浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#472 [笹]
時には
究極の選択が迫られることが
誰にでもあるもの、です
自分の無力さに
酷く腹が立つ‥こともある
"断腸の思い"で
時に人は物事を切り捨て
生きていかなければならない
それが‥人生と言うものです、よ
:10/02/08 20:12 :D905i :hMEINdHE
#473 [笹]
:
:
「雨なんて珍しいですよね」
ザァ―‥
今日は珍しく
此の街に雨が降った
濡れた地面の独特の匂いが
鼻の奥をくすぐる
真っ赤な番傘から落ちる
雨滴に睫を濡らした
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#474 [笹]
「‥あたしも入れてください」
「何、故」
もちろんあたしは
傘なんて持っていなくて
壱助さんの傘の中に
一緒に入れてもらうつもりで
今日は街に出た
だけどやっぱり
そううまくは行かないもの
:10/02/08 20:13 :D905i :hMEINdHE
#475 [笹]
「濡れちゃうぅ‥」
ぐいぐい無理やり
頭を突っ込んでみても
大きな手で押し出される
「ちょっとくらい
いいじゃないですかぁっ!」
ぷうと頬を膨らませても
「ね?壱助さぁあん、うふん」
ない色気を絞り出しても
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#476 [笹]
「濡れたくらいで死ぬほど
‥か弱くないでしょう、貴女」
‥無駄ですか。
横目でぼそり呟かれた
これが図星だから辛い
:10/02/08 20:14 :D905i :hMEINdHE
#477 [笹]
「高い着物ですから‥
汚されては困りやすから、ね」
そう言って
傘を少しこちらに傾けた
「やっぱり壱助さんって
案外優しいですよねっ」
「‥水溜まりにその顔、
突っ込まれたいんですかい?」
「いや‥結構です!!!」
壱助さんは
褒められるのが嫌いだそうです
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#478 [笹]
:
:
雨となると
いつもの街もどこか寂しい
賑わいは雨音に変わる
「壱助さん、鯛焼き食べたーい」
「‥」
壱助さんの足が急に止まる
濡れぬように
慌てて傘の中に戻った
「どうしたんですか?」
:10/02/08 20:15 :D905i :hMEINdHE
#479 [笹]
壱助さんの視線の先には
小さな竹薮
薄暗くて気味が悪い
「‥血腥い」
「え?」
壱助さんは顔をしかめて
そこから目を離さない
雨音と竹のきしむ音の向こうに
聞こえたのは生々しく鈍い音
荒れ狂った女の声
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#480 [笹]
「どうしてお前はいつもいつも!!」
バシンッバシンッ
「言うことが聞けないんだい!」
ドガッ
「この役立たず!!」
「‥ッゲホッ、かぁさ‥ん」
「お前なんかねぇ‥お前なんか」
:10/02/08 20:16 :D905i :hMEINdHE
#481 [笹]
足が震えた
何とも言えない感情が
わぁっとこみ上げてくる
悔しさに唇を噛み締め
拳を握った
自然とそちらへ足が向かう
「香夜さん‥」
行くなと壱助さんが
あたしの着物の袖を引いた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#482 [笹]
「‥死んじゃうかもしれない」
そう言って振り払い
声のするほうへ足を進めた
:10/02/08 20:17 :D905i :hMEINdHE
#483 [笹]
:
:
そこには物凄い形相をした
母親らしき女の人と
この雨の中
裸でうずくまる少年
少年の体は
いたるところに痣ができ
歪に腫れ上がった跡や
刃物で切られたような
鋭い傷が無数にあった
母親に思い切りぶたれ
蹴飛ばされ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#484 [笹]
昔の自分と少年を重ねた
「‥やめ‥なさいよ」
憤りに得体の知れない
幼い頃の感情が湧き上がる
「お前なんか
生まれてこなければよかった!!」
ドガッ
「ごめ‥なさい、ゲホッ‥んぐ」
少年の口から吐き出された
真っ赤な血が雨に消える
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#485 [笹]
声を張ろうと
大きく息をすると
壱助さんがあたしの腕を掴んだ
「‥帰ります、よ」
「何言ってるんですか‥?
このままじゃあの子‥」
目の奥から今にも
熱いものが溢れそうで
今止めなかったら
この子は死ぬかもしれない
今あたしが助けなきゃ‥
:10/02/08 20:18 :D905i :hMEINdHE
#486 [笹]
「貴女に‥何ができるんで?」
いつになく真剣な眼差しが
訴えかける
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#487 [笹]
「何って‥
助けるんですあの子を!!」
手を振り払おうとしても
壱助さんの手は
掴んで離さなかった
ひどい‥壱助さん
「壱助さんにはわからないんです
親に暴力を振るわれて
黙って耐えて‥」
:10/02/08 20:19 :D905i :hMEINdHE
#488 [笹]
不安定な言葉を
無理に立て直しながら
何度も何度も振り払おうとした
「助けた所で‥
彼は、幸せになれますかい?」
悲しそうな壱助さんの目が
捕らえて離さない
幸せ‥?
幸せに決まってるじゃない
:10/02/08 20:20 :D905i :hMEINdHE
#489 [笹]
「彼を助けて、その後
貴女が養うとでも‥?」
「それは‥」
「見知らぬ土地に放されても
‥彼は死に至るでしょう。
貴女は、彼の家庭の事情を
全てご存知なんですかい?
彼はあんな母親でも、
慕っているかも‥しれない」
何も言い返せない自分に
腹が立った
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#490 [笹]
「中途半端に
情に流されて動いては‥
却って苦しめることになる。」
だけど‥だけど
あの子死んじゃうよ‥
「今此処で
あの母親に何か言えば
‥彼は本当に殺されます、よ」
うずくまる少年が
ちらりとこちらを向いた
:10/02/08 20:21 :D905i :hMEINdHE
#491 [笹]
助けを求めるでもない
憎しみも悲しみも
何も訴えてこない
曇った目をしていた。
恐怖をも覚えるほど
一番辛くさせる眼差しだった
:10/02/08 20:22 :D905i :hMEINdHE
#492 [笹]
:
:
‥雨は止まない
さっきの少年の目が
頭に焼き付いて離れない
あたしには
何もできないと言う悔しさ
一方的に押しつけてしまった
自分の感情。
もうわからないよ‥壱助さん
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#493 [笹]
「死んじゃったら‥
死んじゃったら‥どうしよう」
ぶわっと泣き出し
顔を両手でふさいだ
これは不安よりも恐怖で
自分の無力さへの
憤りでもあった
たくさんの思いが
複雑に絡みうめき
涙になって流れてゆく
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#494 [笹]
「香夜さん‥」
畳を擦ってこちらに寄り添い
後ろから優しく
壱助さんが抱きしめた
「‥あたし‥もう」
濡れた体を
優しく撫でるように
手拭いをあてがう
:10/02/08 20:23 :D905i :hMEINdHE
#495 [笹]
「もう、何も見なくていい‥
何も考えなくていいんです、よ」
いつもより暖かい
壱助さんの手が
あたしの目を覆った。
:10/02/08 20:24 :D905i :hMEINdHE
#496 [笹]
「何も‥。
しかし、あの目を
一生忘れてはいけません、ぜ
あの目を忘れた瞬間‥
貴女は彼を‥
見殺しにした事となる。」
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#497 [笹]
人は本当に無力で
結局は願うことしかできない。
そのもどかしさが
絡みついてうめき声を上げる
それでもこの願いが
少しでも、たった一瞬でも
誰かを救えると言うのなら
あたしは一生
願うことをやめないでしょう
:10/02/08 20:25 :D905i :hMEINdHE
#498 [笹]
―‥そして
"生きることを諦めない"と
心に誓うのです。
_
:10/02/08 20:26 :D905i :hMEINdHE
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