10 :D905i :lVW6ewV2
#759 [笹]
その不満そうな唇に
思い知らせてやりましょう、か
「ふぁっ」
漂う桃色に、本日は‥身を任せ。
_
:10/02/21 19:10 :D905i :lVW6ewV2
#760 [笹]
:10/02/21 19:15 :D905i :lVW6ewV2
#761 [笹]
:10/02/21 19:19 :D905i :lVW6ewV2
#762 [笹]
:10/02/21 19:20 :D905i :lVW6ewV2
#763 [笹]
:
:
春になって
辺りの木々が鮮やかになる
新芽が生えて鶯が鳴く
暖かな空気と
鼻をくすぐる梅の香り
「‥香夜さん」
いろいろあったけど
壱助さんとは
一応仲良くやってる‥つもり
:10/02/26 16:21 :D905i :ABxgeLMY
#764 [笹]
相変わらず
意地悪してくるけど‥
「何ですか?」
突拍子もないことを言う
何を考えてるのかは
未だによくわからない
「行きます、よ」
とりあえず
肝心なところを言わないのが
壱助さん流なんだと思う
:10/02/26 16:22 :D905i :ABxgeLMY
#765 [笹]
「行くって‥何処へ?」
そんなあたしの質問には
耳も傾けず
流れるような細い指が
腕に絡まる
どきっとしてしまう
恐ろしいほどの貴方の色気
:10/02/26 16:23 :D905i :ABxgeLMY
#766 [笹]
:
:
怒ってるわけじゃないみたい
‥売られることはなさそう
いつもよりゆっくりと
下駄の音を緩くして
艶容な口元が柔らかい
だからと言って
笑ってるわけでもなく
いつもの仏頂面
:10/02/26 16:24 :D905i :ABxgeLMY
#767 [笹]
「もう春ですねぇー」
小鳥のさえずりに耳を傾ける
「えぇ‥そのようです、ね」
春が嫌いなのか何なのか
ちっとも嬉しくなさそう
:10/02/26 16:24 :D905i :ABxgeLMY
#768 [笹]
「壱助さんは
四季で一番いつが好きですか?」
そう問えば
横目でちらり此方を覗く
「‥貴女は?」
繋ぎ目から伝わる温かさ
春はさすがに
冷え性も治るのかな?
:10/02/26 16:25 :D905i :ABxgeLMY
#769 [笹]
「あたしは春が好きです!!」
だから今こうして
外を歩いているのが楽しい
「‥ほぉう
それはまた‥何、故?」
珍しく壱助さんが
あたしに興味をしめしてる
:10/02/26 16:25 :D905i :ABxgeLMY
#770 [笹]
春だから?暖かいから?
そんなことが理由なら
壱助さんはとても単純な事になる
「ぽかぽかして暖かいし、
ほら!小鳥のさえずりって
聞くと何だか幸せになるし!!
‥あとは、お花が綺麗っ」
「‥へぇ」
:10/02/26 16:26 :D905i :ABxgeLMY
#771 [笹]
‥自分から聞いておいて
そりゃぁないよ‥壱助さん
いつもと同じ無関心な声が
たった一言そう告げる
「で、壱助さんは?」
少し歩幅を大きくして
顔を覗き込む
:10/02/26 16:26 :D905i :ABxgeLMY
#772 [笹]
「ご存知ですかい?」
「‥何を?」
「春の陽気にさそわれて
動物たちが活動を、始める」
「だからいいんですよ春!!
賑やかじゃないですかぁっ」
「ついでに‥変質者も、ね」
:10/02/26 16:26 :D905i :ABxgeLMY
#773 [笹]
つり上がった口元と
冷たい視線が訴えた
「あたしの何処がっ‥
変質者なんですかぁっ?!」
「おや、おや
わからないとは‥可哀想な方、だ」
吐き捨てた言葉がぐさり
意地悪!意地悪ーっ!
:10/02/26 16:27 :D905i :ABxgeLMY
#774 [笹]
:
:
もうだいぶ歩いて街から外れた
人がめっきりいなくなり
真っ青な空が一面に広がる
「んぅー‥」
ぷうっと頬を膨らませる
正直歩き疲れたし
何処へ向かってるかもわかんない
:10/02/26 16:28 :D905i :ABxgeLMY
#775 [笹]
ただただ手を引かれる
少しだけ心細い
「‥」
「んわっ!!」
急に壱助さんの足が止まり
背中に顔が埋まった
鼻‥痛い
:10/02/26 16:28 :D905i :ABxgeLMY
#776 [笹]
「急に止まんないでくださ‥」
―‥ガンッ!!!
目の前の鮮やかな緑が歪み
一気に真っ暗になった
:10/02/26 16:28 :D905i :ABxgeLMY
#777 [笹]
:
:
ふわり鼻をくすぐる
体の中が色づくような
華やかな梅の香り
「痛たた‥ったぁ‥あぁ?!」
頭を抑えながら体を起こせば
一面に広がる梅の花
:10/02/26 16:29 :D905i :ABxgeLMY
#778 [笹]
柔らかな赤い花
さわやかな白い花
愛らしい桃色の花
‥天国?
そう疑ってしまうほど
こんな景色‥見たことない
:10/02/26 16:29 :D905i :ABxgeLMY
#779 [笹]
「‥石頭」
「へ?」
隣から聞こえたその声は
不機嫌そうな壱助さん
「ちょいと踵が‥
痺れてしまいやした、よ」
胡座をかいて
右の踵を軽くさすりながら
呆れたようなため息を漏らす
:10/02/26 16:30 :D905i :ABxgeLMY
#780 [笹]
ってか‥踵って
踵落とししたんかいっ!!!
どうりで頭が
割れそうに痛むわけだ
「壱助さん‥此処‥」
いつもならそこで
"酷ーい!!"なんてわめくのに
不思議とそんな思いが
この景色の中に吸い込まれていく
:10/02/26 16:30 :D905i :ABxgeLMY
#781 [笹]
「冬が‥好きでしたが、ね」
長い睫を伏せて
膝に落ちた花びらを愛でる
なんだか一つの作品みたいに
壱助さんは
こんな素敵な空間に
あっという間に溶け込んでしまう
:10/02/26 16:31 :D905i :ABxgeLMY
#782 [笹]
「今は、春‥ですかね」
「春‥春やっぱりいいですよね!!」
初めて意見が合った気がする
春の力は素晴らしい
:10/02/26 16:31 :D905i :ABxgeLMY
#783 [笹]
「しかし、そのうち‥」
純白の指で摘んだ
真っ赤な花びらをじっと眺めて
「夏が好きに‥なります、よ」
ふっと息を吹きかけると
踊るように舞った
‥―梅の香りに誘われて
:10/02/26 16:31 :D905i :ABxgeLMY
#784 [笹]
:10/02/26 16:38 :D905i :ABxgeLMY
#785 [笹]
:10/02/26 16:39 :D905i :ABxgeLMY
#786 [笹]
:10/02/26 16:40 :D905i :ABxgeLMY
#787 [笹]
:
:
壱助さんは早起きだ
とんでもなく早起きだ
目が覚めたらいつも
着物をきっちり着付けて
正座をしてお茶を啜ってる
もちろん激痛を伴う
顔面平手打ちの目覚ましを
あたしに喰らわせてから‥
:10/03/08 17:28 :D905i :6zJg1U3A
#788 [笹]
だけど今日は‥
すっと目が覚めた
痛みはない。
春の柔らかな風が頬をくすぐった
「おはよ‥ございます」
:10/03/08 17:30 :D905i :6zJg1U3A
#789 [笹]
呂律の回りきらない
寝ぼけ眼でそう言った
珍しく着くずした着物
胡座をかいてぼうっとしてる
まさか‥寝起き?
「随分と‥早いもんだ」
:10/03/08 17:31 :D905i :6zJg1U3A
#790 [笹]
よく見ればまだ日は昇りかけ
太陽の光がこちらに差し込む
「あぁ‥うんと
何か目が覚めちゃって」
胸元を整え髪を結い直せば
どことなく‥
穏やかな表情の壱助さん
:10/03/08 17:31 :D905i :6zJg1U3A
#791 [笹]
「おや、おや」
眠そうなその目は
とろんと睫で覆われ
無防備なまでの唇に
あたしの胸が鳴いた
どうしてこうも‥
いちいち色気を振りまくのか
いつだってあたしの鼓動は
忙しなく遊ばれる
:10/03/08 17:32 :D905i :6zJg1U3A
#792 [笹]
「夢でも‥見ました、か」
「‥夢、あぁ‥うぅん」
誤魔化すのは無駄だと
言わんばかりに
こちらに向けられた鋭い視線
「い‥壱助さんこそ!!」
:10/03/08 17:32 :D905i :6zJg1U3A
#793 [笹]
壱助さんこそ何だと言うのかしら
あたしの口は‥もう
とろけそうなあたしの頭の中は
まだまだ目覚めない様子
「何、か」
にこっとつり上がった口元に
応じるように瞳が笑う
:10/03/08 17:33 :D905i :6zJg1U3A
#794 [笹]
壱助さんが‥わ、笑ってる
相変わらず美しい手で
膝の上に頬杖をついて
うっすら浮かべた笑みを
惜しげもなく向けられた
何を企んでるのかしら‥?
「え‥ええっと」
:10/03/08 17:33 :D905i :6zJg1U3A
#795 [笹]
残念ながら寝起きの頭は働かず
‥もとから
働かす頭もないけれど
「‥ゆ、夢!
見たんじゃないですか?!」
訳の分からぬ発言を
壱助さんは軽く
クスッと鼻であしらった
:10/03/08 17:34 :D905i :6zJg1U3A
#796 [笹]
"壱助さんこそ
夢見たんじゃないですか?!"
うん‥意味がわからない
「ゆ、め‥
そうですねぇ‥見ました、ね」
珍しくあたしの問いかけに
まともに答えた‥!!
おかしい‥怪しいわよ
:10/03/08 17:35 :D905i :6zJg1U3A
#797 [笹]
ゆっくり昇る光が
壱助さんの頬を照らした
透き通るような肌
もう、恐ろしいくらい‥
「どんな夢?」
前のめりになり
興味津々に目を輝かせてみた
だって壱助さんが
自分の内を語るなんて
あり得ないことだから
:10/03/08 17:35 :D905i :6zJg1U3A
#798 [笹]
「ほぉう‥気になります、か」
勢いで突き出した顔は
案外大胆で‥
春風に揺られて
壱助さんの香りも運ばれてきた
:10/03/08 17:36 :D905i :6zJg1U3A
#799 [笹]
意地悪そうに
視線で体を撫でられて
急に帯びてきた熱を
誤魔化そうとまばたきを多めに
"はい"と頷けば
満足げに笑った
:10/03/08 17:36 :D905i :6zJg1U3A
#800 [笹]
:
:
それから少々の沈黙
なかなか開かない口
え‥まさか
このまま言わないつもり?
らしいと言えばらしいけど‥
:10/03/08 17:37 :D905i :6zJg1U3A
#801 [笹]
「そうです、ねぇ」
「早く教えてくださいよぉ!!」
「香夜さんは‥どんな?」
正座をして急かすあたしに
余裕たっぷりにそう言った
話をそらすのが本当に上手い
:10/03/08 17:37 :D905i :6zJg1U3A
#802 [笹]
「‥言えません」
昨晩みた夢は壱助さんに‥
そんなこと
死んでも言いたくない!!
「私に逆らう、と?」
卑怯だ‥壱助さん
:10/03/08 17:38 :D905i :6zJg1U3A
#803 [笹]
「絶対絶対絶対!!
絶対言いませんっ!!」
勢いでそう吐き捨てて
畳を押し返し立ち上がった
くるりと背を向ければ
‥ガシッ
急に冷たい感覚が
手首を纏って
:10/03/08 17:38 :D905i :6zJg1U3A
#804 [笹]
‥グイッ
下にかかる力に負けて
情けなくも
ふらりと呆気なく崩れてしまった
「んわっ‥」
すとんと腰を落としたとこは
壱助さんの胡座の中
:10/03/08 17:39 :D905i :6zJg1U3A
#805 [笹]
これ‥もしかして
「これは、これは」
ぎゅうっと後ろから首を抱かれ
耳元に迫る低い声
これって‥
高鳴る胸を抑えようと
そっと呼吸をした
:10/03/08 17:39 :D905i :6zJg1U3A
#806 [笹]
「正夢です‥ね」
そう囁いた声が
電気になって頭に流れて
昨晩の夢と溶け合った‥
_
:10/03/08 17:40 :D905i :6zJg1U3A
#807 [笹]
:10/03/08 17:44 :D905i :6zJg1U3A
#808 [笹]
:10/03/08 17:47 :D905i :6zJg1U3A
#809 [笹]
:10/03/08 17:48 :D905i :6zJg1U3A
#810 [笹]
:
:
「壱助さんって‥」
手にした紙に
ずらりと並ぶ品名と値段
それを指でたどって
あっちこっちに彷徨わせ
「お蕎麦とうどん‥
どっちが好きですか?」
"うーん"と唸りをあげ
眉間に皺を寄せて問った
:10/03/09 14:37 :D905i :7npRrRVQ
#811 [笹]
目の前に座る
問いかけた貴方様は
聞く耳も持たず
「おや、おや
此処にこんなお美しい娘さんが
いたとは‥ねぇ」
色めいた声で
娘さんにご挨拶
:10/03/09 14:38 :D905i :7npRrRVQ
#812 [笹]
これは口説いてるんじゃない
ただの挨拶だそうです
色男、曰わく
「‥ったくぅ」
むかむかする下腹部
いらいらを人差し指に込めて
カツカツと机を叩く
:10/03/09 14:38 :D905i :7npRrRVQ
#813 [笹]
「やだぁもうっ
壱助さんったらぁ〜」
「事実を‥述べたまで、ですよ」
‥いらいらいら
頬を赤く染めた娘さん
‥別に
娘さんを恨むわけじゃないけど
:10/03/09 14:39 :D905i :7npRrRVQ
#814 [笹]
って言うか誰でも
こんな色男に言われたら
顔赤くするだろうけど‥
んぅー‥やきもち?まさか
「壱助さん、今日は
何になさいますの?」
「そう‥ですねぇ」
:10/03/09 14:39 :D905i :7npRrRVQ
#815 [笹]
何なの?
壁があるの?ここには
全くこちらに目も向けず
いや‥わざとらしいかも
「今ならお蕎麦が‥
打ち立てですのよ?」
にこり笑った娘さん
薄い朱色の着物が躍る
:10/03/09 14:40 :D905i :7npRrRVQ
#816 [笹]
「では‥其れで」
「あたしも!!お蕎麦にします!!」
重ねるようにそう言えば
"いたんです、か"と
嫌みったらしく
惚けた顔で呟かれ‥
‥いらいらいら
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#817 [笹]
「あのぉう‥壱助さん?」
恥じらうようにもじもじして
娘さんが声をかけた
「この後って‥」
‥あたしが居るのに
よくそんなこと言える
遠慮して小声にしたのか
何なのかわからないけど
聞 こ え て ま す か ら !!
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#818 [笹]
「えぇ‥構いません、よ」
あたしの存在はなんなのか
消されてるのか
女に見えてないのか‥
ここまでくると切ない
楽しそうに話す二人が
遠くにぼやけて見えた
:10/03/09 14:41 :D905i :7npRrRVQ
#819 [笹]
:
:
‥カツカツ
「先ほどから‥」
‥ズズズズッ
「ご機嫌が、随分と斜め‥」
‥ゴクッゴクッ
「です、ねぇ」
:10/03/09 14:42 :D905i :7npRrRVQ
#820 [笹]
「ぷはぁあぁっ!!
水!水くださーい!!」
湯飲みを机に打ちつけて
がむしゃらに声を張った
「別に!!いつも通りですぅ」
あたしは
すぐ態度に出てしまう
本当に子供‥
これじゃあいつになっても
相手にされないや
:10/03/09 14:43 :D905i :7npRrRVQ
#821 [笹]
「‥あぁああ!!
なんでわさび入れるんですか?!」
ちょっとよそ見をすれば
お猪口に入った鮮やかな緑色
何事もなかったかのような
壱助さん‥
:10/03/09 14:43 :D905i :7npRrRVQ
#822 [笹]
「好き嫌いは‥良くないです、ぜ」
まるで‥親です
「わさび‥わさびぃ‥」
考えるだけで
鼻の奥がつんとする
独特の刺激が苦手
:10/03/09 14:44 :D905i :7npRrRVQ
#823 [笹]
顔をしわくちゃにして
濁った汁を箸でかき回す
まだお蕎麦残ってるのにぃ‥
「欲しがりです、ね」
「いやぁああぁあっ!!」
壱助さんは
それはもうご丁寧に
自分の余りの天敵を
惜しげもなく沈ませた
遂にいらいらは頂点に達した
:10/03/09 14:44 :D905i :7npRrRVQ
#824 [笹]
:
:
鼻の奥をひりひりさせて
蕎麦屋を後にした
熱い涙が止まらない
わさびなんて大嫌い
潤んだ目で見上げれば
貴方の隣に娘さん
「香夜さん‥、
ちょいと出掛けて来やすんで」
:10/03/09 14:45 :D905i :7npRrRVQ
#825 [笹]
「あた‥あたしも!
約束が‥あ、あるんです!!」
とんでもない嘘を吐く
意地っ張りは直らない
「ほぉう‥誰、と」
試すような視線
艶容な口元がつり上がる
しなやかな手を袖に入れ
腕組みをした壱助さん
:10/03/09 14:45 :D905i :7npRrRVQ
#826 [笹]
その場しのぎのはずだった
大した理由もなく‥
後から説明すれば済むと思った
とっさに通りすがりの
男性の腕をつかみ
「こ‥この人と!!」
:10/03/09 14:46 :D905i :7npRrRVQ
#827 [笹]
そう言ってしまったことが
‥災難の始まりだった。
噛み合ったはずの歯車の
歯がひとつ、欠け落ちた
:10/03/09 14:47 :D905i :7npRrRVQ
#828 [笹]
:10/03/09 14:53 :D905i :7npRrRVQ
#829 [笹]
:10/03/09 14:56 :D905i :7npRrRVQ
#830 [笹]
:10/03/09 14:57 :D905i :7npRrRVQ
#831 [笹]
:
:
だんだんと遠くなる
あたしたちの距離
「え‥?あの‥」
見上げれば戸惑う男性
こんな痴話喧嘩に
巻き込まれてしまっては
当然の反応
:10/03/11 13:34 :D905i :dGcWPyzM
#832 [笹]
その男性は
年齢で言えば30才前半くらい
優しい雰囲気の‥
「ほぉう‥」
ぴくりと眉を上げ
品定めするように視線を送り
最後の一突きと言わんばかりに
:10/03/11 13:35 :D905i :dGcWPyzM
#833 [笹]
「その小娘は‥
人並み以下ですが、ね
実に自虐行為を好みます故
‥痛いのがお好きです、ぜ
見かけによらず破廉恥ですから
たっぷりと遊んで‥くだせぇ」
にこっと怪しく微笑み
あたしの隣の男性に告げた
:10/03/11 13:35 :D905i :dGcWPyzM
#834 [笹]
「な‥そんなことないっ!!」
顔を真っ赤にして
否定した先には二つの背中
寄り添う娘さん
壱助さんの下駄の音が
遠く遠く‥消えてった
上手く行かない‥
今日は厄日なのかもしれない
:10/03/11 13:36 :D905i :dGcWPyzM
#835 [笹]
:
:
ちょいと、
意地が悪すぎた‥か
ぼうっと空を見上げれば
灰色に染まり光が遮られ
隣に座る娘
慣れないような化粧に
顔を白々とさせ
不釣り合いな紅が一層‥
:10/03/11 13:36 :D905i :dGcWPyzM
#836 [笹]
「壱助さん?」
貴女以外の娘に
名前を呼ばれるのは
あまり慣れていないもんで
‥居心地が悪い、
「何、か」
目配せすれば
いつの間にか縮まった距離
:10/03/11 13:37 :D905i :dGcWPyzM
#837 [笹]
欲しいものなど‥
ないんですが、ね
「"あの子"のこと‥
慕っていらっしゃるの?」
さぁ‥
今まで出逢った方々と
違いますからね、香夜さんは
:10/03/11 13:37 :D905i :dGcWPyzM
#838 [笹]
「さぁ、ね」
「それなら‥」
随分と積極的だ‥
華奢な手が此方の手を捕らえ
自らの胸元に添えた
「おや、おや」
「私を‥見て頂けます?」
:10/03/11 13:38 :D905i :dGcWPyzM
#839 [笹]
そのようにされても
何も‥
私の心は何処へやら
つまらぬ話です、よ
「そうです、ね
今夜は‥そうしましょう、か」
_
:10/03/11 13:38 :D905i :dGcWPyzM
#840 [笹]
空になった体が
娘の小さな体に覆い被さる
嬉しそうにそして恥じらい
睫を伏せて身を任せ
素直に倒れた朱色の着物
「ずっと‥夢でしたの」
この笑みは
私に向けられたものなのか
:10/03/11 13:39 :D905i :dGcWPyzM
#841 [笹]
はたまた‥
香夜さん、
貴女に勝ったという
嫌らしいもの‥なのか
何だか‥わかりゃしない
仕込んできたかと言うくらい
緩く結ばれた帯を
するりと解く
手慣れた自らの指に
この上ない嫌悪感を抱いた
:10/03/11 13:40 :D905i :dGcWPyzM
#842 [笹]
欲しいものなど
‥ないんですが、ね
触れた肌、濡れた吐息
何を頼りにすれば‥良いのか
強請る声、汚れた水音
貴女の透明感が身に沁みる
:10/03/11 13:40 :D905i :dGcWPyzM
#843 [笹]
:
:
今宵は満月
隣で寝息を立てる娘に
伸ばした腕をするりと抜き
そのまま布団を抜け出した
雑に浴衣を羽織り
力強く帯を締める
体に染み着いたような香りを
かき消すかのように
背中を夜風に当てた
:10/03/11 13:41 :D905i :dGcWPyzM
#844 [笹]
「―‥、」
久々に煙管に手を伸ばし
全てを洗い流そうと
煙を体に取り込んで
‥帰ってこない、と来りゃぁ
"やられっちまった"‥か
得体の知れない感情を
煙に混ぜて満月を隠した
:10/03/11 13:42 :D905i :dGcWPyzM
#845 [笹]
一番に恨んでいるのは
‥己の身、ですがね
空中分解したそれを
未だ直視できないでいる
「貴女を‥
濁らせたく、ない故に」
どうにもこうにも
‥気付いてはならぬ思いが先回り
:10/03/11 13:44 :D905i :dGcWPyzM
#846 [笹]
:10/03/11 13:49 :D905i :dGcWPyzM
#847 [笹]
:
:
「あの‥
ご迷惑をお掛けしてしまい
本当に申し訳ありませんでした」
額を畳にこすりつけ
深々とお詫びをした
しかし此処は
男性の住まいらしき所
‥やっぱりそんな
一筋縄ではいかないかな?
:10/03/11 13:50 :D905i :dGcWPyzM
#848 [笹]
壱助さんが
あんな破廉恥なこと言わなければ
はぁ‥。
頭に浮かぶ貴方の隣に
あの娘さんが寄り添って
少し‥不愉快なのです
:10/03/11 13:51 :D905i :dGcWPyzM
#849 [笹]
「頭を御上げください
そんな、お気になさらず‥」
見た目通り優しい方で
暖かくて柔らかい
目尻に出来た笑い皺が
人の良さを引き立てた
「本当に‥
あたしのこの性格のせいで」
:10/03/11 13:52 :D905i :dGcWPyzM
#850 [笹]
お詫びしようにも
壱助さんがそばにいないあたしは
無能で一銭も持ってない
ただ頭を下げるしかできないのだ
「これも何かの縁ですから‥」
初めて会った気がしない
其れほどの安心感
:10/03/11 13:52 :D905i :dGcWPyzM
#851 [笹]
「あたし‥香夜と申します!!
お金もないし、色気もないけど
お裁縫は得意なので‥
お着物の解れなど有りましたら
‥な、何なりと!!」
案の定
男性からはクスッと笑い声
本当にあたしって役立たず
俯き指で畳の網目をなぞった
:10/03/11 13:53 :D905i :dGcWPyzM
#852 [笹]
「自分は"幸太郎"と申します
年は‥香夜さんより
一回りくらい上です、たぶん
不器用なもんで‥
裁縫は苦手ですね」
柔らかい笑顔を浮かべた
一回りくらい上なら
お父さんと同じくらいかな‥
生きてたら‥、
幸太郎さんと同じくらい
:10/03/11 13:53 :D905i :dGcWPyzM
#853 [笹]
催眠術にかかったように
頭の中がぽーっとした
もう与えられることのない
父からの愛情を‥
今目の前に見てしまう
「今は、一人暮らしですが‥
自分には妻と娘が居ました。」
何故かその時胸が泣いた
:10/03/11 13:54 :D905i :dGcWPyzM
#854 [笹]
幸太郎の姿が
亡き父と重なってしまった
隠れていた寂しさが
奥の方から湧き上がる
「もう、十年も前ですか‥
三人で暮らしていた住まいが
‥火事に遭いまして
全焼でした、
真っ黒な炭になった木材が
ぼろぼろと崩れていく光景は
本当に‥見てられませんでした」
:10/03/11 13:54 :D905i :dGcWPyzM
#855 [笹]
遠くの過去が
最早思い出となってるのか
ほんのり浮かんだ悲しげな笑みが
胸を突き刺した
「自分は丁度出掛けてまして‥
帰ってきたら‥"それ"だけ。
逃げ切れなかった妻と娘は‥」
:10/03/11 13:55 :D905i :dGcWPyzM
#856 [笹]
その現場に
居合わせたわけじゃないのに
鮮明に目の前に広がる
悲惨な光景
目を、耳を塞ぎたくなるような‥
「‥何故、自分だけ
助かってしまったのか、
そう‥何度も思いました。」
:10/03/11 13:56 :D905i :dGcWPyzM
#857 [笹]
「家族が目の前から
急に‥いなくなるのは
つらいですよね、本当に」
悲しみが極限を超えて
無になった時
この上ない恐怖が襲う
:10/03/11 13:56 :D905i :dGcWPyzM
#858 [笹]
「娘は‥生きてたら
貴女と同じくらいでした。
とても天真爛漫でね、
優しくて、気配り上手で‥」
『香夜は優しいなぁ!!』
『香夜は気配り上手だ!!
いい嫁さんになれるぞっ』
『香夜‥』
:10/03/11 13:57 :D905i :dGcWPyzM
#859 [笹]
「おと‥さん」
正気を失った
自分でもわかってる
だけど気持ちが飛んでいく
あたしが求めてたのは
単なる愛情じゃない
‥お父さんからの愛情なんだ
:10/03/11 13:57 :D905i :dGcWPyzM
#860 [笹]
「香夜さん‥?」
幸太郎さんの声が
やんわりと耳をすり抜け
穏やかな思い出と溶け合った
お父さんは
子供みたいな人だった
あたしと一緒に騒いで
‥泣いて笑って
:10/03/11 13:58 :D905i :dGcWPyzM
#861 [笹]
だけど
包み込むような安心感
叱られても
その後ぎゅうっと抱きしめて‥
『「‥よしよし」』
そう言って‥くれた
:10/03/11 13:58 :D905i :dGcWPyzM
#862 [笹]
完全に溶け合った
寂しさに漬け込んだ甘い錯覚
優しく幸太郎さんに抱き締められ
大きな手で頭を撫でられた
忘れかけてた感覚が
ふいに蘇る
お父さんが‥生き返ったみたい
:10/03/11 13:59 :D905i :dGcWPyzM
#863 [笹]
「‥ッ‥う、さん」
流れ行く大人ぶった幼かった心
‥溢れて、求めて
:10/03/11 13:59 :D905i :dGcWPyzM
#864 [笹]
:10/03/11 14:03 :D905i :dGcWPyzM
#865 [笹]
:10/03/11 14:05 :D905i :dGcWPyzM
#866 [笹]
:10/03/11 14:06 :D905i :dGcWPyzM
#867 [笹]
:
:
夜が明けた
幸太郎さんに抱かれたまま
いつの間にか寝ちゃった‥
「あ‥、」
「おはようございます
朝ですよ」
:10/03/14 20:05 :D905i :ZQnjeNcY
#868 [笹]
顔面が痛くない朝が
もう物足りなくなってる
壱助さん‥
「あの‥」
「あの方の元へ
帰ってしまいますか?」
少し寂しそうな幸太郎さんの表情
下がった眉に胸が痛む
:10/03/14 20:05 :D905i :ZQnjeNcY
#869 [笹]
『「‥香夜」』
絡まった腕が
ぎゅっと締め付けて
なぜか目の奥が熱くなった
幸太郎さんの声が
耳の奥を抜けて
記憶の隅のお父さんの声と重なる
:10/03/14 20:06 :D905i :ZQnjeNcY
#870 [笹]
‥どうしよう
やっぱりあたし、おかしい
混じり合った灰色が
あたしの中を蝕んで‥
「自分の元で‥暮らしませんか?」
例えばそれが
甘い嘘だとして‥
:10/03/14 20:06 :D905i :ZQnjeNcY
#871 [笹]
:
:
「はぁ‥」
なぜか妙に汗をかく
じわじわと熱を帯びる体を
ばしんと叩いて引き締めた
‥娘さんの下駄はない
もう帰ったのかな
「‥ただいまぁ」
:10/03/14 20:07 :D905i :ZQnjeNcY
#872 [笹]
ゆっくりと襖を開ければ
いつも通りの光景
胡座をかいた膝の上に
華奢な細い手で頬杖て
ただぼうっと外を眺める
少しだけ
心配しててほしくて
貴方の忙しない姿が見たかった
もう‥今日で、
:10/03/14 20:07 :D905i :ZQnjeNcY
#873 [笹]
「どう‥されたんで?」
立ちすくむあたしに
いつもの口調で問った
壱助さんが考えてること
‥今でもわからない
一緒にいた時間は
長いはずだったのになぁ
空っぽの時間、虚空
:10/03/14 20:08 :D905i :ZQnjeNcY
#874 [笹]
「‥壱助さん」
「ちょいと‥
腰くらい、下ろしやせんか?」
目の奥の一番柔らかいとこを
一突きするような
鋭い視線に肩をびくつかせた
あの娘さんとは
寝てしまったんだろうか
:10/03/14 20:08 :D905i :ZQnjeNcY
#875 [笹]
恋仲でもないのに
妬いてしまってる‥
だけどあたしが求めてたのは
‥お父さんの、
幸太郎さんの温もり
:10/03/14 20:09 :D905i :ZQnjeNcY
#876 [笹]
:
:
目を魚のように泳がせて
落ち着きを無くし‥
元から落ち着きがないと言えば
否めませんが、ね
あの男に抱かれちまったか
翻弄された‥と
:10/03/14 20:09 :D905i :ZQnjeNcY
#877 [笹]
「あの娘さんは‥?」
「もう、帰りましたぜ」
「そうじゃなくて‥」
言いたい事など
最初からわかっている
「"抱いた"」
そう呟けば聞く耳も持たず
体をびくつかせ着物を握りしめた
:10/03/14 20:10 :D905i :ZQnjeNcY
#878 [笹]
「‥と言えば、
どう‥されるんで?」
結局信じたら負けで
無意識のうちに貴女に‥
身を委ねてたのかもしれない
「‥あたし、えっと」
その戸惑いが唇の微妙な動きに
こんなにも‥
惑わされてしまう、とは
:10/03/14 20:10 :D905i :ZQnjeNcY
#879 [笹]
私は何時からこれほど
弱っちまったのか‥ねぇ
「抱いちゃ‥居ませんが、ね」
指に絡みついた粘液
耳にへばりついた水音
どんなに強請られても
どうにもならなかった
最早‥末期、ですかね
:10/03/14 20:11 :D905i :ZQnjeNcY
#880 [笹]
「え‥」
ただ貴女を困らせたかった
素直になれやしないもんで
こう意地悪くすることが
私にとっては貴女を引き止める
最高の手段、でしたから
ばつが悪そうに眉を下げた
:10/03/14 20:11 :D905i :ZQnjeNcY
#881 [笹]
離れると言うなら
‥止める気はない
しかし、どうも其れでは‥
「壱助さん‥ごめんなさい」
潤んだ目を無理やり拭い
急に立ち去ろうとした
:10/03/14 20:12 :D905i :ZQnjeNcY
#882 [笹]
「逃げるな‥!!」
何時もより張り上げた自らの声が
部屋中を駆け回り
貴女の背中を仕留めて‥
小さな背中が打ち抜かれた
:10/03/14 20:12 :D905i :ZQnjeNcY
#883 [笹]
向き合ってほしいんです、よ
どうせ離れてしまうなら‥
惨めなままに、してしまうな
:10/03/14 20:13 :D905i :ZQnjeNcY
#884 [笹]
:10/03/14 20:18 :D905i :ZQnjeNcY
#885 [笹]
:10/03/14 20:20 :D905i :ZQnjeNcY
#886 [笹]
:10/03/14 20:20 :D905i :ZQnjeNcY
#887 [笹]
あげ忘れた(´・ω・`)
:10/03/14 20:21 :D905i :ZQnjeNcY
#888 [笹]
:
:
「‥」
耐えきれなくなって
自分がわからなくなって
もうどうしようもない
本当にそばにいたい人
本当にそばにいてほしい人
誰?
:10/03/18 15:42 :D905i :WpH3kYYs
#889 [笹]
「何が‥あった、」
少しの沈黙に躊躇なく
一呼吸置いて問いかけた低い声
‥知ってる
壱助さんは優しいこと
本当は‥すごく
:10/03/18 15:43 :D905i :WpH3kYYs
#890 [笹]
答えに詰まるのはどうして?
そのまま答えればいいだけ
あたしは居場所を見つけた
求めて求められて
互いが必要としていける
そんな‥場所
:10/03/18 15:44 :D905i :WpH3kYYs
#891 [笹]
「あの人‥幸太郎さんって言って
家族がいたんだけど‥」
喉が乾く
指先から水分が滲み出て
鼻の奥がつんとした
うまく声が出せない
:10/03/18 15:44 :D905i :WpH3kYYs
#892 [笹]
黙って聞く壱助さんは
いつもみたいに睫を伏せて
だけど少しだけ唇が弧を描いて
笑ってる‥?
「目の前で家族を‥」
「失った‥か」
あたしの言葉に付け足すように
そうぽつり呟いた
:10/03/18 15:45 :D905i :WpH3kYYs
#893 [笹]
貴方の目が見れない
震えだした唇を
無理やり噛み締めて堪えた
だって壱助さん、貴方といると
とても辛いんだもの‥
:10/03/18 15:45 :D905i :WpH3kYYs
#894 [笹]
「同じ境遇‥故に
心惹かれたと、言うんで?」
そうだとしたら
この感情は同情なのか
寂しさを苦しさを
共有したがる弱さなのか
あたしは弱い
そんなのはわかってる
:10/03/18 15:46 :D905i :WpH3kYYs
#895 [笹]
ぐるぐると渦を巻く
灰色の何かが
だんだんと暗くなる
強くなったつもりだよ
強くなったはずだった
どうしてこうも上手くいかない
結局誰かにすがりつかなきゃ
生きていけない
:10/03/18 15:46 :D905i :WpH3kYYs
#896 [笹]
「‥あたし、」
左手首の落ち着いた傷たちが
疼き始めて痛い
壱助さんに出会ってから
傷は増えることがなかった
あたしを心配して
止めろと言ってくれた
:10/03/18 15:47 :D905i :WpH3kYYs
#897 [笹]
「香夜さん」
頭がぼうっとする
昨日からずっと
体と心が全く別物
宙に浮かんで掴めない
畳の網目をなぞってた右手が
左手首に爪を立てた
:10/03/18 15:47 :D905i :WpH3kYYs
#898 [笹]
「‥香夜さん」
少し引っ掻いただけで
血が滲みはじめて
久しぶりの感覚にぞっとした
真っ赤な液体が
爪の間をすり抜けて滲みた
:10/03/18 15:48 :D905i :WpH3kYYs
#899 [笹]
「あたし‥どうかしてる
どうかしてる‥よ、
もう‥消えちゃいた‥」
『「‥香夜っ!!」』
はっとした
また父親と重なった声
:10/03/18 15:48 :D905i :WpH3kYYs
#900 [笹]
壱助さんが声をあげた
思わず顔を見上げれば
どこかそれは悲しそうな顔で
しわの寄った眉間
鋭いのに優しい目
「契りを交わしたはず、ですよ
そのお命‥無駄にはしない、と」
:10/03/18 15:49 :D905i :WpH3kYYs
#901 [笹]
今あたしを叱ってくれるのは
貴方だけで‥
真剣に向き合ってくれる
その瞳で包んで
「本当に‥世話が焼ける」
「い‥ち助さん」
流れるような細い指で
手首を包み込まれれば
どくどくと生命が鳴いてる
:10/03/18 15:49 :D905i :WpH3kYYs
#902 [笹]
生きてる心地がした
「何処へ行こうが
貴方の勝手ですが、ね‥」
深いため息を此方に向けて
そう自由にされてしまうと
どうしたらいいかわからなくてね
何処へも行きたくなくなるんです
:10/03/18 15:49 :D905i :WpH3kYYs
#903 [笹]
:
:
「壱助さん‥
迷惑じゃないんですか?」
「何、が」
「あたしの世話とか‥」
もじもじと不安げに
そう呟いて見上げた
:10/03/18 15:52 :D905i :WpH3kYYs
#904 [笹]
「そう‥ですねぇ」
ちょいと深刻に考えすぎるのが
貴女の性格
「やっぱり迷惑‥ですよね」
肩をぐったり落として
貴女が落ち込めば
辺りは薄暗くなって渦を巻く
しかし、微笑ましくも思う
:10/03/18 15:55 :D905i :WpH3kYYs
#905 [笹]
「私に迷惑をかけるのは
まぁ‥構いませんが、ねぇ」
茶を入れれば湯気がたつ
まだ部屋は冷えて
桜の蕾が桃色に染まる
「ちょいとばかり‥
面倒な方が、扱い甲斐がある」
鼻で軽くあしらえば
馬鹿にされてる事にも気付かず
真っ直ぐな瞳が此方を向く
:10/03/18 15:59 :D905i :WpH3kYYs
#906 [笹]
「さて、どう‥しますか」
意地悪気に問えば
少し躊躇って唇を浮つかせ
「此処だ、あたしの居場所」
自らに言い聞かせるように
ぽつり呟いて頷いた
:10/03/18 16:03 :D905i :WpH3kYYs
#907 [笹]
それでも離れると言ったなら
‥止めていた、でしょうね
不安に握った拳を
柔らかく解いて立ち上がる
「壱助さん‥何処に?」
「丁重に‥お断りしてきましょう」
本音を言えば‥
私だけの貴女にしたいんですが
:10/03/18 16:06 :D905i :WpH3kYYs
#908 [笹]
「次期に私の‥妻になると、ね」
「え‥?壱助さん今何て‥」
「まぁ、まぁ」
桜が咲いたら‥一番に、貴女と
:10/03/18 16:09 :D905i :WpH3kYYs
#909 [笹]
:10/03/18 16:15 :D905i :WpH3kYYs
#910 [笹]
:10/03/18 16:16 :D905i :WpH3kYYs
#911 [笹]
:
:
あの後
幸太郎さんにはしっかりと
気持ちを伝えてきた
とても残念そうに
眉を下げていたけれど
『お幸せに』って言って
諦めてくれた
お幸せにって‥
何か変な気もするけれど
:10/03/20 21:22 :D905i :Z99/cef.
#912 [笹]
だってあたしと壱助さんは
恋仲じゃあ‥ないんだし
こんな感情に
気付いちゃいけないんだ
辛いだけ、そうでしょ?
貴方はかなりの色男
それに年だって‥離れてる
って言っても
何歳なのか知らないけどね
:10/03/20 21:23 :D905i :Z99/cef.
#913 [笹]
でも友人と言ったら
違う気がするし
お父さんでもないしね
お兄さんでもないかも‥
世話好きな所は
お母さんっぽいけれど、
壱助さんはどうなんだろう
あたしのこと‥
どう思ってるんだろう
:10/03/20 21:23 :D905i :Z99/cef.
#914 [笹]
「"所有物"‥ですよ」
「‥え?」
澄み切った空を仰いで
艶容な唇が弧を描いた
って言うか‥
何で心のなかが読めるのよ
「おや、おや」
相変わらず冷静で
その上どこか呑気で
伏せた長い睫が揺れている
:10/03/20 21:24 :D905i :Z99/cef.
#915 [笹]
「‥見頃、ですね」
ひらり、桃色の花びらが舞う
くすっと笑った壱助さんの手が
此方に伸びてきた
「何‥何ですか?」
食らうつもりなのかと
思わず肩をびくつかせる
:10/03/20 21:25 :D905i :Z99/cef.
#916 [笹]
「なぁに‥食らいやしません、よ」
その美しい手が
あたしの頭を一撫ですると
二本の細い指に摘まれた
桜の花びら
それを日の光にかざし
緩く微笑んだ
「春です、ね」
その姿はとても煌びやかで
見とれてしまったの
:10/03/20 21:26 :D905i :Z99/cef.
#917 [笹]
:
:
鮮やかに桜色に染まった街外れ
これは絶景、間違いないよ
揺れる花に人々の賑わい
酒の甘い香りがほんのり漂う
酔っ払いは好まない
だけど花見の時くらいは
心を許してしまうんだ
「ほぉう‥酒豪、ときたか」
:10/03/20 21:26 :D905i :Z99/cef.
#918 [笹]
酒飲みを見つめたあたしに
壱助さんの低い声がかかる
「え‥ち、違いますよ!!
あたしお酒得意じゃないし!!」
「それは、それは
‥良い事を聞きました」
細めた目で此方を見つめる
何を企んでいるのやら
:10/03/20 21:27 :D905i :Z99/cef.
#919 [笹]
「本日は‥盛大に、いきますぜ」
片手に二本ずつ一升瓶を抱えて
微笑んだ貴方
以外とこの腕は力がある
どこから持ってきたんですかそれ
酒豪は貴方でしょう‥?
:10/03/20 21:27 :D905i :Z99/cef.
#920 [笹]
:
:
「あ‥伊代さん!!」
「香夜ちゃんじゃないかぁ!!
久しぶりだねぇ」
相変わらず元気な伊代さん
ここ最近何かと忙しくて
顔出しができてなかった
「伊代さんもお花見ですか?」
「出張だよぉ!!」
:10/03/20 21:27 :D905i :Z99/cef.
#921 [笹]
この笑顔が好きだ
くしゃっと笑って
ぽんと肩をたたかれる
「花見にゃ団子だろう?
だからこうして、売りに来たのさ」
なるほどと頷き
目の前に置かれた
色とりどりの団子に目を向ける
:10/03/20 21:28 :D905i :Z99/cef.
#922 [笹]
「じゃあ伊代さんっ
お団子くださいなっ」
「はいよぉ!!
そいやぁ‥壱助さんは?」
団子を手際よく皿に乗せ
真っ黒な瞳が此方を見つめる
「"酒のお供が欲しいです、ねぇ"
って‥お使いに来たわけです」
:10/03/20 21:29 :D905i :Z99/cef.
#923 [笹]
あの人は本当に動かない
相当な事がないと動かない
そしてあの言葉の威圧感
‥遠まわしに言わなくても
"あの人らしいね"と呟いて
沢山の団子を手渡された
「香夜ちゃん!!
乗せられちゃだめよぉ?」
別れを告げた背中に
一言そう告げられた
‥何の事だろう
:10/03/20 21:29 :D905i :Z99/cef.
#924 [笹]
:
:
"主人"の元へ戻れば
桜の木に寄りかかり
立て膝をついてすでに飲酒中
はらはらと舞う花びらを
愛おしそうに見つめて
お猪口を口に運ぶ
何て綺麗なんだろう
その色っぽさに何度嫉妬した事か
:10/03/20 21:31 :D905i :Z99/cef.
#925 [笹]
「はい、どーぞ」
山のかかった調達品を
目の前にどさっと差し出せば
一瞬その量に目を見開いた
「‥食いしん坊」
鼻で笑いながら
横目でちらり見つめられ
「な‥別に
あたし一人分じゃないですぅ!!」
:10/03/20 21:31 :D905i :Z99/cef.
#926 [笹]
結局いつも通り
意地になって反論してしまう
乗せられるとは
こういうことかな?
隣に腰を下ろせば
ふわり漂う壱助さんの香り
着物の襟から伸びた
首筋が淡く溶けてしまいそう
何だか緊張する
体がじわりと熱を帯びた
:10/03/20 21:32 :D905i :Z99/cef.
#927 [笹]
「おや‥何処かで酒を
召してきたんですかい?」
「飲んでないですよっ!」
そう答えれば怪しげに笑い
細い指があたしの頬に触れた
「良い色に染まってます故‥
そうなのかな、とね」
:10/03/20 21:32 :D905i :Z99/cef.
#928 [笹]
完璧にからかわれてる‥
そうわかっててもやっぱり駄目で
「んもっ‥馬鹿っ!!」
羞恥に目を潤ませて
その指を払いのければ
一気に顔が熱くなり
:10/03/20 21:33 :D905i :Z99/cef.
#929 [笹]
「‥紅い」
楽しそうに笑みを浮かべ
お猪口を此方に差し出した
乗せられる‥
やっぱりこういうことかぁ
:10/03/20 21:34 :D905i :Z99/cef.
#930 [笹]
:
:
あっという間に日が暮れて
昼とはまた違う
大人な雰囲気の夜桜
賑わいはさらに増して
陽気に踊り出す人々もちらほら
あんなにあった団子も
いつの間にかあと数個
:10/03/20 21:34 :D905i :Z99/cef.
#931 [笹]
「あぁっ
もう‥飲めないれす‥ッヒク」
自分でもわかってた
だんだん酔っていくのを
頭がぼーっとして
何だか楽しくなって
勧められればぐいぐいと
調子に乗らされました
:10/03/20 21:34 :D905i :Z99/cef.
#932 [笹]
「まぁ、まぁ
まだ夜は長い‥ですよ」
お猪口いっぱいに
とくとくと酒を注がれる
透き通ったこの液体が
あたしの中をめぐって
気分よくさせてるのか
見た目なんて
水と変わりやしないのに
:10/03/20 21:36 :D905i :Z99/cef.
#933 [笹]
「おっとっと」
結局溢れそうなそれを
口元に運んで一気に飲み干す
頭じゃわかってる
頭ん中は至って冷静
だけど体は分離してる
もう空の瓶が
いち、に、さん、し‥
あれ?
四本以上あるのはなぜだ
どこから湧いて出てきたんだ
:10/03/20 21:37 :D905i :Z99/cef.
#934 [笹]
それにしても‥
「いちしゅけさんは‥
お酒‥ちゅよいれすねぇ」
今にもふらり倒れそうなあたし
打って変わって
先ほどから全く変化のない貴方
顔色一つ変えやしない
化け物かって思いますよ
:10/03/20 21:37 :D905i :Z99/cef.
#935 [笹]
「まぁ‥ね」
「ふぅん‥
そおいえば、いちしゅけさん」
完璧に呂律が回ってない
もうさすがにやめよう
「想い人っていましゅかあ?」
あたしは何を聞いてるんだ
:10/03/20 21:38 :D905i :Z99/cef.
#936 [笹]
唯一の生き残りの頭さえ
じわじわと蝕まれ
甘ったるいやつに洗脳されていく
「そうですねぇ‥」
ぐいっと言った喉の辺りが
むず痒くなるほど綺麗で
「います、かね」
:10/03/20 21:38 :D905i :Z99/cef.
#937 [笹]
遠くを見つめた壱助さん
その瞳には
一体何が映っているのか
あたしの知り得たことじゃない
だけどこうも知りたくなる
そしてその返事に
胸がぎゅうっと締め付けられた
酔っているからかな
どうも変に愛おしい
:10/03/20 21:39 :D905i :Z99/cef.
#938 [笹]
俯き地面を見つめれば
優しく頭を撫でられた
優しくしないでほしい
今は涙腺が弱ってるんです
「叶うかどうかは‥
厳しいところ、ですがね」
そっと見上げれば
困ったように微笑んで
:10/03/20 21:40 :D905i :Z99/cef.
#939 [笹]
厳しいところって
人妻にでも恋してるのかな
それとも男性だったり?
こんなにも色男だもん
落ちない相手がみてみたい
「だいじょぶれす、きっと
あたしが‥保証しま‥しゅ」
遂に限界を迎え
ふわり体が宙を浮く
:10/03/20 21:41 :D905i :Z99/cef.
#940 [笹]
よりかかった隣の肩は
見た目以上に柔らかく
落ちた花びらが頬をくすぐり
そのまま眠りについた
:10/03/20 21:41 :D905i :Z99/cef.
#941 [笹]
:
:
小さな寝息
口元に手をかざせば
やっと確認できるほど
「保証‥ねぇ」
一人酒はやはり
ちょいと物寂しい
愛らしい寝顔を眺めて飲むのも
また一興‥ですかね
:10/03/20 21:42 :D905i :Z99/cef.
#942 [笹]
もたれた頭を
抱き寄せるように撫でれば
ぴくりと片手が跳ね
此方の着物をつかんだ
「本人に言われちゃぁ‥
参ったもんだ」
呆れ顔で見つめれば
幸せそうに笑みをこぼした想い人
:10/03/20 21:42 :D905i :Z99/cef.
#943 [笹]
「あり‥と」
「‥」
「壱‥けさ‥ありが‥と」
素直な寝言に
抱き締めたくなるほどの
愛おしさを覚える
酒のせいですか、ね
やたらと反応してしまう
:10/03/20 21:43 :D905i :Z99/cef.
#944 [笹]
「ずっと‥と‥いっ‥しょ」
頬を伝った滴
人聞きが悪いかも知れませんが
貴女の涙は、美しい
‥叶おうが叶わまいが
関係ないですぜ
:10/03/20 21:43 :D905i :Z99/cef.
#945 [笹]
貴女がずっと隣にいりゃあ
文句はない、ですから
「‥承知」
涙を片指で拭い
幼い額に唇をそっと寄せた
春の香り、ふわり
:10/03/20 21:44 :D905i :Z99/cef.
#946 [笹]
:10/03/20 21:48 :D905i :Z99/cef.
#947 [笹]
:10/03/20 21:49 :D905i :Z99/cef.
#948 [笹]
:
:
「‥あれ?此処って」
此処はとある旅館
何故旅館かって?
それは‥
「香夜さん‥置いて行きます、よ」
このお方の気まぐれです
:10/03/22 11:49 :D905i :b7M9uhWk
#949 [笹]
:
:
それはつい昨日の事
夜空を眺めながら彼は言った
『明日は晴れ、ですね』って
空が澄み切っていたのか
神様の声が聞こえたのか
ただの勘なのかわからないけど
『では‥出掛けましょう、か』
:10/03/22 11:49 :D905i :b7M9uhWk
#950 [笹]
本当に気まぐれよ
晴れていたって
いつもお茶飲んで動かないのに
しかもただの散歩かと思ったら
旅館を予約したとか何とか‥
いつ予約したのよ‥はぁ
あたしは全然構わないけど
:10/03/22 11:50 :D905i :b7M9uhWk
#951 [笹]
「立派‥ですね」
こんな豪勢な旅館に泊まる
お金は何処から湧いてでてくるの
本当に‥不思議な人
離れ街にあるこの旅館は
場違いなほど立派で
庭園の木々や花はもちろん
丁寧に手が行き届いてて
入り口には大きな門がある
:10/03/22 11:50 :D905i :b7M9uhWk
#952 [笹]
しっかりとした柱や骨董品が
あたしの目を奪う
廊下は埃一つ見当たらない
床に自分が映ってる‥
「ようこそ、いらっしゃいました」
女将さんらしき人が
三つ指をついて頭を下げた
なんだか緊張する‥
:10/03/22 11:51 :D905i :b7M9uhWk
#953 [笹]
ぎこちなく頭を下げて
横目で壱助さんを伺えば
手慣れた様子で笑みを浮かべ
綺麗にお辞儀した
指先まで、爪の先まで
美しいのだから
隣にいるのが苦痛です
「さて、と」
色男が顔を上げて呟けば
色を召した仲居さんたちの頬
:10/03/22 11:51 :D905i :b7M9uhWk
#954 [笹]
壱助さんがいれば
いつだって春が来る
色んな意味で‥ね
「行きます、よ」
春になってもこの手は
ひやり、あたしの手首を冷ます
だけど捕まれるたび
そこからじわり熱を帯びてしまう
いつまで保つかな‥あたしの心臓
:10/03/22 11:52 :D905i :b7M9uhWk
#955 [笹]
:
:
「ひろっ‥!!」
部屋間違えてないですか?
二人部屋にしては
空間を持て余しすぎ‥
目の前に広がる空間は
とても洗練されていて
それでいて上品な‥
置いてあるもの全てが
とても高価に見える
:10/03/22 11:53 :D905i :b7M9uhWk
#956 [笹]
この座布団さえ‥
座るのを躊躇ってしまうほど
「ほぉう‥」
興味深そうに
部屋の隅々を見渡し
壁にもたれて外を眺めた
足袋が擦れる音が心地いい
どことなく楽しそうな壱助さん
:10/03/22 11:53 :D905i :b7M9uhWk
#957 [笹]
と言うかお花見の日以来
‥ご機嫌な気がする
いつか雷が落ちなきゃいいけど
「壱助さん?
何で急にこんな‥」
「失礼致します。
お茶を‥お持ちしました」
男性の声と共に
襖が丁寧に開けられた
:10/03/22 11:54 :D905i :b7M9uhWk
#958 [笹]
そちらに目をやれば
藍の着物を着た男性
此処で働いてる人なのかな‥
「香夜‥香夜だろ?」
あ‥やっぱりそうだ
此処は‥
「倫次‥?」
:10/03/22 11:54 :D905i :b7M9uhWk
#959 [笹]
そう声をかければ
ぱぁっと笑顔になった
「やっぱり香夜だ!!」
何も変わりやしない
無邪気なままの笑顔
過去の闇の中の
ほんの一握りの至福の時を
彼はくれたのだ
:10/03/22 11:55 :D905i :b7M9uhWk
#960 [笹]
「久しぶりだぁあっ
元気にしてたぁ?」
思わずにじり寄り手を握った
そう、倫次は唯一の幼なじみ
真っ黒な髪と瞳
笑った時にできる皺
何だかほっとする
「もちろん!!‥香夜は?」
:10/03/22 11:55 :D905i :b7M9uhWk
#961 [笹]
倫次の視線があたしの後ろへ
‥あの色男へ向いた
そして同様にして
あたしにそのまま聞き返す
どんな顔をしてるのかな壱助さん
相変わらずの仏頂面?
「うん!元気だった
‥えっと、こちらは‥」
:10/03/22 11:56 :D905i :b7M9uhWk
#962 [笹]
恐る恐る体を後ろへ向けた
思いのほか彼の表情は柔らかく
口元を釣り上げ目を細めていた
「香夜さんの‥"主人"、です」
「しゅ‥主人?」
:10/03/22 11:56 :D905i :b7M9uhWk
#963 [笹]
「あぁああっ!!
こちらは壱助さん!!
あたしの‥あたしの‥えっと」
ほら‥戸惑う
結局あたしたちって何なの?
「友人‥じゃないな
えっと、恩人‥そう!恩人!!」
どうして焦る必要があるのか
どうして無理に恋仲を避けるのか
一番自分がよくわかってる
:10/03/22 11:57 :D905i :b7M9uhWk
#964 [笹]
必死の作り笑いを浮かべ
"恩人"に目をやれば
組んだ腕を人差し指で
規則正しく叩いている
この仕草‥いらいらしてます
何故って?
そんなの決まってるでしょう
彼は男が大嫌いだから
:10/03/22 11:57 :D905i :b7M9uhWk
#965 [笹]
漂う冷たい空気
明らかに嫌な空気です
「あ‥壱助さん!
此方は幼なじみの倫次です」
"あはは"なんておどけてみて
一生懸命和ませてみても
‥壱助さんの鋭い視線で
打ち壊される
「ほぉう‥幼、なじみ」
:10/03/22 11:58 :D905i :b7M9uhWk
#966 [笹]
腕を叩いてた指を顎筋にあてて
倫次を下からなめ回すように
見つめていた
倫次に会えたのは嬉しいけど
‥この重苦しい雰囲気
「また夜落ち着いて時間できたら
‥話そうな、じゃあ」
そう言って深く頭を下げて
襖を閉じた
:10/03/22 11:58 :D905i :b7M9uhWk
#967 [笹]
さぁて‥どうなることやら
_
:10/03/22 11:59 :D905i :b7M9uhWk
#968 [笹]
:10/03/22 12:05 :D905i :b7M9uhWk
#969 [笹]
:10/03/22 12:05 :D905i :b7M9uhWk
#970 [笹]
:
:
何にもやましいことはない
だって倫次は幼なじみ
壱助さんはお‥恩人だし
何にも気にすることはない
「‥」
そうよ‥何も
:10/03/26 16:58 :D905i :1zJ6QS4Y
#971 [笹]
「壱助さんって
甘いもの好きでしたっけ?」
「いえ、別に」
倫次が持ってきたお茶を啜らず
用意されていた和菓子を
丁寧に切って口の中へ
ゆっくりそうに見えて
案外食べるの早い
:10/03/26 16:58 :D905i :1zJ6QS4Y
#972 [笹]
あっという間に平らげて
不満げにこちらを見つめてきた
「お茶飲まな‥あぁあああぁっ!」
するり伸びてきた手が
あたしの和菓子をひょいと摘み
あの艶容な唇に触れ
吸い込まれた
:10/03/26 16:59 :D905i :1zJ6QS4Y
#973 [笹]
「それ‥それあたしのぉぉおっ」
食べたかった‥
すごく美味しそうだったのに
"犯人"の憎たらしい流し目
む か つ く !!
まだ熱いお茶を
いっきに口に流し込んだ
その熱さに喉が痛んだが
見栄を張った
:10/03/26 16:59 :D905i :1zJ6QS4Y
#974 [笹]
流れていくのがわかる
どくどくと内側から痛めつけられ
何だか妙に切なくなった
頬杖をついた横顔
貴方の見つめる先に
何があるのかなんて‥
:10/03/26 17:00 :D905i :1zJ6QS4Y
#975 [笹]
:
:
「わぁっすごい!!」
広がる桜並木
舞う花びらが鮮やかな絨毯を作る
その横に流れる川のせせらぎ
澄み切った青空と浮かぶ白い雲
‥春真っ盛りだ
:10/03/26 17:00 :D905i :1zJ6QS4Y
#976 [笹]
「あまりはしゃいでいると
‥怪我、しますよ」
あまりにも重苦しい空気に
耐えきれなくなって
散歩に行こうと誘おうとしたら
壱助さんの方からお誘いが
何だか表情も
柔らかくなったみたい
この風景と壱助さんの組み合わせ
‥絶景だ
:10/03/26 17:01 :D905i :1zJ6QS4Y
#977 [笹]
それを目に焼き付けるように
そっと目を閉じた
「何を‥していらっしゃる」
「いや‥いい景色だなぁって」
ゆっくり目を開ければ絶景
長い睫にすらっと筋の通った鼻
きめの細かい真っ白な肌
荒れを知らない色っぽい唇
:10/03/26 17:01 :D905i :1zJ6QS4Y
#978 [笹]
‥って
「ち‥近いんですけど」
吐息が頬をかすめる
思わず息を潜めてしまうほど
美しすぎて‥
体が熱を帯びていく
「まぁ、まぁ」
まぁまぁって貴方‥
:10/03/26 17:02 :D905i :1zJ6QS4Y
#979 [笹]
「さぁ‥早くしないと
日が暮れてちまいます、よ」
そう余裕たっぷりに囁き
あたしの手を取る
もの凄く近いはず
それなのに貴方の背中は
遠く遠く離れて見える
:10/03/26 17:02 :D905i :1zJ6QS4Y
#980 [笹]
いつまでもいつまでも
追っていくのだろうか
結局は追いつかずに‥
気付いているのです
ほんとはね、気付いてる
この気持ちが何なのか
:10/03/26 17:02 :D905i :1zJ6QS4Y
#981 [笹]
:
:
温泉どっぷり浸かって
いろいろ考えた
‥いろいろ
廊下に浴衣が擦れる音
ぼんやり映る自分の顔
なんて情けないんだ
:10/03/26 17:03 :D905i :1zJ6QS4Y
#982 [笹]
考えたって無駄なんだけど
考えてしまう
あぁ‥もう嫌
襖をゆっくり開ければ
浴衣を着た壱助さんの後ろ姿
首に手拭い巻いてるけど
この人は汗をかくのだろうか
:10/03/26 17:03 :D905i :1zJ6QS4Y
#983 [笹]
「早いですね」
「まぁ‥男、ですから」
胡座をかいた横には
お猪口とお酒の瓶
‥酒豪
男の一人酒‥
邪魔しちゃ悪いかな?
:10/03/26 17:04 :D905i :1zJ6QS4Y
#984 [笹]
じゃあ、そろそろ時間だし‥
「‥香夜さん」
少し甘ったるい声が
立ち去ろうとしたあたしを
呼び止めた
「何処、へ」
「あぁ‥えっと
ちょっと‥外に」
:10/03/26 17:04 :D905i :1zJ6QS4Y
#985 [笹]
何となく言葉を濁らせて
倫次のとこへ行くとは
言えなかった
これがいけないのか
‥やましいわけじゃないの
「幼、なじみ」
いつの間にかその声は
耳元で囁いて
風呂上がりの貴方の体は
少しまだ暖かかった
:10/03/26 17:05 :D905i :1zJ6QS4Y
#986 [笹]
「壱助さん‥?」
腰を抱かれて
そのまま身を委ねてしまった
「‥倫次、待ってます」
「私の‥
知ったこっちゃ、ないのですが」
知ったこっちゃあってほしい‥
:10/03/26 17:05 :D905i :1zJ6QS4Y
#987 [笹]
首にかかる吐息が
少しお酒を漂わせて
酔ってんのかな?
「すぐ、戻りますから」
「それなら‥行かなくても
いいじゃあ、ないですか」
「‥んん」
:10/03/26 17:06 :D905i :1zJ6QS4Y
#988 [笹]
口ごもれば‥
さすがに壱助さんも子供じゃない
「‥体が冷えます故
早く、戻ること」
そう言うと
するり腰から腕が溶けた
軽くなった腰を上げ
足早に部屋を出た。
:10/03/26 17:06 :D905i :1zJ6QS4Y
#989 [笹]
ねぇ、壱助さん
貴方の手が
引き止めたのは
お酒のせいじゃ
‥ないのでしょうか?
何時だって貴方は
あたしを惑わせて‥
:10/03/26 17:08 :D905i :1zJ6QS4Y
#990 [笹]
:10/03/26 17:15 :D905i :1zJ6QS4Y
#991 [笹]
:10/03/26 17:45 :D905i :1zJ6QS4Y
#992 [笹]
:10/03/26 17:48 :D905i :1zJ6QS4Y
#993 [笹]
:10/03/26 18:01 :D905i :1zJ6QS4Y
#994 [笹]
:10/03/26 18:08 :D905i :1zJ6QS4Y
#995 [笹]
:10/03/26 18:15 :D905i :1zJ6QS4Y
#996 [笹]
【零れ話】
ほんとはこの作品
1000で終わらせるつもりでした←
だけど
皆様から沢山のお言葉を頂き
大変励みになりまして
調子に乗って第二段いきますw
これからもよろしくです ^^*
:10/03/26 18:21 :D905i :1zJ6QS4Y
#997 [笹]
最初は
こんな変な小説
読む人なんかいないだろうと
暇つぶしに書いてました←
だけど今では
壱助さんが人気者にwww
まさかです\(^O^)/
笹はとっても幸せです !!
:10/03/26 18:25 :D905i :1zJ6QS4Y
#998 [笹]
こんなぐだぐだな作者ですが
放置は絶対しません !!
これから忙しくなるので
マイペース更新ですが(゚_゚)
皆様今後とも
お付き合い願たい !!
:10/03/26 18:27 :D905i :1zJ6QS4Y
#999 [笹]
:10/03/26 18:28 :D905i :1zJ6QS4Y
#1000 [笹]
:10/03/26 18:29 :D905i :1zJ6QS4Y
#1001 [我輩は匿名である]
このスレッドは 1000 を超えました。
もう書けないので新しいスレッドを建ててください。
:10/03/26 18:29 : :Thread}
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