浮 き 世 の 諸 事 情 。
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#888 []



「‥」

耐えきれなくなって
自分がわからなくなって
もうどうしようもない

本当にそばにいたい人
本当にそばにいてほしい人


誰?

⏰:10/03/18 15:42 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#889 []
 
「何が‥あった、」

少しの沈黙に躊躇なく
一呼吸置いて問いかけた低い声


‥知ってる
壱助さんは優しいこと

本当は‥すごく

⏰:10/03/18 15:43 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#890 []
 
答えに詰まるのはどうして?
そのまま答えればいいだけ


あたしは居場所を見つけた

求めて求められて
互いが必要としていける

そんな‥場所

⏰:10/03/18 15:44 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#891 []
 
「あの人‥幸太郎さんって言って
家族がいたんだけど‥」


喉が乾く
指先から水分が滲み出て
鼻の奥がつんとした

うまく声が出せない

⏰:10/03/18 15:44 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#892 []
 
黙って聞く壱助さんは
いつもみたいに睫を伏せて
だけど少しだけ唇が弧を描いて

笑ってる‥?


「目の前で家族を‥」

「失った‥か」

あたしの言葉に付け足すように
そうぽつり呟いた

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#893 []
 
貴方の目が見れない

震えだした唇を
無理やり噛み締めて堪えた



だって壱助さん、貴方といると
とても辛いんだもの‥

⏰:10/03/18 15:45 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#894 []
 
「同じ境遇‥故に
心惹かれたと、言うんで?」

そうだとしたら
この感情は同情なのか

寂しさを苦しさを
共有したがる弱さなのか


あたしは弱い
そんなのはわかってる

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#895 []
 
ぐるぐると渦を巻く
灰色の何かが
だんだんと暗くなる


強くなったつもりだよ
強くなったはずだった

どうしてこうも上手くいかない
結局誰かにすがりつかなきゃ
生きていけない

⏰:10/03/18 15:46 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#896 []
 
「‥あたし、」


左手首の落ち着いた傷たちが
疼き始めて痛い

壱助さんに出会ってから
傷は増えることがなかった

あたしを心配して
止めろと言ってくれた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#897 []
 
「香夜さん」


頭がぼうっとする
昨日からずっと

体と心が全く別物
宙に浮かんで掴めない


畳の網目をなぞってた右手が
左手首に爪を立てた

⏰:10/03/18 15:47 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#898 []
 
「‥香夜さん」


少し引っ掻いただけで
血が滲みはじめて
久しぶりの感覚にぞっとした



真っ赤な液体が
爪の間をすり抜けて滲みた

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#899 []
 
「あたし‥どうかしてる
どうかしてる‥よ、
もう‥消えちゃいた‥」


『「‥香夜っ!!」』


はっとした
また父親と重なった声

⏰:10/03/18 15:48 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#900 []
 
壱助さんが声をあげた
思わず顔を見上げれば
どこかそれは悲しそうな顔で

しわの寄った眉間
鋭いのに優しい目


「契りを交わしたはず、ですよ
そのお命‥無駄にはしない、と」

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#901 []
 
今あたしを叱ってくれるのは
貴方だけで‥

真剣に向き合ってくれる
その瞳で包んで

「本当に‥世話が焼ける」

「い‥ち助さん」

流れるような細い指で
手首を包み込まれれば
どくどくと生命が鳴いてる

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#902 []
 
生きてる心地がした


「何処へ行こうが
貴方の勝手ですが、ね‥」

深いため息を此方に向けて

そう自由にされてしまうと
どうしたらいいかわからなくてね

何処へも行きたくなくなるんです

⏰:10/03/18 15:49 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#903 []



「壱助さん‥
迷惑じゃないんですか?」

「何、が」

「あたしの世話とか‥」

もじもじと不安げに
そう呟いて見上げた

⏰:10/03/18 15:52 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#904 []
 
「そう‥ですねぇ」

ちょいと深刻に考えすぎるのが
貴女の性格

「やっぱり迷惑‥ですよね」

肩をぐったり落として
貴女が落ち込めば
辺りは薄暗くなって渦を巻く

しかし、微笑ましくも思う

⏰:10/03/18 15:55 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#905 []
 
「私に迷惑をかけるのは
まぁ‥構いませんが、ねぇ」

茶を入れれば湯気がたつ
まだ部屋は冷えて
桜の蕾が桃色に染まる

「ちょいとばかり‥
面倒な方が、扱い甲斐がある」

鼻で軽くあしらえば
馬鹿にされてる事にも気付かず
真っ直ぐな瞳が此方を向く

⏰:10/03/18 15:59 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#906 []
 
「さて、どう‥しますか」

意地悪気に問えば
少し躊躇って唇を浮つかせ


「此処だ、あたしの居場所」

自らに言い聞かせるように
ぽつり呟いて頷いた

⏰:10/03/18 16:03 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#907 []
 
それでも離れると言ったなら
‥止めていた、でしょうね

不安に握った拳を
柔らかく解いて立ち上がる


「壱助さん‥何処に?」

「丁重に‥お断りしてきましょう」

本音を言えば‥
私だけの貴女にしたいんですが

⏰:10/03/18 16:06 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


#908 []
 


「次期に私の‥妻になると、ね」


「え‥?壱助さん今何て‥」


「まぁ、まぁ」


桜が咲いたら‥一番に、貴女と

⏰:10/03/18 16:09 📱:D905i 🆔:WpH3kYYs


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