浮 き 世 の 諸 事 情 。
最新 最初 全
#80 [笹]
一週間もすりゃぁ、
人の性格も良くわかるもので
"捨て猫"はと言うと
泣くは、喚くは‥
かと思えば、眠りにつき
何かと‥忙しない猫でして、ね
それに加えて、頑固ときた
"言うは易いが行うは難い"
頑固者には、身に滲みる言葉です
:10/01/28 13:15 :D905i :Ad90U/U2
#81 [笹]
:
:
:
ある晴れた日の事である。
「あら、壱助さんじゃないかぁ
相変わらず‥色男だねぇ」
団子屋の腰掛けに座ろうとすると
そこの女将がやって来た。
「あぁ‥伊代さん
ご無沙汰しておりました、ね」
壱助は律儀に正座をして頭を下げた
:10/01/28 13:20 :D905i :Ad90U/U2
#82 [笹]
「聞いたよー?壱助さんよぉ、
最近若い子‥、
連れて歩いてるそうじゃないか」
伊代はお茶を差し出し
興味深い様子で身を乗り出した
「只の‥"捨て猫"ですよ」
「そんなぁ、隠さなくたって‥」
クスクスと笑って
壱助の肩をポンと叩く
:10/01/28 13:25 :D905i :Ad90U/U2
#83 [笹]
「紹介しておくれよー
今日は連れてないのかい?」
「えぇ‥、
自立するそうです、よ」
「自立?」
伊代は不思議そうに首を傾げる
話好きな伊代は
話に花を咲かせる"花咲女将"
愛想もいいもんだから
此処はいつでも大繁盛
:10/01/28 13:30 :D905i :Ad90U/U2
#84 [笹]
「"遊女になる"‥と、ね」
うっすら笑って茶を啜り
壱助は団子を手に取った
「ゆ‥遊女って‥何でまた」
伊代は緩んだ顔を引き締め
唾をごくりと飲んだ
:10/01/28 13:33 :D905i :Ad90U/U2
#85 [笹]
:
:
:
こうなったのも、つい今朝の事。
『もういいです!
‥あたし
花街に行って遊女になります!
それで沢山稼いで
壱助さん見返してやります!!』
「と、言うもんでねぇ」
今朝の出来事を坦々と語る姿を
伊代はそわそわしながら見つめた
:10/01/28 14:09 :D905i :Ad90U/U2
#86 [笹]
「まさか壱助さん‥
止めなかったのかい?!」
つい大きくなってしまった声に
他の客も反応する
「止めましたよ、もちろん
"男を知らないくせに
良く言えたもんだ‥。
雇ってもらえませんぜ"、と」
「そんな言い方しちゃあ、
余計維持になるじゃないかぁ!」
他の客の視線も気にならないほど
慌てふためく伊代
:10/01/28 14:14 :D905i :Ad90U/U2
#87 [笹]
手にした団子をじっと眺め
変わらぬ口調で壱助は続ける
『だ‥大丈夫ですっ!!
あたし、経験あぁ‥あります!』
「と、分かりやすい嘘まで付いて
維持を張るもんですから‥
"這っても黒豆、ですね"、と」
楽しそうな顔の壱助とは対照に
呆れたような顔の伊代
:10/01/28 14:19 :D905i :Ad90U/U2
#88 [笹]
『く‥黒豆?!
一体何なんですか?
人を所有物、猫呼ばわりして
‥仕舞いには黒豆?
いい加減にしてくださいよ!!
あたしそんなに色黒くないし
背丈だって人並みです!!』
「‥と、色をなしてしまいまして」
"参った、参った"と微笑し
頭を軽く叩く壱助
:10/01/28 14:24 :D905i :Ad90U/U2
#89 [笹]
伊代は深くため息を付いて
"全く‥"と頭を抱えた
「そんな言葉、
若い子が分かる訳ないだろう?
その子の反応は妥当だよ、全く」
「そうですか、ね」
無関心そうに団子を口に入れ
満足そうな顔をする
:10/01/28 14:27 :D905i :Ad90U/U2
#90 [笹]
「ちょいと壱助さん!!
そんな純粋な子、
からかうのは程々にしなよぉ?
ましてや、維持っ張りの子を‥」
眉間に軽くしわを寄せた伊代を
横目でちらりと見つめる
「本当に‥"這っても黒豆"
素直に止めればいいものを、
維持を張って‥ねぇ
‥仕様がない"猫"です、ね」
:10/01/28 14:32 :D905i :Ad90U/U2
#91 [笹]
:
:
:
――‥花街
そこは遊女屋が集まる町の事。
本来あたしみたいな生女が
足を運ぶような所じゃない。
「いや‥でも‥」
『宿代を‥
払ってあげてると言うのに、』
「引き下がるわけには‥」
『あぁ‥"所有物"には
宿代はかかりませんでした、ね』
「いかない‥!」
:10/01/28 14:38 :D905i :Ad90U/U2
#92 [笹]
壱助さんの言葉が頭をよぎる
悔しい‥情けない。
唇を思い切り噛み締めて
一軒の遊女屋に足を踏み入れた
絶対‥ぜぇぇぇぇったい!!
稼いで、見返してやるんだから!!
:10/01/28 14:41 :D905i :Ad90U/U2
#93 [笹]
:
:
:
団子の串を静かに皿に置いて
"ご馳走様でした"と手を合わせる
「でも、壱助さんよぉ‥
心配してなそうな素振りだけど
本当は
居ても立っても居られなくて
出てきたんじゃないのかい?」
ニヤニヤしながら
伊代は壱助の脇腹を肘で小突いた
:10/01/28 14:45 :D905i :Ad90U/U2
#94 [笹]
「まさか、
心配するも何も‥
"産毛ばかりの捨て猫"ですから
誰でも良いって訳じゃ
ないでしょうから、ね」
すっと腰を上げて下駄を履く
「男の力にゃ、勝てないよぉ?
可愛い子なんだろうから‥
すぐに客が‥」
そう言い終わる前に
軽く頭を下げて去っていった
:10/01/28 14:50 :D905i :Ad90U/U2
#95 [笹]
「意地っ張りなのは‥
"おあいこ"なんじゃないかねぇ」
伊代は、壱助の背中を見つめ
"やれやれ"と緩く微笑んだ
:10/01/28 14:53 :D905i :Ad90U/U2
#96 [笹]
:
:
:
「で、あんた‥
経験はあるのかい?」
梅の花のような香りがする部屋で
此処の遊女屋を取り仕切る
"京さん"は煙管を蒸かして言う
「え?!あぁ‥えっとぉ」
全身にどっと汗をかき
後ろに隠した手が忙しなくなる
:10/01/28 15:05 :D905i :Ad90U/U2
#97 [笹]
「‥悪いけど、生娘は雇えないよ」
冷たく言い放つ声の後ろで
男女の色がましい声が聞こえる
やっぱり‥
あたしの来る所じゃないかも
「ささ、産毛の子猫ちゃんは
お家に帰って
"おまんま"でも喰ってな」
煙を顔に吹きかけられて
しかも子供扱いされて‥
:10/01/28 15:11 :D905i :Ad90U/U2
#98 [笹]
引き下がってたまるか‥!!
「経験‥あります!!」
色がましい声をかき消すように
顔にかかった煙を吹き飛ばす様に
大声で言ってしまった
:10/01/28 15:13 :D905i :Ad90U/U2
#99 [笹]
"ほぉう"と言って
目を細めて赤い唇を吊り上げた
「それなら‥
今晩から早速、仕事だよ」
げ‥いきなり今晩から?
辺りはもう急かすかのように
夕日色に染まっていた
:10/01/28 15:17 :D905i :Ad90U/U2
#100 [笹]
:
:
:
「んふ‥もう‥、
あぁん‥まだ駄目よぉ」
「まだ駄目なのかい?
此処はこんなに‥」
‥‥‥早くも、
消 え た い !!
:10/01/28 15:20 :D905i :Ad90U/U2
#101 [笹]
襖の向こうから聞こえる声
耳を塞いでも聞こえてくる
「声で・か・す・ぎ!!」
小声なりに強めに
襖に向かって叫んでみた
「えーっと‥
まずは、お客さんにお酒注いで
それからー‥笑顔を忘れない
初めてのお客さんには
積極的に詰め寄る‥
って、
あたしも初めてなんだけど」
:10/01/28 15:24 :D905i :Ad90U/U2
#102 [笹]
初めてって痛いって聞くけど‥
まぁ‥そうは言ってもねぇ?
そーんなに、
泣くほど痛いはず‥ない
「‥よね、」
ごくりと唾を飲み込み
手汗を着物で拭う
:10/01/28 15:26 :D905i :Ad90U/U2
#103 [笹]
鏡に映る自分の姿
いつもとは違う
あたしじゃないみたい‥
真っ赤な着物に山吹色の帯
真っ赤な紅に綺麗なかんざし
「初めて抱かれるって‥
どんな感じ、なのかなぁ」
鏡の向こうの自分に投げかける
初めてくらい愛する人に‥
捧げたかったなぁ
:10/01/28 15:29 :D905i :Ad90U/U2
#104 [笹]
「香夜、お客様がいらしたよ」
さっきとは打って変わって
商売様の笑顔の京さん
声は一段、いや二段くらい
高くなっている
"香夜は、今日からなんですよ
手加減してやってくださいな"
にやりと笑って襖を閉めた
ついに‥来てしまった
:10/01/28 15:33 :D905i :Ad90U/U2
#105 [笹]
「い‥いらっしゃいまし」
思わず声が上擦った
正座をして深く頭を下げる
このまま‥頭を上げたくない
そんな気持ちに駆られる
「可愛らしい方です、ね
頭をお上げくださいな」
あぁ何か落ち着く声‥
この人なら何とか‥
:10/01/28 15:37 :D905i :Ad90U/U2
#106 [笹]
「ひぃぃぃいいぃぃ!!!!」
頭を上げて驚いて腰を抜かした
なんで‥なんで‥
「い‥壱助さん?!」
紛れもなく
あたしの目の前にいる男は
今朝喧嘩した壱助さんである
「どうして‥こんな所に?!」
:10/01/28 15:39 :D905i :Ad90U/U2
#107 [笹]
紛れもなく、紛れもなく
この美しさは壱助さん
「おや、おや
どうして‥名前をご存知で?」
この調子も壱助さん
「どうしてって‥香夜ですよ」
「あぁ‥香夜さん
お綺麗になられました、ね」
分かってたくせに‥わざとらしい
:10/01/28 15:43 :D905i :Ad90U/U2
#108 [笹]
「‥あたしの事
様子、見にきたんですか?」
ふてくされ気味に一応酒を注ぐ
「様子‥
さぁ何の事、でしょうね」
あの怪しい笑みを浮かべて
酒を手に取る
お隣は‥
どうやら"行為"に至ったらしい
色がましい声が耳にへばりつく
:10/01/28 15:47 :D905i :Ad90U/U2
#109 [笹]
沈黙‥と行きたいとこだけど
お隣の声の"おかげ"‥
"せい"で沈黙が破られる
―‥気まずい。
「香夜さん‥」
やっぱり素直に‥
「本当に‥」
謝ろうかな‥ぁ
:10/01/28 15:50 :D905i :Ad90U/U2
#110 [笹]
「お綺麗です、ね」
頬に冷たい感覚
あの綺麗な手で頬を包み込まれた
壱助さんの目が
いつもとどこか違う‥
「い‥壱助さん?」
「お美しい‥」
「壱助さん‥?ちょっと‥」
:10/01/28 15:52 :D905i :Ad90U/U2
#111 [笹]
あっという間に
壱助さんの顔がこちらに迫る
その向こうには天井が見える
壱助さん‥ちょっと待ってよ
たった一杯で酔ってるの?
「壱助さん‥
からかうのは止めてください」
引きつる笑顔を向けても
無駄だった
:10/01/28 15:55 :D905i :Ad90U/U2
#112 [笹]
やだ‥
「こんなに‥胸元を開けて」
「や‥」
細くて白い指が胸元を這う
「積極的です、ね」
「壱助さん‥」
華奢な手でも力は強かった
上で捕らえられた両腕が
びくともしなかった
:10/01/28 15:59 :D905i :Ad90U/U2
#113 [笹]
「まだ生娘となれば‥」
「いやぁ‥」
「こちらも力が入ります、ね」
「止めて‥壱助さん」
「そんな顔も、惹かれますねぇ」
首筋にねっとりと這う舌
思わず体が飛び跳ねる
:10/01/28 16:02 :D905i :Ad90U/U2
#114 [笹]
最初から‥
このつもりだったの?
最初から‥
喰らうつもりだったの?
ねぇ壱助さん‥
あたし、わかんないよ
せっかく‥せっかく
心が開ける人ができたのに
壱助さん‥
そんな簡単に信じたあたしが
馬鹿だったのかな‥、
:10/01/28 16:04 :D905i :Ad90U/U2
#115 [笹]
もう‥いいや、
もう‥
「今朝の威勢はどこ、に?」
首筋から感覚が消えた
「男とは‥こういう者、ですよ」
溢れ出した涙を
壱助さんの手が拭う
:10/01/28 16:09 :D905i :Ad90U/U2
#116 [笹]
「言わんこっちゃ、ない」
そして‥笑った。
:10/01/28 16:10 :D905i :Ad90U/U2
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194