浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#703 []


目の前で繋がった手と手

真っ赤な着物が背を向けて
貴方に詰め寄る

見たくもない光景
だけど目が離せない

今すぐ追い払いたい
だけど今のあたしは無能

もどかしさと悔しさに
涙を浮かべても
貴方は気付いてくれなくて‥

⏰:10/02/18 20:11 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#704 []
 
「彼女は、首筋に
黒子がありました‥」

「‥やめとくれよ
もうあの子は居ないじゃないの」


頬を這った赤い爪
それに手を添えて微笑した

⏰:10/02/18 20:12 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#705 []
 
壱助さん‥やだよ
あたしが子供だから?
あたしじゃ満たされないから?


あたしは‥貴方がいいのに

⏰:10/02/18 20:12 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#706 []
 
「まぁ、まぁ」

そう言うと壱助さんは
赤い爪を優しく払いのけ
睫を伏せた


「‥壱助さん、抱いとくれよ」

甘ったるい声が響く


暴れすぎて食い込む縄
じりじりと痛みが熱さに変わる

⏰:10/02/18 20:13 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#707 []
 
悔しくて悔しくてたまらない

思いきり噛み締めると
布に滲んだ鉄分が
舌に流れ込んだ


「あの子と同じだろう?
あの子と何一つ変わらない‥
それとも何だい‥
あんな小娘を慕ってるとでも?」

挑発的に腕を首に絡ませて
紅に染まった唇を
壱助さんの首筋に寄せた

⏰:10/02/18 20:14 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#708 []
 
あの子って誰だろう‥
壱助さんの恋仲だった人?

あたしとは
恋仲でも何でもないのに
どうしてこんなに
気になっちゃうんだろう‥


壱助さんには
あたしなんか釣り合わない
わかってるのに

⏰:10/02/18 20:14 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#709 []
 
「香夜さんを‥ご存知で?」

微動だにせず唇だけ動かした

「まだまだ子供じゃないか‥
あんなのよりも‥ねぇ?」


そうだ‥
誰から見ても
あたしはまだ子供

壱助さんも
あたしのことなんて
相手にしてないかもしれない

⏰:10/02/18 20:14 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#710 []
 
蛇のように絡みつき
舌を頬に這わせた


「そうです、ね
確かに‥子供だ」


ほらやっぱり
期待して盛り上がってるのは
あたしだけなんだ

⏰:10/02/18 20:15 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#711 []
 
納得しようと
自らに語りかけても
溢れ出す涙は止まらない


今にも重なりそうな唇
思わず息をひそめた

「しかし‥」


―‥目の前で重なった

⏰:10/02/18 20:15 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#712 []
 
欲望をかき回すように
お互いを弄り
漏れる女の吐息と
冷静な顔つきの貴方

色がましいほどの接吻
耳にへばり付く音


その目にあたしは映らない
‥このまま消えてしまいたい

事が一気に重なりすぎて
自分を見失ってしまいそう

⏰:10/02/18 20:16 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#713 []



「ぎゃあぁああぁ!!!」


それは突然だった

いつの間にか二人は離れ
悲鳴を上げて悶える女の姿

ぺろりと舐めた壱助さんの唇には
真っ赤な血液

⏰:10/02/18 20:17 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#714 []
 
転がる女の口からも
同じ色の液体が滴る


「私は、好き者なもんで‥ね」


横目でその姿を見つめ
すぐさま腰を上げた

⏰:10/02/18 20:17 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#715 []
 
「げほっ‥んぐ
お前‥ふざけるな‥っ!!」

「連れを悪く言われては‥
流石に私も‥黙っちゃいない」
冷酷な視線が女を突き刺す


悲鳴に反応して
集まった男たちが刀を抜いた

「よくも‥貴様!!」

⏰:10/02/18 20:18 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#716 []
 
壱助さん‥殺されちゃう
逃げて壱助さん!!


しかしそれには目もくれず
すたすたと此方に向かってきた



もしかして‥最初から

⏰:10/02/18 20:18 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#717 []
 
「ふざけるのもいい加減に‥!!」

そう言った一人の男が
刀を壱助さんの背中に振り上げた


「どいつもこいつも‥
騒がしいです、ね」

⏰:10/02/18 20:19 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#718 []
 
―‥ドカッ!

そう言い終わる前に
すぐさま振り返り
余裕の回し蹴り‥

壱助さん‥貴方強すぎです


怖じ気づいた他の衆に
睨みをきかせると

「何時まで其処に‥居る気で?」

⏰:10/02/18 20:20 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#719 []
 
場に似合わないような
美しい手が襖を開けた

「おや、おや
随分と悪趣味な‥」

悪趣味って‥
好きで縛られてるんじゃない!!

ぼろぼろ涙を零すあたしの
口を塞いでた布を
簡単に解いて
ひょいと抱き抱えられた

⏰:10/02/18 20:20 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#720 []
 
「壱助さぁあんっ!」

「‥全く、だらしない」


呆れ顔に呆れ口調

結局はどんな対応でも
壱助さんなら許せちゃう

⏰:10/02/18 20:21 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#721 []
 
「‥どうしてだい?!」

急に背中から聞こえた
女の叫び声


「あの子が居なくなったら‥!
あの子が死んだら、
振り向いてもらえると
‥思っていたのに!!」

⏰:10/02/18 20:22 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#722 []
 
後ろを覗き込めば
狂気に犯された女が
あの真っ赤な爪で頭を掻きむしり
急に老いぼれたようで


‥まるで化け物


「あの子さえ居なくなれば‥
あんたはあたしの物だった
あの子が邪魔をしたんだ!!」

⏰:10/02/18 20:22 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#723 []
 
立ち止まり
真っ直ぐ前を見据えた壱助さんは
黙ってそれを聞いていた


「‥今度はその娘かい?!
どうしてあたしじゃ‥」

俯き滴る雫
こぼれた血液と混ざり合い
怪しく濁る

⏰:10/02/18 20:23 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#724 []
 
‥この人は
壱助さんを愛してたんだ

あの涙は
さっきあたしが流したものと
きっと同じ

憎しみや嫉妬
嫌らしい欲情に埋もれた
透き通ってたはずの心

なんだか
わかる気がした‥

⏰:10/02/18 20:23 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


#725 []
 


「‥ちょいと、貴女は
履き違えてしまった」


ぽつりそう言い残して
振り向きもせずに、


―‥そして悲しい顔をした。

_

⏰:10/02/18 20:24 📱:D905i 🆔:4LI2ZH.E


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