浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#500 []
 
どんなに気が強い"猫"も

どんなに意地っ張りな"猫"も



本人の気付かぬ内に
心が虚空に蝕まれるもの


心が"綿のよう"になれば
それも一気に
音を立てて崩れ出すものです、よ

⏰:10/02/09 18:49 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#501 []
 
「香夜さん‥、」

昨日の雨も
夜中の内に上がり
澄んだ青空が広がった


―‥チュンチュン


「朝です、よ」

⏰:10/02/09 18:50 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#502 []
 
ベチンッ


「いぃったあぁい!!!」


またいつもの朝を迎えた
いつになったら
あたしは1人で起きられるのか

‥こんな毎日毎日
顔面叩かれてたら、腫れてしまう

⏰:10/02/09 18:50 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#503 []
 
そして今日も
壱助さんはお美しい

‥只でさえ朝早いのに
着物もきっちり来て
全く寝起きって感じがしない

やっぱり寝てないのかな?



ゆっくり体を起こす
夢にあの少年が出てきて
うなされたのか‥
少し体が汗ばんでる気もした

⏰:10/02/09 18:51 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#504 []
 
「‥」

無言で見つめる壱助さんの手には
空になったお茶の葉の袋


「あのぉ、」

「‥何、か」

何でいつもそう
仏頂面なのかしら‥。

⏰:10/02/09 18:51 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#505 []
 
笑ったりしたら絶対‥

‥笑わなくてももてるから
憎いんだった。


「お茶‥」

「買ってきてください、ね」

「そうじゃなくてぇ‥」

「買ってきてください、ね」

⏰:10/02/09 18:52 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#506 []
 
「‥もうちょっと」

「早く」

こう言うときだけ
笑顔を浮かべる


壱助さんは
笑わなくていいかも‥。

⏰:10/02/09 18:52 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#507 []
 
またぼうっと窓の外を眺めてる
そんな壱助さんを
ぼうっと見つめるあたし

こちらに目を向けてないのに
"何、か"と言う


背中にも目がついてるのかしら
未だに壱助さんは
沢山の謎に包まれています

⏰:10/02/09 18:53 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#508 []
 
「‥行って参ります」

そう言って
しぶしぶ布団から
出たその時であった


「‥あれ?」

足元がふわり浮くような
不思議な感覚に襲われ
頭が石のように重く感じ

そのまま意識が飛び
体が‥

⏰:10/02/09 18:53 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#509 []




一瞬どこかへ旅立った
自分を引き戻し
はっと目を覚ます

目の前には
切れ長の目の肌が白い‥


「壱助さん‥?」

はて‥
何があったんだろうか

⏰:10/02/09 18:54 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#510 []
 
「‥危なっかしいです、ね」

目を細めて、呆れた様子


今‥この体勢は‥
この頭に触れるのは‥


「ひざ‥膝枕」


思わず上擦った声に
ごくりと唾を飲んだ

⏰:10/02/09 18:54 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#511 []
 
壱助さんに
膝枕をしてもらうなんて
壱助さんの
お膝様をお借りするなんて


‥なんて命知らずなんだ


「わわっ
ごっごめんなさいこんなっ」

慌てふためくあたしの顔は
きっと真っ赤に染まってる
火がでるほど熱かった

⏰:10/02/09 18:55 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#512 []
 
下から見る壱助さんの姿は
彫刻みたいに鼻が高くて
また睫長くなってる気がして

たった一度だけ触れた唇が
あの優しい感覚を蘇らせた

‥同じ世界の人間か疑うほど
親の顔が見てみたい

「そんなに‥
か弱かったんですかい?」

「へ?」

⏰:10/02/09 18:55 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#513 []
 
すると見る見る内に
いい匂いと共に近づく
あの美しい顔

「ちょっちょっ壱助さんっ?!」


また消毒ですか?!
待ってよ心の準備ってもんが‥

⏰:10/02/09 18:56 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#514 []
 


‥コツン



え?

恐る恐る目を開けると
近すぎてぼやけて見えるが
やっぱり美しい壱助さんの顔

⏰:10/02/09 18:56 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#515 []
 
「な‥えぇ‥?」

触れていたのは
唇と唇ではなく額と額

残念ながら‥

いや、べ別に残念じゃないけど‥
消毒ではありませんでした

⏰:10/02/09 18:57 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#516 []
 
しばらくの間壱助さんは
寝てるのかと疑うほどに
ぴくりともしなかった

火照った頬を
くすぐる規則正しい呼吸

こっちは緊張しすぎて
息苦しいと言うのに‥

壱助さん
いろいろと手慣れすぎです

⏰:10/02/09 18:57 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#517 []
 
「壱‥助さぁん?」


すると
一時の眠りから覚めたように
目を開けてすっと顔を離した

それと同時にあたしは
その間呼吸できなかった分を
部屋の空気を全部吸い取るくらい
思いっきり体に取り込んだ

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#518 []
 
「‥全く、」

いやいや
いきなりそんなことされた
こっちが全くですよ


「たったあれ如きで‥
熱を出すとは、ね」

「熱?」

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#519 []
 
そう言われてみれば
朝からちょっと体が重かったかも

昨日の雨にやられたかな?


「情けない‥ですね」


はぁっとため息を吐くと

⏰:10/02/09 18:58 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#520 []
 
ガサッ

一気に目の前が暗くなった
‥お茶の匂い

間違いなく
今あたしに被さってるのは
さっきまで壱助さんが手にしてた
お茶の葉の空袋


そっか‥
じゃあ今日はお茶お預けかぁ

⏰:10/02/09 18:59 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#521 []
 
「‥ごめんなさい」

自分の声が袋中を駆け巡り
また耳の奥へ帰る

きっとお茶は
壱助さんの命の次に大切なもの

そう考えたら
何だか急に申し訳なくなった

⏰:10/02/09 18:59 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#522 []
 
グシャッ

耳を突き刺すような音と共に
朝と同じ激痛が顔面に走る


「ったぁあいぃ!!」


何でこうも壱助さんは
顔面攻撃が好きなんだろうか‥
ただでさえ不細工なのに‥もう

⏰:10/02/09 19:00 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#523 []
 
息つく暇もなく
壱助さんはやりたい放題


「うわっまぶしっ!!」

一気に袋を取り去られ
急にさす光の眩しさに
目の前が眩んだ

じーっとこちらを見つめる
美しい視線とぶつかった

⏰:10/02/09 19:00 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#524 []
 
まばたきもしないで
ただじっと‥


熱のせいか頭が働かない

いつもなら
考えなくとも口が勝手に
喋り出すのになぁ

⏰:10/02/09 19:01 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#525 []



「どんな‥夢を?」

先に口を開いたのは
壱助さんの方だった

ひんやりした雪のような手が
額にそっと触れた


‥心地いい

⏰:10/02/09 19:01 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#526 []
 
「昨日の‥少年の」

蚊の鳴くような声で答えると
"そうです、か"と
何かを考え込んでる顔で言った


壱助さんの手は
まるで魔法の手みたいで
熱を吸い取っていくような
‥そんな気がした

⏰:10/02/09 19:02 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#527 []
 
それから
何を言うでもなく‥
壱助さんは優しく
あたしの額辺りを撫でて
また空を眺めてた


「壱助さん‥空好きですよね」

大した答えなど
期待してなかった

「‥何か見えるんですか?」

返事のない横顔に続けて問った

⏰:10/02/09 19:02 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#528 []
 
「‥いえ、何も」

「どうしてそんなに
眺めてるんですか?いつも
何か考え事でも?」



するとぴたりと手が止まった

⏰:10/02/09 19:03 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#529 []
 
「何も‥考えたくないから
こうして居るんです、よ」


気のせいだろうか
いつもより少しだけ
横顔が寂しそうに見えた


‥見ていられなかった
今日のあたしはどうかしてる

⏰:10/02/09 19:03 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#530 []
 

――――‥


_

⏰:10/02/09 19:04 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#531 []
 
ふわりと
お茶の香りが宙を舞う

体が勝手に動いてしまった
‥きっと壱助さんが
その左手で魔法をかけたのだ


衝動的に起き上がり
壱助さんを
胸の中に押し込めた

⏰:10/02/09 19:04 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#532 []
 
ぎゅうっと綺麗な背中を
壊れそうなくらい
強く抱きしめると
壱助さんは力なく応えた

「‥泣いてるんで?」


わからない
わからないけど
‥涙が止まらなかった

⏰:10/02/09 19:05 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#533 []
 
「壱助さ‥ん
何処にも‥行かないで」

情けなく弱々しい声を
涙と一緒に落とした


何故そんなことを言ったのか
‥わからない

だけど急に不安になった
独りにされてしまいそうで

壱助さんはこんなあたしに
‥疲れているんじゃないかって

⏰:10/02/09 19:05 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#534 []
 

「約束、したでしょう
独りにしない‥と」


包み込むように
ぎこちなくあたしを撫でた手に
一瞬にして不安が吸い取られた

⏰:10/02/09 19:06 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


#535 []
 

あたしの、居場所は


―‥貴方の隣。

_

⏰:10/02/09 19:07 📱:D905i 🆔:rBP2/YbM


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