浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#290 [笹]
「死なせません、ぜ」
急に柔らかくなる声
やっぱりわかる
壱助さんの微妙な声の変化
「無駄な命に、してはいけない」
「‥わかってますよ」
:10/02/01 17:27 :D905i :CnOOZU0s
#291 [笹]
死んだりしない
お父さんのためにも‥。
「まぁ、今回は‥見逃しましょう
父上から預かった命、ですから」
「ほんとですか?!」
久しぶりの生きた心地ですよ
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#292 [笹]
―――――――‥‥
_
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#293 [笹]
「ぬぁ‥ぬぁあ‥」
「何、か」
「何って‥だって」
「消毒、ですよ」
「えぇえぇええ?!」
:10/02/01 17:29 :D905i :CnOOZU0s
#294 [笹]
たった一度、触れただけ
一瞬だけ‥重なった。
_
:10/02/01 17:30 :D905i :CnOOZU0s
#295 [笹]
:10/02/01 17:33 :D905i :CnOOZU0s
#296 [我輩は匿名である]
:10/02/01 21:28 :W53H :G6YaoaOg
#297 [笹]
"立てば芍薬、座れば牡丹、
歩く姿は百合の花"
そんな言葉がありますが
そんなに美しい女性って
実際にいるのかな?
壱助さんは
出会ったことあるんだって
今日はそんな壱助さんの
少し昔のお話です。
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#298 [笹]
:
:
:
色がましい声で溢れる此処に
そんな声が一切聞こえない部屋
「また、来やしたぜ?」
毎日のように通いつめるのは
此処目的ではない
「また来たのかい
‥懲りない男だねぇ」
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#299 [笹]
目的はこの遊女
容姿端麗
性格も気は強いが悪くはない
「まぁ、まぁ」
決まって距離を少しばかり取って
隣で足を崩す
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#300 [笹]
新しい着物だとか簪だとか
そんなことを言えば
"よく見てるねぇ"と
呆れ顔で笑顔を向ける
真っ白な首筋にある小さな黒子
彼女は好きじゃないと言う
‥私はそうは思わないのですが
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#301 [笹]
「あんた位だよぉ?
此処へ来て手を出さないの」
「ほぉう‥そりゃあいい」
「金払ってるんだから
何したっていいんだのに‥」
"好き者だねぇ"と酒を差し出す
:10/02/01 22:34 :D905i :CnOOZU0s
#302 [笹]
「他の輩と‥
一緒にされちゃあ、困りやすから」
他に理由があると言えば
ないとは言い切れません、ね
好きな女にゃ、
金払って手を出す気はないんでね
:10/02/01 22:35 :D905i :CnOOZU0s
#303 [笹]
「全く‥馬鹿な人」
赤い紅を緩ませて
本当はあどけなさが残る
白いお粉で顔を隠して
金で買われる惨めな女
「あたしが抱いてと言っても
抱かないのかい?」
少し不安そうに顔を覗き込む
そんな顔して
‥何を求めてるんで?
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#304 [笹]
「"外"に出たら‥いくらでも」
「それなら、あんたのは
一生お目にかかれないねぇ」
嫌味ったらしく
目を細めて呟いた
ほう‥貴女も好き者です、か
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#305 [笹]
「まだ返し終わりません、か」
心配そうに見つめれば
"一生だよ"と言う
この遊女には莫大の借金がある
自殺した父親の残したものだ
それを返すために
此処で体を売っていると言う
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#306 [笹]
「一生売ってもね、
終わらないんだよ、好き者さん」
煙管を吹かして
煙を宙に漂わせる
それをぼうっと眺めて
消えるのを見送っていた
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#307 [笹]
「‥体に悪いですぜ?」
「知ってるさ、
これで死ねるなら‥死にたいよ」
馬鹿なことを言う人です、よ
「‥金なら、私が代わりに‥」
すると大口を開けて笑った
他の女なら下品な姿だ
:10/02/01 22:38 :D905i :CnOOZU0s
#308 [笹]
「お節介は、よしとくれよ
あんたにゃ関係ないだろう?」
曇った目の奥が
叫んでいるじゃあ、ないですか
"助けてくれ"と
言ってるっというのに
全く遊女は、演技が上手い
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#309 [笹]
「‥好き者さん?」
最期だと甘えます、か
「壱助と、申しまして」
少し躊躇いやしたか
所詮私は貴女の"顧客"
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#310 [笹]
「壱助さん‥抱いとくれよ」
真っ白な華奢な肩
何人がそこに触れましたか
‥私は、何人目で?
「此処では‥控えます、よ」
此を嫉妬と言うならば
‥受け入れ、ましょうか。
:10/02/01 22:40 :D905i :CnOOZU0s
#311 [笹]
「‥汚いからかい?」
「いえ、」
「‥最期に、
あんたに抱かれたいんだよ」
「今日は、これで‥」
あぁ‥貴女と言う人は
私の気持ちを知ってるくせに‥
涙に弱いと知ってお出でで?
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#312 [笹]
「嫌なんだよ‥
一度でいい‥壱助さん」
やっと子供らしくなって
大きな雫をこぼして
"最期"などと言いますか
「‥もう大人でしょうに、
みっともない、ですよ」
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#313 [笹]
力なく抱き締めると
しがみつくように
着物に爪を立ててただをこねる
「馬鹿です、ね‥全く」
軽く口元に口づけた
:10/02/01 22:42 :D905i :CnOOZU0s
#314 [笹]
色がましい声に埋もれて
聞こえる泣き口説く声
背中に訴える枯れた声
貴女を愛した男は
酷く我が儘で
貴女が愛したであろう男は
‥酷く情けなかった
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#315 [笹]
―‥"籠の鳥"
振り返った時には
何も掴めなかった無力の掌と
煙管と白い着物に染み付いた
美しすぎて恐ろしい赤い花
こんなにも‥
お慕い申し上げていたのに、と
嘆いたって宙に浮いて消えるだけ
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#316 [笹]
:
:
「立てば芍薬、座れば牡丹
‥歩く姿は何とやら」
月光に浮かぶ
目の前の小娘を‥
「うぅ‥壱、助さん」
また愛そうなんて、
「‥程遠い、か」
嗚呼‥わからない男です、よ
:10/02/01 22:44 :D905i :CnOOZU0s
#317 [笹]
:10/02/01 22:48 :D905i :CnOOZU0s
#318 [笹]
消毒だと言っているのに‥
"顔に紅葉を散らす"訳を
教えていただけや、しやせんか
:10/02/02 22:52 :D905i :0yxagqRA
#319 [笹]
:
:
:
「ただいまぁー」
たった五日で
お茶の葉一缶終わっちゃうって
‥飲みすぎでしょうよ
だから今日は
三つも買ってきちゃったっ
安くしてもらえたし
んー‥得した気分
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#320 [笹]
これで半月はもつよね
って言っても‥半月だけ
「壱助さーん!!
買ってきましたよーお茶の葉」
「‥」
‥無視ですか。
せっかく買ってきてあげたのにぃ
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#321 [笹]
「‥返事くらいしてくださいよぉ」
ぷぅっと頬を膨らませて
横になってる背中に訴えた
‥チュンチュン
何も音がしない
静かな日だなぁー
:10/02/02 22:54 :D905i :0yxagqRA
#322 [笹]
窓の外をじっと眺めて
葉から落ちる雫を目で追った
‥チュンチュン
‥チュンチュン
「‥もっしっかっしってぇ」
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#323 [笹]
不思議と緩む頬
着物をきっちり整えたまま
左腕を枕にして
横になってる壱助さんに
そろりと近づいた
「‥寝てる?」
‥って言うか、生きてる?
死んでる?って
不安になる程微動だにしなくて
また肌が白いから余計‥。
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#324 [笹]
「おーい」
目の前で手を振ってみたり
いろんな角度から覗いてみたり
‥どの角度から見ても
綺麗だよねぇ、と感心。
「‥ふふ」
怪しい笑みを浮かべる
壱助さんの寝顔なんて
‥初めてみた。
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#325 [笹]
‥いつも寝てるのかなぁ
あたしが出かけてる時
こうして、寝溜めしてるのかな
伸びきった首筋
伏せられた長い睫
筋の通った鼻
腰の辺りなんてあたしより‥
「‥きれいですねぇ、本当に」
全く抜け目がないから
憎たらしくなる
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#326 [笹]
壱助さんの横に寝転がって
ふうっと息を吐く
天井を眺めて
独特の自然の模様を
ぼうっと目に映してみた
よく耳をそばだてると
微かに壱助さんの寝息が
耳をくすぐった
乱れない規則正しい呼吸
:10/02/02 22:57 :D905i :0yxagqRA
#327 [笹]
「‥消毒」
ふと横に顔を向けると
色っぽい唇に目が行く
消毒‥消毒かぁ
本当に触れただけだったけど
柔らかかったなぁ‥
しかも、あったかかった
「‥むふっ」
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#328 [笹]
思わずにやけてしまうほど
あの一瞬は
あたしの脳内を満たして
甘ったるい時間をくれた
「"消毒です、よ"なぁんて‥
そんな消毒がありますかぁ?」
人形のように固まった頬に
語りかける
もちろん返事はない
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#329 [笹]
なんとなく
あの簡素な返事が恋しくなる
無関心そうな声も
あるとないとじゃ大違いだ
「‥壱助さん?
拾ってくれて、ありがとお」
面と向かって
言えた試しがないから‥
こんな時に言ってみるのは
ずるいかな、
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#330 [笹]
こんなに誰かの隣が
居心地いいなんて‥
知らなかったなぁ
‥生きてて良かった。
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#331 [笹]
:
:
「風邪‥引きます、よ」
目を開けると
目の前で小さく丸まる猫一匹
羽織物をかけてやると
微かに声を立てた
『‥拾ってくれて、ありがとお』
‥珍しく素直になるもんで、
起きているとも気付かずに
‥本当に鈍いです、ね
:10/02/02 23:00 :D905i :0yxagqRA
#332 [笹]
寝ている時だけは大人しい
子供同然じゃあ、ないですか
目を細めて前髪をそっと撫でた
するすると指の隙間を抜ける
細くて艶のある具合が
何とも垢抜けていて
子供だと言えないほどに美しい
:10/02/02 23:01 :D905i :0yxagqRA
#333 [笹]
「ちょいと‥
無防備すぎやしやせん、か」
裾の辺りが少しはだけて
女らしい脚が見える
小さく開いた手に指を添えれば
赤ん坊のように
ぎゅっと握りしめられた
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#334 [笹]
「本当に‥放っておけやしない」
呆れるように溜め息をつき
緩く笑った
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#335 [笹]
:
:
:
あぁ‥寝ちゃった。
壱助さんが起きたら
"寝顔見ちゃったぁーっ"って
からかってやりたかったのに
まぁそんなの
‥からかいの内に
入らないんだろうけど
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#336 [笹]
「‥んん」
乱暴に目をこすると
辺りがぼやけて見えた
その時の顔と言ったら
相当酷かったに違いない
「あ‥壱助さん、起きてる」
あたしが買ってきた
新しいお茶の缶が開けられていた
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#337 [笹]
いつものように
正座してお茶を啜る姿を見て
夢でないと確信する
「あぁ、やっと」
顔をちらりとも向けず
そう言った
自分にかけてあった
壱助さん香りがする羽織物
‥何だかいい目覚め
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#338 [笹]
「夢でも見ました、か」
「夢‥?」
夢なんて見たかな‥
覚えてないや
すると壱助さんは
顔だけこちらに向けて
視線を落とした
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#339 [笹]
「"壱助さん、
お慕い申し上げておりました"と
寝言で、言っていたもので‥」
一度瞬きをして
一気に顔に熱が走ったのは
言うまでもない。
"鈍い人です、ね"と
壱助はまた茶を啜った
:10/02/02 23:05 :D905i :0yxagqRA
#340 [笹]
:10/02/02 23:08 :D905i :0yxagqRA
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