浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#201 [笹]
しかも、それから
ずっと面倒見てくれてる。
扱いは‥まぁ考えないとして
お金だってないのに‥。
―‥ただの人助け?
あたしに対する同情かしら
:10/01/30 19:52 :D905i :weUwJGLs
#202 [笹]
「さて、」
壱助さんが珍しく
自分から口を開いた
そして立ち上がる。
また‥花街?
だけど、まだ午前中よ?
:10/01/30 19:53 :D905i :weUwJGLs
#203 [笹]
「‥行きます、か」
すっと腰を上げて
帯をきつく引っ張り整える
「何処‥行くんですか?」
不安そうに見つめると
ひんやりとした手が
あたしの腕をしっかり捕まえた
:10/01/30 19:54 :D905i :weUwJGLs
#204 [笹]
「なっ‥何処に?!」
「その内わかります、よ」
あたしと壱助さんの温度差は
一ヶ月経っても縮まらない
:10/01/30 19:55 :D905i :weUwJGLs
#205 [笹]
:
:
「壱助さぁんっ」
こちらの呼びかけに
一切振り返りもせずに
ただ腕を引いて街を歩く
そんな中でも
町娘の黄色い声が聞こえる
"あら、色男ーっ"
"見とれちゃうわぁー"
:10/01/30 19:55 :D905i :weUwJGLs
#206 [笹]
自然と眉間にしわが寄った
だけど当の本人は
ぴくりともしない
普段から持て余されてる色男は
もう馴れているのだろう
‥憎たらしい。
:10/01/30 19:56 :D905i :weUwJGLs
#207 [笹]
:
:
:
「あらぁああ!!壱助さんっ
紹介しに?」
うわ‥綺麗な人‥。
団子屋から出てきたその人は
壱助さんを見るやいなや
顔に花を咲かせた
:10/01/30 19:57 :D905i :weUwJGLs
#208 [笹]
「今日はちょいと、別件でして」
「あら‥そうなのかい
ちょいと時間があるならさぁ
紹介しておくれよぉっ!」
その人と壱助さんが話す姿は
何故かしっくりきて
‥お似合いだった
:10/01/30 19:58 :D905i :weUwJGLs
#209 [笹]
"では‥"と言うと
壱助さんはあたしに
横目で合図をする
「あ‥香夜です!!はじめまして」
ぺこりとぎこちなくお辞儀をした
:10/01/30 19:58 :D905i :weUwJGLs
#210 [笹]
「香夜ちゃん?
可愛いじゃないかぁーっ
やっぱり壱助さん、
お目が高いよぉーあんた!!」
ぽんっとあたしの肩を叩いく
その美しい手が
初めてとは思えないくらい
優しくて暖かかった
:10/01/30 19:59 :D905i :weUwJGLs
#211 [笹]
「伊代さんにゃあ、劣りますぜ」
あたしなんかと扱いが違う
優しい目で見つめてた
この色男め‥
そんな言葉がぽんと出るなんて
確かに綺麗だし、いい人そう
‥だけど、ちょいと悔しい
:10/01/30 20:00 :D905i :weUwJGLs
#212 [笹]
「馬鹿言うんじゃないよぉ!全く」
壱助さんを叩くのも
何となく馴れてる気がして‥
やっぱりあたしなんかは
まだ付き合いが浅いんだって
思い知らされるのだ。
:10/01/30 20:01 :D905i :weUwJGLs
#213 [笹]
"団子屋の女将の伊代です"と
笑顔で言われて
ついついつられて笑顔になる
大人の女と言えば
"あの母親"しか印象にないから
なんだか不思議な感じがするの
:10/01/30 20:02 :D905i :weUwJGLs
#214 [笹]
「‥では、これで」
息つく間もなく
またぐいっと手を引かれ
伊代さんに軽くお辞儀して
団子屋を後にした
「あれは‥仲いいのね、きっと」
クスっと笑いながら
伊代は二人の背中を眺めた
:10/01/30 20:04 :D905i :weUwJGLs
#215 [笹]
:
:
:
「‥此処ですか?」
壱助さんが足を止めたのは
怪しい雰囲気の
お店‥のような建物の前
手を引かれて入ってみると
これまた怪しいお婆さん
こ‥怖いじゃあありませんか
:10/01/30 20:04 :D905i :weUwJGLs
#216 [笹]
「お願いします、ね」
そう言うと今度は
お婆さんに手を引かれて
襖の奥へ
「ちょ‥壱助さん?!」
壱助さんは
こちらに来る様子もなく
側にあった椅子に腰を掛けた
:10/01/30 20:05 :D905i :weUwJGLs
#217 [笹]
次の瞬間壱助さんの姿が消え
ばんっと襖が現れた
‥な、何でぇえ?
「あの‥何を‥」
またこの人も
あたしの存在無視ですか‥?
:10/01/30 20:05 :D905i :weUwJGLs
#218 [笹]
お婆さんは物差し片手に
あたしを睨み付ける
それはもう‥殺されそうなくらい
「あんた‥年は?」
しゃがれ声が沈黙を破る
「じゅ‥十八‥です」
:10/01/30 20:06 :D905i :weUwJGLs
#219 [笹]
"へぇ"と無関心な声を出し
日焼けした黒い手が
こちらに物差しをあてがう
こっちが喋ろうもんなら
キッと睨み付けられる
一体何なんですか?
:10/01/30 20:06 :D905i :weUwJGLs
#220 [笹]
「きゃっ‥何するんですか?!」
突然胸を鷲掴みにする
小さな骨張った手
「‥中の下だね」
壱助さんと同じ捨て台詞。
反論する間もなく
お婆さんは何か書き留め
算盤をはじき出した
:10/01/30 20:07 :D905i :weUwJGLs
#221 [笹]
"こんなもんかねぇ"と呟くと
「壱助!!ちょっと来な!!」
壱助さんを呼び捨て‥
どんな関係‥?
すると壱助さんが
襖の向こうから現れ
あたしに目もくれずに
お婆さんの元へ
:10/01/30 20:08 :D905i :weUwJGLs
#222 [笹]
「こんなもんでどうかねぇ?」
さっきの紙を壱助さんに渡す
少し顔をしかめて
こしょこしょと耳打ち
「まぁ、色男の言うことにゃあ
聞かない訳には‥」
こしょこしょ
こしょこしょ
:10/01/30 20:08 :D905i :weUwJGLs
#223 [笹]
「これは、有り難い」
「2、3日したらまた来な」
話は終わったのか
あたしは一切事情を知ることなく
また手を引かれる
:10/01/30 20:09 :D905i :weUwJGLs
#224 [笹]
顔色一つ変えない壱助さんに
あたしは事情を聞かなかった
そうじゃない。
‥聞けなかったんだ
:10/01/30 20:10 :D905i :weUwJGLs
#225 [笹]
あの耳打ちから漏れた言葉
確かに聞こえたのは
"お金"のやり取り
:10/01/30 20:11 :D905i :weUwJGLs
#226 [笹]
ねぇ‥壱助さん
あたしを売るんでしょう?
_
:10/01/30 20:11 :D905i :weUwJGLs
#227 [笹]
:10/01/30 20:15 :D905i :weUwJGLs
#228 [我輩は匿名である]
:10/01/30 21:47 :W53H :QSzgxyWw
#229 [笹]
>>228いつも安価有難うございます ^^
よかったら感想板にも
いらしてください>< !!
:10/01/30 21:50 :D905i :weUwJGLs
#230 [笹]
さて‥これで用も済みやした
―‥もう
おさらば、ですよ
"能事終われり"、ですかね
:10/01/31 19:06 :D905i :HYkp9PyY
#231 [笹]
:
:
壱助さん
もうさよならですか?
確かにあたしは
お金ばかり喰って
役立たずだし、むしろ足手纏い
特別可愛くもないし
‥中の下だし
連れてるだけ無駄かもしれない
:10/01/31 19:07 :D905i :HYkp9PyY
#232 [笹]
だけど最初からその気なら
‥優しくしないで欲しかった
死ぬなと言ったのも
遊女屋から連れ戻したのも
全部このため?
せっかく
居場所を見つけたと思ったのに
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#233 [笹]
壱助さん‥
_
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#234 [笹]
:
:
:
壱助さんの様子は
いつもと何一つ変わらない
やっぱりあたしは
"所有物"でしかなかった
ああ‥どうしよう
聞いてみようかな
:10/01/31 19:10 :D905i :HYkp9PyY
#235 [笹]
だけど"そうです、よ"なんて
はっきり言われちゃったら
泣いちゃうかもしれない
壱助さんは確実に
あたしの変化に気付いてる
いつもより多く
こちらに目配りしてるから‥
深く息を吐く
このまま魂も一緒に抜けそうだ
:10/01/31 19:11 :D905i :HYkp9PyY
#236 [笹]
結局捕らえられる運命か
結局売られる運命‥か
壱助さんに出会って
人生に少し期待したのに
やっぱり運命は変えられない?
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#237 [笹]
そんなことを考えてばかりで
目の奥が火傷しそう
ここまできて
泣いたら‥負けだ
「どうか‥しました、か」
見かねた壱助さんが
あたしの前にお茶を差し出す
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#238 [笹]
これも機嫌取り?
最後くらい優しくしようって?
考え出したら止まらない性格だ
「‥」
目が合わないように
無理やり目を伏せる
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#239 [笹]
「雨でも‥降るんですか、ね」
晴れ渡る空を眺めてる
「私を‥売るんですか?」
すると壱助さんは珍しく
驚いたような顔をして
そして一瞬にして
いつも通りに戻った
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#240 [笹]
「さぁ‥」
はぐらかすんだ
いつもそうやって。
都合が悪いとき、
面白がってるとき‥いつもそう
1ヶ月でやっと知れた
貴方の癖です。
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#241 [笹]
「どうでしょうか、ねぇ」
嫌だ‥嫌だよ‥
嫌だよ、壱助さん
独りにしないでよ‥
どこにも行っちゃ嫌‥
ああ‥堪えきれない。
目の前がぼやける
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#242 [笹]
寝てしまおう。
今日はもう寝てしまおう。
だけど‥朝が来るのが怖い
「もう、お休みですかい?」
「‥」
背を向けて布団をかぶると
"おや、おや"と
溜め息混じりに聞こえた
布団が冷たい
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#243 [笹]
:
:
結局なかなか寝付けなくて
寝てはすぐ目が覚めて‥
それの繰り返し
だけど着実に
夜は明けていって
ついに壱助さんが動き出した
襖の奥から聞こえるしゃがれ声
"迎え"にきたんだ‥
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#244 [笹]
あたしは息を潜めて
ぎゅっと小さくなった
体が小刻みに震えてるのが分かる
このまま目を開けなければ
見逃してくれたりしないかな
今から窓の外に逃げ出そうか
そんなことばかりが
頭の中を駆け巡る
脳に冷や汗をかいた
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#245 [笹]
するとまもなくして
襖が開く音がした
「香夜さん‥」
小さく呼びかけた声
そんな声で呼んだって
あたしの気持ちは和らがないよ
:10/01/31 19:16 :D905i :HYkp9PyY
#246 [笹]
「香夜さん‥朝です、よ」
貴方って人は
本当にいつもその調子
声に全く感情が漏れない
だから時々
その声があたしを突き刺すの
ねぇ‥壱助さん
貴方にとってあたしは‥
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#247 [笹]
「いったあぁああぁあい!!!」
縮こまった体が飛び起きる
腹部に走る激痛
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#248 [笹]
「狸寝入りなど無駄、ですよ」
お腹を抱えて縮こまるあたしに
壱助さんはそう吐き捨てた
思わずむせ返るほど
どうやら強く蹴られたらしい
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#249 [笹]
「最後くらい‥最後くらい
優しくしてくださいよ!!!」
顔を上げて泣きわめく
しかし目の前には壱助さんだけ
あのお婆さんはいない
しかも何か綺麗な色の
布を抱えている
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#250 [笹]
「最後‥なら、ね」
珍しく人らしい困った顔で
クスッと含み笑い
「‥?」
「最後なら、優しくします、よ
しかし‥
誰が最後と‥言いました?」
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#251 [笹]
その瞬間目の前が
山吹の鮮やかな色に染まった
「‥着物‥きれい」
息をのむほど綺麗な色の生地に
赤い花の刺繍がされていた
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#252 [笹]
「でも‥でも壱助さん
あたしを‥売るんでしょう?!」
そういい終わる前に
"馬、鹿"と口元を緩ませて
それをあたしに差し出した
「一ヶ月、経ったので‥
"所有物"から昇格、ですよ」
:10/01/31 19:20 :D905i :HYkp9PyY
#253 [笹]
「‥壱助さん
あたしのために‥?」
睫毛を伏せただけで
返事はなかった
だけどわかったよ
"早く着てくだせぇ"と
頭をぽんと撫でてくれた
一ヶ月たてば変わりますか?
壱助さんの声が
柔らかく感じたの
:10/01/31 19:21 :D905i :HYkp9PyY
#254 [笹]
:
:
「丁度良い‥ようですね」
その着物は袖の長さも
丈の長さも胸周りも腰周りも
全部がぴったりで
そこでやっと
"あぁそう言うことか"って
あのお婆さんを思い出す
と同時に
壱助さんを疑った自分を恥じる
:10/01/31 19:24 :D905i :HYkp9PyY
#255 [笹]
「壱助さん‥
あ、ありがとう‥ございます」
これでもかと言うくらい
頭を深く下げた
「本当に‥疑い深い人です、よ」
そしてまたお茶を啜る
いつもの壱助さん
:10/01/31 19:26 :D905i :HYkp9PyY
#256 [笹]
「‥ごめんなさい」
「何故、謝る」
この人は大人だと思う
あたしの知ってる大人なんかより
ずっとずっと大人だ。
「‥ごめんなさい。」
「売り飛ばされたいです、か」
「‥い、嫌です」
:10/01/31 19:29 :D905i :HYkp9PyY
#257 [笹]
「壱助さんっあたし‥!!」
何処までも貴方は
期待を裏切りやしない。
「‥約束しましょう。」
何処までも貴方は優しくて
「貴女を独りにしない、と」
頭があがらないのです。
:10/01/31 19:33 :D905i :HYkp9PyY
#258 [笹]
:10/01/31 19:37 :D905i :HYkp9PyY
#259 [我輩は匿名である]
:10/01/31 20:56 :W53H :c7HoKKOs
#260 [笹]
嫉妬‥、
私は餓鬼に‥興味はないです、よ
強いて言うなら
‥"保護者"ですか、ね
"親の心、子知らず"
:10/02/01 17:03 :D905i :CnOOZU0s
#261 [笹]
「いやぁあぁあああ!!」
どんなに暴れても
壱助さんの力に勝てるはずもなく
「少し黙ってくれや、しやせんか」
ぐいっと片手であたしの両腕を掴み
せっせとそれを帯で縛り上げる
前の帯がもういらないからって
そんな事に使わなくても‥
:10/02/01 17:04 :D905i :CnOOZU0s
#262 [笹]
あっさり両腕を縛られ
捕らわれの身
「解いてください!!」
「何、故」
またお茶を啜る
何事もなかったかのように
「何故って‥こうする理由は?!
ちょっと戻ってくるのが
遅かっただけじゃないですか!!」
:10/02/01 17:05 :D905i :CnOOZU0s
#263 [笹]
―‥少しの沈黙
一気に空気が凍りついた
カタンと湯飲みを置く
またその落ち着き方が怖い
「ほぉう‥遅かった"だけ"、と」
_
:10/02/01 17:06 :D905i :CnOOZU0s
#264 [笹]
いつも以上に鋭い目が
あたしを滅多刺しにする
‥心臓が止まりそうですよ
―‥事の発端は今日の午前中の事
:10/02/01 17:06 :D905i :CnOOZU0s
#265 [笹]
:
:
「えーっと、漢方薬‥と
後は、お茶の葉と‥
それからぁー‥何だっけ?」
朝っぱらから
‥最早あたしの日常の一部だけど
顔面ひっぱたかれて、
買い出しに行ってこいって
買ってくる物を
呪文みたいに聞かされて
ぴょいっと宿から放り出された
:10/02/01 17:07 :D905i :CnOOZU0s
#266 [笹]
「そんな一回じゃ
覚えられないよー‥もう」
ぶつぶつ言いながら
街のあちこちを行ったりきたり
しかも荷物が増える増える。
これを一人で持てなんて
壱助さんはやっぱり鬼だ
:10/02/01 17:08 :D905i :CnOOZU0s
#267 [笹]
だけどそんなこと言ったら
どんなことになるか‥
とりあえず、骨一本は犠牲だ‥
いろいろと目に見えてるので
一人で頑張ってた訳です。
:10/02/01 17:09 :D905i :CnOOZU0s
#268 [笹]
「あらお嬢ちゃん
そんなに大荷物、大変ねぇ‥
財布出せるかい?」
「あぁ‥大丈夫‥です」
袖の中を何とか弄る
手は吊りそうだし肩凝るし
早く済ませて帰りたいったら
この上ない
お金足りたかなぁー‥
‥嘘、ちょっと待って
:10/02/01 17:09 :D905i :CnOOZU0s
#269 [笹]
「お財布がなぁああい!!!」
_
:10/02/01 17:10 :D905i :CnOOZU0s
#270 [笹]
だってさっきまでここに‥
どこかに落としたかなぁ
あっれー‥?
がさがさばたばたばたっっ
「うぎゃあぁああっ!!!」
足元が荷物で埋まる
思いっきりぶちまけてしまった
:10/02/01 17:11 :D905i :CnOOZU0s
#271 [笹]
今日はついてないや‥
溜め息を付き
ぺこぺこ頭を下げて
慌てて荷物を拾う
あーあ、誰か助けてくれな‥
「大丈夫ですかい?」
「ふえ?」
:10/02/01 17:11 :D905i :CnOOZU0s
#272 [笹]
目の前には
荷物拾いを手伝ってくれてる
男気溢れる人。
って言うか
壱助さんばっかり見てたら
どんな人も
男らしく見えるんだけど‥
「あぁっ‥すみません
ありがとうございます」
:10/02/01 17:12 :D905i :CnOOZU0s
#273 [笹]
男の人はこうでなくちゃ!!
なぁんて壱助さんを思い浮かべて
思ってしまう不束物です
「これ、貴女の財布ですか?」
「あぁああ!!!あったぁぁ!!!」
確かに壱助さんから預かった財布
いやー助かったぁ
死ななくて済みそうです‥はは
:10/02/01 17:13 :D905i :CnOOZU0s
#274 [笹]
「ふはは、元気な方だ」
そんな事言われちゃって
しかも目尻下げて笑われて
不覚にも、どきどき
ちゃっちゃと会計済ませて
"お茶でもおごらせて下さい"
なんて言おうもんなら
"お茶は是非と言いたいですが
おごりでは‥"
なんて遠慮するもので
:10/02/01 17:13 :D905i :CnOOZU0s
#275 [笹]
:
:
:
「本当に面白い方だ」
本当によく笑う人だなぁ
壱助さんぴくりともしないもんな
んー‥人ってこうあるべきよね
:10/02/01 17:14 :D905i :CnOOZU0s
#276 [笹]
「よかったらこの後
お時間‥いただけませんか?」
その人は祥吉さんと言って
この街の大工さんらしい。
「あぁ‥はい!!」
まぁ少しくらいならって
思ったわけですよ
:10/02/01 17:15 :D905i :CnOOZU0s
#277 [笹]
:
:
「‥いい人だったんだもん」
確かにいい人だった
壱助さんばかりといるから余計
「ほぉう‥
知らない叔父さんには
付いて行くなと‥
教わらなかったんですかい?」
縛られたあたしを
舐めるように眺めながら言った
:10/02/01 17:16 :D905i :CnOOZU0s
#278 [笹]
「そんな‥子供じゃないです」
いつまでも子供扱いして‥
もういい加減嫌なのだ
帯を解こうと必死にもがく
だけどもがけばもがく程
痛くなるくらいに締め付ける
「では‥大人です、か?」
:10/02/01 17:16 :D905i :CnOOZU0s
#279 [笹]
壱助さんは立ち上がり
着物を畳に擦り付け
こちらににじり寄ってきた
「そ‥そうですよ!!」
もちろん壱助さんは
あたしなんかを大人だなんて
思ってもなくて‥
「男を‥知らないくせに?」
:10/02/01 17:17 :D905i :CnOOZU0s
#280 [笹]
冷たい手が頬を這う
あの時の壱助さんが蘇る
あの冷え切った心の‥
「前に‥言ったはず、ですが」
首筋を伝い胸元を緩めて
「や‥」
「男はこういう物‥だと」
舌を這わせて
:10/02/01 17:18 :D905i :CnOOZU0s
#281 [笹]
「いや‥やめて」
「最後まで、されなきゃ‥
わからないんですかい?」
「いやぁあぁっ」
縛られた手は役立たずで
声を上げても無駄だと言われ
ただ泣くしかなかった
:10/02/01 17:18 :D905i :CnOOZU0s
#282 [笹]
「優しさなんてのは‥
ただの餌、ですよ」
酷いよ‥酷いよ貴方
みんながみんな‥
そういう訳じゃないじゃない
あたしに跨る壱助さんが
冷たい目で見下ろす
祥吉さんも‥そんな目だったかも
:10/02/01 17:19 :D905i :CnOOZU0s
#283 [笹]
「嬉しかったんです、か
こんな事‥されて」
唇が今にも触れそうなくらい
壱助さんの吐息は暖かかった
:10/02/01 17:20 :D905i :CnOOZU0s
#284 [笹]
:
:
あれから祥吉さんに
唇を奪われてしまい
運良く?悪く?
壱助さんに見つかってしまい
祥吉さんは何処かへ蹴り飛ばされ
‥あたしはこういう訳で
:10/02/01 17:20 :D905i :CnOOZU0s
#285 [笹]
「さて‥お仕置きです、よ」
壱助さんは
"子供"と接吻なんて
‥真っ平だそうで
も、もちろんあたしもよ!!
この人としたら
唇食いちぎられそうだもの
:10/02/01 17:21 :D905i :CnOOZU0s
#286 [笹]
体を離してまたお茶。
お茶お茶お茶お茶お茶お茶お茶
その内体が緑色になるわよ!!
‥もう
:10/02/01 17:22 :D905i :CnOOZU0s
#287 [笹]
「どう‥されたいです、か」
帯解かれたいです。
「ここで男を知ります、か
あぁ‥それは無理でした」
「へ?」
「‥中の下では、"目覚め"ません」
‥本当に緑色になればいいのに
なんて、思うほど憎い
:10/02/01 17:22 :D905i :CnOOZU0s
#288 [笹]
「そうです、ねぇ
三角木馬に座るも結構
針山を登るも結構
爪でその皮膚
丁寧に剥いでやりやしょう、か
お薦めは‥
爪との間に針をぶすっと‥」
「ぎゃあぁあぁあっ」
:10/02/01 17:25 :D905i :CnOOZU0s
#289 [笹]
痛い‥痛すぎる
って言うか
なんでそんな拷問好き?
三角木馬とか‥本格的だし
本物の変態‥
爪とか、ぜーったい無理!!
だったら死んだほうが‥
:10/02/01 17:26 :D905i :CnOOZU0s
#290 [笹]
「死なせません、ぜ」
急に柔らかくなる声
やっぱりわかる
壱助さんの微妙な声の変化
「無駄な命に、してはいけない」
「‥わかってますよ」
:10/02/01 17:27 :D905i :CnOOZU0s
#291 [笹]
死んだりしない
お父さんのためにも‥。
「まぁ、今回は‥見逃しましょう
父上から預かった命、ですから」
「ほんとですか?!」
久しぶりの生きた心地ですよ
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#292 [笹]
―――――――‥‥
_
:10/02/01 17:28 :D905i :CnOOZU0s
#293 [笹]
「ぬぁ‥ぬぁあ‥」
「何、か」
「何って‥だって」
「消毒、ですよ」
「えぇえぇええ?!」
:10/02/01 17:29 :D905i :CnOOZU0s
#294 [笹]
たった一度、触れただけ
一瞬だけ‥重なった。
_
:10/02/01 17:30 :D905i :CnOOZU0s
#295 [笹]
:10/02/01 17:33 :D905i :CnOOZU0s
#296 [我輩は匿名である]
:10/02/01 21:28 :W53H :G6YaoaOg
#297 [笹]
"立てば芍薬、座れば牡丹、
歩く姿は百合の花"
そんな言葉がありますが
そんなに美しい女性って
実際にいるのかな?
壱助さんは
出会ったことあるんだって
今日はそんな壱助さんの
少し昔のお話です。
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#298 [笹]
:
:
:
色がましい声で溢れる此処に
そんな声が一切聞こえない部屋
「また、来やしたぜ?」
毎日のように通いつめるのは
此処目的ではない
「また来たのかい
‥懲りない男だねぇ」
:10/02/01 22:32 :D905i :CnOOZU0s
#299 [笹]
目的はこの遊女
容姿端麗
性格も気は強いが悪くはない
「まぁ、まぁ」
決まって距離を少しばかり取って
隣で足を崩す
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#300 [笹]
新しい着物だとか簪だとか
そんなことを言えば
"よく見てるねぇ"と
呆れ顔で笑顔を向ける
真っ白な首筋にある小さな黒子
彼女は好きじゃないと言う
‥私はそうは思わないのですが
:10/02/01 22:33 :D905i :CnOOZU0s
#301 [笹]
「あんた位だよぉ?
此処へ来て手を出さないの」
「ほぉう‥そりゃあいい」
「金払ってるんだから
何したっていいんだのに‥」
"好き者だねぇ"と酒を差し出す
:10/02/01 22:34 :D905i :CnOOZU0s
#302 [笹]
「他の輩と‥
一緒にされちゃあ、困りやすから」
他に理由があると言えば
ないとは言い切れません、ね
好きな女にゃ、
金払って手を出す気はないんでね
:10/02/01 22:35 :D905i :CnOOZU0s
#303 [笹]
「全く‥馬鹿な人」
赤い紅を緩ませて
本当はあどけなさが残る
白いお粉で顔を隠して
金で買われる惨めな女
「あたしが抱いてと言っても
抱かないのかい?」
少し不安そうに顔を覗き込む
そんな顔して
‥何を求めてるんで?
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#304 [笹]
「"外"に出たら‥いくらでも」
「それなら、あんたのは
一生お目にかかれないねぇ」
嫌味ったらしく
目を細めて呟いた
ほう‥貴女も好き者です、か
:10/02/01 22:36 :D905i :CnOOZU0s
#305 [笹]
「まだ返し終わりません、か」
心配そうに見つめれば
"一生だよ"と言う
この遊女には莫大の借金がある
自殺した父親の残したものだ
それを返すために
此処で体を売っていると言う
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#306 [笹]
「一生売ってもね、
終わらないんだよ、好き者さん」
煙管を吹かして
煙を宙に漂わせる
それをぼうっと眺めて
消えるのを見送っていた
:10/02/01 22:37 :D905i :CnOOZU0s
#307 [笹]
「‥体に悪いですぜ?」
「知ってるさ、
これで死ねるなら‥死にたいよ」
馬鹿なことを言う人です、よ
「‥金なら、私が代わりに‥」
すると大口を開けて笑った
他の女なら下品な姿だ
:10/02/01 22:38 :D905i :CnOOZU0s
#308 [笹]
「お節介は、よしとくれよ
あんたにゃ関係ないだろう?」
曇った目の奥が
叫んでいるじゃあ、ないですか
"助けてくれ"と
言ってるっというのに
全く遊女は、演技が上手い
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#309 [笹]
「‥好き者さん?」
最期だと甘えます、か
「壱助と、申しまして」
少し躊躇いやしたか
所詮私は貴女の"顧客"
:10/02/01 22:39 :D905i :CnOOZU0s
#310 [笹]
「壱助さん‥抱いとくれよ」
真っ白な華奢な肩
何人がそこに触れましたか
‥私は、何人目で?
「此処では‥控えます、よ」
此を嫉妬と言うならば
‥受け入れ、ましょうか。
:10/02/01 22:40 :D905i :CnOOZU0s
#311 [笹]
「‥汚いからかい?」
「いえ、」
「‥最期に、
あんたに抱かれたいんだよ」
「今日は、これで‥」
あぁ‥貴女と言う人は
私の気持ちを知ってるくせに‥
涙に弱いと知ってお出でで?
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#312 [笹]
「嫌なんだよ‥
一度でいい‥壱助さん」
やっと子供らしくなって
大きな雫をこぼして
"最期"などと言いますか
「‥もう大人でしょうに、
みっともない、ですよ」
:10/02/01 22:41 :D905i :CnOOZU0s
#313 [笹]
力なく抱き締めると
しがみつくように
着物に爪を立ててただをこねる
「馬鹿です、ね‥全く」
軽く口元に口づけた
:10/02/01 22:42 :D905i :CnOOZU0s
#314 [笹]
色がましい声に埋もれて
聞こえる泣き口説く声
背中に訴える枯れた声
貴女を愛した男は
酷く我が儘で
貴女が愛したであろう男は
‥酷く情けなかった
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#315 [笹]
―‥"籠の鳥"
振り返った時には
何も掴めなかった無力の掌と
煙管と白い着物に染み付いた
美しすぎて恐ろしい赤い花
こんなにも‥
お慕い申し上げていたのに、と
嘆いたって宙に浮いて消えるだけ
:10/02/01 22:43 :D905i :CnOOZU0s
#316 [笹]
:
:
「立てば芍薬、座れば牡丹
‥歩く姿は何とやら」
月光に浮かぶ
目の前の小娘を‥
「うぅ‥壱、助さん」
また愛そうなんて、
「‥程遠い、か」
嗚呼‥わからない男です、よ
:10/02/01 22:44 :D905i :CnOOZU0s
#317 [笹]
:10/02/01 22:48 :D905i :CnOOZU0s
#318 [笹]
消毒だと言っているのに‥
"顔に紅葉を散らす"訳を
教えていただけや、しやせんか
:10/02/02 22:52 :D905i :0yxagqRA
#319 [笹]
:
:
:
「ただいまぁー」
たった五日で
お茶の葉一缶終わっちゃうって
‥飲みすぎでしょうよ
だから今日は
三つも買ってきちゃったっ
安くしてもらえたし
んー‥得した気分
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#320 [笹]
これで半月はもつよね
って言っても‥半月だけ
「壱助さーん!!
買ってきましたよーお茶の葉」
「‥」
‥無視ですか。
せっかく買ってきてあげたのにぃ
:10/02/02 22:53 :D905i :0yxagqRA
#321 [笹]
「‥返事くらいしてくださいよぉ」
ぷぅっと頬を膨らませて
横になってる背中に訴えた
‥チュンチュン
何も音がしない
静かな日だなぁー
:10/02/02 22:54 :D905i :0yxagqRA
#322 [笹]
窓の外をじっと眺めて
葉から落ちる雫を目で追った
‥チュンチュン
‥チュンチュン
「‥もっしっかっしってぇ」
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#323 [笹]
不思議と緩む頬
着物をきっちり整えたまま
左腕を枕にして
横になってる壱助さんに
そろりと近づいた
「‥寝てる?」
‥って言うか、生きてる?
死んでる?って
不安になる程微動だにしなくて
また肌が白いから余計‥。
:10/02/02 22:55 :D905i :0yxagqRA
#324 [笹]
「おーい」
目の前で手を振ってみたり
いろんな角度から覗いてみたり
‥どの角度から見ても
綺麗だよねぇ、と感心。
「‥ふふ」
怪しい笑みを浮かべる
壱助さんの寝顔なんて
‥初めてみた。
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#325 [笹]
‥いつも寝てるのかなぁ
あたしが出かけてる時
こうして、寝溜めしてるのかな
伸びきった首筋
伏せられた長い睫
筋の通った鼻
腰の辺りなんてあたしより‥
「‥きれいですねぇ、本当に」
全く抜け目がないから
憎たらしくなる
:10/02/02 22:56 :D905i :0yxagqRA
#326 [笹]
壱助さんの横に寝転がって
ふうっと息を吐く
天井を眺めて
独特の自然の模様を
ぼうっと目に映してみた
よく耳をそばだてると
微かに壱助さんの寝息が
耳をくすぐった
乱れない規則正しい呼吸
:10/02/02 22:57 :D905i :0yxagqRA
#327 [笹]
「‥消毒」
ふと横に顔を向けると
色っぽい唇に目が行く
消毒‥消毒かぁ
本当に触れただけだったけど
柔らかかったなぁ‥
しかも、あったかかった
「‥むふっ」
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#328 [笹]
思わずにやけてしまうほど
あの一瞬は
あたしの脳内を満たして
甘ったるい時間をくれた
「"消毒です、よ"なぁんて‥
そんな消毒がありますかぁ?」
人形のように固まった頬に
語りかける
もちろん返事はない
:10/02/02 22:58 :D905i :0yxagqRA
#329 [笹]
なんとなく
あの簡素な返事が恋しくなる
無関心そうな声も
あるとないとじゃ大違いだ
「‥壱助さん?
拾ってくれて、ありがとお」
面と向かって
言えた試しがないから‥
こんな時に言ってみるのは
ずるいかな、
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#330 [笹]
こんなに誰かの隣が
居心地いいなんて‥
知らなかったなぁ
‥生きてて良かった。
:10/02/02 22:59 :D905i :0yxagqRA
#331 [笹]
:
:
「風邪‥引きます、よ」
目を開けると
目の前で小さく丸まる猫一匹
羽織物をかけてやると
微かに声を立てた
『‥拾ってくれて、ありがとお』
‥珍しく素直になるもんで、
起きているとも気付かずに
‥本当に鈍いです、ね
:10/02/02 23:00 :D905i :0yxagqRA
#332 [笹]
寝ている時だけは大人しい
子供同然じゃあ、ないですか
目を細めて前髪をそっと撫でた
するすると指の隙間を抜ける
細くて艶のある具合が
何とも垢抜けていて
子供だと言えないほどに美しい
:10/02/02 23:01 :D905i :0yxagqRA
#333 [笹]
「ちょいと‥
無防備すぎやしやせん、か」
裾の辺りが少しはだけて
女らしい脚が見える
小さく開いた手に指を添えれば
赤ん坊のように
ぎゅっと握りしめられた
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#334 [笹]
「本当に‥放っておけやしない」
呆れるように溜め息をつき
緩く笑った
:10/02/02 23:02 :D905i :0yxagqRA
#335 [笹]
:
:
:
あぁ‥寝ちゃった。
壱助さんが起きたら
"寝顔見ちゃったぁーっ"って
からかってやりたかったのに
まぁそんなの
‥からかいの内に
入らないんだろうけど
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#336 [笹]
「‥んん」
乱暴に目をこすると
辺りがぼやけて見えた
その時の顔と言ったら
相当酷かったに違いない
「あ‥壱助さん、起きてる」
あたしが買ってきた
新しいお茶の缶が開けられていた
:10/02/02 23:03 :D905i :0yxagqRA
#337 [笹]
いつものように
正座してお茶を啜る姿を見て
夢でないと確信する
「あぁ、やっと」
顔をちらりとも向けず
そう言った
自分にかけてあった
壱助さん香りがする羽織物
‥何だかいい目覚め
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#338 [笹]
「夢でも見ました、か」
「夢‥?」
夢なんて見たかな‥
覚えてないや
すると壱助さんは
顔だけこちらに向けて
視線を落とした
:10/02/02 23:04 :D905i :0yxagqRA
#339 [笹]
「"壱助さん、
お慕い申し上げておりました"と
寝言で、言っていたもので‥」
一度瞬きをして
一気に顔に熱が走ったのは
言うまでもない。
"鈍い人です、ね"と
壱助はまた茶を啜った
:10/02/02 23:05 :D905i :0yxagqRA
#340 [笹]
:10/02/02 23:08 :D905i :0yxagqRA
#341 [我輩は匿名である]
:10/02/03 19:07 :W53H :IjHWvVJs
#342 [笹]
鈍い上に‥
喜怒哀楽が激しい、ときた
この上なく‥厄介です、ね
‥まだまだ
子供じゃあ、ないですか
"かわいさ余って憎さ百倍"
そんな言葉がありますが
‥この憎たらしさは、どうだか
:10/02/03 21:25 :D905i :s1isUj7A
#343 [笹]
「どうして‥
あんな事したんですか!?」
「大したこと‥
ないじゃあないです、か」
「大した事ない?
鼻血でちゃったんですよ?!
血ですよ?血!血!血ーっ!」
「鼻血くらい
貴女も、出るでしょう」
「それとこれとは別です!!」
「ほう‥、全く鈍い人だ」
:10/02/03 21:25 :D905i :s1isUj7A
#344 [笹]
:
:
:
「伊代さん!!
どう思いますかぁ?!」
せっせと他の客に
団子やらお茶やら運ぶ
女将に訴えた
「んー‥そうだねぇ、
‥はい、団子お待ちーっ」
:10/02/03 21:26 :D905i :s1isUj7A
#345 [笹]
眉間に深くシワを寄せて
ぷうっと頬を膨らます
香夜は物凄い形相で団子を喰らい
一席空けた横に座る
壱助を睨みつけた
「またお茶ですかぁ?
体緑色になっちゃいますよ」
低い声を横に向けて放つ
しかし変わらぬ壱助の表情
:10/02/03 21:26 :D905i :s1isUj7A
#346 [笹]
「‥五月蝿い猫です、ね」
茶を啜って
"やれ、やれ"と軽くあしらった
「んもーっ!!いらいらするぅ」
キーっと頭をかきむしり
落ち着かない香夜の前に
仕事が落ち着いた伊代が座る
「全く、何したってんだぁい?」
:10/02/03 21:27 :D905i :s1isUj7A
#347 [笹]
はぁとため息を付いて
壱助に視線を落とす伊代
「ちょいと、
わからせてやっただけ、ですよ」
「‥何をだい?」
「壱助さん、人殴ったんです!!」
:10/02/03 21:28 :D905i :s1isUj7A
#348 [笹]
:
:
珍しく壱助さんが
買い出しに付いて来てくれた今朝
だけどちょっと
ご機嫌斜めなようで
野良猫にキッと睨みをきかせ
下駄を乱暴に鳴らしてた
:10/02/03 21:28 :D905i :s1isUj7A
#349 [笹]
「あ‥壱助さん
鯛焼き食べましょうよーっ」
「‥甘味は好みやせん」
「美味しいのにー‥」
「食べたら良いじゃあ、ないですか」
そう言われたから
買いに行ったんです。
買いに行っただけ!ですよ?
それなのに‥
:10/02/03 21:29 :D905i :s1isUj7A
#350 [笹]
「鯛焼き一つくださぁーい」
「毎度ありーっ!!
おや、お嬢ちゃん‥
別嬪さんだねぇ」
鯛焼きを売ってたのは
お兄さんって感じの若い人
威勢がよくて粋な感じ
:10/02/03 21:29 :D905i :s1isUj7A
#351 [笹]
「へ?
や、やだなぁーお兄さんっ
そんなお世辞言っても
一つしか買いませんよー?」
とか言いながら
やっぱり内心嬉しくて
顔を赤く染めてしまったんです
「手厳しいなぁー
‥今夜、どうだい?」
まさか鯛焼き屋さんから
そんな言葉でるとは
思いもしないじゃない?
:10/02/03 21:30 :D905i :s1isUj7A
#352 [笹]
だから驚いて
ついついどもってしまって‥
「おや、
照れた顔もかわいいねぇ」
なんて言われて
"あいよ"って鯛焼きを
わざわざこちら側にきて
渡してくれたわけです
「あ、ありがとうございます」
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#353 [笹]
突然背筋が凍りついた
後ろから殺気
カラン‥コロン
壱助さんの下駄の音が
だんだんと大きくなる
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#354 [笹]
「あぁ、では‥こっこれで」
「ちょいと、お話くらい‥」
鯛焼き屋さんに
腕を掴まれ引き寄せられた
カラン‥コロン
来る‥来るよぉーっ
鯛焼き屋さん離れてくださ‥
:10/02/03 21:31 :D905i :s1isUj7A
#355 [笹]
「‥鯛焼き屋さん、とやら」
低い声がこちらに向かって
刃を剥いた
「んあ?何だぁ?あんた」
たたたたっ鯛焼き屋さん!!
壱助さんに何て口のきき方っ
:10/02/03 21:32 :D905i :s1isUj7A
#356 [笹]
壱助さんの切れ長の目が
鯛焼き屋さんを捕らえた
「私の妻に‥
触れないで、いただきたい」
あたしを捕らえた手がぱっと離れ
鯛焼き屋さんの目が開ききり
口がだらしなく開いていた
「つつ‥妻?!
そりゃあ‥失敬し‥」
:10/02/03 21:33 :D905i :s1isUj7A
#357 [笹]
―‥ドカッ
壱助さんの拳が
勢いよく鯛焼き屋さんの
顔面に吹っ飛んできた
あたしの足元に倒れ込んだ
彼の鼻から垂れる赤い血
有 り 得 な い !!
:10/02/03 21:34 :D905i :s1isUj7A
#358 [笹]
「壱助さん何てこと‥
‥大丈夫ですか?」
"悪いのは俺の方だ"と
軽く笑って謝る鯛焼き屋さん
「壱助さん!!謝って下さい」
正反対にしれっとした顔で
そんな様子も見せない壱助さん
と言うか
まだいらいらしてる模様
眉間にしわが寄っていた
‥人に当たるなんて酷い
:10/02/03 21:34 :D905i :s1isUj7A
#359 [笹]
:
:
:
結局壱助さんは謝らず
あたしが代わりに謝って
鯛焼きをたくさん買って今
「ねぇ?伊代さん
あたし間違ってないですよね?!」
事情を話せばぶり返す熱
自然と声量も大きくなる
「まぁ、いきなり殴るのは
良くないねぇ‥」
呆れ顔で伊代が壱助を見つめる
:10/02/03 21:35 :D905i :s1isUj7A
#360 [笹]
「‥わからない人です、ね」
「ただ手を握っただけでしょう?
それだけで殴るなんて‥酷い!!」
明らかな温度差に
伊代はくすりと笑った
「手をあげるのは良くないけど‥
全く、わかりやすいねぇあんた」
:10/02/03 21:36 :D905i :s1isUj7A
#361 [笹]
「‥」
「香夜ちゃんも、
わかってやんなよぅ?」
わかってやれって‥
人を殴る気持ちなんて
あたしにはわかんないよ
何だか突然泣きたくなった
:10/02/03 21:36 :D905i :s1isUj7A
#362 [笹]
「妻に手出されちゃ‥
誰だって‥ねぇ?」
伊代が目で壱助に訴えると
"全くです、よ"と茶を啜る
そんなのはもう
耳に入らないくらい香夜はご立腹
:10/02/03 21:37 :D905i :s1isUj7A
#363 [笹]
「こりゃあ‥手強いです、ね」
涙目で伊代に訴える香夜を
横目で見つめて呟いた
「"妻"と言う言葉も
ご存知ないんですか、ね」
‥ぽつり呟き微笑んだ
:10/02/03 21:38 :D905i :s1isUj7A
#364 [笹]
:10/02/03 21:41 :D905i :s1isUj7A
#365 [我輩は匿名である]
:10/02/04 08:23 :W53H :1leDQ1V.
#366 [笹]
私の飼い猫は、
幼い頃に親の愛情を
あまり受けてないようで‥
そうとなれば、親代わり
"蝶よ花よ"と育てましょう、か
:10/02/04 19:11 :D905i :5gVCO4/Q
#367 [笹]
:
:
:
またお茶の葉がなくなり
また買い出し
半月もたなかった‥有り得ない
壱助さんを連れてくると
喧嘩の原因になりかねないので
今日はひとりです。
:10/02/04 19:12 :D905i :5gVCO4/Q
#368 [笹]
「‥。」
一枚のチラシが
お茶屋さんの壁に貼ってあった
ぴらぴらと風になびいて
音をたててるもんだから
ついつい目が行った
「‥わぁ」
胸を時めかせた
:10/02/04 19:12 :D905i :5gVCO4/Q
#369 [笹]
:
:
:
「壱助さぁぁああん!!!」
子供みたいに駆け寄って
息を切らせて叫ぶ
「何、か」
珍しくお茶飲んでない‥
って、もう無いんだった
ぼうっと窓の外を眺めて
枝に止まる雀を
愛おしそうに見つめてる
:10/02/04 19:13 :D905i :5gVCO4/Q
#370 [笹]
‥お茶なくても
機嫌良いときあるんだぁ
新しい発見である。
「壱助さん!!今日の夜お祭り!!」
そう
あのチラシは夏祭りの物で
心惹かれたの
:10/02/04 19:13 :D905i :5gVCO4/Q
#371 [笹]
だって小さな時に
数回しか行ったことないんだもん
‥水飴とか食べたいし
「それが何、か」
早く茶を渡せと言わんばかりに
湯飲みをカタカタ鳴らす
‥依存症ですかあなた
:10/02/04 19:14 :D905i :5gVCO4/Q
#372 [笹]
「一緒に行きましょうよーっ!!」
人が勇気出して誘ってるのに
"何、故"と言う
乙女心わかれーっ!!もうっ
「‥水飴食べたいんですぅ」
やっぱり今日は
ご機嫌がよろしいらしい壱助さん
「ほぉう‥よし、よし」
睫を伏せて口角を上げ
一度だけ頷いた
:10/02/04 19:15 :D905i :5gVCO4/Q
#373 [笹]
:
:
「壱助さん早くぅっ!!」
浴衣の袖をひらひらさせて
下駄が忙しなく踊る
「まぁ、まぁ」
と言って出てきた壱助さんは
目眩がするほど美しすぎた
緩く着こなした浴衣
懐から見える白い肌の面積が
いつもより確実に多い
:10/02/04 19:16 :D905i :5gVCO4/Q
#374 [笹]
こりゃあ‥
落ち着いてあるけない‥
いかんいかん!!
しっかりしろ香夜!!
「水飴は逃げやしやせん、よ」
‥それでもって
今日はかなり穏やかだから
少し調子が狂います
:10/02/04 19:16 :D905i :5gVCO4/Q
#375 [笹]
壱助さんの一歩後ろを歩く
‥いい匂いがする。
提灯のぼんやりした明かりが
壱助さんの首筋を照らして
この世の物とは思えないくらい
本当に綺麗で‥
やっぱり女なんじゃないかとか
疑ってしまう
:10/02/04 19:18 :D905i :5gVCO4/Q
#376 [笹]
お昼の街の賑わいとは
また違う雰囲気で
家族連れや恋仲の人達が
たくさんいた
周りの人たちに
あたしと壱助さんは
‥どう映ってるんだろう
一歩の距離がもどかしくなる
:10/02/04 19:18 :D905i :5gVCO4/Q
#377 [笹]
:
:
「お父さん!!金魚すくい!!」
小さな女の子が
父親の浴衣の袖を引っ張った
「おぉ!懐かしいなぁ
やってみるかい?」
目線を合わせて小さく屈んで
答えた笑顔が羨ましい
思わず足が止まった
お父さん‥か
:10/02/04 19:19 :D905i :5gVCO4/Q
#378 [笹]
‥ギュウ
突然手に冷たい感覚
目をやれば真っ白で綺麗な手
「金魚すくい‥やりたい、かい」
視線を前に向けたまま
壱助さんがそう言った
「‥え?」
今日の壱助さんは
やっぱりどこか可笑しい
:10/02/04 19:19 :D905i :5gVCO4/Q
#379 [笹]
きっとこの握った手も
ぎこちない喋り方も
壱助さんなりの気配りだ
‥何となくそんな気がした
何も言わずに
あたしの答えを待つ
器用そうに見えて
案外不器用なのかもな‥
今日二つめの新しい発見
:10/02/04 19:20 :D905i :5gVCO4/Q
#380 [笹]
:
:
結局金魚すくいやって
やっぱり壱助さん器用で
ひょいひょいすくうもんだから
叔父さんも困り顔
言うまでもなくあたしは
一匹もすくえず‥。
と言うか正直な所
壱助さんの横顔に見とれてた
睫‥また伸びてた気がしました。
:10/02/04 19:21 :D905i :5gVCO4/Q
#381 [笹]
"猫のくせに、
魚一匹も捕まえられぬとは‥
‥やれ、やれ"
クスっと鼻であしらわれ
いつもの調子の壱助さんに
少し緊張がほぐれた
:10/02/04 19:21 :D905i :5gVCO4/Q
#382 [笹]
:
:
:
「あ!水飴だよ壱助さん!」
まるで子供なのだ
壱助さんの手を引いて
人混みを掻き分けて先走る
だけどそれでも構わない
だって水飴なんて久しぶりよ!!
「はい、はい」
水飴を手にしたあたしに
呆れるように返事をした
:10/02/04 19:22 :D905i :5gVCO4/Q
#383 [笹]
水飴をびろんと伸ばして
目を輝かせて巻き取る
キラキラ光るそれを
目を細めて眺める壱助さんと
自然と目があった
「‥食べますか?」
「甘味は‥好みません、で」
あぁそうだったと
気落ちするあたしの手を
また引いて歩く
:10/02/04 19:22 :D905i :5gVCO4/Q
#384 [笹]
親子みたいかな?
それとも恋仲同士?
‥何でもいいのだ
ただ今の時間が心地いいの
:10/02/04 19:23 :D905i :5gVCO4/Q
#385 [笹]
:
:
人が疎らになり
明かりもあまり届かない土手へ
蒸し暑かった人混みで
じわりと汗をかいた背中に
ひんやりした心地いい風が吹く
水飴を銜えて
浴衣を気にしながら腰掛けた
:10/02/04 19:23 :D905i :5gVCO4/Q
#386 [笹]
「壱助さんって‥」
あたしの口は
急に語り出すから冷や汗物
"愛する人いますか?"なんて
聞こうとするのだから
‥本当に恐ろしい
:10/02/04 19:24 :D905i :5gVCO4/Q
#387 [笹]
「人混みは疲れます、ね」
「え?あぁ‥
そ‥そうですねぇーあはは」
壱助さんの声が
久しぶりにはっきり聞こえたから
何だか、どきっとした
:10/02/04 19:25 :D905i :5gVCO4/Q
#388 [笹]
「‥満足ですかい?」
水飴を頬張るあたしを見つめて
壱助さんが呟いた
いやもう
壱助さんの浴衣姿だけで満足‥
なんて言えませんよ。ええ
:10/02/04 19:26 :D905i :5gVCO4/Q
#389 [笹]
「はいっ!!
ありがとうございまし‥」
あれ‥?
突然目の前がひっくり返る
微かに首筋に感じる温もり
:10/02/04 19:26 :D905i :5gVCO4/Q
#390 [笹]
「いぃいっ壱助さん?!」
暗くてよかった‥
絶対今あたし顔赤いよ‥
「たまには、
いいじゃあ‥ないです、か」
甘い声が耳をくすぐる
:10/02/04 19:27 :D905i :5gVCO4/Q
#391 [笹]
手を引き寄せられて
壱助さんの膝を
枕にしてしまったあたし
それだけで心臓が壊れそうなのに
華奢で大きな手が
ふわっとあたしの髪を撫でて
もう‥香夜は死にそうですよ
:10/02/04 19:28 :D905i :5gVCO4/Q
#392 [笹]
「‥香夜さん」
優しく頬を撫でて
ねぇ‥壱助さん
:10/02/04 19:28 :D905i :5gVCO4/Q
#393 [笹]
「―――――‥、」
"あたしもです"と囁いた。
:10/02/04 19:29 :D905i :5gVCO4/Q
#394 [笹]
:10/02/04 19:33 :D905i :5gVCO4/Q
#395 [我輩は匿名である]
:10/02/05 12:42 :W53H :QBCwpTC2
#396 [笹]
最近、猫は‥危なっかしい
"親"としての責任が
問われます故‥
そこら寄り付く輩を
‥退治せねばぁ、なりませんで
"親の意見と茄子の花は
千に一つも仇はない"
:10/02/05 22:14 :D905i :mdMMDFsU
#397 [笹]
―‥鬼も風邪を引くらしい。
また新しい発見である。
と言うわけで
漢方薬でも買ってこようと
また街に出たのです
やっと此処にも馴れてきて
顔も覚えてもらえるようになった
:10/02/05 22:17 :D905i :mdMMDFsU
#398 [笹]
「‥さて、そろそろ戻らなきゃ
壱助さんに‥。」
いつだって死と隣り合わせ
壱助さんは殺しはしないって
言ってはいるけど‥
「爪の間に針を‥」
考えるだけで心臓が痛みますよ
:10/02/05 22:18 :D905i :mdMMDFsU
#399 [笹]
ふうっと深く息を付いて
足早に宿に戻ろうとした
‥足が動かない、あれ?
足がずしりと重い
もしかして死神?迎えに?
:10/02/05 22:18 :D905i :mdMMDFsU
#400 [笹]
思わず引きつる顔を
恐る恐る下に向けると
「‥え?」
そこにはあたしの着物に
ぎゅっとしがみつく子供
着物に顔を埋めたまま離さない
あたし‥子供産んだかしら
なーんて訳の分からんことを
真剣に考えてしまう
:10/02/05 22:19 :D905i :mdMMDFsU
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