浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#654 []
 
壱助さんと居ると
何だかんだ、落ち着くの

嫌な過去も忘れられて
今の時に満足できる


思わず"会心の笑みを漏らす"もの

⏰:10/02/16 22:38 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#655 []



「壱助さん!!」

「何、か」

―‥ある日の午後

「裾!!」

「‥」

⏰:10/02/16 22:39 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#656 []
 
出掛けようと腰を上げた
壱助さんの着物の裾を
引っ張った

眉間にしわを寄せて
それを見下げる壱助さん


「解れてますよ!!」

裾から垂れた細い糸が
畳の上を這っていたのだ

⏰:10/02/16 22:39 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#657 []
 
「おや、おや」


それは驚いているのか‥


声の調子からは
全く読みとれないのが
壱助さん独特なのです

⏰:10/02/16 22:40 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#658 []



「あたしが直しますから‥
脱いで下さい!!」

よく言えたものだ
あたしみたいな生娘が
色男に脱げなんて‥

「こりゃぁ、随分と積極的‥」

「ち‥違いますぅ!!」

⏰:10/02/16 22:41 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#659 []
 
くすっと鼻で笑い
するりと帯を解く


顔を覗かせた真っ白な肌に
目を奪われて‥

「って、
目の前で脱がないでください!!」

⏰:10/02/16 22:41 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#660 []
 
気付けば
してやられているのです


「注文が多いです、ね」


いちいち顔を熱くして
何時か慣れる時が来るだろうか

⏰:10/02/16 22:42 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#661 []



「ほぉう‥」


解れた裾に針を通し
ちくちくと縫い上げる手を
物珍しそうに見つめていた


‥なんか、可愛い

いや、壱助さんに可愛いなんて
‥あたしは何を考えてるんだ

⏰:10/02/16 22:42 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#662 []
 
最近何かと愛着がわいて
時々そんな事を考える

だけどこの人には
美しいという言葉が
一番似合うわけですが‥

「随分と‥器用なものです、ね」

「お裁縫は得意なんですよっ!」

と得意げに
にいっと笑ってみせれば

⏰:10/02/16 22:43 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#663 []
 
「"だけ"」

と痛いところを突いてくる


だけど最近
壱助さんがよく笑う気がする

此は笑う‥って言うのか
よくわからないけど
含み笑い?‥そんなの。

⏰:10/02/16 22:43 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#664 []
 
「何処で‥
引っ掛けてきたんですか?」

「さぁ、ね」


わざとはぐらかしているのか
本当にわからないのか

睫を伏せて腕を組み直す

⏰:10/02/16 22:44 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#665 []
 
「‥」

ちくちくちくちく

「‥」

ちくちくちくちく


‥見すぎ!!
ちょっとやりにくいし
何か近いんですけど!!

⏰:10/02/16 22:44 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#666 []
 
あっちこっちに角度を変えて
針を目で追っている

本当にもう少しで
その綺麗な顔まで縫いそうなほど

「あの‥やりにくいんですけど」

その手を止めれば

「いいじゃあ、ないですか」

いつもの調子
そんなに面白いだろうか

⏰:10/02/16 22:45 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#667 []
 
代わりに羽織っただけの浴衣
きちんと着ていないのは
初めてだから‥なんか新鮮で

それでいて今日は
やっぱり何処か‥うん
珍しく壱助さんから
寄ってきたからかな?


「‥ちょっと
あっち行ってて下さい」

⏰:10/02/16 22:46 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#668 []
 
「‥」


‥どうしてそんな
不機嫌になるんですか!!

切れ長の目で一度睨み付けて
仕方なさそうに腰を上げた


ひらり翻った浴衣から香る
壱助さんの匂いが鼻をくすぐる

⏰:10/02/16 22:46 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#669 []
 
胡座をかいて茶を啜り
外の世界に目を向けて


だらしなく下がった襟元の色気
ただの浴衣さえ
貴方が着れば一級品


‥あたしもあれくらい
美しく生まれたかったもんだ

⏰:10/02/16 22:47 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#670 []



「でーきたっ!!」

我ながら完璧
着物を宙に広げて
満足そうに微笑んだ

「壱助さーん、できましたよーっ」

「はい、はい」

返事をするものの
動こうとしないもんだから
自ら近寄った

⏰:10/02/16 22:48 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#671 []
 
「はいっどーそ!」

着物を差し出せば
"有り難い"とぽつり呟き
するりと袖を通した


今日の壱助さんは
とても穏やかな気がします

それから‥素直。

⏰:10/02/16 22:49 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#672 []
 
「ちょいと手が‥
冷えちまったもんで、ね」

袖に閉まっていた両手を
此方に差し出しながら言った


いつも冷たい気もするけど‥

脱いだ浴衣をあたしの肩にかけ
にやり口角をあげる

⏰:10/02/16 22:49 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#673 []
 

「暖めてくれや‥しやせん、か」


浴衣ごと包み込むように
抱き寄せて
胸の中に押し込められた

少し冷えた体と暖かな鼓動
何故だかこの上ない
幸せを感じて‥

⏰:10/02/16 22:50 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


#674 []
 

最初から
こうしたかったのかな、なんて
仕様もなく良いように考える


やっと貴方に
‥追いつけた気がします。

_

⏰:10/02/16 22:51 📱:D905i 🆔:H0XuP1PQ


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