浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#559 [笹]
貴女がそうしたいと言うならば
私は何も言いません、よ
"去るもの追わず"
:10/02/14 01:33 :D905i :AHFqEp8k
#560 [笹]
「‥」
あの日から
口数が確実に減った
何を考えているのか‥
正座したまま虚ろな目
「どうか‥しました、か」
「‥いえ、別に」
不思議なほど此の調子
此方の調子が狂います、よ
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#561 [笹]
夜になれば寝付きもせず
声を殺して泣く、ときた
‥どうしたもんか、ねぇ
「‥壱助さん」
畳に話しかけて‥
私は此方なのですが
:10/02/14 01:34 :D905i :AHFqEp8k
#562 [笹]
「何、か」
「壱助さんは‥」
言葉が途切れた
いや‥躊躇っているのでしょう
小さく喉が動いた
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#563 [笹]
「壱助さんは‥本当にあたしと
ずっと一緒に?」
「居ます、よ」
嫌だとでも言いますかい?
去る者は追わぬ主義ですが‥
「恋仲の人が出来たら‥
あたし、邪魔ですよね?」
:10/02/14 01:35 :D905i :AHFqEp8k
#564 [笹]
そんな事で‥
今まで泣いてたの、か
全く‥貴女と言う人は
「ほう‥」
「あたしなんかと居たら
一生結婚できませんよ?
壱助さん‥絶対いい人に‥」
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#565 [笹]
「其れならば‥去る、と?」
「‥んう」
下を向いて肩を震わせる
本当に意地が悪い奴です
貴女を何処までも困らせたい
:10/02/14 01:36 :D905i :AHFqEp8k
#566 [笹]
「香夜さん次第です、よ」
「‥足手纏いな気がして」
悩みなど無さそうな顔を
している人ほど
押し潰されそうになっている
‥そんな物です
:10/02/14 01:37 :D905i :AHFqEp8k
#567 [笹]
「あたし、どじだし‥五月蠅いし
色気もないし、使えないし‥」
自分を何だとお思いで?
ちょいと安く見積もりすぎでは‥
「どう‥したいんで?」
貴女は私を苦しめる
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#568 [笹]
「‥」
何処までも、何処までも
「答えられぬと言うなら‥」
「一日‥時間を下さい」
お考えになろうと‥いうこと、か
別れもそう遠くはない、と
:10/02/14 01:38 :D905i :AHFqEp8k
#569 [笹]
:
:
背を向けて眠りにつく
香夜さんが悩んでいる事は
正直言えば下らない
無駄な心配でしかない
しかし貴女にとっては
大問題なのでしょう
‥本当に鈍い人だ
だから放って置けないと言うのに
:10/02/14 01:39 :D905i :AHFqEp8k
#570 [笹]
後ろの気配が息を潜めて
ゆっくりと布団から抜け出した
小さく鼻を啜り
着物がはらりと脱げる音
帯をきっちりしめて
‥音が止まる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#571 [笹]
闇に包まれて
何も見えないはずなのに
何故でしょう、ね
貴女の泣き顔が目に浮かぶ‥
"行くな"と声をかける事も
抱き寄せる事も
肝心な時に限ってできずに
体が動かなくなる
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#572 [笹]
私は、
何に躊躇っているのでしょう、ね
―‥ 足音が消えた
:10/02/14 01:40 :D905i :AHFqEp8k
#573 [笹]
:
:
一睡もできずに
唯ぼうっと
月明かりが照らす畳の網目を
雑に何度も目で追った
重い体を起こし
消えた隣の温もりに
そっと手を添える
「‥馬鹿です、ね」
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#574 [笹]
枕元に置き手紙
『最後の挨拶くらい
しっかりしたかったのですが
壱助さんの顔を見たら
辛くなると思ったので‥
どうか、お許し下さい。
本当にお世話になりました』
綺麗に整った文字が
一カ所滲んでいた
:10/02/14 01:41 :D905i :AHFqEp8k
#575 [笹]
「もうだいぶ
連れ添ったと言うのに‥
淡泊な別れです、ね‥香夜さん」
目を細めて
ぼやけた文字を撫でた
:10/02/14 01:42 :D905i :AHFqEp8k
#576 [笹]
本当に意地っ張りな人だ
最後の最後まで
香夜さん‥
貴女は貴女でした、ね
_
:10/02/14 01:43 :D905i :AHFqEp8k
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