浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#46 [笹]
浮き世、とは
辛く儚い世の中の事‥。
‥誰にでも
思い出したくない過去は
あるもの、ですよ
威勢の良い、この"捨て猫"も
また‥然り。
:10/01/26 22:25 :D905i :3fGEyA9k
#47 [笹]
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:
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どうやって逃げ出そうか‥
取り敢えずここは宿みたい。
さっきの女の人は
ここの女将さんのようだ
壱助さん、とやらは
逃げようと企んでるのをわかって
あたしから目を逸らさないのか‥
:10/01/26 22:29 :D905i :3fGEyA9k
#48 [笹]
「何か‥変ですか?」
様子を伺うように
恐る恐る目を合わせてみる
「いえ‥、何も」
真っ直ぐに伸びた長い睫
綺麗な首筋、透き通った肌
見れば見るほど美しくて、
ただ見てるだけで
惚れてしまいそう‥。
:10/01/26 22:32 :D905i :3fGEyA9k
#49 [笹]
って、何考えてるのよ!!
はっと我に返って
"そうですか"とぶっきらぼうに
目を伏せながら呟いた。
「ただ‥」
あの綺麗な手が
今度はあたしの髪を撫でる
外がだんだんと橙色に染まる
窓からの光が
壱助さんの横顔を染める。
:10/01/26 22:38 :D905i :3fGEyA9k
#50 [笹]
綺麗な夕日色に
壱助さんの美しさが
何とも、ぴたりと合っていて
女のあたしが嫉妬しそうなほど
色っぽく映し出した。
"ただ‥"の後に続く言葉を
あたしは黙って待った
普段はせっかちだから
こんなことは‥有り得ないのに
:10/01/26 22:41 :D905i :3fGEyA9k
#51 [笹]
「可愛らしいな、と‥」
_
:10/01/26 22:42 :D905i :3fGEyA9k
#52 [笹]
いや、まさかと思った。
‥お世辞に違いないのだ
こんな美しい人に
"可愛らしい"なんて言われても
正直、嫌味にしか聞こえない
そんなことを言って
あたしが油断したすきに
"喰ってしまおう"とか、
きっと考えているんだ‥。
そう疑わなければ、
自分を見失ってしまいそうで
急に忙しくなった鼓動に
気づかぬ振りをする
:10/01/26 22:46 :D905i :3fGEyA9k
#53 [笹]
そんなあたしをよそに
クスッと鼻で笑って
ゆっくりと立ち上がった。
着物の裾や襟を整えて‥
「ちょいと、野暮用に」
畳が擦れる音
襖に手をかけゆっくり開ける音
ひとつひとつに
何故か奥ゆかしさを感じる
:10/01/26 22:50 :D905i :3fGEyA9k
#54 [笹]
「野暮用‥?今から?」
「まぁ、‥はい」
"此処から出ないで下さい、よ"
相変わらずの口調で
そう言い残して去っていった。
まだ少しだけ落ち着かない胸に
手を当てて深く息を吐いた
:10/01/26 22:53 :D905i :3fGEyA9k
#55 [笹]
畳の匂いが鼻の奥をくすぐる
こんなに安心して
畳の上に寝そべったのは
もう‥いつぶりだろう
ぼーっと天井を眺める
「あ‥今が狙い目‥だ」
:10/01/26 22:56 :D905i :3fGEyA9k
#56 [笹]
:
:
:
だけど頭をよぎるのは
壱助さんの言い付け。
会ったばかりの人の言い付けを
何故守ろうとするのか‥
逃げてしまえばこっちの物
「此処から出ないで下さい、よ」
口調を真似して呟いた
:10/01/26 22:59 :D905i :3fGEyA9k
#57 [笹]
何となく逃げられない気がした
逃げても捕まりそうな気がした
いや、
逃げたら捕まえてほしいのかも‥
わからない
大人なんて嫌いだ。
なのに‥誰かに心配されたい
誰かに求められたいと思う
:10/01/26 23:01 :D905i :3fGEyA9k
#58 [笹]
と、言うより
恐らく‥いや絶対
逃げたら‥
殺される気がしたのだ。
:10/01/26 23:03 :D905i :3fGEyA9k
#59 [笹]
死んでもいいと思ったくせに
死にたくないと今思うのは、
まだ人間らしい証拠なのかな‥
大の字になって
"所有物"は"所有物"なりに
いろいろと考えた
「‥はぁ」
ため息がいつの間にやら癖になった
:10/01/26 23:05 :D905i :3fGEyA9k
#60 [笹]
:
:
:
どれくらい経っただろう
急に寂しくなってきた‥。
『あんたのせいで‥!!』
独りになると、
『死んじまったじゃないか!!』
決まって甦る
『この人殺し!!化け物!!』
痛い思い出
:10/01/27 00:42 :D905i :.cEN1Iy.
#61 [笹]
もしもあの時‥
お父さんに助けを求めなかったら
『お父さん‥助けてぇ!!』
無事だったのかな。
『‥香夜!!』
あの時の‥
飛び散った父の生々しい血が
べたりと頬に付いたあの感触が
―‥未だに忘れられない
:10/01/27 00:48 :D905i :.cEN1Iy.
#62 [笹]
頬を伝う冷たいものを
恐る恐る手で拭い
涙だとわかって安堵した。
結局誰かに捕まるなら、
あの時連れ去られてしまえば
お父さんは生きていたのかも‥
「‥痛い、」
母親が残した体中の傷が疼いた
:10/01/27 00:54 :D905i :.cEN1Iy.
#63 [笹]
着物で隠せるのが唯一の幸い
背中だから、時々
寝返りをうつと痛むけど‥
ふぅっと息を吐いて
鏡越しに醜い背中を眺めた
‥痛々しい傷
爪を立てられたり
刃物を振り回されたり
今思えばあの時の母は、
何かに取り憑かれてたんじゃないかと疑ってしまうほどだ
:10/01/27 01:02 :D905i :.cEN1Iy.
#64 [笹]
「化け物は‥」
「母親の方‥ですか?」
振り返ると
いつ帰ってきたのか
‥壱助さんの姿が
足音くらい立ててよ‥
びっくりしたぁ
「お‥お帰りなさい」
「‥折角、良い隙をあげたのに」
:10/01/27 13:12 :D905i :.cEN1Iy.
#65 [笹]
壱助さん
あんた訳わかんないよ‥
捕まえて"所有物"だ"夫婦"だ
逃げられないと言っておきながら
あたしに逃げるための
時間を与えるなんて‥ねぇ。
「言い付けは守る主義ですから」
急いで腕を通した着物の胸元を
忙しなく直しながら言った
:10/01/27 13:15 :D905i :.cEN1Iy.
#66 [笹]
"それは、それは"と満足そうに
少し距離を置いて正座する、
壱助さんは無関心なのか
ただ口数が少ない方なのか
よくわからない
「勢いの良い、"猫娘"」
「へ?」
「かと、思いきや」
「や?」
「傷を負った"捨て猫"と、きた」
:10/01/27 13:21 :D905i :.cEN1Iy.
#67 [笹]
それでいて、
口を開いたかと思えば
訳のわからないことばかり
「‥何の話ですか?」
「幼き頃のその傷は、」
「だから何の‥」
「少々貴女には深すぎた」
「‥」
見透かされたのか、
独り言を聞かれたのか、
そんなことは気にならない
:10/01/27 13:25 :D905i :.cEN1Iy.
#68 [笹]
自然と口が開く
「でも、あたしには‥
この傷を背負う義務がある」
「義、務」
ぽつり、呟いた壱助さんの口が
少し歪んで見えた
「"生きたい"って思わなければ
何もかもが上手くいったんです。
あたしさえ犠牲になれば‥
死ななくて済んだ‥。」
情けない自分の声が憎らしい
:10/01/27 13:30 :D905i :.cEN1Iy.
#69 [笹]
「母を許そうとは思いません。
そこまで出来た人間ではないし
自分の事も‥許せないんです
だから‥仕方ない事です」
ぷつり、ぷつりと
出た言葉を紡ぎ合わせると
壱助さんは目を細めた。
:10/01/27 13:34 :D905i :.cEN1Iy.
#70 [笹]
「ほぅ‥興味深いです、ね」
本当に興味あるのかな‥
目をこちらに向けもせず
お茶を入れる姿は
どうも、そうは見えない‥。
「香夜さんが、助けを求めた時
代わりに父親が殺されると‥
予期していたなら、
貴女は確かに‥人殺しです」
胸が痛む。息が少し上がった
何故‥知ってるの?
:10/01/27 16:56 :D905i :.cEN1Iy.
#71 [笹]
「しかし‥その様なことは
貴女でなくても、考えませんぜ
よって、罪意識は無用です、よ」
わからない。
今まであんなに自分を攻めてきた
そう思って‥孤独に生きてきた
母の暴力にも耐えたのに‥
「貴女は、悪くない‥香夜さん」
:10/01/27 17:01 :D905i :.cEN1Iy.
#72 [笹]
いきなり救われてしまっても、
自分への対応の仕方がわからない
「忘れられない過去も、
思い出したくない過去も、
誰にでも有るじゃぁないですか
もっと‥肩の力、抜きましょう」
目の奥が痛いくらいに熱くなる
目の前の壱助さんが
‥一気にぼやけた
:10/01/27 17:06 :D905i :.cEN1Iy.
#73 [笹]
あぁ‥もう
人前で泣かないと決めたのに。
「一つだけ、忘れなければ‥」
懸命に涙を拭ってみても
指の隙間から溢れ出る
何が悲しいの‥?
何が辛いの‥?
どうして‥こんなに‥。
「父上に救われた、その命
無駄な物に‥してはいけない」
:10/01/27 17:11 :D905i :.cEN1Iy.
#74 [笹]
壱助さんは
今どんな顔をしてるのかな‥
どんな思いで、どんな表情で‥
「死のう、なんざぁ‥
もう‥これっきりに、」
壱助さんの冷たい手が
あたしの手首を掴む
「‥っ」
恥ずかしくて堪らない
お父さんに、申し訳ない
「‥しましょう、か」
:10/01/27 17:16 :D905i :.cEN1Iy.
#75 [笹]
手首の腫れ上がった傷口を
細い指が撫でる
お父さん‥お父さん
‥ごめんなさい
「う‥っ‥グズ」
必死に声を殺しても
ただただ辛いだけで、虚しくて
悔しいだけだった
:10/01/27 17:20 :D905i :.cEN1Iy.
#76 [笹]
「壱助‥ッさん‥グズ」
「‥何か、」
落ち着いた声がどこか懐かしくて
「死にた‥くな‥ッ‥で」
本当は死にたくなんかない。
あの時お父さんに
生を訴えた時と同じ
死にたくなんかないんだ‥
:10/01/27 17:23 :D905i :.cEN1Iy.
#77 [笹]
「よし、よし」
ぽん、とぎこちなく
あたしの頭を撫でた手に
救われた気がした。
その瞬間に
子供のように声を上げて泣いた
壱助さんの懐に顔を埋めて
何年分もの涙を流した。
:10/01/27 17:26 :D905i :.cEN1Iy.
#78 [笹]
:
:
:
「おや、おや」
窓から差し込む
満月の優しすぎる光が照らす
「子供です、ね‥香夜さんは」
泣き疲れたあたしを抱いて
壱助さんがクスッと笑った。
:10/01/27 17:29 :D905i :.cEN1Iy.
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