浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#230 [笹]
さて‥これで用も済みやした
―‥もう
おさらば、ですよ
"能事終われり"、ですかね
:10/01/31 19:06 :D905i :HYkp9PyY
#231 [笹]
:
:
壱助さん
もうさよならですか?
確かにあたしは
お金ばかり喰って
役立たずだし、むしろ足手纏い
特別可愛くもないし
‥中の下だし
連れてるだけ無駄かもしれない
:10/01/31 19:07 :D905i :HYkp9PyY
#232 [笹]
だけど最初からその気なら
‥優しくしないで欲しかった
死ぬなと言ったのも
遊女屋から連れ戻したのも
全部このため?
せっかく
居場所を見つけたと思ったのに
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#233 [笹]
壱助さん‥
_
:10/01/31 19:08 :D905i :HYkp9PyY
#234 [笹]
:
:
:
壱助さんの様子は
いつもと何一つ変わらない
やっぱりあたしは
"所有物"でしかなかった
ああ‥どうしよう
聞いてみようかな
:10/01/31 19:10 :D905i :HYkp9PyY
#235 [笹]
だけど"そうです、よ"なんて
はっきり言われちゃったら
泣いちゃうかもしれない
壱助さんは確実に
あたしの変化に気付いてる
いつもより多く
こちらに目配りしてるから‥
深く息を吐く
このまま魂も一緒に抜けそうだ
:10/01/31 19:11 :D905i :HYkp9PyY
#236 [笹]
結局捕らえられる運命か
結局売られる運命‥か
壱助さんに出会って
人生に少し期待したのに
やっぱり運命は変えられない?
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#237 [笹]
そんなことを考えてばかりで
目の奥が火傷しそう
ここまできて
泣いたら‥負けだ
「どうか‥しました、か」
見かねた壱助さんが
あたしの前にお茶を差し出す
:10/01/31 19:12 :D905i :HYkp9PyY
#238 [笹]
これも機嫌取り?
最後くらい優しくしようって?
考え出したら止まらない性格だ
「‥」
目が合わないように
無理やり目を伏せる
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#239 [笹]
「雨でも‥降るんですか、ね」
晴れ渡る空を眺めてる
「私を‥売るんですか?」
すると壱助さんは珍しく
驚いたような顔をして
そして一瞬にして
いつも通りに戻った
:10/01/31 19:13 :D905i :HYkp9PyY
#240 [笹]
「さぁ‥」
はぐらかすんだ
いつもそうやって。
都合が悪いとき、
面白がってるとき‥いつもそう
1ヶ月でやっと知れた
貴方の癖です。
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#241 [笹]
「どうでしょうか、ねぇ」
嫌だ‥嫌だよ‥
嫌だよ、壱助さん
独りにしないでよ‥
どこにも行っちゃ嫌‥
ああ‥堪えきれない。
目の前がぼやける
:10/01/31 19:14 :D905i :HYkp9PyY
#242 [笹]
寝てしまおう。
今日はもう寝てしまおう。
だけど‥朝が来るのが怖い
「もう、お休みですかい?」
「‥」
背を向けて布団をかぶると
"おや、おや"と
溜め息混じりに聞こえた
布団が冷たい
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#243 [笹]
:
:
結局なかなか寝付けなくて
寝てはすぐ目が覚めて‥
それの繰り返し
だけど着実に
夜は明けていって
ついに壱助さんが動き出した
襖の奥から聞こえるしゃがれ声
"迎え"にきたんだ‥
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#244 [笹]
あたしは息を潜めて
ぎゅっと小さくなった
体が小刻みに震えてるのが分かる
このまま目を開けなければ
見逃してくれたりしないかな
今から窓の外に逃げ出そうか
そんなことばかりが
頭の中を駆け巡る
脳に冷や汗をかいた
:10/01/31 19:15 :D905i :HYkp9PyY
#245 [笹]
するとまもなくして
襖が開く音がした
「香夜さん‥」
小さく呼びかけた声
そんな声で呼んだって
あたしの気持ちは和らがないよ
:10/01/31 19:16 :D905i :HYkp9PyY
#246 [笹]
「香夜さん‥朝です、よ」
貴方って人は
本当にいつもその調子
声に全く感情が漏れない
だから時々
その声があたしを突き刺すの
ねぇ‥壱助さん
貴方にとってあたしは‥
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#247 [笹]
「いったあぁああぁあい!!!」
縮こまった体が飛び起きる
腹部に走る激痛
:10/01/31 19:17 :D905i :HYkp9PyY
#248 [笹]
「狸寝入りなど無駄、ですよ」
お腹を抱えて縮こまるあたしに
壱助さんはそう吐き捨てた
思わずむせ返るほど
どうやら強く蹴られたらしい
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#249 [笹]
「最後くらい‥最後くらい
優しくしてくださいよ!!!」
顔を上げて泣きわめく
しかし目の前には壱助さんだけ
あのお婆さんはいない
しかも何か綺麗な色の
布を抱えている
:10/01/31 19:18 :D905i :HYkp9PyY
#250 [笹]
「最後‥なら、ね」
珍しく人らしい困った顔で
クスッと含み笑い
「‥?」
「最後なら、優しくします、よ
しかし‥
誰が最後と‥言いました?」
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#251 [笹]
その瞬間目の前が
山吹の鮮やかな色に染まった
「‥着物‥きれい」
息をのむほど綺麗な色の生地に
赤い花の刺繍がされていた
:10/01/31 19:19 :D905i :HYkp9PyY
#252 [笹]
「でも‥でも壱助さん
あたしを‥売るんでしょう?!」
そういい終わる前に
"馬、鹿"と口元を緩ませて
それをあたしに差し出した
「一ヶ月、経ったので‥
"所有物"から昇格、ですよ」
:10/01/31 19:20 :D905i :HYkp9PyY
#253 [笹]
「‥壱助さん
あたしのために‥?」
睫毛を伏せただけで
返事はなかった
だけどわかったよ
"早く着てくだせぇ"と
頭をぽんと撫でてくれた
一ヶ月たてば変わりますか?
壱助さんの声が
柔らかく感じたの
:10/01/31 19:21 :D905i :HYkp9PyY
#254 [笹]
:
:
「丁度良い‥ようですね」
その着物は袖の長さも
丈の長さも胸周りも腰周りも
全部がぴったりで
そこでやっと
"あぁそう言うことか"って
あのお婆さんを思い出す
と同時に
壱助さんを疑った自分を恥じる
:10/01/31 19:24 :D905i :HYkp9PyY
#255 [笹]
「壱助さん‥
あ、ありがとう‥ございます」
これでもかと言うくらい
頭を深く下げた
「本当に‥疑い深い人です、よ」
そしてまたお茶を啜る
いつもの壱助さん
:10/01/31 19:26 :D905i :HYkp9PyY
#256 [笹]
「‥ごめんなさい」
「何故、謝る」
この人は大人だと思う
あたしの知ってる大人なんかより
ずっとずっと大人だ。
「‥ごめんなさい。」
「売り飛ばされたいです、か」
「‥い、嫌です」
:10/01/31 19:29 :D905i :HYkp9PyY
#257 [笹]
「壱助さんっあたし‥!!」
何処までも貴方は
期待を裏切りやしない。
「‥約束しましょう。」
何処までも貴方は優しくて
「貴女を独りにしない、と」
頭があがらないのです。
:10/01/31 19:33 :D905i :HYkp9PyY
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